説明

反射型マスクおよびその製造方法

【課題】遮光性能の高い遮光領域を有する反射型マスク及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】基板表面に形成された多層反射層と、該多層反射層の上に形成され、回路パターンを有する吸収層とを具備する反射型マスク。前記回路パターンの領域の外側に、前記吸収層および前記多層反射層が除去された遮光領域が形成され、前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅は、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも広いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型マスク及びその製造方法に関し、特に極端紫外線(Extreme Ultra Violet;以下「EUV」と表記する)を光源とするEUVリソグラフィを用いた半導体製造装置などに利用される反射型マスク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、波長が13.5nm近傍のEUVを光源に用いたEUVリソグラフィが提案されている。EUVリソグラフィは光源波長が短く光吸収性が非常に高いため、真空中で行われる必要がある。また、EUVの波長領域においては、ほとんどの物質の屈折率は1よりもわずかに小さい値であるため、EUVリソグラフィにおいては、従来から用いられてきた透過型の屈折光学系を使用することができず、反射光学系となる。従って、原版となるフォトマスク(以下、マスクと呼ぶ)も、従来の透過型のマスクは使用できないため、反射型のマスクとする必要がある。
【0003】
このような反射型マスクの元となる反射型マスクブランクは、低熱膨張性基板の上に、露光光源波長に対して高い反射率を示す多層反射層と、露光光源波長を吸収する吸収層とが順次形成されてなり、更に基板の裏面には、露光機内における静電チャックのための裏面導電膜が形成されている。また、多層反射層と吸収層の間に緩衝層を有する構造を持つEUVマスクもある。
【0004】
反射型マスクブランクから反射型マスクへ加工する際には、EBリソグラフィとエッチング技術とにより吸収層を部分的に除去し、緩衝層を有する構造の場合は緩衝層も同様に除去し、吸収部と反射部とからなる回路パターンを形成する。このように作製された反射型マスクによって反射された光像が反射光学系を経て半導体基板上に転写される。
【0005】
反射光学系を用いた露光方法では、マスク面に対して垂直方向から所定角度傾いた入射角(通常6°)で照射されるため、吸収層の膜厚が厚い場合、パターン自身の影が生じてしまい、この影となった部分における反射強度は、影になっていない部分よりも小さいため、コントラストが低下し、転写パターンには、エッジ部のぼやけや設計寸法からのずれが生じてしまう。これはシャドーイングと呼ばれ、反射型マスクの原理的課題の一つである。
【0006】
このようなパターンエッジ部のぼやけや設計寸法からのずれを防ぐためには、吸収層の膜厚を薄くし、パターンの高さを低くすることが有効であるが、吸収層の膜厚が薄くなると、吸収層における遮光性が低下するため、転写コントラストが低下し、転写パターンの精度が低下することとなる。つまり吸収層を薄くし過ぎると転写パターンの精度を保つための必要なコントラストが得られなくなってしまう。つまり、吸収層の膜厚は厚すぎても薄すぎても問題になるので、現在は概ね50〜90nmの間になっており、EUV光(極端紫外光)の吸収層での反射率は0.5〜2%程度である。
【0007】
一方、反射型マスクを用いて半導体基板上に転写回路パターンを形成する場合、一枚の半導体基板上には複数の回路パターンのチップが形成される。隣接するチップ間において、チップ外周部が重なる領域が存在する場合がある。これはウェハ1枚あたりに取れるチップを出来るだけ増加したいという生産性向上のために、チップを高密度に配置するためである。この場合、この重なる領域については複数回(最大で4回)に渡り露光(多重露光)されることになる。この転写パターンにおけるチップ外周部はマスク上でも外周部であり、通常、吸収層に当たる部分に位置する。しかしながら、上述したように吸収層上でのEUV光の反射率は、0.5〜2%程度あるために、多重露光によりチップ外周部が感光してしまうという問題があった。このため、マスク上のチップ外周部に通常の吸収層よりもEUV光の遮光性の高い領域(以下、遮光領域と呼ぶ)を設ける必要性が出てきた。
【0008】
このような問題を解決するために、反射型マスクの吸収層から多層反射層までを掘り込んだ溝を形成することで多層反射層の反射率を低下させることにより、露光光源波長に対する遮光性の高い遮光領域を設けた反射型マスクが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−212220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、吸収層と多層反射層を単に掘り込んだだけの遮光領域では、次のような問題が生じる。以下、これについて図を用いて説明する。
【0011】
図9に示す従来の反射型マスクは、基板1の表面に、多層反射層2、保護層3、吸収層4が順次形成され、基板の裏面に導電膜5が形成され、パターン領域(図示せず)の外周に基板1上の各層を除去することにより遮光領域11が形成された構造を有している。このような構造の反射型マスクでは、遮光領域11に入射したEUVの大部分は反射率をほぼゼロにすることが出来る(EUV反射光302)が、遮光領域11のエッジ付近に入射したEUVの反射率(EUV反射光303,304)は、遮光領域を形成する前の反射率が1.5%であるのに対し、1.5〜6.0と逆に高くなってしまうという問題が発生する。何故なら、多層反射層2を単に掘り込む方法では、EUV反射率の低減に貢献していた吸収層4も除去する必要があるため、遮光領域エッジ付近では、EUV光の入射と反射の行程で、吸収層4を1回しか通らない場合が発生するためである。
【0012】
例えば、遮光領域側から斜め入射されたEUV光は、吸収層4を通らずに多層反射層2の側壁から入り、多層反射層2で反射されたEUV光が1度だけ吸収層を通りウェハ側に漏れたり(EUV反射光304)、また、斜め入射されたEUV光が最初に吸収層4を通っても、遮光領域エッジ付近では、多層反射層2で反射されたEUV光の一部が多層反射層2の側壁を抜けてウェハ側に漏れる(EUV反射光303)ためである。つまり、EUV反射率を低下させるための遮光領域11によって、遮光領域エッジ部分では、逆にEUV反射光の漏れが生じ、EUV反射率を上げてしまうという問題を発生させ、遮光性能の低下を招いてしまう。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、遮光性能の高い遮光領域を有する反射型マスク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を可決するため、本発明の第1の態様は、基板表面に形成された多層反射層と、該多層反射層の上に形成され、回路パターンを有する吸収層とを具備し、前記回路パターンの領域の外側に、前記吸収層および前記多層反射層が除去された遮光領域が形成され、前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅は、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも広いことを特徴とする反射型マスクを提供する。
【0015】
このように構成される反射型マスクにおいて、前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅を、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも、前記多層反射層の膜厚の21%以上広くすることができる。この場合、前記多層反射層の前記遮光領域内に露出する側壁を基板面に垂直にすることが出来る。或いは、前記多層反射層の前記遮光領域内に露出する側壁を逆テーパ状にし、多層反射層の上部よりも下部の方が遮光領域の幅を狭くすることが出来る。或いはまた、前記多層反射層の前記遮光領域内に露出する側壁を順テーパ状とし、垂直面に対する傾斜角を−6°以上とすることが出来る。
【0016】
本発明の第2の態様は、以上の反射型マスクの製造方法であって、前記吸収層を選択的に除去した後、前記多層反射層を選択的にドライエッチングもしくはウェットエッチングすることによって、前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅を、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも広くすることを特徴とする反射型マスクの製造方法を提供する。
【0017】
このような反射型マスクの製造方法において、前記多層反射層を全膜厚にわたって選択的に除去した後に、更に前記多層反射層の除去部の側壁をドライエッチングもしくはウェットエッチングすることによって、前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅を、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも広くすることが出来る。
【0018】
この場合、前記ドライエッチングを、エッチングガスとしてフッ素原子もしくは塩素原子を含むガスを用いて行うことが出来る。前記フッ素原子を含むガスとして、CF4、C26、C48、C58、CHF3、SF6、及びClF3からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むガスを用い、前記塩素原子を含むガスとして、Cl2及びHClからなる群から選ばれた少なくとも1種を含むガスを用いることが出来る。
【0019】
また、前記ウェットエッチングを、硝酸、リン酸、フッ酸、硫酸、及び酢酸からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むエッチング液を用いて行うことが出来る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、回路パターン領域の外側に吸収層及び多層反射層を除去して遮光領域を形成した反射型マスクにおいて、遮光領域のエッジ付近でのEUV光の反射をほぼゼロにまで低減することができるため、高い遮光性能を有する反射型マスクが提供され、それによって高い精度の転写パターンを形成できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の種々の実施形態に係る反射型マスクの構造の概略を示す断面図及び平面図。
【図2】実施例1に係る反射型マスクの製造方法を工程順に示す断面図。
【図3】図2(e)に示す構造の平面図。
【図4】実施例1に係る反射型マスクの製造方法を工程順に示す断面図。
【図5】実施例2に係る反射型マスクの製造方法を工程順に示す断面図。
【図6】実施例3に係る反射型マスクの製造方法を工程順に示す断面図。
【図7】従来の反射型マスクの遮光領域エッジ部における反射の模式図及びEUV反射率を示す特性図。
【図8】実施例1により得た反射型マスクの遮光領域エッジ部における反射の模式図及びEUV反射率を示す特性図。
【図9】従来の反射型マスクの遮光領域構造の課題を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
(本実施形態に係る反射型マスクの構成)
まず、本実施形態に係る反射型マスクの構成について説明する。図1(a)、(b)、(c)は、本実施形態に係る反射型マスク101,102,103の構造の概略断面図であり、図1(d)は、反射型マスク101,102,103を上から見た概略平面図である。即ち、図1(a)、(b)、(c)は、本実施形態に係る反射型マスク101,102,103の構成を示す。
【0024】
図1(a)、(b)、(c)に示す反射型マスク101,102,103は、いずれも基板1の表面に多層反射層2、保護層3、吸収層4が順次形成され、基板の裏面に導電膜5が形成された構造を有している。保護層3と吸収層4の間には、緩衝層が介在する場合もある。緩衝層は、吸収膜4のマスクパターン修正時に、下地の保護層3にダメージを与えないために設けられる層である。また、保護膜3は、酸やアルカリに対する洗浄耐性を有する材料からなる必要があり、一般にはRu(ルテニウム)やSi(シリコン)が用いられる。
【0025】
本実施形態に係る反射型マスク101,102,103は、吸収層4が加工され、パターンが形成されているパターン領域10と、その外周部に吸収層4、保護層3、多層反射層2、(緩衝層がある場合は緩衝層も)が除去された、枠状の遮光領域(遮光溝)11を有する。
【0026】
図1(a)に示す反射型マスク101は、遮光領域における多層反射層2の底部開口幅が、その上層に位置する吸収層4の開口幅よりも、多層反射層2の膜厚の少なくとも21%以上広くなっている。多層反射層2の膜厚の21%とは、多層反射層の膜厚×tan(6°)×2を意味している。この場合、6°とは、マスクに入射するEUV光の最大入射角度であり、6度で入射するEUV光が遮光領域内の多層反射層の側壁に直接入射しないように、遮光領域内の多層反射層2の開口幅を設定すればよい。
【0027】
例えば、最も一般的な多層反射層の膜厚280nmの場合は、吸収層4の開口幅Aよりも多層反射層の開口幅Bが、少なくとも、280nm×0.21=58.8nm以上、広くなっていれば良い。
【0028】
このように、多層反射層の膜厚×tanθ×2を用いて計算して、多層反射層の開口幅を決定することができる。
【0029】
図1(c)に示す反射型マスク103は、多層反射層2が−6°以上の逆テーパの側壁角度を有する形状になっている。つまり、基板(マスク下部)に向かうにしたがって多層反射層の開口部の幅が広くなっている。この場合、多層反射層の開口部の底部(基板1に接した部分)の幅Bが、多層反射膜層の開口部の上部に比べ、多層反射層2の膜厚が少なくとも21%以上広くなっている。なお、図1(c)では、模式的に側壁断面を直線的に描いているが、やや丸みを帯びた曲線や、側壁に凹凸があっても良い。
【0030】
図1(b)に示す反射型マスク102は、多層反射層2が6°以上の順テーパ形状の側壁角度を有する形状になっている。つまり、基板(マスク下部)に向かうにしたがって多層反射層の開口部の幅が狭くなっている。この場合、多層反射層の開口部の上部(保護層3に接した部分)の幅Bが、多層反射層2の膜厚の少なくとも21%以上広くなっている。なお、図1(b)では、模式的に側壁断面を直線的に描いているが、等方的エッチングを施された場合によく見られる丸みのあるボーイング形状でも良い。
【0031】
以上の反射型マスク101,102,103は、いずれもその構造によって、入射角6°のEUV露光において、遮光領域のエッジ付近でのEUV反射光の漏れが生じることはない。なお、膜厚の21%以上の開口幅、及び−6°の逆テーパ形状、と規定した数値は、反射型マスクに用いられる材料のEUV光に対する光学常数から数値計算により、EUV反射光の漏れが生じないことを確認した値である。
【0032】
なお、遮光領域における多層反射層2の底部開口幅は、広ければ広いほど遮光効果は得られ、上限は特に限定されないが、多層反射層2の膜厚の200%広い場合には、多層反射層2の側壁の傾斜角は45°となり、それ以上広くすると、回路パターンを維持することが出来なくなる。
【0033】
(多層反射層、保護層、緩衝層)
図1(a)、(b)、(c)に示す反射型マスクの多層反射層2は、EUV光に対して60%程度の反射率を達成できるように設計されており、モリブデン(Mo)層とシリコン(Si)層を交互に40〜50ペア積層した積層膜である。多層反射層2の上に形成された保護層3は2〜3nmの膜厚のルテニウム(Ru)層あるいは10nm程度の膜厚のシリコン(Si)層である。この場合、Ruからなる保護層3の下に隣接する多層反射層2の最上層はSi層である。
【0034】
MoやSiは、EUV光に対する吸収(消衰係数)が小さく、且つMoとSiのEUV光での屈折率差が大きいので、SiとMoの界面での反射率を高くすることが出来るために用いられている。Ruからなる保護層3は、吸収層4の加工におけるストッパー層やマスク洗浄における薬液に対する保護層としての役割を果たすことができる。保護層3をSiにより構成する場合は、吸収層4との間に緩衝層が設けられる場合もある。緩衝層は、吸収層4のエッチングやパターン修正時に、緩衝層の下に隣接する多層反射層2の最上層であるSi層を保護するために設けられ、クロム(Cr)の窒素化合物(CrN)で構成されている。
【0035】
(吸収層)
図1(a)、(b)、(c)に示す反射型マスクの吸収層4は、EUVに対して吸収率の高いタンタル(Ta)の窒素化合物(TaN)から構成されている。他の材料として、タンタルホウ素窒化物(TaBN)、タンタルシリコン(TaSi)、タンタル(Ta)や、それらの酸化物(TaBON、TaSiO、TaO)でも良い。
【0036】
図1(a)、(b)、(c)に示す反射型マスクの吸収層4は、上層に波長190〜260nmの紫外光に対して反射防止機能を有する低反射層を設けた2層構造からなる吸収層であっても良い。低反射層は、マスクの欠陥検査機の検査波長に対して、コントラストを高くし、検査性を向上させるためのものである。
【0037】
(裏面導電膜)
図1(a)、(b)、(c)に示す反射型マスクの導電膜5は、一般にはCrNで構成されるが、導電性があれば良く、金属材料からなる材料であれば良い。また、図1(a)、(b)、(c)に示す反射型マスクでは導電膜5を備える構成で説明したが、導電膜5を有しない反射型マスクであってもよい。
【0038】
(遮光領域の形成)
本実施形態に係る反射型マスクの遮光領域の形成方法について説明する。まず、フォトリソグラフィもしくは電子線リソグラフィによって、遮光領域部のみが開口したレジストパターンを形成する。次に、レジストパターンをマスクとして用いて、フッ素系、塩素系ガス、又はその混合ガスをエッチングガスとして用いたドライエッチングによって、吸収膜4と保護層3を選択的に除去する。次いで、エッチングガスとして、フッ素系ガス、塩素系ガス、又はその混合ガスをエッチングガスとして用いたドライエッチングか、アルカリ性溶液あるいは酸性溶液を用いたウェットエッチングによって、多層反射層2を選択的に除去する。
【0039】
多層反射層2を選択的に除去するためのドライエッチングのエッチングガスとして、フッ素系、塩素系ガス、又はその混合ガスを用いるのは、多層反射層の材料であるMoとSiの両方に対してエッチング性を有するためである。この際に用いるフッ素系ガスとしては、CF4、C26、C48、C58、CHF3、SF6、ClF3等が挙げられ、塩素系ガスとしては、Cl、HCl等が挙げられる。
【0040】
多層反射層2を選択的に除去するためのウェットエッチングのエッチング液は、多層反射層2の構成材料であるMoとSiの両方に対するエッチング性を有している必要がある。例えば、アルカリ性溶液としては、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、KOH(水酸化カリウム)、EDP(エチレンジアミンピロカテコール)等が適している。酸性溶液としては、硝酸とリン酸の混合液が適しているが、これにフッ酸、硫酸、酢酸等を加えても良い。
【0041】
図1(a)、(b)、(c)に示す反射型マスクの遮光領域は、多層反射層2に設けられた遮光領域の底部の幅が吸収膜4及び保護層3に設けられた遮光領域の幅よりも大きく形成されている。このような遮光領域を形成するためには、上述の多層反射層の選択的除去の際に、遮光領域の底部の幅が大きくなるように多層反射層の側壁の各形状を形成することも可能であるが、多層反射層を選択的に除去した後に、遮光領域の底部の幅が大きくなるように多層反射層の側壁の各形状を与えるためのドライエッチング処理又はウェットエッチング処理を、別途追加して行ってもよい。
【0042】
本実施形態に係る反射型マスク101、102、103におけるパターン領域10のパターン形成は、遮光領域11の形成後に行っても遮光領域11の形成前に行ってもよい。
【0043】
以上のようにして、多層反射層を選択的に除去し、開口底部の幅が開口上部の幅よりも大きくなるように遮光領域を形成したEUVマスクによると、遮光領域のエッジ付近でのEUV光の反射をほぼゼロにまで低減することができるため、高い遮光性能を有する反射型マスクを得ることができる。
【0044】
EUV露光機内では、EUV光がマスク面を円弧状にスキャンされるため、位置によっては6°より大きい入射角になる場合があるが、その場合も遮光領域エッジ付近でのEUV光の漏れの大部分を低減できるため、本実施形態に係る反射型マスクの効果は大きい。
【実施例1】
【0045】
以下、本発明の第1の実施例に係る反射型マスクの製造方法について、図2〜図4を参照して説明する。
【0046】
まず、図2(a)に示すような反射型マスクブランク201を用意する。このマスクブランク201は、石英基板1の上に、波長13.5nmのEUV光に対して反射率が64%程度となるように設計された膜厚2.8nmのMo層と膜厚4.2nmのSi層の40ペアの多層反射層2が形成され、その上に膜厚2.5nmのRuからなる保護層3が形成され、更にその上に膜厚70nmのTaSiからなる吸収層4が形成されてなるものである。
【0047】
次いで、図2(b)に示すように、このマスクブランク201に対し、ポジ型化学増幅レジスト9(FEP171:富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)を300nmの膜厚に塗布し、電子線描画機(JBX9000:日本電子社製)によって所定のパターンに描画した。その後、110℃、10分のPEBおよびスプレー現像(SFG3000:シグマメルテック社製)をすることにより、図2(c)に示すように、レジストパターン9aを形成した。
【0048】
次に、レジストパターン9aをマスクとして用いて、CF4プラズマとCl2プラズマによるドライエッチングによって、吸収層4をエッチングした後(図2(d))、レジストパターン9aを剥離洗浄することで、図2(e)に示す評価パターン(回路パターン)を有する反射型マスク211を作製した。評価パターンは、マスク中心に配置した、寸法200nmの1:1のライン&スペースパターンである。参照数字10はパターン領域を示し、その大きさは、10cm×10cmとした。反射型マスク211の上面図を図3に示す。
【0049】
その後、上述の評価パターンを有する反射型マスク211のパターン領域10の外側に、遮光領域を形成した。その工程は、次の通りである。
【0050】
まず、図4(a)に示す反射型マスク211の表面にi線レジスト層29を500nmの膜厚で塗布した(図4(b))。次いで、i線レジスト層29に対し、i線描画機(ALTA3000:アプライドマテリアル社製)によりパタ−ンを描画し、現像を行うことにより、後に遮光領域となる領域を抜いたレジストパターン29aを形成した(図4(c))。このとき、レジストパターン29aの開口部は、幅が5mmとし、マスク中心部の10cm×10cmのパターン領域10から3μmの距離をとり、パターン領域10の外周に配置した。
【0051】
次いで、レジストパターン29aをマスクとして用いてCHF3プラズマを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により、吸収層4を選択的に除去し(図4(d))、更にエッチングを続行して、保護層3及び多層反射層2を選択的に除去した(図4(e))。なお、エッチングの条件は、下記の通りである。
【0052】
エッチングチャンバー内の圧力:50mTorr
ICP(誘導結合プラズマ)パワー:500W
RIEパワー:2000W
CHF流量:20sccm
処理時間:6分
次に、硝酸、リン酸、及びフッ酸の混合水溶液によるウェットエッチングで4分間処理することで、Mo層とSi層の多層反射層2をサイドエッチングし、図4(f)に示すような、多層反射層2の側壁が吸収層4及び保護層3の側壁よりも後退した形状の遮光領域を得た。
【0053】
最後に、硫酸系の剥離液とアンモニア過酸化水素水により洗浄することによって、図4(g)に示すように、レジストパターン29aを除去し、図1(a)に示す反射型マスク101を得た。
【0054】
以上のようにして作製した反射型マスク101の遮光領域の一部を断裁して、電子顕微鏡にて断面を観察したところ、遮光領域内の多層反射層の側壁に対し、片側で約40nm、両側で約80nm程度のサイドエッチング(=多層反射層2の膜厚の28.6%に相当)がなされ、遮光領域内の多層反射層の垂直な側壁が吸収層4及び保護層3の側壁よりも後退し、吸収層4及び保護層3がオーバーハング形状となっていることを確認した。
【実施例2】
【0055】
以下、本発明の第2の実施例に係る反射型マスクの製造方法について、図5を参照して説明する。
【0056】
まず、実施例1と同じ方法により、吸収層4にパターン部10を形成した。
【0057】
次いで、図5(a)に示す反射型マスク211の表面にi線レジスト層29を500nmの膜厚で塗布した(図5(b))。次いで、i線レジスト層29に対し、i線描画機(ALTA3000:アプライドマテリアル社製)によりパタ−ンを描画し、現像を行うことにより、後に遮光領域となる領域を抜いたレジストパターン29aを形成した(図5(c))。このとき、レジストパターン29aの開口部は、幅が5mmとし、マスク中心部の10cm×10cmのパターン領域10から3μmの距離をとり、パターン領域10の外周に配置した。
【0058】
次いで、レジストパターン29aをマスクとして用いてCHF3プラズマを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により、吸収層4を選択的に除去した(図5(d))。なお、エッチングの条件は、下記の通りである。
【0059】
エッチングチャンバー内の圧力:15mTorr
ICP(誘導結合プラズマ)パワー:300W
RIEパワー:100W
CHF流量:20sccm
処理時間:1分
更に、CFプラズマを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により、保護層3及び多層反射層2を選択的に除去した。なお、エッチングの条件は、下記の通りである。
【0060】
エッチングチャンバー内の圧力:50mTorr
ICP(誘導結合プラズマ)パワー:500W
RIEパワー:50W
CF流量:20sccm
処理時間:12分
このとき、多層反射層2の側壁は底部にいくほど後退し、(図5(e)に示すような逆テーパ形状となった。
【0061】
最後に、硫酸系の剥離液とアンモニア過酸化水素水により洗浄することによって、図5(f)に示すように、レジストパターン29aを除去し、図1(b)に示す反射型マスク102を得た。
【0062】
以上のようにして作製した反射型マスク102の遮光領域の一部を断裁して、電子顕微鏡にて断面を観察したところ、遮光領域内の多層反射層の側壁は、−12°の逆テーパ形状であることを確認した。
【実施例3】
【0063】
以下、本発明の第3の実施例に係る反射型マスクの製造方法について、図6を参照して説明する。
【0064】
まず、実施例1と同じ方法により、吸収層4にパターン部10を形成した。
【0065】
次いで、図6(a)に示す反射型マスク211の表面にi線レジスト層29を500nmの膜厚で塗布した(図6(b))。次いで、i線レジスト層29に対し、i線描画機(ALTA3000:アプライドマテリアル社製)によりパタ−ンを描画し、現像を行うことにより、後に遮光領域となる領域を抜いたレジストパターン29aを形成した(図6(c))。このとき、レジストパターン29aの開口部は、幅が5mmとし、マスク中心部の10cm×10cmのパターン領域10から3μmの距離をとり、パターン領域10の外周に配置した。
【0066】
次いで、レジストパターン29aをマスクとして用いてCHF3プラズマを用いたドライエッチングにより、吸収層4を選択的に除去した(図6(d))。なお、エッチングの条件は、下記の通りである。
【0067】
エッチングチャンバー内の圧力:15mTorr
ICP(誘導結合プラズマ)パワー:300W
RIEパワー:100W
CHF流量:20sccm
処理時間:1分
更に、SFプラズマを用いたドライエッチングにより、保護層3及び多層反射層2を選択的に除去した。なお、エッチングの条件は、下記の通りである。
【0068】
エッチングチャンバー内の圧力:50mTorr
ICP(誘導結合プラズマ)パワー:800W
RIEパワー:25W
SF流量:40sccm
処理時間:8分
このとき、多層反射層2の側壁は順テーパ形状となり、図6(e)に示すように、吸収層4及び保護層3がオーバーハング形状となった。
【0069】
最後に、硫酸系の剥離液とアンモニア過酸化水素水により洗浄することによって、図6(f)に示すように、レジストパターン29aを除去し、図1(c)に示す反射型マスク103を得た。
【0070】
以上のようにして作製した反射型マスク103の遮光領域の一部を断裁して、電子顕微鏡にて断面を観察したところ、遮光領域内の多層反射層の側壁は、下端部(基板1に接した部分)の片側で約40nm、両側で約80nm程度のサイドエッチング(=多層反射層2の膜厚の32.8%に相当)がなされ、遮光領域内の多層反射層の順テーパ状の側壁が、吸収層4及び保護層3の側壁よりも後退し、吸収層4及び保護層3がオーバーハング形状となっていることを確認した。
【0071】
以上説明した実施例1にて作製した反射型マスク101の遮光領域エッジ部と、従来の反射型マスクの遮光領域エッジ部のEUV反射率を数値計算によりシミュレーションした。このときの膜構造モデルは、Ta吸収層の膜厚70nm、Ru保護層の膜厚2.5nm、Mo層の膜厚2.83nm、Si層の膜厚4.13nmとし、Mo/Siの多層反射層は40ペアとした。また、EUV光(波長13.5nm)に対する各材料の光学常数(屈折率、消衰係数)から各材料および各界面の透過率、各界面および遮光領域側面反射率を計算し、最終的にマスクから反射されるEUV光を算出した。
【0072】
従来の反射型マスクの遮光領域エッジ部のEUV反射率を図7に、実施例1にて作製した反射型マスクの遮光領域エッジ部のEUV反射率を図8に示す。なお、図7(a)及び図8(a)は遮光領域エッジ部における反射の模式図であり、図7(b)及び図8(b)は、多層反射層側面からの距離(横軸)によるEUV反射率の変化(縦軸)を示すグラフである。
【0073】
図7(b)に示すように、従来の反射型マスクの遮光領域エッジ部では、最大6%を超える反射率の領域が発生するのに対し、図8(b)に示すように、実施例1の遮光領域エッジ部では、吸収膜の反射率(約1%)より高くなることはなかった。
【0074】
このように、実施例1において、遮光性能の高い遮光領域を有する反射型マスクを作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、EUV光を用いる反射型マスク等に有用である。
【符号の説明】
【0076】
1…基板、2…多層反射層、3…保護層、4…吸収層、5…裏面導電膜、9…レジスト、10…パターン領域、11…遮光領域、20…EUV反射率の測定個所、29…レジスト、29a…レジストパターン、101…実施例1により得た反射型マスク、102…実施例2により得た反射型マスク、103…実施例3により得た反射型マスク、201…反射型マスクブランク、211…回路パターンが形成された反射型マスク、301…吸収層部を通過するEUV反射光、302…遮光領域内のEUV反射光、303…遮光領域エッジ部のEUV反射光、304…遮光領域エッジ部のEUV反射光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成された多層反射層と、該多層反射層の上に形成され、回路パターンを有する吸収層とを具備し、前記回路パターンの領域の外側に、前記吸収層および前記多層反射層が除去された遮光領域が形成され、前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅は、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも広いことを特徴とする反射型マスク。
【請求項2】
前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅は、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも、前記多層反射層の膜厚の21%以上広いことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスク。
【請求項3】
前記多層反射層の前記遮光領域内に露出する側壁は基板面に垂直であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスク。
【請求項4】
前記多層反射層の前記遮光領域内に露出する側壁は順テーパ状であり、多層反射層の上部よりも下部の方が遮光領域の幅が狭いことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスク。
【請求項5】
前記多層反射層の前記遮光領域内に露出する側壁は逆テーパ状であり、垂直面に対する傾斜角が−6°以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスク。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の反射型マスクの製造方法であって、前記吸収層を選択的に除去した後、前記多層反射層を選択的にドライエッチングもしくはウェットエッチングすることによって、前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅を、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも広くすることを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項7】
前記多層反射層を全膜厚にわたって選択的に除去した後に、更に前記多層反射層の除去部の側壁をドライエッチングもしくはウェットエッチングすることによって、前記多層反射層に形成された前記遮光領域の底部の開口幅を、前記吸収層に形成された前記遮光領域の開口幅よりも広くすることを特徴とする請求項6に記載の反射型マスクの製造方法。
【請求項8】
前記ドライエッチングは、エッチングガスとしてフッ素原子もしくは塩素原子を含むガスを用いて行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の反射型マスクの製造方法。
【請求項9】
前記フッ素原子を含むガスは、CF4、C26、C48、C58、CHF3、SF6、及びClF3からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むガスであり、前記塩素原子を含むガスは、Cl2及びHClからなる群から選ばれた少なくとも1種を含むガスであることを特徴とする請求項8に記載の反射型マスクの製造方法。
【請求項10】
前記ウェットエッチングは、硝酸、リン酸、フッ酸、硫酸、及び酢酸からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むエッチング液を用いて行うことを特徴とする請求項7に記載の反射型マスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−84882(P2013−84882A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52091(P2012−52091)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】