説明

反射鏡の製造方法

【課題】曲面を有する表皮材上に炭素繊維からなるグリッドを所定のグリッド間隔で形成することが可能な反射鏡の製造方法を提供すること。
【解決手段】伸縮性を有する絶縁性繊維糸を用いて炭素繊維糸がシートの面方向に移動可能に織られたシートを、曲面を有する表皮材に前記炭素繊維糸が所定のグリッド間隔になるように変形させて貼り付ける工程と、前記シートが貼り付けられた表皮材を加熱しながら加圧成形する工程とを含むことを特徴とする反射鏡の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛生等の宇宙機器に搭載されるグリッドアンテナに用いられる反射鏡の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星等に使われるデュアルグリッドアンテナは、特定の偏波を反射し、その偏波と直交する偏波を透過するようにグリッドが設けられた前面反射鏡と、グリッドの無い導体面である後面反射鏡と、前面反射鏡と後面反射鏡とを結合するための結合部材とから構成される。
このようにグリッドが設けられた反射鏡の製造方法として、例えば、可撓性を有するフィルム上に金属めっきを施してエッチングすることにより得られる所定のパターン(曲線を含む)のグリッドが形成されたグリッド付フィルムを、曲面を有する表皮材(例えば、ケブラー(登録商標)繊維(アラミド繊維)とシアネート樹脂とからなるKFRP)にグリッド側を下にして密着させ、加熱・加圧成形した後、フィルムを引き剥がすことにより表皮材にグリッドを転写する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
また、炭素繊維をグリッドとする反射鏡の製造方法として、炭素繊維等の導電性繊維と、アラミド繊維、ガラス繊維等の誘電体繊維とを用いた3軸織物を曲面に形成する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−37418号公報
【特許文献2】特開2003−347840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、めっきとエッチングが可能な金属からなるグリッドを表皮材上に形成することはできるが、炭素繊維からなるグリッドを形成することはできなかった。また、高い反射効率を得るためには、グリッドのパターンが、アンテナの開口面上に投影した場合に略平行な直線群となるように形成されている必要があるが、特許文献2に開示される方法では、炭素繊維やアラミド繊維といった伸縮性の殆どない繊維糸で構成された3軸織物を表皮材の曲面に沿って貼り付けているために投影面から見たグリッド間隔を変えることができず、従って、グリッドのパターンを略平行な直線群となるように形成することができなかった。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、曲面を有する表皮材上に炭素繊維からなるグリッドを所定のグリッド間隔で形成することが可能な反射鏡の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、伸縮性を有する絶縁性繊維糸を用いて炭素繊維糸がシートの面方向に移動可能に織られたシートを、曲面を有する表皮材に前記炭素繊維糸が所定のグリッド間隔になるように変形させて貼り付ける工程と、前記シートが貼り付けられた表皮材を加熱しながら加圧成形する工程とを含むことを特徴とする反射鏡の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、曲面を有する表皮材上に炭素繊維からなるグリッドを所定のグリッド間隔、つまり、炭素繊維糸からなるグリッドのパターンを投影面から見て略平行な直線群となるように形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
実施の形態1.
本発明の反射鏡の製造方法は、伸縮性を有する絶縁性繊維糸を用いて炭素繊維糸がシートの面方向に移動可能に織られたシートを、曲面を有する表皮材に炭素繊維糸が所定のグリッド間隔になるように変形させて貼り付ける工程と、シートが貼り付けられた表皮材を加熱しながら加圧成形する工程とを含むものである。実施の形態1では、伸縮性を有する絶縁性繊維糸を用いて炭素繊維糸がシートの面方向に移動可能に織られたシートとして、図1に示されるような3軸織物を用いる。図1は、3軸織物の構成繊維糸を表面から観察した時の拡大模式図であり、この3軸織物1は、3軸の繊維糸のうちの1つが炭素繊維糸2で構成され、残りの2つがポリウレタン繊維糸3で構成されている。このように構成された3軸織物1は、炭素繊維糸2が織物の面方向に移動可能となっている。炭素繊維糸2には目付10g/m2〜100g/m2程度のものを使用することが好ましく、ポリウレタン繊維糸3には目付5g/m2〜50g/m2程度のものを使用することが好ましい。表皮材4としては、例えば、アラミド繊維糸とシアネート系樹脂とから構成されるプリプレグを用いることができる。
【0009】
図2は、3軸織物1を変形させながら表皮材4の曲面に沿って貼り付ける工程を説明するための図であり、図3は、図2のA−A断面図である。
図2に示されるように、所定の曲率を有する剛体型5上に配設された表皮材4の上に、適当な大きさ(例えば、15cm角)に切り出した3軸織物1を所定のグリッド間隔となるように変形させ、表皮材4の粘着性を利用して貼り付ける。実施の形態1では、伸縮性に優れたポリウレタン繊維糸3を3軸織物1の構成繊維糸として用いているため、表皮材4に貼り付ける際、3軸織物1を曲面に合わせて変形でき、図3に示されるように、投影面から見た炭素繊維糸2(グリッド)の間隔が等間隔(a=b)になるよう調整しながら配置することが可能である。つまり、炭素繊維糸2からなるグリッドのパターンを投影面から見て平行な直線群となるように形成することができる。この貼り付け作業を繰り返すことにより表皮材4の全面に3軸織物1に貼り付けた後、加熱しながら加圧成形を行うことにより表皮材4を構成する樹脂を硬化させ、最終的に、所定のパターンを有するグリッドが形成された反射鏡を得ることができる。成形方法としては、オートクレーブ成形法が挙げられ、成形条件としては、例えば、1気圧で加圧しながら180℃で2時間加熱を行えばよい。
【0010】
比較のため、従来の3軸織物6を表皮材4上に貼り付けた場合に形成されるグリッドの間隔を図4に示す。従来の3軸織物6は、3軸の繊維糸のうちの1つが炭素繊維糸2で構成され、残りの2つが伸縮性に乏しいアラミド繊維糸7で構成されているため、表皮材4に貼り付ける際、グリッドの間隔を広げたり狭めたりすることが困難である。そのため、曲面上に炭素繊維糸2が機織条件に由来した間隔で並ぶこととなり、その結果、図4に示されるように、投影面から見た炭素繊維糸(グリッド)の間隔を等間隔にすることができない(a’≠b’)。
【0011】
このように、従来の3軸織物6を用いる方法では、投影面から見て炭素繊維糸2を等間隔に配置することができないが、実施の形態1の方法では、3軸織物1を表皮材4上に貼り付ける際、表皮材4の曲面に合わせて3軸織物1を自由に変形させることができるため、投影面から見て炭素繊維糸2が等間隔に配置されたグリッドパターンを容易に得ることができる。また、実施の形態1の方法では、炭素繊維糸2とポリウレタン繊維糸3とから構成される3軸織物を用いているため、従来の金属グリッドが形成された反射鏡に比べ、熱膨張係数が大幅に低減された反射鏡を得ることができる。
【0012】
なお、実施の形態1では、伸縮性を有する絶縁性繊維糸として、ポリウレタン繊維糸を使用した場合について説明したが、ポリエーテル繊維、ポリエステル繊維、ポリエーテルエステル繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維などの伸縮性を有する繊維から構成される繊維糸を使用しても同様の効果を達成することができる。
【0013】
実施の形態2.
実施の形態2では、伸縮性を有する絶縁性繊維糸を用いて炭素繊維糸がシートの面方向に移動可能に織られたシートとして、図5に示されるような2軸織物8を用いる点が実施の形態1と異なる。図5は、2軸織物8の構成繊維糸を表面から観察した時の拡大模式図であり、この2軸織物8は、縦糸が炭素繊維糸2で構成され、横糸がナイロン繊維糸9で構成されている。このように構成された2軸織物8では、炭素繊維糸2が織物の面方向に移動可能となっている。炭素繊維糸2には目付10g/m2〜100g/m2程度のものを使用することが好ましく、ナイロン繊維糸9には目付5g/m2〜50g/m2程度のものを使用することが好ましい。
【0014】
2軸織物8の表皮材への貼り付けは、実施の形態1で説明した3軸織物1の場合と同様にして行うことができ、投影面から見た炭素繊維糸2(グリッド)の間隔が等間隔(a=b)になるよう調整しながら配置することが可能である。つまり、炭素繊維糸2からなるグリッドのパターンを投影面から見て平行な直線群となるように形成することができる。この貼り付け作業を繰り返すことにより表皮材の全面に2軸織物8に貼り付けた後、加熱しながら加圧成形を行うことにより表皮材を構成する樹脂を硬化させ、最終的に、所定のパターンを有するグリッドが形成された反射鏡を得ることができる。成形方法としては、オートクレーブ成形法が挙げられ、成形条件としては、例えば、1気圧で加圧しながら180℃で2時間加熱を行えばよい。
【0015】
実施の形態2の方法では、2軸織物8を表皮材上に貼り付ける際、表皮材の曲面に合わせて2軸織物8を自由に変形させることができるため、投影面から見て炭素繊維糸2が等間隔に配置されたグリッドパターンを容易に得ることができる。
【0016】
なお、実施の形態2では、伸縮性を有する絶縁性繊維糸として、ナイロン繊維糸を使用した場合について説明したが、ポリウレタン繊維、ポリエーテル繊維、ポリエステル繊維、ポリエーテルエステル繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維などの伸縮性を有する繊維から構成される繊維糸を使用しても同様の効果を達成することができる。
【0017】
実施の形態3.
実施の形態3では、伸縮性を有する絶縁性繊維糸を用いて炭素繊維糸がシートの面方向に移動可能に織られたシートとして、図6に示されるような2軸織物10を用いる点が実施の形態1および2と異なる。図6は、2軸織物10の構成繊維糸を表面から観察した時の拡大模式図であり、この2軸織物10は、縦糸が炭素繊維糸2で構成され、横糸が伸縮性を殆ど有さないアラミド繊維を撚って伸縮性を付与した糸11で構成されている。このように構成された2軸織物10では、アラミド繊維糸を撚って伸縮性を付与した糸11が伸縮性を有しているため、炭素繊維糸2が織物の面方向に移動可能となっている。炭素繊維糸2には目付10g/m2〜100g/m2程度のものを使用することが好ましく、アラミド繊維糸には目付5g/m2〜50g/m2程度のものを使用することが好ましい。
【0018】
2軸織物10の表皮材への貼り付けは、実施の形態1で説明した3軸織物1および実施の形態2で説明した2軸織物8の場合と同様にして行うことができ、投影面から見た炭素繊維糸2(グリッド)の間隔が等間隔(a=b)になるよう調整しながら配置することが可能である。つまり、炭素繊維糸2からなるグリッドのパターンを投影面から見て平行な直線群となるように形成することができる。この貼り付け作業を繰り返すことにより表皮材の全面に2軸織物10に貼り付けた後、加熱しながら加圧成形を行うことにより表皮材を構成する樹脂を硬化させ、最終的に、所定のパターンを有するグリッドが形成された反射鏡を得ることができる。成形方法としては、オートクレーブ成形法が挙げられ、成形条件としては、例えば、1気圧で加圧しながら180℃で2時間加熱を行えばよい。
【0019】
実施の形態3の方法では、2軸織物10を表皮材上に貼り付ける際、表皮材の曲面に合わせて2軸織物10を自由に変形させることができるため、投影面から見て炭素繊維糸2が等間隔に配置されたグリッドパターンを容易に得ることができる。
【0020】
なお、実施の形態3では、伸縮性を有する絶縁性繊維糸として、アラミド繊維糸を撚って伸縮性を付与したものを使用した場合について説明したが、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維糸などの伸縮性を殆ど有さない繊維を撚って伸縮性を付与した糸を使用しても同様の効果を達成することができる。
【0021】
なお、実施の形態1〜3において用いた織物を構成する炭素繊維糸として、Ni、Cu、Ag、Au等の金属でコーティングした炭素繊維糸を用いることもできる。この場合、金属でコーティングした炭素繊維糸の目付は、20g/m2〜200g/m2程度が好ましい。このように、負の熱膨張係数を有する炭素繊維糸を正の熱膨張係数を有するNi等の金属でコーティングすることで、繊維全体の熱膨張係数をほぼ0とすることができ、より低熱膨張の反射鏡を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態1で用いた3軸織物の構成繊維糸を表面から観察した時の拡大模式図である。
【図2】実施の形態1において3軸織物を変形させながら表皮材の曲面に沿って貼り付ける工程を説明するための図である。
【図3】実施の形態1において3軸織物を変形させながら表皮材の曲面に沿って貼り付けた場合の炭素繊維糸(グリッド)の間隔を説明するための図である。
【図4】従来の3軸織物を変形させながら表皮材の曲面に沿って貼り付けた場合の炭素繊維糸(グリッド)の間隔を説明するための図である。
【図5】実施の形態2で用いた2軸織物の構成繊維糸を表面から観察した時の拡大模式図である。
【図6】実施の形態3で用いた2軸織物の構成繊維糸を表面から観察した時の拡大模式図である。
【符号の説明】
【0023】
1 実施の形態1で用いた3軸織物、2 炭素繊維糸、3 ポリウレタン繊維糸、4 表皮材、5 剛体型、6 従来の3軸織物、7 アラミド繊維糸、8 実施の形態2で用いた2軸織物、9 ナイロン繊維糸、10 実施の形態3で用いた2軸織物、11 アラミド繊維を撚って伸縮性を付与した糸、a,a’,b,b’ 投影面から見たグリッド間隔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する絶縁性繊維糸を用いて炭素繊維糸がシートの面方向に移動可能に織られたシートを、曲面を有する表皮材に前記炭素繊維糸が所定のグリッド間隔になるように変形させて貼り付ける工程と、
前記シートが貼り付けられた表皮材を加熱しながら加圧成形する工程と
を含むことを特徴とする反射鏡の製造方法。
【請求項2】
前記伸縮性を有する絶縁性繊維糸が、ポリウレタン繊維、ポリエーテル繊維、ポリエステル繊維、ポリエーテルエステル繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維およびナイロン繊維からなる群の少なくとも1つから構成されることを特徴とする請求項1に記載の反射鏡の製造方法。
【請求項3】
前記伸縮性を有する絶縁性繊維糸が、アラミド繊維糸およびポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維糸からなる群の少なくとも1つを撚って伸縮性を付与した糸であることを特徴とする請求項1に記載の反射鏡の製造方法。
【請求項4】
前記炭素繊維が、金属でコーティングされていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の反射鏡の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−255387(P2009−255387A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107022(P2008−107022)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】