説明

反射鏡アンテナ

【課題】優れた機動性を有すると共にサイドローブレベルが抑制されたメッシュ反射鏡アンテナを提供する。
【解決手段】本発明では、パラボラ型の反射鏡(1)を円周方向にそって分割し、半径方向に放射状に延在する複数の反射鏡セグメント(6)を形成する。各反射鏡セグメント(6)の角度は、不等間隔分割により規定される角度を有する。
各反射鏡セグメントが互いに異なる分割角を有することにより、サイドローブレベルが大幅に抑制される。この結果、反射鏡セグメントの数が増大することなく、サイドローブレベルの上昇を抑制した反射鏡アンテナを実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射鏡アンテナに係わり、特にサイドローブレベルが抑制された反射鏡アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
事件や事故現場で取材した映像やイベント会場の映像を放送局に無線伝送するためのアンテナ装置として、パラボラ反射鏡に送信装置(受信装置)を組み合わせたパラボラアンテナが用いられている。一方、ニュース取材においては、即時性及び機動性が要求されるため、軽量で展開及び収納可能なアンテナの開発が強く要請されている。
【0003】
上記要請に対応したアンテナとして、展開型メッシュ反射鏡アンテナが提案されている(非特許文献1参照)。この既知の反射鏡アンテナでは、パラボラ反射鏡の鏡面を円周方向にそって等分割して複数の反射鏡セグメントが形成されている。
【0004】
【非特許文献1】映像情報メディア学会技術報告「7GHz帯FPU用展開型メッシュ反射鏡アンテナの検討」、2004年10月15日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した円周方向に等分割された展開型の反射鏡は、機動性に優れると共に十分な利得を得ることできる利点が達成される。しかし、分割のないパラボラ面と比較して周期的な誤差を含んだ構造となってしまうため、グレーティングローブが生じ、広角方向のサイドローブレベルが上昇する欠点があった。このため、使用周波数帯域や伝送方向によっては混信の恐れがあった。一方、衛星通信用のアンテナには、不要放射が他の通信路と干渉しないようにするため、サイドローブに基準が設けられる場合がある(例えば、ITU-R-S.580-6及び電波法関係審査基準)。これらの基準を満たすためには、反射鏡を中心から放射状に延在する多数のセグメントに分割し、分割のない反射鏡面に近づけることにより実現することができる。しかしながら、分割するセグメント数が多数になると、反射鏡アンテナの構造が複雑化すると共に重量が重くなってしまう。
【0006】
上記サイドローブの上昇に関する課題を図1を参照して説明する。衛星通信用地球局アンテナの基準として、S.580-6基準と電波法基準が規定されている。
S.580-6基準は、静止衛星軌道面方向に±20度の範囲及びこれと直交する経度方向の±3度の範囲内において、90%以上のサイドローブピークが(1)式に示す規準線以下となることが勧告されている。
D/λ<100の場合
G=29−25logφ[dBi] (1(度) or (100λ/D)(度)の大きい方≦φ≦20 (1)
ここで、φ:離軸角度、λ:波長、D:開口径
また、電波法基準では、90%以上のサイドローブピークが(2)式に示す規準線以下となることが勧告されている。
D/λ<100の場合
G=49−10log(D/λ)−25logφ (100λ/D<φ<D/5λ)
=52−10log(D/λ)−25logφ (D/5λ<φ<φ1 ) (2)
=−10 (φ1<φ)
ここで、φ:離軸角度、λ:波長、D:開口径、φ1:等方性アンテナに対する利得が−10dBiとなる角度(度)
【0007】
図1は、上記基準により規定される規準線と、メッシュ反射鏡を円周方向に等分割して複数の反射鏡セグメントを形成したメッシュ反射鏡アンテナの放射パターンとを示す。青の曲線は理想的なパラボラ面の放射パターンを示し、赤の曲線は20等分割の放射パターンを示し、オレンジ色の曲線は32等分割の放射パターンを示す。20等分割及び32等分割の放射パターンは開口径(D)を120cm、波長(λ)を2.14cm(周波数14GHz)とした場合の計算値である。また、角度方向に緩やかに減衰する曲線のうち黒の破線はS.580-6勧告の規準線を示し、緑の破線は電波法の規準線を示す。図1から明らかなように、反射鏡を20等分割した場合サイドローブの上昇が大きく、電波法の基準及びS.580-6勧告の両方の基準線を大きく超えてしまう。これに対して、32等分割した場合、サイドローブの上昇が認められるものの、電波法及びS.580-6勧告の両方の基準を満たしている。このように、反射鏡を等分割した場合、分割数を多くすればサイドローブの上昇を抑制することができる。しかし、重量が重くなり反射鏡アンテナの機動性を阻害する要因となってしまう。
【0008】
本発明の目的は、軽量化が可能でサイドローブレベルが抑制された反射鏡アンテナを実現することにある。
さらに、本発明の別の目的は、衛星通信用の地球局として用いるのに好適な反射鏡アンテナを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による反射鏡アンテナは、回転放物面形状を有する反射鏡と、当該反射鏡に向けて電波を放射すると共に反射鏡により集中された電波を受信する一次放射器とを具える反射鏡アンテナにおいて、
前記反射鏡は、反射鏡中心から半径方向に放射状に延在する複数の反射鏡セグメントにより構成され、各反射鏡セグメントは、反射鏡の円周方向に沿う不等間隔分割により規定される分割角をそれぞれ有することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明による反射鏡アンテナの好適実施例は、反射鏡セグメントの最大角度と最小角度との比が1.2〜2.0の範囲となるように、前記反射鏡を不等間隔分割したことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明による反射鏡アンテナは、衛星通信用の地球局として用いられる反射鏡アンテナであって、回転放物面形状を有する反射鏡と、当該反射鏡に向けて電波を放射すると共に反射鏡により集中された電波を受信する一次放射器とを具える反射鏡アンテナにおいて、
前記反射鏡は、反射鏡中心から半径方向に放射状に延在する複数の反射鏡セグメントにより構成され、各反射鏡セグメントは、反射鏡の円周方向に沿う不等間隔分割により規定される分割角をそれぞれ有し、静止衛星軌道面方向に分布する反射鏡セグメントの分割角を、静止衛星軌道面と直交する方向に分布する反射鏡セグメントの分割角よりも大きくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
反射鏡を円周方向に不等間隔分割して複数の反射鏡セグメントにより構成すると、サイドローブレベルが強く抑制されるので、反射鏡セグメントの数を増大させることなく、衛星通信用地球局アンテナの各種公的基準を満たす反射鏡アンテナを実現することができる。この結果、軽量で機動性に富む展開型の反射鏡アンテナを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図2は本発明による展開型メッシュ反射鏡アンテナの一例を示すものであり、図2aは反射鏡を展開した時の状態を示す側面図、及び図2bは反射鏡を収納した時の状態を示す側面図である。また、図3は展開した時の反射鏡の正面図(給電ホーンを除いて図示する)である。アンテナ反射鏡として回転放物面形状を有するメッシュ反射鏡1を用いる。メッシュ反射鏡1は、展開機構2を有する支持機構3により展開及び収納可能に支持する。本例では、反射鏡の焦点位置に給電ホーン(一次放射器)4を配置し、この給電ホーン4を3本の支持具5a〜5c(支持具5a及び5bだけを図示する)により支持する。給電ホーン4は、メッシュ反射鏡1に向けて電波を放射すると共に反射鏡で反射した電波を受信する。
【0014】
メッシュ反射鏡1は、その円周方向に沿って29個の反射鏡セグメント6(図面を明瞭にするため、反射鏡セグメント6a及び6bだけを図示する)に不等間隔に分割され、各反射鏡セグメントは反射鏡中心から半径方向に放射状に延在する。各反射鏡セグメントが占める分割角は図3に隣接して図示する。メッシュ反射鏡1は、その中心から半径方向に延在する29本の放射リブ(7a及び7bだけを図示する)を有する。尚、図2aにおいて、図面を明瞭にするため、放射リブの数は実際よりも少数のものとして図示する。29本の放射リブにより各反射鏡セグメントの境界が規定され、各隣接する放射リブ間に金属ワイヤを張架して29個のメッシュ状の反射鏡セグメント、すなわち反射鏡面を形成する。放射リブは反射鏡中心において集合支持されると共に半径方向の中間位置において円周方向に延在するフープケーブル8により支持する。
【0015】
次に、反射鏡の不等間隔分割について説明する。本例では、メッシュ反射鏡を構成するセグメントが占める角度を規定する不等間隔分割方法の一例として、以下の式(3)により規定される等比数列を用いる。式(3)において、パラメータは初期角aと分割数Nとし、公比rは(3)式のように数列の合計が360度となるように決定する。

【数1】

【0016】
図3に示す反射鏡を29個のセグメントに不等間隔分割した際の各セグメントの分割角の例を図3に示す。図3に示す反射鏡において、最大分割角(度)と最小分割角(度)との比は1.81であった。この時の放射パターンの計算値のコンターを図4aに示し、静止衛星軌道面方向のカット面を図4bに示す。静止衛星軌道面方向に±20度の範囲と、直交する経度方向に±3度の範囲内において、サイドローブピークがS.580基準を超えたエリアの割合は0.1%以下であり、サイドローブレベルが大幅に抑制され、S.580-6基準及び電波法基準の両方を満たしていることが確認された。尚、計算値には、支持具の影響や給電ホーンによるブロッキングの影響は考慮されていない。
【0017】
次に、反射鏡セグメントの最大分割角と最小分割角との比についてサイドローブの上昇を抑える最良の範囲が1.2〜2.0であることを示す。本例では、等比数列を規定する式(3)から得られたセグメントの順番をランダムに入れ替えて、放射パターンを計算する実験を各パラメータの組み合わせに対して5回づつ行い、静止衛星軌道方向に±20度の範囲と、静止衛星軌道方向と直交する経度方向に±3度の範囲内においてS.580基準を超えたエリアの割合の平均値を求めた。この結果を図5に示す。図5より明らかなように、最大分割角/最小分割角が1.2〜2.0の範囲にあるとき、S.580基準を超えたエリアの割合が等分割する場合に比較して一層小さくなっていることが確認された。
また、上記の方法では、等比数列を用いたが、乱数を発生させて1以上で最大分割角と最小分割角との比以内の数字を選んでゆき、(3)式と同様に合計が360度となるようにしても良い。
【0018】
次に、静止衛星軌道面方向に厳しいサイドローブ基準を課しているITU-RS.580-6に規定される勧告に十分対応でき衛星通信用の地球局として好適な反射鏡アンテナについて説明する。サイドローブレベルを抑制する方法としてセグメント数が多くなるように分割する方法がある。一方、セグメント数を多くすると、反射鏡アンテナの構造が複雑化する不具合が発生する。そこで、静止衛星軌道面方向に分布するセグメントの分割角をこれと直交する方向に分布するセグメントの分割角よりも大きくする。こうすることにより、メインビームは静止衛星軌道面方向に僅かに大きくなるが、静止衛星軌道面方向のサイドローブレベルを抑制することができる。このように、反射鏡セグメントの分割角を、静止衛星軌道面方向に分布するセグメントとこれと直交する方向に分布するセグメントとで相違させることにより、トータルのセグメント数を一定に維持しながら、静止衛星軌道面方向のサイドローブレベルを抑制することができる。このような技術思想に立脚した反射鏡の一例を図6に示す。図6に示す反射鏡の分割数は30とした。最大分割角度/最小分割角度の1.23であった。この反射鏡アンテナの放射パターンの計算値は、S.580-6基準を超えたエリアの割合は、0.1%以下であり、電波法基準は全領域にわたって満たしている。尚、図6に示す構成の反射鏡を有する反射鏡アンテナの放射パターンのコンターを図7aに示し、カット面を図7bに示す。図7bにおいて、赤の曲線のデータは静止衛星軌道面方向のカット面を示し、青の曲線データは静止衛星軌道面方向と直交する方向のカット面を示す。また、緑の破線が電波法による基準線を示し、黒の破線はS.580-6の基準線を示す。図7bに示すように、静止衛星軌道面方向と直交する方向のサイドローブレベルに若干の上昇が見られるが、静止衛星軌道面方向のサイドローブレベルは良好に抑制されている。
【0019】
本発明は上述した実施例だけに限定されず種々の変形や変更が可能である。例えば、上述した実施例では、不等間隔分割の方法として等比数列を用いたが、各種の不等間隔分割方法を用いて反射鏡セグメントの角度を規定することができる。
さらに、上述した実施例では、反射鏡としてメッシュ反射鏡を用いた反射鏡アンテナについて説明したが、本発明はメッシュ反射鏡だけでなく、各反射鏡セグメントが反射鏡中心から放射状に延在する導電性の板を用いた反射鏡アンテナについても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】反射鏡を円周方向に沿って等間隔で分割した反射鏡アンテナの放射パターン及びサイドローブ基準を示す線図である。
【図2】本発明によるメッシュ反射鏡アンテナの一例を示す側面図である。
【図3】本発明によるメッシュ反射鏡の一例を示す正面図である。
【図4】図2及び3に示すメッシュ反射鏡アンテナのコンターを示す図及び放射パターンを示す図である。
【図5】各種分割数の最大角度/最小角度とサイドローブピークがS.580-6基準を超えたエリアとの関係を示すグラフである。
【図6】30個のセグメントに不等間隔分割した反射鏡を示す正面図である。
【図7】図6に示す反射鏡を用いたアンテナのコンター及び放射パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1 メッシュ反射鏡
2 展開機構
3 支持機構
4 給電ホーン
5a〜5c 支持具
6 反射鏡セグメント
7 放射リブ
8 フープケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転放物面形状を有する反射鏡と、当該反射鏡に向けて電波を放射すると共に反射鏡により集中された電波を受信する一次放射器とを具える反射鏡アンテナにおいて、
前記反射鏡は、反射鏡中心から半径方向に放射状に延在する複数の反射鏡セグメントにより構成され、各反射鏡セグメントは、反射鏡の円周方向に沿う不等間隔分割により規定される分割角をそれぞれ有することを特徴とする反射鏡アンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載の反射鏡アンテナにおいて、前記反射鏡セグメントの最大分割角と最小分割角との比が1.2〜2.0の範囲となるように、前記反射鏡を不等間隔分割したことを特徴とする反射鏡アンテナ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反射鏡アンテナにおいて、前記反射鏡セグメントの分割角を、等比数列による不等間隔分割により規定したことを特徴とする反射鏡アンテナ。
【請求項4】
衛星通信用の地球局として好適な反射鏡アンテナであって、回転放物面形状を有する反射鏡と、当該反射鏡に向けて電波を放射すると共に反射鏡により集中された電波を受信する一次放射器とを具える反射鏡アンテナにおいて、
前記反射鏡は、反射鏡中心から半径方向に放射状に延在する複数の反射鏡セグメントにより構成され、各反射鏡セグメントは、反射鏡の円周方向に沿う不等間隔分割により規定される分割角をそれぞれ有し、静止衛星軌道面方向に分布する反射鏡セグメントの分割角を、静止衛星軌道面と直交する方向に分布する反射鏡セグメントの分割角よりも大きくしたことを特徴とする反射鏡アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−246243(P2006−246243A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61395(P2005−61395)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】