説明

反射防止フィルムとその製造方法

【課題】反射性防止フィルムの光学的特性等の向上や用途拡大を達成すること。
【解決手段】ポリフェニレンスルフィドやポリケトンスルフィドなどを代表例とするイオウ含有樹脂によって形成された基材層を少なくとも有する反射防止フィルムを提供する。特に、イオウ含有樹脂基材層の表面、あるいはイオウ含有樹脂基材層上に直接又は間接に設けられた樹脂積層部の表面がフッ素置換処理された反射防止フィルムやその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムに関する。より詳しくは、光の反射を防止して視認性を向上させるための反射防止フィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ブラウン管(CRT)に替わる各種表示装置の技術開発が進展している。具体的には、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機EL表示装置、リアプロジェクションなどの次世代表示装置の開発が盛んであり、高品質化と低コスト化が技術開発競争の主題となってきている。
【0003】
前掲した表示装置の高品質化は、高視野角化や高精細化などによる視認性の向上によって主に追究されている。この視認性向上を達成するために、表示画面の光反射によるコントラスト低下やいわゆる映り込みを有効に防止することも重要な技術的アプローチの一つである。
【0004】
現在、その普及が著しく進んでいる携帯電話(PHS含む)や携帯端末、小型のビデオカメラやデジタルカメラなどは、野外で使用される場面が多いので表示画面の反射防止機能は特に重要である。また、これらの表示画面は指などが触れられる機会が多いため、該表示画面表面の防汚性向上に対する技術的要求も高い。さらに、自動車などの車両の計器類やカーナビゲーションなどの表示画面、あるいはショーケースやショーウインドウなどの窓用透明面材の分野においても、使用される透明基材の反射防止性能や防汚性能が求められている。
【0005】
ここで、例示した上記各種製品分野などでは、所望の表面部位に貼付けて使用される反射防止フィルムが各種提案され、既に広く実用化されている。この反射防止フィルムは、一般的に、透明基材フィルムと、該基材フィルムに積層されたハードコート層(例えば、アクリル系樹脂層)、さらに該ハードコート層に積層された反射防止層からなっており、必要に応じて反射防止層を汚れや損傷から守る保護層が最上層に設けられる。
【0006】
また、透明基材フィルム上に、ハードコート層、高屈折率層、低屈折率層がこの順番で積層された反射防止フィルムが知られている(特許文献1参照)。この種の反射防止フィルムでは、高屈折率層と低屈折率層の屈折率差を利用することにより反射防止機能を得ている。また、高屈折率のハードコート層により低屈折率の層を形成したより簡素な構成も一般的である
【0007】
反射防止のために設けられる低屈折率層として、防汚性に優れるフッ素系ポリマーを含有する層が採用される場合があり、このフッ素含有ポリマー層は、対象表面に対して、フッ素系ポリマーが溶解されたコーティング液を塗布・乾燥することによって形成される(特許文献2)。
【0008】
基板上に特定の含フッ素化合物を含む反応性ガスをプラズマ状態でさらすことによって、低屈折率のフッ素系有機薄膜層を積層して加え、この薄膜層によって、耐摩耗性、防汚性に優れる反射防止フィルムを得るための技術が提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2005−84320号公報。
【特許文献2】特開昭61−40845号公報。
【特許文献3】特開2003−161807号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
反射性防止フィルムに利用される基材フィルム(基材層)は、光透過性(透明性)が高い樹脂材料により形成されている。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、フッ素樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィン、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロースなどの透明樹脂が、基材フィルムに採用されている。
【0010】
今後、反射性防止フィルムのさらなる光学的特性の向上や用途拡大のために、材料面や層構造に関する研究開発をさらに深耕することによって、反射防止性や防汚性の向上に加え、耐熱性の向上、反射防止フィルムの薄層化の推進などを達成することが必要である。
【0011】
そこで、本発明は、新規な材料及び層構造を有する反射防止フィルムとその製造方法を提供することによって、反射性防止フィルムの光学的特性等の向上や用途拡大を達成することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
まず、本願発明者らは、上記目的を達成するべく、反射性防止フィルムの材料や層構造などに関する研究開発を鋭意行ったところ、従来、光学的フィルムの用途には不向きであることが技術的常識であったポリフェニレンスルフィドやポリケトンスルフィドなどのイオウ含有合成樹脂が、意外にも、反射防止フィルムの基材フィルム材料として有用であることを新規に突き止め、さらには、この基材フィルムに所定の処理を施すことによって、反射防止性や防汚性を向上できることに加え、耐熱性の向上、吸水性の抑制なども達成できることを新規に突き止めた。
【0013】
そこで、本発明では、第一に、イオウ含有樹脂基材層を少なくとも有する反射防止フィルム、特に、特許請求の範囲に記載の化学式1で示される高分子構造を有するイオウ含有樹脂基材層を少なくとも有する反射防止フィルムを提供する。なお、上記化学式1においては、Xで示される部位にのみイオウ原子が含まれる場合、Yで示される部位にのみイオウ原子が含まれる場合、X、Yの両方にイオウ原子が含まれる場合をすべて包含する。
【0014】
例えば、前記イオウ含有樹脂基材層が、特許請求の範囲に記載の化学式2〜5のいずれか一つから選択される高分子構造を有する反射防止フィルムを提供する。具体的には、化学式2はポリフェニレンスルフィド(PPS)、化学式3はポリフェニレンスルフィドスルホン(PPSS)、化学式4はポリケトンスルフィド(PKS)、化学式5はポリフェニレンスルホン(PPSO)である。
【0015】
続いて、本発明では、(1)前記イオウ含有樹脂基材層の少なくとも一方の表面、(2)前記イオウ含有樹脂基材層上に直接又は間接に設けられた樹脂積層部の表面のいずれかの表面が、フッ素置換処理されている反射防止フィルムを提供する。前記樹脂積層部は、例えば、ハードコート層、あるいは、低屈折率層又は/及び高屈折率層である。また、イオウ含有樹脂基材層の厚みが15μm以上であっても、かつヘイズ(HAZE、曇価)2.0以下を確保できる。
【0016】
次に、本発明では、第二に、上記反射防止フィルムが設けられた画像表示体や窓用又はショーケース用の透明基体を提供する。
【0017】
次に、本発明は、第三に、(1)上記化学式1で示される高分子構造を有するイオウ含有樹脂基材層の表面、(2)上記化学式1で示される高分子構造を有するイオウ含有樹脂基材層上に直接又は間接に設けられた樹脂積層部の表面のいずれかの表面に対して、フッ素ガスを少なくとも含む反応ガスを曝露してフッ素置換処理する工程を少なくとも行うように工夫した反射防止フィルムの製造方法を提供する。前記フッ素置換処理によって、対象表面部分の屈折率を有効に低下させて、反射防止に適する光学的特性を得るとともに、防汚性を得る。
【0018】
例えば、化学式2〜4のいずれかから示される高分子構造を有するイオウ含有樹脂基材層の表面を酸化剤で処理する酸化工程と、該酸化工程を経た表面に、フッ素ガスを少なくとも含む反応ガスを曝露するフッ素置換処理工程と、を少なくとも行うように工夫した反射防止フィルムの製造方法を提供する。この製造方法における酸化工程は、例えば、イオウ含有樹脂基材層中のイオウ原子を酸化(スルホン化等)することによって、耐熱性を向上させる。この酸化処理によって増加してしまう吸水性は、後続のフッ素置換処理によって抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反射防止性や防汚性の向上に加え、耐熱性の向上、反射防止フィルムの薄層化の推進などを達成することができるので、反射性防止フィルムの光学的特性の向上や用途拡大を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
まず、図1は、本発明に係る反射防止フィルムの第1実施形態の構成及びその製造過程を簡略に示す図である。この図1に示された樹脂基材層は、1μm〜1mmの厚み、より好適には、数十〜数百μm程度の厚みに形成されている。
【0022】
この樹脂基材層1は、イオウ含有樹脂によって形成されている。イオウ含有基材樹脂としては、狭く限定されないが、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS、化学式2参照)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPSS、化学式3参照)ポリケトンスルフィド(PKS、化学式4参照)、ポリフェニレンスルホン(PPSO樹脂基材層1に適用可能なイオウ含有基材樹脂をさらに例示すると、次の化学式6〜14で示される化学構造を有するものである。なお、化学式6〜14において、Rは:-H、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族環、-COOR、-NR2、-NO2、-OH、-ORのいずかであり、Rは-H、アルカリ金属、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族環のいずれかであり、Rは-H、アルキル基のいずれかであり、Rは-アルキル基、シクロアルキル基、芳香族環のいずれかであり、また、XはSまたはSO、SO2のいずれかであり、YはO、CO、SO、SO2のいずれかである。l、mは共重合比で各々0≦l≦1、0≦m≦1であり、l+m=1で示されるランダム共重合体又はブロック共重合体である。
【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
【化11】

【0029】
【化12】

【0030】
【化13】

【0031】
【化14】

【0032】
また、この基材樹脂フィルム1に対して、後述するハードコート層や所定の屈折率層を設ける際は、層間の密着性を上げる為に樹脂フィルム表面に密着性を向上するような前処理、例えばコロナ処理、プラズマ処理等、を施した樹脂製フィルムを使用することも可能である。
【0033】
このような樹脂基材層1を所定の密閉空間に配置し、該空間に窒素、あるいはアルゴンやヘリウムなどの不活性ガス等によって所定濃度(例えば、フッ素ガスの体積濃度が3〜100%未満)に希釈されたフッ素ガス、あるいはフッ素ガス(100%)なる反応ガスGを導入し、所定圧力(常圧又は加圧条件)、所定温度(室温又は加温条件)にて、樹脂基材層1に直接暴露する。この反応ガスGの曝露処理によって、樹脂基材層1の最表面部分において、当該樹脂を構成する水素原子をフッ素原子へ置換する。
【0034】
図1中の符号Sは、フッ素置換処理された表面(以下、「フッ素化表面」と称する)を示している。このフッ素化表面Sは、フッ素化される前の表面と比較して低屈折率化するため反射防止に寄与するとともに、かつ防汚性を付与する役割を果たす。なお、図示はしないが、樹脂基材層1の両面においてフッ素化表面を形成することは、目的に応じて自由である。片面のみをフッ素化する場合は反対面を保護することによって可能である。例えば、処理するフィルム2枚を対向させて周辺部を密閉させた状態でフッ素化した後、周辺部を切り取ればフィルムの片側だけをフッ素化することが可能である。
【0035】
ここで、フッ素化表面Sの平均屈折率は、1.35〜1.60とするのが望ましく、あるいはフッ素化前の基板表面の屈折率よりも平均で0.01〜0.45低屈折率化させるのが望ましい。また、フッ素化表面Sの厚みは、λ/4の奇数倍に相当する平均厚さとするのが望ましい。このフッ素化表面Sの厚みの調整は、フッ素化処理条件のフッ素化濃度、処理時間、温度等を調整することによって行なわれ、フッ素化される樹脂によって適切に調整される必要がある。さらに、400〜700nmの可視領域において、平均の表面反射率が8.0〜0.1%となるように、フッ素化表面Sを形成する。このフッ素化表面Sの厚みは、λ/4が好適である。なお、本段落において説明した事項は、以下に説明するすべての実施形態において同様であるので、以下の説明を割愛する。
【0036】
このようにして形成された反射防止フィルムAのフッ素化表面Sは、フィルム1の最表面においてフッ素置換反応が生じた表面部位であるので、フィルム1と一体不可分であって、塗布や貼り付けによって積層された層構造とは全く異なる。従って、当然に、フィルム1からフッ素化表面Sが剥離してしまうことはあり得ないので、特に好適である。なお、フッ素化表面Sのこのような基本的な構成は、他の実施形態でも同様であるので、以下の説明を割愛する。
【0037】
図2は、本発明に係る反射防止フィルムの第2実施形態の構成を示す層構造断面図である。
【0038】
この図2中に符号Bで示された反射防止フィルムは、樹脂基材層1と、該樹脂基材層1に積層されたハードコート層2と、を備え、さらにハードコート層2の最表面が、第1実施形態同様の方法によってフッ素化表面Sとされた構成を備えている。フッ素化表面Sは、フッ素化される前の表面と比較して低屈折率化するため反射防止に寄与するとともに、かつ防汚性を付与する役割を果たす。
【0039】
ハードコート層2は、一例を挙げると、樹脂基材層1に対して、所定組成に調整されたハードコート液を塗布することによって、目的に応じた厚みに設定して形成することができる。一例を挙げると、屈折率1.48〜1.80である多官能(メタ)アクリル樹脂や同屈折率範囲の有機シロキサン樹脂によってハードコート層2を形成してもよい。
【0040】
ハードコート液の硬化方法はとくに限定されないが、例えば、紫外線硬化タイプのものであってもよい。紫外線硬化タイプのハードコート層2は、例えば、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)などのベース樹脂に光重合開始剤及び溶剤(トルエンなど)を所定の配合として混合攪拌して調製した(紫外線硬化型の)ハードコート液によって形成することができる。
【0041】
また、ハードコート層2を高屈折率層として機能させる場合では、ハードコート液中に酸化チタン、二酸化亜鉛、五酸化アンチモン、ITO(インジウム−スズ−オキサイド)、酸化錫などの金属酸化物の微粒子を適量混合して、屈折率が高くなるようにしてもよい。
【0042】
なお、図2に示されたハードコート層2について、導電性(帯電防止性)を持つ構成として塵や埃の付着が発生しないように工夫することは自由である。
例えば、前述のITOや酸化錫等をハードコート液中に適切量添加することによって導電性を付与することができる。
【0043】
また、このハードコート層2に換えて、ハードコート機能を有さない高屈折率層を採用して、樹脂基材層1と、該樹脂基材層1に積層された高屈折率層3と、を備え、さらに高屈折率層3の最表面が、第1実施形態同様の方法によってフッ素化表面Sとされた構成を採用することは、目的に応じて自由である。
【0044】
前記高屈折率層3は、一例を挙げると、屈折率1.55〜1.80である多官能(メタ)アクリル樹脂や同屈折率範囲の有機シロキサン樹脂によって形成でき、また、この高屈折率層3においても、酸化チタン、二酸化亜鉛、五酸化アンチモン、ITO(インジウム−スズ−オキサイド)、酸化錫などの金属酸化物の微粒子を適量混合することによって、所望の屈折率となるように工夫してもよい(以下の第3実施形態でも同様)。
【0045】
次に、図3は、本発明に係る反射防止フィルムの第3実施形態の構成を示す層構造断面図である。
【0046】
この図3中に符号Cで示された反射防止フィルムは、樹脂基材層1と、該樹脂基材層1に積層されたハードコート層2と、該ハードコート層2に積層された高屈折率層3と、を備えており、さらに高屈折率層3の最表面が、第1実施形態同様の方法によってフッ素化表面Sとされた構成を備えている。この低屈折率のフッ素化表面Sは、高屈折率層3との屈折率差に基づいて反射防止機能を果たすとともに、かつ防汚性を付与する役割を果たしている。
【0047】
なお、この高屈折率層3についても、既述した第2実施形態のハードコート層2の場合と同様に、導電性(帯電防止性)を有する構成として、塵や埃の付着が発生しないように工夫することは自由である。
【0048】
以上説明した第1〜第3実施形態の反射防止フィルムA、B、Cでは、その表面硬度が、鉛筆硬度を基準として、H〜9Hであるように設計することで、磨耗や衝撃等の外力からの損傷を受け難くすることができる。表面硬度を上げるためには多官能の原料、例えば多官能(メタ)アクリル樹脂系ではペンタエリスリトールテトラアクリレート、有機シロキサン樹脂系ではテトラエトキシシラン等の濃度を上げる事によって可能であるが、過剰な濃度となるとできあがったコート膜の可撓性に欠け脆くなるので適宜調整が必要である。
【0049】
上記第1〜第3実施形態を少なくとも包含する本発明に係る反射防止フィルムは、ブラウン管(CRT)や液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機EL表示装置、リアプロジェクション、携帯電話(PHS含む)や携帯端末、小型のビデオカメラやデジタルカメラ、自動車などの車両の計器類やカーナビゲーションなどの様々な表示画面、あるいはショーケースやショーウインドウなどの窓用透明面材などに設けられることによって、光反射によるコントラスト低下や映り込み防止に加えて防汚性を発揮することによって、視認性向上に寄与する。
【0050】
この時に、必要に応じて本発明に係る反射防止フィルムに他の機能を付加させる事も可能である。例えば蒸着やエッチングの組み合わせを用いることにより導電性のメッシュを付けたり、ITO等の透明膜をつける事により電磁遮蔽機能を付加したり、IRカット機能を付与したりすることも可能である。
また、この様に作製したフィルムを偏光膜の保護フィルムとして使用することにより使用部材を減らしてコスト低減につなげることも可能である。
【0051】
図4は、本発明に係る反射防止フィルムの製造方法に好適な装置構成の一例を示す図である。
【0052】
まず、フッ素化するサンプルを、図4に示すリアクターに入れて、ポンプにて真空引きをして中の空気を取り除いた後に、先ずは不活性ガス(図では窒素を採用)をボンベから導入し、再度ポンプにて真空引きを行いリアクター中の酸素を出来るだけ取り除くように
する(必要なら数回繰り返す)。これは、酸素があるとフッ素化の過程で水素がフッ素と置換するだけでなく、−COF基ができてしまうためである。この−COF基は、空気中の水分によって加水分解して−COOH基とHFになり、フィルム末端に親水性の−COOH基を生成してしまうので適当でない。
【0053】
次に、窒素ガス(N)を所定圧力まで入れた後にリアクターに所定圧までフッ素ガスを導入し、室温ならそのまま反応開始する。あるいは必要に応じて昇温を行うようにする。なお、この場合、熱電対TCで温度測定を行う。符号AのHF吸収筒は、フッ素ボンベ(Fボンベ)中の不純物のHFを取り除くために付設し、符号B、Cは、リアクターから出すフッ素ガスを系外に排出しないために付設されたフッ素ガス吸収筒である。
【0054】
フッ素化反応後は、リアクター中のフッ素ガス及び反応性ガス(HF等)を、窒素を入れることによって追い出し、除外筒を通して排出し、リアクター内を窒素で置換した後に空気を入れた後に、処理済みサンプルを取り出すようにする。
【実施例1】
【0055】
(ポリフェニレンスルフィド延伸フィルムの作成)
厚さ250μmのポリフェニレンスルフィド(PPS)シートを100℃において縦横3倍に二軸延伸し、次いで250℃のオーブンにて1分間熱処理を行った。得られたポリフェニレンスルフィド二軸延伸フィルムは、厚さ25μmで、ヘイズは0.45だった。なお、PPSは、二軸延伸することによって、光透過性(透明度)を確保することが可能となるので、本発明の目的を達成するために好適である。
【0056】
(フッ素置換処理工程)
次に、得られたポリフェニレンスルフィド二軸延伸フィルムを、SUS製の密閉容器に入れ、真空ポンプにて10mmHg以下に減圧した後に窒素を導入した。再度、10mmHgに減圧した後に窒素を導入した後に5mmHg以下に減圧した。次いで窒素で20%に希釈したフッ素ガスを導入し、500mmHgとした後に室温で30分間フッ素ガスに曝露することにより表面をフッ素化して低屈折率の反射防止層を形成した。出来上がったフィルムの反射率は550nmでフッ素化前の7.5%に対して5%に低下した。また、ヘイズ(HAZE)は0.42とほとんど変化がなかった。
【実施例2】
【0057】
(ポリフェニレンスルフィドフィルムの一部酸化:酸化工程)
上記実施例1で得たポリフェニレンスルフィド二軸延伸フィルムを、32%過酢酸水溶液に室温で4時間浸漬した後に水洗を施し、100℃オーブンで真空乾燥を行い、表面がポリフェニレンスルホン化したフィルムを得た。得られたフィルムは、次の方法で酸化を確認した。
【0058】
(赤外吸収スペクトル)
PERKIN ELMER社製FT-IR Spectrometer SPECTRUM2000を用いてATR法で測定した。プリズムにはゲルマニウムプリズムを用い、室温にて測定した。参加処理をしたフィルムは、1330cm-1と1162cm-1にSO2固有の吸収が現れた。
【0059】
(XPS)
XPSの測定はPHI社製Quantera SXMを用い、試料表面のXPSスペクトルを得た。X線源には、AlKα(1486.6eV)を用いた。結果を次の「表1」に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
(吸水率測定)
こうして得られた一部酸化PPS二軸延伸フィルムの吸水率については、以下のようにして測定した。試料を23℃の蒸留水に24時間浸漬した後に、表面の水を拭き取った後、カールフィッシャー法水分計である三菱化学(株)製・微量水分測定装置CA-100型を用いて測定した。加熱温度は220℃とした。この様にして測定した吸水率は、PPS二軸延伸フィルムは、0.08%に対して一部酸化PPS二軸延伸フィルムは2.7%だった。
【0062】
(耐熱性評価)
また、こうして得られた一部酸化PPS二軸延伸フィルムを350℃のオーブンに10分間入れたところ、外観上殆ど変化が無かった。これに対してPPS二軸延伸フィルムは、350℃のオーブンに10分間入れたところ、形状をとどめない位に溶融した。
【0063】
(一部酸化したポリフェニレンスルフィドフィルムのフッ素置換処理工程)
表面がスルホン化したポリフェニレンスルフィド二軸延伸フィルムを、SUS製の密閉容器に入れ、真空ポンプにて10mmHg以下に減圧した後に窒素を導入した。再度、10mmHgに減圧した後に窒素を導入した後に5mmHg以下に減圧した。次いで窒素で20%に希釈したフッ素ガスを導入し、500mmHgとした後に室温で60分間フッ素ガスに曝露することにより表面をフッ素化して低屈折率の反射防止層を形成した。得られたフィルムの反射率は550nmでフッ素化前の6.8%に対して4.5%に低下した。また、ヘイズ(HAZE)は0.49とほとんど変化がなかった。また、フッ素化PPSOフィルムの吸水率は、0.65%と一部酸化によって増加した吸水率を下げることができた。このフィルムを、350℃のオーブンに10分間入れたところ、外観上、何らの変化が見られなかった。
【0064】
以上の実施例1、2からわかるように、本発明に係る反射防止フィルムは、反射防止のために要求される反射防止性能を有しており、しかも、厚さ25μm程度のイオウ含有樹脂基材層を有する場合であっても、ヘイズ(HAZE)が満足のいくレベルで、曇りがなく良好であった。
【0065】
さらに、酸化処理を行うことによって耐熱性が向上する一方、該酸化処理によって増加した吸水性が、フッ素置換処理によって抑制できることもわかった。
【0066】
イオウ含有樹脂基材層の表面や、該基材層に直接又は間接に積層された層の表面をフッ素置換処理することによって低屈折率化することで、目的の反射防止性と防汚性を得ることができる。
【0067】
さらには、イオウ含有樹脂基材層を酸化処理した後にフッ素置換処理を施した場合は、吸水性を抑制しつつ耐熱性を向上させることができる。この耐熱性の向上により、ディスプレイ装置の大型画面に適合し易い反射防止フィルムを提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、ブラウン管(CRT)や液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機EL表示装置、リアプロジェクション、携帯電話(PHS含む)や携帯端末、小型のビデオカメラやデジタルカメラ、自動車などの車両の計器類やカーナビゲーションなどの様々な表示画面、あるいはショーケースやショーウインドウなどの窓用透明面材などの反射防止技術や防汚技術として広く利用することができる。また、本発明に係る反射防止フィルムは、液晶ディスプレイにおける偏光板省略のためのフィルム材料としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る反射防止フィルムの第1実施形態の構成及びその製造過程を簡略に示す図である
【図2】同反射防止フィルムの第2実施形態の構成を示す層構造断面図である。
【図3】同反射防止フィルムの第3実施形態の構成を示す層構造断面図である。
【図4】本発明に係る反射防止フィルムを製造する方法に好適な装置構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 樹脂基材層
2 ハードコート層
3 高屈折率層
4 低屈折率層
A 反射防止フィルム(第1実施形態)
B 反射防止フィルム(第2実施形態)
C 反射防止フィルム(第3実施形態)
D 反射防止フィルム(第4実施形態)
S フッ素化表面(フッ素置換処理された表面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学式1で示される高分子構造を有するイオウ含有樹脂基材層を少なくとも有する反射防止フィルム。
【化1】


R:−H、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族環、-COOR1、-NR22、-NO2、-OH、-OR3
R1:-H、アルカリ金属、アルキル基、シクロアルキル基、芳香族環
R2:-H、アルキル基
R3:-アルキル基、シクロアルキル基、芳香族環
X:SまたはSO、SO2
Y:S、O、CO、SO、SO2
l、m:共重合比で各々0≦l≦1、0≦m≦1であり、l+m=1で示されるランダム共重合体又はブロック共重合体。
【請求項2】
前記イオウ含有樹脂基材層は、次の化学式2〜5のいずれか一つから選択される高分子構造を有することを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルム。
【化2】

【化3】

【化4】


【化5】

【請求項3】
次の(1)又は(2)のいずれかの表面がフッ素置換処理されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射防止フィルム。
(1)前記イオウ含有樹脂基材層の少なくとも一方の表面。
(2)前記イオウ含有樹脂基材層上に直接又は間接に設けられた樹脂積層部の表面。
【請求項4】
前記樹脂積層部は、ハードコート層であることを特徴とする請求項3記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記樹脂積層部は、低屈折率層又は/及び高屈折率層であることを特徴とする請求項3記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
イオウ含有樹脂基材層の厚みが15μm以上で、かつヘイズ(HAZE)2.0以下であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の反射防止フィルムが設けられたことを特徴とする画像表示体。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の反射防止フィルムが設けられたことを特徴とする窓用又はショーケース用の透明基体。
【請求項9】
次の(1)又は(2)のいずれかの表面に対し、フッ素ガスを少なくとも含む反応ガスを曝露してフッ素置換処理する工程を少なくとも行うことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
(1)上記化学式1で示される高分子構造を有するイオウ含有樹脂基材層の表面。
(2)上記化学式1で示される高分子構造を有するイオウ含有樹脂基材層上に直接又は間接に設けられた樹脂積層部の表面。
【請求項10】
上記化学式2〜4のいずれかから示される高分子構造を有するイオウ含有樹脂基材層の表面を酸化剤で処理する酸化工程と、
該酸化工程を経た表面に、フッ素ガスを少なくとも含む反応ガスを曝露するフッ素置換処理工程と、
を少なくとも行うことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−178796(P2007−178796A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378402(P2005−378402)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【出願人】(505348016)
【Fターム(参考)】