反射防止膜及び光学素子
【課題】広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有し、且つ、実用上十分な耐久性を有する反射防止膜及び光学素子を提供する。
【解決手段】基材上に設けられる中間層と、当該中間層の表面に設けられる低屈折率層とから成る光学的二層構造を有し、当該低屈折率層は中空シリカがバインダにより結着された層であり、その屈折率(n1)は1.15以上1.24以下であり、当該中間層の屈折率(n2)は、基材の屈折率をn(sub)とした場合、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
【解決手段】基材上に設けられる中間層と、当該中間層の表面に設けられる低屈折率層とから成る光学的二層構造を有し、当該低屈折率層は中空シリカがバインダにより結着された層であり、その屈折率(n1)は1.15以上1.24以下であり、当該中間層の屈折率(n2)は、基材の屈折率をn(sub)とした場合、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、基材の表面に形成される反射防止膜に関し、特に広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有する反射防止膜及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器を構成するレンズ、プリズム等の光学素子基材の表面には、光透過率を向上させることを目的として、反射防止膜が設けられる。従来、光学機器の多くは、特定の狭い入射角範囲で入射する可視域の光線を使用するものであったため、光学素子に設ける反射防止膜はその特定の狭い入射角範囲において優れた反射防止効果を有するように設計されてきた。
【0003】
しかしながら、近年では幅広い入射角範囲の光線を使用する光学機器が増えてきており、広い入射角範囲で、且つ、可視光全域の光線に対して優れた反射防止効果が求められるようになってきている。また、カメラ等の撮像系光学機器に使用されるレンズは、小型化及び高性能化の要求に応じて、高開口数化している。例えば、カメラの対物レンズの開口数を大きくすると、レンズ曲率が大きくなり、レンズ周辺部における光線入射角度が大きくなる。このため、レンズ周辺部での反射に起因して、ゴースト等が発生し易くなる。このことから、より広い入射角範囲で、且つ、可視光全域の光線に対する優れた反射防止効果も求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材側から順にアルミナを主成分とした緻密層と、屈折率が1.33〜1.50の緻密層と、メソポーラスシリカナノ粒子の集合体から成ると共に、屈折率1.07〜1.18の多孔質層との3層を積層した反射防止膜が開示されている。この特許文献1に開示の反射防止膜によれば、可視光の波長範囲である400nm〜700nmの範囲で優れた反射防止特性を有するとしている。
【0005】
また、特許文献2には、基材側から順に緻密層及びシリカエアロゲル多孔質層から成る二層構造の反射防止膜が開示されている。この特許文献1に開示の反射防止膜では、屈折率を基材からシリカエアロゲル多孔質層まで順に小さくなっており、広い波長範囲の幅広い入射角の光線に対して優れた反射防止特性を有するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−215542号公報
【特許文献2】特開2010−38948号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「第35回光学シンポジウム予稿集」、(社)応用物理学会分科会 日本光学会主催、2010年7月、P67−P70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に開示の反射防止膜では、光線の入射角が30度の場合に、波長範囲400nm〜700nmの光線に対して、1%以下の反射率を達成しているものの更なる低反射性が求められる。また、近年の光学機器に使用されるレンズ等においては、光線入射角が30度以上になることがあり、また、波長範囲がより広帯域化しているため、当該反射防止膜ではより広い波長範囲及びより広い入射角の光線に対して、十分な反射防止効果を得ることができず、ゴースト等の発生を十分に抑制できないことが想定される。更に、メソポーラスナノシリカ多孔質層を形成する際に、300℃以上で焼成処理を施す必要があり、基材の形状や特性に熱による影響を与える可能性がある。
【0009】
また、特許文献2に開示の反射防止膜では、表層をシリカエアロゲル多孔質層としているが、緻密層としてのSiO2層の表面に、屈折率が1.15となるようにシリカエアロゲル多孔質層を形成した場合、シリカエアロゲル本来の特性により、実用上の耐久性が得られないという課題がある。また、シリカエアロゲルは水分を吸着した場合に構造変化を起こす。このため、水分の吸着を防止するため、シリカエアロゲルをフッ化物で疎水処理した場合、シリカエアロゲル多孔質層の屈折率が増加する。そこで、例えば、シリカエアロゲル多孔質層を形成する際にバインダを用いて、シリカエアロゲル同士を結着した場合、実用上の耐久性を有するには、屈折率1.25程度になることが報告されている(例えば、「非特許文献1」参照)。
【0010】
そこで、本件発明は、広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有し、且つ、実用上十分な耐久性を有する反射防止膜及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の反射防止膜及び光学素子を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0012】
本件発明に係る反射防止膜は、基材上に設けられる反射防止膜であって、基材上に設けられる中間層と、当該中間層の表面に設けられる低屈折率層とから成る光学的二層構造を有し、当該低屈折率層は中空シリカがバインダにより結着された層であり、その屈折率(n1)は1.15以上1.24以下であり、当該中間層の屈折率(n2)は、基材の屈折率をn(sub)とした場合、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
【0013】
【数1】
【0014】
本件発明に係る反射防止膜において、低屈折率層内の前記空隙を形成するため前記中空シリカが占める体積は、30体積%以上99体積%以下であることが好ましい。この場合において、中空シリカが占める体積とは、低屈折率層内において、中空部を含む中空シリカ球の全体が占める体積を意味する。ここで、当該低屈折率層内における中空シリカが占める体積は、90体積%以下であることがより好ましく、60体積%以上であると更に好ましい。
【0015】
本件発明に係る反射防止膜において、前記低屈折率層内には、前記中空シリカ内の中空部以外の空隙部が存在することが好ましい。
【0016】
本件発明に係る反射防止膜において、中空シリカ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下であり、中空シリカ粒子の外側はバインダにより被覆されていることが好ましい。
【0017】
本件発明に係る反射防止膜において、前記低屈折率層の屈折率(n1)は、1.17以上1.23以下であることが好ましい。
【0018】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中間層の屈折率(n2)は、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0019】
【数2】
【0020】
本件発明に係る反射防止膜において、 前記低屈折率層の光学膜厚は、100nm以上180nm以下であることが好ましい。
【0021】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中間層の光学膜厚は、100nm以上180nm以下であることが好ましい。
【0022】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中間層は、設計中心波長において前記式(1)の関係を満たす複層構造の等価膜であってもよい。ここで、設計中心波長は、400nm〜700nmの範囲内で定めた任意の波長とすることができる。
【0023】
本件発明に係る反射防止膜において、前記低屈折率層は、中空シリカと、バインダ成分として樹脂材料又は金属アルコキシドとを用いて形成された層であることが好ましい。
【0024】
本件発明に係る反射防止膜において、入射角0度の波長400nm以上800nm以下の光に対する反射率が0.5%以下であり、入射角45度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対する反射率が0.7%以下であることが好ましい。
【0025】
本件発明に係る反射防止膜において、前記低屈折率層の表面に、屈折率(n3)が1.30以上2.35以下であり、且つ、膜厚が1nm以上30nm以下の機能層を設けてもよい。
【0026】
本件発明に係る反射防止膜において、前記基材は、光学素子基材であることが好ましい。
【0027】
本件発明に係る光学素子は、上記記載の反射防止膜を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本件発明によれば、中空シリカをバインダにより結着して成る屈折率が1.10以上1.24以下の低屈折率層と、基材の屈折率をn(sub)とした場合、式(1)の関係を満たす広い屈折率n(2)を有する中間層との二層構造から成る反射防止膜とすることにより、広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有し、且つ、実用上十分な耐久性を有する反射防止膜を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本件発明に係る反射防止膜の層構成を示す模式図である。
【図2】低屈折率層の構成材料である中空シリカの構造を示す模式図(a)と、低屈折層の構成を示す模式図(b)である。
【図3】本件発明に係る反射防止膜の低屈折率層の表面を示すSEM写真(a)及び反射防止膜の断面を示すSEM写真(b)である。
【図4】実施例1で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図5】実施例2で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図6】実施例3で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図7】実施例4で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図8】実施例5で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図9】実施例6で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図10】実施例7で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図11】実施例8で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図12】実施例9で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図13】実施例10で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図14】比較例1で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図15】比較例2で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図16】比較例3で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る反射防止膜及び光学素子の実施の形態を説明する。
【0031】
1.反射防止膜10
まず、図1を参照して本件発明に係る反射防止膜10の構成を説明する。本件発明に係る反射防止膜10は、基材20上に設けられる反射防止膜10であって、基材20上に設けられる中間層11と、当該中間層11の表面に設けられる低屈折率層12とから成る光学的二層構造を有し、当該低屈折率層12は中空シリカ(中空シリカ粒子)13がバインダ14により結着された層であり、その屈折率(n1)は1.15以上1.24以下であり、当該中間層11の屈折率(n2)は、基材20の屈折率をn(sub)とした場合、下記式(1)の関係を満たすことを特徴としている。すなわち、本件発明に係る反射防止膜10は、表層としての低屈折率層12と、表層と基材20との間に配置される中間層11とから成る光学的二層構造を主たる光学的構成としており、当該二層構造から成る反射防止膜としてもよいし、当該反射防止膜の表面に当該反射防止膜の反射防止効果を妨げない範囲で後述する機能層16を設けてもよい。
【0032】
【数3】
【0033】
(1)光学的二層構造による反射防止効果
まず、光学的二層構造による反射防止効果について説明する。一般に、表層に配置される低屈折率層12の屈折率をn(1)、基材20と表層との間に配置される中間層11の屈折率をn(2)、基材20の屈折率をn(sub)とした場合に、中間層11の屈折率n(2)が下記式(3)の関係を満たす場合に、当該反射防止膜10では、設計中心波長(400nm〜700nmの範囲で定めた任意の波長)の入射光に対する反射率が最低値を示すことが知られている。
【0034】
【数4】
【0035】
しかしながら、低屈折率層12の屈折率n(1)及び基材20の屈折率n(sub)に対して、中間層11の屈折率n(2)を式(3)の関係を満たすようにした場合、上記設計中心波長の入射光に対する反射率は最低値を示すが、入射光の波長が設計中心波長から離れるにつれてその反射率はU字カーブ状に増加する。従って、反射防止膜10の中間層11の屈折率n(2)を上記式(3)に従って光学設計を行ったのでは、入射光の波長範囲が広い場合にその入射光の波長域全域に渡って反射防止効果を発揮することはできない。そこで、本件発明に係る反射防止膜10では、低屈折率層12の屈折率n(1)及び基材20の屈折率n(sub)に対して中間層11の屈折率n(2)が上記式(1)の関係を満たすようにすることにより、設計中心波長の入射光に対する反射率は式(1)に従う場合よりも若干高くなるが、波長域全体でみた場合に、その全域において要求されるレベル以下の反射率を達成することを可能とした。すなわち、式(1)の関係を満たすように中間層11の屈折率n(2)を光学設計することにより、入射光の波長範囲が広帯域に亘る場合であっても、入射光の波長域全域において低い反射率を達成することを可能とした。
【0036】
本件発明において、より広い波長範囲の入射光に対して、その波長域全域でより低い反射率を達成するには、中間層11の屈折率(n2)は、下記式(2)を満たすことがより好ましい。
【0037】
【数5】
【0038】
(2)低屈折率層12
次に、上記光学的二層構造の表層を成す低屈折率層12について説明する。まず、低屈折率層12の屈折率について説明する。低屈折率層12の屈折率は、上記の通り、1.15以上1.24以下であることが要求される。当該範囲内の屈折率を有する低屈折率層12を表層とし、式(1)を満たす屈折率n(2)を有する中間層11を基材20上に設けることにより、初めて当該光学的二層構造を有する反射防止膜10を広い波長範囲の光線に対する反射防止効果の高いものとすることができる。
【0039】
低屈折率層12の屈折率を1.15未満にした場合、中空シリカ13をバインダ14により被覆し、且つ、中空シリカ13をバインダ14により被覆した状態で十分に結着することができなくなる。従って、低屈折率層12の屈折率が1.15未満の場合、低屈折率層12の機械的強度や耐久性が低下するため、好ましくない。当該観点から、低屈折率層12の屈折率は1.17以上であることがより好ましい。一方、低屈折率層12の屈折率が1.24を超える場合は、設計中心波長における反射率が高くなるため好ましくない。従って、当該観点から、低屈折率層12の屈折率は上記範囲内において低い方が好ましく、1.23以下であることがより好ましい。
【0040】
ここで、低屈折率層12は、上述した通り、中空シリカ13がバインダ14により結着された層であり、中空シリカ13とバインダ14とを含む複合層である。また、本件発明において、中空シリカ13とは、バルーン構造(中空構造)を有するシリカ粒子を指す。すなわち、図2(a)に模式的に示すように、中空シリカ13は、シリカから成る外殻部13aと、この外殻部13aに囲まれた中空部13bとから構成される。本件発明では、低屈折率層12の構成成分として、中空部13bを有する中空シリカ13を主たる成分として採用することにより、低屈折率層12の屈折率をシリカ自体の屈折率(1.48)よりも低減することができる。また、粒子内に細孔を多数有する多孔質シリカの集合体から構成された低屈折率層12等に比して、図2(b)に示すように、中空シリカ13をバインダ14により結着した層とすることにより、低屈折率層12の屈折率を上述した範囲内とした場合であっても、当該低屈折率層12の機械的強度や耐久性を維持することができる。
【0041】
また、低屈折率層12内には、図2(b)及び図3(a)、(b)に示すように、中空シリカ13の中空部13b以外の空隙部15が存在することが好ましい。低屈折率層12内に、中空シリカ13内の中空部13b以外の空隙部15が存在することにより、低屈折率層12の屈折率をシリカ自体の屈折率よりも更に低減することができる。これにより、低屈折率層12の屈折率を上記範囲内において更に低い値とすることができる。なお、図3(a)、(b)において、無数に観察される球状の粒子がバインダ14により被覆された中空シリカ13である。
【0042】
低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積は、30体積%以上99体積%以下であることが好ましい。ここでいう中空シリカ13が占める体積とは、低屈折率層12において、中空シリカ13の外殻部13aと、この中空部13aに囲まれる中空部13bとを含む中空シリカ球の全体積を意味する。低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積が30体積%未満である場合、低屈折率層12の耐久性が低下するため好ましくない。また、中空シリカ13の占める体積が30体積%未満である場合、低屈折率層12においてバインダ14が占める体積率が増加する。その結果、低屈折率層12の屈折率を上記範囲内の値になるようにすることが困難になる場合がある。これらの観点から、低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積は60体積%以上であるとより好ましい。一方、低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積が99体積%を超える場合、中空シリカ13同士を結着するバインダ14が占める体積比が低く、中空シリカ13同士を十分に結着することができず、低屈折率層12を形成することが困難になる。また、中空シリカ内の中空以外の空隙部15を所有することができない。中空シリカ13同士を十分に結着し、低屈折率層12内に存在する空隙部15の比率を増加させるという観点から、低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積は90体積%以下であることがより好ましい。
【0043】
また、本件発明において、中空シリカ13はバインダ14によりその外側が被覆されていることが好ましい。中空シリカ13の外側がバインダ14により被覆された状態で、中空シリカ13同士が互いにバインダ14を介して結着されることにより、中間層11との密着性が増す他、低屈折率層12の耐久性も向上する。また、中空シリカ13の外側をバインダ14により被覆することにより、中空シリカ13内の中空部13bや、低屈折率層12内の空隙部15に対して、水や他の液体が吸着するのを抑えることができる。
【0044】
中空シリカ(中空シリカ粒子)13の平均粒径は、5nm以上100nm以下であることが好ましい。5nm未満であると、低屈折率層12内に中空シリカ13の中空部13b以外の空隙部15を設けることが困難になる。一方、中空シリカ13の平均粒径が100nmを超える場合、光の散乱(ヘイズ)が発生する。この場合、当該中空シリカ13を用いた反射防止膜10は、撮像素子に要求される反射防止性能を満たすことができず、好ましくない。
【0045】
一方、バインダ成分としては、樹脂材料又は金属アルコキシドを採用することができる。樹脂材料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等或いはこれらの単量体化合物を挙げることができる。これらの樹脂材料は紫外線硬化性、常温硬化性、又は熱硬化性の化合物であることが好ましく、特に紫外線硬化性又は常温硬化性の化合物であることが好ましい。樹脂基材等の熱膨張係数の高い基材20を用いる場合に、熱処理を行わなくとも低屈折率層12の形成が可能であれば、基材20の熱膨張変形を防止することができる。具体的な層形成方法として、例えば、これらの材料と、中空シリカ13とを混合して、必要に応じて重合開始剤や架橋剤等を添加し、溶剤等により適切な濃度に希釈して塗布液を調製し、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法等の湿式法を採用することができる。これらの方法により中間層11の表面に塗布液を適切な厚みとなるように塗布し、その後、紫外線効果、或いは熱処理を施すことなどにより重合架橋して、溶媒を揮発させること等により低屈折率層12を形成することができる。
【0046】
また、金属アルコキシドを溶媒に溶解または懸濁して、ゾルを形成し加水分解・重合によりゲルが生成される材料であることが好ましく、例えば、アルコキシシラン又はシルセスキオキサン等の加水分解・重合によりシリカゲルが生成される材料を用いることが好ましい。これらの材料と、中空シリカ13とを、溶媒に溶解又は懸濁してゾルゲル剤を調製し、中間層11の表面にゾルゲル剤をスプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、バーコート法等により塗布し、加水分解により中空シリカを含むゲルを作成し、溶媒を揮発させること等により、低屈折率層12を形成することができる。
【0047】
また、低屈折率層12の光学膜厚は、100nm以上180nm以下の範囲内であることが好ましい。但し、光学膜厚とは、当該層の屈折率×物理膜厚(nm)により得られる値を指す(以下、同じ)。低屈折率層12の光学膜厚が100nm未満である場合や180nmを超える場合、希望する反射防止としての位相変化を得ることが出来ないため、好ましくない。
【0048】
低屈折率層12を形成する際に溶媒を揮発、硬化させるときなどに熱処理を行う場合には、熱処理温度は90℃以上200℃以下で行うことが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。例えば、樹脂基材等の熱膨張係数の比較的高い材料から成る基材20を用いる場合でも、当該温度範囲で行う熱処理であれば、基材20の熱膨張変形を防止することができる。なお、熱処理に関しては、中間層11の形成時においても同様である。また、熱処理を行う際には、比熱の高い基材が多いため、基材に対して均一に加熱を行なうにはホットプレートのような熱伝導を利用する手法よりも、クリーンオーブンやイナートガスオーブンのような基材全体を加熱する手法がより好ましい。
【0049】
(3)中間層11
次に、中間層11について説明する。中間層11の屈折率n(2)は、上述した通り、式(1)の関係を満たすことが好ましく、式(2)の関係を満たすことがより好ましい。中間層11は、式(1)、好ましくは式(2)の関係を満たす屈折率を有すればよく、無機材料、有機材料、或いは、無機・有機混合材料を用いて形成することができる。無機材料としては、例えば、MgF2、SiO2、Al2O3、Nb2O5、Ta2O5、TiO2、La2O3及びTiO2の混合物、HfO2、SnO2、ZrO2、ZrO2及びTiO2の混合物、Pr6O11及びTiO2の混合物、Al2O3及びLa2O3の混合物、La2O3などを用いることができる。また、有機材料としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、PMMA樹脂、但し、光学薄膜50を構成する材料はこれらに限定されるものではない。また、当該光学薄膜50の厚み等は、反射防止性能を発揮する上で、適宜、適切な値とすることができる。中間層11は、これらの材料を用いて、湿式成膜法、真空成膜法、プラズマCVD法、原子層堆積法(ALD法)等により形成することができる。
【0050】
中間層11は、当該式(1)若しくは、式(2)に示す範囲内の屈折率を有する光学的な一層である。当該中間層11は、光学的な観点から一層であればよく、物理的な観点から一層であってもよいし、設計中心波長において前記式(1)の関係を満たす複層構造を有する等価膜であってもよい。ここで、設計中心波長は、400nm〜700nmの範囲内で定めた任意の波長とすることができる。
【0051】
等価膜として、例えば、Herpin行列で与えられる3層等価膜、膜厚が1Å(オングストローム)〜200Åの極薄い膜を基材20面に対して多層に積層した混合膜、多源成膜法により形成した混合膜等が挙げられる。例えば、3層等価膜として、2種類の安定な蒸着物質を用いて上記Herpin行列により与えられる屈折率、位相角を満たす等価的な対称3層膜を挙げることができる。また、極薄い膜を多層に積層した混合膜は、株式会社シンクロンの光学スパッタ装置RASなどを用いて製造することができる。また、多源成膜法により混合膜を形成する場合には、例えば、神港精機株式会社製の多源成膜スパッタ装置などを用いて、異なる材料から成る蒸発源を2源以上用意して、これらの複数の蒸発源を用いて同時に成膜することにより、混合膜を形成することができる。
【0052】
本件発明に係る反射防止膜10において、中間層11の光学膜厚は、100nm以上180nm以下であることが好ましい。中間層11の光学膜厚が当該範囲外である場合には、いずれの場合も、中間層11の屈折率が上記式(1)、或いは式(2)の範囲内であっても、要求される反射防止効果を得ることができず、好ましくない。また、中間層11を上述した等価膜に置換した場合、当該等価膜全体の光学膜厚が100nm以上180nm以下であることが求められる。
【0053】
(4)機能層16
本件発明においては、図1に示すように、低屈折率層12の表面に、屈折率(n3)が1.30以上2.35以下であり、且つ、膜厚が1nm以上30nm以下の機能層16を設けてもよい。本件発明に係る反射防止膜10は、基材20上に設けられる中間層11と、この中間層11の表面に設けられる低屈折率層12とから成る光学的二層構造を反射防止機能に関する主たる構成としている。機能層16は、この中間層11と低屈折率層12とから成る光学的二層構造により得られる反射防止効果に光学的な影響を与えない透明な極薄い膜であって、反射防止膜10の表面の硬度、耐擦傷性、耐熱性、耐候性、耐溶剤性、撥水性、撥油性、防曇性、親水性、耐防汚性、導電性等の向上等の機能を有する層を指す。
【0054】
ここで、機能層16の屈折率(n3)が1.30以上2.35以下であって、且つ、膜厚が1nm以上30nm以下であれば、上記光学的二層構造による反射防止効果に対する光学的な影響を無視することができる。屈折率が上記範囲を超える場合、当該反射防止膜10の反射防止特性に光学的に影響を及ぼす恐れがある。また、膜厚が1nm未満であると、機能層16を設けても期待される機能を発揮することができず好ましくない。また、膜厚が30nmを超える場合、屈折率が上記範囲内であっても、当該反射防止膜10の反射防止特性に光学的な影響を及ぼす恐れがあるため、好ましくない。これらの観点から機能層16の膜厚は、5nm以上10nm以下であることがより好ましい。
【0055】
機能層16を構成する材料としては、屈折率が1.30以上2.35以下の透明材料を用いることができる。屈折率が当該範囲内であって透明な材料であれば、反射防止膜10の表面に付与すべき機能に応じて、適宜適切な材料を選択すればよい。例えば、屈折率が当該範囲内の透明な無機材料として、SiOxNy/SiO2/SiOx/Al2O3/ZrO2とTiO2との混合物/La2O3とTiO2との混合物/SnO2/ZrO2/La2O3とAl2O3との混合物/Pr2O5/ITO(酸化インジウムスズ)/AZO(酸化亜鉛アルミニウム)などを挙げることができる。また、DLC(ダイアモンドライクカーボン)/HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)/エポキシ系の樹脂/アクリル系の樹脂(特に、PMMA樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂)/フッ素系の樹脂等を用いることができる。また、これらの材料を含む各種ハードコート剤を用いてもよい。機能層16の形成に際しては、材料及び膜厚に応じて適宜、適切な成膜方法を採用することができる。
【0056】
機能層16を低屈折率層12の表面に設ける場合、低屈折率層12の光学膜厚と機能層16の光学膜厚とを合計した全光学膜厚が100nm以上180nm以下とすることが求められる。この範囲を超えると、当該反射防止膜10の反射防止効果が低下する場合があり好ましくない。
【0057】
(5)基材20
本件発明に係る反射防止膜10において、当該反射防止膜10が設けられる基材20として光学素子基材20を用いることができる。光学素子基材20は、ガラス製であってもよいし、プラスチック製であってもよく、その材質に特に限定はない。例えば、レンズ、プリズム(色分解プリズム、色合成プリズム等)、偏光ビームスプリッター(PBS)、カットフィルタ(赤外線用、紫外線用等)など各種の光学素子基材20を用いることができる。ここで、樹脂基材や熱膨張係数の高いガラス基材20を用いる場合には、上記反射防止膜10の製造工程において、熱処理を行う場合には、熱処理温度は90℃以上200℃以下で行うことが基材20の熱膨張変形等を防止する点から好ましい。
【0058】
(6)反射率
以上の構成を有する反射防止膜10では、入射角0度以上50度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対して、1%以下の反射率を達成することができる。より具体的には、入射角0度の波長400nm以上800nm以下の光に対する反射率を0.5%以下、入射角0度以上45度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対する反射率を0.7%以下にすることができる。更に、具体的には、入射角0度の波長400nm以上700nm以下の光に対する反射率を0.3%以下、入射角0度以上45度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対する反射率を0.5%以下とすることができる。
【0059】
2.光学素子
本件発明に係る光学素子は、上記記載の反射防止膜10を備えることを特徴とする。光学素子としては、撮影光学素子や投影光学素子を挙げることができ、具体的には、レンズ、プリズム(色分解プリズム、色合成プリズム等)、偏光ビームスプリッター(PBS)、カットフィルタ(赤外線用、紫外線用等)などを挙げることができる。また、レンズとして、例えば、一眼レフカメラの交換レンズやデジタルカメラ(DSC)に搭載されるレンズ、携帯電話機に搭載されるデジタルカメラ用のレンズ他、各種のレンズが挙げられる。
【0060】
以上説明した上記実施の形態によれば、既に述べた通り、本件発明に係る反射防止膜10は広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して、優れた反射防止特性を有する。
【0061】
また、本件発明に係る反射防止膜10は基材20上に設けられる中間層11と、中間層11の表面に設けられる低屈折率層12との光学的二層構造を主たる構成とし、且つ、中間層11が有するべき屈折率n(2)を低屈折率層12の屈折率n(1)と、基材20の屈折率n(sub)とを用いて、式(1)若しくは式(2)に従って簡易に光学設計することができる。
【0062】
また、本件発明に係る反射防止膜10では、中間層11を、設計中心波長(例えば、400nm〜700nmの範囲内で定めた任意の波長)において前記式(1)の関係を満たす複層構造の等価膜とすることができる。このため、基材20の屈折率n(sub)と、低屈折率層12の屈折率n(1)とに応じて、最適な屈折率n(2)を有する中間層11を適宜適切な材料を用いて形成することができる。このため、上記広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して、優れた反射防止特性を有する本件発明に係る反射防止膜10を光学設計通りに製造することが容易である。
【0063】
以上説明した本実施の形態は、本件発明に係る反射防止膜10及び光学素子の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能であるのは勿論である。また、以下、実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
実施例1では、SCHOTT AG社(ショット社)製のN−LAK14ガラス製のレンズを用いた。基材20の表面に、表1に示す構成の反射防止膜10を設けた。具体的には、基材20の表面にSiO2からなる中間層11を真空蒸着法により、株式会社シンクロン社製のBMC1300を用いて90nmの厚みで形成した。但し、この中間層11は、中空シリカ13を用いて形成したものではなく、SiO2蒸着層である(以下、SiO2と単に表記した場合は、中空構造を有しないSiO2を指す)。
【0065】
そして、この中間層11の表面に、溶剤に中空シリカ13とバインダ成分としてのアクリル樹脂を溶解、懸濁、調整した塗工液を用いて、スピンコート法によりミカサ社製のMS−A150を用いて成膜し、クリーンオーブンにて90℃、120秒加熱(プレベーキング)した後、150℃1時間加熱(ポストベーキング)して溶媒の揮発、硬化を行なった結果、中空シリカ13がバインダ14としてのアクリル樹脂で結着して成る低屈折率層12を121nmの厚みで形成した。
【0066】
但し、本実施例1では、プロピレングリコールモノメチルエーテルとプロピレングリコールを主成分ととした溶剤に粒子径が約60nmの中空シリカ粒子とアクリル樹脂を溶解、懸濁した塗工液を使用した。また、この溶液の濃度を溶剤にて希釈することにより所望の膜厚を得ることができる。また、この塗工液中のアクリル樹脂成分の濃度を調整することにより低屈折率層の屈折率を1.15〜1.24の範囲で適宜所望の屈折率となるように調整することができる。
【0067】
表1に実施例1で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12の屈折率及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.40≦n(2)≦1.49の範囲内の値であることが好ましい。表1に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.46であった。
【0068】
【表1】
【実施例2】
【0069】
実施例2では、実施例1と同じ基材20を用いて、中間層11を物理膜厚89nm、光学膜厚134nmのPMMA樹脂層とした以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。中間層11は、プロピレングリコールモノメチルアセテートを溶媒とするアクリル樹脂を溶解した塗工液を用いてスピンコート法により、基材20上にPMMA樹脂膜を成膜した。表2に実施例2で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。表2に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.50であった。
【0070】
【表2】
【実施例3】
【0071】
実施例3では、実施例1と同じ基材20を用いて、中間層11として3層等価膜を採用した以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。本実施例における三層等価膜の構成は、表3に示す通りである。また、3層等価膜を成膜する際には、シンクロン社製のBMC1300を用いて、真空蒸着法により各層がそれぞれ表3に示す膜厚になるように成膜した。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。表3に示されている中間層11の3層等価膜の実効屈折率n(2)は1.50であった。
【0072】
【表3】
【実施例4】
【0073】
実施例4では、実施例1と同じ基材20を用いて、中間層11として3層等価膜を採用した以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。本実施例における三層等価膜の構成は表4に示す通りである。また、当該三層等価膜全体の物理膜厚は89nmであり、光学膜厚は136nmである。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.51≦n(2)≦1.60の範囲内の値であることが好ましい。表4に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.53であった。
【表4】
【実施例5】
【0074】
実施例5では、基材20として合成石英(SiO2)から成るレンズを用いた。基材20の表面に、表5に示す構成の反射防止膜10を設けた。具体的には、基材20の表面にMgF2から成る中間層11を真空蒸着法により90nmの厚みで形成した。そして、この中間層11の表面に、実施例1と同様にして中空シリカ13をアクリル樹脂で結着して成る低屈折率層12を114nmの厚みで形成した。表5に実施例5で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.36≦n(2)≦1.44の範囲内の値であることが好ましい。表5に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.38であった。
【0075】
【表5】
【実施例6】
【0076】
実施例6では、実施例5と同じ基材20を用いて、中間層11を物理膜厚89nm、光学膜厚134nmの中空シリカを配合したPMMA樹脂層とした以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。中間層11は東京応化工業社製のアクリル樹脂(TMR−C006)と中空シリカ溶液を混合させた物を塗工液として用いてスピンコート法により、基材20上に中空シリカを配合したPMMA樹脂膜を成膜した。低屈折率層12より塗工液中のアクリル樹脂成分の濃度を高くすることで、当該塗工液を用いて形成した層の屈折率を1.25より高い屈折率(1.54まで)を自由に調整することができる。そして、実施例5と同様にして、中間層11の表面に低屈折率層12を形成した後、この低屈折率層12の表面に機能層16として、パーフルオロアルキルから成る撥水層を、株式会社シンクロン社製BMC1300を用いて、真空蒸着法により、1nmの厚みで形成した。ここで、低屈折率層12の光学膜厚と、機能層の光学膜厚とを合わせると、131nmであった。表6に実施例6で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.31≦n(2)≦1.39の範囲内の値であることが好ましい。表6に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.36であった。
【0077】
【表6】
【実施例7】
【0078】
実施例7では、実施例5と同じ基材20を用いて、実施例5と同じ層構成を有する反射防止膜10を作製した後、低屈折率層12の表面に機能層16として、SiO2から成る保護層をシンクロン社製のBMC1300を用いて真空蒸着法により4.5nmの厚みで形成した。表7に実施例7で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。ここで、低屈折率層12の光学膜厚と、保護層の光学膜厚とを合わせると、129nmであった。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.36≦n(2)≦1.44の範囲内の値であることが好ましく、実施例5と同様である。また、実際の中間層11の屈折率n(2)についても1.38であり、実施例5と同じである。
【0079】
【表7】
【実施例8】
【0080】
実施例8では、実施例1〜実施例7で用いた基材20と比較すると屈折率の高い基材20を用いた。具体的には、HOYA株式会社製のE−FDS1ガラス製の屈折率n(sub)=1.92のレンズを用いた。そして、この基材20の表面に、表8に示す構成の反射防止膜10を設けた。具体的には、基材20の表面に、中間層11として、SiO2層と、Nb2O5層と、SiO2層とからなる三層等価膜を、株式会社シンクロン社製RAS1100を使用してラジカル・アシステッド・スパッタリング法により成膜した。そして、この三層等価膜から成る中間層11の表面に、実施例1と同様にして、中空シリカ13をバインダ14としてのアクリル樹脂で結着して成る低屈折率層12を形成した。表8に実施例8で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、この三層等価膜から成る中間層11の屈折率n(2)は、1.55≦n(2)≦1.64の範囲内の値であることが好ましい。表8に示されている中間層11の3層等価膜の実効屈折率n(2)は1.57である。また、当該三層等価膜全体の物理膜厚は77nmであり、光学膜厚は120nmである。
【0081】
【表8】
【実施例9】
【0082】
実施例9では、実施例8と同様に、実施例1〜実施例7で用いた基材20と比較すると屈折率の高い基材20を用いた。具体的には、HOYA株式会社製のE−FDS1ガラス製の屈折率n(sub)=1.92のレンズを用いた。そして、この基材20の表面に、表9に示す多層構造の反射防止膜10を設けた。具体的には、基材20の表面に、中間層11として、極薄膜のSiO2層を成膜した後、極薄膜のNb2O5層を成膜しこれを10回繰り返すことによりSiO2層とNb2O5層とが交互に積層した多層構造の混合膜である等価膜を、実施例8において三層等価膜を成膜した方法と同様のRAS法により成膜した。そして、この多層構造の混合膜から成る中間層11の表面に、実施例1と同様にして、中空シリカ13をバインダ14としてのアクリル樹脂で結着して成る低屈折率層12を形成した。表9に実施例9で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、この多層等価膜から成る中間層11の屈折率n(2)は、1.55≦n(2)≦1.64の範囲内の値であることが好ましい。表9に示されている中間層11の混合等価膜の実効屈折率n(2)は1.60であった。また、当該多層等価膜全体の物理膜厚は80nmであり、光学膜厚は125nmである。
【0083】
【表9】
【実施例10】
【0084】
実施例10では、実施例3と同じ基材20を用いて、中間層11としての3層等価膜の屈折率を変更した以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。本実施例における三層等価膜の構成は、表10に示す通りである。また、3層等価膜の屈折率を変更する際には、各層がそれぞれ表10に示す膜厚になるように成膜した。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。表1に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.52であった。
【0085】
【表10】
【比較例】
【0086】
[比較例1]
次に、比較例1の反射防止膜10を説明する。比較例1では、実施例1と同じ基材を用いた。この基材20の表面に、Al2O3層と、ZrO2層と、MgF2層との三層を積層して成る反射防止膜を形成した。各層の形成に際しては、それぞれシンクロン社製のBMC1300を用いて、真空蒸着法により所定の厚みになるまで成膜した。表11に比較例で製造した反射防止膜の層構成と、各層の屈折率を示す。
【0087】
【表11】
【0088】
[比較例2]
次に、比較例2の反射防止膜を説明する。比較例2では、実施例2と同じ基材を用いた。この基材の表面に、中間層としてAl2O3層と、中空シリカを含む低屈折率層を積層して成る反射防止膜を形成した。中間層の形成に際しては、シンクロン社製のBMC1300を用いて、真空蒸着法により所定の厚みになるまで成膜した。表12に比較例で製造した反射防止膜の層構成と、各層の屈折率を示す。ここで、本比較例2において、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。しかしながら、本比較例2では、中間層の屈折率n(2)を、この式(1)の範囲の上限値を超えた屈折率(n(2)=1.63)を有する層とした。
【0089】
【表12】
【0090】
[比較例3]
次に、比較例3の反射防止膜を説明する。比較例3では、実施例2と同じ基材を用いた。この基材の表面に、中間層としてMgF2層と、中空シリカを含む低屈折率層を積層して成る反射防止膜を形成した。中間層の形成に際しては、シンクロン社製のBMC1300を用いて、真空蒸着法により所定の厚みになるまで成膜した。表13に比較例で製造した反射防止膜の層構成と、各層の屈折率を示す。ここで、本比較例2において、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。しかしながら、本比較例3では、中間層の屈折率n(2)を、この式(1)の範囲の下限値よりも低い屈折率(n(2)=1.38)を有する層とした。
【0091】
【表13】
【0092】
[評価]
1.反射率
次に、上記実施例1〜実施例9で得られた各反射防止膜10と、比較例の反射防止膜10の反射防止特性について評価する。反射率の測定に際しては、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U4000を用いた。反射防止膜10に対する光線の入射角を0度、30度、45度、50度及び60度とし、各入射角において入射光の波長域を400nmから800nmの範囲で測定した。実施例1〜実施例10で製造した反射防止膜10の反射率の測定結果を図4〜図14に示す。また、入射光の波長域が400nm〜680nm、400nm〜700nm、400nm〜850nmである場合において、それぞれの波長域における反射率の最大値を表14及び表15に示す。実施例1〜実施例9で製造した反射防止膜10では、いずれも入射角0度において波長が400nm〜800nmの範囲の光線に対する反射率は0.5%以下であった。また、入射角が0度の場合、波長が 400nm〜700nmの範囲の光線に対して、本件発明に係る反射防止膜10の実施例1、2、6では、0.3%以下の反射率を実現することができた。さらに、実施例1〜実施例10で製造した各反射防止膜10では、入射角0度〜45度において、波長が400nm〜700nmの範囲の光線に対する反射率は0.7%以下であった。更に、入射角0度〜50度において、波長が400nm〜680nmの範囲の光線に対する反射率は、1%以下であった。
【0093】
ここで、実施例3で製造した反射防止膜10と、実施例10で製造した反射防止膜10とは、各層を構成する材料は同じであるが、中間層11の屈折率n(2)が異なっている。すなわち、実施例3で製造した反射防止膜10の中間層11の屈折率n(2)はより好ましい範囲を示す式(2)を満たすが、実施例10で製造した反射防止膜10の中間層11の屈折率n(2)は式(1)を満たすに留まる。その結果、実施例10で製造した反射防止膜10は、実施例3で製造した反射防止膜10に対して、低反射率を達成している帯域が狭い。具体的には、図6に示すように、入射角50°の光線に対して反射率が1%以下の波長範囲は、実施例3では400〜700nmであった。これに対して、図14に示すように、実施例10で製造した反射防止膜10では、入射角50°の光線に対して反射率が1%以下の波長範囲は、400〜680nmであった。このように、中間層11の屈折率n(2)が式(2)を満たす方が広い入射角範囲の光線に対して低反射を実現することができ、より好ましいと言える。
【0094】
これに対して、図15に示すように、比較例1で製造した反射防止膜10では、入射角が0度である場合には、400nm〜700nmの波長の光線に対する反射率を概ね0.5%以下とすることができるが、入射角が30度の場合は、0.5%以下の反射率を維持可能な波長域は、400nm〜660nm程度の範囲であった。入射角が45度を超えると、ほぼ全ての波長の光線に対する反射率は概ね0.5%以上であり、1%以下の反射率を維持可能な波長域は、400nm〜620nm程度の範囲であった。また、比較例2及び比較例3においても、中間層の屈折率n(2)が上記式(1)の範囲を超える場合は、いずれも入射角が増加するにつれて、低反射率を達成可能な帯域が狭く、広い入射角範囲の光線に対して低反射を実現することができなかった。
【0095】
【表14】
【0096】
【表15】
【0097】
以上説明したように、本件発明に係る反射防止膜10は、中間層11の屈折率n(2)を表層である低屈折率層12の屈折率n(1)と、基材20の屈折率n(sub)とに基づいて、式(1)或いは式(2)が示す範囲内の値となるようにすることにより、広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有することが確認された。
【0098】
2.耐久性
また、表層を不織布で複数回擦ってみたところ、表層が剥離することもなく、実用上、十分な耐久性を維持していることについても確認された。
【0099】
更に、本件発明に係る反射防止膜10を有するレンズを高温高湿試験(60℃、90%RH、240h)、高温試験(80℃、240H)、低温試験(−40℃、240H)を実施した結果、分光反射率や外観の変化がなく耐久性を有していることについて確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本件発明に係る反射防止膜は、広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止効果を有するため、入射する光線の波長範囲の広い光学機器や、曲率の高いレンズ等を使用する光学機器等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
10・・・反射防止膜
11・・・中間層
12・・・低屈折率層
13・・・中空シリカ
14・・・バインダ
20・・・基材
30・・・機能層
【技術分野】
【0001】
本件発明は、基材の表面に形成される反射防止膜に関し、特に広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有する反射防止膜及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器を構成するレンズ、プリズム等の光学素子基材の表面には、光透過率を向上させることを目的として、反射防止膜が設けられる。従来、光学機器の多くは、特定の狭い入射角範囲で入射する可視域の光線を使用するものであったため、光学素子に設ける反射防止膜はその特定の狭い入射角範囲において優れた反射防止効果を有するように設計されてきた。
【0003】
しかしながら、近年では幅広い入射角範囲の光線を使用する光学機器が増えてきており、広い入射角範囲で、且つ、可視光全域の光線に対して優れた反射防止効果が求められるようになってきている。また、カメラ等の撮像系光学機器に使用されるレンズは、小型化及び高性能化の要求に応じて、高開口数化している。例えば、カメラの対物レンズの開口数を大きくすると、レンズ曲率が大きくなり、レンズ周辺部における光線入射角度が大きくなる。このため、レンズ周辺部での反射に起因して、ゴースト等が発生し易くなる。このことから、より広い入射角範囲で、且つ、可視光全域の光線に対する優れた反射防止効果も求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材側から順にアルミナを主成分とした緻密層と、屈折率が1.33〜1.50の緻密層と、メソポーラスシリカナノ粒子の集合体から成ると共に、屈折率1.07〜1.18の多孔質層との3層を積層した反射防止膜が開示されている。この特許文献1に開示の反射防止膜によれば、可視光の波長範囲である400nm〜700nmの範囲で優れた反射防止特性を有するとしている。
【0005】
また、特許文献2には、基材側から順に緻密層及びシリカエアロゲル多孔質層から成る二層構造の反射防止膜が開示されている。この特許文献1に開示の反射防止膜では、屈折率を基材からシリカエアロゲル多孔質層まで順に小さくなっており、広い波長範囲の幅広い入射角の光線に対して優れた反射防止特性を有するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−215542号公報
【特許文献2】特開2010−38948号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「第35回光学シンポジウム予稿集」、(社)応用物理学会分科会 日本光学会主催、2010年7月、P67−P70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に開示の反射防止膜では、光線の入射角が30度の場合に、波長範囲400nm〜700nmの光線に対して、1%以下の反射率を達成しているものの更なる低反射性が求められる。また、近年の光学機器に使用されるレンズ等においては、光線入射角が30度以上になることがあり、また、波長範囲がより広帯域化しているため、当該反射防止膜ではより広い波長範囲及びより広い入射角の光線に対して、十分な反射防止効果を得ることができず、ゴースト等の発生を十分に抑制できないことが想定される。更に、メソポーラスナノシリカ多孔質層を形成する際に、300℃以上で焼成処理を施す必要があり、基材の形状や特性に熱による影響を与える可能性がある。
【0009】
また、特許文献2に開示の反射防止膜では、表層をシリカエアロゲル多孔質層としているが、緻密層としてのSiO2層の表面に、屈折率が1.15となるようにシリカエアロゲル多孔質層を形成した場合、シリカエアロゲル本来の特性により、実用上の耐久性が得られないという課題がある。また、シリカエアロゲルは水分を吸着した場合に構造変化を起こす。このため、水分の吸着を防止するため、シリカエアロゲルをフッ化物で疎水処理した場合、シリカエアロゲル多孔質層の屈折率が増加する。そこで、例えば、シリカエアロゲル多孔質層を形成する際にバインダを用いて、シリカエアロゲル同士を結着した場合、実用上の耐久性を有するには、屈折率1.25程度になることが報告されている(例えば、「非特許文献1」参照)。
【0010】
そこで、本件発明は、広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有し、且つ、実用上十分な耐久性を有する反射防止膜及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の反射防止膜及び光学素子を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0012】
本件発明に係る反射防止膜は、基材上に設けられる反射防止膜であって、基材上に設けられる中間層と、当該中間層の表面に設けられる低屈折率層とから成る光学的二層構造を有し、当該低屈折率層は中空シリカがバインダにより結着された層であり、その屈折率(n1)は1.15以上1.24以下であり、当該中間層の屈折率(n2)は、基材の屈折率をn(sub)とした場合、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
【0013】
【数1】
【0014】
本件発明に係る反射防止膜において、低屈折率層内の前記空隙を形成するため前記中空シリカが占める体積は、30体積%以上99体積%以下であることが好ましい。この場合において、中空シリカが占める体積とは、低屈折率層内において、中空部を含む中空シリカ球の全体が占める体積を意味する。ここで、当該低屈折率層内における中空シリカが占める体積は、90体積%以下であることがより好ましく、60体積%以上であると更に好ましい。
【0015】
本件発明に係る反射防止膜において、前記低屈折率層内には、前記中空シリカ内の中空部以外の空隙部が存在することが好ましい。
【0016】
本件発明に係る反射防止膜において、中空シリカ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下であり、中空シリカ粒子の外側はバインダにより被覆されていることが好ましい。
【0017】
本件発明に係る反射防止膜において、前記低屈折率層の屈折率(n1)は、1.17以上1.23以下であることが好ましい。
【0018】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中間層の屈折率(n2)は、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0019】
【数2】
【0020】
本件発明に係る反射防止膜において、 前記低屈折率層の光学膜厚は、100nm以上180nm以下であることが好ましい。
【0021】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中間層の光学膜厚は、100nm以上180nm以下であることが好ましい。
【0022】
本件発明に係る反射防止膜において、前記中間層は、設計中心波長において前記式(1)の関係を満たす複層構造の等価膜であってもよい。ここで、設計中心波長は、400nm〜700nmの範囲内で定めた任意の波長とすることができる。
【0023】
本件発明に係る反射防止膜において、前記低屈折率層は、中空シリカと、バインダ成分として樹脂材料又は金属アルコキシドとを用いて形成された層であることが好ましい。
【0024】
本件発明に係る反射防止膜において、入射角0度の波長400nm以上800nm以下の光に対する反射率が0.5%以下であり、入射角45度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対する反射率が0.7%以下であることが好ましい。
【0025】
本件発明に係る反射防止膜において、前記低屈折率層の表面に、屈折率(n3)が1.30以上2.35以下であり、且つ、膜厚が1nm以上30nm以下の機能層を設けてもよい。
【0026】
本件発明に係る反射防止膜において、前記基材は、光学素子基材であることが好ましい。
【0027】
本件発明に係る光学素子は、上記記載の反射防止膜を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本件発明によれば、中空シリカをバインダにより結着して成る屈折率が1.10以上1.24以下の低屈折率層と、基材の屈折率をn(sub)とした場合、式(1)の関係を満たす広い屈折率n(2)を有する中間層との二層構造から成る反射防止膜とすることにより、広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有し、且つ、実用上十分な耐久性を有する反射防止膜を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本件発明に係る反射防止膜の層構成を示す模式図である。
【図2】低屈折率層の構成材料である中空シリカの構造を示す模式図(a)と、低屈折層の構成を示す模式図(b)である。
【図3】本件発明に係る反射防止膜の低屈折率層の表面を示すSEM写真(a)及び反射防止膜の断面を示すSEM写真(b)である。
【図4】実施例1で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図5】実施例2で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図6】実施例3で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図7】実施例4で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図8】実施例5で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図9】実施例6で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図10】実施例7で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図11】実施例8で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図12】実施例9で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図13】実施例10で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図14】比較例1で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図15】比較例2で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【図16】比較例3で製造した反射防止膜の反射特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る反射防止膜及び光学素子の実施の形態を説明する。
【0031】
1.反射防止膜10
まず、図1を参照して本件発明に係る反射防止膜10の構成を説明する。本件発明に係る反射防止膜10は、基材20上に設けられる反射防止膜10であって、基材20上に設けられる中間層11と、当該中間層11の表面に設けられる低屈折率層12とから成る光学的二層構造を有し、当該低屈折率層12は中空シリカ(中空シリカ粒子)13がバインダ14により結着された層であり、その屈折率(n1)は1.15以上1.24以下であり、当該中間層11の屈折率(n2)は、基材20の屈折率をn(sub)とした場合、下記式(1)の関係を満たすことを特徴としている。すなわち、本件発明に係る反射防止膜10は、表層としての低屈折率層12と、表層と基材20との間に配置される中間層11とから成る光学的二層構造を主たる光学的構成としており、当該二層構造から成る反射防止膜としてもよいし、当該反射防止膜の表面に当該反射防止膜の反射防止効果を妨げない範囲で後述する機能層16を設けてもよい。
【0032】
【数3】
【0033】
(1)光学的二層構造による反射防止効果
まず、光学的二層構造による反射防止効果について説明する。一般に、表層に配置される低屈折率層12の屈折率をn(1)、基材20と表層との間に配置される中間層11の屈折率をn(2)、基材20の屈折率をn(sub)とした場合に、中間層11の屈折率n(2)が下記式(3)の関係を満たす場合に、当該反射防止膜10では、設計中心波長(400nm〜700nmの範囲で定めた任意の波長)の入射光に対する反射率が最低値を示すことが知られている。
【0034】
【数4】
【0035】
しかしながら、低屈折率層12の屈折率n(1)及び基材20の屈折率n(sub)に対して、中間層11の屈折率n(2)を式(3)の関係を満たすようにした場合、上記設計中心波長の入射光に対する反射率は最低値を示すが、入射光の波長が設計中心波長から離れるにつれてその反射率はU字カーブ状に増加する。従って、反射防止膜10の中間層11の屈折率n(2)を上記式(3)に従って光学設計を行ったのでは、入射光の波長範囲が広い場合にその入射光の波長域全域に渡って反射防止効果を発揮することはできない。そこで、本件発明に係る反射防止膜10では、低屈折率層12の屈折率n(1)及び基材20の屈折率n(sub)に対して中間層11の屈折率n(2)が上記式(1)の関係を満たすようにすることにより、設計中心波長の入射光に対する反射率は式(1)に従う場合よりも若干高くなるが、波長域全体でみた場合に、その全域において要求されるレベル以下の反射率を達成することを可能とした。すなわち、式(1)の関係を満たすように中間層11の屈折率n(2)を光学設計することにより、入射光の波長範囲が広帯域に亘る場合であっても、入射光の波長域全域において低い反射率を達成することを可能とした。
【0036】
本件発明において、より広い波長範囲の入射光に対して、その波長域全域でより低い反射率を達成するには、中間層11の屈折率(n2)は、下記式(2)を満たすことがより好ましい。
【0037】
【数5】
【0038】
(2)低屈折率層12
次に、上記光学的二層構造の表層を成す低屈折率層12について説明する。まず、低屈折率層12の屈折率について説明する。低屈折率層12の屈折率は、上記の通り、1.15以上1.24以下であることが要求される。当該範囲内の屈折率を有する低屈折率層12を表層とし、式(1)を満たす屈折率n(2)を有する中間層11を基材20上に設けることにより、初めて当該光学的二層構造を有する反射防止膜10を広い波長範囲の光線に対する反射防止効果の高いものとすることができる。
【0039】
低屈折率層12の屈折率を1.15未満にした場合、中空シリカ13をバインダ14により被覆し、且つ、中空シリカ13をバインダ14により被覆した状態で十分に結着することができなくなる。従って、低屈折率層12の屈折率が1.15未満の場合、低屈折率層12の機械的強度や耐久性が低下するため、好ましくない。当該観点から、低屈折率層12の屈折率は1.17以上であることがより好ましい。一方、低屈折率層12の屈折率が1.24を超える場合は、設計中心波長における反射率が高くなるため好ましくない。従って、当該観点から、低屈折率層12の屈折率は上記範囲内において低い方が好ましく、1.23以下であることがより好ましい。
【0040】
ここで、低屈折率層12は、上述した通り、中空シリカ13がバインダ14により結着された層であり、中空シリカ13とバインダ14とを含む複合層である。また、本件発明において、中空シリカ13とは、バルーン構造(中空構造)を有するシリカ粒子を指す。すなわち、図2(a)に模式的に示すように、中空シリカ13は、シリカから成る外殻部13aと、この外殻部13aに囲まれた中空部13bとから構成される。本件発明では、低屈折率層12の構成成分として、中空部13bを有する中空シリカ13を主たる成分として採用することにより、低屈折率層12の屈折率をシリカ自体の屈折率(1.48)よりも低減することができる。また、粒子内に細孔を多数有する多孔質シリカの集合体から構成された低屈折率層12等に比して、図2(b)に示すように、中空シリカ13をバインダ14により結着した層とすることにより、低屈折率層12の屈折率を上述した範囲内とした場合であっても、当該低屈折率層12の機械的強度や耐久性を維持することができる。
【0041】
また、低屈折率層12内には、図2(b)及び図3(a)、(b)に示すように、中空シリカ13の中空部13b以外の空隙部15が存在することが好ましい。低屈折率層12内に、中空シリカ13内の中空部13b以外の空隙部15が存在することにより、低屈折率層12の屈折率をシリカ自体の屈折率よりも更に低減することができる。これにより、低屈折率層12の屈折率を上記範囲内において更に低い値とすることができる。なお、図3(a)、(b)において、無数に観察される球状の粒子がバインダ14により被覆された中空シリカ13である。
【0042】
低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積は、30体積%以上99体積%以下であることが好ましい。ここでいう中空シリカ13が占める体積とは、低屈折率層12において、中空シリカ13の外殻部13aと、この中空部13aに囲まれる中空部13bとを含む中空シリカ球の全体積を意味する。低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積が30体積%未満である場合、低屈折率層12の耐久性が低下するため好ましくない。また、中空シリカ13の占める体積が30体積%未満である場合、低屈折率層12においてバインダ14が占める体積率が増加する。その結果、低屈折率層12の屈折率を上記範囲内の値になるようにすることが困難になる場合がある。これらの観点から、低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積は60体積%以上であるとより好ましい。一方、低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積が99体積%を超える場合、中空シリカ13同士を結着するバインダ14が占める体積比が低く、中空シリカ13同士を十分に結着することができず、低屈折率層12を形成することが困難になる。また、中空シリカ内の中空以外の空隙部15を所有することができない。中空シリカ13同士を十分に結着し、低屈折率層12内に存在する空隙部15の比率を増加させるという観点から、低屈折率層12において中空シリカ13が占める体積は90体積%以下であることがより好ましい。
【0043】
また、本件発明において、中空シリカ13はバインダ14によりその外側が被覆されていることが好ましい。中空シリカ13の外側がバインダ14により被覆された状態で、中空シリカ13同士が互いにバインダ14を介して結着されることにより、中間層11との密着性が増す他、低屈折率層12の耐久性も向上する。また、中空シリカ13の外側をバインダ14により被覆することにより、中空シリカ13内の中空部13bや、低屈折率層12内の空隙部15に対して、水や他の液体が吸着するのを抑えることができる。
【0044】
中空シリカ(中空シリカ粒子)13の平均粒径は、5nm以上100nm以下であることが好ましい。5nm未満であると、低屈折率層12内に中空シリカ13の中空部13b以外の空隙部15を設けることが困難になる。一方、中空シリカ13の平均粒径が100nmを超える場合、光の散乱(ヘイズ)が発生する。この場合、当該中空シリカ13を用いた反射防止膜10は、撮像素子に要求される反射防止性能を満たすことができず、好ましくない。
【0045】
一方、バインダ成分としては、樹脂材料又は金属アルコキシドを採用することができる。樹脂材料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等或いはこれらの単量体化合物を挙げることができる。これらの樹脂材料は紫外線硬化性、常温硬化性、又は熱硬化性の化合物であることが好ましく、特に紫外線硬化性又は常温硬化性の化合物であることが好ましい。樹脂基材等の熱膨張係数の高い基材20を用いる場合に、熱処理を行わなくとも低屈折率層12の形成が可能であれば、基材20の熱膨張変形を防止することができる。具体的な層形成方法として、例えば、これらの材料と、中空シリカ13とを混合して、必要に応じて重合開始剤や架橋剤等を添加し、溶剤等により適切な濃度に希釈して塗布液を調製し、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法等の湿式法を採用することができる。これらの方法により中間層11の表面に塗布液を適切な厚みとなるように塗布し、その後、紫外線効果、或いは熱処理を施すことなどにより重合架橋して、溶媒を揮発させること等により低屈折率層12を形成することができる。
【0046】
また、金属アルコキシドを溶媒に溶解または懸濁して、ゾルを形成し加水分解・重合によりゲルが生成される材料であることが好ましく、例えば、アルコキシシラン又はシルセスキオキサン等の加水分解・重合によりシリカゲルが生成される材料を用いることが好ましい。これらの材料と、中空シリカ13とを、溶媒に溶解又は懸濁してゾルゲル剤を調製し、中間層11の表面にゾルゲル剤をスプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、バーコート法等により塗布し、加水分解により中空シリカを含むゲルを作成し、溶媒を揮発させること等により、低屈折率層12を形成することができる。
【0047】
また、低屈折率層12の光学膜厚は、100nm以上180nm以下の範囲内であることが好ましい。但し、光学膜厚とは、当該層の屈折率×物理膜厚(nm)により得られる値を指す(以下、同じ)。低屈折率層12の光学膜厚が100nm未満である場合や180nmを超える場合、希望する反射防止としての位相変化を得ることが出来ないため、好ましくない。
【0048】
低屈折率層12を形成する際に溶媒を揮発、硬化させるときなどに熱処理を行う場合には、熱処理温度は90℃以上200℃以下で行うことが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。例えば、樹脂基材等の熱膨張係数の比較的高い材料から成る基材20を用いる場合でも、当該温度範囲で行う熱処理であれば、基材20の熱膨張変形を防止することができる。なお、熱処理に関しては、中間層11の形成時においても同様である。また、熱処理を行う際には、比熱の高い基材が多いため、基材に対して均一に加熱を行なうにはホットプレートのような熱伝導を利用する手法よりも、クリーンオーブンやイナートガスオーブンのような基材全体を加熱する手法がより好ましい。
【0049】
(3)中間層11
次に、中間層11について説明する。中間層11の屈折率n(2)は、上述した通り、式(1)の関係を満たすことが好ましく、式(2)の関係を満たすことがより好ましい。中間層11は、式(1)、好ましくは式(2)の関係を満たす屈折率を有すればよく、無機材料、有機材料、或いは、無機・有機混合材料を用いて形成することができる。無機材料としては、例えば、MgF2、SiO2、Al2O3、Nb2O5、Ta2O5、TiO2、La2O3及びTiO2の混合物、HfO2、SnO2、ZrO2、ZrO2及びTiO2の混合物、Pr6O11及びTiO2の混合物、Al2O3及びLa2O3の混合物、La2O3などを用いることができる。また、有機材料としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、PMMA樹脂、但し、光学薄膜50を構成する材料はこれらに限定されるものではない。また、当該光学薄膜50の厚み等は、反射防止性能を発揮する上で、適宜、適切な値とすることができる。中間層11は、これらの材料を用いて、湿式成膜法、真空成膜法、プラズマCVD法、原子層堆積法(ALD法)等により形成することができる。
【0050】
中間層11は、当該式(1)若しくは、式(2)に示す範囲内の屈折率を有する光学的な一層である。当該中間層11は、光学的な観点から一層であればよく、物理的な観点から一層であってもよいし、設計中心波長において前記式(1)の関係を満たす複層構造を有する等価膜であってもよい。ここで、設計中心波長は、400nm〜700nmの範囲内で定めた任意の波長とすることができる。
【0051】
等価膜として、例えば、Herpin行列で与えられる3層等価膜、膜厚が1Å(オングストローム)〜200Åの極薄い膜を基材20面に対して多層に積層した混合膜、多源成膜法により形成した混合膜等が挙げられる。例えば、3層等価膜として、2種類の安定な蒸着物質を用いて上記Herpin行列により与えられる屈折率、位相角を満たす等価的な対称3層膜を挙げることができる。また、極薄い膜を多層に積層した混合膜は、株式会社シンクロンの光学スパッタ装置RASなどを用いて製造することができる。また、多源成膜法により混合膜を形成する場合には、例えば、神港精機株式会社製の多源成膜スパッタ装置などを用いて、異なる材料から成る蒸発源を2源以上用意して、これらの複数の蒸発源を用いて同時に成膜することにより、混合膜を形成することができる。
【0052】
本件発明に係る反射防止膜10において、中間層11の光学膜厚は、100nm以上180nm以下であることが好ましい。中間層11の光学膜厚が当該範囲外である場合には、いずれの場合も、中間層11の屈折率が上記式(1)、或いは式(2)の範囲内であっても、要求される反射防止効果を得ることができず、好ましくない。また、中間層11を上述した等価膜に置換した場合、当該等価膜全体の光学膜厚が100nm以上180nm以下であることが求められる。
【0053】
(4)機能層16
本件発明においては、図1に示すように、低屈折率層12の表面に、屈折率(n3)が1.30以上2.35以下であり、且つ、膜厚が1nm以上30nm以下の機能層16を設けてもよい。本件発明に係る反射防止膜10は、基材20上に設けられる中間層11と、この中間層11の表面に設けられる低屈折率層12とから成る光学的二層構造を反射防止機能に関する主たる構成としている。機能層16は、この中間層11と低屈折率層12とから成る光学的二層構造により得られる反射防止効果に光学的な影響を与えない透明な極薄い膜であって、反射防止膜10の表面の硬度、耐擦傷性、耐熱性、耐候性、耐溶剤性、撥水性、撥油性、防曇性、親水性、耐防汚性、導電性等の向上等の機能を有する層を指す。
【0054】
ここで、機能層16の屈折率(n3)が1.30以上2.35以下であって、且つ、膜厚が1nm以上30nm以下であれば、上記光学的二層構造による反射防止効果に対する光学的な影響を無視することができる。屈折率が上記範囲を超える場合、当該反射防止膜10の反射防止特性に光学的に影響を及ぼす恐れがある。また、膜厚が1nm未満であると、機能層16を設けても期待される機能を発揮することができず好ましくない。また、膜厚が30nmを超える場合、屈折率が上記範囲内であっても、当該反射防止膜10の反射防止特性に光学的な影響を及ぼす恐れがあるため、好ましくない。これらの観点から機能層16の膜厚は、5nm以上10nm以下であることがより好ましい。
【0055】
機能層16を構成する材料としては、屈折率が1.30以上2.35以下の透明材料を用いることができる。屈折率が当該範囲内であって透明な材料であれば、反射防止膜10の表面に付与すべき機能に応じて、適宜適切な材料を選択すればよい。例えば、屈折率が当該範囲内の透明な無機材料として、SiOxNy/SiO2/SiOx/Al2O3/ZrO2とTiO2との混合物/La2O3とTiO2との混合物/SnO2/ZrO2/La2O3とAl2O3との混合物/Pr2O5/ITO(酸化インジウムスズ)/AZO(酸化亜鉛アルミニウム)などを挙げることができる。また、DLC(ダイアモンドライクカーボン)/HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)/エポキシ系の樹脂/アクリル系の樹脂(特に、PMMA樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂)/フッ素系の樹脂等を用いることができる。また、これらの材料を含む各種ハードコート剤を用いてもよい。機能層16の形成に際しては、材料及び膜厚に応じて適宜、適切な成膜方法を採用することができる。
【0056】
機能層16を低屈折率層12の表面に設ける場合、低屈折率層12の光学膜厚と機能層16の光学膜厚とを合計した全光学膜厚が100nm以上180nm以下とすることが求められる。この範囲を超えると、当該反射防止膜10の反射防止効果が低下する場合があり好ましくない。
【0057】
(5)基材20
本件発明に係る反射防止膜10において、当該反射防止膜10が設けられる基材20として光学素子基材20を用いることができる。光学素子基材20は、ガラス製であってもよいし、プラスチック製であってもよく、その材質に特に限定はない。例えば、レンズ、プリズム(色分解プリズム、色合成プリズム等)、偏光ビームスプリッター(PBS)、カットフィルタ(赤外線用、紫外線用等)など各種の光学素子基材20を用いることができる。ここで、樹脂基材や熱膨張係数の高いガラス基材20を用いる場合には、上記反射防止膜10の製造工程において、熱処理を行う場合には、熱処理温度は90℃以上200℃以下で行うことが基材20の熱膨張変形等を防止する点から好ましい。
【0058】
(6)反射率
以上の構成を有する反射防止膜10では、入射角0度以上50度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対して、1%以下の反射率を達成することができる。より具体的には、入射角0度の波長400nm以上800nm以下の光に対する反射率を0.5%以下、入射角0度以上45度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対する反射率を0.7%以下にすることができる。更に、具体的には、入射角0度の波長400nm以上700nm以下の光に対する反射率を0.3%以下、入射角0度以上45度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対する反射率を0.5%以下とすることができる。
【0059】
2.光学素子
本件発明に係る光学素子は、上記記載の反射防止膜10を備えることを特徴とする。光学素子としては、撮影光学素子や投影光学素子を挙げることができ、具体的には、レンズ、プリズム(色分解プリズム、色合成プリズム等)、偏光ビームスプリッター(PBS)、カットフィルタ(赤外線用、紫外線用等)などを挙げることができる。また、レンズとして、例えば、一眼レフカメラの交換レンズやデジタルカメラ(DSC)に搭載されるレンズ、携帯電話機に搭載されるデジタルカメラ用のレンズ他、各種のレンズが挙げられる。
【0060】
以上説明した上記実施の形態によれば、既に述べた通り、本件発明に係る反射防止膜10は広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して、優れた反射防止特性を有する。
【0061】
また、本件発明に係る反射防止膜10は基材20上に設けられる中間層11と、中間層11の表面に設けられる低屈折率層12との光学的二層構造を主たる構成とし、且つ、中間層11が有するべき屈折率n(2)を低屈折率層12の屈折率n(1)と、基材20の屈折率n(sub)とを用いて、式(1)若しくは式(2)に従って簡易に光学設計することができる。
【0062】
また、本件発明に係る反射防止膜10では、中間層11を、設計中心波長(例えば、400nm〜700nmの範囲内で定めた任意の波長)において前記式(1)の関係を満たす複層構造の等価膜とすることができる。このため、基材20の屈折率n(sub)と、低屈折率層12の屈折率n(1)とに応じて、最適な屈折率n(2)を有する中間層11を適宜適切な材料を用いて形成することができる。このため、上記広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して、優れた反射防止特性を有する本件発明に係る反射防止膜10を光学設計通りに製造することが容易である。
【0063】
以上説明した本実施の形態は、本件発明に係る反射防止膜10及び光学素子の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能であるのは勿論である。また、以下、実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
実施例1では、SCHOTT AG社(ショット社)製のN−LAK14ガラス製のレンズを用いた。基材20の表面に、表1に示す構成の反射防止膜10を設けた。具体的には、基材20の表面にSiO2からなる中間層11を真空蒸着法により、株式会社シンクロン社製のBMC1300を用いて90nmの厚みで形成した。但し、この中間層11は、中空シリカ13を用いて形成したものではなく、SiO2蒸着層である(以下、SiO2と単に表記した場合は、中空構造を有しないSiO2を指す)。
【0065】
そして、この中間層11の表面に、溶剤に中空シリカ13とバインダ成分としてのアクリル樹脂を溶解、懸濁、調整した塗工液を用いて、スピンコート法によりミカサ社製のMS−A150を用いて成膜し、クリーンオーブンにて90℃、120秒加熱(プレベーキング)した後、150℃1時間加熱(ポストベーキング)して溶媒の揮発、硬化を行なった結果、中空シリカ13がバインダ14としてのアクリル樹脂で結着して成る低屈折率層12を121nmの厚みで形成した。
【0066】
但し、本実施例1では、プロピレングリコールモノメチルエーテルとプロピレングリコールを主成分ととした溶剤に粒子径が約60nmの中空シリカ粒子とアクリル樹脂を溶解、懸濁した塗工液を使用した。また、この溶液の濃度を溶剤にて希釈することにより所望の膜厚を得ることができる。また、この塗工液中のアクリル樹脂成分の濃度を調整することにより低屈折率層の屈折率を1.15〜1.24の範囲で適宜所望の屈折率となるように調整することができる。
【0067】
表1に実施例1で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12の屈折率及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.40≦n(2)≦1.49の範囲内の値であることが好ましい。表1に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.46であった。
【0068】
【表1】
【実施例2】
【0069】
実施例2では、実施例1と同じ基材20を用いて、中間層11を物理膜厚89nm、光学膜厚134nmのPMMA樹脂層とした以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。中間層11は、プロピレングリコールモノメチルアセテートを溶媒とするアクリル樹脂を溶解した塗工液を用いてスピンコート法により、基材20上にPMMA樹脂膜を成膜した。表2に実施例2で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。表2に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.50であった。
【0070】
【表2】
【実施例3】
【0071】
実施例3では、実施例1と同じ基材20を用いて、中間層11として3層等価膜を採用した以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。本実施例における三層等価膜の構成は、表3に示す通りである。また、3層等価膜を成膜する際には、シンクロン社製のBMC1300を用いて、真空蒸着法により各層がそれぞれ表3に示す膜厚になるように成膜した。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。表3に示されている中間層11の3層等価膜の実効屈折率n(2)は1.50であった。
【0072】
【表3】
【実施例4】
【0073】
実施例4では、実施例1と同じ基材20を用いて、中間層11として3層等価膜を採用した以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。本実施例における三層等価膜の構成は表4に示す通りである。また、当該三層等価膜全体の物理膜厚は89nmであり、光学膜厚は136nmである。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.51≦n(2)≦1.60の範囲内の値であることが好ましい。表4に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.53であった。
【表4】
【実施例5】
【0074】
実施例5では、基材20として合成石英(SiO2)から成るレンズを用いた。基材20の表面に、表5に示す構成の反射防止膜10を設けた。具体的には、基材20の表面にMgF2から成る中間層11を真空蒸着法により90nmの厚みで形成した。そして、この中間層11の表面に、実施例1と同様にして中空シリカ13をアクリル樹脂で結着して成る低屈折率層12を114nmの厚みで形成した。表5に実施例5で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.36≦n(2)≦1.44の範囲内の値であることが好ましい。表5に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.38であった。
【0075】
【表5】
【実施例6】
【0076】
実施例6では、実施例5と同じ基材20を用いて、中間層11を物理膜厚89nm、光学膜厚134nmの中空シリカを配合したPMMA樹脂層とした以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。中間層11は東京応化工業社製のアクリル樹脂(TMR−C006)と中空シリカ溶液を混合させた物を塗工液として用いてスピンコート法により、基材20上に中空シリカを配合したPMMA樹脂膜を成膜した。低屈折率層12より塗工液中のアクリル樹脂成分の濃度を高くすることで、当該塗工液を用いて形成した層の屈折率を1.25より高い屈折率(1.54まで)を自由に調整することができる。そして、実施例5と同様にして、中間層11の表面に低屈折率層12を形成した後、この低屈折率層12の表面に機能層16として、パーフルオロアルキルから成る撥水層を、株式会社シンクロン社製BMC1300を用いて、真空蒸着法により、1nmの厚みで形成した。ここで、低屈折率層12の光学膜厚と、機能層の光学膜厚とを合わせると、131nmであった。表6に実施例6で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.31≦n(2)≦1.39の範囲内の値であることが好ましい。表6に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.36であった。
【0077】
【表6】
【実施例7】
【0078】
実施例7では、実施例5と同じ基材20を用いて、実施例5と同じ層構成を有する反射防止膜10を作製した後、低屈折率層12の表面に機能層16として、SiO2から成る保護層をシンクロン社製のBMC1300を用いて真空蒸着法により4.5nmの厚みで形成した。表7に実施例7で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。ここで、低屈折率層12の光学膜厚と、保護層の光学膜厚とを合わせると、129nmであった。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.36≦n(2)≦1.44の範囲内の値であることが好ましく、実施例5と同様である。また、実際の中間層11の屈折率n(2)についても1.38であり、実施例5と同じである。
【0079】
【表7】
【実施例8】
【0080】
実施例8では、実施例1〜実施例7で用いた基材20と比較すると屈折率の高い基材20を用いた。具体的には、HOYA株式会社製のE−FDS1ガラス製の屈折率n(sub)=1.92のレンズを用いた。そして、この基材20の表面に、表8に示す構成の反射防止膜10を設けた。具体的には、基材20の表面に、中間層11として、SiO2層と、Nb2O5層と、SiO2層とからなる三層等価膜を、株式会社シンクロン社製RAS1100を使用してラジカル・アシステッド・スパッタリング法により成膜した。そして、この三層等価膜から成る中間層11の表面に、実施例1と同様にして、中空シリカ13をバインダ14としてのアクリル樹脂で結着して成る低屈折率層12を形成した。表8に実施例8で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、この三層等価膜から成る中間層11の屈折率n(2)は、1.55≦n(2)≦1.64の範囲内の値であることが好ましい。表8に示されている中間層11の3層等価膜の実効屈折率n(2)は1.57である。また、当該三層等価膜全体の物理膜厚は77nmであり、光学膜厚は120nmである。
【0081】
【表8】
【実施例9】
【0082】
実施例9では、実施例8と同様に、実施例1〜実施例7で用いた基材20と比較すると屈折率の高い基材20を用いた。具体的には、HOYA株式会社製のE−FDS1ガラス製の屈折率n(sub)=1.92のレンズを用いた。そして、この基材20の表面に、表9に示す多層構造の反射防止膜10を設けた。具体的には、基材20の表面に、中間層11として、極薄膜のSiO2層を成膜した後、極薄膜のNb2O5層を成膜しこれを10回繰り返すことによりSiO2層とNb2O5層とが交互に積層した多層構造の混合膜である等価膜を、実施例8において三層等価膜を成膜した方法と同様のRAS法により成膜した。そして、この多層構造の混合膜から成る中間層11の表面に、実施例1と同様にして、中空シリカ13をバインダ14としてのアクリル樹脂で結着して成る低屈折率層12を形成した。表9に実施例9で製造した反射防止膜10の層構成と、各層の屈折率を示す。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、この多層等価膜から成る中間層11の屈折率n(2)は、1.55≦n(2)≦1.64の範囲内の値であることが好ましい。表9に示されている中間層11の混合等価膜の実効屈折率n(2)は1.60であった。また、当該多層等価膜全体の物理膜厚は80nmであり、光学膜厚は125nmである。
【0083】
【表9】
【実施例10】
【0084】
実施例10では、実施例3と同じ基材20を用いて、中間層11としての3層等価膜の屈折率を変更した以外は、実施例1と同様にして、基材20上に反射防止膜10を作製した。本実施例における三層等価膜の構成は、表10に示す通りである。また、3層等価膜の屈折率を変更する際には、各層がそれぞれ表10に示す膜厚になるように成膜した。また、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。表1に示す通り、本実施例では中間層11の屈折率n(2)は1.52であった。
【0085】
【表10】
【比較例】
【0086】
[比較例1]
次に、比較例1の反射防止膜10を説明する。比較例1では、実施例1と同じ基材を用いた。この基材20の表面に、Al2O3層と、ZrO2層と、MgF2層との三層を積層して成る反射防止膜を形成した。各層の形成に際しては、それぞれシンクロン社製のBMC1300を用いて、真空蒸着法により所定の厚みになるまで成膜した。表11に比較例で製造した反射防止膜の層構成と、各層の屈折率を示す。
【0087】
【表11】
【0088】
[比較例2]
次に、比較例2の反射防止膜を説明する。比較例2では、実施例2と同じ基材を用いた。この基材の表面に、中間層としてAl2O3層と、中空シリカを含む低屈折率層を積層して成る反射防止膜を形成した。中間層の形成に際しては、シンクロン社製のBMC1300を用いて、真空蒸着法により所定の厚みになるまで成膜した。表12に比較例で製造した反射防止膜の層構成と、各層の屈折率を示す。ここで、本比較例2において、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。しかしながら、本比較例2では、中間層の屈折率n(2)を、この式(1)の範囲の上限値を超えた屈折率(n(2)=1.63)を有する層とした。
【0089】
【表12】
【0090】
[比較例3]
次に、比較例3の反射防止膜を説明する。比較例3では、実施例2と同じ基材を用いた。この基材の表面に、中間層としてMgF2層と、中空シリカを含む低屈折率層を積層して成る反射防止膜を形成した。中間層の形成に際しては、シンクロン社製のBMC1300を用いて、真空蒸着法により所定の厚みになるまで成膜した。表13に比較例で製造した反射防止膜の層構成と、各層の屈折率を示す。ここで、本比較例2において、式(1)と、低屈折率層12及び基材20の屈折率n(1)、n(sub)とに基づけば、中間層11の屈折率n(2)は、1.45≦n(2)≦1.54の範囲内の値であることが好ましい。しかしながら、本比較例3では、中間層の屈折率n(2)を、この式(1)の範囲の下限値よりも低い屈折率(n(2)=1.38)を有する層とした。
【0091】
【表13】
【0092】
[評価]
1.反射率
次に、上記実施例1〜実施例9で得られた各反射防止膜10と、比較例の反射防止膜10の反射防止特性について評価する。反射率の測定に際しては、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U4000を用いた。反射防止膜10に対する光線の入射角を0度、30度、45度、50度及び60度とし、各入射角において入射光の波長域を400nmから800nmの範囲で測定した。実施例1〜実施例10で製造した反射防止膜10の反射率の測定結果を図4〜図14に示す。また、入射光の波長域が400nm〜680nm、400nm〜700nm、400nm〜850nmである場合において、それぞれの波長域における反射率の最大値を表14及び表15に示す。実施例1〜実施例9で製造した反射防止膜10では、いずれも入射角0度において波長が400nm〜800nmの範囲の光線に対する反射率は0.5%以下であった。また、入射角が0度の場合、波長が 400nm〜700nmの範囲の光線に対して、本件発明に係る反射防止膜10の実施例1、2、6では、0.3%以下の反射率を実現することができた。さらに、実施例1〜実施例10で製造した各反射防止膜10では、入射角0度〜45度において、波長が400nm〜700nmの範囲の光線に対する反射率は0.7%以下であった。更に、入射角0度〜50度において、波長が400nm〜680nmの範囲の光線に対する反射率は、1%以下であった。
【0093】
ここで、実施例3で製造した反射防止膜10と、実施例10で製造した反射防止膜10とは、各層を構成する材料は同じであるが、中間層11の屈折率n(2)が異なっている。すなわち、実施例3で製造した反射防止膜10の中間層11の屈折率n(2)はより好ましい範囲を示す式(2)を満たすが、実施例10で製造した反射防止膜10の中間層11の屈折率n(2)は式(1)を満たすに留まる。その結果、実施例10で製造した反射防止膜10は、実施例3で製造した反射防止膜10に対して、低反射率を達成している帯域が狭い。具体的には、図6に示すように、入射角50°の光線に対して反射率が1%以下の波長範囲は、実施例3では400〜700nmであった。これに対して、図14に示すように、実施例10で製造した反射防止膜10では、入射角50°の光線に対して反射率が1%以下の波長範囲は、400〜680nmであった。このように、中間層11の屈折率n(2)が式(2)を満たす方が広い入射角範囲の光線に対して低反射を実現することができ、より好ましいと言える。
【0094】
これに対して、図15に示すように、比較例1で製造した反射防止膜10では、入射角が0度である場合には、400nm〜700nmの波長の光線に対する反射率を概ね0.5%以下とすることができるが、入射角が30度の場合は、0.5%以下の反射率を維持可能な波長域は、400nm〜660nm程度の範囲であった。入射角が45度を超えると、ほぼ全ての波長の光線に対する反射率は概ね0.5%以上であり、1%以下の反射率を維持可能な波長域は、400nm〜620nm程度の範囲であった。また、比較例2及び比較例3においても、中間層の屈折率n(2)が上記式(1)の範囲を超える場合は、いずれも入射角が増加するにつれて、低反射率を達成可能な帯域が狭く、広い入射角範囲の光線に対して低反射を実現することができなかった。
【0095】
【表14】
【0096】
【表15】
【0097】
以上説明したように、本件発明に係る反射防止膜10は、中間層11の屈折率n(2)を表層である低屈折率層12の屈折率n(1)と、基材20の屈折率n(sub)とに基づいて、式(1)或いは式(2)が示す範囲内の値となるようにすることにより、広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止特性を有することが確認された。
【0098】
2.耐久性
また、表層を不織布で複数回擦ってみたところ、表層が剥離することもなく、実用上、十分な耐久性を維持していることについても確認された。
【0099】
更に、本件発明に係る反射防止膜10を有するレンズを高温高湿試験(60℃、90%RH、240h)、高温試験(80℃、240H)、低温試験(−40℃、240H)を実施した結果、分光反射率や外観の変化がなく耐久性を有していることについて確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本件発明に係る反射防止膜は、広い波長範囲及び広い入射角範囲の光線に対して優れた反射防止効果を有するため、入射する光線の波長範囲の広い光学機器や、曲率の高いレンズ等を使用する光学機器等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
10・・・反射防止膜
11・・・中間層
12・・・低屈折率層
13・・・中空シリカ
14・・・バインダ
20・・・基材
30・・・機能層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられる反射防止膜であって、
基材上に設けられる中間層と、当該中間層の表面に設けられる低屈折率層とから成る光学的二層構造を有し、
当該低屈折率層は中空シリカがバインダにより結着された層であり、その屈折率(n1)は1.15以上1.24以下であり、
当該中間層の屈折率(n2)は、当該基材の屈折率をn(sub)とした場合、下記式(1)の関係を満たすこと、
を特徴とする反射防止膜。
【数1】
【請求項2】
前記低屈折率層において前記中空シリカが占める体積は、30体積%以上99体積%以下である請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
前記低屈折率層内には、前記中空シリカ内の中空部以外の空隙部が存在する請求項1又は請求項2に記載の反射防止膜。
【請求項4】
中空シリカ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下であり、中空シリカ粒子の外側はバインダにより被覆されている請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項5】
前記低屈折率層の屈折率(n1)は、1.17以上1.23以下である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項6】
前記中間層の屈折率(n2)は、下記式(2)を満たす請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【数2】
【請求項7】
前記低屈折率層の光学膜厚は、100nm以上180nm以下である請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項8】
前記中間層の光学膜厚は、100nm以上180nm以下である請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項9】
前記中間層は、設計中心波長において前記式(1)の関係を満たす複層構造の等価膜である請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項10】
前記低屈折率層は、中空シリカと、バインダ成分として樹脂材料又は金属アルコキシドを用いて形成された層である請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項11】
入射角0度の波長400nm以上800nm以下の光に対する反射率が0.5%以下であり、入射角45度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対する反射率が0.7%以下である請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項12】
前記低屈折率層の表面に、屈折率(n3)が1.30以上2.35以下であり、且つ、膜厚が1nm以上30nm以下の機能層を備える請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項13】
前記基材は、光学素子基材である請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載の反射防止膜を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項1】
基材上に設けられる反射防止膜であって、
基材上に設けられる中間層と、当該中間層の表面に設けられる低屈折率層とから成る光学的二層構造を有し、
当該低屈折率層は中空シリカがバインダにより結着された層であり、その屈折率(n1)は1.15以上1.24以下であり、
当該中間層の屈折率(n2)は、当該基材の屈折率をn(sub)とした場合、下記式(1)の関係を満たすこと、
を特徴とする反射防止膜。
【数1】
【請求項2】
前記低屈折率層において前記中空シリカが占める体積は、30体積%以上99体積%以下である請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
前記低屈折率層内には、前記中空シリカ内の中空部以外の空隙部が存在する請求項1又は請求項2に記載の反射防止膜。
【請求項4】
中空シリカ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下であり、中空シリカ粒子の外側はバインダにより被覆されている請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項5】
前記低屈折率層の屈折率(n1)は、1.17以上1.23以下である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項6】
前記中間層の屈折率(n2)は、下記式(2)を満たす請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【数2】
【請求項7】
前記低屈折率層の光学膜厚は、100nm以上180nm以下である請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項8】
前記中間層の光学膜厚は、100nm以上180nm以下である請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項9】
前記中間層は、設計中心波長において前記式(1)の関係を満たす複層構造の等価膜である請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項10】
前記低屈折率層は、中空シリカと、バインダ成分として樹脂材料又は金属アルコキシドを用いて形成された層である請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項11】
入射角0度の波長400nm以上800nm以下の光に対する反射率が0.5%以下であり、入射角45度以下の波長400nm以上680nm以下の光に対する反射率が0.7%以下である請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項12】
前記低屈折率層の表面に、屈折率(n3)が1.30以上2.35以下であり、且つ、膜厚が1nm以上30nm以下の機能層を備える請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項13】
前記基材は、光学素子基材である請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の反射防止膜。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載の反射防止膜を備えることを特徴とする光学素子。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図3】
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【図16】
【図3】
【公開番号】特開2012−215790(P2012−215790A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91705(P2011−91705)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】
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