反復的オリゴヌクレオチド合成のための組成物、方法、および検出技術
本発明は、ポリヌクレオチド配列上の反復的酵素的オリゴヌクレオチド合成事象を介して複数の検出可能なオリゴヌクレオチドを産出し、前記産物を検出することによって、目的とする分子の存在を検出するための方法を提供する。本発明はまた、多重不完全転写の方法を提供する。さらなる態様では、本発明は、不完全プロモーターカセットを含有するデンドリマーの使用を提供する。一態様では、本発明は、本発明で使用するのに適した不完全プロモーターカセットを提供する。一態様では、不完全転写の産物は、質量分析を用いて検出される。別の態様では、本発明は、質量分析によるものを含めて検出される不完全転写によって、複数の検出可能なRNAオリゴリボヌクレオチドを産出することによって、標的タンパク質、DNA、またはRNAを検出するための方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、不完全転写開始を介する核酸鋳型上での反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを生じることによって、目的とする分子を検出することに関する。オリゴヌクレオチドの複数のコピーは、質量分析を含めた方法を介して検出され、ターゲット分子の存在および/または特定の特性を示す。本発明の方法は、病原体、毒素、タンパク質、核酸、突然変異、癌状態、あるいは他の分子、疾患、または状態を検出するために使用できる。
【0002】
関連技術
核酸増幅産物の検出のための様々な方法の開発は、近年、核酸配列の検出、同定、および定量化を進歩させてきた。核酸検出は、質的および量的分析のために潜在的に有用である。例えば、核酸検出は、病原体を検出および特定する;明らかにされた表現型と関連付けられる、遺伝的および後成的な変化を検出する;遺伝病、あるいは特定の疾患に対する遺伝的罹患性を診断する;発症中の、疾患における、かつ/または、薬物を含めた定義された刺激に応答する、遺伝子発現を評価する;また、細胞の活性を強化する分子および生化学的機構を研究するさらなる手段を研究者に提供することによって、通常、当分野の進歩を促進するために使用できる。
【0003】
非常に様々な核酸検出技術が開発され、そのうちのいくつかは、試験サンプル中の低レベルの標的核酸の存在を検出するための適切な手段として進歩してきた。こうした方法のあるカテゴリは、標的増幅と通常呼ばれ、これは、標的配列の複数のコピーを生じ、その後、これらのコピーは、例えばゲル電気泳動などによって、さらなる分析を受ける。他の方法は、例えば、ハイブリッド形成されたプローブを切断して複数の産物を形成することによって、あるいは、隣接するプローブを連結して、固有の、ハイブリッド形成依存の産物を形成することによって、ハイブリッド形成されたプローブからの複数の産物を生じる。さらに他の方法、例えば、標的配列結合ドメインおよび標識されたレポーティング(reporting)配列結合ドメインを有する分枝DNAプローブのハイブリッド形成に基づく方法などは、ハイブリッド形成事象により生じるシグナルを増幅する。
【0004】
等温標的核酸増幅を含めて、当技術分野で知られた標的核酸増幅の多くの方法が存在し、これは、例えば、正常および異常な遺伝子の検出だけでなく、病原体(細菌、ウイルス、および真菌など)の迅速かつ正確な検出のための需要を満たすために開発されている。こうした技術がすべて、サンプル中の微細な量の標的核酸の検出および同定のための強力なツールを提供する一方、これらはすべて、様々な問題を持っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、低レベルのターゲット分子を検出できる、迅速で、感度が高く、かつ標準化された核酸シグナル検出法が必要である。
【0006】
こうしたニーズ、ならびに他のニーズは、本出願の本発明によって適えられる。不完全転写の方法は、2002年10月29日に出願され、2003年5月8日に国際公開第03/038042号パンフレットとして公開された、国際特許出願PCT/US02/34419号明細書;2001年10月30日に出願され、米国出願公開番号US−2003−0099950として2003年5月29日に公開された、米国特許出願第09/984,664号明細書;および2003年4月29日に出願され、米国出願公開番号US−2004−0054162−A1として2004年3月18日に公開された、係属中の米国特許出願第10/425,037号明細書(これらはすべて、その内容全体を参照により本明細書に組み込む)に記載されている。
【0007】
不完全転写は、他の方法に対するいくつかの利点を提供する。この方法は、比較的単純であり、ほとんどステップを必要とせず、等温で、かつ安価な試薬を用いて実施することができ、迅速であり、非常に感度が高く、かつ、別の条件と容易に適合する。増幅される核酸は、目的とする実際のターゲット分子である必要がない。どちらかと言えば、増幅された核酸は、不完全転写を介する核酸増幅を最終的に必要とするステップを使用して検出されるものとして、例えば、タンパク質、核酸、または目的とする他のターゲット分子の存在を示す可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数のオリゴヌクレオチド転写産物を産生することによって、核酸鋳型上での反復的合成事象を介して、ターゲット分子(核酸配列またはタンパク質など)の存在を検出するための方法を提供する。複数のオリゴヌクレオチド転写産物は、FRETを含めた様々な手段を介して、放射性同位元素的に、比色定量的に、酵素的に、また質量分析的に検出できる。質量分析は「標識されていない」分子を検出することができ、迅速で、感度が高く、かつ正確である。
【0009】
一般に、質量分析は、真空中で分子をイオン化し、それらを揮発によって、「飛ばす」ことによって、個々の分子を「秤量する」手段を提供する。電場と磁場の組み合わせの影響を受けて、イオンは、その個々の質量(m)および電荷(z)に応じた軌道に従う。質量分析は、親の分子イオンの質量の測定によって、有機分子の分析および特徴付けるために使用されている。さらに、この親の分子イオンの他の粒子(例えばアルゴン原子)との衝突を仕組むことによって、分子イオンは、分裂し、いわゆる衝突誘起解離(CID)によって、二次イオンが形成される。分裂パターン/経路により、しばしば、詳細な構造情報を引き出すことができる。質量分析方法は、「Methods of Enzymology」、第193巻にまとめて示されているのを見ることができる:「Mass Spectrometry」(J.A.マクロスキー(J.A.McCloskey)、編集)1990年、アカデミックプレス、ニューヨーク(Academic Press、New York)。
【0010】
高い検出感受性、質量測定の精度、MS/MS構造および速度と関連するCIDによる詳細な構造情報、ならびにコンピュータへのオンライン・データ転送を提供する際の質量分析の分析上の利点のため、核酸の構造分析のための質量分析の使用に対しては、かなりの関心が存在していた。この分野をまとめて示している最近の総説には、K.H.シュラム(K.H.Schram)、「Mass Spectrometry of Nucleic Acid Components、Biomedical Applications of Mass Spectrometry」34、203〜287頁(1990年);およびP.F.クライン、「Mass Spectrometric Techniques in Nucleic Acid Research」、「Mass Spectrometry Reviews」9、505〜554頁(1990年)、および米国特許第6,602,662号明細書が含まれる。
【0011】
質量分析検出は通常、親の分子イオンの質量を決定し、これを介して、既に知られているオリゴヌクレオチド配列を確認することによる、あるいは、特に、高速原子衝撃(FAB質量分析)またはプラズマ脱離(PD質量分析)の方法を、イオン化および揮発のために利用する、MS/MS構造における、CIDを介する二次イオン(フラグメントイオン)の産生を介して、知られている配列を確認することによる、低分子量の合成オリゴヌクレオチドに限られている。一例として、オリゴデオキシヌクレオチドの化学合成のための防護された二量体ブロックの分析に対するFABの適用が記載されている(ヴォルター(Wolter)ら、「Biomedical Environmental Mass Spectrometry 14」、111〜116頁(1987年))。
【0012】
より最近の2つのイオン化/脱離技術は、エレクトロスプレー/イオンスプレー(ES)およびマトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)である。
【0013】
エレクトロスプレーイオン化およびマトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析は、それによってサンプルが、第一に分子量情報を取り出すために分析されるような、「ソフト(soft)」イオン化技術である。
【0014】
エレクトロスプレーイオン化は、大抵の小さい有機分子ならびにタンパク質および他の高分子量生体分子の質量測定に等しく適している。一般に、陽イオン化エレクトロスプレーは、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、ならびにアミンおよび正電荷を持つことができる他の官能基を含有する小分子の分析のために使用される。陰イオン化エレクトロスプレーは、オリゴヌクレオチド、糖類、ならびに酸性官能基および負電荷を持つことができる他の基を含有する小さい有機分子の分析のために使用される。
【0015】
エレクトロスプレーイオン化を用いると、サンプルは、溶液で質量分析計に導入され、したがって、この技術は、HPLCまたはCZEと直接結びつけられる可能性があり、すべての成分についての分子量情報を提供するオンラインクロマトグラフィデータを産生し、したがって、オフラインの分離、それに続く個々の画分の単離および分析の必要性が回避される。ES/EIS質量分析に関するさらなる考察については、例えば、ヤマシタ(Yamashita)ら(「J.Phys.Chem.」88、4451〜59頁(1984年)、PCT出願国際公開第90/14148号パンフレット)を参照のこと。現在の適用は、最近の総説(例えば、R.D.スミス(R.D.Smith)ら、「Anal.Chem.」62、882〜89頁(1990年)およびB.アードレイ(B.Ardrey)、「Electrospray Mass Spectrometry、Spectroscopy Europe」4、10〜18頁(1992年))にまとめて示されている。テトラデカヌクレオチド(コヴィー(Covey)ら、「The Determination of Protein、Oligonucleotide and Peptide Molecular Weights by lonspray Mass Spectrometry、Rapid Communications in Mass Spectrometry、2、249〜256頁(1988年))、また、21−mer(Methods in Enzymology、193、「Mass Spectrometry」(マクロスキー(McCloskey)編)p.425、1990年、アカデミックプレス(Academic Press)、ニューヨーク(New York)の分子量が決定されている。質量アナライザーとしては、四重極が、最も頻繁に使用される。フェムトモル量のサンプルにおける分子量の測定は、複数のイオンピーク(すべてを、質量算出のために使用できる)の存在のため、非常に正確である。
【0016】
対照的に、飛行時間型の(time−of−flight)(TOF)構成が、質量アナライザーとして使用される場合、MALDI質量分析は、特に魅力的であり得る。MALDI−TOF質量分析は、ヒレンカンプ(Hillenkamp)らによって導入された(「Matrix Assisted UV−Laser Desorption/lonization:A New Approach to Mass Spectrometry of Large Biomolecules」、Biological Mass Spectrometry(バーリンゲーム(Burlingame)およびマクロスキー(McCloskey)編)、エルゼビアサイエンス出版(Elsevier Science Publishers)、アムステルダム(Amsterdam)、49〜60頁、1990年)。ほとんどの場合、この技術(質量スペクトル)を用いると、複数の分子イオンピークは原則として生じないので、ES質量分析と比較してより単純に見える。
【0017】
異なるサイズのDNAを分析するために、様々な質量分析技術が使用された(ネルソン(Nelson)ら、「Volatilization of High Molecular Weight DNA by Pulsed Laser Ablation of Frozen Aqueous Solutions」、Science、246、1585〜87頁(1989年);ヘース−フェーレ(Huth−Fehre)ら、Rapid Communications in Mass Spectrometry、6、209〜13頁(1992年);K.タン(K.Tang)ら、Rapid Communications in Mass Spectrometry、8、727〜730頁(1994年);ウィリアムス(Williams)ら、「Time−of Flight Mass Spectrometry of Nucleic Acids by Laser Ablation and Ionization from a Frozen Aqueous Matrix」、Rapid Communications in Mass Spectrometry、4、348〜351頁(1990年))。特願昭59−131909号公報は、電気泳動、液体クロマトグラフィ、または高速ゲル濾過のいずれかにより分離された核酸フラグメントを検出する機器を記載している。質量分析検出は、DNA中に通常存在しない原子(S、Br、IまたはAg、Au、Pt、Os、Hgなど)を核酸に組み込むことによって達成される。
【0018】
本出願に引用または特定されたすべての文書または刊行物は、その内容全体を本明細書に組み込むものとする。これは、各々の個別文書が、具体的かつ別々に、その内容全体を引用されることを示すのと同じことである。
【0019】
発明の概要
本発明は、標的分子を検出するための、ポリヌクレオチド鋳型上の反復的オリゴヌクレオチド合成反応を介して、複数の検出可能なシグナルを産生するための方法および組成物を提供する。ただし、前記シグナルは、質量分析を用いることによって検出される反復的オリゴヌクレオチド転写産物である。本発明はまた、反復的合成の適用および検出方法を提供する。本発明の方法およびキットの適用には、突然変異および一塩基多型、RNA分子、病原体の検出、ならびに前癌性または癌性の突然変異および条件の検出が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0020】
一態様では、本発明は、DNAまたはRNAポリヌクレオチドから複数の反復されるオリゴヌクレオチドを検出するための方法を提供する。複数の反復されるオリゴヌクレオチド転写産物が産生される鋳型は、標的分子であってもなくてもよい。この方法は、以下を含む:(a)一本鎖の標的ポリヌクレオチドを、イニシエーター、ポリメラーゼ、および任意選択でさらなるリボヌクレオチド、および任意選択で標的部位プローブ、および任意選択で鎖終結ヌクレオチドと共にインキュベートすること;(b)前記標的ポリヌクレオチドから複数のオリゴヌクレオチドを合成すること(ここで、前記ターミネーターが、前記オリゴヌクレオチドに組み込まれ、それによって、複数の反復的オリゴヌクレオチドを合成するまで、前記イニシエーターは、延長される);および(c)目的とするポリヌクレオチドの前記反復的オリゴヌクレオチド転写産物を、質量分析を用いて検出または定量化すること(ここで、合成される前記オリゴヌクレオチドは、約2〜約26ヌクレオチド、約26〜約50ヌクレオチド、および約50ヌクレオチド〜約100ヌクレオチド、および100超ヌクレオチドからなる群から選択される長さのものである。
【0021】
上記方法のさらなる改変は、2003年5月8日に公開された国際公開第03/038042号パンフレット、および2003年5月29日に公開された米国出願公開US2003−0099950号明細書に記載されており、これらを両方とも、その内容全体を参照により本明細書に組み込む。こうした改変には、これらに限定されないが、以下が含まれる:メチル化されていないシトシン残基がウラシル残基に転換されるのに対し、メチル化されたシトシン残基はウラシルに転換されないような条件下で、一本鎖標的DNA配列を脱アミノ化するステップなどの、さらなるステップの使用;捕捉プローブまたは固定化配列の使用;一塩基多型およびメチル化の変化を検出する標的部位プローブ、イニシエーターなどの改変;不完全プロモーターカセットの使用;複数の標的部位プローブ、イニシエーターなどの使用;様々な反応条件、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、標識などの使用;改変されたヌクレオチド、ヌクレオシド;および本発明のキット。
【0022】
一実施形態では、本発明は、標的分子の存在を検出するための方法であって、(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成することと、(b)質量分析によって前記標的分子の存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出することとを含む方法を含む。別の実施形態では、前記複数のコピーのオリゴヌクレオチドの分子量および/または存在量もまた、決定される。
【0023】
一実施形態では、標的分子は、核酸鋳型を含む。別の実施形態では、標的分子は、前記核酸鋳型とは異なる。不完全転写はまた、不完全プロモーターカセットから生じることもできる。
【0024】
一実施形態では、本発明は、不完全プロモーターカセットを含む。ある種の不完全プロモーターカセットの種類の説明および特定の実施例もまた、提供される。関連する実施形態では、本発明は、不完全転写のためのこうした不完全カセットを使用する方法および関連する方法を含む。
【0025】
こうした不完全プロモーターカセットは、ある実施形態では、標的分子に対する特異性をもつ、以下からなる群から選択される第2の分子に連結させることができる:DNA配列、RNA配列、PNA(タンパク質核酸)配列、抗体、結合タンパク質、情報伝達分子、ハプテン、ビオチン、結合ヌクレオシド、結合ヌクレオチド、酵素基質、酵素基質誘導体、およびイオン。
【0026】
一実施形態では、本発明は、イニシエーターおよびポリメラーゼと共に鋳型ポリヌクレオチドをインキュベートすること;前記鋳型ポリヌクレオチドから複数のオリゴヌクレオチドを合成すること(ここで、前記イニシエーターは、転写が終結し、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が合成されるまで、延長される);質量分析によって、前記複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物の分子量および/または存在量を決定し、それによって、前記標的ポリヌクレオチドの存在を検出すること、を含む標的分子の存在を検出するための方法を含む。
【0027】
本発明の方法のある実施形態では、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物は、改変されたヌクレオチドをさらに含む。他の実施形態では、この方法は、イニシエーター、ポリメラーゼ、ターミネーター、および標的部位プローブと共に、前記標的ポリヌクレオチドをインキュベートすることをさらに含む。こうした標的部位プローブは、例外もあるが、以下からなる群から選択される大きさであり得る:約20〜約50のヌクレオチド、約51〜約75のヌクレオチド、約75〜約100のヌクレオチド、および100超ヌクレオチド。
【0028】
ある実施形態では、標的ポリヌクレオチドは、DNAであり、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物は、RNAを含む。
【0029】
標的分子の性質はまた、変化させることもできる。ある実施形態では、この方法は、以下からなる群から選択される標的分子を含む:タンパク質、核酸、RNA、DNA、炭水化物、脂質、抗原、ハプテン、およびイオン。
【0030】
ある実施形態では、本発明は、病原体を検出するための方法を提供する。他の実施形態では、方法は、以下からなる群から選択される生物由来の分子を検出する方法を含む:HIV−1;HIV−2;HIV−LP;ポリオウイルス;A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス;ヒトコクサッキーウイルス;ライノウイルス;エコーウイルス;カルシウイルス科(Calciviridae);トガウイルス科;ウマ脳炎ウイルス;風疹ウイルス;フラウイルス科(Flaviridae);デング熱ウイルス;脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス;コロナウイルス科;SARS;ラブドウイルス科;水疱性口内炎ウイルス;狂犬病ウイルス;フィロウイルス科(Filoviridae);エボラウイルス;パラミクソウイルス科;パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス;オルソミクソウイルス科;インフルエンザウイルス;ブニヤウイルス科;ハンターンウイルス;ブニヤウイルス、フレボウイルス(phlebovirus);ナイロウイルス(Nairovirus);アレナウイルス科;レオウイルス科;レオウイルス;オルビウイルス;ロタウイルス;ビルナウイルス科(Birnaviridae);ヘパドナウイルス科;B型肝炎ウイルス;パルボウイルス科;パポバウイルス科、パピローマウイルス;ポリオーマウイルス;アデノウイルス科;ヘルペスウイルス科;HSV 1;HSV 2;水痘帯状疱疹ウイルス;サイトメガロウイルス(CMV);ポックスウイルス科;痘瘡ウイルス;ワクシニアウイルス;イリドウイルス科;アフリカブタコレラウイルス;C型肝炎;ノーウォークウイルスヘリコバクターピロリ、ボレリアブルグドルフェリ(Borelia burgdorferi)、レジオネラニューモフィリア(Legionella pneumophilia)、結核菌、鳥型結核菌(M.avium)、M.イントラセルラール(M.intracellulare)、M.カンサイ(M.kansaii)、M.ゴルドナエ(M.gordonae)、黄色ブドウ球菌、淋菌、髄膜炎菌、リステリア菌、化膿連鎖球菌(A群連鎖球菌)、ストレプトコッカスアガラクティエ(B群連鎖球菌)、連鎖球菌(ビリダンス群)、糞便連鎖球菌、ストレプトコッカスボビス、連鎖球菌(嫌気性種)、肺炎連鎖球菌、病原性カンピロバクター種、腸球菌種、インフルエンザ菌、炭疽菌(Bacillus antracis)、ジフテリア菌(corynebacterium diphtheriae)、コリネバクテリウム種、豚丹毒菌、ウェルシュ菌(Clostridium perfringers)、破傷風菌、エンテロバクターエロゲネス、肺炎桿菌、パスツレラムルトシダ(Pasturella multocida)、バクテロイデス種、フゾバクテリウムヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ストレプトバシラスモニリフォルミス(Streptobacillus moniliformis)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidium)、フランベジアトレポネーマ、レプトスピラ、イスラエル放線菌(Actinomyces israelli);クリプトコッカスネオフォルマンス、ヒストプラスマカプスラーツム、コクシジオイデスイミティス、ブラストミセスデルマティティディス、クラミジアトラコマチス、鵞口瘡カンジダ;熱帯熱マラリア原虫;およびトキソプラズマ原虫。こうした分子は、例えば、DNA、RNA、タンパク質、毒素、炭水化物、脂質、抗原またはハプテンである可能性がある。
【0031】
本発明はまた、癌、DNAメチル化、突然変異、疾患を検出するための方法であって、(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成することと、(b)質量分析によって前記標的分子の存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出することとを含む方法を含む。別の実施形態では、前記複数のコピーのオリゴヌクレオチドの分子量および存在量もまた決定される。
【0032】
本発明はまた、RNA発現を検出および定量化するための方法を含む。
【0033】
それだけには限らないが、高速原子衝撃(FAB)質量分析、プラズマ脱離(Pd)質量分析、エレクトロスプレー/イオンスプレー(ES)質量分析、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析、および飛行時間型分析法の(MALDI−TOF)マトリクス支援レーザー脱離/イオン化を含めた様々な質量分析方法を、本発明の方法に従って使用できる。
【0034】
本発明はまた、組成物を含む。一実施形態では、本発明は、1つ以上の不完全プロモーターカセットに連結されたデンドリマーを含む。一実施形態では、前記デンドリマーに連結された複数の不完全プロモーターカセットは、同一である。別の実施形態では、前記デンドリマーに連結された複数の不完全プロモーターカセットは、同一でない。
【0035】
さらなる実施形態では、本発明は、目的とする標的分子に対する特異性をもつ第2の分子とさらに連結される1つ以上の不完全プロモーターカセットに連結されたデンドリマーを含む。こうした第2の分子は、以下からなる群から選択することができる:DNA配列、RNA配列、PNA配列、抗体、結合タンパク質、情報伝達分子、ハプテン、ビオチン、結合ヌクレオシド、結合ヌクレオチド、酵素基質、酵素基質誘導体、およびイオン。
【0036】
ある実施形態では、本発明は、1つ以上の不完全プロモーターカセットに連結されたデンドリマーを含有するキットを含む。別の実施形態では、本発明は、本発明の方法を実施するための組成物または装置である。
【0037】
ある実施形態では、本発明は、核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成することと;不完全な反復的に合成された転写産物の前記複数のコピーをシグナル増幅カスケードに導入することと;前記シグナルカスケードからシグナルの存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出することを含む、標的分子の存在を検出するための方法を含む。シグナルカスケードには、それだけには限らないが、以下が含まれる:PCR、不完全転写、FRET、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、および合成された転写産物により誘発されるシグナルの他の酵素的増幅。
【0038】
別の実施形態では、本発明は、1つ以上の標的分子の存在を検出するための方法であって、核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成することと;核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介して、オリゴヌクレオチドの複数のコピーの1つ以上の異なる合成を同時に実施することと;前記の1つ以上の標的分子の存在を決定することを含む方法を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、核酸鋳型上での反復的合成を介して、質量分析を用いて検出される複数のオリゴヌクレオチドを産生することによって、標的分子(核酸配列またはタンパク質など)の存在を検出するための方法を提供する。この方法は通常、標的核酸上の部位に実質的に相補的である不完全オリゴヌクレオチド産物の合成を開始するために、ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド転写イニシエーターを使用することと;重合反応を終結させること(例えばヌクレオチド剥奪、鎖終結ヌクレオチドの組み込みによって、あるいは鋳型配列中の転写終結シグナルの存在を介して);および、任意選択で、以下のいずれかを使用することを含む:(1)一本鎖標的部位の両側に二本鎖セグメントを含む転写バブル(bubble)複合体を形成する標的部位プローブ、または(2)標的部位を含む転写バブル領域を含む不完全プロモーターカセット、または(3)任意の標的分子に付着され、その後、シグナルを産生するために使用される、不完全プロモーターカセット。シグナルは、質量分析によって検出される複数のオリゴヌクレオチド転写産物を含む。
【0040】
一態様によれば、本発明は、標的DNAまたはRNA配列の一部からの複数の不完全オリゴヌクレオチド転写産物を使用して、標的分子を検出する方法を提供する。ただし、この方法は、以下を組み合わせて反応させることを含む:(a)少なくとも1つの標的部位を含む一本鎖標的核酸;(b)標的部位の上流である標的核酸上の部位と相補的であるRNAイニシエーター;(c)RNAポリメラーゼ;(d)任意選択で、ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド類似体;(e)鎖ターミネーター;および(f)任意選択で、以下のいずれか:(1)標的核酸上の標的領域と部分的にハイブリッド形成し、一本鎖標的部位の両側の第1および第2の二本鎖領域を含めた転写バブル複合体を形成する標的部位プローブ、または(2)転写開始点を含む転写バブル領域を含む不完全プロモーターカセット。この組み合わせを、以下の結果となるように、後述するように、適切な条件にかける:(a)標的部位プローブが、標的部位を含む標的領域中の標的核酸とハイブリッド形成する;(b)RNAイニシエーターが、標的部位の上流とハイブリッド形成する;(c)RNAポリメラーゼが、標的部位で転写を開始するために、RNAイニシエーターを利用し、伸長が起こり、オリゴヌクレオチド転写産物が合成される;(d)鎖ターミネーターが、伸長中の転写を終結させる;(e)RNAポリメラーゼが、ポリメラーゼ結合部位から実質的に転位置せず、鋳型から分離もせずに、短い不完全オリゴヌクレオチド転写産物を放出する;および(f)十分なシグナルが産生されるまで、(c)〜(e)が繰り返されて、反応が、停止されることとなる。あるいは、(a)不完全プロモーターカセットが、標的核酸の末端とハイブリッド形成する;(b)RNAイニシエーターが、転写開始点の上流とハイブリッド形成する;(c)RNAポリメラーゼが、標的部位で転写を開始するために、RNAイニシエーターを利用し、伸長が起こり、オリゴヌクレオチド転写産物が、合成される;(d)鎖ターミネーターが、伸長中の転写を終結させる;(e)RNAポリメラーゼは、ポリメラーゼ結合部位から実質的に転位置せず、鋳型から分離もせずに、短い不完全オリゴヌクレオチド転写産物を放出する;および(f)十分なシグナルが産生されるまで、(c)〜(e)が繰り返されて、反応が、停止されることとなる。
【0041】
このようにして産生される複数のオリゴヌクレオチド転写産物、すなわちシグナルは、質量分析によって検出および定量化され、標的分子の存在を示す。ある態様では、本発明の方法はまた、標的分子の性質または標的分子のプールの性質を示すことができる。
【0042】
一般的な技術
本発明の実施は、別段の指示がない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、細菌学、細胞生物学、生化学、および免疫学の従来の技術(これらはすべて、当分野の通常の医師の技能の範囲内である)を使用する。
【0043】
用語
本発明の理解を容易にするために、別段の記述がない限り、以下の用語は、以下の意味を有する。本明細書で使用される用語の多くのさらなる詳細は、2003年5月8日に公開された国際公開第03/038042号パンフレットおよび2003年5月29日に公開された米国出願公開第US2003−0099950号明細書;ならびに2003年4月29日に出願の係属中の米国特許出願第10/425,037号明細書で見ることができる。
【0044】
本明細書では、「約」は、「約」と称される数が、その列挙された数のプラスまたはマイナス1〜10%の数を含むことを意味する。例えば、「約」50ヌクレオチドは、状況に応じて、45〜55ヌクレオチドまたはより狭い範囲の49〜51ヌクレオチドを意味することができる。
【0045】
「不完全転写(Abortive transcription)」は、相補的な核酸鋳型配列の少なくとも1つの部分、即ち標的部位に相当するオリゴヌクレオチドの合成を反復的に開始および終結させる、酵素仲介型のプロセスである。合成される不完全オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドの長さが様々であり、約2〜約26ヌクレオチド、約26〜約50ヌクレオチド、約50ヌクレオチド〜約100ヌクレオチド、および100超のヌクレオチドを含有する可能性がある。
【0046】
「不完全転写」には、3つの段階(すなわち、開始(initiation)、伸長および終結が含まれ得る。開始段階中、ポリメラーゼは、イニシエーターと第2のNTPとの間のリン酸ジエステル結合を形成し、次いで、それに続くNTPなどを付加し、鋳型配列を転写して長さ約2〜約50ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド転写産物を合成し、次いで、ポリメラーゼ結合部位から実質的に移動することもなく、鋳型から分離することもなく、新生のオリゴヌクレオチド転写産物を放出することによって、転写事象を終結する。言い換えれば、RNAポリメラーゼは、実質的に鋳型上の最初の結合部位にとどまり、第1の新生のオリゴヌクレオチド転写産物を放出し、続いて、別の転写開始事象に従事して、第1のオリゴヌクレオチド転写産物を産生するために転写されたのと実質的に同じ標的部位と実質的に相補的である第2のオリゴヌクレオチド転写産物を産生できる。このように、ポリメラーゼは、鋳型(すなわち標的領域)の単一の部分を反復的に転写し、実質的に同一の新生のオリゴヌクレオチド転写産物の複数のコピーを放出する。
【0047】
「反復的」は、目的とする配列の、複数の同一または非常に類似しているコピーを指す。
【0048】
「オリゴヌクレオチド産物」は、本発明の反復的合成反応により合成されるオリゴヌクレオチドを指す。オリゴヌクレオチド産物は、重合反応がRNAポリメラーゼによって触媒される転写反応である場合、「オリゴヌクレオチド転写産物」であり得、重合反応がテロメラーゼまたはDNAポリメラーゼによって触媒されるDNA合成反応である場合、「オリゴヌクレオチドリピート」であり得る。用語「オリゴヌクレオチド」は一般に、2つ以上のヌクレオチドからなり、通常、必ずしも必要ではないが、長さが約200ヌクレオチド未満である、一般的に一本鎖の短い合成ポリヌクレオチドを意味する。
【0049】
「終結」は、ポリメラーゼによって触媒される鎖伸長またはプライマー伸張反応を終えるための、鎖ターミネーターの使用を指す。「鎖ターミネーター」またはターミネーター」は、開始および/または伸長段階を超えるとポリメラーゼによる転写の継続を阻害する、任意の化合物、組成物、複合体、反応物、反応条件、または(化合物、反応物、または反応条件を妨害することを含めて)プロセスを含むことができる。「鎖終結ヌクレオチド」は、一旦組み込まれると、そのヌクレオチド類似体の構造あるいは複製または転写される核酸の配列のいずれかに起因して、それ以上の鎖伸長を阻害する、ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む鎖ターミネーターである。
【0050】
「標的配列」または「標的ポリヌクレオチド」は、検出、特徴付け、または定量化が所望される、目的とするポリヌクレオチド配列である。標的配列の実際のヌクレオチド配列は、既知であっても既知でなくてもよい。「標的配列」は、目的とする実際の分子であってもなくてもよい。
【0051】
「標的部位」は、ポリメラーゼによる転写によって検出されてオリゴヌクレオチド産物を形成する、標的配列の部分である。本発明によれば、標的核酸上には少なくとも1つの標的部位が存在する。標的部位の配列は、詳細に知られていても知られていなくてもよい。すなわち、標的核酸の実際の遺伝的配列は、知られている可能性があるのに対して、ポリメラーゼによって、転写または複製される特定の標的部位の遺伝的配列は、知られている必要はない。
【0052】
以下に詳細に記述されるように、「標的領域」は、標的部位プローブが、部分的にハイブリッド形成してバブル複合体を形成する、標的配列の部分である。本発明によれば、標的核酸上には、少なくとも1つの標的領域が存在し、各々の標的領域は、標的部位を含む。標的領域の配列は、相補的な標的部位プローブの、十分に厳密な(stringent)ハイブリッド形成を可能にし、その結果、標的部位プローブが、標的領域とバブル複合体を形成することが、十分に詳細に知られている。
【0053】
通常、「鋳型」は、標的ヌクレオチド配列を含有するポリヌクレオチドである。ある場合には、用語「標的配列」「鋳型ポリヌクレオチド」「標的核酸」「標的ポリヌクレオチド」「核酸鋳型」「鋳型配列」およびそれらの変形は、同義的に使用される。具体的には、用語「鋳型」または「鋳型鎖」は、その上で、鋳型依存性の核酸ポリメラーゼの活性を介して、相補的なコピーが、ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体から合成される、核酸の鎖を指す。
【0054】
「ヌクレオチド」には、シトシン(C)、チミン(T)、およびウラシル(U)、アデニン(A)、およびグアニン(G)ヌクレオチド、および類似体が含まれる。
【0055】
用語「イニシエーター」は、新生のRNA分子の5’末端に組み込まれ、RNA合成のための「プライマー」(「イニシエータープライマー」)とみなすことができる、モノヌクレオシド、モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはその類似体を意味する。
【0056】
「組み込み」は、核酸ポリマーの一部になることを指す。核酸前駆体の組み込みに関する用語には、既知の柔軟性(known flexibility)がある。例えば、ヌクレオチドdGTPは、デオキシリボヌクレオシド三リン酸である。DNAへの組み込み時、dGTPは、dGMP、すなわちデオキシグアノシン一リン酸部分になる。DNAには、dGTP分子は含まれないが、dGTPをDNAに組み込むと言うことはできる。
【0057】
「同一性」または「同一の」は、当分野で一般に理解される通りに、本明細書で使用される。例えば、基準ヌクレオチド配列に対して例えば少なくとも95%「同一の」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、目的とする領域にわたって、そのポリヌクレオチド配列が、基準ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドにつき最高5つまでのミス一致を含むことができることを除いて、基準配列と同一であるということを意味する。言い換えれば、基準ヌクレオチド配列に対して少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るためには、基準配列中のヌクレオチドの最高5%は、欠損させることが可能である、あるいは、別のヌクレオチドで置換させることができる、あるいは、基準配列中の全ヌクレオチドの5%までのいくつかのヌクレオチドを、基準配列に挿入させることができる。基準(QUERY)配列は、示される完全なヌクレオチド配列またはその任意のポリヌクレオチドフラグメントであり得る。
【0058】
実際には、例えば、任意の特定の核酸分子が、該ヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるかどうかということは、通常、Bestfitプログラムなどの既知のコンピュータプログラムを使用して決定できる(ウィスコンシン配列分析パッケージ(Wisconsin Sequence Analysis Package)、Unix(登録商標)用バージョン8(Version 8 for Unix(登録商標))、Genetics Computer Group、ユニバーシティリサーチパーク(University Research Park)、575 サイエンスドライブ(Science Drive)、ウィスコンシン州マディソン(Madison、WI)53711)。Bestfitは、スミスおよびウォーターマン(Smith and Waterman)の「Advances in Applied Mathematics 2」:482〜489頁、1981年の局所的相同性アルゴリズム(local homology algorithm)を使用して、2つの配列との間の最高の相同性のセグメントを見つける。特定の配列が、本発明による基準配列に対して例えば95%同一であるかどうか決定するために、Bestfitまたは他の任意配列アラインメントプログラムを使用する場合、パラメータは、当然、同一性の割合が、基準ヌクレオチド配列の全長にわたって算出され、かつ、基準配列中のヌクレオチドの合計の最高5%までの相同性のギャップが可能になるようにセットされる。
【0059】
基準(QUERY)配列(本発明の配列)と対象配列(グローバル配列アラインメントとも呼ばれる)との間の同一性はまた、Brutlagらのアルゴリズム(Comp.App.Biosci.6:237〜245頁(1990年))に基づくFASTDBコンピュータプログラムを使用して決定できる。同一性(%)を算出するための、DNA配列のFASTDBアラインメントに使用される好ましいパラメータは、以下の通りである:Matrix=Unitary、k−tuple=4、ミス一致ペナルティ(Mismatch Penalty)=1、Joining Penalty=30、Randomization Group Length=0、Cutoff Score=1、ギャップペナルティ(Gap Penalty)=5、Gap Size Penalty 0.05、ウィンドウサイズ(Window Size)=500または主題ヌクレオチド配列の長さ(いずれか短い方)。この実施形態によれば、対象配列が、内部の欠損のためではなく、5’または3’欠損のために、QUERY配列よりも短い場合、同一性(%)を算出する場合に、FASTDBプログラムが、対象配列の5’および3’切断を考慮しないという事実を考慮するために、その結果に対して、手動補正を行う。QUERY配列に対して5’または3’末端で切断された対象配列については、同一性(%)は、対象配列の5’および3’で一致/整列されていないQUERY配列の塩基の数を、QUERY配列の全塩基の割合として算出することによって補正される。ヌクレオチドが一致/整列されているかどうかの判定は、FASTDB配列アラインメントの結果によって、決定される。その後、この割合は、明記したパラメータを使用して上述のFASTDBプログラムによって算出された同一性(%)から差し引かれ、最終の同一性スコア(%)に到着する。この補正されたスコアは、この実施形態のために使用されるものである。FASTDBアラインメントによって示される通り、QUERY配列と一致/整列していない、対象配列の5’および3’塩基の外側の塩基のみ、同一性スコア(%)を手動で調整するために算出される。例えば、90塩基の対象配列は、同一性(%)を決定するために、100塩基のQUERY配列と整列配置される。欠損は、対象配列の5’末端で起こり、したがって、FASTDBアラインメントは、5’末端で最初の10の塩基の一致/整列配置を示さない。10の対になってない塩基は、配列の10%に相当する(一致しない5’および3’末端の塩基の数/QUERY配列中の塩基の総数)ので、FASTDBプログラムにより算出される同一性スコア(%)から、10%を引く。残りの90の塩基が完全に一致する場合、最終の同一性(%)は90%となるであろう。別の例では、90塩基の対象配列を、100塩基のQUERY配列と比較する。今度は、欠損は、内部の欠損であり、その結果、QUERYと一致/整列配置されない、対象配列の5’または3’上の塩基は存在しない。この場合、FASTDBによって算出される同一性(%)は、手動で補正されない。ここでも、QUERY配列と一致/整列されない対象配列の塩基5’および3’のみが、手動で補正される。この実施形態の目的に対しては、他のいかなる手動修正も行われない。
【0060】
用語「標識」は、直接または間接的に、検出可能なシグナルを提供するために使用することができ、かつ、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、ヌクレオシド一、二、または三リン酸、ヌクレオシド一、二、または三リン酸類似体、ポリヌクレオチド、あるいはオリゴヌクレオチドに付着させることができる、いずれの原子、分子、または部分も指す。ある実施形態では、標識は、標識部分が、得られたオリゴヌクレオチドに与える質量の変更によって検出される。検出可能な分子はまた、定量可能である可能性もある。こうした質量−標識はまた、当技術分野で知られた他の手段によって、検出することもできる。
【0061】
用語「多重」は、同じ反応から同時にいくつかのメッセージまたはシグナルを産生するシステムを産生すること、あるいはそれに関することを意味する。
【0062】
用語「質量分析」は、高真空中でサンプルから産生されるイオン化された分子または分子フラグメントのビーム中の成分の相対的な質量および/または相対的な存在量を決定するための分析法を指す。本明細書で用いられる用語には、特に、高速原子衝撃(FAB)質量分析、プラズマ脱離(Pd)質量分析、エレクトロスプレー/イオンスプレー(ES)質量分析、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化・飛行時間型分析法(MALDI−TOF)が含まれ、電気泳動、液体クロマトグラフィ、高速ゲル濾過などを含めた他の技術と組み合わせることができる。質量分析検出は、核酸に、S、Br、IまたはAg、Au、Pt、Os、HgなどのDNA中には通常存在しないアイソトープ、分子、または原子を組み込むことによって増強できる。
【0063】
用語「デンドリマー(dendrimer)」(木に対するギリシア語の「dendra」より)は、一般的に、製造または合成された分枝ポリマーである分枝構造を指す。
【0064】
成分および反応条件
標的核酸
標的核酸は、天然に存在するまたは合成ポリヌクレオチドセグメントであり得、当分野でよく知られている技術によって獲得または合成できる。試験サンプル中の検出されるべき標的配列は、最初は、不連続の(discrete)分子として存在する可能性があり、生物学的サンプルなどの、より大きな分子、複雑な混合物の主要または主要でない画分の1つの成分のみとして存在する可能性もある。検出されるべき標的核酸には、DNA(これには、二本鎖(ds)DNAおよび一本鎖(ss)DNAが含まれる)またはRNA(tRNA、mRNA、rRNAが含まれる)、ミトコンドリアDNAまたはRNA、葉緑体DNAまたはRNA、DNA−RNAハイブリッド、またはそれらの混合物であり得る、精製された、あるいは未精製の形の、任意の供与源由来の核酸;遺伝子、染色体、またはプラスミド;および、微生物、植物、動物、ヒトのゲノムなどの、生体材料のゲノム由来のDNAが含まれ得る。試験サンプルから核酸を獲得および精製するために、当分野の標準技術を使用できる。RNA標的の検出には、当分野で知られている通りの、最初の相補的DNA(cDNA)合成が必要とされる可能性もされない可能性もある。DNA−RNAハイブリッドの検出には、ssDNAを得るためのハイブリッドの変性、またはcDNAを得るための変性、それに続く逆転写が必要とされる可能性がある。
【0065】
他の標的分子
本発明の別の実施形態では、標的は、タンパク質などの別の分子である可能性もあり、これは、反復的オリゴヌクレオチド合成のために使用できる核酸配列の共有結合性または非共有結合性付着によって標識される。例えば、分子は、複数の反復的オリゴヌクレオチドの合成のための鋳型として働くことができる核酸配列に結びつけられた抗体によって検出できる。検出されるべき標的核酸には、精製されたまたは精製されていない形の、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、ハプテン、または任意の供与源からの他の分子が含まれ得る。試験サンプルから分子を獲得および精製するために、当分野の標準の技術が使用される。
【0066】
固定
本発明の一実施形態では、標的分子は、基板上に固定することができる。別の実施形態では、標的分子を固定させて、例えば、マイクロアレイを形成できる。この実施形態による単一の分子アレイには、固体マトリックス、生物活性の(bioreactive)または生体付着性の層、および生物抵抗性の(bioresistant)層が含まれる。本発明のためのマトリックスにとって有用である固相には、試験管の形状のポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、または任意の固体材料、ビーズ微粒子、計量棒、膜、マイクロタイタープレート、試験管、およびエッペンドルフチューブ、ガラスビーズ、ガラス試験管、およびガラスでできている他の任意の適切な成形品が含まれるが、これに限定されるものではない。一般に、適切な固体マトリックスは、生体付着性の層(例えばリガンド−結合薬剤)が付着できる任意の表面、あるいは、それ自体でリガンド付着部位を提供する任意の表面を含む。
【0067】
抗体またはオリゴヌクレオチド捕捉プローブは、ポリヒスチジンタグまたは架橋試薬を提供することを含めて当技術分野で知られた方法によって、生体付着性のパターンに付着させることができる。
【0068】
一実施形態では、固体マトリックスは、固定された捕捉プローブが流れ去るのを可能にする複数の溶液および反応物に適応させるために、入口および出口を有するフローチャンバに入れることができる。フローチャンバは、プラスチックまたはガラスでできており、平面は、顕微鏡または光学読取り装置によって見られる面で、開いている、あるいは透明である。電気浸透流は、固体支持体上の固定電荷、および固体支持体の対向する末端に配置される2本の電極との間を通過する電位勾配(電流)を含む。
【0069】
プライマー
本発明の実施形態によれば、プライマーは、標的核酸上の標的部位のポリメラーゼによる転写を開始するために使用され、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドからなり得る。一実施形態では、プライマーは、長さ約25ヌクレオチド未満、通常長さ約1〜約10ヌクレオチド、好ましくは長さ約2〜3ヌクレオチドである。プライマーの1つ以上の位置においてヌクレオチドまたはホスホジエステル結合を改変することが望ましい可能性がある。
【0070】
標的部位プローブ
本発明の実施形態によれば、オリゴヌクレオチド標的部位プローブは、標的核酸上の標的部位にポリメラーゼを導くために使用される(図4)。標的部位プローブはまた、「非鋳型鎖」とも呼ぶことができる。標的部位プローブは、それだけには限らないが、約20〜約50ヌクレオチド、約51〜約75ヌクレオチド、約76〜約100ヌクレオチド、または100超ヌクレオチドを含めて、そのヌクレオチドの長さが変わり得る。バブル複合体は、標的部位を含む一本鎖領域の両側に二本鎖領域を含む。標的領域内のバブル複合体は、標的部位プローブの構造により形成され得る。一実施形態では、標的部位プローブは、3つの領域を含む:鋳型配列上の標的部位の上流で鋳型配列と相補的であり、かつこれとハイブリッド形成する標的部位プローブの5’末端上の第1の領域;第1の領域の3’であり、鋳型配列と非相補的であり、したがって、鋳型配列とはハイブリッド形成しない第2の領域;および標的部位プローブの3’末端上にあり、標的部位の下流で鋳型配列と相補的であり、かつこれとハイブリッド形成する第3の領域。別の実施形態では、標的部位プローブは、一本鎖領域と実質的に相補的であり、バブル複合体は、ポリメラーゼの作用によって形成される。
【0071】
標的部位プローブの使用は、鋳型配列上の特定の酵素結合部位(すなわち、鋳型配列およびプライマーによって標的部位の上流で形成される二本鎖セグメントおよびバブル)にポリメラーゼを導き、特定の標的部位での転写の開始を容易にする。すなわち、上で述べた通りの、一本鎖鋳型配列の長さに沿う、ポリメラーゼによる合成反応のランダムな開始を容易にするのではなく、この実施形態は、標的部位プローブによって形成されるバブル複合体によって取り囲まれる特定の標的部位の検出に対するポリメラーゼの標的指向型結合を提供する。
【0072】
標的部位プローブの配列は、標的配列に応じて変化することとなる。標的部位プローブの全長は、第1および第3の領域の、標的配列とのハイブリッド形成、およびハイブリッド形成されない第2の領域の長さの最適化を提供するように選択される。標的部位プローブの第1および第3の領域は、標的核酸鋳型上での既知の部位とハイブリッド形成するように設計される。用途に応じて、標的部位プローブ上の第2の領域の配列は、第2の領域が自己相補的であってもなくてもよいように設計できる。
【0073】
ある実施形態では、少なくとも1つの標的部位プローブは、複数のオリゴヌクレオチド産物を産生するために、核酸鋳型上での1つ以上の標的部位での不完全オリゴヌクレオチド合成を特異的に開始するために使用される。別の実施形態では、標的部位プローブは、鋳型プロモーター配列の非存在下での一本鎖標的部位上の不完全転写の開始を導く。例えば、米国特許第5,571,669号明細書、ドーブ(Daube)およびフォンヒッペル(von Hippel)「Science」、258:1320〜1324頁(1992年)を参照のこと。
【0074】
不完全プロモーターカセット(別名不完全バブルカセット)
本発明によれば、不完全プロモーターカセット(APC)を使用して、配列に標的を連結して、試験サンプル中の標的の存在を示唆する複数の検出可能なオリゴヌクレオチド産物を産生することができる。APCは、また、不完全バブルカセット(ABC)と呼ばれることもある。APCは、以下からなり得るDNAの自己相補的な配列である:(1)RNAポリメラーゼが結合して、転写バブルを形成できる、1つの隣接するオリゴヌクレオチド;(2)イニシエーターおよび適切なRNAポリメラーゼが、そこから不完全オリゴヌクレオチド産物を合成できる部位を含む一本鎖転写バブル領域を形成する2つの部分的に相補的な上下のオリゴヌクレオチド;または(3)不完全オリゴヌクレオチド産物の合成を可能にするRNAポリメラーゼが存在する場合には転写バブル領域を形成する、2つの相補的なオリゴヌクレオチド。APCは、人工のプロモーターを含有してもよいし、特定のRNAポリメラーゼに対するプロモーターを含有してもよい。例えば、一般のファージRNAポリメラーゼを用いて産生できるであろうトリヌクレオチドまたはテトラヌクレオチド産物は、GpAまたはGpApAイニシエーターと、pppGまたはpppAターミネーターを用いて作製することができる。
【0075】
典型的な実施形態では、図4に示す通り、APCは、3’または5’一本鎖オーバーハング領域(すなわち「粘着末端」)を含むAPCリンカー配列を含めた8つの領域を含む。APCの5’末端上の第1の領域(A)は、APCの3’末端の近くの第2の領域(A’)と相補的である。第3の領域(B)および第4の領域(E)は、領域C、D、およびC’によって、互いに隔てられ、また、互いに非相補的であり、その結果、領域BおよびEは、APCの自己相補領域が互いに相互作用する場合、APC上に一本鎖バブル領域を形成する。領域CおよびC’は、領域Cの5’末端が、領域C’の3’末端と相補的となるように、実質的に自己相補的である。領域Dは、連続的なAPCについては、CおよびC’を連結する短い配列であってもよいし、または2部分のAPCについては、2つの別々の上下のオリゴヌクレオチドの遊離の3’または5’末端を含む領域であってもよい。最後に、APCはまた、APCリンカー、すなわち領域AおよびA’の相補的な相互作用を介して形成される、APCオリゴヌクレオチドの5’末端または3’末端上の一本鎖領域を含む。APCリンカーは、APCの、他の標的分子(例えば捕獲される標的DNA、RNA、またはタンパク質など)との付着を容易にする。
【0076】
多くのAPCが、本発明に包含される。ある実施形態では、APCは、以下の特徴を有する:
上流のアーム長さ>13nt
下流のアーム長さ>13nt
バブルセグメント長さ=11〜14nt
バブル配列:非鋳型鎖コンセンサス:
上流 5’TANNNTN5−8
好ましい配列:5’TATAATN5−8
【0077】
バブル配列:鋳型鎖 T(CまたはGまたはA)N9−13あるいはG(AのCまたはG)N9−13に対して好ましい 上流 3’C(CまたはGまたはA)N9−13またはA(CまたはGまたはA)N9−13。
【0078】
以下の一般的なAPC構造では、下線を引かれたヌクレオチドは、バブル内であり、「nn」は、開始部位に相当する。第1のAPCの下に示される数は、第1のAPCにおける可能な(代替の)イニシエーター部位に相当する:
1. バブル内の最も下流の2つの部位。
2. バブルと下流のアームの接合部にまたがる部位。
3. バブルと間近に隣接する下流の2nt。
4. バブルの端から1 nt隔てた下流の部位
同様のイニシエーター部位は、さらなる例示的なAPCに見られるが、これは、示されていない。
【数1】
【0079】
上記の一般的なAPC構造によって表されるAPCの特定の非限定的な例は、図11、21、23、および29に見ることができる。ある実施形態では、本発明は、図21、23、および29を含めて、上で述べた通りのAPCを提供する。ただし、配列:5’GGATACTTACAGCCATTATATTTAGCCCTACTCCATTCCATCCCGGGTTCGTCC−3’を有する標的部位プローブを含み、かつ/または、配列:3’CCTATGAATGTCGGTACCTGTGCCGCTTATGAGGTAAGGTAGGGCCCAAGCAGG 5’を有する鋳型鎖、またはその逆鎖もしくは相補鎖を含むAPCは除外される。
【0080】
本発明の実施に使用されるAPCは、酵素的または合成的に作製できる。APCの長さは、例えば、国際公開第03/038042号パンフレットおよび米国出願公開第US−2003−0099950号明細書に記載される通り、バブル領域の安定性を最適化し、かつAPCリンカー配列の、標的配列とのハイブリッド形成をもたらすように選択される。
【0081】
目的とする標的分子に対する特異性をもつ単一の分子を、1つ以上のAPCに付着させることができる。一般的に、1つの分子に、同じタイプのAPCを付着させる。しかし、ある実施形態では、様々なAPCを、同じ標的分子に付着させることができる。図9に示す通り、多数のAPCを、単一の分子に付着させることができ、単一の結合事象により産生されるシグナルが大いに増大される。APCは、核酸、抗体、または他の任意の分子に付着させることができる。
【0082】
ある実施形態では、本発明は、化学的な結合によって、所望される任意の分子に付着させることができるAPCを提供する。
【0083】
本発明はまた、本発明のAPCを使用して標的分子を検出する方法を含む。
【0084】
デンドリマー構造
デンドリマーは、分枝構造であり、これは、一般的に、人工的に製造または合成される分枝ポリマーである。例えば、デンドリマーは、アクリル酸およびジアミンから作製できる。デンドリマーは、例えばデンドリテック社(Dendritech Inc.)3110 シュッテドライブ(Schuette Drive)、ミシガン州ミッドランド(Midland、MI)48642から商業的に入手できる。
【0085】
デンドリマー合成は、単分散の、木のような、または世代的な構造をもたらす、通常の、高度に枝分かれしたモノマーによって定義される高分子化学の分野である。単分散ポリマーの合成は、1つのモノマー層上でデンドリマーを構築する段階的反応、あるいは同時の「産生」を介して達成される、高レベルの合成制御を必要とする。各々のデンドリマーは、各々の官能部位に樹状のくさびが付着される、多官能コア分子からなる。コア分子は、「0世代」と呼ばれる。すべての分枝に沿った各々の連続するリピートユニットは、次世代「世代1」「世代2」などを、最終世代まで形成する。
【0086】
デンドリマー合成の2つの定義された方法、発散性(divergent)2および収束性(convergent)3が存在する。発散的方法では、分子は、コアから末端に組み立てられる;一方、収束的方法では、デンドリマーの合成は、外側から始まり、コアで終わる。いずれの方法でも、その合成は、ある世代を最後まで付着させ、精製し、反応の次のステージのために、官能基を変化させるという段階的方法を必要とする。この官能基変換は、無制限の重合を防止するのに必要である。こうした重合により、超分岐ポリマーとしても知られている、単分散でない高度に枝分かれした分子がもたらされるであろう。超分岐ポリマーには多くの用途が存在するが、この論文では、それらについて詳細には述べない。
【0087】
発散的方法では、表面の基は、最初は、不活性あるいは保護された種であり、これは、反応の次のステージのために、反応性の種に転換される。収束的手法では、逆の足場(hold)が、反応性の種として、樹状のくさびの中心部になければならない。
【0088】
立体化学的過密状態によって、特定の世代で完全な反応が妨げられ、分子の単分散性が破壊されるまで、デンドリマーリピートユニットを反応させ続けることで、立体効果に起因して、成形された球体または球状分子がもたらされる。コア分子の枝に、より長い間隔のユニットを用いることによって、可能な世代の数を、増大させることができる。単分散性およびデンドリマーの球形の立体化学的拡大によって、興味深い様々な特性がもたらされる。
【0089】
樹状のくさびの長さの立体化学的限界により、分子サイズは小さくなるが、球状形状の密度によって、分子量は相当高くなる。球面形状は、また、分子トポロジーにおける興味深い研究を提供する。デンドリマーは、2つの主要な化学的環境、すなわち、樹状の球体の表面である、最終世代上の官能基に起因する表面化学、および、デンドリマー構造の球面形状に起因して、外部の環境から大きく保護される球体の内部を有し、こうした分子における2つの異なる化学的環境の存在は、デンドリマー適用の多くの可能性を暗示する。
【0090】
理論的には、疎水性/親水性および極性/無極性の相互作用は、2つの環境において変わり得る。デンドリマー内部の空隙の存在は、デンドリマー化学において、重要な役割を果たしているこうした2つの異質な環境の可能性を増進する。デンドリマー研究により、樹状の空隙にゲスト分子を受け入れるデンドリマーの能力が確認されている。
【0091】
デンドリマーは、ほんの少し例を挙げれば、分子量およびサイズ標準、遺伝子形質移入剤としての、生物学的に重要なゲストの輸送のためのホストとしての、および抗癌剤としての、実際の用途および潜在的な用途が見いだされている。デンドリマーに対する関心の多くは、その高い表面官能性および回収の容易さを利用する、触媒剤としてのその用途に関与する。しかし、デンドリマーの球状形状および分子トポロジーによって、これらは、生物学的システムにも非常に有用なものになる。
【0092】
本発明のある実施形態では、APCは、一般的に化学的な結合によって、デンドリマーの分岐に付着される。デンドリマー構造の表面へのAPCの結合は、APCの高密度という結果になる可能性がある。APC−デンドリマーのある分枝は、目的とする標的分子に対する特異性をもつ、プローブ、抗体、結合タンパク質などの第2の分子に連結される。その結果、目的とする標的分子への第2の分子の結合は、APC、したがって、APCからの多数の不完全オリゴヌクレオチド転写産物の高密度という結果になる。このように、デンドリマーは、結果的に感受性および(潜在的に)速度を増大させて、標的分子の検出に関連する、シグナルの大規模な増幅を可能にする。
【0093】
ポリメラーゼ
この方法で使用するための鋳型依存性のポリメラーゼおよび本発明の組成物は、当技術分野で知られており、これらには、真核生物または原核生物のポリメラーゼ、耐熱性ポリメラーゼ、DNA依存性RNAポリメラーゼ、DNA依存性DNAポリメラーゼ、RNA依存性RNAポリメラーゼ、RNA依存性DNAポリメラーゼ、DNA依存性RNAポリメラーゼ(このポリメラーゼは、リン酸基上の、ヌクレアーゼ、かつ/または組み込まれていないヌクレオチドのペントース環上の、標識部分を許容することが可能である)、プロモーター配列および前述の別のものを含まない一本鎖DNA鋳型を転写できるポリメラーゼが含まれる。
【0094】
一般に、本発明の方法に含まれる酵素は、好ましくは、この方法によって産生される核酸成分の実質的な分解を生じない。
【0095】
ヌクレオチド
本発明によれば、ポリメラーゼは、オリゴヌクレオチド産物上の通常の5’→3’方向に反応を触媒し、ヌクレオチド(NTP)(これには、ヌクレオチド類似体(NTP類似体)が含まれる可能性があり、また、標識されていてもいなくてもよい)の配列の付加を介してイニシエーターまたはプライマーの3’末端を延長することによって、標的核酸を転写または複製する。
【0096】
ある種の実施形態では、この方法は、以下のうちのいずれか1つを用いて誘導体化されるヌクレオチドを使用する:アイソトープ、ハプテン、ビオチン、酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)タンパク質、人工のプロモーターカセット、光架橋剤、化学架橋剤、ストレプトアビジン(steptavidin)、蛍光部分、比色部分、発光部分、化学発光部分、金属(例えば金、銀)または染料。
【0097】
他の実施形態では、この方法は、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、あるいは、式NucSRの、5−S−置換ピリミジンまたは8−S−置換プリンを含む核酸を使用し、
ここで、Nucは、ピリミジニルまたはプリニル(purinyl)であり、
Sは、硫黄であり、
Rは、以下からなる群から選択される:H、ハプテン、ビオチン、酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、またはアルカリホスファターゼ)、タンパク質、人工のプロモーターカセット、光架橋剤、化学架橋剤、ストレプトアビジン、蛍光部分、比色部分、発光部分、化学発光部分、金属(例えば金、銀)、染料、核酸細胞取り込み基(cellular uptake group)、C6〜10アリール、C6〜10 ar(C1〜6)アルキル、C6〜10アリールアミノ(C1〜6)アルキル、C6〜10アリールオキシ(C1〜6)アルキル、C6〜10 ar(C1〜6)アルキルアミノ(C1〜6)アルキル、C6〜10 ar(C1〜6)アルキルオキシ(C1〜6)アルキル、C6〜10 ar(C1〜6アルキル)カルボニルアミノ(C1〜6)アルキル、C6〜10 ar(C1〜6アルキル)カルボニルオキシ(C1〜6)アルキル、(C6〜10アリール)カルボニルアミノ(C1〜6)アルキル、(C6〜10アリール)カルボニルオキシ(C1〜6)アルキル、(C6〜10アリール)カルボニル(C1〜6)アルキル、およびC6〜10 ar(C1〜6アルキル)カルボニル(C1〜6)アルキルであり、
ここで、前述の基のアリール部分はそれぞれ、以下からなる群から独立に選択される1〜4の置換基で任意選択で置換される:ハロゲン、ヒドロキシル、C1〜6アルキル、C3〜8シクロアルキル、C1〜6ハロアルキル、C1〜6ヒドロキシアルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C1〜6アルコキシ、(C1〜6アルキル)カルボニル、(C1〜6アルコキシ)カルボニル、アミノ、アミノ(C1〜6)アルキル、アミノカルボニル、モノ(C1〜6アルキル)アミノカルボニル、ジ(C1〜6アルキル)アミノカルボニル、C1〜6アルキルアミノ、ジ(C1〜6)アルキルアミノ、(C1〜6アルキル)カルボニルアミノ、C6〜10アリールアミノ、(C6〜10アリール)カルボニルアミノ、モノ(C6〜10アリール)アミノカルボニル、ジ(C6〜10アリール)アミノカルボニル、モノ(C6〜10 ar(C1〜6アルキル))アミノカルボニル、ジ(C6〜10 ar(C1〜6アルキル))アミノカルボニル、N−(C6〜10)アリール−N−(C1〜6アルキル)アミノカルボニル、N−(C6〜10)ar(C1〜6)アルキル−N−(C1〜6アルキル)アミノカルボニル、N(C6〜10)ar(C1〜6)アルキル−N−(C6〜10アリール)アミノカルボニル、C1〜6アルキルチオ、C6〜10アリールチオ、C6〜10 ar(C1〜6)アルキルチオ、カルボキシ、カルボキシ(C1〜6)アルキル、ニトロ、シアノ、ヘテロアリールおよび飽和したまたは部分的に不飽和の複素環であり、ここで、ヘテロアリールおよび飽和したまたは部分的に不飽和の複素環は独立に、単環式または融合された二環式であり、独立に、5〜10つの環原子を有し、環原子の1つ以上は、独立に酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択される。改変されたヌクレオチド類似体の例、および適切な改変基の例を、図12〜14に示す。
【0098】
反復的な不完全合成開始事象を促進するために、ポリメラーゼによって開始される合成事象を終結できる、鎖ターミネーターを含むNTPおよび/またはNTP類似体を、合成反応より前に、かつ/またはその間に、反応混合物に加えることができる。鎖ターミネーターの使用は、合成反応中のポリメラーゼを失速させ進行中の伸長複合体の形成を阻害し、それによって、標的部位からの短い不完全オリゴヌクレオチドの反復する合成が促進される。(ドーブ(Daube)およびフォンヒッペル(von Hippel)「Science」、258:1320〜1324頁(1992年))。
【0099】
本発明によれば、鎖ターミネーターは、プライマー伸張反応中のポリメラーゼによる転写または複製の継続を阻害できる、任意の化合物、組成物、複合体、反応物、反応条件、または(化合物、反応物、または反応条件を妨害することを含めた)プロセスを含むことができる。ある実施形態では、適切な鎖ターミネーターは、鋳型配列のそれに続く相補的なヌクレオチドに相当するNTP剥奪である、すなわち、鎖終結は、ポリメラーゼから特定のNTPを奪うことから生じる。言い換えれば、定義された鋳型配列および定義されたプライマー長を考慮すると、鎖伸長のためのNTPの必要性は、相補的な鎖配列によって支配されるので、反応混合物が、鋳型配列の転写または複製を続けるために必要とされるNTPを用いてポリメラーゼを提供することができない場合、選択されたNTPは、反応混合物から妨害される可能性があり、その結果、ポリメラーゼによる鎖伸長の終結が起こる。
【0100】
あるいは、別の実施形態では、鎖ターミネーターは、ポリメラーゼによるオリゴヌクレオチド産物への組み込み時に、ヌクレオチド重合の終結を遂行する、ヌクレオチド類似体を含むことができる。
【0101】
反応条件、ヌクレオチド、およびヌクレオチド分子に関するさらなる情報は、国際公開第03/038042号パンフレットおよび米国出願公開第US2003−0099950号明細書に記載されている。
【0102】
反応条件
本発明の方法を実施するための適切な反応培地および条件には、特定のポリメラーゼのために最適化された培養緩衝水溶液(aqueous buffer medium)が含まれる可能性があり、これは、転写制御因子(シグマ、NusA、ロー、リゾチーム、GreA、GreB、NusGなど)を含めて、様々なイオン、緩衝液、キレート剤、ポリアニオン性またはカチオン性の分子、タンパク質担体、または他のタンパク質で補充されていてもいなくてもよい。反応成分のすべてを変えることによって、不完全転写産物の、全長の転写産物に対する比を潜在的に変えることができる。例えば、鋳型に対する、RNAポリメラーゼの高いモル比は、ラムダPRプロモーター上の全長転写にわたる不完全転写の頻度を高める。この効果は明らかに、このプロモーターでのタンデムポリメラーゼ間の衝突(collision)から生じる。ある種のRNAポリメラーゼ変異体は、野生型ポリメラーゼと比較して、不完全転写の高い速度を有する。不完全転写の相対的なレベルは、プロモーターのヌクレオチド配列に影響される。本発明の方法のいずれの態様も、(等温を含めて)同じ温度または変動する温度で行うことができるし、ある実施形態では、転写または複製のための温度は、そのアッセイにおいて、他で使用される温度とは異なっていてもよい。
【0103】
本発明の様々な態様および実施形態によれば、標的核酸分子は、標的核酸の一部と相補的である、オリゴヌクレオチド捕捉プローブ、モノヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドイニシエーター、標的核酸の一部と相補的なAPCリンカー配列、および/または標的部位の両側の領域と相補的である標的部位プローブとハイブリッド形成できる。ハイブリッド形成は、当業者によく知られている方法を使用して、所望の程度の特異性を達成するのに必要な条件下で行われる。ハイブリッド形成の前に、試験サンプル中の標的核酸を変性させることが必要である可能性がある。
【0104】
転写の条件および試薬は、当分野でよく知られており、他の文献にも記述されている。ルー(Lu)ら、米国特許第5,571,669号明細書に記載される通り、人工の転写バブル複合体から開始される転写のためのポリメラーゼ濃度は、プロモーター開始型の、あるいはパリンドローム配列開始型の転写のために理想的なポリメラーゼ濃度よりも通常約1桁高い。
【0105】
ある実施形態では、これらの成分は、不完全合成および検出方法の開始時に同時に加えられる。別の実施形態では、成分は、様々な反応によって必要とされるかつ/または可能にされる度に、方法中の適切な時点の前または後に、いずれかの順序で加えられる。こうした時点は、当分野の技術者によって、容易に特定可能である。本発明の方法における様々な反応は、様々な時点で中断することができ、その後再開できる。こうした時点は、当分野の技術者によって、容易に特定可能である。反応を中断するための方法は、例えば、酵素活性を阻害する温度まで反応混合物を冷却することを含めて、当技術分野で知られている。
【0106】
本発明の不完全合成および検出方法
本発明の一態様によれば、検出可能なオリゴヌクレオチド産物は、標的核酸鋳型から合成される。オリゴヌクレオチド産物はまた、イニシエーター上の、かつ/またはポリメラーゼによって標的核酸上で合成される各々のオリゴヌクレオチド産物に組み込まれるNTPまたはNTP類似体上の、かつ/または合成複合体の一部である、あるいは合成複合体の1つ以上の成分と相互作用する他の分子上の標識部分を含むことができる。
【0107】
本発明によれば、オリゴヌクレオチド産物の検出は、標的配列の存在の指標となる。ある実施形態では、標的配列は、目的とする標的分子を含む。他の実施形態では、目的とする標的分子は、オリゴヌクレオチド産物が産生される標的配列とは異なり、したがって、オリゴヌクレオチドの検出によって、目的とする標的分子の存在を示唆する標的配列の存在が示唆される。こうした実施形態では、例えば、目的とする分子は、タンパク質、ペプチド、ハプテン、炭水化物、毒素、脂質、イオン、または別の核酸であり得る。したがって、ある実施形態では、標的配列の存在は、目的とするタンパク質の存在をさらに示唆できる。ある実施形態では、不完全プロモーターカセットは、DNA、RNA、PNA(ヌクレオチド主鎖が、リン酸結合ではなくアミノ基結合で置き換えられたタンパク質核酸)、抗体、結合タンパク質、ハプテン、情報伝達タンパク質、イオン、または目的とする分子に対する特異性をもつ他の分子と結びつけられる。
【0108】
定量分析もまた、実行可能である。直接的および間接的な検出方法(定量化を含む)は、当分野でよく知られている。例えば、未知の量の標的核酸を含有する試験サンプルから産生されるオリゴヌクレオチド産物の量を、既知の量の標的核酸を有する基準サンプルから産生されるオリゴヌクレオチド産物の量と比較することによって、試験サンプル中の標的核酸の量を決定できる。さらに以下で述べる通り、本発明の反復的不完全合成開始および検出方法はまた、標的核酸における遺伝的配列の変化の分析に応用できる。
【0109】
本発明の不完全合成および検出方法の以下の実施例は、本発明をより詳細に記述するために提供される。これらの例示的な方法は、単に例示的なものに過ぎず、上で提供される説明を制限するためのものではない。上述の一般的な説明を考慮すると、様々な他の実施形態も、実施できることを理解されたい。例えば、プライマーの使用に対する言及は、RNAイニシエーターを含めて、本明細書で記述されるプライマーのいずれも使用できるということを意味する。
【0110】
本発明の一態様によれば、標的ポリヌクレオチド上の反復的合成開始事象を介して複数の検出可能なオリゴヌクレオチド産物を産生することによって、標的ポリヌクレオチドの存在を検出するための方法が提供される。
【0111】
図2は、複数の検出可能なオリゴヌクレオチド産物を合成するために、RNAポリメラーゼの存在下で、組み合わせ、反応させることが可能な様々な反応物を、図表的に説明する。本発明の方法は、潜在的に標的配列を含有する可能性がある試験サンプルを使用して実施できる。試験配列は直接検出することもできるし、標的のプライマー−伸張または逆転写の産物を検出することもできる。配列またはタグを、標的(例えばビオチン、ssDNA領域)のコピーに付加することができる。試験サンプルは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、またはRNAを含むことができる。DNAまたはRNAは、細胞、組織、または他のサンプルからDNAまたはRNAを単離するための標準の技術によって、単離および精製できる。
【0112】
ある実施形態では、標的配列は、マイクロタイタープレートなどの固体マトリックスに付着された、配列特異的(例えば、遺伝子特異的)オリゴヌクレオチド捕捉プローブによって固定される。固定された捕捉プローブは、一本鎖DNA(すなわち変性したDNA)またはRNAを含めた試験サンプルと共に、ハイブリッド形成条件下で処理される。試験サンプル中に存在する任意の標的配列を、捕捉プローブとハイブリッド形成させ、その後、本発明に従うさらなる試薬に暴露させる。
【0113】
ある実施形態では、イニシエーター(n 5’−R1−(NI)x−OH 3’)は、標的部位プローブ(図4)が存在する場合には、標的部位の上流で、標的配列とハイブリッド形成し、ポリメラーゼによる標的部位での重合反応の触媒作用を促進する。国際公開第03/038042号パンフレットおよび米国出願公開第US−2003−0099950号明細書に記載される通り、開始プライマーは、ヌクレオシド、ヌクレオシドの類似体、ヌクレオチド、およびヌクレオチド類似体からなる可能性があり、ヌクレオチドの数は変わり得る。標的配列またはその任意の部分からオリゴリボヌクレオチド産物を合成するために、適切なRNAポリメラーゼが使用される。
【0114】
重合反応中、イニシエーターは、ポリメラーゼによって、反応混合物に加えられたヌクレオチドの組み込みを介して、伸長または延長される。ポリメラーゼ反応が進行すると、ポリメラーゼは、反応混合物中に存在する相当するヌクレオチドを組み込むことによって、鋳型配列によって指示される通りに、イニシエーターを延長する。ある実施形態では、これらの反応物ヌクレオチドは、鎖ターミネーター(例えば、上で述べた通りの、n 5’pppNT−R2、鎖終結ヌクレオチド類似体)を含む。ポリメラーゼが、鎖ターミネーターを新生のオリゴヌクレオチド産物に組み込む場合、ポリメラーゼが、鎖ターミネーターのペントース環上の3’位置でヌクレオチドの付加を触媒できないことによって、鎖伸長は終結する。結果的に、ポリメラーゼは、オリゴヌクレオチド産物(すなわち、5’ R1−(NI)zpNT−R2、ただし、z=x+y)を放出し、標的部位での不完全開始合成反応を再び開始することによって、開始された合成事象を中止する。
【0115】
不完全開始反応は、予め定められた数のヌクレオチドによってイニシエーターが延長された後、ポリメラーゼが、合成を中止するように制御できる。例えば、イニシエーターが単一のヌクレオチドによって延長された後で合成反応を終結することが望ましい場合、これは、例えば、以下のいずれかによって、達成できる:(1)反応混合物に鎖ターミネーターであるヌクレオチドのみを加え、それによって、第1のヌクレオチドがポリメラーゼによって組み込まれた後で、重合を阻害すること;または(2)標的部位の遺伝的配列が知られている場合、反応混合物に、標的部位でヌクレオチドと相補的である、予め選択された鎖終結ヌクレオチド類似体(すなわち、A、G、T、C、またはUのうちの1つを含むヌクレオチド類似体)のみを加えること。あるいは、予め定められた数のヌクレオチドによってイニシエーターが延長された後で、合成反応を終結することが望ましい場合、かつ標的部位の遺伝的配列が知られている場合は、これは、例えば、反応混合物に、標的部位からN番目のヌクレオチドと相補的である、予め選択された鎖終結ヌクレオチド類似体(すなわち、A、G、T、C、またはUのうちの1つを含むヌクレオチド類似体)を加えることによって達成できる(ここで、Nは、イニシエーターを除いて、オリゴヌクレオチド産物に含まれる予め定められた数のヌクレオチドである)。このように、イニシエーターおよび鎖終結ヌクレオチド類似体を含む複数の不完全オリゴヌクレオチド産物は、ポリメラーゼによって合成される。
【0116】
ポリメラーゼは、酵素結合部位からの転位置も、標的ポリヌクレオチド配列からの分離もせずに、オリゴヌクレオチド産物を放出する。ヌクレオチド剥奪は、ポリメラーゼ結合部位でポリメラーゼを引き離すために使用できる。例えば、イニシエーターとターミネーターが提供されるだけでは、ポリメラーゼによる伸長は可能でない。
【0117】
さらに、反応条件は、さらに伸長中のヌクレオチドが存在する場合には、ポリメラーゼが、ポリメラーゼ結合部位に結合されたままであることが好都合であるように、不完全転写開始のために最適化することができる。不完全開始反応緩衝液は、使用されることとなる塩の濃度、二価の陽イオン、グリセロール含有量、および還元剤の量およびタイプを調整することによって、不完全事象を増大するために最適化される。さらに、ポリメラーゼが転位置するのを防止するために、「妨害(roadblock)」タンパク質を使用できる。
【0118】
本発明の別の態様では、図4に図表的に説明する通り、標的配列の標的領域にバブル複合体を形成するために、標的部位プローブを使用できる。上で述べた通り、バブル複合体は、標的部位を含む一本鎖領域に隣接する二本鎖領域を含む。この実施形態では、標的部位プローブは、標的配列上の一本鎖バブル領域と下流の二重鎖領域の接合部に標的部位を配置することによって、標的部位にポリメラーゼを導くために使用される。ポリメラーゼは、イニシエーターと結びつき、鋳型配列上の標的部位で合成反応を開始する。ポリメラーゼは、イニシエーターを伸長し、適切な鎖ターミネーターを含むヌクレオチドの組み込みを介して、不完全オリゴヌクレオチド産物を合成する。鎖終結ヌクレオチドを含めて、イニシエーターとヌクレオチドは両方とも、標識部分を用いて改変することができる。
【0119】
したがって、標的配列上の反復的合成開始事象を介して複数のオリゴヌクレオチド産物を検出するための例示的手順には、以下が含まれ得る:(a)特定のまたは一般的な標的配列とハイブリッド形成するように設計されているオリゴヌクレオチド捕捉プローブを固定すること;(b)オリゴヌクレオチド捕捉プローブを、標的配列を含有する可能性がある試験サンプルとハイブリッド形成させること;(c)標的配列を、標的部位プローブとハイブリッド形成させること;(d)ポリメラーゼによって合成されるオリゴヌクレオチド産物の検出を可能にするために、鎖ターミネーターを含むイニシエーターおよびヌクレオチドのうちの少なくとも1つを改変すること;(e)標的配列をプライマーとハイブリッド形成させること、および(f)ポリメラーゼを用いてイニシエーターを延長させて、鎖ターミネーターを含む相補的なヌクレオチドを組み込むことによって、ポリメラーゼが、標的部位に相補的であるオリゴヌクレオチド産物を反復的にに合成するようにすること、および、酵素結合部位からの転位置も、標的配列からの分離もせずに、不完全オリゴヌクレオチド産物を放出させること。
【0120】
RNAポリメラーゼによる鋳型の転写中、RNAイニシエーターは、反応混合物に加えられているヌクレオチドの組み込みを介して、RNAポリメラーゼによって延長される。ポリメラーゼ反応が進行すると、RNAポリメラーゼは、反応混合物中に存在する相当するヌクレオチドを組み込むことによって、鋳型配列によって指示される通りに、RNAイニシエーターを延長する。ある実施形態では、これらの反応物ヌクレオチドは、鎖ターミネーター(例えば、上で述べた通りのn 5’pppNT−R2、鎖終結ヌクレオチド類似体)を含む。RNAポリメラーゼが鎖ターミネーターを新生の転写産物に組み込む場合、ポリメラーゼが、鎖ターミネーターのリボース環上の3’位置でのヌクレオチドの付加を触媒できないことによって、鎖伸長は終結し、RNAポリメラーゼは、転写産物を放出し、標的部位での転写を再び開始することによって、開始された転写事象を中止する。不完全転写開始反応は、RNAプライマーを含む、予め定められた長さの複数の不完全オリゴヌクレオチド転写産物、および鎖終結ヌクレオチド類似体が、産生されるように制御できる。
【0121】
典型的な実施形態では、RNAイニシエーターは、モノヌクレオチドであり得、反応混合物に提供されるヌクレオチドは、単に鎖ターミネーターのみを含む可能性がある。この実施形態では、転写は、RNAイニシエーターが単一のヌクレオチドによって延長された後で、RNAポリメラーゼによって中止され、不完全ジヌクレオチド転写産物が産生される。別の実施形態では、例えば、RNAイニシエーターは、ジヌクレオチドまたはトリヌクレオチドを含むことができ、不完全転写開始事象によって、それぞれ、トリヌクレオチドまたはテトラヌクレオチドを含む不完全転写産物を産生できる。周知のことだが、RNAイニシエーターの長さおよび性質、ならびに反応混合物への包含のために選択される反応物ヌクレオチドの組成に応じて、いずれの所望の長さの不完全転写産物も、入手できる。例えば、鋳型のヌクレオチド配列が既知である場合、転写反応の構成要素(例えば標的部位、イニシエーター、および反応物ヌクレオチド)は、選択することができ、その結果、いずれの所望の長さの不完全転写産物も、本発明の方法によって産生される。
【0122】
本発明の別の態様では、RNAイニシエーターは、RNAイニシエーターに組み込まれる5’リン酸基、リボース環の2’位置、またはヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体のうちの1つのプリンまたはピリミジン塩基と共有結合可能な部分(図3に図示する通り、例えば、R1)を含む。さらに、RNAポリメラーゼによるオリゴヌクレオチド転写産物への組み込みのために反応混合物に含まれる反応物ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド類似体はそれぞれ、核酸塩基、あるいはリボース環の2’位置または3’位置に共有結合的に結合される部分(図3に図示する通り、例えば、R2)も含む。部分R1およびR2は、上述でより詳細に述べた通り、H、OH、または任意の適切な標識部分、レポーター群、またはレポーター群前駆体を各々含む。
【0123】
したがって、標的配列上の反復的転写開始事象を介して複数のオリゴヌクレオチド転写産物を検出するための例示的手順には、以下が含まれる:(a)特定のまたは一般的な標的配列とハイブリッド形成するために設計されているオリゴヌクレオチド捕捉プローブを任意選択で固定すること;(b)オリゴヌクレオチド捕捉プローブを、標的配列を含有する可能性がある試験サンプルと、任意選択でハイブリッド形成させること;(c)標的配列を、標的部位プローブと任意選択でハイブリッド形成させること;(d)RNAイニシエーターおよび鎖ターミネーターを含むヌクレオチドのうちの少なくとも一つを改変して、RNAポリメラーゼによって合成されるオリゴヌクレオチド転写産物の検出を可能にすること;(e)標的配列を、RNAイニシエーターとハイブリッド形成させること;および(f)RNAポリメラーゼを用いてRNAイニシエーターを延長させて、鎖ターミネーターを含む相補的なヌクレオチドを組み込むことによって、RNAポリメラーゼが、標的部位と相補的であるオリゴヌクレオチド転写産物を反復的に合成するようにすること、および、ポリメラーゼ結合部位からの転位置も、標的配列からの分離も実質的にせずに、不完全オリゴヌクレオチド転写産物を放出させること。
【0124】
複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物は、質量分析を用いて迅速に検出および定量化できる。例えば、表1aおよび1b、実施例2に示す通り、質量分析によって、任意のトリヌクレオチドを区別できる。トリヌクレオチド間の違いを、金属イオン、アイソトープ、または他の分子を含めた標識を用いて強調させることができる。トリヌクレオチドに対応するピーク下の積分された領域は、トリヌクレオチドの量(完全なまたは相対的な条件で)を示唆する。最後に、サンプルは、ほぼリアルタイムで分析できる。したがって、サンプルは、リアルタイムに近い状態で、不完全転写の支配下にある可能性があり、読み取られる結果は、標的分子の存在、その存在量を、また、どの種類のオリゴヌクレオチド転写産物が産生されるかを決定することによって、標的分子の性質を示唆する。
【0125】
多重化
本発明の方法は、同時の単一のタイプの不完全転写反応に制限されず、同時の複数の反応(すなわち多重化)を同時に行うことを含む。言い換えれば、複数の様々なアブスクリプション(abscription)反応が、単一のサンプル上で同時に起こることが可能である。
【0126】
多重化は、いくつかの利点を有する。複数の検出可能なシグナルの存在により、感受性が増大する。複数の検出可能なシグナルを用いることによって、特異性もまた増大される。例えば、4つのプローブが使用される場合、4つの異なる不完全転写産物が得られる。4つのアブスクリプション産物の存在を検出することは、目的とする標的分子の存在を確証することとなるが、1つのアブスクリプション産物のみの検出は、偽陽性反応と考えられる可能性がある。
【0127】
ある実施形態では、多重化は、目的とする同一の標的分子上で実施される。ある実施形態では、複数のTSPが、使用され、これらはそれぞれ、標的核酸由来のDNAの異なるセクションに対して特異的である。別の実施形態では、異なるDNAプローブ(これらはそれぞれ、異なるAPCまたはAPC−デンドリマー複合体に付着される)を、標的核酸配列にハイブリッド形成させる。別の実施形態では、異なる抗体が使用され、これらはそれぞれ、異なるAPCまたはAPC−デンドリマー複合体に付着される。アブスクリプション反応が実施される場合、異なるタイプのAPCの数と同じ位多くのタイプのシグナルが産生されることとなる。得られる多重シグナルを、例えば質量分光によって、検討する。
【0128】
ある実施形態では、複数の異なる反応は、目的とする標的分子の混合集団を含むサンプル上で実施される。ある実施形態では、サンプルは、目的とする複数の病原体を含むことができ、これらはそれぞれ、各々の病原体に特有のDNAの、一セクションに対して特異的な個々のTSPによって検出できる。あるいは、病原体は、標的病原由来の配列または抗原に対して特異的な核酸プローブまたは抗体に連結されたAPC(またはAPC−デンドリマー複合体)によって検出できる。多重化によって、ある範囲の異なる標的分子を、各々の標的分子を別々に検出することによって得られるであろうよりも増大された速度およびより小さいコストで、同時に検出できる。
【0129】
ある種のさらなる実施形態では、多重反応は、複数の標的分子の検出を含むことができ、各々の標的分子は、1つ以上の不完全転写反応によって検出される。
【0130】
さらなるシグナル増幅
不完全な反復的転写の産物は、直接的または間接的に検出することができる。ある実施形態では、産物は、さらなる直接的な増幅を受ける。別の実施形態では、産物はシグナル増幅カスケードに導入され、標的分子の検出の感受性が増大される。
【0131】
あるシグナルカスケード実施形態では、不完全オリゴヌクレオチド転写産物は、ビオチンで標識される;こうしたビオチン標識された分子は、例えば、検出可能なシグナル(HRPなど)を産生する、酵素に結びつけられたアビジンを用いて、その後検出できる。別の実施形態では、アビジンを、そこからさらに、不完全オリゴヌクレオチド転写産物を合成できる、APCまたはAPC−デンドリマー複合体に結びつけることができる。
【0132】
別の実施形態では、不完全オリゴヌクレオチド転写産物は、その後の反応における試薬(転写反応におけるイニシエーターなど)として、あるいはPCR反応のためのプライマーとして使用される。
【0133】
不完全合成の適用および検出方法
本発明の方法は、それだけには限らないが、以下を含めて、様々な診断および分析場面で使用できる:特定の遺伝子のメチル化状態を評価すること、既知の遺伝子突然変異の存在を検出すること、病原生物の存在を検出すること、mRNA発現レベルを検出すること、およびタンパク質を検出すること。質量分析は、蛍光(flourescence)、放射性同位元素、または他の方法を介する代わりに、反復的オリゴヌクレオチド転写産物を検出するために使用される。反復的オリゴヌクレオチド転写産物の産生をもたらす方法およびその使用は、例示的かつ非限定的な目的でのみ、本明細書に概要を述べる。こうした方法に関するさらなる詳細は、国際公開第03/038042号パンフレットおよび米国出願公開第US−2003−0099950号明細書で見ることができる。
【0134】
DNAメチル化
本発明の方法は、特定の病態に関連することが知られている特定の遺伝子およびその調節領域のメチル化状態を評価することによって、疾患の始まりおよび進行に伴う後成的な変化を検出する診断検査法に使用できる。DNAメチル化は、その配列のコーディング機能を変えずにDNAの特性を変えるための細胞の機構である。CpGメチル化は、癌進行のための強力なマーカーである可能性があり、また、遺伝子インプリンティング、転移因子の不活化、および女性におけるX染色体の不活化に関連する可能性もある。ヒトゲノムにおけるDNAメチル化は、ジヌクレオチド配列CpGにおけるCsに関して最も頻度が高い。
【0135】
したがって、ある実施形態では、本発明の方法は、メチル化状態およびパターンの変化を検出できる診断技術を提供することによって、疾患開始、進行、転移、再発、および治療的療法に対する任意の応答をモニターするために利用できる。DNA断片中でメチル化されたシトシン残基は、脱アミノ化剤(例えば、重亜硫酸ナトリウムなど)による、こうした残基の脱アミノ化に対する耐性に基づいて検出できる。図5に示す通り、変性させた(すなわち、一本鎖の)DNAが、脱アミノ化剤(重亜硫酸ナトリウムなど)に暴露される場合、メチル化されたシトシン残基(5−mCyt)が、変化しないままであるのに対し、メチル化されていないシトシン(C)残基は、ウラシル残基(U)に転換され、したがって、その相補的な塩基対合パートナーは、グアニン(G)からアデノシン(A)に変わる。しかし、メチル化されたシトシン(5−mCyt)は、Gに対するその塩基対合特異性を保持する。前述のことを考慮すると、標的DNA配列におけるCpGアイランドのメチル化のレベルは、変更されていないCpG部位の相対的なレベルを測定することによって決定できる。
【0136】
別の実施形態では、図6に図表的に説明する通り、例えば、重亜硫酸ナトリウムで標的DNA配列を処理することによって、標的DNA配列を脱アミノ化した後、標的DNA配列上の標的CpG部位を含むバブル複合体を形成するために、標的部位プローブを使用できる。この実施形態では、一本鎖バブル領域と標的DNA配列上の下流の二重鎖領域の接合部に標的CpG部位を配置することによって、標的CpG部位にRNAポリメラーゼを導くために、標的部位プローブが使用される。説明された実施形態では、標的部位プローブは、約18〜54ヌクレオチドを含む。すなわち、標的部位の上流で標的DNA配列とハイブリッド形成する第1の領域は、約5〜20ヌクレオチドを含み、塩基対形成されていないヌクレオチドの内部の第2の領域は、約8〜14ヌクレオチドを含み、標的部位の下流で標的DNA配列とハイブリッド形成する第3の領域は、約5〜20ヌクレオチドを含む。標的部位プローブは、DNA標的配列が、RNAポリメラーゼおよび適切なRNAイニシエーターと共にインキュベートされる前あるいは間に、標的DNA配列とハイブリッド形成できる。ポリメラーゼは、RNAイニシエーターと結びつき、DNA鋳型上のCpG部位で転写およびRNA合成を開始する。ポリメラーゼは、イニシエーターを延長させて、適切な鎖ターミネーターの組み込みを介して不完全オリゴヌクレオチド転写産物を合成する。イニシエーターと鎖終結ヌクレオチドの片方または両方は、改変されてもよい。
【0137】
別の実施形態では、捕捉プローブは、目的とする遺伝子を捕獲するように設計することができ、不完全転写開始が、所望の遺伝子のメチル化状況を決定するために使用される。目的とする各々の遺伝子は、目的とする遺伝子に対して特有である捕捉配列へのハイブリッド形成によって、サンプルから除去できるであろう。
【0138】
遺伝子突然変異
本発明の別の態様では、本明細書で開示する方法を、診断検査法に使用できる。これにより、全染色体の再構成または単一または複数のヌクレオチドの変化、置換、挿入、または欠損の形の突然変異が検出される。
【0139】
病原生物
本発明の別の態様では、本明細書で開示する方法を、特定の核酸(DNAまたはRNA)の存在を検出し、それによって、該遺伝子を含有する特定のまたは一般的な生物の存在を示唆するのに役立つ、あるいは、生物の培養を必要とせずに、特定の生物の遺伝的タイピングを可能にする診断検査法に使用できる。試験サンプルは、特定の微生物(細菌、酵母、ウイルス、ウイロイド、カビ、真菌など)由来の標的核酸配列を含有することが疑われている可能性がある。試験サンプルは、それだけには限らないが、動物、植物、またはヒトの組織、血液、唾液、精液、尿、血清、脳または脊髄液、胸膜液、リンパ液、痰、乳房洗浄(breast lavage)からの液体、粘膜(mucusoal)分泌物、動物の固体(animal solid)、便、微生物の培養物、液体および固体の食品および飼料製品(feed−product)、排泄物、化粧品、空気、および水を含めた様々な供与源から集められる。
【0140】
ある実施形態では、標的病原ポリヌクレオチドに対して配列特異的であるオリゴヌクレオチド捕捉プローブが、固体マトリックスに付着される。試験サンプル中に存在する標的病原ポリヌクレオチドは、捕捉プローブとハイブリッド形成し、その後、洗浄を実施して、捕捉プローブにより固定されなかった試験サンプルのいずれの成分も除去する。例えば、標的DNAまたはRNAは、プライマー伸張を介する特定の配列の付加によって回収することができる。ある実施形態では、捕獲された標的病原ポリヌクレオチドは、不完全プロモーターカセット(APC)とハイブリッド形成される。APCリンカー配列は、(捕捉プローブとの逆平行ハイブリッドをもたらすために必要な方向に応じて)その3’または5’末端上に一本鎖オーバーハング領域を含む。言い換えれば、APCリンカーは、捕獲される標的病原ポリヌクレオチドの自由端上の配列と相補的であり、それによって、APCリンカーが、標的病原ポリヌクレオチドとハイブリッド形成することが可能になる。その後、本明細書に記述する通りに不完全転写を実施し、反復的オリゴヌクレオチド転写産物を産生させ、これは、質量分析を用いてその後検出される。
【0141】
したがって、病原体の存在を検出するための例示的手順(図8)には、以下が含まれる:(a)標的病原ポリヌクレオチドとハイブリッド形成するように設計された捕捉プローブを、任意選択で固定すること;(b)捕捉プローブを、標的病原ポリヌクレオチドを含有する可能性がある試験サンプルと、任意選択でハイブリッド形成させること。標的核酸は、(RNA病原体については)逆転写、または(DNA病原体については)プライマー伸張を介してDNAにコピーすることができる。どちらの塩基においても、不完全プロモーターカセット(Abortive Promoter Cassette)(APC)リンカーに対応するDNA配列が、標的コピーに加えられる(図1);(c)捕獲された標的病原ポリヌクレオチドを任意選択で洗浄して、試験サンプルのいずれのハイブリッド形成されていない成分も除去すること;(d)不完全プロモーターカセットと、捕獲された標的病原ポリヌクレオチドをハイブリッド形成させること;(e)ポリメラーゼによって合成されるオリゴヌクレオチド産物の検出を可能にするために、鎖ターミネーターを含むイニシエーターおよびヌクレオチドのうちの少なくとも1つを改変すること;(f)イニシエーターと不完全プロモーターカセットをハイブリッド形成させること;(g)ポリメラーゼを用いてイニシエーターを延長させて、鎖ターミネーターを含む相補的なヌクレオチドを組み込むことによって、ポリメラーゼが、標的部位と相補的であるオリゴヌクレオチド産物を反復的に合成するようにすること、および、酵素結合部位からの転位置も、APCからの分離もせずに、不完全オリゴヌクレオチド産物を放出させること;および(h)質量分析を使用して、複数の不完全オリゴヌクレオチド産物を検出し、任意選択で定量化すること。
【0142】
別の態様では、本発明は、質量分析を使用して試験サンプル中の病原体の存在を検出するための方法を提供する。この方法は、以下を含む:(a)ポリメラーゼによる転写によって検出できる領域を含む人工のプロモーターカセットに、前記試験サンプル中の標的病原ポリヌクレオチドまたはタンパク質を付着させること;(b)イニシエーター、RNAポリメラーゼ、伸長因子(elongator)、および/またはターミネーターと共に、前記APCで標識された標的分子をインキュベートすること;(c)APCの着手開始部位に相補的であるオリゴヌクレオチド転写産物を合成すること(ただし前記イニシエーターは、転写が終結するまで延長され、オリゴヌクレオチドが放出され、それによって、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が合成される);および(d)前記試験サンプルから合成される、前記反復的に合成されたオリゴヌクレオチド転写産物を、質量分析を使用して検出または定量化することによって、病原体の存在を決定すること。
【0143】
さらなる態様では、本発明は、捕捉プローブおよび質量分析を使用して試験サンプル中の病原体を検出するための方法を提供する。この方法は、以下を含む:(a)前記試験サンプル中の標的DNAまたはRNAポリヌクレオチドと相互作用するように設計された捕捉プローブを固定すること;(b)前記捕捉プローブを、前記標的ポリヌクレオチドを含有する可能性がある試験サンプルと混合すること;(c)前記試験サンプル中の標的ポリヌクレオチドを、標的病原ポリヌクレオチドと相互作用する領域と、ポリメラーゼによる転写によって検出できる領域とを含む人工のプロモーターカセットに付着させること;(d)前記標的ポリヌクレオチドを、RNAポリメラーゼ、イニシエーター、伸長因子、および/またはターミネーターと共にインキュベートすること;(e)APCの前記転写着手開始部位に相補的なオリゴヌクレオチド転写産物を合成すること(ただし、転写が終結するまで、前記イニシエーターは延長され、オリゴヌクレオチドが放出され、それによって、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が合成される);および(f)前記反復的に合成されたオリゴヌクレオチド転写産物を、質量分析を使用して検出または定量化することによって、病原体の有無を決定すること。
【0144】
本発明の方法は、病原性の核酸およびタンパク質の有無をモニターするのに特に有用である。本発明は、病原性ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関連する疾患および/または異常を検出、診断、およびモニターするために使用できる。本発明は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの異常な発現の検出を提供する。この方法は、以下を含む:(a)上記の不完全開始転写の方法を使用して、個体の細胞、組織、または体液中の目的とするポリペプチドまたはポリヌクレオチドの発現を分析すること、および(b)目的とする配列の遺伝子発現、タンパク質発現、または存在のレベルを、(標準レベルと比較した場合の、分析されるポリペプチドまたはポリヌクレオチドレベルの増加または減少が、目的とする病原体の存在を示唆する異常な発現の指標となるような)標準の遺伝子またはタンパク質発現レベル、あるいは目的とする配列と比較すること。
【0145】
個人由来の、生検が行われる組織または体液中の、異常な量の転写産物の存在は、実際の臨床症状が現れる前に、疾患を検出するための手段を提供できる。このタイプのより最終的な診断によって、医療専門家は、早期に予防処置または積極的な治療を用い、それによって、病原体によって引き起こされる疾患の発症またはさらなる進行を阻止できるようになる。
【0146】
本発明は、それだけには限らないが、大腸菌、連鎖球菌(Steptococcus)、桿菌属、マイコバクテリウム、HIV、および肝炎を含めて、病原生物の存在をモニターするのに特に有用である。
【0147】
本発明の方法は、水性流体中の、特に水(飲料水または水泳用または入浴用の水など)や他の水溶液(例えば細胞培養に使用される発酵ブロスおよび溶液)、または気体および呼吸用の(breathable)空気などの気体混合物中の、および、噴霧、パージ、または表面から粒状物質を除去するのに使用される気体中の病原性微生物に対する試験に使用できる。それだけには限らないが、家、学校、教室、仕事場、航空機、宇宙船、自動車、電車、バス、および人々が集まるその他のいずれの建物または構造も含めて、いずれの供与源からの呼吸用の空気も、病原性微生物の存在について試験できる。
【0148】
mRNA発現
本発明の別の態様では、本明細書で開示する方法を、定量的または非定量的方式で、伝令RNA(mRNA)発現レベルを検出する、診断検査法(diagnostic assays)に使用できる。
【0149】
タンパク質検出
本発明の別の態様では、本明細書に開示する方法を、タンパク質を検出する診断検査法に使用できる。例えば、不完全プロモーターカセットリンカーは、タンパク質修飾因子群を付着させて作製することができ、タンパク質にAPCを連結するために使用できる。適切なタンパク質には、それだけには限らないが、抗体、結合タンパク質、アビジン、情報伝達分子、プロテインAなどが含まれる。ある実施形態では、APCは、目的とする標的タンパク質分子に対して特異的な抗体に連結される。抗体は、目的とする標的タンパク質分子と結合し、付着されたAPCが使用されて、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が産生され、これは、質量分光を用いてその後検出される。ある標的分子に特異的な抗体または他のタンパク質にAPCを連結することによって、この方法はまた、目的とする非タンパク標的分子と共に使用することもできる。
【0150】
疾患検出
本発明は、DNAメチル化、遺伝子突然変異、mRNA発現パターン、およびタンパク質発現パターンの状態をモニターすることによって、動物における疾患を検出するのに有用である。本発明は、疾患、および/または異常な発現に伴う障害、および/またはポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性を検出、診断、およびモニターするために使用できる。本発明は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの異常な発現、突然変異の存在、およびDNAのメチル化状況の変化の検出を提供する。本発明の診断検査法は、いずれの疾患の診断および予後のためにも使用することができ、これには、それだけには限らないが、アルツハイマー病、筋ジストロフィー、癌、乳癌、大腸癌、嚢胞性線維症、脆弱エックス症候群、血友病AおよびB、ケネディ病、卵巣癌、肺癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、筋緊張性ジストロフィー、テイサックス(Tay Sachs)病、ウィルソン(Wilson)病、およびウィリアムス(Williams)病が含まれる。これらの分析は、すべてのタイプの癌の診断および予後に特に有用であると考えられている。
【0151】
キット
ある実施形態では、本発明は、キットである。ある実施形態では、キットは、目的とする標的分子に対する特異性をもつ分子(例えば核酸または抗体)とAPCを結びつけるためのリンカーを含有する不完全プロモーターカセットを含有するバイアルを含む。別の実施形態では、キットは、デンドリマー、APCおよびカップリング試薬を含有する。別の実施形態では、デンドリマーは、APCと結びつけられる。他のバイアルは、上記の結合をもたらすのに適した試薬を含有する。キットはまた、ポリメラーゼ、APCに適したイニシエーター、および不完全転写に適したヌクレオチドを含有できる。
【0152】
検出装置
不完全転写技術は、迅速かつ移動できる方式で、目的とする標的分子の存在を検出できるように、装置に組み込むことができる。こうした装置は、サンプルを、装置のあるポートに加え、オリゴヌクレオチド転写産物が第2のポートから得られ、その後、それを質量分析計に供給することができるような、反応成分を組み込んだマイクロ流体的な(microfluidic)装置であり得る。ある実施形態では、サンプル収集、不完全転写反応、および質量分析検出を、単一の装置内で行うことができる。
【実施例】
【0153】
以下の実施例は、限定目的ではなく、例示目的でのみ提供される。当分野の技術者であれば、本質的に同様の結果を得るために変化または改変させることができる、絶対的ではない様々なパラメータを容易に認識するであろう。例えば、詳述される個々の作用は、必ずしも本明細書で示される順序に限定されない可能性がある。
【0154】
実施例1
RNAポリメラーゼを用いる、RNAプライマー開始型不完全転写
反応条件は、不完全転写開始のために最適化された。緩衝液Tの成分および濃度は、不完全転写開始に好都合である。緩衝液Tは、以下からなる:20mMトリス−HCl pH 7.9、5mM MgCl2、5mMベータ−メルカプトエタノール、2.8%(v/v)グリセロール。プライマーは、0.2〜1.3mMの濃度の範囲であるリボヌクレオシド−三リン酸(NTP)またはジヌクレオチドである。最終のNTP濃度は、0.2〜1.3mMの範囲である。濃度範囲の高い方の末端は、予備的な不完全転写のために設計される。鋳型DNA濃度は、リン酸について2uM未満である。大腸菌RNAポリメラーゼは、15nMと400nMとの間の最終濃度で加えられる。一本鎖鋳型DNAと共に、ホロ酵素またはコアを使用できる。ピロリン酸の蓄積を阻止するために、酵母無機ピロホスファターゼを、予備反応の際に1単位/mlで加える。ピロリン酸は、高い濃度では、RNAポリメラーゼが、RNA産物を犠牲にしてNTPを再産生させるような合成反応を取り消すことができる。ピロホスファターゼの1ユニットは、25℃およびpH 7.2で、1分につき1.0uMの無機正リン酸を遊離させる酵素の量によって定義される。反応物は、予備反応のために、最高72時間まで、37℃でインキュベートされる。これらの条件は、典型的であり、特定の鋳型に対して、特定の成分および濃度を最適化することにより、不完全開始の効率を高めることができる。
【0155】
この実施例では、3つの異なるイニシエーターが使用される:(1)TAMARA−ApG;(2)ビオチン(Biotin)ApG;および(3)ApG。標的核酸鋳型は、95℃で5分間沸騰させ、すぐに氷上に置くことによって、変性させる。各々の反応物は、以下の通りに調製される:
5.0μl 1X緩衝液T
2.5μl a−32P−UTP
14.3μl ddH20
1.0μlの大腸菌RNAポリメラーゼ(1U/μl)
100ng(2μl)の鋳型DNA
10nmole(1.2μl)のイニシエーター
22.8μlの反応緩衝液
【0156】
37℃で12〜16時間インキュベートする。サンプルを質量分析にかけ、TAMARA−ApG;ビオチン(Biotin)ApG;ApG、およびそれらの分解産物の分子量に相当する得られたピークを、標的分子の存在を決定するために使用する。種の存在はまた、当技術分野で知られた標準の方法を使用する薄層クロマトグラフィを用いて確認でき、第3の位置におけるUTPの組み込みの程度を決定する。
【0157】
実施例2
標識されたターミネーターを用いる不完全開始反応
不完全転写開始反応は、標識されたイニシエーターおよび/または標識されたターミネーターを用いて実施される。標識されたターミネーターを組み込むために、以下の反応条件を使用する:
5μl 1X緩衝液T
3μl 100ngの変性DNA鋳型(pBR322)
13.5μl ddH20
1μl 大腸菌RNAポリメラーゼ
1.2μl ジヌクレオチドイニシエーターApG
1.5μlの7mM SF−UTP
【0158】
混合物は、温度が制御されたマイクロタイタープレートリーダー中で16時間、37℃でインキュベートする。標識されたトリヌクレオチドApGpUが産生されたことを実証するために、当技術分野で知られた標準の方法を使用して、薄層クロマトグラフィを実施する。サンプルを、質量分析を用いて試験して、トリヌクレオチドApGpUが産生されたことを決定する。表1で予測する通り、質量分析は、トリヌクレオチド種を容易に区別することができるはずである。
【0159】
質量分析を介する検出によって、レポーター標識された、リボヌクレオチドの類似体を必要とせずに、複数の標的分子または標的配列の同時検出が可能になる。表1(a)は、MWが異なる20のトリヌクレオチドを示す。表1(b)は、分子量によって分類される同じ20のトリヌクレオチドを示す。レポーター標識された開始ヌクレオチドおよび/またはターミネーターヌクレオチドを用いることによって、さらなる多重化も達成できる。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
実施例3
大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素を用いる、RNAプライマー開始型不完全転写
大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素は、プロモーター配列を欠く一本鎖DNA分子から転写を開始することができる。変性したポリ[dG−dC](10μg/25μl反応物)を、大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素(1.9pmole/反応物)を用いて転写させる。不完全転写を、ジヌクレオチドGpCを用いて開始させる。GTPは、プライマーを延長するために利用可能な唯一のヌクレオシド−三リン酸である。鋳型鎖によってコードされる他のヌクレオシド−三リン酸(CTP)は、除かれる。質量分析を実施し、トリヌクレオチド産物GpCpGの存在が、GTP濃度に依存すること、また、検出可能な産物が1つのサイズのものであることが示唆され、CTPの除外によって、トリヌクレオチド産物の形成の後、転写が効率的に終結されたことが示された。
【0163】
大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素は、部分的に相補的な非鋳型パートナーを欠いた鋳型鎖にわたるバブル複合体基質を強力に好むこととなるであろう。相当する単一の鋳型鎖に対する、DNAバブル複合体を用いる大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素による相対的な転写活性が決定され、RNAポリメラーゼは、バブル複合体1を用いると、同等のモル濃度量の鋳型鎖単独が提供される時よりも、70倍高いレベルの活性を示すことが示された。バブル複合体DNAに対するT7 RNAポリメラーゼの優先度を試験する実験でも、同様の結果が得られるであろう。
【0164】
様々なプロモーター認識特性をもつRNAポリメラーゼは、不完全転写のための基質として、バブル複合体1を使用することが示された。この実験では、バブル複合体1を、大腸菌ホロ酵素、大腸菌コアRNAポリメラーゼ、ファージT7、およびファージSP6 RNAポリメラーゼと共にインキュベートする。大腸菌ホロ酵素および大腸菌コアポリメラーゼのための反応緩衝液は、150mM 酢酸Naを含む。高い塩濃度によってこれらの酵素は阻害されるので、酢酸Naは、T7およびSP6反応からは除かれる。すべての反応物は、20mM HEPES pH 8緩衝液、10mM MgCl2および2mM DTTを含有している。イニシエーターApAおよびUTPは、すべての反応物に、それぞれ1mMで提供される。大腸菌ホロ酵素は、大腸菌コアポリメラーゼよりも約2倍多い産物、また、T7およびSP6ポリメラーゼよりも、ポリメラーゼあたり約10倍多い産物を産生することが予測される。
【0165】
放射性の前駆体およびオートラジオグラフィー検出を用いる、プライマー−開始型不完全転写に基づくアッセイの感受性。
【0166】
プライマー開始型不完全転写反応物に基づく検出アッセイの感受性は、検出可能なシグナルを産生できるバブル複合体1の最小限の量を明確にすることによって決定することができる。例えば、一連の不完全転写反応を、バブル複合体1の量を減少させて実施することができる(10フェムトモル(femptomole)〜1ゼプトモル/25μl反応物)。転写は、ApAおよび放射性UTPを用いて開始される。UTPは、産物をトリヌクレオチドApApUに限定するために反応物に含まれる、唯一のヌクレオシド三リン酸である。質量分析を使用して、各々の転写反応に対する経時変化を実施する。3時間のRNAポリメラーゼ不完全転写反応の後、10フェムトモルのバブル複合体からのシグナルは、はっきりと検出可能となり、1フェムトモルのバブル複合体からのかすかなシグナルは、質量分析を介して識別可能となる。100アトモルのバブル複合体1からのApApUシグナルは、24時間の転写後に検出可能である。
【0167】
実施例4
逆相HPLC/エレクトロスプレーイオン化質量分析による不完全転写産物(アブスクリプト(Abscript))の定量化のためのプロトコル
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)によるアブスクリプトの検出は、反応溶液中に存在する他の塩およびイオンからのアブスクリプトの分離を必要とする。この分離を行わないと、イオン抑制によって、アブスクリプトの検出が阻止される。このプロトコルは、標準のアブスクリプション反応から産生されるアブスクリプトの検出および定量化のために使用されたクロマトグラフィおよびESI−MS設定を記述する。このプロトコルには、通常の溶液アブスクリプション反応を用いるための標準の調製物およびサンプル調製物の例、ならびにアブスクリプション反応で産生されるアブスクリプトの定量化のための産生されたデータを処理するための手法が含まれる。当業者であれば、異なる条件で使用するためのプロトコルを、さらに改変および適合させることができる。
【0168】
HPLC
PC上のMassLynxソフトウェアで制御されるウォーターアライアンス2795分離モジュール(Waters Alliance 2795 Separations Module)。
【0169】
ウォーターズアトランティス(Waters Atlantis)C18カラム:2.1×30mm、300μm粒径
HPLC等級アセトニトリルおよび水
【0170】
【表3】
【0171】
ESI−MS
セントロイド(centroid)データコレクションを使用する、PC上のMassLynxソフトウェアで制御される、陰イオンV−型式(V−mode)で、ウォーターズ/マイクロマスLCTプルミエールESI−MS w/ロックスプレーアタッチメント(Waters/Micromass LCT Premier ESI−MS w/Lockspray attachment)を運転する。高純度N2ガスを、窒素発生器(ピークサイエンティフィック(Peak Scientific)、NM30LA)によって提供した。ロックスプレー(lockspray)として使用するためのロイシンエンケファリン(1ng/ml)を質量標準とした。HPLCカラムからの溶出液は、MS源へのアンスプリット(unsplit)に導入される。
【0172】
【表4】
【0173】
【表5】
【0174】
【表6】
【0175】
標準調製物およびサンプル調製物
IDT デュプレックス(duplex)緩衝液:
30mM HEPES
100mM酢酸カリウム
pH7.5
【0176】
デュプレックス(duplex)緩衝液中の5mMの、ダーマコン社(Dharmacon,Inc)から購入されたRNAトリヌクレオチド標準。
5X バブル緩衝液
100mM HEPES、pH 8
50mM MgCl2
0.5mM EDTA
40mM スペルミジン
5mM DTT
750mM 酢酸ナトリウム
150μg/ml アセチル化BSA
14% グリセロール
以上をヌクレアーゼを含まない水の水溶液とする
リボメイカー(Ribomaker)ポリメラーゼ(883fmol/μL)
50fmol/μLのAPCバブル
デュプレックス緩衝液中の5mMの適切なNpNイニシエーター
デュプレックス緩衝液中の5mMの適切なNTP
【0177】
標準の調製物:
トリヌクレオチド濃度が0.5、1、5、10、50、および100μM(マトリックス中)の1X バブル緩衝液、70.6fmol/μL リボメイカー(Ribomaker)ポリメラーゼ、8fmol/μL APCバブル、1mM 適切なNTP、および1mM 適切なNpNイニシエーターを用いて、20μL溶液を調製した。標準溶液は、氷上または4°で冷却し、いずれのアブスクリプションが起こることも阻止した。あるいは、溶液中のイニシエーター/NTP組み合わせからのアブスクリプトを産生しないAPC バブルを使用することもできる。
【0178】
サンプル調製物:
アブスクリプションプロトコルは、本明細書の他で述べる通りに実施した。標準、および評価されるべきサンプルを、HPLC等級水で1/10に希釈し、上で列挙されるHPLC/ESI−MS条件を使用して実行した。
【0179】
データ処理
評価されるアブスクリプトのための適切なM/Z値を使用して、クロマトグラムを産生した。荷電されたシグナルを二倍使用することにより、通常、より高い感受性が与えられる。アブスクリプトおよびイニシエーターは、保持時間が2〜3分である。クロマトグラムは、デフォルトの積分パラメータを使用して積分された。直線に標準の調製物からのデータを適合させて、標準のカーブを作製し、これを使用して、アブスクリプション反応で産生されるアブスクリプトの濃度を算出した。
【0180】
実施例5
AAGおよびAUG対照の質量分析検出
エレクトロスプレーイオン化質量分析計(ESI−MS)を使用して、化学的に合成されたAAGおよびAUGトリヌクレオチドが検出された。
材料:
AAGおよびAUGトリヌクレオチド
HPLC等級アセトニトリル(EMサイエンス(EM science))および水(フィッシャー(Fisher))。
酢酸トリエチルアミン、pH 7
【0181】
方法:
サンプルを、10μL/分の直接注入によって、MSに導入し、V−オプティクス(V−optics)を用いる陰イオンモードで評価した。供給源条件:2500V キャピラリー、35V コーン、150° 脱溶媒温度、80° 供給源、550L/分 脱溶媒流。10μLのサンプルが、評価対象であり、したがって、データは、0.1秒の走査間隔を用いて、一連の1秒の走査で、1分間獲得された。
【0182】
結果
AAGおよびAUGトリヌクレオチドの50pmolの質量スペクトルを、図18に示す。親イオンは、AAGおよびAUGについて、936.9daおよび914.0daで観察され、実際のMWは、941.6および918.6であると予測された。親のイオンからのシグナルは、いずれの場合においても非常に弱かったが、二重荷電イオンからのシグナルは、より強力であった。これらのシグナルは、それぞれ468.3および456.8daで、親のイオンの半分の質量で起こる。図19は、50、5、および0.5pmolのレベルでのAAGに関する範囲を示す。AAGは、0.5pmolで検出可能であった。
【0183】
実施例6
RP−HPLC/MSによるトリヌクレオチドの定量的評価
アブスクリプション反応混合物中に懸濁されたAAGのスパイクされたサンプル中のトリヌクレオチドAAG(1)、および実際のアブスクリプション反応により産生されるAAGとしての(2)を検出および定量化するために、逆相HPLC/質量分析を使用した。
実験方法
材料:
アトランティスC18カラム:2.1×30mm、粒径300μm
HPLC等級アセトニトリル(EMサイエンス(EM science))および水(フィッシャー(Fisher))。
AAGトリヌクレオチド
バブル22(AAGアブスクリプトを産生する)
方法:
アブスクリプション
50、35、20、および5fmol/μLの標準的なバブル含有率を使用して、標準のプロトコルに従って、アブスクリプション反応を実行した。
【0184】
【表7】
【0185】
アブスクリプション反応を、45℃で30分間実行し、その後、LC/MS上での運転の前に、水で20μLから200μLに希釈した。
【0186】
RP−HPLC/MS条件
移動相:
成分A:水
成分B:アセトニトリル
【0187】
【表8】
【0188】
流速: 0.2mL/分
注入体積: 10μL
【0189】
MS条件:
キャピラリー電圧:2500
供給源電圧:35
脱溶媒温度:180℃
供給源温度:80℃
脱溶媒気体流速度:750L/時間
V−モード(V−mode)で実行
【0190】
サンプル運転:
AAG水溶液を、水中で100、70、40、および10μMの濃度で調製した。これらのサンプルは、転換率が、アブスクリプション反応で一般に観察される1%から10%の範囲に及ぶ。AAGでスパイクされたサンプルを、混合物中に通常の濃度のアブスクリプション試薬を含有すること以外は、上と同じ濃度で調製した。アブスクリプション反応は、50、35、20、および5fmol/μLのバブル標準濃度を使用してセットアップした。鋳型鎖のみを含有する負の対照もまた、実行した。すべてのサンプルを、運転の前に、水で20μLから200μLに希釈した。
【0191】
結果
図20Aは、10および100μM AAGを用いてスパイクされた2つのアブスクリプション反応から産生された質量スペクトルを示す。いずれの場合においても、優勢なシグナルは、593Daであり、これは、反応混合物中に存在する1mM ApA由来のものである。使用されるこのHPLC条件により、図20Bに示す通りのAAGおよびApAの近い共溶出(co−elution)という結果になる。図20Aおよび20Bは、反応から産生されるアブスクリプトの量を数量化するために使用される2つの異なるデータを表示する。図20Aは、図20Bに示されるクロマトグラフィのピークの幅にわたって合計される、個々の質量スペクトルから生じるシグナル強度の形のアブスクリプトの量を示す。
【0192】
表2は、様々な既知の量のAAGと、得られるシグナルとの関係を実証する。サンプルは、水単独中のものと、アブスクリプション反応と同一の溶液マトリックス中のものの両方を調製した。データを評価するために、3つの定量的手法を取った:
1.MS強度:図20Bに示す通りの、クロマトグラフィピークを含む個別走査を合計して、図20Aに示す通りに、単一の質量スペクトルという結果をもたらした(その強度は、アブスクリプトの量と相関するはずである)。
2.ピーク高さ および3.ピーク面積:図20Bにあるような、AAGシグナルのクロマトグラムを、標準のクロマトグラフィ手法に従って、ピーク高さまたはピーク面積によって、定量化することができる。
【0193】
【表9】
【0194】
表2は、水またはアブスクリプション反応マトリックスにおいて、3つの定量的手法はすべて、アブスクリプトに対する比較的直線的な反応を示すことを実証する。パフォーマンスのレベルは、表2におけるデータを産生するために使用されるものなどのスパイクされた溶液から作製される較正曲線を正確に使用して、未知のサンプルにおけるアブスクリプトの濃度を決定できることを示唆する。較正曲線の精度を増大するために、さらなるデータポイントや重複検定も使用できる。
【0195】
この手法に従って、表2におけるデータから産生されるMS強度、ピークの高さ、およびピーク面積の3つの定量的測定に対する較正曲線を使用して、新規のサンプルにおけるアブスクリプトの濃度を算出できる。いくつかの既知の濃度のAPCを使用する反応は、いくつかの溶液が、未知の濃度のアブスクリプトを含有するという結果になった。これらの溶液を、LC/MS法および上記の3つの定量的測定を使用して評価した。既知の濃度のAPCの他に、得られた濃度の値を用い、試験されるAPCについてのターンオーバー速度を算出した。これらの結果を表3に示すが、これは、APCの量の増大は、ターンオーバーの増大と相関することを示唆している。しかし、較正曲線の外側に位置するサンプルについては、較正曲線からの補外は、必ずしも、ターンオーバー速度の一貫性のある算出という結果にならなかった(例えば、5fmol/μL APC濃度を参照のこと)。この問題は、較正曲線におけるより大きい数および範囲のデータポイントにより矯正される。
【0196】
【表10】
【0197】
実施例7
多重不完全転写反応
同時に複数の不完全転写(アブスクリプション)反応を行う能力、すなわち、多重化は、2種のAPCを含有する反応混合物に関して実証された。図21に示される2種のAPC、バブル4およびAPC UC2361を、このために選択した。どちらの不完全プロモーターカセットも、異なる鋳型鎖(TEM)A197またはA56を用いたが、同じ標的部位プローブ(TSP)、A192を用いて構築された。バブル4のためのイニシエーターは、ApAであり、UC2361については、それは、UpCであり、組み込みヌクレオチドは、GTPである。バブル4からの予測されるアブスクリプション産物は、AAGであり、UC2361からは、UCGであり、これらは、TLCおよび質量分析によって識別可能である。
【0198】
反応成分を、表4に列挙する。各々のカラムに与えられる体積は、複製が実行されることができるような、2種の反応のためのものである。各反応を、二重に実施した。反応あたりの最終体積は、12.5μlであった。反応成分を、表4に列挙される順序で、PCR管内に集めた。この反応物を、45℃で30分間インキュベートし、アブスクリプション産物2μlを、シリカゲル(Al−担持)TLCプレートにスポットした。TLCを、6:3:1のイソプロパノール:NH4OH:H2Oの溶媒混合物に展開させ、その後乾燥させた。その後、TLCプレートを、燐光体イメージスクリーン(phosphor imager screen)に20分間曝し、スポットの強度から、ターンオーバー数(転写産物/鋳型/分)を算出した。図22は、TLCによる、混合されたAPC実験からのアブスクリプション産物を示す。レーン1〜3は、バブル4(最終100fmol)を有し、ApA(レーン1)、UpC(レーン2)、ApA+UpC(レーン3)を用いて開始された。レーン4〜6は、等モル濃度のバブル4(最終100fmol)およびAPCUC2361(最終100fmol)を有し、これらは、レーン4ではApAを用いて、レーン5ではUpCを用いて、レーン6ではApA+UpC両方を用いて開始された。レーン7〜9は、APCUC2361(最終100fmol)を有し、UpC(レーン7)、ApA(レーン8)、およびApA+UpC(レーン9)を用いて開始された。レーン10は、ApAを用いて開始されるTEM A197であり、レーン11は、UpCを用いて開始されるTEM A57であり、レーン12は、イニシエーターApA+UpCを含み、APCを含まない対照である。レーン13は、α32P−GTPに対する対照である。イニシエーター濃度は、それぞれ、最終で1mMであった。
【0199】
この実験では、各アブスクリプション反応物は、異なる鋳型および異なるイニシエーターを使用したが、両方ともGTPを組み込んでいた。この結果は、2つの異なるAPCが、同じ反応混合物中に存在する場合、片方のアブスクリプション反応物の、もう片方のAPCの存在に起因する抑制は存在しないことを実証する。APCが共に混合される場合、例え、同じGTPヌクレオチドが組み込まれていても(レーン4〜6)、総ターンオーバーの感知できる減少は無かった。誤った組み込み(APCと相互作用する間違ったイニシエーターを示唆する可能性がある)は、観察されなかった(レーン2、3、6、8、および9)。
【0200】
【表11】
【0201】
実施例8
多重不完全転写反応
異なるアブスクリプトを産生する10種のAPCが産生された。図23は、多重アブスクリプション反応で使用するための、オリゴヌクレオチド鎖の異なる組み合わせを用いて作製される10種の不完全プロモーターカセットを示す。
【0202】
図23に表されるAPCを形成するためのオリゴヌクレオチド鎖のアニーリングは、図24でAPCの4%アガロースゲル分析に示す通りの、4%アガロースゲル上の電気泳動により決定された。1pmol/μlのAPCの5μlを、各レーン(1〜10)に装填した。一本鎖との比較を示すため、TEM A191(50pmol/μlを5μl)をレーン11に装填し、レーン12は50bpのラダーを有していた。
【0203】
アブスクリプションは、APC 4、12、24、25、および32に関して実施し、アブスクリプトは、TLC上で運転された。各アブスクリプションは、最終濃度1mMのイニシエーター、それに加えて図に列挙される通りの最終濃度の1mM NTP、それに加えて1μlのアブスクリプターゼを含む、100fmolのAPCを用いて行われた。アブスクリプションは、45℃で60分間行われた。各反応からの2μlを、TLCプレート上にスポットし、6:3:1のイソプロパノール:NH4OH:H2Oで展開した。TLCプレートを、10分間、燐光体イメージスクリーンに曝した。
【0204】
各APCからのアブスクリプションを、図25に示す通りの放射能を使用して検出した。AAGおよびAAUは、TLCによって、容易に区別することはできないが、各APCは異なるアブスクリプトを与えた。
【0205】
実施例9
抗SEB抗体−APC複合体を用いるSEBタンパク質の、アブスクリプションに基づく検出
黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)は、サンドイッチELISA、および不完全プロモーターカセットと結びつけられるSEBに対する抗体を使用して検出された。
【0206】
実験方法
結合
APC 22(APCAA2361)(AAGアブスクリプトを産生する)を、アミン修飾し、かつSEBに対する抗体と結合させた。結合後、Ab−APC結合体と、反応していない成分の混合物を、HPLCを使用して画分に分けた。画分17〜19および22〜24を、プールし、試験した。プールしたサンプルを、30kDaスピンフィルタを使用して濃縮した。これらのサンプル中の抗体濃度は、ピアス社(Pierce)からのマイクロBCAアッセイを使用して決定された。
【0207】
サンドイッチELISA
SEBコートされたプレートを、1時間、2% BSA/PBS−Tween 20を用いてブロックした。10μg/mL IgGの抗体結合体溶液および1/2の連続希釈物を、カラム1〜11におけるプレートに加え、その結果、カラム1における抗体の濃度は、10μg/mLであり、カラム2は、5μg/mLであり、カラム3は、2.5μg/mLなどであり、かつ、カラム11における濃度は、9.77ng/mlであった。各ウェル中の最終の体積は、50μLであった。室温で、1時間のインキュベーションおよび振動の後、アブスクリプション反応を、以下の通りにセットアップした。10μLの883nM アブスクリプターゼ(バブル緩衝液中)を、各ウェルに加え、それに続いて2mM I−ApA、2mM T−GTP、0.1μCi/μL α−32P−GTP(バブル緩衝液中)を含有する10μL アブスクリプション試薬を加えた。1mM T−030、0.1μCi/μL α−32P−GTP(バブル緩衝液中)の溶液対照20μLを、空きウェルに入れた。プレートは、サーモミキサー(thermomixer)(エッペンドルフ(Eppendorf))中で2時間、400rpmで振動させながら、45℃でインキュベートし、それに続いて4℃に冷却して終夜保管した。アルミニウムで担時されたシリカゲルTLCプレート(Whatman(ワットマン))上の2μLの反応溶液および対照を展開した。燐光体スクリーン(Molecular Dynamics)を、20分間、TLCプレートに曝し、ホスホイメージャー:SI(Phosphoimager:SI)(モレキュラーダイナミクス(Molecular dynamics))を用いて画像形成し、ImageQuantソフトウェア(Molecular Dynamics)を使用して評価および定量化した。キャリブレーター(Calibrator)は、データがイメージャー(imager)の線形範囲内であることを示した。
【0208】
結果
2つの結合体プールによって産生されるシグナルに対するタイトレーションカーブを、図26に示す。プール22〜24は、最も大きな結合体バンドに対するピークの画分に相当し、プール17〜19は、わずかに初期に溶出する二次ピークに相当する。これらの2つのバンドからの結合体は、非還元SDS−PAGEゲル上で流す場合、異なる可動性を有する(図示せず)。異なる溶出時間および電気泳動移動度は、17〜19画分において、溶出する物質は、結合される2つのAPCと結合する結合体であるのに対して、22〜24の画分からの物質は、結合される単一のAPCのみと結合する結合体であったことを示唆する。アブスクリプション反応のこのタイトレーションにより、2つの結合体の特定のアブスクリプション活性の明確な差が示され、プール22〜24において結合される単一のAPCと比較して、プール17〜19が、結合される2つのAPCを有するという考えがさらに裏づけられる。比較的に直接的なELISAアッセイが、結合体に対する結合能力の有意な差を示さなかったので、観察されるシグナルの差は、第一にアブスクリプション能力の差に起因する。
【0209】
実施例10
質量分析による10トリヌクレオチドの同時検出
少なくとも10のアブスクリプトを、質量分析を用いて別々に検出できることを実証するために、化学的に合成された10のトリヌクレオチドを、別々にも、単一の混合物としても試験した。図27は、その個々の実行からの10のトリヌクレオチドすべての組み合わせられたクロマトグラムを示す。埋め込まれた図は、どの番号をつけられたピークが、どのアブスクリプト、ならびに関連する保持時間、m/z値、およびピーク面積を指すかを示す。図27は、大抵のトリヌクレオチドが、わずかに異なる保持時間を有することを実証した。しかし、たとえLC保持時間が同様または同一であったとしても、サンプルは、質量分析を用いて個別に評価することができる。例えば、ピーク7(AUU)と8(AAU)は、同一の保持時間を示すが、異なるm/z値を生じた。
【0210】
質量分析によって、10のアブスクリプトのプールからの異なるアブスクリプトが区別できることは、以下の通りに実証された。10の精製されたトリヌクレオチドの混合物を、等モル濃度で混合し、質量分析によって分析した。図28は、質量分光によって同時に検出されるトリヌクレオチドの混合物の出力を示す。各トリヌクレオチドの隣に、相当するm/z比を示す。10μlの10μM溶液を、アトランティス(Atlantis)dC18 3μm 2.1mm×30mmカラムによって分析した(100pmol)。使用されるMSチューンファイル(tune file)は、「アブスクリプト」であった。
【0211】
表5は、各アブスクリプトについて、質量分析によって観察される、二重荷電イオンに対する算出された分子量および観察されたm/z値を示す。
【0212】
【表12】
【0213】
したがって、質量分析は、少なくとも10の異なるAPCを含有する多重反応の産物を区別するために使用され、したがって、少なくとも10の異なる標的分子を検出する、あるいは、より大きな感受性および精度をもち、より限定された数の標的を検出することが可能なはずである。
【0214】
実施例11
多重不完全転写および質量分析を用いる検出
2つのAPC、APC 2−1および12−1(図29に示される)を混合し、アブスクリプション反応を45℃で29分間実施し、アブスクリプトを、すべて前述のプロトコルに従って、LC−MSによって分析した。APC 2−1により作製されるアブスクリプトは、AAG(APC 4と同様)であり、APC 12−1により作製されるアブスクリプトは、AAUであった。図25に示す通り、アブスクリプト AAGとAAUは、TLCによって分離することができない。しかし、これらのアブスクリプトは、質量分析によって分離することができる。図31は、2つのAPCを用いる多重反応からの質量スペクトログラムを示すが、これは、m/z値を基礎として容易に分離される。このデータによって、あるAPCからの不完全転写が、他のAPCから生じる不完全転写の存在によって阻害されなかっということも実証される。
【0215】
図30は、対照の反応と比較した場合の、多重アブスクリプション反応から生じるAAUおよびAAGシグナルの概要を示す。個々のABC 2−1反応データは、カラム1および2にある。個々のABC 12−1反応データは、カラム5および6にある。組み合わせられた反応データ(反応は、二重に行われた)は、カラム9〜12にある。AAG、AAU、およびAAG+AAU対照は、カラム13〜16である。
【0216】
前述の本明細書では、本発明を、特定の実施形態に関して記述してきた。しかし、様々な変更態様と改変を、下の特許請求の範囲に示す通りの本発明の範囲を逸脱することなく行うことができることを理解するべきである。明細書および図は、限定的なものではなく、例示的なものであるとみなされるべきであり、すべてのこうした改変は、本発明の範囲内に含まれるべきものである。すべての引用文献は、参照によって、本明細書に完全に組み込まれるものとする。実施形態が様々な要素または特徴を含むことができる一方、こうした実施形態は、また、本質的に前記要素または特徴からなる、あるいは前記要素または特徴からなる可能性があるとも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0217】
図面の簡単な説明
【図1】不完全プロモーターカセット。不完全プロモーターカセット(APC)は、ポリメラーゼ結合部位を形成し、かつ特定の核酸配列(これは、APCリンカーと称される)との相互作用を介して他の高分子に付着できる、核酸の領域である。APCリンカーは、標的核酸(DNAまたはRNA)と、標的核酸の鋳型または非鋳型鎖上の相補的な配列とのハイブリッド形成によって付着できる。APCリンカーはまた、タンパク質に結合する分子の検出のために、当該タンパク質などの任意の標的分子上に配置される相補的な配列ともハイブリッド形成できる。複数の検出可能なオリゴヌクレオチドは、不完全プロモーターカセットに結合されるポリメラーゼによって産生される。この図では、表されるAPCは、本質的に相補的な2つの領域(A、A’およびC、C’)を含有し、これは、「バブル領域」によって隔てられる。この概略図では、2つの鎖の領域が非相補的である(BおよびE)ために、「バブル領域」が産生される。あるいは、APCは、2つの完全に相補的な鎖を有していてもよい。RNAポリメラーゼが結合すると、DNA鎖は分離し、「バブル領域」が形成される。 領域A、BおよびCは、1つの鎖上にある。領域C’EおよびA’は、相補的な鎖上にある。APCは2つの別々の鎖(ABCおよびC’EA’)から作製することもできるし、6つの領域すべてが単一のポリヌクレオチド上にあってもよく(領域CとC’は、リンカー領域Dによって隔てられる)、これらは、必要であれば改変できる。リンカー領域Dは、CおよびC’を連結するのみの役割を果たす可能性もあるし、領域Dの配列が、それだけには限らないが、EcoRI QIII変異体、lacリプレッサー、および他のRNAポリメラーゼを含めて、不完全転写を増強できる他の因子(例えば転写妨害(transcription roadblock)タンパク質)のための結合部位として働いてもよい。リンカー領域Dは、単一の妨害タンパク質または複数の妨害タンパク質のために設計できる。リンカー領域Dの長さは、リンカー領域の機能に依存する。
【図2】反復的オリゴヌクレオチド合成によるシグナル産生。シグナルは、複数のオリゴヌクレオチド転写産物を形成するための、ヌクレオチドの酵素的組み込みによって産生される。適切な条件下では、RNAオリゴヌクレオチドは、プロモーターの非存在下では、核酸鋳型から作製することができる。イニシエーターは、1つ以上のヌクレオシド、ヌクレオシドの類似体、ヌクレオチド、またはヌクレオチド類似体からなり得る。イニシエーターは、それだけには限らないが、1〜25ヌクレオチド、26〜50ヌクレオチド、51〜75ヌクレオチド、76〜100ヌクレオチド、101〜125ヌクレオチド、および126〜150ヌクレオチド、151〜175ヌクレオチド、176〜200ヌクレオチド、201〜225ヌクレオチド、226〜250ヌクレオチド、および250超のヌクレオチドを含めて、共有結合で連結された1つ以上のヌクレオチドを含有することができ、かつ、R官能基を含有できる。イニシエーター(nコピー)は、末端鎖伸長のためのnコピーのターミネーターを用いて直接延長させることができるし、nコピーの他の伸長因子ヌクレオチド(Y位置)を、イニシエーターとターミネーターの間に組み込んで、より長いオリゴヌクレオチドを形成することもできる。ターミネーターは、第2の官能基を含有できる。NIはモノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの類似体を開始し、NEはモノヌクレオチドまたは類似体を延長し、NTはモノヌクレオチドまたは類似体を終結させ、Z=x+y;R1=H、OH、またはレポーター基;R2=H、OH、またはレポーター基;N=デオキシまたはリボヌクレオチド;ポリメラーゼ=RNA依存性またはDNA依存性RNAポリメラーゼ。DNAまたはRNAは、他の分子(例えばタンパク質)に付着していてもよい。 反復的オリゴヌクレオチド転写産物は、その後、質量分析を使用して検出される。質量分析は、いずれの「標識」部分も含まないオリゴヌクレオチド転写産物に関して実施できる。しかし、イニシエーター、組み込まれたヌクレオチド、またはターミネーター分子のいずれか1つにおけるヌクレオチド類似体の使用は、得られる種の分子量を変化させることとなり、同じヌクレオチド長の複数のオリゴヌクレオチドを区別するために、質量分析に使用することができる。
【図3】一本鎖DNAまたはRNA上の不完全開始を介するジヌクレオチド合成。一本鎖の(ss)核酸は、DNAまたはRNAである。ポリメラーゼは、DNA依存性またはRNA依存性RNAポリメラーゼである。NI=3’−OHヌクレオシドまたはヌクレオチドイニシエーター;NT=5’−三リン酸ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体ターミネーター。R1は、5’リン酸基、糖の2’位置上、またはプリンまたはピリミジン塩基上であり得る。R2は、ピリミジンまたはプリン塩基上、または糖/リボースまたはデオキシリボースの2’または3’位置上であり得る。R1=H、OH、および/または本明細書に記述する通りの任意のレポーター基またはレポーター基前駆体。R2=H、OH、および/または本明細書に記述する通りの任意のレポーター基またはレポーター基前駆体。
【図4】標的部位プローブ。RNAポリメラーゼを、遺伝子特異的なまたは領域特異的な標的部位プローブ(TSP)のハイブリッド形成によって、標的核酸における特定のヌクレオチド位置(部位)に導くことができる。標的部位は、配列(一塩基多型の検出など)または構造(特定のヌクレオチドのメチル化状況を評価することなど)について分析されるべきDNAにおけるヌクレオチド位置であり、これは、標的配列の鋳型鎖上の、標的配列中の領域EとC’の接合部に位置される。TSPは、標的部位ヌクレオチドの約8〜14塩基上流から始まり、約15〜35塩基上流で終わる、標的核酸と相同の領域(領域A)を含有する。TSPの第2の領域は、標的部位のすぐ上流の8〜14のヌクレオチドと非相補的であるように設計されており(領域B)、その結果、TSPが標的核酸とハイブリッド形成する場合、メルトされた(melted)「バブル」領域が形成される。TSPは、標的部位ヌクレオチドのすぐ下流の5〜25のヌクレオチドと本質的に相補的である第3の領域(領域C)を含有する。RNAポリメラーゼは、バブル複合体と結合することとなり、その結果、転写は、E/C’接合部から始まり、下流、C/C’ハイブリッドの方に移動することとなる。
【図5】DNA中のメチル化されていないシトシン基の脱アミノ転換。脱アミノ化は、メチル化されていないCをUに転換する。メチル化されたC基(真核生物の遺伝子を調節するCpGアイランドなど)は、脱アミノ化に対して耐性であり、産物DNA中にCとしてとどまる。100%脱アミノ化が起こる場合、メチル化されたDNAは、CpG対(doublet)を依然として含有するが、メチル化されていないDNAは、シトシンを全く含有せず、脱アミノ化の前にCpG対があったところにUpGを含有することとなる。2つのDNAが異なるジヌクレオチドをコードするので、DNA配列のこの違いは、不完全転写によって、メチル化されたDNAとメチル化されていないDNAとを区別するために使用できる。 ジヌクレオチド合成は、DNAの全体のメチル化状態を評価するために使用できる。RNAポリメラーゼ、CTPまたはCTP類似体(R1−C−OH)、およびGTPまたはGTP類似体(R1−CpG−R2)の存在下では、脱アミノ化メチル化DNA鋳型は、標識されたジヌクレオチド産物のnコピーを産生する(ただし、nは、出発DNA中のメチル化されたCpGジヌクレオチドの数に比例する)。脱アミノ化非メチル化DNA鋳型は、この鋳型が、もはやいずれの位置でも「C」をコードしていないので、これらの基質を用いてジヌクレオチドを産生することができない。 C(ApC、CpC、GpC、UpC)で終わる標識されたジヌクレオチドを用いる転写開始およびGTPを用いる終結によるトリヌクレオチドの不完全合成を使用して、脱アミノ化メチル化鋳型からのシグナルを産生できるが、脱アミノ化非メチル化鋳型からは産生できない。このトリヌクレオチド合成手法は、部位特異的なオリゴヌクレオチドの付加によって、拡大でき、図6に示す通り、完全なアイランドではなく、特定のCpG部位のメチル化状況の評価が可能になる。
【図6】不完全開始によって、CpGアイランドにおける特定のCpG部位のメチル化状況を評価すること。標的部位プローブは、特定の遺伝子中の特定のCpGアイランドのメチル化状況を試験するために使用されることができる。脱アミノ化メチル化されたDNAでは、ジヌクレオチドCpGは、メチル化されていない部位2ではなく、3つのメチル化された部位1、3、および4で、鋳型によってコードされる。部位3がメチル化されているかどうか、もしもされている場合、どの程度であるか確認するために、図4に記載される通りに、位置(C21)を、標的部位プローブを用いて標的にすることができる。当該の鋳型Cは、バブル領域と結合する適切にプライムされるRNAポリメラーゼのために、次に組み込まれるヌクレオチドをコードするように、バブル領域と下流の二重鎖が接合する所に配置される。Nxが、トリヌクレオチドイニシエーターなどのためのCpCであり得る場所で、イニシエーターR1−NxpC−OHが使用される場合、Nxは、ジヌクレオチドCpCイニシエーターのためのCであり得る、あるいは、イニシエーターは、GTPまたはGTPの類似体pppG−R2Gを用いて延長させて、トリヌクレオチドR1NxCpG−R2を形成することができる。同様に、当該のCがメチル化されない場合、この位置は、ここではUとなり、ヌクレオチドAをコードする。ATPまたはATP類似体pppA−R2Aが存在する場合、これは、Cがメチル化されなかった位置の反対側に組み込まれることとなる。 分子量を基礎として、異なるトリヌクレオチド配列を容易に区別することが可能である質量分析を実施して、Gで終結するオリゴヌクレオチドの、Aで終結するものに対する相対的な量を決定する。G終結トリヌクレオチドに対応するピークの大きさの、A終結およびG終結トリヌクレオチドの全ピークに対する比は、メチル化インデックス(M)に相当する。その位置のCsのすべてがメチル化される場合、M=1。その部位がまったくメチル化されない場合、M=0。また、ヌクレオチド類似体は、得られるオリゴヌクレオチドに異なる分子量を与えるために、本発明で使用することもできる。
【図7】不完全転写による一塩基多型(SNP)の検出および同定。特定のDNAヌクレオチド(A、C、G、T/dU)の同一性は、標的部位プローブ(TSP)を用いる不完全転写によって特定できる。例えば、DNAが正常なヌクレオチド(野生の型)を含有するか、変異体ヌクレオチド(点突然変異、一塩基多型/SNP)を含有するかを決定するために、SNP位置が、下流の二重鎖とバブル領域の接合部の、C/C’ハイブリッドにおける最後のヌクレオチドに相当するように、遺伝子特異的なTSPを、標的DNA(または増幅/複製産物)に加えることができる。SNP部位の上流の領域と相補的であるイニシエーターオリゴヌクレオチド(R1NI−OH)は、RNAポリメラーゼによって延長され、SNPに対応する、次にコードされるヌクレオチドが付加される。得られるオリゴヌクレオチドを検出し、質量分析を用いて互いに識別される。
【図8】不完全転写による核酸、タンパク質などの間接的な検出。不完全転写は、反復的オリゴヌクレオチド転写産物の合成によって、直接的に核酸(特定の疾患に関連する、またはウイルスおよび細菌病原体に関連するDNAまたはRNAなど)を検出するために使用できる。あるいは、a)前記タンパク質、炭水化物、脂質、ハプテンまたは他の分子を認識する、抗体、相補的な核酸配列、化学的な部分などを、b)1つ以上の不完全プロモーターカセット(APC)と連結させることによって、核酸、タンパク質、炭水化物、脂質、ハプテン、または他の分子の存在を間接的に検出できる。APCからの複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物の産生を検出し、標的分子の存在を示すことができる。 APCは、人工のプロモーターを含有してもよいし、特定のRNAポリメラーゼのためのプロモーターを含有してもよい。数十、数百、数千、数万またはそれより多くの不完全プロモーターカセット(APC)を含めて、複数のコピーが付着されている粒子を用いることによって、分子標的の検出の増強を達成できる。図8は、核酸の検出のための捕捉配列を結びつけられたAPCの使用を説明する。
【図9】RNAまたはDNA標的は、化学修飾された配列特異的な標的部位プローブとハイブリッド形成することによって検出できる。核酸標的が、標的分子上の不完全転写によって、直接的に検出されることができる一方、これはまた、不完全プロモーターカセット(APC)に付着させたプローブ配列とのハイブリッド形成によって検出することもできる。複数のAPCは、付着させることができ、単一の結合事象からのシグナル産生、したがって、感受性を増大することができる。感受性および特異性はまた、1つの反応からの複数の異なるシグナルを多重化:産生することによって増大させることもできる。それぞれ同じ標的分子の異なる領域にハイブリッド形成し、それぞれ異なるAPCで標識される3プローブを、標的核酸にハイブリッド形成させる。1つあたり3つのAPCを用いて、感受性が増大される。1つの標的分子からの3つの独立したシグナルの産生によって、起こり得る偽陽性は減少するので、特異性もまた増大される。 複数のAPCを含有するデンドリマーは、ヘテロ二機能性リンカーを介して標的部位プローブに付着される。各デンドリマーは、同じAPCの複数のコピーを含有し、単一のアブスクリプトをコードする。異なるAPCを含有する複数のデンドリマーを、合成できる。すべてのAPCは、同時に検出および定量化できる。特異性は、各々の異なるAPC産物の比に注目することにより決定される。特異性の増大は、異なるアブスクリプトをコードするAPCを用いて標識される、さらなるデンドリマーを用いて得ることができる。感受性の増大は、それぞれ同じ産物をコードする複数のデンドリマーを用いて達成できる。 APCで標識されたデンドリマーを、タンパク質(例えば抗体)に付着させることも可能である。
【図10】核酸と同様に、多重化は、感受性および特異性を向上させることができる。捕捉抗体は、大きな体積のサンプルから標的分子を抽出できるので、捕捉抗体の使用により、特異性(特異的なタンパク質のみが結合されるような)をさらに向上させることができ、また、感受性も向上させることができる。図示する実施形態では、タンパク質毒素は、捕捉抗体を用いて固定される。2つ以上の毒素エピトープ特異的なペプチド抗体(それぞれ、不完全プロモーターカセットで標識される)が、加えられる。各APCが異なるアブスクリプション産物を作製するように、アブスクリプション基質が加えられ、これは、その後検出および定量化される。より高レベルの特異性は、より多くの毒素−特異的抗体を加えることによって、達成できる。正のシグナルは、適切な比のこれらの抗体の各々からのアブスクリプト産生を、その後必要とするであろう。例えば、APC1はApUpAをコードし、APC2はApUpCをコードし、APC3はApUpGをコードする。3つのアブスクリプトはすべて、同じApUイニシエーターを使用する。それぞれ、3つの位置としての異なるヌクレオチドを組み込み、それによって、異なる質量のアブスクリプトを産生する。あるいは、A、C、およびGが、違うように標識され、それぞれが異なるシグナルを産生できる。
【図11】反復的オリゴヌクレオチド合成を用いるテロメラーゼ活性の検出。DNAポリメラーゼを用いる反復的オリゴヌクレオチド合成はまた、シグナル産生のために使用できるが、産物オリゴヌクレオチドは、放出される必要はなく、産物にタンデム的に連結されればよい。一例として、テロメラーゼ活性は、固体マトリックスに、テロメラーゼ特異的なプローブを固定して、DNA合成のための独自のRNA鋳型を運ぶ、細胞のテロメラーゼを捕獲することによって検出できる。例えば、ヒトテロメラーゼでは、酵素上のRNA鋳型は、DNA配列GGGTTAをコードする。捕捉プローブは、配列GGGTTAを含有することができ、テロメラーゼがサンプル中に存在する場合、これは、テロメラーゼ捕捉プローブの末端に反復的にに加えられることとなる。シグナル産生は、いくつかの方法で達成することができ、これらのうちの1つは、DNA産物の主鎖に沿って付着される複数のR1基を有する産物を産生するための合成反応において、1つ以上のレポーターで標識されたdNTPを含むことを必要とする。図11は、不完全転写反応のための鋳型配列を示す。図11a:ポリ[dG−dC]は、dCpdGを繰り返す合成のデオキシリボヌクレオチドポリマーである。個々の鎖は、様々な数のジヌクレオチドリピートを含有する。図11b:バブル複合体1は、合成の、部分的に相補的な鋳型および非鋳型鎖をアニーリングすることによって作製された。非鋳型鎖の垂直の隔り(offset)は、分子の一本鎖のバブル部分を表す。座標系は、バブルの下流の端を基準にする。二本鎖セグメントの隣の対になってない塩基は、位置+1にある。位置+1の左の(上流の)位置には、−1で開始する負の数が与えられる。座標系は、リボヌクレオチドイニシエーターの3’末端の位置を示すために使用される。イニシエーターAAの3’末端は、+1に整列配置され、イニシエーターAUの3’末端は、+2に整列配置される。理論に従うと、転写反応は、イニシエーターの3’末端の右から左に進行する。図11cは、鋳型鎖を表し、相補的な非鋳型鎖は存在しない。配列は、3’から5’方向に示される。
【図12】本発明の方法および組成物で使用するための、伸長因子またはターミネーターであり得るある種のヌクレオチド。オリゴヌクレオチドの内部の、あるいは3’末端位置に含まれる可能性があるヌクレオチド類似体を示す。これらの類似体のすべては、3’OH基の置換によって、簡単にターミネーターに転換させることができる。これらの類似体はまた、特定の反応条件下では、3’OH基をもつターミネーターとして機能できる。
【図13】Rであり得る他の蛍光基。こうした基は、ピリミジン中の5Sの位置またはプリン中の8Sの位置に付加された後、本発明の方法および組成物に有用となるであろう。
【図14】ヌクレオチドの他のR基修飾:式NucSRの5−Sが置換されたピリミジンまたは8−Sが置換されたプリン(ただしaは、1〜2である)。
【図15】多重DNA検出。標的DNA分子の異なる領域にそれぞれハイブリッド形成する、複数の標的特異的なプローブ、および約100近くのヌクレオチドを、標的DNA分子を含有するサンプルに加える。TSPが、同じ配列およびレポーターを有する不完全転写産物をコードする場合、この方法は、感受性の増大という結果になる。 TSPが異なる配列およびレポーターを有する不完全転写産物をコードする場合、高い選択性および多重化を生じる場合がある。
【図16】モジュラーAPC。APCは、TSPリンカーを伴って、または標的配列に特異的である核酸プローブを伴って設計できる。APCが同じ配列およびレポーターを有する不完全転写産物をコードする場合、この方法は、感受性の増大という結果になる。 APCが異なる配列およびレポーターを有する不完全転写産物をコードする場合、高い選択性および多重化を生じる場合がある。
【図17】APCを使用するタンパク質検出。
【図18】50pmolのAUGとAAGトリヌクレオチドからの質量スペクトルの比較。
【図19】50、5、および0.5pmol(50% CH3CN/H2O中)のAAGトリヌクレオチドを検出するための質量分析方法の感受性。
【図20(A)】10および100μM AAGを用いてスパイクされたアブスクリプション反応に対するスキャン190〜210(約3.5〜3.8分)を合計した質量スペクトル。468daの近くのAAGシグナルは、−2荷電イオンから生じる。
【図20(B)】100μM スパイクされたサンプルからの468〜469da(AAG)および593〜594da(ApA)質量範囲からのシグナルに対するクロマトグラム。
【図21】実施例の多重化反応に使用される不完全プロモーターカセット。アブスクリプション複合体のバブル部分は太字で示され、鋳型鎖上の開始部位はグレーで強調される。どちらの不完全プロモーターカセットも、同じ標的部位プローブ(TSP)(A192)を用いて、ただし、異なる鋳型鎖(TEM)、A197またはA56を用いて構築された。バブル4に対するイニシエーターはApAであり、UC2361に対するそれはUpCであり、組み込みヌクレオチドはGTPである。バブル4からの予測されるアブスクリプト産物は、AAGであり、UC2361からのそれはUCGである。
【図22】TLCによる混合されたAPC実験からのアブスクリプション産物の分析。レーン1〜3は、バブル4(最終100fmol)を有し、ApA(レーン1)、UpC(レーン2)、ApA+UpC(レーン3)を用いて開始させた。レーン4〜6は、等モル濃度のバブル4(最終100fmol)およびAPC UC2361(最終100fmol)を有し、これらは、レーン4ではApAを用いて、レーン5ではUpCを用いて、レーン6ではApA+UpC両方を用いて開始させた。レーン7〜9は、APCUC2361(最終100fmol)を有し、UpC(レーン7)、ApA(レーン8)、およびApA+UpC(レーン9)を用いて開始させた。レーン10は、ApAを用いて開始されるTEM A197であり、レーン11は、UpCを用いて開始されるTEM A57であり、レーン12は、イニシエーターApA+UpCを含み、APCを含まない対照である。レーン13は、α32P−GTPに対する対照である。開始剤濃度は、それぞれ最終1mMであった。
【図23】多重アブスクリプション反応で使用するための、様々な組み合わせのオリゴヌクレオチド鎖を用いて作製される10の不完全プロモーターカセットの表示。アブスクリプション複合体のバブル部分は太字で示され、鋳型鎖上の開始部位はグレーで強調される。各標的部位プローブ(TSP)とAPCを構築するために使用される鋳型鎖(TEM)の同一性を、APCと並べて列挙する。イニシエーターおよび予測されるアブスクリプション産物も列挙する。
【図24】図23に表されるAPCを形成するためのオリゴヌクレオチド鎖のアニーリングは、4%アガロースゲル上の電気泳動によって決定された。APCの4%アガロースゲル分析。1pmol/μlのAPC 5μlを、各レーン(1〜10)に装填した。一本鎖との比較を示すため、TEM A191(50pmol/μlを5μl)をレーン11に装填し、レーン12は50bpのラダーを有していた。
【図25】アブスクリプトのTLC分析を、APC 4、12、24、25および32から行った。各アブスクリプションは、最終濃度1mMのイニシエーター、それに加えて図に列挙される通りの最終濃度の1mM NTP、それに加えて1μlのアブスクリプターゼを含む、100fmolのAPCを用いて行われた。アブスクリプションは、45℃で60分間行われた。各反応からの2μlを、TLCプレート上にスポットし、6:3:1のイソプロパノール:NH4OH:H2Oで展開した。TLCプレートを、10分間、燐光体イメージスクリーンに曝した。
【図26】産生されるアブスクリプト(y軸)に対するサンドイッチELISAにおけるSEBタンパク質の濃度(x軸)。
【図27】その個々の実行からの10のトリヌクレオチドの組み合わせられたクロマトグラム。埋め込まれた図は、どの番号をつけられたピークが、どのアブスクリプト、ならびに関連する保持時間、m/z値、およびピークの面積を指すかを示す。10μlの10μM溶液を、アトランティス(Atlantis)dC18 3μm 2.1mm×30mmカラムによって分析した(100pmol)。使用されるMSチューンファイルは、「アブスクリプト」であった。
【図28】質量分光によって同時に検出されるアブスクリプトの混合物。各アブスクリプトの隣に、相当するそのm/z比を示す。10μlの10μM溶液を、アトランティス(Atlantis)dC18 3μm 2.1mm×30mmカラムによって、分析した(100pmol)。使用されるMSチューンファイルは、「アブスクリプト」であった。
【図29】多重アブスクリプション反応に使用される2つの不完全プロモーターカセットの表示。アブスクリプション複合体のバブル部分は太字で示され、鋳型鎖上の開始部位は、グレーで強調される。各標的部位プローブ(TSP)と、APCを構築するために使用される鋳型鎖(TEM)との同一性を、APCと並べて列挙する。イニシエーターおよび予測されるアブスクリプション産物も列挙する。
【図30】対照反応と比較した場合の、多重アブスクリプション反応から産生される全シグナル。
【図31】2つのAPC、APC 2−1およびAPC 12−1を用いる多重反応からの質量スペクトログラム。450.0895のピークはAAUに相当し、469.5732のピークはAAGに相当する。アトランティス(Atlantis)dC18 3μm 2.1mm×30mmカラムを使用し、使用されるMSチューンファイルは、「アブスクリプト」であった。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、不完全転写開始を介する核酸鋳型上での反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを生じることによって、目的とする分子を検出することに関する。オリゴヌクレオチドの複数のコピーは、質量分析を含めた方法を介して検出され、ターゲット分子の存在および/または特定の特性を示す。本発明の方法は、病原体、毒素、タンパク質、核酸、突然変異、癌状態、あるいは他の分子、疾患、または状態を検出するために使用できる。
【0002】
関連技術
核酸増幅産物の検出のための様々な方法の開発は、近年、核酸配列の検出、同定、および定量化を進歩させてきた。核酸検出は、質的および量的分析のために潜在的に有用である。例えば、核酸検出は、病原体を検出および特定する;明らかにされた表現型と関連付けられる、遺伝的および後成的な変化を検出する;遺伝病、あるいは特定の疾患に対する遺伝的罹患性を診断する;発症中の、疾患における、かつ/または、薬物を含めた定義された刺激に応答する、遺伝子発現を評価する;また、細胞の活性を強化する分子および生化学的機構を研究するさらなる手段を研究者に提供することによって、通常、当分野の進歩を促進するために使用できる。
【0003】
非常に様々な核酸検出技術が開発され、そのうちのいくつかは、試験サンプル中の低レベルの標的核酸の存在を検出するための適切な手段として進歩してきた。こうした方法のあるカテゴリは、標的増幅と通常呼ばれ、これは、標的配列の複数のコピーを生じ、その後、これらのコピーは、例えばゲル電気泳動などによって、さらなる分析を受ける。他の方法は、例えば、ハイブリッド形成されたプローブを切断して複数の産物を形成することによって、あるいは、隣接するプローブを連結して、固有の、ハイブリッド形成依存の産物を形成することによって、ハイブリッド形成されたプローブからの複数の産物を生じる。さらに他の方法、例えば、標的配列結合ドメインおよび標識されたレポーティング(reporting)配列結合ドメインを有する分枝DNAプローブのハイブリッド形成に基づく方法などは、ハイブリッド形成事象により生じるシグナルを増幅する。
【0004】
等温標的核酸増幅を含めて、当技術分野で知られた標的核酸増幅の多くの方法が存在し、これは、例えば、正常および異常な遺伝子の検出だけでなく、病原体(細菌、ウイルス、および真菌など)の迅速かつ正確な検出のための需要を満たすために開発されている。こうした技術がすべて、サンプル中の微細な量の標的核酸の検出および同定のための強力なツールを提供する一方、これらはすべて、様々な問題を持っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、低レベルのターゲット分子を検出できる、迅速で、感度が高く、かつ標準化された核酸シグナル検出法が必要である。
【0006】
こうしたニーズ、ならびに他のニーズは、本出願の本発明によって適えられる。不完全転写の方法は、2002年10月29日に出願され、2003年5月8日に国際公開第03/038042号パンフレットとして公開された、国際特許出願PCT/US02/34419号明細書;2001年10月30日に出願され、米国出願公開番号US−2003−0099950として2003年5月29日に公開された、米国特許出願第09/984,664号明細書;および2003年4月29日に出願され、米国出願公開番号US−2004−0054162−A1として2004年3月18日に公開された、係属中の米国特許出願第10/425,037号明細書(これらはすべて、その内容全体を参照により本明細書に組み込む)に記載されている。
【0007】
不完全転写は、他の方法に対するいくつかの利点を提供する。この方法は、比較的単純であり、ほとんどステップを必要とせず、等温で、かつ安価な試薬を用いて実施することができ、迅速であり、非常に感度が高く、かつ、別の条件と容易に適合する。増幅される核酸は、目的とする実際のターゲット分子である必要がない。どちらかと言えば、増幅された核酸は、不完全転写を介する核酸増幅を最終的に必要とするステップを使用して検出されるものとして、例えば、タンパク質、核酸、または目的とする他のターゲット分子の存在を示す可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数のオリゴヌクレオチド転写産物を産生することによって、核酸鋳型上での反復的合成事象を介して、ターゲット分子(核酸配列またはタンパク質など)の存在を検出するための方法を提供する。複数のオリゴヌクレオチド転写産物は、FRETを含めた様々な手段を介して、放射性同位元素的に、比色定量的に、酵素的に、また質量分析的に検出できる。質量分析は「標識されていない」分子を検出することができ、迅速で、感度が高く、かつ正確である。
【0009】
一般に、質量分析は、真空中で分子をイオン化し、それらを揮発によって、「飛ばす」ことによって、個々の分子を「秤量する」手段を提供する。電場と磁場の組み合わせの影響を受けて、イオンは、その個々の質量(m)および電荷(z)に応じた軌道に従う。質量分析は、親の分子イオンの質量の測定によって、有機分子の分析および特徴付けるために使用されている。さらに、この親の分子イオンの他の粒子(例えばアルゴン原子)との衝突を仕組むことによって、分子イオンは、分裂し、いわゆる衝突誘起解離(CID)によって、二次イオンが形成される。分裂パターン/経路により、しばしば、詳細な構造情報を引き出すことができる。質量分析方法は、「Methods of Enzymology」、第193巻にまとめて示されているのを見ることができる:「Mass Spectrometry」(J.A.マクロスキー(J.A.McCloskey)、編集)1990年、アカデミックプレス、ニューヨーク(Academic Press、New York)。
【0010】
高い検出感受性、質量測定の精度、MS/MS構造および速度と関連するCIDによる詳細な構造情報、ならびにコンピュータへのオンライン・データ転送を提供する際の質量分析の分析上の利点のため、核酸の構造分析のための質量分析の使用に対しては、かなりの関心が存在していた。この分野をまとめて示している最近の総説には、K.H.シュラム(K.H.Schram)、「Mass Spectrometry of Nucleic Acid Components、Biomedical Applications of Mass Spectrometry」34、203〜287頁(1990年);およびP.F.クライン、「Mass Spectrometric Techniques in Nucleic Acid Research」、「Mass Spectrometry Reviews」9、505〜554頁(1990年)、および米国特許第6,602,662号明細書が含まれる。
【0011】
質量分析検出は通常、親の分子イオンの質量を決定し、これを介して、既に知られているオリゴヌクレオチド配列を確認することによる、あるいは、特に、高速原子衝撃(FAB質量分析)またはプラズマ脱離(PD質量分析)の方法を、イオン化および揮発のために利用する、MS/MS構造における、CIDを介する二次イオン(フラグメントイオン)の産生を介して、知られている配列を確認することによる、低分子量の合成オリゴヌクレオチドに限られている。一例として、オリゴデオキシヌクレオチドの化学合成のための防護された二量体ブロックの分析に対するFABの適用が記載されている(ヴォルター(Wolter)ら、「Biomedical Environmental Mass Spectrometry 14」、111〜116頁(1987年))。
【0012】
より最近の2つのイオン化/脱離技術は、エレクトロスプレー/イオンスプレー(ES)およびマトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)である。
【0013】
エレクトロスプレーイオン化およびマトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析は、それによってサンプルが、第一に分子量情報を取り出すために分析されるような、「ソフト(soft)」イオン化技術である。
【0014】
エレクトロスプレーイオン化は、大抵の小さい有機分子ならびにタンパク質および他の高分子量生体分子の質量測定に等しく適している。一般に、陽イオン化エレクトロスプレーは、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、ならびにアミンおよび正電荷を持つことができる他の官能基を含有する小分子の分析のために使用される。陰イオン化エレクトロスプレーは、オリゴヌクレオチド、糖類、ならびに酸性官能基および負電荷を持つことができる他の基を含有する小さい有機分子の分析のために使用される。
【0015】
エレクトロスプレーイオン化を用いると、サンプルは、溶液で質量分析計に導入され、したがって、この技術は、HPLCまたはCZEと直接結びつけられる可能性があり、すべての成分についての分子量情報を提供するオンラインクロマトグラフィデータを産生し、したがって、オフラインの分離、それに続く個々の画分の単離および分析の必要性が回避される。ES/EIS質量分析に関するさらなる考察については、例えば、ヤマシタ(Yamashita)ら(「J.Phys.Chem.」88、4451〜59頁(1984年)、PCT出願国際公開第90/14148号パンフレット)を参照のこと。現在の適用は、最近の総説(例えば、R.D.スミス(R.D.Smith)ら、「Anal.Chem.」62、882〜89頁(1990年)およびB.アードレイ(B.Ardrey)、「Electrospray Mass Spectrometry、Spectroscopy Europe」4、10〜18頁(1992年))にまとめて示されている。テトラデカヌクレオチド(コヴィー(Covey)ら、「The Determination of Protein、Oligonucleotide and Peptide Molecular Weights by lonspray Mass Spectrometry、Rapid Communications in Mass Spectrometry、2、249〜256頁(1988年))、また、21−mer(Methods in Enzymology、193、「Mass Spectrometry」(マクロスキー(McCloskey)編)p.425、1990年、アカデミックプレス(Academic Press)、ニューヨーク(New York)の分子量が決定されている。質量アナライザーとしては、四重極が、最も頻繁に使用される。フェムトモル量のサンプルにおける分子量の測定は、複数のイオンピーク(すべてを、質量算出のために使用できる)の存在のため、非常に正確である。
【0016】
対照的に、飛行時間型の(time−of−flight)(TOF)構成が、質量アナライザーとして使用される場合、MALDI質量分析は、特に魅力的であり得る。MALDI−TOF質量分析は、ヒレンカンプ(Hillenkamp)らによって導入された(「Matrix Assisted UV−Laser Desorption/lonization:A New Approach to Mass Spectrometry of Large Biomolecules」、Biological Mass Spectrometry(バーリンゲーム(Burlingame)およびマクロスキー(McCloskey)編)、エルゼビアサイエンス出版(Elsevier Science Publishers)、アムステルダム(Amsterdam)、49〜60頁、1990年)。ほとんどの場合、この技術(質量スペクトル)を用いると、複数の分子イオンピークは原則として生じないので、ES質量分析と比較してより単純に見える。
【0017】
異なるサイズのDNAを分析するために、様々な質量分析技術が使用された(ネルソン(Nelson)ら、「Volatilization of High Molecular Weight DNA by Pulsed Laser Ablation of Frozen Aqueous Solutions」、Science、246、1585〜87頁(1989年);ヘース−フェーレ(Huth−Fehre)ら、Rapid Communications in Mass Spectrometry、6、209〜13頁(1992年);K.タン(K.Tang)ら、Rapid Communications in Mass Spectrometry、8、727〜730頁(1994年);ウィリアムス(Williams)ら、「Time−of Flight Mass Spectrometry of Nucleic Acids by Laser Ablation and Ionization from a Frozen Aqueous Matrix」、Rapid Communications in Mass Spectrometry、4、348〜351頁(1990年))。特願昭59−131909号公報は、電気泳動、液体クロマトグラフィ、または高速ゲル濾過のいずれかにより分離された核酸フラグメントを検出する機器を記載している。質量分析検出は、DNA中に通常存在しない原子(S、Br、IまたはAg、Au、Pt、Os、Hgなど)を核酸に組み込むことによって達成される。
【0018】
本出願に引用または特定されたすべての文書または刊行物は、その内容全体を本明細書に組み込むものとする。これは、各々の個別文書が、具体的かつ別々に、その内容全体を引用されることを示すのと同じことである。
【0019】
発明の概要
本発明は、標的分子を検出するための、ポリヌクレオチド鋳型上の反復的オリゴヌクレオチド合成反応を介して、複数の検出可能なシグナルを産生するための方法および組成物を提供する。ただし、前記シグナルは、質量分析を用いることによって検出される反復的オリゴヌクレオチド転写産物である。本発明はまた、反復的合成の適用および検出方法を提供する。本発明の方法およびキットの適用には、突然変異および一塩基多型、RNA分子、病原体の検出、ならびに前癌性または癌性の突然変異および条件の検出が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0020】
一態様では、本発明は、DNAまたはRNAポリヌクレオチドから複数の反復されるオリゴヌクレオチドを検出するための方法を提供する。複数の反復されるオリゴヌクレオチド転写産物が産生される鋳型は、標的分子であってもなくてもよい。この方法は、以下を含む:(a)一本鎖の標的ポリヌクレオチドを、イニシエーター、ポリメラーゼ、および任意選択でさらなるリボヌクレオチド、および任意選択で標的部位プローブ、および任意選択で鎖終結ヌクレオチドと共にインキュベートすること;(b)前記標的ポリヌクレオチドから複数のオリゴヌクレオチドを合成すること(ここで、前記ターミネーターが、前記オリゴヌクレオチドに組み込まれ、それによって、複数の反復的オリゴヌクレオチドを合成するまで、前記イニシエーターは、延長される);および(c)目的とするポリヌクレオチドの前記反復的オリゴヌクレオチド転写産物を、質量分析を用いて検出または定量化すること(ここで、合成される前記オリゴヌクレオチドは、約2〜約26ヌクレオチド、約26〜約50ヌクレオチド、および約50ヌクレオチド〜約100ヌクレオチド、および100超ヌクレオチドからなる群から選択される長さのものである。
【0021】
上記方法のさらなる改変は、2003年5月8日に公開された国際公開第03/038042号パンフレット、および2003年5月29日に公開された米国出願公開US2003−0099950号明細書に記載されており、これらを両方とも、その内容全体を参照により本明細書に組み込む。こうした改変には、これらに限定されないが、以下が含まれる:メチル化されていないシトシン残基がウラシル残基に転換されるのに対し、メチル化されたシトシン残基はウラシルに転換されないような条件下で、一本鎖標的DNA配列を脱アミノ化するステップなどの、さらなるステップの使用;捕捉プローブまたは固定化配列の使用;一塩基多型およびメチル化の変化を検出する標的部位プローブ、イニシエーターなどの改変;不完全プロモーターカセットの使用;複数の標的部位プローブ、イニシエーターなどの使用;様々な反応条件、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、標識などの使用;改変されたヌクレオチド、ヌクレオシド;および本発明のキット。
【0022】
一実施形態では、本発明は、標的分子の存在を検出するための方法であって、(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成することと、(b)質量分析によって前記標的分子の存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出することとを含む方法を含む。別の実施形態では、前記複数のコピーのオリゴヌクレオチドの分子量および/または存在量もまた、決定される。
【0023】
一実施形態では、標的分子は、核酸鋳型を含む。別の実施形態では、標的分子は、前記核酸鋳型とは異なる。不完全転写はまた、不完全プロモーターカセットから生じることもできる。
【0024】
一実施形態では、本発明は、不完全プロモーターカセットを含む。ある種の不完全プロモーターカセットの種類の説明および特定の実施例もまた、提供される。関連する実施形態では、本発明は、不完全転写のためのこうした不完全カセットを使用する方法および関連する方法を含む。
【0025】
こうした不完全プロモーターカセットは、ある実施形態では、標的分子に対する特異性をもつ、以下からなる群から選択される第2の分子に連結させることができる:DNA配列、RNA配列、PNA(タンパク質核酸)配列、抗体、結合タンパク質、情報伝達分子、ハプテン、ビオチン、結合ヌクレオシド、結合ヌクレオチド、酵素基質、酵素基質誘導体、およびイオン。
【0026】
一実施形態では、本発明は、イニシエーターおよびポリメラーゼと共に鋳型ポリヌクレオチドをインキュベートすること;前記鋳型ポリヌクレオチドから複数のオリゴヌクレオチドを合成すること(ここで、前記イニシエーターは、転写が終結し、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が合成されるまで、延長される);質量分析によって、前記複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物の分子量および/または存在量を決定し、それによって、前記標的ポリヌクレオチドの存在を検出すること、を含む標的分子の存在を検出するための方法を含む。
【0027】
本発明の方法のある実施形態では、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物は、改変されたヌクレオチドをさらに含む。他の実施形態では、この方法は、イニシエーター、ポリメラーゼ、ターミネーター、および標的部位プローブと共に、前記標的ポリヌクレオチドをインキュベートすることをさらに含む。こうした標的部位プローブは、例外もあるが、以下からなる群から選択される大きさであり得る:約20〜約50のヌクレオチド、約51〜約75のヌクレオチド、約75〜約100のヌクレオチド、および100超ヌクレオチド。
【0028】
ある実施形態では、標的ポリヌクレオチドは、DNAであり、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物は、RNAを含む。
【0029】
標的分子の性質はまた、変化させることもできる。ある実施形態では、この方法は、以下からなる群から選択される標的分子を含む:タンパク質、核酸、RNA、DNA、炭水化物、脂質、抗原、ハプテン、およびイオン。
【0030】
ある実施形態では、本発明は、病原体を検出するための方法を提供する。他の実施形態では、方法は、以下からなる群から選択される生物由来の分子を検出する方法を含む:HIV−1;HIV−2;HIV−LP;ポリオウイルス;A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス;ヒトコクサッキーウイルス;ライノウイルス;エコーウイルス;カルシウイルス科(Calciviridae);トガウイルス科;ウマ脳炎ウイルス;風疹ウイルス;フラウイルス科(Flaviridae);デング熱ウイルス;脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス;コロナウイルス科;SARS;ラブドウイルス科;水疱性口内炎ウイルス;狂犬病ウイルス;フィロウイルス科(Filoviridae);エボラウイルス;パラミクソウイルス科;パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス;オルソミクソウイルス科;インフルエンザウイルス;ブニヤウイルス科;ハンターンウイルス;ブニヤウイルス、フレボウイルス(phlebovirus);ナイロウイルス(Nairovirus);アレナウイルス科;レオウイルス科;レオウイルス;オルビウイルス;ロタウイルス;ビルナウイルス科(Birnaviridae);ヘパドナウイルス科;B型肝炎ウイルス;パルボウイルス科;パポバウイルス科、パピローマウイルス;ポリオーマウイルス;アデノウイルス科;ヘルペスウイルス科;HSV 1;HSV 2;水痘帯状疱疹ウイルス;サイトメガロウイルス(CMV);ポックスウイルス科;痘瘡ウイルス;ワクシニアウイルス;イリドウイルス科;アフリカブタコレラウイルス;C型肝炎;ノーウォークウイルスヘリコバクターピロリ、ボレリアブルグドルフェリ(Borelia burgdorferi)、レジオネラニューモフィリア(Legionella pneumophilia)、結核菌、鳥型結核菌(M.avium)、M.イントラセルラール(M.intracellulare)、M.カンサイ(M.kansaii)、M.ゴルドナエ(M.gordonae)、黄色ブドウ球菌、淋菌、髄膜炎菌、リステリア菌、化膿連鎖球菌(A群連鎖球菌)、ストレプトコッカスアガラクティエ(B群連鎖球菌)、連鎖球菌(ビリダンス群)、糞便連鎖球菌、ストレプトコッカスボビス、連鎖球菌(嫌気性種)、肺炎連鎖球菌、病原性カンピロバクター種、腸球菌種、インフルエンザ菌、炭疽菌(Bacillus antracis)、ジフテリア菌(corynebacterium diphtheriae)、コリネバクテリウム種、豚丹毒菌、ウェルシュ菌(Clostridium perfringers)、破傷風菌、エンテロバクターエロゲネス、肺炎桿菌、パスツレラムルトシダ(Pasturella multocida)、バクテロイデス種、フゾバクテリウムヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ストレプトバシラスモニリフォルミス(Streptobacillus moniliformis)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidium)、フランベジアトレポネーマ、レプトスピラ、イスラエル放線菌(Actinomyces israelli);クリプトコッカスネオフォルマンス、ヒストプラスマカプスラーツム、コクシジオイデスイミティス、ブラストミセスデルマティティディス、クラミジアトラコマチス、鵞口瘡カンジダ;熱帯熱マラリア原虫;およびトキソプラズマ原虫。こうした分子は、例えば、DNA、RNA、タンパク質、毒素、炭水化物、脂質、抗原またはハプテンである可能性がある。
【0031】
本発明はまた、癌、DNAメチル化、突然変異、疾患を検出するための方法であって、(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成することと、(b)質量分析によって前記標的分子の存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出することとを含む方法を含む。別の実施形態では、前記複数のコピーのオリゴヌクレオチドの分子量および存在量もまた決定される。
【0032】
本発明はまた、RNA発現を検出および定量化するための方法を含む。
【0033】
それだけには限らないが、高速原子衝撃(FAB)質量分析、プラズマ脱離(Pd)質量分析、エレクトロスプレー/イオンスプレー(ES)質量分析、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析、および飛行時間型分析法の(MALDI−TOF)マトリクス支援レーザー脱離/イオン化を含めた様々な質量分析方法を、本発明の方法に従って使用できる。
【0034】
本発明はまた、組成物を含む。一実施形態では、本発明は、1つ以上の不完全プロモーターカセットに連結されたデンドリマーを含む。一実施形態では、前記デンドリマーに連結された複数の不完全プロモーターカセットは、同一である。別の実施形態では、前記デンドリマーに連結された複数の不完全プロモーターカセットは、同一でない。
【0035】
さらなる実施形態では、本発明は、目的とする標的分子に対する特異性をもつ第2の分子とさらに連結される1つ以上の不完全プロモーターカセットに連結されたデンドリマーを含む。こうした第2の分子は、以下からなる群から選択することができる:DNA配列、RNA配列、PNA配列、抗体、結合タンパク質、情報伝達分子、ハプテン、ビオチン、結合ヌクレオシド、結合ヌクレオチド、酵素基質、酵素基質誘導体、およびイオン。
【0036】
ある実施形態では、本発明は、1つ以上の不完全プロモーターカセットに連結されたデンドリマーを含有するキットを含む。別の実施形態では、本発明は、本発明の方法を実施するための組成物または装置である。
【0037】
ある実施形態では、本発明は、核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成することと;不完全な反復的に合成された転写産物の前記複数のコピーをシグナル増幅カスケードに導入することと;前記シグナルカスケードからシグナルの存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出することを含む、標的分子の存在を検出するための方法を含む。シグナルカスケードには、それだけには限らないが、以下が含まれる:PCR、不完全転写、FRET、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、および合成された転写産物により誘発されるシグナルの他の酵素的増幅。
【0038】
別の実施形態では、本発明は、1つ以上の標的分子の存在を検出するための方法であって、核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成することと;核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介して、オリゴヌクレオチドの複数のコピーの1つ以上の異なる合成を同時に実施することと;前記の1つ以上の標的分子の存在を決定することを含む方法を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、核酸鋳型上での反復的合成を介して、質量分析を用いて検出される複数のオリゴヌクレオチドを産生することによって、標的分子(核酸配列またはタンパク質など)の存在を検出するための方法を提供する。この方法は通常、標的核酸上の部位に実質的に相補的である不完全オリゴヌクレオチド産物の合成を開始するために、ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド転写イニシエーターを使用することと;重合反応を終結させること(例えばヌクレオチド剥奪、鎖終結ヌクレオチドの組み込みによって、あるいは鋳型配列中の転写終結シグナルの存在を介して);および、任意選択で、以下のいずれかを使用することを含む:(1)一本鎖標的部位の両側に二本鎖セグメントを含む転写バブル(bubble)複合体を形成する標的部位プローブ、または(2)標的部位を含む転写バブル領域を含む不完全プロモーターカセット、または(3)任意の標的分子に付着され、その後、シグナルを産生するために使用される、不完全プロモーターカセット。シグナルは、質量分析によって検出される複数のオリゴヌクレオチド転写産物を含む。
【0040】
一態様によれば、本発明は、標的DNAまたはRNA配列の一部からの複数の不完全オリゴヌクレオチド転写産物を使用して、標的分子を検出する方法を提供する。ただし、この方法は、以下を組み合わせて反応させることを含む:(a)少なくとも1つの標的部位を含む一本鎖標的核酸;(b)標的部位の上流である標的核酸上の部位と相補的であるRNAイニシエーター;(c)RNAポリメラーゼ;(d)任意選択で、ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド類似体;(e)鎖ターミネーター;および(f)任意選択で、以下のいずれか:(1)標的核酸上の標的領域と部分的にハイブリッド形成し、一本鎖標的部位の両側の第1および第2の二本鎖領域を含めた転写バブル複合体を形成する標的部位プローブ、または(2)転写開始点を含む転写バブル領域を含む不完全プロモーターカセット。この組み合わせを、以下の結果となるように、後述するように、適切な条件にかける:(a)標的部位プローブが、標的部位を含む標的領域中の標的核酸とハイブリッド形成する;(b)RNAイニシエーターが、標的部位の上流とハイブリッド形成する;(c)RNAポリメラーゼが、標的部位で転写を開始するために、RNAイニシエーターを利用し、伸長が起こり、オリゴヌクレオチド転写産物が合成される;(d)鎖ターミネーターが、伸長中の転写を終結させる;(e)RNAポリメラーゼが、ポリメラーゼ結合部位から実質的に転位置せず、鋳型から分離もせずに、短い不完全オリゴヌクレオチド転写産物を放出する;および(f)十分なシグナルが産生されるまで、(c)〜(e)が繰り返されて、反応が、停止されることとなる。あるいは、(a)不完全プロモーターカセットが、標的核酸の末端とハイブリッド形成する;(b)RNAイニシエーターが、転写開始点の上流とハイブリッド形成する;(c)RNAポリメラーゼが、標的部位で転写を開始するために、RNAイニシエーターを利用し、伸長が起こり、オリゴヌクレオチド転写産物が、合成される;(d)鎖ターミネーターが、伸長中の転写を終結させる;(e)RNAポリメラーゼは、ポリメラーゼ結合部位から実質的に転位置せず、鋳型から分離もせずに、短い不完全オリゴヌクレオチド転写産物を放出する;および(f)十分なシグナルが産生されるまで、(c)〜(e)が繰り返されて、反応が、停止されることとなる。
【0041】
このようにして産生される複数のオリゴヌクレオチド転写産物、すなわちシグナルは、質量分析によって検出および定量化され、標的分子の存在を示す。ある態様では、本発明の方法はまた、標的分子の性質または標的分子のプールの性質を示すことができる。
【0042】
一般的な技術
本発明の実施は、別段の指示がない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、細菌学、細胞生物学、生化学、および免疫学の従来の技術(これらはすべて、当分野の通常の医師の技能の範囲内である)を使用する。
【0043】
用語
本発明の理解を容易にするために、別段の記述がない限り、以下の用語は、以下の意味を有する。本明細書で使用される用語の多くのさらなる詳細は、2003年5月8日に公開された国際公開第03/038042号パンフレットおよび2003年5月29日に公開された米国出願公開第US2003−0099950号明細書;ならびに2003年4月29日に出願の係属中の米国特許出願第10/425,037号明細書で見ることができる。
【0044】
本明細書では、「約」は、「約」と称される数が、その列挙された数のプラスまたはマイナス1〜10%の数を含むことを意味する。例えば、「約」50ヌクレオチドは、状況に応じて、45〜55ヌクレオチドまたはより狭い範囲の49〜51ヌクレオチドを意味することができる。
【0045】
「不完全転写(Abortive transcription)」は、相補的な核酸鋳型配列の少なくとも1つの部分、即ち標的部位に相当するオリゴヌクレオチドの合成を反復的に開始および終結させる、酵素仲介型のプロセスである。合成される不完全オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドの長さが様々であり、約2〜約26ヌクレオチド、約26〜約50ヌクレオチド、約50ヌクレオチド〜約100ヌクレオチド、および100超のヌクレオチドを含有する可能性がある。
【0046】
「不完全転写」には、3つの段階(すなわち、開始(initiation)、伸長および終結が含まれ得る。開始段階中、ポリメラーゼは、イニシエーターと第2のNTPとの間のリン酸ジエステル結合を形成し、次いで、それに続くNTPなどを付加し、鋳型配列を転写して長さ約2〜約50ヌクレオチドのオリゴヌクレオチド転写産物を合成し、次いで、ポリメラーゼ結合部位から実質的に移動することもなく、鋳型から分離することもなく、新生のオリゴヌクレオチド転写産物を放出することによって、転写事象を終結する。言い換えれば、RNAポリメラーゼは、実質的に鋳型上の最初の結合部位にとどまり、第1の新生のオリゴヌクレオチド転写産物を放出し、続いて、別の転写開始事象に従事して、第1のオリゴヌクレオチド転写産物を産生するために転写されたのと実質的に同じ標的部位と実質的に相補的である第2のオリゴヌクレオチド転写産物を産生できる。このように、ポリメラーゼは、鋳型(すなわち標的領域)の単一の部分を反復的に転写し、実質的に同一の新生のオリゴヌクレオチド転写産物の複数のコピーを放出する。
【0047】
「反復的」は、目的とする配列の、複数の同一または非常に類似しているコピーを指す。
【0048】
「オリゴヌクレオチド産物」は、本発明の反復的合成反応により合成されるオリゴヌクレオチドを指す。オリゴヌクレオチド産物は、重合反応がRNAポリメラーゼによって触媒される転写反応である場合、「オリゴヌクレオチド転写産物」であり得、重合反応がテロメラーゼまたはDNAポリメラーゼによって触媒されるDNA合成反応である場合、「オリゴヌクレオチドリピート」であり得る。用語「オリゴヌクレオチド」は一般に、2つ以上のヌクレオチドからなり、通常、必ずしも必要ではないが、長さが約200ヌクレオチド未満である、一般的に一本鎖の短い合成ポリヌクレオチドを意味する。
【0049】
「終結」は、ポリメラーゼによって触媒される鎖伸長またはプライマー伸張反応を終えるための、鎖ターミネーターの使用を指す。「鎖ターミネーター」またはターミネーター」は、開始および/または伸長段階を超えるとポリメラーゼによる転写の継続を阻害する、任意の化合物、組成物、複合体、反応物、反応条件、または(化合物、反応物、または反応条件を妨害することを含めて)プロセスを含むことができる。「鎖終結ヌクレオチド」は、一旦組み込まれると、そのヌクレオチド類似体の構造あるいは複製または転写される核酸の配列のいずれかに起因して、それ以上の鎖伸長を阻害する、ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む鎖ターミネーターである。
【0050】
「標的配列」または「標的ポリヌクレオチド」は、検出、特徴付け、または定量化が所望される、目的とするポリヌクレオチド配列である。標的配列の実際のヌクレオチド配列は、既知であっても既知でなくてもよい。「標的配列」は、目的とする実際の分子であってもなくてもよい。
【0051】
「標的部位」は、ポリメラーゼによる転写によって検出されてオリゴヌクレオチド産物を形成する、標的配列の部分である。本発明によれば、標的核酸上には少なくとも1つの標的部位が存在する。標的部位の配列は、詳細に知られていても知られていなくてもよい。すなわち、標的核酸の実際の遺伝的配列は、知られている可能性があるのに対して、ポリメラーゼによって、転写または複製される特定の標的部位の遺伝的配列は、知られている必要はない。
【0052】
以下に詳細に記述されるように、「標的領域」は、標的部位プローブが、部分的にハイブリッド形成してバブル複合体を形成する、標的配列の部分である。本発明によれば、標的核酸上には、少なくとも1つの標的領域が存在し、各々の標的領域は、標的部位を含む。標的領域の配列は、相補的な標的部位プローブの、十分に厳密な(stringent)ハイブリッド形成を可能にし、その結果、標的部位プローブが、標的領域とバブル複合体を形成することが、十分に詳細に知られている。
【0053】
通常、「鋳型」は、標的ヌクレオチド配列を含有するポリヌクレオチドである。ある場合には、用語「標的配列」「鋳型ポリヌクレオチド」「標的核酸」「標的ポリヌクレオチド」「核酸鋳型」「鋳型配列」およびそれらの変形は、同義的に使用される。具体的には、用語「鋳型」または「鋳型鎖」は、その上で、鋳型依存性の核酸ポリメラーゼの活性を介して、相補的なコピーが、ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体から合成される、核酸の鎖を指す。
【0054】
「ヌクレオチド」には、シトシン(C)、チミン(T)、およびウラシル(U)、アデニン(A)、およびグアニン(G)ヌクレオチド、および類似体が含まれる。
【0055】
用語「イニシエーター」は、新生のRNA分子の5’末端に組み込まれ、RNA合成のための「プライマー」(「イニシエータープライマー」)とみなすことができる、モノヌクレオシド、モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはその類似体を意味する。
【0056】
「組み込み」は、核酸ポリマーの一部になることを指す。核酸前駆体の組み込みに関する用語には、既知の柔軟性(known flexibility)がある。例えば、ヌクレオチドdGTPは、デオキシリボヌクレオシド三リン酸である。DNAへの組み込み時、dGTPは、dGMP、すなわちデオキシグアノシン一リン酸部分になる。DNAには、dGTP分子は含まれないが、dGTPをDNAに組み込むと言うことはできる。
【0057】
「同一性」または「同一の」は、当分野で一般に理解される通りに、本明細書で使用される。例えば、基準ヌクレオチド配列に対して例えば少なくとも95%「同一の」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、目的とする領域にわたって、そのポリヌクレオチド配列が、基準ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドにつき最高5つまでのミス一致を含むことができることを除いて、基準配列と同一であるということを意味する。言い換えれば、基準ヌクレオチド配列に対して少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るためには、基準配列中のヌクレオチドの最高5%は、欠損させることが可能である、あるいは、別のヌクレオチドで置換させることができる、あるいは、基準配列中の全ヌクレオチドの5%までのいくつかのヌクレオチドを、基準配列に挿入させることができる。基準(QUERY)配列は、示される完全なヌクレオチド配列またはその任意のポリヌクレオチドフラグメントであり得る。
【0058】
実際には、例えば、任意の特定の核酸分子が、該ヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるかどうかということは、通常、Bestfitプログラムなどの既知のコンピュータプログラムを使用して決定できる(ウィスコンシン配列分析パッケージ(Wisconsin Sequence Analysis Package)、Unix(登録商標)用バージョン8(Version 8 for Unix(登録商標))、Genetics Computer Group、ユニバーシティリサーチパーク(University Research Park)、575 サイエンスドライブ(Science Drive)、ウィスコンシン州マディソン(Madison、WI)53711)。Bestfitは、スミスおよびウォーターマン(Smith and Waterman)の「Advances in Applied Mathematics 2」:482〜489頁、1981年の局所的相同性アルゴリズム(local homology algorithm)を使用して、2つの配列との間の最高の相同性のセグメントを見つける。特定の配列が、本発明による基準配列に対して例えば95%同一であるかどうか決定するために、Bestfitまたは他の任意配列アラインメントプログラムを使用する場合、パラメータは、当然、同一性の割合が、基準ヌクレオチド配列の全長にわたって算出され、かつ、基準配列中のヌクレオチドの合計の最高5%までの相同性のギャップが可能になるようにセットされる。
【0059】
基準(QUERY)配列(本発明の配列)と対象配列(グローバル配列アラインメントとも呼ばれる)との間の同一性はまた、Brutlagらのアルゴリズム(Comp.App.Biosci.6:237〜245頁(1990年))に基づくFASTDBコンピュータプログラムを使用して決定できる。同一性(%)を算出するための、DNA配列のFASTDBアラインメントに使用される好ましいパラメータは、以下の通りである:Matrix=Unitary、k−tuple=4、ミス一致ペナルティ(Mismatch Penalty)=1、Joining Penalty=30、Randomization Group Length=0、Cutoff Score=1、ギャップペナルティ(Gap Penalty)=5、Gap Size Penalty 0.05、ウィンドウサイズ(Window Size)=500または主題ヌクレオチド配列の長さ(いずれか短い方)。この実施形態によれば、対象配列が、内部の欠損のためではなく、5’または3’欠損のために、QUERY配列よりも短い場合、同一性(%)を算出する場合に、FASTDBプログラムが、対象配列の5’および3’切断を考慮しないという事実を考慮するために、その結果に対して、手動補正を行う。QUERY配列に対して5’または3’末端で切断された対象配列については、同一性(%)は、対象配列の5’および3’で一致/整列されていないQUERY配列の塩基の数を、QUERY配列の全塩基の割合として算出することによって補正される。ヌクレオチドが一致/整列されているかどうかの判定は、FASTDB配列アラインメントの結果によって、決定される。その後、この割合は、明記したパラメータを使用して上述のFASTDBプログラムによって算出された同一性(%)から差し引かれ、最終の同一性スコア(%)に到着する。この補正されたスコアは、この実施形態のために使用されるものである。FASTDBアラインメントによって示される通り、QUERY配列と一致/整列していない、対象配列の5’および3’塩基の外側の塩基のみ、同一性スコア(%)を手動で調整するために算出される。例えば、90塩基の対象配列は、同一性(%)を決定するために、100塩基のQUERY配列と整列配置される。欠損は、対象配列の5’末端で起こり、したがって、FASTDBアラインメントは、5’末端で最初の10の塩基の一致/整列配置を示さない。10の対になってない塩基は、配列の10%に相当する(一致しない5’および3’末端の塩基の数/QUERY配列中の塩基の総数)ので、FASTDBプログラムにより算出される同一性スコア(%)から、10%を引く。残りの90の塩基が完全に一致する場合、最終の同一性(%)は90%となるであろう。別の例では、90塩基の対象配列を、100塩基のQUERY配列と比較する。今度は、欠損は、内部の欠損であり、その結果、QUERYと一致/整列配置されない、対象配列の5’または3’上の塩基は存在しない。この場合、FASTDBによって算出される同一性(%)は、手動で補正されない。ここでも、QUERY配列と一致/整列されない対象配列の塩基5’および3’のみが、手動で補正される。この実施形態の目的に対しては、他のいかなる手動修正も行われない。
【0060】
用語「標識」は、直接または間接的に、検出可能なシグナルを提供するために使用することができ、かつ、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、ヌクレオシド一、二、または三リン酸、ヌクレオシド一、二、または三リン酸類似体、ポリヌクレオチド、あるいはオリゴヌクレオチドに付着させることができる、いずれの原子、分子、または部分も指す。ある実施形態では、標識は、標識部分が、得られたオリゴヌクレオチドに与える質量の変更によって検出される。検出可能な分子はまた、定量可能である可能性もある。こうした質量−標識はまた、当技術分野で知られた他の手段によって、検出することもできる。
【0061】
用語「多重」は、同じ反応から同時にいくつかのメッセージまたはシグナルを産生するシステムを産生すること、あるいはそれに関することを意味する。
【0062】
用語「質量分析」は、高真空中でサンプルから産生されるイオン化された分子または分子フラグメントのビーム中の成分の相対的な質量および/または相対的な存在量を決定するための分析法を指す。本明細書で用いられる用語には、特に、高速原子衝撃(FAB)質量分析、プラズマ脱離(Pd)質量分析、エレクトロスプレー/イオンスプレー(ES)質量分析、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化・飛行時間型分析法(MALDI−TOF)が含まれ、電気泳動、液体クロマトグラフィ、高速ゲル濾過などを含めた他の技術と組み合わせることができる。質量分析検出は、核酸に、S、Br、IまたはAg、Au、Pt、Os、HgなどのDNA中には通常存在しないアイソトープ、分子、または原子を組み込むことによって増強できる。
【0063】
用語「デンドリマー(dendrimer)」(木に対するギリシア語の「dendra」より)は、一般的に、製造または合成された分枝ポリマーである分枝構造を指す。
【0064】
成分および反応条件
標的核酸
標的核酸は、天然に存在するまたは合成ポリヌクレオチドセグメントであり得、当分野でよく知られている技術によって獲得または合成できる。試験サンプル中の検出されるべき標的配列は、最初は、不連続の(discrete)分子として存在する可能性があり、生物学的サンプルなどの、より大きな分子、複雑な混合物の主要または主要でない画分の1つの成分のみとして存在する可能性もある。検出されるべき標的核酸には、DNA(これには、二本鎖(ds)DNAおよび一本鎖(ss)DNAが含まれる)またはRNA(tRNA、mRNA、rRNAが含まれる)、ミトコンドリアDNAまたはRNA、葉緑体DNAまたはRNA、DNA−RNAハイブリッド、またはそれらの混合物であり得る、精製された、あるいは未精製の形の、任意の供与源由来の核酸;遺伝子、染色体、またはプラスミド;および、微生物、植物、動物、ヒトのゲノムなどの、生体材料のゲノム由来のDNAが含まれ得る。試験サンプルから核酸を獲得および精製するために、当分野の標準技術を使用できる。RNA標的の検出には、当分野で知られている通りの、最初の相補的DNA(cDNA)合成が必要とされる可能性もされない可能性もある。DNA−RNAハイブリッドの検出には、ssDNAを得るためのハイブリッドの変性、またはcDNAを得るための変性、それに続く逆転写が必要とされる可能性がある。
【0065】
他の標的分子
本発明の別の実施形態では、標的は、タンパク質などの別の分子である可能性もあり、これは、反復的オリゴヌクレオチド合成のために使用できる核酸配列の共有結合性または非共有結合性付着によって標識される。例えば、分子は、複数の反復的オリゴヌクレオチドの合成のための鋳型として働くことができる核酸配列に結びつけられた抗体によって検出できる。検出されるべき標的核酸には、精製されたまたは精製されていない形の、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、ハプテン、または任意の供与源からの他の分子が含まれ得る。試験サンプルから分子を獲得および精製するために、当分野の標準の技術が使用される。
【0066】
固定
本発明の一実施形態では、標的分子は、基板上に固定することができる。別の実施形態では、標的分子を固定させて、例えば、マイクロアレイを形成できる。この実施形態による単一の分子アレイには、固体マトリックス、生物活性の(bioreactive)または生体付着性の層、および生物抵抗性の(bioresistant)層が含まれる。本発明のためのマトリックスにとって有用である固相には、試験管の形状のポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、または任意の固体材料、ビーズ微粒子、計量棒、膜、マイクロタイタープレート、試験管、およびエッペンドルフチューブ、ガラスビーズ、ガラス試験管、およびガラスでできている他の任意の適切な成形品が含まれるが、これに限定されるものではない。一般に、適切な固体マトリックスは、生体付着性の層(例えばリガンド−結合薬剤)が付着できる任意の表面、あるいは、それ自体でリガンド付着部位を提供する任意の表面を含む。
【0067】
抗体またはオリゴヌクレオチド捕捉プローブは、ポリヒスチジンタグまたは架橋試薬を提供することを含めて当技術分野で知られた方法によって、生体付着性のパターンに付着させることができる。
【0068】
一実施形態では、固体マトリックスは、固定された捕捉プローブが流れ去るのを可能にする複数の溶液および反応物に適応させるために、入口および出口を有するフローチャンバに入れることができる。フローチャンバは、プラスチックまたはガラスでできており、平面は、顕微鏡または光学読取り装置によって見られる面で、開いている、あるいは透明である。電気浸透流は、固体支持体上の固定電荷、および固体支持体の対向する末端に配置される2本の電極との間を通過する電位勾配(電流)を含む。
【0069】
プライマー
本発明の実施形態によれば、プライマーは、標的核酸上の標的部位のポリメラーゼによる転写を開始するために使用され、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドからなり得る。一実施形態では、プライマーは、長さ約25ヌクレオチド未満、通常長さ約1〜約10ヌクレオチド、好ましくは長さ約2〜3ヌクレオチドである。プライマーの1つ以上の位置においてヌクレオチドまたはホスホジエステル結合を改変することが望ましい可能性がある。
【0070】
標的部位プローブ
本発明の実施形態によれば、オリゴヌクレオチド標的部位プローブは、標的核酸上の標的部位にポリメラーゼを導くために使用される(図4)。標的部位プローブはまた、「非鋳型鎖」とも呼ぶことができる。標的部位プローブは、それだけには限らないが、約20〜約50ヌクレオチド、約51〜約75ヌクレオチド、約76〜約100ヌクレオチド、または100超ヌクレオチドを含めて、そのヌクレオチドの長さが変わり得る。バブル複合体は、標的部位を含む一本鎖領域の両側に二本鎖領域を含む。標的領域内のバブル複合体は、標的部位プローブの構造により形成され得る。一実施形態では、標的部位プローブは、3つの領域を含む:鋳型配列上の標的部位の上流で鋳型配列と相補的であり、かつこれとハイブリッド形成する標的部位プローブの5’末端上の第1の領域;第1の領域の3’であり、鋳型配列と非相補的であり、したがって、鋳型配列とはハイブリッド形成しない第2の領域;および標的部位プローブの3’末端上にあり、標的部位の下流で鋳型配列と相補的であり、かつこれとハイブリッド形成する第3の領域。別の実施形態では、標的部位プローブは、一本鎖領域と実質的に相補的であり、バブル複合体は、ポリメラーゼの作用によって形成される。
【0071】
標的部位プローブの使用は、鋳型配列上の特定の酵素結合部位(すなわち、鋳型配列およびプライマーによって標的部位の上流で形成される二本鎖セグメントおよびバブル)にポリメラーゼを導き、特定の標的部位での転写の開始を容易にする。すなわち、上で述べた通りの、一本鎖鋳型配列の長さに沿う、ポリメラーゼによる合成反応のランダムな開始を容易にするのではなく、この実施形態は、標的部位プローブによって形成されるバブル複合体によって取り囲まれる特定の標的部位の検出に対するポリメラーゼの標的指向型結合を提供する。
【0072】
標的部位プローブの配列は、標的配列に応じて変化することとなる。標的部位プローブの全長は、第1および第3の領域の、標的配列とのハイブリッド形成、およびハイブリッド形成されない第2の領域の長さの最適化を提供するように選択される。標的部位プローブの第1および第3の領域は、標的核酸鋳型上での既知の部位とハイブリッド形成するように設計される。用途に応じて、標的部位プローブ上の第2の領域の配列は、第2の領域が自己相補的であってもなくてもよいように設計できる。
【0073】
ある実施形態では、少なくとも1つの標的部位プローブは、複数のオリゴヌクレオチド産物を産生するために、核酸鋳型上での1つ以上の標的部位での不完全オリゴヌクレオチド合成を特異的に開始するために使用される。別の実施形態では、標的部位プローブは、鋳型プロモーター配列の非存在下での一本鎖標的部位上の不完全転写の開始を導く。例えば、米国特許第5,571,669号明細書、ドーブ(Daube)およびフォンヒッペル(von Hippel)「Science」、258:1320〜1324頁(1992年)を参照のこと。
【0074】
不完全プロモーターカセット(別名不完全バブルカセット)
本発明によれば、不完全プロモーターカセット(APC)を使用して、配列に標的を連結して、試験サンプル中の標的の存在を示唆する複数の検出可能なオリゴヌクレオチド産物を産生することができる。APCは、また、不完全バブルカセット(ABC)と呼ばれることもある。APCは、以下からなり得るDNAの自己相補的な配列である:(1)RNAポリメラーゼが結合して、転写バブルを形成できる、1つの隣接するオリゴヌクレオチド;(2)イニシエーターおよび適切なRNAポリメラーゼが、そこから不完全オリゴヌクレオチド産物を合成できる部位を含む一本鎖転写バブル領域を形成する2つの部分的に相補的な上下のオリゴヌクレオチド;または(3)不完全オリゴヌクレオチド産物の合成を可能にするRNAポリメラーゼが存在する場合には転写バブル領域を形成する、2つの相補的なオリゴヌクレオチド。APCは、人工のプロモーターを含有してもよいし、特定のRNAポリメラーゼに対するプロモーターを含有してもよい。例えば、一般のファージRNAポリメラーゼを用いて産生できるであろうトリヌクレオチドまたはテトラヌクレオチド産物は、GpAまたはGpApAイニシエーターと、pppGまたはpppAターミネーターを用いて作製することができる。
【0075】
典型的な実施形態では、図4に示す通り、APCは、3’または5’一本鎖オーバーハング領域(すなわち「粘着末端」)を含むAPCリンカー配列を含めた8つの領域を含む。APCの5’末端上の第1の領域(A)は、APCの3’末端の近くの第2の領域(A’)と相補的である。第3の領域(B)および第4の領域(E)は、領域C、D、およびC’によって、互いに隔てられ、また、互いに非相補的であり、その結果、領域BおよびEは、APCの自己相補領域が互いに相互作用する場合、APC上に一本鎖バブル領域を形成する。領域CおよびC’は、領域Cの5’末端が、領域C’の3’末端と相補的となるように、実質的に自己相補的である。領域Dは、連続的なAPCについては、CおよびC’を連結する短い配列であってもよいし、または2部分のAPCについては、2つの別々の上下のオリゴヌクレオチドの遊離の3’または5’末端を含む領域であってもよい。最後に、APCはまた、APCリンカー、すなわち領域AおよびA’の相補的な相互作用を介して形成される、APCオリゴヌクレオチドの5’末端または3’末端上の一本鎖領域を含む。APCリンカーは、APCの、他の標的分子(例えば捕獲される標的DNA、RNA、またはタンパク質など)との付着を容易にする。
【0076】
多くのAPCが、本発明に包含される。ある実施形態では、APCは、以下の特徴を有する:
上流のアーム長さ>13nt
下流のアーム長さ>13nt
バブルセグメント長さ=11〜14nt
バブル配列:非鋳型鎖コンセンサス:
上流 5’TANNNTN5−8
好ましい配列:5’TATAATN5−8
【0077】
バブル配列:鋳型鎖 T(CまたはGまたはA)N9−13あるいはG(AのCまたはG)N9−13に対して好ましい 上流 3’C(CまたはGまたはA)N9−13またはA(CまたはGまたはA)N9−13。
【0078】
以下の一般的なAPC構造では、下線を引かれたヌクレオチドは、バブル内であり、「nn」は、開始部位に相当する。第1のAPCの下に示される数は、第1のAPCにおける可能な(代替の)イニシエーター部位に相当する:
1. バブル内の最も下流の2つの部位。
2. バブルと下流のアームの接合部にまたがる部位。
3. バブルと間近に隣接する下流の2nt。
4. バブルの端から1 nt隔てた下流の部位
同様のイニシエーター部位は、さらなる例示的なAPCに見られるが、これは、示されていない。
【数1】
【0079】
上記の一般的なAPC構造によって表されるAPCの特定の非限定的な例は、図11、21、23、および29に見ることができる。ある実施形態では、本発明は、図21、23、および29を含めて、上で述べた通りのAPCを提供する。ただし、配列:5’GGATACTTACAGCCATTATATTTAGCCCTACTCCATTCCATCCCGGGTTCGTCC−3’を有する標的部位プローブを含み、かつ/または、配列:3’CCTATGAATGTCGGTACCTGTGCCGCTTATGAGGTAAGGTAGGGCCCAAGCAGG 5’を有する鋳型鎖、またはその逆鎖もしくは相補鎖を含むAPCは除外される。
【0080】
本発明の実施に使用されるAPCは、酵素的または合成的に作製できる。APCの長さは、例えば、国際公開第03/038042号パンフレットおよび米国出願公開第US−2003−0099950号明細書に記載される通り、バブル領域の安定性を最適化し、かつAPCリンカー配列の、標的配列とのハイブリッド形成をもたらすように選択される。
【0081】
目的とする標的分子に対する特異性をもつ単一の分子を、1つ以上のAPCに付着させることができる。一般的に、1つの分子に、同じタイプのAPCを付着させる。しかし、ある実施形態では、様々なAPCを、同じ標的分子に付着させることができる。図9に示す通り、多数のAPCを、単一の分子に付着させることができ、単一の結合事象により産生されるシグナルが大いに増大される。APCは、核酸、抗体、または他の任意の分子に付着させることができる。
【0082】
ある実施形態では、本発明は、化学的な結合によって、所望される任意の分子に付着させることができるAPCを提供する。
【0083】
本発明はまた、本発明のAPCを使用して標的分子を検出する方法を含む。
【0084】
デンドリマー構造
デンドリマーは、分枝構造であり、これは、一般的に、人工的に製造または合成される分枝ポリマーである。例えば、デンドリマーは、アクリル酸およびジアミンから作製できる。デンドリマーは、例えばデンドリテック社(Dendritech Inc.)3110 シュッテドライブ(Schuette Drive)、ミシガン州ミッドランド(Midland、MI)48642から商業的に入手できる。
【0085】
デンドリマー合成は、単分散の、木のような、または世代的な構造をもたらす、通常の、高度に枝分かれしたモノマーによって定義される高分子化学の分野である。単分散ポリマーの合成は、1つのモノマー層上でデンドリマーを構築する段階的反応、あるいは同時の「産生」を介して達成される、高レベルの合成制御を必要とする。各々のデンドリマーは、各々の官能部位に樹状のくさびが付着される、多官能コア分子からなる。コア分子は、「0世代」と呼ばれる。すべての分枝に沿った各々の連続するリピートユニットは、次世代「世代1」「世代2」などを、最終世代まで形成する。
【0086】
デンドリマー合成の2つの定義された方法、発散性(divergent)2および収束性(convergent)3が存在する。発散的方法では、分子は、コアから末端に組み立てられる;一方、収束的方法では、デンドリマーの合成は、外側から始まり、コアで終わる。いずれの方法でも、その合成は、ある世代を最後まで付着させ、精製し、反応の次のステージのために、官能基を変化させるという段階的方法を必要とする。この官能基変換は、無制限の重合を防止するのに必要である。こうした重合により、超分岐ポリマーとしても知られている、単分散でない高度に枝分かれした分子がもたらされるであろう。超分岐ポリマーには多くの用途が存在するが、この論文では、それらについて詳細には述べない。
【0087】
発散的方法では、表面の基は、最初は、不活性あるいは保護された種であり、これは、反応の次のステージのために、反応性の種に転換される。収束的手法では、逆の足場(hold)が、反応性の種として、樹状のくさびの中心部になければならない。
【0088】
立体化学的過密状態によって、特定の世代で完全な反応が妨げられ、分子の単分散性が破壊されるまで、デンドリマーリピートユニットを反応させ続けることで、立体効果に起因して、成形された球体または球状分子がもたらされる。コア分子の枝に、より長い間隔のユニットを用いることによって、可能な世代の数を、増大させることができる。単分散性およびデンドリマーの球形の立体化学的拡大によって、興味深い様々な特性がもたらされる。
【0089】
樹状のくさびの長さの立体化学的限界により、分子サイズは小さくなるが、球状形状の密度によって、分子量は相当高くなる。球面形状は、また、分子トポロジーにおける興味深い研究を提供する。デンドリマーは、2つの主要な化学的環境、すなわち、樹状の球体の表面である、最終世代上の官能基に起因する表面化学、および、デンドリマー構造の球面形状に起因して、外部の環境から大きく保護される球体の内部を有し、こうした分子における2つの異なる化学的環境の存在は、デンドリマー適用の多くの可能性を暗示する。
【0090】
理論的には、疎水性/親水性および極性/無極性の相互作用は、2つの環境において変わり得る。デンドリマー内部の空隙の存在は、デンドリマー化学において、重要な役割を果たしているこうした2つの異質な環境の可能性を増進する。デンドリマー研究により、樹状の空隙にゲスト分子を受け入れるデンドリマーの能力が確認されている。
【0091】
デンドリマーは、ほんの少し例を挙げれば、分子量およびサイズ標準、遺伝子形質移入剤としての、生物学的に重要なゲストの輸送のためのホストとしての、および抗癌剤としての、実際の用途および潜在的な用途が見いだされている。デンドリマーに対する関心の多くは、その高い表面官能性および回収の容易さを利用する、触媒剤としてのその用途に関与する。しかし、デンドリマーの球状形状および分子トポロジーによって、これらは、生物学的システムにも非常に有用なものになる。
【0092】
本発明のある実施形態では、APCは、一般的に化学的な結合によって、デンドリマーの分岐に付着される。デンドリマー構造の表面へのAPCの結合は、APCの高密度という結果になる可能性がある。APC−デンドリマーのある分枝は、目的とする標的分子に対する特異性をもつ、プローブ、抗体、結合タンパク質などの第2の分子に連結される。その結果、目的とする標的分子への第2の分子の結合は、APC、したがって、APCからの多数の不完全オリゴヌクレオチド転写産物の高密度という結果になる。このように、デンドリマーは、結果的に感受性および(潜在的に)速度を増大させて、標的分子の検出に関連する、シグナルの大規模な増幅を可能にする。
【0093】
ポリメラーゼ
この方法で使用するための鋳型依存性のポリメラーゼおよび本発明の組成物は、当技術分野で知られており、これらには、真核生物または原核生物のポリメラーゼ、耐熱性ポリメラーゼ、DNA依存性RNAポリメラーゼ、DNA依存性DNAポリメラーゼ、RNA依存性RNAポリメラーゼ、RNA依存性DNAポリメラーゼ、DNA依存性RNAポリメラーゼ(このポリメラーゼは、リン酸基上の、ヌクレアーゼ、かつ/または組み込まれていないヌクレオチドのペントース環上の、標識部分を許容することが可能である)、プロモーター配列および前述の別のものを含まない一本鎖DNA鋳型を転写できるポリメラーゼが含まれる。
【0094】
一般に、本発明の方法に含まれる酵素は、好ましくは、この方法によって産生される核酸成分の実質的な分解を生じない。
【0095】
ヌクレオチド
本発明によれば、ポリメラーゼは、オリゴヌクレオチド産物上の通常の5’→3’方向に反応を触媒し、ヌクレオチド(NTP)(これには、ヌクレオチド類似体(NTP類似体)が含まれる可能性があり、また、標識されていてもいなくてもよい)の配列の付加を介してイニシエーターまたはプライマーの3’末端を延長することによって、標的核酸を転写または複製する。
【0096】
ある種の実施形態では、この方法は、以下のうちのいずれか1つを用いて誘導体化されるヌクレオチドを使用する:アイソトープ、ハプテン、ビオチン、酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)タンパク質、人工のプロモーターカセット、光架橋剤、化学架橋剤、ストレプトアビジン(steptavidin)、蛍光部分、比色部分、発光部分、化学発光部分、金属(例えば金、銀)または染料。
【0097】
他の実施形態では、この方法は、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、あるいは、式NucSRの、5−S−置換ピリミジンまたは8−S−置換プリンを含む核酸を使用し、
ここで、Nucは、ピリミジニルまたはプリニル(purinyl)であり、
Sは、硫黄であり、
Rは、以下からなる群から選択される:H、ハプテン、ビオチン、酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、またはアルカリホスファターゼ)、タンパク質、人工のプロモーターカセット、光架橋剤、化学架橋剤、ストレプトアビジン、蛍光部分、比色部分、発光部分、化学発光部分、金属(例えば金、銀)、染料、核酸細胞取り込み基(cellular uptake group)、C6〜10アリール、C6〜10 ar(C1〜6)アルキル、C6〜10アリールアミノ(C1〜6)アルキル、C6〜10アリールオキシ(C1〜6)アルキル、C6〜10 ar(C1〜6)アルキルアミノ(C1〜6)アルキル、C6〜10 ar(C1〜6)アルキルオキシ(C1〜6)アルキル、C6〜10 ar(C1〜6アルキル)カルボニルアミノ(C1〜6)アルキル、C6〜10 ar(C1〜6アルキル)カルボニルオキシ(C1〜6)アルキル、(C6〜10アリール)カルボニルアミノ(C1〜6)アルキル、(C6〜10アリール)カルボニルオキシ(C1〜6)アルキル、(C6〜10アリール)カルボニル(C1〜6)アルキル、およびC6〜10 ar(C1〜6アルキル)カルボニル(C1〜6)アルキルであり、
ここで、前述の基のアリール部分はそれぞれ、以下からなる群から独立に選択される1〜4の置換基で任意選択で置換される:ハロゲン、ヒドロキシル、C1〜6アルキル、C3〜8シクロアルキル、C1〜6ハロアルキル、C1〜6ヒドロキシアルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C1〜6アルコキシ、(C1〜6アルキル)カルボニル、(C1〜6アルコキシ)カルボニル、アミノ、アミノ(C1〜6)アルキル、アミノカルボニル、モノ(C1〜6アルキル)アミノカルボニル、ジ(C1〜6アルキル)アミノカルボニル、C1〜6アルキルアミノ、ジ(C1〜6)アルキルアミノ、(C1〜6アルキル)カルボニルアミノ、C6〜10アリールアミノ、(C6〜10アリール)カルボニルアミノ、モノ(C6〜10アリール)アミノカルボニル、ジ(C6〜10アリール)アミノカルボニル、モノ(C6〜10 ar(C1〜6アルキル))アミノカルボニル、ジ(C6〜10 ar(C1〜6アルキル))アミノカルボニル、N−(C6〜10)アリール−N−(C1〜6アルキル)アミノカルボニル、N−(C6〜10)ar(C1〜6)アルキル−N−(C1〜6アルキル)アミノカルボニル、N(C6〜10)ar(C1〜6)アルキル−N−(C6〜10アリール)アミノカルボニル、C1〜6アルキルチオ、C6〜10アリールチオ、C6〜10 ar(C1〜6)アルキルチオ、カルボキシ、カルボキシ(C1〜6)アルキル、ニトロ、シアノ、ヘテロアリールおよび飽和したまたは部分的に不飽和の複素環であり、ここで、ヘテロアリールおよび飽和したまたは部分的に不飽和の複素環は独立に、単環式または融合された二環式であり、独立に、5〜10つの環原子を有し、環原子の1つ以上は、独立に酸素、窒素、および硫黄からなる群から選択される。改変されたヌクレオチド類似体の例、および適切な改変基の例を、図12〜14に示す。
【0098】
反復的な不完全合成開始事象を促進するために、ポリメラーゼによって開始される合成事象を終結できる、鎖ターミネーターを含むNTPおよび/またはNTP類似体を、合成反応より前に、かつ/またはその間に、反応混合物に加えることができる。鎖ターミネーターの使用は、合成反応中のポリメラーゼを失速させ進行中の伸長複合体の形成を阻害し、それによって、標的部位からの短い不完全オリゴヌクレオチドの反復する合成が促進される。(ドーブ(Daube)およびフォンヒッペル(von Hippel)「Science」、258:1320〜1324頁(1992年))。
【0099】
本発明によれば、鎖ターミネーターは、プライマー伸張反応中のポリメラーゼによる転写または複製の継続を阻害できる、任意の化合物、組成物、複合体、反応物、反応条件、または(化合物、反応物、または反応条件を妨害することを含めた)プロセスを含むことができる。ある実施形態では、適切な鎖ターミネーターは、鋳型配列のそれに続く相補的なヌクレオチドに相当するNTP剥奪である、すなわち、鎖終結は、ポリメラーゼから特定のNTPを奪うことから生じる。言い換えれば、定義された鋳型配列および定義されたプライマー長を考慮すると、鎖伸長のためのNTPの必要性は、相補的な鎖配列によって支配されるので、反応混合物が、鋳型配列の転写または複製を続けるために必要とされるNTPを用いてポリメラーゼを提供することができない場合、選択されたNTPは、反応混合物から妨害される可能性があり、その結果、ポリメラーゼによる鎖伸長の終結が起こる。
【0100】
あるいは、別の実施形態では、鎖ターミネーターは、ポリメラーゼによるオリゴヌクレオチド産物への組み込み時に、ヌクレオチド重合の終結を遂行する、ヌクレオチド類似体を含むことができる。
【0101】
反応条件、ヌクレオチド、およびヌクレオチド分子に関するさらなる情報は、国際公開第03/038042号パンフレットおよび米国出願公開第US2003−0099950号明細書に記載されている。
【0102】
反応条件
本発明の方法を実施するための適切な反応培地および条件には、特定のポリメラーゼのために最適化された培養緩衝水溶液(aqueous buffer medium)が含まれる可能性があり、これは、転写制御因子(シグマ、NusA、ロー、リゾチーム、GreA、GreB、NusGなど)を含めて、様々なイオン、緩衝液、キレート剤、ポリアニオン性またはカチオン性の分子、タンパク質担体、または他のタンパク質で補充されていてもいなくてもよい。反応成分のすべてを変えることによって、不完全転写産物の、全長の転写産物に対する比を潜在的に変えることができる。例えば、鋳型に対する、RNAポリメラーゼの高いモル比は、ラムダPRプロモーター上の全長転写にわたる不完全転写の頻度を高める。この効果は明らかに、このプロモーターでのタンデムポリメラーゼ間の衝突(collision)から生じる。ある種のRNAポリメラーゼ変異体は、野生型ポリメラーゼと比較して、不完全転写の高い速度を有する。不完全転写の相対的なレベルは、プロモーターのヌクレオチド配列に影響される。本発明の方法のいずれの態様も、(等温を含めて)同じ温度または変動する温度で行うことができるし、ある実施形態では、転写または複製のための温度は、そのアッセイにおいて、他で使用される温度とは異なっていてもよい。
【0103】
本発明の様々な態様および実施形態によれば、標的核酸分子は、標的核酸の一部と相補的である、オリゴヌクレオチド捕捉プローブ、モノヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドイニシエーター、標的核酸の一部と相補的なAPCリンカー配列、および/または標的部位の両側の領域と相補的である標的部位プローブとハイブリッド形成できる。ハイブリッド形成は、当業者によく知られている方法を使用して、所望の程度の特異性を達成するのに必要な条件下で行われる。ハイブリッド形成の前に、試験サンプル中の標的核酸を変性させることが必要である可能性がある。
【0104】
転写の条件および試薬は、当分野でよく知られており、他の文献にも記述されている。ルー(Lu)ら、米国特許第5,571,669号明細書に記載される通り、人工の転写バブル複合体から開始される転写のためのポリメラーゼ濃度は、プロモーター開始型の、あるいはパリンドローム配列開始型の転写のために理想的なポリメラーゼ濃度よりも通常約1桁高い。
【0105】
ある実施形態では、これらの成分は、不完全合成および検出方法の開始時に同時に加えられる。別の実施形態では、成分は、様々な反応によって必要とされるかつ/または可能にされる度に、方法中の適切な時点の前または後に、いずれかの順序で加えられる。こうした時点は、当分野の技術者によって、容易に特定可能である。本発明の方法における様々な反応は、様々な時点で中断することができ、その後再開できる。こうした時点は、当分野の技術者によって、容易に特定可能である。反応を中断するための方法は、例えば、酵素活性を阻害する温度まで反応混合物を冷却することを含めて、当技術分野で知られている。
【0106】
本発明の不完全合成および検出方法
本発明の一態様によれば、検出可能なオリゴヌクレオチド産物は、標的核酸鋳型から合成される。オリゴヌクレオチド産物はまた、イニシエーター上の、かつ/またはポリメラーゼによって標的核酸上で合成される各々のオリゴヌクレオチド産物に組み込まれるNTPまたはNTP類似体上の、かつ/または合成複合体の一部である、あるいは合成複合体の1つ以上の成分と相互作用する他の分子上の標識部分を含むことができる。
【0107】
本発明によれば、オリゴヌクレオチド産物の検出は、標的配列の存在の指標となる。ある実施形態では、標的配列は、目的とする標的分子を含む。他の実施形態では、目的とする標的分子は、オリゴヌクレオチド産物が産生される標的配列とは異なり、したがって、オリゴヌクレオチドの検出によって、目的とする標的分子の存在を示唆する標的配列の存在が示唆される。こうした実施形態では、例えば、目的とする分子は、タンパク質、ペプチド、ハプテン、炭水化物、毒素、脂質、イオン、または別の核酸であり得る。したがって、ある実施形態では、標的配列の存在は、目的とするタンパク質の存在をさらに示唆できる。ある実施形態では、不完全プロモーターカセットは、DNA、RNA、PNA(ヌクレオチド主鎖が、リン酸結合ではなくアミノ基結合で置き換えられたタンパク質核酸)、抗体、結合タンパク質、ハプテン、情報伝達タンパク質、イオン、または目的とする分子に対する特異性をもつ他の分子と結びつけられる。
【0108】
定量分析もまた、実行可能である。直接的および間接的な検出方法(定量化を含む)は、当分野でよく知られている。例えば、未知の量の標的核酸を含有する試験サンプルから産生されるオリゴヌクレオチド産物の量を、既知の量の標的核酸を有する基準サンプルから産生されるオリゴヌクレオチド産物の量と比較することによって、試験サンプル中の標的核酸の量を決定できる。さらに以下で述べる通り、本発明の反復的不完全合成開始および検出方法はまた、標的核酸における遺伝的配列の変化の分析に応用できる。
【0109】
本発明の不完全合成および検出方法の以下の実施例は、本発明をより詳細に記述するために提供される。これらの例示的な方法は、単に例示的なものに過ぎず、上で提供される説明を制限するためのものではない。上述の一般的な説明を考慮すると、様々な他の実施形態も、実施できることを理解されたい。例えば、プライマーの使用に対する言及は、RNAイニシエーターを含めて、本明細書で記述されるプライマーのいずれも使用できるということを意味する。
【0110】
本発明の一態様によれば、標的ポリヌクレオチド上の反復的合成開始事象を介して複数の検出可能なオリゴヌクレオチド産物を産生することによって、標的ポリヌクレオチドの存在を検出するための方法が提供される。
【0111】
図2は、複数の検出可能なオリゴヌクレオチド産物を合成するために、RNAポリメラーゼの存在下で、組み合わせ、反応させることが可能な様々な反応物を、図表的に説明する。本発明の方法は、潜在的に標的配列を含有する可能性がある試験サンプルを使用して実施できる。試験配列は直接検出することもできるし、標的のプライマー−伸張または逆転写の産物を検出することもできる。配列またはタグを、標的(例えばビオチン、ssDNA領域)のコピーに付加することができる。試験サンプルは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、またはRNAを含むことができる。DNAまたはRNAは、細胞、組織、または他のサンプルからDNAまたはRNAを単離するための標準の技術によって、単離および精製できる。
【0112】
ある実施形態では、標的配列は、マイクロタイタープレートなどの固体マトリックスに付着された、配列特異的(例えば、遺伝子特異的)オリゴヌクレオチド捕捉プローブによって固定される。固定された捕捉プローブは、一本鎖DNA(すなわち変性したDNA)またはRNAを含めた試験サンプルと共に、ハイブリッド形成条件下で処理される。試験サンプル中に存在する任意の標的配列を、捕捉プローブとハイブリッド形成させ、その後、本発明に従うさらなる試薬に暴露させる。
【0113】
ある実施形態では、イニシエーター(n 5’−R1−(NI)x−OH 3’)は、標的部位プローブ(図4)が存在する場合には、標的部位の上流で、標的配列とハイブリッド形成し、ポリメラーゼによる標的部位での重合反応の触媒作用を促進する。国際公開第03/038042号パンフレットおよび米国出願公開第US−2003−0099950号明細書に記載される通り、開始プライマーは、ヌクレオシド、ヌクレオシドの類似体、ヌクレオチド、およびヌクレオチド類似体からなる可能性があり、ヌクレオチドの数は変わり得る。標的配列またはその任意の部分からオリゴリボヌクレオチド産物を合成するために、適切なRNAポリメラーゼが使用される。
【0114】
重合反応中、イニシエーターは、ポリメラーゼによって、反応混合物に加えられたヌクレオチドの組み込みを介して、伸長または延長される。ポリメラーゼ反応が進行すると、ポリメラーゼは、反応混合物中に存在する相当するヌクレオチドを組み込むことによって、鋳型配列によって指示される通りに、イニシエーターを延長する。ある実施形態では、これらの反応物ヌクレオチドは、鎖ターミネーター(例えば、上で述べた通りの、n 5’pppNT−R2、鎖終結ヌクレオチド類似体)を含む。ポリメラーゼが、鎖ターミネーターを新生のオリゴヌクレオチド産物に組み込む場合、ポリメラーゼが、鎖ターミネーターのペントース環上の3’位置でヌクレオチドの付加を触媒できないことによって、鎖伸長は終結する。結果的に、ポリメラーゼは、オリゴヌクレオチド産物(すなわち、5’ R1−(NI)zpNT−R2、ただし、z=x+y)を放出し、標的部位での不完全開始合成反応を再び開始することによって、開始された合成事象を中止する。
【0115】
不完全開始反応は、予め定められた数のヌクレオチドによってイニシエーターが延長された後、ポリメラーゼが、合成を中止するように制御できる。例えば、イニシエーターが単一のヌクレオチドによって延長された後で合成反応を終結することが望ましい場合、これは、例えば、以下のいずれかによって、達成できる:(1)反応混合物に鎖ターミネーターであるヌクレオチドのみを加え、それによって、第1のヌクレオチドがポリメラーゼによって組み込まれた後で、重合を阻害すること;または(2)標的部位の遺伝的配列が知られている場合、反応混合物に、標的部位でヌクレオチドと相補的である、予め選択された鎖終結ヌクレオチド類似体(すなわち、A、G、T、C、またはUのうちの1つを含むヌクレオチド類似体)のみを加えること。あるいは、予め定められた数のヌクレオチドによってイニシエーターが延長された後で、合成反応を終結することが望ましい場合、かつ標的部位の遺伝的配列が知られている場合は、これは、例えば、反応混合物に、標的部位からN番目のヌクレオチドと相補的である、予め選択された鎖終結ヌクレオチド類似体(すなわち、A、G、T、C、またはUのうちの1つを含むヌクレオチド類似体)を加えることによって達成できる(ここで、Nは、イニシエーターを除いて、オリゴヌクレオチド産物に含まれる予め定められた数のヌクレオチドである)。このように、イニシエーターおよび鎖終結ヌクレオチド類似体を含む複数の不完全オリゴヌクレオチド産物は、ポリメラーゼによって合成される。
【0116】
ポリメラーゼは、酵素結合部位からの転位置も、標的ポリヌクレオチド配列からの分離もせずに、オリゴヌクレオチド産物を放出する。ヌクレオチド剥奪は、ポリメラーゼ結合部位でポリメラーゼを引き離すために使用できる。例えば、イニシエーターとターミネーターが提供されるだけでは、ポリメラーゼによる伸長は可能でない。
【0117】
さらに、反応条件は、さらに伸長中のヌクレオチドが存在する場合には、ポリメラーゼが、ポリメラーゼ結合部位に結合されたままであることが好都合であるように、不完全転写開始のために最適化することができる。不完全開始反応緩衝液は、使用されることとなる塩の濃度、二価の陽イオン、グリセロール含有量、および還元剤の量およびタイプを調整することによって、不完全事象を増大するために最適化される。さらに、ポリメラーゼが転位置するのを防止するために、「妨害(roadblock)」タンパク質を使用できる。
【0118】
本発明の別の態様では、図4に図表的に説明する通り、標的配列の標的領域にバブル複合体を形成するために、標的部位プローブを使用できる。上で述べた通り、バブル複合体は、標的部位を含む一本鎖領域に隣接する二本鎖領域を含む。この実施形態では、標的部位プローブは、標的配列上の一本鎖バブル領域と下流の二重鎖領域の接合部に標的部位を配置することによって、標的部位にポリメラーゼを導くために使用される。ポリメラーゼは、イニシエーターと結びつき、鋳型配列上の標的部位で合成反応を開始する。ポリメラーゼは、イニシエーターを伸長し、適切な鎖ターミネーターを含むヌクレオチドの組み込みを介して、不完全オリゴヌクレオチド産物を合成する。鎖終結ヌクレオチドを含めて、イニシエーターとヌクレオチドは両方とも、標識部分を用いて改変することができる。
【0119】
したがって、標的配列上の反復的合成開始事象を介して複数のオリゴヌクレオチド産物を検出するための例示的手順には、以下が含まれ得る:(a)特定のまたは一般的な標的配列とハイブリッド形成するように設計されているオリゴヌクレオチド捕捉プローブを固定すること;(b)オリゴヌクレオチド捕捉プローブを、標的配列を含有する可能性がある試験サンプルとハイブリッド形成させること;(c)標的配列を、標的部位プローブとハイブリッド形成させること;(d)ポリメラーゼによって合成されるオリゴヌクレオチド産物の検出を可能にするために、鎖ターミネーターを含むイニシエーターおよびヌクレオチドのうちの少なくとも1つを改変すること;(e)標的配列をプライマーとハイブリッド形成させること、および(f)ポリメラーゼを用いてイニシエーターを延長させて、鎖ターミネーターを含む相補的なヌクレオチドを組み込むことによって、ポリメラーゼが、標的部位に相補的であるオリゴヌクレオチド産物を反復的にに合成するようにすること、および、酵素結合部位からの転位置も、標的配列からの分離もせずに、不完全オリゴヌクレオチド産物を放出させること。
【0120】
RNAポリメラーゼによる鋳型の転写中、RNAイニシエーターは、反応混合物に加えられているヌクレオチドの組み込みを介して、RNAポリメラーゼによって延長される。ポリメラーゼ反応が進行すると、RNAポリメラーゼは、反応混合物中に存在する相当するヌクレオチドを組み込むことによって、鋳型配列によって指示される通りに、RNAイニシエーターを延長する。ある実施形態では、これらの反応物ヌクレオチドは、鎖ターミネーター(例えば、上で述べた通りのn 5’pppNT−R2、鎖終結ヌクレオチド類似体)を含む。RNAポリメラーゼが鎖ターミネーターを新生の転写産物に組み込む場合、ポリメラーゼが、鎖ターミネーターのリボース環上の3’位置でのヌクレオチドの付加を触媒できないことによって、鎖伸長は終結し、RNAポリメラーゼは、転写産物を放出し、標的部位での転写を再び開始することによって、開始された転写事象を中止する。不完全転写開始反応は、RNAプライマーを含む、予め定められた長さの複数の不完全オリゴヌクレオチド転写産物、および鎖終結ヌクレオチド類似体が、産生されるように制御できる。
【0121】
典型的な実施形態では、RNAイニシエーターは、モノヌクレオチドであり得、反応混合物に提供されるヌクレオチドは、単に鎖ターミネーターのみを含む可能性がある。この実施形態では、転写は、RNAイニシエーターが単一のヌクレオチドによって延長された後で、RNAポリメラーゼによって中止され、不完全ジヌクレオチド転写産物が産生される。別の実施形態では、例えば、RNAイニシエーターは、ジヌクレオチドまたはトリヌクレオチドを含むことができ、不完全転写開始事象によって、それぞれ、トリヌクレオチドまたはテトラヌクレオチドを含む不完全転写産物を産生できる。周知のことだが、RNAイニシエーターの長さおよび性質、ならびに反応混合物への包含のために選択される反応物ヌクレオチドの組成に応じて、いずれの所望の長さの不完全転写産物も、入手できる。例えば、鋳型のヌクレオチド配列が既知である場合、転写反応の構成要素(例えば標的部位、イニシエーター、および反応物ヌクレオチド)は、選択することができ、その結果、いずれの所望の長さの不完全転写産物も、本発明の方法によって産生される。
【0122】
本発明の別の態様では、RNAイニシエーターは、RNAイニシエーターに組み込まれる5’リン酸基、リボース環の2’位置、またはヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体のうちの1つのプリンまたはピリミジン塩基と共有結合可能な部分(図3に図示する通り、例えば、R1)を含む。さらに、RNAポリメラーゼによるオリゴヌクレオチド転写産物への組み込みのために反応混合物に含まれる反応物ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド類似体はそれぞれ、核酸塩基、あるいはリボース環の2’位置または3’位置に共有結合的に結合される部分(図3に図示する通り、例えば、R2)も含む。部分R1およびR2は、上述でより詳細に述べた通り、H、OH、または任意の適切な標識部分、レポーター群、またはレポーター群前駆体を各々含む。
【0123】
したがって、標的配列上の反復的転写開始事象を介して複数のオリゴヌクレオチド転写産物を検出するための例示的手順には、以下が含まれる:(a)特定のまたは一般的な標的配列とハイブリッド形成するために設計されているオリゴヌクレオチド捕捉プローブを任意選択で固定すること;(b)オリゴヌクレオチド捕捉プローブを、標的配列を含有する可能性がある試験サンプルと、任意選択でハイブリッド形成させること;(c)標的配列を、標的部位プローブと任意選択でハイブリッド形成させること;(d)RNAイニシエーターおよび鎖ターミネーターを含むヌクレオチドのうちの少なくとも一つを改変して、RNAポリメラーゼによって合成されるオリゴヌクレオチド転写産物の検出を可能にすること;(e)標的配列を、RNAイニシエーターとハイブリッド形成させること;および(f)RNAポリメラーゼを用いてRNAイニシエーターを延長させて、鎖ターミネーターを含む相補的なヌクレオチドを組み込むことによって、RNAポリメラーゼが、標的部位と相補的であるオリゴヌクレオチド転写産物を反復的に合成するようにすること、および、ポリメラーゼ結合部位からの転位置も、標的配列からの分離も実質的にせずに、不完全オリゴヌクレオチド転写産物を放出させること。
【0124】
複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物は、質量分析を用いて迅速に検出および定量化できる。例えば、表1aおよび1b、実施例2に示す通り、質量分析によって、任意のトリヌクレオチドを区別できる。トリヌクレオチド間の違いを、金属イオン、アイソトープ、または他の分子を含めた標識を用いて強調させることができる。トリヌクレオチドに対応するピーク下の積分された領域は、トリヌクレオチドの量(完全なまたは相対的な条件で)を示唆する。最後に、サンプルは、ほぼリアルタイムで分析できる。したがって、サンプルは、リアルタイムに近い状態で、不完全転写の支配下にある可能性があり、読み取られる結果は、標的分子の存在、その存在量を、また、どの種類のオリゴヌクレオチド転写産物が産生されるかを決定することによって、標的分子の性質を示唆する。
【0125】
多重化
本発明の方法は、同時の単一のタイプの不完全転写反応に制限されず、同時の複数の反応(すなわち多重化)を同時に行うことを含む。言い換えれば、複数の様々なアブスクリプション(abscription)反応が、単一のサンプル上で同時に起こることが可能である。
【0126】
多重化は、いくつかの利点を有する。複数の検出可能なシグナルの存在により、感受性が増大する。複数の検出可能なシグナルを用いることによって、特異性もまた増大される。例えば、4つのプローブが使用される場合、4つの異なる不完全転写産物が得られる。4つのアブスクリプション産物の存在を検出することは、目的とする標的分子の存在を確証することとなるが、1つのアブスクリプション産物のみの検出は、偽陽性反応と考えられる可能性がある。
【0127】
ある実施形態では、多重化は、目的とする同一の標的分子上で実施される。ある実施形態では、複数のTSPが、使用され、これらはそれぞれ、標的核酸由来のDNAの異なるセクションに対して特異的である。別の実施形態では、異なるDNAプローブ(これらはそれぞれ、異なるAPCまたはAPC−デンドリマー複合体に付着される)を、標的核酸配列にハイブリッド形成させる。別の実施形態では、異なる抗体が使用され、これらはそれぞれ、異なるAPCまたはAPC−デンドリマー複合体に付着される。アブスクリプション反応が実施される場合、異なるタイプのAPCの数と同じ位多くのタイプのシグナルが産生されることとなる。得られる多重シグナルを、例えば質量分光によって、検討する。
【0128】
ある実施形態では、複数の異なる反応は、目的とする標的分子の混合集団を含むサンプル上で実施される。ある実施形態では、サンプルは、目的とする複数の病原体を含むことができ、これらはそれぞれ、各々の病原体に特有のDNAの、一セクションに対して特異的な個々のTSPによって検出できる。あるいは、病原体は、標的病原由来の配列または抗原に対して特異的な核酸プローブまたは抗体に連結されたAPC(またはAPC−デンドリマー複合体)によって検出できる。多重化によって、ある範囲の異なる標的分子を、各々の標的分子を別々に検出することによって得られるであろうよりも増大された速度およびより小さいコストで、同時に検出できる。
【0129】
ある種のさらなる実施形態では、多重反応は、複数の標的分子の検出を含むことができ、各々の標的分子は、1つ以上の不完全転写反応によって検出される。
【0130】
さらなるシグナル増幅
不完全な反復的転写の産物は、直接的または間接的に検出することができる。ある実施形態では、産物は、さらなる直接的な増幅を受ける。別の実施形態では、産物はシグナル増幅カスケードに導入され、標的分子の検出の感受性が増大される。
【0131】
あるシグナルカスケード実施形態では、不完全オリゴヌクレオチド転写産物は、ビオチンで標識される;こうしたビオチン標識された分子は、例えば、検出可能なシグナル(HRPなど)を産生する、酵素に結びつけられたアビジンを用いて、その後検出できる。別の実施形態では、アビジンを、そこからさらに、不完全オリゴヌクレオチド転写産物を合成できる、APCまたはAPC−デンドリマー複合体に結びつけることができる。
【0132】
別の実施形態では、不完全オリゴヌクレオチド転写産物は、その後の反応における試薬(転写反応におけるイニシエーターなど)として、あるいはPCR反応のためのプライマーとして使用される。
【0133】
不完全合成の適用および検出方法
本発明の方法は、それだけには限らないが、以下を含めて、様々な診断および分析場面で使用できる:特定の遺伝子のメチル化状態を評価すること、既知の遺伝子突然変異の存在を検出すること、病原生物の存在を検出すること、mRNA発現レベルを検出すること、およびタンパク質を検出すること。質量分析は、蛍光(flourescence)、放射性同位元素、または他の方法を介する代わりに、反復的オリゴヌクレオチド転写産物を検出するために使用される。反復的オリゴヌクレオチド転写産物の産生をもたらす方法およびその使用は、例示的かつ非限定的な目的でのみ、本明細書に概要を述べる。こうした方法に関するさらなる詳細は、国際公開第03/038042号パンフレットおよび米国出願公開第US−2003−0099950号明細書で見ることができる。
【0134】
DNAメチル化
本発明の方法は、特定の病態に関連することが知られている特定の遺伝子およびその調節領域のメチル化状態を評価することによって、疾患の始まりおよび進行に伴う後成的な変化を検出する診断検査法に使用できる。DNAメチル化は、その配列のコーディング機能を変えずにDNAの特性を変えるための細胞の機構である。CpGメチル化は、癌進行のための強力なマーカーである可能性があり、また、遺伝子インプリンティング、転移因子の不活化、および女性におけるX染色体の不活化に関連する可能性もある。ヒトゲノムにおけるDNAメチル化は、ジヌクレオチド配列CpGにおけるCsに関して最も頻度が高い。
【0135】
したがって、ある実施形態では、本発明の方法は、メチル化状態およびパターンの変化を検出できる診断技術を提供することによって、疾患開始、進行、転移、再発、および治療的療法に対する任意の応答をモニターするために利用できる。DNA断片中でメチル化されたシトシン残基は、脱アミノ化剤(例えば、重亜硫酸ナトリウムなど)による、こうした残基の脱アミノ化に対する耐性に基づいて検出できる。図5に示す通り、変性させた(すなわち、一本鎖の)DNAが、脱アミノ化剤(重亜硫酸ナトリウムなど)に暴露される場合、メチル化されたシトシン残基(5−mCyt)が、変化しないままであるのに対し、メチル化されていないシトシン(C)残基は、ウラシル残基(U)に転換され、したがって、その相補的な塩基対合パートナーは、グアニン(G)からアデノシン(A)に変わる。しかし、メチル化されたシトシン(5−mCyt)は、Gに対するその塩基対合特異性を保持する。前述のことを考慮すると、標的DNA配列におけるCpGアイランドのメチル化のレベルは、変更されていないCpG部位の相対的なレベルを測定することによって決定できる。
【0136】
別の実施形態では、図6に図表的に説明する通り、例えば、重亜硫酸ナトリウムで標的DNA配列を処理することによって、標的DNA配列を脱アミノ化した後、標的DNA配列上の標的CpG部位を含むバブル複合体を形成するために、標的部位プローブを使用できる。この実施形態では、一本鎖バブル領域と標的DNA配列上の下流の二重鎖領域の接合部に標的CpG部位を配置することによって、標的CpG部位にRNAポリメラーゼを導くために、標的部位プローブが使用される。説明された実施形態では、標的部位プローブは、約18〜54ヌクレオチドを含む。すなわち、標的部位の上流で標的DNA配列とハイブリッド形成する第1の領域は、約5〜20ヌクレオチドを含み、塩基対形成されていないヌクレオチドの内部の第2の領域は、約8〜14ヌクレオチドを含み、標的部位の下流で標的DNA配列とハイブリッド形成する第3の領域は、約5〜20ヌクレオチドを含む。標的部位プローブは、DNA標的配列が、RNAポリメラーゼおよび適切なRNAイニシエーターと共にインキュベートされる前あるいは間に、標的DNA配列とハイブリッド形成できる。ポリメラーゼは、RNAイニシエーターと結びつき、DNA鋳型上のCpG部位で転写およびRNA合成を開始する。ポリメラーゼは、イニシエーターを延長させて、適切な鎖ターミネーターの組み込みを介して不完全オリゴヌクレオチド転写産物を合成する。イニシエーターと鎖終結ヌクレオチドの片方または両方は、改変されてもよい。
【0137】
別の実施形態では、捕捉プローブは、目的とする遺伝子を捕獲するように設計することができ、不完全転写開始が、所望の遺伝子のメチル化状況を決定するために使用される。目的とする各々の遺伝子は、目的とする遺伝子に対して特有である捕捉配列へのハイブリッド形成によって、サンプルから除去できるであろう。
【0138】
遺伝子突然変異
本発明の別の態様では、本明細書で開示する方法を、診断検査法に使用できる。これにより、全染色体の再構成または単一または複数のヌクレオチドの変化、置換、挿入、または欠損の形の突然変異が検出される。
【0139】
病原生物
本発明の別の態様では、本明細書で開示する方法を、特定の核酸(DNAまたはRNA)の存在を検出し、それによって、該遺伝子を含有する特定のまたは一般的な生物の存在を示唆するのに役立つ、あるいは、生物の培養を必要とせずに、特定の生物の遺伝的タイピングを可能にする診断検査法に使用できる。試験サンプルは、特定の微生物(細菌、酵母、ウイルス、ウイロイド、カビ、真菌など)由来の標的核酸配列を含有することが疑われている可能性がある。試験サンプルは、それだけには限らないが、動物、植物、またはヒトの組織、血液、唾液、精液、尿、血清、脳または脊髄液、胸膜液、リンパ液、痰、乳房洗浄(breast lavage)からの液体、粘膜(mucusoal)分泌物、動物の固体(animal solid)、便、微生物の培養物、液体および固体の食品および飼料製品(feed−product)、排泄物、化粧品、空気、および水を含めた様々な供与源から集められる。
【0140】
ある実施形態では、標的病原ポリヌクレオチドに対して配列特異的であるオリゴヌクレオチド捕捉プローブが、固体マトリックスに付着される。試験サンプル中に存在する標的病原ポリヌクレオチドは、捕捉プローブとハイブリッド形成し、その後、洗浄を実施して、捕捉プローブにより固定されなかった試験サンプルのいずれの成分も除去する。例えば、標的DNAまたはRNAは、プライマー伸張を介する特定の配列の付加によって回収することができる。ある実施形態では、捕獲された標的病原ポリヌクレオチドは、不完全プロモーターカセット(APC)とハイブリッド形成される。APCリンカー配列は、(捕捉プローブとの逆平行ハイブリッドをもたらすために必要な方向に応じて)その3’または5’末端上に一本鎖オーバーハング領域を含む。言い換えれば、APCリンカーは、捕獲される標的病原ポリヌクレオチドの自由端上の配列と相補的であり、それによって、APCリンカーが、標的病原ポリヌクレオチドとハイブリッド形成することが可能になる。その後、本明細書に記述する通りに不完全転写を実施し、反復的オリゴヌクレオチド転写産物を産生させ、これは、質量分析を用いてその後検出される。
【0141】
したがって、病原体の存在を検出するための例示的手順(図8)には、以下が含まれる:(a)標的病原ポリヌクレオチドとハイブリッド形成するように設計された捕捉プローブを、任意選択で固定すること;(b)捕捉プローブを、標的病原ポリヌクレオチドを含有する可能性がある試験サンプルと、任意選択でハイブリッド形成させること。標的核酸は、(RNA病原体については)逆転写、または(DNA病原体については)プライマー伸張を介してDNAにコピーすることができる。どちらの塩基においても、不完全プロモーターカセット(Abortive Promoter Cassette)(APC)リンカーに対応するDNA配列が、標的コピーに加えられる(図1);(c)捕獲された標的病原ポリヌクレオチドを任意選択で洗浄して、試験サンプルのいずれのハイブリッド形成されていない成分も除去すること;(d)不完全プロモーターカセットと、捕獲された標的病原ポリヌクレオチドをハイブリッド形成させること;(e)ポリメラーゼによって合成されるオリゴヌクレオチド産物の検出を可能にするために、鎖ターミネーターを含むイニシエーターおよびヌクレオチドのうちの少なくとも1つを改変すること;(f)イニシエーターと不完全プロモーターカセットをハイブリッド形成させること;(g)ポリメラーゼを用いてイニシエーターを延長させて、鎖ターミネーターを含む相補的なヌクレオチドを組み込むことによって、ポリメラーゼが、標的部位と相補的であるオリゴヌクレオチド産物を反復的に合成するようにすること、および、酵素結合部位からの転位置も、APCからの分離もせずに、不完全オリゴヌクレオチド産物を放出させること;および(h)質量分析を使用して、複数の不完全オリゴヌクレオチド産物を検出し、任意選択で定量化すること。
【0142】
別の態様では、本発明は、質量分析を使用して試験サンプル中の病原体の存在を検出するための方法を提供する。この方法は、以下を含む:(a)ポリメラーゼによる転写によって検出できる領域を含む人工のプロモーターカセットに、前記試験サンプル中の標的病原ポリヌクレオチドまたはタンパク質を付着させること;(b)イニシエーター、RNAポリメラーゼ、伸長因子(elongator)、および/またはターミネーターと共に、前記APCで標識された標的分子をインキュベートすること;(c)APCの着手開始部位に相補的であるオリゴヌクレオチド転写産物を合成すること(ただし前記イニシエーターは、転写が終結するまで延長され、オリゴヌクレオチドが放出され、それによって、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が合成される);および(d)前記試験サンプルから合成される、前記反復的に合成されたオリゴヌクレオチド転写産物を、質量分析を使用して検出または定量化することによって、病原体の存在を決定すること。
【0143】
さらなる態様では、本発明は、捕捉プローブおよび質量分析を使用して試験サンプル中の病原体を検出するための方法を提供する。この方法は、以下を含む:(a)前記試験サンプル中の標的DNAまたはRNAポリヌクレオチドと相互作用するように設計された捕捉プローブを固定すること;(b)前記捕捉プローブを、前記標的ポリヌクレオチドを含有する可能性がある試験サンプルと混合すること;(c)前記試験サンプル中の標的ポリヌクレオチドを、標的病原ポリヌクレオチドと相互作用する領域と、ポリメラーゼによる転写によって検出できる領域とを含む人工のプロモーターカセットに付着させること;(d)前記標的ポリヌクレオチドを、RNAポリメラーゼ、イニシエーター、伸長因子、および/またはターミネーターと共にインキュベートすること;(e)APCの前記転写着手開始部位に相補的なオリゴヌクレオチド転写産物を合成すること(ただし、転写が終結するまで、前記イニシエーターは延長され、オリゴヌクレオチドが放出され、それによって、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が合成される);および(f)前記反復的に合成されたオリゴヌクレオチド転写産物を、質量分析を使用して検出または定量化することによって、病原体の有無を決定すること。
【0144】
本発明の方法は、病原性の核酸およびタンパク質の有無をモニターするのに特に有用である。本発明は、病原性ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関連する疾患および/または異常を検出、診断、およびモニターするために使用できる。本発明は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの異常な発現の検出を提供する。この方法は、以下を含む:(a)上記の不完全開始転写の方法を使用して、個体の細胞、組織、または体液中の目的とするポリペプチドまたはポリヌクレオチドの発現を分析すること、および(b)目的とする配列の遺伝子発現、タンパク質発現、または存在のレベルを、(標準レベルと比較した場合の、分析されるポリペプチドまたはポリヌクレオチドレベルの増加または減少が、目的とする病原体の存在を示唆する異常な発現の指標となるような)標準の遺伝子またはタンパク質発現レベル、あるいは目的とする配列と比較すること。
【0145】
個人由来の、生検が行われる組織または体液中の、異常な量の転写産物の存在は、実際の臨床症状が現れる前に、疾患を検出するための手段を提供できる。このタイプのより最終的な診断によって、医療専門家は、早期に予防処置または積極的な治療を用い、それによって、病原体によって引き起こされる疾患の発症またはさらなる進行を阻止できるようになる。
【0146】
本発明は、それだけには限らないが、大腸菌、連鎖球菌(Steptococcus)、桿菌属、マイコバクテリウム、HIV、および肝炎を含めて、病原生物の存在をモニターするのに特に有用である。
【0147】
本発明の方法は、水性流体中の、特に水(飲料水または水泳用または入浴用の水など)や他の水溶液(例えば細胞培養に使用される発酵ブロスおよび溶液)、または気体および呼吸用の(breathable)空気などの気体混合物中の、および、噴霧、パージ、または表面から粒状物質を除去するのに使用される気体中の病原性微生物に対する試験に使用できる。それだけには限らないが、家、学校、教室、仕事場、航空機、宇宙船、自動車、電車、バス、および人々が集まるその他のいずれの建物または構造も含めて、いずれの供与源からの呼吸用の空気も、病原性微生物の存在について試験できる。
【0148】
mRNA発現
本発明の別の態様では、本明細書で開示する方法を、定量的または非定量的方式で、伝令RNA(mRNA)発現レベルを検出する、診断検査法(diagnostic assays)に使用できる。
【0149】
タンパク質検出
本発明の別の態様では、本明細書に開示する方法を、タンパク質を検出する診断検査法に使用できる。例えば、不完全プロモーターカセットリンカーは、タンパク質修飾因子群を付着させて作製することができ、タンパク質にAPCを連結するために使用できる。適切なタンパク質には、それだけには限らないが、抗体、結合タンパク質、アビジン、情報伝達分子、プロテインAなどが含まれる。ある実施形態では、APCは、目的とする標的タンパク質分子に対して特異的な抗体に連結される。抗体は、目的とする標的タンパク質分子と結合し、付着されたAPCが使用されて、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が産生され、これは、質量分光を用いてその後検出される。ある標的分子に特異的な抗体または他のタンパク質にAPCを連結することによって、この方法はまた、目的とする非タンパク標的分子と共に使用することもできる。
【0150】
疾患検出
本発明は、DNAメチル化、遺伝子突然変異、mRNA発現パターン、およびタンパク質発現パターンの状態をモニターすることによって、動物における疾患を検出するのに有用である。本発明は、疾患、および/または異常な発現に伴う障害、および/またはポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性を検出、診断、およびモニターするために使用できる。本発明は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの異常な発現、突然変異の存在、およびDNAのメチル化状況の変化の検出を提供する。本発明の診断検査法は、いずれの疾患の診断および予後のためにも使用することができ、これには、それだけには限らないが、アルツハイマー病、筋ジストロフィー、癌、乳癌、大腸癌、嚢胞性線維症、脆弱エックス症候群、血友病AおよびB、ケネディ病、卵巣癌、肺癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、筋緊張性ジストロフィー、テイサックス(Tay Sachs)病、ウィルソン(Wilson)病、およびウィリアムス(Williams)病が含まれる。これらの分析は、すべてのタイプの癌の診断および予後に特に有用であると考えられている。
【0151】
キット
ある実施形態では、本発明は、キットである。ある実施形態では、キットは、目的とする標的分子に対する特異性をもつ分子(例えば核酸または抗体)とAPCを結びつけるためのリンカーを含有する不完全プロモーターカセットを含有するバイアルを含む。別の実施形態では、キットは、デンドリマー、APCおよびカップリング試薬を含有する。別の実施形態では、デンドリマーは、APCと結びつけられる。他のバイアルは、上記の結合をもたらすのに適した試薬を含有する。キットはまた、ポリメラーゼ、APCに適したイニシエーター、および不完全転写に適したヌクレオチドを含有できる。
【0152】
検出装置
不完全転写技術は、迅速かつ移動できる方式で、目的とする標的分子の存在を検出できるように、装置に組み込むことができる。こうした装置は、サンプルを、装置のあるポートに加え、オリゴヌクレオチド転写産物が第2のポートから得られ、その後、それを質量分析計に供給することができるような、反応成分を組み込んだマイクロ流体的な(microfluidic)装置であり得る。ある実施形態では、サンプル収集、不完全転写反応、および質量分析検出を、単一の装置内で行うことができる。
【実施例】
【0153】
以下の実施例は、限定目的ではなく、例示目的でのみ提供される。当分野の技術者であれば、本質的に同様の結果を得るために変化または改変させることができる、絶対的ではない様々なパラメータを容易に認識するであろう。例えば、詳述される個々の作用は、必ずしも本明細書で示される順序に限定されない可能性がある。
【0154】
実施例1
RNAポリメラーゼを用いる、RNAプライマー開始型不完全転写
反応条件は、不完全転写開始のために最適化された。緩衝液Tの成分および濃度は、不完全転写開始に好都合である。緩衝液Tは、以下からなる:20mMトリス−HCl pH 7.9、5mM MgCl2、5mMベータ−メルカプトエタノール、2.8%(v/v)グリセロール。プライマーは、0.2〜1.3mMの濃度の範囲であるリボヌクレオシド−三リン酸(NTP)またはジヌクレオチドである。最終のNTP濃度は、0.2〜1.3mMの範囲である。濃度範囲の高い方の末端は、予備的な不完全転写のために設計される。鋳型DNA濃度は、リン酸について2uM未満である。大腸菌RNAポリメラーゼは、15nMと400nMとの間の最終濃度で加えられる。一本鎖鋳型DNAと共に、ホロ酵素またはコアを使用できる。ピロリン酸の蓄積を阻止するために、酵母無機ピロホスファターゼを、予備反応の際に1単位/mlで加える。ピロリン酸は、高い濃度では、RNAポリメラーゼが、RNA産物を犠牲にしてNTPを再産生させるような合成反応を取り消すことができる。ピロホスファターゼの1ユニットは、25℃およびpH 7.2で、1分につき1.0uMの無機正リン酸を遊離させる酵素の量によって定義される。反応物は、予備反応のために、最高72時間まで、37℃でインキュベートされる。これらの条件は、典型的であり、特定の鋳型に対して、特定の成分および濃度を最適化することにより、不完全開始の効率を高めることができる。
【0155】
この実施例では、3つの異なるイニシエーターが使用される:(1)TAMARA−ApG;(2)ビオチン(Biotin)ApG;および(3)ApG。標的核酸鋳型は、95℃で5分間沸騰させ、すぐに氷上に置くことによって、変性させる。各々の反応物は、以下の通りに調製される:
5.0μl 1X緩衝液T
2.5μl a−32P−UTP
14.3μl ddH20
1.0μlの大腸菌RNAポリメラーゼ(1U/μl)
100ng(2μl)の鋳型DNA
10nmole(1.2μl)のイニシエーター
22.8μlの反応緩衝液
【0156】
37℃で12〜16時間インキュベートする。サンプルを質量分析にかけ、TAMARA−ApG;ビオチン(Biotin)ApG;ApG、およびそれらの分解産物の分子量に相当する得られたピークを、標的分子の存在を決定するために使用する。種の存在はまた、当技術分野で知られた標準の方法を使用する薄層クロマトグラフィを用いて確認でき、第3の位置におけるUTPの組み込みの程度を決定する。
【0157】
実施例2
標識されたターミネーターを用いる不完全開始反応
不完全転写開始反応は、標識されたイニシエーターおよび/または標識されたターミネーターを用いて実施される。標識されたターミネーターを組み込むために、以下の反応条件を使用する:
5μl 1X緩衝液T
3μl 100ngの変性DNA鋳型(pBR322)
13.5μl ddH20
1μl 大腸菌RNAポリメラーゼ
1.2μl ジヌクレオチドイニシエーターApG
1.5μlの7mM SF−UTP
【0158】
混合物は、温度が制御されたマイクロタイタープレートリーダー中で16時間、37℃でインキュベートする。標識されたトリヌクレオチドApGpUが産生されたことを実証するために、当技術分野で知られた標準の方法を使用して、薄層クロマトグラフィを実施する。サンプルを、質量分析を用いて試験して、トリヌクレオチドApGpUが産生されたことを決定する。表1で予測する通り、質量分析は、トリヌクレオチド種を容易に区別することができるはずである。
【0159】
質量分析を介する検出によって、レポーター標識された、リボヌクレオチドの類似体を必要とせずに、複数の標的分子または標的配列の同時検出が可能になる。表1(a)は、MWが異なる20のトリヌクレオチドを示す。表1(b)は、分子量によって分類される同じ20のトリヌクレオチドを示す。レポーター標識された開始ヌクレオチドおよび/またはターミネーターヌクレオチドを用いることによって、さらなる多重化も達成できる。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
実施例3
大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素を用いる、RNAプライマー開始型不完全転写
大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素は、プロモーター配列を欠く一本鎖DNA分子から転写を開始することができる。変性したポリ[dG−dC](10μg/25μl反応物)を、大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素(1.9pmole/反応物)を用いて転写させる。不完全転写を、ジヌクレオチドGpCを用いて開始させる。GTPは、プライマーを延長するために利用可能な唯一のヌクレオシド−三リン酸である。鋳型鎖によってコードされる他のヌクレオシド−三リン酸(CTP)は、除かれる。質量分析を実施し、トリヌクレオチド産物GpCpGの存在が、GTP濃度に依存すること、また、検出可能な産物が1つのサイズのものであることが示唆され、CTPの除外によって、トリヌクレオチド産物の形成の後、転写が効率的に終結されたことが示された。
【0163】
大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素は、部分的に相補的な非鋳型パートナーを欠いた鋳型鎖にわたるバブル複合体基質を強力に好むこととなるであろう。相当する単一の鋳型鎖に対する、DNAバブル複合体を用いる大腸菌RNAポリメラーゼホロ酵素による相対的な転写活性が決定され、RNAポリメラーゼは、バブル複合体1を用いると、同等のモル濃度量の鋳型鎖単独が提供される時よりも、70倍高いレベルの活性を示すことが示された。バブル複合体DNAに対するT7 RNAポリメラーゼの優先度を試験する実験でも、同様の結果が得られるであろう。
【0164】
様々なプロモーター認識特性をもつRNAポリメラーゼは、不完全転写のための基質として、バブル複合体1を使用することが示された。この実験では、バブル複合体1を、大腸菌ホロ酵素、大腸菌コアRNAポリメラーゼ、ファージT7、およびファージSP6 RNAポリメラーゼと共にインキュベートする。大腸菌ホロ酵素および大腸菌コアポリメラーゼのための反応緩衝液は、150mM 酢酸Naを含む。高い塩濃度によってこれらの酵素は阻害されるので、酢酸Naは、T7およびSP6反応からは除かれる。すべての反応物は、20mM HEPES pH 8緩衝液、10mM MgCl2および2mM DTTを含有している。イニシエーターApAおよびUTPは、すべての反応物に、それぞれ1mMで提供される。大腸菌ホロ酵素は、大腸菌コアポリメラーゼよりも約2倍多い産物、また、T7およびSP6ポリメラーゼよりも、ポリメラーゼあたり約10倍多い産物を産生することが予測される。
【0165】
放射性の前駆体およびオートラジオグラフィー検出を用いる、プライマー−開始型不完全転写に基づくアッセイの感受性。
【0166】
プライマー開始型不完全転写反応物に基づく検出アッセイの感受性は、検出可能なシグナルを産生できるバブル複合体1の最小限の量を明確にすることによって決定することができる。例えば、一連の不完全転写反応を、バブル複合体1の量を減少させて実施することができる(10フェムトモル(femptomole)〜1ゼプトモル/25μl反応物)。転写は、ApAおよび放射性UTPを用いて開始される。UTPは、産物をトリヌクレオチドApApUに限定するために反応物に含まれる、唯一のヌクレオシド三リン酸である。質量分析を使用して、各々の転写反応に対する経時変化を実施する。3時間のRNAポリメラーゼ不完全転写反応の後、10フェムトモルのバブル複合体からのシグナルは、はっきりと検出可能となり、1フェムトモルのバブル複合体からのかすかなシグナルは、質量分析を介して識別可能となる。100アトモルのバブル複合体1からのApApUシグナルは、24時間の転写後に検出可能である。
【0167】
実施例4
逆相HPLC/エレクトロスプレーイオン化質量分析による不完全転写産物(アブスクリプト(Abscript))の定量化のためのプロトコル
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)によるアブスクリプトの検出は、反応溶液中に存在する他の塩およびイオンからのアブスクリプトの分離を必要とする。この分離を行わないと、イオン抑制によって、アブスクリプトの検出が阻止される。このプロトコルは、標準のアブスクリプション反応から産生されるアブスクリプトの検出および定量化のために使用されたクロマトグラフィおよびESI−MS設定を記述する。このプロトコルには、通常の溶液アブスクリプション反応を用いるための標準の調製物およびサンプル調製物の例、ならびにアブスクリプション反応で産生されるアブスクリプトの定量化のための産生されたデータを処理するための手法が含まれる。当業者であれば、異なる条件で使用するためのプロトコルを、さらに改変および適合させることができる。
【0168】
HPLC
PC上のMassLynxソフトウェアで制御されるウォーターアライアンス2795分離モジュール(Waters Alliance 2795 Separations Module)。
【0169】
ウォーターズアトランティス(Waters Atlantis)C18カラム:2.1×30mm、300μm粒径
HPLC等級アセトニトリルおよび水
【0170】
【表3】
【0171】
ESI−MS
セントロイド(centroid)データコレクションを使用する、PC上のMassLynxソフトウェアで制御される、陰イオンV−型式(V−mode)で、ウォーターズ/マイクロマスLCTプルミエールESI−MS w/ロックスプレーアタッチメント(Waters/Micromass LCT Premier ESI−MS w/Lockspray attachment)を運転する。高純度N2ガスを、窒素発生器(ピークサイエンティフィック(Peak Scientific)、NM30LA)によって提供した。ロックスプレー(lockspray)として使用するためのロイシンエンケファリン(1ng/ml)を質量標準とした。HPLCカラムからの溶出液は、MS源へのアンスプリット(unsplit)に導入される。
【0172】
【表4】
【0173】
【表5】
【0174】
【表6】
【0175】
標準調製物およびサンプル調製物
IDT デュプレックス(duplex)緩衝液:
30mM HEPES
100mM酢酸カリウム
pH7.5
【0176】
デュプレックス(duplex)緩衝液中の5mMの、ダーマコン社(Dharmacon,Inc)から購入されたRNAトリヌクレオチド標準。
5X バブル緩衝液
100mM HEPES、pH 8
50mM MgCl2
0.5mM EDTA
40mM スペルミジン
5mM DTT
750mM 酢酸ナトリウム
150μg/ml アセチル化BSA
14% グリセロール
以上をヌクレアーゼを含まない水の水溶液とする
リボメイカー(Ribomaker)ポリメラーゼ(883fmol/μL)
50fmol/μLのAPCバブル
デュプレックス緩衝液中の5mMの適切なNpNイニシエーター
デュプレックス緩衝液中の5mMの適切なNTP
【0177】
標準の調製物:
トリヌクレオチド濃度が0.5、1、5、10、50、および100μM(マトリックス中)の1X バブル緩衝液、70.6fmol/μL リボメイカー(Ribomaker)ポリメラーゼ、8fmol/μL APCバブル、1mM 適切なNTP、および1mM 適切なNpNイニシエーターを用いて、20μL溶液を調製した。標準溶液は、氷上または4°で冷却し、いずれのアブスクリプションが起こることも阻止した。あるいは、溶液中のイニシエーター/NTP組み合わせからのアブスクリプトを産生しないAPC バブルを使用することもできる。
【0178】
サンプル調製物:
アブスクリプションプロトコルは、本明細書の他で述べる通りに実施した。標準、および評価されるべきサンプルを、HPLC等級水で1/10に希釈し、上で列挙されるHPLC/ESI−MS条件を使用して実行した。
【0179】
データ処理
評価されるアブスクリプトのための適切なM/Z値を使用して、クロマトグラムを産生した。荷電されたシグナルを二倍使用することにより、通常、より高い感受性が与えられる。アブスクリプトおよびイニシエーターは、保持時間が2〜3分である。クロマトグラムは、デフォルトの積分パラメータを使用して積分された。直線に標準の調製物からのデータを適合させて、標準のカーブを作製し、これを使用して、アブスクリプション反応で産生されるアブスクリプトの濃度を算出した。
【0180】
実施例5
AAGおよびAUG対照の質量分析検出
エレクトロスプレーイオン化質量分析計(ESI−MS)を使用して、化学的に合成されたAAGおよびAUGトリヌクレオチドが検出された。
材料:
AAGおよびAUGトリヌクレオチド
HPLC等級アセトニトリル(EMサイエンス(EM science))および水(フィッシャー(Fisher))。
酢酸トリエチルアミン、pH 7
【0181】
方法:
サンプルを、10μL/分の直接注入によって、MSに導入し、V−オプティクス(V−optics)を用いる陰イオンモードで評価した。供給源条件:2500V キャピラリー、35V コーン、150° 脱溶媒温度、80° 供給源、550L/分 脱溶媒流。10μLのサンプルが、評価対象であり、したがって、データは、0.1秒の走査間隔を用いて、一連の1秒の走査で、1分間獲得された。
【0182】
結果
AAGおよびAUGトリヌクレオチドの50pmolの質量スペクトルを、図18に示す。親イオンは、AAGおよびAUGについて、936.9daおよび914.0daで観察され、実際のMWは、941.6および918.6であると予測された。親のイオンからのシグナルは、いずれの場合においても非常に弱かったが、二重荷電イオンからのシグナルは、より強力であった。これらのシグナルは、それぞれ468.3および456.8daで、親のイオンの半分の質量で起こる。図19は、50、5、および0.5pmolのレベルでのAAGに関する範囲を示す。AAGは、0.5pmolで検出可能であった。
【0183】
実施例6
RP−HPLC/MSによるトリヌクレオチドの定量的評価
アブスクリプション反応混合物中に懸濁されたAAGのスパイクされたサンプル中のトリヌクレオチドAAG(1)、および実際のアブスクリプション反応により産生されるAAGとしての(2)を検出および定量化するために、逆相HPLC/質量分析を使用した。
実験方法
材料:
アトランティスC18カラム:2.1×30mm、粒径300μm
HPLC等級アセトニトリル(EMサイエンス(EM science))および水(フィッシャー(Fisher))。
AAGトリヌクレオチド
バブル22(AAGアブスクリプトを産生する)
方法:
アブスクリプション
50、35、20、および5fmol/μLの標準的なバブル含有率を使用して、標準のプロトコルに従って、アブスクリプション反応を実行した。
【0184】
【表7】
【0185】
アブスクリプション反応を、45℃で30分間実行し、その後、LC/MS上での運転の前に、水で20μLから200μLに希釈した。
【0186】
RP−HPLC/MS条件
移動相:
成分A:水
成分B:アセトニトリル
【0187】
【表8】
【0188】
流速: 0.2mL/分
注入体積: 10μL
【0189】
MS条件:
キャピラリー電圧:2500
供給源電圧:35
脱溶媒温度:180℃
供給源温度:80℃
脱溶媒気体流速度:750L/時間
V−モード(V−mode)で実行
【0190】
サンプル運転:
AAG水溶液を、水中で100、70、40、および10μMの濃度で調製した。これらのサンプルは、転換率が、アブスクリプション反応で一般に観察される1%から10%の範囲に及ぶ。AAGでスパイクされたサンプルを、混合物中に通常の濃度のアブスクリプション試薬を含有すること以外は、上と同じ濃度で調製した。アブスクリプション反応は、50、35、20、および5fmol/μLのバブル標準濃度を使用してセットアップした。鋳型鎖のみを含有する負の対照もまた、実行した。すべてのサンプルを、運転の前に、水で20μLから200μLに希釈した。
【0191】
結果
図20Aは、10および100μM AAGを用いてスパイクされた2つのアブスクリプション反応から産生された質量スペクトルを示す。いずれの場合においても、優勢なシグナルは、593Daであり、これは、反応混合物中に存在する1mM ApA由来のものである。使用されるこのHPLC条件により、図20Bに示す通りのAAGおよびApAの近い共溶出(co−elution)という結果になる。図20Aおよび20Bは、反応から産生されるアブスクリプトの量を数量化するために使用される2つの異なるデータを表示する。図20Aは、図20Bに示されるクロマトグラフィのピークの幅にわたって合計される、個々の質量スペクトルから生じるシグナル強度の形のアブスクリプトの量を示す。
【0192】
表2は、様々な既知の量のAAGと、得られるシグナルとの関係を実証する。サンプルは、水単独中のものと、アブスクリプション反応と同一の溶液マトリックス中のものの両方を調製した。データを評価するために、3つの定量的手法を取った:
1.MS強度:図20Bに示す通りの、クロマトグラフィピークを含む個別走査を合計して、図20Aに示す通りに、単一の質量スペクトルという結果をもたらした(その強度は、アブスクリプトの量と相関するはずである)。
2.ピーク高さ および3.ピーク面積:図20Bにあるような、AAGシグナルのクロマトグラムを、標準のクロマトグラフィ手法に従って、ピーク高さまたはピーク面積によって、定量化することができる。
【0193】
【表9】
【0194】
表2は、水またはアブスクリプション反応マトリックスにおいて、3つの定量的手法はすべて、アブスクリプトに対する比較的直線的な反応を示すことを実証する。パフォーマンスのレベルは、表2におけるデータを産生するために使用されるものなどのスパイクされた溶液から作製される較正曲線を正確に使用して、未知のサンプルにおけるアブスクリプトの濃度を決定できることを示唆する。較正曲線の精度を増大するために、さらなるデータポイントや重複検定も使用できる。
【0195】
この手法に従って、表2におけるデータから産生されるMS強度、ピークの高さ、およびピーク面積の3つの定量的測定に対する較正曲線を使用して、新規のサンプルにおけるアブスクリプトの濃度を算出できる。いくつかの既知の濃度のAPCを使用する反応は、いくつかの溶液が、未知の濃度のアブスクリプトを含有するという結果になった。これらの溶液を、LC/MS法および上記の3つの定量的測定を使用して評価した。既知の濃度のAPCの他に、得られた濃度の値を用い、試験されるAPCについてのターンオーバー速度を算出した。これらの結果を表3に示すが、これは、APCの量の増大は、ターンオーバーの増大と相関することを示唆している。しかし、較正曲線の外側に位置するサンプルについては、較正曲線からの補外は、必ずしも、ターンオーバー速度の一貫性のある算出という結果にならなかった(例えば、5fmol/μL APC濃度を参照のこと)。この問題は、較正曲線におけるより大きい数および範囲のデータポイントにより矯正される。
【0196】
【表10】
【0197】
実施例7
多重不完全転写反応
同時に複数の不完全転写(アブスクリプション)反応を行う能力、すなわち、多重化は、2種のAPCを含有する反応混合物に関して実証された。図21に示される2種のAPC、バブル4およびAPC UC2361を、このために選択した。どちらの不完全プロモーターカセットも、異なる鋳型鎖(TEM)A197またはA56を用いたが、同じ標的部位プローブ(TSP)、A192を用いて構築された。バブル4のためのイニシエーターは、ApAであり、UC2361については、それは、UpCであり、組み込みヌクレオチドは、GTPである。バブル4からの予測されるアブスクリプション産物は、AAGであり、UC2361からは、UCGであり、これらは、TLCおよび質量分析によって識別可能である。
【0198】
反応成分を、表4に列挙する。各々のカラムに与えられる体積は、複製が実行されることができるような、2種の反応のためのものである。各反応を、二重に実施した。反応あたりの最終体積は、12.5μlであった。反応成分を、表4に列挙される順序で、PCR管内に集めた。この反応物を、45℃で30分間インキュベートし、アブスクリプション産物2μlを、シリカゲル(Al−担持)TLCプレートにスポットした。TLCを、6:3:1のイソプロパノール:NH4OH:H2Oの溶媒混合物に展開させ、その後乾燥させた。その後、TLCプレートを、燐光体イメージスクリーン(phosphor imager screen)に20分間曝し、スポットの強度から、ターンオーバー数(転写産物/鋳型/分)を算出した。図22は、TLCによる、混合されたAPC実験からのアブスクリプション産物を示す。レーン1〜3は、バブル4(最終100fmol)を有し、ApA(レーン1)、UpC(レーン2)、ApA+UpC(レーン3)を用いて開始された。レーン4〜6は、等モル濃度のバブル4(最終100fmol)およびAPCUC2361(最終100fmol)を有し、これらは、レーン4ではApAを用いて、レーン5ではUpCを用いて、レーン6ではApA+UpC両方を用いて開始された。レーン7〜9は、APCUC2361(最終100fmol)を有し、UpC(レーン7)、ApA(レーン8)、およびApA+UpC(レーン9)を用いて開始された。レーン10は、ApAを用いて開始されるTEM A197であり、レーン11は、UpCを用いて開始されるTEM A57であり、レーン12は、イニシエーターApA+UpCを含み、APCを含まない対照である。レーン13は、α32P−GTPに対する対照である。イニシエーター濃度は、それぞれ、最終で1mMであった。
【0199】
この実験では、各アブスクリプション反応物は、異なる鋳型および異なるイニシエーターを使用したが、両方ともGTPを組み込んでいた。この結果は、2つの異なるAPCが、同じ反応混合物中に存在する場合、片方のアブスクリプション反応物の、もう片方のAPCの存在に起因する抑制は存在しないことを実証する。APCが共に混合される場合、例え、同じGTPヌクレオチドが組み込まれていても(レーン4〜6)、総ターンオーバーの感知できる減少は無かった。誤った組み込み(APCと相互作用する間違ったイニシエーターを示唆する可能性がある)は、観察されなかった(レーン2、3、6、8、および9)。
【0200】
【表11】
【0201】
実施例8
多重不完全転写反応
異なるアブスクリプトを産生する10種のAPCが産生された。図23は、多重アブスクリプション反応で使用するための、オリゴヌクレオチド鎖の異なる組み合わせを用いて作製される10種の不完全プロモーターカセットを示す。
【0202】
図23に表されるAPCを形成するためのオリゴヌクレオチド鎖のアニーリングは、図24でAPCの4%アガロースゲル分析に示す通りの、4%アガロースゲル上の電気泳動により決定された。1pmol/μlのAPCの5μlを、各レーン(1〜10)に装填した。一本鎖との比較を示すため、TEM A191(50pmol/μlを5μl)をレーン11に装填し、レーン12は50bpのラダーを有していた。
【0203】
アブスクリプションは、APC 4、12、24、25、および32に関して実施し、アブスクリプトは、TLC上で運転された。各アブスクリプションは、最終濃度1mMのイニシエーター、それに加えて図に列挙される通りの最終濃度の1mM NTP、それに加えて1μlのアブスクリプターゼを含む、100fmolのAPCを用いて行われた。アブスクリプションは、45℃で60分間行われた。各反応からの2μlを、TLCプレート上にスポットし、6:3:1のイソプロパノール:NH4OH:H2Oで展開した。TLCプレートを、10分間、燐光体イメージスクリーンに曝した。
【0204】
各APCからのアブスクリプションを、図25に示す通りの放射能を使用して検出した。AAGおよびAAUは、TLCによって、容易に区別することはできないが、各APCは異なるアブスクリプトを与えた。
【0205】
実施例9
抗SEB抗体−APC複合体を用いるSEBタンパク質の、アブスクリプションに基づく検出
黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)は、サンドイッチELISA、および不完全プロモーターカセットと結びつけられるSEBに対する抗体を使用して検出された。
【0206】
実験方法
結合
APC 22(APCAA2361)(AAGアブスクリプトを産生する)を、アミン修飾し、かつSEBに対する抗体と結合させた。結合後、Ab−APC結合体と、反応していない成分の混合物を、HPLCを使用して画分に分けた。画分17〜19および22〜24を、プールし、試験した。プールしたサンプルを、30kDaスピンフィルタを使用して濃縮した。これらのサンプル中の抗体濃度は、ピアス社(Pierce)からのマイクロBCAアッセイを使用して決定された。
【0207】
サンドイッチELISA
SEBコートされたプレートを、1時間、2% BSA/PBS−Tween 20を用いてブロックした。10μg/mL IgGの抗体結合体溶液および1/2の連続希釈物を、カラム1〜11におけるプレートに加え、その結果、カラム1における抗体の濃度は、10μg/mLであり、カラム2は、5μg/mLであり、カラム3は、2.5μg/mLなどであり、かつ、カラム11における濃度は、9.77ng/mlであった。各ウェル中の最終の体積は、50μLであった。室温で、1時間のインキュベーションおよび振動の後、アブスクリプション反応を、以下の通りにセットアップした。10μLの883nM アブスクリプターゼ(バブル緩衝液中)を、各ウェルに加え、それに続いて2mM I−ApA、2mM T−GTP、0.1μCi/μL α−32P−GTP(バブル緩衝液中)を含有する10μL アブスクリプション試薬を加えた。1mM T−030、0.1μCi/μL α−32P−GTP(バブル緩衝液中)の溶液対照20μLを、空きウェルに入れた。プレートは、サーモミキサー(thermomixer)(エッペンドルフ(Eppendorf))中で2時間、400rpmで振動させながら、45℃でインキュベートし、それに続いて4℃に冷却して終夜保管した。アルミニウムで担時されたシリカゲルTLCプレート(Whatman(ワットマン))上の2μLの反応溶液および対照を展開した。燐光体スクリーン(Molecular Dynamics)を、20分間、TLCプレートに曝し、ホスホイメージャー:SI(Phosphoimager:SI)(モレキュラーダイナミクス(Molecular dynamics))を用いて画像形成し、ImageQuantソフトウェア(Molecular Dynamics)を使用して評価および定量化した。キャリブレーター(Calibrator)は、データがイメージャー(imager)の線形範囲内であることを示した。
【0208】
結果
2つの結合体プールによって産生されるシグナルに対するタイトレーションカーブを、図26に示す。プール22〜24は、最も大きな結合体バンドに対するピークの画分に相当し、プール17〜19は、わずかに初期に溶出する二次ピークに相当する。これらの2つのバンドからの結合体は、非還元SDS−PAGEゲル上で流す場合、異なる可動性を有する(図示せず)。異なる溶出時間および電気泳動移動度は、17〜19画分において、溶出する物質は、結合される2つのAPCと結合する結合体であるのに対して、22〜24の画分からの物質は、結合される単一のAPCのみと結合する結合体であったことを示唆する。アブスクリプション反応のこのタイトレーションにより、2つの結合体の特定のアブスクリプション活性の明確な差が示され、プール22〜24において結合される単一のAPCと比較して、プール17〜19が、結合される2つのAPCを有するという考えがさらに裏づけられる。比較的に直接的なELISAアッセイが、結合体に対する結合能力の有意な差を示さなかったので、観察されるシグナルの差は、第一にアブスクリプション能力の差に起因する。
【0209】
実施例10
質量分析による10トリヌクレオチドの同時検出
少なくとも10のアブスクリプトを、質量分析を用いて別々に検出できることを実証するために、化学的に合成された10のトリヌクレオチドを、別々にも、単一の混合物としても試験した。図27は、その個々の実行からの10のトリヌクレオチドすべての組み合わせられたクロマトグラムを示す。埋め込まれた図は、どの番号をつけられたピークが、どのアブスクリプト、ならびに関連する保持時間、m/z値、およびピーク面積を指すかを示す。図27は、大抵のトリヌクレオチドが、わずかに異なる保持時間を有することを実証した。しかし、たとえLC保持時間が同様または同一であったとしても、サンプルは、質量分析を用いて個別に評価することができる。例えば、ピーク7(AUU)と8(AAU)は、同一の保持時間を示すが、異なるm/z値を生じた。
【0210】
質量分析によって、10のアブスクリプトのプールからの異なるアブスクリプトが区別できることは、以下の通りに実証された。10の精製されたトリヌクレオチドの混合物を、等モル濃度で混合し、質量分析によって分析した。図28は、質量分光によって同時に検出されるトリヌクレオチドの混合物の出力を示す。各トリヌクレオチドの隣に、相当するm/z比を示す。10μlの10μM溶液を、アトランティス(Atlantis)dC18 3μm 2.1mm×30mmカラムによって分析した(100pmol)。使用されるMSチューンファイル(tune file)は、「アブスクリプト」であった。
【0211】
表5は、各アブスクリプトについて、質量分析によって観察される、二重荷電イオンに対する算出された分子量および観察されたm/z値を示す。
【0212】
【表12】
【0213】
したがって、質量分析は、少なくとも10の異なるAPCを含有する多重反応の産物を区別するために使用され、したがって、少なくとも10の異なる標的分子を検出する、あるいは、より大きな感受性および精度をもち、より限定された数の標的を検出することが可能なはずである。
【0214】
実施例11
多重不完全転写および質量分析を用いる検出
2つのAPC、APC 2−1および12−1(図29に示される)を混合し、アブスクリプション反応を45℃で29分間実施し、アブスクリプトを、すべて前述のプロトコルに従って、LC−MSによって分析した。APC 2−1により作製されるアブスクリプトは、AAG(APC 4と同様)であり、APC 12−1により作製されるアブスクリプトは、AAUであった。図25に示す通り、アブスクリプト AAGとAAUは、TLCによって分離することができない。しかし、これらのアブスクリプトは、質量分析によって分離することができる。図31は、2つのAPCを用いる多重反応からの質量スペクトログラムを示すが、これは、m/z値を基礎として容易に分離される。このデータによって、あるAPCからの不完全転写が、他のAPCから生じる不完全転写の存在によって阻害されなかっということも実証される。
【0215】
図30は、対照の反応と比較した場合の、多重アブスクリプション反応から生じるAAUおよびAAGシグナルの概要を示す。個々のABC 2−1反応データは、カラム1および2にある。個々のABC 12−1反応データは、カラム5および6にある。組み合わせられた反応データ(反応は、二重に行われた)は、カラム9〜12にある。AAG、AAU、およびAAG+AAU対照は、カラム13〜16である。
【0216】
前述の本明細書では、本発明を、特定の実施形態に関して記述してきた。しかし、様々な変更態様と改変を、下の特許請求の範囲に示す通りの本発明の範囲を逸脱することなく行うことができることを理解するべきである。明細書および図は、限定的なものではなく、例示的なものであるとみなされるべきであり、すべてのこうした改変は、本発明の範囲内に含まれるべきものである。すべての引用文献は、参照によって、本明細書に完全に組み込まれるものとする。実施形態が様々な要素または特徴を含むことができる一方、こうした実施形態は、また、本質的に前記要素または特徴からなる、あるいは前記要素または特徴からなる可能性があるとも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0217】
図面の簡単な説明
【図1】不完全プロモーターカセット。不完全プロモーターカセット(APC)は、ポリメラーゼ結合部位を形成し、かつ特定の核酸配列(これは、APCリンカーと称される)との相互作用を介して他の高分子に付着できる、核酸の領域である。APCリンカーは、標的核酸(DNAまたはRNA)と、標的核酸の鋳型または非鋳型鎖上の相補的な配列とのハイブリッド形成によって付着できる。APCリンカーはまた、タンパク質に結合する分子の検出のために、当該タンパク質などの任意の標的分子上に配置される相補的な配列ともハイブリッド形成できる。複数の検出可能なオリゴヌクレオチドは、不完全プロモーターカセットに結合されるポリメラーゼによって産生される。この図では、表されるAPCは、本質的に相補的な2つの領域(A、A’およびC、C’)を含有し、これは、「バブル領域」によって隔てられる。この概略図では、2つの鎖の領域が非相補的である(BおよびE)ために、「バブル領域」が産生される。あるいは、APCは、2つの完全に相補的な鎖を有していてもよい。RNAポリメラーゼが結合すると、DNA鎖は分離し、「バブル領域」が形成される。 領域A、BおよびCは、1つの鎖上にある。領域C’EおよびA’は、相補的な鎖上にある。APCは2つの別々の鎖(ABCおよびC’EA’)から作製することもできるし、6つの領域すべてが単一のポリヌクレオチド上にあってもよく(領域CとC’は、リンカー領域Dによって隔てられる)、これらは、必要であれば改変できる。リンカー領域Dは、CおよびC’を連結するのみの役割を果たす可能性もあるし、領域Dの配列が、それだけには限らないが、EcoRI QIII変異体、lacリプレッサー、および他のRNAポリメラーゼを含めて、不完全転写を増強できる他の因子(例えば転写妨害(transcription roadblock)タンパク質)のための結合部位として働いてもよい。リンカー領域Dは、単一の妨害タンパク質または複数の妨害タンパク質のために設計できる。リンカー領域Dの長さは、リンカー領域の機能に依存する。
【図2】反復的オリゴヌクレオチド合成によるシグナル産生。シグナルは、複数のオリゴヌクレオチド転写産物を形成するための、ヌクレオチドの酵素的組み込みによって産生される。適切な条件下では、RNAオリゴヌクレオチドは、プロモーターの非存在下では、核酸鋳型から作製することができる。イニシエーターは、1つ以上のヌクレオシド、ヌクレオシドの類似体、ヌクレオチド、またはヌクレオチド類似体からなり得る。イニシエーターは、それだけには限らないが、1〜25ヌクレオチド、26〜50ヌクレオチド、51〜75ヌクレオチド、76〜100ヌクレオチド、101〜125ヌクレオチド、および126〜150ヌクレオチド、151〜175ヌクレオチド、176〜200ヌクレオチド、201〜225ヌクレオチド、226〜250ヌクレオチド、および250超のヌクレオチドを含めて、共有結合で連結された1つ以上のヌクレオチドを含有することができ、かつ、R官能基を含有できる。イニシエーター(nコピー)は、末端鎖伸長のためのnコピーのターミネーターを用いて直接延長させることができるし、nコピーの他の伸長因子ヌクレオチド(Y位置)を、イニシエーターとターミネーターの間に組み込んで、より長いオリゴヌクレオチドを形成することもできる。ターミネーターは、第2の官能基を含有できる。NIはモノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの類似体を開始し、NEはモノヌクレオチドまたは類似体を延長し、NTはモノヌクレオチドまたは類似体を終結させ、Z=x+y;R1=H、OH、またはレポーター基;R2=H、OH、またはレポーター基;N=デオキシまたはリボヌクレオチド;ポリメラーゼ=RNA依存性またはDNA依存性RNAポリメラーゼ。DNAまたはRNAは、他の分子(例えばタンパク質)に付着していてもよい。 反復的オリゴヌクレオチド転写産物は、その後、質量分析を使用して検出される。質量分析は、いずれの「標識」部分も含まないオリゴヌクレオチド転写産物に関して実施できる。しかし、イニシエーター、組み込まれたヌクレオチド、またはターミネーター分子のいずれか1つにおけるヌクレオチド類似体の使用は、得られる種の分子量を変化させることとなり、同じヌクレオチド長の複数のオリゴヌクレオチドを区別するために、質量分析に使用することができる。
【図3】一本鎖DNAまたはRNA上の不完全開始を介するジヌクレオチド合成。一本鎖の(ss)核酸は、DNAまたはRNAである。ポリメラーゼは、DNA依存性またはRNA依存性RNAポリメラーゼである。NI=3’−OHヌクレオシドまたはヌクレオチドイニシエーター;NT=5’−三リン酸ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体ターミネーター。R1は、5’リン酸基、糖の2’位置上、またはプリンまたはピリミジン塩基上であり得る。R2は、ピリミジンまたはプリン塩基上、または糖/リボースまたはデオキシリボースの2’または3’位置上であり得る。R1=H、OH、および/または本明細書に記述する通りの任意のレポーター基またはレポーター基前駆体。R2=H、OH、および/または本明細書に記述する通りの任意のレポーター基またはレポーター基前駆体。
【図4】標的部位プローブ。RNAポリメラーゼを、遺伝子特異的なまたは領域特異的な標的部位プローブ(TSP)のハイブリッド形成によって、標的核酸における特定のヌクレオチド位置(部位)に導くことができる。標的部位は、配列(一塩基多型の検出など)または構造(特定のヌクレオチドのメチル化状況を評価することなど)について分析されるべきDNAにおけるヌクレオチド位置であり、これは、標的配列の鋳型鎖上の、標的配列中の領域EとC’の接合部に位置される。TSPは、標的部位ヌクレオチドの約8〜14塩基上流から始まり、約15〜35塩基上流で終わる、標的核酸と相同の領域(領域A)を含有する。TSPの第2の領域は、標的部位のすぐ上流の8〜14のヌクレオチドと非相補的であるように設計されており(領域B)、その結果、TSPが標的核酸とハイブリッド形成する場合、メルトされた(melted)「バブル」領域が形成される。TSPは、標的部位ヌクレオチドのすぐ下流の5〜25のヌクレオチドと本質的に相補的である第3の領域(領域C)を含有する。RNAポリメラーゼは、バブル複合体と結合することとなり、その結果、転写は、E/C’接合部から始まり、下流、C/C’ハイブリッドの方に移動することとなる。
【図5】DNA中のメチル化されていないシトシン基の脱アミノ転換。脱アミノ化は、メチル化されていないCをUに転換する。メチル化されたC基(真核生物の遺伝子を調節するCpGアイランドなど)は、脱アミノ化に対して耐性であり、産物DNA中にCとしてとどまる。100%脱アミノ化が起こる場合、メチル化されたDNAは、CpG対(doublet)を依然として含有するが、メチル化されていないDNAは、シトシンを全く含有せず、脱アミノ化の前にCpG対があったところにUpGを含有することとなる。2つのDNAが異なるジヌクレオチドをコードするので、DNA配列のこの違いは、不完全転写によって、メチル化されたDNAとメチル化されていないDNAとを区別するために使用できる。 ジヌクレオチド合成は、DNAの全体のメチル化状態を評価するために使用できる。RNAポリメラーゼ、CTPまたはCTP類似体(R1−C−OH)、およびGTPまたはGTP類似体(R1−CpG−R2)の存在下では、脱アミノ化メチル化DNA鋳型は、標識されたジヌクレオチド産物のnコピーを産生する(ただし、nは、出発DNA中のメチル化されたCpGジヌクレオチドの数に比例する)。脱アミノ化非メチル化DNA鋳型は、この鋳型が、もはやいずれの位置でも「C」をコードしていないので、これらの基質を用いてジヌクレオチドを産生することができない。 C(ApC、CpC、GpC、UpC)で終わる標識されたジヌクレオチドを用いる転写開始およびGTPを用いる終結によるトリヌクレオチドの不完全合成を使用して、脱アミノ化メチル化鋳型からのシグナルを産生できるが、脱アミノ化非メチル化鋳型からは産生できない。このトリヌクレオチド合成手法は、部位特異的なオリゴヌクレオチドの付加によって、拡大でき、図6に示す通り、完全なアイランドではなく、特定のCpG部位のメチル化状況の評価が可能になる。
【図6】不完全開始によって、CpGアイランドにおける特定のCpG部位のメチル化状況を評価すること。標的部位プローブは、特定の遺伝子中の特定のCpGアイランドのメチル化状況を試験するために使用されることができる。脱アミノ化メチル化されたDNAでは、ジヌクレオチドCpGは、メチル化されていない部位2ではなく、3つのメチル化された部位1、3、および4で、鋳型によってコードされる。部位3がメチル化されているかどうか、もしもされている場合、どの程度であるか確認するために、図4に記載される通りに、位置(C21)を、標的部位プローブを用いて標的にすることができる。当該の鋳型Cは、バブル領域と結合する適切にプライムされるRNAポリメラーゼのために、次に組み込まれるヌクレオチドをコードするように、バブル領域と下流の二重鎖が接合する所に配置される。Nxが、トリヌクレオチドイニシエーターなどのためのCpCであり得る場所で、イニシエーターR1−NxpC−OHが使用される場合、Nxは、ジヌクレオチドCpCイニシエーターのためのCであり得る、あるいは、イニシエーターは、GTPまたはGTPの類似体pppG−R2Gを用いて延長させて、トリヌクレオチドR1NxCpG−R2を形成することができる。同様に、当該のCがメチル化されない場合、この位置は、ここではUとなり、ヌクレオチドAをコードする。ATPまたはATP類似体pppA−R2Aが存在する場合、これは、Cがメチル化されなかった位置の反対側に組み込まれることとなる。 分子量を基礎として、異なるトリヌクレオチド配列を容易に区別することが可能である質量分析を実施して、Gで終結するオリゴヌクレオチドの、Aで終結するものに対する相対的な量を決定する。G終結トリヌクレオチドに対応するピークの大きさの、A終結およびG終結トリヌクレオチドの全ピークに対する比は、メチル化インデックス(M)に相当する。その位置のCsのすべてがメチル化される場合、M=1。その部位がまったくメチル化されない場合、M=0。また、ヌクレオチド類似体は、得られるオリゴヌクレオチドに異なる分子量を与えるために、本発明で使用することもできる。
【図7】不完全転写による一塩基多型(SNP)の検出および同定。特定のDNAヌクレオチド(A、C、G、T/dU)の同一性は、標的部位プローブ(TSP)を用いる不完全転写によって特定できる。例えば、DNAが正常なヌクレオチド(野生の型)を含有するか、変異体ヌクレオチド(点突然変異、一塩基多型/SNP)を含有するかを決定するために、SNP位置が、下流の二重鎖とバブル領域の接合部の、C/C’ハイブリッドにおける最後のヌクレオチドに相当するように、遺伝子特異的なTSPを、標的DNA(または増幅/複製産物)に加えることができる。SNP部位の上流の領域と相補的であるイニシエーターオリゴヌクレオチド(R1NI−OH)は、RNAポリメラーゼによって延長され、SNPに対応する、次にコードされるヌクレオチドが付加される。得られるオリゴヌクレオチドを検出し、質量分析を用いて互いに識別される。
【図8】不完全転写による核酸、タンパク質などの間接的な検出。不完全転写は、反復的オリゴヌクレオチド転写産物の合成によって、直接的に核酸(特定の疾患に関連する、またはウイルスおよび細菌病原体に関連するDNAまたはRNAなど)を検出するために使用できる。あるいは、a)前記タンパク質、炭水化物、脂質、ハプテンまたは他の分子を認識する、抗体、相補的な核酸配列、化学的な部分などを、b)1つ以上の不完全プロモーターカセット(APC)と連結させることによって、核酸、タンパク質、炭水化物、脂質、ハプテン、または他の分子の存在を間接的に検出できる。APCからの複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物の産生を検出し、標的分子の存在を示すことができる。 APCは、人工のプロモーターを含有してもよいし、特定のRNAポリメラーゼのためのプロモーターを含有してもよい。数十、数百、数千、数万またはそれより多くの不完全プロモーターカセット(APC)を含めて、複数のコピーが付着されている粒子を用いることによって、分子標的の検出の増強を達成できる。図8は、核酸の検出のための捕捉配列を結びつけられたAPCの使用を説明する。
【図9】RNAまたはDNA標的は、化学修飾された配列特異的な標的部位プローブとハイブリッド形成することによって検出できる。核酸標的が、標的分子上の不完全転写によって、直接的に検出されることができる一方、これはまた、不完全プロモーターカセット(APC)に付着させたプローブ配列とのハイブリッド形成によって検出することもできる。複数のAPCは、付着させることができ、単一の結合事象からのシグナル産生、したがって、感受性を増大することができる。感受性および特異性はまた、1つの反応からの複数の異なるシグナルを多重化:産生することによって増大させることもできる。それぞれ同じ標的分子の異なる領域にハイブリッド形成し、それぞれ異なるAPCで標識される3プローブを、標的核酸にハイブリッド形成させる。1つあたり3つのAPCを用いて、感受性が増大される。1つの標的分子からの3つの独立したシグナルの産生によって、起こり得る偽陽性は減少するので、特異性もまた増大される。 複数のAPCを含有するデンドリマーは、ヘテロ二機能性リンカーを介して標的部位プローブに付着される。各デンドリマーは、同じAPCの複数のコピーを含有し、単一のアブスクリプトをコードする。異なるAPCを含有する複数のデンドリマーを、合成できる。すべてのAPCは、同時に検出および定量化できる。特異性は、各々の異なるAPC産物の比に注目することにより決定される。特異性の増大は、異なるアブスクリプトをコードするAPCを用いて標識される、さらなるデンドリマーを用いて得ることができる。感受性の増大は、それぞれ同じ産物をコードする複数のデンドリマーを用いて達成できる。 APCで標識されたデンドリマーを、タンパク質(例えば抗体)に付着させることも可能である。
【図10】核酸と同様に、多重化は、感受性および特異性を向上させることができる。捕捉抗体は、大きな体積のサンプルから標的分子を抽出できるので、捕捉抗体の使用により、特異性(特異的なタンパク質のみが結合されるような)をさらに向上させることができ、また、感受性も向上させることができる。図示する実施形態では、タンパク質毒素は、捕捉抗体を用いて固定される。2つ以上の毒素エピトープ特異的なペプチド抗体(それぞれ、不完全プロモーターカセットで標識される)が、加えられる。各APCが異なるアブスクリプション産物を作製するように、アブスクリプション基質が加えられ、これは、その後検出および定量化される。より高レベルの特異性は、より多くの毒素−特異的抗体を加えることによって、達成できる。正のシグナルは、適切な比のこれらの抗体の各々からのアブスクリプト産生を、その後必要とするであろう。例えば、APC1はApUpAをコードし、APC2はApUpCをコードし、APC3はApUpGをコードする。3つのアブスクリプトはすべて、同じApUイニシエーターを使用する。それぞれ、3つの位置としての異なるヌクレオチドを組み込み、それによって、異なる質量のアブスクリプトを産生する。あるいは、A、C、およびGが、違うように標識され、それぞれが異なるシグナルを産生できる。
【図11】反復的オリゴヌクレオチド合成を用いるテロメラーゼ活性の検出。DNAポリメラーゼを用いる反復的オリゴヌクレオチド合成はまた、シグナル産生のために使用できるが、産物オリゴヌクレオチドは、放出される必要はなく、産物にタンデム的に連結されればよい。一例として、テロメラーゼ活性は、固体マトリックスに、テロメラーゼ特異的なプローブを固定して、DNA合成のための独自のRNA鋳型を運ぶ、細胞のテロメラーゼを捕獲することによって検出できる。例えば、ヒトテロメラーゼでは、酵素上のRNA鋳型は、DNA配列GGGTTAをコードする。捕捉プローブは、配列GGGTTAを含有することができ、テロメラーゼがサンプル中に存在する場合、これは、テロメラーゼ捕捉プローブの末端に反復的にに加えられることとなる。シグナル産生は、いくつかの方法で達成することができ、これらのうちの1つは、DNA産物の主鎖に沿って付着される複数のR1基を有する産物を産生するための合成反応において、1つ以上のレポーターで標識されたdNTPを含むことを必要とする。図11は、不完全転写反応のための鋳型配列を示す。図11a:ポリ[dG−dC]は、dCpdGを繰り返す合成のデオキシリボヌクレオチドポリマーである。個々の鎖は、様々な数のジヌクレオチドリピートを含有する。図11b:バブル複合体1は、合成の、部分的に相補的な鋳型および非鋳型鎖をアニーリングすることによって作製された。非鋳型鎖の垂直の隔り(offset)は、分子の一本鎖のバブル部分を表す。座標系は、バブルの下流の端を基準にする。二本鎖セグメントの隣の対になってない塩基は、位置+1にある。位置+1の左の(上流の)位置には、−1で開始する負の数が与えられる。座標系は、リボヌクレオチドイニシエーターの3’末端の位置を示すために使用される。イニシエーターAAの3’末端は、+1に整列配置され、イニシエーターAUの3’末端は、+2に整列配置される。理論に従うと、転写反応は、イニシエーターの3’末端の右から左に進行する。図11cは、鋳型鎖を表し、相補的な非鋳型鎖は存在しない。配列は、3’から5’方向に示される。
【図12】本発明の方法および組成物で使用するための、伸長因子またはターミネーターであり得るある種のヌクレオチド。オリゴヌクレオチドの内部の、あるいは3’末端位置に含まれる可能性があるヌクレオチド類似体を示す。これらの類似体のすべては、3’OH基の置換によって、簡単にターミネーターに転換させることができる。これらの類似体はまた、特定の反応条件下では、3’OH基をもつターミネーターとして機能できる。
【図13】Rであり得る他の蛍光基。こうした基は、ピリミジン中の5Sの位置またはプリン中の8Sの位置に付加された後、本発明の方法および組成物に有用となるであろう。
【図14】ヌクレオチドの他のR基修飾:式NucSRの5−Sが置換されたピリミジンまたは8−Sが置換されたプリン(ただしaは、1〜2である)。
【図15】多重DNA検出。標的DNA分子の異なる領域にそれぞれハイブリッド形成する、複数の標的特異的なプローブ、および約100近くのヌクレオチドを、標的DNA分子を含有するサンプルに加える。TSPが、同じ配列およびレポーターを有する不完全転写産物をコードする場合、この方法は、感受性の増大という結果になる。 TSPが異なる配列およびレポーターを有する不完全転写産物をコードする場合、高い選択性および多重化を生じる場合がある。
【図16】モジュラーAPC。APCは、TSPリンカーを伴って、または標的配列に特異的である核酸プローブを伴って設計できる。APCが同じ配列およびレポーターを有する不完全転写産物をコードする場合、この方法は、感受性の増大という結果になる。 APCが異なる配列およびレポーターを有する不完全転写産物をコードする場合、高い選択性および多重化を生じる場合がある。
【図17】APCを使用するタンパク質検出。
【図18】50pmolのAUGとAAGトリヌクレオチドからの質量スペクトルの比較。
【図19】50、5、および0.5pmol(50% CH3CN/H2O中)のAAGトリヌクレオチドを検出するための質量分析方法の感受性。
【図20(A)】10および100μM AAGを用いてスパイクされたアブスクリプション反応に対するスキャン190〜210(約3.5〜3.8分)を合計した質量スペクトル。468daの近くのAAGシグナルは、−2荷電イオンから生じる。
【図20(B)】100μM スパイクされたサンプルからの468〜469da(AAG)および593〜594da(ApA)質量範囲からのシグナルに対するクロマトグラム。
【図21】実施例の多重化反応に使用される不完全プロモーターカセット。アブスクリプション複合体のバブル部分は太字で示され、鋳型鎖上の開始部位はグレーで強調される。どちらの不完全プロモーターカセットも、同じ標的部位プローブ(TSP)(A192)を用いて、ただし、異なる鋳型鎖(TEM)、A197またはA56を用いて構築された。バブル4に対するイニシエーターはApAであり、UC2361に対するそれはUpCであり、組み込みヌクレオチドはGTPである。バブル4からの予測されるアブスクリプト産物は、AAGであり、UC2361からのそれはUCGである。
【図22】TLCによる混合されたAPC実験からのアブスクリプション産物の分析。レーン1〜3は、バブル4(最終100fmol)を有し、ApA(レーン1)、UpC(レーン2)、ApA+UpC(レーン3)を用いて開始させた。レーン4〜6は、等モル濃度のバブル4(最終100fmol)およびAPC UC2361(最終100fmol)を有し、これらは、レーン4ではApAを用いて、レーン5ではUpCを用いて、レーン6ではApA+UpC両方を用いて開始させた。レーン7〜9は、APCUC2361(最終100fmol)を有し、UpC(レーン7)、ApA(レーン8)、およびApA+UpC(レーン9)を用いて開始させた。レーン10は、ApAを用いて開始されるTEM A197であり、レーン11は、UpCを用いて開始されるTEM A57であり、レーン12は、イニシエーターApA+UpCを含み、APCを含まない対照である。レーン13は、α32P−GTPに対する対照である。開始剤濃度は、それぞれ最終1mMであった。
【図23】多重アブスクリプション反応で使用するための、様々な組み合わせのオリゴヌクレオチド鎖を用いて作製される10の不完全プロモーターカセットの表示。アブスクリプション複合体のバブル部分は太字で示され、鋳型鎖上の開始部位はグレーで強調される。各標的部位プローブ(TSP)とAPCを構築するために使用される鋳型鎖(TEM)の同一性を、APCと並べて列挙する。イニシエーターおよび予測されるアブスクリプション産物も列挙する。
【図24】図23に表されるAPCを形成するためのオリゴヌクレオチド鎖のアニーリングは、4%アガロースゲル上の電気泳動によって決定された。APCの4%アガロースゲル分析。1pmol/μlのAPC 5μlを、各レーン(1〜10)に装填した。一本鎖との比較を示すため、TEM A191(50pmol/μlを5μl)をレーン11に装填し、レーン12は50bpのラダーを有していた。
【図25】アブスクリプトのTLC分析を、APC 4、12、24、25および32から行った。各アブスクリプションは、最終濃度1mMのイニシエーター、それに加えて図に列挙される通りの最終濃度の1mM NTP、それに加えて1μlのアブスクリプターゼを含む、100fmolのAPCを用いて行われた。アブスクリプションは、45℃で60分間行われた。各反応からの2μlを、TLCプレート上にスポットし、6:3:1のイソプロパノール:NH4OH:H2Oで展開した。TLCプレートを、10分間、燐光体イメージスクリーンに曝した。
【図26】産生されるアブスクリプト(y軸)に対するサンドイッチELISAにおけるSEBタンパク質の濃度(x軸)。
【図27】その個々の実行からの10のトリヌクレオチドの組み合わせられたクロマトグラム。埋め込まれた図は、どの番号をつけられたピークが、どのアブスクリプト、ならびに関連する保持時間、m/z値、およびピークの面積を指すかを示す。10μlの10μM溶液を、アトランティス(Atlantis)dC18 3μm 2.1mm×30mmカラムによって分析した(100pmol)。使用されるMSチューンファイルは、「アブスクリプト」であった。
【図28】質量分光によって同時に検出されるアブスクリプトの混合物。各アブスクリプトの隣に、相当するそのm/z比を示す。10μlの10μM溶液を、アトランティス(Atlantis)dC18 3μm 2.1mm×30mmカラムによって、分析した(100pmol)。使用されるMSチューンファイルは、「アブスクリプト」であった。
【図29】多重アブスクリプション反応に使用される2つの不完全プロモーターカセットの表示。アブスクリプション複合体のバブル部分は太字で示され、鋳型鎖上の開始部位は、グレーで強調される。各標的部位プローブ(TSP)と、APCを構築するために使用される鋳型鎖(TEM)との同一性を、APCと並べて列挙する。イニシエーターおよび予測されるアブスクリプション産物も列挙する。
【図30】対照反応と比較した場合の、多重アブスクリプション反応から産生される全シグナル。
【図31】2つのAPC、APC 2−1およびAPC 12−1を用いる多重反応からの質量スペクトログラム。450.0895のピークはAAUに相当し、469.5732のピークはAAGに相当する。アトランティス(Atlantis)dC18 3μm 2.1mm×30mmカラムを使用し、使用されるMSチューンファイルは、「アブスクリプト」であった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成する工程と、
(b)質量分析によって、前記標的分子の存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記複数のコピーのオリゴヌクレオチドの分子量および存在量が決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的分子が、前記核酸鋳型を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記標的分子が、前記核酸鋳型とは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸鋳型が、不完全プロモーターカセットである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸が、標的分子に対する特異性をもつ少なくとも1つの第2の分子に連結される複数の不完全プロモーターカセットを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の不完全プロモーターカセットが、デンドリマーを介して前記第2の分子に連結される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記不完全プロモーターカセットが、標的分子に対する特異性をもつ第2の分子と連結され、該第2の分子が、
(a)DNA配列、
(b)RNA配列、
(c)PNA配列、
(d)抗体、
(e)結合タンパク質、
(f)情報伝達分子、
(g)ハプテン、
(h)ビオチン、および
(i)イオン
からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)イニシエーターおよびポリメラーゼと共に鋳型ポリヌクレオチドをインキュベートする工程と、
(b)前記鋳型ポリヌクレオチドから複数のオリゴヌクレオチドを合成する工程と(ここで、前記イニシエーターは、転写産物が終結し、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が合成されるまで、延長される)、
(c)質量分析によって前記標的分子の存在を決定する工程と、
を含む方法。
【請求項10】
前記複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が、改変されたヌクレオチドをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記標的ポリヌクレオチドを、標的部位プローブと共にインキュベートすることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記標的部位プローブが、約20〜約50ヌクレオチド、約51〜約75ヌクレオチド、約75〜約100ヌクレオチド、および100ヌクレオチド超からなる群から選択されるサイズのものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記標的ポリヌクレオチドがDNAであり、前記複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物がRNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記標的分子が、
(a)タンパク質、
(b)核酸
(c)RNA、
(d)DNA、
(e)炭水化物、
(f)脂質、
(g)抗原、
(h)ハプテン、および
(i)イオン
からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
病原体が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記分子が、HIV−1;HIV−2;HIV−LP;ポリオウイルス;A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス;ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス;エコーウイルス;カルシウイルス科;トガウイルス科;ウマ脳炎ウイルス;風疹ウイルス;フラウイルス科;デング熱ウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス;コロナウイルス科;SARS;ラブドウイルス科;水疱性口内炎ウイルス;狂犬病ウイルス;フィロウイルス科;エボラウイルス;パラミクソウイルス科;パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス;オルソミクソウイルス科;インフルエンザウイルス;ブニヤウイルス科;ハンターンウイルス;ブニヤウイルス、フレボウイルス;ナイロウイルス;アレナウイルス科;レオウイルス科;レオウイルス;オルビウイルス;ロタウイルス;ビルナウイルス科;ヘパドナウイルス科;B型肝炎ウイルス;パルボウイルス科;パポバウイルス科;パピローマウイルス;ポリオーマウイルス;アデノウイルス科;ヘルペスウイルス科;HSV 1;HSV 2;水痘帯状疱疹ウイルス;サイトメガロウイルス(CMV);ポックスウイルス科;痘瘡ウイルス;ワクシニアウイルス;イリドウイルス科;アフリカブタコレラウイルス;C型肝炎;ノーウォークウイルスヘリコバクターピロリ、ボレリアブルグドルフェリ、レジオネラニューモフィリア、結核菌、鳥型結核菌、M.イントラセルラール、M.カンサイ、M.ゴルドナエ、黄色ブドウ球菌、淋菌、髄膜炎菌、リステリア菌、化膿連鎖球菌(A群連鎖球菌)、ストレプトコッカスアガラクティエ(B群連鎖球菌)、ビリダンス型連鎖球菌群、糞便連鎖球菌、ストレプトコッカスボビス、嫌気性連鎖球菌種、肺炎連鎖球菌、病原性カンピロバクター種、腸球菌種、インフルエンザ菌、炭疽菌、ジフテリア菌、コリネバクテリウム種、豚丹毒菌、ウェルシュ菌、破傷風菌、エンテロバクターエロゲネス、肺炎桿菌、パスツレラムルトシダ、バクテロイデス種、フゾバクテリウムヌクレアタム、ストレプトバシラスモニリフォルミス、梅毒トレポネーマ、フランベジアトレポネーマ、レプトスピラ、イスラエル放線菌;クリプトコッカスネオフォルマンス、ヒストプラスマカプスラーツム、コクシジオイデスイミティス、ブラストミセスデルマティティディス、クラミジアトラコマチス、鵞口瘡カンジダ;熱帯熱マラリア原虫;およびトキソプラズマ原虫からなる群から選択される生物由来のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
癌が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
DNAメチル化が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
突然変異が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
疾患が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
RNA発現が定量化される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記質量分析が、
(a)高速原子衝撃(FAB)質量分析、
(b)プラズマ脱離(PD)質量分析、
(c)エレクトロスプレー/イオンスプレー(ES)質量分析、
(d)マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析、および
(e)マトリクス支援レーザー脱離/イオン化・飛行時間型分析法(MALDI−TOF)、から選択される方法のいずれか1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
1つ以上の不完全プロモーターカセットに連結されるデンドリマーを含む、組成物。
【請求項24】
複数の不完全プロモーターカセットに連結されるデンドリマーを含む、請求項23の組成物。
【請求項25】
前記デンドリマーに連結される前記複数の不完全プロモーターカセットが相等しい、請求項24の組成物。
【請求項26】
前記デンドリマーに連結される前記複数の不完全プロモーターカセットが相異なる、請求項24の組成物。
【請求項27】
目的とする標的分子に対する特異性をもつ第2の分子にさらに連結される、請求項23の組成物。
【請求項28】
前記第2の分子が、
(a)DNA配列、
(b)RNA配列、
(c)PNA配列、
(d)抗体、
(e)結合タンパク質、
(f)情報伝達分子、
(g)ハプテン、
(h)ビオチン、および
(i)イオン
からなる群から選択される、請求項27の組成物。
【請求項29】
前記第2の分子が抗体である、請求項28の組成物。
【請求項30】
前記第2の分子がDNA配列である、請求項28の組成物。
【請求項31】
請求項23に記載の組成物、および1種以上の緩衝液、および1種以上のカップリング試薬を含有するキット。
【請求項32】
標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成する工程と、
(b)不完全な反復的合成による転写産物の前記複数のコピーをシグナル増幅カスケードに導入する工程と、
(c)前記シグナルカスケードからシグナルの存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出する工程と、
を含む方法。
【請求項33】
前記シグナル増幅カスケードが、
(a)PCR、
(b)不完全転写、
(c)FRET、および
(d)酵素的増幅、からなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
1つ以上の標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介するオリゴヌクレオチドの複数のコピーの2つ以上の異なる合成を同時に実施する工程と、
(b)前記標的分子の存在を決定し、それによって、2つ以上の標的分子の存在を検出する工程と、
を含む方法。
【請求項35】
(a)13ntを超える長さの上流のアームおよび13ntを超える長さの下流のアーム;および、
(b)11〜14ntの長さのバブルセグメントであって、
(i)配列5’TANNNTN5−8を含む非鋳型鎖と、
(ii)A)3’C(CまたはGまたはA)N9−13、
B)A(CまたはGまたはA)N9−13、
C)T(CまたはGまたはA)N9−13、および
D)G(AのCまたはG)N9−13、からなる群から選択される鋳型鎖と、を含むバブルセグメント;
を含む不完全プロモーターカセットであって、不完全転写は、前記不完全プロモーターカセットから離れて進行する、不完全プロモーターカセット。
【請求項36】
前記非鋳型鎖が、配列5’TATAATN5−8を含む、請求項35に記載の不完全プロモーターカセット。
【請求項37】
前記不完全プロモーターカセットが、
【数1】
からなる群から選択される、請求項36の不完全プロモーターカセット。
【請求項38】
標的部位プローブを含む不完全プロモーターカセットであって、前記標的部位プローブが、
(a)TSP2361、
(b)TSP2361AAC、
(c)TSP2361AAU、
(d)TSP2361AAA、
(e)TSP2361UCA、
(f)TSP2361CA、
(g)TSP2361bub15、
(h)バブル4の標的部位プローブ、
(i)TSP2−1、および
(j)TSP12−1
からなる群から選択される配列と少なくとも約80%同一の配列を含む、請求項35の不完全プロモーターカセット。
【請求項39】
標的部位プローブを含む不完全プロモーターカセットであって、前記標的部位プローブが、
(a)TSP2361、
(b)TSP2361AAC、
(c)TSP2361AAU、
(d)TSP2361AAA、
(e)TSP2361UCA、
(f)TSP2361CA、
(g)TSP2361bub15、
(h)バブル4の標的部位プローブ、
(i)TSP2−1、および
(j)TSP12−1
からなる群から選択される配列を含む、請求項38の不完全プロモーターカセット。
【請求項40】
鋳型鎖を含む不完全プロモーターカセットであって、前記鋳型鎖が、
(a)TEM2361AA−2、
(b)TEM2361AAC、
(c)TEM2361AA、
(d)TEM2361UCA、
(e)TEMUC2361、
(f)TEM−CpA−2361、
(g)TEM2361AU、
(h)TEM−CpG−2361、
(i)バブル4の鋳型鎖、
(j)TEM2−1、および
(k)TEM12−1
からなる群から選択される配列と少なくとも約80%同一の配列を含む、請求項35の不完全プロモーターカセット。
【請求項41】
鋳型鎖を含む不完全プロモーターカセットであって、前記鋳型鎖が、
(a)TEM2361AA−2、
(b)TEM2361AAC、
(c)TEM2361AA、
(d)TEM2361UCA、
(e)TEMUC2361、
(f)TEM−CpA−2361、
(g)TEM2361AU、
(h)TEM−CpG−2361、
(i)バブル4の鋳型鎖、
(j)TEM2−1、および
(k)TEM12−1
からなる群から選択される配列を含む、請求項40の不完全プロモーターカセット。
【請求項42】
(a)APC4、
(b)APC11、
(c)APC12、
(d)APC14、
(e)APC13、
(f)APC24、
(g)APC25、
(h)APC30、
(i)APC32、
(j)APC33、
(k)バブル4、
(1)APC UC2361、
(m)APC2−1、および
(n)APC12−1
からなる群から選択される不完全プロモーターカセットを含む、請求項35に記載の不完全プロモーターカセット。
【請求項43】
不完全プロモーターカセットの標的部位プローブおよび鋳型鎖の配列が、請求項42の不完全プロモーターカセットと、少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%同一である不完全プロモーターカセット。
【請求項44】
標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)請求項35に記載の不完全プロモーターカセットから不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成する工程と、
(b)シグナルの存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出することと、
を含む方法。
【請求項1】
標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成する工程と、
(b)質量分析によって、前記標的分子の存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記複数のコピーのオリゴヌクレオチドの分子量および存在量が決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的分子が、前記核酸鋳型を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記標的分子が、前記核酸鋳型とは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸鋳型が、不完全プロモーターカセットである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸が、標的分子に対する特異性をもつ少なくとも1つの第2の分子に連結される複数の不完全プロモーターカセットを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の不完全プロモーターカセットが、デンドリマーを介して前記第2の分子に連結される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記不完全プロモーターカセットが、標的分子に対する特異性をもつ第2の分子と連結され、該第2の分子が、
(a)DNA配列、
(b)RNA配列、
(c)PNA配列、
(d)抗体、
(e)結合タンパク質、
(f)情報伝達分子、
(g)ハプテン、
(h)ビオチン、および
(i)イオン
からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)イニシエーターおよびポリメラーゼと共に鋳型ポリヌクレオチドをインキュベートする工程と、
(b)前記鋳型ポリヌクレオチドから複数のオリゴヌクレオチドを合成する工程と(ここで、前記イニシエーターは、転写産物が終結し、複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が合成されるまで、延長される)、
(c)質量分析によって前記標的分子の存在を決定する工程と、
を含む方法。
【請求項10】
前記複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物が、改変されたヌクレオチドをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記標的ポリヌクレオチドを、標的部位プローブと共にインキュベートすることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記標的部位プローブが、約20〜約50ヌクレオチド、約51〜約75ヌクレオチド、約75〜約100ヌクレオチド、および100ヌクレオチド超からなる群から選択されるサイズのものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記標的ポリヌクレオチドがDNAであり、前記複数の反復的オリゴヌクレオチド転写産物がRNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記標的分子が、
(a)タンパク質、
(b)核酸
(c)RNA、
(d)DNA、
(e)炭水化物、
(f)脂質、
(g)抗原、
(h)ハプテン、および
(i)イオン
からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
病原体が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記分子が、HIV−1;HIV−2;HIV−LP;ポリオウイルス;A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス;ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス;エコーウイルス;カルシウイルス科;トガウイルス科;ウマ脳炎ウイルス;風疹ウイルス;フラウイルス科;デング熱ウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス;コロナウイルス科;SARS;ラブドウイルス科;水疱性口内炎ウイルス;狂犬病ウイルス;フィロウイルス科;エボラウイルス;パラミクソウイルス科;パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス;オルソミクソウイルス科;インフルエンザウイルス;ブニヤウイルス科;ハンターンウイルス;ブニヤウイルス、フレボウイルス;ナイロウイルス;アレナウイルス科;レオウイルス科;レオウイルス;オルビウイルス;ロタウイルス;ビルナウイルス科;ヘパドナウイルス科;B型肝炎ウイルス;パルボウイルス科;パポバウイルス科;パピローマウイルス;ポリオーマウイルス;アデノウイルス科;ヘルペスウイルス科;HSV 1;HSV 2;水痘帯状疱疹ウイルス;サイトメガロウイルス(CMV);ポックスウイルス科;痘瘡ウイルス;ワクシニアウイルス;イリドウイルス科;アフリカブタコレラウイルス;C型肝炎;ノーウォークウイルスヘリコバクターピロリ、ボレリアブルグドルフェリ、レジオネラニューモフィリア、結核菌、鳥型結核菌、M.イントラセルラール、M.カンサイ、M.ゴルドナエ、黄色ブドウ球菌、淋菌、髄膜炎菌、リステリア菌、化膿連鎖球菌(A群連鎖球菌)、ストレプトコッカスアガラクティエ(B群連鎖球菌)、ビリダンス型連鎖球菌群、糞便連鎖球菌、ストレプトコッカスボビス、嫌気性連鎖球菌種、肺炎連鎖球菌、病原性カンピロバクター種、腸球菌種、インフルエンザ菌、炭疽菌、ジフテリア菌、コリネバクテリウム種、豚丹毒菌、ウェルシュ菌、破傷風菌、エンテロバクターエロゲネス、肺炎桿菌、パスツレラムルトシダ、バクテロイデス種、フゾバクテリウムヌクレアタム、ストレプトバシラスモニリフォルミス、梅毒トレポネーマ、フランベジアトレポネーマ、レプトスピラ、イスラエル放線菌;クリプトコッカスネオフォルマンス、ヒストプラスマカプスラーツム、コクシジオイデスイミティス、ブラストミセスデルマティティディス、クラミジアトラコマチス、鵞口瘡カンジダ;熱帯熱マラリア原虫;およびトキソプラズマ原虫からなる群から選択される生物由来のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
癌が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
DNAメチル化が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
突然変異が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
疾患が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
RNA発現が定量化される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記質量分析が、
(a)高速原子衝撃(FAB)質量分析、
(b)プラズマ脱離(PD)質量分析、
(c)エレクトロスプレー/イオンスプレー(ES)質量分析、
(d)マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析、および
(e)マトリクス支援レーザー脱離/イオン化・飛行時間型分析法(MALDI−TOF)、から選択される方法のいずれか1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
1つ以上の不完全プロモーターカセットに連結されるデンドリマーを含む、組成物。
【請求項24】
複数の不完全プロモーターカセットに連結されるデンドリマーを含む、請求項23の組成物。
【請求項25】
前記デンドリマーに連結される前記複数の不完全プロモーターカセットが相等しい、請求項24の組成物。
【請求項26】
前記デンドリマーに連結される前記複数の不完全プロモーターカセットが相異なる、請求項24の組成物。
【請求項27】
目的とする標的分子に対する特異性をもつ第2の分子にさらに連結される、請求項23の組成物。
【請求項28】
前記第2の分子が、
(a)DNA配列、
(b)RNA配列、
(c)PNA配列、
(d)抗体、
(e)結合タンパク質、
(f)情報伝達分子、
(g)ハプテン、
(h)ビオチン、および
(i)イオン
からなる群から選択される、請求項27の組成物。
【請求項29】
前記第2の分子が抗体である、請求項28の組成物。
【請求項30】
前記第2の分子がDNA配列である、請求項28の組成物。
【請求項31】
請求項23に記載の組成物、および1種以上の緩衝液、および1種以上のカップリング試薬を含有するキット。
【請求項32】
標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成する工程と、
(b)不完全な反復的合成による転写産物の前記複数のコピーをシグナル増幅カスケードに導入する工程と、
(c)前記シグナルカスケードからシグナルの存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出する工程と、
を含む方法。
【請求項33】
前記シグナル増幅カスケードが、
(a)PCR、
(b)不完全転写、
(c)FRET、および
(d)酵素的増幅、からなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
1つ以上の標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)核酸鋳型上での不完全な反復的合成を介するオリゴヌクレオチドの複数のコピーの2つ以上の異なる合成を同時に実施する工程と、
(b)前記標的分子の存在を決定し、それによって、2つ以上の標的分子の存在を検出する工程と、
を含む方法。
【請求項35】
(a)13ntを超える長さの上流のアームおよび13ntを超える長さの下流のアーム;および、
(b)11〜14ntの長さのバブルセグメントであって、
(i)配列5’TANNNTN5−8を含む非鋳型鎖と、
(ii)A)3’C(CまたはGまたはA)N9−13、
B)A(CまたはGまたはA)N9−13、
C)T(CまたはGまたはA)N9−13、および
D)G(AのCまたはG)N9−13、からなる群から選択される鋳型鎖と、を含むバブルセグメント;
を含む不完全プロモーターカセットであって、不完全転写は、前記不完全プロモーターカセットから離れて進行する、不完全プロモーターカセット。
【請求項36】
前記非鋳型鎖が、配列5’TATAATN5−8を含む、請求項35に記載の不完全プロモーターカセット。
【請求項37】
前記不完全プロモーターカセットが、
【数1】
からなる群から選択される、請求項36の不完全プロモーターカセット。
【請求項38】
標的部位プローブを含む不完全プロモーターカセットであって、前記標的部位プローブが、
(a)TSP2361、
(b)TSP2361AAC、
(c)TSP2361AAU、
(d)TSP2361AAA、
(e)TSP2361UCA、
(f)TSP2361CA、
(g)TSP2361bub15、
(h)バブル4の標的部位プローブ、
(i)TSP2−1、および
(j)TSP12−1
からなる群から選択される配列と少なくとも約80%同一の配列を含む、請求項35の不完全プロモーターカセット。
【請求項39】
標的部位プローブを含む不完全プロモーターカセットであって、前記標的部位プローブが、
(a)TSP2361、
(b)TSP2361AAC、
(c)TSP2361AAU、
(d)TSP2361AAA、
(e)TSP2361UCA、
(f)TSP2361CA、
(g)TSP2361bub15、
(h)バブル4の標的部位プローブ、
(i)TSP2−1、および
(j)TSP12−1
からなる群から選択される配列を含む、請求項38の不完全プロモーターカセット。
【請求項40】
鋳型鎖を含む不完全プロモーターカセットであって、前記鋳型鎖が、
(a)TEM2361AA−2、
(b)TEM2361AAC、
(c)TEM2361AA、
(d)TEM2361UCA、
(e)TEMUC2361、
(f)TEM−CpA−2361、
(g)TEM2361AU、
(h)TEM−CpG−2361、
(i)バブル4の鋳型鎖、
(j)TEM2−1、および
(k)TEM12−1
からなる群から選択される配列と少なくとも約80%同一の配列を含む、請求項35の不完全プロモーターカセット。
【請求項41】
鋳型鎖を含む不完全プロモーターカセットであって、前記鋳型鎖が、
(a)TEM2361AA−2、
(b)TEM2361AAC、
(c)TEM2361AA、
(d)TEM2361UCA、
(e)TEMUC2361、
(f)TEM−CpA−2361、
(g)TEM2361AU、
(h)TEM−CpG−2361、
(i)バブル4の鋳型鎖、
(j)TEM2−1、および
(k)TEM12−1
からなる群から選択される配列を含む、請求項40の不完全プロモーターカセット。
【請求項42】
(a)APC4、
(b)APC11、
(c)APC12、
(d)APC14、
(e)APC13、
(f)APC24、
(g)APC25、
(h)APC30、
(i)APC32、
(j)APC33、
(k)バブル4、
(1)APC UC2361、
(m)APC2−1、および
(n)APC12−1
からなる群から選択される不完全プロモーターカセットを含む、請求項35に記載の不完全プロモーターカセット。
【請求項43】
不完全プロモーターカセットの標的部位プローブおよび鋳型鎖の配列が、請求項42の不完全プロモーターカセットと、少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%同一である不完全プロモーターカセット。
【請求項44】
標的分子の存在を検出するための方法であって、
(a)請求項35に記載の不完全プロモーターカセットから不完全な反復的合成を介してオリゴヌクレオチドの複数のコピーを合成する工程と、
(b)シグナルの存在を決定し、それによって、前記標的分子の存在を検出することと、
を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公表番号】特表2007−521018(P2007−521018A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538231(P2006−538231)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/035740
【国際公開番号】WO2005/042709
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(504164538)リボメド バイオテクノロジーズ,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/035740
【国際公開番号】WO2005/042709
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(504164538)リボメド バイオテクノロジーズ,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
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