説明

反応・分析装置

【課題】カートリッジの構造に左右されることなく自由度の高い加熱ができるようにするとともに、駆動システムの簡略化かつ低コスト化を図ることができる反応・分析装置を実現する。
【解決手段】所定の加熱工程を含み生物・化学系試料を取り扱う反応・分析装置において、流路で連結または連結可能に配置された2つ以上の室が形成され、これら流路および室の一部または全部を反応部として試料の生物・化学的な反応を行わせるカートリッジと、 光を放射する発光部と、この発光部からの光を前記反応部に集光させて加熱を行う集光手段と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物・化学的な反応を行わせるカートリッジを用いて、決められたプロトコルに従って、個人差がなく容易に分析を行うことができる反応・分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶液の合成や溶解、検出、分離などの処理においては、通常試験管やビーカー、フラスコ、ディスポーザブルチューブ、ピペットなどが利用されていた。例えば、図10に示すように、物質Aと物質Bを試験管あるいはビーカーなどの容器1と容器2に採取しておき、これを試験管あるいはビーカーなどの容器3に注入し、混合・攪拌などして物質Cを作る。このようにして合成された物質Cについては、例えば発光、発熱、呈色、比色などの観察が行われる。
あるいは、混合した物質をろ過あるいは遠心分離などして、目的の物質を分離抽出することもある。
【0003】
また、溶解の処理、例えば有機溶剤で溶かすなどの処理においても試験管あるいはビーカーなどのガラス器具を用いて行われる。検出処理の場合も、図10と同様に、容器1の被試験物質Aと容器2の試薬を容器3に入れてその反応結果を観察する。
【0004】
しかしながら、従来のフラスコやチューブなどを使用する方式では操作が煩雑であり、個人差も大きく、手間もかかるという問題があった。また、生物・化学反応を行う場合には、加熱・冷却を必要とするものも多くある。
【0005】
そこで、従来より、下記の特許文献1に示すような、化学反応用カートリッジが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−024516号公報
【0007】
上記提案は、駆動システムの加熱を行う加熱手段をカートリッジの室または流路に直に接触させて加熱を行うものであり、加熱手段が接触する部分の弾性体を薄く形成することにより、カートリッジでも高速に加熱を行うことができるようにしたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、接触加熱を前提としたものは、上記提案のようにカートリッジの弾性体を薄型にしたり(図11参照)、駆動システムの加熱手段の接触部の形状や大きさ、当たりに多くの技術やノウハウを必要とするなど、加熱手段がカートリッジの構造に左右されるという問題がある。また、駆動システムが複雑で大掛かりとなり、高コストとなってしまう。
【0009】
本発明は、上記のような従来の問題をなくし、カートリッジの構造に左右されることなく自由度の高い加熱ができるようにするとともに、駆動システムの簡略化かつ低コスト化を図ることができる反応・分析装置を実現することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成するために、本発明の請求項1では、所定の加熱工程を含み生物・化学系試料を取り扱う反応・分析装置において、
流路で連結または連結可能に配置された2つ以上の室が形成され、これら流路および室の一部または全部を反応部として試料の生物・化学的な反応を行わせるカートリッジと、
光を放射する発光部と、
この発光部からの光を前記反応部に集光させて加熱を行う集光手段と、
を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2では、請求項1に記載の反応・分析装置において、前記集光手段は、反射面が楕円球面となっている楕円反射鏡であることを特徴とする。
【0012】
請求項3では、請求項2に記載の反応・分析装置において、前記発光部は前記楕円反射鏡の第1焦点または第2焦点のいずれか一方の位置に設けられ、
前記楕円反射鏡は前記反応部が他方の焦点に相当する位置となるよう配置されたことを特徴とする。
【0013】
請求項4では、請求項2に記載の反応・分析装置において、前記発光部は前記楕円反射鏡の第1焦点または第2焦点のいずれか一方を外部から照射するよう設けられ、
前記楕円反射鏡は前記反応部が他方の焦点に相当する位置となるよう配置されたことを特徴とする。
【0014】
請求項5では、請求項1乃至4のいずれかに記載の反応・分析装置において、前記発光部または集光手段の一方または両者を前記カートリッジに対し相対的に動かして加熱対象の反応部を選択する駆動手段を有することを特徴とする。
【0015】
請求項6では、請求項5に記載の反応・分析装置において、前記駆動手段は、前記発光部および集光手段を搭載した可動ステージであることを特徴とする。
【0016】
請求項7では、請求項5に記載の反応・分析装置において、前記駆動手段は、前記カートリッジに対する前記集光手段の角度を制御することを特徴とする。
【0017】
請求項8では、請求項1乃至7のいずれかに記載の反応・分析装置において、前記発光部は、生物・化学反応の内容に応じて光学フィルタを有することを特徴とする。
【0018】
請求項9では、請求項1乃至8のいずれかに記載の反応・分析装置において、前記発光部は、前記反応部の加熱温度に応じて光の強度あるいは照射時間を制御することを特徴とする。
【0019】
請求項10では、請求項1乃至9のいずれかに記載の反応・分析装置において、前記発光部は、光の照射・非照射の繰り返しにより前記反応部の温度を制御することを特徴とする。
【0020】
請求項11では、請求項1乃至10のいずれかに記載の反応・分析装置において、前記カートリッジは、前記反応部における試料の移動速度を制御することによって前記反応部の温度を制御することを特徴とする。
【0021】
請求項12では、請求項1乃至11のいずれかに記載の反応・分析装置において、前記発光部および集光手段の組み合わせを複数用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
このように、発光部と集光手段を設け、発光部からの光を加熱したい反応部に集光させる構成とすることにより、カートリッジの構造に左右されることなく自由度の高い加熱ができるようにするとともに、駆動システムの簡略化かつ低コスト化を図ることができる反応・分析装置を実現することができる。
本発明によれば、ペルチェのように外部から室や流路に接触固定する作用手段とは異なり、光が当たる所であれば加熱できるため、非接触の自由度がある。また、伝熱の場合、熱を下げるときに加熱部材の保熱で時定数が悪化するが、本発明は放射のため、この問題がない。
【0023】
請求項2では、集光手段として楕円反射鏡を採用することにより、低コスト材料で光の集光作用を得ることができる。さらに、請求項3および請求項4では、楕円の「一方の焦点から出た光は、楕円の表面で反射してもう一方の焦点に集まる」という性質を利用して、効率よく光を集光させることができる。
また、楕円反射鏡は楕円の長軸や短軸を調整することができるため、発光部・集光手段と加熱対象となるカートリッジの室・流路までの距離を任意に選択することができる。そのため、駆動システム側にも自由度ができ、ひいては駆動系の負荷軽減および簡略化を図ることができる。
さらに、集光により「点」での加熱が可能なため、カートリッジ等のマイクロ化にも対応することができる。
【0024】
請求項5では、発光部や集光手段をカートリッジに対して相対的に動かす駆動手段を設けることにより、生物・化学反応の進行具合によって加熱したい反応部が複数ある場合でも対応することができる。また、駆動手段は請求項6のように発光部と集光手段を搭載した可動ステージとしてもよいし、請求項7のように集光手段のカートリッジに対する角度を制御して加熱したい反応部を選択するようにしてもよい。
【0025】
生物・化学反応の中には蛍光物質等の劣化が懸念されるような反応もあるが、そのような反応を扱う場合には、請求項8のように発光部に適切な光学フィルタを設けることによって試料の保護や分解防止を図ることができる。なお、光学フィルタは発光部に設けてもよいし、カートリッジの室や流路の手前に設ける構成としてもよい。光学フィルタとしては、特定の波長の光を遮断するカットフィルタや、光の光量を制御するようなNDフィルタが考えられる。
【0026】
請求項9では、発光部の光の強度あるいは照射時間を制御することによって、加熱対象の反応部を希望の温度に調整することができる。加熱温度が大きい場合には光の強度を強めたり、照射時間を長くしたりする。加熱温度が小さい場合には光の強度を弱めたり、照射時間を短くしたりする。
また、温度調整は、請求項10のように光の照射・非照射の繰り返しにより行ってもよい。これは化学反応のような恒温反応に適していると考えられる。加熱温度が大きい場合には照射時間を長くしたり、繰り返しの間隔を短くしたりする。加熱温度が小さい場合には照射時間を短くしたり、繰り返しの間隔を長くしたりする。
さらに、PCR等のような加熱サイクルを必要とする反応では、請求項11のように流路や室における試料の流速の調整により温度制御することとしてもよい。加熱温度が大きい場合には流速を小さくし、加熱温度が低い場合には流速を大きくする。
【0027】
また、請求項12では、ひとつのカートリッジにつき発光部・集光手段の組み合わせを複数用いることにより、同時に加熱したい室や流路が複数ある場合に対応することができるなど、カートリッジの構造や取り扱う生物・化学反応の種類にバリエーションを持たせることが可能である。なお、発光部・集光手段の組み合わせは、加熱したい反応部の数に応じて備えることとしてもよい。その場合、集光手段として用いる楕円反射鏡の軸長は必ずしも統一する必要はなく、カートリッジの形状や駆動システムに合わせて個別に柔軟に決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を用いて本発明の反応・分析装置を説明する。
【実施例1】
【0029】
以下図面を用いて本発明を詳しく説明する。図1は本発明による反応・分析装置で用いる化学反応用カートリッジの基本的構成の一例を示す図である。なお、図1(a)は斜視図、同図(b)は弾性体下面図、同図(c)はZ−Z’断面図である。化学反応用カートリッジ100は、気密状で弾力性のあるゴムなどの弾性体110と、硬質材料で形成された平板状の基板120より形成されている。
【0030】
弾性体110の裏面には、図1(b)のように、それぞれ表面側に凹んだ、溶液用の室111、112、114と、反応部用の室(反応部室という)113および115と、廃液収容用の室(廃液収容室という)116と、各室をそれぞれ連結する流路117、118が形成されている。溶液室111、112、114には、図2(c)のように、注射器122などで、あらかじめ溶液A、溶液B、溶液Cをそれぞれ注入しておく。
弾性体110の室と流路以外の平面状の接着領域119は、図1(c)に示すように、基板120の表面に接着される。これにより各室と流路は弾性体110と基板120で密閉され、溶液の外部漏れが防止できる構造となっている。
【0031】
カートリッジにおける溶液の移送はローラ130を動かすことによって行う。図2に示すように、ローラ130をカートリッジ100の左端部で、室111が押し潰される程度に、上から押しつける。ローラ130はカートリッジ100の全幅にわたって押圧する。
【0032】
この状態で、図3(a)に示すようにローラ130を位置1のところから回転させて右方向へ移動すると、室111に保存されている溶液Aが右方向へ押し出される。溶液Aは流路117を通って反応部室113へ送り込まれる。
【0033】
図3(b)のように位置2のところまで回転移動させて行くと、今度は室112内の溶液Bの送り出しが始まり、溶液Bは流路117を通って反応部室113へ押し出される。このとき、流路117の途中もローラ130の押下により押し潰され、これが逆止弁となって、溶液Bの室111への逆流は防止される。このようにして、室内の流体状の物質を移動または阻止することができる。
【0034】
反応部室113では、溶液AとBが混合し反応する。ここで言う反応とは、例えば、混合、合成、溶解、分離などである。
【0035】
同様に、図3(c)のようにローラ130を回転移動させていくと、反応部室113の溶液AとB、さらに溶液室114内の溶液Cが順次押し出され、反応部室115に移動する。
このように、ローラ130を動かすことによって、各部屋の液が混合し反応する。
【0036】
このようなカートリッジは小型、軽量、低価格に作製でき、密閉状のカートリッジ内で物質の混合や合成、溶解、分離、検出などの処理のプロトコルを個人差なく容易に行うことができる。そして、このようなカートリッジの利用により、例えばダイオキシンのような毒物・危険物・有害物や、細菌・ウイルスなど、危険性のある対象の密閉環境内での分析・検出が可能となる。
【0037】
本発明は、上記のような構成のカートリッジを用いた反応・分析装置において、113、115のような反応部室や流路を加熱する手段として提案されたものである。
【0038】
図4は本発明による反応・分析装置の一実施例を示す図である。上記カートリッジ100の下部に、カートリッジ100の面に沿って2次元的に位置を動かすことができる可動ステージ500を設け、可動ステージ500上に光を放射する光源300と、反射面が楕円球面になっている楕円反射鏡400を設置する。光源300からの光を楕円反射鏡400の鏡面で反射して集光し、集光した光をカートリッジ100上において加熱したい流路や室に当てることにより加熱を行う。
【0039】
図5は光源300と楕円反射鏡400の位置関係を示す図である。F1は楕円反射鏡400の第1焦点、F2は第2焦点である。
図5(a)は光源300を第1焦点F1に配置した例である。一般に楕円には「一方の焦点から出た光は、楕円の表面で反射してもう一方の焦点に集まる」という性質があるため、光源300を第1焦点F1に配置することにより、光源300から放射された光を楕円反射鏡400の第2焦点F2に集めることができ、光を効率良く一点に集光することができる。
なお、図5(b)は光源300を楕円反射鏡400の外部に配置した例である。光源300は楕円反射鏡400の第1焦点F1を外部から照射する。第1焦点F1を通過した光は、図5(a)と同様に楕円反射鏡400の鏡面で反射されて第2焦点F2に集まるため、光源300を楕円反射鏡400に対しこのように設置することも可能である。
【0040】
光源300と楕円反射鏡400は、第2焦点に相当する位置がカートリッジ100上となるように可動ステージ500に保持される。もしくは、可動ステージ500自体を調整して楕円反射鏡400の第2焦点がカートリッジ100上に合うようにする。加熱する室や流路は、可動ステージ500を動かすことにより選択する。
【0041】
なお、第1焦点F1と第2焦点F2の位置は、図6に示すように、楕円の形状から計算により求めることができる。一般に、XY平面において楕円の半長軸の長さをa、半短軸の長さをbとしたとき、楕円の座標(x,y)は下記の式1を満たす。また、楕円の第1焦点F1と第2焦点F2の位置は、それぞれ式2および式3で表され、aとbの値で一義的に決定することができる。

【0042】
光源300と楕円反射鏡400による加熱は、カートリッジ100上での生物・化学反応の進行に合わせて行う。たとえば、カートリッジ100の反応部室113および115での反応において、それぞれ加熱を行う場合を考える。
【0043】
図7は光源300と楕円反射鏡400で複数の室の加熱を行う様子を示す図である。まず、可動ステージを制御して、反応部室113の位置に光の集光点がくるように位置させる。ローラ130が回転移動し、溶液Aと溶液Bが反応部室113に送り出されて加熱が必要なフェーズに移行すると、光源300を発光させ、加熱を開始する。そして反応部室113における反応の終了、または反応の加熱フェーズの終了に伴い、光源300を消灯させる。
【0044】
反応部室113での加熱作業が終了すると、再度可動ステージ500を制御し、楕円反射鏡400の第2焦点F2が反応部室115の位置となるよう移動させる。ローラ130がさらに回転移動し、溶液A、B、Cが反応部室115に送り出されて加熱が必要なフェーズに移行すると、光源300を発光させ、加熱を開始する。そして反応部室115における反応の終了、または反応の加熱フェーズの終了に伴い、光源300を消灯させる。
【0045】
可動ステージ500の制御は、カートリッジ100の形状や加熱する室や流路の位置をあらかじめ反応・分析装置に記憶させておき、反応の進行に伴い自動的に行われる構成とする。
【0046】
反応部室113、115は、光源300の発光強度や照射時間などを制御することによって希望の温度に調整する。加熱温度は反応の種類や内容によって最適なものを選択する。
たとえば、反応の際に高温に保つ必要がある場合、すなわち反応部室の加熱温度が大きい場合には、光の強度を強めたり、照射時間を長くしたりする。一方反応部室の加熱温度が小さい場合には、光の強度を弱めたり、照射時間を短くしたりする。
また、PWM制御やPFM制御により照射・非照射の割合や周波数を調整する構成も考えられる。反応部室の加熱温度が大きい場合には、照射の割合を大きくしたり、周波数を高くしたりする。加熱温度が小さい場合には、照射の割合を小さくしたり、周波数を下げたりする。なお、発光強度や照射時間などの調整は、加熱する反応部室ごとや流路ごとに行うことができる。
【0047】
光源300としては、レーザーや、ハロゲン・キセノン・水銀に代表されるような白色光源等が考えられるが、加熱温度や装置全体の物理的構成から適当な光源を採用する。また、LEDを用いて安価に構成することも可能である。
【0048】
また、反応部室113、115で行う反応が、光の照射により蛍光物質等の退色が懸念されるようなものである場合には、光源300に適切な光学フィルタを設けて試料の保護や分解防止を図る。たとえば、光源300から発せられる光の波長のうち特定のものが試料に悪影響となるような場合には、光学フィルタとしてその特定の波長を遮断するカットフィルタやバンドパスフィルタが考えられる。また、併せてNDフィルタの使用も可能である。
【0049】
なお、光学フィルタは、光源300に設けるのではなく、カートリッジの室や流路の手前に設ける構成としてもよい。たとえば反応部室113と115とでカットしたい波長が異なるような場合には、光源300に光学フィルタを設けるよりも、反応部室113と115の手前にそれぞれ別々の光学フィルタを設ける方が効率的である。
【0050】
このように、光源300と楕円反射鏡400を用いることにより、ペルチェのように外部からの伝熱とは異なり、非接触で加熱を行うことができる。さらに、楕円反射鏡400は設計上その長軸や短軸を調整することができるため、光源300・楕円反射鏡400と加熱対象となるカートリッジの室・流路までの距離を任意に選択することができる。そのため、駆動システム側にも自由度ができ、ひいては駆動系の負荷軽減および簡略化を図ることができる。また、光を利用する方が伝熱よりも温度制御が容易で昇温も早いという利点もある。
【0051】
さらに、焦点位置という「点」での加熱が可能であり、カートリッジ100上の流路や室にピンポイントに光を効率よく照射し加熱することができ、ひいてはカートリッジ等のマイクロ化にも対応することができる。
【0052】
このように、カートリッジの構造に左右されることなく自由度の高い加熱ができるようにするとともに、駆動システムの簡略化かつ低コスト化を図ることができる反応・分析装置を実現することができる。
【0053】
なお、本発明による反応・分析装置で取り扱う反応としては、生物反応ではPCR増幅、核酸の等温増幅、核酸の転写反応、ハイブリダイゼーション、核酸のフラグメント化、細胞の粉砕・培養などが考えられる。また、化学反応では、重合反応、触媒反応、転移反応、置換反応、付加反応や、吸熱反応時の給熱などが考えられる。
【実施例2】
【0054】
加熱サイクルを必要とする反応では、流路や室における試料の流速でも温度制御することが可能である。
【0055】
図8は加熱サイクルの様子を示す図である。試料をリング状に形成した流路123内に導入し、その中で流動させる。流路123の一部を図に示すように光源300と楕円反射鏡400で加熱する。試料は流路123内を流れながら楕円反射鏡400の焦点のポイントで加熱される。その後試料は流路123内を流れるうちに放熱し冷却され、再び楕円反射鏡400の焦点のポイントを流れる際に加熱される。
【0056】
このように試料を流路内で周回させながら加熱と冷却を繰り返すことによって、加熱サイクルを容易に実現することができる。
【0057】
加熱温度の制御は、光源300の照射強度等だけでなく、試料の流速によっても制御することができる。試料の流速を小さくすれば単位体積あたりの加熱時間が長くなるため高温でのサイクルとすることができる。一方試料の流速を大きくすれば低温でのサイクルとすることができる。
【0058】
このような加熱サイクルは、特にPCR等の生物反応に適していると考えられる。他にも、加熱・冷却を高速に繰り返す必要がある反応や、温度変化の激しい反応にも有効と考えられる。
【実施例3】
【0059】
前記実施例1では、光源300と楕円反射鏡400を可動ステージ500上に設置し、可動ステージ500を動かすことにより加熱したい室や流路を選択したが、カートリッジ100に対する楕円反射鏡400の角度の制御により選択する構成とすることができる。
【0060】
図9は楕円反射鏡400の角度により加熱する室や流路の選択を行う例を示す図である。試料が反応を行う室や流路の進行に合わせて、楕円反射鏡400の設置角度を図9(a)〜(c)のように変化させ、カートリッジ上での加熱位置を制御する。
角度の制御は、図9のように光源300と楕円反射鏡400の両方をともに変化させてもよいし、光源300は固定し楕円反射鏡400のみ角度を変化させる構成としてもよい。
なお、角度を変化させることにより焦点のピントが合わなくなる場合には、角度の制御とともに、カートリッジ上にピントが合うよう可動ステージ500を上下方向に調整するようにしてもよい。
【0061】
また、楕円反射鏡400の角度制御は可動ステージと組み合わせて実施してもよい。さらに、ひとつのカートリッジにつき実施例1〜3で示したような光源300・楕円反射鏡400の組み合わせを複数用いてもよい。同時に加熱したい室や流路が複数ある場合に容易に対応することができるなど、カートリッジの構造や取り扱う生物・化学反応の種類にバリエーションを持たせることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は本発明による反応・分析装置で用いる化学反応用カートリッジの基本的構成の一例を示す図。
【図2】図2はカートリッジの動作状態を示す図。
【図3】図3はカートリッジの動作状態を示す図。
【図4】図4は本発明による反応・分析装置の一実施例を示す図。
【図5】図5は光源と楕円反射鏡の位置関係を示す図。
【図6】図6は楕円の軸長と焦点の関係の説明図。
【図7】図7は光源と楕円反射鏡で複数の室の加熱を行う様子を示す図。
【図8】図8は加熱サイクルの様子を示す図。
【図9】図9は楕円反射鏡の角度により加熱する室や流路の選択を行う例を示す図。
【図10】図10は従来の処理方式の説明図。
【図11】図11は従来例によるカートリッジの一例を示す図。
【符号の説明】
【0063】
100 カートリッジ
110 弾性体
111、112、114 室
113、115 反応部室
116 廃液収容室
117、118、123 流路
119 接着領域
120 基板
121 注射針
122 注射器
130 ローラ
300 光源
400 楕円反射鏡
500 可動ステージ
601、602 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の加熱工程を含み生物・化学系試料を取り扱う反応・分析装置において、
流路で連結または連結可能に配置された2つ以上の室が形成され、これら流路および室の一部または全部を反応部として試料の生物・化学的な反応を行わせるカートリッジと、
光を放射する発光部と、
この発光部からの光を前記反応部に集光させて加熱を行う集光手段と、
を有することを特徴とする反応・分析装置。
【請求項2】
前記集光手段は、反射面が楕円球面となっている楕円反射鏡であることを特徴とする請求項1に記載の反応・分析装置。
【請求項3】
前記発光部は前記楕円反射鏡の第1焦点または第2焦点のいずれか一方の位置に設けられ、
前記楕円反射鏡は前記反応部が他方の焦点に相当する位置となるよう配置されたことを特徴とする請求項2に記載の反応・分析装置。
【請求項4】
前記発光部は前記楕円反射鏡の第1焦点または第2焦点のいずれか一方を外部から照射するよう設けられ、
前記楕円反射鏡は前記反応部が他方の焦点に相当する位置となるよう配置されたことを特徴とする請求項2に記載の反応・分析装置。
【請求項5】
前記発光部または集光手段の一方または両者を前記カートリッジに対し相対的に動かして加熱対象の反応部を選択する駆動手段を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の反応・分析装置。
【請求項6】
前記駆動手段は、前記発光部および集光手段を搭載した可動ステージであることを特徴とする請求項5に記載の反応・分析装置。
【請求項7】
前記駆動手段は、前記カートリッジに対する前記集光手段の角度を制御することを特徴とする請求項5に記載の反応・分析装置。
【請求項8】
前記発光部は、生物・化学反応の内容に応じて光学フィルタを有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の反応・分析装置。
【請求項9】
前記発光部は、前記反応部の加熱温度に応じて光の強度あるいは照射時間を制御することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の反応・分析装置。
【請求項10】
前記発光部は、光の照射・非照射の繰り返しにより前記反応部の温度を制御することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の反応・分析装置。
【請求項11】
前記カートリッジは、前記反応部における試料の移動速度を制御することによって前記反応部の温度を制御することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の反応・分析装置。
【請求項12】
前記発光部および集光手段の組み合わせを複数用いることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の反応・分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−298340(P2007−298340A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125323(P2006−125323)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】