説明

収納構造体およびそれを用いた収納方法

【課題】従来技術におけるばね支持体と同等の収納物保持機能を確保しつつ、全体として構造の簡素化、部品点数の大幅な削減、製造の容易化が可能な収納構造体、およびそれを用いた簡便かつ合理的な収納方法を提供する。
【解決手段】四面に囲まれた収納物収納空間を有する収納構造体であって、該構造体全体が一体に成形されており、四面の少なくとも一面を形成する壁が繊維強化熱可塑性樹脂からなり、かつ、該繊維強化熱可塑性樹脂からなる壁が、収納空間内部に向かって湾曲して張り出し、ばね性能を発揮可能な凸状壁に構成されていることを特徴とする収納構造体、およびそれを用いた収納方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納物を収納するための収納構造体およびそれを用いた収納方法に関し、とくに、複数の収納物を所定方向に配列した状態にて収納するに際し、収納の容易化をはかるとともにそれら収納物を適切な付勢力をもって所望の収納状態に安定して保持可能な、簡素な構造の収納構造体と、それを用いた収納方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、複数の収納物を所定方向に配列した状態にてケース内に収納する場合、所望の収納状態を保つために、配列されている収納物を配列方向の一方側から、例えばばねを用いて適切な力をもって付勢し、その付勢力によって収納物の全部を所望の収納状態や収納姿勢に保持できるようにした構造が知られている。
【0003】
そのような構造として、例えば特許文献1には、複数の半導体モジュールをパッケージする収納ユニットが開示されており、該収納ユニットには所定方向に配列された半導体モジュールとそれを収めるケースの間にばね支持体が配されている。このばね支持体は、ユニットに外部から力が加わった際に半導体モジュールの移動や振動を、ばねの弾性によって抑制する役割を担っている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示の収納構造においては、上記ばね支持体がケースとは別体となっており、部品数が多いため収納構造体の製造に手間やコストがかかるとともに、半導体モジュールを収納する際にばね支持体を一緒に配置しなければならい構造となっているため、パッケージ組立の容易化を妨げているとともにその手間を増やしている。また、このような別体のばねは、ばねの伸縮方向とは垂直な方向のせん断力が作用した場合、位置がずれやすく、ばねが脱落する可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−261125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、例えば上記のような従来技術における問題点に着目し、従来技術におけるばね支持体と同等の収納物保持機能を確保しつつ、全体として構造の簡素化、部品点数の大幅な削減が可能で、かつ、製造の容易化も可能な収納構造体を提供することにあり、併せて、その収納構造体を用いた簡便かつ合理的な収納方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る収納構造体は、四面に囲まれた収納物収納空間を有する収納構造体であって、該構造体全体が一体に成形されており、前記四面の少なくとも一面を形成する壁が繊維強化熱可塑性樹脂からなり、かつ、該繊維強化熱可塑性樹脂からなる壁が、前記収納空間内部に向かって湾曲して張り出す凸状壁に構成されていることを特徴とするものからなる。
【0008】
このような本発明に係る収納構造体においては、収納構造体の全体が一体に成形されているので、部品点数としては極めて少なくて済み、全体としての構成も容易に簡素化できる。そして、構造体の四面の少なくとも一面を形成する壁が繊維強化熱可塑性樹脂から構成され、その繊維強化熱可塑性樹脂からなる壁が収納空間内部に向かって湾曲して張り出す凸状壁に構成されていることにより、該壁には容易にばね性能が付与される。すなわち、収納構造体を構成する壁自体にばね性能を付与することが可能になり、従来構造において設けられていた別体のばねを設ける必要がなくなる。また、別体のばねが不要となるため、その脱落等の問題もなくなる。その結果、全体として構造の簡素化、部品点数の大幅な削減、製造の容易化をはかりつつ、上記壁自体のばね性能を利用して所望の収納物保持機能を発揮させることが可能になる。
【0009】
上記本発明に係る収納構造体においては、上記収納空間内部に対し、上記凸状壁の内面側の曲率が外面側の曲率よりも小さいことが好ましい。曲率半径で言えば、凸状壁の内面側の曲率半径が外面側の曲率半径よりも大きいことが好ましい。このように構成すれば、必要な壁自体のばね性能、該壁全体の必要な剛性を確保しつつ、壁の各部の肉厚を小さく抑えることが可能になり、収納構造体全体の軽量化をはかることが可能になる。
【0010】
また、上記四面のうちの一組の対向面を形成する二つの壁が上記凸状壁に構成されている構成も好ましい。このように構成すれば、互いに対向する二つの壁にばね性能を付与できるので、収納物が両側からばね付勢力によって保持されることになり、より望ましい収納物保持機能を発揮させることが可能になる。
【0011】
また、上記凸状壁を形成する繊維強化熱可塑性樹脂に、上記湾曲の方向に沿う一方向に延びる強化繊維が配されていることが好ましい。このように構成すれば、この一方向に延びる強化繊維により、繊維強化熱可塑性樹脂壁の湾曲の方向における曲げ剛性が強化されるので、より高いばね性能を持たせたり、一方向強化繊維の量の調整等により目標とするばね性能への設定を容易に行ったりすることが可能になり、湾曲繊維強化熱可塑性樹脂壁により望ましいばね性能を付与することが可能になる。
【0012】
また、本発明に係る収納構造体においては、構造体全体を射出成形により一体に成形することが可能である。とくに、実質的に収納構造体全体が繊維強化熱可塑性樹脂で構成されている場合には、容易に、射出成形により構造体全体を一体成形することが可能である。
【0013】
本発明に係る収納構造体における上記繊維強化熱可塑性樹脂の強化繊維としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などあらゆる強化繊維の使用が可能であるが、とくに炭素繊維を含む構成とすることにより、軽量化をはかりつつ、効率よく所望の壁のばね性能や剛性を持たせることが可能になる。
【0014】
本発明に係る収納構造体において上記収納空間に複数の収納物が一方向に配列されて収納される場合には、該収納物配列方向における少なくとも一方側に位置する壁が上記ばね性能を発揮する凸状壁に構成されていることが好ましい。このように構成すれば、凸状壁によるばね性能が収納物配列方向に発揮されるので、該ばね性能を利用して構造体内における収納物の配列状態が効率よく保持されることになる。
【0015】
なお、本発明において用いる熱可塑性樹脂の種類はとくに限定されず、使用可能な樹脂を例示すると、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を挙げることができる。これらの混合物でもよい。また、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。さらに得たい成形品の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくことができる。
【0016】
本発明は、上記のような収納構造体を用い、上記凸状壁を、上記収納空間内部に向かう方向とは反対方向に変位するよう弾性変形させ、その状態にて収納物を収納空間内に収納し、収納物収納後に、弾性変形していた凸状壁を上記収納空間内部に向かう方向に弾性復元させることを特徴とする収納方法も提供する。つまり、凸状壁を弾性変形させて収納物に対しばね性能を発揮させない状態にて収納物を収納空間内に収納し、収納物収納後に、弾性変形していた凸状壁を弾性復元させて、収納物に対し前述したような望ましいばね性能を発揮させるようにした方法である。
【0017】
この収納方法において、凸状壁を弾性変形させる方法としては、例えば次のような方法を採用できる。すなわち、一組の向かい合う凸状壁自身を外側に向けて弾性変形させる方法や、一組の向かい合う凸状壁とは異なる他の向かい合う一組の壁を内側に押し込むことにより、該壁に一体に連なっている一組の凸状壁を外側に向けて弾性変形させる方法を採用できる。また、弾性変形の方法としては、特に限定されず、力学的に(人手あるいは機械等で)拡げる方法だけでなく、加熱により変形させる方法も可能であり、さらにこれらの方法を組み合わせた方法も可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る収納構造体によれば、一体成形された収納構造体の凸状壁自体にばね性能を持たせるようにしたので、従来構造のように別体のばねを用いることなく、凸状壁のばね性能を利用した望ましい収納物保持機能を発揮させることが可能になる。そして、一体成形、別体のばねの不要化により、全体として構造の簡素化、部品点数の大幅な削減、製造の容易化を達成しつつ、従来構造におけるばねの脱落等の問題も解消することができる。本発明では、この収納構造体を用いることにより、極めて簡便でかつ合理的な収納方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施態様に係る収納構造体の概略斜視図である。
【図2】図1の収納構造体の凸状壁部の拡大平面図である。
【図3】図1の収納構造体の収納物収納状態における概略平面図である。
【図4】図1の収納構造体を用いて収納物を収納する際に収納構造体を弾性変形させる様子の一例を示す、収納構造体の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る収納構造体1の概略構成を示している。収納構造体1は、四面に囲まれた、収納物を収納するための収納空間2を有しており、構造体全体が一体に成形されている。四面の少なくとも一面を形成する壁が、本実施態様では、互いに対向する一組の壁3a、3bが繊維強化熱可塑性樹脂から形成されており、好ましくは、一体に成形されている他の一組の壁3c、3dも繊維強化熱可塑性樹脂から形成されている。そして、本実施態様では、繊維強化熱可塑性樹脂からなる一組の壁3a、3bが、収納空間2の内部に向かって湾曲して張り出す凸状壁に構成されている。各凸状壁は、自身の弾性復元力により、収納空間2の内部に向かう方向に、ばね性能による付勢力を発揮可能に構成されている。各凸状壁においては、より望ましいばね性能を発揮するために、前述の如く、湾曲の方向に沿う一方向(図1に示した姿勢における水平方向)に延びる強化繊維が配されていることが好ましい。この一方向に延びる強化繊維は、例えば、一方向に強化繊維を配向させた熱可塑性樹脂シートを凸状壁内に組み込んだり、凸状壁成形後に一体に接合したりすることにより、配することができる。
【0021】
凸状壁自体の厚みに関する構成は、例えば図2に示すように構成されている(壁3a部分について例示してある)。図2に示す例においては、凸状壁からなる壁3aの内面側の(収納空間2の内部に向かう側の)曲率Riが、外面側の(収納空間2の外部に向かう側の)曲率Roよりも小さくなるように、壁3aの湾曲に沿って延びる方向の壁3aの厚みが変化されている。したがって、壁3aの湾曲に沿って延びる方向において、中央部ほど壁3aの厚みが小さく、両側の壁3c、3dへの接続部に近づくほど、壁3aの厚みが大きくなっている。この厚みの変化構成は、凸状壁からなる壁3aが収納空間2の内部に向けて凸状壁の中央部での付勢力を伴って目標とするばね性能を発揮する上で、必要最小限の肉厚にて、所望の壁剛性を確保しながら所望の内ばね性能を発揮するために、合理的な構成となっている。すなわち、凸状壁の中央部で付勢力を発揮させる場合、凸状壁の両側、つまり両側の壁3c、3dとの接続部を基点とするモーメントは中央部に近づくほど小さく接続部に近づくほど大きくなるが、そのモーメントに耐えるためには、中央部に近づくほど肉厚が小さく両側の接続部に近づくほど肉厚が大きくなる構成が、もっとも効率が良く、凸状壁の全体にわたって必要な剛性を確保しつつ、凸状壁全体の体積、重量を必要最小化することが可能になる。また、このように壁の厚み構成を変えることにより、収納物を収納した際に壁からの収納物にかかる付勢力が収納物に均一に作用し、収納物が破損することを防ぐことができる。
【0022】
このようなばね性能を発揮可能な凸状壁としての一組の壁3a、3bを有する収納構造体1においては、例えば図3に示すように、収納空間2内に、複数の収納物4を一方向に配列して収納する場合、その収納物配列方向の両側に壁3a、3bが位置することが可能になり、配列された複数の収納物4が配列方向両側から、壁3a、3b自身のばね性能による付勢力を受けることが可能になる。この付勢力により、収納物4は所望の配列状態で所定の位置、所定の姿勢に保持されることになる。この保持は、従来構造におけるような別体のばねを用いることなく達成できる。別体のばねの不要化により、部品点数を削減でき、全体構成の簡素化も達成できる。また、収納構造体1全体が一体成形されていることからも、全体構成の簡素化、製造の容易化が達成される。
【0023】
さらに、このような収納構造体1を用いることにより、収納操作も簡便で容易なものとなる。例えば図4に示すように、上記凸状壁3a、3bを、破線で示すように収納空間2の内部に向かう方向とは反対方向に変位するよう弾性変形させ、その状態にて収納物4を収納空間2内に収納する。そして、収納物収納後に、弾性変形していた凸状壁3a、3bを収納空間2の内部に向かう方向に弾性復元させることを特徴とする収納方法も提供する。つまり、凸状壁を弾性変形させて収納物に対しばね性能を発揮させない状態にて収納物を収納空間内に収納し、収納物収納後に、弾性変形していた凸状壁3a、3bを弾性復元させて、収納物に対し前述したような望ましいばね性能を発揮させるようにすることができる。凸状壁3a、3bを上記の方向に弾性変形させる方法としては、前述したように、凸状壁3a、3b自身を外側に向けて弾性変形させる方法のほか、もう一組の壁3c、3dを破線で示すように内側に押し込むことにより、該壁3c、3dに一体に連なっている一組の凸状壁3a、3bを外側に向けて弾性変形させる方法を採用することもできる。これら弾性変形には、力学的な手法はもちろんのこと、加熱による変形、力学的な手法と加熱による変形を組み合わせた手法も可能である。要は、凸状壁3a、3bを、収納物収納動作のために収納空間2が広がるように弾性変形させておき、収納物収納後に弾性復元させて収納物に対し所望のばね性能を発揮させることができればよい。このようなきわめて簡単な操作により、目標とする収納物の収納、収納後の保持が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、あらゆる収納物の収納に適用でき、とくに、複数の半導体モジュールをパッケージする収納ユニットなどの、収納物を所定方向に配列した状態で収納する場合に好適なものである。
【符号の説明】
【0025】
1 収納構造体
2 収納空間
3a、3b 凸状壁
3c、3d 他の一組の壁
4 収納物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四面に囲まれた収納物収納空間を有する収納構造体であって、該構造体全体が一体に成形されており、前記四面の少なくとも一面を形成する壁が繊維強化熱可塑性樹脂からなり、かつ、該繊維強化熱可塑性樹脂からなる壁が、前記収納空間内部に向かって湾曲して張り出す凸状壁に構成されていることを特徴とする収納構造体。
【請求項2】
前記収納空間内部に対し、前記凸状壁の内面側の曲率が外面側の曲率よりも小さい、請求項1に記載の収納構造体。
【請求項3】
前記四面のうちの一組の対向面を形成する二つの壁が前記凸状壁に構成されている、請求項1または2に記載の収納構造体。
【請求項4】
前記凸状壁を形成する繊維強化熱可塑性樹脂に、前記湾曲の方向に沿う一方向に延びる強化繊維が配されている、請求項1〜3のいずれかに記載の収納構造体。
【請求項5】
構造体全体が射出成形により一体に成形されている、請求項1〜4のいずれかに記載の収納構造体。
【請求項6】
前記繊維強化熱可塑性樹脂の強化繊維として炭素繊維を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の収納構造体。
【請求項7】
前記収納空間に複数の収納物が一方向に配列されて収納され、該収納物配列方向における少なくとも一方側に位置する壁が前記凸状壁に構成されている、請求項1〜6のいずれかに記載の収納構造体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の収納構造体を用い、前記凸状壁を、前記収納空間内部に向かう方向とは反対方向に変位するよう弾性変形させ、その状態にて収納物を収納空間内に収納し、収納物収納後に、弾性変形していた凸状壁を前記収納空間内部に向かう方向に弾性復元させることを特徴とする収納方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−51622(P2012−51622A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195685(P2010−195685)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】