説明

取り込みを増強する経粘膜送達装置

本発明は、薬剤、例えばフェンタニルまたはブプレノルフィンの被験体における経粘膜取り込みを増強するための方法、および関連装置を提供する。本方法は、薬剤を含む経粘膜薬物送達装置を被験体に投与する段階を含む。被験体への薬剤の経粘膜投与に適した装置、ならびに、それらの投与および使用方法も提供される。本装置は、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた薬剤、およびバリア環境を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2006年7月21日に出願された米国特許仮出願第60/832,725号、2006年7月21日に出願された米国特許仮出願第60/832,726号および2006年8月23日に出願された米国特許仮出願第60/839,504号に対し優先権を主張する。これらの出願の全内容は参照により本明細書に組み入れられる。本出願はまた、2006年12月13日に出願された米国特許出願第11/639,408号および2006年12月13日に出願されたPCT/US2006/47686号に関連し、これらはどちらも、2005年12月13日に出願された米国特許仮出願第60/750,191号および2006年2月2日に出願された同第60/764,618号に対し優先権を主張する。これらの出願の全内容もまた、本参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
米国特許第6,264,981号(Zhangら)(特許文献1)は送達装置、例えば、製剤内で形成された固溶体微小環境を含む圧縮粉末錠剤について記載する。微小環境は、唾液中での薬物の迅速な溶解を促進する溶解剤を有する固溶体中に固体薬剤を含む。微小環境は薬剤が製剤中の他の化学物質と接触しないようにするための物理的バリアを提供する。微小環境はまた、固体製剤中でpH分離を生成させる可能性がある。微小環境のpHは、安定化目的で、薬物をイオン形態で保持するように選択される。製剤の残りは緩衝液を含むことができ、そのため、口腔内で溶解すると、pHが唾液中で制御され、薬物の吸収が制御される。
【0003】
米国特許出願公開第2004/0253307号(特許文献2)はまた、固体剤形が溶解すると、吸収を制御する、すなわち周囲環境での条件、例えば、唾液分泌速度、唾液のpHおよび他の因子の影響を克服するのに望ましいpHに薬剤を維持する緩衝液を含む固体剤形について記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,264,981号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0253307号
【発明の概要】
【0005】
発明の簡単な概要
本発明は、薬剤の取り込みを増強させた経粘膜装置ならびにその製造方法および使用方法を提供する。いくつかの態様では、装置は一般に、薬剤が適用された粘膜を横切る薬剤の吸収だけでなく、さらに、粘着付着性ポリマー拡散環境を通って粘膜に至る薬剤の透過性および/または運動性を促進する粘膜付着性ポリマー拡散環境を含む。
【0006】
したがって、1つの態様では、本発明はフェンタニルまたはフェンタニル誘導体の被験体への直接経粘膜送達を増強するための方法に関する。方法は一般に、生体分解性薬物送達装置を被験体の口腔粘膜表面に投与する段階を含み、装置は粘膜付着性ポリマー拡散環境内に配置されたフェンタニルまたはフェンタニル誘導体;および、粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成され、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体が被験体に送達されるようにポリマー拡散環境に対して配置されたバリア環境を含む。
【0007】
別の態様では、本発明は被験体において疼痛を治療するための方法に関する。方法は一般に、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた、治療的有効量のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を被験体に経粘膜投与する段階を含み、これにより、有効量のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体が約30分未満で送達される。いくつかの態様では、慢性疼痛が被験体において軽減される。別の態様では、急性疼痛が被験体において軽減される。別の態様では、疼痛は癌性突出痛である。
【0008】
さらに別の態様では、本発明は有効量のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体の被験体への直接経粘膜投与に適した粘膜付着性送達装置に関する。粘膜付着性装置は一般に、ポリマー拡散環境に置かれたフェンタニルまたはフェンタニル誘導体;および、粘膜表面に適用されると一方向勾配が得られるようにポリマー拡散環境に対して配置されたバリア環境を含む。
【0009】
別の態様では、本発明は、直接口腔吸収が少なくとも50%であり、絶対生物学的利用能が少なくとも70%である、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体を送達する経粘膜送達装置に関する。さらに別の態様では、本発明はフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を直接粘膜に送達し、約0.20時間またはそれ以下の疼痛緩和の開始(Tfirst)および約1.6時間またはそれ以上のピーク血漿濃度までの時間(Tmax)を達成する経粘膜装置に関する。さらに別の態様では、本発明は約800μgのフェンタニルを含み、被験体に経粘膜投与されると、下記のような少なくとも1つのインビボ血漿プロファイルを示す装置に関する:約1.10ng/mLまたはそれ以上のCmax;約0.20時間またはそれ以下のTfirst;および約10.00hr・ng/mLまたはそれ以上のAUC0-24。さらに別の態様では、本発明は、疼痛を治療するのに有効な量のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を送達するフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を含む経粘膜送達装置に関し、ここで、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体の送達に関連する口腔刺激、口腔潰瘍および/または便秘は軽微であり、または排除される。1つの態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHは約6.5〜約8、例えば約7.25である。1つの態様では、装置は約800μgのフェンタニルを含む。別の態様では、装置はさらに、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体の粘膜への一方向送達を促進する少なくとも1つの追加層を含む。別の態様では、フェンタニルはクエン酸フェンタニルである。
【0010】
1つの態様では、装置中のフェンタニルの30%超、例えば55%超のフェンタニルが粘膜吸収により全身で利用可能となる。
【0011】
1つの態様では、本発明はブプレノルフィンの被験体への直接経粘膜送達を増強するための方法に関する。方法は一般に、生体分解性薬物送達装置を被験体の口腔粘膜表面に投与する段階を含み、装置は、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれたブプレノルフィン;および、粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成され、ブプレノルフィンが被験体に送達されるようにポリマー拡散環境に対して配置されたバリア環境を含む。
【0012】
別の態様では、本発明は被験体において疼痛を治療するための方法に関する。方法は一般に、被験体に、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた、治療的有効量のブプレノルフィンを経粘膜的に投与する段階を含み、有効量のブプレノルフィンが約30分未満で送達される。いくつかの態様では、慢性疼痛が被験体において軽減される。別の態様では、急性疼痛が被験体において軽減される。別の態様では、疼痛は癌性突出痛である。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は有効量のブプレノルフィンを被験体に直接経粘膜投与するのに適した粘膜付着性送達装置に関する。粘膜付着性装置は一般に、ポリマー拡散環境に置かれたブプレノルフィン;および、粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成されるようにポリマー拡散環境に対して配置されたバリア環境を含む。1つの態様では、pHは約4.0〜約7.5、例えば約6.0または約7.25である。別の態様では、装置はさらに、ブプレノルフィンの粘膜への一方向送達を促進する少なくとも1つの追加の層を含む。
【0014】
本発明の方法および装置の1つの態様では、装置はpH緩衝剤を含む。本発明の方法および装置の1つの態様では、装置は口腔投与または舌下投与のために適合される。
【0015】
本発明の方法および装置の1つの態様では、装置は粘膜付着性ディスクである。本発明の方法および装置の1つの態様では、異なる用量を示すように形成された粘膜付着性膜として製剤化される。本発明の方法および装置の1つの態様では、装置は粘膜付着性ポリマー拡散環境に隣接して配置されるバッキング層を含む。
【0016】
本発明の方法および装置の1つの態様では、装置はさらにオピオイド拮抗薬を含む。本発明の方法および装置の1つの態様では、装置はさらにナロキソンを含む。
【0017】
本発明の方法および装置の1つの態様では、装置は層状のフレキシブル装置である。本発明の方法および装置の1つの態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境は経粘膜投与のための緩衝環境を有する。
【0018】
本発明の方法および装置の1つの態様では、経粘膜投与部位においては実質的に刺激はない。本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約30分にわたり50%の疼痛の減少を経験した。
【0019】
本発明の方法および装置の1つの態様では、ポリマー拡散環境は少なくとも1つのイオンポリマーシステム、例えば、ポリアクリル酸(任意で、架橋される)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびこれらの混合物を含む。1つの態様では、ポリマー拡散環境は緩衝システム、例えば、クエン酸、安息香酸ナトリウムまたはその混合物を含む。いくつかの態様では、装置は、口への感触を最小とする厚さを有する。いくつかの態様では、装置は約0.25mmの厚さを有する。
【0020】
いくつかの態様では、本発明は、有効量のフェンタニル、フェンタニル誘導体、ブプレノルフィン、またはブプレノルフィン誘導体を被験体に直接経粘膜投与するのに適した、フレキシブルな生体分解性粘膜付着性送達装置を提供する。粘膜付着性装置は、ポリマー拡散環境に置かれたフェンタニル、フェンタニル誘導体、ブプレノルフィンまたはブプレノルフィン誘導体を含み、ポリマー拡散環境が、フェンタニルもしくはフェンタニル誘導体に対しては約7.25のpH、または、ブプレノルフィンもしくはブプレノルフィン誘導体に対しては約6のpHを有する粘膜付着性層;および粘膜付着性層に隣接し、近接して配置されたバリア環境を含むバッキング層を含む。装置は口への感触が全くなく、または最小であり、有効量の、フェンタニル誘導体、ブプレノルフィンまたはブプレノルフィン誘導体を、約30分未満で経粘膜的に送達することができ;粘膜表面に装置が適用されると一方向勾配が生成される。
【0021】
本発明の前記および他の局面、態様、目的、特徴および利点は、添付の図面と共に下記説明からより完全に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1および2において記載されるように、本発明の例示的な態様および市販の送達装置(Actiq(登録商標)Oral Transmucosal Fentanyl Citrate)に対する、それぞれ、投与後2日、および投与後1時間にわたる、ヒトにおけるクエン酸フェンタニル取り込みを比較したグラフである。
【図2】実施例1および2において記載されるように、本発明の例示的な態様および市販の送達装置(Actiq(登録商標)Oral Transmucosal Fentanyl Citrate)に対する、それぞれ、投与後2日、および投与後1時間にわたる、ヒトにおけるクエン酸フェンタニル取り込みを比較したグラフである。
【図3】実施例3および4において記載されるように、本発明の例示的な態様および市販の送達装置に対する、それぞれ、投与後16時間にわたるヒトにおけるブプレノルフィン取り込みを比較したグラフである。
【図4】図4A〜Cは、本発明の例示的な態様の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも一部は、薬剤の経粘膜取り込みは、新規ポリマー拡散環境を使用することにより増強することができるという発見に基づく。そのようなポリマー拡散環境は、例えば、その中に含まれる薬剤の絶対生物学的利用能が増強され、一方、迅速な作用発現が提供されるので、好都合である。さらに、先行技術の装置に比べ、治療効果を送達させるのに装置で必要とされる薬剤の量が少なくなる。これにより、薬剤が制御物質、例えばオピオイドである場合に重要な考慮事項であるように、装置は乱用されにくくなる。本明細書でより詳細に記載されているポリマー拡散環境は、増強された送達プロファイルおよび薬剤のより効率的な送達を提供する。ポリマー拡散環境の別の利点についても本明細書で記載する。
【0024】
より明確に、かつ正確に特許請求の範囲の対象を記載するために、下記定義は、本明細書で使用される用語の意味について導くものである。
【0025】
本明細書で使用されるように、冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、特に記載がなければ、「1つもしくは複数の」または「少なくとも1つの」を意味する。すなわち、不定冠詞「1つの」により本発明の任意の要素が言及された場合、1つを超える要素が存在する可能性が除外されない。
【0026】
本明細書で使用されるように、「急性疼痛」という用語は、短い期間、例えば3〜6ヶ月により特徴づけられる疼痛を示す。急性疼痛は典型的には組織損傷に関連し、容易に説明し、観察することができる様式で現れる。例えば、発汗または心拍数の増加を引き起こすことがある。急性疼痛はまたは時間と共に増大し、および/または断続的に生じる可能性がある。
【0027】
本明細書で使用されるように、「慢性疼痛」という用語は、外傷または疾病に対する通常の回復期間を超えて持続する疼痛を示す。慢性疼痛は一定または断続的である可能性がある。慢性疼痛の共通原因としては、関節炎、癌、反射性交感神経性ジストロフィー(RSDS)、反復性ストレス障害、帯状疱疹、頭痛、線維筋痛症、および糖尿病性神経障害が挙げられるが、それらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用されるように、「突出痛」という用語は、被験体が定期的に鎮痛薬を摂取しても、慢性疼痛を超えて生じる中度〜重度の疼痛の頻繁で激しい再燃により特徴づけられる疼痛を示す。突出痛の特徴は一般に下記を含む:ピーク重症度までの短い期間(例えば、3〜5分);耐え難い程の重症度;疼痛の比較的短い期間(例えば、15〜30分);および続発(例えば、1日につき1〜5エピソード)。突出痛は、明らかな誘発事象無しで不意に生じる可能性があり、または突出痛は誘発事象である可能性がある。突出痛の出現は時間の約50%〜60%予測可能である。癌患者では普通に見られるが、突出痛はまた、腰痛、頸部および肩部痛、中度〜重度変形性関節症の患者、および重度の偏頭痛患者においても起こる。
【0029】
本明細書で使用されるように、特に記載がなければ、「フェンタニル」という用語は、任意の薬学的に許容されるフェンタニルの形態を含み、その塩、エステル、およびプロドラッグが挙げられるが、それらに限定されない。「フェンタニル」という用語は、クエン酸フェンタニルを含む。本明細書で使用されるように、「フェンタニル誘導体」という用語は、フェンタニルと類似の構造および機能を有する化合物を示す。いくつかの態様では、フェンタニル誘導体は下記式のものまたは薬学的に許容されるそれらの塩もしくはエステルを含む:

式中、
R1はアリール基、ヘテロアリール基または-COO-C1〜4アルキル基から選択され;ならびにR2は-H、-C1〜4アルキル-O-C1〜4アルキル基または-COO-C1〜4アルキル基から選択される。フェンタニル誘導体としては、アルフェンタニル、スフェンタニル、レミフェンタニルおよびカーフェンタニルが挙げられるが、それらに限定されない。
【0030】
本明細書で使用されるように、特に記載がなければ、「ブプレノルフィン」という用語は、任意の薬学的に許容されるブプレノルフィンの形態を含み、その塩、エステル、およびプロドラッグが挙げられるが、それらに限定されない。本明細書で使用されるように、「ブプレノルフィン誘導体」という用語は、ブプレノルフィンと類似の構造および機能を有する化合物を示す。いくつかの態様では、フェンタニル誘導体は下記式のものまたは薬学的に許容されるそれらの塩もしくはエステルを含む:

式中、

は二重結合または単結合であり;R3はC1〜4アルキル基またはシクロアルキル置換C1〜4アルキル基から選択され;R4はC1〜4アルキルから選択され;R5は-OHであり、または一緒になり、R4およびR5は=O基を形成し;R6は-HまたはC1〜4アルキル基から選択される。ブプレノルフィン誘導体としては、エトルフィンおよびジプレノルフィンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0031】
本明細書で使用されるように、「ポリマー拡散環境」は、ポリマー拡散環境の粘膜表面への接着により勾配が生成すると、薬剤の粘膜表面への流動を可能にすることができる環境を示す。輸送される薬剤の流動は、環境の拡散性と比例関係であり、その環境は、薬剤のイオン性質および/または環境に含まれる1つまたは複数のポリマーのイオン性質を考慮して、例えば、pHにより操作することができる。
【0032】
本明細書で使用されるように、「バリア環境」は、例えば、その方向の薬剤の流動を減速させ、または停止させることができる、層またはコーティングの形態の環境を示す。いくつかの態様では、バリア環境は、粘膜の方向以外での、薬剤の流動を停止させる。いくつかの態様では、バリアは、例えば、薬剤のほとんどまたは全てが唾液により洗い流されないのに十分なほど、薬剤の流動を著しく減速させる。
【0033】
本明細書で使用されるように、「一方向勾配」という用語は、薬剤(例えば、フェンタニルまたはブプレノルフィン)が、実質的に1つの方向で、例えば、被験体の粘膜に向かって、装置を通る、例えばポリマー拡散環境を通る流動を可能にする勾配を示す。例えば、ポリマー拡散環境は、バッキング層または膜に隣接して配置された層または膜の形態の粘膜付着性ポリマー拡散環境であってもよい。粘膜投与されると、粘膜付着性ポリマー拡散環境と粘膜との間に勾配が生成され、薬剤は粘膜付着性ポリマー拡散環境から、実質的に一方向で、粘膜に向かって流れる。いくつかの態様では、薬剤のいくつかの流動は完全に勾配を横切って一方向というわけではなく;しかしながら、典型的には、全ての方向での薬剤の自由な流動は存在しない。そのような一方向流動は、例えば図4に関連して、本明細書でより詳細に記載されている。
【0034】
本明細書で使用されるように、被験体の「治療」または「処置」は、疾患もしくは障害、または疾患もしくは障害の症状を予防し、治療し、治癒させ、軽減し、緩和し、変化させ、是正し、寛解させ、改善し、安定化させ、または影響を与える目的で(例えば、疼痛を軽減するため)の、薬物の被験体への投与を含む。
【0035】
「被験体」という用語は、ヒト、イヌ、ネコ、および他の哺乳類などの生物を示す。本発明の装置に含まれる薬剤の投与は、被験体の治療に有効な用量および期間で実施することができる。いくつかの態様では、被験体はヒトである。いくつかの態様では、本発明の装置の薬物動態プロファイルは、雄および雌被験体で同様である。治療効果を達成するのに必要な薬物の「有効量」は、被験体の年齢、性別、および体重などの因子により変動する可能性がある。投与計画は、最適治療反応を提供するように調節することができる。例えば、1日あたり数回に分けて投与してもよく、用量は治療状況の緊急性により示されるように比例的に減少させてもよい。
【0036】
本明細書で使用されるように、「経粘膜」という用語は、粘膜を介する任意の投与経路を示す。例として、口腔、舌下、経鼻、膣内、および直腸が挙げられるが、それらに限定されない。1つの態様では、投与は口腔である。1つの態様では、投与は舌下である。本明細書で使用されるように、「直接経粘膜」という用語は、口腔粘膜、例えば頬側および/または舌下による粘膜投与を示す。
【0037】
本明細書で使用されるように、「水浸食性」または「少なくとも部分的に水浸食性」という用語は、無視できる〜完全に水浸食性であるという範囲の水浸食性を示す物質を示す。物質は水中に容易に溶解することができ、または長期にわたりやっとのことで水に部分的にのみ溶解することができる。さらに、物質は、体液のより複雑な性質のために、水と比べて体液中で異なる浸食性を示す可能性がある。例えば、水中で無視できるほどしか浸食性を示さない物質は、体液中でわずか〜中程度の浸食性を示す可能性がある。しかしながら、他の場合、水および体液中での浸食性は大体同じである可能性がある。
【0038】
本発明は、薬剤を被験体に均一に、および予想通りに送達する経粘膜送達装置を提供する。本発明はまた、本発明による装置を用いて被験体に薬剤を送達する方法を提供する。したがって、1つの態様では、本発明は有効量の薬剤、例えばフェンタニルもしくはフェンタニル誘導体またはブプレノルフィンを被験体に直接経粘膜投与するのに適した粘膜付着性送達装置に関する。粘膜付着性装置は一般に、ポリマー拡散環境に置かれた薬剤;および、粘膜表面に適用されると、一方向勾配が生成されるようなバリアを含み、装置は被験体に一方向様式で薬剤を送達することができる。本発明はまた、本発明による装置を使用し、被験体に薬剤を送達する方法を提供する。
【0039】
別の態様では、本発明は薬剤、例えば、フェンタニル、フェンタニル誘導体および/またはブプレノルフィンの被験体への直接経粘膜送達を増強するための方法に関する。方法は一般に、生体分解性薬物送達装置を被験体の口腔粘膜表面に投与する工程を含み、装置は、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた薬剤;および粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成されるようにポリマー拡散環境に対して配置されたバリア環境を含み、有効量の薬剤が被験体に送達される。
【0040】
別の態様では、本発明は被験体において疼痛を治療するための方法に関する。方法は一般に、ある厚さを有する粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた、治療的有効量の薬剤、例えば、フェンタニル、フェンタニル誘導体および/またはブプレノルフィンを被験体に経粘膜投与する段階を含み、有効量の薬剤が約30分未満で送達され、疼痛が治療される。いくつかの態様では、薬剤は約25分未満で送達される。いくつかの態様では、薬剤は約20分未満で送達される。
【0041】
上記方法および装置のいくつかの態様では、有効量が経粘膜送達される。別の態様では、有効量は経粘膜的に、胃腸吸収により送達される。さらに別の態様では、有効量が経粘膜投与され、胃腸吸収による送達により治療が増強および/または維持され、例えば、所望の期間、例えば、少なくとも1、1.5、2、2.5、3、3.5、もしくは4時間、またはそれ以上の間、疼痛が緩和される。
【0042】
さらに別の態様では、本発明はフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を直接粘膜に送達させ、約0.20時間またはそれ以下の疼痛緩和開始(Tfirst)および約1.6時間またはそれ以上のピーク血漿濃度までの時間(Tmax)が達成される経粘膜送達装置に関する。迅速な作用発現を遅延最大濃度と組み合わせると、疼痛を治療する際に、例えば、オピオイド耐性癌患者における癌性突出痛(BTP)に対する緩和に特に好都合であり、これは、中度〜重度の疼痛の再燃を軽減するように即時緩和が提供されるが、その後の再燃を軽減するために持続性も提供されるからである。従来の送達システムは、即時緩和またはその後の再燃のいずれかに対処することができるが、本態様の装置は、両方に対処するので好都合である。
【0043】
(表1)経粘膜装置の選択された薬物動態特性

*主緩和の開始、測定された最初の時間点として報告
【0044】
本発明の装置は、本明細書でより詳細に記載されているように、多くの追加の、または別の所望の特性を有する可能性がある。したがって、別の態様では、本発明は、少なくとも50%の直接口腔吸収および少なくとも約70%の絶対生物学的利用能を有する、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体を送達する経粘膜送達装置に関する。さらに別の態様では、本発明は約800μgのフェンタニルを含み、被験体に経粘膜投与されると、下記のように少なくとも1つのインビボ血漿プロファイルを示す装置に関する:約1.10ng/mLまたはそれ以上のCmax;約0.20時間またはそれ以下のTfirst;および約10.00hr・ng/mLまたはそれ以上のAUC0-24
【0045】
疼痛は任意の疾患、障害、状態および/または状況により引き起こされる、当技術分野において公知の任意の疼痛とすることができる。いくつかの態様では、慢性疼痛が本発明の方法を使用すると被験体において軽減する。別の態様では、急性疼痛が本発明の方法を使用すると被験体において軽減する。慢性疼痛は、癌、反射性交感神経性ジストロフィー(RSDS)、および片頭痛を含む多くの原因から生じる可能性がある。急性疼痛は典型的には、組織損傷に直接関連し、かなり短い期間、例えば3〜6ヶ月の間続く。別の態様では、疼痛は癌性突出痛である。いくつかの態様では、本発明の方法および装置を使用して、被験体において突出痛を軽減することができる。例えば、本発明の装置は、すでに長期オピオイド治療中の被験体において突出痛を治療するために使用することができる。いくつかの態様では、本発明の装置および方法は、迅速な鎮痛を提供し、および/またはフェンタニルの初回通過代謝を回避し、これにより他の治療、例えば経口薬剤よりも迅速な突出痛緩和が得られる。
【0046】
本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約30分にわたり約50%の疼痛減少を経験した。本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約30分にわたり約60%の疼痛減少を経験した。本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約30分にわたり約70%の疼痛減少を経験した。本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約30分にわたり約80%の疼痛減少を経験した。本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約30分にわたり約90%の疼痛減少を経験した。本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約30分にわたり約100%の疼痛減少を経験した。本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約25分にわたり約50%の疼痛減少を経験した。本発明の方法および装置の1つの態様では、被験体は約20分にわたり約50%の疼痛減少を経験した。
【0047】
いずれの特別な理論にも縛られるつもりはないが、粘膜付着性ポリマー拡散環境(例えば、ポリマーのpHおよびイオン性質)は、薬剤(例えば、フェンタニルまたはブプレノルフィンなどの弱塩基性薬物)が迅速に粘膜付着性ポリマー拡散環境を通って粘膜まで移動することができる一方、粘膜により効率的に吸収もされるので、薬剤の送達は特に有効であると考えられる。例えば、いくつかの態様では、pHは薬剤の移動を可能にするのに十分低いが、吸収のために十分高い。
【0048】
いくつかの態様では、粘膜付着ポリマー拡散環境は、所望のpHが粘膜投与部位で維持されるような緩衝pHを有する層である。したがって、被験体において、または被験体間で遭遇する、取り込み対する任意の効果を含む、いずれのpH変動効果(例えば、最近摂取された食物または飲み物による)も軽減または排除される。
【0049】
したがって、本発明の1つの利点は、装置間、およびロット間の装置特性の変動(例えば、成分のpH変化による)が減少または排除されることである。いずれの特別な理論にも縛られるつもりはないが、本発明のポリマー拡散環境は、例えば、緩衝pHを維持することにより変動を減少させると考えられる。さらに別の利点は、投与部位でのpH変動(例えば、何の食品もしくは飲み物または他の薬剤を最近摂取したかによる)が減少または排除されることであり、そのため、例えば、装置の変動が減少または排除される。
【0050】
本発明において使用するための薬剤としては、経粘膜投与することができる任意の薬剤が挙げられる。薬剤は、特別な粘膜または粘膜領域、例えば、口腔もしくは鼻腔、喉、膣、消化管または腹膜への局所投与に適したものとすることができる。また、薬剤はそのような粘膜を介した全身送達に適したものとすることができる。
【0051】
1つの態様では、薬剤はオピオイドとすることができる。本発明において使用するのに適したオピオイドとしては、例えば、アルフェンタニル、アリルプロジン、アルファプロジン、アポモルフィン、アニレリジン、アポコデイン、ベンジルモルフィン、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、シクロルファン、シプレノルフィン、デソモルフィン、デキストロモラミド、デキストロプロポキシフェン、デゾシン、ジアンプロミド、ジアモルフォン、ジヒドロコデイン、ジヒドロモルフィン、ジメノキサドール、エプタゾシン、エチルモルフィン、エトニタゼン、エトルフィン、フェンタニル、フェンカムファミン、フェネチリン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、ヒドロキシメチルモルフィナン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、レボメタドン、レボフェナシルモルファン、レボルファノール、ロフェンタニル、マジンドール、メペリジン、メタゾシン、メタドン、メチルモルフィン、モダフィニル、モルフィン、ナルブフェン、ネコモルフィン、ノルメタドン、ノルモルフィン、オピウム、オキシコドン、オキシモルフォン、フォルコジン、プロファドールレミフェンタニル、スフェンタニル、トラマドール、対応する誘導体、生理学的に許容される化合物、塩および塩基が挙げられる。いくつかの態様では、薬剤はフェンタニル、例えばクエン酸フェンタニルである。いくつかの態様では、薬剤はブプレノルフィンである。
【0052】
本発明の装置に組み入れる薬剤、例えばフェンタニルまたはブプレノルフィンの量は、投与される所望の治療用量に依存し、例えば、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体は、本発明の装置の約0.001重量%〜約50重量%、いくつかの態様では、約0.005〜約35重量%で存在することができ、またはブプレノルフィンは、本発明の装置の約0.001重量%〜約50重量%、いくつかの態様では約0.005〜約35重量%で存在することができる。1つの態様では、装置は約3.5重量%〜約4.5重量%のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を含む。1つの態様では、装置は約3.5重量%〜約4.5重量%のブプレノルフィンを含む。別の態様では、装置は約800μgの、クエン酸フェンタニルなどのフェンタニルを含む。別の態様では、装置は約25、50、75、100、150、200、300、400、500、600、700、900、1000、1200、1500、1600または2000μgのクエン酸フェンタニルなどのフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を含む。これらの値および範囲の全ての値および範囲は本発明に含まれるものであることを理解すべきである。別の態様では、装置は約800μgのブプレノルフィンを含む。別の態様では、装置は約100、200、300、400、500、600、700、900、1000、1200、1500、または2000μgのブプレノルフィンを含む。別の態様では、装置は、約25、50、75、100、150、200、300、400、500、600、700、900、1000、1200、1500、1600または2000μgの、本明細書で記載した薬剤のいずれかを含む。
【0053】
有効量に到達するための1つのアプローチは、複数の用量単位を用いた用量設定によるものであり、そのため、患者は1回の200mcg単位から開始して、徐々に適用する単位数を増加させ有効量に到達するまで行う、または有効量が同定されると直ちに複数のディスクとして800mcg(4単位)用量を用いる。したがって、いくつかの態様では、本発明の方法はまた、突出痛エピソードの制御のために必要とされるオピオイド、例えばフェンタニルの用量はしばしば容易に予測されないので、疼痛を緩和させ、生成する毒性を最小に抑える用量を同定する用量設定相を含む。本発明の装置の表面積と薬物動態プロファイルとの間の直線関係は、単一または複数ディスクの適用を介する用量設定過程において外挿されてもよく、適当な用量が同定され、その後、同じ量の薬剤を含む単一ディスクで置換される。
【0054】
1つの態様では、本発明の装置は従来の装置よりも、被験体により多くの量のフェンタニルを全身的に送達することができる。Actiq(登録商標)口腔経粘膜クエン酸フェンタニルに対するラベルによれば、ACTIQ製品中の約25%のフェンタニルが口腔粘膜を介して吸収され、残りの75%が嚥下され、さらに25%の総フェンタニルが、胃腸管での吸収を介して利用可能となり、総生物学的利用能は50%となる。Fentora Fentanyl Buccal錠剤文献によれば、FENTORA製品中の約48%のフェンタニルが口腔粘膜を介して吸収され、残りが52%であり、さらに17%の総フェンタニルが胃腸管での吸収により利用可能になり、総アベイラビリティは合計65%となる。したがって、いくつかの態様では、本発明の装置内に置かれたフェンタニルの約30%超が、粘膜による吸収により全身で利用可能となり、または生体利用可能になる。いくつかの態様では、約35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%または80%超が粘膜による吸収により全身で利用可能になる。いくつかの態様では、本発明の装置に置かれたフェンタニルの約55%、60%、65%または70%超が、任意の経路、粘膜および/または胃腸管により全身で利用可能となり、または生体利用可能になる。いくつかの態様では、約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%超が全身で利用可能になる。
【0055】
したがって、本発明の装置および方法の他の利点は、本発明の装置が、従来の装置よりも効率的に、薬剤、例えばフェンタニルまたはブプレノルフィンを送達するので、同じ量の薬剤を送達するのに、従来の装置に含めなければならないものよりも少ない量の薬剤を含めることができることである。したがって、いくつかの態様では、本発明の装置は、これが付着する粘膜表面を刺激しない。いくつかの態様では、本発明の装置は、装置がナロキソンなどのオピオイド拮抗薬を含む場合でさえも、便秘をほとんどまたは全く引き起こさない。さらに別の態様では、本発明は、疼痛を治療するのに有効な量のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を送達させ、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体の送達と関連する口腔刺激、口腔潰瘍および/または便秘がほとんどない、または排除される、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体を含む経粘膜送達装置に関する。
【0056】
別の利点は、装置中に必要とされる薬剤、例えばフェンタニルまたはブプレノルフィンが少ないので、すなわち、乱用者が血流中に注入するために抽出する薬剤が少ないので、本発明の装置が、従来の装置よりも乱用対象とはならないことである。
【0057】
いくつかの態様では、本発明の装置は、装置内に存在する薬剤の量に実質的に正比例する用量反応を有する。例えば、Cmaxが500用量で10ng/mLである場合、いくつかの態様では、1000μgの用量が約20ng/mLのCmaxを提供するであろうことが予測される。いずれの特別な理論にも縛られるつもりはないが、これは、被験体において正確な用量を決定する際に好都合である。
【0058】
いくつかの態様では、本発明の装置はさらに、様々な形態のいずれかの、例えば、塩、塩基、誘導体、または他の対応する生理学的に許容される形態のオピオイド拮抗薬を含む。本発明と共に使用するためのオピオイド拮抗薬としては、ナロキソン、ナルトレキソン、ナルメフェン、ナリド、ナルメキソン、ナロルフィン、ナルフィン、シクラゾシン、レバロルファンならびに生理学的に許容される塩および溶媒和物、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。1つの態様では、装置はさらにナロキソンを含む。
【0059】
いくつかの態様では、ポリマー拡散環境の特性はそのpHにより影響される。1つの態様では、例えば、薬剤がフェンタニルである場合、本発明の装置中の粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHは約6.5〜約8である。別の態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHは約7.25である。別の態様では、pHは約7.0〜約7.5、または約7.25〜7.5である。別の態様では、pHは約6.5、7.0、7.5、8.0もしくは8.5、またはその任意の増分値である。これらの値および範囲の値および範囲は全て、本発明により含まれるものであることを理解すべきである。
【0060】
1つの態様では、例えば、薬剤がブプレノルフィンである場合、本発明の装置における粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHは約4.0〜約7.5である。別の態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHは約6.0である。1つの態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHは約5.5〜約6.5、または約6.0〜6.5である。さらに別の態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHは約7.25である。別の態様では、pHは約7.0〜7.5、または約7.25〜7.5である。別の態様では、装置のpHは約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0もしくは7.5、またはその任意の増分値である。これらの値および範囲の値および範囲は全て、本発明により含まれるものであることを理解すべきである。
【0061】
粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHは、緩衝剤の使用を含むがそれらに限定されない方法により、または本発明の装置の組成を調節することにより、調節および/または維持することができる。例えば、pHに影響する本発明の装置の成分の調節、例えば、装置に含まれるクエン酸などの酸化防止剤の量により装置のpHが調節される。
【0062】
いくつかの態様では、ポリマー拡散環境の性質はその緩衝能力により影響される。いくつかの態様では、緩衝剤は粘膜付着性ポリマー拡散環境に含まれる。本発明と共に使用するのに適した緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、例えば、リン酸ナトリウム;一塩基性リン酸塩、例えばリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸二水素カリウム;二塩基性リン酸塩、例えばリン酸水素二ナトリウムおよびリン酸水素二カリウム;クエン酸塩、例えばクエン酸ナトリウム(無水または脱水);重炭酸塩、例えば重炭酸ナトリウムおよび重炭酸カリウムが挙げられ、それらを使用してもよい。1つの態様では、単一緩衝剤、例えば二塩基性緩衝剤を使用する。別の態様では、緩衝剤の組み合わせ、例えば、三塩基緩衝剤および一塩基緩衝剤の組み合わせを使用する。
【0063】
1つの態様では、装置の粘膜付着性ポリマー拡散環境は、薬剤の経粘膜投与のために、緩衝環境、すなわち安定化されたpHを有する。装置の緩衝環境により、被験体への薬剤の最適投与が可能になる。例えば、緩衝環境は、投与前の粘膜の状況に関係なく、使用時に粘膜で所望のpHを提供することができる。
【0064】
したがって、様々な態様では、装置は、例えば、投与前または投与中に被験体が摂取した薬剤、食物および/または飲み物による、投与部位でのpH変動を減少または排除する緩衝環境を有する粘膜付着性ポリマー拡散環境を含む。このように、1つの投与から次の投与までに被験体において投与部位で遭遇するpH変動は、薬剤の吸収に最小効果しか与えず、または全く影響しない可能性がある。さらに、異なる患者間での投与部位でのpH変動は、薬剤の吸収にほとんど、または全く影響しない。このように、緩衝環境により、薬剤の経粘膜投与中での患者内および患者間での変動が減少する。別の態様では、本発明は、経粘膜投与のための緩衝環境を有する粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた薬剤を含む装置を被験体に投与する段階を含む、薬剤の取り込みを増強するための方法に関する。さらに別の態様では、本発明は、経粘膜投与のための緩衝環境を有する粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた薬剤を含む装置を投与する段階を含む、被験体に治療的有効量の薬剤を送達する方法に関する。
【0065】
本発明の装置は、例えば、米国特許第6,159,498号、米国特許第5,800,832号、米国特許第6,585,997号、米国特許第6,200,604号、米国特許第6,759,059号および/またはPCT特許出願公開第WO 05/06321号において記載されている装置の成分、層および/または組成の任意の組み合わせまたはサブコンビネーションを含むことができる。これらの特許および公開公報の内容は全て、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0066】
いくつかの態様では、ポリマー拡散環境の特性は環境で使用するポリマーのイオン性質により影響される。1つの態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境は水浸食性(water-erodible)であり、生体付着性ポリマーおよび任意で、第1の膜形成水浸食性ポリマーから作製することができる。1つの態様では、ポリマー拡散環境は少なくとも1つのイオンポリマーシステム、例えば、ポリアクリル酸(任意で架橋)、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびそれらの混合物を含む。
【0067】
いくつかの態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境は生体付着が可能な少なくとも1つの薬理学的に許容されるポリマー(「生体付着性ポリマー」)を含むことができ、任意で少なくとも1つの第1の膜形成水浸食性ポリマー(「膜形成ポリマー」)を含むことができる。また、粘膜付着性ポリマー拡散環境は、生体付着性ポリマーおよび第1の膜形成ポリマーの両方として作用する単一ポリマーから形成することができる。さらにあるいはまた、水浸食性粘膜付着性ポリマー拡散環境は別の第1の膜形成水浸食性ポリマーおよび水浸食性可塑剤、例えばグリセリンおよび/またはポリエチレングリコール(PEG)を含むことができる。
【0068】
いくつかの態様では、水浸食性粘膜付着性ポリマー拡散環境の生体付着性ポリマーは任意の水浸食性置換セルロースポリマーまたは置換オレフィンポリマーを含むことができ、ここで、置換基はイオン性または水素結合、例えば、カルボン酸基、ヒドロキシルアルキル基、アミン基およびアミド基であってもよい。ヒドロキシル含有セルロースポリマーでは、アルキル基とヒドロキシアルキル基の組み合わせが生体付着特性を提供するには好ましく、これらの2つの基の比率が水膨潤性および分散性に対しある効果を有する。例としては、任意で部分的に架橋させることができるポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、中度〜高度に置換されたヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP、任意で部分的に架橋させることができる)、中度〜高度に置換されたヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)またはそれらの組み合わせが挙げられる。1つの態様では、HEMCは、1つのポリマーから形成された粘膜付着性ポリマー拡散環境に対し上記で記載されるように、生体付着性ポリマーおよび第1の膜形成ポリマーとして使用することができる。これらの生体付着性ポリマーは、乾燥した系状態で、良好で、瞬間的な粘膜付着性特性を有するので好ましい。
【0069】
粘膜付着性ポリマー拡散環境の第1の膜形成水浸食性特性ポリマーはヒドロキシアルキルセルロース誘導体および、好ましくは、水素結合を効果的に促進するヒドロキシアルキル対アルキル基の比を有するヒドロキシアルキルアルキルセルロース誘導体とすることができる。そのような第1の膜形成水浸食性ポリマーとしては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、またはそれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、これらのセルロースポリマーの置換度は低度〜中度をわずかに超えるまでの範囲であろう。
【0070】
同様の膜形成水浸食性ポリマーもまた使用することができる。膜形成水浸食性ポリマーはその溶解動力学を変化させるために、任意で架橋させることができ、および/または可塑化することができる。
【0071】
いくつかの態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境、例えば、生体分解性粘膜付着性ポリマー拡散環境は、一般に、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、部分的に架橋されてもよい、または架橋されなくてもよいポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、およびポリビニルピロリドン(PVP)、またはそれらの組み合わせを含むがそれらに限定されない水浸食性ポリマーから構成される。他の粘膜付着性水浸食性ポリマーもまた本発明で使用してもよい。「ポリアクリル酸」という用語は架橋されていない形態および部分的に架橋された形態の両方、例えばポリカルボフィルを含む。
【0072】
いくつかの態様では、粘膜付着性ポリマー拡散環境は粘膜付着層、例えば、生体分解性粘膜付着性層である。いくつかの態様では、本発明の装置は粘膜付着性ポリマー拡散環境を含む生体分解性粘膜付着性層を含む。
【0073】
いくつかの態様では、ポリマー拡散環境の特性はバリア環境により影響される。バリア環境は、薬剤の流動が実質的に一方向であるように配置される。例えば、ポリマー拡散環境で分散された薬剤を含む層および共通末端バリア層を有する、本発明の例示的な層状装置では(例えば、図4Bを参照されたい)、粘膜に適用されると、いくらかの薬剤が、粘膜またはバリア層により制限されていない境界に向かって移動し、実にそれを横断する可能性がある。本発明の別の例示的な層状装置では、バリア層は、装置の適用時に粘膜と直接接触しない粘膜付着性ポリマー拡散環境の部分を完全に制限するものではない(例えば、図4Cを参照されたい)。しかしながら、これらの場合の両方において薬剤の大部分が粘膜に向かって流れる。装置の適用時に粘膜と直接接触しない粘膜付着性ポリマー拡散環境の部分を制限するバリア層を有する、本発明の別の例示的な層状装置では(例えば、図4Aを参照されたい)、実質的に全ての薬剤が典型的には粘膜に向かって流れる。
【0074】
バリア環境は、例えば、バッキング層とすることができる。バッキング層は、粘膜付着性ポリマー拡散環境に隣接して配置された追加の層として含ませることができる。層は隣接することができ、または、例えば、バリア層は、装置の適用時に粘膜と直接接触しない粘膜付着性ポリマー拡散環境の部分を制限してもよい。1つの態様では、装置は、粘膜付着性ポリマー拡散環境に隣接して配置されるバッキング層を含む。本発明の装置はまた、第3の層またはコーティングを含む。バッキング層はまた、本発明の装置において、粘膜付着性ポリマー拡散環境に隣接して配置された層に隣接して配置された層として含ませることができる(すなわち、3層装置)。
【0075】
1つの態様では、装置はさらに、薬剤の粘膜への一方向送達を促進する少なくとも1つの追加の層を含む。1つの態様では、本発明の装置はさらに、粘膜付着性ポリマー拡散環境に隣接して配置された少なくとも1つの追加の層を含む。そのような層は追加の薬剤または異なる薬剤を含むことができ、および/または唾液中で洗い流される薬剤(元々、粘膜付着性ポリマー拡散環境中に存在)の量をさらに減少させるために存在することができる。
【0076】
特殊ポリマーおよび非ポリマー材料もまた、潤滑性、追加の溶解保護、薬物送達速度制御、および他の所望の特性を装置に付与するために、任意で使用することができる。これらの第3の層またはコーティング材料はまた、装置の浸食性の動力学を調節するように作用する成分を含むことができる。
【0077】
バッキング層は、少なくとも1つの水浸食性の膜形成ポリマーを含んでもよい非付着性水浸食性層である。いくつかの態様では、バッキング層は、粘膜付着性ポリマー拡散環境の実質的な浸食前に、少なくとも部分的にまたは実質的に浸食または溶解されるであろう。
【0078】
バリア環境および/またはバッキング層は、粘膜への薬剤(例えば、フェンタニル)の一方向送達を促進するため、および/または活性成分を粘膜に送達する前の著しい浸食に対し粘膜付着性ポリマー拡散環境を保護するために、様々な態様で使用することができる。いくつかの態様では、水浸食性非付着性バッキング層の溶解または浸食は主に、粘膜への適用後の本発明の装置の滞留時間を制御する。いくつかの態様では、バリア環境および/またはバッキング層の溶解または浸食は主に、粘膜への適用後の、本発明の装置からの薬剤流の指向性を制御する。
【0079】
バリア環境および/またはバッキング層(例えば、水浸食性非付着性バッキング層)はさらに、少なくとも1つの水浸食性の膜形成ポリマーを含むことができる。1つまたは複数のポリマーは、ポリエーテルおよびポリアルコールならびに、ヒドロキシアルキル基置換または、好ましくはヒドロキシアルキルのアルキル基に対する比率が中〜高であるヒドロキシアルキル基およびアルキル基置換のいずれかを有する、水素結合セルロースポリマーを含むことができる。例としては、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。水浸食性非付着性バッキング層成分は任意で架橋させることができる。1つの態様では、水浸食性非付着性バッキング層はヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースを含む。水浸食性非付着性バッキング層は、滑りやすい表面として機能することができ、粘膜表面への固着が回避される。
【0080】
いくつかの態様では、バリア環境および/またはバッキング層、例えば生体分解性非付着性バッキング層は、一般に、水浸食性膜形成性の薬学的に許容されるポリマーから構成され、そのようなポリマーとしては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。バッキング層は他の水浸食性膜形成ポリマーを含んでもよい。
【0081】
本発明の装置は、少なくとも部分的に、所望の滞留時間を提供するために使用される成分を含むことができる。いくつかの態様では、これは、バッキング層のより遅い浸食速度を提供する、適当なバッキング層製剤の選択結果である。このように、非付着性バッキング層はさらに、バッキング層膜を、他の薬学的剤形での使用が承認された、FDA承認Eudragit(商標)ポリマー、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、およびヒドロキシルプロピルメチルセルロースフタレートの群から選択されるより疎水性のポリマーでコートすることにより達成することができる制御された浸食性を提供するように改良される。他の疎水性ポリマーを単独でまたは他の疎水性もしくは親水性ポリマーと組み合わせて使用してもよく、ただし、これらのポリマーまたはポリマーの組み合わせから誘導された層が湿潤環境で浸食されることを条件とする。溶解特性は、バッキング層に含まれる場合の薬物の滞留時間および放出プロファイルを改善するように調節してもよい。
【0082】
いくつかの態様では、本発明の装置内の層のいずれかはまた、可塑剤、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンを少量、0〜15重量%含んでもよく、口の中でのこの層の「フレキシビリティ」が改善され、装置の浸食速度が調節される。さらに、ヒアルロン酸、グリコール酸、および他のαヒドロキシル酸などの湿潤剤もまた添加することができ、装置の「柔軟性」および「感触」が改善される。最後に、着色剤および乳白剤を添加してもよく、得られた非付着性バッキング層を粘膜付着性ポリマー拡散環境から識別するのが助けられる。いくつかの乳白剤としては二酸化チタン、酸化亜鉛、ケイ酸ジルコニウム、などが挙げられる。
【0083】
明確な分子量特性を有する異なるポリマーまたは同様のポリマーの組み合わせを使用して、好ましい膜形成能力、機械特性、および溶解動力学を達成することができる。例えば、ポリラクチド、ポリグリコリド、ラクチド-グリコリドコポリマー、ポリ-e-カプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、エチルセルロース、酢酸ビニル、セルロース、アセテート、ポリイソブチレン、またはそれらの組み合わせを使用することができる。
【0084】
装置はまた、任意で、薬学的に許容される溶解速度変更剤、薬学的に許容される崩壊補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、ポリカルボフィル、カルボキシメチルセルロース、またはポロキサマー)、薬学的に許容される可塑剤、薬学的に許容される着色剤(例えば、FD&C Blue #1)、薬学的に許容される乳白剤(例えば二酸化チタン)、薬学的に許容される抗酸化剤(例えば、酢酸トコフェロール)、薬学的に許容される系形成増強剤(例えば、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドン)、薬学的に許容される保存剤、香味剤(例えば、サッカリンおよびペパーミント)、中和剤(例えば、水酸化ナトリウム)、緩衝剤(例えば、一塩基、または三塩基リン酸ナトリウム)、またはそれらの組み合わせを含むことができる。好ましくは、これらの成分はそれぞれ、装置の最終重量の約1%以下で存在するが、量は装置の別の成分によって変動する可能性がある。
【0085】
装置は任意で1つまたは複数の可塑剤を含み、柔軟にし、靱性を増加させ、フレキシビリティを増加させ、成形特性を改善し、および/または、そうでなければ装置の特性を変更することができる。本発明において使用するための可塑剤としては、例えば、比較的低い揮発性を有する可塑剤、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジグリセロール、ポリエチレングリコール(例えば、低分子量PEG)、オレイルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、および他の薬学グレードの、標準大気圧で約100℃を超える沸点を有するアルコールおよびジオールが挙げられる。追加の可塑剤としては、例えば、ポリソルベート80、トリエチルチトレート、アセチルトリエチルチトレート、およびトリブチルチトレートが挙げられる。追加の適した可塑剤としては、例えば、ジエチルフタレート、ブチルフタリルブチルグリコラート、グリセリントリアセチン、およびトリブチリンが挙げられる。追加の適した可塑剤としては、例えば、薬剤グレード炭化水素、例えば鉱物油(例えば、軽鉱物油)およびワセリンが挙げられる。さらに、適した可塑剤としては、例えば、中鎖トリグリセリドなどのトリグリセリド、大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油および他の薬剤グレードトリグリセリド、Labrifil(登録商標)、Labrasol(登録商標)およびPEG-4蜜蝋などのPEG化トリグリセリド、ラノリン、ポリエチレンオキシド(PEO)および他のポリエチレングリコール、疎水性エステル、例えばオレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、セチルエステルワック、モノラウリン酸グリセリル、およびモノステアリン酸グリセリルが挙げられる。
【0086】
1つまたは複数の崩壊補助剤を任意で使用して、本発明の装置の崩壊速度を増加させ、滞留時間を短くすることができる。本発明において有用な崩壊補助剤は、例えば、親水性化合物、例えば、水、メタノール、エタノール、または低級アルキルアルコール、例えばイソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルアセトンを単独で、または組み合わせて含む。特定の崩壊補助剤は、揮発性の低いもの、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールを含む。
【0087】
1つまたは複数の溶解速度変更剤を任意で使用して、本発明の装置の崩壊速度を減少させ、滞留時間を長くすることができる。本発明において有用な溶解速度変更剤としては、例えば、ヘプタンおよびジクロロエタンなどの疎水性化合物、ジおよびトリカルボン酸のポリアルキルエステル、例えば、C6〜C20アルコールを用いてエステル化されたコハク酸およびクエン酸、安息香酸ベンジルなどの芳香族エステル、トリアセチン、プロピレンカーボネートおよび同様の特性を有する他の疎水性化合物が挙げられる。これらの化合物は本発明の装置において単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0088】
本発明の装置は様々な形態を含むことができる。例えば、装置はディスクまたはフィルムとすることができる。1つの態様では、装置は粘膜付着性ディスクを含む。本発明の方法および装置の1つの態様では、装置は層状のフレキシブル装置である。固体フィルムまたはディスクとしての形態の本発明の装置の厚さは、各層の厚さによって変動する可能性がある。典型的には、二層の厚さは約0.01mm〜約1mm、より特定的には約0.05mm〜約0.5mmの範囲である。各層の厚さは、装置の全体の厚さの約10%から約90%まで変動する可能性があり、特定的には装置の全体の厚さの約30%から約60%まで変動する可能性がある。このように、各層の好ましい厚さは、約0.005mmから約1.0mmまで、より特定的には約0.01mmから約0.5mmまで変動する可能性がある。
【0089】
1つの態様では、本発明の装置の粘膜付着性ポリマー拡散環境は約0.03mm〜約0.07mmの厚さを有する。1つの態様では、本発明の粘膜付着性ポリマー拡散環境は約0.04mm〜約0.06mmの厚さを有する。さらに別の態様では、本発明の粘膜付着性ポリマー拡散環境は約0.05mmの厚さを有する。粘膜付着性ポリマー拡散環境の厚さは、容易に製造することができるように十分な厚いが、層を通る薬剤の透過性が最大となる、および薬剤の粘膜層への吸収が最大となるのに十分薄くなるように設計することができる。
【0090】
1つの態様では、本発明の装置のバッキング層は約0.050mm〜約0.350mmの厚さを有する。1つの態様では、本発明の装置のバッキング層は約0.100mm〜約0.300mmの厚さを有する。さらに別の態様では、本発明のバッキング層は約0.200mmの厚さを有する。バッキング層の厚さは、薬剤の実質的な一方向送達(粘膜に向かう)を可能にするように十分厚いが、被験体により手作業で除去する必要がないように溶解するのに十分薄くなるように設計される。
【0091】
これらの態様では、従来の錠剤またはロゼンジ装置に比べ、発明の厚さおよびフレキシビリティのため、口への感触がかなり最小化され、不快さがほとんどない。これは、粘膜の炎症を有する、および/またはそうでなければ、従来の装置を快適に使用することができない患者にとってとりわけ好都合である。本発明の装置は、粘膜の非炎症領域に付着できるように十分小さく、フレキシブルであり、依然として効果的であり、すなわち、粘膜には本発明の装置を塗布する必要はない。
【0092】
様々な態様において、本発明の装置は、任意の形態または形状、例えばシートまたはディスク、プロファイルまたは断面が円形または正方形、などとすることができるが、ただし、形態により、活性成分の被験体への送達が可能となることを条件とする。いくつかの態様では、本発明の装置は、スコア化されており、穴が開けてあり、またはそうでなければある用量を示すためにしるしをつけることができる。例えば、装置は四等分に穴が開けられた正方形シートとしてもよく、この場合、各四分の一が200μgの用量を含む。したがって、被験体は800μgの用量のためには装置全体を使用することができ、または200μg、400μgまたは600μgの用量のためにはその任意の部分を切り取ることができる。
【0093】
本発明の装置は、任意の粘膜投与のために適合させることができる。本発明の方法および装置のいくつかの態様では、装置は口腔投与および/または舌下投与のために適合される。
【0094】
本発明の装置のさらに別の利点は、投与の容易さである。従来の装置を用いる場合、使用者は、20〜30分間またはそれ以上続く可能性のある投与期間の間、装置を定位置に保持し、または装置を粘膜に擦り込まなければならない。本発明の装置は約5秒未満で粘膜表面に付着し、約20〜30分で自然に浸食され、装置を定位置に保持する必要がない。
【0095】
いずれの特別な理論にも縛られるつもりはないが、本発明の装置は、先行技術の装置よりも使用が実質的に容易である。先行技術の装置を使用する場合、例えば、口のサイズの変動、装置を正しく投与する際の被験体の努力および被験体の口の中で産生される唾液量により、しばしば多くの変動を受ける。したがって、いくつかの態様では、本発明は被験体において疼痛を治療するための無変数の方法を提供する。本明細書で使用されるように、「無変数の」という用語は、本発明の装置が、口のサイズおよび唾液産生に関係なく、全ての被験体において実質的に類似の薬物動態プロファイルを提供するという事実を示す。
【0096】
いずれの特別な理論にも縛られるつもりはないが、バッキング層が存在すると、本発明の装置に耐性が付与されると考えられる。したがって、いくつかの態様では、本発明の装置は、食物または飲料の摂取に対し耐性がある。すなわち、本発明の装置を使用している間の食物または飲料の摂取は、実質的には装置の有効性を妨害しない。いくつかの態様では、本発明の装置の性能、例えばピークフェンタニル濃度および/または薬剤への曝露全体は、食物および/または熱い飲み物の摂取により影響されない。
【0097】
様々な態様では、装置は、上記で記載されたものと含むが、それらに限定されない、本明細書で記載された層、成分または組成のいずれの組み合わせも有することができる。
【0098】
例示
実施例1:本発明による装置の調製
経粘膜装置をディスク形態、長方形形状で、角を丸くして、一方の側をピンク、他方の側を白色で構成した。薬物はピンクの層中に存在し、これは粘膜付着性ポリマー拡散環境であり、この側を頬粘膜(頬内側)と接触させて配置する。ディスクが口の中で浸食されるにつれ、薬物が粘膜内に送達される。白色側は非付着性バッキング層であり、これはディスクの制御された浸食を提供し、一定膨潤により誘発される薬物の口腔取り込みを最小に抑え、このため初回通過代謝が最小に抑えられる。粘膜付着性ポリマー拡散環境およびバッキング層は、共に接着され、適用中、または適用後に剥離されない。
【0099】
バッキング層は水(総製剤の約77重量%)を混合容器に添加し、続いて、安息香酸ナトリウム(総製剤の約0.1重量%)、メチルパラベン(総製剤の約0.1重量%)およびプロピルパラベン(総製剤の約0.03重量%)、クエン酸(総製剤の約0.1重量%)およびビタミンE酢酸塩(総製剤の約0.01重量%)、ならびにサッカリンナトリウム(総製剤の約0.1重量%)を逐次追加することにより調製した。その後、ポリマーヒドロキシプロピルセルロース(Klucel EF、総製剤の約14重量%)およびヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250L、総製剤の約7重量%)の混合物を添加し、約120〜130°Fの温度で、均一に分散されるまで撹拌した。室温まで冷却すると、二酸化チタン(総製剤の約0.6重量%)およびペパーミント油(総製剤の約0.2重量%)をその後、容器に添加し、撹拌した。調製した混合物を、コーティング作業で使える状態になるまで、気密容器で保存した。
【0100】
粘膜付着性ポリマー拡散環境は、水(総製剤の約89重量%)を混合容器に添加し、続いて、プロピレングリコール(総製剤の約0.5重量%)、安息香酸ナトリウム(総製剤の約0.06重量%)、メチルパラベン(総製剤の約0.1重量%)およびプロピルパラベン(総製剤の約0.03重量%)、ビタミンE酢酸塩(総製剤の約0.01重量%)およびクエン酸(総製剤の約0.06重量%)、赤鉄鋼(総製剤の約0.01重量%)、ならびにリン酸二水素ナトリウム(総製剤の約0.04重量%)を逐次追加することにより調製した。成分を溶解した後、800μgのクエン酸フェンタニル(総製剤の約0.9重量%)を添加し、容器を120〜130°Fまで加熱した。溶解後、ポリマー混合物[ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel EF、総製剤の約0.6重量%)、ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250L、総製剤の約1.9重量%)、ポリカルボフィル(Noveon AA1(総製剤の約0.6重量%)、およびカルボキシメチルセルロース(Aqualon 7LF、総製剤の約5.124重量%)を容器に添加し、均一に分散されるまで撹拌した。その後、熱を混合容器から除去した。最後の追加工程として、リン酸三ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを添加し、ブレンドを所望のpHに調節した。例えば、総製剤の約0.6重量%の水酸化トリウムおよび総製剤の約0.4重量%のリン酸三ナトリウムを製剤に添加することができる。バッチは約6、7.25および8.5のpHを有するように作製した。ブレンドを真空下で数時間混合した。各調製混合物をコーティング作業で使用するまで、気密容器で保存した。
【0101】
層をSt. Gobainポリエステルライナー上に連続して鋳造させた。第1に、バッキング層をナイフオンブレードコーティング法を用いて鋳造した。その後、バッキング層を約65〜95℃の連続オーブン内で硬化させ、乾燥させた。2回のコーティングおよび乾燥の繰り返し後、約8ミル(203〜213μm)の厚さのバッキング層が得られる。その後、粘膜付着性ポリマー拡散環境をバッキング層上に鋳造し、65〜95℃のオーブンで硬化させ、乾燥させた。装置をその後、キスカット法により打ち抜きし、鋳肌から除去した。
【0102】
実施例2:本発明の送達装置および市販の送達装置に関する、ヒトにおけるクエン酸フェンタニル取り込み実験
本発明の3つの例示的な送達装置におけるクエン酸フェンタニルの取り込みに対する系pHの効果を評価し、本明細書で「OTFC」と呼ばれるActiq(登録商標)Oral Transmucosal Fentanyl Citrate製品(Cephalon, Inc., Salt Lake City, UT)において観察されるものと比較した。無作為非盲検単回投与4期間ラテン方格交差試験を12人の健康なボランティアにおいて実施した。倫理審査委員会はこの試験を承認し、全ての被験体には参加前にインフォームドコンセントが与えられた。有効な液体クロマトグラフィ/質量分析/質量分析(LC/MS/MS)法を使用した生物分析実験をCEDRA Clinical Research, LLC(Austin, TX)が実施した。
【0103】
21歳から44歳の年齢の範囲の12(男性9、女性3)人の健康なボランティアをこの試験のために募集した。試験した被験体には、病歴および理学的検査、心電図、およびスクリーニング臨床検査に基づき、有意の臨床的異常は見られなかった。被験体の体重は約50kg〜100kgであり、身長および体重に対するMetropolitan Life表に基づく理想の体重の15%以内に入っていた。被験体には、アルコール、カフェイン、キサンチン、またはグレープフルーツを含む食物/飲料を、試験薬剤の最初の投与前48時間、および試験の全期間中に、摂取しないように指示した。被験体にはまた、タバコまたはニコチンを含む製品を薬剤の最初の投与前少なくとも30日間は使用しないように指示した。この試験前少なくとも30日間は、被験体はいずれの治験薬試験にも参加せず;試験時または過去のいずれかで有意の医学的状態を有さず(緑内障および発作性疾患を含む);陽性薬剤スクリーニング検査を受けず;最初の投与前の少なくとも72時間、経口避妊薬またはアセトアミノフェン以外の併用投与を使用せず;またはアレルギー反応もしくは麻薬に対する不耐の病歴を有さなかった。避妊法を使用していない、または陽性尿βHCG試験を有さない閉経前の女性は排除した。下記表2は、本試験に含まれる被験体の人口統計データを示す。
【0104】
(表2)被験体人口統計データ(N=12)

【0105】
試験はスクリーニング来診と9日の入院期間とから構成され、入院期間中、格被験体は4回の試験治療の各々の単回口腔経粘膜投与を受け、投与間は48時間空けた。4回の試験治療は、各々が800μgのクエン酸フェンタニルを含み、下記の通りであった:OTFCおよび実施例1で記載したように調製し、約6のpH(「pH6の装置」)、約7.25のpH(「pH7.25の装置」)、および約8.5のpH(「pH8.5の装置」)で緩衝化された装置。
【0106】
被験体適格性は、試験施設に入る前21日までに、スクリーニング来診で決定した。被験体は、投与前の日(0日)午後6時に試験施設に到着した。投与前処理(身体検査、臨床研究室試験、心電図、および物質乱用スクリーン)を実施した。少なくとも8時間一晩中断食した後、被験体は午前6時にナルトレキソンの経口投与を受けた。標準の軽い朝食が試験薬投与前約1時間に与えられた。静脈カテーテルが、採血のために前腕または手の大静脈に置かれ、パルスオキシメーターおよび非侵襲性血圧カフが取り付けられた。被験体は半横臥位になり、各投与後8時間これを維持した。
【0107】
被験体は第1日の午前8時に第1の薬物投与を受け、第3、5および7日の同じ時間にその後の投与を受けた。第1投与の直前、各投与後5、7.5、10、15、20、25、30、45、および60分、ならびに2、3、4、8、12、16、20、24、および48時間に、血漿フェンタニルの測定のために血液試料(7mL)をエチレンジアミン四酢酸(EDTA)中に収集した。投与後48時間の試料は、その後の投与直前に収集した。総量511mLの血液を薬物動態分析のために実験期間にわたって収集した。試料を遠心分離にかけ、血漿部分を取り出し、-20℃またはそれ以下で凍結させた。
【0108】
フィンガーパルス酸素測定を各投与後8時間連続してモニタし、その後、さらに4時間、1時間毎にモニタした。被験体のオキシヘモグロビン飽和度が持続的に90%未満まで減少した場合、被験体に数回、深く吸入するように促し、減少したオキシヘモグロビン飽和度の徴候に関して観察した。オキシヘモグロビン飽和値が直ぐに90%またはそれ以上まで増加すると、さらなる措置は取らなかった。オキシヘモグロビン飽和度が1分を超えて90%未満で維持されると、鼻カニューレを介して被験体に酸素を投与した。心拍数、呼吸数、および血圧を投与直前、15分毎に120分間、および投与後4、6、8、および12時間に測定した。実験全体を通して、被験体には、実験要員にいずれの有害事象も知らせるように指示した。
【0109】
各被験体は、非盲検無作為クロスオーバーデザインで、4実験処置の各々の単回口腔投与を受けた。実施例1による製造過程中の3つの装置に対して測定したpHは、pH6.0の装置では5.95、pH7.25の装置では7.44、およびpH8.5の装置では8.46であった。被験体が口を水ですすいだ後、本発明の送達装置を、下の歯とほとんど同じ位置の口腔粘膜に適用した。装置を定位置に5秒間保持し、装置を唾液で湿らせ、粘膜に付着させた。適用後、被験体には、装置を舌でこすらないように指示したが、これは、装置の溶解を加速するからである。
【0110】
OTFC投与は、添付文書に従い投与した。各々の口を水ですすいだ後、OTFCユニットを口の中の頬と下側の歯茎との間に入れた。OTFCユニットを時折、口の1つの側からもう一方の側に移動させた。被験体には、15分の期間にわたり、OTFCを吸うが、噛まないように指示した。フェンタニルの呼吸機能抑制効果を遮断するために、50mg経口用量のナルトレキソンを各被験体に試験薬物の各投与前約12時間および0.5時間で、ならびに試験薬物後12時間で投与した。ナルトレキソンは、オピオイド初回投与被験体におけるフェンタニル薬物動態を妨害しないことが示されている。Lor M, et al., Clin Pharmacol Ther;77:P76(2005)。
【0111】
試験終了時に、タンデム質量分析を備えた有効液体クロマトグラフィー(LC/MS/MS)手順を用いて、血漿フェンタニル濃度に対しEDTA血漿試料を分析した。SCIEX API3000分光光度計で内部標準として5重水素化フェンタニルを使用して、試料を分析した。方法は、0.500mLのEDTAヒト血漿の分析に基づき0.0250〜5.00ng/mLの範囲で有効であった。較正標準から作成した加重(1/X2)線形最小二乗回帰分析を用いて定量を実施した。
【0112】
薬物動態データをWinNonlin(Pharsight Corporation)で無隔壁法により分析した。薬物動態分析では、定量限界より低い(<0.0250ng/mL)の濃度をゼロ時間から最初の定量可能な濃度(Cfirst)が観察される時間まで、0として処理した。Cfirst後では、この限界より低い濃度は欠測として処理した。正確な濃度データ全てを、薬物動態および統計学的分析全てに対して使用した。何人かの被験体では投与前試料において定量可能なデータが観察されたので、Cfirstは投与前濃度を超える第1の定量可能濃度として規定した。末端勾配の線形部分にあると視覚的に評価された少なくとも3つのlog変換濃度に基づき非加重線形回帰分析を用いてλZを計算した。t1/2はλZに対して0.693の比率として計算した。薬物動態パラメータを、記述統計学を用いる処理によりまとめた。本発明の3つの例示的な装置のtfirst、tmax、CmaxおよびAUCinfの値を、分散(ANOVA)モデルの分析およびTukey多重比較試験を用いてOTFCと比較した。SAS(SAS Institute Inc.)を用いて、統計分析を実施した。下記表3は、単回投与後の4つの処置全てに対するフェンタニル薬物動態を示す。
【0113】
(表3)OTFCおよび3つのBEMAクエン酸フェンタニル製剤の薬物動態

1.ANOVAによる著しく異なるBEMAフェンタニル製剤およびOTFCの平均差、p=0.0304
【0114】
本明細書で使用した略語は下記の通りである:Cfirstは個々の濃度-時間データから直接決定した血漿中の最初の定量可能な薬物濃度であり;tfirstは最初の定量可能な濃度までの時間であり;Cmaxは個々の濃度-時間データから直接決定した血漿中の最大薬物濃度であり;tmaxは最大濃度に到達するまでの時間であり;λZは観察された排出速度定数であり;t1/2はIn(2)/λZとして計算した観察された末端排出半減期であり;AUC0-24は0時間から投与後24時間までの濃度-時間曲線下の面積であり;線形台形法則を用いて計算され、定量可能なデータが24時間を通して観察されなかった場合、排出速度定数を用いて外挿され;AUClastは0時間から最後の定量可能な濃度までの濃度-時間曲線下の面積であり;線形台形法則を用いて計算され;AUCinfは0時間から無限大まで外挿された濃度-時間曲線下の面積であり、AUClast+ ClastZとして計算され;AUCextrap(%)は外挿に基づくAUCinfの割合であり;MRTは平均滞留時間であり、AUMCinf/AUCinfとして計算され、ここで、AUMCinfは1次モーメント曲線(濃度-時間対時間)下の面積であり、0からTlast(AUMClast)まで線形台形規則を用いて計算され、無限大まで外挿される。幾人かの被験体では、定量可能なデータが投与前試料で観察されたので、Cfirstは投与前濃度を超える最初に定量可能な濃度として再規定され、これは、平均フェンタニル濃度を計算する際に0に設定されることに注意すべきである。
【0115】
図1は、OTFC投与および本発明の3つの例示的な装置により提供された投与に対する投与後0〜48時間の血漿フェンタニル濃度を示す。pH7.25の装置は、本実験で使用した本発明の3つの装置のうち、フェンタニルの最高ピーク濃度を提供した。一般に、OTFCは、本発明の装置に比べ、ほとんどの時間に対しより低いフェンタニル濃度を提供した。pH6の装置およびpH8.5の装置は、非常に類似した濃度-時間プロファイルを示し、それぞれ、Cmax値は1.40ng/mLおよび1.39ng/mLであった。これらの値は、最大血漿フェンタニル値、OTFCの1.03ng/mLとpH7.25の装置の1.67ng/mLとの中ほどにある。投与後約6時間で、本発明の3つの装置に対するフェンタニル濃度-時間プロファイルは同様になった。フェンタニルCmax値の差は、本発明の装置全てをOTFCと比較する場合(p=0.0304)、およびpH7.25の装置のOTFCに対する一対比較(p<0.05)では、統計学的に有意である。
【0116】
一般に、定量可能なフェンタニル濃度は、OTFC(平均tfirstは14分)に比べ、本発明の3つの例示的な装置の1つを投与した後により早く観察された(平均tfirstは8〜13分)。pH7.25の装置は最も早い平均tmax(1.61時間)および最も高いCmax(平均1.67ng/mL)を示した。図2で示されるように、pH7.25の装置からのフェンタニル吸収は、OTFCよりも、投与後最初の1時間にわたり迅速であり、30分の平均血漿濃度は、pH7.25の装置では0.9ng/mL、OTFCでは0.5ng/mLであった。
【0117】
本発明の送達装置は、OTFCに比べ、AUC0-24に基づき、より多くのフェンタニルへの全体曝露を提供した。AUC0-24値により測定されるフェンタニル曝露は、本発明の装置の1つで処置した群全体で同様であり、同程度の量のフェンタニルが装置の各々から全身循環に入ることが示唆される。しかしながら、pH7.25の装置は、約19%大きな最大血漿フェンタニル濃度を示した。
【0118】
概して、OTFCと比べ、本発明の装置の投与後に、フェンタニル濃度はより早く観察され、より急激に増加した。pH7.25の装置を使用して観察された平均30および60分血漿フェンタニル濃度は、それぞれ、OTFCを用いた場合よりも1.8倍および1.7倍高かった。同様に、最大血漿フェンタニル濃度は、OTFCを使用した場合(平均1.03ng/mL)に比べ、本発明の装置を使用すると(平均1.67ng/mL)60%高かった。この実験で同定したOTFCに対するCmaxは、Leeおよび同僚が1つの800mcgロゼンジおよび2つの400mcgロゼンジの両方を用いて報告した1.1ng/mLのCmax値とほとんど同一である。Lee, M.,et al.,J Pain Symptom Manage 2003;26:743-747。概して、本発明のフェンタニル製剤に対するフェンタニル曝露はOTFCよりも大きかった。AUClastおよびAUCinfの平均推定値はわずかに大きかったが、同じ一般的な傾向が観察された。これにより、経粘膜取り込みが、OTFCに比べ本発明の装置では著しく改善されることが示される。
【0119】
平均t1/2値およびMRT値は全ての処置群で同様であり、両方の場合の値が同じ傾向に従った。さらに、血管外投与後のMRTが吸収および排出速度に依存するので、MRT値により、フェンタニルが本発明の送達装置から、特にpH7.25の装置およびpH8.5の装置を用いると、より速く吸収されることが示唆される。この観察結果は、OTFCに対する、本発明の送達装置のtmaxと一致する。
【0120】
有害事象は処置群全体で同様であり、各実験処置と共にナルトレキソンを同時投与することにより悪化した。最もしばしば起こる有害事象は鎮静および眩暈であった。1人の被験体は、OTFCによる口腔粘膜刺激を経験した。本発明の3つの例示的な装置のいずれかによる粘膜刺激を経験した被験体はいなかった。報告した有害事象は本質的に軽度または中度であった。
【0121】
上記で証明されるように、本発明の送達装置は、OTFCよりも著しく高い血漿フェンタニル濃度を提供する。pH7.25の送達装置は、薬物溶解度とイオン化との間の好ましい均衡に起因すると考えられる増強された取り込みを提供すると思われる。同様の実験により、本発明の送達装置が約70.5%の絶対生物学的利用能を提供し、口腔吸収が約51%であった(口腔粘膜に適用したBEMAフェンタニル後のAUCinfからフェンタニルの経口投与後のAUCinfを減算し、単一ディスクBEMAフェンタニルAUCinfで割り、100を掛けることにより推定)ことが示されている。
【0122】
実施例3:本発明による装置の調製
ブプレノルフィンを含む装置もまた、クエン酸フェンタニルではなく、ブプレノルフィンを粘膜付着性ポリマー拡散環境に添加することを除き、実施例1で記載したものと同じ方法を用いて作製した。
【0123】
実施例4:本発明の送達装置に対するヒトにおけるブプレノルフィン取り込みの実験
実施例2で記載したものと同様の実験もまた、本発明の例示的な装置(pH6およびpH7.25)中のブプレノルフィン、舌下のサボキソンおよび筋内ブプレネクスを用いて実施した。この実験からの結果を図3にまとめて示す。表4で示されるように、pH6の本発明の送達装置は、薬物溶解度とイオン化との間の好ましい均衡に起因すると考えられる増強された取り込みを提供すると思われる。
【0124】
(表4)ブプレノルフィンに対する薬物動態データ

【0125】
等価物
本発明の多くの改変および別の態様は、前記記載を考慮すると、当業者には明らかであろう。したがって、この記載は例示にすぎないと考えるべきであり、当業者に本発明を実施するための最良の形態を開示する目的のためのものである。構造の細部は実質的に本発明の精神から逸脱せずに変動する可能性があり、添付の特許請求の範囲内にある全ての改変の独占的使用は予定されている。本発明は、添付の特許請求の範囲および適用可能な法の原則により要求される程度にのみ限定されるものである。
【0126】
特許、特許出願、記事、書物、論文、学位論文およびウェブページを含む本明細書で引用された全ての文献および同様の材料は、そのような文献および同様の材料の形式に関係なく、明確に参照により全体が組み入れられる。規定した用語、用語の使用法、記載した技術などを含む、組み入れた文献および同様の材料の1つまたは複数がこの出願と異なる、または矛盾する事象では、本出願が優先する。
【0127】
本明細書で使用した部分表題は、まとめる目的のためのものにすぎず、いかなる意味でも記載した対象を限定するものと考えるべきではない。
【0128】
本発明について様々な態様および実施例と共に記載してきたが、本開示はそのような態様または実施例に限定されるものではない。それどころか、本発明は、当業者に認識されるように、様々な代替案、改変、および等価物を含む。
【0129】
特許請求の範囲は、特にその効果への記載がなければ、記載した順序または要素に限定されると解釈されるべきではない。形態および細部の様々な変化は添付の特許請求の範囲から逸脱しなければ可能であることを理解すべきである。そのため、添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲および精神に含まれる態様は全て特許請求される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分解性薬物送達装置を被験体の口腔粘膜表面に投与する段階を含み、
該装置は、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれたフェンタニルまたはフェンタニル誘導体;および、粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成され、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体が被験体に送達されるようにポリマー拡散環境に対し配置されたバリア環境を含む、
フェンタニルまたはフェンタニル誘導体の被験体への直接経粘膜送達を増強するための方法。
【請求項2】
被験体に、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた治療的有効量のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を経粘膜投与する段階を含み、これにより、有効量のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体が約30分未満で送達される、被験体において疼痛を治療するための方法。
【請求項3】
被験体において慢性疼痛が軽減される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
被験体において急性疼痛が軽減される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
疼痛が癌性突出痛である、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項6】
ポリマー拡散環境に置かれたフェンタニルまたはフェンタニル誘導体;および、粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成されるようにポリマー拡散環境に対し配置されたバリア環境を含む、有効量のフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を被験体に直接経粘膜投与するのに適した粘膜付着性送達装置。
【請求項7】
直接口腔吸収が少なくとも50%であり、絶対生物学的利用能が少なくとも約70%である、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体を送達する経粘膜送達装置。
【請求項8】
粘膜に直接、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体を送達し、約0.20時間以下の疼痛緩和開始(Tfirst)、および約1.6時間以上のピーク血漿濃度までの時間(Tmax)を達成する、経粘膜送達装置。
【請求項9】
被験体に経粘膜投与されると、
約1.10ng/mL以上のCmax
約0.20時間以下のTfirst;および
約10.00hr・ng/mL以上のAUC0-24
からなる群より選択される少なくとも1つのインビボ血漿プロファイルを示す、約800μgのフェンタニルを含む、装置。
【請求項10】
疼痛を治療するのに有効な量でフェンタニルまたはフェンタニル誘導体を送達し、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体の送達に関する口腔刺激、口腔潰瘍、および/または便秘は軽微であるか、または排除される、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体を含む経粘膜送達装置。
【請求項11】
粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHが約6.5〜約8である、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項12】
粘膜付着性ポリマー拡散環境のpHが約7.25である、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項13】
装置が約800μgのフェンタニルを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項14】
装置が、フェンタニルまたはフェンタニル誘導体の粘膜への一方向送達を促進する少なくとも1つの追加の層をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項15】
フェンタニルがクエン酸フェンタニルである、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項16】
装置内のフェンタニルの30%超が粘膜吸収を介して全身で利用可能となる、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項17】
装置内のフェンタニルの55%超が全身で利用可能となる、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項18】
生体分解性薬物送達装置を被験体の口腔粘膜表面に投与する段階を含み、
該装置は、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれたブプレノルフィン;および、粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成され、ブプレノルフィンが被験体に送達されるようにポリマー拡散環境に対し配置されたバリア環境を含む、
ブプレノルフィンの被験体への直接経粘膜送達を増強するための方法。
【請求項19】
被験体に、粘膜付着性ポリマー拡散環境に置かれた治療的有効量のブプレノルフィンを経粘膜投与する段階を含み、これにより、有効量のブプレノルフィンが約30分未満で送達される、被験体において疼痛を治療するための方法。
【請求項20】
被験体において慢性疼痛が軽減される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
被験体において急性疼痛が軽減される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
ポリマー拡散環境に置かれたブプレノルフィン誘導体;および、粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成されるようにポリマー拡散環境に対し配置されたバリア環境を含む、有効量のブプレノルフィンを被験体に直接経粘膜投与するのに適した粘膜付着性送達装置。
【請求項23】
pHが約4.0〜約7.5である、請求項18〜22のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項24】
pHが約6.0である、請求項18〜23のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項25】
pHが約7.25である、請求項18〜24のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項26】
装置が、ブプレノルフィンの粘膜への一方向送達を促進する少なくとも1つの追加の層をさらに含む、請求項18〜25のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項27】
装置がpH緩衝剤を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項28】
装置が口腔投与のために適合されている、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項29】
装置が舌下投与のために適合されている、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項30】
装置が粘膜付着性ディスクである、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項31】
薬剤が、異なる用量を示すように形成された粘膜付着性フィルムとして製剤化される、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項32】
装置が、粘膜付着性ポリマー拡散環境に隣接して配置されたバッキング層を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項33】
装置がオピオイド拮抗薬をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項34】
装置がナロキソンをさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項35】
装置が層状のフレキシブル装置である、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項36】
粘膜付着性ポリマー拡散環境が、経粘膜投与のための緩衝環境を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項37】
経粘膜投与部位において実質的に刺激がない、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項38】
約30分間にわたり疼痛が約50%減少する、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項39】
ポリマー拡散環境が、少なくとも1つのイオン性ポリマーシステムを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項40】
イオン性ポリマーシステムが、POLYCARBOPHIL、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項39記載の方法または装置。
【請求項41】
ポリマー拡散環境が緩衝システムを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項42】
緩衝システムが、クエン酸、安息香酸ナトリウム、またはそれらの混合物を含む、請求項41記載の方法または装置。
【請求項43】
装置が、口への感触を最小とする厚さを有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項44】
装置が約0.25mmの厚さを有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法または装置。
【請求項45】
ポリマー拡散環境に置かれたフェンタニル、フェンタニル誘導体、ブプレノルフィン、またはブプレノルフィン誘導体を含み、該ポリマー拡散環境が、フェンタニルもしくはフェンタニル誘導体に対しては約7.25のpH、または、ブプレノルフィンもしくはブプレノルフィン誘導体に対しては約6のpHを有する、粘膜付着性層;および
粘膜付着性層に隣接し、近接して配置されたバリア環境を含むバッキング層
を含み、
口への感触が全くなく、または最小であり、有効量のフェンタニル誘導体、ブプレノルフィン、またはブプレノルフィン誘導体を約30分未満で経粘膜的に送達することができ;かつ
粘膜表面に適用されると一方向勾配が生成される、
有効量のフェンタニル、フェンタニル誘導体、ブプレノルフィン、またはブプレノルフィン誘導体を被験体に直接経粘膜投与するのに適した、フレキシブルな生体分解性粘膜付着性送達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−544619(P2009−544619A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520865(P2009−520865)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/016634
【国際公開番号】WO2008/011194
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(509019783)バイオデリバリー サイエンシーズ インターナショナル インコーポレイティッド (4)
【Fターム(参考)】