受信機の位置決定
開示される方法及びシステムを使用してユーザ装置の位置を決定する。ユーザ装置は、データ信号及び/又は搬送波信号を、周回している宇宙船から受信することができる。これらのデータ信号は、ユーザ装置の測位計算及び/又は追尾維持に使用することができる。開示される方法及びシステムは、ユーザ装置の時間バイアス及び周波数バイアスの問題を解決することができる。追尾維持を行なう場合、カルマンフィルタ状態推定器を拡張してユーザ装置の速度を推定することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年4月20日に出願された米国仮特許出願第61/171009号、及び2009年5月12日に出願された米国仮特許出願第61/177579号の優先権の利益を請求するものであり、これらの両方の米国仮特許出願の開示内容の全てが、本明細書において参照されることにより、本明細書に組み込まれる。
【0002】
Whelanらに特許された米国特許第7489926号を本明細書において参照して当該特許全体を本明細書に組み込むことにより、本明細書において記載される本発明の日付において、この技術分野の当業者に公知となる最新技術を更に完全に記述する。
【0003】
本開示は、固定装置又は移動ユーザ装置の位置の衛星によるナビゲーション及び推定に関するものである。
【背景技術】
【0004】
全地球測位システム(GPS)は、地上の受信機の位置を決定するために広く使用されている。受信機は、GPS衛星の位置及び時間データを使用して、当該受信機の位置を計算することができる。しかしながら、GPS受信機又はGPS信号を利用することができない場合があるので、衛星地理位置情報に関する別の方法が望まれる。GPS信号を利用することができないのは、幾つかの原因に起因する。これらの原因として、これらには限定されないが、閉塞環境(例えば、建物、濃密な葉など)における信号強度の低下、意図的な、又は偶発的な高周波干渉、又は受信機性能の低下をもたらすハードウェア障害又はソフトウェア障害を挙げることができる。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、時間バイアス及び周波数バイアスを含むイリジウム受信機のようなユーザ装置の位置を決定するシステム、装置、及び方法に関するものである。本開示はまた、当該同一装置の時間バイアス及び周波数バイアスを推定する他に、ユーザ装置の位置及び速度を推定するシステム、装置、及び方法に関するものである。
【0006】
本開示の幾つかの実施形態は、ユーザ装置の位置を決定する方法を提供する。ユーザ装置は、信号を宇宙船から受信することができる。受信信号から導出される相関時間及び周波数偏差測定値に基づいて、ユーザ装置は、現在位置を計算することができる。これらの信号は、ユーザ装置が現在位置を決定するためのこれらの宇宙船の位置情報を含んでいなくてもよい。正確な結果を得るためには、これらの信号の短い相関時間で十分である。
【0007】
本開示の1つ以上の実施形態は、追尾維持を行なう方法を提供する。この追尾維持は、測位計算に関するデータを利用することができない場合にユーザ装置の位置を推定するプロセスである。当該方法によって、時間バイアス及び周波数バイアスの問題を解決することができる。当該方法では、ユーザ装置の速度を推定することができる拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることができる。幾つかの実施形態では、ユーザ装置の速度、時間バイアス及び周波数バイアス、及び統計誤差に関する問題を、緯度及び経度に関する情報のみを使用して解決することができる。
【0008】
本開示の幾つかの実施形態は、信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することができるユーザ装置を提供する。ユーザ装置は、これらの受信信号をサンプリングして、相関時間及び周波数偏差測定値を計算することができる。これらの測定値に基づいて、ユーザ装置は、当該ユーザ装置の位置を決定することができる。ユーザ装置が信号を少なくとも1つの宇宙船から受信しない場合、ユーザ装置は位置を、ユーザ装置の速度を推定することができる拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いて推定することができる。
【0009】
1つ以上の実施形態では、ユーザ装置に対して追尾維持を行なう方法は、信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することと、ユーザ装置の位置を受信信号に基づいて取得することとを含む。幾つかの実施形態では、方法は更に、拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いて、ユーザ装置の位置、及びユーザ装置の速度を推定することを含む。少なくとも1つの実施形態では、方法は更に、追尾維持のためにユーザ装置の状態の推定値を取得することを含む。
【0010】
幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置を取得することは、スナップショットを計算することを含む。1つ以上の実施形態では、スナップショットを計算すること、及び/又は拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることの実行では、擬似距離測定モデル及び擬似距離変化率測定モデルを計算する。(擬似距離変化率は、送信機及び/又は受信機のドップラー偏差及び周波数偏差の和の関数である)。少なくとも1つの実施形態では、擬似距離測定モデル及び擬似距離変化率測定モデルの計算では、非線形最小二乗法を用いる。
【0011】
1つ以上の実施形態では、スナップショットを計算すること、及び/又は拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることの実行では、時間バイアス及び周波数バイアスを推定する。幾つかの実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスの計算では、線形最小二乗法を用いる。少なくとも1つの実施形態では、時間バイアスの計算では、時間バイアスを多項式で近似する。幾つかの実施形態では、周波数バイアスの計算では、時間バイアスを時間に関して微分する。1つ以上の実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスは、ユーザ装置の位置の明示的関数として表現される。少なくとも1つの実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスの表現では、独立状態変数としてバイアス項を取り除くことにより非線形最小二乗コスト関数を変形して、独立変数の数をユーザ装置の位置の変数のみに減らす。
【0012】
幾つかの実施形態では、信号は、低軌道地球周回(LEO)衛星から受信される。1つ以上の実施形態では、LEO衛星は、イリジウムシステムの一部である。少なくとも1つの実施形態では、ユーザ装置の状態は、ユーザ装置の位置、ユーザ装置の速度、時間バイアス、及び周波数バイアスを含む。1つ以上の実施形態では、ユーザ装置の状態の推定値の取得では、ユーザ装置の位置の緯度及び経度を見積もる。
【0013】
1つ以上の実施形態では、測位計算を閉塞環境において行なう方法は、信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することと、信号の時間バイアス及び周波数バイアスを含む擬似距離及び擬似距離変化率を計算することとを含む。幾つかの実施形態では、方法は更に、擬似距離及び擬似距離変化率を含むコスト関数を最小化して位置を取得することを含む。少なくとも1つの実施形態では、コスト関数は、擬似距離と擬似距離変化率との積を含む。幾つかの実施形態では、擬似距離及び擬似距離変化率を計算することでは、非線形最小二乗法を用いる。
【0014】
幾つかの実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスの計算では、線形最小二乗法を用いる。1つ以上の実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスは、ユーザ装置の位置の明示的関数として表現される。少なくとも1つの実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスの表現では、独立状態変数としてバイアス項を取り除くことによりコスト関数を変形して、ユーザ装置の位置の変数のみに独立変数の数を減らす。
【0015】
1つ以上の実施形態では、信号は、LEO衛星から受信される。幾つかの実施形態では、LEO衛星は、イリジウムシステムの一部である。少なくとも1つの実施形態では、閉塞環境は、屋内環境、ジャミング環境、及び/又は信号が偶発的又は意図的な高周波干渉によって劣化する他の環境を含む。幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置の取得は、緯度及び経度情報に基づいて行なわれる。
【0016】
1つ以上の実施形態では、ユーザ装置は、信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することができるアンテナを含む。幾つかの実施形態では、ユーザ装置は更に、受信信号を処理して、時間バイアス及び周波数バイアスを計算することができるコンピュータシステムを含み、該コンピュータシステムは、時間バイアス及び周波数バイアスを使用してユーザ装置の位置を決定する。少なくとも1つの実施形態では、コンピュータシステムは、アンテナが少なくとも1つの宇宙船の信号を受信しない場合に、拡張カルマンフィルタによる状態推定を行なってユーザ装置の速度を推定することにより、ユーザ装置の位置を推定することができる。幾つかの実施形態では、コンピュータシステムは更に、出力デバイスを備える。
【0017】
本開示のこれらの特徴、態様、及び利点、及び他の特徴、態様、及び利点は、以下の記述、添付の請求項、及び添付の図面を参照することにより一層深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、LEO衛星を使用する屋内測位システムの先行技術によるブロック図である。
【図2】図2は、LEO衛星を使用する差分測位システムの先行技術によるブロック図である。
【図3a】図3aは、1回目通過後のLEO衛星源及びMEMS関連衛星源に係るシステム共分散の先行技術による図形表現である。
【図3b】図3bは、2回目以降の通過後のLEO衛星源及びMEMS関連衛星源に係るシステム共分散の先行技術による図形表現である。
【図4】図4は、固く結合させたLEO慣性積分器の先行技術によるブロック図である。
【図5】図5は、位置を、LEO信号及び慣性位置フィックスに基づいて導出するプロセスを記述した先行技術によるフローチャートである。
【図6】図6は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、地球を周回する複数の宇宙船(SV)を模式的に示している。
【図7】図7は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、位置Aを図6の複数のSVの信号に基づいて計算することができる様子を模式的に示している。
【図8】図8は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、時間の不正確性が、図7の計算位置の精度に影響し得る様子を模式的に示している。
【図9】図9は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、建物で反射される図7の信号を模式的に示している。
【図10】図10は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、大気が図7の信号に影響する様子を模式的に示している。
【図11】図11は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、ユーザの位置を決定するプロセスのフローチャートである。
【図12】図12は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、ユーザ装置と宇宙船(SV)との間の信号伝送を模式的に示している。
【図13】図13は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、3つのSVの信号から得られるコスト関数の等高線プロットである。
【図14】図14は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、4つのSVの信号から得られるコスト関数の等高線プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
時間バイアス及び周波数バイアスを含むイリジウム受信機のようなユーザ装置の位置を決定するシステム、装置、及び方法が開示される。更に、ユーザ装置の位置及び速度の推定を、当該同一装置の時間バイアス及び周波数バイアスの推定の他に可能にするシステム、装置、及び方法が開示される。
【0020】
先行技術に関する説明
ユーザ装置の正確な位置を低軌道地球周回(LEO)衛星からの信号に基づいて推定する先行技術による方法の1つの重要な例について、以下に詳細に説明する。この方法は、Whelanらに特許された米国特許第7489926号に開示されている。図1〜5から、Whelanらによる特許に示唆されるこの先行技術による方法の種々の実施形態に関する完全な理解が可能になる。
【0021】
概括するに、ユーザ装置の正確な位置を低軌道地球周回(LEO)衛星からの信号に基づいて推定する先行技術による方法では、少なくとも1つの搬送波信号をユーザ装置で受信し、各搬送波信号は、異なるLEO衛星から送信されている。ユーザ装置は、搬送波信号を処理して、第1搬送波位相情報を取得する。次に、ユーザ装置は、慣性基準ユニットで導出される慣性位置フィックスを取り出す。最後に、ユーザ装置は、ユーザ装置の位置を、慣性位置フィックス及び第1搬送波位相情報に基づいて導出する。
【0022】
図1は、イリジウム(又は、他のLEO)衛星12、14を使用して測距システムをユーザに、1つ以上の基準局16、18と連動して提供するシステムを示している。イリジウム(Iridium)を使用する複数利点のうちの1つの利点は、イリジウムが、GPS衛星が生成する信号よりもずっと強い強度の信号を生成することができることである。環境に依存するが、イリジウム衛星は、ユーザに、GPSよりも約20dB〜40dB以上大きい受信電力を供給するように構成することができる。
【0023】
一方向測距方式の測距源を、イリジウムを含む3次元動的環境において使用する測位は、これまでの測位システムとは、一方向測距方式の測距源が、理想表面の2次元(2D)分解能に限定されていたという点で大きく異なっている。TRANSITとして知られる海軍ナビゲーション衛星システムによって、例えばユーザは、精度が低い準静的な2次元測定しか行なうことができなかった。通常、最小4つの運用型TRANSIT衛星が、要求周波数に関する高精度のナビゲーションフィックスを提供するために必要であった。
【0024】
GPSが現在では、少なくとも4つの測距源を同時に提供して、瞬時の3次元(3D)測位を可能にしている。しかしながら、GPSからの信号の電力は小さく、これによって屋内、又は激しいジャミングが出ている状態での測位が難しくなる。システムの基本的な利点は、当該システムが、当該システムの先行システムの制約を同時に解決して動的な3次元の正確な位置フィックスを、屋内でも、又はジャミングが出ている状態でも提供することができることである。イリジウムを使用して測位を補強することにより、適切な性能を実現することができる必要があり、この適切な性能は、大気マルチパスの影響によって主として制限されている。
【0025】
地上サポートインフラストラクチャを使用して差分基準測定を行なう。本実施形態では、基準局16は信号を衛星12及び14から基準機器を使用して受信する。このような基準機器は、ユーザ機器20と機能的に同一とすることができ、このユーザ機器20とは、受信アンテナの局部位置がGPS測位手段を含も監視手段又は他の従来の手段によって正確に既知になっている点でのみ異なっている。
【0026】
差分基準測定では、少なくとも2つの受信機、基準局16、及びユーザ機器20を連携動作させる。少なくとも2つの受信機の連携動作では、基準局16及びユーザ機器20の両方で受信する信号24を利用し、これらの信号は共に、略同じ誤差の分だけ劣化している。連携動作は地上で、これらの信号が、同じ信号障害物26を含む大気の略同じスライスを通過するときに行なうことができる。地球の表面で行なうために、ユーザ機器20及び基準局16は普通、略1千キロメートルよりも短い距離だけ離間させることができる。このような地理的関係が設定される場合、ユーザ機器20及び基準局16の両方に到達する信号24は、同じ障害物26を通って伝搬してしまうか、又は同じパターンのジャミングが強くなることになる。
【0027】
基準局16は、イリジウムクロックのリアルタイム測定値を提供する。本実施形態において、イリジウムを利用して基準局16からユーザ受信機20に送信されるデータメッセージ22によって、リアルタイム距離補正を各測定値に加えて、イリジウムクロック誤差の問題、及び障害物26又はジャミングを含む大気の影響の問題の両方を解決する。基準局16は、多くの利用可能な衛星のうちのいずれの衛星をユーザ受信機20が使用して、当該受信機の位置を計算することができているかについて認識する手段を持たないので、基準受信機16は、衛星14のような可視衛星の全てを迅速に調査し、次に、当該受信機16への信号28に付随する誤差を計算する。次に、計算結果を基準局の既知の局部位置に一致させるために必要な補正情報を、いずれかの適切な帯域で、かつジャミング環境における十分高い信頼度で、時間基準に関連付けながらユーザ機器に送信して、ほぼリアルタイムの補正を可能にする。一般的に、ナビゲーション性能は、ユーザと基準局との離間距離が長くなるにつれて、信号24に影響する障害物26又はジャミングに伴う差に起因して低下する。
【0028】
第2基準局18が適当に近くに位置する場合、第2基準局18は、第1基地局16と同じ計算を信号28に対して行なって、例えば衛星14に基づく第2補正係数を生成することにより、ユーザ機器は、誤差計算を適正に行なう平均手段又は他の適切な手段により、より高い精度を実現することができる。
【0029】
図2は、イリジウム衛星又は他のLEO衛星を使用する測位システム30の現システムアーキテクチャのブロック図を示している。測位システム30の各構成要素は、高精度時間標準器40である同じマスタークロックによって駆動される。同期装置38は、各構成要素に対応する不可欠なコヒーレント正弦波信号及びクロック信号の各々を、同期装置38に高精度時間標準器40からデータバス42を介して転送されるクロック信号に基づいて生成する。
【0030】
アンテナ32は、本実施形態がL帯受信に対応して構成され、最適化されているように、送信をイリジウム衛星又は他のLEO衛星から受信するように構成される。イリジウム受信機34は、アンテナ32で受信する生データを受信し、当該データを、同期装置38によって生成され、かつ受信機34にデータバス48を介して提供されるデータと比較する。データバス48からのデータを、アンテナ32で受信する送信と比較することにより、イリジウム受信機34は、位置解を計算するために十分なデータを提供する。
【0031】
拡張位置解を、クロック信号を同期装置38から受信する慣性測定ユニット36を使用して計算する。本実施形態における慣性測定ユニット36を用いた加速度の測定は、3直交軸方向加速度計によって行なうことができ、このような各軸の回りの角速度を測定して垂直軸に対する姿勢を正確に計算することにより、正確な姿勢検出を行なうことができる。ユーザの姿勢及び他のパラメータ、又は向き及び動きは、共通アセンブリ内の加速度計及びレートセンサにより生成されるデータから導出される。現時点で好適な実施形態では、加速度計はMEMS慣性センサである。
【0032】
加速度を、慣性測定ユニット36で本実施形態において測定することにより、システムを補強して、ユーザの次の位置を予測するシステムを提供する。任意であるが、慣性測定ユニット36を使用して導出される位置解を前回の解と整合させて、自己診断機能を実現し、慣性測定ユニット36による位置計算の誤差半径を小さくすることができる。
【0033】
イリジウムを利用する3次元測位及びフィルタリングは、84分のシューラー周期よりもずっと短い約10分の時間スケールで行なわれる。シューラー周期は、地球の半径に等しい長さの非減衰単振り子の周期であり、シューラー周期を使用して、従来の慣性ナビゲーション装置を、地球の表面でのスポットの曲線移動に関して補正していた。従って、慣性ユニットは、イリジウム衛星信号のフィルタリングされた距離測定精度よりも大幅に高い精度を持つ相対位置測定を可能にする必要がある。
【0034】
十分な性能のMEMS慣性センサを用いる場合、屋内環境の大気マルチパスに起因する性能低下が、全システムレベルの精度に大きく影響する。総合システム精度は、標準偏差の1σを表わす4メートルの距離で区分される。イリジウム衛星信号に適用される最新信号処理技術によって、屋内マルチパス誤差を大幅に小さくすることができる。空の視界が遮られない屋外用途では、慣性基準ユニットの性能によってほぼ制限される精度は、かなり向上すると考えられる。
【0035】
少なくとも1つの実施形態では、方法及び装置はセキュアなイリジウム放送信号を生成する。イリジウム衛星信号は技術的にはTDMA信号であるが、幾つかのサブバンドを一括して重ね合わせることにより、高電力信号を合成して、セキュアなCDMA信号に一層類似して現われるようにする。このように合成することにより、ナビゲーションユーザは、コードを予め認識して、当該コードを利用することができる。セキュアなイリジウム放送信号を構成するパルスパターンが正しくプログラムされる場合、高電力信号は、セキュアなY−コードGPS信号、又は当該信号の等価信号のように現われて処理される。
【0036】
マルチパスが多い屋内の環境に対応するシステムアーキテクチャでは、10分間の惰走の後に、約1メートルの合計位置バイアスが自動的に乗る。慣性パラメータは、レートジャイロのバイアス安定性又は角度ランダムウォーク誤差によって制限される可能性がある。高性能慣性システムは、当該システムが屋外で使用されてナビゲーションの高精度及び完全性を実現する場合に必要とされる。
【0037】
コンピュータ54は、特にどの時点でも視野内に一方向測距方式の測距源しかない場合に、イリジウム衛星による距離測定値を全て一括して結び付けるように機能する。「高精度(high accuracy)」とは、センチメートルレベルの位置誤差を意味する。「高インテグリティ(high integrity)」は安全関連用語であり、十分豊富な情報を、多数の衛星による距離測定値の形式で生成して、測位システムに誤差が生じているかどうかを判断することを意味する。このような機能を使用して、システムのオペレータに、当該システムをナビゲーションに使用してはならない場合に警告を発することができる。高性能ナビゲーションではLEO衛星の搬送波位相を用いて、生の距離測定値をセンチメートルレベルにまで正確にすることができる。
【0038】
システムは多くの場合、測距源を1度に1つしか測定しないので、正確な周波数標準器を使用することが望ましい。2つのタイプの周波数標準器:オーブン水晶発振器及び原子ルビジウム周波数標準器をこの目的に利用することができる。積算時間600秒(10分)でアラン分散が10−11を超えない限り、オーブン水晶を利用することができる。これは、イリジウム衛星通過の約2メートルの位置誤差に対応し、この値は、イリジウム衛星信号のマルチパス誤差よりも大幅に小さい。精度を上げる必要がある場合、小型高耐久性ルビジウム標準器を使用する必要がある。対応するアラン分散は10−13であり、10分間の積算時間での約2cmの位置誤差に対応する。
【0039】
イリジウム受信機34からデータバス50を介して送信される生の位置解、及び慣性測定ユニット36からデータバス52を介して送信される加速度測定値はコンピュータ54に転送され、このコンピュータ54がカルマンフィルタを実行してこれらの測定値を処理することにより最終解を導出する。カルマンフィルタは、数値方程式の集合であり、これらの数値方程式から、最小二乗法による計算(再帰)解を効率的に導出することができる。フィルタは、幾つかの局面で極めて強力となる:当該フィルタは、過去の状態、現在の状態の推定をサポートし、将来の状態の推定さえもサポートし、当該フィルタは、モデル化されるシステムの正確性が未知の場合においてもそのようにサポートすることができる。
【0040】
カルマンフィルタは、1つのプロセスを、フィードバック制御の1つの形式を使用することにより推定する:当該フィルタは、或る時刻のプロセス状態を推定し、次に、(ノイズの多い)測定値の形式のフィードバックを取得する。従って、カルマンフィルタの方程式は、2つのグループ:時間更新方程式及び測定値更新方程式に分類される。時間更新方程式は、現在の状態推定値、及び誤差共分散推定値を(時間的に)進む方向に予測するために利用され、これらの推定値を使用して、次の時間段階におけるアプリオリな推定値を取得する。測定値更新方程式は、フィードバックのために利用される、すなわち新規の測定値をアプリオリな推定値に取り込んで、アポステリオリな推定値の精度を高めるために利用される。
【0041】
イリジウム受信機34からデータバス50を介してコンピュータ54に転送される生の位置解、及び慣性測定ユニット36からデータバス52を介してコンピュータ54に転送される加速度測定値は、同じ現象(すなわち、空間での動き)の測定値であるので、これらの測定値は、カルマンフィルタ157でモデル化されるシステムにおいて関連付けられる(図4)。
【0042】
環境に依存するが、全ての状態(ヨー姿勢のような)を全ての時点で観測することができることが必要である訳ではない。しかしながら、イリジウムの周回軌道の形状によって、システム設計では、出力の位置成分が、イリジウム衛星による距離測定の精度に収まる様子を効果的に必ず観測することができることが保証される。
【0043】
このシステムには2つの基本動作モードがある。第1モードは、コード位相測定値に基づいている。建物の内部には、マルチパスの多くの原因が存在する;従って、搬送波の使用は、特に適切である訳ではない。しかしながら、LEO衛星は、図3に示すように、多数の幾何学形状を、物理的障壁を突き抜けるために有用な極めて大きな放送電力とともに提供する。コード擬似距離測定値をこの幾何学形状を利用して組み合わせて、非常に正確な位置の解を、慣性ナビゲーションユニットを使用して導出することにより、異なる時刻に採取される測定値の差を埋めることができる。
【0044】
第2動作モードは搬送波位相測定値に基づいている。搬送波位相測定が屋外で行なわれる場合、LEO衛星への明確な視線が得られるので、センチメートルレベルの測位精度を実現することができる。図3に示すように、同じ多数の幾何学形状が存在することにより、これらの高精度測定値を組み合わせて、完全性の高い高精度位置解を導出することができるので、この場合も同じように慣性ナビゲーションユニットを使用して、異なる時刻に採取される測定値の差を埋めることができる。
【0045】
図3は、ユーザの視点からの典型的な幾何学的通過軌道を示している。複数のイリジウム衛星は円弧状に数分の時間間隔で飛行する。マルチパスは普通、最大の誤差原因となる。イリジウム衛星の搬送波位相を使用して測距誤差を任意の小さい値にすることができる−−ユーザが空を見通すことができる場合には、センチメートルレベルにすることができる。残念なことに、生の測距誤差は、屋内で測位する場合には略20〜30mに増大する。イリジウム衛星は、空中を大きい角度で円弧状に飛行するので、空間ダイバーシチを利用することにより、この屋内マルチパス誤差のほとんどを平均化して小さくすることが可能である。実験的なGPS衛星の性能との類似性から、イリジウムの性能がどのようになる可能性があるかについて、パラメータをスケーリングすることにより予測することができる。イリジウム衛星測定値の相関時間は約10秒であると推定され;10分間の通過時間に亘って、受信機は略60個の「個別の」測定値を収集することができることを意味する。従って、測距精度は多分、略4メートル(生の測距精度を60の平方根で除算した値)にまで向上させることができる。
【0046】
図3に示すように、コールドスタート初期化60では、第1イリジウム衛星の通過軌道を使用して、ユーザ68の位置に対して天頂方向62を有するイリジウム衛星の楕円軌道64の局部断面を定義する。慣性測定ユニット36による慣性ナビゲーションによって、ユーザ68の位置に対する図示の1回目通過66後の位置共分散を生成する。LEO衛星の軌道の角度をLEO衛星の楕円軌道64内で高速に変化させることにより、当該LEO衛星の楕円軌道64内のLEO衛星によって許容可能な位置推定値を高速に収束させることができる。
【0047】
システム構造は、固く結合させたGPS慣性ユニットに類似する。しかしながら、図4に示すように、システム100は、カルマンフィルタ150を使用して1度に1つという少ない数の距離測定値しか処理しないようになっている。動的な用途の場合、MEMS慣性基準ユニット(IRU)102がシステムに接続され、IRU102に誤差前処理を誤差前処理ユニット105内で施す。更に厳しい用途では、慣性グレードIRUが望ましい。
【0048】
適切なIRU102の汎用モデルは、ストラップダウン慣性ナビゲーションシステムを含む。ストラップダウン慣性ナビゲーションシステムは、移動体本体に固く固定される。従って、ストラップダウン慣性基準ユニットは、本体と一緒に移動することにより、これらの基準ユニットのジャイロに、動いている本体と同じ角速度変化が生じ、これらのジャイロは、同じ角速度変化を測定する。ストラップダウン慣性基準ユニットは、加速度計を含むことにより、本体の固定軸に関する線形速度の変化を測定する。本体のこれらの固定軸は、一定慣性座標系とは異なり、移動座標系として機能する。ナビゲーションコンピュータは、ジャイロの角度情報、及び加速度計の線形情報を使用して、慣性基準座標系における本体の3次元運動を計算する。
【0049】
IRU102は慣性加速度を検出し、この慣性加速度をIRU102が、回転加速度として出力する。回転加速度ベクトル情報は、エラープリプロセッサ105に転送される。慣性エラープリプロセッサ105は、スケールファクタ及びアライメントエラーを含む、予め較正されたパラメータを補正する。次に、補正済み測定値を時間更新ブロック108及び111を介して渡して、加速度計のバイアス状態値、及びジャイロのバイアス状態値を加算し、ストラップダウンIRU102の測定値を積分して位置ベクトル、速度ベクトル、及び姿勢ベクトルを導出する。
【0050】
同相座標変換プロセッサ114及び四元座標変換プロセッサ117では、ベクトル変換xI及び姿勢運動が、ユーザプラットフォームの3行3列の姿勢回転行列Aによって表わされる。ユーザプラットフォームのボディ座標系におけるアンテナ取り付けレバーアームb 120に関するこれまでの情報により、同相座標変換プロセッサ114及び四元座標変換プロセッサ117から出力される慣性信号を使用して、アンテナ運動を衛星の視線に投影して
をプロセッサ126において導出することができる。プロセッサ126の出力は、複素数のリアルタイム位相補正値である。位相補正では、短時間のユーザ運動を全て減算し、LEO信号に関する積分時間を、このようなLEO信号が利用可能な場合に長くすることができる。
【0051】
LEO(本実施形態の場合、IRIDIUM)のLEO受信機側では、受信機132は、搬送波信号をLEO衛星から受信する。本実施形態では、ユーザ装置の近傍に位置する基準地上局で受信される第2搬送波信号が更に、当該地上局位置の正確な位置を表わすものとして任意のデータリンク135で受信される。第2搬送波信号によって、確実に、LEO衛星からの搬送波信号を高速に積分することができ、更に、LEOエラープリプロセッサ138の動作が可能になる。
【0052】
慣性側と同じように、LEOエラープリプロセッサ138は、スケールファクタ及びアライメントエラーを含む、予め較正されたパラメータを補正する。更に、LEOエラープリプロセッサ138は、伝播に起因する誤差を、任意のデータリンク135で受信される情報に基づいて補正する。エラープリプロセッサ138は、大気圏/電離層の影響、時間タグの一致、及びブレンディングコード及び搬送波に関するような補正を行なう。
【0053】
バイアス状態時間更新ブロック141、144、147、及び151では、スカラー受信機クロック推定値及びクロックバイアス推定値を生の測定値に適用する。別のバイアスブロック154では、プロセッサ126の出力を使用して、短時間のユーザ運動を全て減算し、LEO信号に関する積分時間を、このようなLEO信号が利用可能な場合に長くすることができる。補正されたLEO位置は、カルマンフィルタ157に転送される状態になる。本実施形態では、コンピュータ54は、17ステートカルマンフィルタ推定を実行して:位置(3軸)、速度(3軸)、加速度計バイアス(3軸)、姿勢(3軸)、ジャイロバイアス(3軸)、クロックバイアス、及びクロックドリフトの解を導出する。
【0054】
共分散時間更新器160は、状態共分散推定値を送出する。各所定のLEO衛星の視線にプロセッサ126によって投影される推定慣性位置を、LEO衛星までの測定距離と比較して、測定更新をカルマンフィルタ157に対して行なう。
【0055】
図5を参照すると、ユーザ装置の正確な位置を衛星利用ナビゲーションシステムにおいて推定する方法200が提供される。ブロック201では、ユーザ装置は、送信搬送波信号を一連のLEO衛星から受信する。ブロック204では、ユーザ装置は、これらの搬送波信号を処理して、一連のLEO衛星からの地理的に多様なユーザ搬送波位相情報を含むユーザ搬送波位相情報を取得する。ブロック207では、ユーザ装置は、慣性位置フィックスを取り出す。ブロック210では、ユーザ装置の正確な位置を、慣性位置フィックス及びユーザ搬送波位相情報に基づいて決定する。ブロック213では、ユーザ装置は、一連のLEO衛星から、ユーザ搬送波情報を慣性位置に基づいて導出して、ユーザ搬送波位相情報の整数倍の曖昧さを解く。
【0056】
好適な実施形態では、方法200において、搬送波信号を基準局で追跡して、基準搬送波位相情報を取得する。基準搬送波位相情報は、一連のLEO衛星からの地理的に多様な基準搬送波位相情報を含む。ブロック216では、ユーザ装置は、位置計算の精度を、基準搬送波位相情報に基づいて高める。好適な実施形態では、当該方法において更に、近似ユーザ位置及びクロックオフセットを、一連のナビゲーション衛星から受信するコード位相信号を使用して推定する。
【0057】
好適には、微分コード位相計測技術を使用して、慣性推定の精度を向上させる。当該方法の好適な実施形態はまた、更に別の有利な技術を含み、これらの技術では、例えば:ユーザ受信機回路及び基準受信機回路における搬送波信号の間の周波数に依存する位相遅延差を補正する、ナビゲーション搬送波情報及びLEO搬送波情報を、ユーザ受信機及びLEO信号発信源の予測運動に依存して選択される所定の時間間隔内で読み出す、LEO発振器の不安定性を、ナビゲーション衛星情報を使用して較正する、ベントパイプLEO通信アーキテクチャに起因する位相外乱を補正する、ユーザ受信機及び基準受信機における発振器の不安定性を補正する、現在の基準搬送波位相情報を、過去の基準搬送波位相情報に基づいて予測する、位置計算の完全性をモニタリングする。
【0058】
環境に依存するが、全ての状態(ヨー姿勢のような)が、全ての時点において観測可能である必要がある訳ではない。イリジウムの軌道形状−−特に、大きい角度の頭上の高速運動−−により、当該システムは、収束時に、出力の位置成分が、効果的に必ず、イリジウム衛星による距離測定値の精度に収まるように観測可能であることを保証する。高性能搬送波距離測定が行なわれようとする場合、任意の未確定な状態のバイアスを、図4に示すように、各LEO衛星に対応して1つ加算することにより、整数倍の曖昧さを解決する。
【0059】
本開示に関する説明
以下の記述では、多くの詳細を示して、システムに関する更に完全な説明を行なう。しかしながら、この技術分野の当業者であれば、開示するシステムを、これらの特定の詳細を知ることなく実施することができることが理解できるであろう。他の例では、公知の特徴を詳細に記述してシステムが不必要に不明瞭になってしまうことがないようにしている。
【0060】
図6は、地球610を周回する複数の宇宙船(SV)600を示している。複数のSV600は、これらには限定されないが、衛星、高高度飛行無人機(UAV)、又は他のいずれかの適切な飛行体を含むことができる。地球上のユーザ装置は、アンテナ及びコンピュータシステムを含むことにより、信号を複数のSV600から受信し、これらの信号を処理して、ユーザ装置の位置を決定することができる。幾つかの実施形態では、ユーザ装置は出力デバイス;例えば位置を可視化するディスプレイ、及び/又は位置データを外部コンピュータシステムに転送する接続バスを含むことができる。
【0061】
幾つかの実施形態では、これらの信号を変調する、又は純粋な搬送波信号とすることができるのに対し、他の実施形態では、これらの信号は、これらのSV600の位置データを含むことができる。幾つかの実施形態では、全地球測位システム(GPS)の衛星は、空間内のGPSの位置、及びデータ信号が送信された時刻を表わす時刻信号を含むデータ信号を継続的に送信することができる。GPS衛星とユーザ装置との時間差(すなわち、信号がGPS衛星からユーザ装置に到達するために要する時間)を使用して、各GPS衛星に対するユーザ装置の位置を計算することができる。その結果、地球上のユーザ装置の位置を座標系で求めることができる。幾つかの実施形態では、座標系は、地球中心地球固定(ECEF)座標系とすることができる。
【0062】
幾つかの実施形態では、地球上のユーザ装置の計算位置の精度は、時刻信号の精度に依存し得る。図7に示すように、ユーザ装置の時刻信号、及びGPS衛星の時刻信号が、完全に同期している場合、ユーザ装置は、信号の到達時間及び厳密な位置Aを決定することができる。ユーザ装置の時刻信号、及びGPS衛星の時刻信号が、図8に示すように、ほんのわずかだけずれている場合、ユーザ装置の位置は、ポイントBで定義される三角形で示される特定範囲内に推定することができる。時刻信号が同期しない現象は、図9に示すような信号の反射900、及び/又は図10に示すような大気/天候条件1000にも起因し得る。
【0063】
幾つかの実施形態では、ユーザ装置は、LEO衛星からの搬送波信号を処理して、ユーザ装置の位置を決定することができる。幾つかの実施形態では、これらのLEO衛星は、イリジウムシステムにおいて使用される衛星のような通信衛星である。幾つかの実施形態では、これらのLEO衛星は、GPS衛星よりも強い強度で送信を行なうことができる。その結果、これらの搬送波信号をユーザ装置が、これらのGPS衛星からの信号を利用することができなくなる場合でも受信することができる。
【0064】
幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置は、これらのSVの搬送波信号に基づいて、スナップショット計算を利用して決定することができる。ユーザ装置は、搬送波信号を処理して、搬送波位相情報を取得することができる。搬送波位相情報は、位相信号、位相信号の平均勾配値、時間バイアス、及び周波数バイアスを含むことができる。幾つかの実施形態では、搬送波位相情報は、反復プロセスから取得することができる。搬送波信号は、周期的に及び/又は継続的にサンプリングすることができる。幾つかの実施形態では、約10秒の搬送波信号の相関時間は、高信頼度の搬送波位相情報を取得するために十分であり得る。スナップショット計算では、搬送波位相情報を使用して、ユーザ装置の現在位置を計算することができる。
【0065】
これらのSVからの搬送波信号を利用することができなくなる場合、前回位置を使用してユーザ装置の位置を推定することができ、この操作は追尾維持(track maintenence)とも呼ばれる。幾つかの実施形態では、追尾維持を行なって、現在位置から外挿によって将来位置を推定することができる。追尾維持では、拡張カルマンフィルタ(EKF)状態推定器を利用することができる。EKF状態推定器は、ランダムプロセスの動的変化(すなわち、ユーザ装置の任意の動き)をモデル化することができる。幾つかの実施形態では、EKF状態推定器は、ユーザ装置の速度を利用することができる。幾つかの実施形態では、ユーザ装置の速度は、地動速度とすることができるのに対し、他の実施形態では、当該速度は、音速よりも速い速度を含むことができる。幾つかの実施形態では、EKF状態推定器は、ユーザ装置の速度が音速よりも速い場合に慣性システムを利用することができる。EKF状態推定器は、ユーザ装置の位置を、測位計算を実行することができない場合に高信頼度で予測することができる。
【0066】
幾つかの実施形態の追尾維持では、ユーザ装置の状態を考慮に入れることができる。1つの実施形態では、ユーザ装置の状態は、ユーザ装置の位置、ユーザ装置の速度、ユーザ装置の時間バイアス、及び/又はユーザ装置の周波数バイアスを含むことができる。
【0067】
幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置を決定する異なる方法の階層を用いることができる。当該階層は、GPS衛星からの信号を使用する方法、GPS衛星以外のSVからの信号を使用する方法、及び/又は追尾維持を行なう方法を含むことができる。図11は、ユーザ装置の位置を本発明の1つの実施形態に従って決定するプロセスのフローチャート1100を示している。幾つかの実施形態では、測位方法の階層は、ユーザ装置の用途又は使命に固有の階層とすることができる。図11では、まず、GPS信号が受信されるかどうかを判断する(1110)。GPS信号が受信される場合、ユーザ装置の位置を決定する(1120)。しかしながら、GPS信号が受信されない場合、イリジウム衛星信号が受信されるかどうかを判断する(1130)。
【0068】
イリジウム衛星信号が受信されない場合、ユーザ装置の位置を、ユーザ装置の速度を利用するカルマンフィルタ計算に基づいて推定する(1140)。しかしながら、イリジウム衛星信号が受信される場合、時間バイアス及び周波数バイアスを計算する(1150)。時間バイアス及び周波数バイアスを計算した後、推定位置の関数として予測される測定誤差の指数であるコスト関数を計算する(1160)。そして、コスト関数を計算した後、ユーザ装置の位置を、コスト関数を最小にすることにより決定する(1170)。
【0069】
図12は、ユーザ装置と異なるSV(宇宙船)との間の信号伝送の様子を示している。図12は、スナップショット計算を説明するために使用することができる。ベクトルXUは、原点Oから、受信機と表記することもできるユーザ装置
に向かうことができる。既知の伝送時間t中、SVは、ベクトルXt,SVで表わすことができる位置に位置することができる。SVは、信号をユーザ装置
に送信して、ユーザ装置がSVを一意的に特定することができるようにする。既知の伝送時間t中のユーザ装置とSVとの間の距離は、距離rt,SVと表記することができる。距離rt,SVは、ベクトルXUとベクトルXt,SVとの差ベクトルの長さであると見なすことができる。既知の伝送時間中、SVは、速度
で飛行することができるので、距離変化率
は、
として定義することができる。
【0070】
距離rt,SV及び距離変化率
の精度は、多くの影響により低下し得る。幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置を計算する方法において、時間バイアスbt,u、周波数バイアス
、及びランダム測定誤差εt、ηtを利用することができる。時間バイアスbt,uは、時間ドリフトであると見なすことができ、周波数バイアス
は、周波数オフセットであると見なすことができる。擬似距離ρt,SV及び擬似距離変化率
は、各SVに対応して次のように定義することができる:
上式では、ランダム測定誤差εt、ηtは、ユーザ装置及びSVに固有の誤差とすることができる。
【0071】
時間バイアスbt,uは、
により定義される多項式によって時間近似することができる。多項式の次数Nは、いずれの整数とすることもできる。幾つかの実施形態では、多項式の次数は、ユーザ装置の利用可能な計算能力によって決定される。多項式の係数qnは、時間から独立であるとすることができる。幾つかの実施形態では、多項式の係数qnは一定とすることができる。周波数バイアス
は、時間バイアスbt,uを時間に関して微分することにより、
が得られる。
【0072】
非線形最小二乗法を用いて、擬似距離ρt,SV及び擬似距離変化率
を、コスト関数Jcostを最小にすることにより推定することができ、コスト関数Jcostは次の通りに定義することができる。
上式では、次のような関係がある。即ち、
qu=[q0 q1 ・・・ qN]T、かつRt,SVは測定誤差共分散行列又は他の重み行列である。
【0073】
幾つかの実施形態では、非線形最小二乗法を用いて、時間バイアスbt,u及び周波数バイアス
を推定することができる。時間バイアスの推定値は、
と記号で表わすことができ、周波数バイアスの推定値は、
と記号で表わすことができる。これらの推定値を計算するために、コスト関数Jcostの次元を2次元に、すなわち緯度及び経度に低減することができるが、その理由は、係数qnが、擬似距離ρt,SV及び擬似距離変化率
に線形依存するからである。
【0074】
コスト関数Jcostの次元を2次元に低減するために、線形最小化問題の補助問題を解くことができる。この目的のために、係数qnを含むベクトルquは次のように書き直すことができる。
上式では、次のような関係がある。
及び
【0075】
コスト関数Jcostのベクトルquを置き換えることにより、
測定値
、モデル残差
及び
の分散を関連付ける誤差共分散行列
の項の次元を低減したコスト関数
が得られる。次に、バイアス推定値及びバイアス変化率推定値を、
として取り出し、この場合、
及び
の関係がある。幾つかの実施形態では、コスト関数Jcostの次元を低減することにより、計算時間を大幅に短くすることができる。
【0076】
高度を無視すると、ユーザ装置の位置Xuは、緯度y1及び経度y2のみの関数とすることができる。
上式では、
であり、WGS−84地球モデル(図12)に基づいて、aは、地球楕円体の長軸であり、bは、地球楕円体の短軸である。
【0077】
幾つかの実施形態では、緯度y1及び経度y2は、Newton Raphson(ニュートンラフソン)法のような反復法で、
を解くことにより見積もることができ、上式では、yは、y1及びy2を成分として有するベクトルであり、kは反復ステップであり、Dkは勾配偏差行列であり、
は、次元を低減したコスト関数
の勾配である。
【0078】
勾配偏差行列Dkは、次元を低減したコスト関数
のヘシアン逆行列
とすることができ、このヘシアン逆行列は、各反復ステップkで見積もる必要がある。その結果、Dkの見積もりは、大きな計算能力を必要とする。
【0079】
図13及び14は、次元を低減したコスト関数
の表面プロットを示しており、これらの表面プロットは、3つの異なるSV、及び4つの異なるSVのそれぞれからの信号を用いて計算される。これらの表面は関数の変化を正確に表現しているので、幾つかの実施形態の勾配偏差行列は、yに関する1次微分しか含まない
によって近似することができる。その結果、スナップショット計算の計算時間を大幅に短くすることができる。
【0080】
反復ステップは、ユーザ装置の位置の最初の推測値で初期化することができる。幾つかの実施形態では、地球に投影される1つ以上のSVビーム位置の重み平均を初期推測値として使用することができるのに対し、他の実施形態では、地球に投影される1つ以上のSV位置の重み平均を初期推測値として利用することができる。反復ステップが所望の精度で収束したら、スナップショット計算を完了させることができ、ユーザ装置の(瞬時)位置Xuが、時間バイアス及び周波数バイアスの推定値とともに得られる。
【0081】
ユーザ装置の位置を予測及び/又は推定するために、EKF状態推定器は、ユーザ装置の(変化している)位置を追尾することができる。ユーザ装置の状態ベクトルxtは、
として定義することができ、上式では、Xt,uは、時点tの位置Xuであり、
は、時点tでのユーザ装置の速度であり、bt,u及び
は、上述のように、スナップショット計算に対応して定義される。幾つかの実施形態では、EKF状態推定器は、複数のユーザ装置を同時に追尾することができる。
【0082】
幾つかの実施形態では、EKF状態推定器は、4つの異なる補助ステップ、すなわち状態を外挿するステップ、共分散を外挿するステップ、状態を更新するステップ、及び共分散を更新するステップを含むことができる。状態ベクトルxt自体は、ランダムプロセスとして、方程式xt=Φt,τxτ+ξτに従ってモデル化することができ、この方程式では、Φt,τは状態遷移行列であり、ξτは、プロセスノイズの共分散行列Qt,τである。
【0083】
共分散行列Qt,τを使用してEKF状態推定器を調整することにより、良好な一致を達成することができる。共分散行列Qt,τは、プロセスノイズ又は拡散行列と見なすことができる。状態ベクトルxtから、ユーザ装置の位置及び速度が明らかになるので、無視されるユーザ装置加速度は、共分散行列Qt,τによって補正することができる。幾つかの実施形態では、共分散行列Qt,τは次のように定義することができる。
上式では、Γ=[u1 u2 u3]Λ[u1 u2 u3]T、
であり、uiは単位ベクトルであり、τmは運動時定数であり、σdは、バイアス加速度の不確定性であり、σxyは平面運動の不確定性であり、σzは、垂直運動の不確定性である。
【0084】
単位ベクトル[u1 u2 u3]を、ユーザ装置の位置の推定値Xt,uを中心とする局所接平面に対して配向することができる。幾つかの実施形態では、単位ベクトルuiは、スナップショット計算により計算される初期位置推定値を中心として見積もることができ、追尾維持全体を通じて一定のままとすることができる。共分散行列Qt,τ及び/又は不確定性σiの成分は、実験的に導出することができる。
【0085】
状態を外挿するステップに続いて、状態遷移行列Φt,τを、幾つかの実施形態では、
として定義することができ、上式では、Iは恒等行列であり、(t−τ)は外挿時間区間である。幾つかの実施形態では、状態遷移行列Φt,τは、状態ベクトルxtに対応する線形予測としてモデル化することができる。
【0086】
幾つかの実施形態では、測定モデルは、スナップショット計算、すなわちZt,SVに関して上に説明したモデルと略同じとすることができる。測定ベクトルztは、
として定義することができ、上式では、
は、予測測定値を現在の状態推定値にのみ基づいて推定する関数である。前の表現式では、rt,u,SV、
は、ユーザとSVとの間の推定距離及び推定距離変化率であり、ηtは、測定ノイズの共分散行列Rtである。
【0087】
共分散を外挿するステップでは、状態ベクトルxtの予測値
は、
を用いて計算することができる。状態ベクトルxtの共分散行列Ptの予測値は、
によって見積もることができる。上の方程式では、添え字「−」は、xt及びPtの推定値が、直近の測定値によって更新されていないことを示している。共分散を更新するステップ(添え字「+」で示す)では、このデータを使用して、状態ベクトルxtに対応する新規の推定値
を計算することができる。新規の推定値
は、
を用いて計算することができる。共分散行列Ptは、
を用いて更新することができ、上式では、H(xt)は、h(xt)のヤコビ行列である。ヤコビ行列H(xt)は、
を用いて計算することができ、上式では、
は、SVからユーザ装置に向かう単位ベクトルであり、
は、ユーザ装置とSVとの間の相対速度であり、
は、SVからユーザ装置までの距離変化率である。
【0088】
幾つかの実施形態では、共分散を外挿するステップ、及び共分散を更新するステップは、状態ベクトルxt及び共分散行列Ptの予測−補正ステップ方法と見なすことができる。ユーザ装置の状態ベクトルxtを計算するために、幾つかの実施形態のEKF状態推定器は、異なる外挿時間区間を使用することができる。幾つかの実施形態では、状態ベクトルxtに関する正確な結果を取得するためには、数秒の相関時間で十分である。
【0089】
幾つかの実施形態では、追尾維持から、信頼のおける結果が閉塞環境において得られる。種々の種類の閉塞環境として、他の測位システムからの信号がジャミングされる、又はそれ以外の場合として、利用することができない環境を挙げることができる。幾つかの実施形態では、閉塞環境は、建物、地下室、トンネル、洞穴のような屋内環境、及び海中を含むことができる。幾つかの実施形態では、イリジウムシステムに関して得られるスナップショット計算の精度は、3つのSV及び閉塞環境の場合に約1,200メートルであり、4つのSV及び閉塞環境の場合に約400メートルであり、4つのSV及び見通しの良い環境の場合に約32メートルである。
【0090】
本開示の異なる目的及び利点について説明した。全てのこのような目的又は利点が、必ずしも、本開示のいずれかの特定の例に従うことによって達成することができる訳ではないことを理解されたい。この技術分野の当業者であれば、本開示は、1つの利点、又は利点を、他の目的又は利点を示唆又は提案の通り達成する必要を伴うことなく、本明細書において提供される示唆の通り達成する、又は最適化するように具体化する、又は実行することができることを理解できるであろう。
【0091】
方法及びシステムを、何が現時点で最も実用的かつ好適な例であると考えられるかという観点から説明してきたが、本開示は、開示されるこれらの例に限定される必要がないことを理解されたい。本開示は、請求項の思想及び範囲に含まれる種々の変形、及び同様の構成を包含するものであり、これらの請求項の範囲は、全てのこのような変形及び同様の構造を包含するように最も広義の解釈が為されるべきである。本開示は、以下の請求項のいずれの例も含み、かつ以下の請求項の全ての例を含む。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年4月20日に出願された米国仮特許出願第61/171009号、及び2009年5月12日に出願された米国仮特許出願第61/177579号の優先権の利益を請求するものであり、これらの両方の米国仮特許出願の開示内容の全てが、本明細書において参照されることにより、本明細書に組み込まれる。
【0002】
Whelanらに特許された米国特許第7489926号を本明細書において参照して当該特許全体を本明細書に組み込むことにより、本明細書において記載される本発明の日付において、この技術分野の当業者に公知となる最新技術を更に完全に記述する。
【0003】
本開示は、固定装置又は移動ユーザ装置の位置の衛星によるナビゲーション及び推定に関するものである。
【背景技術】
【0004】
全地球測位システム(GPS)は、地上の受信機の位置を決定するために広く使用されている。受信機は、GPS衛星の位置及び時間データを使用して、当該受信機の位置を計算することができる。しかしながら、GPS受信機又はGPS信号を利用することができない場合があるので、衛星地理位置情報に関する別の方法が望まれる。GPS信号を利用することができないのは、幾つかの原因に起因する。これらの原因として、これらには限定されないが、閉塞環境(例えば、建物、濃密な葉など)における信号強度の低下、意図的な、又は偶発的な高周波干渉、又は受信機性能の低下をもたらすハードウェア障害又はソフトウェア障害を挙げることができる。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、時間バイアス及び周波数バイアスを含むイリジウム受信機のようなユーザ装置の位置を決定するシステム、装置、及び方法に関するものである。本開示はまた、当該同一装置の時間バイアス及び周波数バイアスを推定する他に、ユーザ装置の位置及び速度を推定するシステム、装置、及び方法に関するものである。
【0006】
本開示の幾つかの実施形態は、ユーザ装置の位置を決定する方法を提供する。ユーザ装置は、信号を宇宙船から受信することができる。受信信号から導出される相関時間及び周波数偏差測定値に基づいて、ユーザ装置は、現在位置を計算することができる。これらの信号は、ユーザ装置が現在位置を決定するためのこれらの宇宙船の位置情報を含んでいなくてもよい。正確な結果を得るためには、これらの信号の短い相関時間で十分である。
【0007】
本開示の1つ以上の実施形態は、追尾維持を行なう方法を提供する。この追尾維持は、測位計算に関するデータを利用することができない場合にユーザ装置の位置を推定するプロセスである。当該方法によって、時間バイアス及び周波数バイアスの問題を解決することができる。当該方法では、ユーザ装置の速度を推定することができる拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることができる。幾つかの実施形態では、ユーザ装置の速度、時間バイアス及び周波数バイアス、及び統計誤差に関する問題を、緯度及び経度に関する情報のみを使用して解決することができる。
【0008】
本開示の幾つかの実施形態は、信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することができるユーザ装置を提供する。ユーザ装置は、これらの受信信号をサンプリングして、相関時間及び周波数偏差測定値を計算することができる。これらの測定値に基づいて、ユーザ装置は、当該ユーザ装置の位置を決定することができる。ユーザ装置が信号を少なくとも1つの宇宙船から受信しない場合、ユーザ装置は位置を、ユーザ装置の速度を推定することができる拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いて推定することができる。
【0009】
1つ以上の実施形態では、ユーザ装置に対して追尾維持を行なう方法は、信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することと、ユーザ装置の位置を受信信号に基づいて取得することとを含む。幾つかの実施形態では、方法は更に、拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いて、ユーザ装置の位置、及びユーザ装置の速度を推定することを含む。少なくとも1つの実施形態では、方法は更に、追尾維持のためにユーザ装置の状態の推定値を取得することを含む。
【0010】
幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置を取得することは、スナップショットを計算することを含む。1つ以上の実施形態では、スナップショットを計算すること、及び/又は拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることの実行では、擬似距離測定モデル及び擬似距離変化率測定モデルを計算する。(擬似距離変化率は、送信機及び/又は受信機のドップラー偏差及び周波数偏差の和の関数である)。少なくとも1つの実施形態では、擬似距離測定モデル及び擬似距離変化率測定モデルの計算では、非線形最小二乗法を用いる。
【0011】
1つ以上の実施形態では、スナップショットを計算すること、及び/又は拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることの実行では、時間バイアス及び周波数バイアスを推定する。幾つかの実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスの計算では、線形最小二乗法を用いる。少なくとも1つの実施形態では、時間バイアスの計算では、時間バイアスを多項式で近似する。幾つかの実施形態では、周波数バイアスの計算では、時間バイアスを時間に関して微分する。1つ以上の実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスは、ユーザ装置の位置の明示的関数として表現される。少なくとも1つの実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスの表現では、独立状態変数としてバイアス項を取り除くことにより非線形最小二乗コスト関数を変形して、独立変数の数をユーザ装置の位置の変数のみに減らす。
【0012】
幾つかの実施形態では、信号は、低軌道地球周回(LEO)衛星から受信される。1つ以上の実施形態では、LEO衛星は、イリジウムシステムの一部である。少なくとも1つの実施形態では、ユーザ装置の状態は、ユーザ装置の位置、ユーザ装置の速度、時間バイアス、及び周波数バイアスを含む。1つ以上の実施形態では、ユーザ装置の状態の推定値の取得では、ユーザ装置の位置の緯度及び経度を見積もる。
【0013】
1つ以上の実施形態では、測位計算を閉塞環境において行なう方法は、信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することと、信号の時間バイアス及び周波数バイアスを含む擬似距離及び擬似距離変化率を計算することとを含む。幾つかの実施形態では、方法は更に、擬似距離及び擬似距離変化率を含むコスト関数を最小化して位置を取得することを含む。少なくとも1つの実施形態では、コスト関数は、擬似距離と擬似距離変化率との積を含む。幾つかの実施形態では、擬似距離及び擬似距離変化率を計算することでは、非線形最小二乗法を用いる。
【0014】
幾つかの実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスの計算では、線形最小二乗法を用いる。1つ以上の実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスは、ユーザ装置の位置の明示的関数として表現される。少なくとも1つの実施形態では、時間バイアス及び周波数バイアスの表現では、独立状態変数としてバイアス項を取り除くことによりコスト関数を変形して、ユーザ装置の位置の変数のみに独立変数の数を減らす。
【0015】
1つ以上の実施形態では、信号は、LEO衛星から受信される。幾つかの実施形態では、LEO衛星は、イリジウムシステムの一部である。少なくとも1つの実施形態では、閉塞環境は、屋内環境、ジャミング環境、及び/又は信号が偶発的又は意図的な高周波干渉によって劣化する他の環境を含む。幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置の取得は、緯度及び経度情報に基づいて行なわれる。
【0016】
1つ以上の実施形態では、ユーザ装置は、信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することができるアンテナを含む。幾つかの実施形態では、ユーザ装置は更に、受信信号を処理して、時間バイアス及び周波数バイアスを計算することができるコンピュータシステムを含み、該コンピュータシステムは、時間バイアス及び周波数バイアスを使用してユーザ装置の位置を決定する。少なくとも1つの実施形態では、コンピュータシステムは、アンテナが少なくとも1つの宇宙船の信号を受信しない場合に、拡張カルマンフィルタによる状態推定を行なってユーザ装置の速度を推定することにより、ユーザ装置の位置を推定することができる。幾つかの実施形態では、コンピュータシステムは更に、出力デバイスを備える。
【0017】
本開示のこれらの特徴、態様、及び利点、及び他の特徴、態様、及び利点は、以下の記述、添付の請求項、及び添付の図面を参照することにより一層深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、LEO衛星を使用する屋内測位システムの先行技術によるブロック図である。
【図2】図2は、LEO衛星を使用する差分測位システムの先行技術によるブロック図である。
【図3a】図3aは、1回目通過後のLEO衛星源及びMEMS関連衛星源に係るシステム共分散の先行技術による図形表現である。
【図3b】図3bは、2回目以降の通過後のLEO衛星源及びMEMS関連衛星源に係るシステム共分散の先行技術による図形表現である。
【図4】図4は、固く結合させたLEO慣性積分器の先行技術によるブロック図である。
【図5】図5は、位置を、LEO信号及び慣性位置フィックスに基づいて導出するプロセスを記述した先行技術によるフローチャートである。
【図6】図6は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、地球を周回する複数の宇宙船(SV)を模式的に示している。
【図7】図7は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、位置Aを図6の複数のSVの信号に基づいて計算することができる様子を模式的に示している。
【図8】図8は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、時間の不正確性が、図7の計算位置の精度に影響し得る様子を模式的に示している。
【図9】図9は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、建物で反射される図7の信号を模式的に示している。
【図10】図10は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、大気が図7の信号に影響する様子を模式的に示している。
【図11】図11は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、ユーザの位置を決定するプロセスのフローチャートである。
【図12】図12は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、ユーザ装置と宇宙船(SV)との間の信号伝送を模式的に示している。
【図13】図13は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、3つのSVの信号から得られるコスト関数の等高線プロットである。
【図14】図14は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、4つのSVの信号から得られるコスト関数の等高線プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
時間バイアス及び周波数バイアスを含むイリジウム受信機のようなユーザ装置の位置を決定するシステム、装置、及び方法が開示される。更に、ユーザ装置の位置及び速度の推定を、当該同一装置の時間バイアス及び周波数バイアスの推定の他に可能にするシステム、装置、及び方法が開示される。
【0020】
先行技術に関する説明
ユーザ装置の正確な位置を低軌道地球周回(LEO)衛星からの信号に基づいて推定する先行技術による方法の1つの重要な例について、以下に詳細に説明する。この方法は、Whelanらに特許された米国特許第7489926号に開示されている。図1〜5から、Whelanらによる特許に示唆されるこの先行技術による方法の種々の実施形態に関する完全な理解が可能になる。
【0021】
概括するに、ユーザ装置の正確な位置を低軌道地球周回(LEO)衛星からの信号に基づいて推定する先行技術による方法では、少なくとも1つの搬送波信号をユーザ装置で受信し、各搬送波信号は、異なるLEO衛星から送信されている。ユーザ装置は、搬送波信号を処理して、第1搬送波位相情報を取得する。次に、ユーザ装置は、慣性基準ユニットで導出される慣性位置フィックスを取り出す。最後に、ユーザ装置は、ユーザ装置の位置を、慣性位置フィックス及び第1搬送波位相情報に基づいて導出する。
【0022】
図1は、イリジウム(又は、他のLEO)衛星12、14を使用して測距システムをユーザに、1つ以上の基準局16、18と連動して提供するシステムを示している。イリジウム(Iridium)を使用する複数利点のうちの1つの利点は、イリジウムが、GPS衛星が生成する信号よりもずっと強い強度の信号を生成することができることである。環境に依存するが、イリジウム衛星は、ユーザに、GPSよりも約20dB〜40dB以上大きい受信電力を供給するように構成することができる。
【0023】
一方向測距方式の測距源を、イリジウムを含む3次元動的環境において使用する測位は、これまでの測位システムとは、一方向測距方式の測距源が、理想表面の2次元(2D)分解能に限定されていたという点で大きく異なっている。TRANSITとして知られる海軍ナビゲーション衛星システムによって、例えばユーザは、精度が低い準静的な2次元測定しか行なうことができなかった。通常、最小4つの運用型TRANSIT衛星が、要求周波数に関する高精度のナビゲーションフィックスを提供するために必要であった。
【0024】
GPSが現在では、少なくとも4つの測距源を同時に提供して、瞬時の3次元(3D)測位を可能にしている。しかしながら、GPSからの信号の電力は小さく、これによって屋内、又は激しいジャミングが出ている状態での測位が難しくなる。システムの基本的な利点は、当該システムが、当該システムの先行システムの制約を同時に解決して動的な3次元の正確な位置フィックスを、屋内でも、又はジャミングが出ている状態でも提供することができることである。イリジウムを使用して測位を補強することにより、適切な性能を実現することができる必要があり、この適切な性能は、大気マルチパスの影響によって主として制限されている。
【0025】
地上サポートインフラストラクチャを使用して差分基準測定を行なう。本実施形態では、基準局16は信号を衛星12及び14から基準機器を使用して受信する。このような基準機器は、ユーザ機器20と機能的に同一とすることができ、このユーザ機器20とは、受信アンテナの局部位置がGPS測位手段を含も監視手段又は他の従来の手段によって正確に既知になっている点でのみ異なっている。
【0026】
差分基準測定では、少なくとも2つの受信機、基準局16、及びユーザ機器20を連携動作させる。少なくとも2つの受信機の連携動作では、基準局16及びユーザ機器20の両方で受信する信号24を利用し、これらの信号は共に、略同じ誤差の分だけ劣化している。連携動作は地上で、これらの信号が、同じ信号障害物26を含む大気の略同じスライスを通過するときに行なうことができる。地球の表面で行なうために、ユーザ機器20及び基準局16は普通、略1千キロメートルよりも短い距離だけ離間させることができる。このような地理的関係が設定される場合、ユーザ機器20及び基準局16の両方に到達する信号24は、同じ障害物26を通って伝搬してしまうか、又は同じパターンのジャミングが強くなることになる。
【0027】
基準局16は、イリジウムクロックのリアルタイム測定値を提供する。本実施形態において、イリジウムを利用して基準局16からユーザ受信機20に送信されるデータメッセージ22によって、リアルタイム距離補正を各測定値に加えて、イリジウムクロック誤差の問題、及び障害物26又はジャミングを含む大気の影響の問題の両方を解決する。基準局16は、多くの利用可能な衛星のうちのいずれの衛星をユーザ受信機20が使用して、当該受信機の位置を計算することができているかについて認識する手段を持たないので、基準受信機16は、衛星14のような可視衛星の全てを迅速に調査し、次に、当該受信機16への信号28に付随する誤差を計算する。次に、計算結果を基準局の既知の局部位置に一致させるために必要な補正情報を、いずれかの適切な帯域で、かつジャミング環境における十分高い信頼度で、時間基準に関連付けながらユーザ機器に送信して、ほぼリアルタイムの補正を可能にする。一般的に、ナビゲーション性能は、ユーザと基準局との離間距離が長くなるにつれて、信号24に影響する障害物26又はジャミングに伴う差に起因して低下する。
【0028】
第2基準局18が適当に近くに位置する場合、第2基準局18は、第1基地局16と同じ計算を信号28に対して行なって、例えば衛星14に基づく第2補正係数を生成することにより、ユーザ機器は、誤差計算を適正に行なう平均手段又は他の適切な手段により、より高い精度を実現することができる。
【0029】
図2は、イリジウム衛星又は他のLEO衛星を使用する測位システム30の現システムアーキテクチャのブロック図を示している。測位システム30の各構成要素は、高精度時間標準器40である同じマスタークロックによって駆動される。同期装置38は、各構成要素に対応する不可欠なコヒーレント正弦波信号及びクロック信号の各々を、同期装置38に高精度時間標準器40からデータバス42を介して転送されるクロック信号に基づいて生成する。
【0030】
アンテナ32は、本実施形態がL帯受信に対応して構成され、最適化されているように、送信をイリジウム衛星又は他のLEO衛星から受信するように構成される。イリジウム受信機34は、アンテナ32で受信する生データを受信し、当該データを、同期装置38によって生成され、かつ受信機34にデータバス48を介して提供されるデータと比較する。データバス48からのデータを、アンテナ32で受信する送信と比較することにより、イリジウム受信機34は、位置解を計算するために十分なデータを提供する。
【0031】
拡張位置解を、クロック信号を同期装置38から受信する慣性測定ユニット36を使用して計算する。本実施形態における慣性測定ユニット36を用いた加速度の測定は、3直交軸方向加速度計によって行なうことができ、このような各軸の回りの角速度を測定して垂直軸に対する姿勢を正確に計算することにより、正確な姿勢検出を行なうことができる。ユーザの姿勢及び他のパラメータ、又は向き及び動きは、共通アセンブリ内の加速度計及びレートセンサにより生成されるデータから導出される。現時点で好適な実施形態では、加速度計はMEMS慣性センサである。
【0032】
加速度を、慣性測定ユニット36で本実施形態において測定することにより、システムを補強して、ユーザの次の位置を予測するシステムを提供する。任意であるが、慣性測定ユニット36を使用して導出される位置解を前回の解と整合させて、自己診断機能を実現し、慣性測定ユニット36による位置計算の誤差半径を小さくすることができる。
【0033】
イリジウムを利用する3次元測位及びフィルタリングは、84分のシューラー周期よりもずっと短い約10分の時間スケールで行なわれる。シューラー周期は、地球の半径に等しい長さの非減衰単振り子の周期であり、シューラー周期を使用して、従来の慣性ナビゲーション装置を、地球の表面でのスポットの曲線移動に関して補正していた。従って、慣性ユニットは、イリジウム衛星信号のフィルタリングされた距離測定精度よりも大幅に高い精度を持つ相対位置測定を可能にする必要がある。
【0034】
十分な性能のMEMS慣性センサを用いる場合、屋内環境の大気マルチパスに起因する性能低下が、全システムレベルの精度に大きく影響する。総合システム精度は、標準偏差の1σを表わす4メートルの距離で区分される。イリジウム衛星信号に適用される最新信号処理技術によって、屋内マルチパス誤差を大幅に小さくすることができる。空の視界が遮られない屋外用途では、慣性基準ユニットの性能によってほぼ制限される精度は、かなり向上すると考えられる。
【0035】
少なくとも1つの実施形態では、方法及び装置はセキュアなイリジウム放送信号を生成する。イリジウム衛星信号は技術的にはTDMA信号であるが、幾つかのサブバンドを一括して重ね合わせることにより、高電力信号を合成して、セキュアなCDMA信号に一層類似して現われるようにする。このように合成することにより、ナビゲーションユーザは、コードを予め認識して、当該コードを利用することができる。セキュアなイリジウム放送信号を構成するパルスパターンが正しくプログラムされる場合、高電力信号は、セキュアなY−コードGPS信号、又は当該信号の等価信号のように現われて処理される。
【0036】
マルチパスが多い屋内の環境に対応するシステムアーキテクチャでは、10分間の惰走の後に、約1メートルの合計位置バイアスが自動的に乗る。慣性パラメータは、レートジャイロのバイアス安定性又は角度ランダムウォーク誤差によって制限される可能性がある。高性能慣性システムは、当該システムが屋外で使用されてナビゲーションの高精度及び完全性を実現する場合に必要とされる。
【0037】
コンピュータ54は、特にどの時点でも視野内に一方向測距方式の測距源しかない場合に、イリジウム衛星による距離測定値を全て一括して結び付けるように機能する。「高精度(high accuracy)」とは、センチメートルレベルの位置誤差を意味する。「高インテグリティ(high integrity)」は安全関連用語であり、十分豊富な情報を、多数の衛星による距離測定値の形式で生成して、測位システムに誤差が生じているかどうかを判断することを意味する。このような機能を使用して、システムのオペレータに、当該システムをナビゲーションに使用してはならない場合に警告を発することができる。高性能ナビゲーションではLEO衛星の搬送波位相を用いて、生の距離測定値をセンチメートルレベルにまで正確にすることができる。
【0038】
システムは多くの場合、測距源を1度に1つしか測定しないので、正確な周波数標準器を使用することが望ましい。2つのタイプの周波数標準器:オーブン水晶発振器及び原子ルビジウム周波数標準器をこの目的に利用することができる。積算時間600秒(10分)でアラン分散が10−11を超えない限り、オーブン水晶を利用することができる。これは、イリジウム衛星通過の約2メートルの位置誤差に対応し、この値は、イリジウム衛星信号のマルチパス誤差よりも大幅に小さい。精度を上げる必要がある場合、小型高耐久性ルビジウム標準器を使用する必要がある。対応するアラン分散は10−13であり、10分間の積算時間での約2cmの位置誤差に対応する。
【0039】
イリジウム受信機34からデータバス50を介して送信される生の位置解、及び慣性測定ユニット36からデータバス52を介して送信される加速度測定値はコンピュータ54に転送され、このコンピュータ54がカルマンフィルタを実行してこれらの測定値を処理することにより最終解を導出する。カルマンフィルタは、数値方程式の集合であり、これらの数値方程式から、最小二乗法による計算(再帰)解を効率的に導出することができる。フィルタは、幾つかの局面で極めて強力となる:当該フィルタは、過去の状態、現在の状態の推定をサポートし、将来の状態の推定さえもサポートし、当該フィルタは、モデル化されるシステムの正確性が未知の場合においてもそのようにサポートすることができる。
【0040】
カルマンフィルタは、1つのプロセスを、フィードバック制御の1つの形式を使用することにより推定する:当該フィルタは、或る時刻のプロセス状態を推定し、次に、(ノイズの多い)測定値の形式のフィードバックを取得する。従って、カルマンフィルタの方程式は、2つのグループ:時間更新方程式及び測定値更新方程式に分類される。時間更新方程式は、現在の状態推定値、及び誤差共分散推定値を(時間的に)進む方向に予測するために利用され、これらの推定値を使用して、次の時間段階におけるアプリオリな推定値を取得する。測定値更新方程式は、フィードバックのために利用される、すなわち新規の測定値をアプリオリな推定値に取り込んで、アポステリオリな推定値の精度を高めるために利用される。
【0041】
イリジウム受信機34からデータバス50を介してコンピュータ54に転送される生の位置解、及び慣性測定ユニット36からデータバス52を介してコンピュータ54に転送される加速度測定値は、同じ現象(すなわち、空間での動き)の測定値であるので、これらの測定値は、カルマンフィルタ157でモデル化されるシステムにおいて関連付けられる(図4)。
【0042】
環境に依存するが、全ての状態(ヨー姿勢のような)を全ての時点で観測することができることが必要である訳ではない。しかしながら、イリジウムの周回軌道の形状によって、システム設計では、出力の位置成分が、イリジウム衛星による距離測定の精度に収まる様子を効果的に必ず観測することができることが保証される。
【0043】
このシステムには2つの基本動作モードがある。第1モードは、コード位相測定値に基づいている。建物の内部には、マルチパスの多くの原因が存在する;従って、搬送波の使用は、特に適切である訳ではない。しかしながら、LEO衛星は、図3に示すように、多数の幾何学形状を、物理的障壁を突き抜けるために有用な極めて大きな放送電力とともに提供する。コード擬似距離測定値をこの幾何学形状を利用して組み合わせて、非常に正確な位置の解を、慣性ナビゲーションユニットを使用して導出することにより、異なる時刻に採取される測定値の差を埋めることができる。
【0044】
第2動作モードは搬送波位相測定値に基づいている。搬送波位相測定が屋外で行なわれる場合、LEO衛星への明確な視線が得られるので、センチメートルレベルの測位精度を実現することができる。図3に示すように、同じ多数の幾何学形状が存在することにより、これらの高精度測定値を組み合わせて、完全性の高い高精度位置解を導出することができるので、この場合も同じように慣性ナビゲーションユニットを使用して、異なる時刻に採取される測定値の差を埋めることができる。
【0045】
図3は、ユーザの視点からの典型的な幾何学的通過軌道を示している。複数のイリジウム衛星は円弧状に数分の時間間隔で飛行する。マルチパスは普通、最大の誤差原因となる。イリジウム衛星の搬送波位相を使用して測距誤差を任意の小さい値にすることができる−−ユーザが空を見通すことができる場合には、センチメートルレベルにすることができる。残念なことに、生の測距誤差は、屋内で測位する場合には略20〜30mに増大する。イリジウム衛星は、空中を大きい角度で円弧状に飛行するので、空間ダイバーシチを利用することにより、この屋内マルチパス誤差のほとんどを平均化して小さくすることが可能である。実験的なGPS衛星の性能との類似性から、イリジウムの性能がどのようになる可能性があるかについて、パラメータをスケーリングすることにより予測することができる。イリジウム衛星測定値の相関時間は約10秒であると推定され;10分間の通過時間に亘って、受信機は略60個の「個別の」測定値を収集することができることを意味する。従って、測距精度は多分、略4メートル(生の測距精度を60の平方根で除算した値)にまで向上させることができる。
【0046】
図3に示すように、コールドスタート初期化60では、第1イリジウム衛星の通過軌道を使用して、ユーザ68の位置に対して天頂方向62を有するイリジウム衛星の楕円軌道64の局部断面を定義する。慣性測定ユニット36による慣性ナビゲーションによって、ユーザ68の位置に対する図示の1回目通過66後の位置共分散を生成する。LEO衛星の軌道の角度をLEO衛星の楕円軌道64内で高速に変化させることにより、当該LEO衛星の楕円軌道64内のLEO衛星によって許容可能な位置推定値を高速に収束させることができる。
【0047】
システム構造は、固く結合させたGPS慣性ユニットに類似する。しかしながら、図4に示すように、システム100は、カルマンフィルタ150を使用して1度に1つという少ない数の距離測定値しか処理しないようになっている。動的な用途の場合、MEMS慣性基準ユニット(IRU)102がシステムに接続され、IRU102に誤差前処理を誤差前処理ユニット105内で施す。更に厳しい用途では、慣性グレードIRUが望ましい。
【0048】
適切なIRU102の汎用モデルは、ストラップダウン慣性ナビゲーションシステムを含む。ストラップダウン慣性ナビゲーションシステムは、移動体本体に固く固定される。従って、ストラップダウン慣性基準ユニットは、本体と一緒に移動することにより、これらの基準ユニットのジャイロに、動いている本体と同じ角速度変化が生じ、これらのジャイロは、同じ角速度変化を測定する。ストラップダウン慣性基準ユニットは、加速度計を含むことにより、本体の固定軸に関する線形速度の変化を測定する。本体のこれらの固定軸は、一定慣性座標系とは異なり、移動座標系として機能する。ナビゲーションコンピュータは、ジャイロの角度情報、及び加速度計の線形情報を使用して、慣性基準座標系における本体の3次元運動を計算する。
【0049】
IRU102は慣性加速度を検出し、この慣性加速度をIRU102が、回転加速度として出力する。回転加速度ベクトル情報は、エラープリプロセッサ105に転送される。慣性エラープリプロセッサ105は、スケールファクタ及びアライメントエラーを含む、予め較正されたパラメータを補正する。次に、補正済み測定値を時間更新ブロック108及び111を介して渡して、加速度計のバイアス状態値、及びジャイロのバイアス状態値を加算し、ストラップダウンIRU102の測定値を積分して位置ベクトル、速度ベクトル、及び姿勢ベクトルを導出する。
【0050】
同相座標変換プロセッサ114及び四元座標変換プロセッサ117では、ベクトル変換xI及び姿勢運動が、ユーザプラットフォームの3行3列の姿勢回転行列Aによって表わされる。ユーザプラットフォームのボディ座標系におけるアンテナ取り付けレバーアームb 120に関するこれまでの情報により、同相座標変換プロセッサ114及び四元座標変換プロセッサ117から出力される慣性信号を使用して、アンテナ運動を衛星の視線に投影して
をプロセッサ126において導出することができる。プロセッサ126の出力は、複素数のリアルタイム位相補正値である。位相補正では、短時間のユーザ運動を全て減算し、LEO信号に関する積分時間を、このようなLEO信号が利用可能な場合に長くすることができる。
【0051】
LEO(本実施形態の場合、IRIDIUM)のLEO受信機側では、受信機132は、搬送波信号をLEO衛星から受信する。本実施形態では、ユーザ装置の近傍に位置する基準地上局で受信される第2搬送波信号が更に、当該地上局位置の正確な位置を表わすものとして任意のデータリンク135で受信される。第2搬送波信号によって、確実に、LEO衛星からの搬送波信号を高速に積分することができ、更に、LEOエラープリプロセッサ138の動作が可能になる。
【0052】
慣性側と同じように、LEOエラープリプロセッサ138は、スケールファクタ及びアライメントエラーを含む、予め較正されたパラメータを補正する。更に、LEOエラープリプロセッサ138は、伝播に起因する誤差を、任意のデータリンク135で受信される情報に基づいて補正する。エラープリプロセッサ138は、大気圏/電離層の影響、時間タグの一致、及びブレンディングコード及び搬送波に関するような補正を行なう。
【0053】
バイアス状態時間更新ブロック141、144、147、及び151では、スカラー受信機クロック推定値及びクロックバイアス推定値を生の測定値に適用する。別のバイアスブロック154では、プロセッサ126の出力を使用して、短時間のユーザ運動を全て減算し、LEO信号に関する積分時間を、このようなLEO信号が利用可能な場合に長くすることができる。補正されたLEO位置は、カルマンフィルタ157に転送される状態になる。本実施形態では、コンピュータ54は、17ステートカルマンフィルタ推定を実行して:位置(3軸)、速度(3軸)、加速度計バイアス(3軸)、姿勢(3軸)、ジャイロバイアス(3軸)、クロックバイアス、及びクロックドリフトの解を導出する。
【0054】
共分散時間更新器160は、状態共分散推定値を送出する。各所定のLEO衛星の視線にプロセッサ126によって投影される推定慣性位置を、LEO衛星までの測定距離と比較して、測定更新をカルマンフィルタ157に対して行なう。
【0055】
図5を参照すると、ユーザ装置の正確な位置を衛星利用ナビゲーションシステムにおいて推定する方法200が提供される。ブロック201では、ユーザ装置は、送信搬送波信号を一連のLEO衛星から受信する。ブロック204では、ユーザ装置は、これらの搬送波信号を処理して、一連のLEO衛星からの地理的に多様なユーザ搬送波位相情報を含むユーザ搬送波位相情報を取得する。ブロック207では、ユーザ装置は、慣性位置フィックスを取り出す。ブロック210では、ユーザ装置の正確な位置を、慣性位置フィックス及びユーザ搬送波位相情報に基づいて決定する。ブロック213では、ユーザ装置は、一連のLEO衛星から、ユーザ搬送波情報を慣性位置に基づいて導出して、ユーザ搬送波位相情報の整数倍の曖昧さを解く。
【0056】
好適な実施形態では、方法200において、搬送波信号を基準局で追跡して、基準搬送波位相情報を取得する。基準搬送波位相情報は、一連のLEO衛星からの地理的に多様な基準搬送波位相情報を含む。ブロック216では、ユーザ装置は、位置計算の精度を、基準搬送波位相情報に基づいて高める。好適な実施形態では、当該方法において更に、近似ユーザ位置及びクロックオフセットを、一連のナビゲーション衛星から受信するコード位相信号を使用して推定する。
【0057】
好適には、微分コード位相計測技術を使用して、慣性推定の精度を向上させる。当該方法の好適な実施形態はまた、更に別の有利な技術を含み、これらの技術では、例えば:ユーザ受信機回路及び基準受信機回路における搬送波信号の間の周波数に依存する位相遅延差を補正する、ナビゲーション搬送波情報及びLEO搬送波情報を、ユーザ受信機及びLEO信号発信源の予測運動に依存して選択される所定の時間間隔内で読み出す、LEO発振器の不安定性を、ナビゲーション衛星情報を使用して較正する、ベントパイプLEO通信アーキテクチャに起因する位相外乱を補正する、ユーザ受信機及び基準受信機における発振器の不安定性を補正する、現在の基準搬送波位相情報を、過去の基準搬送波位相情報に基づいて予測する、位置計算の完全性をモニタリングする。
【0058】
環境に依存するが、全ての状態(ヨー姿勢のような)が、全ての時点において観測可能である必要がある訳ではない。イリジウムの軌道形状−−特に、大きい角度の頭上の高速運動−−により、当該システムは、収束時に、出力の位置成分が、効果的に必ず、イリジウム衛星による距離測定値の精度に収まるように観測可能であることを保証する。高性能搬送波距離測定が行なわれようとする場合、任意の未確定な状態のバイアスを、図4に示すように、各LEO衛星に対応して1つ加算することにより、整数倍の曖昧さを解決する。
【0059】
本開示に関する説明
以下の記述では、多くの詳細を示して、システムに関する更に完全な説明を行なう。しかしながら、この技術分野の当業者であれば、開示するシステムを、これらの特定の詳細を知ることなく実施することができることが理解できるであろう。他の例では、公知の特徴を詳細に記述してシステムが不必要に不明瞭になってしまうことがないようにしている。
【0060】
図6は、地球610を周回する複数の宇宙船(SV)600を示している。複数のSV600は、これらには限定されないが、衛星、高高度飛行無人機(UAV)、又は他のいずれかの適切な飛行体を含むことができる。地球上のユーザ装置は、アンテナ及びコンピュータシステムを含むことにより、信号を複数のSV600から受信し、これらの信号を処理して、ユーザ装置の位置を決定することができる。幾つかの実施形態では、ユーザ装置は出力デバイス;例えば位置を可視化するディスプレイ、及び/又は位置データを外部コンピュータシステムに転送する接続バスを含むことができる。
【0061】
幾つかの実施形態では、これらの信号を変調する、又は純粋な搬送波信号とすることができるのに対し、他の実施形態では、これらの信号は、これらのSV600の位置データを含むことができる。幾つかの実施形態では、全地球測位システム(GPS)の衛星は、空間内のGPSの位置、及びデータ信号が送信された時刻を表わす時刻信号を含むデータ信号を継続的に送信することができる。GPS衛星とユーザ装置との時間差(すなわち、信号がGPS衛星からユーザ装置に到達するために要する時間)を使用して、各GPS衛星に対するユーザ装置の位置を計算することができる。その結果、地球上のユーザ装置の位置を座標系で求めることができる。幾つかの実施形態では、座標系は、地球中心地球固定(ECEF)座標系とすることができる。
【0062】
幾つかの実施形態では、地球上のユーザ装置の計算位置の精度は、時刻信号の精度に依存し得る。図7に示すように、ユーザ装置の時刻信号、及びGPS衛星の時刻信号が、完全に同期している場合、ユーザ装置は、信号の到達時間及び厳密な位置Aを決定することができる。ユーザ装置の時刻信号、及びGPS衛星の時刻信号が、図8に示すように、ほんのわずかだけずれている場合、ユーザ装置の位置は、ポイントBで定義される三角形で示される特定範囲内に推定することができる。時刻信号が同期しない現象は、図9に示すような信号の反射900、及び/又は図10に示すような大気/天候条件1000にも起因し得る。
【0063】
幾つかの実施形態では、ユーザ装置は、LEO衛星からの搬送波信号を処理して、ユーザ装置の位置を決定することができる。幾つかの実施形態では、これらのLEO衛星は、イリジウムシステムにおいて使用される衛星のような通信衛星である。幾つかの実施形態では、これらのLEO衛星は、GPS衛星よりも強い強度で送信を行なうことができる。その結果、これらの搬送波信号をユーザ装置が、これらのGPS衛星からの信号を利用することができなくなる場合でも受信することができる。
【0064】
幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置は、これらのSVの搬送波信号に基づいて、スナップショット計算を利用して決定することができる。ユーザ装置は、搬送波信号を処理して、搬送波位相情報を取得することができる。搬送波位相情報は、位相信号、位相信号の平均勾配値、時間バイアス、及び周波数バイアスを含むことができる。幾つかの実施形態では、搬送波位相情報は、反復プロセスから取得することができる。搬送波信号は、周期的に及び/又は継続的にサンプリングすることができる。幾つかの実施形態では、約10秒の搬送波信号の相関時間は、高信頼度の搬送波位相情報を取得するために十分であり得る。スナップショット計算では、搬送波位相情報を使用して、ユーザ装置の現在位置を計算することができる。
【0065】
これらのSVからの搬送波信号を利用することができなくなる場合、前回位置を使用してユーザ装置の位置を推定することができ、この操作は追尾維持(track maintenence)とも呼ばれる。幾つかの実施形態では、追尾維持を行なって、現在位置から外挿によって将来位置を推定することができる。追尾維持では、拡張カルマンフィルタ(EKF)状態推定器を利用することができる。EKF状態推定器は、ランダムプロセスの動的変化(すなわち、ユーザ装置の任意の動き)をモデル化することができる。幾つかの実施形態では、EKF状態推定器は、ユーザ装置の速度を利用することができる。幾つかの実施形態では、ユーザ装置の速度は、地動速度とすることができるのに対し、他の実施形態では、当該速度は、音速よりも速い速度を含むことができる。幾つかの実施形態では、EKF状態推定器は、ユーザ装置の速度が音速よりも速い場合に慣性システムを利用することができる。EKF状態推定器は、ユーザ装置の位置を、測位計算を実行することができない場合に高信頼度で予測することができる。
【0066】
幾つかの実施形態の追尾維持では、ユーザ装置の状態を考慮に入れることができる。1つの実施形態では、ユーザ装置の状態は、ユーザ装置の位置、ユーザ装置の速度、ユーザ装置の時間バイアス、及び/又はユーザ装置の周波数バイアスを含むことができる。
【0067】
幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置を決定する異なる方法の階層を用いることができる。当該階層は、GPS衛星からの信号を使用する方法、GPS衛星以外のSVからの信号を使用する方法、及び/又は追尾維持を行なう方法を含むことができる。図11は、ユーザ装置の位置を本発明の1つの実施形態に従って決定するプロセスのフローチャート1100を示している。幾つかの実施形態では、測位方法の階層は、ユーザ装置の用途又は使命に固有の階層とすることができる。図11では、まず、GPS信号が受信されるかどうかを判断する(1110)。GPS信号が受信される場合、ユーザ装置の位置を決定する(1120)。しかしながら、GPS信号が受信されない場合、イリジウム衛星信号が受信されるかどうかを判断する(1130)。
【0068】
イリジウム衛星信号が受信されない場合、ユーザ装置の位置を、ユーザ装置の速度を利用するカルマンフィルタ計算に基づいて推定する(1140)。しかしながら、イリジウム衛星信号が受信される場合、時間バイアス及び周波数バイアスを計算する(1150)。時間バイアス及び周波数バイアスを計算した後、推定位置の関数として予測される測定誤差の指数であるコスト関数を計算する(1160)。そして、コスト関数を計算した後、ユーザ装置の位置を、コスト関数を最小にすることにより決定する(1170)。
【0069】
図12は、ユーザ装置と異なるSV(宇宙船)との間の信号伝送の様子を示している。図12は、スナップショット計算を説明するために使用することができる。ベクトルXUは、原点Oから、受信機と表記することもできるユーザ装置
に向かうことができる。既知の伝送時間t中、SVは、ベクトルXt,SVで表わすことができる位置に位置することができる。SVは、信号をユーザ装置
に送信して、ユーザ装置がSVを一意的に特定することができるようにする。既知の伝送時間t中のユーザ装置とSVとの間の距離は、距離rt,SVと表記することができる。距離rt,SVは、ベクトルXUとベクトルXt,SVとの差ベクトルの長さであると見なすことができる。既知の伝送時間中、SVは、速度
で飛行することができるので、距離変化率
は、
として定義することができる。
【0070】
距離rt,SV及び距離変化率
の精度は、多くの影響により低下し得る。幾つかの実施形態では、ユーザ装置の位置を計算する方法において、時間バイアスbt,u、周波数バイアス
、及びランダム測定誤差εt、ηtを利用することができる。時間バイアスbt,uは、時間ドリフトであると見なすことができ、周波数バイアス
は、周波数オフセットであると見なすことができる。擬似距離ρt,SV及び擬似距離変化率
は、各SVに対応して次のように定義することができる:
上式では、ランダム測定誤差εt、ηtは、ユーザ装置及びSVに固有の誤差とすることができる。
【0071】
時間バイアスbt,uは、
により定義される多項式によって時間近似することができる。多項式の次数Nは、いずれの整数とすることもできる。幾つかの実施形態では、多項式の次数は、ユーザ装置の利用可能な計算能力によって決定される。多項式の係数qnは、時間から独立であるとすることができる。幾つかの実施形態では、多項式の係数qnは一定とすることができる。周波数バイアス
は、時間バイアスbt,uを時間に関して微分することにより、
が得られる。
【0072】
非線形最小二乗法を用いて、擬似距離ρt,SV及び擬似距離変化率
を、コスト関数Jcostを最小にすることにより推定することができ、コスト関数Jcostは次の通りに定義することができる。
上式では、次のような関係がある。即ち、
qu=[q0 q1 ・・・ qN]T、かつRt,SVは測定誤差共分散行列又は他の重み行列である。
【0073】
幾つかの実施形態では、非線形最小二乗法を用いて、時間バイアスbt,u及び周波数バイアス
を推定することができる。時間バイアスの推定値は、
と記号で表わすことができ、周波数バイアスの推定値は、
と記号で表わすことができる。これらの推定値を計算するために、コスト関数Jcostの次元を2次元に、すなわち緯度及び経度に低減することができるが、その理由は、係数qnが、擬似距離ρt,SV及び擬似距離変化率
に線形依存するからである。
【0074】
コスト関数Jcostの次元を2次元に低減するために、線形最小化問題の補助問題を解くことができる。この目的のために、係数qnを含むベクトルquは次のように書き直すことができる。
上式では、次のような関係がある。
及び
【0075】
コスト関数Jcostのベクトルquを置き換えることにより、
測定値
、モデル残差
及び
の分散を関連付ける誤差共分散行列
の項の次元を低減したコスト関数
が得られる。次に、バイアス推定値及びバイアス変化率推定値を、
として取り出し、この場合、
及び
の関係がある。幾つかの実施形態では、コスト関数Jcostの次元を低減することにより、計算時間を大幅に短くすることができる。
【0076】
高度を無視すると、ユーザ装置の位置Xuは、緯度y1及び経度y2のみの関数とすることができる。
上式では、
であり、WGS−84地球モデル(図12)に基づいて、aは、地球楕円体の長軸であり、bは、地球楕円体の短軸である。
【0077】
幾つかの実施形態では、緯度y1及び経度y2は、Newton Raphson(ニュートンラフソン)法のような反復法で、
を解くことにより見積もることができ、上式では、yは、y1及びy2を成分として有するベクトルであり、kは反復ステップであり、Dkは勾配偏差行列であり、
は、次元を低減したコスト関数
の勾配である。
【0078】
勾配偏差行列Dkは、次元を低減したコスト関数
のヘシアン逆行列
とすることができ、このヘシアン逆行列は、各反復ステップkで見積もる必要がある。その結果、Dkの見積もりは、大きな計算能力を必要とする。
【0079】
図13及び14は、次元を低減したコスト関数
の表面プロットを示しており、これらの表面プロットは、3つの異なるSV、及び4つの異なるSVのそれぞれからの信号を用いて計算される。これらの表面は関数の変化を正確に表現しているので、幾つかの実施形態の勾配偏差行列は、yに関する1次微分しか含まない
によって近似することができる。その結果、スナップショット計算の計算時間を大幅に短くすることができる。
【0080】
反復ステップは、ユーザ装置の位置の最初の推測値で初期化することができる。幾つかの実施形態では、地球に投影される1つ以上のSVビーム位置の重み平均を初期推測値として使用することができるのに対し、他の実施形態では、地球に投影される1つ以上のSV位置の重み平均を初期推測値として利用することができる。反復ステップが所望の精度で収束したら、スナップショット計算を完了させることができ、ユーザ装置の(瞬時)位置Xuが、時間バイアス及び周波数バイアスの推定値とともに得られる。
【0081】
ユーザ装置の位置を予測及び/又は推定するために、EKF状態推定器は、ユーザ装置の(変化している)位置を追尾することができる。ユーザ装置の状態ベクトルxtは、
として定義することができ、上式では、Xt,uは、時点tの位置Xuであり、
は、時点tでのユーザ装置の速度であり、bt,u及び
は、上述のように、スナップショット計算に対応して定義される。幾つかの実施形態では、EKF状態推定器は、複数のユーザ装置を同時に追尾することができる。
【0082】
幾つかの実施形態では、EKF状態推定器は、4つの異なる補助ステップ、すなわち状態を外挿するステップ、共分散を外挿するステップ、状態を更新するステップ、及び共分散を更新するステップを含むことができる。状態ベクトルxt自体は、ランダムプロセスとして、方程式xt=Φt,τxτ+ξτに従ってモデル化することができ、この方程式では、Φt,τは状態遷移行列であり、ξτは、プロセスノイズの共分散行列Qt,τである。
【0083】
共分散行列Qt,τを使用してEKF状態推定器を調整することにより、良好な一致を達成することができる。共分散行列Qt,τは、プロセスノイズ又は拡散行列と見なすことができる。状態ベクトルxtから、ユーザ装置の位置及び速度が明らかになるので、無視されるユーザ装置加速度は、共分散行列Qt,τによって補正することができる。幾つかの実施形態では、共分散行列Qt,τは次のように定義することができる。
上式では、Γ=[u1 u2 u3]Λ[u1 u2 u3]T、
であり、uiは単位ベクトルであり、τmは運動時定数であり、σdは、バイアス加速度の不確定性であり、σxyは平面運動の不確定性であり、σzは、垂直運動の不確定性である。
【0084】
単位ベクトル[u1 u2 u3]を、ユーザ装置の位置の推定値Xt,uを中心とする局所接平面に対して配向することができる。幾つかの実施形態では、単位ベクトルuiは、スナップショット計算により計算される初期位置推定値を中心として見積もることができ、追尾維持全体を通じて一定のままとすることができる。共分散行列Qt,τ及び/又は不確定性σiの成分は、実験的に導出することができる。
【0085】
状態を外挿するステップに続いて、状態遷移行列Φt,τを、幾つかの実施形態では、
として定義することができ、上式では、Iは恒等行列であり、(t−τ)は外挿時間区間である。幾つかの実施形態では、状態遷移行列Φt,τは、状態ベクトルxtに対応する線形予測としてモデル化することができる。
【0086】
幾つかの実施形態では、測定モデルは、スナップショット計算、すなわちZt,SVに関して上に説明したモデルと略同じとすることができる。測定ベクトルztは、
として定義することができ、上式では、
は、予測測定値を現在の状態推定値にのみ基づいて推定する関数である。前の表現式では、rt,u,SV、
は、ユーザとSVとの間の推定距離及び推定距離変化率であり、ηtは、測定ノイズの共分散行列Rtである。
【0087】
共分散を外挿するステップでは、状態ベクトルxtの予測値
は、
を用いて計算することができる。状態ベクトルxtの共分散行列Ptの予測値は、
によって見積もることができる。上の方程式では、添え字「−」は、xt及びPtの推定値が、直近の測定値によって更新されていないことを示している。共分散を更新するステップ(添え字「+」で示す)では、このデータを使用して、状態ベクトルxtに対応する新規の推定値
を計算することができる。新規の推定値
は、
を用いて計算することができる。共分散行列Ptは、
を用いて更新することができ、上式では、H(xt)は、h(xt)のヤコビ行列である。ヤコビ行列H(xt)は、
を用いて計算することができ、上式では、
は、SVからユーザ装置に向かう単位ベクトルであり、
は、ユーザ装置とSVとの間の相対速度であり、
は、SVからユーザ装置までの距離変化率である。
【0088】
幾つかの実施形態では、共分散を外挿するステップ、及び共分散を更新するステップは、状態ベクトルxt及び共分散行列Ptの予測−補正ステップ方法と見なすことができる。ユーザ装置の状態ベクトルxtを計算するために、幾つかの実施形態のEKF状態推定器は、異なる外挿時間区間を使用することができる。幾つかの実施形態では、状態ベクトルxtに関する正確な結果を取得するためには、数秒の相関時間で十分である。
【0089】
幾つかの実施形態では、追尾維持から、信頼のおける結果が閉塞環境において得られる。種々の種類の閉塞環境として、他の測位システムからの信号がジャミングされる、又はそれ以外の場合として、利用することができない環境を挙げることができる。幾つかの実施形態では、閉塞環境は、建物、地下室、トンネル、洞穴のような屋内環境、及び海中を含むことができる。幾つかの実施形態では、イリジウムシステムに関して得られるスナップショット計算の精度は、3つのSV及び閉塞環境の場合に約1,200メートルであり、4つのSV及び閉塞環境の場合に約400メートルであり、4つのSV及び見通しの良い環境の場合に約32メートルである。
【0090】
本開示の異なる目的及び利点について説明した。全てのこのような目的又は利点が、必ずしも、本開示のいずれかの特定の例に従うことによって達成することができる訳ではないことを理解されたい。この技術分野の当業者であれば、本開示は、1つの利点、又は利点を、他の目的又は利点を示唆又は提案の通り達成する必要を伴うことなく、本明細書において提供される示唆の通り達成する、又は最適化するように具体化する、又は実行することができることを理解できるであろう。
【0091】
方法及びシステムを、何が現時点で最も実用的かつ好適な例であると考えられるかという観点から説明してきたが、本開示は、開示されるこれらの例に限定される必要がないことを理解されたい。本開示は、請求項の思想及び範囲に含まれる種々の変形、及び同様の構成を包含するものであり、これらの請求項の範囲は、全てのこのような変形及び同様の構造を包含するように最も広義の解釈が為されるべきである。本開示は、以下の請求項のいずれの例も含み、かつ以下の請求項の全ての例を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ装置の追尾維持を行なう方法であって、
信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することと、
ユーザ装置の位置を受信信号に基づいて取得することと、
拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いて、ユーザ装置の位置、及びユーザ装置の速度を推定することと、
追尾維持のためにユーザ装置の状態の推定値を取得することと
を含む方法。
【請求項2】
ユーザ装置の位置を取得することが、スナップショットを計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スナップショットを計算すること、及び拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることのうちの少なくとも一方では、擬似距離測定モデル及び擬似距離変化率測定モデルを計算する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
擬似距離測定モデル及び擬似距離変化率測定モデルの計算では非線形最小二乗法を用いる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
スナップショットを計算すること、及び拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることのうちの少なくとも一方の実行では、時間バイアス及び周波数バイアスを計算する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
時間バイアス及び周波数バイアスの計算では線形最小二乗法を用いる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
時間バイアスの計算では時間バイアスを多項式で近似する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
周波数バイアスの計算では時間バイアスを時間に関して微分する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
時間バイアス及び周波数バイアスが、ユーザ装置の位置の明示的関数として表現される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
時間バイアス及び周波数バイアスの表現では、独立状態としてバイアス項を取り除くことにより非線形最小二乗コスト関数を変形して、独立変数の数をユーザ装置の位置の変数のみに減らす、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
信号が低軌道地球周回(LEO)衛星から受信される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
LEO衛星がイリジウムシステムの一部である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ユーザ装置の状態が、ユーザ装置の位置、ユーザ装置の速度、時間バイアス、及び周波数バイアスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ユーザ装置の状態の推定値の取得では、ユーザ装置の位置の緯度及び経度を見積もる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
閉塞環境における測位計算方法であって、
信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することと、
信号の時間バイアス及び周波数バイアスを含む擬似距離及び擬似距離変化率を計算することと、
擬似距離及び擬似距離変化率を含むコスト関数を最小化して位置を取得することと
を含む方法。
【請求項16】
コスト関数が擬似距離と擬似距離変化率との積を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
擬似距離及び擬似距離変化率の計算では非線形最小二乗法を用いる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
時間バイアス及び周波数バイアスの計算では線形最小二乗法を用いる、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
時間バイアス及び周波数バイアスが、ユーザ装置の位置の明示的関数として表現される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
時間バイアス及び周波数バイアスの表現では、独立状態としてバイアス項を取り除くことによりコスト関数を変形して、ユーザ装置の位置の変数のみに独立変数の数を減らす、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
信号がLEO衛星から受信される、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
LEO衛星がイリジウムシステムの一部である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
閉塞環境が、屋内環境、ジャミング環境、及び信号が偶発的又は意図的な高周波干渉によって劣化する他の環境のうちの少なくとも1つの環境を含む、請求項15記載の方法。
【請求項24】
ユーザ装置の位置の取得が、緯度及び経度情報に基づいて行なわれる、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つの宇宙船から信号を受信することができるアンテナと、
受信信号を処理して、時間バイアス及び周波数バイアスを計算することができるコンピュータシステムであって、時間バイアス及び周波数バイアスを使用してユーザ装置の位置を決定するコンピュータシステムと
を備えるユーザ装置。
【請求項26】
コンピュータシステムが、アンテナが少なくとも1つの宇宙船の信号を受信しない場合に、拡張カルマンフィルタによる状態推定を行なってユーザ装置の速度を推定することにより、ユーザ装置の位置を推定する、請求項25に記載のユーザ装置。
【請求項27】
コンピュータシステムが出力デバイスを更に備える、請求項25に記載のユーザ装置。
【請求項1】
ユーザ装置の追尾維持を行なう方法であって、
信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することと、
ユーザ装置の位置を受信信号に基づいて取得することと、
拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いて、ユーザ装置の位置、及びユーザ装置の速度を推定することと、
追尾維持のためにユーザ装置の状態の推定値を取得することと
を含む方法。
【請求項2】
ユーザ装置の位置を取得することが、スナップショットを計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スナップショットを計算すること、及び拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることのうちの少なくとも一方では、擬似距離測定モデル及び擬似距離変化率測定モデルを計算する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
擬似距離測定モデル及び擬似距離変化率測定モデルの計算では非線形最小二乗法を用いる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
スナップショットを計算すること、及び拡張カルマンフィルタ状態推定器を用いることのうちの少なくとも一方の実行では、時間バイアス及び周波数バイアスを計算する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
時間バイアス及び周波数バイアスの計算では線形最小二乗法を用いる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
時間バイアスの計算では時間バイアスを多項式で近似する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
周波数バイアスの計算では時間バイアスを時間に関して微分する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
時間バイアス及び周波数バイアスが、ユーザ装置の位置の明示的関数として表現される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
時間バイアス及び周波数バイアスの表現では、独立状態としてバイアス項を取り除くことにより非線形最小二乗コスト関数を変形して、独立変数の数をユーザ装置の位置の変数のみに減らす、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
信号が低軌道地球周回(LEO)衛星から受信される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
LEO衛星がイリジウムシステムの一部である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ユーザ装置の状態が、ユーザ装置の位置、ユーザ装置の速度、時間バイアス、及び周波数バイアスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ユーザ装置の状態の推定値の取得では、ユーザ装置の位置の緯度及び経度を見積もる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
閉塞環境における測位計算方法であって、
信号を少なくとも1つの宇宙船から受信することと、
信号の時間バイアス及び周波数バイアスを含む擬似距離及び擬似距離変化率を計算することと、
擬似距離及び擬似距離変化率を含むコスト関数を最小化して位置を取得することと
を含む方法。
【請求項16】
コスト関数が擬似距離と擬似距離変化率との積を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
擬似距離及び擬似距離変化率の計算では非線形最小二乗法を用いる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
時間バイアス及び周波数バイアスの計算では線形最小二乗法を用いる、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
時間バイアス及び周波数バイアスが、ユーザ装置の位置の明示的関数として表現される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
時間バイアス及び周波数バイアスの表現では、独立状態としてバイアス項を取り除くことによりコスト関数を変形して、ユーザ装置の位置の変数のみに独立変数の数を減らす、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
信号がLEO衛星から受信される、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
LEO衛星がイリジウムシステムの一部である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
閉塞環境が、屋内環境、ジャミング環境、及び信号が偶発的又は意図的な高周波干渉によって劣化する他の環境のうちの少なくとも1つの環境を含む、請求項15記載の方法。
【請求項24】
ユーザ装置の位置の取得が、緯度及び経度情報に基づいて行なわれる、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つの宇宙船から信号を受信することができるアンテナと、
受信信号を処理して、時間バイアス及び周波数バイアスを計算することができるコンピュータシステムであって、時間バイアス及び周波数バイアスを使用してユーザ装置の位置を決定するコンピュータシステムと
を備えるユーザ装置。
【請求項26】
コンピュータシステムが、アンテナが少なくとも1つの宇宙船の信号を受信しない場合に、拡張カルマンフィルタによる状態推定を行なってユーザ装置の速度を推定することにより、ユーザ装置の位置を推定する、請求項25に記載のユーザ装置。
【請求項27】
コンピュータシステムが出力デバイスを更に備える、請求項25に記載のユーザ装置。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−524273(P2012−524273A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506000(P2012−506000)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/031649
【国際公開番号】WO2010/123834
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/031649
【国際公開番号】WO2010/123834
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】
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