説明

受精卵品質評価支援システム、受精卵品質評価支援装置および受精卵品質評価支援方法

【課題】受精卵を保持することなく撮像された画像のみを用いて、受精卵内の細胞を識別することなく受精卵の品質評価に有益な情報を提示する受精卵品質評価支援システムを提供する。
【解決手段】受精卵品質評価支援システム1は、受精卵観察装置2、受精卵品質評価支援装置3から構成される。受精卵品質評価支援装置3は、受精卵観察装置2によって撮像される画像を記憶する時系列画像記憶手段31、時系列画像記憶手段31に記憶された時系列画像から受精卵画像を抽出する受精卵画像抽出手段32、二つの受精卵画像を比較し、活性部位を抽出する活性部位抽出手段33、受精卵の特徴量を算出する特徴量算出手段34、受精卵の特徴量を解析する特徴量解析手段35、処理結果を記憶する処理結果記憶手段36、処理結果を表示する処理結果表示手段37等を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
受精卵を撮像する撮像部を有する受精卵観察装置と、前記受精卵観察装置とデータの送受信を行うコンピュータとから構成され、受精卵の品質評価を支援する受精卵品質評価支援システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
牛などの受精卵をインキュベータ内で培養し、移植可能なステージまで発育させる技術が知られている。牛の体外受精卵の場合、従来は、熟練者が培養7日目に受精卵をインキュベータから取り出し、顕微鏡で観察することで、受精卵の最終品質を評価していた。
【0003】
図26は、牛受精卵の品質コードを示す図である。熟練者は、受精卵を顕微鏡で観察して各特徴(発育ステージ、変性部位、形状、透明体)を判断し、用途に応じて品質コードを決定する。ここでの変性部位とは、細胞が異常である、あるいは死滅した部位である。
【0004】
図27は、牛の妊娠後の日数と受精卵の発育ステージを示す図である。図27に示すように、受精卵は、卵割(1細胞卵−>2細胞卵−>4細胞卵−>8細胞卵)を経て、妊娠後5〜6日後に桑実胚となる。そして、後期桑実胚−>初期胚盤胞−>胚盤胞の過程において、受精卵が拡張収縮するラプチャーが発生する。
【0005】
しかし、インキュベータから取り出して観察することは、受精卵にとって大きなストレスとなる。そこで、受精卵をインキュベータから取り出さずに、受精卵の品質を評価する仕組みが考えられている(特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1では、試料保持装置を操作して顕微鏡視野の中心に位置するように胚を移動させて胚の大きさを計測するとともに、形態観察を行い、計測・観察結果に基づいて酸素消費量を計測することで、胚の品質を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3693907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、撮像ごとに人間が試料保持装置を操作し、受精卵を保持する必要がある。従って、受精卵を経時的に撮像することができず、発育状態の変化を観察することはできない。
【0009】
また、別の課題として、撮像された画像から、卵割した細胞間の境界を判別することが困難であることが挙げられる。例えば、輪郭強調処理を行っても、細胞間の境界を正確に抽出することは難しい。従って、画像処理によって細胞を識別し、細胞ごとの特徴量に基づいた品質評価を行う場合、この課題を解決しなければ精度の高い品質評価を行うことができない。
【0010】
また、目視による評価は、評価者ごとにばらつきが生じてしまう為、撮影画像のみから得られる情報で評価を行うことが望ましい。そのためには、撮影画像から得られる情報として、受精卵の大きさ以外にも多くの定量的な情報が必要となる。
【0011】
また、現在では、従来の評価方法(培養7日目に熟練者が観察評価する方法)に変わり、発育ステージへの到達時間やラプチャーの発生回数や回復時間といった発育途中の情報を品質評価に用いるという研究が行なわれている。従って、このような発育途中の情報が撮影画像のみから得られると非常に有益である。
【0012】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、受精卵を保持することなく撮像された画像のみを用いて、受精卵内の細胞を識別することなく受精卵の品質評価に有益な情報を提示する受精卵品質評価支援システム等を提供することである。特に、有益な情報とは、発育ステージへの到達時間やラプチャーの発生回数や回復時間といった発育途中の情報である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために第1の発明は、受精卵を撮像する撮像部を有する受精卵観察装置と、前記受精卵観察装置とデータの送受信を行うコンピュータとから構成され、受精卵の品質評価を支援する受精卵品質評価支援システムであって、前記コンピュータは、前記受精卵観察装置によって撮像される時系列画像を記憶する時系列画像記憶手段と、時系列画像から受精卵画像を抽出する受精卵画像抽出手段と、第1時系列画像に係る受精卵画像と、第1時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後の第2時系列画像に係る受精卵画像とを比較し、対応する画素の画素値の差が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出する活性部位抽出手段と、を備えることを特徴とする受精卵品質評価支援システムである。第1の発明によって、受精卵を保持することなく撮像された画像を用いて、受精卵内の細胞を識別することなく受精卵の品質評価に有益な情報を取得することができる。特に、活性部位を抽出することによって、正常な受精卵と変性した受精卵の差異が明確な特徴量を算出することが可能となる。
【0014】
前記活性部位抽出手段は、受精卵の回転を補正して活性部位を抽出することが望ましい。これによって、正確な活性部位を抽出することができる。
【0015】
前記コンピュータは、前記活性部位抽出手段によって抽出された活性部位を他の領域と識別して表示する処理結果表示手段、を更に備えることが望ましい。これによって、受精卵の品質評価に有益な情報をユーザに提示することができる。
【0016】
前記コンピュータは、受精卵の特徴量として、前記受精卵画像抽出手段によって抽出された受精卵画像から受精卵の大きさを算出し、前記活性部位抽出手段によって抽出された活性部位の面積を算出する特徴量算出手段、を更に備えることが望ましい。また、前記コンピュータは、前記特徴量算出手段によって算出された活性部位の面積の変化量に基づいて各発育ステージまでの到達時間を特定し、前記特徴量算出手段によって算出された受精卵の大きさの変化量に基づいてラプチャーの発生時刻、回数、または回復時間のうち少なくとも一つを特定する特徴量解析手段、を更に備えることが望ましい。これによって、更に受精卵の品質評価に有益な情報を取得することができる。
【0017】
第1の発明における前記受精卵観察装置は、前記時系列画像として、撮像時刻ごとに複数のZスライス画像を撮像し、前記活性部位抽出手段は、第1Zスライス画像に係る受精卵画像と、第1Zスライス画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後であって、同一のZ位置の第2Zスライス画像に係る受精卵画像とを比較することで、全てのZ位置の活性部位を抽出するようにしても良い。これによって、受精卵の三次元的な特徴量の算出および解析を行うことができる。
【0018】
第1の発明における前記受精卵観察装置は、更に、複数の受精卵受部が形成された培養容器を備え、前記撮像部は、前記培養容器に配置された複数の受精卵を視野内に収めて前記時系列画像を撮像し、前記受精卵画像抽出手段は、前記時系列画像から複数の前記受精卵画像を抽出することが望ましい。これによって、複数の受精卵を同じ培養容器に配置しても、受精卵を取り違えることなく観察することができる。
また、前記受精卵画像抽出手段は、前記受精卵受部に起因する影領域を除外して前記受精卵画像を抽出することが望ましい。これによって、受精卵画像を正確に切り出すことができる。
【0019】
第1の発明における前記特徴量解析手段は、前記特徴量算出手段によって算出された前記受精卵の特徴量に基づいて受精卵の品質を判定することが望ましい。これによって、受精卵の品質評価を自動的に行うことができる。
前記特徴量解析手段は、例えば、前記活性部位の面積のピークの発生回数、および前記活性部位の面積が所定の閾値よりも小さい値を維持した累計時間に基づいて受精卵の品質を判定する。
【0020】
第2の発明は、受精卵を撮像する撮像部を有する受精卵観察装置とデータの送受信を行い、受精卵の品質評価を支援する受精卵品質評価支援装置であって、前記受精卵観察装置によって撮像される時系列画像を記憶する時系列画像記憶手段と、時系列画像から受精卵画像を抽出する受精卵画像抽出手段と、第1時系列画像に係る受精卵画像と、第1時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後の第2時系列画像に係る受精卵画像とを比較し、対応する画素の画素値の差が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出する活性部位抽出手段と、を備えることを特徴とする受精卵品質評価支援装置である。
【0021】
第3の発明は、受精卵を撮像する撮像部を有する受精卵観察装置と、前記受精卵観察装置とデータの送受信を行うコンピュータとが受精卵の品質評価を支援する受精卵品質評価支援方法であって、前記受精卵観察装置が時系列画像を撮像するステップと、前記コンピュータが時系列画像から受精卵画像を抽出するステップと、前記コンピュータが第1時系列画像に係る受精卵画像と、第1時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後の第2時系列画像に係る受精卵画像とを比較し、対応する画素の画素値の差が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出するステップと、を含むことを特徴とする受精卵品質評価支援方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、受精卵を保持することなく撮像された画像のみを用いて、受精卵内の細胞を識別することなく受精卵の品質評価に有益な情報を提示する受精卵品質評価支援システム等を提供することができる。特に、有益な情報とは、発育ステージへの到達時間やラプチャーの発生回数や回復時間といった発育途中の情報である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】受精卵品質評価支援システム1の概要を示す図
【図2】受精卵品質評価支援装置3を実現するコンピュータのハードウェア構成図
【図3】受精卵品質評価支援装置3の機能の概要を示すブロック図
【図4】第1の実施の形態における受精卵画像の抽出処理を示すフローチャート
【図5】活性部位の抽出処理を示すフローチャート
【図6】受精卵の回転を補正する処理を説明するための図
【図7】時系列画像の一例を示す図(マウスの受精卵)
【図8】閾値処理後の画像の一例を示す図(マウスの受精卵)
【図9】特定された候補領域を示す図(マウスの受精卵)
【図10】最小近似円領域を示す図(マウスの受精卵)
【図11】受精卵画像を示す図(マウスの受精卵)
【図12】受精卵画像の一例を示す図(マウスの受精卵)
【図13】受精卵画像の一例を示す図(マウスの受精卵)
【図14】差分の算出結果を示す図(マウスの受精卵)
【図15】閾値処理の結果を示す図(マウスの受精卵)
【図16】活性部位画像の一例を示す図(マウスの受精卵)
【図17】正常な受精卵についての特徴量のグラフ(マウスの受精卵)
【図18】変性した受精卵についての特徴量のグラフ(マウスの受精卵)
【図19】受精卵品質評価支援システム1aの概要を示す図
【図20】鉛直方向(Z方向)から見た培養リアクター6aの模式図
【図21】第1の実施の形態による画像処理を説明する図
【図22】第2の実施の形態における受精卵画像の抽出処理を示すフローチャート
【図23】複数の影領域15が連結している画像を示す図
【図24】候補領域を囲む矩形を説明する図
【図25】複数の影領域15が連結している候補領域を囲む矩形を示す図
【図26】牛受精卵の品質コードを示す図(牛の受精卵)
【図27】受精後の日数と受精卵の発育ステージを示す図(牛の受精卵)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
<第1の実施の形態>
図1は、受精卵品質評価支援システム1の概要を示す図である。図1に示すように、受精卵品質評価支援システム1は、受精卵観察装置2、受精卵品質評価支援装置3から構成される。受精卵観察装置2は、受精卵4が入り培養液5で満たされている培養リアクター(培養容器)6、培養リアクター6を照らす照明7、培養リアクター6を支持し、且つ透過像を撮像するための透明なガラス板を搭載したX移動ステージ8、カメラユニット9(撮像部)、カメラユニット9を上下方向(Z方向)に移動させるZ移動ステージ12、照明7およびカメラユニット9をY方向に移動させるY移動ステージ13からなる。カメラユニット9は、対物レンズ10、CCDカメラ11からなる。受精卵品質評価支援装置3は、例えば、汎用的なコンピュータである。
【0026】
CCDカメラ11は、対物レンズ10を介して、培養リアクター6内の受精卵4を撮像する。X移動ステージ8によって培養リアクター6をX方向に、Y移動ステージ13によってカメラユニット9をY方向に移動させることで、CCDカメラ11は、任意のXY位置における画像を撮像することができる。Z移動ステージ12によってカメラユニット9を上下方向(Z方向)に移動させることで、CCDカメラ11は、任意のZ位置におけるスライス画像を撮像することができる。
【0027】
図2は、受精卵品質評価支援装置3を実現するコンピュータのハードウェア構成図である。尚、図2のハードウェア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
【0028】
受精卵品質評価支援装置3は、制御部21、記憶部22、メディア入出力部23、通信制御部24、入力部25、表示部26、周辺機器I/F部27等が、バス28を介して接続される。
【0029】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0030】
CPUは、記憶部22、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス28を介して接続された各装置を駆動制御し、受精卵品質評価支援装置3が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部22、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部21が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0031】
記憶部22は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部21が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述する処理をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部21により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0032】
メディア入出力部23(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0033】
通信制御部24は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク19間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク19を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。
【0034】
入力部25は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部25を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0035】
表示部26は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0036】
周辺機器I/F(インタフェース)部27は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部27を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部27は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
前述の受精卵観察装置2のカメラユニット9は、周辺機器I/F部27を介して受精卵品質評価支援装置3と接続され、撮像した画像を受精卵品質評価支援装置3に送信する。
【0037】
バス28は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0038】
図3は、受精卵品質評価支援装置3の機能の概要を示すブロック図である。図3に示すように、受精卵品質評価支援装置3は、時系列画像記憶手段31、受精卵画像抽出手段32、活性部位抽出手段33、特徴量算出手段34、特徴量解析手段35、処理結果記憶手段36、処理結果表示手段37等を備える。
【0039】
時系列画像記憶手段31は、受精卵観察装置2によって撮像される画像を記憶する。受精卵観察装置2は、一定間隔(例えば、15分間隔)に受精卵4を含む画像を撮像する。これらの画像は、撮影時刻とともに時系列画像記憶手段31に時系列画像(タイムラプス画像)として記憶される。
【0040】
受精卵画像抽出手段32は、時系列画像記憶手段31に記憶された時系列画像から受精卵画像を抽出する。受精卵画像とは、時系列画像から受精卵4を含む最小近似円の領域を切り出した画像である。
【0041】
活性部位抽出手段33は、二つの受精卵画像を比較し、活性部位を抽出する。具体的には、活性部位抽出手段33は、任意の時系列画像に係る受精卵画像と、任意の時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後の時系列画像に係る受精卵画像とを比較し、対応する画素の画素値の差が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出する。複数の時系列画像を目視で確認すると、正常な部位の脂肪小滴(=画像上は黒い点)は常に移動しており、変性部位(=細胞が異常である、あるいは死滅した部位)の脂肪小滴は移動しない。このことに着眼し、本発明では、画素値が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出する。抽出された活性部位は、正常な部位と判断できる程度に変化が大きい部分である。
【0042】
ここで、活性部位を抽出する意義について説明する。
例えば、受精卵画像に含まれる全画素の画素値の平均や標準偏差といった特徴量では、活性部位として抽出されない部位(=非活性部位)の画素値も反映したものになり、正常な受精卵と変性した受精卵の差異が明確にならない場合もあると考えられる。
一方、本発明のように活性部位を抽出することで、活性部位のみに基づいた特徴量を算出することができる。活性部位のみに基づいた特徴量は、非活性部位の画素値が反映されないので、正常な受精卵と変性した受精卵の差異が明確となる。このような特徴量は、正常な受精卵と変性した受精卵の判別を容易にするものであり、受精卵の品質評価において特に有益な情報である。
【0043】
特徴量算出手段34は、受精卵4の特徴量として、例えば、受精卵画像抽出手段32によって抽出された受精卵画像から受精卵4の半径を算出し、活性部位抽出手段33によって抽出された活性部位の面積を算出する。
【0044】
特徴量解析手段35は、例えば、特徴量算出手段34によって算出された活性部位の面積の変化量に基づいて各発育ステージまでの到達時間を特定し、特徴量算出手段34によって算出された受精卵4の半径の変化量に基づいてラプチャーの発生時刻、回数、および回復時間を特定する。
【0045】
処理結果記憶手段36は、受精卵画像抽出手段32、活性部位抽出手段33、特徴量算出手段34、特徴量解析手段35の処理結果を記憶する。受精卵画像抽出手段32の処理結果は、抽出された受精卵画像である。活性部位抽出手段33の処理結果は、例えば、抽出された活性部位の位置を示すデータである。特徴量算出手段34の処理結果は、例えば、受精卵4の半径、活性部位の面積である。特徴量解析手段35の処理結果は、例えば、各発育ステージまでの到達時間、ラプチャーの発生時刻、回数、および回復時間である。
【0046】
処理結果表示手段37は、処理結果記憶手段36に記憶される処理結果を表示部26に表示する。特に、処理結果表示手段37は、活性部位抽出手段33によって抽出された活性部位を他の領域と識別して(例えば、色分けするなどして)表示する。
【0047】
図4は、第1の実施の形態における受精卵画像の抽出処理を示すフローチャートである。図4に示すフローチャートでは、受精卵画像抽出手段32が、S101〜S108を実行する。また、処理結果記憶手段36が、S109を実行する。また、特徴量算出手段34および処理結果記憶手段36が、S110を実行する。
尚、後述する図7〜図11は、マウスの受精卵を撮像した画像について、図4の各ステップに示す処理を施したものである。
【0048】
受精卵品質評価支援装置3の制御部21は、記憶部22に記憶されている時系列画像をRAMに読み込む(S101)。尚、制御部21は、記憶部22に記憶される前、すなわち撮影直後にRAMに保持される時系列画像を以下の処理に用いることもできる。
図7は、時系列画像の一例を示す図である。中央やや右上に位置する小円の領域が受精卵である。本発明では、目視に頼ることなく受精卵の品質評価を支援する情報を提供する。その為、制御部21は、図4に示す処理を行うことによって、RAMに読み込んだ時系列画像に含まれる受精卵の領域を切り出し、受精卵画像として抽出する。
【0049】
次に、制御部21は、S101で読み込んだ時系列画像について、ノイズ除去処理(S102)、及び閾値処理(S103)を行う。ノイズ除去処理の代表的な方法には、例えば、平均フィルター法、メディアンフィルター法がある。閾値処理は、例えば、予め設定された第1の閾値と第2の閾値(第1の閾値<第2の閾値)に基づいて、第1の閾値以上かつ第2の閾値以下の場合には1を設定し、第1の閾値より小さいまたは第2の閾値より大きい場合には0を設定するといった処理である(=2値化処理)。その他の方法として、エッジを抽出する微分処理などがある。
図8は、閾値処理後の画像の一例を示す図である。閾値処理を施すことによって、図8に示すように、物体を識別することが可能となる。識別された物体は、後述するS105の処理によって、候補領域1、候補領域2、候補領域3とラベリングされる。
【0050】
次に、制御部21は、S103による閾値処理後の画像について、穴埋め処理(=孤立点除去処理)(S104)を行う。穴埋め処理は、例えば、膨張処理をN回行い、その後収縮処理をN回行うなどして実現される(=クロージング)。
【0051】
次に、制御部21は、候補領域をラベリングする(S105)。制御部21は、連結されている画素の集合ごとに同一の番号を付して、各候補領域をラベリングする。連結されている画素の集合とは、同一の画素値を有し、かつ位置が隣接している画素の集合である。
【0052】
次に、制御部21は、候補領域ごとに面積と円形度を算出する(S106)。面積は、各候補領域に含まれる画素数をカウントし、画素数と1画素の面積の積によって算出される。円形度は、4π×面積/(周囲長の2乗)で算出される。円形度は、真円の場合は1となり、複雑な形状ほど0に近づく。周囲長は、各候補領域の境界画素を走査していき、境界となる辺の数をカウントすることで算出される。
【0053】
次に、制御部21は、面積と円形度が一定範囲内の候補領域を特定する(S107)。一定範囲とは、受精卵の面積、円形度として許容される値の範囲である。第1の実施の形態では、時系列画像に受精卵が一つしか含まれていない場合を想定していることから、特定される候補領域は一つとなる。
図9は、特定された候補領域を示す図である。図9では、特定された候補領域を白色で示している。中央やや右上に位置する受精卵の領域(=図8に示した候補領域2を穴埋めした領域)が特定されたことが分かる。
【0054】
次に、制御部21は、特定した候補領域を含む最小近似円領域を生成する(S108)。候補領域は完全な円ではないことから、例えば、候補領域の境界上の各点を結ぶ線分の中で、最も大きい線分の長さを最小近似円領域の径とする。
図10は、最小近似円領域を示す図である。図10では、最小近似円領域を白色で示している。図9に示した候補領域を含む最小近似円領域が生成されたことが分かる。
【0055】
尚、受精卵が真円よりも楕円に近い形状の場合、制御部21は、最小近似円領域に代えて、最小近似楕円領域を生成しても良い。この場合、制御部21は、候補領域の境界上の各点を結ぶ線分の中で、最も大きい線分の長さを最小近似楕円領域の長径、長径に直交する線分を短径とする。
【0056】
次に、制御部21は、最小近似円領域を受精卵画像として切り出し、保存する(S109)。また、制御部21は、最小近似円領域の半径を受精卵の半径として保存する(S110)。
図11は、受精卵画像を示す図である。図11の受精卵画像は、図10に示す最小近似円領域に対応する画素を図7の時系列画像から切り出し、拡大したものである。
以上の処理によって、制御部21は、受精卵画像を抽出する。
【0057】
図5は、活性部位の抽出処理を示すフローチャートである。図5に示すフローチャートでは、活性部位抽出手段33が、S201〜S204を実行する。また、特徴量算出手段34が、S205を実行する。また、処理結果記憶手段36が、S205、S206を実行する。
尚、後述する図12〜図16は、図4に示した受精卵の抽出処理によって得られた2つの受精卵画像(マウスの受精卵画像)について、図5の各ステップに示す処理を施したものである。
【0058】
受精卵品質評価支援装置3の制御部21は、記憶部22に記憶されている2つの受精卵画像をRAMに読み込む(S201)。
図12、図13は、それぞれ受精卵画像の一例を示す図である。図13に示す受精卵画像は、図12に示す受精卵画像から所定時間経過後のものである。詳細には、図12は卵割(2卵割)前の受精卵を示す画像、図13は卵割(2卵割)後の受精卵を示す画像である。
【0059】
次に、制御部21は、2つの受精卵画像を比較する前処理として、画像の大きさ、位置を補正する(S202)。
一般に、受精卵を保持することなく撮像した時系列画像では、ある受精卵画像と、所定時間経過前または所定時間経過後の受精卵画像とを比較する場合、受精卵の内部の変化を除くと、画像として表れる受精卵全体の変化としては、(1)受精卵の大きさの変化、(2)受精卵の位置の移動、(3)受精卵の回転、といった変化が考えられる。正確な比較処理を行うためには、これらの変化に対応して、一方の受精卵画像の大きさ、位置を補正する必要がある。
【0060】
(1)受精卵の大きさの変化については、例えば、両者の受精卵画像の径の比を算出し、一方の受精卵画像を拡大または縮小すれば良い。(2)受精卵の位置の移動については、拡大または縮小をした後、重心位置を一致させれば良い。(3)受精卵の回転については、図6を参照しながら説明する。
【0061】
図6は、受精卵の回転を補正する処理を説明するための図である。図6に示す例では、時刻tにおける時系列画像から切り出した第1の受精卵画像、時刻t+1における時系列画像から切り出した第2の受精卵画像について、第1の受精卵画像に合うように、第2の受精卵画像の位置を補正する。
【0062】
受精卵品質評価支援装置3の制御部21は、第1の受精卵画像と、第2の受精卵画像をθ(θ=0度、30度、60度、・・・)回転した画像とを比較し、次式によって、画像間の差D(θ)を算出する。
【数1】

但し、R(x,y)は、第1の受精卵画像の(x,y)の位置における画素の画素値(=輝度値)、R´(x,y,θ)は、第2の受精卵画像をθ回転した画像の(x,y)の位置における画素の画素値(=輝度値)である。尚、カラー画像の場合、輝度値に代えて、各画素の色相、彩度、明度等を用いても良い。
【0063】
そして、制御部21は、画素間の差D(θ)が最も小さいθminを第1の受精卵画像に対する第2の受精卵画像における回転量とし、図5に示すS203の処理において画素間の差D(θ)が最も小さいθminの画像を使用する。
【0064】
図5の説明に戻ると、制御部21は、2つの受精卵画像の画素値の差分を算出する(S203)。S203における画素値の差分の算出は、2つの受精卵画像を比較し、変化が大きい部分を抽出することが目的である。そこで、画素値が0〜255の階調を持つグレースケール画像の場合、例えば、画素値の差分をDiff(x,y)=R(x,y)−R´(x,y)+127と定義する。但し、Diff(x,y)が0より小さい場合にはDiff(x,y)=0とし、Diff(x,y)が255より大きい場合にはDiff(x,y)=255とする。このように定義すると、変化が小さい部分はDiff(x,y)が127前後の値となり、変化が大きい部分はDiff(x,y)が0または255のいずれかに近い値となる。
図14は、差分の算出結果を示す図である。図14において、中間調であるグレーの部分は、変化が小さい部分である。一方、白または黒の部分は、変化が大きい部分である。
【0065】
次に、制御部21は、閾値処理(S204)を行う。ここでの閾値処理は、予め設定された第1の閾値と第2の閾値(第1の閾値<第2の閾値)に基づいて、第1の閾値以上かつ第2の閾値以下の場合(=変化が小さい場合)には画素値を0、第1の閾値より小さいまたは第2の閾値より大きい場合(=変化が大きい場合)には画素値を1と設定する。ここで画素値が1と設定された画素の集合が、活性部位である。
図15は、閾値処理の結果を示す図である。図15では、S204にて画素値が1に設定された画素を白色で示している。
【0066】
次に、制御部21は、活性部位の面積を算出し、保存する(S205)。活性部位の面積は、S204にて画素値が1と設定された画素をカウントし、カウントした画素数と1画素の面積の積によって算出される。
【0067】
次に、制御部21は、S201で読み込んだ受精卵画像について、抽出した活性部位に対応する画素を着色し、活性部位画像として保存する(S206)。
図16は、活性部位画像の一例を示す図である。図16では、活性部位を白色で示している。広範囲の領域が活性部位として抽出されていることが分かる。
以上の処理によって、制御部21は、活性部位を抽出する。
【0068】
図17は、マウスの正常な受精卵についての特徴量のグラフである。図18は、マウスの変性した受精卵(変性卵)についての特徴量のグラフである。図17、図18は、処理結果記憶手段36に記憶されている受精卵半径と活性部位面積の時系列データを処理結果表示手段37が表示部26に表示したものである。
【0069】
図17、図18ともに、受精卵半径を四角のプロット、活性部位面積を三角のプロットで図示している。2卵割(8h)、4卵割(29h)等は、受精卵の発育ステージと、観察開始時間からの経過時間を示している。例えば、図17に示す正常卵の受精卵において、8h後に2卵割の発育ステージに到達したことは、目視で確認している。その他の発育ステージと観察開始時間からの経過時間についても同様に目視で確認している。以下では、目視で確認した知見に基づく特徴量解析手段35の処理について説明する。
【0070】
図17、図18を参照すると、図17の2卵割、4卵割、8卵割、16卵割、図18の2卵割、3卵割、4卵割といった細胞分割が行われた前後では、いずれも、直前の活性部位面積と比較して、活性部位面積が大幅に増加していることが分かる。この知見に基づいて、特徴量解析手段35は、例えば、活性部位面積の増分が所定の閾値を超えるごとに、2卵割、4卵割、8卵割、16卵割といった発育ステージに順々に到達したと判定する。
【0071】
また、図17を参照すると、拡張胚盤胞の発育ステージに到達した場合、活性部位面積および受精卵半径が大幅に増加することが分かる。この知見に基づいて、特徴量解析手段35は、例えば、卵割の発育ステージから一定時間経過後、活性部位面積の増分および受精卵半径の増分が所定の閾値を超えた場合、拡張胚盤胞の発育ステージに到達したと判定する。
【0072】
また、図17を参照すると、ラプチャーの発生前後では、受精卵半径が一旦減少した後に増加することが分かる。この知見に基づいて、特徴量解析手段35は、例えば、拡張胚盤胞の発育ステージに到達した後、受精卵半径が減少する直前の時刻をラプチャーの発生時刻と判定する。また、特徴量解析手段35は、例えば、拡張胚盤胞の発育ステージに到達した後、受精卵半径が減少する回数をラプチャーの発生回数と判定する。また、特徴量解析手段35は、例えば、ラプチャーの発生時刻から、ラプチャー発生時の受精卵半径の大きさに戻った時刻までをラプチャーの回復時間と判定する。
【0073】
このように、特徴量解析手段35によって特徴量の解析を行えば、目視に頼ることなく、発育ステージの到達時間、ラプチャーの発生時刻、発生回数、回復時間等の情報を算出し、処理結果表示手段37によって表示部26に表示することができる。
【0074】
以上説明したように、第1の発明の実施の形態によれば、受精卵品質評価支援システム1は、受精卵観察装置2、受精卵品質評価支援装置3から構成される。受精卵品質評価支援装置3は、精卵観察装置2によって撮像される画像を記憶する時系列画像記憶手段31、時系列画像記憶手段31に記憶された時系列画像から受精卵画像を抽出する受精卵画像抽出手段32、二つの受精卵画像を比較し、活性部位を抽出する活性部位抽出手段33、受精卵の特徴量を算出する特徴量算出手段34、受精卵の特徴量を解析する特徴量解析手段35、処理結果を記憶する処理結果記憶手段36、処理結果を表示する処理結果表示手段37等を具備する。
【0075】
第1の発明の実施の形態によって、受精卵を保持することなく撮像された画像を用いて、受精卵内の細胞を識別することなく受精卵の品質評価に有益な情報を提示することができる。
【0076】
尚、第1の発明の実施の形態では、撮像時刻ごとに一つのZ位置における時系列画像(=Zスライス画像)のみを用いて各種の処理を行ったが、別の実施の形態として、撮影時刻ごとに複数のZスライス画像を用いることもできる。
この場合、受精卵観察装置2は、時系列画像として、撮像時刻ごとに複数のZスライス画像を撮像する。受精卵画像抽出手段32は、全てのZスライス画像から受精卵画像を抽出する。活性部位抽出手段33は、Z位置ごとに、任意のZスライス画像に係る受精卵画像と、任意の時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後であって、同一のZ位置のZスライス画像に係る受精卵画像とを比較することで、全てのZ位置の活性部位を抽出する。
【0077】
これによって、三次元的な特徴量の算出および解析を行うことができる。例えば、特徴量算出手段34は、同一の撮像時刻の全てのZスライス画像について、受精卵画像抽出手段32によって抽出された受精卵画像から最小近似円の半径を算出し、最も大きい値をその撮像時刻における受精卵の半径とする。また、例えば、特徴量算出手段34は、同一の撮像時刻の全てのZスライス画像について、活性部位抽出手段33によって抽出された活性部位の面積の総和を算出する。そして、特徴量解析手段35は、算出された受精卵の半径、活性部位の面積の総和に基づいて解析を行う。
【0078】
また、前述した説明では、特徴量算出手段34は、受精卵4の大きさを示す特徴量として受精卵4の半径を算出するとしたが、これに限定されない。例えば、受精卵4の大きさを示す特徴量は、受精卵4の面積、体積などであっても良い。受精卵4の面積は、最小近似円に含まれる画素数をカウントし、画素数と1画素の面積の積によって算出される。また、受精卵4の体積は、各Zスライス画像から最小近似円の面積を算出し、最小近似円の面積の総和によって算出される。
【0079】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、複数の受精卵を培養し、複数の受精卵を視野内に収めて時系列画像を撮像する。
以下、第1の実施の形態において説明した要素と同じ要素については同じ番号を付し、説明を省略する。
【0080】
図19は、受精卵品質評価支援システム1aの概要を示す図である。図19に示すように、受精卵品質評価支援システム1は、受精卵観察装置2a、受精卵品質評価支援装置3aから構成される。
【0081】
受精卵観察装置2aは、複数の受精卵4を含む培養リアクター(培養容器)6a、照明7、X移動ステージ8、カメラユニット9(撮像部)、Z移動ステージ12、Y移動ステージ13からなる。受精卵品質評価支援装置3aは、例えば、汎用的なコンピュータである。
【0082】
培養リアクター6aは、複数の受精卵受部14を有する。受精卵受部14は、培養リアクター6aの底面に円筒状または半球状のくぼみとして形成される。1つの受精卵受部14には、1つの受精卵4が配置される。受精卵4が受精卵受部14に配置されることで、培養している間、受精卵4の位置はほとんど移動しない。尚、鉛直方向(Z方向)から見た場合、受精卵受部14の面積は、培養終了時の受精卵4の面積よりも小さいものとする。
【0083】
図20は、鉛直方向(Z方向)から見た培養リアクター6aの模式図である。図20では、受精卵4が受精卵受部14に配置されている状態を示している。点線の内部は、カメラユニット9(撮像部)による撮像範囲である視野16を示している。
【0084】
図21は、第1の実施の形態による画像処理を説明する図である。
図21の(a)は、培養リアクター6aを撮像した時系列画像の一部に対して、図4のS103の閾値処理を施した場合の模式図である。図21の(b)は、図4のS104の穴埋め処理を施した場合の模式図である。
仮に受精卵品質評価支援装置3aが図4の処理を行うとする。培養リアクター6aを撮像した時系列画像には受精卵受部14の影が含まれるので、S103の閾値処理によって、図21の(a)に示すように、受精卵受部14の影領域15が抽出される。また、S104の穴埋め処理によって、図21の(b)に示すように、影領域15と受精卵4の円周付近の領域が結合して区別できなくなり、正確に受精卵画像を抽出することができない。そこで、第2の実施の形態では、受精卵品質評価支援装置3aが図22に示す処理を行い、受精卵画像を抽出する。
【0085】
図22は、第2の実施の形態における受精卵画像の抽出処理を示すフローチャートである。
受精卵品質評価支援装置3aの制御部21は、記憶部22に記憶されている時系列画像をRAMに読み込む(S301)。
次に、制御部21は、S301で読み込んだ時系列画像について、ノイズ除去処理(S302)を行う。
【0086】
次に、制御部21は、2値化処理によって候補領域を抽出する(S303)。前述した通り、影領域15と受精卵4の円周付近の領域とは同程度の階調値を有するので、S303では、影領域15を除外して候補領域を抽出することはできない。そこで、S303における2値化処理の閾値は、少なくとも受精卵4の円周付近の領域が全て候補領域として抽出できる値とする。
例えば、時系列画像が画素値0〜255の階調を持つグレースケール画像の場合、画素値「0」が最も暗く、画素値「255」が最も明るい階調とする。また、2値化処理の閾値は、受精卵4の円周付近の領域に含まれる画素の階調値よりも大きい値とする。制御部21は、閾値よりも小さい階調値を持つ画素を候補領域として抽出する。制御部21は、例えば、候補領域として抽出された画素には画素値「1」を設定し、候補領域として抽出されなかった画素には画素値「0」を設定する。
【0087】
次に、制御部21は、S303において抽出された候補領域に対して収縮処理を一定の回数実行する(S304)。S303の処理によって抽出される候補領域には、影領域15も含まれており、S303の処理が終了した時点では、影領域15と受精卵4の円周付近の領域との明確な境界が存在しない場合がある。しかし、影領域15と受精卵4の円周付近の領域との間には、画素値「0」の画素が点在している。従って、制御部21がS304の収縮処理を繰り返すことで、影領域15と受精卵4の円周付近の領域との間の画素値「0」の領域が、受精卵4の周囲を囲むように広がる。これによって、影領域15と受精卵4の円周付近の領域との境界線が明確となる。
【0088】
次に、制御部21は、候補領域のラベリングを行う(S305)。制御部21は、連結されている候補領域の画素の集合ごとに同一の番号を付して、各候補領域をラベリングする。連結されている候補領域の画素の集合とは、候補領域の画素値「1」を有し、かつ位置が隣接している画素の集合である。
ラベリングによって区別される候補領域としては、複数の受精卵4の領域、複数の影領域15、ゴミ、チリなどのノイズ領域などがある。
【0089】
次に、制御部21は、影領域15の除外処理を行う(S306)。影領域15の除外処理では、制御部21は、ラベリングされた候補領域ごとに面積、ラベリングされた候補領域を囲む矩形の大きさを算出する。そして、制御部21は、算出した面積、矩形の大きさに基づいて、影領域15を除外する。
【0090】
図23は、複数の影領域15が連結している画像を示す図である。図23では、候補領域Aは複数の影領域15が連結している領域、候補領域B〜Eは受精卵4の領域を示している。
受精卵受部14の距離が十分でない場合、または受精卵受部14を加工したときのバリが存在する場合などは、複数の影領域15が連結してしまうことがある。このような場合、候補領域Aの面積は、候補領域B〜Eの面積に比べて大きな値となる。そこで、制御部21は、面積が大きい候補領域(図23の例では候補領域A)を影領域15として除外する。
【0091】
図24は、候補領域を囲む矩形を説明する図である。矩形Fは、影領域15に相当する候補領域Fを囲むものであり、矩形Gは、受精卵4の領域に相当する候補領域Gを囲むものである。
受精卵4の領域が画像内において占める面積は既知なので、制御部21は、候補領域を囲む矩形の面積によって、影領域15を除外することができる。例えば、制御部21は、候補領域を囲む矩形の面積が、受精卵4が培養期間中に取り得る大きさよりも大きい場合は影領域15として除外する。また、制御部21は、候補領域を囲む矩形の面積が、受精卵4が培養期間中に取り得る範囲に収まる場合は除外しない。図24に示す例では、候補領域Fは影領域15として除外し、候補領域Gは除外しない。
【0092】
図25は、複数の影領域15が連結している候補領域を囲む矩形を示す図である。矩形Hは、複数の影領域15が連結している候補領域Hを囲むものであり、矩形I、Jは、受精卵4の領域に相当する候補領域I、Jを囲むものである。
制御部21は、矩形の縦横比から円形度を算出し、算出した円形度によって、影領域15を除外することができる。例えば、制御部21は、算出した円形度が、所定の値よりも低い場合は影領域15として除外する。また、制御部21は、算出した円形度が、所定の値よりも高い場合は除外しない。図25に示す例では、候補領域Hは影領域15として除外し、候補領域I、Jは除外しない。
【0093】
次に、制御部21は、残りの候補領域に対する整形処理を行う(S307)。整形処理では、制御部21は、残りの候補領域に対して膨張処理を一定回数行う。膨張処理の回数は、S305のラベリングによって区別された候補領域同士が連結しない程度とする。また、制御部21は、残りの候補領域に対して穴埋め処理を行う。
【0094】
次に、制御部21は、候補領域ごとに面積と円形度を算出する(S308)。面積と円形度の算出処理は、第1の実施形態と同様である。
【0095】
次に、制御部21は、面積、円形度が一定範囲内の候補領域を受精卵4の領域として特定する(S309)。例えば、面積が一定値よりも小さい領域は、ゴミ、チリなどのノイズ領域とみなして除外し、更に、円形度が一定範囲内の候補領域を受精卵4の領域として特定する。
また、例えば、ユーザが入力部25を介して、培養リアクター6aに配置する受精卵4の数を予め入力することで、受精卵4の領域として特定する候補領域の数を決めても良い。
【0096】
次に、制御部21は、特定した候補領域を一つ選択し(S310)、選択した候補領域を含む最小近似円領域を生成する(S311)。最小近似円領域の生成処理は、第1の実施形態と同様である。
【0097】
次に、制御部21は、最小近似円領域を受精卵画像として切り出し、保存する(S312)。また、制御部21は、最小近似円領域の半径を受精卵の半径として保存する(S313)。
次に、制御部21は、特定した候補領域を全て選択済かどうか確認する(S314)。
選択されていないものがあれば、制御部21は、S310から繰り返す。全て選択済であれば、制御部21は、処理を終了する。
【0098】
以上の通り、第2の実施の形態では、複数の受精卵受部14に配置された複数の受精卵を視野内に収めて時系列画像を撮像し、時系列画像から複数の受精卵画像を切り出す。
受精卵4は受精卵受部14に配置されるので、受精卵4同士の位置関係が変わることはない。従って、複数の受精卵4を同じ培養リアクター6aに配置しても、受精卵4を取り違えることなく観察することができる。
また、受精卵品質評価支援装置3aは、受精卵受部14に起因する影領域を除外するので、受精卵画像を正確に切り出すことができる。
【0099】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態では、算出した特徴量から受精卵の品質を判定する。
以下、第1の実施の形態において説明した要素と同じ要素については同じ番号を付し、説明を省略する。
【0100】
正常な受精卵は、一定時間内に複数回の細胞分裂を行う。そこで、第3の実施の形態における特徴量解析手段35は、一定時間内における活性部位面積のピークの発生回数を算出し、受精卵の品質判定処理に用いる。活性部位面積のピークの発生回数が、細胞分裂の発生回数に相当する。
活性部位面積のピークの発生回数は、例えば、活性部位面積の時系列データにおいて、活性部位面積の増分が所定の閾値を超える回数とする。
【0101】
また、図17を参照すると、正常な受精卵では、拡張胚盤胞の発育ステージの直前に活性部位の面積が2000μm以上に増加し、その後も2000μm以上を維持している。一方、図18を参照すると、変性した受精卵では、4卵割の発育ステージの後、活性部位の面積が2000μm以上を超えていない。この知見に基づいて、第3の実施の形態における特徴量解析手段35は、所定の発育ステージに到達した時刻から、活性部位面積が所定の閾値よりも小さい値を維持した累計時間Ltを算出し、受精卵の品質判定処理に用いる。ここで所定の発育ステージに到達した時刻とは、受精卵の観察を開始した時刻も含むものとする。
【0102】
次に、受精卵の品質判定処理の一例について説明する。
受精卵の品質判定処理では、一定時間内における活性部位面積のピークの発生回数(=細胞分裂の発生回数)を第1の判定条件とする。更に、Ltを第2の判定条件とする。
具体的には、受精卵品質評価支援装置3の制御部21は、例えば、細胞分裂の発生回数が3回以上であればQ1=1、1〜2回であればQ1=0.5、0回であればQ1=0とする。また、制御部21は、Ltを0〜1の値を取るように正規化し、Q2=max(0、(0.5−Lt)×2)を算出する。ここで、max(a、b)は、aとbの値の大きい方を取る関数とする。例えば、Ltが0のときは、Q2=1、Ltが0.5以上のときはQ2=0となる。
Ltは、例えば、所定の発育ステージに到達した時刻からの累計時間が1となるように正規化する。正規化されたLtは、受精卵が変性している確率を示していると言える。
そして、制御部21は、Q=Q1×Q2を算出し、Qの値に応じて受精卵の評価ランクを設定する。制御部21は、Qの値が大きい程、高い評価ランクを設定する。
【0103】
このように、制御部21は、例えば、活性部位面積のピークの発生回数、および活性部位面積が所定の閾値よりも小さい値を維持した累計時間Ltに応じて、受精卵の品質を判定する。
しかしながら、前述した受精卵の品質判定処理は一例であり、その他の特徴値を用いて受精卵の品質を判定するようにしても良い。例えば、第1の実施の形態と同様、各発育ステージまでの到達時間、ラプチャーの発生時刻、回数、および回復時間等を算出し、受精卵の品質判定処理に用いても良い。また、受精卵の領域に含まれる画素の輝度の平均の時間変位、輝度の標準偏差の時間変位などを算出し、受精卵の品質判定処理に用いても良い。
【0104】
以上の通り、第3の実施の形態では、受精卵品質評価支援装置3が、算出した複数の特徴量から受精卵の品質を判定し、評価ランクを設定する。これによって、評価ランクを自動的に設定することができ、培養の途中でも、評価ランクの低い受精卵の観察中止、培養中止などの判断を行い、作業を効率化することができる。
【0105】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る受精卵品質評価支援システム等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0106】
1………受精卵品質評価支援システム
2、2a………受精卵観察装置
3、3a………受精卵品質評価支援装置
4………受精卵
5………培養液
6、6a………培養リアクター
7………照明
8………X移動ステージ
9………カメラユニット
10………対物レンズ
11………CCDカメラ
12………Z移動ステージ
13………Y移動ステージ
14………受精卵受部
15………影領域
16………視野
21………制御部
22………記憶部
23………メディア入出力部
24………通信制御部
25………入力部
26………表示部
27………周辺機器I/F部
28………バス
29………ネットワーク
31………時系列画像記憶手段
32………受精卵画像抽出手段
33………活性部位抽出手段
34………特徴量算出手段
35………特徴量解析手段
36………処理結果記憶手段
37………処理結果表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受精卵を撮像する撮像部を有する受精卵観察装置と、前記受精卵観察装置とデータの送受信を行うコンピュータとから構成され、受精卵の品質評価を支援する受精卵品質評価支援システムであって、
前記コンピュータは、
前記受精卵観察装置によって撮像される時系列画像を記憶する時系列画像記憶手段と、
時系列画像から受精卵画像を抽出する受精卵画像抽出手段と、
第1時系列画像に係る受精卵画像と、第1時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後の第2時系列画像に係る受精卵画像とを比較し、対応する画素の画素値の差が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出する活性部位抽出手段と、
を備えることを特徴とする受精卵品質評価支援システム。
【請求項2】
前記活性部位抽出手段は、受精卵の回転を補正して活性部位を抽出することを特徴とする請求項1に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項3】
前記コンピュータは、
前記活性部位抽出手段によって抽出された活性部位を他の領域と識別して表示する処理結果表示手段、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項4】
前記コンピュータは、
受精卵の特徴量として、前記受精卵画像抽出手段によって抽出された受精卵画像から受精卵の大きさを算出し、前記活性部位抽出手段によって抽出された活性部位の面積を算出する特徴量算出手段、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項5】
前記コンピュータは、
前記特徴量算出手段によって算出された活性部位の面積の変化量に基づいて各発育ステージまでの到達時間を特定し、前記特徴量算出手段によって算出された受精卵の大きさの変化量に基づいてラプチャーの発生時刻、回数、または回復時間のうち少なくとも一つを特定する特徴量解析手段、
を更に備えることを特徴とする請求項4に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項6】
前記受精卵観察装置は、前記時系列画像として、撮像時刻ごとに複数のZスライス画像を撮像し、
前記活性部位抽出手段は、第1Zスライス画像に係る受精卵画像と、第1Zスライス画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後であって、同一のZ位置の第2Zスライス画像に係る受精卵画像とを比較することで、全てのZ位置の活性部位を抽出することを特徴とする請求項1に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項7】
前記受精卵観察装置は、更に、複数の受精卵受部が形成された培養容器を備え、
前記撮像部は、前記培養容器に配置された複数の受精卵を視野内に収めて前記時系列画像を撮像し、
前記受精卵画像抽出手段は、前記時系列画像から複数の前記受精卵画像を抽出することを特徴とする請求項1に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項8】
前記受精卵画像抽出手段は、前記受精卵受部に起因する影領域を除外して前記受精卵画像を抽出することを特徴とする請求項7に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項9】
前記特徴量解析手段は、前記特徴量算出手段によって算出された前記受精卵の特徴量に基づいて受精卵の品質を判定することを特徴とする請求項5に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項10】
前記特徴量解析手段は、前記活性部位の面積のピークの発生回数、および前記活性部位の面積が所定の閾値よりも小さい値を維持した累計時間に基づいて受精卵の品質を判定することを特徴とする請求項9に記載の受精卵品質評価支援システム。
【請求項11】
受精卵を撮像する撮像部を有する受精卵観察装置とデータの送受信を行い、受精卵の品質評価を支援する受精卵品質評価支援装置であって、
前記受精卵観察装置によって撮像される時系列画像を記憶する時系列画像記憶手段と、
時系列画像から受精卵画像を抽出する受精卵画像抽出手段と、
第1時系列画像に係る受精卵画像と、第1時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後の第2時系列画像に係る受精卵画像とを比較し、対応する画素の画素値の差が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出する活性部位抽出手段と、
を備えることを特徴とする受精卵品質評価支援装置。
【請求項12】
受精卵を撮像する撮像部を有する受精卵観察装置と、前記受精卵観察装置とデータの送受信を行うコンピュータとが受精卵の品質評価を支援する受精卵品質評価支援方法であって、
前記受精卵観察装置が時系列画像を撮像するステップと、
前記コンピュータが時系列画像から受精卵画像を抽出するステップと、
前記コンピュータが第1時系列画像に係る受精卵画像と、第1時系列画像の撮像時刻から所定時間前または所定時間後の第2時系列画像に係る受精卵画像とを比較し、対応する画素の画素値の差が所定の閾値より大きい画素の集合を活性部位として抽出するステップと、
を含むことを特徴とする受精卵品質評価支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−181402(P2010−181402A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1013(P2010−1013)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(301029403)独立行政法人家畜改良センター (12)
【Fターム(参考)】