説明

口腔乾燥症改善剤

【課題】本発明の目的は、口腔内全体の乾燥を緩和し、かつ効果が持続的であって安全な口腔乾燥症改善剤を提供することである。
【解決手段】本発明により、水、多価アルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、およびポリビニルピロリドンを含む、口腔乾燥症改善剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔乾燥症を治療するために使用される口腔ケア用組成物、および口腔乾燥症改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔乾燥症はドライマウスとも呼ばれ、唾液分泌量の減少に起因して、口の中や喉の渇きなどの症状が現れる。重度の口腔乾燥症は、口腔粘膜の乾燥・萎縮、舌表面の亀裂、舌痛症、摂食・会話困難などを引き起こし、日常生活にも支障を来すこととなる。その原因としては、唾液腺の機能低下を生じさせる疾患(例えば、慢性唾液腺炎、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患、糖尿病、腎疾患など)、医薬品の副作用、ストレスなどの精神的要因が知られている。
【0003】
口腔乾燥症を緩和する手段として、口腔内組成物や副交感神経に作用する化合物を使用する方法が報告されている(特許文献1〜4)。
【特許文献1】特開2006−83100号公報
【特許文献2】特開2004−136102号公報
【特許文献3】特開2004−115464号公報
【特許文献4】特開平8−12575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来知られていた口腔乾燥症を処置するための医薬組成物は効果が十分であるとはいえず、また副交感神経などに作用する医薬を用いる処置方法は副作用が懸念されていた。本発明の目的は、口腔内全体の乾燥を緩和し、かつ効果が持続的であって安全な口腔乾燥症改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題解決のために鋭意研究を進めたところ、特定の成分を含む新規な組成物に口腔乾燥症改善剤として良好な特性を見いだし、本発明を完成させた。
本発明の1つの側面によれば、水、多価アルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、およびポリビニルピロリドンを含む、口腔乾燥症改善剤が提供される。
【0006】
本発明で使用される多価アルコールとしては、医薬製剤において溶剤として使用可能なものであれば特に限定されず、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、およびエチレングリコールなどが挙げられ、口腔乾燥症改善剤の付着性および使用感に優れる点から、好ましくは、プロピレングリコールが使用される。当該多価アルコールの使用量は、特に限定されないが、例えば、3〜25重量%、好ましくは、5〜10重量%の量を使用することができる。この範囲内で使用することで、特に好ましい付着性を実現することができる。
【0007】
本発明で使用されるヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースおよびポリビニルピロリドンとしては、医薬製剤において使用可能なものであれば特に限定されない。ヒドロキシプロピルセルロースとしては、例えば、日本薬局方収載のヒドロキシプロピルセルロース、例えば、HPC−SSL、SL、L、MおよびH(いずれも日本曹達株式会社)などが挙げられ、口腔乾燥症改善剤として適した付着性および滞留性を与えられることから、好ましくは、HPC−Hが使用される。HPC−Hは、HPC濃度2%の水溶液の20℃での粘度値が、1000〜4000mPa・sであるのものを使用することができる。
【0008】
ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の例としては、置換度1800〜3000のもので、具体的には、置換度2208のもの、置換度2906のもの、置換度2910のものが挙げられ、口腔乾燥症改善剤として適した付着性および滞留性を与えられることから、好ましくは、置換度2910のものが使用される。ポリビニルピロリドンの例としては、日本薬局方収載のポビドン(例えば、ポリビドン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK90など)が挙げられ、口腔乾燥症改善剤として適した付着性および滞留性を与えられることから、好ましくは、ポリビニルピロリドンK90が使用される。
【0009】
本発明に使用される水は特に限定されず、例えば、蒸留水、脱イオン水などを使用することができる。
本発明の前記側面の1つの態様において、水、多価アルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースおよびポリビニルピロリドンを含み、シトロネロール、シトロネラール、シネオール、オイゲノール、シトラール、リナロール、ゲラニオール、ネロール、およびイソオイゲノールから選択される1種以上の香料をさらに含む、口腔乾燥症改善剤が提供される。好ましい香料としては、シトロネロール、シトロネラール、シネオール、およびオイゲノールから選択される1種以上の香料が挙げられる。上記の香料は、天然物由来のものでも、合成品であってもよく、シトロネロール、シトロネラール、シネオール、オイゲノール、シトラール、リナロール、ゲラニオール、ネロールおよびイソオイゲノールから選択される1種類以上の香料を含む精油であってもよい。精油として、好ましくは、ユーカリラディアータ、ユーカリシトリオドラなど由来の精油であり、これらの精油には、成分として、シトロネロールやシトロネラールなどの香料が含まれている。本発明の口腔乾燥症改善剤は、上記の香料に加えて、さらに、ベルガモット油、スペアミント油、ピーチフレーバー、ベリーフレーバーなどの精油を含有してもよい。
【0010】
本発明の前記側面の1つの態様において、25℃における粘度が2〜50cPであり、好ましくは、3〜40cPであり、より好ましくは、5〜25cPであってもよい。これにより、適した付着性、滞留性を有し、使用感の良い口腔乾燥症改善剤が提供される。
【0011】
ここで粘度は、通常の方法で測定することができ、例えば、ブルックリン社製粘度計(BROOK FIELD、PROGRAMMABLE、DV−II+VISCOMETERなど)およびスピンドル(BROOK FIELD、UL/Y ADAPTER)を使用し、試料16mLをスピンドルアタッチメント内に入れ、伝導率10%程度になるように、スピンドルの回転数を合わせて数値(cP)を読み取ることにより測定することができる。
【0012】
本発明の口腔乾燥症改善剤の粘度は、各成分の量、特に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースおよびポリビニルピロリドンの量をそれぞれ増減することにより調節することができる。ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースおよびポリビニルピロリドンは、他の成分の量、特に増粘性を有する任意成分の添加の有無およびその量に伴って、それぞれ0.01〜5重量%、好ましくは、0.02〜3重量%、より好ましくは、0.03〜1重量%、さらに好ましくは、0.05〜0.5重量%の範囲内で適宜増減させることができる。例えば、ヒドロキシプロピルセルロースH、ヒプロメロース置換度2910のもの、ポリビニルピロリドンK90を使用した場合、それぞれ0.05〜0.2重量%、好ましくは0.1〜0.2重量%の量を使用することができる。この範囲内で使用することで、適した付着性および滞留性を有し、使用感の良い口腔乾燥症改善剤が提供される。
【0013】
本発明の前記側面の1つの態様において、口腔乾燥症改善剤は、3〜25重量%の多価アルコール、0.01〜5重量%のヒドロキシプロピルセルロース、0.01〜5重量%のヒプロメロース、および0.01〜5重量%のポリビニルピロリドンを含む。また、本発明の口腔乾燥症改善剤は、0.015〜0.05重量%の香料を含んでもよい。この範囲内で使用することで、適した付着性および滞留性を有し、使用感の良い口腔乾燥症改善剤が提供される。
【0014】
本発明の口腔乾燥症改善剤は、通常の方法により調製することができる。さらに、本発明の口腔乾燥症改善剤は、必要に応じて慣用の添加剤、例えば、抗酸化剤、保存剤、pH調整剤、香料、矯味剤、溶剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0015】
ここで、抗酸化剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、α−トコフェロール、クエン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。保存剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、ソルビン酸などが挙げられる。pH調整剤としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、コハク酸、乳酸、フマル酸などの可食性有機酸;塩酸、リン酸などの無機酸;およびこれらの塩類(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩など)などが挙げられる。矯味剤としては、例えば、l−メントール、ハッカ水、ハッカ油、ウィキョウ油、白糖、ブドウ糖、果糖、乳糖水和物、D−ソルビトール、D−マンニトール、キシリトール、カンゾウエキス、サッカリンナトリウム水和物、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、アスパルテームなどが挙げられる。溶剤としては、エタノールなどが挙げられる。着色剤としては、青色1号などが挙げられる。
【0016】
本発明の口腔乾燥症改善剤は、別の薬効成分として、さらに、殺菌剤、抗炎症剤、組織修復剤、血流改善剤および局所刺激剤などを含んでいてもよい。
本発明の口腔乾燥症改善剤は、洗口剤または含嗽剤として使用することができ、1回の使用量は、例えば、10〜100mL、好ましくは、10〜50mL程度である。本発明の含嗽剤は、1日に1回または複数回使用してもよく、例えば、1日に5〜6回程度使用してもよい。含嗽剤として使用する本発明は患部への滞留性が良好であることから、例えば、5〜8時間に1回程度の間隔で使用しても良く、好ましくは、就寝前の使用が良く、患者に負担をかけることなく、安全に症状の改善を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の口腔乾燥症改善剤は、口腔乾燥症の予防または治療に有効であり、持続性があり、安全かつ効果的に口腔乾燥症の症状を緩和することができるという特徴を有する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において示されるパーセンテージは特に言及がなければ重量%を意味する。
【0019】
[実施例1〜58]
表1の試薬を使用し、常法に従い、表2〜8の組成を有する組成物(実施例1〜58および比較例1〜27)、各100mLを調製した。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
【表6】

【0026】
【表7】

【0027】
【表8】

【0028】
【表9】

【0029】
【表10】

【0030】
【表11】

【0031】
【表12】

【0032】
[試験例1]
各組成物の付着性および滞留性を評価するため以下の試験を行った。さらに以下の方法により粘度を測定するために、
付着性の評価
15名による官能試験により評価した。各組成物を用いてうがいを行い、うがい直後ののどへの付着感を評価した。薬剤が咽頭部周辺に存在することを実感できる場合は○、存在することを実感できない場合および存在することを実感できるが不快である場合を×として評価した。
【0033】
滞留性試験
各組成物の一部(1mL)をガラス板上に滴下し、そのまま23℃、低湿度の一定条件下で7時間放置し、その後のガラス板を45°傾けて流動性を評価した。流動性を保持していた場合は○、乾燥していた場合は×として評価した。
【0034】
粘度測定試験
ブルックリン社製粘度計(BROOK FIELD、PROGRAMMABLE、DV−II+VISCOMETERなど)およびスピンドル(BROOK FIELD、UL/Y ADAPTER)を使用し、試料16mLをスピンドルアタッチメント内に入れ、温度25℃で、伝導率10%程度になるように、スピンドルの回転数を合わせて数値(cP)を読み取り、小数第1位を四捨五入して粘度の値とした。
【0035】
実施例および比較例の組成物についての付着性試験、滞留性試験および粘度測定の結果を以下の表13および表14に示す。
【0036】
【表13】

【0037】
【表14】

【0038】
実施例1〜58の組成物は、付着性および滞留性のいずれにおいても良好であり、口腔乾燥症の予防および治療として優れた物性を有することを確認した。一方で、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースおよびポリビニルピロリドンのうち少なくとも1つを含まない組成物(比較例1〜27)は付着性および滞留性に問題があることが確認された。
【0039】
ここで、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースおよびポリビニルピロリドンの配合量を調整して、実施例7において粘度1cpの組成物を、また実施例36において粘度55cpの組成物を調製し、それぞれ、実施例7および36と比較したところ、実施例7および36の組成物の方が、付着性および滞留性により優れていた。特に、粘度が5〜25cPである実施例は、口腔乾燥症改善剤として適切な付着性および滞留性を有し、実際に使用したところ、口腔内の不快感を長時間にわたり抑制する効果により優れていた。
【0040】
また、実施例において、プロピレングリコールをグリセリンまたはソルビトールに変更した場合も、同様の結果であった。
[試験例2]
各組成物の潤い感持続性を評価するために、以下の試験を行った。
【0041】
潤い感持続性試験
15名による官能試験により評価した。各組成物を用いて就寝時にうがいを行い、起床時の口腔内、咽頭周辺部の潤い感を官能評価した。起床時に潤い感を実感できる場合は○、潤い感を実感できない場合および存在することを実感できるが不快である場合を×として評価した。
【0042】
実施例45〜58および比較例18〜27の組成物についての、潤い感持続性試験の結果を以下の表15に示す。
【0043】
【表15】

【0044】
比較例18〜27の組成物に比べて、実施例45〜58の組成物は潤い感持続性に優れていた。また、実施例41〜44の組成物と比べて、実施例45〜58の組成物は潤い感持続性に極めて優れており、シトロネロール、シトロネラール、シネオール、オイゲノール、ユーカリラディアータ、ユーカリシトリオドラなどの香料が、潤い感持続性に特に効果的であることが分かった。
【0045】
また、実施例52および53の組成物は、実施例52におけるシトロネロールおよびシネオールをそれぞれ0.005重量%とした場合、ならびに実施例53におけるシトロネロールおよびシトロネラールをそれぞれ0.005重量%とした場合に比べると潤い感持続性により優れていた。また、実施例56〜58の組成物は、実施例56におけるオイゲノール、実施例57におけるユーカリラディアータおよび実施例58におけるユーカリシトリオドラの配合量を、それぞれ0.07重量%にした場合に比べると、潤い感持続性および使用感により優れていた。
[処方例]
表16および17の記載の処方例に従い、口腔乾燥症改善剤を調製した。
【0046】
【表16】

【0047】
【表17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、多価アルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースおよびポリビニルピロリドンを含む、口腔乾燥症改善剤。
【請求項2】
シトロネロール、シトロネラール、シネオール、オイゲノール、シトラール、リナロール、ゲラニオール、ネロールおよびイソオイゲノールから選択される1種以上の香料をさらに含む、請求項1に記載の口腔乾燥症改善剤。
【請求項3】
25℃における粘度が2〜50cPである、請求項1または2に記載の口腔乾燥症改善剤。
【請求項4】
3〜25重量%の多価アルコール、0.01〜5重量%のヒドロキシプロピルセルロース、0.01〜5重量%のヒプロメロース、0.01〜5重量%のポリビニルピロリドンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の口腔乾燥症改善剤。
【請求項5】
0.015〜0.05重量%の香料を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の口腔乾燥症改善剤。
【請求項6】
多価アルコールが、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコールおよびマンニトールから選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の口腔乾燥症改善剤。

【公開番号】特開2009−242349(P2009−242349A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93799(P2008−93799)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】