説明

口腔内崩壊錠

【課題】δ型D−マンニトール結晶から転移したβ型D−マンニトール結晶を含有し、比表面積が0.4〜0.9m/gである造粒物を打錠してなる口腔内崩壊錠を提供すること。
【解決手段】δ型D−マンニトール結晶含有組成物に水または水溶性溶媒を噴霧することによって、δ型D−マンニトール結晶をβ型D−マンニトール結晶に転移させる工程、および、前記工程に供された含有組成物を乾燥することによって、上記転移により生じたβ型D−マンニトール結晶の成長を抑制する工程を経て製造される。該口腔内崩壊錠は、速崩壊性と高錠剤強度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のβ型D−マンニトール結晶を含有し、特定の比表面積を有する造粒物を打錠してなる口腔内崩壊錠およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の口腔内崩壊錠は、錠剤強度が低いため、製造工程において、空気輸送が不可能でありマニュアル操作が必要となる。さらに、粉立ち、欠け、割れが発生しやすいため、検査員を多く配置する必要があり、錠剤の保管状態、PTP包装での小分け充填にも細心の注意が必要となる。また、従来の口腔内崩壊錠は、錠剤強度が低いので摩損特性(摩損度という)が大きく、錠剤どうしの摩擦や、錠剤と容器との摩擦により粉立ちが多く発生する。また、病院薬局での調剤あるいは患者の使用においてPTP包装から錠剤を取り出す際に、欠け、割れが発生することもしばしばある。そのため、調剤において、全自動錠剤分包機を用いて一包化することができないことも多い。
【0003】
従来の技術では、製造工程や輸送時に割れや欠けの発生しない錠剤強度(錠剤の硬度を破断面積で除した値)2N/mmにおける口腔内崩壊時間が30秒を超えていた。しかし、口腔内崩壊錠としての機能を発揮するためには、口腔内崩壊時間は30秒以下とすることが課題であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、口腔内での崩壊時間が30秒以内の速崩壊性を有し、かつ高錠剤強度を呈する口腔内崩壊錠およびその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、δ型D−マンニトール結晶より転移したβ型D−マンニトール結晶を含有し、比表面積が0.4〜0.9m/gである造粒物を打錠してなる口腔内崩壊錠が、例えば錠剤強度を2N/mmという高強度の錠剤とした場合であっても、口腔内崩壊時間が30秒以内になることを見出し、またかかる口腔内崩壊錠の製造方法を見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明の特徴は以下のとおりである。
(1)δ型D−マンニトール結晶より転移したβ型D−マンニトール結晶を含有し、比表面積が0.4〜0.9m/gである造粒物を打錠してなる、口腔内崩壊錠。
(2)造粒物が、δ型D−マンニトール結晶含有組成物中のδ型D−マンニトール結晶を水または水溶性溶媒と接触させることによって、β型D−マンニトール結晶に転移させて調製されたものである、(1)記載の口腔内崩壊錠。
(3)水または水溶性溶媒が高分子結合剤を溶解した態様である、(2)記載の口腔内崩壊錠。
(4)δ型D−マンニトール結晶含有組成物中における該δ型D−マンニトール結晶の含量が50質量%以上である、(2)または(3)記載の口腔内崩壊錠。
(5)δ型D−マンニトール結晶含有組成物中に、さらに崩壊剤を含有してなる、(2)〜(4)のいずれか1項記載の口腔内崩壊錠。
(6)崩壊剤がクロスポビドン、カルメロースおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選ばれる、(5)記載の口腔内崩壊錠。
(7)崩壊剤がクロスポビドンである、(5)記載の口腔内崩壊錠。
(8)δ型D−マンニトール結晶含有組成物中にさらにアスペクト比3以上の結晶セルロースを5〜30質量%含有する、(2)〜(7)のいずれか1項記載の口腔内崩壊錠。
(9)消化性潰瘍用剤、精神神経用剤、消化器官用剤、睡眠導入剤、低血圧治療剤、片頭痛治療剤、降圧剤、抗精神病剤、または食後過血糖改善剤を活性成分として含有する、(1)〜(8)のいずれか1項記載の口腔内崩壊錠。
(10)δ型D−マンニトール結晶含有組成物を水または水溶性溶媒と接触させることにより、該組成物中のδ型D−マンニトール結晶をβ型D−マンニトール結晶に転移させる工程(工程1)、当該接触後、乾燥工程に付して該β型D−マンニトール結晶を含有し、比表面積が0.4〜0.9m/gである造粒物を得る流動層造粒による工程(工程2)、および該造粒物を打錠する工程(工程3)を含有する、口腔内崩壊錠の製造方法。
(11)水または水溶性溶媒が高分子結合剤を含有する、(10)記載の製造方法。
(12)δ型D−マンニトール結晶含有組成物中に、さらに崩壊剤を含有してなる、(10)または(11)記載の製造方法。
(13)崩壊剤がクロスポビドン、カルメロースおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選ばれる、(12)記載の製造方法。
(14)崩壊剤がクロスポビドンである、(12)記載の製造方法。
(15)δ型D−マンニトール結晶含有組成物中にアスペクト比3以上の結晶セルロースを5〜30質量%含有する、(10)〜(14)のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、製造工程や輸送時に割れや欠けの発生が極めて少ない高錠剤強度を有し、かつ口腔内崩壊時間が30秒以内である、優れた特性を有する口腔内崩壊錠が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、前記造粒物中に、ひいては該造粒物を打錠して製造された口腔内崩壊錠中にδ型D−マンニトール結晶から転移したβ型D−マンニトール結晶が含まれる。
δ型D−マンニトール結晶含有組成物中の該δ型D−マンニトール結晶の含有量は、多いことが好ましく、具体的には50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%である。かくして、口腔内崩壊錠に要求される高錠剤強度と速崩壊性がより効果的に達成される。
【0009】
本発明に関して、β型およびδ型D−マンニトール結晶は、Walter-Levy, L. により報告[Acad.Sci.Paris t. 276 Series C, 1779, (1968)]されたX線回析パターンによるD−マンニトールの結晶多形の分類に従って定義される。
【0010】
δ型D−マンニトール結晶から水または水性溶媒と接触させることにより転移したβ型D−マンニトール結晶は、一般には微小な針状結晶として存在している。一方、市販されているβ型D−マンニトール結晶は、板状の結晶粉末として製造される。
【0011】
よって、本発明の口腔内崩壊錠に含まれるD−マンニトール結晶が、δ型D−マンニトール結晶から転移したβ型D−マンニトール結晶であるか、あるいは、それ以外のβ型D−マンニトール結晶であるかを区別するためには、顕微鏡を用いて、D−マンニトール結晶の結晶形状に着目すればよい。その結果、結晶面に微小な針状結晶が晶出していれば、δ型D−マンニトール結晶から転移したβ型D−マンニトール結晶であると認識することができる。
【0012】
造粒物における比表面積は、0.4〜0.9m/g、好ましくは0.5〜0.8m/g、より好ましくは0.6〜0.7m/gである。比表面積の測定は、次の通りにして行なわれる。
比表面積測定装置 フローソーブII 2300(島津製作所)を用いる。試料を標準セルに採り、測定用N:He=30:70混合ガスを流しながら、温度40℃で、約1時間脱ガス処理した後に測定する。比表面積値は同一試料を用いて繰り返し3回測定し、その平均値を求める。
【0013】
造粒物の調製方法について説明する。
本発明において、造粒物を調製するためのδ型D−マンニトール結晶含有組成物は、δ型D−マンニトール結晶の他に、少なくとも薬効成分、食品成分などの活性成分、崩壊剤、結晶セルロースなどを含むものである。
【0014】
活性成分の種類などについては後述する。
崩壊剤としては、クロスポビドン、カルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分α化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチなどが挙げられる。崩壊剤は、高錠剤強度と速崩壊性という二律背反的な課題を解決する観点から、δ型D−マンニトール結晶含有組成物中に好ましくは1〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは5〜10質量%含有される。
【0015】
δ型D−マンニトール結晶は公知であり、例えば、市販品(パーテックデルタM、メルク社)などをそのまま用いてもよい。
【0016】
本発明によれば、δ型D−マンニトール結晶組成物中には、δ型D−マンニトール結晶以外に、結晶セルロースをさらに含有してもよい。結晶セルロースのアスペクト比は大きければ大きいほど良く、好ましくは2以上であり、より好ましくは2.5以上であり、さらに好ましくは3以上である。結晶セルロースのアスペクト比は結晶セルロースの短軸径に対する長軸径の比であり、結晶セルロースを顕微鏡で観察することなどにより短軸径および長軸径を容易に測定することができる。高錠剤強度と速崩壊性を考慮すると、δ型D−マンニトール結晶含有組成物中の結晶セルロースの含有量は、好ましくは5〜30質量%であり、より好ましくは5〜20質量%である。アスペクト比が3以上の結晶セルロースは公知であり、市販品等をそのまま用いてもよい。
【0017】
本発明の口腔内崩壊錠は次の工程を経て製造される。
δ型D−マンニトール結晶含有組成物を水または水溶性溶媒と接触させることにより、該含有組成物中のδ型D−マンニトール結晶をβ型D−マンニトール結晶に転移させる工程(工程1)、当該接触後、乾燥工程に付して、該β型D−マンニトール結晶を含有し、比表面積が0.4〜0.9m/gである造粒物を得る工程(工程2)、および該造粒物を打錠する工程(工程3)。
【0018】
工程1における、水または水溶性溶媒としては、精製水、メタノール、エタノール、アセトンおよびこれらの混合液などが例示される。水または水溶性溶媒は、造粒物をより容易に形成させるために、高分子結合剤を配合してもよい。当該配合によって、高分子結合剤は水または水溶性溶媒に溶解または分散した溶液の形態で存在する。高分子結合剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、α化デンプン、アラビアゴム、カンテン、ゼラチン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デンプン糊、プルランなどが挙げられる。
【0019】
高分子結合剤の配合量は、水または水溶性溶媒中1〜10質量%、好ましくは3〜8質量%、より好ましくは4〜6質量%である。
【0020】
工程1における、δ型D−マンニトール結晶含有組成物と水または水溶性溶媒との接触手段としては、当該δ型D−マンニトール結晶含有組成物中のδ型D−マンニトール結晶が水または水溶性溶媒で該結晶の表面を湿潤させ得るいずれの手段を利用しても良く、例えば、水または水溶性溶媒の噴霧、滴下などが挙げられ、例えばδ型D−マンニトール結晶含有組成物を、流動層造粒に付することによって行なわれる。流動層造粒は、流動層造粒乾燥機(例えば流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック))、転動造粒機(例えば遠心転動造粒コーティング機(GX−20、グラニュレックス、フロイント産業))などを用いることによって行われる。
その際の水または水溶性溶媒の噴霧速度は、通常5〜15g/分、好ましくは8〜10g/分である。液量は、δ型D−マンニトール結晶100質量部に対して、好ましくは5〜55質量部であり、より好ましくは10〜50質量部であり、さらに好ましくは20〜40質量部である。
【0021】
当該接触後、工程2の乾燥工程に付される。乾燥工程は、例えば流動層造粒乾燥機で給気温度70℃、風量40m/時によって行なわれる。通常は工程1で使用した流動層造粒乾燥機で、連続的に行われる。乾燥工程における、給気温度は、50〜80℃、好ましくは60〜70℃である。また、その際の風量は、20〜60m/時、好ましくは30〜50m/時である。また、真空乾燥機(40〜60℃減圧)でも良い。
かくして、該β型D−マンニトール結晶を含有し、比表面積が0.4〜0.9m/gである造粒物が得られる。
【0022】
工程3の造粒物を打錠する工程において、打錠は自体既知の手法によって行なわれる。打錠機としては、例えばロータリー式打錠機(VIRGO、菊水製作所)などが使用される。その際の打錠条件は、例えば予圧が本圧の1/3である。
本発明の錠剤強度は、通常2〜4N/mm、好ましくは2〜3N/mm程度である。
錠剤の硬度は、硬度計(PTP 311E、ジャパンマシナリー)を用いて測定する。破断面積は錠厚と錠径から算出し、硬度を破断面積で除して錠剤強度を算出する。
【0023】
本発明の造粒物の製造方法の好適な例は、δ型D−マンニトール結晶とクロスポビドンとを共存させた状態で、水または水溶性溶媒による処理工程および乾燥工程に供する方法である。この方法で得られる造粒物は、δ型D−マンニトール結晶が転移してできたβ型D−マンニトール結晶を使用することによって、好適には崩壊剤(就中、クロスポピドン)を共存させることによって、打錠した際には速崩壊性と高錠剤強度とが達成される。
【0024】
本発明の口腔内崩壊錠には、前記成分の他に、医薬品や食品の製造に一般的に用いられている甘味剤、矯味剤、賦形剤、流動化剤、滑沢剤、香料、着色料などをさらに含有してもよい。
【0025】
甘味剤は、通常造粒物中に配合される。甘味剤としては、例えばデンプン糖、還元麦芽糖水あめ、ソルビット、砂糖、果糖、乳糖、蜂蜜、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、サッカリン、甘草およびその抽出物、グリチルリチン酸、甘茶、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。
矯味剤は、通常造粒物中に配合される。矯味剤としては、クエン酸、酒石酸、DL−リンゴ酸、グリシン、DL−アラニンなどが挙げられる。
賦形剤は、通常造粒物中に配合される。賦形剤としては、例えば、乳糖、トウモロコシデンプン、蔗糖、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
流動化剤は、造粒物中に含ませても、打錠時に配合してもよい。流動化剤としては、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、乾燥水酸化アルミニウムゲル、カオリン、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、タルクなどが挙げられる。
滑沢剤は、通常打錠時に配合される。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム、水素添加植物油、マイクロクリスタリンワックス、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
香料は、通常打錠時に配合される。香料としては、ストロベリー、レモン、レモンライム、オレンジ、l−メントール、ハッカ油などが挙げられる。
着色料としては、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用タール色素、天然色素などが挙げられる。
【0026】
本発明の口腔内崩壊錠の体積は、好ましくは60mm以上であり、より好ましくは80〜500mmである。そのような比較的大きな体積の口腔内崩壊錠では、口腔内における速崩壊性という効果がより顕著となる。
【0027】
本発明の口腔内崩壊錠は、高錠剤強度と速崩壊性が要求されるものであればいかなる用途の口腔内崩壊剤としてもよく、例えば、医薬品、食品(菓子類、機能性食品、健康食品など)に使用できる。
【0028】
本発明の口腔内崩壊錠が医薬品である場合には、経口投与によって医薬としての活性を有する化合物、つまり活性成分を前述の造粒物がさらに含有する。
【0029】
本発明の口腔内崩壊錠において、活性成分は特に限定なく使用することができ、例えば、以下のものが挙げられる。
【0030】
睡眠導入剤:メトリジンなどの低血圧治療剤:ゾルミトリプタンなどの片頭痛治療剤:インダパミドなどの降圧剤:抗精神病剤:食後過血糖改善剤:エスタゾラム、トリアゾラム、酒石酸ゾルピデム、ラメルテオンなどの催眠鎮静剤、抗不安薬:パブロン酸ナトリウム、クロバザムなどの抗てんかん剤:メロキシカム、ロルノキシカム、ロキソプロフェンナトリウムなどの解熱消炎鎮痛剤:塩酸メタンフェタミンなどの興奮剤、覚せい剤:塩酸タリペキソールなどの抗パーキソン剤:フマル酸クエチアビン、塩酸ペロスピロン、塩酸ミルナシプラン、オランザピン、塩酸パロキセチン水和物、エチゾラムなどの精神神経用剤:エダラポン、塩酸ドネペジル、タルチレリン水和物などのその他の中枢神経系用薬:臭化ジスチグミンなどの自律神経剤:バクロフェン、塩酸チザニジンなどの鎮けい剤:ヘレニエンなどの眼科用剤、耳鼻科用剤:メシル酸ベタヒスチンなどの鎮暈剤:ジゴキシンなどの強心剤:塩酸アロチノール、フマル酸ビソプロロール、塩酸ピルジカニドなどの不整脈用剤:フルセミド、フルイトランなどの利尿剤:塩酸イミダプリル、シルニジピン、塩酸テモカプリル、ロサルタンカリウム、アゼルニジピン、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、テルミサルタン、カルベジロール、塩酸ベニジピン、マレイン酸エナラプリルなどの血圧降下剤:コハク酸スマトリプタン、ゾルミトリブラン、安息香酸リザトリプタンなどの血管収縮剤:ベシル酸アムロジピン、硝酸イソソルビドなどの血管拡張剤:フルバスタチンナトリウム、フェノフィブラート、アトルバスタチンカルシウム水和物、シンバスタチン、プラバスタチンナトリウムなどの高脂血症用剤:酒石酸イフェンプロジルなどのその他の循環器官用剤:塩酸アンブロキソール、フドスティンなどの咳剤、去たん剤:キシナホ酸サルメテロールなどの気管支拡張剤:塩酸ロペラミドなどの止しゃ剤、整腸剤:ラフチジン、オメプラゾールナトリウム、ラベプラゾールナトリウム、エカベトナトリウム、ファモチジン、ランソプラゾール、テプレノン、レパミドなどの消化性潰瘍用剤:健胃消化剤、制酸剤、利胆剤、下剤、浣腸剤:塩酸イトプリド、塩酸アザセトロン、塩酸ラモセトロン、塩酸オンダンセトロンなどのその他の消化器官用剤:ホルモン剤:塩酸ピオグリタゾン、ボグリボースなどの糖尿病用剤:リセドロン酸ナトリウム水和物、シベレスタットナトリウム水和物などの他に分類されない代謝性医薬品:塩酸オロパタジン、ザフィルルカスト、ロラタジン、モンテルカストナトリウム、エバスチン、塩酸セチリジンなどのアレルギー用薬:セフカペンピボキシル、セフジトレンピボキシルなどの抗生物質:シプロフロキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシンなどの合成抗菌剤:リン酸オセルタミビル、リバビリンなどの抗ウイルス剤:塩酸テルビナフィン、イトラコナゾールなどの抗真菌剤:塩酸サルボグレラート、塩酸チクロピジンなどの抗血小板剤。さらに、店頭向け医薬品に含まれる、鼻炎薬、乗り物酔い薬、解熱消炎鎮痛薬、胃腸薬なども活性成分として使用できる。
【0031】
本発明によれば、速崩壊性と高錠剤強度を呈する錠剤、つまり口腔内崩壊錠が得られる。口腔内崩壊錠は、口腔内崩壊性をもつ錠剤であり、口腔内で水を服用することなく、だ液により実用上十分な崩壊性もしくは溶解性を有する錠剤である。具体的には、本発明の錠剤については、健康な成人男子の口腔内の唾液で錠剤が完全に崩壊するまでの時間が、通常10〜30秒、好ましくは20〜30秒程度である。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
口腔内崩壊時間の測定は、成人男子4名で行った。口腔内では錠剤を噛まずに、錠剤が完全に崩壊するまでの時間を測定した。
口腔内崩壊錠の強度は、デジタル硬度計(PTB311E、Pharm Test GmbH Germany)で錠剤硬度を測定し、錠剤の破断面積で除した値とした。
【0033】
(実施例1)
42メッシュ篩で篩過したδ型D−マンニトール結晶500g(商品名:パーテックデルタM)およびクロスポビドン15g(商品名:ポリプラスドンXL−10)の混合物を流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入した。風量を40m/時に設定し、給気温度を変えて、流動層造粒乾燥機の上部から精製水135gを噴霧速度10g/分で噴霧した(工程1)。風量40m/時で乾燥し(工程2)、比表面積の異なる造粒物1〜5を作製した。各造粒物を22メッシュ篩で整粒し、ステアリン酸マグネシウム(42メッシュ篩で篩過)を1.0質量%添加してV型混合機(VL−10、徳寿工作所)で10分間混合を行った。錠剤強度が約2.0N/mmになるように、ロータリー式打錠機(VIRGO、菊水製作所)を用いてφ8mm質量170mgで各混合物を打錠した(工程3)。各造粒物から得た錠剤の錠剤強度および口腔内崩壊時間を調べた。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
以上の結果より、造粒物の比表面積が1.0m/g以上になると、口腔内崩壊時間が30秒以上になることが判明した。
【0036】
従って、口腔内崩壊時間を30秒以内にするには造粒物の比表面積を0.9m/g以下にする必要があることが判明した。
【0037】
(実施例2)
表2に錠剤の処方を示す。内添加原料を42メッシュ篩で篩過し、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、PVP(ポリビニルピロリドン、タイプK−29/32)の4%水溶液を噴霧速度10g/分、噴霧量125gの条件で噴霧した(工程1)。給気温度70℃、風量40m/時で乾燥し(工程2)、22メッシュ篩で篩過し、整粒物とした。軽質無水ケイ酸およびステアリン酸マグネシウム(ともに42メッシュで篩過)と得た整粒物とをV型混合機(VL−10、徳寿工作所)で10分間混合を行った。ロータリー式打錠機(VIRGO、菊水製作所)を用いてφ8mm質量200mgで混合物を打錠した(工程3)。
【0038】
【表2】

【0039】
造粒物の比表面積は0.5m/gであった。得た錠剤の錠剤強度は2.1N/mmで口腔内崩壊時間は22秒であった。
【0040】
(実施例3)
表3に錠剤の処方を示す。内添加原料を42メッシュ篩で篩過し、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、PVA(ポリビニルアルコール、タイプEG−05)の4%水溶液を噴霧速度10g/分、噴霧量125gの条件で噴霧した(工程1)。給気温度70℃、風量40m/時で乾燥し(工程2)、22メッシュ篩で篩過し、整粒物とした。軽質無水ケイ酸およびステアリン酸マグネシウム(ともに42メッシュで篩過)と得た整粒物とをV型混合機(VL−10、徳寿工作所)で10分間混合を行った。ロータリー式打錠機(VIRGO、菊水製作所)を用いてφ8mm質量200mgで混合物を打錠した(工程3)。
【0041】
【表3】

【0042】
造粒物の比表面積は0.6m/gであった。得た錠剤の錠剤強度は2.2N/mmで口腔内崩壊時間は24秒であった。
【0043】
(実施例4)
表4に錠剤の処方を示す。内添加原料を42メッシュ篩で篩過し、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、HPC−L(ヒドロキシプロピルセルロース、タイプL)の4%水溶液を噴霧速度10g/分、噴霧量125gの条件で噴霧した(工程1)。給気温度70℃、風量40m/時で乾燥し(工程2)、22メッシュ篩で篩過し、整粒物とした。得た整粒物とステアリン酸マグネシウム(42メッシュで篩過)とをV型混合機(VL−10、徳寿工作所)で10分間混合を行った。ロータリー式打錠機(VIRGO、菊水製作所)を用いてφ8mm質量200mgで混合物を打錠した(工程3)。
【0044】
【表4】

【0045】
造粒物の比表面積は0.5m/gであった。得た錠剤の錠剤強度は2.1N/mmで口腔内崩壊時間は23秒であった。
【0046】
(実施例5)
表5に錠剤の処方を示す。内添加原料を42メッシュ篩で篩過し、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、HPC−L(ヒドロキシプロピルセルロース、タイプL)の4%水溶液を噴霧速度10g/分、噴霧量125gの条件で噴霧した(工程1)。給気温度70℃、風量40m/時で乾燥し(工程2)、22メッシュ篩で篩過し、整粒物とした。軽質無水ケイ酸およびステアリン酸マグネシウム(ともに42メッシュで篩過)と得た整粒物とをV型混合機(VL−10、徳寿工作所)で10分間混合を行った。ロータリー式打錠機(VIRGO、菊水製作所)を用いてφ8mm質量200mgで混合物を打錠した(工程3)。
【0047】
【表5】

【0048】
造粒物の比表面積は0.7m/gであった。得た錠剤の錠剤強度は2.4N/mmで口腔内崩壊時間は26秒であった。
【0049】
(実施例6)
表6に錠剤の処方を示す。内添加原料を42メッシュ篩で篩過し、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、HPC−L(ヒドロキシプロピルセルロース、タイプL)の4%水溶液を噴霧速度10g/分、噴霧量125gの条件で噴霧した(工程1)。給気温度70℃、風量40m/時で乾燥し(工程2)、22メッシュ篩で篩過し、整粒物とした。軽質無水ケイ酸およびステアリン酸マグネシウム(ともに42メッシュで篩過)と得た整粒物とをV型混合機(VL−10、徳寿工作所)で10分間混合を行った。ロータリー式打錠機(VIRGO、菊水製作所)を用いてφ8mm質量200mgで混合物を打錠した(工程3)。
【0050】
【表6】

【0051】
造粒物の比表面積は0.6m/gであった。得た錠剤の錠剤強度は2.3N/mmで口腔内崩壊時間は23秒であった。
【0052】
(実施例7)
表7に錠剤の処方を示す。内添加原料を42メッシュ篩で篩過し、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、HPC−L(ヒドロキシプロピルセルロース、タイプL)の4%水溶液を噴霧速度10g/分、噴霧量125gの条件で噴霧した(工程1)。給気温度70℃、風量40m/時で乾燥し(工程2)、22メッシュ篩で篩過し、整粒物とした。得た整粒物とステアリン酸マグネシウム(42メッシュで篩過)とをV型混合機(VL−10、徳寿工作所)で10分間混合を行った。ロータリー式打錠機(VIRGO、菊水製作所)を用いてφ8mm質量170mgで混合物を打錠した(工程3)。
【0053】
【表7】

【0054】
造粒物の比表面積は0.6m/gであった。得た錠剤強度は2.6N/mmで口腔内崩壊時間は14秒であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、高錠剤強度かつ速崩壊性を有する口腔内崩壊錠を提供する。本発明によれば、常套の製造方法や、それに準じる製造方法により口腔内崩壊錠を製造することができる。複雑・煩雑な手法を特に要さないため、製造コストを低く抑えることが可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
δ型D−マンニトール結晶より転移したβ型D−マンニトール結晶を含有し、比表面積が0.4〜0.9m/gである造粒物を打錠してなる、口腔内崩壊錠。
【請求項2】
造粒物が、δ型D−マンニトール結晶含有組成物中のδ型D−マンニトール結晶を水または水溶性溶媒と接触させることによって、β型D−マンニトール結晶に転移させて調製されたものである、請求項1記載の口腔内崩壊錠。
【請求項3】
水または水溶性溶媒が高分子結合剤を溶解した態様である、請求項2記載の口腔内崩壊錠。
【請求項4】
δ型D−マンニトール結晶含有組成物中における該δ型D−マンニトール結晶の含量が50質量%以上である、請求項2または3記載の口腔内崩壊錠。
【請求項5】
δ型D−マンニトール結晶含有組成物中に、さらに崩壊剤を含有してなる、請求項2〜4のいずれか1項記載の口腔内崩壊錠。
【請求項6】
崩壊剤がクロスポビドン、カルメロースおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選ばれる、請求項5記載の口腔内崩壊錠。
【請求項7】
崩壊剤がクロスポビドンである、請求項5記載の口腔内崩壊錠。
【請求項8】
δ型D−マンニトール結晶含有組成物中にさらにアスペクト比3以上の結晶セルロースを5〜30質量%含有する、請求項2〜7のいずれか1項記載の口腔内崩壊錠。
【請求項9】
消化性潰瘍用剤、精神神経用剤、消化器官用剤、睡眠導入剤、低血圧治療剤、片頭痛治療剤、降圧剤、抗精神病剤、または食後過血糖改善剤を活性成分として含有する、請求項1〜8のいずれか1項記載の口腔内崩壊錠。
【請求項10】
δ型D−マンニトール結晶含有組成物を水または水溶性溶媒と接触させることにより、該組成物中のδ型D−マンニトール結晶をβ型D−マンニトール結晶に転移させる工程(工程1)、当該接触後、乾燥工程に付して該β型D−マンニトール結晶を含有し、比表面積が0.4〜0.9m/gである造粒物を得る流動層造粒による工程(工程2)、および該造粒物を打錠する工程(工程3)を含有する、口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項11】
水または水溶性溶媒が高分子結合剤を含有する、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
δ型D−マンニトール結晶含有組成物中に、さらに崩壊剤を含有してなる、請求項10または請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
崩壊剤がクロスポビドン、カルメロースおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選ばれる、請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
崩壊剤がクロスポビドンである、請求項12記載の製造方法。
【請求項15】
δ型D−マンニトール結晶含有組成物中にアスペクト比3以上の結晶セルロースを5〜30質量%含有する、請求項10〜14のいずれか1項記載の製造方法。


【公開番号】特開2010−70466(P2010−70466A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237021(P2008−237021)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000161965)京都薬品工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】