説明

可動ホーム柵

【課題】
シンプルな構造でありながら、可動戸袋を安定して立設・走行させることができる可動ホーム柵を提供する。
【解決手段】
駆動手段により車輪35がプラットホーム1に埋設したガイドレール2に沿って移動することでプラットホーム1の長さ方向に移動可能な可動戸袋3と、扉体4と、を備えた可動ホーム柵である。プラットホーム1の上方に位置する構造体には、プラットホーム1の長さ方向に延びる上側ガイド部材5が延設されており、可動戸袋3は、上側ガイド部材5に沿って移動可能な支持バー6によって支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラットホームの側縁に近接して設置され、プラットホームと軌道とを仕切る可動ホーム柵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道駅の安全対策等への対応として、プラットホームドア、可動ホーム柵等と称される扉装置ないしゲート装置の設置が広がっており、今後も普及は進んでいくものと考えられる。
【0003】
現在実際に設置されているプラットホームドア、可動ホーム柵は、車両のドア配置に依存した構成となっており、車両ドアピッチの異なる車両が運行するプラットホームに対応することはできない。しかしながら、現実に、同時に多種多様な車両が走る路線もあり、車両の種別・用途や形式によって、ドアの数・広さ・位置なども異なるため、ドア配置が異なる異種車両に対応できるプラットホームドア、可動ホーム柵に対する要望がある。
【0004】
ドア配置が異なる異種車両に対応することを目的としたプラットホームドア、可動ホーム柵については数多くの提案がなされている。提案されている装置は、特許文献1に示すような襖状の扉体を複数枚用いるものと、特許文献2に示すような低背の戸袋と、戸袋に対して出没可能に設けられる扉体とを用いた可動ホーム柵とに大きく分けられる。
【0005】
特許文献1に示すような襖状の扉体を用いたものでは、プラットホーム床面から人の背丈よりも高い高さ寸法を備えた扉体をプラットホームの長さ方向に移動させるため、扉枠を含めた装置全体が大掛かりとなってコスト上昇を招くおそれがあり、また、車両への乗客の乗降時に車掌からの視界・見通しが悪いという課題もある。
【0006】
低背の戸袋と扉体からなる可動ホーム柵は、襖状の扉体を用いたものに比べて構造がシンプルであり、また、車両への乗客の乗降時に車掌からの視界・見通しも良い。また、低背の戸袋と扉体からなる可動ホーム柵の中には、戸袋を可動としたものも提案されている(特許文献3、特許文献4)。ドア配置が異なる異種車両にフレキシブルに対応するには、戸袋を可動とする構成は有利である。
【0007】
可動戸袋を採用するホーム柵の実現のためには、扉体を片持ち状で保持する不安定な戸袋をいかにして安定して立設・走行させるかが問題となる。特許文献4は、戸袋に通過列車の風圧が作用したり、ラッシュ時に人が戸袋に寄りかかったりしたときに、戸袋が倒れてしまうことにも言及しており、可動戸袋の下端の走行機構の構成に特徴を持たせることでこれを解決しようとするものであるが、走行機構の構成が複雑となってしまうことからコスト高を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−131009
【特許文献2】特開2005−145372
【特許文献3】特開2005−335451
【特許文献4】特開2006−8068
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、シンプルな構造でありながら、可動戸袋を安定して立設・走行させることができる可動ホーム柵を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明が採用した技術手段は、
プラットホームの床面に当該プラットホームの長さ方向に延設されたガイドレールと、
扉体収納部と、走行体と、駆動手段と、を有し、前記駆動手段により前記走行体が前記ガイドレールに沿って移動することでプラットホームの長さ方向に移動可能な可動戸袋と、
前記扉体収納部にスライド移動可能に設けられた扉体と、
を備えた可動ホーム柵であって、
プラットホームの上方に位置する構造体には、プラットホームの長さ方向に延びる上側ガイド部材が延設されており、
前記可動戸袋は、前記上側ガイド部材に沿って移動可能な支持部材によって支持されている、
可動ホーム柵、である。
【0011】
1つの態様では、前記支持部材は、各可動戸袋に設けられた1本あるいは複数本の長尺部材であり、前記長尺部材の下端は可動戸袋に連結されており、前記長尺部材の上端は前記上側ガイド部材に沿って移動可能となっている。
【0012】
1つの態様では、前記可動戸袋は、プラットホーム側に面する第1面部と、軌道側に面する第2面部と、を備えると共に、乗客の背丈よりも低背であり、前記支持部材は、前記第1面部側において、少なくとも乗客の上半身を含む所定高さに亘って上方に延びている。より具体的な態様では、前記支持部材の下端は、前記可動戸袋の第1面部側(ホーム側)に連結されており、前記支持部材は所定高さまでそのまま上方に立ち上がり状に延びている。あるいは、前記支持部材の下端は、前記可動戸袋の第2面部側(軌道側)に連結されていると共に、前記支持部材の下端部位は第1面部側(ホーム側)に湾曲しており、そこから所定高さまでそのまま上方に立ち上がり状に延びている。
【0013】
1つの態様では、前記上側ガイド部材が設けられる構造体は、プラットホーム上方の屋根部ないし天井部である。あるいは、前記上側ガイド部材が設けられる構造体は、プラットホーム上に設置されている壁体でもよい。
【0014】
1つの態様では、前記上側ガイド部材が設けられる構造体は、プラットホームに設置される上側ガイド部材を支持するための専用構造体である。特に、プラットホーム上に既設の屋根部、天井部、壁体が無い場合には専用構造体を設置する必要がある。1つの態様では、前記専用構造体は、前記プラットホームの床面上にプラットホームの長さ方向に間隔を存して立設した複数の柱体を備えており、柱体の上端に設けた横部材によって上側ガイド部材を支持する。1つの態様では、横部材は、各柱体の上端に片持ち状に設けた個別の横部材であり、各横部材によって上側ガイド部材を支持する。1つの態様では、横部材は、各柱体の上端を連結するようにプラットホームの長さ方向に延びている。あるいは、柱体の上端に上側ガイド部材を直接支持させてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、上側ガイド部材に沿って移動可能な支持部材によって可動戸袋を支持するようにしたので、戸袋が停止時・移動時のいずれの場合においても、戸袋の上側の揺れや動きを支持部材が規制することで、可動戸袋の倒れを防止することができる。
【0016】
可動戸袋の倒れを防止する機構を可動戸袋側(特に下端側)に設ける必要が無いので、可動戸袋の下方の走行機構の構成をシンプルにすることができる。
【0017】
可動戸袋は当該可動戸袋に内蔵された駆動手段によって自走するものであり、可動戸袋の自重はプラットホームの床面側で支持されていることから、上側ガイド部材は単に支持部材の移動可能に案内できて振れ止め機能を発揮できるものであればよく、上側ガイド部材に大きな強度が要求されることがなく(特に、可動戸袋を支持部材で上側ガイドレールから吊持するような場合に比べて)、より低コストで上側ガイド部材を形成することができる。
【0018】
上側ガイド部材は可動戸袋を吊持してその自重を負担するものではなく、したがって、上側ガイド部材を可動戸袋の直上に設ける必要が無いので、上側ガイド部材の取り付けの自由度が大きい。既設のプラットホームに屋根部や天井部が備わっている場合には、これらの構造体を利用して上側ガイド部材を取り付けることができるため、既設のプラットホームに対しての後付けも比較的簡単である。また、既設のプラットホームに適当な構造体が無い場合であっても、プラットホームの床面上に上側ガイド部材を支持するための専用構造体を設置すればよい。また、上述のように上側ガイド部材には大きな強度は要求されないので、上側ガイド部材を軽量化することが可能であり、上側ガイド部材が取り付けられる構造体に負担をかけることがなく、また、専用構造体を設置する場合においてもシンプルな架構で足りる。
【0019】
支持部材を、可動戸袋の第1面部側(ホーム側)において、少なくとも乗客の上半身を含む所定高さに亘って上方に延びるように配置することで、可動戸袋から上方に延びる支持部材を設けるものでありながら、車両への乗客の乗降時に車掌からの視界・見通しを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る可動ホーム柵を示す概略斜視図である。
【図2】本発明に係る可動ホーム柵を示す概略斜視図である。
【図3】本発明に係る可動ホーム柵を軌道側から見た概略斜視図である。
【図4】本発明に係る可動ホーム柵の側面図であり、上側ガイド部材の支持構造の1つの態様を示している。
【図5】本発明に係る可動ホーム柵の側面図であり、上側ガイド部材の支持構造の他の1つの態様を示している。
【図5A】本発明に係る可動ホーム柵の側面図であり、上側ガイド部材の支持構造のさらに他の1つの態様を示している。
【図6】本発明に係る可動ホーム柵の側面図であり、上側ガイド部材の支持構造のさらに他の1つの態様を示している。
【図6A】本発明に係る可動ホーム柵の側面図であり、上側ガイド部材の支持構造のさらに他の1つの態様を示している。
【図7】プラットホームと異なる複数の態様の上側ガイドレールとの位置関係を示す平面図である。
【図8A】支持バーの連結位置と車掌から見た見通しの良さの関係を説明する図である。
【図8B】車掌からの視界を示す模式図であって、奥側の乗客は、閉鎖状態の可動ホーム柵と車両との間に取り残された乗客を示している。図8Bにおいて上側ガイドレールは省略されている。
【図9】可動戸袋の走行機構及び駆動方式を示す図である。(A)はボールねじ駆動方式、(B)はベルト駆動方式を示す。
【図10】図9(A)の走行機構・駆動方式の詳細を示す図である。
【図11】図9(B)の走行機構・駆動方式の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る可動ホーム柵の全体構成について図1乃至図3に基づいて説明する。プラットホーム1の床面には、プラットホーム1の長さ方向に沿ってガイドレール2が延設されている。1つの態様では、ガイドレール2は、プラットホーム1の略全長に亘って延設されている。ガイドレール2は、プラットホーム1の床面内に埋設されており、ガイドレール2が埋設された部位の上面がプラットホーム1の床面と面一となるようになっている。
【0022】
プラットホーム1の床面には、軌道側の側縁に近接して複数の可動戸袋3が設けてあり、各可動戸袋3はガイドレール2に沿ってプラットホーム1の長さ方向に移動可能となっている。可動戸袋3は、ホーム側A(図4乃至6参照)に面する第1面部(ホーム側見付面)30と、軌道側B(図4乃至6参照)に面する第2面部31(軌道側見付面)と、左右の端面(見込面)32と、上面33と、下面34と、を備えている。可動戸袋3は人の背丈よりも低い低背に形成されており、1つの態様では、120cm〜130cm程度の高さを有している。可動戸袋3の形状・寸法は上記の内容に限定されるものではない。
【0023】
可動戸袋3は扉体4を収納するための扉体収納部を備えていると共に、扉体収納部は左右の端面32の一方あるいは両方には扉体収納部の開口が形成されている。扉体4が可動戸袋3の端面32の開口から突出した姿勢にある時に可動ホーム柵は閉鎖状態となり、扉体4が可動戸袋3内に収納された姿勢にある時に可動ホーム柵は開放状態となる。このように、扉体4は、扉体収納部に収納された姿勢と前記扉体収納部から突出した姿勢との間でスライド移動可能に可動戸袋3に設けられるが、収納姿勢において扉体4の戸先側が可動戸袋3の端面から突出していてもよい。また、一方の端面32から突出姿勢にある扉体4に対して当該突出姿勢を維持したまま可動戸袋3を当該扉体4側に相対的に移動させることで、可動戸袋3の他方の端面32側に開口を形成して開放状態としてもよい。
【0024】
戸袋に対してスライド移動可能な扉体は引戸として当業者によく知られており、扉体を自動でスライド移動させる自動引戸もまた当業者によく知られている。基本的な構成としては、戸袋の扉体収納部内にスライドレールを設け、扉体がスライドレールに案内されて移動可能とすると共に、扉体をスライドレールに沿ってスライド移動させるための駆動機構と、を備え、駆動機構の駆動源としては典型的にモータが用いられる。可動戸袋3に対して扉体4をどのようにスライド移動させるかの具体的な構成については当業者において多くの態様が考え得ることが理解される。また、可動ホーム柵における戸袋と扉体の構成については、例えば、特許文献2乃至4に記載されており、これらと同様ないし類似の構成を採用することもできる。
【0025】
図示の態様では、1つの可動戸袋3に対して2枚の扉体4が引き違い状に収納されるものを示しているが(戸袋の両側から扉が突出するものは例えば特許文献3や特開平11−334579号に開示されている)、1つの可動戸袋3に収納される扉体4の枚数は限定されない。例えば、1つの可動戸袋3につき1枚の扉体4が収納されるようにしてもよい。また、特許文献2、特開2000−16281号、特開2008−280034号に示すように、1つの戸袋に対して、当該戸袋の同じ端面側から突出する2枚の扉体を設け、一方の扉体を他方の扉体を収納する中間戸袋として形成し、他方の扉体が一方の扉体の内部に収納され、一方の扉体が戸袋の収納部に収納されるようにしてもよい。また、扉体4の形状もパネルに限定されない。
【0026】
可動戸袋3の下面34には走行体としての車輪35が設けてあり(図9乃至図11参照)、車輪35がガイドレール2に沿って転動することで可動戸袋3はプラットホーム1の長さ方向に移動可能となっている。既述のように、1つの態様では、ガイドレール2はプラットホーム1の略全長に亘って延設しているが、各々の可動戸袋3の移動量にあわせて複数本のガイドレールを断続的に設けてもよい。可動戸袋3は車輪35を回転させて自走するための駆動機構を備えており、駆動機構により車輪35がガイドレール2に沿って移動することで、可動戸袋3はプラットホーム1の長さ方向に移動する。この駆動機構については後述する。
【0027】
プラットホーム1の上方には、プラットホーム1の長さ方向に延びる上側ガイドレール5が延設されている。1つの態様では、上側ガイドレール5は、プラットホーム1の略全長に亘って延設されている。尚、床面に埋設したガイドレール2と同様に、各々の可動戸袋3の移動量にあわせて複数本の上側ガイドレールを断続的に設けてもよい。図示の態様では、直線状に延びる上側ガイドレール5が示してあるが、プラットホーム1が緩やかに湾曲しているような場合には、プラットホーム1に埋設したガイドレール2、上側のガイドレール5共に緩やかな湾曲状に形成され得る。
【0028】
図示の態様では、可動戸袋3の上面33には、支持部材としての2本の支持バー6の下端が連結されており、2本の支持バー6は、上方に向かって立ち上がり状に平行して延出している。支持バー6の上端には回転ローラ60が設けてあり、支持バー6の上端は回転ローラ60が上側ガイドレール5に沿って転動することで上側ガイドレール5の長さ方向に移動可能に支持されている。
【0029】
図示の態様では、支持バー6の上端に回転ローラ60を設けているが、支持バー6の上端が上側ガイドレール5に沿って移動できるものであれば、必ずしも回転ローラ60を設けなくてもよい。例えば、支持バー6の上端と上側ガイドレール5とが、可動戸袋3の移動に追従してスライド可能なように滑動可能に接しているものであれば、支持バー6の上端の部分を上側ガイドレール5に直接接触させて案内させてもよい。支持バー6の下端が連結される部位についても、可動戸袋3の上面33に限定されるものではなく、例えば、第1面部30の上方部位、第2面部31の上方部位、端面32の上方部位であってもよい。また、支持バー6の下端を可動戸袋3に対して着脱可能に取り付けてもよい。支持バー6を可動戸袋3に対して取り外し可能とすることで、可動ホーム柵のメンテナンス等に良好に対応することができる。
【0030】
図示の態様では、長尺状の支持部材として、2本の支持バー6を示したが、支持バー6の本数は限定されず、例えば、1本、あるいは、3本でもよい。支持バー6の全体形状、断面形状についても限定されず、断面形状は円形、方形、あるいは他の形状のいずれであってもよい。支持バー6は中空状のパイプでも、中空でない棒状部材でも、あるいは平帯状の部材でもよい。図示の態様では、支持バー6は全体として概ね鉛直状に延出する部材であるが、例えば、上側ガイドレール5の設置位置に応じて、支持バー6の上側を大きく湾曲させてもよい。
【0031】
2本の支持バー6の間の空間を利用して、2本の支持バー6間に跨って情報を提示するための情報提示プレートを張設してもよい。情報提示プレートに提示される情報としては、路線図、時刻表、運行情報、広告が例示される。情報提示プレートを設ける場合には、車両に対する乗客の乗降時の車掌の視界を妨げないように、支持バー6の高さの一部分にのみ情報提示プレートを設けることが望ましい。
【0032】
上側ガイドレール5の支持構造の幾つかの態様について図4乃至図6Aに基づいて説明する。図4乃至図6Aにおいてプラットホームの床面に埋設したガイドレールは省略されている。
【0033】
図4には、屋根のあるプラットホームに上側ガイドレール5を設置する場合であって、屋根を利用して上側ガイドレール5を支持している。より具体的に説明する。プラットホーム1には複数の柱体7が立設されており、柱体7の上端には屋根部8が支持されている。屋根部8はプラットホーム1の側縁の上方に達するように延設されている。上側ガイドレール5は、支持部材9、10によって屋根部8に支持させてある。尚、柱体7に代えて壁体により屋根部8を支持する構造でもよい。
【0034】
可動戸袋3の傾斜状の上面33の軌道から離隔する側(ホーム側A)には支持バー6の下端が固定されており、支持バー6は可動戸袋3の上面33のホーム側A(第1面部30側)から上方に立ち上がり状に延出すると共に、上方部位が軌道から離隔する側(ホーム側A)に湾曲する湾曲部6Aとなっており、湾曲部6Aの上端に設けた回転ローラ60、60が上側ガイドレール5に転動可能に支持されている。屋根部8の具体的な構成に応じて、支持構造(支持部材9、10)や支持バー6の形状・寸法等が適宜変更され得ることは当業者に理解される。
【0035】
図5は、天井のあるプラットホームに上側ガイドレール5を設置する場合であって、天井スラブを利用して上側ガイドレール5を支持している。天井のあるプラットホームとしては、典型的には、地下のプラットホームが挙げられる。より具体的に説明する。プラットホーム1の上方には天井部11が形成されている。天井部11の軌道側の端面には下地枠体12が設けられ、下地枠12の下端に上側ガイドレール5´が形成されている。可動戸袋3の傾斜状の上面33の軌道から離隔する側(ホーム側A)にはバー6の下端が固定されており、支持バー6は可動戸袋3の上面33のホーム側A(第1面部30側)から上方に立ち上がり状に延出すると共に、上方部位が軌道側Bに湾曲する湾曲部6Bとなっており、湾曲部6Aの上端に設けた回転ローラ60´が上側ガイドレール5´に転動可能に支持されている。天井部11の具体的な構成に応じて、支持構造(下地枠体12)や支持バーの形状・寸法等が適宜変更され得ることは当業者に理解される。
【0036】
図4、図5では、それぞれ、屋根部8、天井部11を利用して上側ガイドレール5、5´を支持させる態様について説明したが、上側ガイドレール5、5´が支持される構造体は屋根部8、天井部11に限定されるものではなく、支持バー6の寸法や形状に特徴を持たせる等することで、既設の壁体や軌道側の構造体を利用して上側ガイドレール5、5´を支持させてもよい。図5Aに、支持バー6の上方部位をプラットホームの幅方向に延ばして、その先端の回転ローラ60´´を壁体Wに設けた上側ガイドレール5´´に転動可能に支持させた態様を示す。あるいは、次に述べるように専用の支持架講を設けてもよい。
【0037】
図6は、プラットホーム1に設置した専用の支持架講を用いて上側ガイドレール5を支持する場合を示している。専用の支持架講は、プラットホーム1の床面上にプラットホーム1の長さ方向に間隔を存して立設した複数の柱体13と、各柱体13の上端に片持ち状に支持された横部材14と、からなる。図示の態様では、横部材14は、プラットホーム1の側縁に向かってプラットホーム1の幅方向に水平状に延出している。各横部材14の先端側の下面に上側ガイドレール5を支持させる。支持架講は、上側ガイドレール5を支持できるものであれば、その構成は限定されず、例えば、横部材は、各柱体の上端を連結するようにプラットホームの長さ方向に延びていてもよい。
【0038】
可動戸袋3の傾斜状の上面33の軌道から離隔する側(ホーム側A)には支持バー6の下端が固定されており、支持バー6は可動戸袋3の上面33のホーム側A(第1面部30側)から上方に立ち上がり状に延出すると共に、上方部位が軌道から離隔する側(ホーム側A)に湾曲する湾曲部6Aとなっており、湾曲部6Aの上端に設けた回転ローラ60、60が上側ガイドレール5に転動可能に支持されている。個々のプラットホームの条件に応じて、適当な支持架講や支持バーの形状・寸法等が適宜変更され得ることは当業者に理解される。
【0039】
図6Aは、図6の態様の変形例を示す。図6Aに示す態様では、屋根が無いプラットホーム、あるいは、ドームやアトリウムのように天井・屋根が高いプラットホームであって、かつ、幅方向の両側に軌道を備えた島式プラットホームにおいて、両側の可動ホーム柵が柱体13を共用する態様を示している。それぞれの側の可動ホーム柵の支持バー6の上方部位をプラットホームの幅方向に互いに接近する方向に延ばして、その先端の回転ローラ60´´を柱体13の上端に設けた上側ガイドレール5´´に転動可能に支持させている。
【0040】
図4乃至図6Aにおいて、上側ガイドレール5、5´、5´´が可動戸袋3の直上に位置していない点に留意されたい。上側ガイドレール5、5´、5´´は可動戸袋3を吊持してその自重を負担するものではないので、必ずしも可動戸袋3の直上に配置させる必要がない。したがって、上側ガイドレールの配置については自由度があり、例えば、図7に示すような配置が可能である。図7はプラットホーム1と上側ガイドレール5A、5B、5Cとの位置関係を示す平面図である。1つのプラットホームにおいて、プラットホーム1の長さ方向Xに延出する3本の上側ガイドレール5A、5B、5Cがあり、各上側ガイドレール5A、5B、5Cはプラットホーム1の長さ方向X及び幅方向Yに互いに異なる位置に配置されている。よって、複数の異なる態様の可動戸袋3の支持構造、例えば、上述の図4乃至図6Aの複数の態様を適宜組み合わせて、1つのプラットホームに適用することができる。このことは、例えば、1つのプラットホームにおいて、天井や屋根の構造が一様でない場合、一部に屋根が無い場合等に有利である。
【0041】
上述のように、図4乃至図6Aの態様では、支持バー6の下端は、可動戸袋3の見込方向(厚さ方向)において、乗客の背丈よりも低背の可動戸袋3の上面33のホーム側A、すなわち第1面部30側、に設けてある。そして、支持バー6は上面33のホーム側において、少なくとも乗客の上半身を含む所定高さに亘って(例えば、可動戸袋3の上面33〜プラットホーム1の床面から200cmまでの高さに亘って)垂直状に上方に延出し、上端に近づいてからホーム側Aないし軌道側Bに湾曲している。図8A、図8Bに示すように、支持バー6が上下に延出する位置を車両の軌道から離隔した側とすることで、車掌からの視野(図8Aにおける一点鎖線)が広くなる。図8A、図8Bでは、この視界拡大効果を説明することを目的としてカーブは実際よりも急曲線で描いている。図8Bにおいて、奥側の乗客は、閉鎖状態の可動ホーム柵と車両との間に取り残された乗客を示しており、このような事態に車掌が気付くことができる。特許文献1に開示されているような襖状の扉体の場合には、扉体によって車掌の視界が妨げられるおそれがある。
【0042】
図1乃至図3に示すように、支持バー6の下端を可動戸袋4の上面33の軌道側Bに連結した場合であっても、図4の右図に示すように、支持バー6の下端部位6Cをホーム側Aに湾曲させて(例えば、第1面部30の上方位置まで)、そこから上方に垂直状に延出させることで、上述の視界拡大効果と同様の効果を得ることができる。
【0043】
図9乃至図11に基づいて可動戸袋3の走行機構・駆動方式について説明する。図9は、可動戸袋の走行機構及び駆動方式を示す図である。(A)はボールねじ駆動方式、(B)はベルト駆動方式を示す。図9乃至図11に示すように、可動戸袋3の下面34には、可動戸袋3の幅方向、見込方向(厚さ方向)にそれぞれ間隔を存して2個ずつ、合計4個の車輪35が設けてある。各車輪35は垂直状に延びる板状のブラケット36に回転自在に支持されている。プラットホーム1の床面には、板状のブラケット36が挿通可能な細幅の溝部15が形成されている。溝部15の溝幅は、乗客の靴や他の履物、杖の先端、カバン下端のローラ等が入り込まないような寸法に設計されることが望ましい。
【0044】
ブラケット36には、車輪35の前後かつ上方に位置して2つのストッパ輪37が配置してある。ストッパ輪37の上方にはカバー20が、その上面がプラットホーム1の床面と面一となるように支柱25に支承させて設けてあり、カバー20の下面はストッパ輪37を案内するレールを形成している。車輪35、ブラケット36、ストッパ輪37は戸車アセンブリを形成している。戸車アセンブリにおいて、上方向の荷重(戸袋倒れによる持ち上がりの力)はストッパ輪37で支え、下方向の戸袋自重は車輪35で支えるようになっている。
【0045】
ドア配置が異なる異種車両にフレキシブルに対応するためには、各可動戸袋3はそれぞれ個別に走行させる必要があるので、それぞれの可動戸袋3に独立した駆動源(モータ)及び伝動機構が用意される。図示の態様において、4つの車輪35のうち、どの車輪35を駆動輪とし、どの車輪35を従動輪とするか、あるいは、全ての車輪35を駆動輪とするか、は当業者により適宜選択できる。例えば、4つの車輪35のうち一方の片側(例えば、軌道側B)の前後2つの車輪35を駆動輪とし、他方の片側(ホーム側A)の前後2つの車輪35を従動輪とすることができる。この場合、1つの可動戸袋に対して1つのモータを用意すればよい。また、駆動系のパワーを大きく確保したい場合には、1つの可動戸袋に対して2つのモータを用意して、両側同時駆動としてもよい。図10、図11においては、片側のモータM、および伝動機構の引き出し線を点線で示してあり、以下の記載は一方にモータを設けた場合、両方にモータを設けた場合の両方に適用されることが当業者に理解される。また、可動戸袋3にはプラットホーム1に設置された管理装置から適宜指令を受信して可動戸袋3及び扉体の開閉制御を行なう制御部が設けてある。
【0046】
図9(A)、図10に示すように、プラットホーム1の床面内のガイドレール2が埋設された空間内には、各可動戸袋3に対応して、ガイドレール2の長さ方向に沿ってボールねじ16が延設されている。ボールねじ16にはスライダ(ボールナット)17がボールねじ16の長さ方向に移動可能に外装されており、スライド17は車輪35を支持するブラケット36に固定されている。ボールねじ16の一端側には終端軸受18が、他端側には減速機19を介してモータMが連結されている。制御部からの指令でモータMを選択的に正逆回転させることでスライダ17を左右方向のいずれかに移動させて、車輪35がガイドレール2上を転動して可動戸袋3がプラットホーム1の長さ方向に移動するようになっている。可動戸袋3が所定位置まで移動するとモータMの回転が停止して可動戸袋3が停止する。
【0047】
図9(B)、図11に示すように、プラットホーム1の床面内のガイドレール2が埋設された空間内には、各可動戸袋3に対応して、ガイドレール2の長さ方向に沿って巻き掛けベルト体21が延設されている。ガイドレール2の長さ方向の一端側において、ベルト体21は駆動プーリ22に巻き掛けされており、他端側においてベルト21体は従動プーリ23に巻き掛けされており、ベルト21体は上側部21Aと下側部21Bとからなる。車輪35を支持するブラケット36は、ベルトクランプ24を介してベルト21の上側部21に連結されている。駆動プーリ22はモータMによって回転駆動可能となっている。制御部からの指令でモータMを選択的に正逆回転させることにより駆動プーリ22を正逆回転駆動させ、ベルト体21の上側部21Aを左右方向のいずれかに移動させて車輪35がガイドレール2上を転動して可動戸袋3がプラットホーム1の長さ方向に移動するようになっている。可動戸袋3が所定位置まで移動するとモータMの回転が停止して可動戸袋3が停止する。
【0048】
可動戸袋3を備えた可動ホーム柵については、既に幾つかの提案があり(特許文献3、特許文献4)、可動戸袋3の走行機構・駆動方式についてもここで説明したものに限定されるものではなく、当業者において適宜設計し得ることが理解される。例えば、可動戸袋3の自走のためのモータを可動戸袋側に設けてもよい。但し、本発明は、可動戸袋3の上端側を支持バー6によって支持することで可動戸袋3の振れ止めが手当てされているので、走行機構側に可動戸袋3の倒れを防止する機構を設ける必要がなく、走行機構の構成を可及的にシンプルにすることができる点に留意されたい。
【0049】
叙上のような可動戸袋3を備えた可動ホーム柵において、可動戸袋3の移動時には、支持バー6の上端の回転ローラ60が上側ガイドレール5に沿って転動することで、可動戸袋3と支持バー6が一体でプラットホーム1の長さ方向に移動する。可動戸袋3の移動時における可動戸袋3の上側の揺れや動きは、上端が上側ガイドレール5に案内される支持バー6によって吸収されるので、可動戸袋3を安定して走行させることができる。
【0050】
可動戸袋3の移動時あるいは静止時に、可動戸袋3に風圧が作用したり、人が当たったりした場合であっても、可動戸袋3の上側の揺れや動きは上端が上側ガイドレール5に移動可能に係止されている支持バー6に規制されているので、可動戸袋3が倒れてしまうようなことがない。
【0051】
このように、可動戸袋3を備えた可動ホーム柵を採用することで、3ドアや4ドアのように、車両のドアピッチが異なる車両が走行する路線のプラットホームに可動ホーム柵を設置することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、プラットホームに設置される可動ホーム柵として利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 プラットホーム
2 ガイドレール
3 可動戸袋
4 扉体
5 上側ガイドレール
6 支持バー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットホームの床面に当該プラットホームの長さ方向に延設されたガイドレールと、
扉体収納部と、走行体と、駆動手段と、を有し、前記駆動手段により前記走行体が前記ガイドレールに沿って移動することでプラットホームの長さ方向に移動可能な可動戸袋と、
前記扉体収納部にスライド移動可能に設けられた扉体と、
を備えた可動ホーム柵であって、
プラットホームの上方に位置する構造体には、プラットホームの長さ方向に延びる上側ガイド部材が延設されており、
前記可動戸袋は、前記上側ガイド部材に沿って移動可能な支持部材によって支持されている、
可動ホーム柵。
【請求項2】
前記支持部材は、各可動戸袋に設けられた1本あるいは複数本の長尺部材であり、前記長尺部材の下端は可動戸袋に連結されており、前記長尺部材の上端は前記上側ガイド部材に沿って移動可能となっている、請求項1に記載の可動ホーム柵。
【請求項3】
前記可動戸袋は、プラットホーム側に面する第1面部と、軌道側に面する第2面部と、を備えると共に、乗客の背丈よりも低背であり、前記支持部材は、前記第1面部側において、少なくとも乗客の上半身を含む所定高さに亘って上方に延びている、請求項1、2いずれかに記載の可動ホーム柵。
【請求項4】
前記上側ガイド部材が設けられる構造体は、プラットホーム上方の屋根部ないし天井部である、請求項1乃至3いずれかに記載の可動ホーム柵。
【請求項5】
前記上側ガイド部材が設けられる構造体は、プラットホームに設置される上側ガイド部材を支持するための専用構造体である、請求項1乃至3いずれかに記載の可動ホーム柵。

【図4】
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【図5】
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【図5A】
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【図6】
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【図6A】
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【図7】
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【図8A】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8B】
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【公開番号】特開2011−51471(P2011−51471A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202107(P2009−202107)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】