説明

可塑剤含有ポリビニル(イソ)アセタールからの薄膜

【課題】従来技術から公知である可塑剤含有薄膜の欠点を有しない、新規の可塑剤含有ポリビニル(イソ)アセタールからの薄膜を提供する。
【解決手段】式 100×O/(C+H)[式中、O、C及びHは、それぞれの分子中の酸素原子、炭素原子及び水素原子の数を表す]により表される極性が9.4以下である少なくとも1の非芳香族系可塑剤と、60〜85質量%のポリビニル(イソ)アセタール基の割合及び14〜40質量%のポリビニルアルコール基の割合を有するポリビニル(イソ)アセタールとからの混合物を含有する薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば合わせ安全ガラスにおける中間層、又は光起電性モジュールにおける接着薄膜として好適である、ポリビニル(イソ)アセタールをベースとする可塑剤含有薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
合わせ安全ガラスは一般に、2枚の板ガラスと、該板ガラスを接合する中間薄膜とからなる。薄膜材料として、主に、ポリビニルアルコールとn−ブチルアルデヒドとの反応から得られる可塑剤含有ポリビニルブチラール(PVB)が使用される。
【0003】
そのような薄膜の機械的強度及び湿分吸収性は、とりわけ可塑剤の種類及び量により決定される。ポリビニルブチラールは、各々の可塑剤に対して異なる吸収能を有しており、この吸収能を超えると該可塑剤が再度滲出する。
【0004】
通常の適用温度の範囲内(0〜40℃)の軟化点を有するPVB薄膜を得るためには、PVB及び可塑剤の化学的性質並びに可塑剤との混合比に関して、特定の範囲の条件を遵守しなければならない。PVB薄膜のための可塑剤として、今では3G8(トリエチレングリコール−ビス−2−エチルヘキサノエート)が定着している。この可塑剤に関して、EP0877665には、種々の残留ビニルアルコール含分を有するPVBの吸収能が記載されている。
【0005】
n−ブチルアルデヒドをベースとする公知のPVB薄膜は、限定的な可塑剤吸収性に加え、比較的大きな湿分吸収性を有しており、これは合わせガラスにおいて不所望な曇りを招き得る。光起電性モジュールにおける使用において、高い湿分吸収性は低い体積抵抗率を招くことがあり、これは望ましくない。さらに、湿分の吸収は、特に高められた温度において可塑剤の滲出を招くことがある。
【0006】
従って、不所望な湿分吸収を防止するために、薄膜製造の際に、PVBと比較的高い割合の非極性可塑剤との混合物を使用することが望ましい。
【0007】
意想外にも、ポリビニル(イソ)アセタールは、ポリビニル(n)アセタールと比較してより高い可塑剤相容性を示すことが見出された。
【0008】
ポリビニル(イソ)アセタールと可塑剤としてのジブチルフタレートとの混合物は、J. Fitzhugh及びR Croizerにより、J. Polym. Sci(1951) Vol VIII, 第225-241頁に記載されている。該刊行物は、薄膜の製造及びその使用には関連していない。さらに、ここでは専ら極性の芳香族系可塑剤のみが使用されている。
【0009】
可塑剤含有ポリビニル(イソ)アセタールは、さらに、US2008/0286542から、装飾的ガラス要素のための中間層薄膜の製造のために公知である。ここに記載されているポリビニル(イソ)アセタールは、合わせ安全ガラスに関して、8〜30質量%の低すぎるアセタール化度、ひいては不十分な可塑剤吸収性を示す。それに応じて、US2008/0286542には、低いアセタール化度を有する可塑剤含有ポリビニル(イソ)アセタールが可塑剤含有ポリビニル(n)アセタールの2つの層間に貼り合わされている多層薄膜のみが開示されている。
【0010】
ポリビニル(イソ)アセタールを使用しない薄膜積層体は、例えばWO2006/102049A1、WO2011/078314A1、WO2011/081190A1、WO2011/024788A1、US2007014976及びJP2011042552から公知である。ポリビニル(イソ)アセタールの有利な特性は、ここでは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP0877665
【特許文献2】US2008/0286542
【特許文献3】WO2006/102049A1
【特許文献4】WO2011/078314A1
【特許文献5】WO2011/081190A1
【特許文献6】WO2011/024788A1
【特許文献7】US2007014976
【特許文献8】JP2011042552
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. Fitzhugh及びR Croizer著, J. Polym. Sci(1951) Vol VIII, 第225-241頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明の課題は、従来技術から公知である可塑剤含有薄膜の欠点を有しない、新規の可塑剤含有ポリビニル(イソ)アセタールからの薄膜を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
意想外にも、ポリビニルアルコール含分(PVA含分)が同じである場合に、ポリビニル(イソ)アセタールは、相応するポリビニル(n)アセタールよりも良好な可塑剤相容性を示すことが見出された。
【0015】
本発明の対象は、式 100×O/(C+H)[式中、O、C及びHは、それぞれの分子中の酸素原子、炭素原子及び水素原子の数を表す]により表される極性が9.4以下である少なくとも1の非芳香族系可塑剤と、60〜85質量%のポリビニル(イソ)アセタール基の割合及び14〜40質量%のポリビニルアルコール基の割合を有するポリビニル(イソ)アセタールとからの混合物を含有する薄膜である。
【0016】
より良好な可塑剤相容性によって、室温で貯蔵した際にポリビニル(イソ)アセタールとの混合物からの可塑剤の滲出がよりわずかとなる。可塑剤の滲出は、薄膜表面上の可塑剤皮膜により顕れる。
【0017】
可塑剤の滲出は、ポリマーと可塑剤との相容性の不足を意味する。この作用は、いわゆる曇り点により測定可能である。ここで、ポリビニルアセタールと可塑剤、例えば3G8との相容性は、該可塑剤中のポリビニルアセタールの高温の溶液を徐冷することにより試験される。溶液の曇りが生じる温度が低いほど、該ポリマーと該可塑剤との相容性は高い。
【0018】
イソブチルアルデヒドをベースとするポリビニルアセタールに関する曇り点は、n−ブチルアルデヒドをベースとする同じポリビニルアセタールの曇り点よりも著しく低いことが確認できた。この結果、本発明による薄膜は、使用されるポリビニル(イソ)アセタールの所定のPVA含分において、同じPVA含分を有するポリビニル−n−ブチラールをベースとする薄膜よりも多くの可塑剤を含有する。可塑剤含分がより高いことによって、薄膜の製造がより廉価になる。なぜならば、可塑剤は通常ポリビニルアセタールよりも廉価であるためである。
【0019】
本発明による薄膜は、芳香族系可塑剤、即ち、芳香族系部分構造を有する可塑剤、例えばフタレート(特にジブチルフタレート)又はベンゾエートを含有しない。
【0020】
本発明による薄膜は、完全か又は部分的に鹸化されたポリビニルアルコールと分岐ケト化合物とのアセタール化により得られる、可塑剤含有ポリビニル(イソ)アセタールを含有する。
【0021】
有利に、ポリビニル(イソ)アセタールのポリビニル(イソ)アセタール基は、少なくとも1のポリビニルアルコールと、ケト基に対してアルファ位又はベータ位に少なくとも1の分岐を有する4〜10個の炭素原子を有する1以上の脂肪族ケト化合物との反応から生じたものである。付加的に、2〜10個の炭素原子を有する非分岐脂肪族ケト化合物をアセタール化に使用することも可能である。しかしながら、分岐ケト化合物の割合が、分岐及び非分岐ケト化合物からの合計の50質量%を上回っていることが望ましい。
【0022】
ポリビニル(イソ)アセタールのポリビニルアルコール含分は、アセタール化の際に使用されるアルデヒドの量により調節可能である。複数のアルデヒドとのアセタール化を実施することも可能である。
【0023】
本発明により使用されるポリビニル(イソ)アセタールのポリビニルアセテート含分は、相応する割合に加水分解されたポリビニルアルコールを使用することにより調節可能である。ポリビニルアセテート含分によってポリビニル(イソ)アセタールの極性は影響を受け、それによって薄膜の可塑剤相容性も変化する。
【0024】
有利には、ポリビニル(イソ)アセタールは、0.1〜15質量%、有利には0.1〜8質量%、特に0.1〜3質量%、極めて特に有利には0.5〜2質量%のポリビニルアセテート基の割合を有する。
【0025】
層が、該層に対して4〜8モル%、例えば4.1〜7.9モル%又は5〜7モル%のポリビニルアセテート基の平均割合を有するポリビニル(イソ)アセタールないしポリビニル(n)アセタールを有することも可能である。
【0026】
架橋したポリビニル(イソ)アセタール、特に架橋したポリビニル(イソ)ブチラールの使用も同様に可能である。好適な架橋法は、例えばEP1527107B1及びWO2004/063231A1(カルボキシル基含有ポリビニルアセタールの熱的自己架橋)、EP1606325A1(ポリアルデヒドで架橋されたポリビニルアセタール)及びWO03/020776A1(グリオキシル酸で架橋されたポリビニルアセタール)に記載されている。
【0027】
薄膜の加工性を損なわないようにするため、それぞれ未架橋の材料と比較して25〜200%だけ増加した溶液粘度を有する、架橋したポリビニル(イソ)アセタールの使用が特に有利である。例えば、未架橋の材料は80mPasの溶液粘度を有することができ、かつ架橋した材料は100〜250mPasの溶液粘度を有することができる。架橋したポリビニル(イソ)アセタールの製造には、ポリビニルアルコールと、言及されたケト化合物とジ−又はトリアルデヒド、例えばWO03/020776A1によるグルタルジアルデヒドとからの混合物との共アセタール化が考えられる。
【0028】
ポリビニル(イソ)アセタールを製造する際には、ポリビニルアルコールが水中に溶解され、酸触媒の添加下に、ケト化合物、例えばイソブチルアルデヒドとアセタール化される。析出したポリビニルアセタールが分離され、中性となるように洗浄され、場合によりアルカリで調節された水性媒体中に懸濁され、その後再度、中性となるように洗浄して乾燥される。
【0029】
ポリビニルアルコールは、本発明の範囲内で、純粋であってもよいし、異なる重合度又は加水分解度を有するポリビニルアルコールの混合物として使用することもできる。
【0030】
本発明により使用されるポリビニル(イソ)アセテートは、3000を下回る、有利には200〜2800の、特に有利には900〜2500の平均重合度を有することができる。
【0031】
一般に、可塑剤とポリビニルアセタールとの相容性は、該可塑剤の極性の低下に伴って低下する。そのため、極性が比較的高い可塑剤は、極性が比較的低い可塑剤よりも、ポリビニルアセタールとの相容性がより良好である。また、極性の低い可塑剤の相容性は、アセタール化度の増加に伴って、即ち、ヒドロキシ基の数、ひいてはポリビニルアセタールの極性の低下に伴って増加する。
【0032】
アセタール基の分岐に基づき、本発明による薄膜は、直鎖アルデヒドをベースとする従来の系とは異なる軟化点を有する。
【0033】
本発明による薄膜は、有利には−11〜24℃の軟化点Tgを有する。
【0034】
軟化点は、湿分に加えて、ポリビニルアセタールをベースとする薄膜の電気的体積抵抗率に対して重要である。本発明による薄膜は、所定の湿分及び温度で、同じ可塑剤含分を有するポリビニル(n)アセタールをベースとする薄膜よりも高い軟化点、また高い電気的体積抵抗率を有する。
【0035】
このことは光起電性モジュールにおける使用に有利であり、それというのも、電気的体積抵抗率はモジュールの長寿命にとって重要であるためである。
【0036】
本発明による薄膜は、少なくとも1の以下の非芳香族系可塑剤からの可塑剤又は可塑剤混合物を含有することができる:
− 多価脂肪族酸のエステル、例えばジアルキルアジペート、例えばジヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ヘプチルアジペートとノニルアジペートとからの混合物、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート、並びに、アジピン酸と、脂環式の又はエーテル結合を含有するエステルアルコールとのエステル、ジアルキルセバケート、例えばジブチルセバケート、並びに、セバシン酸と脂環式の又はエーテル結合を含有するエステルアルコールとのエステル、シクロヘキサンジカルボン酸のエステル、例えば1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル、
− 多価脂肪族アルコール又はオリゴエーテルグリコールと、1以上の非分岐又は分岐の脂肪族置換基とのエステル又はエーテル、例えばジ−、トリ−又はテトラグリコールと、直鎖又は分岐の脂肪族又は脂環式のカルボン酸とのエステル;後者の群の例として、ジエチレングリコール−ビス−(2−エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール−ビス−(2−エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール−ビス−(2−エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール−ビス−n−ヘプタノエート、トリエチレングリコール−ビス−n−ヘプタノエート、トリエチレングリコール−ビス−n−ヘキサノエート及び/又はテトラエチレングリコールジメチルエーテル、
− 脂肪族エステルアルコールとのリン酸エステル、例えばトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート(TOF)、トリエチルホスフェート、
− クエン酸、コハク酸及び/又はフマル酸のエステル、
− ジジイソノニルアジペート(DINA)及びジ−2−ブトキシエチルアジペート(DBEA)。
【0037】
本発明による薄膜のための可塑剤として極めて特に好適なものは、式 100×O/(C+H)[式中、O、C及びHは、それぞれの分子中の酸素原子、炭素原子及び水素原子の数を表す]により表される極性が9.4以下である非芳香族系可塑剤である。以下の表に、本発明により使用可能な可塑剤及び式 100×O/(C+H)によるその極性値を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
トリエチレングリコール−ビス−2−エチルブチレートは、この式により11.11の極性を有しており、かつポリビニル(イソ)アセタールとの混合物において、薄膜の製造に適していない。
【0040】
付加的に、本発明による薄膜は、当業者に公知の他の添加剤、例えば残量の水、UV吸収剤、酸化防止剤、付着調整剤、蛍光増白剤、安定剤、着色剤、加工助剤、有機又は無機ナノ粒子、熱分解法シリカ及び/又は界面活性剤を含有してよい。
【0041】
付着調整剤とは、本発明の範囲内で、ガラス面への可塑剤含有ポリビニルアセタール薄膜の付着性を調整し得る化合物と理解される。この種の化合物は当業者に公知であり;実際には、このために、頻繁に有機酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、例えば酢酸カリウム/マグネシウムが使用される。
【0042】
該薄膜は、剛性の改善のために、SiO2 0.001〜20質量%、有利には1〜15質量%、殊に5〜10質量%を、場合によりAl23又はZrO2がドープされた形で含有することも可能である。
【0043】
本発明による薄膜は、有利には、例えば0.38、0.76、1.14mm(即ち、0.38mmの倍数)の工業的に慣例である全厚を有する。
【0044】
本発明による薄膜の製造は、通常は、特定の条件(溶融圧力、溶融温度及び工具温度)下に、溶融破壊表面、即ち確率論的な表面粗さの保持下に押出によって行われる。
【0045】
また、すでに製造された本発明による中間層薄膜に、エンボス加工プロセスによって、少なくとも1のロール対の間で、規則的な、確率論的ではない粗さを付与することもできる。エンボスされた薄膜は、合わせガラス製造に際して一般に改善された脱気挙動を示し、かつ有利には自動車分野において使用される。
【0046】
ポリビニルアセタールをベースとする薄膜の原則的な製造及び組成は、例えばEP185863B1、EP1118258B1、WO02/102591A1、EP1118258B1又はEP387148B1に記載されている。
【0047】
本発明による薄膜は、製造法とは無関係に、片面又は特に有利には両面に施与された、15〜150μmの粗さRz、有利には15〜100μmのRz、特に有利には20〜80μmのRz、特に40〜75μmのRzを有する表面構造を有する。
【0048】
本発明による薄膜は、ガラス/薄膜/プラスチック積層体の製造、例えば板ガラスとPET層との持続的な接着にも好適である。例えばポリカーボネート又はPMMAからの2枚のプラスチック板の接着も、本発明による薄膜を用いて実施可能である。
【0049】
本発明による薄膜は特に、当業者に公知の方法で、1以上の板ガラスと貼り合わせることにより合わせ安全ガラスを製造するのに使用され得る。合わせ安全ガラスは、自動車分野において例えばフロントガラスとして、また建築分野において、例えば窓又は透明なファサード部材において、又は家具組立においても使用され得る。
【0050】
HUD機能を有するフロントガラスに関しては、本発明による薄膜に楔形の断面を備えることが有利である。
【0051】
本発明による薄膜のもう1つの使用は、光起電性モジュールの製造である。
【0052】
測定法
ポリビニルアルコールのエステル価 EZは、DIN EN ISO 3681に従って測定される。加水分解度 HGは、以下のようにエステル価から算出される:HG[質量%]=100×(100−0.1535×EZ)/(100−0.0749×EZ)。
【0053】
PVBのポリビニルアルコール−及びポリビニルアセテート含分の測定は、ASTM D 1396−92により行われる。アセタール化度(=ブチラール含分)は、ASTM D 1396−92により測定されたポリビニルアルコール−及びポリビニルアセテート含分からの合計から、足して100となる部分として算出されることができる。質量%からモル%への換算は、当業者に公知の式に従って行われる。
【0054】
薄膜の可塑剤含分は、薄膜のエタノール中への溶解及び引き続く定量的ガスクロマトグラフィーによって測定される。部分薄膜の可塑剤含分を測定するためには、多層薄膜は、約1週間のコンディショニング時間後に、即ち可塑剤の移行が実質的に完了した後に再び分離され、かつ個々に測定されなければならない。
【0055】
部分アセタール化ポリビニルアルコールのガラス転移温度の測定は、DIN 53765による動的示差走査熱量測定(DSC)によって、10K/分の加熱速度を用いて、−50℃〜150℃の温度区間で行われる。第一の加熱勾配の後に冷却勾配が続き、その後に第二の加熱勾配が続くように実施される。ガラス転移温度の位置は、第二の加熱勾配に属する測定曲線上でDIN 51007により確認される。DIN中間点(Tg DIN)は、測定曲線と、半分のステップ高さでの水平線との交点として定義されている。ステップ高さは、ガラス転移の前及び後の測定曲線のベースラインと中央接線との2つの交点の垂直距離によって定義されている。
【0056】
曇り点の測定は、試験すべき可塑剤中でのポリビニルアセタールの溶解性により測定される。このために、ポリビニルアセタール(8g)は相応する可塑剤(100g)中に懸濁され、絶え間なく撹拌しながら透明な溶液が得られるまで加熱される。透明点に達した後、溶液は第二の撹拌機上で室温へと徐冷される。溶液中に突き出ている温度計により、曇り点を視覚的に測定することができる。
【0057】
薄膜の引張特性の測定
薄膜の引裂強さに関する値を、引張試験機(TIRA社)を用いてISO 527により200mm/分の速度で測定した。
【0058】
薄膜の体積固有抵抗率(電気的体積抵抗率)の測定を、DIN IEC 60093により、所定の温度及び周囲湿度(23℃でかつ85%RHないし23%RH)で、薄膜をこの条件で少なくとも24時間コンディショニングした後に行った。この測定を実施するために、Fetronic GmbH社のTyp 302 132の平板電極並びにAmprobe社の抵抗測定装置ISO-Digi 5kVを使用した。試験電圧は2.5kVであり、試験電圧の印加後から測定値検出までの待機時間は60秒であった。測定電極の平板プレートと薄膜との十分な接触を保証するために、その表面粗さRzは、DIN EN ISO 4287により測定した場合に10μmより大きくなるべきではなく、即ち、場合により、PVB薄膜の元の表面を抵抗率測定の前に熱的影響により平滑化しなければならない。
【0059】
薄膜の含水分及び湿分は、カールフィッシャー法により測定される。湿潤条件下での湿潤挙動のシミュレーションのために、薄膜を予め23℃で85%RHないし23%RHで24時間貯蔵される。
【0060】
可塑剤の滲出は、薄膜を23℃でかつ50%の相対湿度で1週間貯蔵した後に、目視により決定される。
【実施例】
【0061】
実施例:
1)20.3質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(n)アセタール
ポリビニルアルコールMowiol 28-99(1700の平均重合度を有するKuraray Europe GmbH社の市販品)100質量部を、90℃に加熱しながら水975質量部中に溶解させた。温度40℃でn−ブチルアルデヒド57.5質量部を添加し、温度12℃で撹拌下に20%塩酸75質量部を添加した。この混合物をポリビニルブチラール(PVB)の析出後に73℃に加熱し、この温度で2時間撹拌した。室温への冷却後にPVBを分離し、水で中性となるように洗浄し、乾燥させた。20.3質量%のポリビニルアルコール含分及び0.9質量%のポリビニルアセテート含分を有するポリビニル(n)ブチラール(n−PVB)が得られた。
【0062】
2)11.9質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(n)アセタール
ポリビニルアルコールMowiol 30-92(2100の平均重合度を有するKuraray Europe GmbH社の市販品)100質量部を、90℃に加熱しながら水975質量部中に溶解させた。温度40℃でn−ブチルアルデヒド66.6質量部及びグルタルジアルデヒド0.06質量部を添加し、温度12℃で撹拌下に20%塩酸100質量部を添加した。この混合物をポリビニルブチラール(PVB)の析出後に69℃に加熱し、この温度で2時間撹拌した。室温への冷却後にPVBを分離し、水で中性となるように洗浄し、乾燥させた。11.9質量%のポリビニルアルコール含分及び8.8質量%のポリビニルアセテート含分を有するポリビニル(n)ブチラール(n−PVB)が得られた。
【0063】
3−4)14.1質量%ないし15.1質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(n)アセタール
合成を実施例2に従って実施したが、その際、n−ブチルアルデヒド量を変えた。n−ブチルアルデヒド56.8ないし55.8質量部を使用した。それに応じて、14.1質量%ないし15.1質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(n)ブチラール(n−PVB)が得られた。
【0064】
5)14.5質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(n)アセタール
ポリビニルアルコールMowiol 28-99(Kuraray Europe GmbH社の市販品)100質量部を、90℃に加熱しながら水975質量部中に溶解させた。温度40℃でn−ブチルアルデヒド67.4質量部及びグルタルジアルデヒド0.055質量部を添加し、温度12℃で撹拌下に20%塩酸100質量部を添加した。この混合物をポリビニルブチラール(PVB)の析出後に69℃に加熱し、この温度で2時間撹拌した。室温への冷却後にPVBを分離し、水で中性となるように洗浄し、乾燥させた。14.5質量%のポリビニルアルコール含分及び1.1質量%のポリビニルアセテート含分を有するポリビニル(n)ブチラール(n−PVB)が得られた。
【0065】
6)16.0質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(n)アセタール
合成を実施例5に従って実施したが、その際、n−ブチルアルデヒド量を変えた。n−ブチルアルデヒド62質量部を使用した。それに応じて、16.0質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(n)ブチラール(n−PVB)が得られた。
【0066】
7)20.3質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)アセタール
ポリビニルアルコールMowiol 28-99(Kuraray Europe GmbH社の市販品)100質量部を、90℃に加熱しながら水975質量部中に溶解させた。温度40℃でイソ−ブチルアルデヒド57.6質量部を添加し、温度12℃で撹拌下に20%塩酸75質量部を添加した。この混合物をポリビニルブチラール(PVB)の析出後に73℃に加熱し、この温度で2時間撹拌した。室温への冷却後にPVBを分離し、水で中性となるように洗浄し、乾燥させた。20.3質量%のポリビニルアルコール含分及び1.2質量%のポリビニルアセテート含分を有するポリビニル(イソ)ブチラール(i−PVB)が得られた。
【0067】
8)14.4質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)アセタール
ポリビニルアルコールMowiol 30-92(Kuraray Europe GmbH社の市販品)100質量部を、90℃に加熱しながら水975質量部中に溶解させた。温度40℃でイソ−ブチルアルデヒド68.6質量部及びグルタルジアルデヒド0.06質量部を添加し、温度12℃で撹拌下に20%塩酸100質量部を添加した。この混合物をポリビニルブチラール(PVB)の析出後に69℃に加熱し、この温度で2時間撹拌した。室温への冷却後にPVBを分離し、水で中性となるように洗浄し、乾燥させた。14.4質量%のポリビニルアルコール含分及び8.7質量%のポリビニルアセテート含分を有するポリビニル(イソ)ブチラール(i−PVB)が得られた。
【0068】
9−11)15.6質量%、16.4質量%ないし17.9質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)アセタール
合成を実施例8に従って実施したが、その際、イソ−ブチルアルデヒド量を変えた。イソ−ブチルアルデヒド67.6、66.6ないし60.8質量部を使用した。それに応じて、15.6質量%、16.4質量%ないし17.9質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)ブチラール(i−PVB)が得られた。
【0069】
12)15.8質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)アセタール
ポリビニルアルコールMowiol 28-99(Kuraray Europe GmbH社の市販品)100質量部を、90℃に加熱しながら水975質量部中に溶解させた。温度40℃でイソ−ブチルアルデヒド65質量部及びグルタルジアルデヒド0.055質量部を添加し、温度12℃で撹拌下に20%塩酸170質量部を添加した。この混合物をポリビニルブチラール(PVB)の析出後に69℃に加熱し、この温度で1時間撹拌した。室温への冷却後にPVBを分離し、水で中性となるように洗浄し、乾燥させた。15.8質量%のポリビニルアルコール含分及び0.9質量%のポリビニルアセテート含分を有するポリビニル(イソ)ブチラール(i−PVB)が得られた。
【0070】
13)16.3質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)アセタール
合成を実施例12に従って実施したが、その際、イソ−ブチルアルデヒド量を変えた。イソ−ブチルアルデヒド64質量部を使用した。それに応じて、16.3質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)ブチラール(i−PVB)が得られた。
【0071】
14)18.2質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)アセタール
ポリビニルアルコールMowiol 28-99(Kuraray Europe GmbH社の市販品)100質量部を、90℃に加熱しながら水975質量部中に溶解させた。温度40℃でイソ−ブチルアルデヒド60.8質量部を添加し、温度12℃で撹拌下に20%塩酸75質量部を添加した。この混合物をポリビニルブチラール(PVB)の析出後に73℃に加熱し、この温度で2時間撹拌した。室温への冷却後にPVBを分離し、水で中性となるように洗浄し、乾燥させた。18.2質量%のポリビニルアルコール含分及び0.9質量%のポリビニルアセテート含分を有するポリビニル(イソ)ブチラール(i−PVB)が得られた。
【0072】
15−17)18.2質量%、19.4質量%、20.5質量%ないし22.3質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)アセタール
合成を実施例14に従って実施したが、その際、イソ−ブチルアルデヒド量を変えた。イソ−ブチルアルデヒド60.8、59.4、57.5ないし55.4質量部を使用した。それに応じて、18.2質量%、19.4質量%、20.5質量%ないし22.3質量%のポリビニルアルコール含分を有するポリビニル(イソ)ブチラール(i−PVB)が得られた。
【0073】
薄膜の製造
第1表による組成の薄膜を押出成形により製造した。
【0074】
第1表において、本発明による薄膜が、PVA含分及び可塑剤含分が同じである場合に、n−ブタナールをベースとする比較薄膜よりも高い軟化点を有することが見て取れる。実施例6及び7又は2及び3において示されているように、PVA含分が同等である場合の可塑剤相容性は、本発明による薄膜においてより良好である。
【0075】
第2表は、薄膜の物理的データを示す。本発明による薄膜が、PVA含分及び可塑剤含分が同じである場合に、より低い湿分吸収を示すことが判明した。さらに、本発明による薄膜が、n−ブタナールをベースとする同等の薄膜よりも明らかに高い電気的体積抵抗率を有することが明らかとなり、このことはソーラーモジュールにおける使用に有利である。
【0076】
本発明による薄膜の機械的特性は、ポリ(イソ)アセタールの使用により、可塑剤及びPVA含分によって十分に調節することができる。実施例1及び7において、PVA含分及び可塑剤含分が同じである場合に、ほぼ同じ引裂強さが得られることが見て取れる。
【0077】
表中では、以下の意味を表す:
3G8:トリエチレングリコール−ビス−2−エチルヘキサノエート
DINCH:1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル
DINA:ジジイソノニルアジペート
DBEA:ジ−2−ブトキシエチルアジペート。
【0078】
混合物において、3G8:DBEA=10:1;DINCH:DINA=1:1の質量比で使用した。
【0079】
曇り:3G8における曇り点[℃]
PVA:ポリビニルアルコール基の割合[質量%]
WM含分:可塑剤含分[質量%]
滲出:可塑剤の滲出(目視)
【表2】

【0080】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式 100×O/(C+H)[式中、O、C及びHは、それぞれの分子中の酸素原子、炭素原子及び水素原子の数を表す]により表される極性が9.4以下である少なくとも1の非芳香族系可塑剤と、60〜85質量%のポリビニル(イソ)アセタール基の割合及び14〜40質量%のポリビニルアルコール基の割合を有するポリビニル(イソ)アセタールとからの混合物を含有する薄膜。
【請求項2】
ポリビニル(イソ)アセタールが200〜2800の平均重合度を有している、請求項1記載の薄膜。
【請求項3】
ジ−2−エチルヘキシルセバケート(DOS)、ジ−2−エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、トリエチレングリコール−ビス−2−プロピルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ビス−i−ノナノエート、ジ−2−ブトキシエチルセバケート(DBES)、トリエチレングリコール−ビス−2−エチルヘキサノエート(3G8)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(DINCH)の群から選択された非芳香族系可塑剤が使用されている、請求項1又は2記載の薄膜。
【請求項4】
ポリビニル(イソ)アセタールのポリビニル(イソ)アセタール基が、少なくとも1のポリビニルアルコールと、ケト基に対してアルファ位又はベータ位に少なくとも1の分岐を有する4〜10個の炭素原子を有する1以上の脂肪族ケト化合物との反応から生じたものである、請求項1から3までのいずれか1項記載の薄膜。
【請求項5】
ポリビニル(イソ)アセタールが、0.1〜15質量%のポリビニルアセテート基の割合を含有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の薄膜。
【請求項6】
自動車分野における、フロントガラスにおける、建築分野における、ファサード部材における、又は光起電性モジュールを製造するための、請求項1から5までのいずれか1項記載の薄膜の使用。

【公開番号】特開2013−23692(P2013−23692A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163101(P2012−163101)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(512192277)クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (5)
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp−Reis−Strasse 4, D−65795 Hattersheim am Main, Germany
【Fターム(参考)】