説明

可塑化部の射出方法および可塑化装置

【課題】可塑化部より射出する材料の樹脂温度を安定させることができる。
【解決手段】可塑化ユニット10では、樹脂のうち溶融温度の高い方の温度に応じて加熱筒11の温度を設定し、可塑化スクリュー12を回転しつつ、樹脂を加熱筒11により所定時間だけ加熱して可塑化溶融させ、可塑化溶融された溶融樹脂M´を適宜な計量手段によって計量し、計量工程により計量した溶融樹脂M´の一部のみを射出口15aより射出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料を高せん断することによって、それら材料の内部構造をナノレベルで分散・混合する際に適用される可塑化部の射出方法および可塑化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静置場では相互に溶け合わない(非相溶性)ブレンド系において、相溶化剤等の余分な添加物を加えることなく、数十ナノメーターサイズの分散相を有する高分子ブレンド押出し物を製造するための高せん断機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1は、内部帰還型の高せん断スクリューが搭載された高せん断機において、高せん断スクリューにより2〜5gの高分子ブレンド微量試料を溶融状態で例えば500〜3000rpmの回転数で高速回転させて数分間混練してナノ分散化させることで、耐熱性、機械的特性、寸法安定性等に優れた高分子ブレンド押出し物を製造する構造について開示したものである。
【0003】
ところで、高せん断機へ供給する材料として、加熱筒と可塑化スクリューとを備えた可塑化部において、加熱筒に設けられるヒーターによって加熱されるとともに可塑化スクリューの回転によって混合され、可塑化溶融されることで作製される溶融樹脂がある。このような可塑化部では、計量した樹脂を全量射出しているのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−313608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加熱筒のヒーター温度を250℃に設定して樹脂を溶融させた場合であっても、可塑化スクリューで溶融された直後の樹脂は、スクリュー形状およびヒーターによる発熱以外のせん断発熱により樹脂温度は安定した250℃にならない。そして、通常は、上述したように可塑化部内の溶融樹脂を全て射出することから、樹脂温度が十分に安定していない状態のまま溶融樹脂が高せん断部に供給されてしまい、高せん断加工によって製造されるブレンド材の品質が低下するという欠点があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、可塑化部より射出する材料の樹脂温度を安定させることができる可塑化部の射出方法および可塑化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る可塑化部の射出方法では、投入口と、加熱筒と、回転可能且つ軸方向に進退移動可能に設けられた可塑化スクリューと、射出口とを備え、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料からなる複数の固体状の材料を投入口より加熱筒内に投入し、可塑化スクリューによって混合して射出口から材料に高せん断応力を与える高せん断部内に向けて射出する可塑化部の射出方法であって、材料のうち溶融温度の高い方の温度に応じて加熱筒の温度を設定する工程と、可塑化スクリューを回転しつつ、材料を加熱筒により所定時間だけ加熱して可塑化溶融させる工程と、可塑化溶融された材料を計量する工程と、計量工程により計量した材料の一部のみを射出口より射出する工程とを有することを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る可塑化装置では、投入口と、加熱筒と、回転可能且つ軸方向に進退移動可能に設けられた可塑化スクリューと、射出口とを備え、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料からなる複数の固体状の材料を投入口より加熱筒内に投入し、可塑化スクリューによって混合して射出口から材料に高せん断応力を与える高せん断部内に向けて射出する可塑化装置であって、材料のうち溶融温度の高い方の温度に応じて加熱筒の温度を設定する温度設定手段と、可塑化スクリューを回転しつつ、材料を加熱筒により加熱させるための時間を制御する可塑化溶融時間制御手段と、可塑化溶融された材料を計量する計量手段と、計量手段によって計量した材料の一部のみを射出口から射出するようにして可塑化スクリューの回転及び進退移動を制御する射出制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
本発明では、可塑化部で計量した材料の一部を射出する射出方法とすることで、射出されずに残った材料が可塑化スクリュー前部の領域(材料溜まり部という)に長時間溜まることになる。同じく、本発明の可塑化装置にあっては、温度設定手段によって所定温度に設定された加熱筒内で、可塑化溶融時間制御手段により加熱時間を制御して材料を可塑化溶融させ、その後、可塑化装置の計量手段で計量した材料の一部を射出制御手段によって射出することで、射出されずに残った材料が可塑化スクリュー前部の領域(材料溜まり部という)に長時間溜まることになる。
そのため、溶融直後の材料に生じるせん断発熱による影響を抑制することが可能となるうえ、長時間加熱することで残留した材料を予め温度設定された加熱筒の温度に近づけることができ、射出する材料温度を安定させることができる。つまり、可塑化部(可塑化装置)から高せん断部に注入する材料温度が高せん断に最適な温度で供給することが可能となり、高せん断時の材料の流れが安定し、高せん断効率を向上させることができる。したがって、高せん断される材料全体にわたって均一にナノ分散化させることができ、透明度の高い良好な状態で非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料における内部構造をナノレベルで分散・混合することができる。
また、射出サイクル毎に安定した温度の材料を射出することができるので、1射出サイクルの時間を短縮することができる利点もある。
【0010】
また、本発明に係る可塑化部の射出方法では、射出工程後の加熱筒内には、計量した材料のうち1回の射出量以上の材料が残留していることが好ましい。
本発明では、計量工程により計量した材料のうち少なくとも1回の射出量の材料が前記材料溜まり部に溜まり、長時間加熱されることになるため、最適な温度で安定した材料を射出することができる。
【0011】
また、本発明に係る可塑化部の射出方法では、射出工程後の加熱筒内には、計量した材料のうち9/10〜6/7の量の材料が残留していることが好ましい。
本発明では、射出される材料が計量工程により計量された材料の1/10〜1/7の量であり、7〜10回の射出サイクル分の時間だけ前記材料溜まり部に溜まり、長時間加熱されることになるため、射出される材料温度が設定された加熱筒の温度により近づき、且つ安定した状態にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による可塑化部の射出方法および可塑化装置によれば、計量した材料のうち射出されずに残留した材料が加熱筒によって長時間加熱されるので、溶融直後の材料に生じるせん断発熱による影響を抑えることができるとともに、材料温度を加熱筒の温度に近づけることが可能となり、射出する材料温度を安定させることができる。そのため、安定した温度の材料を高せん断部に供給することができ、高せん断効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態による高せん断装置の概略構成を示す一部破断平面図である。
【図2】可塑化ユニットを備えた高せん断装置の詳細な構成を示す一部破断側面図である。
【図3】可塑化ユニットにおける溶融樹脂を作製して射出するための構成を説明するための図である。
【図4】可塑化ユニットにおける射出方法を説明するための図であって、(a)は射出後で計量前の図、(b)は計量後の図である。
【図5】高せん断装置を使用した高せん断の製造フローである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の可塑化部の射出方法および可塑化装置の実施の形態について、図1乃至図5に基づいて説明する。
【0015】
図1における符号1は、本実施の形態による高せん断装置を示している。すなわち、本高せん断装置1は、溶融状態の高分子ブレンド系の樹脂(本発明の材料に相当する)に高せん断応力を与えつつ混練することで非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料における内部構造をナノレベルで分散・混合するためのものである。
【0016】
図1に示すように、高せん断装置1は、固体状の高分子ブレンド系の樹脂Mを可塑化して溶融させる可塑化ユニット10(可塑化部、可塑化装置)と、この可塑化ユニット10によって可塑化された溶融樹脂M´を注入部22より注入し加熱筒21に挿入されている内部帰還型スクリュー23を例えば100〜3000rpmの回転数で回転させて溶融樹脂M´を混練して高せん断することで、その溶融樹脂M´をナノ分散化させる高せん断ユニット20(高せん断部)とからなる。
ここで、図1に示す高せん断装置1は、一部(後述する可塑化スクリュー12部分)が破断した図となっており、また見易いように後述するホッパー14及びホッパー台17が側面から見た図となっている。
【0017】
ここで、以下の説明では、可塑化ユニット10及び高せん断ユニット20における可塑化スクリュー12、内部帰還型スクリュー23のそれぞれの軸方向でスクリューの送り側を「前方」、「前端」、「先端」とし、その反対側を「後方」、「後端」、「基端」として統一して用いる。また、後述する可塑化ユニット10の加熱筒11と高せん断ユニット20の加熱筒21においても同様に、それぞれに挿通されるスクリュー12、23の送り側を「前方」、「前端」、「先端」とし、その反対側を「後方」、「後端」、「基端」として統一して用いる。また、以下の説明では、可塑化ユニット10で可塑化される前を単に樹脂Mとし、可塑化された樹脂を区別するため溶融樹脂M´とする。
【0018】
図2に示すように、可塑化ユニット10は、樹脂Mを混練して可塑化溶融するための可塑化スクリュー12を備え、その可塑化スクリュー12が回転軸方向を略水平方向に向けて配置されている。一方、高せん断ユニット20は、可塑化ユニット10より注入された溶融樹脂M´に対して高せん断を施すための内部帰還型スクリュー23を備え、その内部帰還型スクリュー23が回転軸方向を可塑化スクリュー12の回転軸方向に直交する略水平方向に向けて配置されている。そして、可塑化ユニット10は、高せん断ユニット20に対して着脱可能となっている。
【0019】
本高せん断装置1で使用対象となる材料系としては、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料が挙げられる。例えば、非相溶性ポリマーブレンド系としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリアミド11(PA11)の組み合わせやポリカーボネート(PC)とポリメチルメタクリレート(PMMA)の組み合わせが挙げられる。ポリマー/フィラー系としては、ポリ乳酸とカーボンナノチューブ(CNT)の組み合わせが挙げられ、ポリマーブレンド/フィラー系としては、例えばPVDFとポリアミド6とCNTとの組み合わせなどが挙げられる。
【0020】
図1に示す可塑化ユニット10は、略水平方向に配した略中空円筒形状の加熱筒11と、この加熱筒11内に挿通された状態で周方向に回転自在かつ軸方向に往復移動自在とされる可塑化スクリュー12と、可塑化スクリュー12の軸方向一端側をなす基端部12a側に配置されるとともに可塑化スクリュー12に回転及び軸方向への往復移動をさせるための駆動部13と、可塑化スクリュー12の基端部12aに固体状の樹脂Mを供給するホッパー14と、可塑化スクリュー12の軸方向他端側をなす先端部12b側に設けられた射出ノズル15とを備えて概略構成されている。
【0021】
可塑化ユニット10の加熱筒11は、長手方向を略水平方向に向けた状態で保持され、外周面が複数のヒーター16、16、…によって覆われており、これらヒーター16を温度制御することで加熱筒11が温度調節可能となっている。
【0022】
加熱筒11の基端部11aには、ホッパー14を支持するとともにホッパー14に供給された固体状の樹脂Mを可塑化スクリュー12の基端部12a側に落とし込む挿通穴17aを有するホッパー台17が固定されている。また、加熱筒11の先端部11bの内面には、射出ノズル15がその流路(射出口15a)を加熱筒11の内空部(可塑化領域R)に連通させた状態で取り付けられている。なお、加熱筒11は、図2に示す符号18の温度センサーによって温度制御される構成となっている。
【0023】
可塑化スクリュー12は、加熱筒11と略同軸に配置され、加熱筒11によってスクリュー内で混練される樹脂温度が調整されるようになっている。また、可塑化スクリュー12の基端部12aは、ホッパー台17の挿通穴17aに到達して後述する駆動部13のスクリュー回転軸133に一直線上となるように連結されている。
【0024】
駆動部13は、可塑化スクリュー12を回転させる回転機構13Aと、可塑化スクリュー12をその軸方向へ往復移動させてスクリュー12内の溶融樹脂を射出ノズル15から射出させるための射出機構13Bとからなる。
回転機構13Aは、固定部131上に固定されたスクリュー回転モータ132と、そのスクリュー回転モータ132によって回転力が伝達されたスクリュー回転軸133とを備えている。そして、スクリュー回転軸133と可塑化スクリュー12の基端部12aとは、連結片134によって一直線上に連結されている。
【0025】
射出機構13Bは、可塑化スクリュー12の軸方向に平行にねじ軸を配置させて固定部131に固定されたボールねじ135と、このボールねじ135に対して回転自在に螺合されたナット136と、ナット136に回転力を伝達するとともに固定部131と分離して配置された射出モータ137とから構成されている。射出モータ137の駆動によって回転するナット136に対してボールねじ135が往復移動することで、ボールねじ135を固定させている前記固定部131と、その固定部131上のスクリュー回転モータ132、スクリュー回転軸133を介して設けられた可塑化スクリュー12がその軸方向に往復移動する構成となっている。つまり、可塑化スクリュー12は、回転により固体状の樹脂Mを混合させて溶融し、さらに回転と往復移動により加熱筒11内で可塑化した溶融樹脂を射出ノズル15から射出させる機能を有している。
【0026】
さらに、可塑化ユニット10には、図3に示すように、溶融樹脂M´を作製して射出するための構成、すなわち、構成樹脂Mのうち溶融温度の高い方の温度に応じて加熱筒11の温度を設定する温度設定手段101と、可塑化スクリュー12を回転しつつ、樹脂Mを加熱筒11により加熱させるための時間を制御する可塑化溶融時間制御手段102と、可塑化溶融された溶融樹脂M´を計量する計量手段103と、この計量手段103によって計量した溶融樹脂M´の一部のみを射出口15aから射出するようにして可塑化スクリュー12の回転及び進退移動を制御する射出制御手段104とを備えている。
【0027】
温度設定手段101は、温度センサー18で検出した加熱筒11の温度に基づいて加熱筒11を温度制御するものである。
可塑化溶融時間制御手段102は、温度設定手段101に接続されており、加熱筒11の設定温度に基づいて可塑化スクリュー12の駆動部13を所定時間だけ駆動するように制御することで、加熱筒11内の樹脂Mを可塑化溶融させるためのものである。
計量手段103は、とくに図示しないが、可塑化スクリュー12の荷重信号を検出するロードセルやスクリュー位置信号を検出するエンコーダからなり、これらの検出値に基づいて加熱筒11内の溶融樹脂M´が軽量されるようになっている。
そして、射出制御手段104は、計量手段103で計量した樹脂量に応じて、所定量の溶融樹脂M´を射出するように、可塑化スクリュー12の前後進位置を制御するものである。
【0028】
つまり、可塑化ユニット10は、温度設定手段101によって所定温度に設定された加熱筒11内で、可塑化溶融時間制御手段102により加熱時間を制御して樹脂Mを可塑化溶融させ、その後、計量手段103で計量した溶融樹脂M´の一部を射出制御手段104によって射出することで、射出されずに残った溶融樹脂M´が可塑化スクリュー12前部に長時間溜まるように構成されている。
【0029】
次に、可塑化ユニット10によって溶融された溶融樹脂M´が供給されるとともに、その溶融樹脂M´を高せん断するための高せん断ユニット20の構成について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、高せん断ユニット20は、樹脂を注入するための注入部22を有するとともに略水平方向に配した中空円筒形状の加熱筒21と、この加熱筒21内に挿通された状態で周方向に回転自在とされる内部帰還型スクリュー23と、この内部帰還型スクリュー23の後方(すなわち、スクリュー軸方向一端側をなす基端部23b側)に配置されるとともにシャフト25を介して内部帰還型スクリュー23を回転させるための駆動モータ24と、前記シャフト25をベアリング26を介して回転可能に支持する振止め支持部27と、内部帰還型スクリュー23の軸方向他端側の先端側(前記基端部とは反対側)に設けられた成形加工部をなすT−ダイ29を有する先端保持部28とを備えて概略構成されている。
【0030】
図2に示す高せん断ユニット20の加熱筒21は、長手方向を略水平方向に向けた状態で保持され、図示しないヒーターによって覆われており、温度調節可能となっている。加熱筒21は、基端部21b(図2で左側)が本体支持部30によって支持されており、先端部21aに前記先端保持部28が設けられている。また、加熱筒21に設けられる注入部22には内空部(高せん断領域K)に連通する注入路22aが形成されており、その注入路22aの外周側開口部には上述した射出ノズル15の射出口15aが一致するように係合する構成となっている。これにより、可塑化ユニット10で射出された溶融樹脂M´を注入部22より高せん断領域K(加熱筒21と内部帰還型スクリュー23との間の隙間)に流入させることができる。
【0031】
ここで、注入部22に形成される注入路22aの位置は、内部帰還型スクリュー23の後端寄りに設けられている帰還穴231の吐出口(後述する)よりも先端側の位置となっている。
そして、注入路22aの途中には、加熱筒21の内空部に可塑化ユニット10からの溶融樹脂M´の流入量を調整するための開閉制御が可能な注入バルブ31が設けられている。この注入バルブ31は、予め設定された時間等に応じて注入量を制御することが可能な自動開閉式とされ、後述する排出バルブ32の開閉動作に対して連動可能となっている。
【0032】
内部帰還型スクリュー23は、加熱筒21内に略同軸に挿通された状態で回転可能に設けられ、基端部23bが駆動モータ24の回転軸に連結されたシャフト25に対して一直線上となるように連結され、その駆動モータ24の回転力が伝達されている。内部帰還型スクリュー23の基端部23bは、スクリュー羽根が形成されていない高せん断領域Kの範囲外の位置であって、加熱筒21の内面に対して液密に摺動可能となっている。
【0033】
さらに、内部帰還型スクリュー23には、上述したように先端部23aから後端側に向けてスクリュー中心軸に沿う帰還穴231が形成されている。具体的に帰還穴231は、流入口となる一端がスクリュー先端23aの断面視略中心に位置し、その流入口から後端側に延びるとともに、所定位置でスクリュー23の半径方向に向きを変えてスクリュー23の外周面まで延び、その外周面の位置に吐出口となる他端が設けられている。
【0034】
この帰還穴231において、流入口が高せん断中に帰還穴231内を流れる溶融樹脂M´の上流側となり、吐出口が下流側となる。つまり、高せん断領域Kに注入された溶融樹脂M´は、内部帰還型スクリュー23の回転とともに先端側に送られ、流入口より帰還穴231に流入して後方へ流れて吐出口より吐出され、再び内部帰還型スクリュー23の回転とともに先端側へ送られる循環がなされる。この循環により溶融樹脂M´はナノ分散化され、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料における内部構造をナノレベルで分散・混合されることになる。
【0035】
図2に示すように、先端保持部28には、加熱筒21の内空部(高せん断領域K)に連通する排出路29aが形成されており、その排出路29aの排出側には下方に向かうに従って開口断面が拡径する成形加工部をなすT−ダイ29が形成されている。そして、排出路29aの途中には、高せん断領域Kから排出されるナノ分散樹脂の排出量を調整するための排出バルブ32が設けられている。この排出バルブ32は、予め設定された高せん断混練時間等に応じて排出量を制御することが可能な自動開閉式とされ、上述した注入バルブ31の開閉動作に連動している。つまり、上述した注入バルブ31と排出バルブ32とは、任意のタイミングで注入(可塑化ユニット10による射出)、排出を制御可能な構成となっている。
【0036】
次に、可塑化ユニット10における溶融樹脂M´の射出方法について、図4などを用いて説明する。
図1に示すように、可塑化ユニット10の射出方法は、上述した樹脂Mのうち溶融温度の高い方の温度に応じて加熱筒11の温度を設定する工程と、可塑化スクリュー12を回転しつつ、樹脂Mを加熱筒11により所定時間だけ加熱して可塑化溶融させる工程と、可塑化溶融された溶融樹脂M´を適宜な計量手段によって計量する工程と、計量工程により計量した溶融樹脂M´の一部のみを射出口15aより射出する工程とを有している。
さらに、本実施の形態による射出方法では、計量した溶融樹脂M´のうち1回の射出量以上の溶融樹脂M´が射出工程後の加熱筒11内に残留するようにして射出し、または、計量した材料のうち9/10〜6/7の量の溶融樹脂M´が射出工程後の加熱筒11内に残留するようにして射出する。
【0037】
ここで、図4(a)および(b)に示すように、計量開始時および計量完了時における可塑化スクリュー12の先端12cの位置をそれぞれ計量開始位置P1、計量完了位置P2とする。つまり、計量開始位置P1は、1回の射出が完了したときの可塑化スクリュー12の先端12cの位置となる。なお、加熱筒11内の状態、すなわち全量射出完了時の可塑化スクリュー12の先端12cの位置(二点鎖線)を全量射出位置P0とする。
そして、図4において、全量射出位置P0から計量完了位置P2までの長さ寸法を計量寸法L0、計量完了位置P2から計量開始位置P1までの長さ寸法を射出寸法L1、計量寸法L0と射出寸法L1の差を樹脂残留寸法L2とする。
【0038】
例えば、計量した材料のうち9/10の量の溶融樹脂M´が射出工程後の加熱筒11内に残留させる場合には、計量寸法L0が例えば100mmであるとき、射出寸法L1は10mmとなり、樹脂残留寸法L2は90mmとなる。したがって、加熱筒11内で可塑化された溶融樹脂M´は、射出回数で10回分だけ加熱筒11内の可塑化スクリュー12前部の領域(材料溜まり部S)に残留することになり、この残留している間、残留樹脂は加熱筒11により加熱されることになる。
【0039】
さらに詳細に射出方法を説明する。先ず、図1に示す駆動部13の射出モータ137とスクリュー回転モータ132を駆動し、スクリュー回転軸133が回転するとともに可塑化スクリュー12を所定回転数で回転させるとともに、可塑化スクリュー12を計量開始位置P1から計量完了位置P2まで後退させる。このとき、ホッパー14から加熱筒11内に樹脂Mが供給され、その樹脂Mが加熱筒11によって加熱されながら、溶融、混練されることになる。そして、可塑化スクリュー12の後退と同時に、スクリュー先端から材料溜まり部Sに溶融樹脂M´が供給される。
【0040】
このときの計量方法は、上述した計量手段103(図3参照)によって、図示しないロードセルによる荷重信号と、エンコーダによるスクリュー位置信号とを検出し、これらの検出値に基づいて前記計量完了位置P2、すなわち可塑化スクリュー12の前後進位置が制御されるようになっている。つまり、可塑化スクリュー12の計量完了位置P2と計量開始位置P1が正確に検出されて、溶融樹脂M´の計量、射出量の計測が正確に行われるようになっている。
【0041】
次に、上述した高せん断装置1を用いて、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料における内部構造をナノレベルで分散・混合する方法について図5の製造フロー等を用いて説明する。
高せん断装置1において、高分子ブレンド系の固体状の樹脂Mは上述したように2種以上を混合した樹脂を使用する。
【0042】
先ず、図1、図2および図5に示すように、高せん断ユニット20に対して射出可能な状態で取り付けられた可塑化ユニット10において、固体状の樹脂Mを可塑化させて溶融樹脂M´を作製する。この場合、樹脂Mをホッパー14から可塑化領域Rとなる加熱筒11内の可塑化スクリュー12に供給し、回転機構13Aのスクリュー回転モータ132を駆動させることで可塑化スクリュー12を適宜な回転速度で回転させる。なお、加熱筒11は外周に巻き付けられているヒーター16によって適宜な温度、つまり2種の材料のうち溶融温度の高い方に応じた温度に加熱させた状態にする。これにより、可塑化領域R内の樹脂を可塑化溶融して混練することで溶融樹脂M´となる。つまり、可塑化ユニット10の可塑化領域Rでの樹脂の可塑化が完了となる(図5に示すステップS1〜S3)。
【0043】
次に、可塑化ユニット10内の溶融樹脂を高せん断ユニット20の加熱筒21内に注入する(ステップS4)。
具体的には、溶融樹脂M´が所望の性状で得られたタイミング(ステップS3:YES)で、高せん断ユニット20の注入バルブ31と排出バルブ32を開いて、それぞれの流路(注入路22a、排出路29a)を開放する(ステップS4)。
【0044】
次に、高せん断ユニット20の内部帰還型スクリュー23を低速回転(例えば、0〜300rpm)で回転させる(ステップS5)。このとき、注入前の高せん断ユニット20の加熱筒21内(高せん断領域K内)は空の状態であるため、溶融樹脂M´を注入することで、溶融樹脂M´によって内部の空気が排出路29aから排出され、高せん断ユニット20の加熱筒21内が溶融樹脂M´で満たされた状態となる(ステップS6)。
【0045】
次に、ステップS7において、内部帰還型スクリュー23を高速回転(例えば、100〜3000rpm)で回転させ、高せん断領域K中の溶融樹脂M´に対して所定の設定時間だけ高せん断を行うことでナノ分散化させ、ナノ分散樹脂が形成される。
このとき、高せん断領域K内に注入された溶融樹脂M´は、内部帰還型スクリュー23の外周側ではスクリュー23の高速回転とともに先端側へ送られ、スクリュー先端部23aで帰還穴231の流入口より後方へ流れ、吐出口よりスクリュー外周側に出て帰還し、再び先端側に送られるといった循環を所定時間繰り返すことで、その溶融樹脂M´に高せん断応力が付与されるようになっている。
【0046】
次に、内部帰還型スクリュー23の回転速度を高速回転から中速回転(例えば、200〜1000rpm)に切り替え(ステップS8)、注入バルブ31と排出バルブ32とを開けて、それぞれの流路(注入路22a、排出路29a)を開放する。これにより、高せん断により加工された高せん断領域K内のナノ分散樹脂が内部帰還型スクリュー23の回転とともに先端側の排出路29aから排出され(ステップS9)、T−ダイ29から排出されて得られたものが高分子ブレンド押出し物となる。
【0047】
なお、高せん断ユニット20でのナノ分散樹脂の形成と並行して、上述したステップS1〜S3の工程と同様となる樹脂を可塑化溶融させる工程が行われる。すなわち、可塑化ユニット10において、固体状の樹脂Mをホッパー14から加熱筒11内の可塑化スクリュー12に供給し、可塑化スクリュー12を適宜な回転速度で回転させることにより可塑化領域R内の樹脂Mを可塑化溶融して混練し、次に高せん断ユニット20の加熱筒21内に注入する溶融樹脂M´を製造しておき、その溶融樹脂M´は高せん断ユニット20で高分子ブレンド押出し物が排出された適宜なタイミングで高せん断ユニット20へ注入される。
【0048】
このように、可塑化ユニット10で計量した溶融樹脂M´の一部を射出する射出方法とすることで、射出されずに残った溶融樹脂M´が材料溜まり部Sに長時間溜まることになる。そのため、溶融直後の溶融樹脂M´に生じるせん断発熱による影響を抑制することが可能となるうえ、長時間加熱することで残留した溶融樹脂M´を予め温度設定された加熱筒11の温度に近づけることができ、射出する材料温度を安定させることができる。つまり、可塑化ユニット10から高せん断ユニット20に注入する材料温度が高せん断に最適な温度で供給することが可能となり、高せん断時の溶融樹脂M´の流れが安定し、高せん断効率を向上させることができる。したがって、高せん断される材料全体にわたって均一にナノ分散化させることができ、透明度の高い良好な状態で非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料における内部構造をナノレベルで分散・混合することができる。
また、射出サイクル毎に安定した温度の溶融樹脂M´を射出することができるので、1射出サイクルの時間を短縮することができる利点もある。
【0049】
さらに、射出工程後の加熱筒11内に、例えば計量した溶融樹脂M´のうち1回の射出量以上の材料が残留している場合には、計量工程により計量した溶融樹脂M´のうち少なくとも1回の射出量の溶融樹脂M´が材料溜まり部Sに溜まり、長時間加熱されることになるため、最適な温度で安定した溶融樹脂M´を射出することができる。
【0050】
さらにまた、射出工程後の加熱筒11内に、例えば計量した溶融樹脂M´のうち9/10〜6/7の量の材料が残留している場合には、射出される溶融樹脂M´が計量工程により計量された材料の1/10〜1/7の量であり、7〜10回の射出サイクル分の時間だけ材料溜まり部Sに溜まり、長時間加熱されることになるため、射出される材料温度が設定された加熱筒11の温度により近づき、且つ安定した状態にすることができる。
【0051】
上述のように本実施の形態による可塑化部の射出方法および可塑化装置では、計量した溶融樹脂M´のうち射出されずに残留した溶融樹脂M´が加熱筒11によって長時間加熱されるので、溶融直後の溶融樹脂M´に生じるせん断発熱による影響を抑えることができるとともに、材料温度を加熱筒11の温度に近づけることが可能となり、射出する材料温度を安定させることができる。そのため、安定した温度の溶融樹脂M´を高せん断ユニット20に供給することができ、高せん断効率を向上させることができる。
【0052】
以上、本発明による可塑化部の射出方法および可塑化装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、可塑化ユニット10において計量した溶融樹脂M´のうち射出後の残留量は任意に設定することができる。つまり、本実施の形態では計量した溶融樹脂M´のうち1回の射出量以上、あるいは9/10〜6/7の量の溶融樹脂M´が射出工程後の加熱筒11内に残留するようにして射出しているが、このような残留量に制限されることはなく、任意に設定することが可能である。
また、可塑化部ユニット10の加熱筒11、可塑化スクリュー12の形状、寸法などの構成は本実施の形態に限定されることはなく、適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 高せん断装置
10 可塑化ユニット(可塑化部、可塑化装置)
11 可塑化ユニットの加熱筒
12 可塑化スクリュー
13 駆動部
14 ホッパー
15 射出ノズル
15a 射出口
16 ヒーター
20 高せん断ユニット(高せん断部)
22 注入部
23 内部帰還型スクリュー
101 温度設定手段
102 可塑化溶融時間制御手段
103 計量手段
104 射出制御手段
K 高せん断領域
M 樹脂(材料)
M´ 溶融樹脂(材料)
R 可塑化領域
S 材料溜まり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入口と、加熱筒と、回転可能且つ軸方向に進退移動可能に設けられた可塑化スクリューと、射出口とを備え、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料からなる複数の固体状の材料を前記投入口より前記加熱筒内に投入し、前記可塑化スクリューによって混合して前記射出口から材料に高せん断応力を与える高せん断部内に向けて射出する可塑化部の射出方法であって、
前記材料のうち溶融温度の高い方の温度に応じて前記加熱筒の温度を設定する工程と、
前記可塑化スクリューを回転しつつ、前記材料を前記加熱筒により所定時間だけ加熱して可塑化溶融させる工程と、
可塑化溶融された材料を計量する工程と、
前記計量工程により計量した前記材料の一部のみを前記射出口より射出する工程と、
を有することを特徴とする可塑化部の射出方法。
【請求項2】
前記射出工程後の前記加熱筒内には、計量した前記材料のうち1回の射出量以上の材料が残留していることを特徴とする請求項1に記載の可塑化部の射出方法。
【請求項3】
前記射出工程後の前記加熱筒内には、計量した前記材料のうち9/10〜6/7の量の材料が残留していることを特徴とする請求項1に記載の可塑化部の射出方法。
【請求項4】
投入口と、加熱筒と、回転可能且つ軸方向に進退移動可能に設けられた可塑化スクリューと、射出口とを備え、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料からなる複数の固体状の材料を前記投入口より前記加熱筒内に投入し、前記可塑化スクリューによって混合して前記射出口から材料に高せん断応力を与える高せん断部内に向けて射出する可塑化装置であって、
前記材料のうち溶融温度の高い方の温度に応じて前記加熱筒の温度を設定する温度設定手段と、
前記可塑化スクリューを回転しつつ、前記材料を前記加熱筒により加熱させるための時間を制御する可塑化溶融時間制御手段と、
可塑化溶融された材料を計量する計量手段と、
該計量手段によって計量した前記材料の一部のみを前記射出口から射出するようにして前記可塑化スクリューの回転及び進退移動を制御する射出制御手段と、
を備えたことを特徴とする可塑化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−46102(P2011−46102A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196648(P2009−196648)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(303024138)株式会社ニイガタマシンテクノ (78)
【Fターム(参考)】