説明

可変圧縮比エンジンのシール構造

【課題】 高いシール性を有する可変圧縮比エンジンのシール構造を提供する。
【解決手段】 シール構造3は、シリンダブロック1とクランクケース2との相対位置を移動方向に変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに取り付けられ、シリンダブロック1とクランクケース2との間の隙間4を覆う。シール構造3は、シリンダブロック1に基端部61が固定され、基端部61から移動方向に延びるとともに先端部63を自由端とし、シリンダブロック1とクランクケース2との間の隙間4を覆う覆い壁6と、クランクケースに設けられた収納凹部7と、収納凹部7に収納されたシール材8と、を備えている。覆い壁6の先端部63は、収納凹部7に移動可能に挿入されて、収納凹部7に収納されたシール材8に密接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮比エンジンのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行状態に応じて圧縮比を変化させる可変圧縮比エンジン(所謂、VCRエンジン)が知られている。VCRエンジンでは、シリンダブロックとクランクケースとの相対位置をカムなどで変化させることで、ピストンの上下動に伴う、シリンダ内の燃焼室の最大容積と最小容積の比率、即ち圧縮比を変化させている。
【0003】
ここで、エンジン内のピストンとシリンダの間隙から混合気が漏出しクランクケース等に漏れ出す場合がある。この漏出した混合気は、一般にブローバイガスと呼ばれ、未燃焼の燃料を含んでいる。ブローバイガスは、クランクケース内のクランクルームを通じて、吸気管に還流されている。
【0004】
しかし、上記のようにシリンダブロックとクランクケースとの相対位置が変化すると、シリンダブロックとクランクケースとの間からブローバイガスやエンジンオイルなどがエンジン外部へ流出して、飛散して、エンジン周りを汚染したり、エンジン周りの金属部品を腐食させたりするなどの問題が生じる。
【0005】
そこで、従来、特許文献1には、図5、図6に示すように、シリンダブロック91の外周面の全周にわたり凹型溝90を形成し、凹型溝90に環状のシール材92を介装し、シール材92を、クランクケース93の内周面に摺動可能に密接させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−303385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のシール構造では、シール材92の外周面が、クランクケース93の内周面に摺接して、シール材92の外周面の上下の空間を遮断しているにすぎない。このため、シリンダブロック91とクランクケース93との間の気密性を確保するためには、シール材92の形状及び特性に高度な精度が要求される。また、シリンダブロック91とクランクケース93との摺接部の気密性を向上させる程、シリンダブロック91とクランクケース93との摺動抵抗は増し、その摺動性が低下するという課題があった。このため、低い精度のシール材であっても高い気密性を確保したいという要望があった。また、今後、シリンダブロックのクランクケースとの相対移動量が増加することも考えられる。このため、更に、高いシール性をもつ構造が望まれている。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、高いシール性を有する可変圧縮比エンジンのシール構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の可変圧縮比エンジンのシール構造は、シリンダブロックとクランクケースとの相対位置を移動方向に変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに設けられ、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの間の間隙を覆うシール構造において、前記シリンダブロック及び前記クランクケースのいずれか一方に基端部が取り付けられ、前記基端部から前記移動方向に延びるとともに先端部を自由端とし、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの間の前記間隙を覆う覆い壁と、前記シリンダブロック及び前記クランクケースの他方に設けられた収納凹部と、前記収納凹部に収納されたシール材と、を備え、前記覆い壁の前記先端部は、前記収納凹部に前記移動方向に移動可能に挿入されて、前記収納凹部に収納された前記シール材に密接していることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、覆い壁が、シリンダブロックとクランクケースとの間の隙間を覆い、シリンダブロック及びクランクケースのいずれか一方に基端部が固定されて、移動方向に延びている。覆い壁の先端部は、シリンダブロック及びクランクケースの他方に設けられた収納凹部に移動方向に移動可能に挿入されて、収納凹部に収納されたシール材に密接している。このため、シリンダブロックとクランクケースとの相対移動を可能としつつ、シリンダブロックとクランクケースとの間の隙間を、気密にシールすることができる。
【0011】
また、覆い壁の先端部は、収納凹部に進退可能に挿入されて、収納凹部内のシール材に密接している。このため、シリンダブロックとクランクケースとの相対位置が変動したときに、覆い壁が収納凹部から進退して、覆い壁と収納凹部との相対位置が変動するとともに、覆い壁の先端部は収納凹部内のシール材に密接し続ける。ゆえに、覆い壁の先端部と収納凹部との間の隙間を、高いシール性を確保して密閉することができ、シリンダブロックとクランクケースとの間の隙間を、気密にシールすることができる。
【0012】
また、覆い壁の収納凹部に対する位置にバラツキがあっても、そのバラツキがシール材の変形により吸収されて、覆い壁の先端部とシール材との高いシール性を維持することができる。ゆえに、覆い壁や収納凹部の寸法精度が高くなくても、優れたシール性を確保することができる。
(2)前記シール材は、弾性部材であり、前記収納凹部に固定されて、前記覆い壁の前記先端部に摺接していることが好ましい。
【0013】
この場合には、弾性体からなるシール材に対して覆い壁の先端部が摺接するため、覆い壁の先端部と収納凹部との間を確実にシールすることができる。
(3)前記シール材は、前記収納凹部の内周面側から内部空間に向けて突出するシールリップ部を有し、前記シールリップ部が前記覆い壁の前記先端部に摺接していることが好ましい。
【0014】
この場合には、覆い壁の収納凹部への収納位置にバラツキがあっても、高いシール性を確保することができる。
(4)前記覆い壁は、シリンダヘッドと前記シリンダブロックとで挟持されたシリンダヘッドガスケットの外周縁から延設されており、前記収納凹部は、前記クランクケースに形成された凹部であることが好ましい。
【0015】
この場合には、覆い壁は、シリンダヘッドガスケットの外周縁から延設されており、シリンダヘッドガスケットと一体である。このため、部品点数の増加を抑えることができる。また、シリンダヘッドガスケットをシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟持することにより、覆い壁の基端部もシリンダブロックに取り付けられる。したがって、組み付け作業工数の増加も抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明の可変圧縮比エンジンのシール構造によれば、覆い壁の基端部が、シリンダブロック及びクランクケースのいずれか一方に取り付けられ、覆い壁の先端部は、シリンダブロック及びクランクケースの他方に設けられた収納凹部に移動方向に進退可能に挿入されて、収納凹部に収納されたシール材に密接している。このため、シリンダブロックとクランクケースとの間の隙間を高いシール性で密閉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る可変圧縮比エンジンのシール構造の断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る、シリンダヘッドガスケットを備えたエンジンブロックの斜視図である。
【図3】第1の実施形態に係る、覆い壁の先端部がシールリップ部で挟持されている状態を示すための、シール構造の部分拡大断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る可変圧縮比エンジンのシール構造の断面図である。
【図5】従来例に係る、クランクケース及びシリンダブロックの斜視説明図である。
【図6】従来例に係る可変圧縮比エンジンのシール構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、図面を用いて説明する。本実施形態に係る可変圧縮比エンジンのシール構造は、図1に示すように、シリンダブロック1とクランクケース2との相対位置を移動方向に変化させて圧縮比を変化させる可変圧縮比エンジンに設けられ、シリンダブロック1とクランクケース2との間の間隙4を覆うシール構造3である。
【0019】
シリンダブロック1は、略矩形状を呈しており、略箱形状のクランクケース2の中に配置されている。シリンダブロック1は、クランクケース2に対して上下方向に移動可能とされている。シリンダブロック1の外周面1cは、隙間4を介して、クランクケース2の内周面2cと対向している。この隙間4には、燃焼室から漏出したブローバイガスが流通している。
【0020】
図2に示すように、シリンダブロック1には、複数の円筒部1aが直列に配設されている。円筒部1aは、シリンダを構成しており、ピストンが上下方向に移動可能に配置されている。円筒部1aの上部には、ピストンの頂面と後述のシリンダヘッド11の下面との間に燃焼室が形成されている。空気と燃料との混合気の圧縮、爆発、排出、吸気の燃焼サイクルが繰り返されることにより、燃焼室の容積の増減が繰り返される。燃焼室の容積の増減の比率は、圧縮比といわれる。
【0021】
クランクケース2は、略箱形状を呈しており、その内部のクランクルーム(図略)には、シリンダブロック1の下部が上下動可能に挿入されている。クランクケース2の上部は、シリンダブロック1を囲むように四角枠形状を呈している。クランクケース2のクランクルームには、円筒部1aの配設位置と対応する位置にピストンが配設されている。シリンダブロック1は、図略のカム軸などの移動手段によりクランクケース2に対して上下方向に移動される。この移動量の幅は、例えば、15〜20mm程度である。シリンダブロック1がクランクケース2に対して上下方向に移動されると、これに伴い、円筒部1aとピストンとシリンダヘッド11の下面との間に形成された燃焼室の圧縮比も変動される。圧縮比を増減させることで、エンジンにより生じる駆動トルクが調整される。
【0022】
図1に示すように、シリンダブロック1の上部には、シリンダヘッドガスケット5を介設させて、シリンダヘッド11が配置されている。
【0023】
シリンダヘッドガスケット5は、シリンダブロック1とシリンダヘッド11とで挟持されることで、シリンダブロック1とシリンダヘッド11との間をシールしている。シリンダヘッドガスケット5は、シリンダブロック1の平坦な上面と略同一寸法の矩形板状を呈している。シリンダヘッドガスケット5は、厚さ0.2〜0.3mmの外側メタルプレート51と、厚さ0.6〜0.8mmの中間メタルプレート52と、厚さ0.2〜0.3mmの内側メタルプレート53を、順に積層してかしめにより一体化されてなる。外側メタルプレート51、中間メタルプレート52及び内側メタルプレート53は、いずれもSUS(ステンレス)材料からなる。
【0024】
シリンダヘッドガスケット5は、シリンダブロック1の円筒部1aの数に対応する数のピストン用開口5aと、エンジンの冷却系統、潤滑系統等のシリンダ周辺部材に対応する数の周辺部材用開口5bとが形成されている。
【0025】
外側メタルプレート51及び内側メタルプレート53の、外周縁部、各ピストン用開口5aの周縁部、及び各周辺部材用開口5bの周囲縁部には、それぞれ、リング状をなすシール凸部5cがプレス加工により形成されている。外側メタルプレート51に形成されたシール凸部5cは下方に突出し、内側メタルプレート53に形成されたシール凸部5cは上方に突出している。外側メタルプレート51に形成されたシール凸部5cと内側メタルプレート53に形成されたシール凸部5cとで、中間メタルプレート52を挟持することで、各シール凸部5cが上下方向に弾性変形して、シリンダブロック1とシリンダヘッド11との間が確実にシールされる。
【0026】
シール構造3は、覆い壁6と、収納凹部7と、シール材8とを備えている。
【0027】
覆い壁6の基端部61は、シリンダブロック1に固定されている。詳しくは、覆い壁6は、シリンダヘッドガスケット5の中間メタルプレート52の外周縁部から全周にわたって延設されており、覆い壁6の基端部61は、中間メタルプレート52の外周縁部に一体化されている。
【0028】
覆い壁6は、基端部61からシリンダヘッドガスケット5の外周側に向けて延びた後に、下方に湾曲している。覆い壁6は、この湾曲部から下方向に延びる延伸部62をもち、延伸部62の下方の先端部63は自由端とされている。覆い壁6は、中間メタルプレート52の外周縁部の全体から延設されており、シリンダブロック1とクランクケース2との間の隙間4を覆っている。
【0029】
収納凹部7は、四角枠形状を呈するクランクケース2の上部の全周にわたって形成されている。クランクケース2の上部は、クランクケース2と一体化され上方に突設された内壁部21と、内壁部21よりも外周側に形成された平坦面22とをもつ。クランクケース2の上部には、内壁部21と空間を隔てて対向するように内壁部21よりも外周側には、外壁部材23が配設されている。外壁部材23の下面は、クランクケース2の平坦面22に当接して、クランクケース2に対してボルト締結で固定されている。内壁部21の上部及び外壁部材23の上部には、互いに近接する方向に上面部21a、23aが延びている。内壁部21と外壁部材23の間に形成された空間に、収納凹部7が形成されている。内壁部21の上面部21aと外壁部材23の上面部23aとの間には、収納凹部7の開口71が形成されている。
【0030】
シール材8は、弾性部材であり、例えばゴムなどで形成されている。シール材8は、クランクケース2の上部の全周に形成された収納凹部7の全体に収納され、収納凹部7の下面に沿った底部81と、収納凹部7の内周面に沿った一対の枠状部82と、枠状部82の内面から突出する複数のシールリップ部83とを有する。シール材8の底部81の内端縁81a及び外端縁81bは、枠状部82よりも外側に張り出している。底部81の内端縁81aは、収納凹部7を構成する内壁部21の内面に形成された凹部21bに嵌入されている。底部81の外端縁81bは、収納凹部7を構成する外壁部材23の内面に形成された凹状段部23bと平坦面22との間で挟持されている。これにより、シール材8は、収納凹部7から抜け出ることが防止される。
【0031】
シール材8の一対の枠状部82は、収納凹部7を構成する内壁部21の内面と、外壁部材23の内面とにそれぞれ密接している。一対の枠状部82の上部は、収納凹部7の開口71周縁まで延び、その上方先端には、それぞれリップ部84が延設されている。一対のリップ部84は、互いに同じ長さであり、開口71よりも上側に飛び出して、開口71の内側に向けて上方に傾斜している。リップ部84の上方先端は、覆い壁6に密接して、シール材8の内部空間80への塵埃などの侵入を防止している。
【0032】
シールリップ部83は、枠状部82の内面から内部空間80に向けて延びている。シールリップ部83は、枠状部82の内面から上下方向の20〜25mmの間に2〜5mm間隔毎に複数本突出している。複数のシールリップ部83は、シリンダブロック1がクランクケース2に対して最上位置又は最下位置に移動したときにも覆い壁6の先端部63に密接し得る範囲を含む部分に配置されている。シールリップ部83の先端部はシールリップ部83の基端部よりも下側に位置している。内壁部21及び外壁部材23から突出するそれぞれのシールリップ部83は互いに同じ長さであり、内部空間80の中央に向けて下方に傾斜している。リップ部84及びシールリップ部83の表面は、フッ素などにより表面処理が施されているか、または、潤滑油が塗布されることにより、摺動性の向上が図られる。
【0033】
覆い壁6の先端部63は、収納凹部7に挿入されて、収納凹部7に収納されたシール材8に上下方向に移動可能に密接している。詳しくは、図1、図3に示すように、覆い壁6の先端部63の内側面及び外側面の双方が、シール材8のリップ部84の先端部及び複数のシールリップ部83の先端部に摺接している。シールリップ部83の摺接面には、覆い壁6の先端部63に密接する突部83aが設けられている。突部83aにより、覆い壁6との接触面積を小さくすることにより、シールリップ部83のシール面圧を高くし、なおかつ摺動抵抗を低下させることができる。
【0034】
このようなシール構造3は、シリンダブロック1の外周部の全体にわたって連続して形成されている。即ち、シール構造3を構成する覆い壁6はシリンダブロック1の外周部の全体にわたって連続して形成されている。内壁部21及び外壁部材23から構成される収納凹部7、並びにシール材8に形成された枠状部81、シールリップ部83、突部83a、及びリップ部84は、クランクケース2の枠状上面の全周にわたって連続して形成されている。
【0035】
本実施形態に係るシール構造10を組み付けるに当たっては、覆い壁6を取り付けたシリンダヘッドガスケット5を用意する。シール材8を、クランクケース2に形成された内側壁21と平坦面22に設定する。シリンダヘッドガスケット5をシリンダブロック1の上面に配置し、覆い壁6の先端部63をシール材8の内部空間80に押し込む。クランクケース2に形成された平坦面22上に外壁部材23を配置し、ボルト締結で、外壁部材23をクランクケース2に固定する。
【0036】
本実施形態においては、クランクケース2に対してシリンダブロック1が上下方向に移動すると、シリンダブロック1とともに覆い壁6が上下方向に移動する。覆い壁6の先端部63は、クランクケース2に設けられた収納凹部7の中で上下方向に進退し、収納凹部7内に収納されたシール材8の内部空間80で上下方向に移動する。シール材8のシールリップ部83は、内部空間80の中で、覆い壁6の先端部63の内側面及び外側面に圧接して、覆い壁6と収納凹部7との間を気密にシールする。覆い壁6の先端部63が上下方向に移動するときには、シールリップ部83の先端部は上下方向に撓みながら、先端部63と摺接し、先端部63との間のシール性を保持しながら先端部63の上下方向の移動を可能としている。したがって、シリンダブロック1とクランクケース2との相対移動を可能としつつ、シリンダブロック1とクランクケース2との間の隙間4を覆い壁6で気密にシールすることができる。
【0037】
また、覆い壁6の先端部63は、シール材8に進退可能に密接している。このため、シリンダブロック1とクランクケース2との相対位置が変動したときに、覆い壁6は、収納凹部7から進退して、覆い壁6と収納凹部7との相対位置が変動するとともに、収納凹部7内のシール材8のシールリップ部83に摺接する。ゆえに、覆い壁6の先端部63と収納凹部7との間の隙間を、高いシール性で密閉することができ、シリンダブロック1とクランクケース2との間の隙間4を覆い壁6で気密にシールすることができる。
【0038】
また、シール材8は、弾性部材からなる。このため、覆い壁6の収納凹部7に対する位置にバラツキがあっても、そのバラツキがシール材8の変形により吸収されて、覆い壁6の先端部63との高いシール性を維持することができる。ゆえに、覆い壁6や収納凹部7に高い寸法精度がなくても、優れたシール性を確保することができる。
【0039】
また、シール材8は、収納凹部7の内周面側から内部空間80に突出するシールリップ部83を有し、シールリップ部83がその弾性力によって覆い壁6の先端部63に密接している。このため、覆い壁6の収納凹部7への収納位置にバラツキがあっても、高いシール性を確保することができる。
【0040】
また、シールリップ部83は、覆い壁6の移動方向である上下方向に複数配列して、覆い壁6の先端部63に摺接している。このため、覆い壁6の先端部63が、1つのシールリップ部83に摺接する場合に比べて、高い気密性を確保することができる。
【0041】
また、覆い壁6は、シリンダヘッド11とシリンダブロック1とで挟持されたシリンダヘッドガスケット5の外周縁から延設されており、収納凹部7は、クランクケース2に形成された凹部である。このため、覆い壁6は、シリンダヘッドガスケット5と一体である。このため、部品点数の増加を抑えることができる。また、シリンダヘッドガスケット5をシリンダヘッド1とシリンダヘッドガスケット5との間に挟持することにより、覆い壁6の基端部61もシリンダブロック1に固定される。したがって、組み付け作業工数の増加も抑制できる。
【0042】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る可変圧縮比エンジンのシール構造は、図4に示すように、収納凹部7の内部に、シール材としての流動体85が封入されている。流動体85の中には、覆い壁6の先端部63が浸漬されている。流動体85は、覆い壁6を上下方向に移動可能としつつ、高いシール性を有するため、シール材として適している。
【0043】
収納凹部7内に封入された流動体85は、例えば、潤滑油、シリコン油、磁性流体などからなる。この中、磁性流体は、磁性粉末を流体中に分散させたものである。収納凹部7の周縁部に電磁コイルなどを埋設し、電流を流すことにより、磁場が発生する。磁性流体は、磁場が印加されると磁性粉末の移動が制限されて磁性流体の粘性が高まる。粘性が高められた磁性流体に覆い壁6の先端部63が浸漬されることで、先端部63と収納凹部7との間が気密にシールされる。流動体85は、シール材8の内部空間80のほぼ全体を満たしており、覆い壁6の先端部63が最上位置にあっても、先端部63を浸漬させている。
【0044】
本実施形態においては、流動体85を収納凹部7に直接封入しているが、第1の実施形態において、収納凹部7に収納されたシール材8の内部空間80に流動体85を封入することもできる。この場合、覆い壁6の先端部63は、シール材8のシールリップ部83に密接するだけでなく、流動体85にも密接する。このため、覆い壁6の先端部63と収納凹部7との間のシール性が、第1の実施形態よりも高くなる。
【0045】
前記第1、第2の実施形態においては、覆い壁6は、シリンダブロック1に固定されたシリンダヘッドガスケット5に一体に固定されているが、シリンダブロック1の外周面に直接固定されていてもよい。
【0046】
前記第1、第2の実施形態においては、収納凹部7にシール材8を固定し、シリンダブロック1に固定された覆い壁6の先端部63をシール材8に摺接させている。しかし、覆い壁6の先端部63にシール材8を固定し、シール材8を収納凹部7の内面に摺接させることも可能である。詳しくは、例えば、シール材8は、覆い壁6の先端部63から収納凹部7の内面に向けてシールリップ部が突出し、シールリップ部の先端を収納凹部7の内面に摺接させる。
【0047】
前記第1、第2の実施形態においては、覆い壁6はシリンダヘッドガスケット5の中間メタルプレート52の外縁部に延設されているが、外側メタルプレート51又は内側メタルプレート53の外縁部に延設されていてもよい。また、シリンダヘッドガスケット5が、1枚のメタルプレートから構成されている場合には、この1枚のメタルプレートの外縁部に延設されていてもよい。
【0048】
前記第1、第2の実施形態においては、覆い壁6は、シリンダヘッドガスケット5の外縁部に延設されている。しかし、覆い壁6はシリンダヘッドガスケット5と別体で、シリンダヘッドガスケット5の外縁部に凹凸嵌合、インサート成形などで気密に固定されていてもよい。
【0049】
また、覆い壁6は、シリンダブロック1に取り付けられている。しかし、クランクケース2に取り付けられていてもよく、この場合には収納凹部7はシリンダブロック1に設けられる。
【0050】
また、覆い壁6は、シリンダヘッドガスケット5と同じ金属材料で形成されているが、シリンダヘッドガスケット5と別体で形成することで、シリンダヘッドガスケット5と異なる材料で形成することもできる。例えば、覆い壁6は、PPSなどの合成樹脂などで形成することもできる。
【符号の説明】
【0051】
1:シリンダブロック、2:クランクケース、3:シール構造、4:隙間、5:シリンダヘッドガスケット、6:覆い壁、7:収納凹部、8:シール材、11:シリンダヘッド、51:外側メタルプレート、52:中間メタルプレート、53:内側メタルプレート、61:基端部、62:延伸部、63:先端部、80:内部空間、81:底部、82:枠状部、83:シールリップ部、84:リップ部、85:流動体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックとクランクケースとの相対位置を移動方向に変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに設けられ、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの間の間隙を覆うシール構造において、
前記シリンダブロック及び前記クランクケースのいずれか一方に基端部が取り付けられ、前記基端部から前記移動方向に延びるとともに先端部を自由端とし、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの間の前記間隙を覆う覆い壁と、
前記シリンダブロック及び前記クランクケースの他方に設けられた収納凹部と、前記収納凹部に収納されたシール材と、を備え、
前記覆い壁の前記先端部は、前記収納凹部に前記移動方向に移動可能に挿入されて、前記収納凹部に収納された前記シール材に密接していることを特徴とする可変圧縮比エンジンのシール構造。
【請求項2】
前記シール材は、弾性部材であり、前記収納凹部に固定されて、前記覆い壁の前記先端部に摺接している請求項1記載の可変圧縮比エンジンのシール構造。
【請求項3】
前記シール材は、前記収納凹部の内周面側から内部空間に向けて突出するシールリップ部を有し、前記シールリップ部が前記覆い壁の前記先端部に摺接している請求項2記載の可変圧縮比エンジンのシール構造。
【請求項4】
前記覆い壁は、シリンダヘッドと前記シリンダブロックとで挟持されたシリンダヘッドガスケットの外周縁から延設されており、
前記収納凹部は、前記クランクケースに形成された凹部である請求項1〜3のいずれか1項に記載の可変圧縮比エンジンのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127212(P2012−127212A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277032(P2010−277032)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】