説明

可変圧縮比エンジンのブーツシール構造

【課題】相対変位型VCRエンジンのシリンダブロックとクランクケースとの間を覆うように配設された蛇腹筒状の変形部を有するブーツシールにおいて、ブローバイガスの圧力による変形部の外方又は内方への変形を所定の変形量に規制し得るブーツシール構造を提供する。
【解決手段】ブーツシール構造10は、弾性変形可能な材料からなる蛇腹筒状の変形部21を有すると共に一端(シリンダ取付部22)がシリンダブロック1に固定され他端(クランク取付部23)がクランクケース2に固定される筒状のブーツシール20と、ブーツシール20の外方及び内方に配設され変形部21の外方及び内方への変形を所定の変形量に規制する変形防止板30(外側変形防止板31及び外側変形防止板32)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮比エンジンに配設されるブーツシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の走行状態に応じて混合気の圧縮比を変化させるエンジン(所謂、可変圧縮比エンジン、VCRエンジン)が知られている。VCRエンジンによると、低負荷時に圧縮比を高くすることでトルクを引き出すことができ、高負荷時に圧縮比を低くすることでノッキングを抑制することができる。
【0003】
エンジンの圧縮比を変化させる技術の一種として、燃焼室の容積を変化させる技術が提案されている。燃焼室の容積を変化させる方法として、シリンダブロックとクランクケースとの少なくとも一方を移動させて両者の相対位置を変化させることで燃焼室の容積を変化させる技術がある。以下、この技術に基づくエンジンを相対変位型VCRエンジンと呼ぶ。
【0004】
相対変位型VCRエンジンにおいては、シリンダブロックとクランクケースとの相対位置が変化する。一般には、シリンダブロックが上下方向に移動して、シリンダブロックとクランクケースとの相対位置が変化する。このため、相対変位型VCRエンジンにおいては、シリンダブロックとクランクケースとの間からブローバイガスが流出する可能性がある。このブローバイガスの流出を抑制するシール構造として、発明者らは、特許文献1に記載のブーツシール構造を提案している。
【0005】
図5に示すように、引用文献1に記載のブーツシール90は、シリンダブロック81とクランクケース82との間を覆うシール部材である。ブーツシール90は、シリンダブロック81に取り付けられるシリンダ取付部92と、クランクケース82に取り付けられるクランク取付部93と、弾性変形可能な材料からなり蛇腹筒状をなしシリンダ取付部92とクランク取付部93とに接続されている変形部91とを備える筒状をなしている。
【0006】
シリンダ取付部92は、シリンダヘッド83とシリンダブロック81とで挟持されシリンダヘッド83とシリンダブロック81との間をシールする金属製のシリンダヘッドガスケット92aと、シリンダヘッドガスケット92aの周縁部に形成されていると共に少なくとも一部が変形部91に埋設されている中板部92bとを備えている。
【0007】
ブーツシール90の蛇腹筒状の変形部91は、シリンダブロック81とクランクケース82との相対移動に追従して変形(伸張・収縮)し、ブローバイガスの圧力が作用することによっても外方及び内方に変形(拡径・縮径)する。このため、ブーツシール90によりシリンダブロック81とクランクケース82との間を気密にシールできる。また、このブーツシール90においては、シリンダ取付部92の一部としてシリンダヘッドガスケット92aを用いている。このため、シリンダヘッドガスケット92aをエンジンに取り付ける作業とブーツシール90をシリンダブロック81に取り付ける作業とを同時におこなうことができる。よって、ブーツシール90は取付作業性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願2009−290618
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したブーツシール90の変形部91には、ブローバイガスの圧力が常時±5kPa(ブローバイガスが吹き出す方向の圧力をプラスとする)作用する。そして、設計上は、異常時を考慮して、変形部91の耐圧性として±50kPaを確保している。例えば、特許文献1の実施例においては、ブーツシール90の材料として、安価なポリエステル系熱可塑性エラストマ(TPEE)を用いており、変形部91の厚さを厚くすることにより変形部91の剛性を高めて、変形部91の耐圧性を確保している。
【0010】
変形部91が、シリンダブロック81とクランクケース82との相対移動に追従して繰り返し変形すると、やがて、変形部91の応力が集中し易い部位に疲労によるき裂が発生して、ブーツシール90の交換時期を迎える。
【0011】
一方、ブーツシール90の耐久性を高めて、ブーツシール90の交換回数を減らしたいというニーズも存在している。このようなニーズに対応する方法として、±50kPaの圧力に対して破損しない耐圧性を確保できる範囲で、樹脂製のブーツシール90の変形部91の厚さを薄くする方法が考えられる。変形部91の厚さを薄くすることにより変形部91の剛性が低くなり、変形部91の応力集中が緩和されて、ブーツシール90の繰り返し変形に対する耐久性を向上させることができる。
【0012】
このように変形部91の厚さを薄くすることにより、所定の圧力に対する変形部91の外方及び内方への変形量は大きくなる。例えば、図5に示すように、変形部91は、常時の圧力±5kPaに対して、一点鎖線OsとIsとの間で外方及び内方に変形する。また、異常時の圧力±50kPaに対して、二点鎖線OmaxとImaxとの間で外方及び内方に変形する。
【0013】
変形部91が外方に反転してOmaxまで変形すると、変形部91の異常変形や、変形部91が周辺部材と干渉することによって、変形部91が破裂・破損する可能性がある。また、変形部91がOmaxまで変形した状態でシリンダブロック81が下降した場合には、変形部91がシリンダブロック81とクランクケース82との間に噛み込むことによって、変形部91が破損する可能性がある。
【0014】
また、変形部91が内方に引き込まれてImaxまで変形すると、変形部91がシリンダブロック81と干渉することによって、変形部91が破損する可能性がある。また、変形部91がImaxまで変形した状態でシリンダブロック81が下降した場合には、変形部91がシリンダブロック81とクランクケース82との間に噛み込むことによって、変形部91が破損する可能性がある。
【0015】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、相対変位型VCRエンジンのシリンダブロックとクランクケースとの間を覆うように配設された蛇腹筒状の変形部を有するブーツシールにおいて、ブローバイガスの圧力による変形部の外方又は内方への変形を所定の変形量に規制し得るブーツシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
【0017】
(1)本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造は、シリンダブロックとクランクケースとの相対位置を変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに取り付けられると共に該シリンダブロックと該クランクケースとの間を覆うブーツシール構造であって、前記ブーツシール構造は、弾性変形可能な材料からなる蛇腹筒状の変形部を有すると共に一端が前記シリンダブロックに固定され他端が前記クランクケースに固定される筒状のブーツシールと、該ブーツシールの外方及び/又は内方に配設され該変形部の外方又は内方への変形を所定の変形量に規制する変形防止板と、を備えることを特徴とする。
【0018】
このような構成によると、ブーツシールの外方及び/又は内方に配設された変形防止板によって、ブーツシールの変形部の外方又は内方への変形を所定の変形量に規制することができる。これにより、ブーツシールの変形部の異常変形や、変形部が周辺部材と干渉すること、及び変形部が周辺部材間に噛み込むことによる変形部の破裂・破損を防止することができる。ここで、変形防止板がブーツシールの外方に配設される場合には、衝突物からもブーツシールを保護することができる。
【0019】
また、ブーツシールの変形部の剛性によらず、ブローバイガスの異常時の圧力±50kPaに対して、変形部の変形を所定の変形量に規制することができる。したがって、変形部の厚さを薄くして変形部の剛性を低下させ、これにより、変形部の応力集中を緩和してブーツシールの繰り返し変形に対する耐久性を向上させることができる。
【0020】
以上により、ブーツシールの交換回数が減るため、作業手間及びメンテナンス費用の低減を図ることが可能となる。
【0021】
また、変形部の厚さを薄くすることによりブーツシールの材料を低減することができるため、ブーツシールをより安価に製造することが可能となる。
【0022】
なお、変形防止板は、筒状の変形防止板を筒状のブーツシールの全周に配設することができる。また、複数枚の変形防止板をブーツシールの全周に変形防止板同士の間隔を隔てて配設することもできる。
【0023】
(2)前記(1)で述べた本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、好ましくは、前記変形防止板は、前記シリンダブロック又は該シリンダブロックに固定されている部材に固定される基端部と、該基端部から該シリンダブロックと前記クランクケースとの相対移動方向に延びる延伸部と、を備えることを特徴とする。
【0024】
このような構成によると、変形防止板の基端部がシリンダブロック側に固定されていると共に、変形防止板の延伸部がシリンダブロックとクランクケースとの相対移動方向に延びている。したがって、変形防止板がブーツシールの外方に配設される場合には、変形防止板がブーツシールの目隠しとなり、エンジンの外観の意匠性を向上させることができる。また、変形防止板がブーツシールの傘となるため、ブーツシール外面への水分・油分等の付着を防止できる。また、エンジンルーム内の、特にエキゾーストマニホールド(排気集合管)の熱からブーツシールを保護することができる。
【0025】
(3)前記(2)で述べた本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、好ましくは、前記変形防止板の前記基端部が、シリンダヘッドと前記シリンダブロックとで挟持され該シリンダヘッドと該シリンダブロックとの間をシールする金属製のシリンダヘッドガスケットの外側周縁部に一体に形成されていることを特徴とする。
【0026】
このような構成によると、変形防止板が金属製のシリンダヘッドガスケットの外側周縁部に一体に形成されている。したがって、シリンダヘッドガスケットをエンジンに取り付ける作業と変形防止板を配設する作業とを同時におこなうことができる。よって、組付け工数の増加を抑制しつつ変形防止板を配設することができる。
【0027】
なお、ここでいう金属製とは、主材料が金属であることを指し、例えば、金属製のシリンダヘッドガスケットの表面に樹脂皮膜がコートされているもの等を含む概念である。
【0028】
(4)前記(1)で述べた本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、好ましくは、前記変形防止板は、前記クランクケース又は該クランクケースに固定されている部材に固定される基端部と、該基端部から前記シリンダブロックと該クランクケースとの相対移動方向に延びる延伸部と、を備えることを特徴とする。
【0029】
このような構成によると、変形防止板の基端部がクランクケース側に固定されていると共に、変形防止板の延伸部がシリンダブロックとクランクケースとの相対移動方向に延びている。したがって、変形防止板がブーツシールの外方に配設される場合には、変形防止板がブーツシールの目隠しとなり、エンジンの外観の意匠性を向上させることができる。また、エンジンルーム内の、特にエキゾーストマニホールドの熱からブーツシールを保護することができる。
【0030】
(5)前記(4)で述べた本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、好ましくは、前記ブーツシールの外方に配設された前記変形防止板の前記基端部が、該ブーツシールの他端を前記クランクケースに固定するリテーナに一体に形成されていることを特徴とする。
【0031】
このような構成によると、変形防止板がリテーナに一体に形成されている。したがって、ブーツシールの他端をクランクケースにリテーナで固定する作業と変形防止板を配設する作業とを同時におこなうことができる。よって、組付け工数の増加を抑制しつつ変形防止板を配設することができる。
【0032】
(6)本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、好ましくは、前記ブーツシールの外方に配設された前記変形防止板の少なくとも外面に断熱被膜が形成されていることを特徴とする。
【0033】
前記(2)及び(4)で述べたように、変形防止板がブーツシールの外方に配設される場合には、エンジンルーム内の、特にエキゾーストマニホールドの熱からブーツシールを保護することができる。ここで、変形防止板の少なくとも外面に断熱被膜が形成されていれば、エンジンルーム内の熱からブーツシールを保護する効果がより高くなる。
【0034】
特に、ブーツシールの材料として樹脂を用いている場合には、弾性変形可能な樹脂材料の耐熱性がそれほど大きくないことから、エンジンルーム内の熱からブーツシールを保護することが重要となる。
【0035】
(7)本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、好ましくは、前記ブーツシールの少なくとも前記変形部が、耐熱安全温度130℃以上の耐熱性を有するゴム製であることを特徴とする。
【0036】
このような構成によると、ブーツシールの少なくとも変形部が、耐熱安全温度(物性を損なうことなく連続使用が可能な温度)130℃以上の耐熱性を有するゴム製である。したがって、エキゾーストマニホールドから受ける熱に対して、ブーツシールが十分な耐熱性を有するものとなる。
【0037】
また、ゴム製のブーツシールは、樹脂製のブーツシールよりも、ブーツシールの耐熱性のみならず、繰り返し変形に対する耐久性、エンジンルーム内の各種油に対する耐油性、ブローバイガスの酸及びアルカリに対する耐酸性・耐アルカリ性、及びブーツシールと周辺部材との干渉に対する耐摩耗性が高い。このため、ゴム製のブーツシールを用いることにより、ブーツシールの交換回数がより少なくなるため、作業手間及びメンテナンス費用をより低減することができる。
【0038】
(8)前記(7)で述べた本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、好ましくは、前記ブーツシールの少なくとも変形部が、フッ素ゴム製であることを特徴とする。
【0039】
ブーツシールがエキゾーストマニホールドから受ける熱は160℃程度に達する場合がある。そこで、ブーツシールの少なくとも変形部を耐熱安全温度が200℃であるフッ素ゴム(FKM)により形成すれば、ブーツシールは、確実な耐熱性を有するものとなる。
【0040】
また、フッ素ゴムは、各種ゴム材料の中でも、耐熱性、耐久性、耐油性、及び耐酸性・耐アルカリ性に優れた材料であるため、ブーツシールをフッ素ゴム製とすることにより、ブーツシールの高寿命化が図れる。
【0041】
(9)前記(7)で述べた本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造において、好ましくは、前記ブーツシールは、内面がフッ素ゴム製であり且つ外面がエチレンアクリルゴム製である二層構造よりなることを特徴とする。
【0042】
前記(8)で述べたフッ素ゴムは、各種ゴム材料の中でも、耐熱性、耐久性、耐油性、及び耐酸性・耐アルカリ性に優れた材料であるものの、他のゴム材料に比べて非常に高価な材料である。このため、フッ素ゴム製のブーツシールを安価に製造するためには、変形部の厚さを薄くして材料コストを抑える必要がある。
【0043】
一方、エチレンアクリルゴム(AEM)は、フッ素ゴムよりも、耐熱性、耐久性、耐油性、及び耐酸性・耐アルカリ性が劣るものの、フッ素ゴムよりも安価な材料である。エチレンアクリルゴムの耐熱安全温度は175℃であり、ブーツシールの材料として用いる上では、十分な耐熱性を有している。
【0044】
ブーツシールの内面は、ブーツシールの外面よりも高い耐熱性、耐久性、耐油性、及び耐酸性・耐アルカリ性が要求される。したがって、本発明の構成のように、ブーツシールの内面がフッ素ゴム製であり且つ外面がエチレンアクリルゴム製である二層構造とすることによって、ブーツシールの剛性を確保した上でフッ素ゴム層の厚さを最小限に抑えることができる。これにより、フッ素ゴム製のブーツシールよりも、ブーツシールをより安価に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、相対変位型VCRエンジンのシリンダブロックとクランクケースとの間を覆うように配設された蛇腹筒状の変形部を有するブーツシールにおいて、ブローバイガスの圧力による変形部の外方又は内方への変形を所定の変形量に規制し得るブーツシール構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】第1実施形態におけるブーツシール構造の斜視図である。
【図2】図1におけるA−A線で切断した断面図である。
【図3】第2実施形態におけるブーツシール構造の斜視図である。
【図4】図3におけるA−A線で切断した断面図である。
【図5】従来のブーツシール構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造の実施形態について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0048】
<第1実施形態>
図1に本実施形態におけるブーツシール構造の斜視図、図2に図1におけるA−A線で切断した断面図を示す。以下の説明において、上、下、左、右、前、後とは、図1に示す上、下、左、右、前、後を指す。
【0049】
図1及び2に示すように、本実施形態のブーツシール構造10は、相対変位型VCRエンジンのシリンダブロック1とクランクケース2との間を覆うように配設される。なお、図1は、相対変位型VCRエンジンのシリンダヘッド3を取り外した状況を示している。
【0050】
詳しくは、本実施形態の相対変位型VCRエンジンにおいて、シリンダブロック1の下部が箱形のクランクケース2の内部に上方から挿入されており、シリンダブロック1の外周面とクランクケース2の内周面とが対向している。シリンダブロック1は、図示しない移動機構によって上下方向に移動する。シリンダブロック1に取り付けられているシリンダヘッド3もまたシリンダブロック1と一体に移動する。このため、シリンダブロック1とクランクケース2との相対位置が変化し、燃焼室の容積が変化する。例えば、シリンダブロック1は、図2に示す中立位置から、上方に4.5mm、下方に4mm移動可能となっている。
【0051】
シリンダブロック1の上面1aは、平滑であり、左右方向に長い矩形の平面形状を呈している。シリンダブロック1の内部には、シリンダブロック1を上下方向に貫通する円筒状の内面1bが左右方向に4箇所並んで形成されており、図示しないピストンが内面1bに摺接しつつ上下に摺動する。
【0052】
クランクケース2の上面2aは、平滑であり、左右方向に長い矩形の平面形状を呈している。クランクケース2の上面2aの外側周縁部は、シリンダブロック1の上面1aの外側周縁部から外側に張り出している。この外側に張り出した上面2aに上方に開口した係止溝2bが形成されている。係止溝2bは、シリンダブロック1を取り囲むように矩形リング状に形成されている。この係止溝2bに、後述するブーツシール20のクランク取付部23が係止された後、クランク取付部23がクランクケース2とリテーナ5とにより挟持されて固定される。
【0053】
シリンダヘッド3の下面3aは、平滑であり、シリンダブロック1の上面1aと同一寸法の矩形の平面形状を呈している。シリンダヘッドガスケット4がシリンダブロック1の上面1aとシリンダヘッド3の下面3aとで挟持されて、シリンダブロック1とシリンダヘッド3とが図示しないボルトにより締結されている。
【0054】
シリンダヘッドガスケット4は、金属製であり、シリンダブロック1の上面1aと略同一寸法の矩形板状を呈している。詳しくは、シリンダヘッドガスケット4は、SUS(ステンレス)を材料としてなる厚さ0.2〜0.3mmの外側メタルプレート4a、SUSを材料としてなる厚さ0.6〜0.8mmの中間メタルプレート4b、及びSUSを材料としてなる厚さ0.2〜0.3mmの内側メタルプレート4cをこの順番で積層してかしめにより一体化した積層体である。
【0055】
シリンダヘッドガスケット4には、複数個(エンジンのピストン(図略)に対応する数、ここでは4箇所)のピストン用開口4dと、複数個(エンジンの冷却系統、潤滑系統等のピストン周辺部材(図略)に対応する数、ここでは10箇所)の周辺部材用開口4eとが形成されている。
【0056】
外側メタルプレート4a及び内側メタルプレート4cの、外側周縁部、各ピストン用開口4dの周縁部、及び各周辺部材用開口4eの周縁部には、それぞれ、リング状をなすシール凸部4fがプレス加工により形成されている。外側メタルプレート4aの各シール凸部4fは、下方に突出しており、内側メタルプレート4cの各シール凸部4fは、上方に突出している。シリンダブロック1とシリンダヘッド3とでシリンダヘッドガスケット4を挟持する際に、各シール凸部4fが弾性変形して、外側メタルプレート4a、中間メタルプレート4b、及び内側メタルプレート4cの接触圧が高まる。これにより、シリンダブロック1とシリンダヘッド3との間が確実にシールされる。
【0057】
外側メタルプレート4aの外側周縁部には、後述する外側変形防止板31の基端部31aが一体に形成されている。また、中間メタルプレート4bの外側周縁部には、後述するブーツシール20の中板部22bが一体に形成されている。また、内側メタルプレート4cの外側周縁部には、後述する内側変形防止板32の基端部32aが一体に形成されている。したがって、シリンダヘッドガスケット4の外側周縁部とブーツシール構造10とは明確な境界なく連続している。
【0058】
ブーツシール構造10は、シリンダブロック1とクランクケース2との間を覆うように配設された矩形筒状のブーツシール20と、ブーツシール20の外方及び内方への変形を所定の変形量に規制する変形防止板30とを備えている。
【0059】
ブーツシール20は、弾性変形可能な材料からなる蛇腹筒状の変形部21と、ブーツシール20をシリンダブロック1に固定する部位であるシリンダ取付部22と、ブーツシール20をクランクケース2に固定する部位であるクランク取付部23とを備えている。
【0060】
変形部21は、耐熱安全温度が200℃であるフッ素ゴム(FKM)を材料としてなり、径方向内側に陥没する谷部21aを一つ持つ蛇腹筒状をなしている。変形部21の厚さは2mmである。変形部21の軸方向の一端(上端)にはシリンダ取付部22が一体化されている。また、変形部21の軸方向の他端(下端)にはクランク取付部23が一体化されている。変形部21、シリンダ取付部22の後述する埋設部22a、及びクランク取付部23は、同一材料により一体成形(インサート成形)されている。
【0061】
シリンダ取付部22は、フッ素ゴム製の埋設部22aと、埋設部22aに一部分が埋設される中板部22bとを備えている。中板部22bは、SUSを材料としてなる厚さ0.6〜0.8mmの中間メタルプレート4bの外側周縁部を外方に延長すると共に、この延長部を下方に90°屈曲させた矩形筒状を呈している。中板部22bの下部には、水平方向に貫通した複数個のアンカー孔22cが全周にわたって形成されている。アンカー孔22cの内部に埋設部22aが入り込むように一体成形(インサート成形)されることにより、埋設部22aと中板部22bとが強固に一体化されている。
【0062】
シリンダ取付部22の埋設部22aと、シリンダヘッドガスケット4の中間メタルプレート4bとが一体成形されているため、シリンダヘッドガスケット4をシリンダブロック1に取り付けることによって、シリンダ取付部22がシリンダブロック1に固定される。
【0063】
クランク取付部23は、フッ素ゴムを材料としてなり、矩形リング板状を呈している。クランク取付部23の下面には、下方に突起する矩形リング状の係止部23aが下面の全周にわたって形成されている。係止部23aの内周壁と外周壁とには、突起形状のシールリブ23bが形成されている。
【0064】
クランク取付部23をクランクケース2に固定する際には、クランク取付部23の係止部23aを、クランクケース2の上面2aに形成されている係止溝2bに上方から挿入する。これにより、係止部23aの各シールリブ23bは、係止溝2bの溝壁に圧接する。クランクケース2の上面2aには、矩形リング板状のリテーナ5がボルト締結される。これにより、クランク取付部23は、クランクケース2とリテーナ5とによって挟持され、クランクケース2にシール性高く取り付けられる。
【0065】
変形防止板30は、ブーツシール20の外方に配設される外側変形防止板31と、ブーツシール20の内方に配設される内側変形防止板32とを備えている。
【0066】
外側変形防止板31は、シリンダブロック1側に固定される基端部31aと、基端部31aからシリンダブロック1とクランクケース2との相対移動方向(下方)に延びる延伸部31bとよりなる。詳しくは、基端部31aは、SUSを材料としてなる厚さ0.2〜0.3mmの外側メタルプレート4aの外側周縁部を外方に延長した部位であり、延伸部31bは、基端部31aをさらに延長して下方に90°屈曲させた矩形筒状を呈する部位である。外側変形防止板31の外周面には、シリカの中空体を含有した断熱被膜33が塗装により形成されている。
【0067】
延伸部31bは、ブーツシール20の変形部21の谷部21aよりもやや下方まで延伸されている。なお、延伸部31bは、シリンダブロック1が最も下方に移動したときに、延伸部31bの先端がリテーナ5等の周辺部材と干渉しない位置まで延伸することができる。
【0068】
延伸部31bとブーツシール20との離隔は、ブーツシール20の変形部21に常時の圧力+5kPa(ブローバイガスが吹き出す方向の圧力をプラスとする)が作用している時には、延伸部31bと変形部21とが接触することがなく、変形部21に異常時の圧力+50kPaが作用して変形部21が大きく外方に変形した際に、延伸部31bと変形部21とが接触する離隔を確保している。これにより、変形部21に作用する異常時の圧力に対して、変形部21が外方に反転することを防止して、変形部21の外方への変形を所定の変形量に規制することができる。
【0069】
内側変形防止板32は、シリンダブロック1側に固定される基端部32aと、基端部32aからシリンダブロック1とクランクケース2との相対移動方向(下方)に延びる延伸部32bとよりなる。詳しくは、基端部32aは、SUSを材料としてなる厚さ0.2〜0.3mmの内側メタルプレート4cの外側周縁部を外方に延長した部位であり、延伸部32bは、基端部32aをさらに延長して下方に90°屈曲させた矩形筒状を呈する部位である。
【0070】
延伸部32bは、ブーツシール20の変形部21の谷部21aよりもやや下方まで延伸されている。なお、延伸部32bは、シリンダブロック1が最も下方に移動したときに、延伸部32bの先端がクランクケース2の上面2a等の周辺部材と干渉しない位置まで延伸することができる。
【0071】
延伸部32bとブーツシール20との離隔は、ブーツシール20の変形部21に常時の圧力−5kPa(クランクケース2内の圧力がマイナス(負圧)となっている状態)が作用している時には、延伸部32bと変形部21とが接触することがなく、変形部21に異常時の圧力−50kPaが作用して変形部21が大きく内方に変形した際に、延伸部32bと変形部21とが接触する離隔を確保している。これにより、変形部21に作用する異常時の圧力に対して、変形部21の内方への変形を所定の変形量に規制することができる。
【0072】
このような本実施形態の構成によると、ブーツシール20の外方に配設された外側変形防止板31、及びブーツシール20の内方に配設された内側変形防止板32によって、ブーツシール20の変形部21の外方及び内方への変形を所定の変形量に規制することができる。これにより、ブーツシール20の変形部21の異常変形や、変形部21が周辺部材と干渉すること、及び変形部21が周辺部材間に噛み込むことによる変形部21の破裂・破損を防止することができる。
【0073】
また、ブーツシール20の変形部21の剛性によらず、ブローバイガスの異常時の圧力±50kPaに対して、変形部21の変形を所定の変形量に規制することができる。したがって、変形部21の厚さを薄くして変形部21の剛性を低下させ、これにより、変形部21の応力集中を緩和してブーツシール20の繰り返し変形に対する耐久性を向上させることができる。
【0074】
また、ブーツシール20の変形部21の剛性によらず、変形部21の変形を所定の変形量に規制することができるため、ブーツシール20の材料として、従来用いられてきたポリエステル系熱可塑性エラストマ(TPEE)に換えて、TPEEに対してヤング率が1/10以下であるフッ素ゴム(FKM)を用いることが可能となっている。
【0075】
このように、ブーツシール20の材料として従来の樹脂に換えてゴムを用いることにより、ブーツシール20の耐熱性のみならず、繰り返し変形に対する耐久性、エンジンルーム内の各種油に対する耐油性、ブローバイガスの酸及びアルカリに対する耐酸性・耐アルカリ性、及びブーツシール20と周辺部材との干渉に対する耐摩耗性が向上する。
【0076】
そして、本実施形態においては、ブーツシール20の材料として、各種ゴム材料の中でも、耐熱性、耐久性、耐油性、及び耐酸性・耐アルカリ性に優れるフッ素ゴムを用いているため、本実施形態のブーツシール20は、高寿命である。なお、フッ素ゴムの耐熱安全温度は200℃であるため、本実施形態のブーツシール20は、エキゾーストマニホールド(排気集合管)から受ける160℃程度の熱に対して確実な耐熱性を有している。
【0077】
以上により、ブーツシール20の交換回数が減るため、作業手間及びメンテナンス費用の低減を図ることが可能となる。
【0078】
また、変形部21の厚さを薄くすることによりブーツシール20の材料を低減することができるため、ブーツシール20をより安価に製造することが可能となる。特に、本実施形態においては、ブーツシール20の材料として高価なフッ素ゴムを用いているため、変形部21の厚さを薄くして、ブーツシール20の製造コストを抑えることが重要となっている。
【0079】
本実施形態の構成によると、外側変形防止板31及び内側変形防止板32は、シリンダヘッドガスケット4の外側周縁部に一体に形成されている。したがって、シリンダヘッドガスケット4をエンジンに取り付ける作業と、外側変形防止板31及び内側変形防止板32を配設する作業とを同時におこなうことができる。よって、組付け工数の増加を抑制しつつ外側変形防止板31及び内側変形防止板32を配設することができる。
【0080】
本実施形態の外側変形防止板31は、基端部31aがシリンダブロック1側に固定されていると共に、延伸部31bがシリンダブロック1とクランクケース2との相対移動方向に延びている。したがって、外側変形防止板31がブーツシール20の目隠しとなり、エンジンの外観の意匠性を向上させることができる。また、外側変形防止板31がブーツシール20の傘となるため、ブーツシール20外面への水分・油分等の付着を防止できる。また、衝突物からもブーツシール20を保護することができる。また、エンジンルーム内の、特にエキゾーストマニホールドの熱からブーツシール20を保護することができる。
【0081】
さらに、本実施形態においては、外側変形防止板31の外周面に断熱被膜33が形成されているため、エンジンルーム内の熱からブーツシール20を保護する効果がより高くなっている。
【0082】
<第2実施形態>
図3に本実施形態におけるブーツシール構造の斜視図、図4に図3におけるA−A線で切断した断面図を示す。以下の説明において、上、下、左、右、前、後とは、図3に示す上、下、左、右、前、後を指す。
【0083】
図3及び4に示すように、本実施形態のブーツシール構造50は、第1実施形態のブーツシール構造10と同様に相対変位型VCRエンジンのシリンダブロック41とクランクケース42との間を覆うように配設される。なお、図3は、相対変位型VCRエンジンのシリンダヘッド43を取り外した状況を示している。本実施形態の相対変位型VCRエンジンの基本構造は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0084】
本実施形態と第1実施形態との大きな相違点は、第1実施形態の変形防止板30がシリンダブロック1側に固定されているのに対して、本実施形態の変形防止板70は、クランクケース42側に固定されている点である。本実施形態と第1実施形態とは、シリンダブロック41、シリンダヘッドガスケット44、リテーナ45、及びブーツシール構造50の構造が異なる。クランクケース42及びシリンダヘッド43の構造は、本実施形態と第1実施形態とで同一であるため説明を省略する。
【0085】
シリンダブロック41の上面41aは、左右方向に長い矩形の平面形状を呈している。シリンダブロック41の上面41aは段差形状をなし、上面41aにおける周縁部は、上面41aにおける中央部に比べて段差状に陥没した段部41cとなっている。したがって、シリンダヘッド43とシリンダブロック41との距離は、シリンダブロック41の中央部において狭く、周縁部において広くなっている。シリンダブロック41の内部には、シリンダブロック41を上下方向に貫通する円筒状の内面41bが左右方向に4箇所並んで形成されている。
【0086】
シリンダヘッドガスケット44は、金属製であり、矩形板状を呈している。シリンダヘッドガスケット44の外側周縁部は、シリンダブロック41の段部41cに突出していない。詳しくは、シリンダヘッドガスケット44は、SUS(ステンレス)を材料としてなる厚さ0.2〜0.3mmの外側メタルプレート44a、SUSを材料としてなる厚さ0.2〜0.3mmの中間メタルプレート44b、及びSUSを材料としてなる厚さ0.2〜0.3mmの内側メタルプレート44cをこの順番で積層してかしめにより一体化した積層体である。
【0087】
シリンダヘッドガスケット44には、第1実施形態のシリンダヘッドガスケット4と同様に、複数個のピストン用開口44dと、複数個の周辺部材用開口44eとが形成されている。また、外側メタルプレート44a及び内側メタルプレート44cの、外側周縁部、各ピストン用開口44dの周縁部、及び各周辺部材用開口44eの周縁部には、それぞれ、第1実施形態のシリンダヘッドガスケット4と同様に、リング状をなすシール凸部44fがプレス加工により形成されている。
【0088】
ブーツシール構造50は、シリンダブロック41とクランクケース42との間を覆うように配設された矩形筒状のブーツシール60と、ブーツシール60の外方に配設されブーツシール60の外方への変形を所定の変形量に規制する変形防止板70とを備えている。
【0089】
ブーツシール60は、弾性変形可能な材料からなる蛇腹筒状の変形部61と、ブーツシール60をシリンダブロック41に固定する部位であるシリンダ取付部62と、ブーツシール60をクランクケース42に固定する部位であるクランク取付部63とを備えている。
【0090】
変形部61は、内面61bが厚さ1mmのフッ素ゴム製の薄層であり、且つ外面61cが厚さ1mmのエチレンアクリルゴム(AEM、耐熱安全温度175℃)製の薄層である合計厚さ2mmの二層構造よりなり、径方向内側に陥没する谷部61aを一つ持つ蛇腹筒状をなしている。なお、フッ素ゴム製の薄層は、変形部61の内面61bを含むブーツシール60の内面全体に形成されている。変形部61の軸方向の一端(上端)にはシリンダ取付部62が一体化されている。また、変形部61の軸方向の他端(下端)にはクランク取付部63が一体化されている。変形部61の外面61c、シリンダ取付部62の後述する埋設部62a、及びクランク取付部63は、同一材料(エチレンアクリルゴム)により一体成形(インサート成形)されている。
【0091】
シリンダ取付部62は、エチレンアクリルゴム製の埋設部62aと、埋設部62aに一部分が埋設される中板部62bとを備えている。中板部62bは、厚さ0.6〜0.8mmのSUSを材料としてなり、矩形リング板状を呈している。中板部62bの上面とシリンダヘッドガスケット44の上面とは略面一となっており、中板部62bの外側周縁部は、下方に90°屈曲させた矩形筒状を呈している。中板部62bの内周側には、上下方向に貫通した複数個のアンカー孔62cが全周にわたって形成されている。
【0092】
図4に示すように、アンカー孔62cの内部に埋設部62aの一部分が入り込むように一体成形(インサート成形)されることにより、埋設部62aと中板部62bとが強固に一体化されている。埋設部62aは中板部62bの下面全体を覆っており、中板部62bの内周側の下面には、矩形リング板状のシール部62dが埋設部62aと一体に形成されている。シール部62dの下面には、矩形リング状をなし下方に突出するシールリブ62eが形成されている。
【0093】
シリンダ取付部62のシール部62dをシリンダブロック41の段部41c上に載置した後、中板部62b及びシール部62dをシリンダブロック41の段部41cとシリンダヘッド43の下面43aとで挟持することにより、シリンダ取付部62がシリンダブロック41に固定される。シールリブ62eが段部41cに圧接することによって、シリンダ取付部62は、シリンダブロック41にシール性高く取り付けられる。
【0094】
クランク取付部63は、エチレンアクリルゴムを材料としてなる。クランク取付部63の構造及び、クランク取付部63をクランクケース42に固定する方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0095】
変形防止板70は、リテーナ45の内側周縁部に固定される基端部70aと、基端部70aからシリンダブロック41とクランクケース42との相対移動方向(上方)に延びる延伸部70bとよりなる。変形防止板70は、亜鉛めっき鋼板の一種であるSGCCを材料としてなる厚さ1〜3mmの板部材であり、リテーナ45と一体に形成されている。ブーツシール60のコーナー部は、直線部よりも剛性が高いため変形しにくい。したがって、図3に示すように、変形防止板70を、リテーナ45の全周のうちのコーナー部を除いた直線部のみに配設している。また、このように、複数枚の変形防止板70を互いに間隔を隔てて配設することによって、ブーツシール60と変形防止板70との間にオイル溜まりができるのを防止することができる。
【0096】
延伸部70bは、ブーツシール60の変形部61の谷部61aよりもやや上方まで延伸されている。延伸部70bとブーツシール60との離隔、及びブーツシール60の変形部61の外方への変形を所定の変形量に規制する作用については、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0097】
このような本実施形態における変形防止板70の効果は、第1実施形態における外側変形防止板31の効果とほぼ同様であるため説明を省略する。以下に、本実施形態と第1実施形態とで効果が異なる点についてのみ説明を行う。
【0098】
本実施形態においては、ブーツシール60の材料として、フッ素ゴム(FKM)及びエチレンアクリルゴム(AEM)を用いている。エチレンアクリルゴムは、第1実施形態において使用しているフッ素ゴムよりも、耐熱性、耐久性、耐油性、及び耐酸性・耐アルカリ性が劣るものの、フッ素ゴムよりも安価な材料である。エチレンアクリルゴムの耐熱安全温度は175℃であるため、本実施形態のブーツシール60は、エキゾーストマニホールド(排気集合管)から受ける160℃程度の熱に対して確実な耐熱性を有している。
【0099】
ブーツシール60の内面は、ブーツシール60の外面よりも高い耐熱性、耐久性、耐油性、及び耐酸性・耐アルカリ性が要求される。したがって、本実施形態のように、ブーツシール60の内面(変形部61の内面61b)がフッ素ゴム製であり且つ外面(変形部61の外面61c)がエチレンアクリルゴム製である二層構造とすることによって、ブーツシール60の剛性を確保した上でフッ素ゴム層の厚さを最小限に抑えることができる。これにより、第1実施形態で述べたフッ素ゴム製のブーツシール20よりも、ブーツシール60をより安価に製造することが可能となる。
【0100】
本実施形態の構成によると、変形防止板70は、リテーナ45の内側周縁部に一体に形成されている。したがって、ブーツシール60のクランク取付部63をクランクケース42にリテーナ45で固定する作業と、変形防止板70を配設する作業とを同時におこなうことができる。よって、組付け工数の増加を抑制しつつ変形防止板70を配設することができる。
【0101】
本実施形態の変形防止板70は、ブーツシール60の外方に配設され、基端部70aがクランクケース42側に固定されていると共に、延伸部70bがシリンダブロック41とクランクケース42との相対移動方向に延びている。したがって、変形防止板70がブーツシール60の目隠しとなり、エンジンの外観の意匠性を向上させることができる。また、変形防止板70により、衝突物からもブーツシール60を保護することができる。また、エンジンルーム内の、特にエキゾーストマニホールドの熱からブーツシール60を保護することができる。
【0102】
<その他の実施形態>
本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができることは言うまでもない。
【0103】
例えば、第1実施形態においては、フッ素ゴム製のブーツシール20、第2実施形態においては、内面がフッ素ゴム製であり且つ外面がエチレンアクリルゴム製である二層構造のブーツシール60を用いているが、本発明のブーツシールの材料は、これらの材料に限定されない。例えば、第2実施形態におけるブーツシール60の外面を形成する材料として、アクリルゴム(ACM)及びシリコンゴムを用いることも可能である。また、樹脂製のブーツシールとすることも可能である。
【0104】
また、第1及び第2実施形態においては、ブーツシール20及び60における変形部21及び61は、径方向内側に陥没する谷部21a及び61aを一つ持つ蛇腹筒状をなすが、本発明のブーツシールにおける変形部は、この形状に限定されない。例えば変形部は、径方向外側に隆起する山部を一つ持つ蛇腹筒状であってもよいし、谷部と山部とが交互に連なる蛇腹筒状であってもよい。変形部の長さ及びひだ(山部、谷部)の数や向き等は、シリンダブロック及び/又はクランクケースの形状、配置及び相対移動量や、他部材との位置関係等に応じて適宜設定すればよい。
【0105】
また、第1実施形態においては、外側メタルプレート4aと外側変形防止板31とが、中間メタルプレート4bと中板部22bとが、また、内側メタルプレート4cと内側変形防止板32とが、それぞれ一体に形成されているが、これらの部材を別部材として形成してもよい。また、これらの部材を別部材として形成した後、溶接、ろう付け、接着、かしめ等の公知の方法で固着一体化してもよい。
【0106】
また、第1実施形態における外側変形防止板31をシリンダヘッド3の側壁に直接固定することもできる。第1実施形態における内側変形防止板32をシリンダブロック1の側壁に直接固定することもできる。
【0107】
また、第1実施形態においては、変形防止板30として、外側変形防止板31と内側変形防止板32とを配設しているが、外側変形防止板31及び内側変形防止板32のうちのいずれか一方のみを配設することもできる。
【0108】
また、第2実施形態においては、変形防止板70をブーツシール60の外方のみに配設しているが、変形防止板をブーツシール60の内方に配設することもできる。
【0109】
また、第2実施形態においては、変形防止板70を、リテーナ45の全周のうちのコーナー部を除いた直線部のみに配設しているが、変形防止板を、リテーナ45の全周にわたって配設することもできる。この場合、ブーツシール60と変形防止板との間にオイル溜まりができるのを防止するために、変形防止板を内外に貫通するオイル抜き穴を変形防止板の下部に複数個形成しておくとよい。
【符号の説明】
【0110】
1 … シリンダブロック 2 … クランクケース
3 … シリンダヘッド 4 … シリンダヘッドガスケット
5 … リテーナ 10 … ブーツシール構造
20 … ブーツシール 21 … 変形部
30 … 変形防止板 31 … 外側変形防止板
31a … 基端部 31b … 延伸部
32 … 内側変形防止板 32a … 基端部
32b … 延伸部 33 … 断熱被膜
41 … シリンダブロック 42 … クランクケース
43 … シリンダヘッド 44 … シリンダヘッドガスケット
45 … リテーナ 50 … ブーツシール構造
60 … ブーツシール 61 … 変形部
61b … 内面 61c … 外面
70 … 変形防止板 70a … 基端部
70b … 延伸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックとクランクケースとの相対位置を変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに取り付けられると共に該シリンダブロックと該クランクケースとの間を覆うブーツシール構造であって、
前記ブーツシール構造は、弾性変形可能な材料からなる蛇腹筒状の変形部を有すると共に一端が前記シリンダブロックに固定され他端が前記クランクケースに固定される筒状のブーツシールと、該ブーツシールの外方及び/又は内方に配設され該変形部の外方又は内方への変形を所定の変形量に規制する変形防止板と、を備えることを特徴とする可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項2】
前記変形防止板は、前記シリンダブロック又は該シリンダブロックに固定されている部材に固定される基端部と、該基端部から該シリンダブロックと前記クランクケースとの相対移動方向に延びる延伸部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項3】
前記変形防止板の前記基端部が、シリンダヘッドと前記シリンダブロックとで挟持され該シリンダヘッドと該シリンダブロックとの間をシールする金属製のシリンダヘッドガスケットの外側周縁部に一体に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項4】
前記変形防止板は、前記クランクケース又は該クランクケースに固定されている部材に固定される基端部と、該基端部から前記シリンダブロックと該クランクケースとの相対移動方向に延びる延伸部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項5】
前記ブーツシールの外方に配設された前記変形防止板の前記基端部が、該ブーツシールの他端を前記クランクケースに固定するリテーナに一体に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項6】
前記ブーツシールの外方に配設された前記変形防止板の少なくとも外面に断熱被膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一つに記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項7】
前記ブーツシールの少なくとも前記変形部が、耐熱安全温度130℃以上の耐熱性を有するゴム製であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一つに記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項8】
前記ブーツシールの少なくとも変形部が、フッ素ゴム製であることを特徴とする請求項7に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。
【請求項9】
前記ブーツシールは、内面がフッ素ゴム製であり且つ外面がエチレンアクリルゴム製である二層構造よりなることを特徴とする請求項7に記載の可変圧縮比エンジンのブーツシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122587(P2012−122587A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275722(P2010−275722)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】