説明

可変圧縮比内燃機関

【課題】シリンダブロックの放熱性および冷却性を向上する。
【解決手段】本発明は、シリンダブロック3がクランクケース4の内側にシリンダ軸方向に移動可能に嵌め入れられた可変圧縮比内燃機関1に関する。内燃機関の内部に新気を排出するための新気排出路42をシリンダブロックに指向させて設ける。吸気通路から新気を抽出するための新気抽出路45を設ける。吸気通路以外の箇所から新気を導入する新気導入路46を設ける。新気排出路44と新気抽出路45の連通状態および新気排出路44と新気導入路46の連通状態を調節する弁手段48を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可変圧縮比内燃機関に係り、特に、シリンダブロックとクランクケースとが互いに相対移動可能な可変圧縮比内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の燃費性能や出力性能などを向上させることを目的として、内燃機関の圧縮比を可変にする技術が提案されている。この種の技術としては、シリンダブロックとクランクケースとを相対的に上下方向ないしシリンダ軸方向に近接離反移動可能に連結する圧縮比可変機構を設け、圧縮比可変機構を作動させあるいは制御することで、圧縮比を変更する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−149285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的にかかる可変圧縮比内燃機関においては、シリンダブロックがクランクケースの内側にシリンダ軸方向に移動可能に嵌め入れられている。この場合、シリンダブロックの一部がクランクケースに覆われ、外部に露出せず、その部分において外部への放熱による冷却効果を期待できない。
【0005】
そこで本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリンダブロックの放熱性および冷却性を高めることが可能な可変圧縮比内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
シリンダブロックがクランクケースの内側にシリンダ軸方向に移動可能に嵌め入れられた可変圧縮比内燃機関であって、
前記内燃機関の内部に新気を排出するための新気排出路をシリンダブロックに指向させて設け、吸気通路から新気を抽出するための新気抽出路を設けると共に、前記吸気通路以外の箇所から新気を導入する新気導入路を設け、前記新気排出路と前記新気抽出路の連通状態および前記新気排出路と前記新気導入路の連通状態を調節する弁手段を設けた
ことを特徴とする可変圧縮比内燃機関が提供される。
【0007】
好ましくは、前記内燃機関が車両に搭載され、車両走行時の走行風に対向するよう前記新気導入路の入口が指向されている。
【0008】
好ましくは、前記新気導入路の入口が車両前方に向かって指向されている。
【0009】
好ましくは、前記新気導入路の入口が車両前端部に位置されている。
【0010】
好ましくは、前記内燃機関の負荷および前記シリンダブロックの温度の少なくとも一方が検出され、その検出された少なくとも一方に応じて前記弁手段が制御される。
【0011】
好ましくは、前記負荷および温度の少なくとも一方が所定値以上のとき、前記新気排出路と前記新気抽出路の連通状態が全閉状態となり且つ前記新気排出路と前記新気導入路の連通状態が全開状態となるよう、前記弁手段が制御される。
【0012】
好ましくは、前記内燃機関の内部に新気を排出すべく前記クランクケース内のクランクジャーナル部に指向された別の新気排出路が設けられ、当該別の新気排出路の上流端が、新気流れ方向における前記弁手段の下流側にて前記新気排出路に接続されている。
【0013】
好ましくは、前記別の新気排出路が、前記クランクケースの内部に画成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリンダブロックの放熱性および冷却性を高めることができるという、優れた作用効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】シリンダブロックがクランクケースに対して相対移動する様子を示す断面図である。
【図3】車両に搭載された内燃機関の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る内燃機関の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適実施形態を説明する。
[第1実施形態]
図1には、第1実施形態に係る可変圧縮比多気筒内燃機関の概略構成を示す。内燃機関(エンジン)1は、シリンダ2が形成されたシリンダブロック3を、クランクシャフト20(図3参照)が組み付けられるクランクケース4に対して、シリンダ軸方向に相対移動させることによって圧縮比を変更するものである。クランクケース4およびシリンダブロック3は、圧縮比可変機構21により、上下方向ないしシリンダ軸方向に近接離反移動可能に連結される。なお本実施形態の内燃機関1はガソリンエンジン(火花点火式内燃機関)であるが、本発明はディーゼルエンジン(圧縮着火式内燃機関)にも適用可能である。
【0017】
ここで圧縮比可変機構21の構成について説明する。図示されるように、シリンダブロック3の両側下部に複数の隆起部が形成され、この各隆起部に軸受収納孔5が形成されている。軸受収納孔5は、円形であり、シリンダ2の軸方向に対して直角に、かつ複数のシリンダ2の配列方向に平行になるようにそれぞれ形成されている。シリンダブロック3の片側の軸受収納孔5はすべて同軸上に位置している。またシリンダブロック3の両側の軸受収納孔5の一対の中心軸は互いに平行である。
【0018】
クランクケース4には、上述した軸受収納孔5が形成された複数の隆起部の間に位置するように、複数の立壁部が形成されている。各立壁部のクランクケース4外側に向けられた表面には、半円形の凹部が形成されている。また各立壁部には、ボルト6によって取り付けられるキャップ7が用意されており、キャップ7も半円形の凹部を有している。各立壁部にキャップ7を取り付けると、円形のカム収納孔8が形成される。カム収納孔8の形状は、上述した軸受収納孔5と同一である。
【0019】
複数のカム収納孔8は、軸受収納孔5と同様、シリンダブロック3をクランクケース4に取り付けたときにシリンダ2の軸方向に対して直角に、且つ、複数のシリンダ2の配列方向に平行になるようにそれぞれ形成されている。これら複数のカム収納孔8も、シリンダブロック3の両側に配置されることとなり、片側の複数のカム収納孔8はすべて同軸上に位置している。シリンダブロック3の両側に配置されたカム収納孔8の一対の中心軸は互いに平行である。また、両側における各軸受収納孔5の間の距離と、両側における各カム収納孔8との間の距離は同一である。
【0020】
交互に配置される両側二列の軸受収納孔5とカム収納孔8には、それぞれカム軸9が挿通される。これによりシリンダブロック3とクランクケース4は互いに連結される。カム軸9は、軸部9aと、軸部9aの中心軸に対して偏心された状態で軸部9aに固定され、正円形のカムプロフィールを有するカム部9bと、カム部9bと同一外形を有し軸部9aに対して回転可能に取り付けられる可動軸受部9cとを有する。カム部9bと可動軸受部9cとは交互に配置される。一対のカム軸9は鏡像の関係を有している。また、カム軸9の端部には、ギア10を取り付けるための取り付け部9dが形成されている。軸部9aの中心と取り付け部9dの中心とは偏心しており、カム部9bの中心と取り付け部9dの中心とは互いに一致している。
【0021】
可動軸受部9cも、軸部9aに対して偏心されており、その偏心量はカム部9bと同一である。また、各カム軸9において、複数のカム部9bの偏心方向は同一である。また、可動軸受部9cの外形は、カム部9bと同一直径の正円である。可動軸受部9cを軸部9aに対し回転させることで、カム部9bの外周面と可動軸受部9cの外周面とを互いに一致させることができる。
【0022】
各カム軸9の取り付け部9dにはギア10が取り付けられる。一対のカム軸9の端部に固定された一対のギア10には、それぞれウォームギア11a、11bが噛合される。ウォームギア11a、11bは単一のモータ12の一本の出力軸に取り付けられている。ウォームギア11a、11bは、互いに逆方向に回転する螺旋溝を有している。このため、モータ12を一方向に回転させると、一対のカム軸9、9は、ウォームギア11a、11bおよびギア10、10を介して互いに逆方向に回転する。モータ12はシリンダブロック3に固定されている。
【0023】
次に、圧縮比可変機構21の作動を説明する。図2(a)〜(c)に、シリンダブロック3と、クランクケース4と、これらの間に配設されたカム軸9との関係を示した断面図を示す。軸部9aの中心軸をa、カム部9bの中心をb、可動軸受部9cの中心をcとして示す。図2(a)は、軸部9aの延長線上から見て全てのカム部9b及び可動軸受部9cの外周面が一致した状態を示す。このとき、一対の軸部9aは、軸受収納孔5及びカム収納孔8の中で外側に位置している。
【0024】
図2(a)の状態から、モータ12を駆動して軸部9aを矢印方向に回転させると、図2(b)の状態になる。このとき、軸部9aに対して、カム部9bと可動軸受部9cの偏心方向にずれが生じるので、クランクケース4に対してシリンダブロック3を相対的に上方ないし上死点側にスライドさせ、離反方向に移動させることができる。そしてそのスライド量は、図2(c)のような状態となるまでカム軸9を回転させたときが最大となり、カム部9bや可動軸受部9cの偏心量の2倍となる。カム部9b及び可動軸受部9cは、それぞれカム収納孔8及び軸受収納孔5の内部で回転し、それぞれカム収納孔8及び軸受収納孔5の内部で軸部9aの位置が移動するのを許容している。
【0025】
図示しないが、図2(c)の状態からモータ12を駆動して軸部9aを矢印方向と逆の方向に回転させると、図2(b)または図2(a)の状態へと、クランクケース4に対してシリンダブロック3を相対的に下方ないし下死点側にスライドさせ、近接方向に移動させることができる。
【0026】
この機構を用いることによって、シリンダブロック3をクランクケース4に対してシリンダ軸方向に相対移動させることが可能となり、圧縮比を変更することができる。
【0027】
次に、図3を用いて、車両(図示せず)に搭載された上述の内燃機関1を説明する。図3において、矢印Fで示す方向が車両の前方である。図示しないが、本実施形態においては、内燃機関1のクランクケース4がエンジンマウントを介して車両に固定されている。よって固定されたクランクケース4に対しシリンダブロック3が昇降することとなる。但しマウント方法を逆にし、シリンダブロック3を車両に固定してもよい。図示例はフロントエンジン車の例であり、内燃機関1は車両前側のエンジンルーム内に格納されている。
【0028】
内燃機関1は、シリンダ2内に昇降可能に配置されたピストン24と、シリンダブロック2の上部に取り付けられたシリンダヘッド25と、シリンダヘッド25の上部に取り付けられてこれを上方から覆うヘッドカバー26と、クランクケース4の底部に取り付けられてこれを下方から覆うオイルパン27とを備える。ピストン24はコンロッド19を介してクランクシャフト20に連結される。
【0029】
ヘッドカバー26およびシリンダヘッド25の内部には動弁室28が画成される。動弁室28には、吸気ポートPi及び排気ポートPeをそれぞれ開閉する吸気弁Vi及び排気弁Veと、吸気弁Vi及び排気弁Veをそれぞれ閉弁方向に付勢するバルブスプリング(図示せず)と、吸気弁Vi及び排気弁Veをそれぞれ開弁方向に駆動する吸気カムシャフトCi及び排気カムシャフトCeとが設けられる。動弁室28には図示しないオイル供給口から動弁系潤滑のためのオイルが供給されている。シリンダヘッド25には燃料を噴射するためのインジェクタ29と、混合気を点火するための点火プラグ30とが取り付けられている。
【0030】
ピストン24の上方には燃焼室31が画成され、ピストン24の下方にはクランク室32が画成される。クランク室32にはクランクシャフト20が設けられると共に、その底部にはオイル(図示せず)が貯留される。
【0031】
吸気ポートPiには気筒毎の吸気マニホールド33を介してサージタンク34が接続され、サージタンク34から各気筒の吸気ポートPiに吸気マニホールド33を介して吸気を分配するようになっている。サージタンク34の上流側には吸気管35が接続され、吸気管35には電子制御式スロットルバルブ36とエアフィルタ37が設けられている。これら吸気ポートPi、吸気マニホールド33、サージタンク34および吸気管35により吸気通路が画成される。
【0032】
各気筒の排気ポートPeには排気マニホールド38を介して排気管(図示せず)が接続され、これら排気ポートPe、排気マニホールド38および排気管により排気通路が画成される。
【0033】
内燃機関1には、燃焼室31からピストン24とシリンダ2の隙間を通過してクランク室32に漏れ出たブローバイガスを処理するための装置が装備されている。すなわち、クランク室32内に漏れ出たブローバイガスは、シリンダブロック2およびクランクケース4に設けられたオイル落とし穴(図示せず)等を上昇して動弁室28に至る。そしてこのブローバイガスを吸気通路に環流させるため、動弁室28がサージタンク34にブローバイガス通路38を介して連通接続されている。ブローバイガス通路38の入口部には、吸気負圧ないし負荷に応じて開度が調節されるPCV(Positive Crankcase Ventilation)バルブ39が設けられ、このPCVバルブ39はヘッドカバー26に取り付けられている。
【0034】
他方、内燃機関1の内部に、換気用の新気ないし外気を導入するための装置も装備されている。これについては後に詳述する。
【0035】
図示されるように、シリンダブロック3の下部側は、クランクケース4の上部側の内側にシリンダ軸方向に移動可能に嵌め入れられている。特に、当該嵌合部分において、シリンダブロック3の下部側が上部側に対し側方かつ外側に突出され、その突出部分においてシリンダブロック3がクランクケース4に対し摺動可能となっている。当該嵌合部分において、シリンダブロック3はクランクケース4により外側から覆われ、この部分で特にシリンダブロック3の放熱性および冷却性が低下している。この放熱性および冷却性の低下を抑制するのが本発明の目的の一つである。シリンダブロック3の内部にはシリンダ2を取り囲むようウォータジャケットWが画成されている。
【0036】
シリンダブロック2とクランクケース4の嵌合部ないし摺動部をシールするため、シール部材40が設けられている。シール部材40は、その全体がシリンダブロック2の外周側面の周りを1周するような環状に形成されると共に、その断面が図示の如き蛇腹状に形成された弾性体からなる。シール部材40の上端縁部はシリンダブロック2とシリンダヘッド25との間に挟まれて固定され、シール部材40の下端縁部はクランクケース4に固定されている。
【0037】
シリンダブロック3が下降してクランクケース4に近づいたとき(圧縮比が高くなったとき)、シール部材40は収縮する。シリンダブロック2が上昇してクランクケース4から遠ざかったとき(圧縮比が低くなったとき)、シール部材40は伸長する。こうして、シリンダブロック2とクランクケース3との相対位置が変化してもシール部材40の伸縮により嵌合部ないし摺動部の気密性を保つことができる。
【0038】
図示するように、シリンダブロック3、クランクケース4およびシール部材40により囲まれた空間41が形成される。この空間41は、シリンダブロック3およびシール部材40により挟まれた上部側空間41Aと、シリンダブロック3およびクランクケース4により挟まれた下部側空間41Bとからなる。
【0039】
シール部材40によってもシリンダブロック3が外側から覆われるので、シリンダブロック3の放熱性および冷却性が低下している。そこで放熱性および冷却性を高めるため、本実施形態では次の構成を採用する。
【0040】
すなわち、内燃機関1の内部に新気を排出するための新気排出路42が、シリンダブロック3に指向させて設けられている。本実施形態において新気排出路42は、下部側空間41Bを画成するクランクケース4の部分に貫通形成された排出口43と、排出口43に連通接続され外部に延びる排出通路44とを含む。すなわち新気排出路42は下部側空間41Bに連通される。新気排出路42ないし排出口43の出口は、同じく下部側空間41Bを画成するシリンダブロック3の部分に向けられ、矢印F3で示すように、排出口43から排出された新気を当該部分に当てるようになっている。
【0041】
排出口43は、貫通穴から形成してもよいし、クランクケース4に埋め込んだパイプから形成してもよい。新気排出路42の出口をシリンダブロック3の摺動部に向け、当該摺動部に新気を当てるようにしてもよい。新気を当てる位置は任意である。シール部材40を貫通して新気排出路42を設けてもよい。
【0042】
新気排出路42から排出された新気は、シリンダブロック3およびクランクケース4の間の図示しない隙間、もしくはシリンダブロック3およびクランクケース4の少なくとも一方に形成された新気通路を通って、クランク室32に送られる。これにより新気が内燃機関1の内部あるいはクランク室32に送られ、換気が実現される。
【0043】
一方、吸気通路から新気を抽出するための新気抽出路45が設けられる。新気抽出路45の入口ないし上流端はスロットルバルブ36より上流側の吸気管35に接続されており、この位置において新気抽出路45は吸気通路から新気を抽出する。
【0044】
さらに、吸気通路以外の箇所から新気を導入する新気導入路46が設けられる。新気導入路46の上流端はエンジンルーム内で開放された自由端となっている。
【0045】
特に、好ましい態様として、新気導入路46の入口46Aは、車両走行時の走行風に対向するよう位置され且つ指向されている。具体的には、当該入口46Aは、車両前方Fに向かって指向され、車両に対し後ろ向きに流れてくる走行風に向かい合い、走行風を直接的に且つ効率良く回収するようになっている。
【0046】
また当該入口46Aは、車両前端部に位置され、特に車両前端部に配置されたラジエータRに対し、車両前方側から見てオフセットして位置されている。当該入口46Aは、好ましくはラジエータRよりも上方、より好ましくはラジエータRよりも上方かつ前方に位置されている。これにより、ラジエータから後方に排出された熱気が入口46Aに導入されることがなくなり、十分に低温の新気のみを導入できる。
【0047】
図示例において、入口46Aは、走行風を効率的に回収するよう拡径されている。また新気導入路46の途中には、導入した新気ないし走行風を濾過するための新気フィルタ47が設けられる。
【0048】
また、新気排出路42と新気抽出路45の連通状態、および新気排出路42と新気導入路46の連通状態を調節する弁手段が設けられる。当該弁手段は、具体的には図示されるような単一の切替弁48からなる。切替弁48には、排出通路44の上流端と、新気抽出路45の下流端と、新気導入路46の下流端とが接続される。切替弁48は電磁三方弁からなり、新気抽出路45と新気導入路46の一方を新気排出路42に択一的に接続する。もっとも、このような択一的な切替だけでなく、中間的な切替動作を行って、新気抽出路45および新気導入路46から新気排出路42にそれぞれ送られる新気量の割合を変更するようにしてもよい。
【0049】
本実施形態では新気抽出路45と新気導入路46の切り替えを単一の切替弁48で行うが、これに限らず、弁手段は複数の弁で構成してもよい。例えば新気抽出路45と新気導入路46に個別に弁を設けてもよい。また通路構成も様々な変形が可能である。
【0050】
内燃機関1には、インジェクタ29、点火プラグ30、スロットルバルブ36、圧縮比可変機構21のモータ12、切替弁48などの各種機器を電気的に制御するため、制御手段としての電子制御ユニット(ECU)100が併設されている。ECU100は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAMなどから構成されるユニットである。
【0051】
ECU100には、クランクポジションセンサ51、アクセルポジションセンサ52、エアフローメータ53、水温センサ54などの各種センサの電気信号が入力される。クランクポジションセンサ51はクランクシャフト20の回転位置に相関したパルス信号を出力する。アクセルポジションセンサ52は、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)に相関した信号を出力する。エアフローメータ53は、単位時間当たりの吸入空気量に相関した信号を出力する。水温センサ54は、内燃機関1の冷却水の温度に相関した信号を出力する。
【0052】
ECU100は、上記した各種センサの電気信号に従って内燃機関1の運転状態(機関運転状態)を検出し、その検出結果に従って上記した各種機器を制御する。たとえば、ECU100は、クランクポジションセンサ51の出力信号から検出される内燃機関の回転数(機関回転数)と、アクセルポジションセンサ52の出力信号から検出される内燃機関の負荷(機関負荷)とに基づいて、圧縮比可変機構21を制御する。
【0053】
その際、機関回転数および機関負荷が予め定められた低回転・低負荷運転領域にあるときには、ECU100は、内燃機関1の圧縮比が高くなるよう、言い換えればシリンダブロック3がクランクケース4に近づくよう、圧縮比可変機構21を制御する。
【0054】
また、機関回転数および機関負荷が上記低回転・低負荷運転領域から外れたときには、ECU100は、内燃機関1の圧縮比が低くなるよう、言い換えればシリンダブロック3がクランクケース4から遠ざかるよう、圧縮比可変機構21を制御する。
【0055】
圧縮比は、上述の如く2段階に切り換えられてもよいが、機関回転数および機関負荷に応じて無段階に切り換えられてもよい。
【0056】
このように内燃機関1の圧縮比が変更されると、低回転・低負荷運転領域における燃焼効率の向上と、当該領域外の高回転または高負荷運転領域におけるノッキングの抑制とを両立することができる。
【0057】
ところで、ECU100は、検出された機関負荷に応じて切替弁48を制御する。具体的にはECU100は、検出された機関負荷が低負荷相当の所定値未満であるときには、新気抽出路45のみを新気排出路42に接続し、新気導入路46が新気排出路42に対し未接続となるよう、切替弁48を第1の位置に切り替える。すなわち、新気排出路42と新気抽出路45の連通状態が全開状態となり且つ新気排出路42と新気導入路46の連通状態が全閉状態となるよう、切替弁48を制御する。なお、ここでいう機関負荷の所定値は、高圧縮比と低圧縮比とを切り替える前記低回転・低負荷運転領域の境界を規定する負荷に等しくしてもよいし、異ならせてもよい。等しくした場合、高圧縮比および低圧縮比の切り替えと、通路の切り替えとが同時に起こる。
【0058】
これにより、吸気通路から新気抽出路45に抽出された新気のみが、図3に矢印F1で示すように、切替弁48、新気排出路42を順に経てシリンダブロック3に当てられる。
【0059】
他方、ECU100は、検出された機関負荷が高負荷相当の所定値以上であるときには、新気導入路46のみを新気排出路42に接続し、新気抽出路45が新気排出路42に対し未接続となるよう、切替弁48を第2の位置に切り替える。すなわち、新気排出路42と新気抽出路45の連通状態が全閉状態となり且つ新気排出路42と新気導入路46の連通状態が全開状態となるよう、切替弁48を制御する。
【0060】
これにより、新気導入路46に導入された新気のみが、図3に矢印F2で示すように、切替弁48、新気排出路42を順に経てシリンダブロック3に当てられる。
【0061】
このように本実施形態によれば、換気用の新気をシリンダブロック3に常時当てることができるので、シリンダブロック3の放熱性および冷却性を高めることができる。また新気導入路46により吸気通路以外の箇所から新気を導入し、これをシリンダブロック3に当てられるようにしたため、吸気通路内から抽出した新気に比べ、より低温の新気をシリンダブロック3に当てることができ、放熱性および冷却性をより高めることができる。
【0062】
また切替弁48により、シリンダブロック3に当てる新気を、新気抽出路45により抽出した相対的に高温な新気と、新気導入路46により導入した相対的に低温な新気との間で切り替えるようにした。そのため、シリンダブロック3の放熱を促進したくないような場合、すなわち上述した低負荷運転時や機関暖機時には、通常の内燃機関同様、新気抽出路45により抽出した相対的に高温な新気をシリンダブロック3に当て、シリンダブロック3の保温性を確保し、暖機性を確保できる。
【0063】
他方、シリンダブロック3の放熱を促進したいような場合、すなわちシリンダブロック温度が高くなる上述した高負荷運転時には、新気導入路46により導入した相対的に低温の新気をシリンダブロック3に当て、シリンダブロック3の放熱性および冷却性を向上できる。この際、新気導入路46の入口46Aが上述のように位置され指向されていることから、低温の走行風ないしフレッシュエアをスムーズ且つ効率よく導入し、シリンダブロック3に当てることができる。特に高負荷運転時にはクランク室32の内圧が高くなる傾向にあるが、このときにも走行風の勢いないし慣性を利用して、新気を比較的大量に機関内部に導入できる。このため、シリンダブロック3の放熱性および冷却性の向上に非常に有利である。
【0064】
このように、機関運転状態に応じた最適な新気をシリンダブロック3に当て、且つ機関内部に導入することができる。
【0065】
上記においては切替弁48を択一的に切り替え、低負荷時と高負荷時とで新気抽出路45と新気導入路46を択一的に切り替えるようにした。しかしながら、切替弁48を中間開度に制御し、新気抽出路45からの新気と新気導入路46からの新気との混合割合を機関負荷に応じて連続的に可変とすることも可能である。例えば、機関負荷が高くなるほど後者の新気割合を前者の新気割合に対して増加させるような制御も好ましい。
【0066】
新気導入路46の入口46Aは、必ずしも車両前方に向かって指向する必要はない。例えば車両のフロア下からエンジンルーム内に巻き上げて走行風が流入するような場合には、その走行風に対向するよう、新気導入路46の入口46Aを下向きにすることが可能である。いずれにしても新気導入路46の入口46Aは、走行風の流れ方向と入口46Aの軸線方向とが一致するよう、また走行風が直接導入されるよう、走行風に対向させて指向させるのが好ましい。
【0067】
また、新気導入路46の入口46Aは、必ずしも車両前端部に位置させる必要はない。例えばリアエンジン車やミッドシップエンジン車の場合、内燃機関1に近い車両の中央部または後端部に新気導入路46の入口46Aを位置させることが可能である。新気導入路46の入口46Aから新気排出路42の出口(排出口43)までの距離ができるだけ近い方が、より低温の新気を機関内部に導入できるからである。
【0068】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。なお第1実施形態と同様の部分については説明を省略し、以下相違点を中心に述べる。
【0069】
図4に示すように、本実施形態においては、シリンダブロック3の温度を直接的に検出する温度センサ55が設けられている。温度センサ55は、シリンダブロック3の温度に相関した信号をECU100に出力する。なお、水温センサ54によりシリンダブロック3の温度を間接的に検出することも可能である。
【0070】
本実施形態では、機関負荷の代わりに、温度センサ55により検出されたシリンダブロック温度に応じて切替弁48が制御される。すなわちECU100は、検出されたシリンダブロック温度が相対的に低温な所定値未満であるときには、新気抽出路45のみを新気排出路42に接続し、新気導入路46が新気排出路42に対し未接続となるよう、切替弁48を第1の位置に切り替える。すなわち、新気排出路42と新気抽出路45の連通状態が全開状態となり且つ新気排出路42と新気導入路46の連通状態が全閉状態となるよう、切替弁48を制御する。
【0071】
これにより、吸気通路から新気抽出路45に抽出された新気のみが、図4に矢印F1で示すように、切替弁48、新気排出路42を順に経てシリンダブロック3に当てられる。
【0072】
他方、ECU100は、検出されたシリンダブロック温度が相対的に高温な所定値以上であるときには、新気導入路46のみを新気排出路42に接続し、新気抽出路45が新気排出路42に対し未接続となるよう、切替弁48を第2の位置に切り替える。すなわち、新気排出路42と新気抽出路45の連通状態が全閉状態となり且つ新気排出路42と新気導入路46の連通状態が全開状態となるよう、切替弁48を制御する。
【0073】
これにより、新気導入路46に導入された新気のみが、図4に矢印F2で示すように、切替弁48、新気排出路42を順に経てシリンダブロック3に当てられる。
【0074】
本実施形態によれば、低負荷運転時でありながらシリンダブロック温度が高温となっているような場合、例えば登坂走行後の定常走行時などにおいて、新気導入路46からの低温な新気をシリンダブロック3に当てることができ、シリンダブロック3の放熱性および冷却性を向上することができる。そしてシリンダブロック温度を即座に下げることができる。なお第1実施形態だと、かかる場合には新気抽出路45が新気排出路42に接続され、第1実施形態に比べ相対的に不利である。
【0075】
代替的に、検出された機関負荷とシリンダブロック温度の両方に応じて切替弁48を制御することも可能である。この場合たとえばECU100は、検出された機関負荷とシリンダブロック温度の両方が、それぞれに対応する所定のしきい値未満であるときには、新気抽出路45のみを新気排出路42に接続し、新気導入路46が新気排出路42に対し未接続となるよう、切替弁48を第1の位置に切り替える。これにより吸気通路から抽出された新気のみがシリンダブロック3に当てられる。
【0076】
他方、ECU100は、検出された機関負荷とシリンダブロック温度の少なくとも一方が、それぞれに対応する所定のしきい値以上であるときには、新気導入路46のみを新気排出路42に接続し、新気抽出路45が新気排出路42に対し未接続となるよう、切替弁48を第2の位置に切り替える。これにより新気導入路46に導入された新気のみがシリンダブロック3に当てられる。
【0077】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。なお第1および第2実施形態と同様の部分については説明を省略し、以下相違点を中心に述べる。
【0078】
この第3実施形態においては、第1実施形態に以下の特徴が付加されている。すなわち、図5に示すように、内燃機関1の内部に新気を排出すべくクランクケース4内のクランクジャーナル部20Aに指向された別の新気排出路が設けられる。そしてこの別の新気排出路の上流端が、新気流れ方向における切替弁48の下流側にて、新気排出路42に接続されている。
【0079】
別の新気排出路は本実施形態の場合、クランクケース4の内部に画成された分岐通路56からなる。分岐通路56の上流端は排出口43に接続され、排出口43から分岐通路56が分岐されている。分岐通路56は排出口43から下方に延び、クランクシャフト20に近接した位置において、その下流端ないし出口がクランク室32内のクランクジャーナル部20Aに向けて開放されている。ここでクランクジャーナル部20Aとは、クランクシャフト20のうち、図示しない軸受により回転可能に支持されている部分をいう。
【0080】
本実施形態によると、排出口43に流入してきた新気を矢印F4で示すように分岐通路56に分岐させ、矢印F5で示すようにクランクジャーナル部20Aに向けて排出することができる。これにより、クランクジャーナル部20Aの放熱性も向上し、クランクジャーナル部20Aの焼き付き等を未然に回避できる。
【0081】
特に、本実施形態のような可変圧縮比内燃機関の場合、シリンダブロック3とクランクケース4が分離されているので、通常の内燃機関に比べ、シリンダブロック3内の冷却水によるクランクケース4およびその取付部品の放熱および冷却(すなわち冷却水への熱引け)が期待できない。よってクランクジャーナル部20Aの温度が上昇し焼き付きが発生しやすくなる。本実施形態はかかる問題に対処し得るものである。特に、高負荷運転時においては、クランクジャーナル部20Aの面圧が高くなり温度上昇しやすくなるが、かかる場合においても新気導入路46から導入した比較的低温の新気でクランクジャーナル部20Aを冷却できるため、クランクジャーナル部20Aの温度上昇を確実に抑制できる。
【0082】
さらに、分岐通路56をクランクケース4の内部に画成したため、分岐通路56を流れる新気でクランクケース4を直接的に、またその取付部品を間接的に、冷却することができ、この点もクランクジャーナル部20Aの温度上昇抑制に有利である。
【0083】
なお、第2実施形態に本実施形態の特徴を加入してもよい。また、別の新気排出路は、本実施形態のようなクランクケース4内部に画成された分岐通路56に限らず、例えば排出通路44の途中から分岐された配管で形成してもよい。
【0084】
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。
【0085】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。上述の各実施形態および各構成要素は可能な限りにおいて組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 内燃機関
2 シリンダ
3 シリンダブロック
4 クランクケース
9 カム軸
10 ギア
11a、11b ウォームギア
12 モータ
20 クランクシャフト
20A クランクジャーナル部
21 圧縮比可変機構
42 新気排出路
45 新気抽出路
46 新気導入路
46A 入口
48 切替弁
51 クランクポジションセンサ
52 アクセルポジションセンサ
56 分岐通路
100 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックがクランクケースの内側にシリンダ軸方向に移動可能に嵌め入れられた可変圧縮比内燃機関であって、
前記内燃機関の内部に新気を排出するための新気排出路をシリンダブロックに指向させて設け、吸気通路から新気を抽出するための新気抽出路を設けると共に、前記吸気通路以外の箇所から新気を導入する新気導入路を設け、前記新気排出路と前記新気抽出路の連通状態および前記新気排出路と前記新気導入路の連通状態を調節する弁手段を設けた
ことを特徴とする可変圧縮比内燃機関。
【請求項2】
前記内燃機関が車両に搭載され、車両走行時の走行風に対向するよう前記新気導入路の入口が指向されている
ことを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項3】
前記新気導入路の入口が車両前方に向かって指向されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項4】
前記新気導入路の入口が車両前端部に位置されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項5】
前記内燃機関の負荷および前記シリンダブロックの温度の少なくとも一方が検出され、その検出された少なくとも一方に応じて前記弁手段が制御される
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項6】
前記負荷および温度の少なくとも一方が所定値以上のとき、前記新気排出路と前記新気抽出路の連通状態が全閉状態となり且つ前記新気排出路と前記新気導入路の連通状態が全開状態となるよう、前記弁手段が制御される
ことを特徴とする請求項5に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項7】
前記内燃機関の内部に新気を排出すべく前記クランクケース内のクランクジャーナル部に指向された別の新気排出路が設けられ、当該別の新気排出路の上流端が、新気流れ方向における前記弁手段の下流側にて前記新気排出路に接続されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項8】
前記別の新気排出路が、前記クランクケースの内部に画成されている
ことを特徴とする請求項7に記載の可変圧縮比内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−87627(P2013−87627A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225760(P2011−225760)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】