説明

可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置

【課題】内燃機関の運転効率と変速機の動力伝達効率とを考慮して、内燃機関の燃費を向上できる可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置を提供すること。
【解決手段】固定段変速比と中間段変速比とを設定可能な可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置において、目標変速比を算出する目標変速比算出手段(ステップS13)と、目標変速比に最も近い固定段変速比を算出する固定段変速比算出手段(ステップS18-6)と、目標変速比に最も近い中間段変速比を算出する中間段変速比算出手段(ステップS18-1)と、各変速比における内燃機関の目標変速比燃費、固定段変速比燃費、中間段変速比燃費をそれぞれ算出する燃費算出手段(ステップS17,S18-5,S18-10)と、各燃費の中で最も燃料消費率がよくなる最適変速比を設定して、目標変速比を補正する目標変速比補正手段(ステップS18)とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可変容量型の流体圧ポンプが圧力流体を吐出することに伴う反力を利用して動力源から出力部材に動力を伝達する一方、その圧力流体が可変容量型の流体圧モータを駆動することによりそのモータが出力した動力を出力部材に伝達するように構成された変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の変速機が特許文献1に記載されている。その構成を簡単に説明すると、一対の差動機構が設けられ、それぞれの差動機構における入力要素に内燃機関などの動力源が出力した動力が入力され、またそれぞれの反力要素に可変容量型の流体圧ポンプモータが連結されている。さらに、各差動機構における出力要素と出力部材との間には、変速ギヤ対が設けられ、シンクロメッシュ機構などの連結機構によってその変速ギヤをトルク伝達可能な状態に選択的に切り替えるように構成されている。さらに、各流体圧ポンプモータの吐出口同士および吸入口同士が油路によって連通され、全体として閉回路を構成している。
【0003】
したがって、各差動機構における出力要素をいずれかの変速ギヤ対を介して出力部材に連結し、かつ各流体圧ポンプモータの押出容積を所定の容積に設定すると、一方の流体圧ポンプモータがポンプとして機能して圧力流体を吐出する。それに伴う反力が、その一方の流体圧ポンプモータが連結されている差動機構の反力要素に作用し、その入力要素に入力されている動力源からのトルクと合成されて出力要素からトルクが出力される。さらにそのトルクは変速ギヤ対のギヤ比に応じて増減されて出力部材に伝達される。これに対して、他方の流体圧ポンプモータは、前記の圧力流体が供給されてモータとして機能し、その出力トルクが、この他方の流体圧ポンプモータが連結されている差動機構の反力要素に入力され、ここで動力源から入力されたトルクと合成された後、所定の変速ギヤ対を介して出力部材に伝達される。あるいはモータとして機能する流体圧ポンプモータから出力されたトルクは、所定の変速ギヤ対を介して出力部材に伝達される。
【0004】
このように、動力源が出力した動力は、いずれかの差動機構および変速ギヤ対を介して出力部材に伝達される一方、圧力流体の流動に変換された後、他方の差動機構あるいはギヤ対を介して出力部材に伝達され、しかもその圧力流体を介した動力の伝達は、流体圧ポンプモータの押出容積に応じて変化するので、変速比を連続的に、すなわち無段階に変化させることができる。また、一方の流体圧ポンプモータの押出容積をゼロにすれば、閉回路での圧力流体の流動が阻止されるので、他方の流体圧ポンプモータがロックされ、その場合には、圧力流体を介した動力の伝達が生じないので、動力伝達効率が高くなる。なお、その変速比は、差動機構および変速ギヤ対のギヤ比に応じた変速比となる。
【0005】
なお、特許文献2には、車両の運転状態に応じた目標変速比に対応する変速比に連続的に制御する無段変速機の変速比制御方法であって、定常走行状態時にその時点の変速比における燃料消費率を算出し、その時点の変速比よりも大きい変速比に変化させた場合と、その時点の変速比よりも小さい変速比に変化させた場合との燃料消費率をそれぞれ算出して比較して、それらのうち燃料消費率が最も小さい変速比を目標変速比として無段変速機を制御するようにした変速比制御方法に関する発明が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、電子制御装置によって作動制御されるアクチュエータにより、ギヤ段の切り替えを自動的に実施する電子制御式トランスミッションの自動変速制御装置であって、現ギヤ段でのエンジンの燃料消費量をサーチするとともに、他のギヤ段でのエンジントルクを算出し、現ギヤ段に対してエンジントルクに余裕がある他のギヤ段での燃料消費量を読み出して、最も燃料消費量が少なくなるギヤ段に変速するようにした自動変速制御装置に関する発明が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−64269号公報
【特許文献2】特公昭61−34576号公報
【特許文献3】特公平5−14133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1に記載されている変速機は、上述したように、変速比を連続的に変化させる、すなわち無段変速を行うことができるので、動力源としての内燃機関を、その運転効率あるいは燃料消費率(燃費)を考慮した最適な回転数で運転することができる。例えば、縦軸に出力トルク(もしくはスロットル開度)、横軸に内燃機関の回転数をとった等燃費率曲線図上で、要求出力に対して燃費が最良となる内燃機関の回転数を算出し、その回転数で内燃機関が運転されるように変速機の変速比すなわち目標変速比を設定して、その目標変速比に基づいて変速機を変速制御することにより、内燃機関を燃費が良好な状態で運転することができる。
【0009】
しかしながら、この特許文献1に記載されている変速機では、上記のようにして演算により得られる目標変速比、すなわち理論上運転効率が最良となる運転点で内燃機関を運転する場合の変速比と、所定の変速ギヤ対を介した動力伝達および2つの流体圧ポンプモータ間での圧力流体の流動を伴う動力伝達を考慮した変速機の動力伝達効率が最良となる変速比とは必ずしも一致しない場合がある。
【0010】
すなわち、この特許文献1に記載されている構成の変速機は、前述したように、2つの流体圧ポンプモータの間で圧力流体の流動が阻止されていて所定の変速ギヤ対を介した動力伝達が行われる状態、すなわち所定の変速ギヤ対のギヤ比に応じた変速比に変速機の変速比が固定された固定変速段状態に対して、2つの流体圧ポンプモータの間で圧力流体の流動を伴う変速が行われる状態、すなわち変速機の変速比が連続的に変化させられる無段変速状態では動力伝達効率が低くなる。したがって、この特許文献1に記載されている構成の変速機では、固定変速段状態で設定されるいわゆる固定段(固定変速比)での動力伝達効率と、無段変速状態で設定されるいわゆる中間段(中間変速比)での動力伝達効率とは互いに相違している。
【0011】
そのため、運転効率が最良となる回転数で内燃機関が運転されるように変速機を変速制御している場合であっても、変速機の動力伝達効率も同時に最良となるとは限らないので、内燃機関の運転効率と変速機の動力伝達効率とを考慮した総合的な効率としては、必ずしも最良になるとは限らない。その結果、内燃機関の燃費が、最適な状態に対して低下してしまう場合がある。このように、上記の特許文献1に記載されている変速機のような2つの可変容量型の流体圧ポンプモータを備えた構成の変速機においては、その変速機に動力を出力する内燃機関の燃費が向上するように変速機の変速制御を行うためには、未だ改良の余地があった。
【0012】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、変速機に動力を出力する内燃機関の運転効率と変速機の動力伝達効率とを考慮した変速制御を実行して、内燃機関の燃料消費率を向上させることができる可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関を動力源とし、該内燃機関と出力部材との間でそれぞれ互いに異なる複数の変速比を選択的に設定可能な2つの動力伝達経路と、それら各動力伝達経路を介して伝達されるトルクを押出容積に応じて変化させるように前記各動力伝達経路毎に設けられかついずれか一方の押出容積がゼロの場合に他方が圧力流体の給排を阻止されてロックされるように吐出口同士および吸入口同士が相互に連通された2つの可変容量型の第1,第2流体圧ポンプモータと、前記第1流体圧ポンプモータがロックされた場合に前記内燃機関からの動力を前記出力部材に伝達する第1伝動機構と、前記第2流体圧ポンプモータがロックされた場合に前記内燃機関からの動力を前記出力部材に伝達する第2伝動機構と、前記各伝動機構を選択的に動力伝達可能な状態にする切換機構とを備え、いずれかの前記各伝動機構の変速比で決まる固定変速段と、前記各流体圧ポンプモータ同士の間で圧力流体を介して伝達する動力を連続的に変化させることによる無段変速状態とを設定することが可能なように構成された可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置において、前記変速機の変速制御により前記内燃機関の回転数を制御する場合に、前記内燃機関の運転効率が最良となる該変速制御における目標変速比を算出する目標変速比算出手段と、前記変速機で前記変速制御を実行する場合に、前記固定変速段における変速比であって前記目標変速比に最も近い固定段変速比を算出する固定段変速比算出手段と、前記変速機で前記変速制御を実行する場合に、互いに連続する前記固定変速段における変速比同士の中間の変速比であって前記目標変速比に最も近い中間段変速比を算出する中間段変速比算出手段と、所定の変速比で前記変速機を制御する場合の前記内燃機関の燃料消費率であって、前記目標変速比で前記変速機を制御する場合の前記内燃機関の目標変速比燃費と、前記固定段変速比で前記変速機を制御する場合の前記内燃機関の固定段変速比燃費と、前記中間段変速比で前記変速機を制御する場合の前記内燃機関の中間段変速比燃費とをそれぞれ算出する燃費算出手段と、前記目標変速比燃費と前記固定段変速比燃費と前記中間段変速比燃費との中で最も燃料消費率が良い最適燃料消費率を判断するとともに、前記目標変速比と前記固定段変速比と前記中間段変速比との中で該最適燃料消費率を得られる最適変速比を選択して設定し、前記目標変速比が該最適変速比となるように前記目標変速比を補正する目標変速比補正手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0014】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記目標変速比と前記最適変速比との偏差を算出して比較する目標変速比比較手段を更に備え、前記目標変速比補正手段が、前記偏差の絶対値が閾値として予め定めた所定値以上の場合に、前記目標変速比が前記目標変速比に前記所定値を加算した値もしくは前記目標変速比から前記所定値を減算した値となるように前記目標変速比を再度補正する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0015】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記最適変速比として前記固定段変速比が選択された場合に、前記固定段変速比を形成するために動力伝達可能な状態にされる一方の前記伝動機構に対して他方の前記伝動機構を動力伝達を行わない状態にするニュートラル手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0016】
そして、請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記目標変速比補正手段が、前記最適変速比を設定する場合に、前記第1流体圧ポンプモータの押出容積と前記第2流体圧ポンプモータの押出容積との割合に基づいて、前記固定段変速比と前記中間段変速比とのいずれか一方を選択して前記最適変速比として設定する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、内燃機関が出力する動力が入力される変速機の変速比を制御して、内燃機関の回転数を制御する場合、変速機の変速制御において設定される目標変速比で変速機を変速制御した場合の内燃機関の燃料消費率(すなわち目標変速比燃費)と、その目標変速比に最も近い固定変速段の変速比(すなわち固定段変速比)で変速機を変速制御した場合の内燃機関の燃料消費率(すなわち固定段変速比燃費)と、その目標変速比に最も近い中間変速段の変速比(すなわち中間段変速比)で変速機を変速制御した場合の内燃機関の燃料消費率(すなわち中間段変速比燃費)とがそれぞれ算出されて比較される。そして、それらの各燃費の中から最も燃料消費率が良いものが最適燃料消費率として選択され、その最適燃料消費率を実現する変速比が最適変速比として選択されて、その最適変速比が新たに目標変速比として設定される。言い換えると、当初設定された目標変速比が、内燃機関の燃料消費率が最良となる最適変速比となるように補正される。そのため、内燃機関の運転効率と変速機の動力伝達効率との両方を考慮した総合的な効率が最良となる状態で内燃機関および変速機を運転することができ、その結果、内燃機関の燃料消費率を向上させることができる。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の作用・効果が得られることに加えて、内燃機関の回転数の大幅な変動や変速時の変速ショックなどを生じさせることなく、内燃機関の燃料消費率を向上させることができる。すなわち、当初の目標変速比よりも固定段変速比もしくは中間段変速比で変速制御を行った方が内燃機関の燃料消費率が良いと判断して目標変速比を補正する場合に、目標変速比が大きく変更(もしくは補正)されることにより、内燃機関の回転数の変動が大きくなる場合があるが、この請求項2の発明によれば、当初の目標変速比と、最適変速比すなわち補正後の目標変速比との差が所定値以上大きくなると、補正後の目標変速比が当初の目標変速比からの変化幅が所定値よりも小さくなるように再度補正される。言い換えると、目標変速比の変化幅が所定値未満となるように抑制される。そのため、目標変速比の変化が所定値以上大きくなることが回避され、内燃機関の大幅な回転数変動や変速ショックなどを生じさせることなく、内燃機関の燃料消費率を向上できる。例えば、この発明の変速機を内燃機関を駆動力源とする車両に搭載した場合には、車両のドライバビリティを損なうことなく燃費を向上させることができる。
【0019】
また、請求項3の発明によれば、請求項1の発明と同様の作用・効果が得られることに加えて、当初の目標変速比よりも固定段変速比で変速制御を行った方が内燃機関の燃料消費率が良いと判断して目標変速比を補正する場合に、固定段変速比を形成する際に動力伝達可能な状態にされる動力伝達経路と反対側の伝動機構が、動力伝達不可能な状態すなわち動力伝達を行わないニュートラル状態に制御される。そのため、固定段変速比で変速制御される際に、動力伝達可能な状態にされた一方の伝動機構側で動力伝達を行う際に他方の伝動機構側での引き摺り損失を低減することができ、その結果、内燃機関の燃料消費率をより向上させることができる。
【0020】
そして、請求項4の発明によれば、請求項1の発明と同様の作用・効果が得られることに加えて、最適変速比を設定する場合に、第1流体圧ポンプモータの押出容積と第2流体圧ポンプモータの押出容積との割合に基づいて、固定段変速比と中間段変速比とのいずれか一方が選択されて、新たな目標変速比として設定される。すなわち、固定段変速比と中間段変速比とのいずれか一方が選択された最適変速比になるように目標変速比が補正される。そのため、最適変速比に目標変速比を補正する制御を簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする変速機について説明すると、この発明で対象とする変速機TMは、2つの動力伝達経路を備えており、それら両方の動力伝達経路を介して、動力源から出力部材にトルクを伝達できるように構成され、その結果、動力源と出力部材との回転数の比である変速比を連続的に変化させることのできる変速機TMである。より具体的には、各動力伝達経路は、それぞれ、ポンプおよびモータとして機能する可変容量型流体圧ポンプモータを備えており、この可変容量型流体圧ポンプモータの押出容積に応じたトルクを伝達するように構成され、さらにそれぞれの可変容量型流体圧ポンプモータが圧力流体を相互に授受できるように連通されている。したがって、一方の可変容量型流体圧ポンプモータがポンプとして機能することにより、その押出容積に応じたトルクが動力源から出力部材に伝達され、同時に、一方の可変容量型流体圧ポンプモータから他方の可変容量型流体圧ポンプモータに圧力流体が供給されて他方の可変容量型流体圧ポンプモータがモータとして機能する。すなわち、圧力流体を介した動力伝達が、並行して行われる。そして、そのトルクが他方の動力伝達経路を介して出力部材に伝達される。その結果、出力部材に伝達されるトルクは、各動力伝達経路を介して伝達されるトルクの合計になり、しかも圧力流体を介して伝達されるトルクは、各押出容積に応じて変化するので、結局は、変速比が連続的に変化することになる。
【0022】
各動力伝達経路は、それぞれ変速比の異なるギヤ対や巻き掛け伝動機構などの伝動機構を備えることができ、一方の動力伝達経路のみを介して出力部材にトルクを伝達する場合には、変速機TMの全体としての変速比は、その動力伝達経路における伝動機構の変速比で決まる。このような変速比を仮に固定段変速比もしくは固定変速段と称すると、固定段変速比を設定している状態では、圧力流体を介した動力の伝達が生じないので、動力の損失が生じにくく、効率のよい伝動状態となる。なお、いずれかの伝動機構のみをトルク伝達に関与させるようにするために、クラッチ機構などの切換機構を各伝動機構に含ませることが好ましく、あるいは動力源もしくは出力部材と伝動機構との間に切換機構を設けることが好ましい。
【0023】
この発明で対象とする変速機TMは、圧力流体を介して動力を伝達するように構成されているので、上述したように機械的な動力伝達によって変速比を設定する機能を兼ね備えたハイドロスタティック・メカニカル・トランスミッション(HMT)として構成されたものであることが好ましい。そのメカニカルトランスミッションの部分は、必要に応じて適宜の構成とすることができ、常時噛み合っているギヤ対をクラッチ機構もしくは同期連結機構などの切換機構によって選択する構成の機構や、複数の遊星歯車機構もしくは複合遊星歯車機構によって複数の変速比を設定できる構成などを採用することができる。また、可変容量型流体圧ポンプモータは、動力源と出力部材との間に直列に介在させる構成以外に、反力手段として可変容量型流体圧ポンプモータを用いる構成とすることもできる。
【0024】
つぎに、差動機構を動力分配機構として使用するとともに、伝動機構として複数のギヤ対を使用し、したがって可変容量型流体圧ポンプモータが反力機構となっている具体例を説明する。図1に示す例は、車両用の変速機TMとして構成した例であり、流体を介さずにトルクを伝達して設定できるいわゆる固定変速段として4つの前進段および1つの後進段を設定するように構成した例である。すなわち、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関(以下、エンジンと記す)1に入力部材2が連結されており、この入力部材2から第1遊星歯車機構3および第2遊星歯車機構4にトルクを伝達するように構成されている。そのエンジン(E/G)1と入力部材2との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させてもよい。
【0025】
第1遊星歯車機構3が入力部材2と同一軸線上に配置され、第2遊星歯車機構4が第1遊星歯車機構3の半径方向で外側に離隔し、それぞれの中心軸線を平行にした状態で並列に配置されている。これらの遊星歯車機構3,4は、シングルピニオン型やダブルピニオン型などの適宜の形式の遊星歯車機構を用いることができる。図1に示す例はシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成した例であり、外歯歯車であるサンギヤ3S,4Sと、そのサンギヤ3S,4Sと同心円状に配置された、内歯歯車であるリングギヤ3R,4Rと、これらサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ3C,4Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構3におけるリングギヤ3Rに入力部材2が連結され、このリングギヤ3Rが入力要素となっている。
【0026】
また、入力部材2にはカウンタドライブギヤ5が取り付けられており、このカウンタドライブギヤ5にアイドルギヤ6が噛み合っている。そしてそのアイドルギヤ6にカウンタドリブンギヤ7が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ7は、第2遊星歯車機構4と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構4においては、そのリングギヤ4Rが入力要素となっている。各遊星歯車機構3,4の入力要素であるリングギヤ3R,4Rは、カウンタギヤ対がアイドルギヤ6を備えた構成であるから、同方向に回転するようになっている。
【0027】
第1遊星歯車機構3におけるキャリヤ3Cは出力要素となっており、そのキャリヤ3Cに回転軸としての第1中間軸8が、一体になって回転するように連結されている。この第1中間軸8は中空軸であって、その内部をモータ軸9が回転自在に挿入されており、このモータ軸9の一端部が、第1遊星歯車機構3における反力要素であるサンギヤ3Sに、一体となって回転するように連結されている。
【0028】
第2遊星歯車機構4も同様な構成であって、そのキャリヤ4Cが出力要素となっており、そのキャリヤ4Cに他の回転軸としての第2中間軸10が、一体になって回転するように連結されている。この第2中間軸10は中空軸であって、その内部にモータ軸11が回転自在に挿入されており、このモータ軸11の一端部が、第2遊星歯車機構4における反力要素であるサンギヤ4Sに、一体となって回転するように連結されている。
【0029】
上記のモータ軸9の他方の端部が第1可変容量型ポンプモータ12の出力軸に連結されている。この第1可変容量型ポンプモータ12は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また吐出ポートもしくは吸入ポートから圧力流体を供給することにより、モータとして機能するようになっている。なお、この第1可変容量型ポンプモータ12を以下の説明では、第1ポンプモータ12と記し、図にはPM1と表示する。
【0030】
また、モータ軸11の他方の端部が、第2可変容量型ポンプモータ13の出力軸に連結されている。この第2可変容量型ポンプモータ13は、上記のモータ軸9側の第1ポンプモータ12と同様の構成のものであり、したがって斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプを採用することができる。なお、この第2可変容量型ポンプモータ13を以下の説明では、第2ポンプモータ13と記し、図にはPM2と表示する。
【0031】
各ポンプモータ12,13は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように、油路14,15によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入ポート12S,13S同士が油路14によって連通され、また吐出ポート12D,13D同士が油路15によって連通されている。したがって各油路14,15によって閉回路が形成されている。この閉回路での油圧制御のための機構については後述する。
【0032】
上記の各中間軸8,10と平行に、この発明の出力部材に相当する出力軸16が配置されている。そして、この出力軸16と各中間軸8,10との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する第1,第2伝動機構が設けられている。この発明における各伝動機構としては、固定された回転数比(変速比)で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図1に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対17,18,19,20が採用されている。
【0033】
具体的に説明すると、第1中間軸8には、第1遊星歯車機構3側から順に、第4速駆動ギヤ17Aと第2速駆動ギヤ18Aとが配置されており、第4速駆動ギヤ17Aと第2速駆動ギヤ18Aとは第1中間軸8に対して回転自在に嵌合している。その第4速駆動ギヤ17Aに噛み合っている第4速従動ギヤ17Bと、第2速駆動ギヤ18Aに噛み合っている第2速従動ギヤ18Bとが、出力軸16に一体回転するように取り付けられている。
【0034】
さらに、上記の第4速従動ギヤ17Bに噛み合っている第3速駆動ギヤ19Aと、第2速従動ギヤ18Bに噛み合っている第1速駆動ギヤ20Aとが、第2中間軸10に回転自在に嵌合させられている。したがって、第4速従動ギヤ17Bが第3速従動ギヤを兼ねており、また第2速従動ギヤ18Bが第1速従動ギヤを兼ねている。ここで、各ギヤ対17,18,19,20の回転数比もしくはギヤ比(それぞれの駆動ギヤの歯数に対する従動ギヤの歯数の比)について説明すると、その回転数比は、第1速用ギヤ対20、第2速用ギヤ対18、第3速用ギヤ対19、第4速用ギヤ対17の順に小さくなるように構成されている。
【0035】
さらに、発進用ギヤ対21が設けられている。この発進用ギヤ対21は、第1速用ギヤ対20と併せて出力軸16に動力を伝達することにより、発進時の駆動力を必要十分に大きくするためのものであって、第1ポンプモータ12側のモータ軸9に取り付けられた発進駆動ギヤ21Aと、出力軸16に回転自在に取り付けられた発進従動ギヤ21Bとを備えている。
【0036】
上述した各ギヤ対17,18,19,20,21を、いずれかの中間軸8,10と出力軸16との間でトルク伝達可能な状態とするための切換機構が設けられている。この切換機構は、要は、選択的にトルクを伝達する連結機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(回転同期機構、シンクロナイザー、あるいはシンクロメッシュ機構)などの機構を採用することができ、図1にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
【0037】
シンクロナイザーは、基本的には、回転軸と共に回転するスリーブと、その回転軸に対して相対回転する他の回転部材に設けられたスプラインと、スリーブに押されて他の回転部材側に移動するシンクロナイザーリングとを有している。そして、スリーブを他の回転部材のスプライン側に移動させる過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触することにより回転軸と回転部材とを同期させ、その状態でスリーブがスプラインに係合することにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。出力軸16上で、発進従動ギヤ21Bに隣接する位置に第1のシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)22が設けられている。この第1シンクロ22は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより係合状態となって、発進従動ギヤ21Bを出力軸16に連結し、発進用ギヤ対21がモータ軸9と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、スリーブを図1の右側に移動させることにより解放状態となって、発進従動ギヤ21Bと出力軸16との連結を解くように構成されている。
【0038】
また、第2中間軸10上で、第3速駆動ギヤ19Aと第1速駆動ギヤ20Aとの間に第2のシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)23が設けられている。この第2シンクロ23は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより係合状態となって、第1速駆動ギヤ20Aを第2中間軸10に連結し、第1速用ギヤ対20が第2中間軸10と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより他の係合状態となって、第3速駆動ギヤ19Aを第2中間軸10に連結し、第3速用ギヤ対19が第2中間軸10と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。そして、スリーブを中央に位置させることにより解放状態となって、第3速駆動ギヤ19Aおよび第1速駆動ギヤ20Aと第2中間軸10との連結を解くように構成されている。
【0039】
さらに、第1中間軸8上で、第2速駆動ギヤ18Aと第4速駆動ギヤ17Aとの間に第3のシンクロナイザー(以下、第3シンクロと記す)24が設けられている。この第3シンクロ24は、そのスリーブを図1の左側に移動させることにより係合状態となって、第2速駆動ギヤ18Aを第1中間軸8に連結し、第2速用ギヤ対18が第1中間軸8と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図1の右側に移動させることにより他の係合状態となって、第4速駆動ギヤ17Aを第1中間軸8に連結し、第4速用ギヤ対17が第1中間軸8と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。そして、スリーブを中央に位置させることにより解放状態となって、第2速駆動ギヤ18Aおよび第4速駆動ギヤ17Aと第1中間軸8との連結を解くように構成されている。
【0040】
またさらに、第2ポンプモータ13側のモータ軸11上で、第2中間軸10の軸端に隣接する位置に後進用のシンクロナイザー(以下、Rシンクロと記す)25が設けられている。このRシンクロ25は、そのスリーブを図1の右側に移動させることにより係合状態となって、モータ軸11と第2中間軸10、すなわち第2遊星歯車機構4におけるサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとを連結して、第2遊星歯車機構4の全体を一体回転させるように構成されている。
【0041】
上記の各シンクロ22,23,24,25は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもできる。その場合は、例えば前述したスリーブを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを電気的に制御するように構成すればよい。
【0042】
上述したように、図1に示す変速機TMは、エンジン1が出力したトルクが、いずれかの中間軸8,10もしくはモータ軸9,11を介して出力軸16に伝達されるように構成されている。そして、その出力軸16には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動機構などの伝動手段29を介してデファレンシャル30が連結され、そこから左右の車軸31に動力を出力するようになっている。
【0043】
さらに、この変速機TMの動作状態を検出するためのセンサが設けられている。具体的には、前述した入力部材2もしくはこれと一体のカウンタドライブギヤ5の回転数Ninを検出する入力回転数センサ32、車軸31の回転数Noutを検出する出力回転数センサ33などが設けられている。
【0044】
つぎに、上記の各ポンプモータ12,13を制御するための流体圧回路(油圧回路)について説明する。各ポンプモータ12,13を連通させている閉回路14,15には流体(具体的にはオイル)を補給するためのチャージポンプ(ブーストポンプと称されることもある)34が設けられている。このチャージポンプ34は、上記の閉回路からの漏れなどによるオイルの不足を補うためのものであって、前述したエンジン1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン35からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。
【0045】
そのチャージポンプ34の吐出口は、閉回路における油路14と油路15とにそれぞれチェック弁36,37を介して連通されている。なお、これらのチェック弁36,37は、チャージポンプ34からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ34の吐出圧を調整するための調圧弁(リリーフ弁)38が、チャージポンプ34の吐出口に連通されている。このリリーフ弁38は、スプリングによる弾性力とソレノイドバルブ(図示せず)の出力圧による押圧力との和より高い圧力(設定圧以上の圧力)が作用した場合に開いてオイルをオイルパン35に排出するように構成されており、したがってチャージポンプ34の吐出圧をパイロット圧に応じた圧力に設定するように構成されている。
【0046】
さらに、第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sと油路15との間に、調圧弁(リリーフ弁)39が設けられている。言い換えれば、第1ポンプモータ12と並列に、各油路14,15を連通させるようにリリーフ弁39が設けられている。このリリーフ弁39は、第1ポンプモータ12の吸入ポート12S、または第2ポンプモータ13の吸入ポート13Sから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。すなわち、リリーフ弁39は、これに付設されたソレノイドバルブ(図示せず)によって調圧値を設定するように構成されており、いずれかの吸入ポート12S,13Sからの吐出圧がその調圧値以上(設定圧以上)の場合には、リリーフ弁39が開いて排圧することにより、吐出圧すなわち高圧側の油路14の圧力を、調圧値(設定圧)以下に維持するようになっている。
【0047】
また、第2ポンプモータ13の吐出ポート13Dと油路14との間に、調圧弁(リリーフ弁)40が設けられている。言い換えれば、第2ポンプモータ13と並列に、各油路14,15を連通させるようにリリーフ弁40が設けられている。このリリーフ弁40は、第2ポンプモータ13の吐出ポート13D、または第1ポンプモータ12の吐出ポート12Dから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。すなわち、リリーフ弁40は、これに付設されたソレノイド42Aソレノイドバルブ(図示せず)によって調圧値を設定するように構成されており、いずれかの吐出ポート12D,13Dからの吐出圧がその調圧値以上の場合には、リリーフ弁40が開いて排圧することにより、吐出圧すなわち油路15の圧力を、調圧値(設定圧)以下に維持するようになっている。
【0048】
この変速機TMでは、上記の各ポンプモータ12,13の押出容積や各シンクロ22,23,24,25を電気的に制御できるように構成されており、そのための電子制御装置(ECU)41が設けられている。この電子制御装置41は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、所定の回転部材の回転数や他の検出信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて指令信号を出力するように構成されている。
【0049】
そして、この変速機TMは、エンジン1の動力を出力軸16に伝達する動力伝達経路として、第1ポンプモータ12によって反力が与えられる第1遊星歯車機構3および第4速用ギヤ対17もしくは第2速用ギヤ対18を介して出力軸16に動力を伝達する経路と、第2ポンプモータ13によって反力が与えられる第2遊星歯車機構4および第3速用ギヤ対19もしくは第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に動力を伝達する経路との2つの経路を備えている。そして、それぞれの動力伝達経路を介して伝達されるトルクは、それぞれに設けられているポンプモータ12,13の押出容積に応じて変化するようになっている。そして、そのトルクTは、各押出容積をq1,q2とし、かつ油路14,15の圧力差をPとすると、
T=(q1+q2)・P/2π
で表される。
【0050】
つぎに、上述した変速機TMの作用について説明する。図2は、各変速段を設定する際の各ポンプモータ(PM1,PM2)12,13、および各シンクロ22,23,24,25の動作状態をまとめて示す図表であって、この図2における各ポンプモータ12,13についての「OFF」は、ポンプ容量を最小もしくは実質的にゼロとし、その出力軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態(フリー状態もしくは空転状態)を示し、「LOCK」はそのロータの回転が止まっている状態を示している。さらに「油圧発生」は、ポンプ容量を実質的にゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当するポンプモータ12,13はポンプとして機能している。また、「油圧回収」は、一方のポンプモータ13(もしくは12)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当するポンプモータ12(もしくは13)は軸トルクを発生し、対応するモータ軸9,11および中間軸8,10に駆動トルクを伝達している。
【0051】
そして、各シンクロ22,23,24,25についての「右」、「左」は、それぞれのシンクロ22,23,24,25におけるスリーブの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「○」は該当するシンクロ22,23,24,25をOFF状態(中立位置)に設定することにより引き摺りを低減している状態、「−」は該当するシンクロ22,23,24,25をOFF状態(中立位置)に設定して中立状態となっていることを示す。
【0052】
ニュートラルポジションが選択されてニュートラル(N)状態を設定する際には、各ポンプモータ12,13が「OFF」状態とされ、また各シンクロ22,23,24,25のスリーブが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対17,18,19,20,21も出力軸16に連結されていないニュートラル状態となる。すなわち、各ポンプモータ12,13が、押出容積(ポンプ容量)が実質的にゼロとなるように制御される。その結果、いわゆる空回り状態となるので、各遊星歯車機構3,4のリングギヤ3R,4Rにエンジン1からトルクが伝達されても、サンギヤ3S,4Sに反力が作用しない。そのため、出力要素であるキャリヤ3C,4Cに連結されている各中間軸8,10にはトルクが伝達されない。
【0053】
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第1シンクロ22のスリーブが図1の左側に移動させられるとともに第2シンクロ23のスリーブが、図1の左側に移動させられる。したがって、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9に連結されて第1ポンプモータ12と出力軸16とが連結され、また第1速駆動ギヤ20Aが第2中間軸10に連結されて第2遊星歯車機構4の出力要素であるキャリヤ4Cと出力軸16とが連結される。すなわち、固定変速段である第1速を設定する状態となる。また、これと併せて各ポンプモータ12,13の押出容積がゼロより大きい容積に制御される。
【0054】
したがって、第2ポンプモータ13は第2遊星歯車機構4によって分配されたエンジン1の動力によって駆動されてポンプとして機能する。したがって、第2ポンプモータ13は、油圧を発生させることに伴う反力トルクをモータ軸11およびサンギヤ4Sに与える。これを図2には「油圧発生」と記載してある。そのため、第2遊星車機構4の差動作用によってキャリヤ4Cにトルクが伝達され、そのトルクが第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に伝達される。
【0055】
一方、第2ポンプモータ13で発生した油圧がその吸入ポート13Sから吐出されて第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sに供給される。その結果、第1ポンプモータ12がモータとして機能する。これを図2には「油圧回収」と記載してある。このようにして第1ポンプモータ12に伝達される動力が発進用ギヤ対21を介して出力軸16に伝達される。したがって発進から第1速までの駆動状態では、第2遊星歯車機構4を介したいわゆる機械的な動力の伝達と、油圧を介した動力の伝達との両方が生じ、これらの動力を合成した動力が出力軸16に現れる。また、この過程での変速比は、固定変速段である第1速より大きい値となり、その変速比は連続的に、あるいは無段階に変化する。
【0056】
こうしてエンジン1の回転数や車速が変化して第1速の変速比になると、第1ポンプモータ12の押出容積がゼロに設定されてOFF状態となり、また第2ポンプモータ13の押出容積が最大に設定され、その結果、実質上、第2ポンプモータ13の回転がロックされる。すなわちモータ軸11およびこれに連結されている第2ポンプモータ13が固定される。その結果、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sが固定され、また第1遊星歯車機構3は出力軸16に対する動力の伝達に関与しなくなるので、エンジン1が出力した動力は、第2遊星歯車機構4および第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に伝達される。すなわち、第1速用ギヤ対20のギヤ比で決まる固定変速段が設定される。なお、この場合、第1ポンプモータ12およびこれに連結されているモータ軸9が空転するので、第1中間軸8にトルクは現れない。なお、この固定変速段である第1速で第1シンクロ22のスリーブを解放状態(図2の〇印)とすれば、第1ポンプモータ12を連れ回さないので、動力損失を防止できる。また、アップシフト待機状態となる。
【0057】
固定変速段である第1速からアップシフトする場合、第3シンクロ24のスリーブを図1の左側に移動させて第2速駆動ギヤ18Aを第1中間軸8に連結しておく。なお、Rシンクロ25は中立状態にしておく。また、第3シンクロ24のスリーブを第2速駆動ギヤ18Aに係合させる場合、第3シンクロ24のスリーブの回転数と第2速駆動ギヤ18Aとの回転数を一致させる同期制御を行う。その同期制御は、シンクロ22,23,24,25のスリーブを相手部材に係合させる場合にも同様に行われる。
【0058】
この状態で、第1ポンプモータ12の押出容積を最大に向けて次第に増大させる。第2速へのアップシフト待機状態では、第1ポンプモータ12は逆回転しているから、その押出容積を次第に増大させることによりポンプとして機能する。すなわち、油圧を発生し(図2に「油圧発生」と記してある)、同時にそれに伴う反力トルクがモータ軸9に現れる。その結果、第1遊星歯車機構3および第2速用ギヤ対18を介した動力の伝達が次第に行われる。また、第1ポンプモータ12で発生した油圧が第2ポンプモータ13に供給されてこれがモータとして機能する(図2に「油圧回収」と記してある)ので、第2ポンプモータ13および第2遊星歯車機構4ならびに第1速用ギヤ対20を介した動力の伝達が生じる。そのため、第1速から第2速への変速の過程での変速比は、第1速の変速比と第2速の変速比との間の値、すなわち連続する固定段変速比同士の中間の変速比であってこの発明における中間段変速比となり、かつ連続的に変化する変速比となる。すなわち、変速比が連続的に変化する無段変速状態となる。これは、上述した発進から第1速の変速比に到るまでの間、および各固定変速段の間でも同様であり、したがって上述した変速機TMは、無段変速機として機能させることができる。
【0059】
上述のようにして第1ポンプモータ12の押出容積をほぼ最大にしてその回転が停止した状態、もしくは停止に近い状態になることにより、モータ軸9が実質的に固定される。また、併せて第2ポンプモータ13がOFF状態に設定される。したがって、第1遊星歯車機構3では、そのサンギヤ3Sが固定されるので、リングギヤ3Rに入力された動力がキャリヤ3Cから中間軸8を経て第2速駆動ギヤ18Aに出力される。一方、第2ポンプモータ13はOFF状態となっており、これと同軸上に配置されているRシンクロ25および第2シンクロ23はOFF状態であってそのスリーブが中立位置にあるので、第2ポンプモータ13や第2遊星歯車機構4は動力の伝達に関与しない。したがって、第2速用ギヤ対18のギヤ比で決まる固定変速段である第2速が設定される。
【0060】
以下、同様にして、第3速は第2シンクロ23のスリーブを図1の右側に移動させて第3速駆動ギヤ19Aを第2中間軸10に連結する係合状態とし、また第2ポンプモータ13の押出容積を最大にすることにより、第1速の場合と同様に、モータ軸11および第2ポンプモータ13を固定し、さらに他のシンクロ22,24は解放状態にする。したがって、第3速用ギヤ対19を介して出力軸16に動力が伝達され、固定変速段である第3速が設定される。また、第4速は第3シンクロ24のスリーブを図1の右側に移動させて第4速駆動ギヤ17Aを第1中間軸8に連結する係合状態とし、また第1ポンプモータ12の押出容積を最大にすることにより、第2速の場合と同様に、モータ軸9および第1ポンプモータ12を固定し、さらに他のシンクロ23,25は解放状態にする。したがって、第4速用ギヤ対17を介して出力軸16に動力が伝達され、固定変速段である第4速が設定される。
【0061】
さらに、後進段について説明すると、シフト装置によってリバースポジションが選択された場合には、第1シンクロ22のスリーブが図1の左側に移動させられ、またRシンクロ25のスリーブが図1の右側に移動させられ、さらに他のシンクロ23,24がOFF状態に設定される。したがって、Rシンクロ25によって第2中間軸10とモータ軸11とが連結されることにより、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとが連結されて第2遊星歯車機構4の全体が実質的に一体化される。また、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9すなわち第1ポンプモータ12のロータに連結される。
【0062】
したがって、エンジン1から第2遊星歯車機構4に伝達された動力がそのまま第2ポンプモータ13に伝達されてこれが駆動され、第2ポンプモータ13によって油圧が発生する。なお、第2シンクロ23がOFF状態であるから、第2遊星歯車機構4あるいは第2中間軸10から出力軸16に動力が伝達されることはない。一方、第1ポンプモータ12の押出容積がゼロより大きい容積、例えば最大容積に制御される。その結果、第2ポンプモータ13から供給された油圧によって第1ポンプモータ12がモータとして機能し、モータ軸9にトルクを出力する。その場合、第1ポンプモータ12にはその吐出ポート12Dから油圧が供給されるので、第1ポンプモータ12が逆回転する。そして、そのトルクが発進用ギヤ対21を介して出力軸16に伝達されるので、後進状態となる。すなわち、後進段では、油圧を介した動力の伝達が生じ、これを図2では、第1ポンプモータ12について「油圧回収」と記し、第2ポンプモータ13について「油圧発生」と記してある。
【0063】
上記のようにこの発明で対象とする変速機TMでは、いずれかのギヤ対17,〜20をシンクロ23,24によってトルク伝達可能な状態とし、かつトルク伝達可能なギヤ対に連結される遊星歯車機構3,4に対する反力をいずれかのポンプモータ12,13をロックして最大とすれば、そのギヤ対のギヤ比に応じた固定変速段すなわち固定段変速比が設定される。これに対して、固定段変速比の間の変速比、すなわちこの発明における中間段変速比は、伝達されるトルクが前述した式で表される関係にあるので、一方の押出容積を最大にし、かつ他方の押出容積を最大と最小との中間の値に制御することにより設定することができ、あるいは両方の押出容積を中間の値に制御しても設定することができる。
【0064】
図1に示すこの発明で対象とする変速機TMでは、いずれか一方のポンプモータ12(もしくは13)の押出容積をゼロにして他方のポンプモータ13(もしくは12)をロックすることによりいわゆる固定変速段が設定され、またいずれか一方のポンプモータ12(もしくは13)で発生した圧油を他方のポンプモータ13(もしくは12)に供給することにより、固定段変速比以外の変速比すなわち中間段変速比が設定される。したがって、変速比あるいは出力軸16のトルクを油圧によって制御でき、この機能を利用してクリープトルクあるいはクリープ走行を油圧で制御できる。例えば、上述した発進時のように第1速用のギヤ対20と発進用のギヤ対21とを出力軸16に対してトルクを伝達できる状態に設定すれば、アイドリング状態のエンジン1が出力した動力が出力軸16に伝達される。その際に第2ポンプモータ13から第1ポンプモータ12に供給される圧油を、リリーフ弁39によって油路14から排圧すれば、第2ポンプモータ13から吐出した圧油の一部が油路14から排出されて第2ポンプモータ13の回転数がある程度以上の回転数に維持されるので、低車速であることにより出力軸16の回転数が低回転数であっても、エンジン1の自律回転を維持させることができる。また、各ポンプモータ12,13の押出容積を共に小さくすることによっても同様の状態を設定することができる。
【0065】
なお、図示しないアクセルペダルを踏み込まないなどの加速操作を行っていない状態でエンジン1が出力する動力で車両が走行する現象をクリープ現象と言い、そのような走行状態がクリープ走行であり、その駆動トルクがクリープトルクである。
【0066】
前述したように、この発明で対象とする可変容量型流体圧ポンプモータ式の変速機TMは、固定変速段での固定段変速比と、無段階に(連続的に)変化させることが可能な中間段変速比とを設定することができるので、変速機TMをそれら固定段変速比と中間段変速比との間で適宜に変速制御することにより、動力源すなわちエンジン1の回転数を適宜に制御することができる。しかしながら、エンジン1の運転効率が最良になる運転点と変速機TMにおける動力伝達効率が最良になる運転状態とは必ずしも同時に実現できるとは限らない。そのため、エンジン1の運転効率が最良となるように変速機TMの目標変速比を設定してエンジン1および変速機TMを制御していたとしても、変速機TMの動力伝達効率は最良の状態ではない場合があり、したがって、エンジン1の運転効率と変速機TMの動力伝達効率とを加味した総合的な効率としては最良にならない場合がある。このように、エンジン1の運転効率のみを考慮して目標変速比を設定する従来の変速制御においては、未だ、エンジン1と変速機TMとの総合的な効率を向上させてエンジン1の燃料消費率を向上させる余地が残っていた。
【0067】
そこで、この発明の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機TMの制御装置では、変速機TMに動力を出力するエンジン1の運転効率と変速機TMの動力伝達効率とを考慮した変速制御を実行することにより、エンジン1の燃料消費率を一層向上させることができるよう、以下の制御を実行するように構成されている。
【0068】
(第1制御例)
図3は、この発明における第1制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図3において、先ず、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数Neが算出される(ステップS11)。例えば、車速やスロットル開度あるいはエンジン1の性能諸元などに基づいて予め設定されたマップなどから、エンジン1を運転効率が最良の状態で運転するための目標エンジン回転数Neを求めることができる。また、この目標エンジン回転数Neでエンジン1を運転した場合のエンジン1の運転効率(エンジン効率)ηEが算出される(ステップS12)。これも、エンジン1の性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0069】
続いて、変速機TMの目標変速比Xが算出される(ステップS13)。これは、上記のステップS11で算出した目標エンジン回転数Neで車両を走行させるために変速機TMで設定すべき変速比であり、すなわち、エンジン1をエンジン効率ηEが最良の状態で運転するために実行される変速機TMの変速制御における制御の目標値である。
【0070】
変速機TMの目標変速比Xが算出されると、変速機TMの目標変速ギヤ比と目標ポンプモータ指令値とがそれぞれ算出される(ステップS14,S15)。具体的には、目標変速比Xを実現するために変速機TMで動力伝達状態に設定されるギヤ対が選択され、また、その選択されたギヤ対のギヤ比を基に目標変速比Xを実現するためにそれぞれ制御される各ポンプモータ12,13の押出容積の指令値が設定される。例えば、目標変速比Xが第1速と第2速との間の値であった場合は、固定変速段である第1速を設定する第1速用ギヤ対20のギヤ比が求められる。そして、その第1速用ギヤ対20のギヤ比を基にして、変速機TMの変速比を目標変速比Xとするための各ポンプモータ12,13の押出容積がそれぞれ算出される。
【0071】
また、変速機TMの変速比が目標変速比Xに設定された場合の変速機TMの動力伝達効率(トランスミッション効率)ηTMが算出される(ステップS16)。前述したように、この変速機TMは、固定段変速比と中間段変速比とを設定することができ、図4に示すように、設定される変速段(すなわち固定段変速比)および各ポンプモータ12,13の押出容積に応じてその動力伝達効率が変化する。したがって、この場合のトランスミッション効率ηTMは、例えば、上記の図4で示す変速機TMの変速比と各ポンプモータ12,13の押出容積との関係に基づいて予め設定されたマップなどから求めることができる。
【0072】
そして、エンジン1の回転数が目標エンジン回転数Neで制御され、かつ変速機TMの変速比が目標変速比Xで制御されて車両が走行した場合のエンジン1の燃料消費率αが算出される(ステップS17)。この場合の燃料消費率αは、例えば、エンジン1および変速機TMの性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0073】
燃料消費率αが算出されると、エンジン1の燃料消費率が最適となるように、変速機TMの変速比が目標変速比Xが補正される(ステップS18)。このステップS18における目標変速比の補正制御の詳細な制御内容について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0074】
図5において、先ず、変速機TMの中間段変速比Xが算出される(ステップS18-1)。この発明における中間段変速比とは、互いに連続する固定変速段における変速比同士の中間(中間段)の変速比であって、上記で求められた目標変速比Xに最も近い中間段の変速比が中間段変速比Xとして求められる。その値は、前述のステップS14,S15でそれぞれ求められた変速機TMの目標変速ギヤ比および各ポンプモータ12,13の押出容積の指令値等に基づいて算出することができる。
【0075】
上記のステップS18-1で求めた中間段変速比Xに基づいてエンジン1の回転制御における目標エンジン回転数Neが算出される(ステップS18-2)。これは、前述のステップS11と同様に、例えば、車速やスロットル開度あるいはエンジン1の性能諸元に基づいて予め設定されたマップなどから、変速機TMを中間段変速比Xで変速制御してエンジン1を運転する際の目標エンジン回転数Neを求めることができる。
【0076】
続いて、この目標エンジン回転数Neでエンジン1を運転した場合のエンジン1の運転効率(エンジン効率)ηEが算出される(ステップS18-3)。これも、前述のステップS12と同様に、エンジン1の性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0077】
また、変速機TMの変速比が目標変速比Xに設定された場合の変速機TMの動力伝達効率(トランスミッション効率)ηTMが算出される(ステップS18-4)。これは、前述のステップS16と同様に、例えば、前述の図4で示す変速機TMの変速比と各ポンプモータ12,13の押出容積との関係に基づいて予め設定されたマップなどから求めることができる。
【0078】
そして、エンジン1の回転数が目標エンジン回転数Neで制御され、かつ変速機TMの変速比が中間段変速比Xで制御されて車両が走行した場合のエンジン1の燃料消費率αが算出される(ステップS18-5)。この場合の燃料消費率αは、前述のステップS17と同様に、例えば、エンジン1および変速機TMの性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0079】
次に、変速機TMの固定段変速比Xが算出される(ステップS18-6)。この発明における固定段変速比とは、この発明におけるいずれかの伝動機構、すなわち第1速用ギヤ対20、第2速用ギヤ対18、第3速用ギヤ対19、第4速用ギヤ対17のいずれかが、第1中間軸8もしくは第2中間軸10と出力軸16との間で動力伝達可能な状態にされた場合の固定変速段の変速比であって、上記で求められた目標変速比Xに最も近い固定変速段の変速比が固定段変速比Xとして求められる。
【0080】
このステップS18-6における固定段変速比Xの算出制御の詳細な制御内容について、図6のフローチャートに基づいて説明する。図6において、先ず、上記の各ステップで求めた目標変速比Xと中間段変速比Xとの大小関係が比較されて、目標変速比Xが中間段変速比Xよりも小さいか否かが判断される(ステップS18-6-1)。そして、目標変速比Xが中間段変速比Xよりも小さいことにより、このステップS18-6-1で肯定的に判断された場合は、ステップS18-6-2へ進み、例えば図7に示すように、目標変速比Xがn速の固定変速段と(n+1)速の固定変速段との間の値であるとすると、固定段変速比Xとして、n速の固定変速段の変速比が設定される。
【0081】
一方、目標変速比Xが中間段変速比X以上であることにより、ステップS18-6-1で否定的に判断された場合には、ステップS18-6-3へ進み、例えば図7に示すように、目標変速比Xがn速の固定変速段と(n+1)速の固定変速段との間の値であるとすると、固定段変速比Xとして、(n+1)速の固定変速段の変速比が設定される。
【0082】
固定段変速比Xが算出されると、上記のステップS18-6で求めた固定段変速比Xに基づいてエンジン1の目標エンジン回転数Neが算出される(ステップS18-7)。これは、前述のステップS11,S18-2と同様に、例えば、車速やスロットル開度あるいはエンジン1の性能諸元に基づいて予め設定されたマップなどから、変速機TMを固定段変速比Xで変速制御してエンジン1を運転する際の目標エンジン回転数Neを求めることができる。
【0083】
続いて、この目標エンジン回転数Neでエンジン1を運転した場合のエンジン1の運転効率(エンジン効率)ηEが算出される(ステップS18-8)。これも、前述のステップS12,S18-3と同様に、エンジン1の性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0084】
また、変速機TMの変速比が固定段変速比Xに設定された場合の変速機TMの動力伝達効率(トランスミッション効率)ηTMが算出される(ステップS18-9)。これは、前述のステップS16,S18-4と同様に、例えば、前述の図4で示す変速機TMの変速比と各ポンプモータ12,13の押出容積との関係に基づいて予め設定されたマップなどから求めることができる。
【0085】
そして、エンジン1の回転数が目標エンジン回転数Neで制御され、かつ変速機TMの変速比が固定段変速比Xで制御されて車両が走行した場合のエンジン1の燃料消費率αが算出される(ステップS18-10)。この場合の燃料消費率αは、前述のステップS17,S18-5と同様に、例えば、エンジン1および変速機TMの性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0086】
上記のようにして、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αと、目標エンジン回転数Neおよび中間段変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αと、目標エンジン回転数Neおよび中間段変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αとが全て算出されると、それら各燃料消費率α,α,αのうち最も燃料消費率が良いものが選択される。
【0087】
すなわち、先ず、燃料消費率αと燃料消費率αとの大小関係が比較されて、燃料消費率αが燃料消費率αよりも小さいか否かが判断される(ステップS18-11)。燃料消費率αが燃料消費率α以上であること、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率αよりも良好であることにより、このステップS18-11で否定的に判断された場合は、ステップS18-12へ進み、燃料消費率αが燃料消費率αよりも小さいか否かが判断される。
【0088】
燃料消費率αが燃料消費率αよりも大きいこと、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率αよりも良好であることにより、このステップS18-12で肯定的に判断された場合は、ステップS18-13へ進み、目標エンジン回転数Neが、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0089】
そして、中間段変速比Xが、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される(ステップS18-14)。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,α,αのうち、目標エンジン回転数Neおよび中間段変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αが最良である、すなわち、燃料消費率αがこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比(中間段変速比)Xすなわち最適変速比Xとなるように補正される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0090】
これに対して、燃料消費率αが燃料消費率α以下であること、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率αよりも良好であることにより、ステップS18-12で否定的に判断された場合は、ステップS18-15へ進み、目標エンジン回転数Neが、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0091】
そして、目標変速比Xが、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,α,αのうち、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αが最良である、すなわち、燃料消費率αがこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、改めて目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xすなわち最適変速比Xとして設定される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0092】
一方、燃料消費率αが燃料消費率αよりも小さいこと、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率αよりも良好であることにより、前述のステップS18-11で肯定的に判断された場合は、ステップS18-17へ進み、燃料消費率αが燃料消費率αよりも小さいか否かが判断される。
【0093】
そして、燃料消費率αが燃料消費率αよりも大きいこと、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率αよりも良好であることにより、このステップS18-17で肯定的に判断された場合は、ステップS18-18へ進み、目標エンジン回転数Neが、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0094】
そして、固定段変速比Xが、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,α,αのうち、目標エンジン回転数Neおよび固定段変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αが最良である、すなわち、燃料消費率αがこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比(固定段変速比)Xすなわち最適変速比Xとなるように補正される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0095】
これに対して、燃料消費率αが燃料消費率α以下であること、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率αよりも良好であることにより、ステップS18-17で否定的に判断された場合は、ステップS18-20へ進み、目標エンジン回転数Neが、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0096】
そして、目標変速比Xが、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,α,αのうち、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αが最良である、すなわち、燃料消費率αがこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、改めて目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xすなわち最適変速比Xとして設定される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0097】
このように、上記の第1制御例で示したこの発明における制御装置によれば、エンジン1が出力する動力が入力される変速機TMの変速比を制御してエンジン1の回転数を制御する場合、言い換えると、エンジン1の回転数制御および変速機TMの変速制御を実行して車両を走行させる場合、変速機TMの変速制御において制御の開始当初に設定される目標変速比Xで変速機TMを変速制御した場合のエンジン1の燃料消費率α(すなわちこの発明における目標変速比燃費α)と、その目標変速比Xに最も近い固定変速段の変速比すなわち固定段変速比Xで変速機TMを変速制御した場合のエンジン1の燃料消費率α(すなわちこの発明における固定段変速比燃費α)と、その目標変速比Xに最も近い中間変速段の変速比すなわち中間段変速比Xで変速機TMを変速制御した場合のエンジン1の燃料消費率α(すなわちこの発明における中間段変速比燃費α)とがそれぞれ算出されて比較される。
【0098】
そして、それらの各燃料消費率α,α,αの中から最も燃料消費率が良いものが最適燃料消費率として選択され、その最適燃料消費率を実現する変速比が最適変速比として選択されて、その最適変速比が新たに目標変速比として設定される。言い換えると、当初設定された目標変速比が、エンジン1の燃料消費率が最良となる最適変速比となるように補正される。そのため、エンジン1の運転効率と変速機TMの動力伝達効率との両方を考慮した総合的な効率が最良となる状態でエンジン1および変速機TMを運転することができ、その結果、エンジン1の燃料消費率を向上させることができる。
【0099】
(第2制御例)
図8は、この第2制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図8において、ステップS21ないしS27の各ステップの制御内容は、前述の第1制御例の図3のフローチャートにおけるステップS11ないしS17の各ステップの制御内容とそれぞれ同一であるので、その詳細な説明は省略する。ステップS21ないしS27の各ステップで目標変速比Xおよび燃料消費率αが算出されると、エンジン1の燃料消費率が最適となるように、変速機TMの変速比が目標変速比Xが補正される(ステップS28)。このステップS28における目標変速比の補正制御の詳細な制御内容について、図9のフローチャートに基づいて説明する。
【0100】
図9において、先ず、変速機TMの変速制御における目標変速比X’が算出される(ステップS28-1)。ここでの目標変速比X’とは、この制御の開始当初の目標変速比Xを補正するのにあたり、各ポンプモータ12,13のそれぞれの押出容積の大きさに基づいて、言い換えると、第1ポンプモータ12の押出容積と第2ポンプモータ13の押出容積との割合に基づいて、中間段変速比Xもしくは固定段変速比Xのいずれかを選択して、目標変速比Xに対する補正値としたものである。この目標変速比X’を求めるためのこのステップS28-1の詳細な制御内容について、図10のフローチャートに基づいて説明する。
【0101】
図10において、先ず、目標変速比Xで変速機TMを変速制御した場合の第1ポンプモータ12の押出容積q1が、閾値として予め定めた所定値β1以下であるか否かが判断される(ステップS28-1-1)。押出容積q1が所定値β1よりも大きいことにより、このステップS28-1-1で否定的に判断された場合は、ステップS28-1-2へ進み、目標変速比Xで変速機TMを変速制御した場合の第2ポンプモータ13の押出容積q2が、閾値として予め定めた所定値β2以下であるか否かが判断される。
【0102】
変速機TMの動力伝達効率ηTMは、図11に示すように、いずれか一方のポンプモータ12(もしくは13)の押出容積q1(もしくはq2)が最大となり他方のポンプモータ13(もしくは12)の押出容積q2(もしくはq1)が最小となる場合、言い換えると、第1ポンプモータ12の押出容積q1と第2ポンプモータ12の押出容積q2との割合が、10(100%):0(0%)もしくは0(0%):10(100%)となる場合、すなわち、変速機TMの変速比が固定変速段に設定される場合に、その動力伝達効率ηTMが最大もしくはほぼ最大になる。また、変速機TMの変速比が上記の固定変速段以外に設定される場合は、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2が両方とも最大となる場合、すなわち、変速機TMの変速比が中間変速段に設定される場合に、その動力伝達効率ηTMが極大になる。
【0103】
このことを利用して、上記のステップS28-1-1,S28-1-2では、目標変速比Xで変速機TMを変速制御した場合の各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を、閾値として予め定めた所定値β1,β2とそれぞれ比較することにより、当初の目標変速比Xを変速機TMの動力伝達効率ηTMが向上するように補正する際に、最寄りの中間変速段と固定変速段とのどちらに変更した方が変更量が最小となりかつ効率的であるかを判断している。
【0104】
したがって、押出容積q2が所定値β2よりも大きいことにより、上記のステップS28-1-2で否定的に判断された場合、すなわち、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2が、いずれも、それぞれ所定値β1,β2よりも大きい場合は、ステップS28-1-3へ進み、図11に示した例のように、当初の目標変速比Xを変速機TMの動力伝達効率ηTMが向上するように補正した目標変速比X’として、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2が両方とも最大となる場合の変速比、すなわち所定の中間変速段が設定される。そしてその後、この図10のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図9のフローチャートのステップS28-2へ進む。
【0105】
一方、押出容積q1が所定値β1以下であることにより、前述のステップS28-1-1で肯定的に判断された場合には、ステップS28-1-4へ進み、当初の目標変速比Xを変速機TMの動力伝達効率ηTMが向上するように補正した目標変速比X’として、第1ポンプモータ12の押出容積q1が最小となり、かつ第2ポンプモータ13の押出容積q2が最大となる場合の所定の固定変速段が設定される。そしてその後、この図10のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図9のフローチャートのステップS28-2へ進む。
【0106】
また、押出容積q2が所定値β2以下であることにより、前述のステップS28-1-2で肯定的に判断された場合には、ステップS28-1-5へ進み、当初の目標変速比Xを変速機TMの動力伝達効率ηTMが向上するように補正した目標変速比X’として、第2ポンプモータ13の押出容積q2が最小となり、かつ第1ポンプモータ12の押出容積q1が最大となる場合の所定の固定変速段が設定される。そしてその後、この図10のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図9のフローチャートのステップS28-2へ進む。
【0107】
上記のようにして目標変速比X’が算出されると、ステップS28-2へ進み、運転者が燃費を向上させることを重視した走行モード(ECOモード)を要求しているか否かが判断される。例えば、車両にECOモードと通常の走行モードとを切り替えるスイッチ等を設けておき、そのスイッチの制御信号などを検出することにより、運転者がECOモードを要求しているか否かを判定することができる。
【0108】
運転者がECOモードを要求していると判定したことにより、このステップS28-2で肯定的に判断された場合は、ステップS28-3へ進み、ECOモードでの目標変速比の設定制御が実行される。このステップS28-3におけるECOモードでの目標変速比の設定制御の詳細な制御内容について、図12のフローチャートに基づいて説明する。
【0109】
図12において、先ず、上記のステップS28-1で求めた目標変速比X’に基づいてエンジン1の回転制御における目標エンジン回転数Ne’が算出される(ステップS28-3-1)。これは、前述の第1制御例の場合と同様に、例えば、車速やスロットル開度あるいはエンジン1の性能諸元に基づいて予め設定されたマップなどから、変速機TMを目標変速比X’で変速制御してエンジン1を運転する際の目標エンジン回転数Ne’を求めることができる。
【0110】
続いて、この目標エンジン回転数Ne’でエンジン1を運転した場合のエンジン1の運転効率(エンジン効率)ηE’が算出される(ステップS28-3-2)。これも、前述の第1制御例の場合と同様に、エンジン1の性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0111】
そして、ECOモードにおける変速機TMの損失マップ(TM損失マップ)が読み込まれて設定される。この発明による制御装置では、運転者によりECOモードが選択されて燃費を向上させる走行モードが要求された場合、変速機TMで固定変速段が設定された際に、出力軸16に動力を伝達しない動力伝達経路側の切換機構(シンクロナイザー)をニュートラルにして引き摺りによる損失を低減するように構成されている。したがって、このECOモードにおけるTM損失マップとは、変速機TMで固定変速段が設定された際に、出力軸16に動力を伝達しない動力伝達経路側の切換機構をニュートラルにした状態での変速機TMの動力伝達効率を求めるために予め設定したマップである。
【0112】
ECOモードにおけるTM損失マップが設定されると、そのECOモードにおけるTM損失マップに基づいて、変速機TMの変速比が目標変速比X’に設定された場合の変速機TMの動力伝達効率(トランスミッション効率)ηTM’が算出される(ステップS28-3-4)。そして、エンジン1の回転数が目標エンジン回転数Ne’で制御され、かつ変速機TMの変速比が目標変速比X’で制御されて車両が走行した場合のエンジン1の燃料消費率α’が算出される(ステップS28-3-5)。この場合の燃料消費率α’は、前述の第1制御例の場合と同様に、例えば、エンジン1および変速機TMの性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0113】
上記のようにして求めた目標エンジン回転数Ne’および目標変速比X’でエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率α’と、この制御の開始当初の目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αとのうち燃料消費率が良いものが選択される。
【0114】
すなわち、燃料消費率αと燃料消費率α’との大小関係が比較されて、燃料消費率αが燃料消費率α’よりも小さいか否かが判断される(ステップS28-3-6)。燃料消費率αが燃料消費率α’よりも小さいこと、すなわち燃料消費率α’の方が燃料消費率αよりも良好であることにより、このステップS28-3-6で肯定的に判断された場合は、ステップS28-3-7へ進み、目標エンジン回転数Ne’が、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0115】
そして、目標変速比X’が、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される(ステップS28-3-8)。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,α'のうち、目標エンジン回転数Ne'および目標変速比X’でエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率α’が最良である、すなわち、燃料消費率α’がこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、目標エンジン回転数Ne’および目標変速比X’すなわち最適変速比X’となるように補正される。そしてその後、この図12のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図8のフローチャートのステップS29へ進む。
【0116】
これに対して、燃料消費率α’が燃料消費率α以下であること、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率α’よりも良好であることにより、ステップS28-3-6で否定的に判断された場合は、ステップS28-3-9へ進み、目標エンジン回転数Neが、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0117】
そして、目標変速比Xが、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される(ステップS28-3-10)。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,α'のうち、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αが最良である、すなわち、燃料消費率αがこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、改めて目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xすなわち最適変速比Xとして設定される。そしてその後、この図12のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図8のフローチャートのステップS29へ進む。
【0118】
一方、運転者がECOモードを要求していないと判定したことにより、前述のステップS28-2で否定的に判断された場合には、ステップS28-4へ進み、通常モード、すなわち上記の車両の燃費を重視したECOモードに対して車両のドライバビリティを重視した走行モードでの目標変速比の設定制御が実行される。このステップS28-4における通常モードでの目標変速比の設定制御の詳細な制御内容について、図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0119】
図13において、先ず、上記の各ステップで求めた目標変速比Xと目標変速比X’との偏差の絶対値が、閾値として予め定めた所定値Δx未満であるか否かが判断される(ステップS28-4-1)。この発明における変速制御で、当初の目標変速比Xを補正する制御において、当初の目標変速比Xの補正幅(変更幅)が大きいと、その目標変速比が大きく変更されることに伴って、エンジン1の目標エンジン回転数も大きく変更され、その結果、エンジン1の回転数が大きく変化して運転者に違和感やショックを与えてしまう場合がある。そこで、このステップS28-4-1では、車両のドライバビリティに影響を与えるか否かの閾値として所定値Δxを設定し、目標変速比Xの補正幅(変更幅)、すなわち目標変速比Xと目標変速比X’との偏差の絶対値が所定値Δx以上となる場合に、車両のドライバビリティを損なうことなく、変速制御が実行されるようになっている。
【0120】
すなわち、目標変速比Xと目標変速比X’との偏差の絶対値が所定値Δx以上であることにより、このステップS28-4-1で否定的に判断された場合は、ステップS28-4-2へ進み、目標変速比Xが算出される。ここでの目標変速比Xとは、この制御の開始当初の目標変速比Xを補正するのにあたり、その補正幅(変更幅)が車両のドライバビリティに影響しない程度の閾値として設定した上記の所定値Δxに基づいて、目標変速比Xに対する補正値としたものである。
【0121】
具体的には、図14に一例を示すように、目標変速比Xに対して目標変速比X’が正の方向(変速比が小さくなる方向)に変化して、それら目標変速比Xと目標変速比X’との偏差の絶対値が所定値Δx以上となった場合に、目標変速比Xに所定値Δxを加算した値が、目標変速比Xの補正値Xすなわち補正後の目標変速比Xとして求められる。なお、目標変速比Xに対して目標変速比X’が負の方向(変速比が大きくなる方向)に変化して、それら目標変速比Xと目標変速比X’との偏差の絶対値が所定値Δx以上となった場合には、目標変速比Xから所定値Δxを減算した値が、目標変速比Xの補正値Xすなわち補正後の目標変速比Xとして求められる。
【0122】
上記のようにして目標変速比Xが求められると、その目標変速比Xに基づいてエンジン1の回転制御における目標エンジン回転数Neが算出される(ステップS28-4-3)。これは、前述の第1制御例の場合と同様に、例えば、車速やスロットル開度あるいはエンジン1の性能諸元に基づいて予め設定されたマップなどから、変速機TMを目標変速比Xで変速制御してエンジン1を運転する際の目標エンジン回転数Neを求めることができる。
【0123】
続いて、この目標エンジン回転数Neでエンジン1を運転した場合のエンジン1の運転効率(エンジン効率)ηEが算出される(ステップS28-4-4)。これも、前述の第1制御例の場合と同様に、エンジン1の性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0124】
そして、通常モードにおける変速機TMの損失マップ(TM損失マップ)が読み込まれて設定される(ステップS28-4-5)。前述のECOモードにおけるTM損失マップが、変速機TMで固定変速段が設定された際に、出力軸16に動力を伝達しない動力伝達経路側の切換機構(シンクロナイザー)をニュートラルにした状態での変速機TMの動力伝達効率を求めたマップであるのに対して、この通常モードにおけるTM損失マップは、変速機TMで固定変速段が設定された際に、出力軸16に動力を伝達しない動力伝達経路側の切換機構をニュートラルにしない状態での変速機TMの動力伝達効率を求めたマップである。したがって、この通常モードにおけるTM損失マップで変速機TMの動力伝達効率を求めた場合は、前述のECOモードにおけるTM損失マップにより変速機TMの動力伝達効率を求めた場合よりも変速機TMの動力伝達効率は一般的に低くなるが、この通常モードにおいては、出力軸16に動力を伝達しない動力伝達経路側の切換機構をニュートラルの状態にしない分、次の変速に向けた待機状態を設定することができ、変速制御の応答性を向上させることができる。
【0125】
通常モードにおけるTM損失マップが設定されると、その通常モードにおけるTM損失マップに基づいて、変速機TMの変速比が目標変速比Xに設定された場合の変速機TMの動力伝達効率(トランスミッション効率)ηTMが算出される(ステップS28-4-6)。そして、エンジン1の回転数が目標エンジン回転数Neで制御され、かつ変速機TMの変速比が目標変速比Xで制御されて車両が走行した場合のエンジン1の燃料消費率αが算出される(ステップS28-4-7)。この場合の燃料消費率αは、前述の第1制御例の場合と同様に、例えば、エンジン1および変速機TMの性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0126】
上記のようにして求めた目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αと、この制御の開始当初の目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αとのうち燃料消費率が良いものが選択される。
【0127】
すなわち、燃料消費率αと燃料消費率αとの大小関係が比較されて、燃料消費率αが燃料消費率αよりも小さいか否かが判断される(ステップS28-4-8)。燃料消費率αが燃料消費率αよりも小さいこと、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率αよりも良好であることにより、このステップS28-4-8で肯定的に判断された場合は、ステップS28-4-9へ進み、目標エンジン回転数Neが、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0128】
そして、目標変速比Xが、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される(ステップS28-4-10)。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,αのうち、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αが最良である、すなわち、燃料消費率αがこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xすなわち最適変速比Xとなるように補正される。そしてその後、この図13のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図8のフローチャートのステップS29へ進む。
【0129】
これに対して、燃料消費率αが燃料消費率α以下であること、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率αよりも良好であることにより、ステップS28-4-8で否定的に判断された場合は、ステップS28-4-11へ進み、目標エンジン回転数Neが、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0130】
そして、目標変速比Xが、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される(ステップS28-4-12)。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,αのうち、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αが最良である、すなわち、燃料消費率αがこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、改めて目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xすなわち最適変速比Xとして設定される。そしてその後、この図13のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図8のフローチャートのステップS29へ進む。
【0131】
一方、目標変速比Xと目標変速比X’との偏差の絶対値が所定値Δx未満であることにより、上記のステップS28-4-1で肯定的に判断された場合には、ステップS28-4-13へ進み、前述のステップS28-1で求めた目標変速比X’に基づいてエンジン1の回転制御における目標エンジン回転数Ne’が算出される(ステップS28-4-13)。これは、前述の第1制御例の場合と同様に、例えば、車速やスロットル開度あるいはエンジン1の性能諸元に基づいて予め設定されたマップなどから、変速機TMを目標変速比X’で変速制御してエンジン1を運転する際の目標エンジン回転数Ne’を求めることができる。
【0132】
続いて、この目標エンジン回転数Ne’でエンジン1を運転した場合のエンジン1の運転効率(エンジン効率)ηE’が算出される(ステップS28-4-14)。これも、前述の第1制御例の場合と同様に、エンジン1の性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。そして、上記のステップS28-4-5と同様に、通常モードにおける変速機TMの損失マップ(TM損失マップ)が読み込まれて設定される(ステップS28-4-15)。
【0133】
通常モードにおけるTM損失マップが設定されると、その通常モードにおけるTM損失マップに基づいて、変速機TMの変速比が目標変速比X’に設定された場合の変速機TMの動力伝達効率(トランスミッション効率)ηTM’が算出される(ステップS28-4-16)。そして、エンジン1の回転数が目標エンジン回転数Ne’で制御され、かつ変速機TMの変速比が目標変速比X’で制御されて車両が走行した場合のエンジン1の燃料消費率α’が算出される(ステップS28-4-17)。この場合の燃料消費率α’は、前述の第1制御例の場合と同様に、例えば、エンジン1および変速機TMの性能諸元や実際の運転データなどに基づいて求めることができる。
【0134】
上記のようにして求めた目標エンジン回転数Ne’および目標変速比X’でエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率α’と、この制御の開始当初の目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αとのうち燃料消費率が良いものが選択される。
【0135】
すなわち、燃料消費率αと燃料消費率α’との大小関係が比較されて、燃料消費率αが燃料消費率α’よりも小さいか否かが判断される(ステップS28-4-18)。燃料消費率αが燃料消費率α’よりも小さいこと、すなわち燃料消費率α’の方が燃料消費率αよりも良好であることにより、このステップS28-4-18で肯定的に判断された場合は、ステップS28-4-19へ進み、目標エンジン回転数Ne’が、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0136】
そして、目標変速比X’が、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される(ステップS28-4-20)。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,α'のうち、目標エンジン回転数Ne'および目標変速比X’でエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率α’が最良である、すなわち、燃料消費率α’がこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、目標エンジン回転数Ne’および目標変速比X’すなわち最適変速比X’となるように補正される。そしてその後、この図13のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図8のフローチャートのステップS29へ進む。
【0137】
これに対して、燃料消費率α’が燃料消費率α以下であること、すなわち燃料消費率αの方が燃料消費率α’よりも良好であることにより、ステップS28-4-18で否定的に判断された場合は、ステップS28-4-21へ進み、目標エンジン回転数Neが、エンジン1の回転制御における目標エンジン回転数として再設定される。
【0138】
そして、目標変速比Xが、この発明の変速機TMの変速制御における最適変速比として再設定される(ステップS28-4-22)。すなわち、この場合は、各燃料消費率α,α'のうち、目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xでエンジン1および変速機TMを制御して車両を走行させた場合のエンジン1の燃料消費率αが最良である、すなわち、燃料消費率αがこの発明における最適燃料消費率であると判断することができ、エンジン1の回転数および変速機TMの変速比を制御するためにこの制御の開始当初に設定された目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xが、それぞれ、改めて目標エンジン回転数Neおよび目標変速比Xすなわち最適変速比Xとして設定される。そしてその後、この図13のフローチャートで示すルーチンを抜けて、前述の図8のフローチャートのステップS29へ進む。
【0139】
上記のようにして目標変速比補正制御が実行されて目標変速比Xが補正されると、シンクロナイザー(回転同期機構)制御が実行される(ステップS29)。この制御は、前述したECOモードが選択された状態でこの変速制御が実行される場合に、変速機TMで固定変速段が設定された際に出力軸16に動力を伝達しない動力伝達経路側の切換機構(シンクロナイザー)をニュートラルにして、引き摺り損失の低減を図るための制御である。このステップS29における回転同期機構制御の詳細な制御内容について、図15のフローチャートに基づいて説明する。
【0140】
図15において、先ず、前述のステップS28-2と同様に、運転者がECOモードを要求しているか否かが再度判断される(ステップS29-1)。運転者がECOモードを要求していないと判定したことにより、このステップS29-1で否定的に判断された場合は、、運転者は車両の燃費よりもドライバビリティを重視した走行を要求していると判断できるため、変速機TMで固定変速段が設定された際の引き摺り損失までは考慮しなくともよいので、したがって、以降の制御は実行されず、このルーチンを一旦終了する。
【0141】
一方、運転者がECOモードを要求していると判定したことにより、ステップS29-1で肯定的に判断された場合、すなわち前述のステップS28でECOモードにおける目標変速比設定制御が実行された場合には、ステップS29-2へ進み、第1ポンプモータ12の押出容積q1が0であるか否かが判断される。第1ポンプモータ12の押出容積q1が0でないことにより、このステップS29-2で否定的に判断された場合は、ステップS29-3へ進み、第2ポンプモータ13の押出容積q2が0であるか否かが判断される。
【0142】
そして、第2ポンプモータ13の押出容積q2が0でないことにより、このステップS29-3で否定的に判断された場合、すなわち、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2が共に0でない場合は、各ポンプモータ12,13にそれぞれ連結されているいずれの動力伝達経路においても、出力軸16との間で動力の伝達を行っている状態であるので、変速機TMで固定変速段が設定された際に出力軸16に動力を伝達しない動力伝達経路側の切換機構をニュートラルにするこの回転同期機構制御は実行されず、このルーチンを一旦終了する。
【0143】
これに対して、第1ポンプモータ12の押出容積q1が0であることにより、前述のステップS29-2で肯定的に判断された場合は、ステップS29-4へ進み、第3シンクロ24が操作される。具体的には、第1ポンプモータ12が連結された第1中間軸8上に設けられている第3シンクロ24のスリーブが中央に位置させられ、その第3シンクロ24が解放状態にされる。すなわち、第3シンクロ24が設けられている側の動力伝達経路がニュートラル(中立)の状態にされる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0144】
そして、第2ポンプモータ13の押出容積q2が0であることにより、前述のステップS29-3で肯定的に判断された場合は、ステップS29-5へ進み、第2シンクロ23が操作される。具体的には、第2ポンプモータ13が連結された第2中間軸10上に設けられている第2シンクロ23のスリーブが中央に位置させられ、その第2シンクロ23が解放状態にされる。すなわち、第2シンクロ23が設けられている側の動力伝達経路がニュートラル(中立)の状態にされる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0145】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図1におけるステップS6およびステップS7を実行する機能的手段が、この発明における負荷検出手段に相当し、ステップS13を実行する機能的手段が、この発明のクリープ制御手段に相当し、さらにステップS14を実行する機能的手段が、この発明のリリーフ圧低下手段に相当し、そして、ステップS15を実行する機能的手段が、この発明の押出容積変更手段に相当する。
【0146】
このように、上記の第2制御例で示したこの発明における制御装置によれば、変速機TMの変速制御における目標変速比を補正する場合、すなわちその目標変速比を補正するための最適変速比を設定する場合に、第1ポンプモータ12の押出容積q1と第2ポンプモータ13の押出容積q2との割合に基づいて、固定段変速比と中間段変速比とのいずれか一方が選択されて、新たな目標変速比として設定される。すなわち、固定段変速比と中間段変速比とのいずれか一方が選択された最適変速比になるように目標変速比が補正される。そのため、最適変速比に目標変速比を補正する制御を簡素化することができる。
【0147】
また、当初の目標変速比と最適変速比すなわち補正後の目標変速比との差が所定値Δx以上大きくなると、補正後の目標変速比が当初の目標変速比からの変化幅が所定値Δxよりも小さくなるように再度補正される。言い換えると、目標変速比の変化幅が所定値Δx未満となるように抑制される。そのため、目標変速比の変化が所定値Δx以上大きくなることが回避され、エンジン1の大幅な回転数変動や変速ショックなどを生じさせることなく、エンジンの燃料消費率を向上できる。すなわち、車両のドライバビリティを損なうことなく燃費を向上させるさせることができる。
【0148】
そして、当初の目標変速比よりも固定段変速比で変速制御を行った方がエンジン1の燃料消費率が良いと判断して目標変速比を補正する場合に、変速機TMで固定段変速比を形成する際に動力伝達可能な状態にされる一方の動力伝達経路と反対側の他方の動力伝達経路が、その他方の動力伝達経路に設けられた切換機構が解法状態に制御されることにより、他方の動力伝達経路が動力伝達不可能な状態すなわち動力伝達を行わないニュートラル状態に制御される。そのため、固定段変速比で変速制御される際に、動力伝達可能な状態にされた一方の動力伝達経路側で動力伝達を行う際に他方の動力伝達経路側での引き摺り損失を低減することができ、その結果、エンジン1の燃料消費率をより向上させることができる。
【0149】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS13,S23を実行する機能的手段が、この発明における目標変速比算出手段に相当する。また、ステップS18-1を実行する機能的手段が、この発明の中間段変速比算出手段に相当し、ステップS18-6を実行する機能的手段が、この発明の固定段変速比算出手段に相当する。さらに、ステップS17,S18-5,S18-10,ステップS27,S28-3-5,S28-4-7,S28-4-17を実行する機能的手段が、この発明の燃費算出手段に相当し、ステップS18,S28を実行する機能的手段が、この発明の目標変速比補正手段に相当する。そして、ステップS29を実行する機能的手段が、この発明のニュートラル手段に相当する。
【0150】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、対象とする変速機は、図1に示す構成以外のものであってもよく、要は、少なくとも2つの動力伝達経路で伝達するトルクを流体圧ポンプモータの押出容積に応じて変更でき、したがっていずれか一方の動力伝達経路のみを介してトルクを伝達して変速比を設定し、また両方の動力伝達経路を介してトルクを伝達することにより変速比を設定できる変速機であればよい。また、固定段変速比を設定できるように構成する場合、固定段変速比は4速より多くてもよく、あるいは反対に少なくてもよい。さらに、この発明における高圧流路は、各流体圧ポンプモータを連通させている油路のうち、動力源が出力した動力を出力部材に伝達している状態で圧力が相対的に高くなる油路であり、これは、流体圧ポンプモータの回転方向およびこれを決めるパワートレーンの構造によって定まり、したがって上記の具体例とは異なり、吐出口同士を連通する油路であってもよい。
【0151】
またさらに、この発明では、ギヤ対に替えてベルトやチェーンなどの機構を用いてもよい。そして、この発明で差動作用のある歯車機構を用いる場合、シングルピニオン型遊星歯車機構に替えて例えばダブルピニオン型遊星歯車機構を用いることができ、あるいは更に他の構成の差動歯車機構によって構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】この発明で対象とする可変容量型ポンプモータ式変速機の一例を模式的に示すスケルトン図である。
【図2】図1に示す変速機の動作状態をまとめて示す図表である。
【図3】この発明に係る制御装置で実行される制御の第1制御例を説明するためのメインのフローチャートである。
【図4】図1に示す変速機の各ポンプモータの押出容積の割合と動力伝達効率との関係を示す線図である。
【図5】この発明に係る制御装置で実行される制御の第1制御例を説明するためのサブフローチャートである。
【図6】この発明に係る制御装置で実行される制御の第1制御例を説明するためのサブフローチャートである。
【図7】第1制御例における目標変速比の補正制御を説明するための線図である。
【図8】この発明に係る制御装置で実行される制御の第2制御例を説明するためのメインのフローチャートである。
【図9】この発明に係る制御装置で実行される制御の第2制御例を説明するためのサブフローチャートである。
【図10】この発明に係る制御装置で実行される制御の第2制御例を説明するためのサブフローチャートである。
【図11】第2制御例における目標変速比の補正制御を説明するための線図である。
【図12】この発明に係る制御装置で実行される制御の第2制御例を説明するためのサブフローチャートである。
【図13】この発明に係る制御装置で実行される制御の第2制御例を説明するためのサブフローチャートである。
【図14】第2制御例における他の目標変速比の補正制御を説明するための線図である。
【図15】この発明に係る制御装置で実行される制御の第2制御例を説明するためのサブフローチャートである。
【符号の説明】
【0153】
1…内燃機関(エンジン,E/G)、 2…入力部材、 3…第1遊星歯車機構、 4…第2遊星歯車機構、 8…第1中間軸、 9…モータ軸、 10…第2中間軸、 11…モータ軸、 12…可変容量型ポンプモータ(第1ポンプモータ,PM1)、 13…可変容量型ポンプモータ(第2ポンプモータ,PM2)、 14,15…油路、 16…出力軸、 17,18,19,20…ギヤ対、 38,39,40…リリーフ弁、 41…電子制御装置(ECU)、 TM…可変容量型ポンプモータ式変速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を動力源とし、該内燃機関と出力部材との間でそれぞれ互いに異なる複数の変速比を選択的に設定可能な2つの動力伝達経路と、それら各動力伝達経路を介して伝達されるトルクを押出容積に応じて変化させるように前記各動力伝達経路毎に設けられかついずれか一方の押出容積がゼロの場合に他方が圧力流体の給排を阻止されてロックされるように吐出口同士および吸入口同士が相互に連通された2つの可変容量型の第1,第2流体圧ポンプモータと、前記第1流体圧ポンプモータがロックされた場合に前記内燃機関からの動力を前記出力部材に伝達する第1伝動機構と、前記第2流体圧ポンプモータがロックされた場合に前記内燃機関からの動力を前記出力部材に伝達する第2伝動機構と、前記各伝動機構を選択的に動力伝達可能な状態にする切換機構とを備え、いずれかの前記各伝動機構の変速比で決まる固定変速段と、前記各流体圧ポンプモータ同士の間で圧力流体を介して伝達する動力を連続的に変化させることによる無段変速状態とを設定することが可能なように構成された可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置において、
前記変速機の変速制御により前記内燃機関の回転数を制御する場合に、前記内燃機関の運転効率が最良となる該変速制御における目標変速比を算出する目標変速比算出手段と、
前記変速機で前記変速制御を実行する場合に、前記固定変速段における変速比であって前記目標変速比に最も近い固定段変速比を算出する固定段変速比算出手段と、
前記変速機で前記変速制御を実行する場合に、互いに連続する前記固定変速段における変速比同士の中間の変速比であって前記目標変速比に最も近い中間段変速比を算出する中間段変速比算出手段と、
所定の変速比で前記変速機を制御する場合の前記内燃機関の燃料消費率であって、前記目標変速比で前記変速機を制御する場合の前記内燃機関の目標変速比燃費と、前記固定段変速比で前記変速機を制御する場合の前記内燃機関の固定段変速比燃費と、前記中間段変速比で前記変速機を制御する場合の前記内燃機関の中間段変速比燃費とをそれぞれ算出する燃費算出手段と、
前記目標変速比燃費と前記固定段変速比燃費と前記中間段変速比燃費との中で最も燃料消費率が良い最適燃料消費率を判断するとともに、前記目標変速比と前記固定段変速比と前記中間段変速比との中で該最適燃料消費率を得られる最適変速比を選択して設定し、前記目標変速比が該最適変速比となるように前記目標変速比を補正する目標変速比補正手段と
を備えていることを特徴とする可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項2】
前記目標変速比と前記最適変速比との偏差を算出して比較する目標変速比比較手段を更に備え、
前記目標変速比補正手段は、前記偏差の絶対値が閾値として予め定めた所定値以上の場合に、前記目標変速比が前記目標変速比に前記所定値を加算した値もしくは前記目標変速比から前記所定値を減算した値となるように前記目標変速比を再度補正する手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項3】
前記最適変速比として前記固定段変速比が選択された場合に、前記固定段変速比を形成するために動力伝達可能な状態にされる一方の前記伝動機構に対して他方の前記伝動機構を動力伝達を行わない状態にするニュートラル手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項4】
前記目標変速比補正手段は、前記最適変速比を設定する場合に、前記第1流体圧ポンプモータの押出容積と前記第2流体圧ポンプモータの押出容積との割合に基づいて、前記固定段変速比と前記中間段変速比とのいずれか一方を選択して前記最適変速比として設定する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型流体圧ポンプモータ式変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−275855(P2009−275855A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128864(P2008−128864)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】