説明

可変容量装置

【課題】サージ耐圧が高く、ESD破壊の発生を抑制できる可変容量装置を実現する。
【解決手段】可変容量装置1は、支持板2と、可動梁3と、上側駆動容量電極8A,8Bと、下側駆動容量電極5A,5Bと、上側RF容量電極9と、下側RF容量電極6A,6Bと、誘電体膜4とを備える。上側RF容量電極9の端部と可動梁3の端部との間の領域に電極非形成領域3Fが設けられており、可動梁3が変形して可動梁3の先端が誘電体膜4に線接触する際に、上側RF容量電極9と誘電体膜4とは接触しないように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、静電力により駆動するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いて、RF(Radio Frequency)容量を変えることができる可変容量装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々なデバイスにおいて、静電力により駆動するMEMSが用いられることがある(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
図1(A)は、静電力により駆動するMEMSスイッチ101の構成例について説明する図である。MEMSスイッチ101は、固定部102と、可動部103と、接点電極104と、駆動容量電極105と、ストッパ106とを備える。固定部102は基板である。可動部103は、金属製の片持ち梁であり、固定部102に固定された固定端部103Aと、固定部102の主面に一定間隔で対向する可動端部103Bとを備える。接点電極104と、駆動容量電極105と、ストッパ106とは、可動端部103Bに対向して設けられている。このMEMSスイッチ101では、駆動容量電極105と可動部103との間に駆動電圧が印加されることで可動部103が変形して、可動端部103Bが接点電極104に接触し、可動部103と接点電極104との間での電気的接点が得られる。
【0004】
また、このような静電力により駆動するMEMSが用いられたデバイスとして、RF容量を変えることができる可変容量装置が開発されている。
【0005】
図1(B)は、静電力により駆動するMEMSが用いられた可変容量装置201の構成例について説明する図である。
【0006】
可変容量装置201は、固定部202と、可動部203と、固定部側RF容量電極204と、可動部側RF容量電極205と、誘電体膜206と、固定部側駆動容量電極と、可動部側駆動容量電極とを備える。固定部202は基板である。可動部203は、絶縁性材料からなる片持ち梁であり、固定部202に固定された固定端部203Aと、固定部202の主面に一定間隔で対向する可動端部203Bとを備える。可動部側RF容量電極205は、可動端部203Bにおける固定部202との対向面に設けられている。固定部側RF容量電極204は、可動端部203Bおよび可動部側RF容量電極205に対向するように設けられている。可動部側駆動容量電極は、可動端部203Bにおける固定部202との対向面に、可動部側RF容量電極205と隣り合うように設けられている。固定部側駆動容量電極は、可動端部203Bおよび可動部側駆動容量電極に対向するように設けられている。なお、固定部側駆動容量電極と、可動部側駆動容量電極とは、図1(B)では図示されていない。誘電体膜206は、固定部側RF容量電極204と固定部側駆動容量電極とを覆うように設けられている。
この可変容量装置201では、固定部側駆動容量電極と可動部側駆動容量電極との間に駆動電圧を印加することで生じる駆動容量によって可動部203が変位して、可動部側RF容量電極205が誘電体膜206に接触する。可動部側RF容量電極205と誘電体膜206との接触面積は駆動電圧に応じて変化し、誘電体膜206を介して対向する固定部側RF容量電極204と可動部側RF容量電極205との間に、可動部側RF容量電極205と誘電体膜206との接触面積に応じた容量値のRF容量が生じる。可変容量装置201では、誘電体膜206は、高い誘電率を有する材料からなり、極めて薄い膜厚で形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−152194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような従来の可変容量装置では、実装時などに外部からサージ電圧が印加されて、ESD(Electrostatic Discharge)破壊が発生することがある。そのため、外部からサージ電圧が印加されてもESD破壊が発生しない可変容量装置が望まれている。
【0009】
そこで本発明の目的は、耐サージ特性に優れた可変容量装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る可変容量装置は、支持板と、可動梁と、駆動容量部と、RF容量部とを備える。可動梁は、支持板に間隔を隔てて対向するように設けられる。駆動容量部は、可動梁に設けられる可動梁側駆動容量電極と、可動梁側駆動容量電極に対向するように支持板に設けられる支持板側駆動容量電極と、可動梁側駆動容量電極と支持板側駆動容量電極との間に形成される誘電体膜とからなる。駆動容量部は、可動梁側駆動容量電極と支持板側駆動容量電極との間に生じる駆動容量に基づいて可動梁を変形させる。RF容量部は、可動梁に設けられる可動梁側RF容量電極と、可動梁側RF容量電極に対向するように支持板に設けられる支持板側RF容量電極と、可動梁側RF容量電極と支持板側RF容量電極との間に形成される誘電体膜とからなる。可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方の端部と可動梁の端部との間の領域には、電極非形成領域が設けられている。可動梁が変形して可動梁の先端が誘電体膜に線接触する際に、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方と誘電体膜とは接触しないように構成されている。
【0011】
一般に、可変容量装置では、実装時などに外部からサージ電圧が印加されると、可動梁側RF容量電極と支持板側RF容量電極との間や、可動梁側駆動容量電極と支持板側駆動容量電極との間にサージ電圧が印加されることになり、可動梁側RF容量電極と支持板側RF容量電極との間や、可動梁側駆動容量電極と支持板側駆動容量電極との間に、静電引力が発生する。この静電引力により可動梁は支持板側に引き付けられ、可動梁が変形する。このとき、可動梁側駆動容量電極または可動梁側RF容量電極と誘電体膜とが接触すると、そこに強い電界が作用して誘電体膜のESD破壊が発生する恐れがある。
本発明に係る可変容量装置は、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方の端部と可動梁の端部との間の領域に電極非形成領域が設けられており、可動梁が変形して可動梁の先端が誘電体膜に線接触する際に、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方と誘電体膜とは接触しないように構成されている。このため、可動梁が変形して可動梁の先端が誘電体膜に線接触する際に、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方と誘電体膜との間に、確実にギャップ空間が介在する。このため、ESD破壊の発生を防ぐことができる。このように、本発明では、耐サージ特性に優れた可変容量装置を実現することができる。
【0012】
上述の可変容量装置において、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との一方の端部と可動梁の端部との間の領域に電極非形成領域が設けられており、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との他方の端部と可動梁の端部との間の領域に、他の電極から電気的に独立しているダミー電極が設けられていると好適である。
【0013】
この構成では、ダミー電極の厚みにより、可動梁の先端が撓んだ状態で電極非形成領域が潰れることを防ぐことができ、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方と誘電体膜とがより確実に接触しないようにすることができる。
【0014】
上述の可変容量装置において、可動梁側駆動容量電極と支持板側駆動容量電極との電極幅、または、可動梁側RF容量電極と支持板側RF容量電極との電極幅が異なると好適である。
【0015】
この構成では、可動梁側駆動容量電極と支持板側駆動容量電極の端部と、可動梁側RF容量電極と支持板側RF容量電極の端部とが対向せず、より高いサージ耐圧を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の構成では、サージ電圧が印加されても、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方の端部と可動梁の端部との間の領域に電極非形成領域を設けることにより、可動梁の先端が誘電体膜に線接触する際に、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方の端部と誘電体膜とは接触しないように構成されている。可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方の端部と可動梁の端部との間の領域に電極非形成領域を設けることにより、可動梁の先端が誘電体膜に線接触する際に、可動梁側駆動容量電極と可動梁側RF容量電極との少なくとも一方の端部と誘電体膜との間に、確実にギャップ空間が介在する。したがって、この発明によれば、実装時などに外部からサージ電圧が印加されてもESD破壊が発生しない、耐サージ特性に優れた可変容量装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の静電力により駆動するMEMSが用いられたデバイスの構成例を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る可変容量装置の平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る可変容量装置を分解した状態での平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る可変容量装置の断面図である。
【図5】可変容量装置における可動梁の変形態様を説明する図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る可変容量装置の構成を説明する図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る可変容量装置の構成を説明する図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る可変容量装置の構成を説明する図である。
【図9】本発明の第5の実施形態に係る可変容量装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。なお、各図には直交座標形のX−Y−Z軸を付し、可動梁の厚み方向をZ軸方向、可動梁の長さ方向をX軸方向、可動梁の幅方向をY軸方向としている。
【0019】
《第1の実施形態》
まず、第1の実施形態に係る可変容量装置1について説明する。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る可変容量装置1の平面図(X−Y面平面図)である。
【0021】
図2に示すように、可変容量装置1は、支持板2と、可動梁3と、誘電体膜4とを備える。支持板2は、平面視して矩形状のガラス基板からなる。なお、支持板2は、シリコン単結晶基板などの他の絶縁性基板からなるものであってもよい。誘電体膜4は、支持板2の上面(Z軸正方向の面)に、平面視して矩形状に形成されている。なお、誘電体膜4は、五酸化タンタルなどの高い誘電率を有する薄膜からなる。
【0022】
可動梁3は、X−Z面を視て略L字状の片持ち梁構造であり、支持部3Aと、連結部3Bと、可動部3Cとを備える。なお、可動梁3は、高抵抗シリコン基板(絶縁材料)からなる。また、可動梁3は、片持ち梁構造ではなく両持ち梁構造であってもよい。
支持部3Aは、平面視してY軸方向に長尺な矩形状であり、支持板2の上面からZ軸方向に立設する。支持部3Aは、可動梁3のX軸負方向端部に設けられている。
連結部3Bは、平面視して、それぞれX軸に対して蛇行するミアンダライン状であり、支持部3AのY軸方向両端からX軸正方向に立設する。
可動部3Cは、平面視して、X軸方向に長尺な平板状であり、可動梁3のX軸正方向端部に設けられている。可動部3Cは、X軸負方向の端部で連結部3Bに連結されている。
連結部3Bと可動部3Cとは、支持板2から離間した状態で支持部3Aによって支持される。
【0023】
また、可動部3Cは、2つの分割領域3D1,3D2と、3つの区画領域3E1,3E2,3E3とを備える。分割領域3D1,3D2は、それぞれX軸に沿って複数の貫通孔が配列された領域である。区画領域3E1,3E2,3E3は、分割領域3D1,3D2によって区画された、X軸方向に沿って長尺な領域である。
【0024】
図3(A)は、可動梁3と誘電体膜4とを除いた状態での可変容量装置1の分解平面図(X−Y面平面図)である。
図3(A)に示すように、可変容量装置1は、下側駆動容量電極5A,5Bと、下側RF容量電極6A,6Bと、グランド電極7とを備える。下側駆動容量電極5A,5Bと、下側RF容量電極6A,6Bと、グランド電極7とは、それぞれ支持板2の上面に形成されている。
【0025】
下側駆動容量電極5A,5Bと下側RF容量電極6A,6Bとは、X軸方向に長尺な線路状電極であり、Y軸方向に配列して設けられている。下側駆動容量電極5A,5Bは、下側RF容量電極6A,6BのY軸方向の両脇に設けられていて、一方の端部が駆動電圧端子DCに接続されている。グランド電極7は、ミアンダライン状に形成されており、一方の端部が接地端子GNDに接続されている。
【0026】
下側RF容量電極6A,6Bは、下側駆動容量電極5A,5Bの間に設けられている。下側駆動容量電極5Aの一方の端部はRF信号の入力端子(または出力端子)に接続され、下側駆動容量電極5Bの一方の端部はRF信号の出力端子(または入力端子)に接続されている。誘電体膜4は、下側駆動容量電極5A,5Bと下側RF容量電極6A,6Bとを覆うように形成されている。
【0027】
図3(B)は、支持板2と誘電体膜4とを除いて、可動梁3を裏返した状態での可変容量装置1の分解平面図(X−Y面平面図)である。
図3(B)に示すように、可変容量装置1は、上側駆動容量電極8A,8Bと、上側RF容量電極9と、ダミー電極10A,10Bとを備える。上側駆動容量電極8A,8Bと、上側RF容量電極9と、ダミー電極10A,10Bとは、それぞれ可動梁3の下面に形成されている。
【0028】
上側駆動容量電極8A,8Bと、上側RF容量電極9とは、X軸方向に長尺な線路状電極であり、Y軸方向に配列して設けられている。上側駆動容量電極8A,8Bは、上側RF容量電極9のY軸方向の両脇に設けられている。具体的には、上側駆動容量電極8Aは、下側駆動容量電極5Aおよび誘電体膜4と対向するように区画領域3E1に設けられており、一方の端部が接地端子GNDに接続されている。上側駆動容量電極8Bは、下側駆動容量電極5Bおよび誘電体膜4と対向するように区画領域3E3に設けられており、一方の端部が接地端子GNDに接続されている。ダミー電極10A,10Bは、上側駆動容量電極8A,8Bの他方の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間に設けられている。ダミー電極10A,10Bは、他の電極から電気的に独立している。
【0029】
上側RF容量電極9は、上側駆動容量電極8A,8Bの間に設けられている。具体的には、上側RF容量電極9は、下側RF容量電極6A,6Bおよび誘電体膜4と対向するように区画領域3E2に設けられている。上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の領域は、電極非形成領域3Fとなっている。
【0030】
図4(A)は、図2中にA−A’で示す位置での可変容量装置1の断面図(X−Z面断面図)であり、図4(B)は、図2中にB−B’で示す位置での可変容量装置1の断面図(X−Z面断面図)であり、図4(C)は、図2中にC−C’で示す位置での可変容量装置1の断面図(Y−Z面断面図)であり、図4(D)は、図2中にD−D’で示す位置での可変容量装置1の断面図(Y−Z面断面図)である。
【0031】
上側駆動容量電極8Aは、下側駆動容量電極5Aとグランド電極7と誘電体膜4とに対向している。上側駆動容量電極8Bは、下側駆動容量電極5Bとグランド電極7と誘電体膜4とに対向している。上側駆動容量電極8Aは、下側駆動容量電極5Aおよび誘電体膜4の対向する領域とともに駆動容量部を構成している。上側駆動容量電極8Bは、下側駆動容量電極5Bおよび誘電体膜4の対向する領域とともに駆動容量部を構成している。上側駆動容量電極8A,8Bは可動梁側駆動容量電極であり、下側駆動容量電極5A,5Bは支持板側駆動容量電極である。駆動電圧端子DCから下側駆動容量電極5A,5Bに駆動DC電圧が印加されると、駆動容量部において静電引力が発生する。駆動容量部は、その静電引力により可動梁3を支持板2側に引き付け、可動梁3を先端(X軸正方向側の端部)から誘電体膜4に接触させる駆動容量として機能する。駆動DC電圧が高電圧であるほど、可動梁3と誘電体膜4との接触面積は大きくなる。
【0032】
グランド電極7は、上側駆動容量電極8A,8Bと同電位(グランド電位)に接続され、上側駆動容量電極8A,8Bと下側駆動容量電極5A,5Bとが対向する領域の誘電体膜4に強い電界が作用することを防ぐ。したがって、グランド電極7を設けることで、誘電体膜4の帯電が抑制され、誘電体膜4に可動梁3が貼り付くスティッキング現象の発生を防ぐことができる。
誘電体膜4において、グランド電極7上に形成されている部分は、周囲から突出しており、ストッパ部4Aを構成している。すなわち、誘電体膜4の表面には、ストッパ部4Aが形成されている。ストッパ部4Aは、上側駆動容量電極8A,8Bと下側駆動容量電極5A,5Bとが対向する領域で、上側駆動容量電極8A,8Bが誘電体膜4に直接接触することを防ぐ。このストッパ部4Aを設けることでも、誘電体膜4の帯電が抑制され、スティッキング現象の発生を防ぐことができる。
【0033】
上側RF容量電極9は、下側RF容量電極6A,6Bと誘電体膜4とに対向している。上側RF容量電極9は、下側RF容量電極6A,6Bおよび誘電体膜4の対向する領域とともにRF容量部を構成している。上側RF容量電極9は可動梁側RF容量電極であり、下側RF容量電極6A,6Bは支持板側RF容量電極である。RF容量部は、上側RF容量電極9と下側RF容量電極6A,6Bとの間に形成され、可動梁3と誘電体膜4との接触面積に応じて容量の大きさが変化するRF容量として機能する。
【0034】
誘電体膜4において、上側RF容量電極9に対向している部分は、周囲から突出しており、突出部4Bを構成している。突出部4Bは、ストッパ部4Aと同じ高さである。すなわち、誘電体膜4の表面には、突出部4Bが形成されている。突出部4Bは、上側RF容量電極9と誘電体膜4との接触面積を大きくし、RF容量の最大値を大きくするために設けられている。
【0035】
なお、駆動容量部は駆動電圧端子DCと接地端子GNDとの間に並列接続されるため、両者を直列接続する構成に比べて単位面積当たりの静電引力が大きく、両者を直列接続する場合よりも電極面積の低減に有利である。一方、RF容量部はRF信号の入力端子と出力端子との間に直列接続されるため、両者を並列接続する構成に比べて単位面積当たりの静電引力が小さく、両者を並列接続する場合よりもRF信号による可動梁3の変形(セルフアクチエーション)の抑制に有利である。
【0036】
図5は、可変容量装置1における可動梁3の変形態様を説明する図である。
【0037】
駆動電圧端子DCから下側駆動容量電極5A,5Bに印加される駆動DC電圧を大きくして、下側駆動容量電極5A,5Bと上側駆動容量電極8A,8Bとの間に形成される駆動容量を大きくしていくと、静電引力により可動梁3が支持板2側に引き付けられ、可動梁3の連結部3Bにおける撓みが大きくなり、可動部3Cが先端(X軸正方向側の端部)から誘電体膜4に接近する。そして、ダミー電極10A,10Bの先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜4に線接触する。この時には、図5(A)に示すように、上側RF容量電極9と誘電体膜4とは、まだ接触しておらず、上側RF容量電極9と誘電体膜4との間にはギャップ空間が介在する。
【0038】
駆動容量をさらに大きくしていくと、可動梁3の可動部3Cにおける撓みが大きくなり、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)近傍が支持板2と平行になるように、可動梁3が支持板2に近づく。そして、ダミー電極10A,10Bが誘電体膜4に線接触する状態から面接触する状態に移行する。この時には、図5(B)に示すように、ダミー電極10A,10Bの近傍は、支持板2と可動部3Cとが平行になって近接する近接状態であり、そして、上側RF容量電極9と誘電体膜4とは、まだ接触していない状態、または、上側RF容量電極9の先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜4に線接触する状態である。
【0039】
駆動電圧をより大きくしていくと、可動梁3の可動部3Cにおける撓みが大きくなり、図5(C)に示すように、上側RF容量電極9が誘電体膜4に面接触する領域が拡大していくとともに可変容量が増加していく。
【0040】
このような変形態様を持つ可変容量装置は、実装時などに外部からサージ電圧が印加されると、上側RF容量電極と下側RF容量電極との間にサージ電圧が印加されることになり、上側RF容量電極と下側RF容量電極との間に静電引力が発生する。この静電引力により可動梁は支持板側に引き付けられ、可動梁が変形する。このとき、上側RF容量電極と誘電体膜とが接触すると、そこに強い電界が作用して誘電体膜のESD破壊が発生する恐れがある。
そこで、本実施形態では、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の領域に電極非形成領域3Fを設けることにより、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜4に線接触する際に、上側RF容量電極9と誘電体膜4とは接触しないように構成されている。具体的には、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の領域に電極非形成領域3Fを設けることにより、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜4に線接触する際に、上側RF容量電極9と誘電体膜4との間に、確実にギャップ空間が介在する。すなわち、図5(B)で説明した駆動電圧よりも低いサージ電圧で上側RF容量電極9と誘電体膜4とが接触することを防いでいる。また、上側駆動容量電極8A,8Bの他方の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間に、他の電極から電気的に独立しているダミー電極10A,10Bを設けることにより、ダミー電極10A,10Bの厚みにより、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)が撓んだ状態で電極非形成領域3Fが潰れることを防ぎ、上側RF容量電極9を誘電体膜4に接触し難くしている。
このような構成を採用することで、可変容量装置1では高いサージ耐圧を得ることができる。
【0041】
なお、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の距離が長いほど、すなわち、電極非形成領域3Fの面積が大きいほど、サージ耐圧は高いものになる。ただし、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の距離が長くなると、上側RF容量電極9が小さくなり、RF容量の最大値が小さくなる。このため、サージ耐圧とRF容量の最大値との双方を考慮して、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の距離を設定することになる。
【0042】
また、本実施形態では、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の領域に電極非形成領域3Fを設けたが、上側駆動容量電極8A,8BのX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の領域に電極非形成領域を設けてもよい。この場合、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜4に線接触する際に上側駆動容量電極8A,8Bと誘電体膜4とは接触しないように構成される。このような構成であっても、可変容量装置では高いサージ耐圧を得ることができる。
【0043】
なお、本発明による効果を確認するために、比較例の可変容量装置を用意して、本実施形態の可変容量装置1と比較例の可変容量装置とに対してESD試験を実施した。いずれの可変容量装置も、連結部と可動部とを合わせたX軸方向の寸法を900μmとした。そして、本実施形態の可変容量装置1は、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の距離を90μmとして、電極非形成領域3Fを形成した。比較例の可変容量装置は、上側RF容量電極のX軸正方向の端部と可動梁のX軸正方向の端部との間の距離を5μmとして、電極非形成領域を形成した。比較例の可変容量装置では、上側RF容量電極のX軸正方向の端部と可動梁のX軸正方向の端部との間の距離が短いため、可動梁の先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜に線接触する際に上側RF容量電極と誘電体膜とが接触することになる。ESD試験の結果、本実施形態の可変容量装置1はサージ耐圧が約180Vであり、比較例の可変容量装置はサージ耐圧が約130Vであり、本実施形態の構成を採用することで、高いサージ耐圧が得られることを確認できた。
【0044】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態に係る可変容量装置11について説明する。
【0045】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る可変容量装置11の構成を説明する図である。
なお、可変容量装置11は、前述の第1の実施形態で示した構成と共通する構成を備えるため、図中では、前述の実施形態と共通する構成には同じ符号を付している。
【0046】
可変容量装置11は、第1の実施形態の構成からグランド電極とストッパ部と突出部とをなくすとともに、第1の実施形態の下側駆動容量電極5A,5Bと誘電体膜4とに代えて、下側駆動容量電極15A,15Bと誘電体膜14とを備える構成である。下側駆動容量電極15A,15Bは、第1の実施形態のグランド電極7の形成位置まで電極幅を広げた構成である。誘電体膜14は、ストッパ部および突起部を設けずに上面を平坦にした構成である。図6(A)は、可動梁3と誘電体膜14を除いた状態での可変容量装置11の分解平面図(X−Y面平面図)である。図6(B)は、支持板2および誘電体膜14を除いて、可動梁3を裏返した状態での可変容量装置11の分解平面図(X−Y面平面図)である。図6(C)は、図4(C)と同じ位置での可変容量装置11の断面図(Y−Z面断面図)である。
【0047】
このような構成の可変容量装置11でも、前述の第1の実施形態と同様に、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の領域に電極非形成領域3Fを設けることにより、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜14に線接触する際に上側RF容量電極9と誘電体膜14とが接触しないように構成されている。また、上側駆動容量電極8A,8Bの他方の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間に、他の電極から電気的に独立しているダミー電極10A,10Bを設けることにより、ダミー電極10A,10Bの厚みにより、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)が撓んだ状態で電極非形成領域3Fが潰れることを防ぎ、上側RF容量電極9を誘電体膜14に接触し難くしている。このような構成を採用することで、可変容量装置11では高いサージ耐圧を得ることができる。
【0048】
《第3の実施形態》
次に、第3の実施形態に係る可変容量装置21について説明する。
【0049】
図7は、本発明の第3の実施形態に係る可変容量装置21の構成を説明する図である。
【0050】
なお、可変容量装置21は、前述の第1および第2の実施形態で示した構成と共通する構成を備えるため、図中では、前述の実施形態と共通する構成には同じ符号を付している。
【0051】
可変容量装置21は、第2の実施形態の構成からダミー電極をなくすとともに、第2の実施形態の上側駆動容量電極8A,8Bに代えて、上側駆動容量電極28A,28Bを備える構成である。上側駆動容量電極28A,28Bは、第2の実施形態のダミー電極10A,10Bの形成位置まで電極の長さを伸ばした構成である。図7(A)は、可動梁3と誘電体膜14を除いた状態での可変容量装置21の分解平面図(X−Y面平面図)である。図7(B)は、支持板2および誘電体膜14を除いて、可動梁3を裏返した状態での可変容量装置21の分解平面図(X−Y面平面図)である。図7(C)は、図4(C)と同じ位置での可変容量装置21の断面図(Y−Z面断面図)である。
【0052】
このような構成の可変容量装置21でも、前述の第1および第2の実施形態と同様に、上側RF容量電極9のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の領域に電極非形成領域3Fを設けることにより、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜14に線接触する際に上側RF容量電極9と誘電体膜14とは接触しないように構成されている。このような構成を採用することで、可変容量装置21では高いサージ耐圧を得ることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、RF容量部のみに本発明の特徴構成を採用しているが、駆動容量部に本発明の特徴構成を採用するようにしてもよい。その場合には、少なくとも、接地端子GNDや駆動電圧端子DCから印加されるサージ電圧に対するサージ耐圧を高いものにできる。
【0054】
《第4の実施形態》
次に、第4の実施形態に係る可変容量装置31について説明する。
【0055】
図8は、本発明の第4の実施形態に係る可変容量装置31の構成を説明するための図である。図8は、図4(C)と同じ位置での可変容量装置31の断面図(Y−Z面断面図)である。
なお、可変容量装置31は、前述の第1〜第3の実施形態で示した構成と共通する構成を備えるため、図中では、前述の実施形態と共通する構成には同じ符号を付している。
【0056】
可変容量装置31は、第3の実施形態の上側駆動容量電極28A,28Bと上側RF容量電極9に代えて、上側駆動容量電極38A,38Bと上側RF容量電極39を備える構成である。上側駆動容量電極38A,38Bと上側RF容量電極39とは、第3の実施形態の上側駆動容量電極28A,28Bと上側RF容量電極9よりも電極幅が狭い構成である。すなわち、上側駆動容量電極38A,38Bと上側RF容量電極39との電極幅方向の端部が、下側駆動容量電極15A,15Bと下側RF容量電極6A,6Bとの電極幅方向の端部よりも内側にオフセットされている。
【0057】
このような構成の可変容量装置31でも、前述の第1〜第3の実施形態と同様に、上側RF容量電極39のX軸正方向の端部と可動梁3のX軸正方向の端部との間の領域に電極非形成領域3Fを設けることにより、可動梁3の先端(X軸正方向側の端部)が誘電体膜14に線接触する際に上側RF容量電極39と誘電体膜14とは接触しないように構成されている。このような構成を採用することで、可変容量装置31では高いサージ耐圧を得ることができる。
【0058】
また、スパッタリング法などにより誘電体膜を形成した場合、下側駆動容量電極と下側RF容量電極との端部では誘電体膜が局所的に薄くなり、この部分でESD破壊が起こりやすい。そこで、可変容量装置31では、上側駆動容量電極38A,38Bと上側RF容量電極39との電極幅方向の端部が、下側駆動容量電極15A,15Bや下側RF容量電極6A,6Bの電極幅方向の端部よりも内側にオフセットされていて、これにより、下側駆動容量電極15A,15Bと下側RF容量電極6A,6Bの端部と、上側駆動容量電極38A,38Bと上側RF容量電極39の端部とを対向させないようにしている。これにより、可変容量装置31ではより高いサージ耐圧を得ることができる。
【0059】
《第5の実施形態》
次に、第5の実施形態に係る可変容量装置41について説明する。
【0060】
図9は、本発明の第5の実施形態に係る可変容量装置41の構成を説明する図である。図9(A)は、図4(A)と同様の位置での可変容量装置41の断面図(X−Z面断面図)である。図9(B)は、図4(C)と同様の位置での可変容量装置41の断面図(Y−Z面断面図)である。
【0061】
可変容量装置41は、第1の実施形態で示した構成にパッケージを付加した構成であり、前述の第1〜第4の実施形態で示した構成と共通する構成を備えるため、図中では、前述の実施形態と共通する構成には同じ符号を付している。
【0062】
可変容量装置41は、第1の実施形態の支持板2に代えて支持板42Aを備え、さらに、蓋板42Bとスペーサ43とを備える構成である。支持板42Aと蓋板42Bとスペーサ43とは、内部空間を備える筐体を構成する。このような構成であっても、本発明は好適に実施することができる。
【0063】
本発明は以上に説明した実施形態の記載に制限されるものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図されるものである。
【符号の説明】
【0064】
1,11,21,31,41…可変容量装置
2,42A…支持板
3…可動梁
3A…支持部
3B…連結部
3C…可動部
3D1,3D2…分割領域
3E1,3E2,3E3…区画領域
3F…電極非形成領域
4,14…誘電体膜
4A…ストッパ部
4B…突出部
5A,5B,15A,15B…下側駆動容量電極
6A,6B…下側RF容量電極
7…グランド電極
8A,8B,28A,28B,38A,38B…上側駆動容量電極
9,39…上側RF容量電極
10A,10B…ダミー電極
42B…蓋板
43…スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持板と、
前記支持板に間隔を隔てて対向するように設けられた可動梁と、
前記可動梁に設けられる可動梁側駆動容量電極と、前記可動梁側駆動容量電極に対向するように前記支持板に設けられる支持板側駆動容量電極と、前記可動梁側駆動容量電極と前記支持板側駆動容量電極との間に形成される誘電体膜とからなり、前記可動梁側駆動容量電極と前記支持板側駆動容量電極との間に生じる駆動容量に基づいて前記可動梁を変形させる駆動容量部と、
前記可動梁に設けられる可動梁側RF容量電極と、前記可動梁側RF容量電極に対向するように前記支持板に設けられる支持板側RF容量電極と、前記可動梁側RF容量電極と前記支持板側RF容量電極との間に形成される誘電体膜とからなるRF容量部と、
を備え、
前記可動梁側駆動容量電極と前記可動梁側RF容量電極との少なくとも一方の端部と前記可動梁の端部との間の領域に電極非形成領域が設けられており、
前記可動梁が変形して前記可動梁の先端が前記誘電体膜に線接触する際に、前記可動梁側駆動容量電極と前記可動梁側RF容量電極との少なくとも一方と前記誘電体膜とは接触しないように構成されている、可変容量装置。
【請求項2】
前記可動梁側駆動容量電極と前記可動梁側RF容量電極との一方の端部と前記可動梁の端部との間の領域に電極非形成領域が設けられており、
前記可動梁側駆動容量電極と前記可動梁側RF容量電極との他方の端部と前記可動梁の端部との間の領域に、他の電極から電気的に独立しているダミー電極が設けられている、請求項1に記載の可変容量装置。
【請求項3】
前記可動梁側駆動容量電極と前記支持板側駆動容量電極との電極幅、または、前記可動梁側RF容量電極と前記支持板側RF容量電極との電極幅が異なる、請求項1または請求項2に記載の可変容量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−42024(P2013−42024A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178840(P2011−178840)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】