説明

可変油圧システム

【課題】背圧室からの油圧の印加態様に応じて変位する可動部材により開弁圧を切り替えるリリーフ弁を備えた可変油圧システムにおいてポンプの吐出脈動による可動部材の振動を抑制する可変油圧システムを提供する。
【解決手段】可変油圧システム10のリリーフ弁20には、低圧段制御時に出口通路25と背圧室35とを連通させる連通路21Cが設けられている。こうした連通路21Cを設けることにより、リリーフされたオイル及び連通路21Cを流れるオイルを通じてポンプ13の吐出側の油圧の脈動を背圧室35に伝播させることが可能となる。そしてこの連通路21Cは、スリーブ26の頂面26Dに作用する油圧の脈動と背圧面26Cに作用する油圧の脈動とが同位相となる態様で設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開弁圧を可変とするリリーフ弁を備えた可変油圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に供給されるオイルの圧力を可変とする可変油圧システムとしては、例えば特許文献1のように開弁圧が2段階に制御されるリリーフ弁を備えた可変油圧システムが知られている。こうしたリリーフ弁が搭載された可変油圧システムにおいては、高い供給圧が必要とされない機関運転状態である例えば機関始動時にリリーフ弁の開弁圧が低圧段に設定され、これによりオイルポンプの負荷が低減されて燃費の向上が実現可能となる。近年では、こうした可変油圧システムの1つとして、オイルの流通経路を切り替える切り替え弁を通じてリリーフ弁の開弁圧を低圧段と低圧段よりも高い高圧段との2段階に切り替える可変油圧システムが開発されるに至っている。このような可変油圧システムの一例を以下に説明する。図8(a)は、こうした可変油圧システムの概略構成をリリーフ弁の断面構造とともに示したものである。なお、図8(a)は、開弁圧が低圧段に選択された開弁時の状態を示したものである。
【0003】
図8に示されるように、可変油圧システム50においては、オイルの供給対象としての内燃機関の各部位とオイルパン51との間を連結する主供給通路52の途中に、オイルを吸引して吐出する機関駆動式のポンプ53と、該ポンプ53の吸入側でオイルに含まれる比較的大きな異物を取り除くオイルストレーナ54とが設けられている。この主供給通路52の途中には、ポンプ53の吐出側と吸入側とに接続されるリリーフ通路55が設けられており、そのリリーフ通路55の途中には、ポンプ53から吐出されたオイルの圧力が所定の開弁圧以上になるとオイルの一部をポンプ53の吸入側に逃がすリリーフ弁60が設けられている。
【0004】
リリーフ弁60を構成する弁本体61には、一方向に延びる円形孔であるボア61aが、その一端がリリーフ通路55の吸入側に接続されて、またその他端が閉止部材62により閉口されるかたちに設けられている。ボア61aはリリーフ通路55に接続された入口通路64から閉止部材62に向けてその内径が大きくなる多段状をなしており、その底部をなす閉止部材62は入口通路64に延びる円柱状の閉止部62aがボア61aの周面から離間するかたちをなしている。そしてこれら入口通路64、閉止部材62及びボア61aに囲まれるかたちで収容室63が構成されている。
【0005】
上記ボア61aの長手方向の中央付近には、その長手方向と交差した方向に延びる出口通路65が、その一端が上記収容室63に接続されて、またその他端がリリーフ通路55の吸入側に接続されるかたちに設けられている。このボア61aの内部には、閉止部62aが嵌入される円筒形状をなしたスリーブ66が入口通路64と閉止部材62との間で摺動可能に内装されている。このスリーブ66がボア61a内を摺動する間、閉止部62aはスリーブ66内に嵌入され続けて、スリーブ66と閉止部材62との間にこれらとボア61aとに囲まれるかたちで背圧室71が形成され続ける。
【0006】
こうした構成からなる背圧室71は、背圧通路72とその接続先である切り替え弁73とを介し、ポンプ53の吐出側及びポンプ53の吸入側に接続されている。そして背圧室71の接続先が切り替え弁73によりポンプ53の吐出側に切り替えられると、ポンプ53の吐出側からのオイルが背圧室71に供給されて背圧室71における油圧が昇圧される。これにより、付勢力F11よりも背圧力F12が大きくなることとなり、スリーブ66の長手方向の一端が収容室63の入口通路64側の端に当接する位置である低圧段制御位
置へ変位する。これに対して背圧室71の接続先が切り替え弁73によりポンプ53の吸入側に切り替えられると、背圧室71のオイルの一部がポンプ53の吸入側へ排出されて背圧室71における油圧が降圧される。これにより、付勢力F11が背圧力F12よりも大きくなることとなり、スリーブ66の長手方向の他端が収容室63の閉止部材62側の端に当接する位置である高圧段制御位置へ移動する。
【0007】
上記スリーブ66の内部には、その入口通路64側から閉止部62a側に広がるかたちの多段円形孔である弁体摺動孔68が設けられ、この弁体摺動孔68の内部には、有蓋円筒状の弁体67が弁体摺動孔68の中心軸方向に摺動可能に内装されている。この弁体67と閉止部62aとの間には、弁体67を入口通路64の側へ付勢するコイルばね70が設けられている。またスリーブ66の周壁における長手方向の中央付近には、前記出口通路65と連通するリリーフ孔69が設けられている。そして入口通路64からのオイルの圧力が弁体摺動孔68を通じて弁体67に作用すると、この弁体67は、弁体摺動孔68内の油圧に基づく力とこれに抗したコイルばね70の復元力とに応じてリリーフ孔69を横切る範囲で弁体摺動孔68の軸方向に沿って変位する。
【0008】
こうした構成からなるリリーフ弁60によれば、弁体67がリリーフ孔69を開通するか否か、つまりオイルがリリーフされるか否かが、上記弁体67の位置とリリーフ孔69(スリーブ66)の位置とにより規定されることとなる。言い換えれば、上記弁体67の位置を規定する油圧が開弁圧であるか否かに応じて、オイルがリリーフされるか否かが切り替わり、さらに上記スリーブ66の位置を規定する背圧室71の油圧の印加状態が2段階であることから、上述の開弁圧が2段階に切り替えられることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−4141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、こうした機関駆動式のポンプとは内燃機関のクランクシャフトの回転運動に連動するポンプであるため、クランクシャフトの回転速度に応じた吐出脈動がポンプの吐出側へと伝播してしまう。こうした吐出脈動は、リリーフ弁60の圧力段が低圧段に制御されている場合に以下のような問題を招く。
【0011】
すなわち、伝播した吐出脈動がスリーブ66の頂面66aに作用してしまうと、上記付勢力F11は、図8(b)に示されるように、その吐出脈動に応じて変動することとなる。一方、背圧室71においては、主供給通路52から分岐して切り替え弁73及び背圧通路72を通じてオイルが供給されるため、その過程における反射や散乱により吐出脈動が減衰されてほぼ一定の油圧となり、上記背圧力F12は、図8(b)に示されるように、ほぼ一定の値を示すこととなる。そしてこうした挙動を示す付勢力F11及び背圧力F12の合力がスリーブ66に作用すると、背圧室71が昇圧されているにも拘わらず、上述した吐出脈動によって付勢力F11が大きくなる期間(期間T1)では付勢力F11が背圧力F12よりも大きくなってしまい、スリーブ66に対して下向きの合力が生じてしまう。その結果、背圧力F12の方が大きくなる期間(期間T2)とこうした期間T1とが繰り返されることによりスリーブ66が上下方向に振動してしまい、スリーブ66と弁本体61との衝突により異音が発生したり、こうしたスリーブ66の振動により開弁圧が不安定になったりするといった問題があった。なおこうした問題は、上述した構成からなるリリーフ弁に限らず、ポンプの吐出側における油圧と背圧室における油圧を受けて開弁圧を切替える可動部材を有したリリーフ弁であれば起こりえる問題でもある。
【0012】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、背圧室からの油圧の印加態様に応じて変位する可動部材により開弁圧を切り替えるリリーフ弁を備えた可変油圧システムにおいてポンプの吐出脈動による可動部材の振動を抑制する可変油圧システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、ポンプの吐出側における油圧と背圧室における油圧とを相反する方向に受けてこれらの油圧に応じた変位により開弁圧を変更させる可動部材を有したリリーフ弁と、前記背圧室における油圧の印加態様を切り替える切り替え弁とを備え、前記印加態様の切り替えにより前記開弁圧の圧力段を切り替えて供給対象への供給圧を変更する可変油圧システムであって、前記リリーフ弁が、前記背圧室の昇圧による前記可動部材の変位により前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通させる連通路を具備し、前記連通路が、前記ポンプの吐出側と前記ポンプの吸入側とが連通する前記リリーフ弁の開弁時に、前記ポンプの吐出側における油圧の脈動と、前記背圧室における油圧の脈動とが前記可動部材に対して同位相になる態様で前記ポンプの吐出側における油圧の脈動を前記背圧室へ伝播させることを要旨とする。
【0014】
上述したような内燃機関の各部位にオイルを供給するポンプでは、その吐出にともなう脈動がポンプの吐出側へ伝播することとなる。そしてこうした脈動が可動部材へ伝播することにより、可動部材に作用する油圧がその脈動に応じて変動することとなる。そのため、ポンプの吐出側における油圧が脈動によって瞬間的に高くなる期間が生じてしまい、リリーフ弁の開弁圧を規定する可動部材が振動してしまうことになる。
【0015】
これに対し請求項1に記載の発明によれば、ポンプの吐出にともなう脈動が連通路を通じて背圧室に伝播し、そのうえポンプの吐出側における油圧の脈動と背圧室における油圧の脈動とが同位相になる。それゆえ、可動部材に対しては、ポンプの吐出側と背圧室側とにおいて同位相の脈動が伝播することとなり、ポンプの吐出側と背圧室側とにおいて脈動が相殺され易くなる。その結果、可動部材の振動が抑制されることになり、ひいてはその振動による異音の発生も抑制されることになる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記連通路は、前記背圧室の昇圧により変位した前記可動部材が前記印加態様の切り替えが完了した位置にあることにより前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通させることを要旨とする。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば開弁圧の切り替えが完了したことを受けて連通路が開通するといった構成であるため、連通路の開通により開弁圧の切り替えがなされ難くなるといったことが確実に回避されることとなり、背圧室における油圧の印加態様の切り替えがより円滑に実行されることとなる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記可動部材における前記ポンプの吐出側と前記可動部材における前記背圧室側とを結ぶオイルの流路長をL、オイル中における音速をv、前記ポンプの吐出側における油圧の脈動の周波数をfとするとき、前記連通路は、L=m×v/f(mは正の正数)を満たすことを要旨とする。
【0019】
ポンプの吐出側における脈動の周波数fは、一般にポンプの吐出周波数と相関した値を示す。それゆえ、例えば上述のポンプに機関駆動式のポンプが適用される場合には、供給対象である内燃機関の回転速度に応じて吐出周波数が異なり、その回転速度に応じて脈動の周波数fも異なることとなる。ただし、ポンプの吐出側におけるオイルの供給系などでは、こうした脈動の殆どがその周波数帯域において反射や散乱などによって減衰すること
となり、供給系における共振周波数といった固有の周波数において顕著に現われることになる。この点、請求項3に記載の発明によれば、可動部材におけるポンプの吐出側と、可動部材における背圧室側とを結ぶオイルの流路長が脈動波長の整数倍となるかたちで連通路の長さが構成されることから、上述する脈動の周波数に応じて、より適切な抑制効果が実現可能にもなる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記連通路が、L=v/fを満たすことを要旨とする。
請求項4に記載の発明によれば、可動部材におけるポンプの吐出側と、可動部材における背圧室側とが最も短くなるかたちで構成される。そのためポンプの吐出側における脈動が背圧室へより確実に伝播することになり、上述したような可動部材に関わる振動の抑制効果がより効果的に発現されることとなる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、前記可動部材が、弁本体のボア内に摺動可能に内装されて、前記開弁圧の圧力段に応じて規定された第1の位置と第2の位置との間で変位するスリーブであり、前記背圧室は、前記スリーブにおける摺動方向の一端部により前記ボア内に画成されて、前記スリーブが前記第1の位置から前記第2の位置へ変位することによりその容積が拡大して、前記第2の位置から前記第1の位置へ変位することによりその容積が縮小するかたちに構成されており、前記連通路は、前記スリーブ及び前記弁本体の少なくとも一方に設けられて、前記スリーブが前記第2の位置であることにより前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通することを要旨とする。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、スリーブが第2の位置に位置するときに、開弁圧の圧力段の切り替えが完了し、かつ連通路が開通することとなる。そのため連通路の開通により開弁圧の切り替えがなされ難くなるといったことが確実に回避されることとなる。そのうえ、スリーブの位置に応じて開通と閉鎖とが切り替えられる連通路が、スリーブ及び同スリーブを摺動可能に内装する弁本体の少なくとも一方、つまりスリーブの摺動に関わる部材により構成されることから、上述したような印加態様の切り替えの円滑化がより簡便な構成の下で実現されることとなる。また開弁圧の切り替え完了タイミングと連通路の開通タイミングとが高い再現性の下で同期することにもなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる可変油圧システムの構成をリリーフ弁の断面を中心に示した構成図。
【図2】スリーブの側面構造及び平面構造を示す図。
【図3】開弁圧が低圧段に選択されたリリーフ弁が開弁状態にある場合にスリーブに作用する力を示したグラフ。
【図4】リリーフ弁の開弁圧が低圧段に選択されている場合であって、(a)閉弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にオイルの流れを示した図、(b)開弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にオイルの流れを示した図。
【図5】リリーフ弁の開弁圧が高圧段に選択されている場合であって、(a)閉弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にオイルの流れを示した図、(b)開弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心にオイルの流れを示した図。
【図6】変更例におけるリリーフ弁の断面構造を示した断面図。
【図7】変更例におけるリリーフ弁の断面構造を示した断面図。
【図8】(a)従来の可変油圧システムが適用されたオイル供給装置の概略構成をリリーフ弁の断面を中心に示した概略構成図、(b)従来の可変油圧システムにおいてリリーフ弁の開弁圧が低圧段に選択されている場合にスリーブにかかる力を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかる可変油圧システムを具体化した一実施形態について図1〜図5を
参照して説明する。図1は、可変油圧システムの概略構成をリリーフ弁の断面構造を中心に示した構成図であり、オイルの供給対象である機関が始動前の状態を示している。
【0025】
図1に示されるように、可変油圧システム10には、オイルパン11に貯留されているオイルを内燃機関の各部位に対して供給する供給通路12が設けられている。供給通路12の途中には、オイルを吸引して吐出する機関駆動式のポンプ13が設けられており、また供給通路12の吸入側の端部には、オイルに含まれる比較的大きな不純物を取り除くオイルストレーナ14が設けられている。そして内燃機関の機関運転にともなってポンプ13が駆動されると、オイルパン11に貯留されたオイルがこのポンプ13により吸い上げられて、供給通路12から内燃機関の各部位、例えばオイルの圧力により駆動される油圧駆動式の各種装置にオイルが供給される。さらには機関出力を取り出すためのピストンに対してそのオイルが噴射されて同ピストンを冷却するピストンジェット機構及び機関の被潤滑部等にオイルが供給される。この供給通路12の途中には、ポンプ13の吐出側と吸入側とに接続されたリリーフ通路15が設けられており、同リリーフ通路15の途中には、ポンプ13から吐出されたオイルの圧力が所定の開弁圧以上になるとそのオイルの一部を逃がすリリーフ弁20が設けられている。
【0026】
リリーフ弁20を構成する弁本体21の一端部(図1における下端部21B)には、同弁本体21の下側面に開口を有した円形孔であるボア23が設けられている。このボア23の開口は閉止部材22によって閉口されており、これによりボア23の内部空間に相当する収容室が弁本体21内に画成されている。この収容室を構成する閉止部材22には、ボア23の径よりも小さい径からなりボア23の内部へ突出する略円柱状の弁体支持部22Aがボア23と同一軸線上に設けられている。そしてこの弁体支持部22Aの外周面とボア23の内面との間には、これらの間の距離が略等しくなるかたちに、ボア23の内面の全周にわたる間隙が形成されている。また弁体支持部22Aの外周面の一部には、その径方向に突出するストッパ22Bが設けられている。以下、上述したボア23の中心軸Cに沿った方向を軸方向という。
【0027】
弁本体21の他端部(図1における上端部21A)には、上述したボア23の径よりも小さい径からなる入口開口部24がボア23と同一軸線上に設けられている。ポンプ13の吐出側に接続されたリリーフ通路15と上述した収容室とは、この入口開口部24を介して連通している。またボア23における軸方向の中央位置付近には、軸方向に幅広な出口通路25がボア23の内面に開口するかたちに設けられている。ポンプ13の吸入側に接続されたリリーフ通路15と上述した収容室とは、この出口通路25を介して連通している。
【0028】
このように構成されたボア23の内部には、軸方向に沿って延びる円筒状の可動部材であるスリーブ26が同じく軸方向に沿って摺動可能に同一軸線上に内装されている。このスリーブ26の軸方向の長さは、収容室の同じく軸方向の長さよりも短く形成されており、またスリーブ26における下端部26Bは、上述した弁体支持部22Aの外周面とボア23の内面との間の間隙に嵌装されている。つまり弁体支持部22Aの外周面とボア23の内面との間の隙間は、上記スリーブ26の下端面である背圧面26Cによってその軸方向の領域が区画されている。そして、これら弁体支持部22Aの外周面、ボア23の内面、及びスリーブ26の背圧面26Cに囲まれるかたちの背圧室35が、軸方向への拡縮が可能な態様でボア23の全周にわたる上記の隙間に画成されている。
【0029】
中心軸Cを挟んで前記ストッパ22Bと対向する位置には、ボア23の内面に開口して上記背圧室35に連通する導出入孔36が弁本体21に内設されている。この導出入孔36には、一端が切り替え弁40に接続された導出入通路41の他端が接続されている。切り替え弁40には、上記導出入通路41の他、ポンプ13の吐出側における供給通路12
に接続された導入通路42と、ポンプ13の吸入側に接続された排出通路43とがそれぞれ接続されている。そして切り替え弁40が切り替え動作を実行することによって、導出入通路41(背圧室35)の接続先が導入通路42と排出通路43とに切り替えられる。こうした切り替え弁40の切り替え動作は、切り替え弁40に電気的に接続された電子制御装置45によって内燃機関の機関運転状態に応じて実行される。切り替え弁40は例えば三方電磁弁であって、この切り替え弁40に対して通電がなされると、導出入通路41を通じて背圧室35に連通する通路が導入通路42に選択され、背圧室35における油圧が昇圧することとなる。また切り替え弁40に対する通電が遮断されると、導出入通路41を通じて背圧室35に連通する通路が排出通路43に選択され、背圧室35における油圧が降圧することとなる。このようにして背圧室35への油圧の印加態様が切り替えられる。
【0030】
ストッパ22Bの上方には、ボア23の内面に開口して背圧室35と出口通路25とを連通可能にする連通路21Cが弁本体21に内設されている。ボア23の内面におけるこの連通路21Cの開口は、軸方向から見て前記導出入孔36の開口と相対向する位置に設けられ、前記弁体支持部22Aの上側端面よりも軸方向において下側に設けられている。さらにボア23の内面におけるこの連通路21Cの開口は、ボア23の内面における導出入孔36の開口よりも軸方向において上側に設けられており、また図1に示されるように、スリーブ26の上端部26Aが入口開口部24に当接する状態では、その開口の全体が開放されるかたちに上記連通路21Cが設けられている。
【0031】
この連通路21Cは、ボア23の内面におけるその開口がスリーブ26の外周面で覆われるか否かによって、その閉鎖と開通とが切り替えられることとなる。つまりこうした構成からなる連通路21Cは、ボア23の内面におけるその開口よりも背圧面26C(スリーブ26)が下側にあるか否かによって、その閉鎖と開通とが切り替えられることとなる。なお、この連通路21Cの出口通路25における開口面積は背圧室35における導出入孔36の開口面積よりも小さくなるかたちで設けられている。
【0032】
上述したスリーブ26の内部には、同スリーブ26の軸方向を貫通する多段の円形孔が、スリーブ26の上端部26Aが厚肉となるかたちに設けられており、スリーブ26の上端部26Aには、入口開口部24の径よりも小さな孔径を有する流入孔28が設けられている。図2に示されるように、スリーブ26の頂面26Dにおける面積A1は、上端部26Aの外径D1からなる円の面積から流入孔28の内径D2からなる円の面積を差し引いた面積である。また背圧室35を構成する背圧面26Cの面積A2は、同図に示されるように、下端部26Bの外径D3(>D2)からなる円の面積から下端部26Bの内径D4からなる円の面積を差し引いたものであって、この面積A2は上記面積A1よりも大きくなるように形成されている。こうした構成からなるスリーブ26は、ポンプ13の吐出側の油圧を入口開口部24からその上端部26Aの頂面26Dに受けて下方へ押し下げられる力である付勢力F1を受けることとなる。またこの付勢力F1と相反するかたちに、背圧室35における油圧を背圧面26Cに受けて上方へ押し上げられる力である背圧力F2を受けることとなる。そして、これら付勢力F1と背圧力F2との差に応じて、スリーブ26そのものが軸方向に沿って摺動することとなる。
【0033】
詳述すると、切り替え弁40の切り替え動作により背圧室35と導入通路42とが連通する場合には、背圧室35における油圧が昇圧されて、スリーブ26そのものが軸方向に沿って押し上げられることとなる。このようなスリーブ26そのものの上動は、スリーブ26の上端部26Aが入口開口部24に係止されることで規制されることとなる。そしてスリーブ26の上動が規制された状態にあっては、スリーブ26そのものの変位によって連通路21Cが開通されることとなり、出口通路25と背圧室35とが連通することとなる。ちなみにこのときには、ポンプ13の吐出側からのオイルが背圧室35を通してポン
プ13の吸入側へ流れ続けることとなる。またこの際、導出入孔36から背圧室35に流入したオイルは、導出入孔36の開口からボア23の周方向に二分されるかたちで背圧室35を流れ、そして連通路21Cから排出されることとなる。それゆえ背圧室35の全体にわたってオイルが流れることとなり、背圧室35に気泡や異物が存在している場合には、それらの気泡や異物をこうしたオイルの流動によって背圧室35から排出することが可能となる。以下、スリーブ26の上端部26Aと入口開口部24とが当接するスリーブ26の位置を、第1の位置としての低圧段制御位置という。
【0034】
これに対して、切り替え弁40の切り替え動作により背圧室35と排出通路43とが連通する場合には、背圧室35における油圧が降圧されて、スリーブそのものが軸方向に沿って押し下げられることとなる。このようなスリーブ26そのものの下動は、スリーブ26の背圧面26Cが閉止部材22のストッパ22Bに係止されることで規制されることとなる。そしてスリーブ26の下動が規制された状態にあっては、スリーブ26そのものの変位によって連通路21Cが閉鎖されることとなり、ストッパ22Bの周方向に画成された背圧室35が導出入孔36のみと連通することとなる。その結果、背圧室35におけるオイルが同背圧室35の縮小分だけ導出入孔36を通してポンプ13の吸入側に流れることとなる。以下、背圧面26Cとストッパ22Bとが当接するスリーブ26の位置を、第2の位置としての高圧段制御位置という。
【0035】
スリーブ26の周壁において出口通路25と対向する部分には、出口通路25における軸方向の幅よりも小さい径を有するリリーフ孔29がスリーブ26の周壁を貫通するかたちに設けられている。このリリーフ孔29はスリーブ26の変位とともに軸方向に変位する通路であり、スリーブ26の全ての移動範囲において出口通路25と連通する位置に設けられている。そしてスリーブ26が低圧段制御位置に位置するときには、このリリーフ孔29がその移動範囲において弁体支持部22Aから最も遠ざかることとなり、またスリーブ26が高圧段制御位置に位置するときには、このリリーフ孔29がその移動範囲において弁体支持部22Aに最も近づくこととなる。
【0036】
スリーブ26の内部には、有蓋円筒状をなしてその外周面により上記リリーフ孔29を閉鎖可能にする弁体27が軸方向に沿って摺動可能に内装されている。この弁体27は、同じくスリーブ26の内部に内装されたコイルばね30を介して弁体支持部22Aに連結されており、このコイルばね30の復元力によって上側へ付勢されている。こうした構成からなる弁体27は、流入孔28における油圧に基づいて同弁体27を押し下げる力を受け、またコイルばね30のストロークに応じた復元力に基づいて同弁体27を押し上げる力を受けることとなる。つまり油圧に基づく力が大きくなるほど弁体27は弁体支持部22Aに近づくこととなり、油圧に基づく力が小さくなるほど弁体27は弁体支持部22Aから遠ざかることとなる。
【0037】
こうした構成からなる可変油圧システム10においては、弁体27がリリーフ孔29を開通するか否か、つまりオイルがリリーフされるか否かが、弁体27の位置とリリーフ孔29の位置とにより規定されることとなる。つまり弁体27の位置を規定する油圧が開弁圧であるか否かに応じて、オイルがリリーフされるか否かが切り替わり、さらにリリーフ孔29の位置を規定する背圧室35の油圧の印加状態が2段階であることから、上述の開弁圧が2段階に切り替えられることとなる。
【0038】
詳述すると、スリーブ26が低圧段制御位置に位置する場合には、ポンプ13の吐出側における油圧が低圧段の開弁圧に到達するまで弁体27がリリーフ孔29を閉鎖し続けることとなる。そしてポンプ13の吐出側における油圧が低圧段の開弁圧に到達すると、コイルばね30のストロークが相対的に小さい状況で弁体27がリリーフ孔29を開通することとなる。一方、スリーブ26が高圧段制御位置に位置する場合には、ポンプ13の吐
出側における油圧が高圧段の開弁圧に到達するまでは、コイルばね30からの復元力を受ける弁体27がリリーフ孔29を閉鎖し続けることとなる。つまりポンプ13の吐出側における油圧がたとえ低圧段の開弁圧になったとしても、コイルばね30のストロークが小さいために、弁体27によりリリーフ孔29が閉鎖されることとなる。そしてポンプ13の吐出側における油圧が高圧段の開弁圧に到達すると、コイルばね30のストロークが相対的に大きい状況で弁体27がリリーフ孔29を開通することとなる。
【0039】
ところで、上述した可変油圧システム10においてリリーフ弁20の開弁圧が低圧段に制御されている場合、背圧室35と出口通路25とは連通路21Cを介して連通することとなる。そして開弁圧が低圧段に制御されている場合にリリーフ弁20が開弁状態になると、リリーフされたオイルと連通路21Cを流れるオイルとを通じて、ポンプ13の吐出側における油圧の脈動が背圧室35へ伝播することとなる。つまりポンプの吐出側における油圧の脈動が上述した付勢力F1と背圧力F2とを脈動周期で変動させることとなる。この際、背圧力F2の位相と付勢力F1の位相とは、吐出脈動の伝播路の長さを左右する連通路21Cの長さによって概ね同位相であるか否かが規定されることとなる。そして付勢力F1と背圧力F2とが同位相となる場合、スリーブ26に対しては、ポンプ13の吐出側からの力と背圧室35からの力とが相殺され易くなり、スリーブ26の振動が抑制されることになる。
【0040】
詳述すると、スリーブ26の頂面26Dと背圧室35とを結ぶオイルの流路長が吐出脈動の波長λの整数倍となるとき、付勢力F1と背圧力F2とが同位相となる。つまり流入孔28の流入側の端面である流入面からリリーフ孔29と連通路21Cとを通って背圧室35における連通路21Cの開口までの最短ルートRの距離Lが吐出脈動の波長λの整数倍になるとき、付勢力F1と背圧力F2とが同位相となる。吐出脈動の波長λはオイル中の音速vを吐出脈動の周波数fで除算することにより得られることから、最短ルートRの距離Lは、
L=m×λ=m×v/f(mは正の整数)・・・(1)
の関係式で表すことができる。
【0041】
ここで、ポンプ13の吐出側における脈動の周波数fは、一般にポンプ13の吐出周波数と相関した値を示す。それゆえ、例えば上述のような機関駆動式のポンプ13が適用される場合には、供給対象である内燃機関の回転速度に応じてポンプ13の吐出周波数が異なり、その回転速度に応じて脈動の周波数fも異なることとなる。ただし、ポンプ13の吐出側におけるオイルの供給系などでは、こうした脈動の殆どがその周波数帯域において反射や散乱などによって減衰することとなり、供給系における共振周波数といった固有の周波数において顕著に現われることになる。それゆえスリーブ26の振動に伴う異音が最も大きくなる回転速度Neが実験などに基づいて求められることにより、その回転速度Neに応じた脈動の周波数fから、こうした回転速度Neにおいて付勢力F1と背圧力F2とが同位相となる距離Lが算出可能となる。
【0042】
なお上記距離Lが長くなった場合には、連通路21Cの長さを長くしなければならず、連通路21Cが複雑になるばかりか、リリーフ弁20自体の大型化を招く虞がある。そこで本実施形態では、上記(1)式を満たす距離Lの中でも最小の値となるようにm=1である場合の距離Lが採用される。こうすることにより、連通路21Cの複雑化やリリーフ弁20自体の大型化が回避されることとなる。例えばポンプ13として歯数が10個の外接式ギアポンプを用い、問題となる回転速度が回転速度Ne=5000rpmである場合には、油中の音速v=130m/secとすると、
L=1×λ=1×130/(5000/60/(10×2))=0.078
となり、L=7.8cmに規定される。そして、このようにして算出された距離Lに基づいて、連通路21Cの出口通路25における開口位置、及び、その開口位置に応じた連通
路21Cの長さが規定されることにより、スリーブ26の振動が抑制されることになる。
【0043】
つまりこうした連通路21Cが設けられることにより、図3に示されるように、導出入孔36から流入してくるオイルの圧力に基づく力F2aと、伝播してきた脈動の圧力に基づく力であって付勢力F1の変動の位相に対して同位相の力である力F2bとの合力が背圧力F2としてスリーブ26に作用することになる。こうすることにより、付勢力F1がポンプ13の吐出側の油圧の脈動によって変動したとしても、その変動に合わせたかたちで背圧力F2も変動することとなり、結果として、付勢力F1が背圧力F2の一部(F2b)によって相殺されやすくなる。それゆえスリーブ26の振動が抑制されることになり、ひいてはその振動による異音の発生を抑制することができる。また、スリーブ26が振動するということは、出口通路25に対するリリーフ孔29の位置も合わせて上下動することにもなるため、上記連通路21Cが設けられない構成にあっては、低圧段の制御時にリリーフ弁20の開弁圧が不安定になる虞もある。これに対して上述した構成によれば、スリーブ26の振動が抑制されることになり、低圧段の制御時に開弁圧が安定するようにもなる。
【0044】
次に、可変油圧システム10におけるリリーフ弁20の作動態様について説明する。
まず、リリーフ弁20の開弁圧が低圧段に選択されている場合について図4を参照して説明する。図4(a)に、閉弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心に可変油圧システム10の概略構成を示す。図4(b)に、開弁状態にあるリリーフ弁20の断面構造を中心に可変油圧システム10の概略構成を示す。
【0045】
図4(a)に示されるように、機関運転状態に基づいて電子制御装置45によって切り替え弁40に対して通電がなされると、導入通路42と導出入通路41とが連通状態になり、ポンプ13から吐出されたオイルの一部が、導入通路42、導出入通路41、及び導出入孔36を通じて背圧室35に供給される。背圧室35にオイルが供給されると背圧室35における油圧が昇圧されて、スリーブ26の背圧面26Cには、背圧室35における油圧に基づく力である背圧力F2が軸方向の上方に向けて作用する。これにより、背圧力F2が付勢力F1よりも大きくなり、スリーブ26を軸方向の上方へ押し上げる押上力が同スリーブ26に作用する。こうした押上力をスリーブ26が受けることにより、スリーブ26は軸方向の上方に移動して低圧段制御位置に変位する。
【0046】
このとき、背圧室35においては、オイルの一部がこの連通路21Cを通じて出口通路25に流出するとともに、導入通路42、導出入通路41、導出入孔36を通じてその流出した分のオイルが順次供給されることとなる。これにより、ポンプ13の吐出側からのオイルが背圧室35を通じてポンプ13の吸入側へと流通することとなり、背圧室35及び導出入通路41に入り込んでしまった気泡や異物が背圧室35からポンプ13の吸入側へと排出されることとなる。そのうえ連通路21Cにおいては、その出口通路25における開口面積が背圧室35における導出入孔36の開口面積よりも小さくなるかたちで設けられていることから、その連通路21Cの開口部分が出口通路25に対する大きな流路抵抗として作用することとなり、背圧室35からのオイルの流出量が制限されて背圧室35における油圧が概ね維持されることとなる。つまりスリーブ26に対しては軸方向の上方への押上力が作用し続けることとなり、連通路21Cが開通した状態であれ、その位置が低圧段制御位置に保持されることとなる。
【0047】
一方、機関回転速度の上昇にともなってポンプ13から吐出されるオイルの圧力が上昇すると、弁体27を軸方向の下方へと押し下げる力が大きくなり、その結果、弁体27が軸方向の下方へ変位することとなる。そして図4(b)に示されるように、ポンプ13の吐出側の油圧が低圧段の開弁圧になると、弁体27は、入口開口部24、流入孔28、リリーフ孔29、及び出口通路25を連通状態とする位置に変位する。これにより、ポンプ
13の吐出側における過剰なオイルがリリーフ通路15を通じてポンプ13の吸入側にリリーフされ、ポンプ13から吐出されるオイルの圧力が低圧段の開弁圧に保持されることとなる。こうした状態にあっては、リリーフ孔29の位置がその移動範囲の中で相対的に軸方向の上側にあることから、コイルばね30のストロークが相対的に小さい状況でオイルがリリーフされることとなり、その結果、ポンプ13の吐出側が低圧段に制御されることとなる。
【0048】
このとき、導出入孔36から流入してくるオイルの圧力に基づく力F2aと、背圧室35に伝播した脈動に基づく力であって付勢力F1の変動の位相と同位相の力F2bとの合力が背圧力F2としてスリーブ26に作用することになり、付勢力F1が背圧力F2の一部(F2b)によって相殺される。それゆえスリーブ26の振動が抑制されることになり、ひいてはその振動による異音の発生も抑制されることになる。
【0049】
次に、リリーフ弁20の開弁圧が高圧段に選択されている場合について図5を参照して説明する。図5(a)に、閉弁状態にあるリリーフ弁の断面構造を中心に可変油圧システム10を示す。図5(b)に、開弁状態にあるリリーフ弁20の断面構造を中心に可変油圧システム10の概略構成を示す。
【0050】
機関運転状態に基づきリリーフ弁20の開弁圧を低圧段から高圧段に切り替える際には、まず電子制御装置45によって切り替え弁40に対する通電が遮断される。切り替え弁40に対する通電が遮断されると、図5(a)に示されるように、導出入通路41と導入通路42とが非連通状態となり背圧室35へのオイルの供給が禁止されるとともに、導出入通路41と排出通路43とが連通状態となる。これにより背圧室35内のオイルの圧力が降圧されて背圧力F2よりも付勢力F1の方が大きくなり、軸方向下方に押し下げる押下力がスリーブ26に作用する。こうした押下力をスリーブ26が受けることにより、スリーブ26は低圧段制御位置から軸方向の下方へ変位して、こうしたスリーブ26の変位によって、連通路21Cを通じた背圧室35と出口通路25との連通が遮断されることとなる。またスリーブ26の変位によってリリーフ孔29が弁体27よりも軸方向の下方に移動してリリーフ通路15が遮断されるとともに、こうしたスリーブ26と弁体27との相対的な変位によってスリーブ26の上端部26Aに弁体27が当接することとなる。
【0051】
こうしたリリーフ通路15の遮断によってポンプ13の吐出側における油圧が昇圧されると、コイルばね30の復元力に抗して弁体27が軸方向の下方にさらに変位することとなり、これに追従するかたちでスリーブ26も軸方向の下方へとさらに変位して、やがて高圧段制御位置に位置することとなる。こうした低圧段制御位置から高圧段制御位置への変位によって背圧室35の容積が縮小されると、背圧室35及び導出入通路41に内在していたオイルがその縮小された容積の分だけ排出通路43を通じてリリーフ通路15へと排出されることとなる。
【0052】
図5(b)に示されるように、スリーブ26が高圧段制御位置に位置するとスリーブ26のリリーフ孔29は、弁本体21の出口通路25の下部分で同出口通路25と連通する。機関回転速度の上昇にともなってポンプ13から吐出されるオイルの圧力が上昇し、やがてポンプ13の吐出側における油圧が高圧段の開弁圧に到達すると、弁体27は入口開口部24、流入孔28、リリーフ孔29、及び出口通路25を連通状態にする位置まで変位する。これにより、ポンプ13の吐出側における過剰なオイルがリリーフ通路15を通じてポンプ13の吸入側にリリーフされ、ポンプ13の吐出側における油圧が高圧段に保持されることとなる。つまり、切り替え弁40に対して通電が遮断されると、スリーブ26が高圧段制御位置に変位してスリーブ26のリリーフ孔29が弁本体21の出口通路25の下部分で連通した状態、すなわちコイルばね30のストロークが相対的に大きい状況でオイルがリリーフされることから、リリーフ弁20の開弁圧が高圧段となる。
【0053】
なお弁本体21に設けられた連通路21Cは、スリーブ26が低圧段制御位置に変位したことを受けて背圧室35と出口通路25とを連通させるかたちに構成されている。つまり開弁圧の切り替えに必要とされる背圧室35の昇圧が連通路21Cの開通に先駆けて開始されることとなり、その結果、背圧室35が昇圧され始めた状態から連通路21Cが開通することとなる。ちなみに、背圧室35と出口通路25とが常に連通するようなかたちに連通路が弁本体21に設けられた場合には、例えば連通路21Cの開口が中心軸Cを挟んで導出入孔36の開口と相対向する場合には、背圧室35に供給したオイルが随時出口通路25に流出してしまうこととなり、背圧室35における油圧が昇圧され難くなってしまう。この点、本実施形態であれば、スリーブ26が低圧段制御位置に配置される直前まで、背圧室35における連通路21Cの開口がスリーブ26の外周面によって遮断されており、背圧室35から出口通路25にはオイルが流出しないことから、背圧室35に供給されるオイルによって背圧室35の圧力がすばやく昇圧されることとなる。それゆえリリーフ弁20の開弁圧が高圧段から低圧段に切り替えられる際には、スリーブ26の変位に関わる応答性が維持されることにもなり、背圧室35における油圧の印加態様の切り替えが円滑に実行されることとなる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態における可変油圧システムによれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態によれば、リリーフ弁20が低圧段に制御されている場合に背圧室35と出口通路25とを連通される連通路21Cが設けられている。こうした連通路21Cを設けることにより、リリーフ弁20の開弁時には連通路21Cを流れるオイルを通じて、ポンプ13の吐出側の脈動が背圧室35へと伝播することとなる。そしてこの連通路21Cは、スリーブ26の頂面26Dに作用する油圧の脈動と、背圧面26Cに作用する油圧の脈動とが同位相となる態様で設けられている。こうすることによって、スリーブ26には、導出入孔36から流入してくるオイルの圧力に基づく力F2aと、伝播してきた脈動の圧力に基づく力であって付勢力F1の変動の位相に対して同位相の力である力F2bとの合力とが背圧力F2として作用する。これにより付勢力F1が背圧力F2の一部(F2b)によって効率よく相殺されることから、スリーブ26の振動を抑制することができ、ひいてはその振動による異音の発生を抑制することができる。
【0055】
(2)上記実施形態によれば、スリーブ26が低圧段制御位置に配置されることにより連通路21Cが開通することとなるため、連通路21Cの開通により開弁圧の切り替えがなされ難くなるといったことが確実に回避されることとなり、背圧室35における油圧の印加態様の切り替えがより円滑に実行されることとなる。
【0056】
(3)上記実施形態によれば、(1)式を満たす最短ルートRの距離Lの中でも最小の値となるように、連通路21Cの出口通路25における開口位置、及び、その開口位置に応じた連通路21Cの長さを規定した。こうすることにより、ポンプ13の吐出側における脈動を背圧室35に確実に伝播させることが可能となり、加えて、連通路21Cの複雑化やリリーフ弁20自体の大型化を回避することができる。
【0057】
(4)上記実施形態によれば、スリーブ26の位置に応じて開通と閉鎖とが切り替えられる連通路21Cが、スリーブ26を摺動可能に内装した弁本体21、つまりスリーブ26の摺動に関わる部材により構成されることから、背圧室35における油圧の印加態様の切り替えの円滑化がより簡便な構成の下で実現されることとなる。しかも連通路21Cがボア23の内面に開口を有しており、スリーブ26が低圧段制御位置であるか否かに応じてその開口の開放と閉鎖とがスリーブ26の周壁により切り替えられるかたちで連通路21Cが構成されている。それゆえ開弁圧の切り替えを行うスリーブ26が連通路21Cの開閉弁としても機能することから、開弁圧の切り替えが完了するタイミングと連通路21
Cが開通するタイミングとの同期がさらに簡便な構成により具現化されることとなる。
【0058】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、背圧室35と出口通路25とを連通させる連通路21Cが弁本体21に内設されるといった構成である。こうした構成に限らず、ポンプ13の吐出側における油圧の脈動と、背圧室35における油圧の脈動とが同位相になる態様でポンプ13の吐出側における油圧の脈動を背圧室35へ伝播させる連通路を設ける上では、図6に示されるように、連通路がボア23の内面に設けられた溝部21Eから構成されるものであってもより。さらには、図7に示されるように、連通路がスリーブ26の外周面に設けられた溝部26Eから構成されるものであってもよい。こうした構成であっても、上述した効果と同様の効果を得ることが可能である。
【0059】
・上実施形態では、最短ルートRの距離Lを算出する(1)式においてm=1となる距離Lを採用した。これに限らず、ポンプ13の吐出側における油圧の脈動と、背圧室35における油圧の脈動とを同位相にする上では、他の整数を用いて算出された距離Lを採用してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、最短ルートRの距離Lを上述した(1)式から算出し、算出された距離Lに基づき連通路21Cを形成した。これに限らず、付勢力F1の変動の位相と背圧力F2の変動の位相とを同位相とする上では、例えばその長さや断面形状が異なる連通路を有するリリーフ弁を実際に作製し、これらのスリーブの頂面と背圧面とに圧力センサを設けて、それらにおける圧力差の測定値が小さくなるかたちに連通路21Cの長さや形状が最適化される構成であってもよい。
【0061】
・上記実施形態においては、背圧室35における油圧の降圧(背圧室35の縮小)とともにスリーブ26が高圧段制御位置に変位し、背圧室35における油圧の昇圧(背圧室35の拡大)とともにスリーブ26が低圧段制御位置に変位するかたちにリリーフ弁20が構成されている。これを変更して、例えばスリーブ26の上端部と入口開口部24との間に背圧室が設けられ、この背圧室における油圧の降圧とともにスリーブが上動して低圧段制御位置に変位し、この背圧室における油圧の昇圧とともにスリーブが下動して高圧段制御位置に変位するかたちにリリーフ弁が構成されてもよい。こうした構成の場合には、開弁圧が高圧段に選択されているときに問題が生じるが、背圧室の昇圧によるスリーブの変位により背圧室とポンプの吸入側とが連通して、背圧室にリリーフされたオイルを通じて吐出脈動を伝播させることで、上述した効果と同様のものを得ることが可能となる。
【0062】
・上記実施形態では、スリーブ26への印加態様の切り替えが完了した位置、すなわち、スリーブ26が低圧段制御位置に位置している場合に連通路21Cが開通するように背圧室35に同連通路21Cを開口させた。これに限らず、背圧室35に導出入孔36を通じ流入してくるオイルによる圧力を保持することが可能であれば、スリーブ26が高圧段制御位置から低圧段制御位置へ変位を開始した直後から連通路21Cが開通するような位置に開口させる構成であってもよい。
【0063】
・上記実施形態においては、弁体支持部22Aとボア23との間の間隙(ボア23の底部に設けられた段差部)にスリーブ26の下端面である背圧面26Cが嵌装されるかたちで、その間隙に背圧室35が画成されている。これを変更して、例えばコイルばねを介して弁体27が入口開口部24に連結される構成であれば、弁体支持部22Aを閉止部材22から割愛して有底円筒状のスリーブを採用することが可能にもなり、こうしたスリーブの底面と上記閉止部材との間の間隙そのものによって背圧室35が構成されてもよい。こうした構成であれば、背圧室の形状に関してその簡素化が容易となるばかりか、背圧室における油圧を受ける面積が拡大することにもなり、スリーブの振動を確実に抑制すること
も可能である。
【0064】
・上記実施形態では、可動部材が円筒状のスリーブ26として具体化されているが、これに限らず、こうした可動部材の形状は、背圧室における油圧の印加態様に応じて開弁圧が切り替えられるべく変位可能となる構成であれば、例えば矩形筒状をなす構成やその他の形状にも具体化することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
λ…波長、C…中心軸、f…周波数、L…距離、R…最短ルート、v…音速、A1…面積、A2…面積、D1…外径、D2…内径、D3…外径、D4…内径、F1…付勢力、F2…背圧力、Ne…回転速度、T1…期間、T1…期間、F11…付勢力、F12…背圧力、F2a…力、F2b…力、10…可変油圧システム、11…オイルパン、12…供給通路、13…ポンプ、14…オイルストレーナ、15…リリーフ通路、20…リリーフ弁、21…弁本体、21C…連通路、21E…溝部、22…閉止部材、22A…弁体支持部、22B…ストッパ、23…ボア、24…入口開口部、25…出口通路、26…スリーブ、26A…上端部、26B…下端部、26C…背圧面、26D…頂面、26E…溝部、27…弁体、28…流入孔、29…リリーフ孔、30…コイルばね、35…背圧室、36…導出入孔、40…切り替え弁、41…導出入通路、42…導入通路、43…排出通路、45…電子制御装置、50…可変油圧システム、51…オイルパン、52…主供給通路、53…ポンプ、54…オイルストレーナ、55…リリーフ通路、60…リリーフ弁、61…弁本体、61a…ボア、62…閉止部材、62a…閉止部、63…収容室、64…入口通路、65…出口通路、66…スリーブ、66a…頂面、67…弁体、68…弁体摺動孔、69…リリーフ孔、70…コイルばね、71…背圧室、72…背圧通路、73…切り替え弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプの吐出側における油圧と背圧室における油圧とを相反する方向に受けてこれらの油圧に応じた変位により開弁圧を変更させる可動部材を有したリリーフ弁と、前記背圧室における油圧の印加態様を切り替える切り替え弁とを備え、
前記印加態様の切り替えにより前記開弁圧の圧力段を切り替えて供給対象への供給圧を変更する可変油圧システムであって、
前記リリーフ弁が、
前記背圧室の昇圧による前記可動部材の変位により前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通させる連通路を具備し、
前記連通路が、
前記ポンプの吐出側と前記ポンプの吸入側とが連通する前記リリーフ弁の開弁時に、前記ポンプの吐出側における油圧の脈動と、前記背圧室における油圧の脈動とが前記可動部材に対して同位相になる態様で前記ポンプの吐出側における油圧の脈動を前記背圧室へ伝播させる
ことを特徴とする可変油圧システム。
【請求項2】
前記連通路は、前記背圧室の昇圧により変位した前記可動部材が前記印加態様の切り替えが完了した位置にあることにより前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通させることを特徴とする請求項1に記載の可変油圧システム。
【請求項3】
前記可動部材における前記ポンプの吐出側と前記可動部材における前記背圧室側とを結ぶオイルの流路長をL、オイル中における音速をv、前記ポンプの吐出側における油圧の脈動の周波数をfとするとき、
前記連通路は、L=m×v/f(mは正の正数)を満たすこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の可変油圧システム。
【請求項4】
前記連通路が、L=v/fを満たすこと
を特徴とする請求項3に記載の可変油圧システム。
【請求項5】
前記可動部材が、弁本体のボア内に摺動可能に内装されて、前記開弁圧の圧力段に応じて規定された第1の位置と第2の位置との間で変位するスリーブであり、
前記背圧室は、前記スリーブにおける摺動方向の一端部により前記ボア内に画成されて、前記スリーブが前記第1の位置から前記第2の位置へ変位することによりその容積が拡大して、前記第2の位置から前記第1の位置へ変位することによりその容積が縮小するかたちに構成されており、
前記連通路は、前記スリーブ及び前記弁本体の少なくとも一方に設けられて、前記スリーブが前記第2の位置であることにより前記ポンプの吸入側と前記背圧室とを連通する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の可変油圧システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−238206(P2010−238206A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88436(P2009−88436)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】