説明

可撓性発熱体、発熱定着ベルトおよび定着装置

【課題】 所望の低く抑制された抵抗を有しながら屈曲耐性に優れ、かつ、長期間にわたって通電したときにも抵抗低下が抑制される可撓性発熱体、発熱定着ベルトおよび定着装置の提供。
【解決手段】 本発明の可撓性発熱体は、抵抗発熱層と、当該抵抗発熱層に給電するための一対の電極とを備える可撓性発熱体であって、前記抵抗発熱層が、イオン液体が含有されたポリイミド樹脂を含む樹脂に導電性物質が分散されてなるものであることを特徴とする。本発明の発熱定着ベルトは、上記の可撓性発熱体を有することを特徴とする。本発明の定着装置は、上記に記載の発熱定着ベルトが備えられてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成方法によって形成されたトナー像を画像支持体上に熱定着するための可撓性発熱体、およびこれを有する発熱定着ベルト、並びに当該発熱定着ベルトを備えた定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やレーザービームプリンターなどの画像形成装置においては、トナー現像後、普通紙などの画像支持体上に転写された未定着トナー像を定着させる方法として、熱ローラ方式で接触加熱定着する方法が多く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、熱ローラ方式の定着装置は、定着可能な温度まで昇温させるのに時間がかかり、かつ、多量の熱エネルギーを要する、という問題があり、電源投入からコピースタートまでの時間(ウォーミングアップタイム)の短縮と、省エネルギー化の観点から、近年は熱フィルム定着方式を採用することが主流になってきている。
【0004】
この熱フィルム定着方式の定着装置においては、ポリイミドなどよりなる耐熱性フィルムの外面にフッ素樹脂などの離型層が積層されてなるシームレスの定着ベルトが用いられている。
このような熱フィルム定着方式の定着装置においては、例えばセラミックヒーターを介して耐熱性フィルムが加熱され、その耐熱性フィルム表面においてトナー像が定着されるため、耐熱性フィルムの熱伝導性が重要なポイントとなるところ、当該耐熱性フィルムを薄膜化して熱伝導性の向上を図ると機械的強度が低下し、高速で回動させることが難しいために中速〜高速機に採用することが難しく、また、セラミックヒーターなどが破損しやすい、という問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、近年、定着ベルトそのものに発熱体を有する抵抗発熱層を組み込み、この抵抗発熱層に給電することにより定着ベルトを直接加熱し、トナー像を定着させる方式の定着装置が提案されている。この方式の定着装置が搭載された画像形成装置は、ウォーミングアップタイムが短く、消費電力も熱フィルム定着方式より小さく、省エネルギー化と高速化などの面から優れたものであるといえる。
このような定着ベルトの抵抗発熱層としては、耐熱性が高いことからポリイミド樹脂に導電性物質が分散されてなるものが用いられている(特許文献1参照)。
【0006】
このような抵抗発熱層が設けられた定着ベルト(発熱定着ベルト)において、低電圧で十分な発熱を得るために分散させる導電性物質を多量にすると、屈曲耐性に劣り、使用中に割れるおそれがある。
これを解消するために、通常、可塑剤を混合させることが行われている。
【0007】
しかしながら、可塑剤を混合させると得られる発熱定着ベルトの抵抗が、設計時の所望の抵抗よりも高くなってしまう、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−294604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発熱定着ベルトを発熱させるためには、当該発熱定着ベルトの抵抗発熱層がある程度の抵抗を有することが必要であるが、無用な消費電力の削減のために、抵抗発熱層の低抵抗化を図る設計がなされている。
すなわち、可塑剤が混合された抵抗発熱層は、屈曲耐性が得られる反面、設計時の所望の抵抗よりも高くなってしまうので、例えば、可塑剤を混合させないものよりも目標温度に到達する時間(立ち上げ時間)が長くなり、FCOT(ファーストコピータイム)が長くなってしまう。立ち上げ時間を可塑剤を混合させないものと同等にするためには、抵抗が高い分、印加電圧を上げることが必要になるが、結局、消費電力が増えてしまう。
このため、抵抗発熱層の低抵抗化を図る設計が重要となる。
【0010】
また、ポリイミド樹脂を用いた発熱定着ベルトにおいては、長期間にわたって通電した場合に、抵抗発熱層を構成するポリイミド樹脂の一部に変質が生じることに起因して、抵抗低下が生じる、という問題が新たに発見された。
【0011】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、所望の低く抑制された抵抗を有しながら屈曲耐性に優れ、かつ、長期間にわたって通電したときにも抵抗低下が抑制される可撓性発熱体、発熱定着ベルトおよび定着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の可撓性発熱体は、抵抗発熱層と、当該抵抗発熱層に給電するための一対の電極とを備える可撓性発熱体であって、
前記抵抗発熱層が、イオン液体が含有されたポリイミド樹脂を含む樹脂に導電性物質が分散されてなるものであることを特徴とする。
【0013】
本発明の可撓性発熱体においては、前記イオン液体が、下記一般式(CA)で表される4級アンモニウムカチオンと、下記一般式(AN)で表されるアニオンとからなるものであることが好ましい。
一般式(CA):R1 2 3 4 +
〔一般式(CA)中、R1 、R2 、R3 およびR4 は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、または、−(CH2 n −OR5 で表されるアルコキシアルキル基(ただし、R5 はメチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。)を示し、R1 、R2 、R3 およびR4 の少なくとも1つは前記アルコキシアルキル基であり、これらR1 、R2 、R3 およびR4 のいずれか2個の基が窒素原子と共に環構造(当該環構造中にその他のヘテロ原子を含んでいてもよい。)を形成していてもよい。〕
一般式(AN):(CH3 O)(R6 )PO2-
〔一般式(AN)中、R6 は、水素原子、メチル基またはメトキシ基を示す。〕
【0014】
また、本発明の可撓性発熱体においては、前記ポリイミド樹脂に対するイオン液体の含有割合が5〜20質量%であることが好ましい。
【0015】
本発明の発熱定着ベルトは、上記の可撓性発熱体を有することを特徴とする。
本発明の発熱定着ベルトにおいては、前記抵抗発熱層に、弾性層および離型層が積層され、その表面層が当該離型層から構成されてなることが好ましい。
【0016】
本発明の定着装置は、上記に記載の発熱定着ベルトが備えられてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の可撓性発熱体によれば、抵抗発熱層にイオン液体が含有されることによって、所望の低く抑制された抵抗が得られながら当該イオン液体が可塑剤として作用するので優れた屈曲耐性が得られ、かつ、抵抗発熱層に含有されたイオン液体のイオン性によって、長期間にわたる通電に起因して抵抗発熱層を構成するポリイミド樹脂の一部に変質が生じた場合にも導電経路の変化が抑制されるために、抵抗低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の定着装置の構成の一例を示す模式図であって、(a)は斜視図、(b)は横断面図である。
【図2】(a)は図1の定着装置の構成の一例を示す縦断面図、(b)は(a)における点線で囲った領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0020】
〔可撓性発熱体〕
本発明の可撓性発熱体は、イオン液体が含有されたポリイミド樹脂を含む樹脂に導電性物質が分散されてなる抵抗発熱層と、当該抵抗発熱層に給電するための一対の電極とを備えるものである。
このような可撓性発熱体は、例えば画像形成装置に搭載されるベルト方式の定着装置における発熱定着ベルトとして用いられる。
以下、このような発熱定着ベルトおよびこれを備える定着装置について説明する。
【0021】
〔定着装置〕
本発明の定着装置は、図1に示されるように、例えば、画像支持体Pにおけるトナー像が形成された一面に接する一方の定着用回転体22と、他方の定着用回転体である加圧ローラ26とが互いに圧接されてなるものであり、これら定着用回転体22および加圧ローラ26の圧接部によりニップ部Nが形成されている。
そして、画像支持体Pにおけるトナー像が形成された一面に接する一方の定着用回転体22は、無端状の本発明の発熱定着ベルト10を有し、この発熱定着ベルト10の内側にニップ部形成用ローラ22aが加圧ローラ26と当該発熱定着ベルト10を介して互いに圧接される状態に備えられてなるものである。
図1において、22bはニップ部形成用ローラ22aの軸であり、26bは加圧ローラ26の軸である。
【0022】
この例の定着装置20においては、加圧ローラ26の軸方向長さが、ニップ部形成用ローラ22aよりも短く構成されると共に、発熱定着ベルト10の軸方向長さとニップ部形成用ローラ22aの軸方向長さが略同等に構成されており、かつ、発熱定着ベルト10の中央部のみが加圧ローラ26と接触して圧接されており、加圧ローラ26と接触していない発熱定着ベルト10の両端部に、一対の電極12、12がそれぞれ設けられ、これらの電極12が給電部材12bを介して高周波電源29に接続されてなる。
【0023】
この定着装置20においては、トナー像がその一面に形成された画像支持体Pがニップ部Nに挟圧されながら搬送されることによって、当該トナー像が画像支持体P上に定着される。
【0024】
〔発熱定着ベルト〕
本発明の発熱定着ベルトは、図2に示されるように、少なくとも導電性物質が分散された樹脂よりなる抵抗発熱層15と、弾性層13と、離型層17とが積層され、抵抗発熱層15に給電するための一対の電極12が設けられてなる。
具体的には、無端状の抵抗発熱層15の表面上の軸方向の中央領域に周方向に全周にわたって弾性層13が形成され、さらにこの弾性層13の表面上に離型層17が形成されると共に、抵抗発熱層15の表面上における弾性層13が形成されていない領域、すなわち軸方向の両端部の領域に周方向に全周にわたって電極12が形成され、抵抗発熱層15の裏面上に、補強層11が設けられてなる。
補強層11は、必要に応じて設けられるものであって、本発明の発熱定着ベルト10には、必要に応じて、さらに他の機能層を設けることもできる。
図2(a)において、22cは、ニップ部形成用ローラ22aを回転させるための駆動ギアであり、12aはリード線である。
【0025】
〔抵抗発熱層〕
(樹脂)
本発明の発熱定着ベルト10に係る抵抗発熱層15を構成する樹脂は、ポリイミド樹脂を含むものであり、その他の樹脂も含んでいてもよい。
その他の樹脂としては、短期的耐熱性が200℃以上、長期的耐熱性が150℃以上である耐熱性樹脂であることが好ましく、このような耐熱性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリサルフォン樹脂(PSF)、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)などが挙げられる。
また、その他の樹脂として、上記の耐熱性樹脂以外の非耐熱性樹脂を含んでいてもよいが、非耐熱性樹脂の含有割合は抵抗発熱層15を構成する樹脂全体の40体積%未満であることが極めて好ましい。
【0026】
抵抗発熱層15を構成する樹脂におけるポリイミド樹脂の含有割合は、50体積%以上であることが好ましく、特に好ましくは100体積%である。
【0027】
(イオン液体)
本発明において、イオン液体とは、室温(25℃)において液体状の塩をいう。
本発明の発熱定着ベルト10に係る抵抗発熱層15を構成するイオン液体としては、粘度が比較的低いもの、具体的には例えば粘度が20〜250mP・sであるものを用いることが好ましい。
このような粘度のイオン液体を用いた発熱定着ベルト10によれば、製造工程においてポリイミド樹脂を合成するためのポリアミド酸と混合、分散し易いために、得られる抵抗発熱層15内にイオン液体が均一に存在されることとなるので優れた屈曲耐性が得られると共に長期間にわたる通電に係る抵抗低下が確実に抑制される。
【0028】
イオン液体の具体例としては、代表的には、分子性カチオンと分子性アニオンとから構成されるものが挙げられる。
【0029】
分子性カチオンとしては、具体的には、例えば、下記式(ca−1)〜(ca−3)で表されるイミダゾリウム誘導体、下記式(ca−4)で表されるピリジニウム誘導体、下記式(ca−5)で表されるピロリジニウム誘導体、下記式(ca−6)で表されるアンモニウム誘導体、下記式(ca−7)で表されるホスフォニウム誘導体、下記式(ca−8)で表されるグアニジニウム誘導体、下記式(ca−9)で表されるイソウロニウム誘導体、下記式(ca−10)で表されるチオウレア誘導体などを例示することができる。
【0030】
【化1】


〔式中、R7 は、炭素数が1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0031】
【化2】


〔式中、R8 、R9 は、少なくとも1つ以上が、炭素数が1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0032】
【化3】


〔式中、R10、R11、R12は、少なくとも1つ以上が、水素原子、炭素数が1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0033】
【化4】


〔式中、R13は、炭素数が1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。また、R14、R15、R16は、少なくとも1つが水素原子であり、残りが炭素数が1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0034】
【化5】


〔式中、R17、R18は、少なくとも1つ以上が、炭素数が1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0035】
【化6】


〔式中、R19、R20、R21、R22は、少なくとも1つ以上が、炭素数1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0036】
【化7】


〔式中、R23、R24、R25、R26は、少なくとも1つ以上が、炭素数1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0037】
【化8】


〔式中、R27、R28、R29、R30、R31、R32は、少なくとも1つ以上が、水素原子、炭素数1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0038】
【化9】


〔式中、R33、R34、R35、R36、R37は、少なくとも1つ以上が、水素原子、炭素数1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0039】
【化10】


〔式中、R38、R39、R40、R41、R42は、少なくとも1つ以上のRが、水素原子、炭素数1〜18の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アルコキシアルキル基または複素環式基を示す。〕
【0040】
分子性アニオンとしては、具体的には、例えば、下記式(an−1)〜(an−8)で表されるスルフェート類およびスルホン酸類、下記式(an−9)〜(an−11)で表されるアミド類およびイミド類、下記式(an−12)〜(an−13)で表されるメタン類、下記式(an−14)〜(an−20)で表されるホウ酸塩類、下記式(an−21)〜(an−28)および上記一般式(AN)で表されるリン酸塩類およびアンチモン類、下記式(an−29)〜(an−32)で表されるその他の塩類などを例示することができる。
【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
【化14】

【0045】
【化15】

【0046】
【化16】

【0047】
【化17】

【0048】
【化18】

【0049】
【化19】

【0050】
【化20】

【0051】
【化21】

【0052】
【化22】

【0053】
【化23】

【0054】
【化24】

【0055】
これらのイオン液体の中でも、特に上記式(ca−2)(ca−3)(ca−4)(ca−5)(ca−6)中の上記一般式(CA)で表される4級アンモニウムカチオンと、上記一般式(AN)で表されるアニオンとからなるものを用いることが好ましい。
【0056】
抵抗発熱層15におけるイオン液体の含有割合は、3〜30質量%であることが好ましく、特に好ましくは5〜20質量%である。
抵抗発熱層15におけるイオン液体の含有割合が上記の範囲にあることにより、当該抵抗発熱層15に十分な屈曲耐性が得られると共に、長期間にわたる通電に係る抵抗低下が確実に抑制される。一方、イオン液体の含有割合が過少である場合は、抵抗発熱層に屈曲耐性が満足に得られず、得られた発熱定着ベルトの使用中に抵抗発熱層が割れるなどの損傷が生じるおそれがあり、また、長期間にわたって通電した場合に抵抗が大きく低下するおそれもある。また、イオン液体の含有割合が過多である場合は、イオン液体が抵抗発熱層の表面に滲出してしまう、いわゆるブリードアウトが生じるおそれがある。
【0057】
(導電性物質)
抵抗発熱層15に分散される導電性物質の材料としては、例えば金、銀、鉄、アルミニウムなどの純金属、ステンレス、ニクロムなどの合金、または炭素、黒鉛などの非金属が挙げられ、導電性物質の形状としては、球状粉末状、不定形粉末状、扁平粉末状、繊維状などが挙げられる。
本発明の発熱定着ベルト10の抵抗発熱層15に分散される導電性物質としては、発熱性の観点から、繊維状の黒鉛であることが好ましい。
ここに、繊維状とは、長径(L)が短径(l)の4倍以上であるものをいう。
【0058】
これら繊維状の黒鉛の作製方法としては、公知の製造方法を採用することができる。すなわち、まず、ノズルから引き出して繊維状にした黒鉛を、さらに細くする必要がある場合には、必要に応じて加熱しながら延伸した後、200〜300度の温度で蒸し焼きにして炭化させ、炎に強い糸を作製し、次いで、1000〜3000度の高熱で蒸し焼きにする。このような過程を経ることにより、糸に含まれた炭素以外の不純物が抜け落ち、非常に強度が高い炭素の骨組み(分子構造)のものが得られる。このような過程を経て、まず、所望の導電性物質の短径(l)を有する糸を得、これを所定の長さ(長径(L))に切断することにより、目的とする繊維状の黒鉛を作製することができる。
【0059】
導電性物質の体積固有抵抗は、1×10-1Ω・m以下であることが好ましい。
導電性物質の体積固有抵抗は、繊維状のものである場合、当該導電性物質に一定電流I(A)を流し、距離Lだけ離れた電極間の電位差V(V)を測定し、下記式(1)から算出される。
式(1):体積固有抵抗ρv=(V・Wt)/IL
〔ただし、Wtは導電性物質の断面積である。〕
【0060】
繊維状の導電性物質の長径(L)は2〜1000μmであることが好ましく、また、短径(l)は0.5〜250μmであることが好ましい。
短径が0.5μm未満である場合は、抵抗発熱層15中に分散された導電性物質同士が接触したときにその接触抵抗が過剰に大きくなり、抵抗発熱層15全体の抵抗値を十分に低下させることができないことがあり、また、短径が250μmを超える場合は、導電性物質の抵抗発熱層15中における分散性が低いものとなり、通電抵抗に局部的なバラツキが生じるおそれがある。また、長径が2μm未満である場合は、電荷の導通路が形成されにくく、長径が1000μmを超える場合は、抵抗発熱層15中に必ずしも長く伸びた形では存在することができず、抵抗発熱層の通電抵抗に局部的バラツキが生じるおそれがある。
【0061】
以上において、繊維状の導電性物質の長径(L)および短径(l)は、走査型電子顕微鏡写真を用いて500倍に拡大した写真を撮影し、これをスキャナーにて取り込んだ画像から、任意の500個のサンプルについてそれぞれ長径および短径を測定し、算出される平均値である。
【0062】
抵抗発熱層15における導電性物質の含有量は、5〜60質量%とされる。
【0063】
抵抗発熱層15の厚みは、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは30〜200μmである。
【0064】
抵抗発熱層15の体積抵抗率は、8×10-6〜1×10-2Ω・mであることが好ましい。
【0065】
抵抗発熱層15の体積抵抗率は、発熱定着ベルト10の円周方向全周の両端部に導電テープによって電極を設け、その両端の抵抗値を測定し、下記式(2)によって算出される。
式(2):体積抵抗率ρ=(R・d・W)/L
〔ただし、Rは抵抗値(Ω)、dは抵抗発熱層15の厚み(m)、Wは発熱定着ベルト10の円周方向の長さ(m)、Lは電極間の長さ(m)である。〕
【0066】
〔電極〕
本発明の発熱定着ベルト10に設けられる電極12は、層状のものとされ、具体的には、電鋳加工、へら絞り加工、プレス絞り加工などによって形成されたリング状の電極部材、または、金属シートをレーザ溶接などによってリング状に加工された電極部材を、抵抗発熱層15の形成工程においてポリイミド樹脂を生成させるための焼成前のベルト状前駆体または焼成後の抵抗発熱層15に取り付けることにより形成してもよく、また、導電性テープを貼り付けることにより形成してもよい。
電極12を形成するための電極部材は、抵抗発熱層15との接着性を向上させるために、抵抗発熱層15との接触箇所をエッチング加工、レーザによる孔あけ加工などによって孔を形成してもよい。電極部材と抵抗発熱層15との接点は一点有ればよいが、通電安定性を考慮すると、周方向に全周にわたって接触されるよう形成されていることが好ましい。
【0067】
電極12を形成するための電極部材としては、特に限定されないが、Ni、SUS、Alなどの電気抵抗率が低く、耐熱性、耐酸化性に優れた材料よりなるものを用いることが好ましい。
【0068】
電極12を形成するための電極部材の厚みは、厚いほど剛性が高くなるので耐破壊性に優れるが、変形し難いことに起因して、加圧ローラ26との圧接部によるニップ部Nを形成し難くなることから、柔軟性とのバランスを考慮すると、好ましくは10〜100μm、より好ましくは30〜60μmである。
【0069】
給電部材12bとしては、例えば銅黒鉛質、炭素黒鉛質などからなる種々のカーボンブラシを用いることができる。
【0070】
抵抗発熱層15への給電は、例えば高周波電源29から、束線やハーネスを経由して、給電部材12b、電極12を介してなされる。
給電部材12bから電極12への給電は、例えば給電部材12bを電極12のみに接触させることによりなされる。具体的な接触方法としては、摺動接触方法やコロなどを用いた回転接触方法などが挙げられる。
給電部材12bと電極12との接触荷重は、導通が確保され、かつ、発熱定着ベルト10の駆動において過剰なストレスとならない程度の荷重であればよい。
【0071】
〔弾性層〕
本発明の発熱定着ベルト10を構成する弾性層13は、例えば、弾性を有する耐熱性樹脂などからなるものとされる。
弾性を有する耐熱性樹脂としては、例えばシリコーンゴム、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素添加NBR(H−NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、クロロプレンゴム(CR)、塩素化ポリエチレン(Cl−PE)、エピハロヒドリンゴム(ECO,CO)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンポリマー(EPDM)、フッ素ゴム、アクリルゴム(ACM)などが例示される。これらの中でも、CR、ECO、シリコーンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴムを用いることが好ましい。
【0072】
弾性層13の厚みは、50〜300μmであることが好ましく、より好ましくは100〜200μmである。
【0073】
〔離型層〕
本発明の発熱定着ベルト10を構成する離型層17は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などからなるものとされる。
【0074】
離型層17の厚みは、1〜20μmであることが好ましく、より好ましくは2〜10μmである。
【0075】
〔補強層〕
本発明の発熱定着ベルト10を構成する補強層11は、必要に応じて設けられるものであって、この補強層11は、耐熱性樹脂からなるものとされる。
補強層11を構成する耐熱性樹脂としては、上述の抵抗発熱層15を構成する樹脂として挙げたものを挙げることができる。
【0076】
補強層11の厚みは、20〜100μmであることが好ましく、より好ましくは30〜80μmである。
【0077】
以上のような発熱定着ベルト10によれば、抵抗発熱層15にイオン液体が含有されることによって、所望の低く抑制された抵抗が得られながら当該イオン液体が可塑剤として作用するので優れた屈曲耐性が得られ、かつ、抵抗発熱層15に含有されたイオン液体のイオン性によって、長期間にわたる通電に起因して抵抗発熱層15を構成するポリイミド樹脂の一部に変質が生じた場合にも導電経路の変化が抑制されるために、抵抗低下が抑制される。
【0078】
〔発熱定着ベルトの形成方法〕
以上のような発熱定着ベルト10は、公知の種々の方法を用いて形成することができるが、例えば抵抗発熱層15を以下のように形成させることが好ましい。
【0079】
具体的には、
(1)抵抗発熱層15を形成するための塗布液として、ポリアミド酸およびイオン液体を混合し、これに導電性物質を添加して分散させたポリアミド酸ドープ液を調製するポリアミド酸ドープ液調製工程、
(2)補強層11上に、ポリアミド酸ドープ液を塗布、乾燥してベルト状前駆体を得るベルト状前駆体作製工程、
(3)ベルト状前駆体を焼成してポリイミド樹脂を生成させるイミド化反応工程
から構成される。
補強層11、電極12、弾性層13、離型層17は、それぞれ、適宜の方法によって形成させることができる。
【0080】
(1)ポリアミド酸ドープ液調製工程
このポリアミド酸ドープ液調製工程は、芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミンとを縮重合することにより、ポリアミド酸を合成し、これに導電性物質を分散させる工程である。
具体的には、ポリアミド酸の良溶媒からなる溶媒中で縮重合を行い、ポリアミド酸が溶解されたポリアミド酸溶液を得る。
【0081】
ポリアミド酸の良溶媒とは、当該ポリアミド酸を、25℃において20質量%以上の濃度で均一に溶解することができる溶媒をいう。このような良溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルスルホルアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホンなどのスルホン類などの有機極性溶媒を挙げることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上を併用してもよい。
良溶媒としては、N−メチルピロリドンを用いることが好ましい。
【0082】
使用する良溶媒の量は、縮重合後に得られるポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度が例えば2〜50質量%の範囲内になるような量であればよい。
【0083】
芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミンとを縮重合させる方法としては、公知の種々の方法を採用することができる。具体的には、例えば、芳香族テトラカルボン酸と芳香族ジアミンとをほぼ等モルで用い、溶媒中において、100℃以下、好ましくは0〜80℃の温度範囲にて0.1〜60時間縮重合する方法が挙げられる。
【0084】
〔芳香族テトラカルボン酸〕
ポリアミド酸の合成に用いられる芳香族テトラカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、芳香族テトラカルボン酸、その酸無水物、その塩およびエステル化物、並びにそれらの混合物を挙げることができ、特に芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物を用いることが好ましい。
芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物の具体例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物および9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物などを挙げることができる。これらの中でも、特に、ピロメリット二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、オキシジフタル酸無水物(ODPA)などが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を併用してもよい。
【0085】
芳香族テトラカルボン酸の使用量は、芳香族テトラカルボン酸:芳香族ジアミンがモル比で0.85:1〜1.2:1である量であることが好ましい。
【0086】
ポリアミド酸は、数平均分子量が1,000以上であることが好ましく、より好ましくは2,000〜500,000であり、特に好ましくは5,000〜150,000である。
【0087】
ポリアミド酸の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものである。具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×10、2.1×10、4×10、1.75×10、5.1×10、1.1×10、3.9×10、8.6×10、2×10、4.48×10のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成した。また、検出器には屈折率検出器を用いた。
【0088】
〔芳香族ジアミン〕
ポリアミド酸の合成に用いられる芳香族ジアミンとしては、特に限定されず、例えば、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなどを挙げることができる。これらの中でも、特に、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)などが好ましい。
これらは、1種単独でまたは2種以上を併用してもよい。
【0089】
ポリアミド酸ドープ液は、上記のように得られたポリアミド酸溶液に導電性物質を溶解または分散させると共に必要に応じて導電剤、界面活性剤、粘度調整剤などの添加剤を含有させ、必要に応じて、希釈用の溶媒を添加して濃度および粘度を調整することにより、調製される。
【0090】
ポリアミド酸ドープ液における全溶媒の量は、20〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜70質量%である。
【0091】
また、ポリアミド酸ドープ液の粘度は、所望の厚みを有する抵抗発熱層15が得られる限り特に制限されず、例えば10cp〜10,000cpとされる。
【0092】
界面活性剤および粘度調整剤などの添加剤としては、最新ポリイミド−基礎と応用―(日本ポリイミド研究会編(NTS出版)および最新ポリイミド材料と応用技術(監修;柿本雅明、CMC出版)に記載の物質が使用できる。
【0093】
ポリアミド酸ドープ液に溶解しない導電性物質および/または添加剤を含有させる場合には、ポリアミド酸ドープ液に対して、均一な分散を達成する手段を用いることが好ましい。例えば、撹拌羽根による混合、スタチックミキサーによる混合、1軸混練機や2軸混練機による混合、ホモジナイザーによる混合、超音波分散機による混合など、公知の混合機を用いて混合・分散するとよい。
【0094】
(2)ベルト状前駆体作製工程
このベルト状前駆体作製工程は、例えばキャスト法によって、ポリアミド酸ドープ液を補強層11上に塗布した後、溶媒を蒸発させて除去することによりベルト状前駆体を作製する工程である。
【0095】
ポリアミド酸ドープ液を補強層11上に塗布する方法としては、バーコーター、ドクターブレード、スライドホッパー、スプレーコート、スパイラル塗布、Tダイ押出しなどの薄膜化手段を用いることができる。
【0096】
溶媒を蒸発させるための乾燥温度は、後述するイミド化開始温度より低い温度であって、溶媒が蒸発し得る温度であれば特に制限されず、例えば、40〜280℃、好ましくは80〜260℃であり、より好ましくは120〜240℃、特に好ましくは120〜220℃である。
この乾燥は、乾燥後のベルト状前駆体の溶媒含有量がベルト状前駆体の形成に適した程度となるまで行えばよい。
【0097】
(3)イミド化反応工程
このイミド化反応工程は、ベルト状前駆体を特定の焼成温度において所定時間にわたって焼成することによりポリアミド酸をイミド化して、ポリイミド樹脂による抵抗発熱層15を形成させると共に電極12を当該抵抗発熱層15に接着させる工程である。
【0098】
イミド化反応に係る特定の焼成温度は、イミド化開始温度であって、通常280℃以上、好ましくは280〜400℃、より好ましくは300〜380℃、特に好ましくは330〜380℃とされる。
また、焼成時間は、通常10分間以上、好ましくは30〜240分間である。
【0099】
〔画像形成装置〕
本発明の定着装置は、公知の種々の構成を有する画像形成装置に搭載することができる。
【0100】
〔画像支持体〕
本発明の定着装置を用いた画像形成方法において、トナー像を定着させる画像支持体Pとしては、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙あるいはコート紙などの塗工された印刷用紙、市販されている和紙やはがき用紙、OHP用のプラスチックフィルム、布などの各種を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、発熱定着ベルト10を構成する抵抗発熱層15と弾性層13との層間には、接着性を安定させる目的から、プライマー層を形成させることができる。このプライマー層の厚みは、例えば2〜5μmとされる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0103】
〔実施例1〕
(1)抵抗発熱層を作製するためのポリアミド酸ドープ液の調製
ポリアミド酸「U−ワニスS301」(宇部興産社製)100gと、導電性物質として黒鉛繊維「XN−100」(日本グラファイトファイバー社製)18gと、下記式(ア)で表されるイオン液体〔ア〕2gとを、遊星方式の混合機で十分に混合することにより、イオン液体を含有するポリアミド酸ドープ液〔1〕を得た。
【0104】
【化25】

【0105】
(2)補強層および抵抗発熱層の作製
外径30mm、全長345mmのステンレス管に、ポリアミド酸「U−ワニスS301」(宇部興産社製)を膜厚500μmで塗布した後、塗布物を120℃で20分間乾燥して補強層の前駆体を得、この補強層上に上記のイオン液体を含有したポリアミド酸ドープ液〔1〕を膜厚500μmで塗布し、その後、150℃で3時間乾燥してベルト状前駆体を得、これを窒素雰囲気下、320℃で120分間乾燥してイミド化させることにより、補強層および抵抗発熱層を形成して、無端状のポリイミド樹脂ベルトからなる積層構造体〔A1〕を作製した。
【0106】
(3)弾性層の作製
上記の積層構造体〔A1〕上に、プライマー「X331565」(信越化学社製)をはけ塗りし、常温で30分間乾燥させてプライマー層を形成した後、シリコーンゴム「KE1379」(信越化学社製)の液状ゴムおよびシリコーンゴム「DY356013」(東レダウコーニングシリコーン社製)2液を予め2:1の割合で混合した組成物を、プライマー層上に200μmの厚みとなるよう塗布し、150℃で30分間加熱して一次加硫し、さらに200℃で4時間加熱してポスト加硫を行ってプライマー層上に弾性層を形成して、積層構造体〔A1〕上に弾性層が設けられた積層構造体〔A2〕を形成した。この弾性層の硬度は26度であった。
【0107】
(4)離型層の作製
積層構造体〔A2〕の弾性層の表面を洗浄した後、フッ素樹脂(B)として、PTFE樹脂ディスパージョン「30J」(デュポン社製)中に、積層構造体〔A2〕を回転させながら3分間浸漬した後、取り出し、常温で20分間乾燥し、次いで、弾性層の表面のフッ素樹脂を布で拭き取り、さらに、フッ素樹脂(A)として、PTFE樹脂とPFA樹脂を7:3の割合で混合し、固形分濃度45%、粘度:110mPa・sに調整したフッ素樹脂ディスパーション「855−510」(デュポン社製)を、フッ素樹脂(B)による層上に最終の厚さで15μmとなるようにコーティングし、室温で30分間乾燥後、230℃で30分間加熱した。その後、炉内温度が270℃に設定した内径100mmの管状炉内を、約10分で通過させ、フッ素樹脂を焼成により形成し、冷却して、積層構造体〔A2〕の弾性層上に離型層を形成することにより、積層構造体〔A3〕を形成した。
【0108】
(5)電極の作製
上記の積層構造体〔A3〕における抵抗発熱層の両端部の周面に、全周にわたって、幅10cm、厚さ2mmの導電性テープ「CU−35C」(3M社製)を貼り付けることにより、電極を形成して、発熱定着ベルト〔1〕を得た。その後、ステンレス管から発熱定着ベルト〔1〕を分離した。
【0109】
〔実施例2,3〕
実施例1において、ポリアミド酸ドープ液に含有させたイオン液体〔ア〕の含有量を、それぞれ、0.9g、3.6gに変更したことの他は全て同様にして、発熱定着ベルト〔2〕,〔3〕を得た。
【0110】
〔実施例4〜7〕
実施例1において、ポリアミド酸ドープ液に含有させるイオン液体として、それぞれ、下記式(イ)〜式(オ)で表されるイオン液体〔イ〕〜〔オ〕に変更したことの他は全て同様にして、発熱定着ベルト〔4〕〜〔7〕を得た。
【0111】
【化26】

【0112】
【化27】

【0113】
【化28】

【0114】
【化29】

【0115】
〔実施例8,9〕
実施例7において、ポリアミド酸ドープ液に含有させるイオン液体〔オ〕の含有量を、それぞれ0.54g、4.5gに変更したこと以外は全て同様にして、発熱定着ベルト〔8〕,〔9〕を得た。
【0116】
〔比較例1〕
実施例1において、イオン液体を用いなかったことの他は同様にして、発熱定着ベルト〔10〕を得た。
【0117】
〔比較例2〕
実施例1において、イオン液体の代わりに、可塑剤「フタル酸ジオクチル」(三協化学株式会社製)2gを用いたことの他は同様にして、発熱定着ベルト〔11〕を得た。
【0118】
<性能評価>
以上の発熱定着ベルト〔1〕〜〔11〕を用いて、屈曲耐性および通電抵抗の変化について評価した。結果を表1に示す。
屈曲耐性については、MIT形耐折度試験機「ASTM−D2176」(安田精機製作所社製)を用いて、荷重:9.8N、折り曲げ角度:90度、折り曲げ速度:175回/分の条件で測定した。なお、屈曲耐性について、50,000回以上である場合を合格とする。
また、通電抵抗の変化については、具体的には、230Vの電圧を100時間にわたってかけ、通電開始時の抵抗(R0 )、および、通電開始から100時間後の抵抗(R1 )を測定し、長期通電時の抵抗低下の指標として下記式(δ)に従って長期抵抗変化を算出した。なお、3%以内である場合を合格とする。
式(δ):(R1 /R0 )×100
【0119】
【表1】

【符号の説明】
【0120】
10 発熱定着ベルト
11 補強層
12 電極
12a リード線
12b 給電部材
13 弾性層
15 抵抗発熱層
17 離型層
20 定着装置
22 定着用回転体
22a ニップ部形成用ローラ
22b 軸
22c 駆動ギア
26 加圧ローラ
26b 軸
29 高周波電源
N ニップ部
P 画像支持体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱層と、当該抵抗発熱層に給電するための一対の電極とを備える可撓性発熱体であって、
前記抵抗発熱層が、イオン液体が含有されたポリイミド樹脂を含む樹脂に導電性物質が分散されてなるものであることを特徴とする可撓性発熱体。
【請求項2】
前記イオン液体が、下記一般式(CA)で表される4級アンモニウムカチオンと、下記一般式(AN)で表されるアニオンとからなるものであることを特徴とする請求項1に記載の可撓性発熱体。
一般式(CA):R1 2 3 4 +
〔一般式(CA)中、R1 、R2 、R3 およびR4 は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、または、−(CH2 n −OR5 で表されるアルコキシアルキル基(ただし、R5 はメチル基またはエチル基を示し、nは1または2である。)を示し、R1 、R2 、R3 およびR4 の少なくとも1つは前記アルコキシアルキル基であり、これらR1 、R2 、R3 およびR4 のいずれか2個の基が窒素原子と共に環構造(当該環構造中にその他のヘテロ原子を含んでいてもよい。)を形成していてもよい。〕
一般式(AN):(CH3 O)(R6 )PO2-
〔一般式(AN)中、R6 は、水素原子、メチル基またはメトキシ基を示す。〕
【請求項3】
前記ポリイミド樹脂に対するイオン液体の含有割合が5〜20質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可撓性発熱体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の可撓性発熱体を有することを特徴とする発熱定着ベルト。
【請求項5】
前記抵抗発熱層に、弾性層および離型層が積層され、その表面層が当該離型層から構成されてなることを特徴とする請求項4に記載の発熱定着ベルト。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の発熱定着ベルトが備えられてなることを特徴とする定着装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−54291(P2013−54291A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193957(P2011−193957)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】