説明

可撓性耐熱被覆電線

【課題】耐熱性と可撓性に優れ、内燃機関のトランスミッションオイルまたはエンジンオイルに接触する環境で好適に使用される被覆電線を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂と動的架橋されたフッ素ゴムとの複合体を被覆層として有する可撓性耐熱被覆電線。被覆層を構成するフッ素樹脂と架橋フッ素ゴムとの複合体の調製は、フッ素樹脂と未架橋フッ素ゴムとを混練しながら架橋する方法(動的架橋法)が採用される。動的架橋法は、フッ素樹脂およびフッ素ゴムを混合し、フッ素樹脂およびフッ素ゴムが溶融する温度下で混練しながらフッ素ゴムを架橋する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂と動的架橋されたフッ素ゴムとの複合体を被覆層として有する可撓性耐熱被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性および柔軟性(可撓性)が求められる電線(特に自動車エンジン周りの耐熱耐油電線)の絶縁被覆材として、フッ素ゴムが使用されている。しかし、電線成形後のフッ素ゴムはまだ架橋されておらず強度が極めて低いため、成形後に別途架橋工程が必要である。通常この架橋反応には、高温加熱による化学架橋、または電子線照射などによる放射線架橋(特許文献1〜3)が用いられるが、前者は架橋時間が長いほか発泡が生じやすいなどの問題があり、後者は特殊で高価な装置を使用しなければならないなどの問題がある。またいずれの架橋方法も電線成形後の別工程となるので、工程が増えるという点からも、生産性を下げコストアップの要因となっていた。
【0003】
【特許文献1】特開昭59−139506号公報
【特許文献2】特公平2−36136号公報
【特許文献3】特開2001−176336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、少ない工程数で製造できる可撓性に優れた耐熱被覆電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、フッ素樹脂と動的架橋されたフッ素ゴムとの複合体を被覆層として有する可撓性耐熱被覆電線に関する。
【0006】
本発明の被覆電線は、内燃機関のトランスミッションオイルまたはエンジンオイルに接触する環境で使用される被覆電線、または自動車のオートマチックトランスミッション内またはエンジンのオイルパン内で使用される被覆電線として好適である。
【0007】
前記フッ素樹脂が非パーフルオロ樹脂であり、フッ素ゴムがフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体またはフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体であることが、架橋フッ素ゴム粒子の分散性が良好な点から好ましい。
【0008】
また前記フッ素樹脂とフッ素ゴムの質量比は、75/25〜25/75であることが、柔軟性と機械強度が共に良好な点から好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被覆電線は、耐熱性と共に可撓性に優れており、成形前に既に架橋されていることから、成形後の架橋工程が不要となり、経済的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、フッ素樹脂と動的架橋されたフッ素ゴムとの複合体を被覆層として有する可撓性耐熱被覆電線に関する。なお、ここでいう被覆層とは、電線の絶縁被覆体、および単数または複数の電線を束ねたものの外層を取り巻くジャケット層の両方を指す。
【0011】
フッ素樹脂としては、特に限定されるものではないが、少なくとも1種の含フッ素エチレン性重合体を含むフッ素樹脂であることが好ましい。含フッ素エチレン性重合体は少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体由来の構造単位を有することが好ましい。含フッ素エチレン性単量体由来の構造単位を有すると、耐熱性、耐薬品性、電気特性などが良好になる。
【0012】
含フッ素エチレン性単量体としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3および/または−ORf2;Rf2は、炭素原子数1〜5のパーフルオロアルキル基)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物などのパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニリデン(VdF)、フッ化ビニル、式:
CH2=CX2(CF2n3
(式中、X2は、水素原子またはフッ素原子;X3は、水素原子、フッ素原子または塩素原子;nは、1〜10の整数)などのフルオロオレフィンなどをあげることができる。
【0013】
そして、含フッ素エチレン性重合体は前記含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の構造単位を有してもよく、このような単量体としては、前記フルオロオレフィン、パーフルオロオレフィン以外の非フッ素エチレン性単量体をあげることができる。非フッ素エチレン性単量体の選定は、当業者に周知のそれぞれの非フッ素エチレン性単量体が付与できる特性や機能を考慮して、用途に合わせて行なえばよい。
【0014】
非フッ素エチレン性単量体の具体例としては、例えば、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;アルキルビニルエーテル類などをあげることができる。ここで、アルキルビニルエーテルは、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルをいう。
【0015】
これらの中でも、得られるフッ素樹脂組成物の耐熱性・耐薬品性・耐油性が優れ、かつ成形加工性が容易になる点から、含フッ素エチレン性重合体として、つぎの(1)〜(6)が特に好ましいものとして例示できるが、これらに限定されるものではなく、目的用途に応じて使用すればよい。
【0016】
(1)TFEとエチレンからなるエチレン−TFE共重合体(以下、ETFEともいう)
ETFEの場合、力学物性や燃料バリア性、架橋容易性などが発現する点で好ましい。TFE単位とエチレン単位との含有モル比は(20〜90)/(80〜10)が好ましく、(37〜85)/(63〜15)がより好ましく、(38〜80)/(62〜20)が特に好ましい。また、第3成分を含有していてもよく、第3成分としてはTFEおよびエチレンと共重合可能なものであればその種類は限定されない。第3成分としては、通常、式:
CH2=CX4f3、CF2=CFRf3、CF2=CFORf3、CH2=C(Rf32
(式中、X4は水素原子またはフッ素原子;Rf3はエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいフルオロアルキル基)で示されるモノマーが用いられ、これらの中でも、CH2=CX4f3で示される含フッ素ビニルモノマーがより好ましく、Rf3の炭素数が1〜8のモノマーが特に好ましい。
【0017】
前記式で示される含フッ素ビニルモノマーの具体例としては、1,1−ジヒドロパーフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロパーフルオロブテン−1、1,1,5−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,7−トリヒドロパーフルオロへプテン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロヘキセン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロオクテン−1、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロブテン−1、3,3,3−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)プロペン−1、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH2=CFCF2CF2CF2H)があげられる。
【0018】
第3成分の含有量は、含フッ素エチレン性重合体に対して0.1〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましく、0.2〜4モル%が特に好ましい。
【0019】
(2)TFE、エチレンおよび式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は−CF3および/または−ORf2;Rf2は炭素原子数1〜5のパーフルオロアルキル基)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるエチレン−TFE−HFP共重合体、エチレン−TFE−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体などのエチレン−TFE−パーフルオロエチレン性不飽和化合物共重合体
【0020】
(3)ポリフッ化ビニリデン(PVdF)
【0021】
(4)CTFEとエチレンからなるエチレン−CTFE共重合体(以下、ECTFEともいう
【0022】
(5)TFEと前記式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるTFE−PAVE共重合体(PFA)またはTFE−HFP共重合体(FEP)
PFAまたはFEPの場合、前記の作用効果においてとりわけ耐熱性が優れたものとなり、また前記の作用効果に加えて優れた燃料バリア性、耐薬品性、電気特性が発現する点で好ましい。特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%と式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%と式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。また、TFEおよび式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなる含フッ素エチレン性重合体は、第3成分を含有していてもよく、第3成分としてはTFEおよび式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物と共重合可能なものであればその種類は限定されない。
【0023】
(6)CTFE、TFE、さらに要すれば前記式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるCTFE−TFE−パーフルオロエチレン性不飽和化合物共重合体
CTFE−TFE系共重合体の場合、CTFE単位とTFE単位の含有モル比は、CTFE/TFE=(2〜98)/(98〜2)であることが好ましく、(5〜90)/(95〜10)であることがより好ましい。CTFE単位が2モル%未満であると薬液不透過性が悪化しまた溶融加工が困難になる傾向があり、98モル%をこえると成形時の耐熱性、耐薬品性が悪化する場合がある。また、パーフルオロエチレン性不飽和化合物を共重合することが好ましく、CTFE単位とTFE単位の合計に対して、パーフルオロエチレン性不飽和化合物単位は0.1〜10モル%であり、CTFE単位およびTFE単位は合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。パーフルオロエチレン性不飽和化合物単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性および耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0024】
これらのなかでも、特に架橋が容易なことから、(1)〜(4)で表される非パーフルオロ樹脂が好ましい。
【0025】
数平均分子量は用途などによって異なるが、例えば機械物性と成形加工性が良好な点で1000〜1000000、さらには5000〜500000の範囲のものが好ましい。
【0026】
動的架橋されたフッ素ゴムを構成するフッ素ゴムとしては、フッ素樹脂との組成物に適切な弾性と柔軟性(可撓性)を与えることができるもので動的架橋可能なフッ素ゴムであれば特に限定されない。
【0027】
好適なフッ素ゴムとしては、例えばテトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライドおよび式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は−CF3または−ORf2(Rf2は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基))で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体に由来する構造単位を含むことが、ゴム弾性体としての性質をもつ粒子が得られる点から好ましい。
【0028】
フッ素ゴムとしてはまた、非パーフルオロフッ素ゴムおよびパーフルオロフッ素ゴムが好ましい。
【0029】
非パーフルオロフッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、またはフルオロホスファゼン系フッ素ゴムなどが挙げられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組合わせて用いることができる。これらの中でも、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムや、テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムがより好適である。
【0030】
具体的には、上記VdF系ゴムは、VdF繰り返し単位が、VdF繰り返し単位とその他の共単量体に由来する繰り返し単位との合計モル数の20モル%以上、90モル%以下が好ましく、40モル%以上、85モル%以下であることがより好ましい。さらに好ましい下限は45モル%、特に好ましい下限は50モル%であり、さらに好ましい上限は80モル%である。
【0031】
そして、上記VdF系ゴムにおけるその他の単量体としてはVdFと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、TFE、HFP、PAVE、CTFE、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、フッ化ビニル、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテルなどのフッ素含有単量体;エチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル等のフッ素非含有単量体などがあげられ、これらのフッ素含有単量体およびフッ素非含有単量体のなかから1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。前記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましく、特にパーフルオロ(メチルビニルエーテル)が好ましい。
【0032】
上記VdF系ゴムとしては、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/TFE/Pr共重合体、またはVdF/Et/HFP共重合体が好ましく、また、その他の単量体として、TFE、HFP、および/またはPAVEを有するものであることがより好ましく、特には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、またはVdF/HFP/TFE/PAVE共重合が好ましい。
【0033】
VdF/HFP共重合体は、VdF/HFPの組成が、(45〜85)/(55〜15)(モル%)であることが好ましく、より好ましくは(50〜80)/(50〜20)(モル%)であり、さらに好ましくは(60〜80)/(40〜20)(モル%)である。
【0034】
VdF/HFP/TFE共重合体は、VdF/HFP/TFEの組成が(30〜80)/(10〜35)/(4〜35)(モル%)のものが好ましい。
【0035】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEの組成が(65〜90)/(35〜10)(モル%)のものが好ましい。
【0036】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEの組成が(40〜80)/(3〜40)/(15〜35)(モル%)のものが好ましい。
【0037】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合としては、VdF/HFP/TFE/PAVEの組成が(40〜90)/(0〜25)/(0〜40)/(3〜35)(モル%)のものが好ましく、(40〜80)/(3〜25)/(3〜40)/(3〜25)(モル%)のものがより好ましい。
【0038】
TFE/プロピレン系フッ素ゴムとは、TFE45〜70モル%、プロピレン55〜30モル%からなる含フッ素共重合体をいう。これら2成分に加えて、特定の第3成分(例えばPAVE)を0〜40モル%含んでいてもよい。
【0039】
パーフルオロフッ素ゴムとしては、TFE/PAVEからなるものなどが挙げられる。TFE/PAVEの組成は、(50〜90)/(50〜10)(モル%)であることが好ましく、より好ましくは、(50〜80)/(50〜20)(モル%)であり、さらに好ましくは、(55〜75)/(45〜25)(モル%)である。
【0040】
この場合のPAVEとしては、例えばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)などが挙げられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0041】
また、フッ素ゴムは数平均分子量1000〜1200000のものが好ましく、5000〜900000のものがさらに好ましい。分子量が1000未満であると架橋が効率よく進行せず得られるフッ素樹脂との組成物の機械物性が劣る傾向があり、分子量が1200000以上であるとフッ素ゴムの生産性の問題から経済性に劣る。
【0042】
以上説明した非パーフルオロフッ素ゴムおよびパーフルオロフッ素ゴムは、乳化重合、懸濁重合、溶液重合などの常法により製造することができる。特にヨウ素(臭素)移動重合として知られるヨウ素化合物を使用した重合法によれば、分子量分布が狭いフッ素ゴムを製造できる。
【0043】
製造されたフッ素ゴムは、粒子状(例えば乳化重合または懸濁重合の場合)のときはそのままあるいはさらに粉砕して、溶液重合の場合は塊状物を粉砕して未架橋のフッ素ゴム粒子を得る。
【0044】
このフッ素ゴム粒子の架橋は、いわゆる動的架橋法によってフッ素樹脂との混練と同時に架橋する方法で行う。
【0045】
動的架橋法を行うには、バンバリーミキサーやニーダー等の回転撹拌装置、二軸押出機等の加熱溶融とブレンドが同時に可能な混合機を用いればよい。これらの中でも、ペレット状の複合物が容易に得られまた生産性が高い点から、二軸押出機が好ましい。
【0046】
フッ素ゴム粒子の平均粒子径は特に限定されないが、用途や要求特性などによって適宜選定すればよい。バンバリーミキサーやニーダー等のバッチ式混合機に供給する場合、フッ素樹脂との複合分散性の向上と物性向上の点から0.01〜100μmであることが好ましい。さらに好ましくは30μm以下、特に10μm以下であるのが好ましい。一方、二軸押出機等の連続式混合機に供給する場合は、シートカッターやフィーダールーダー等の造粒機で、直径1〜5mm、長さ1〜5mmにペレット化したものを用いるのが好ましい。さらに好ましくは、直径2〜4mm、長さ2〜4mmのペレット状である。
【0047】
フッ素ゴム粒子を架橋する架橋系は、フッ素ゴムに架橋性基(ヨウ素原子、臭素原子、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、水酸基など)が含まれる場合は、架橋性基の種類によって、またはフッ素樹脂との組成物の用途により適宜選択すればよい。架橋系としてはポリアミン架橋系、ポリオール架橋系、パーオキサイド架橋系、イミダゾール架橋系、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系などがあげられるが、これらの中で、架橋構造の耐熱性と経済性の観点からポリアミン架橋系、ポリオール架橋系、パーオキサイド架橋系が好ましい。
【0048】
架橋剤としては、ポリオール系架橋剤、パーオキサイド系架橋剤、ポリアミン系架橋剤、イミダゾール系架橋剤、トリアジン系架橋剤、オキサゾール系架橋剤、およびチアゾール系架橋剤のいずれも採用できる。これらの架橋剤は、単独で使用してもよいしまたは併用してもよい。
【0049】
本発明の被覆層を構成するフッ素樹脂と架橋フッ素ゴムとの複合体(以下、「フッ素樹脂複合体」ということもある)の調製は、フッ素樹脂と未架橋フッ素ゴムとを混練しながら架橋する方法(動的架橋法)が採用される。
【0050】
動的架橋法は、フッ素樹脂およびフッ素ゴムを混合し、フッ素樹脂およびフッ素ゴムが溶融する温度下で混練しながらフッ素ゴムを架橋する方法である。溶融混練温度は、それぞれフッ素樹脂およびフッ素ゴムのガラス転移温度および/または融点により異なるが、120〜330℃であることが好ましく、130〜320℃であることがより好ましい。溶融混練温度が、120℃未満であると、フッ素樹脂とフッ素ゴムの間の分散が粗大化する傾向があり、330℃をこえると、フッ素ゴムが熱劣化する傾向がある。
【0051】
得られたフッ素樹脂複合体は、フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム粒子が分散相を形成する構造、またはフッ素樹脂と架橋フッ素ゴムが共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム粒子が分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0052】
フッ素ゴムが、分散当初に連続相を形成していた場合でも、架橋反応の進行に伴い、フッ素ゴムが架橋フッ素ゴムとなることで溶融粘度が上昇し、架橋フッ素ゴムが分散相になる、またはフッ素樹脂との共連続相を形成するものである。また、フッ素樹脂が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴム粒子が分散相を形成する構造の一部に、フッ素樹脂と架橋フッ素ゴムとの共連続構造が含まれていてもよい。
【0053】
このような連続相と分散相の構造を形成するとき、フッ素樹脂複合体は、優れた耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、良好な可撓性(柔軟性)をもち成形加工性を有することとなる。その際、分散相の架橋フッ素ゴム粒子の平均粒子径は、流動性が良好な点から0.01〜30μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。
【0054】
本発明において、フッ素樹脂複合体中の架橋フッ素ゴム粒子の平均粒子径は、AFM、SEM、TEMのいずれか、あるいは組み合わせて使用することにより、確認することができる。例えば、AFMを使用する場合、連続相のフッ素樹脂と分散相の架橋フッ素ゴム粒子の表面情報から得られる差が明暗の像として得られ、明暗を階調分けすることにより2値化が可能となる。2値化位置は、階調分けされた中央のレベルとし、それにより明確なコントラストのついた像が得られ、分散相の架橋ゴム粒子径を読み取ることができる。またSEMを使用する場合は、反射電子像で得られた像に対し分散相の架橋フッ素ゴム粒子が明確となるようにコントラストを強調あるいは、明暗の調整または両方の調整を像に施すことによりAFM同様、分散相の架橋フッ素ゴム粒子径を読み取ることができる。TEMの場合もSEM同様、得られた像のコントラスト、あるいは明暗の調整または両方の調整を像に施すことによりAFMやSEM同様、分散相の架橋ゴム粒子径を読み取ることができる。
【0055】
本発明におけるフッ素樹脂複合体での組成割合は、フッ素樹脂およびフッ素ゴムの種類、用途や要求特性、発現物性などによって適宜選定すればよく、例えばフッ素樹脂100質量部に対して架橋フッ素ゴム粒子を500〜5質量部という広い範囲で選定することができる。好ましくは、100質量部に対して架橋フッ素ゴム粒子を400〜10質量部、さらには300〜20質量部とすることがより好ましい。架橋フッ素ゴム粒子の割合が少なすぎると柔軟性が不足する傾向にあり、多すぎると機械強度が低下する傾向にある。
【0056】
本発明におけるフッ素樹脂複合体のメルトフローレート(MFR)は、流動性と成形加工性が良好な点から、0.5〜30g/10分であることが好ましく、1〜25g/10分であることがより好ましい。MFRの測定は、(株)東洋精機製作所製メルトフローレート測定装置を使用し、例えば297℃、5000g荷重の条件下にて行う。
【0057】
本発明においては、フッ素樹脂複合体を調製するに際し、必要に応じて通常の添加物、例えば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤などを配合することができる。
【0058】
得られたフッ素樹脂複合体を押出成形機に供給して、好ましくはシリンダ温度、ヘッド温度が120℃以上程度の条件で、銅線や錫メッキ軟銅線の単線、撚り線等の導体部または複数の被覆電線の束の外周上に被覆層として押出成形被覆することにより、被覆層を外周に有する本発明の被覆電線を製造することができる。
【0059】
本発明の被覆電線におけるフッ素樹脂複合体からなる被覆層は絶縁被覆体、ジャケットとして設けることが、優れた耐熱性と可撓性を活かすことから望ましい。
【0060】
本発明の被覆電線は、例えば芯線部となる中心の導体部と、その外周を被覆する絶縁被覆層とから構成される公知の被覆電線の構造が採用され得る。
【0061】
導体部は、銅線や錫メッキ軟銅線等の単線、または素線の撚り線からなる。撚り線の場合、例えば素線数/素線径(本/mm)が20/0.18〜84/0.45で外径が0.8〜4.8mmのものである。これは、公称断面積、0.5〜15mm2に相当する撚り線である。
【0062】
本発明おけるフッ素樹脂複合体は、導体部外周上に絶縁被覆層として設けられ、例えば肉厚0.05〜2.00mm、仕上がり外径1.0〜10.0mmとして形成されている。
【0063】
導体部を絶縁被覆層で直接被覆してもよいし、両者の間に内部導体層を設けてもよく、また、当該絶縁被覆層の上に耐熱性のシースを設けてもよい。また、この耐熱被覆電線を、さらに数本撚り合わせ、これを耐熱性のジャケットで覆ってケーブルを構成してもよい。
【0064】
本発明の耐熱被覆電線は、特に耐熱性が要求される自動車や航空機、軍需車輌などの耐熱電線として好適に使用できる。
【0065】
なかでも、内燃機関のトランスミッションオイルまたはエンジンオイルに接触する環境で使用される被覆電線、または自動車のオートマチックトランスミッション内またはエンジンのオイルパン内で使用される被覆電線として好適である。
【実施例】
【0066】
つぎに実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
なお、特性の評価に使用した装置および測定条件は以下のとおりである。
【0068】
(1)機械的特性(引張弾性率、引張強度、引張伸び)
得られた電線から芯線を引き抜き、被覆層を試験片とした。この試験片を用いて、オートグラフ((株)島津製作所製 AGS−J 5kN)を使用して、室温において50mm/minの引張速度で引張試験を行い、引張弾性率、引張強度、引張伸びを測定する。
【0069】
(2)MFR
メルトインデクサー((株)東洋精機製作所製)を用い、主に297℃において、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)あたりに流出するポリマーの質量(g)を測定する。
【0070】
実施例1
VdF系ゴム(VdF/TFE/HFP=50/20/30モル比、100℃でのムーニー粘度87)100質量部、架橋剤ビスフェノールAF(ダイキン工業(株)製)2.0質量部、架橋促進剤BTPPC(北興化学工業(株)製)1.0質量部、酸化マグネシウム(キョーワマグ150、協和化学工業(株))3.0質量部を、18インチオープンロールを用いて混練し、VdF系ゴムのフルコンパウンドを得た。これを150mmφフィーダールーダーに供給し、直径3mm、長さ3mmのVdF系ゴムフルコンパウンドのペレットを得た。
【0071】
ETFE(エチレン/TFE=35/65モル比、融点220℃、MFR(297℃)30.0g/10分)50質量部に、上記VdF系ゴムフルコンパウンドのペレット50質量部を(株)テクノベル製15mmφ二軸押出機に連続的に仕込み、シリンダ温度260℃、スクリュー回転数300rpmで混練押出して、フッ素樹脂複合体のペレットを製造した。
【0072】
得られたフッ素樹脂複合体について、架橋フッ素ゴム粒子の平均粒径、MFRを調べた。架橋フッ素ゴム粒子の平均粒径は1.1μmであり、MFR(297℃)は4.3g/10分であった。
【0073】
得られたフッ素樹脂複合体ペレットをスクリュー外径30mmφの電線成形機に供給し、外径1.0mmφの銅撚り線を芯線とする被覆厚さ0.3mmの可撓性の耐熱被覆電線を製造した。成形温度は、C−1:250℃、C−2:260℃、C−3:270℃、C−4:270℃、ダイス:270℃、スクリュー回転数は10rpmであった。
【0074】
得られた電線の被覆部について引張試験を行った。また、この電線をオートマチックトランスミッションフルードDII中で150℃×1000Hr浸漬して後、同様に引張試験を行った。浸漬前後の引張弾性率、引張強度、伸びは以下のようになった。
浸漬前:引張弾性率150MPa、引張強度15MPa、伸び230%
浸漬後:引張弾性率152MPa、引張強度15MPa、伸び225%
このように、浸漬前後で引張強度、伸びはほとんど同じであり、実質的に機械強度が保持されていた。また引張弾性率は、ETFE単体(450〜700MPa)よりも充分に低く、可撓性があった。
【0075】
実施例2
ETFEの仕込み量を70質量部に、VdF系ゴムフルコンパウンドのペレットの仕込み量を30質量部にしたほかは実施例1と同様にして、フッ素樹脂複合体のペレットを製造した。
【0076】
得られたフッ素樹脂複合体について、架橋フッ素ゴム粒子の平均粒径、MFRを調べた。架橋フッ素ゴム粒子の平均粒径は1.0μmであり、MFR(297℃)は14.7g/10分であった。
【0077】
得られたフッ素樹脂複合体ペレットを用いて、実施例1と同様にして耐熱被覆電線を製造した。成形温度は、C−1:250℃、C−2:260℃、C−3:270℃、C−4:270℃、ダイス:270℃、スクリュー回転数は20rpmであった。
【0078】
得られた電線の被覆部について、引張試験を行った。また、この電線をオートマチックトランスミッションフルードDII中で150℃×1000Hr浸漬して後、同様に引張試験を行った。浸漬前後の引張弾性率、引張強度、伸びは以下のようになった。
浸漬前:引張弾性率240MPa、引張強度21MPa、伸び283%
浸漬後:引張弾性率237MPa、引張強度20MPa、伸び279%
このように、浸漬前後で引張強度、伸びはほとんど同じであり、実質的に機械強度が保持されていた。また引張弾性率は、ETFE単体(450〜700MPa)よりも充分に低く、可撓性があった。
【0079】
比較例1
実施例1で用いた未架橋VdF系ゴムのみを用いて、同じサイズの未架橋フッ素ゴム電線を得た。この被覆部について、引張試験を行った。また、この電線に50kGyのγ線を照射して放射線架橋した後、同様に引張試験を行った。架橋前後の弾性率、引張強度、伸びは以下のようになった。
未架橋:引張弾性率100MPa、引張強度4MPa、伸び50%
架橋後:引張弾性率130MPa、引張強度12MPa、伸び220%
未架橋のフッ素ゴム電線は引張強度、伸びが極端に低く、実質的に使用できないレベルであり、放射線架橋して初めて、使用に耐え得る機械強度となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂と動的架橋されたフッ素ゴムとの複合体を被覆層として有する可撓性耐熱被覆電線。
【請求項2】
内燃機関のトランスミッションオイルまたはエンジンオイルに接触する環境で使用される請求項1記載の被覆電線。
【請求項3】
自動車のオートマチックトランスミッション内またはエンジンのオイルパン内で使用される請求項1記載の被覆電線。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が非パーフルオロ樹脂であり、フッ素ゴムがフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体またはフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の被覆電線。
【請求項5】
前記フッ素樹脂とフッ素ゴムの質量比が、75/25〜25/75である請求項1〜4のいずれかに記載の被覆電線。

【公開番号】特開2009−224048(P2009−224048A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64356(P2008−64356)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】