説明

可溶化化粧料組成物

【課題】可溶化力に優れるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、少量の使用で香料や脂溶性ビタミン等が可溶化出来ると共に、pH調整剤やビタミンC誘導体等の電解質(塩類)を配合した場合も、外観が白濁せず、調製した可溶化化粧料組成物の経時温度安定性、及びノビやべたつき面等の使用性が良好であり、皮膚刺激の懸念があるポリオキシエチレン系界面活性剤を用いない可溶化化粧料組成物を提供する。
【解決手段】(A)重合度3以下のグリセリン重合物の含有量が3%未満であり、且つ平均重合度が10〜20のポリグリセリン1.0モルと、リシノレイン酸0.8〜1.5モルを酸価0.5以下までエステル化反応したリシノレイン酸ポリグリセリンエステル
(B)重合度3以下のグリセリン重合物の含有量が3%未満であり、且つ平均重合度が10〜20のポリグリセリン1.0モルと、パルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸0.8〜1.5モルを酸価0.5以下までエステル化反応した脂肪酸ポリグリセリンエステル
を含有する可溶化化粧料組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシエチレン系界面活性剤を用いることなく、香料、炭化水素油、エステル油や脂溶性ビタミン等の化粧品用油性成分を透明に可溶化した化粧水や美容液等の化粧料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧料の内、化粧水や美容液等の様に、一般に透明であることが前提となる化粧料では、配合される香料、炭化水素油、エステル油や脂溶性ビタミン等の、水に対して難溶性の成分は、通常は可溶化剤によって可溶化される。この可溶化剤として、従来からHLBが12以上の親水性界面活性剤が、その可溶化力の強さ故に一般的に使用されている。例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレン誘導体が挙げられる。しかしながら、これらのポリオキシエチレン誘導体中には、配合量によって皮膚刺激性や眼粘膜刺激性が認められたり、感作性が認められたりする問題点があった。更には、親水基としてエチレンオキシド鎖を有している為、エチレンオキシド鎖の分解によるホルマリンの溶出等安全性の問題があった。
【0003】
皮膚等に対する刺激の面から、より安全性を高める目的で、ポリグリセリン脂肪酸エステルの使用が提案されている(特許文献1及び特許文献2)。しかしながら、これら報告に用いられているポリグリセリン脂肪酸エステルは、可溶化力が弱く、可溶化化粧料を調製するには、かなり多量に配合する必要があり、得られる可溶化化粧料はノビが重くなる、塗布後べたつく等の官能面上の問題があった。また、低温から高温までの温度安定性が弱く外観が濁ったりし、経時安定性面上の問題もあった。更には、pH調整剤やビタミンC誘導体等の電解質(塩類)を配合した場合、外観が白濁し実使用が困難なものであった。
【0004】
その他、ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用した方法が提案されている(特許文献3)。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとポリグリセリンラウリン酸エステルとの混合物を用いるものであり、微細エマルション(調製物の外観が半透明)を得る方法としては良好な方法であるが、この方法では、透明な外観を必要とする可溶化までは、不十分であった。つまり、化粧料に香料や脂溶性ビタミン等を可溶化した可溶化化粧料を調製する為には、多量のポリグリセリン脂肪酸エステルが必要であり、官能面上の問題があった事、及び経時温度安定性面においても、不十分なものであった。更には、pH調整剤やビタミンC誘導体等の電解質(塩類)を配合した場合、外観が白濁し実使用が困難なものであった。
【0005】
これら従来の技術で用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルでは、グリセリンを出発原料とした脱水縮合反応により得られる重合度1〜10以上までの混合物であるポリグリセリンが用いられている。一般にポリグリセリンと脂肪酸とをエステル化反応させた場合、低重合度のポリグリセリンが選択的にエステル化され易いことが知られている。その結果、得られるポリグリセリン脂肪酸エステルは、高重合度のポリグリセリンがエステル化されず未反応のまま残存していたり、低重合度のポリグリセリンと脂肪酸の反応物である、親水性の低いポリグリセリン脂肪酸エステルを含有したりすることになる。このことによって、十分な可溶化力が発揮できず多量に配合する必要があったり、電解質(塩類)を配合した場合に外観が白濁する等、実使用が困難となるのであった。
【0006】
以上の事から、ポリオキシエチレン系界面活性剤を用いず、可溶化力に優れたポリグリセリン脂肪酸エステルを可溶化剤に用い、pH調整剤やビタミンC誘導体等の電解質(塩類)を配合した場合でも外観が白濁せず、且つ低温から高温までの経時温度安定性が良好である、可溶化化粧料組成物の開発が求められていた。
【特許文献1】特開平6−219923号公報
【特許文献2】特開平11−71256号公報
【特許文献3】特許第3534199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を解決した可溶化化粧料組成物を提供するものである。即ち、可溶化力に優れるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、少量の使用で香料や脂溶性ビタミン等が可溶化出来ると共に、pH調整剤やビタミンC誘導体等の電解質(塩類)を配合した場合も、外観が白濁せず、経時温度安定性、及びノビやべたつき面等の使用性が良好である、可溶化化粧料組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のポリグリセリンとリシノレイン酸を特定の反応条件でエステル化反応したリシノレイン酸ポリグリセリンエステルと、特定のポリグリセリンとパルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸を特定の反応条件でエステル化反応した脂肪酸ポリグリセリンエステルとを、特定の混合比率(重量比)で可溶化剤として用いた可溶化化粧料組成物が、上記課題を解決し得る事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、次の成分(A)〜(D):
(A)重合度3以下のグリセリン重合物の含有量が3%未満であり、且つ平均重合度が10〜20のポリグリセリン1.0モルと、リシノレイン酸1.0〜1.5モルを酸価0.5以下までエステル化反応したリシノレイン酸ポリグリセリンエステル
(B)重合度3以下のグリセリン重合物の含有量が3%未満であり、且つ平均重合度が10〜20のポリグリセリン1.0モルと、パルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸1.0〜1.5モルを酸価0.5以下までエステル化反応した脂肪酸ポリグリセリンエステル
(C)常温で液状の油性成分
(D)水
を含有する可溶化化粧料組成物である。また、(A):(B)が重量比で40〜80:20〜60であり、かつ(A)+(B):(C)の重量比が0.01〜4:1であり、かつ可溶化化粧料組成物全体に対して(A)+(B)の重量が10重量%以下である可溶化化粧料組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の可溶化化粧料組成物は、可溶化力に優れる脂肪酸ポリグリセリンエステルを用いるため少量の使用で、皮膚刺激の懸念があるポリオキシエチレン系界面活性剤を用いずに香料や脂溶性ビタミン等が可溶化出来ると共に、pH調整剤やビタミンC誘導体等の電解質(塩類)を配合した場合も、外観が白濁せず、調製した可溶化化粧料組成物の経時温度安定性、及びノビやべたつき面等の使用性が良好な可溶化化粧料組成物を開発する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明に用いる、成分(A)及び(B)の原料である重合度3以下のグリセリン重合物の含有量が3%未満であり、平均重合度が10〜20のポリグリセリンは、グリセリンを出発原料とした脱水縮合反応により得られるポリグリセリンを薄膜蒸留する事により、重合度3以下のグリセリン重合物を除去して得られる。重合度3以下のグリセリン重合度の含有量が3%を超えると、本発明の効果である優れた可溶化力や経時温度安定性を発揮する事は出来ない。また、平均重合度が10未満の場合は、十分な可溶化力が発揮できず多量(10%を超える配合量)に配合する必要があったり、電解質(塩類)を配合した場合に外観が白濁する等、実使用が困難となるため好ましくない。
【0013】
ここで言うポリグリセリンの平均重合度は、下記の条件での高速液体クロマトグラフィーにより求めた。
(高速液体クロマトグラフィー分析条件)
装置 島津 LC−6Aシステム
GPCカラム 昭和電工 SB−802.5HQ×2+SB−802HQ×2
カラム温度 40℃
移動相 蒸留水
検出器 示差屈折計(島津 RID−6A)
サンプル 蒸留水に溶解(1%水溶液)
流速 1.0mL/min
【0014】
本発明に用いる、成分(A)の原料であるリシノレイン酸としては、中和価が170〜190のものを用いるのが良い。この範囲の中和価を示すリシノレイン酸を用いると、本発明の目的である可溶化力を十分に発揮するリシノレイン酸ポリグリセリンエステルを合成する事が出来る。
【0015】
本発明の成分(A)である、リシノレイン酸ポリグリセリンエステルは、ポリグリセリン1.0モルに対しリシノレイン酸を0.8〜1.5モルエステル化反応させる。リシノレイン酸が0.8モル未満の場合は、反応物に未反応のポリグリセリンが含まれ、可溶化力を十分に発揮するリシノレイン酸ポリグリセリンエステルを合成する事が出来ない。逆に、リシノレイン酸が1.5モルを超える場合は、得られるエステルの親油性が高くなり、可溶化力を十分に発揮するリシノレイン酸ポリグリセリンエステルを合成する事が出来ない。
【0016】
本発明に用いる、成分(B)は、重合度3以下のグリセリン重合物の含有量が3%未満であり、平均重合度が10〜20のポリグリセリンと、パルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸及びイソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸(常温で液状の脂肪酸)との脂肪酸ポリグリセリンエステルである。また、上記脂肪酸は純度が85%以上の脂肪酸を使用すると、可溶化力を十分に発揮する脂肪酸ポリグリセリンエステルを合成する事が出来る。上記脂肪酸以外の脂肪酸を用いた場合、例えば、ステアリン酸等常温で固形の脂肪酸の場合は、これを用いて合成したエステルを配合した化粧料組成物は、経時で沈殿物や濁りが発生する等経時安定性面が悪くなる。また、カプリン酸等炭素数10以下の脂肪酸を用いて合成したエステルは、特有の臭気や皮膚刺激の懸念があり化粧品原料としては好ましくない。
【0017】
本発明の成分(B)である、脂肪酸ポリグリセリンエステルは、ポリグリセリン1.0モルに対しパルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸及びイソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸を0.8〜1.5モルエステル化反応させる。パルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸及びイソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸が0.8モル未満の場合は、反応物に未反応のポリグリセリンが含まれ、可溶化力を十分に発揮する脂肪酸ポリグリセリンエステルを合成する事が出来ない。逆に、パルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸及びイソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸が1.5モルを超える場合は、得られるエステルの親油性が高くなり、可溶化力を十分に発揮する脂肪酸ポリグリセリンエステルを合成する事が出来ない。
【0018】
上記、成分(A)リシノレイン酸ポリグリセリンエステル、及び成分(B)脂肪酸ポリグリセリンエステルのエステル化反応は、酸価0.5以下までエステル化反応を行う。酸価0.5を超えたところで反応を終了すると、得られるエステル中に未反応の脂肪酸が多く残り過ぎ、本発明の目的である可溶化力を十分に発揮する事が出来ず好ましくない。また、得られるポリグリセリン脂肪酸エステルの臭気も悪く、また未反応脂肪酸により、皮膚刺激を誘発する可能性が有り好ましくない。
【0019】
ここで言う酸価とは、試料(脂肪酸ポリグリセリンエステル)1g中に含まれている遊離脂肪酸(未反応脂肪酸)を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、「基準油脂物性試験法」(日本油化学協会制定)に準拠し測定する。以下の式により算出する。
酸価=(5.611×A×F)/B
A:0.1モル/L水酸化カリウム標準液使用量(ml)
F:0.1モル/L水酸化カリウム標準液のファクター
B:試料採取量(g)
【0020】
本発明の可溶化化粧料組成物は、上記成分(A)リシノレイン酸ポリグリセリンエステル、及び成分(B)脂肪酸ポリグリセリンエステルを混合して用いることであり、(A):(B)が重量比で40〜80:20〜60であり、好ましくは50〜75:25〜50の重量比である。この範囲で混合した場合、被可溶化物質である成分(C)の4倍以下の量で可溶化でき、本発明の目的である可溶化力が更に高まり好ましい。
【0021】
また、本発明の可溶化化粧料組成物では、上記成分(A)リシノレイン酸ポリグリセリンエステル、及び成分(B)脂肪酸ポリグリセリンエステルとの合計(A)+(B)量が、可溶化化粧料組成物に対して好ましくは10重量%以下であり、更に好ましくは8重量%以下である。(A)+(B)量が、可溶化化粧料組成物に対して10重量%を超えて配合した場合、化粧料の使用感が悪く(ノビが重く、後感がベタツキ等)なり、好ましくない。
【0022】
更には、本発明の可溶化化粧料組成物では、(A)+(B):被可溶化物である(C)の重量比が0.01〜4:1である。(C)に対し、(A)+(B)量が、4倍量を超えて配合した場合は、本発明の可溶化化粧料組成物の目的を達成出来ない。
【0023】
本発明で用いる、被可溶化物である成分(C)常温で液状の油性成分としては、化粧品原料として用いられるものであれば特に限定はなく、例えば、ローズ油、ジャスミン油、ペパーミント油、アニス油、ラベンダー油、ベルガモット油等の植物性香料、ジャコウ、レイビョウコウ、カイリュウ、リュウゼンコウ等の動物性香料、合成香料では、リモネン等の炭化水素系、リナロール、ゲラニオール、メントール等のアルコール系、シトラール等のアルデヒド系、β−イオノン等のケトン系、オイゲノール等のフェノール系等が挙げられる。その他、植物性香料や動物性香料及び合成香料を目的に応じて調合した調合香料等の香料や、酢酸トコフェロール、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、α−トリコエノール、β−トリコエノール、γ−トリコエノール、δ−トリコエノール等のビタミンE、レチノールとβ-カロテン(β-カロチン)等のビタミンA等の脂溶性ビタミンが挙げられる。これら以外、化粧料に使用される香料や脂溶性ビタミンも使用できる。
【0024】
成分(C)である、常温で液状の油性成分として更には、例えば流動パラフィン、スクワラン等の炭化水素類、アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、2−エチルヘキサン酸セチル等のエステル類、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリンエステル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリンエステル等のトリグリセライド類、オリブ油、ホホバ油、月見草油、ヤシ油等の植物油類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状メチルポリシロキサン等のシリコーン類、オクチルドデカノール、オレイルアルコール等の高級アルコール等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用する。
【0025】
本発明で用いる、成分(C)常温で液状の油性成分の配合量は、好ましくは可溶化化粧料組成物に対して、3.0重量%以下である。この量を超える場合は、極性の高い油性成分に対しては可溶化が不十分な場合があり、好ましくない。
【0026】
本発明で用いる、成分(D)水は、化粧品原料として用いられるものであれば特に限定はない。また、配合量としては、好ましくは可溶化化粧料組成物に対して、50.0重量%以上である。50.0重量%未満の場合は、可溶化化粧料組成物の使用感が悪く(ノビが重く、後感がベタツキ等)なる場合があり、好ましくない。
【0027】
また、本発明の効果を損なわない範囲で通常、可溶化化粧料組成物に配合される成分である、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類、ヒアルロン酸、マルチトール等の糖類、アルギン酸塩、セルロース誘導体、クインスシードガム、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸系ポリマー等の増粘剤類、パラベン類、フェノキシエタノール、サリチル酸、ソルビン酸、イソプロピルメチルフェノール等の防腐剤類、アルブチン、エラグ酸、コウジ酸、アスコルビン酸塩誘導体等の美白剤、エタノール等の収斂剤類、紫外線吸収剤類、アミノ酸類、グリチルリチン酸誘導体類、植物エキス類、色素類、pH調整剤等を配合する事ができる。
【0028】
可溶化化粧料組成物とは、化粧水、美容液、へアローション、ヘアトニック、コロン等の化粧料を指す。
【0029】
本発明の可溶化化粧料組成物を構成する、(A)リシノレイン酸ポリグリセリンエステル、及び成分(B)脂肪酸ポリグリセリンエステルの原料である平均重合度が10〜20のポリグリセリンは以下のように作成する。
【0030】
本発明で用いるポリグリセリンは、グリセリンをアルカリ触媒下に常圧又は減圧下で加熱して得られる。しかし、このものには未反応グリセリンや重合度2や重合度3のポリグリセリンである、低沸分のポリグリセリンを含むものであり、このものをそのまま用いると十分な可溶化力が発揮できず、電解質(塩類)を配合した場合に外観が白濁する等の問題が生じる。本発明は、この未反応グリセリンなどを含むポリグリセリンを蒸留、好ましくは熱劣化の少ない薄膜蒸留などを用いることにより、含有する低沸分を除去し本発明で使用するポリグリセリンを得る。
【0031】
薄膜蒸留とは、原料を電熱面上に遠心力、ブラシまたはロールにて薄膜状に延ばし、蒸発した分子同士が衝突しづらいように電熱面の近く100cm以下、好ましくは50cm以下、更に好ましくは25cm以下の距離に凝縮面を設置した装置中で高真空下、高温加熱の条件にて物質の蒸気圧の差を利用して分離、分画する技術である。本発明の薄膜蒸留の減圧条件は0.01〜2torr、好ましくは0.01〜1torr、更に好ましくは0.01〜0.5torrの真空条件下で行なうのがよく、加熱温度は150℃〜300℃、好ましくは180℃〜280℃、更に好ましくは220℃〜260℃の高温加熱条件下で蒸留を行うことによって、低沸分を除去したポリグリセリンを得る。
【0032】
成分(A)リシノレイン酸ポリグリセリンエステル、及び成分(B)脂肪酸ポリグリセリンエステルは、上記低沸分を除去したポリグリセリンを用い、それぞれ上記条件を満たす様に、リシノレイン酸、各脂肪酸(パルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸及びイソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸)を仕込み、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を加えた後、常圧もしくは減圧下において、常法に従ってエステル化反応を行う方法で製造することが出来る。アルカリ触媒量としては、得られるポリグリセリン脂肪酸エステルの重量に対し、500〜3500ppmの範囲で用いる。500ppm未満のアルカリ触媒量では、反応が進みにくく好ましくない。逆に3500ppmを超えると、これを用いた可溶化水溶液は、pH値が高くなり過ぎ、可溶化化粧料組成物に用いる事が好ましくない。
【0033】
可溶化する方法は特に限定されず、本発明の 成分(A)リシノレイン酸ポリグリセリンエステル、及び成分(B)脂肪酸ポリグリセリンエステルを特定の重量比で混合し、それと香料や脂溶性ビタミン等の被可溶化物質を、室温にて混合する。その後、その混合物を精製水にて溶解する事で容易に可溶化水溶液が調製出来、それを化粧水又は美容液に配合し、可溶化化粧料組成物を得る事が出来る。
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0035】
成分(A)リシノレイン酸ポリグリセリンエステル、及び成分(B)脂肪酸ポリグリセリンエステルに使用したポリグリセリンは以下の様な条件で低沸分(平均重合度3以下のグリセリン重合物)を除去した。
<ポリグリセリン合成実施例1>
ポリグリセリン#750(阪本薬品工業(株)製)(平均重合度10、重合度3以下のグリセリン重合物含有量34.3%のもの)を240℃、0.4torrの真空度の条件にて薄膜蒸留を行い、31.5%の留分を除去し、重合度3以下のグリセリン重合物が2.9%のポリグリセリンを得た。このものをGPC分析した結果、平均重合度が15.3であった。
<ポリグリセリン合成実施例2>
ポリグリセリン#750(阪本薬品工業(株)製)を255℃、0.2torrの真空度の条件にて薄膜蒸留を行い、32.4%の留分を除去し、重合度3以下のグリセリン重合物が0.9%のポリグリセリンを得た。このものをGPC分析した結果、平均重合度が17.8であった。
<ポリグリセリン合成比較例1>
ポリグリセリン#500(阪本薬品工業(株)製)(平均重合度6、重合度3以下のグリセリン重合物含有量25.1%のもの)を240℃、0.4torrの真空度の条件にて薄膜蒸留を行い、222.2%の留分を除去し、重合度3以下のグリセリン重合物が2.9%のポリグリセリンを得た。このものをGPC分析した結果、平均重合度が8であった。
【0036】
<エステル合成実施例1>
リシノレイン酸16.9gとポリグリセリン合成実施例1(GPC分析した結果、平均重合度が15.3であった。)64.1gを反応容器に入れ、0.24gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において200℃、3時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとリシノレイン酸1.0モルとのエステル化反応生成物であるリシノレイン酸ポリグリセリンエステル77.6gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0037】
<エステル合成実施例2>
リシノレイン酸20.2gとポリグリセリン合成実施例2(GPC分析した結果、平均重合度が17.8であった。)61.0gを反応容器に入れ、0.24gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において200℃、5時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとリシノレイン酸1.5モルとのエステル化反応生成物であるリシノレイン酸ポリグリセリンエステル78.3gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0038】
<エステル合成実施例3>
パルミトレイン酸20.8gとポリグリセリン合成実施例1(GPC分析した結果、平均重合度が15.3であった。)60.6gを反応容器に入れ、0.08gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において240℃、1時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとパルミトレイン酸1.5モルとのエステル化反応生成物である脂肪酸ポリグリセリンエステル77.8gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0039】
<エステル合成実施例4>
オレイン酸12.9gとイソステアリン酸6.5gとポリグリセリン合成実施例2(GPC分析した結果、平均重合度が17.8であった。)61.8gを反応容器に入れ、0.37gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において240℃、1時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとオレイン酸1.0モルとイソステアリン酸0.5モルのエステル化反応生成物である脂肪酸ポリグリセリンエステル78.5gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0040】
<エステル合成実施例5>
イソステアリン酸16.3gとポリグリセリン合成実施例1(GPC分析した結果、平均重合度が15.3であった。)64.7gを反応容器に入れ、0.08gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において240℃、1時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとイソステアリン酸1.0モルとのエステル化反応生成物である脂肪酸ポリグリセリンエステル78.1gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0041】
<エステル合成比較例1>
リシノレイン酸12.4gとポリグリセリン合成実施例1(GPC分析した結果、平均重合度が15.3であった。)68.4gを反応容器に入れ、0.24gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において200℃、3時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとリシノレイン酸0.7モルとのエステル化反応生成物であるリシノレイン酸ポリグリセリンエステル78.1gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0042】
<エステル合成比較例2>
リシノレイン酸23.0gと低沸分を除去していないデカグリセリン58.4gを反応容器に入れ、0.24gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において200℃、3時間の条件下で反応を行い、デカグリセリン1.0モルとリシノレイン酸1.0モルとのエステル化反応生成物であるリシノレイン酸デカグリセリンエステル78.5gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0043】
<エステル合成比較例3>
リシノレイン酸26.8gとポリグリセリン合成比較例1(GPC分析した結果、平均重合度が8であった。)54.8gを反応容器に入れ、0.24gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において200℃、3時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとリシノレイン酸1.0モルとのエステル化反応生成物であるリシノレイン酸ポリグリセリンエステル78.2gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0044】
<エステル合成比較例4>
リシノレイン酸25.0gとポリグリセリン合成実施例2(GPC分析した結果、平均重合度が17.8であった。)56.5gを反応容器に入れ、0.24gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において200℃、7時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとリシノレイン酸2.0モルとのエステル化反応生成物であるリシノレイン酸ポリグリセリンエステル77.7gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0045】
<エステル合成比較例5>
オレイン酸13.6gとイソステアリン酸13.7g、ポリグリセリン合成実施例1(GPC分析した結果、平均重合度が15.3であった。)54.4gを反応容器に入れ、0.37gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において240℃、2時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとオレイン酸1.0モルとイソステアリン酸1.0モルとのエステル化反応生成物である脂肪酸酸ポリグリセリンエステル77.3gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0046】
<エステル合成比較例6>
イソステアリン酸6.5gとステアリン酸13.0g、ポリグリセリン合成実施例2(GPC分析した結果、平均重合度が17.8であった。)61.7gを反応容器に入れ、0.37gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において240℃、1時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとイソステアリン酸0.5モルとステアリン酸1.0モルとのエステル化反応生成物である脂肪酸ポリグリセリンエステル79.0gを得た。このものの酸価は0.4であった。
【0047】
<エステル合成比較例7>
イソステアリン酸16.3gとポリグリセリン合成実施例1(GPC分析した結果、平均重合度が15.3であった。)64.7gを反応容器に入れ、0.37gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において240℃、1時間の条件下で反応を行い、ポリグリセリン1.0モルとイソステアリン酸1.0モルとのエステル化反応生成物である脂肪酸ポリグリセリンエステル78.6gを得た。このものの酸価は2.0であった。
【0048】
前記エステル合成実施例及びエステル合成比較例、その他の界面活性剤を用いて実施例及び比較例(表1に記載)の化粧水を調製し、以下の評価項目について評価した。
【0049】
[外観の透明性]
実施例、比較例で得た化粧料組成物を分光光度計(日立製作所製:U−2900)にて、660nmの波長にて透過率を測定した。これらの結果を表1に示す。
(基準)
◎:98.0%以上
○:97.0%以上98.0%未満
△:96.0%以上97.0%未満
×:96.0%未満
【0050】
[温度安定性]
上記化粧料組成物を50℃及び0℃×1ヶ月暴露し、上記同様の条件にて透過率を測定し、以下に示す評価基準で評価した。これらの結果を表1に示す。
(基準)
◎:98.0%以上
○:97.0%以上98.0%未満
△:96.0%以上97.0%未満
×:96.0%未満
【0051】
[使用性]
上記、化粧料組成物を健常女性パネラー20名に使用させ、その際のノビ、馴染み後のべたつき感、臭気について官能評価を行った。評価項目毎に、1:非常に悪い、2:悪い、3:やや悪い、4:良好、5:非常に良好、の評価基準で評価し、20名の平均点を算出した。その結果を、以下の基準に基づき表1に示す。
(評点)
◎:4.5点以上
○:4.0点以上4.5点未満
△:3.0点以上4.0点未満
×:3.0点未満
【0052】
【表1】

【0053】
実施例の可溶化化粧料組成物は、外観の透明性及び温度安定性や、使用性(ノビ、ベタツキ感、臭気)が良好なものであった。一方、比較例の化粧料組成物は、外観の透明性、温度安定性及び使用性の何れかが悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の可溶化化粧料組成物は、可溶化力に優れるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、少量の使用で香料や脂溶性ビタミン等が可溶化出来ると共に、pH調整剤やビタミンC誘導体等の電解質(塩類)を配合した場合も、外観が白濁せず、調製した可溶化化粧料組成物の温度安定性、及びノビやべたつき面等の使用性が良好であり、皮膚刺激の懸念があるポリオキシエチレン系界面活性剤を用いない可溶化化粧料組成物に利用可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(D):
(A)重合度3以下のグリセリン重合物の含有量が3%未満であり、且つ平均重合度が10〜20のポリグリセリン1.0モルと、リシノレイン酸0.8〜1.5モルを酸価0.5以下までエステル化反応したリシノレイン酸ポリグリセリンエステル
(B)重合度3以下のグリセリン重合物の含有量が3%未満であり、且つ平均重合度が10〜20のポリグリセリン1.0モルと、パルミトレイン酸、オレイン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸より選ばれる一種以上の脂肪酸0.8〜1.5モルを酸価0.5以下までエステル化反応した脂肪酸ポリグリセリンエステル
(C)常温で液状の油性成分
(D)水
を含有する可溶化化粧料組成物。
【請求項2】
請求項1に記載した可溶化化粧料組成物の(A):(B)が重量比で40〜80:20〜60で、かつ{(A)+(B)}:(C)の重量比が0.01〜4:1であり、{(A)+ (B)}の重量が可溶化化粧料組成物全体に対して10重量%以下である可溶化化粧料組成物。

【公開番号】特開2010−275201(P2010−275201A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126868(P2009−126868)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】