説明

可燃性ガスセンサ及びそれの製造方法

【課題】 全体の薄肉化、小型化を図りつつ、測定対象ガスと酸化触媒との接触面積の増大及び酸化反応熱の伝達性を改善して測定感度及び測定精度の著しい向上を実現でき、かつ、耐久性に優れた可燃性ガスセンサを提供する。
【解決手段】 Si基板2の上面に形成したサーモパイル4上に絶縁膜5を介してダイヤモンド薄膜6を形成し、このダイヤモンド薄膜6上にPtを担持してなるセンシング部7を形成する、または、ダイヤモンド薄膜6上にPt担持カーボンクラスタの代表例としてPt担持CNT11からなるセンシング部7を結合し接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば石油化学工場等においてCO、HC、ホルムアルデヒト、水素等の可燃性ガスの爆発等といった災害を未然に防止するために、測定対象ガスの発熱量を測定することにより、当該測定対象ガス中に含有されている可燃性ガス、特に水素の濃度を測定するために用いられる可燃性ガスセンサ及びそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の可燃性ガスセンサとしては、サーミスタ、熱電対(サーモカップル)、アルミ測温抵抗体等の測温素子の表面に絶縁層を介して白金等の酸化触媒を積層させた構造のものが汎用されているが、このような積層構造の汎用ガスセンサは、熱容量が大きいために、可燃性ガスの酸化反応熱による熱量が少なく、それゆえに、熱量変化による電圧や電流、あるいは、電気抵抗の変化として取り出される出力信号も小さくて低濃度の可燃性ガスの測定感度は非常に低いという難点がある。
【0003】
また、サーモパイルの温接点部に絶縁膜を介して白金やパラジウム等の酸化触媒を含むアルミナ等の被膜を形成(蒸着)する一方、サーモパイルの冷接点部を露出させて、水素等の可燃性ガスが白金等の触媒を含む被膜に接触することに伴う燃焼により温接点部を高温化し、この温接点部と低温状態にある冷接点部との間に熱起電力を発生させ、この熱起電力を検出することにより、可燃性ガスの濃度を測定するようにした接触燃焼式ガスセンサも従来より多用されている(例えば、特許文献1参照)が、このような接触燃焼式ガスセンサは、上記した積層構造の汎用ガスセンサに比べて周囲温度に対する補償回路等が不必要であり、その分だけ測定感度の向上が図れるものの、熱容量は依然として大きく応答性に欠け、低濃度の可燃性ガスの測定感度には満足のゆく結果が得られないという問題がある。
【0004】
上記のような積層構造の汎用ガスセンサ及び接触燃焼式ガスセンサの有する難点や問題を解消すべく本出願人らは、半導体基板面に成膜された絶縁膜上にサーモパイル等の測温素子を形成し、この測温素子の感熱部に白金やルテニウム等の酸化触媒を直接成膜する、あるいは、CrやTi等の良熱伝導性金属材料を含む接着層を介して成膜して担持させるとともに、この酸化触媒を活性状態に維持するためのヒータを設けた可燃性ガスセンサを既に提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−10901号公報
【特許文献2】特開2006−71362公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2で示されている可燃性ガスセンサは、半導体基板面への絶縁膜、測温素子及び酸化触媒の成膜といった薄膜化技術の採用によって、測温素子の熱容量を小さくすることが可能であるとともに、測定対象ガス中の可燃性ガスが酸化触媒に接触して酸化反応熱が発生し、その熱量を検出することにより水素等の所定の可燃性ガス濃度を測定することが可能で、上記した汎用ガスセンサや接触燃焼式ガスセンサに比べて、測定感度及び応答性の向上が図れるものの、酸化触媒の表面で生じる酸化反応熱が測温素子の感熱部へ伝達される熱伝達性(速度、効率)が十分でなく、測定感度及び測定精度の面から未だ改良の余地が残されていた。
【0007】
また、測定対象ガスの酸化触媒に対する接触面積も余り大きくとれないために、酸化反応により生じる熱量も小さく、特に低濃度の可燃性ガスの測定感度の向上には限界があり、また、それを補うためには、酸化触媒を常に活性状態に維持するためのヒータを設けることが必須不可欠となり、ガスセンサ全体が厚肉化し大型化しやすいという問題があった。
【0008】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その主たる目的は、全体の薄肉化、小型化を図りつつ、測定対象ガスと酸化触媒との接触面積の増大及び酸化反応熱の伝達性を改善して測定感度及び測定精度の著しい向上を実現することができ、しかも、耐久性に優れた可燃性ガスセンサを提供することにあり、他の目的は、上記目的に加えて、測温素子に熱的、力学的なストレス及びそれによるダメージを与えることなく、測定感度及び測定精度の高いガスセンサを確実容易に得ることができる可燃性ガスセンサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の主たる目的を達成するために案出された本発明の請求項1に係る可燃性ガスセンサは、半導体基板面に測温素子を形成し、この測温素子で測定対象ガスの発熱量を検出することにより、測定対象ガス中の可燃性ガスの濃度を測定するように構成されている可燃性ガスセンサであって、前記測温素子上に絶縁膜を介してダイヤモンド薄膜が形成されているとともに、このダイヤモンド薄膜上に貴金属からなる酸化触媒を担持してなるセンシング部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
また、上記と同様に主たる目的を達成するために案出された本発明の請求項2に係る可燃性ガスセンサは、半導体基板面に測温素子を形成し、この測温素子で測定対象ガスの発熱量を検出することにより、測定対象ガス中の可燃性ガスの濃度を測定するように構成されている可燃性ガスセンサであって、前記測温素子上に絶縁膜を介してダイヤモンド薄膜が形成されているとともに、このダイヤモンド薄膜上に、貴金属からなる酸化触媒を担持して作製された単層もしくは複層のカーボンナノチューブで代表されるカーボンクラスタを結合してなるセンシング部が形成されていることを特徴としている。
【0011】
さらに、上記した他の目的を達成するために案出された本発明の請求項11に係る可燃性ガスセンサの製造方法は、裏面に空洞部を有する半導体基板の表面に測温素子を形成し、この測温素子で測定対象ガスの発熱量を検出することにより、測定対象ガス中の可燃性ガスの濃度を測定するように構成されている可燃性ガスセンサの製造方法であって、前記半導体基板の表面に測温素子を形成する工程と、前記測温素子上に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜上にダイヤモンド薄膜を形成する工程と、前記ダイヤモンド薄膜上に貴金属からなる酸化触媒を担持する工程とを有し、前記ダイヤモンド薄膜の形成工程後で酸化触媒の担持工程の前もしくは後または酸化触媒の担持工程中に同時に前記半導体基板裏面をエッチングして前記空洞部を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記のような特徴構成を有する請求項1及び請求項2の発明に係る可燃性ガスセンサによれば、測定対象ガスがダイヤモンド薄膜上に貴金属からなる酸化触媒を担持してなる、または、単層もしくは複層のカーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube 、以下、CNTと称するものを含む)で代表されるカーボンクラスタに貴金属からなる酸化触媒を担持してなるセンシング部に接触すると、測定対象ガス中の可燃性ガスが前記酸化触媒により酸化されて反応熱を発生する。例えば、可燃性ガスが水素ガス(H2 )である場合、
2H2 +O2 →H2 O+Q …(1)
なる反応式で示されるとおり、水素ガス(H2 )分子が酸素ガス(O2 )分子と反応して水分子(H2 O)を生じ、このとき、反応熱Qを発生する。この反応熱が酸化触媒の表面からダイヤモンド薄膜を経て測温素子に伝わるが、このとき、ダイヤモンドの熱伝導度は約3000W/m・Kとチタン等の他の金属に比べて非常に大きいために、前記反応熱を速やかに、かつ、効率よく測温素子に伝達して急速かつ大きく昇温することが可能である。したがって、測温素子の昇温効率を高めて測定対象ガス中の水素等の可燃性ガス濃度の測定感度及び測定精度の著しい向上を実現することができる。しかも、熱伝導部がダイヤモンド薄膜であるから、CNTやフラーレン等に比べて丈夫であり、耐久性の向上も図ることができる。
【0013】
加えて、請求項1の発明に係る可燃性ガスセンサの場合は、センシング部がダイヤモンド薄膜上に貴金属からなる酸化触媒を担持させるだけでよく、センサ全体を非常に薄型化、小型化することができる。また、請求項2の発明に係る可燃性ガスセンサの場合は、酸化触媒担持のカーボンクラスタを複数個用いることにより、測定対象ガス中の可燃性ガスと酸化触媒との接触面積を大きくとれて、上記反応式(1)による発熱量Qを増加し前記測温素子の昇温度合いを一層高めて測定感度及び測定精度の向上を図ることができるという効果を奏する。
【0014】
請求項1及び請求項2の発明に係る可燃性ガスセンサにおける測温素子としては、請求項3に記載のように、サーモパイルの使用が最も好ましく、また、酸化触媒としては、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ニッケルを含む貴金属の中から選択された一つであればよいが、最も好ましくは白金である。
【0015】
また、請求項1の発明に係る可燃性ガスセンサにおける前記センシング部としては、塩化白金酸を含む溶液中で酸化触媒を多孔質膜状に成長して形成されたもの(請求項5)、塩化白金酸を含む溶液中で酸化触媒をナノ粒子の薄膜状に成長して形成されたもの(請求項6)、前記ダイヤモンド薄膜上への酸化触媒のスパッタにより薄膜状に成膜して形成されているもの(請求項7)のいずれであってもよいが、特に、多孔質膜状に形成する場合は、酸化触媒の表面積を大きくして触媒作用による反応熱の発生量を大きくすることができる。
【0016】
また、請求項2の発明に係る可燃性ガスセンサにおいて、前記センシング部を形成するカーボンクラスタの前記ダイヤモンド薄膜に対する配置形態及び接続手段としては、請求項8に記載のように、カーボンクラスタの複数個を、前記ダイヤモンド薄膜の平面に対して直交する縦向き姿勢または前記平面に対して平行な横向き姿勢で並列に配置し、これら複数個のカーボンクラスタの一端もしくは横向き平面の一部をカルボキシル基またはアミノ基の終端を持つ官能基で修飾するとともに、これに対応する前記ダイヤモンド薄膜の一部を水素または水酸基の終端を持つ官能基で修飾し、それら両官能基の終端同士を脱水重合し化学結合して成膜し接続する手段、あるいは、請求項9に記載のように、縦向き姿勢または横向き姿勢で並列に配置した複数個のカーボンクラスタの一端もしくは横向き平面の一部をカルボキシル基またはアミノ基の終端を持つ官能基で修飾するとともに、これに対応する前記ダイヤモンド薄膜の一部を水素または水酸基の終端を持つ官能基で修飾し、それら両官能基の終端同士を脱水重合し、かつ、シランカップリング剤を用いて化学結合して自己組織化膜を形成して接続する手段の何れを採用してもよい。
【0017】
上記の請求項8及び請求項9に記載の場合は、いずれも複数個の酸化触媒担持カーボンクラスタを用いることで、ダイヤモンド薄膜に直接、酸化触媒を担持させる場合に比べて既述のとおり測定対象ガスとの接触面積を大きくとれる。特に、複数個の酸化触媒担持カーボンクラスタを縦向き姿勢で並列配置する場合は、接触面積が三次元的になり発熱量の増大、ひいては、測定感度及び測定精度のより一層の向上が図れる。また、請求項8の場合は、ダイヤモンド薄膜と各酸化触媒担持カーボンクラスタとの結合が酸素結合(C−O−C)となり、丈夫な膜が得られ、さらに、請求項9の場合は、各酸化触媒担持カーボンクラスタとダイヤモンド薄膜との接続部が自己組織化膜構造に形成されるために、前記した反応熱をロスなく、かつ、急速に測温素子に伝達することができ、測定感度及び測定精度の一層の向上を期することができる。
【0018】
さらに、上記請求項2、8または9に記載の可燃性ガスセンサにおいて、請求項10に記載のように、前記酸化触媒担持カーボンクラスタとダイヤモンド薄膜とを接続する官能基の有機化合物の炭素の直鎖の数、あるいは、中間にアミン基(NH)が介在される場合の最短の原子鎖の数が20以下であることが好ましい。このように有機化合物の炭素鎖の数が小さいと、前記反応熱を極めて速やかに測温素子に伝達することができ、測定感度のより一層の向上を図ることができる。
【0019】
一方、請求項11の発明に係る可燃性ガスセンサの製造方法によれば、ダイヤモンド薄膜上への酸化触媒の担持工程が半導体基板の裏面に空洞部を形成するためのエッチングの前もしくは後またはエッチングと同時に行われるものであって、半導体基板の裏面をエッチングする前には半導体基板の表面に既に高温下でのダイヤモンド薄膜が形成されているので、薄膜形成時の熱衝撃や力学的なストレスがサーモパイル等の測温素子に加わることを抑制し該測温素子の破損や変形などのダメージを最小限に止めることができ、これによって、既述のような測定感度及び測定精度の高いガスセンサを確実容易に得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、請求項1,3〜7の発明に対応する第1の実施の形態による可燃性ガスセンサの縦断面図である。この可燃性ガスセンサ1は、厚みが約300〜500μmのシリコン(Si)基板(半導体基板の一例)2の中央部分裏面にはエッチングにより空洞部3が形成されており、この空洞部3に対応するSi基板2の上面には、測温素子の一例として、例えばポリシアンとアルミニウム等の異種金属を接合してなり、受熱量に応じたゼーベック効果により熱起電力を発生し出力するサーモパイル4が成膜形成されているとともに、このサーモパイル4の表面を含めて前記Si基板2の上面全域には絶縁膜5が成膜されている。
【0021】
前記絶縁膜5上で前記サーモパイル4の感熱部(異種金属の接合部)に対応する箇所には、ダイヤモンド薄膜6が成膜されているとともに、このダイヤモンド薄膜6上に、酸化触媒の一例である白金(Pt)を塩化白金酸を含む溶液中でナノ粒子の薄膜状に成長させて担持させる、もしくは、白金(Pt)をスパッタメッキで薄膜状に成長させて担持させる、または、白金(Pt)を塩化白金酸を含む溶液中で多孔質膜状に成長させて担持させる、など白金(Pt)担持薄膜からなるセンシング部7が形成されている。なお、酸化触媒としては、白金(Pt)以外に、触媒作用のある貴金属、例えばパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)などを用いてもよい。
【0022】
上記のように構成された第1の実施の形態による可燃性ガスセンサ1においては、水素等の可燃性ガスを含んだ測定対象ガスが前記Pt担持薄膜からなるセンシング部7に接触すると、図2の動作原理でも明らかなように、測定対象ガス中の可燃性ガス、例えば水素ガス(H2 )分子はセンシング部7に担持されている白金(Pt)のもとで、既述(1)式で示すとおり、酸素ガス(O2 )分子と反応して水分子(H2 O)を生じ、このとき、反応熱Qを発生する。この反応熱Qは、Ptの表面から熱伝導度が約3000W/m・Kと非常に大きいダイヤモンド薄膜を経て、サーモパイル4の感熱部に速やかに、かつ、効率よく伝達されて該感熱部を急速かつ大きく昇温して大きな熱起電力を発生することになる。この熱起電力を測定して単位時間当たりの熱量を算出することにより、水素ガス等の可燃性ガス濃度を感度よく測定することが可能である。
【0023】
また、上記第1の実施の形態による可燃性ガスセンサ1においては、前記ダイヤモンド薄膜6上に白金(Pt)担持薄膜からなるセンシング部7を形成するだけでよくて、センサ1全体を非常に薄型化、小型化することができるのみならず、センシング部7からサーモパイル4への熱伝導部がダイヤモンド薄膜6であるから、CNTやフラーレン等に比べて丈夫であり、耐久性の向上も図ることができる。
【0024】
さらに、第1の実施の形態による可燃性ガスセンサ1において、前記ダイヤモンド薄膜6上のセンシング部7に担持される白金(Pt)を多孔質膜状に形成する場合は、白金(Pt)の表面積を最も大きく確保して触媒作用による反応熱の発生量を大きくすることができる。
【0025】
図3及び図4はそれぞれ、請求項11の発明に対応する可燃性ガスセンサの製造方法を工程順に示すものであって、共に上記第1の実施の形態で示したような構成の可燃性ガスセンサ1を製造対象としている。したがって、図3及び図4では、第1の実施の形態で示したものと同一部材、同一部位には同一の符号を付して、説明する。
【0026】
図3は、前記ダイヤモンド薄膜6上に白金(Pt)を塩化白金酸を含む溶液中でナノ粒子の薄膜状に成長させて担持させてなるセンシング部7を形成する場合のプロセスを示し、同図の(a),(b)はSi基板2の上面にサーモパイル4を成膜形成する工程、(c)はサーモパイル4の感熱部上に絶縁膜5を成膜する工程、(d)は絶縁膜5上にダイヤモンド薄膜6を成膜する工程、(e)はSi基板2の裏面をエッチングして空洞部3を形成する工程、(f)は前記ダイヤモンド薄膜6上に白金(Pt)を塩化白金酸を含む溶液中でナノ粒子の薄膜状に成長させて担持させてなるセンシング部7を形成する工程であり、白金(Pt)担持薄膜からなるセンシング部7の形成工程が、空洞部3を形成するエッチングの後に行われる。
【0027】
図4は、前記ダイヤモンド薄膜6上に白金(Pt)をスパッタメッキで薄膜状に成長させて担持させてなるセンシング部7を形成する場合のプロセスを示し、同図の(a),(b)はSi基板2の上面にサーモパイル4を成膜形成する工程、(c)はサーモパイル4の感熱部上に絶縁膜5を成膜する工程、(d)は絶縁膜5上にダイヤモンド薄膜6を成膜する工程、(e)は前記ダイヤモンド薄膜6上に白金(Pt)をスパッタメッキで薄膜状に成長させて担持させてなるセンシング部7を形成する工程、(f)はSi基板2の裏面をエッチングして空洞部3を形成する工程であり、白金(Pt)担持薄膜からなるセンシング部7の形成工程が、空洞部3を形成するエッチングの前に行われる。
【0028】
上記図3及び図4に示す製造方法以外に、Si基板2の裏面に空洞部3を形成するためのエッチング中に、前記ダイヤモンド薄膜6上に白金(Pt)担持センシング部7の形成工程を同時に行ってもよいが、この製造方法については図示を省略する。
【0029】
以上の図3、図4及び図示省略した請求項11の発明に対応する可燃性ガスセンサの製造方法は、要するに、ダイヤモンド薄膜6上への白金(Pt)担持センシング部7の形成工程が、Si基板2の裏面に空洞部3を形成するためのエッチングの前もしくは後またはエッチングと同時に行われるものであって、Si基板2の裏面をエッチングする前には高温処理であるところのダイヤモンド薄膜6が既に形成されているので、その薄膜6形成時の熱衝撃や力学的なストレスがサーモパイル4に加わって膜が膨張したり、収縮したりすることを抑制し該サーモパイル4の破損や熱変形などのダメージを最小限に止めることができ、これによって、測定感度及び測定精度の高いガスセンサを確実容易に製造することができる。
【0030】
図5は、請求項2,3,4,8の発明に対応する第2の実施の形態による可燃性ガスセンサの縦断面図である。この可燃性ガスセンサ10は、厚みが約300〜500μmのシリコン(Si)基板(半導体基板の一例)2の中央部分裏面にはエッチングにより空洞部3が形成されており、この空洞部3に対応するSi基板2の上面には、測温素子の一例として、例えばポリシアンとアルミニウム等の異種金属を接合してなり、受熱量に応じたゼーベック効果により熱起電力を発生し出力するサーモパイル4が成膜形成されているとともに、このサーモパイル4の表面を含めて前記Si基板2の上面全域には絶縁膜5が成膜されている。
【0031】
前記絶縁膜5上で前記サーモパイル4の感熱部(異種金属の接合部)に対応する箇所には、ダイヤモンド薄膜6が成膜されているとともに、このダイヤモンド薄膜6上に、該薄膜6の平面に対して直交する縦向き姿勢でカーボンクラスタの代表例として後述する複数個のCNT11が互いに平行となるように並列に配置してなるセンシング部7を前記薄膜6に結合し接続されている。このセンシング部7を構成する各CNT11は、単層または複層(多層)の円筒形状に作製されたCNTに酸化触媒の一例である白金(Pt)を予め担持させたものであり、これらPt担持CNT11の一端には、図5にその一部を取り出し拡大して示したように、一部の炭素結合をカルボキシル基またはアミン基の終端を持つ官能基12で修飾するとともに、これに対応する前記ダイヤモンド薄膜6の一部を水素または水酸基を持つ官能基で修飾し、これら両官能基の終端同士を脱水重合し化学結合して成膜することにより、各Pt担持CNT11を前記ダイヤモンド薄膜6に結合し接続したものである。なお、前記官能基の有機化合物の炭素の直鎖の数、あるいは、中間にアミン基もしくはシラン基が介在される場合、その最短の原子の数は、20以下とすることが望ましい。
【0032】
図6は、請求項2,3,4,9の発明に対応する第3の実施の形態による可燃性ガスセンサの縦断面図である。この第3の実施の形態による可燃性ガスセンサ10の基本的な構成は、上記第2の実施の形態で示した可燃性ガスセンサ10と同様に、ダイヤモンド薄膜6上に、該薄膜6の平面に対して直交する縦向き姿勢で複数個のPt担持CNT11を互いに平行となるように並列に配置してなるセンシング部7を前記薄膜6に結合し接続したものであり、上記第2の実施の形態のものと相違する点は、センシング部7を構成する各Pt担持CNT11のダイヤモンド薄膜6に対する結合接続手段であり、以下、その接合接続手段について説明する。
【0033】
すなわち、第3の実施の形態の場合は、各Pt担持CNT11の一端に、図6にその一部を取り出し拡大して示したように、一部の炭素結合をカルボキシル基またはアミン基の終端を持つ官能基12で修飾するとともに、これに対応する前記ダイヤモンド薄膜6の一部を水素または水酸基を持つ官能基で修飾し、これら両官能基の終端同士を脱水重合し、かつ、シランカップリング剤を用いて化学結合して自己組織化単分子膜として成膜することにより、各Pt担持CNT11を前記ダイヤモンド薄膜6に結合接続したものである。
【0034】
なお、図示は省略するが、第4の実施の形態として、ダイヤモンド薄膜6上に複数個のPt担持CNT11を、該薄膜6の平面に対して平行な横向き姿勢に配置してなるセンシング部7を前記薄膜6に直接に化学結合して接続したものであってもよい。
【0035】
また、上記第2〜第4の実施の形態の可燃性ガスセンサ10を製造するにあたっても、図3または図4に示した製造方法と同様に、ダイヤモンド薄膜6上への白金(Pt)担持CNT11の結合接続工程を、Si基板2の裏面に空洞部3を形成するためのエッチングの前もしくは後またはエッチングと同時に行うことによって、Si基板2の裏面をエッチングする前には高温処理であるところのダイヤモンド薄膜6が既に形成されているので、その薄膜6形成時の熱衝撃や力学的なストレスがサーモパイル4に加わって膜が膨張したり、収縮したりすることを抑制し該サーモパイル4の破損や熱変形などのダメージを最小限に止めることができ、これによって、測定感度及び測定精度の高いガスセンサを確実容易に製造することができる。
【0036】
上記のように構成された第2〜第4の実施の形態による可燃性ガスセンサ10においては、水素等の可燃性ガスを含んだ測定対象ガスが前記Pt担持CNT11に接触すると、図7の動作原理からも明らかなように、測定対象ガス中の可燃性ガス、例えば水素ガス(H2 )分子がCNT11に担持されているPtのもとで、既述(1)式で示すとおり、酸素ガス(O2 )分子と反応して水分子(H2 O)を生じ、このとき、反応熱Qを発生する。この反応熱Qは、Ptの表面から熱伝導度が約6000W/m・Kと非常に大きいCNT11及び熱伝導度が約3000W/m・Kと非常に大きいダイヤモンド薄膜6を経て、サーモパイル4の感熱部に速やかに、かつ、効率よく伝達されて該感熱部を急速かつ大きく昇温して大きな熱起電力を発生することになる。この熱起電力を測定して単位時間当たりの熱量を算出することにより、水素ガス等の可燃性ガス濃度を感度よく測定することが可能である。
【0037】
特に、第2及び第3の実施の形態による可燃性ガスセンサ10においては、Pt担持CNT11の複数個が制約された大きさのサーモパイル4の感熱部上に縦向き姿勢で並列配置されて立体的なセンシング部7を構成しているために、測定対象ガスとの接触面積が三次元的で非常に大きくなり、これによって、発熱量の増大、ひいては、測定感度及び測定精度の一層の向上が図れる。
【0038】
また、第2の実施の形態による可燃性ガスセンサ10の場合は、ダイヤモンド薄膜6と各Pt担持CNT11との結合が酸素結合(C−O−C)となり、丈夫な膜が得られる。さらに第3の実施の形態による可燃性ガスセンサの場合は、各Pt担持CNT11とダイヤモンド薄膜6との接続部が自己組織化単分子膜に形成されるために、前記した反応熱をロスなく、かつ、急速に測温素子に伝達することができ、測定感度及び測定精度の一層の向上を期することができる。
【0039】
上記第1〜第4の実施の形態で示す可燃性ガスセンサ1及び図3,4で説明した可燃性ガスセンサ1の製造方法において、サーモパイル4上にダイヤモンド薄膜6を成膜する方法としては、周知のCVDによる気相成長法であってもよいが、このCVDによる気相成長法は、その成長温度が約600℃程度と高いために、サーモパイル4を形成するアルミニウムやポリシアンなどの金属が蒸発してしまう可能性があるために、成膜そのものが容易でない。そこで、このCVDによる気相成長法に代わる成膜方法として次のような方法の採用が望ましい。
【0040】
即ち、図8の(a)に示すように、サーモパイル4の表面にSiO2 等の酸化膜12を施し、この酸化膜12上に、例えば水酸基終端などを施したダイヤモンドナノ粒子(ダイヤモンド状のカーボンクラスタでもよい。)群13とシランカップリング剤14を分散状態に堆積させる。これによって、酸化膜12及びダイヤモンドナノ粒子群13はシランカップリング剤14を介して相互に水素結合されて固定化される。次いで、図8の(b)に示すように、脱水処理すると、水素結合は強固な化学結合に変化し、ダイヤモンドナノ粒子群13からなる薄膜6がサーモパイル4に多孔質子膜として成膜される。そして、第2及び第3の実施の形態のように、Pt担持CNT11を用いる場合は、ダイヤモンドナノ粒子群13のうち、最上段に位置するダイヤモンドナノ粒子13の表面に付着し結合しているシランカップリング剤14により、図8の(c)に示すに、Pt担持CNT11の一端がダイヤモンド薄膜6に結合し接続される。
【0041】
上記したようなダイヤモンド薄膜6の成膜方法及びPt担持CNT11との結合接続方法を採用することにより、比較的低温で成膜及び接続することが可能となり、高品質の製品(可燃性ガスセンサ)を容易に製造することができる。
【0042】
なお、上記各実施の形態において、サーモパイル4の周囲にヒータなどを組み込んで測定対象ガスを加熱するように構成してもよい。この場合は、ヒータによる測定対象ガスの加熱温度を調節することにより、測定対象ガスに含まれている水素以外の他の可燃性ガスの測定も可能で、測定対象ガスに対する選択性をもたせることができる。
【0043】
また、測定対象ガスが複数の可燃性ガスを含有している場合は、サンプリング装置とカラムを用いて可燃性ガス種を分離し、その分離後の可燃性ガスに酸素を補給してサーモパイル4上で反応させることにより、分離された種類毎の可燃性ガスの濃度を測定することが可能である。
【0044】
さらに、上記各実施の形態では、測温素子として、サーモパイルを用いたもので説明したが、それ以外にサーミスタボロメータを用いても、上記したものと同様に、センサ全体の小型化を図りつつ、可燃性ガスの測定感度及び測定精度の向上効果を奏するものである。
【0045】
さらにまた、上記各実施の形態では、サーモパイル4の表面側にダイヤモンド薄膜6及びセンシング部7を形成したもので説明したが、サーモパイル4の裏面側にダイヤモンド薄膜6及びセンシング部7を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の請求項1,3〜7に対応する第1の実施の形態による可燃性ガスセンサの縦断面図である。
【図2】第1の実施の形態による可燃性ガスセンサの動作原理図である。
【図3】(a)〜(f)は本発明の請求項11に対応する可燃性ガスセンサの製造方法の一例を示すプロセス図である。
【図4】本発明の請求項11に対応する可燃性ガスセンサの製造方法の他の例を示すプロセス図である。
【図5】(a)〜(f)は本発明の請求項2,3,4,8に対応する第2の実施の形態による可燃性ガスセンサを、その一部を取り出し拡大して示した縦断面図である。
【図6】本発明の請求項2,3,4,9に対応する第3の実施の形態による可燃性ガスセンサを、その一部を取り出し拡大して示した縦断面図である。
【図7】第2〜第4の実施の形態による可燃性ガスセンサの動作原理図である。
【図8】(a)〜(c)サーモパイル上へのダイヤモンド薄膜の成膜方法及びそのダイヤモンド薄膜へのPt担持CNTの結合接続方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
1,10 可燃性ガスセンサ
2 Si基板(半導体基板の一例)
4 サーモパイル(測温素子の一例)
5 絶縁膜
6 ダイヤモンド薄膜
7 Pt担持薄膜からなるセンシング部
11 Pt担持CNT(カーボンナノチューブ)
12 官能基


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板面に測温素子を形成し、この測温素子で測定対象ガスの発熱量を検出することにより、測定対象ガス中の可燃性ガスの濃度を測定するように構成されている可燃性ガスセンサであって、
前記測温素子上に絶縁膜を介してダイヤモンド薄膜が形成されているとともに、このダイヤモンド薄膜上に貴金属からなる酸化触媒を担持してなるセンシング部が形成されていることを特徴とする可燃性ガスセンサ。
【請求項2】
半導体基板面に測温素子を形成し、この測温素子で測定対象ガスの発熱量を検出することにより、測定対象ガス中の可燃性ガスの濃度を測定するように構成されている可燃性ガスセンサであって、
前記測温素子上に絶縁膜を介してダイヤモンド薄膜が形成されているとともに、このダイヤモンド薄膜上に、貴金属からなる酸化触媒を担持して作製された単層もしくは複層のカーボンナノチューブで代表されるカーボンクラスタを結合してなるセンシング部が形成されていることを特徴とする可燃性ガスセンサ。
【請求項3】
前記測温素子として、サーモパイルを使用している請求項1または2に記載の可燃性ガスセンサ。
【請求項4】
前記酸化触媒が、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ニッケルを含む貴金属の中から選択された一つである請求項1ないし3のいずれかに記載の可燃性ガスセンサ。
【請求項5】
前記センシング部が、塩化白金酸を含む溶液中で酸化触媒を多孔質膜状に成長して形成されたものである請求項1に記載の可燃性ガスセンサ。
【請求項6】
前記センシング部が、塩化白金酸を含む溶液中で酸化触媒をナノ粒子の薄膜状に成長して形成されたものである請求項1に記載の可燃性ガスセンサ。
【請求項7】
前記センシング部が、前記ダイヤモンド薄膜上への酸化触媒のスパッタにより薄膜状に成膜して形成されている請求項1に記載の可燃性ガスセンサ。
【請求項8】
前記センシング部を形成する酸化触媒担持カーボンクラスタの複数個が、前記ダイヤモンド薄膜の平面に対して直交する縦向き姿勢または前記平面に対して平行な横向き姿勢で並列に配置され、これら複数個の酸化触媒担持カーボンクラスタの一端もしくは横向き平面の一部をカルボキシル基またはアミノ基の終端を持つ官能基で修飾するとともに、これに対応する前記ダイヤモンド薄膜の一部を水素または水酸基の終端を持つ官能基で修飾し、それら両官能基の終端同士を脱水重合し化学結合して成膜することにより前記複数個の酸化触媒担持カーボンクラスタが前記ダイヤモンド薄膜に接続されている請求項2に記載の可燃性ガスセンサ。
【請求項9】
前記センシング部を形成する酸化触媒担持カーボンクラスタの複数個が、前記ダイヤモンド薄膜の平面に対して直交する縦向き姿勢または前記平面に対して平行な横向き姿勢で並列に配置され、これら複数個の酸化触媒担持カーボンクラスタの一端もしくは横向き平面の一部をカルボキシル基またはアミノ基の終端を持つ官能基で修飾するとともに、これに対応する前記ダイヤモンド薄膜終端前記の一部を水素または水酸基の終端を持つ官能基で修飾し、それら両官能基の終端同士を脱水重合し、かつ、シランカップリング剤を用いて化学結合して自己組織化膜を形成することにより前記複数個の酸化触媒担持カーボンクラスタが前記ダイヤモンド薄膜に接続されている請求項2に記載の可燃性ガスセンサ。
【請求項10】
前記カーボンクラスタと前記ダイヤモンド薄膜とを接続する官能基の有機化合物の炭素の直鎖の数、あるいは、中間にアミン基が介在される場合の最短の原子鎖の数が20以下である請求項2、8または9のいずれかに記載の可燃性ガスセンサ。
【請求項11】
裏面に空洞部を有する半導体基板の表面に測温素子を形成し、この測温素子で測定対象ガスの発熱量を検出することにより、測定対象ガス中の可燃性ガスの濃度を測定するように構成されている可燃性ガスセンサの製造方法であって、
前記半導体基板の表面に測温素子を形成する工程と、前記測温素子上に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜上にダイヤモンド薄膜を形成する工程と、前記ダイヤモンド薄膜上に貴金属からなる酸化触媒を担持する工程とを有し、前記ダイヤモンド薄膜の形成工程後で酸化触媒の担持工程の前もしくは後または酸化触媒の担持工程中に同時に前記半導体基板裏面をエッチングして前記空洞部を形成することを特徴とする可燃性ガスセンサの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−233030(P2008−233030A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76907(P2007−76907)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】