説明

合わせガラス用ポリエステルフィルム

【課題】 例えば、曲面を持ったガラスを使用した際においても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層されることから、光学歪みが出ることがない、優れた特性を有する合わせガラス用として好適なポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ1.5〜5.0%の範囲であることを特徴とする合わせガラス用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用ポリエステルフィルムに関し、特に曲率の大きいガラスを使用した合わせガラス用に好適なポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窓ガラス、特に自動車等の車両の窓ガラスには車内温度上昇を防止するために熱線遮断機能を付与する取り組みが行われている。合わせガラスには、飛散防止効果や耐貫通性を向上させるために、中間膜としてポリビニルブチラールなどの軟質樹脂が使用されており、軟質樹脂に有機染料や無機酸化物を配合して熱線吸収する方法やポリエステル等のプラスチックフィルムに熱線遮断層を真空蒸着法やスパッタリング法等で積層したものを新たに中間膜として追加する方法が知られている。
【0003】
軟質樹脂に有機染料を配合して熱線吸収する方法では、軟質樹脂は曲面を持ったガラスへの追従性に優れるので、合わせガラスにおいて光学歪みはないが、軟質樹脂が着色フィルムとなり、可視光領域で高い透過率を必要とする用途には使えない。軟質樹脂に無機酸化物を配合する方法では、曲面を持ったガラスへの追従性には優れるものの、当該方法では熱線を吸収してガラスが割れてしまうことがある。
【0004】
ポリエステル等のプラスチックフィルムに熱線遮断層を真空蒸着法やスパッタリング法等で積層したものを新たに中間膜として追加する方法は、可視領域での透過率が高く、熱線遮断機能を有する合わせガラスとして優れた性能を有しているが、曲面を持ったガラスを使用した際にガラスの曲面にプラスチックフィルムが追従せず、光学歪みが出ることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−3252号公報
【特許文献2】特開平6−191906号公報
【特許文献3】特開平8−217500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みなされたものであって、その解決課題は、曲面を持ったガラスを使用した際であっても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、光学歪みが出ることがない合わせガラス用として好適なポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ある特定の収縮率を有するポリエステルフィルムによれば、上記課題が容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ1.5〜5.0%の範囲であることを特徴とする合わせガラス用ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、曲面を持ったガラスを使用した際においても、ガラスの曲面に添うようにポリエステルフィルムが追従して積層され、光学歪みが出ることがない、優れた特性を有する合わせガラスを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいうポリエステルフィルムとは、いわゆる押出法に従い、押出口金から溶融押出されたシートを延伸したフィルムである。
【0011】
上記のフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸と、ジオールとからあるいはヒドロキシカルボン酸から重縮合によって得られるエステル基を含むポリマーを指す。
ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を、ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール等を、ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等をそれぞれ例示することができる。
かかるポリマーの代表的なものとして、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンー2、6ナフタレート等が例示される。
【0012】
本発明におけるポリエステルフィルムには、取り扱いを容易にするために透明性を損なわない条件で粒子を含有させてもよい。本発明で用いる粒子の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子や、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子を挙げることができる。また粒子を添加する方法としては、原料とするポリエステル中に粒子を含有させて添加する方法、押出機に直接添加する方法等を挙げることができ、このうちいずれか一方の方法を採用してもよく、2つの方法を併用してもよい。
【0013】
用いる粒子の粒径は、通常0.05〜5.0μm、好ましくは0.1〜4.0μmである。平均粒径が5.0μmより大きいと、フィルムのヘーズが大きくなり、フィルムの透明性が低下することがある。平均粒径が0.1μmより小さいと、表面粗度が小さくなりすぎて、フィルムの取り扱いが困難になる場合がある。粒子含有量は、ポリエステルに対し、通常0.001〜30.0重量%であり、好ましくは0.01〜10.0重量%である。粒子含有量が多いとヘーズが大きくなり、可視光領域の透過率が低下することがあり、粒子含有量が少ないとフィルムの取り扱いが困難になる場合がある。
【0014】
ポリエステルに粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混錬押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混錬押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0015】
本発明では必要に応じて上記粒子の他にも添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0016】
本発明においては、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましいが、得られたフィルムが本発明の要旨を逸脱しない限り、未延伸または少なくとも一方に延伸されたポリエステルフィルムを用いることもできる。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率は、1.5〜5.0%の範囲であることが必要である。長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率が1.5%より小さい場合には、合わせガラス加工時にフィルムが合わせガラスの曲面に沿わず合わせガラスに光学歪みが発生し、長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率が5.0%より大きい場合には、合わせガラス加工時にフィルムの収縮により合わせガラスに光学歪みが発生する場合があり、好ましくない。
【0018】
また、本発明のポリエステルフィルムにおいては130℃、30分における長手方向と幅方向の熱収縮率の差が0.3%以下であることが必要である。長手方向と幅方向の熱収縮率の差が0.3%より大きい場合には、長手方向、幅方向のバランスがくずれてポリエステルフィルムの平面性が悪化して合わせガラスにおいて光学歪みが発生する場合があり、好ましくない。
【0019】
塗布層はフィルムの片面に設けられていても、両面に設けられていてもよい。また、塗布層は、帯電防止剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料などを含有していてもよい。
【0020】
塗布剤の塗布方法としては、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクターコーターまたはこれら以外の塗布装置を使用することができる。
【0021】
なお、塗布剤のフィルムへの塗布性や接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理や放電処理を施してもよい。また、表面特性をさらに改良するため、塗布層形成後に放電処理を施してもよい。
【0022】
塗布層の厚みは、最終的な乾燥厚さとして、通常0.02〜0.5μm、好ましくは0.03〜0.3μmの範囲である。塗布層の厚さが0.02μm未満の場合は、本発明の効果が十分に発揮されない恐れがある。塗布層の厚さが0.5μmを超える場合は、フィルムが相互に固着しやすくなったり、特にフィルムの高強度化のために塗布処理フィルムを再延伸する場合は、工程中のロールに粘着しやすくなったりする傾向がある。上記の固着の問題は、特にフィルムの両面に同一の塗布層を形成する場合に顕著に現れる。
【0023】
なお、必要に応じて、フィルムの製造後にコートするオフラインコートと呼ばれる方法でコートしてもよい。また片面、両面は問わない。コーティングの材料としては、オフラインコートの場合は水系および/または溶剤系いずれでもよい。
【0024】
本発明のフィルムを用いて合わせガラスを製造する際に用いる軟質樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)またはエチレン―酢酸ビニル共重合体(EVA)が好適に用いられる。
【0025】
本発明のフィルムを用いて合わせガラスを製造する際に用いるガラスとしては、建築用または自動車用等に用いられるものであればいずれも使用可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、種々の諸物性、特性は以下のように測定、または定義されたものである。実施例中、「%」は「重量%」を意味する。
【0027】
(1)熱収縮率の測定
フィルムの長手方向、フィルムの幅方向に対して10、50、90%に相当する位置より15mm巾×150mm長のサイズの短冊状にサンプルを切り出し、無張力状態にして150℃に設定されたオーブン中で30分間の加熱処理を行ない、加熱処理前後の長さを測微計により測定し、下記式にて熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=[(a−b)/a]x100
(式中a、bはそれぞれ加熱前後のフィルム長さ(mm))
【0028】
(2)合わせガラスにおける光学歪み
曲面を持った2枚のガラス板の間にポリビニルブチラールフィルムおよびポリエステルフィルムを挟み込み、ガラス温度80〜100℃、減圧度650mmHg以上で予備圧着し、次いで、温度120〜150℃、圧力10〜15kg/cmのオートクレーブ中で20〜40分間の本接着を行うことにより、合わせガラスとした。作成した合わせガラスの外観を観察して、合わせガラスにおける光学歪みについて以下の基準で評価を行った。
○:合わせガラスにおいてポリエステルフィルムに起因するシワなく、光学歪みの全くない優れた外観
×:合わせガラスにおいてポリエステルフィルムに起因するシワがあり、透明性が低下し実用上問題がある
【0029】
実施例1:
(ポリエステルチップの製造法)
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール70部、および酢酸カルシウム一水塩0.07部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノール留去させエステル交換反応を行い、反応開始後、約4時間半を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次に燐酸0.04部および三酸化アンチモン0.035部を添加し、常法に従って重合した。すなわち、反応温度を徐々に上げて、最終的に280℃とし、一方、圧力は徐々に減じて、最終的に0.05mmHgとした。4時間後、反応を終了し、常法に従い、チップ化してポリエステル(A)を得た。得られたポリエステルチップの溶液粘度IVは、0.66であった。また、上記ポリエステル(A)を製造する際、平均粒径2μmの非晶質シリカを1000ppm添加し、ポリエステル(B)を作成した。
【0030】
(ポリエステルフィルムの製造)
上記ポリエステル(A)をB層用の原料としポリエステル(B)をA層用の原料とし、A層およびB層用原料をそれぞれ別個の溶融押出機により溶融押出して(A/B/A)の2種3層積層の無定形シートを得た。ついで、冷却したキャスティングドラム上に、シートを共押出し冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、90℃にて縦方向に3.6倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て90℃で横方向に4倍延伸、210℃で10秒間の熱処理を行い、厚さ125μmのポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルム、ポリビニルブチラール、曲面を持ったガラスを用いて合わせガラスを作成し、合わせガラスの外観を確認した。合わせガラスには光学歪みがなく、良好な外観だった。
【0031】
実施例2:
ポリエステルフィルムを製膜する際の熱処理温度を225℃とする以外は実施例1と同様の方法により合わせガラスを得た。得られた合わせガラスには光学歪みがなく、良好な外観だった。
【0032】
実施例3:
ポリエステルフィルムを製膜する際の熱処理温度を200℃とする以外は実施例1と同様の方法により合わせガラスを得た。得られた合わせガラスには光学歪みがなく、良好な外観だった。
【0033】
比較例1:
ポリエステルフィルムを製膜する際の熱処理温度を230℃とする以外は実施例1と同様の方法により合わせガラスを得た。得られた合わせガラスではポリエステルフィルムに起因するシワがあり、透明性が低下し実用上問題があった。
【0034】
比較例2:
ポリエステルフィルムを製膜する際の熱処理温度を180℃とする以外は実施例1と同様の方法により合わせガラスを得た。得られた合わせガラスではポリエステルフィルムに起因するシワがあり、透明性が低下し実用上問題があった。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、建材、自動車等の窓の合わせガラス用として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの長手方向および幅方向の130℃、30分における熱収縮率がそれぞれ1.5〜5.0%の範囲であることを特徴とする合わせガラス用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2010−159201(P2010−159201A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238944(P2009−238944)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】