説明

合成樹脂製カバーの締結用ボルトにおけるシール装置

【課題】合成樹脂製カバー2と,その締結用ボルト4と,前記ボトルに被嵌したシール座金9とから成り,前記シール座金が,前記ボルトにおける頭部,ナット又は座金に接当する金属板製の押え座金10と,前記カバーに接当して前記ボルトの締結にてその軸線方向に圧縮変形される軟質弾性体製のシールリング体11とで構成されているシール装置において,前記カバーのその熱膨張に起因する損傷を回避する一方,前記シールリング体11の耐久性の向上を図る。
【解決手段】前記押え座金10に,前記カバーに向かう突出片10aを備え,この突出片10aが,前記ボルトを締結した状態で,前記カバーのうち前記ボルトが嵌まる部分が前記ボルトの軸線方向に熱膨張したときに前記カバーに接当する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,内燃機関におけるヘッドカバー又はチエンカバー等のカバーを合成樹脂製にして,これを貫通するボルトの締結にて取付ける場合において,前記カバーのうち前記ボルトが貫通する部分を密封するためのシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては,そのシリンダヘッドの上面をヘッドカバー又はタイミングチエンを覆うチエンカバーを,合成樹脂製にして,これを貫通するボルト孔内に挿入したボルトの締結にて着脱可能に取付けるという構成にする一方,前記ヘッドカバー又はチエンカバーにおける外表面のうち前記ボルト孔が開口する部分と前記ボルトの頭部又はナットとの間には,金属板にて下向きの椀型に形成した押え座金とその下面の内部に配設したゴム等の軟質弾性体製のシールリング体とで構成されるシール座金を,前記ボルトに被嵌するように介挿して,このシール座金のうちシールリング体の圧縮変形にて,前記カバーの内部における気密を保持するという構成にしている。
【0003】
そして,従来,前記シール座金には,例えば特許文献1に記載されているように,前記ボルトを所定に締結したときに,前記椀型押え座金の周囲における下端縁が前記合成樹脂製のカバーに対して接当するという構成にしたものと,例えば特許文献2に記載されているように,前記ボルトを所定に締結したときに,前記椀型押え座金の周囲における下端縁と,前記合成樹脂製のカバーとの間に相当大きな隙間をあけるという構成にしたものとがある。
【特許文献1】実開平7−38738号公報
【特許文献1】特開平10−205515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで,前記合成樹脂製のカバーのうちボルトが貫通する部分は,温度の変化に応じて,前記ボルトの軸線方向に熱膨張及び収縮を繰り返すことに加えて,前記ボルトの軸線方向に振動することになり,しかも,前記軸線方向への熱膨張及び収縮は,カバーが金属製である場合よりも大きい。
【0005】
この場合において,前記特許文献1のように,前記椀型押え座金の外周における下端縁がカバーに接当するという構成であるときには,その下面の内部に配設したシールリング体に,カバーにおける前記熱膨張及び振動が及ぶこと,ひいては,前記シールリング体の耐久性が前記カバーの熱膨張及び振動にて低下することを,前記押え座金における下端縁のカバーへの接当にて確実に回避することができるが,その反面,前記押え座金における下端縁が,カバーにおける熱膨張及び振動によりカバー側に食い込むことになるから,カバーを損傷するおそれが大きいという問題がある。
【0006】
これに対し,前記特許文献2のように,前記椀型押え座金における下端面とカバーとの間に相当大きい隙間をあけるという構成であるときには,前記押え座金における下端縁の熱膨張及び振動によるカバーへの食い込みは回避できるものの,前記押え座金の下面内部におけるシールリンク体は,前記カバーにおける振動に起因して,大きく圧縮変形されるとともに,圧縮変形を間断なく繰り返すことになるから,このシールリング体における早期の性能劣化を招来し,その耐久性が低いという問題があった。
【0007】
本発明は,これらの問題を解消したシール装置を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を達成するため本発明の請求項1は,
「合成樹脂製のカバーと,このカバーを貫通する締結用ボルトと,前記カバーと前記ボルトにおける頭部又はこれに螺合するナット或いは前記ボルトに被嵌した座金との間に前記ボルトに被嵌して介挿されるシール座金とから成り,前記シール座金が,前記ボルトにおける頭部,ナット又は座金に接当する金属板製の押え座金と,前記カバーに接当して前記ボルトの締結にてその軸線方向に圧縮変形される軟質弾性体製のシールリング体とで構成されているシール装置において,
前記シール座金の押え座金には,前記カバーに向かう突出片を備え,この突出片は,前記ボルトを締結した状態で,前記カバーのうち前記ボルトが嵌まる部分が前記ボルトの軸線方向に熱膨張したときに前記カバーに接当する構成である。」
ことを特徴としている。
【0009】
また,本発明の請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記シール座金における押え座金は,その突出片を全周にわたって設けて成る下向き椀型の形状であり,この突出片の内周と,前記シール座金におけるシールリング体との間に,シールリング体の外周面に沿って全周を囲うように延びる環状溝が形成されている。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
前記請求項1の構成によると,シール座金における押え座金に設けた突出片は,ボルトを締結した状態では,合成樹脂製のカバーのうちボルトが嵌まる部分が熱膨張したときに限り,前記カバーに接当することになるから,当該突出片が,前記カバーにおける熱膨張によって当該カバーに食い込むことを確実に回避できる。
【0011】
一方,前記押え座金に設けた突出片は,前記カバーが熱膨張したときにこのカバーに接当する。
【0012】
この接当により,前記シール座金におけるシールリング体が,前記熱膨張の以降においては,前記カバー等における振動に起因して,前記熱膨張するときの寸法以上に大きく圧縮変形されることを確実に阻止できるとともに,前記振動に起因しての圧縮変形の繰り返しを受けることを確実に阻止できるから,前記シールリング体における早期の性能劣化を防止でき,その耐久性を大幅に向上できる。
【0013】
また,請求項2の構成によると,前記押え座金における突出片が,カバーの熱膨張にて当該カバーに接当したときにおける接触面積を大きくすることができるものでありながら,ボルトを,シール座金におけるシールリング体を圧縮変形するように締結するときに,前記シールリング体が,シール座金における押え座金の突出片の先端と前記カバーとの間に挟まれることを,環状溝の存在によって確実に回避できる。
【0014】
なお,前記請求項1又は2においては,前記シール座金における押え座金のうち内周部分には,前記カバー側に段付き状に低くした部分が設けられ,この低くした部分には,前記シールリング体と一体のシール片が,前記ボルトの頭部,ナット又は座金に向かって突出するように設けられているという構成にすることにより,シール座金における押え座金と,ボルトの頭部,ナット又は座金との間における気密性を,前記シールリング体と一体のシール片にて確保する場合において,前記シール片は,前記押え座金のうち内周部分に段付き状に低くした部分に設けられていることで,ボルトの締結の際に完全に押し潰されるのを,前記段差の分だけ回避できて,前記シール片に弾力性を持たせることができるから,前記した気密性を向上できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下,本発明の実施の形態を,図1〜図3の図面について説明する。
【0016】
これらの図において,符号1は,内燃機関におけるシリンダヘッドを,符号2は,前記シリンダヘッド1の上部を覆うヘッドカバーを各々示す。
【0017】
前記ヘッドカバー2は,耐熱性を有する合成樹脂製であり,その下面の周囲に前記シリンダヘッド1の上面1aに接当する軟質弾性体製のガスケット3が設けられている。
【0018】
このヘッドカバー2は,頭部6を備えたボルト4にて,前記シリンダヘッド1に対して着脱可能に取付けられる。
【0019】
すなわち,前記ボルト4は,前記ヘッドカバー2に一体に設けたボス部2a,及び,前記シリンダヘッド1の上面に載置したOCVホルダ12を貫通して前記シリンダヘッド1側に形成したタップ孔5に螺合しており,前記ヘッドカバー2は,このボルト4の締結により,前記シリンダヘッド1に対して,前記OCVホルダ12と一緒に着脱可能に取付けられる。
【0020】
前記ボルト4には,その頭部6の下面に接当する金属製の座金7が被嵌されていることに加えて,前記ヘッドカバー2を貫通する金属製の規制用カラー8が被嵌されている。
【0021】
前記規制用カラー8は,その下端の一部が前記OCVホルダ12における位置決め孔12aに嵌まることで,前記ヘッドカバー2の前記シリンダヘッド1に対する取付け位置決めを行うことに加えて,前記ボルト4の締結が,以下に述べる所定値を越えることがないように規制する作用を行う。
【0022】
すなわち,前記ボルト4の締結は,前記座金7がボルト4の頭部6に接当し,前記カラー8の上下両端が前記座金7及び前記OCVホルダ12の両方に接当する状態が所定値であり,これ以上に締結されることがないように規制される。
【0023】
なお,この所定値への締結規制は,前記カラー8にて行うことに代えて(前記カラー8を廃止し),前記ボルト4が螺合するタップ孔5の深さによって行うように構成することができる。
【0024】
前記座金7の下面と前記ヘッドカバー2の上面との間には,シール座金9が,前記ボルト4,ひいては,前記カラー8に被嵌するようにして介挿されている。
【0025】
このシール座金9は,前記座金7の下面に接当する押え座金10と,この押え座金10の下面に固着されるシールリング体11とで構成されている。
【0026】
前記押え座金10は,金属板製で,その周囲の全体に下向き筒型の突出片10aを一体に備えて成る下向き椀型の形状である。
【0027】
一方,前記シールリング体11は,耐油性ゴム等の軟質弾性体製で,前記押え座金10の突出片10aの先端面10a′から適宜寸法Eだけ下向きに突出していることにより,前記ボルト4の締結にて,前記ヘッドカバー2の上面に接当した状態で前記ボルト4の軸線方向に圧縮変形されるという構成であり,前記押え座金10に,焼き付け又は接着剤にて固着されるか,又は,前記押え座金10に固着するように成形されている。
【0028】
前記シール座金9のうち押え座金10の外周における筒型の突出片10aは,前記ボルト4を前記した所定値にまで締結した状態において,当該突出片10aにおける先端面10a′と前記ヘッドカバー2の上面との間に,前記ヘッドカバー2のうち前記ボルト4及びカラー8が貫通するボス部2aにおける前記ボルト4の軸線方向への熱膨張量と実質的に同じ寸法Sの隙間をあけるように構成されている。
【0029】
つまり,前記押え座金10の外周における筒型の突出片10aの先端面10a′は,前記ボルト4を前記した所定値にまで締結した状態で,前記ヘッドカバー2のうち前記ボルト4が貫通する部分,つまり,ボス部2aが前記ボルト4の軸線方向に熱膨張したときに前記ヘッドカバー2に対して接当するという構成になっている。
【0030】
この構成において,シール座金9における押え座金10に設けた突出片10aは,ボルト4を前記した所定値にまで締結した状態では,合成樹脂製のヘッドカバー2のうちボルトが嵌まる部分,つまり,ボス部2aが熱膨張したときに限り,前記ヘッドカバー2に接当することになるから,当該突出片10aが,前記ヘッドカバー2における熱膨張によって当該ヘッドカバー2に食い込むことを回避できる。
【0031】
一方,前記押え座金10に設けた突出片10aは,前記ヘッドカバー2が熱膨張したときにこのヘッドカバー2に接当することにより,この熱膨張の以降においては,前記シール座金9におけるシールリング体11が,前記ヘッドカバー2等における振動に起因して,前記熱膨張するときの寸法S以上に大きく圧縮変形されることを確実に阻止できるとともに,前記振動に起因しての圧縮変形の繰り返しを受けることを確実に阻止できる。
【0032】
前記した実施の形態においては,前記シール座金9の押え座金10における筒型突出片10aの内周と,前記シール座金9におけるシールリング体11との間に,シールリング体11の外周面に沿って全周に延びる環状溝15を形成するという構成にしている。
【0033】
この環状溝15の存在により,前記押え座金における突出片10aが,カバーの熱膨張にて当該カバーに接当したときにおける接触面積を大きくすることができるものでありながら,前記ボルト4を,シール座金9におけるシールリング体11を圧縮変形するように締結するときに,前記シールリング体11が,シール座金9における押え座金10の突出片10aの下端面10a′と前記ヘッドカバー2との間に挟まれることを回避できる。
【0034】
前記した実施の形態においては,更に,前記シール座金9の押え座金10における内周部分には,当該押え座金10の上面から適宜寸法Wだけ段付き状に低くした部分10bを設けられ,この低くした部分10bには,前記シールリング体11と一体のシール片13が,前記押え座金10の上面から突出するように設けられている構成にしている。
【0035】
この構成によると,前記シール片13は,前記押え座金10のうち内周部分に適宜寸法法Wだけ段付き状に低くした部分10bに設けられていることで,ボルト4の締結の際に完全に押し潰されるのを前記段差Wによって回避でき,換言すると,ボルト4を所定値まで締結した状態において,前記シール片13に弾力性を持たせることができるから,前記ボルト4の頭部6との間における気密性を向上できる。
【0036】
前記した実施の形態においては,これらに加えて,前記シールリング体11の内周面に,前記カラー8の外周面に密接するリング部14を設けることにより,気密性の確保を更に向上するように構成している。
【0037】
なお,本発明においては,前記した実施の形態のように,頭部6を一体に備えた頭付きボルト4を使用することに代えて,図4に示す第2の実施の形態のように,締結用のナット6′を螺合して成る植え込みボルト4′を使用するという構成にできる。
【0038】
また,本発明においては,前記した実施の形態のように,座金7及びカラー8を使用することに代えて,これら座金7及びカラー8のうちいずれか一方又は両方を使用しない構成にすることができる。
【0039】
前記座金7を使用しない場合には,図5の第3の実施の形態のように,前記ボルト4の頭部5又はナット5′に,前記座金7に相当する座部6aを一体に設け,この座部6aの下面に,前記押え座金10の上面が上面が接当するという構成にする。
【0040】
更にまた,本発明においては,前記押え座金10における突出片10aは,外周の全周にわたって設けることに代えて,内周の全周にわたって設けたり,外周又は内周における全周のうち部分的に設けるという構成にできる。
【0041】
なお,前記実施の形態は,ボルト4,4′を,OCVホルダ12を貫通したのちシリンダヘッド1におけるタップ孔5に螺合する場合であったが,前記OCVホルダ12とシリンダヘッド1との間に,カム軸用の軸受けキャップが取付けられている場合には,前記ボルト4,4′は,この軸受けキャップに螺合するか,或いは,この軸受けキャップをも貫通してシリンダヘッド1に螺合するという構成にすれば良く,また,前記OCVホルダ12を備えていない場合には,前記軸受けキャップに螺合するか,或いは,この軸受けキャップを貫通してシリンダヘッド1に螺合するという構成にすれば良い。
【0042】
加えて,前記実施の形態は,内燃機関におけるヘッドカバーに適用した場合であったが,本発明は,これに限らず,内燃機関におけるタイミングチエンを覆う合成樹脂製のチエンカバー等のように,その他の合成樹脂製カバーに適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1の実施の形態を示す縦断正面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2の分解したときの図である。
【図4】第2の実施の形態を示す図である。
【図5】第3の実施の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 シリンダヘッド
2 ヘッドカバー
4 頭付きボルト
4′ 植込みボルト
5 タップ孔
6 ボルトの頭部
6′ ナット
7 座金
8 カラー
9 シール座金
10 押え座金
10a 突出片
11 シールリング体
12 環状溝
13 シール片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のカバーと,このカバーを貫通する締結用ボルトと,前記カバーと前記ボルトにおける頭部又はこれに螺合するナット或いは前記ボルトに被嵌した座金との間に前記ボルトに被嵌して介挿されるシール座金とから成り,前記シール座金が,前記ボルトにおける頭部,ナット又は座金に接当する金属板製の押え座金と,前記カバーに接当して前記ボルトの締結にてその軸線方向に圧縮変形される軟質弾性体製のシールリング体とで構成されているシール装置において,
前記シール座金の押え座金には,前記カバーに向かう突出片を備え,この突出片は,前記ボルトを締結した状態で,前記カバーのうち前記ボルトが嵌まる部分が前記ボルトの軸線方向に熱膨張したときに前記カバーに接当する構成であることを特徴とする合成樹脂製カバーの締結用ボルトにおけるシール装置。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記シール座金における押え座金は,その突出片を全周にわたって設けて成る下向き椀型の形状であり,この突出片の内周と,前記シール座金におけるシールリング体との間に,シールリング体の外周面に沿って全周を囲うように延びる環状溝が形成されていることを特徴とする合成樹脂製カバーの締結用ボルトにおけるシール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−209985(P2009−209985A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52032(P2008−52032)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】