説明

合成繊維用処理剤及び合成繊維の処理方法

【課題】
産業資材用合成繊維のように、製糸工程において高温且つ高接圧の過酷な条件下で製糸される場合であっても、該合成繊維に毛羽や糸切れが発生するのを充分に抑制できる高度の潤滑性を与える合成繊維用処理剤及び合成繊維の処理方法を提供する。
【解決手段】
合成繊維用処理剤として、潤滑剤及び乳化剤を含有し、且つ該潤滑剤の少なくとも一部として特定の硬化ひまし油誘導体を1〜50質量%含有するものを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤という)及び合成繊維の処理方法(以下、単に処理方法という)に関する。ポリアミド維維やポリエステル繊維等の合成繊維はその製糸工程で該合成繊維に毛羽や糸切れが発生しないようにすることが重要である。なかでも、タイヤコード、ベルト、ホース、シートベルト、エアーバッグ等に使用される産業資材用合成繊維は、その製糸工程において該合成繊維が高温且つ高接圧の過酷な条件下で製糸され、該合成繊維に毛羽や糸切れが発生し易いため、かかる毛羽や糸切れが発生しないようにすることが特に重要である。このため合成繊維に付着させる処理剤には、それが高温且つ高接圧下で製糸される場合であっても、該合成繊維に毛羽や糸切れが発生するのを充分に抑制できる高度の潤滑性を与えるものであることが要求される。本発明は、かかる要求に応える処理剤及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温且つ高接圧下においても合成繊維に潤滑性を与える処理剤として、1)多価アルコールとヒドロキシモノカルボン酸とのエステル化合物のアルキレンオキサイド付加物を必須成分とするアルコール成分と、マレイン酸を必須成分とするカルボン酸成分とのエステル化合物を含有する処理剤(例えば特許文献1参照)、2)水酸基を有しないジカルボン酸及びモノカルボン酸からなるカルボン酸成分と、ひまし油及び/又は硬化ひまし油のアルキレンオキサイド付加物からなるアルコール成分とのエステル化合物を含有する処理剤(例えば特許文献2参照)、3)テトラヒドロフランとアルキレンオキサイドとのランダム重合体からなるジオール成分と、ジカルボン酸成分及びモノカルボン酸成分とのエステル化合物を含有する処理剤(例えば特許文献3参照)、4)分子中にポリテトラメチレングリコール残基を有する化合物を含有する処理剤(例えば特許文献4参照)等が提案されている。
【0003】
ところが、これら従来の処理剤には、近年要求されているところの高度の潤滑性を充足できないという問題がある。
【特許文献1】特開昭59−223368号公報
【特許文献2】特開昭63−50572号公報
【特許文献3】特開昭63−235576号公報
【特許文献4】特開昭59−59978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、産業資材用合成繊維のように、製糸工程において高温且つ高接圧の過酷な条件下で製糸される場合であっても、該合成繊維に毛羽や糸切れが発生するのを充分に抑制できる高度の潤滑性を与える処理剤及び処理方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決すべく研究した結果、潤滑剤の少なくとも一部として特定の硬化ひまし油誘導体を所定割合で含有する処理剤が正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、潤滑剤及び乳化剤を含有する合成繊維用処理剤において、潤滑剤の少なくとも一部として下記の化1で示される硬化ひまし油誘導体を1〜50質量%含有することを特徴とする処理剤に係る。
【0007】
【化1】

【0008】
化1において、
X:炭素数3〜22のジカルボン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基
A:硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた数平均分子量990〜10000の反応物から一つの水酸基を除いた残基、又は該反応物と炭素数2〜30の有機モノカルボン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B:分子中にオキシアルキレン単位としてオキシエチレン単位及び/又はオキシプロピレン単位を有する数平均分子量500〜10000のポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体から一つの水酸基を除いた残基、又は該ポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体と炭素数2〜30の有機モノカルボン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
【0009】
また本発明は、前記の本発明に係る合成繊維用処理剤を、合成繊維に対し0.2〜1.5質量%となるよう付着させることを特徴とする処理方法に係る。
【0010】
先ず、本発明の処理剤について説明する。本発明の処理剤は、潤滑剤及び乳化剤を含有するものであって、潤滑剤の少なくとも一部として化1で示される硬化ひまし油誘導体を所定割合で含有するものである。
【0011】
化1のXを形成することとなる原料はジカルボン酸である。かかるジカルボン酸としては、1)マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、アジピン酸、セバシン酸、ペンタデセニルコハク酸等の炭素数3〜22の脂肪族ジカルボン酸、2)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の炭素数8〜22の芳香族ジカルボン酸、3)チオジプロピオン酸、チオジオクタン酸、チオジラウリン酸、チオジステアリン酸等の炭素数3〜22の含硫黄脂肪族ジカルボン酸が挙げられるが、なかでも炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、炭素数4〜6の脂肪族ジカルボン酸が更に好ましい。
【0012】
化1のAを形成することとなる原料としては、1)硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物、2)該反応物と炭素数2〜30の有機モノカルボン酸との部分エステル化合物が挙げられる。ここで、硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物には、a)硬化ひまし油の水酸基にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加反応した反応物、b)硬化ひまし油のエステル結合にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが挿入反応した反応物、c)かかる付加反応と挿入反応とが生じた反応物が含まれる。
【0013】
化1のAを形成することとなる原料において、硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物は、数平均分子量990〜10000のものとするが、数平均分子量1000〜5000のものとするのが好ましい。かかる好ましい反応物としては、硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=5、mはオキシエチレン単位の数、以下同じ)、硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=10)、硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=25)、硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=35)等の、硬化ひまし油にエチレンオキサイドを反応させた反応物、2)硬化ひまし油ポリオキシプロピレン(n=5、nはオキシプロピレン単位の数、以下同じ)、硬化ひまし油ポリオキシプロピレン(n=10)、硬化ひまし油ポリオキシプロピレン(n=25)等の、硬化ひまし油にプロピレンオキサイドを反応させた反応物、3)硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=5)ポリオキシプロピレン(n=5)、硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=10)ポリオキシプロピレン(n=10)、硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=15)ポリオキシプロピレン(n=15)等の、硬化ひまし油にエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを反応させた反応物が挙げられる。硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物は公知の合成法により得られる。これには例えば、ジャーナルオブザアメリカンオイルケミカルソサイティー72巻781頁に記載された合成法が挙げられる。
【0014】
化1のAを形成することとなる原料において、硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物と炭素数2〜30の有機モノカルボン酸との部分エステル化合物には、1)硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物1モルと、炭素数2〜30の有機モノカルボン酸1モルとの部分エステル化合物、2)硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物1モルと、炭素数2〜30の有機モノカルボン酸2モルとの部分エステル化合物が含まれる。ここで硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物は、前記した通りのものである。また炭素数2〜30の有機モノカルボン酸としては、1)酢酸、プロピオン酸、酪酸、ピバル酸、カプロン酸、ラウリン酸、2−エチルヘキサン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸等の炭素数2〜30の脂肪族モノカルボン酸、2)安息香酸、メチルベンゼンカルボン酸、ナフタレンカルボン酸等の芳香族モノカルボン酸、3)乳酸、グリセリン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の炭素数3〜30の脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸、4)プロピルチオ酢酸、ラウリルチオ酢酸、ラウリルチオプロピオン酸、フェニルメルカプト酢酸等の炭素数3〜30の含硫黄モノカルボン酸等が挙げられるが、なかでも炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸が好ましく、炭素数8〜18の脂肪族モノカルボン酸が更に好ましい。化1のAを形成することとなる原料において、以上説明した部分エステル化合物は公知の合成法により得られる。これには例えば、硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた反応物1モルと、有機モノカルボン酸1モルとを、酸触媒の存在下、120〜140℃で加熱して、部分エステル化反応する方法が挙げられる。
【0015】
化1のBを形成することとなる原料としては、1)分子中にオキシアルキレン単位としてオキシエチレン単位及び/又はオキシプロピレン単位を有するポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体、2)該ポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体と炭素数2〜30の有機モノカルボン酸との部分エステル化合物が挙げられる。
【0016】
化1のBを形成することとなる原料において、ポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体は、数平均分子量500〜10000のものとするが、数平均分子量1000〜5000のものとするのが好ましい。かかる好ましいポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体としては、1)ポリオキシテトラメチレン(s=5、sはオキシテトラメチレン基の数、以下同じ)ポリオキシエチレン(m=5)ランダム共重合体、ポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=15)ランダム共重合体、ポリオキシテトラメチレン(s=25)ポリオキシエチレン(m=25)ランダム共重合体等のポリオキシテトラメチレンポリオキシエチレンランダム共重合体、2)ポリオキシテトラメチレン(s=5)ポリオキシプロピレン(n=5)ランダム共重合体、ポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシプロピレン(n=15)ランダム共重合体、ポリオキシテトラメチレン(s=25)ポリオキシプロピレン(n=15)ランダム共重合体等のポリオキシテトラメチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体、3)ポリオキシテトラメチレン(s=5)ポリオキシエチレン(m=5)ポリオキシプロピレン(n=5)ランダム共重合体、ポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=15)ポリオキシプロピレン(n=15)ランダム共重合体、ポリオキシテトラメチレン(s=25)ポリオキシエチレン(m=25)ポリオキシプロピレン(n=25)ランダム共重合体等のポリオキシテトラメチレンポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体が挙げられるが、なかでもポリオキシテトラメチレンポリオキシエチレンランダム共重合体が好ましい。以上説明したポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体は、公知の合成法により得られる。これには例えば、テトラヒドロフランとエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドとを、アルカリ触媒の存在下でランダム共重合反応させる方法が挙げられる。
【0017】
ポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体と有機モノカルボン酸との部分エステル化合物において、ポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体は前記した通りのものであり、また炭素数2〜30の有機モノカルボン酸は化1のAを形成することとなる原料について前記した通りのものである。ポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体と有機モノカルボン酸との部分エステル化合物は、公知の合成法により得られる。これには例えば、ポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体1モルと有機モノカルボン酸1モルとを120〜140℃で加熱して、エステル化反応させる方法が挙げられる。
【0018】
化1で示される硬化ひまし油誘導体は、いずれも以上説明したような原料を用いて、化1のXを形成することとなる原料であるジカルボン酸1モル当たり、化1のAを形成することとなる原料である反応物又はその部分エステル化合物1モル、また化1のBを形成することとなる原料であるポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体又はその部分エステル化合物1モルの割合で、触媒存在下の窒素ガス気流下に、生成する水を留去しながら加温して反応させることにより得られる。
【0019】
本発明の処理剤は、潤滑剤及び乳化剤を含有するものであって、潤滑剤の少なくとも一部として以上説明した化1で示される硬化ひまし油誘導体を処理剤中に1〜50質量%含有するものである。
【0020】
本発明の処理剤に供する乳化剤としては、公知のものを適用できる。これには例えば、1)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル等の、分子中にポリオキシアルキレン基を有する非イオン界面活性剤、2)ソルビタンモノラウラート、ソルビタントリオレアート、グリセリンモノラウラート、ジグリセリンジラウラート等の、多価アルコール部分エステル型の非イオン界面活性剤、3)3〜6価のアルコールと脂肪酸との部分エステルにアルキレンオキサイドを付加したもの、アルキレンオキサイドを付加した3〜6価のアルコールと脂肪酸との部分エステル又は完全エステル、3〜6価のアルコールとヒドロキシ脂肪酸とのエステルにアルキレンオキサイドを付加したもの等の、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型の非イオン界面活性剤等が挙げられる。以上説明した乳化剤の処理剤中における含有割合は、特に制限されないが、通常50〜99質量%とする。
【0021】
本発明の処理剤は、潤滑剤の一部として更に特定の完全エステル化合物を含有するものが好ましい。かかる完全エステル化合物としては、1)炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族ポリカルボン酸と炭素数2〜30の脂肪族モノアルコールとの完全エステル化合物、2)炭素数2〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族アルコールとの完全エステル化合物、3)前記1)と2)との混合物が挙げられる。ここで完全エステル化合物とは、前記1)の場合においては、2〜4価の脂肪族ポリカルボン酸の全てのカルボキシル基が脂肪族モノアルコールとのエステル化反応によりエステル結合で封鎖されたものを意味し、また前記2)の場合においては、2〜4価の脂肪族アルコールの全てのヒドロキシ基が脂肪族モノカルボン酸とのエステル化反応によりエステル結合で封鎖されたものを意味する。
【0022】
本発明の処理剤に供する炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族ポリカルボン酸と炭素数2〜30の脂肪族モノアルコールとの完全エステル化合物において、炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族ポリカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、α,ω−ドデカンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸、オクタデセニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、2,3,5−ヘキサトリカルボン酸、1,2,3−ブタントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、2−(3−カルボキシプロピル)−1,1,5,6−ヘプタンテトラカルボン酸等が挙げられる。また炭素数2〜30の脂肪族モノアルコールとしては、エチルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セリルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソドデシルアルコール、イソヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、イソテトラコサニルアルコール、2−プロピルアルコール、12−エイコシルアルコール、ビニルアルコール、ブテニルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、オレイルアルコール、エイコセニルアルコール、2−メチル−2−プロピレン−1−オール、6−エチル−2−ウンデセン−1−オール、2−オクテン−5−オール、15−ヘキサデセン−2−オール等が挙げられる。本発明の処理剤に供する炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族ポリカルボン酸と炭素数2〜30の脂肪族モノアルコールとの完全エステル化合物は、以上例示したような炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族ポリカルボン酸と炭素数2〜30の脂肪族モノアルコールとの任意の組み合わせによるエステル化反応により得られるものであるが、なかでも炭素数6〜10の脂肪族ジカルボン酸と炭素数16〜20の脂肪族モノアルコールとの完全エステル化合物が好ましい。これには例えば、ジヘキサデセニルアジパート、ジヘキサデセニルアゼラート、ジヘキサデセニルセバケート、ジオレイルアジパート、ジイソステアリルアジパート、ジオレイルアゼラート、ジオレイルセバケート、ビス(1−シクロヘキシルヘキシル)アジパート、ジエイコセニルアジパート、ジエイコセニルセバケート、ビス(1−シクロヘキシルヘキシル)セバケート等が挙げられる。
【0023】
本発明の処理剤に供する炭素数2〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族アルコールとの完全エステル化合物において、炭素数2〜30の脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、酪酸、プロピオン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸、2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸等が挙げられる。また炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが挙げられる。本発明の処理剤に供する炭素数2〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族アルコールとの完全エステル化合物は、以上例示したような炭素数2〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族アルコールとの任意の組み合わせにおけるエステル化反応により得られるものであるが、なかでも炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸と炭素数4〜6の2〜4価の脂肪族アルコールとの完全エステル化合物が好ましい。これには例えば、ネオペンチルグリコールジラウラート、1,4−ブタンジオールジオレアート、1,6−ヘキサンジオールジオレアート、グリセリン=トリイソステアラート、グリセリン=トリパルミトレアート、トリメチロールプロパントリノナナート、ペンタエリスリトールテトラオレアート等が挙げられる。
【0024】
本発明の処理剤において、以上説明した完全エステル化合物は処理剤中に10〜80質量%含有するものとする。本発明の処理剤は、更に炭素数2〜30の有機カルボン酸金属塩を含有するものが好ましい。
【0025】
本発明の処理剤に供する炭素数2〜30の有機カルボン酸金属塩としては、公知のものが適用できる。これには例えば、1)酢酸、プロピオン酸、カプロン酸、ラウリン酸、2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸等の炭素数2〜18の脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、2)マロン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸等の炭素数3〜22の脂肪族ジカルボン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、3)安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンモノカルボン酸等の炭素数7〜30の芳香族(ポリ)カルボン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、4)乳酸、酒石酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の炭素数3〜30の脂肪族ヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、5)ラウリルチオ酢酸、ラウリルチオプロピオン酸、フェニルメルカプト酢酸、チオジコハク酸、チオジプロピオン酸、メチレンビスチオプロピオン酸等の総炭素数3〜30の含硫黄脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等が挙げられるが、なかでも、炭素数8〜18の脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩、炭素数8〜22の脂肪族ジカルボン酸のアルカリ金属塩が好ましい。以上説明した有機カルボン酸金属塩は、単独でも、又は混合でも使用することができる。
【0026】
本発明の処理剤において、以上説明した有機カルボン酸金属塩は処理剤中に0.2〜20質量%含有するものとする。本発明の処理剤は、更に酸化防止剤を含有するものが好ましい。
【0027】
本発明の処理剤に供する酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤が適用できる。これには例えば、1)トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、2)ビス[2−メチル−4−(3−n−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィド、ジラウリルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、メルカプトベンズチアゾール等の硫黄系酸化防止剤、3)フェニル−β−ナフチルアミン、N,N‘−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン等のアミン系酸化防止剤、4)ジ(ノニルフェニル)ジノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト等のリン系酸化防止剤が挙げられるが、なかでもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0028】
本発明の処理剤において、以上説明した酸化防止剤は処理剤中に0.2〜10質量%含有するものとする。本発明の処理剤は、更に有機スルホン酸型界面活性剤を含有するものが好ましい。
【0029】
本発明の処理剤に供する有機スルホン酸型界面活性剤としては、公知のものが適用できる。これには例えば、1)デカンスルホン酸ナトリウム、ドデカンルスルホン酸ナトリウム、テトラデカンスルホン酸リチウム、ヘキサデカンスルホン酸カリウム、オクタデカンスルホン酸カリウム等のアルキル基の炭素数10〜18のアルキルスルホン酸アルカリ金属塩、2)ブチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸カリウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキル基の炭素数4〜18のアルキル置換芳香族スルホン酸アルカリ金属塩、3)1,2−ビス(ブチルオキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸リチウム、1,2−ビス(オクチルオキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸ナトリウム、1,2−ビス(デシルオキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸ナトリウム、1,2−ビス(ドデシルオキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸ナトリウム、1,2−ビス(テトラデシルオキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸ナトリウム、1,2−ビス(ヘキサデシルオキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸ナトリウム、1,2−ビス(オクタデシルオキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸ナトリウム、2−スルホナト酢酸ドデシル=カリウム等の総炭素数10〜30の分子中にエステル結合を有するスルホン酸アルカリ金属塩が挙げられるが、これらのうちでは炭素数8〜16のアルキルスルホン酸アルカリ金属塩、アルキル基の炭素数8〜16のアルキル置換芳香族スルホン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0030】
本発明の処理剤において、以上説明した有機スルホン酸型界面活性剤は処理剤中に0.2〜10質量%含有するものとする。
【0031】
本発明の処理剤としては、以上説明した硬化ひまし油誘導体、完全エステル化合物、有機カルボン酸金属塩、酸化防止剤、有機スルホン酸型界面活性剤及び乳化剤から成り、硬化ひまし油誘導体を5〜30質量%、完全エステル化合物を25〜60質量%、有機カルボン酸金属塩を0.5〜10質量%、酸化防止剤を0.5〜10質量%、有機スルホン酸型界面活性剤を0.5〜10質量%及び乳化剤を10〜65質量%(合計100質量%)含有するものが特に好ましい。
【0032】
次に、本発明の処理方法について説明する。本発明の処理方法は、以上説明したような本発明の処理剤を合成繊維に対し0.2〜1.5質量%となるよう付着させる方法である。本発明の処理剤を合成繊維に付着させる工程としては、紡糸工程、紡糸と延伸とを同時に行うような工程等が挙げられる。また本発明の処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等が挙げられる。更に本発明の処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、ニート、有機溶剤溶液、水性液等が挙げられるが、水性液が好ましい。本発明の処理剤の水性液を付着させる場合も、合成繊維に対し本発明の処理剤として0.2〜1.5質量%、好ましくは0.3〜1.2%質量%となるよう付着させる。
【0033】
本発明の処理方法の適用対象となる合成繊維としては、1)ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、5)ポリウレタン系繊維等が挙げられ、その種類や用途は特に制限されないが、製糸工程において高温且つ高接圧の過酷な条件下にさらされる産業資材用合成繊維に適用する場合に効果の発現が高く、なかでもポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維に適用する場合に効果の発現が高い。
【発明の効果】
【0034】
以上説明した本発明には、産業資材用合成繊維のような、製糸工程において高温且つ高接圧の過酷な条件下で製糸される場合であっても、該合成繊維に毛羽や糸切れが発生するのを充分に抑制できる高度の潤滑性を与えることができるという効果がある。
【0035】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【実施例】
【0036】
試験区分1(硬化ひまし油誘導体の合成)
・硬化ひまし油誘導体(C−1)の合成
・・化1のAを形成することと成る部分エステル化合物(A−1)の合成
硬化ひまし油938g(1モル)及び水酸化ナトリウム4gをオートクレーブに仕込み、窒素ガスでパージ後、120〜140℃に温度を保ちながらエチレンオキサイド1100g(25モル)を3時間かけて圧入した後、同温度で1時間の熟成を行い、触媒を除去して反応物を得た。ここで得られた反応物を分析したところ、水酸基価82、数平均分子量2040(GPC法、ポリスチレン換算、以下同じ)であって、硬化ひまし油1モルにエチレンオキサイド25モルが反応した反応物(NMR分析法、以下同じ)であった。この反応物204g(0.1モル)、ステアリン酸28g(0.1モル)及び硫酸0.6gをフラスコに仕込み、窒素ガス気流下で攪拌しながら120〜130℃に加温した。同温度で生成する水を減圧下に除去しながら2時間反応を続けて生成物を得た。ここで得られた生成物は、前記反応物の1個の水酸基にステアリン酸が1個導入された数平均分子量1200の部分エステル化合物(A−1)であった。
【0037】
・・化1のBを形成することと成る部分エステル化合物(B−1)の合成
反応器に触媒床として直径2〜3mmで平均長さ4mmの小棒状の乾燥漂白土を充填した後、47〜49℃に触媒床を保って、この上にテトラヒドロフラン1080g(15モル)とエチレンオキサイド4.4g(0.1モル)と水54g(3モル)との混合物を、連続的に循環供給しつつ、更にエチレンオキサイドを毎時60gの割合で吹き込み、10時間かけてエチレンオキサイド660g(15モル)を反応に供した。更に3時間反応を続け、反応物を得た。この反応物をNMR、GC−MASS、GPC(数平均分子量の換算にはプルランを使用、以下同じ)等で分析したところ、数平均分子量1740のポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=15)ランダム重合体であった。このポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=15)ランダム共重合体174g(0.1モル)、ステアリン酸28g(0.1モル)及び硫酸0.5gをフラスコに仕込み、窒素ガス気流下で攪拌しながら120〜130℃に加温した。同温度で生成する水を減圧下に除去しながら2時間反応を続けて生成物を得た。ここで得られた生成物は、ポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=15)ランダム共重合体の1個の水酸基にステアリン酸が1個導入された数平均分子量2000の部分エステル化合物(B−1)であった。
【0038】
・・化1で示される硬化ひまし油誘導体(C−1)の合成
前記の部分エステル化合物(A−1)120g(0.1モル)、前記の部分エステル化合物(B−1)200g(0.1モル)、マレイン酸11.6g(0.1モル)及び硫酸1gをフラスコに仕込み、窒素ガス気流下で攪拌しながら120〜130℃に加温した。同温度で生成する水を減圧下に除去しながら2時間反応を続けて硬化ひまし油誘導体を得た。ここで得られた硬化ひまし油誘導体(C−1)は、化1中のXがマレイン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基、Aが部分エステル化合物(A−1)から一つの水酸基を除いた残基、Bが部分エステル化合物(B−1)から一つの水酸基を除いた残基であった。
【0039】
・硬化ひまし油誘導体(C−2)〜(C−13)の合成
硬化ひまし油誘導体(C−1)の場合と同様にして、硬化ひまし油誘導体(C−2)〜(C−13)を合成した。以上で合成した硬化ひまし油誘導体の内容を表1にまとめて示した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1において、
X−1:マレイン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基
X−2:アジピン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基
X−3:マロン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基
X−4:セバシン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基
X−5:イソフタル酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基
X−6:チオジプロピオン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基
【0042】
A−1:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=25)(数平均分子量2040)1モルとステアリン酸1モルとの部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
A−2:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=12)(数平均分子量1470)1モルとステアリン酸2モルとの部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
A−3:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=10)ポリオキシプロピレン(n=10)(数平均分子量1960)1モルとラウリン酸1モルとの部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
A−4:硬化ひまし油オキシエチレン(数平均分子量990)1モルとステアリン酸1モルとの部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
A−5:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=38)(数平均分子量2610)1モルとステアリン酸1モルとの部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
A−6:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=70)(数平均分子量4020)1モルとカプロン酸1モルとの部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
A−7:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=100)(数平均分子量5340)1モルと安息酸1モルとの部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
A−8:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=12)(数平均分子量1470)から一つの水酸基を除いた残基
A−9:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=25)(数平均分子量2040)1モルと12−ヒドロキシステアリン酸1モルとの部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
A−10:硬化ひまし油ポリオキシプロピレン(n=10)(数平均分子量1520)から一つの水酸基を除いた残基
【0043】
B−1:ポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=15)ランダム共重合体(数平均分子量1740)とステアリン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B−2:ポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=5)ランダム共重合体(数平均分子量1300)とステアリン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B−3:ポリオキシテトラメチレン(s=30)ポリオキシエチレン(m=50)ランダム共重合体(数平均分子量4360)とラウリル酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B−4:ポリオキシテトラメチレン(s=5)ポリオキシプロピレン(n=5)ランダム共重合体(数平均分子量650)とプロピオン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B−5:ポリオキシテトラメチレン(s=40)ポリオキシプロピレン(n=40)ランダム共重合体(数平均分子量5200)とベヘニン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B−6:ポリオキシテトラメチレン(s=5)ポリオキシプロピレン(n=5)ランダム共重合体(数平均分子量650)と12−ヒドロキシステアリン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B−7:ポリオキシテトラメチレン(s=40)ポリオキシプロピレン(n=40)ランダム共重合体(数平均分子量5200)とプロピオチオ酢酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B−8:ポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=15)ランダム共重合体(数平均分子量1740)から一つの水酸基を除いた残基
B−9:ポリオキシテトラメチレン(s=15)ポリオキシエチレン(m=5)ランダム共重合体(数平均分子量1300)から一つの水酸基を除いた残基
【0044】
試験区分2(処理剤の調製)
・実施例1{処理剤(P−1)の調製}
試験区分1で合成した硬化ひまし油誘導体(C−1)6部、下記の完全エステル化合物(D−1)30部、下記の有機カルボン酸金属塩(E−1)0.8部、下記の酸化防止剤(F−1)0.8部、下記の有機スルホン酸型界面活性剤(G−1)1.4部及び下記の乳化剤(H−1)61部とを混合して実施例1の処理剤(P−1)を調製した。
完全エステル化合物(D−1):ジオレイルアジパート
有機カルボン酸金属塩(E−1):オレイン酸ナトリウム
酸化防止剤(F−1):トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]
有機スルホン酸型界面活性剤(G−1):ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
乳化剤(H−1):硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=25)
【0045】
・実施例2〜29及び比較例1〜6{処理剤(P−2)〜(P−29)及び(R−1)〜(R−6)の調製}
実施例1の処理剤(P−1)と同様にして、実施例2〜29及び比較例1〜6の処理剤(P−2)〜(P−29)及び(R−1)〜(R−6)を調製した。実施例1も含め、各例で調製した処理剤の内容を表2にまとめて示した。
【0046】
試験区分3(合成繊維への処理剤の付着及び評価)
・合成繊維への処理剤の付着
固有粘度1.10、カルボキシル末端濃度15当量/10gのポリエチレンテレフタラートのチップを、孔数192個の口金を取付けたエクストルーダー型紡糸機にて溶融紡糸した。口金から紡出した紡出糸に、表2に記載した処理剤の10%水性液を該紡出糸に対し処理剤として1.0%となるように計量ポンプを用いたガイド給油法で連続して付着させた。水性液を付着させた紡出糸をガイドで集束させ、表面速度3000m/分の引取りロールで引取った後、240℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率1.7倍となるように延伸させた。弛緩ロールを通過した延伸糸の繊度は1670デシテックス(1500デニール)であり、これを10kg巻きチーズとして巻き取って、処理済みポリエステル繊維を得た。
【0047】
・評価
前記の処理済みポリエステル繊維について、断糸回数及び延伸毛羽を次のように評価した。結果を表2にまとめて示した。
・・断糸回数
前記の処理済みポリエステル繊維1トン当たりの断糸回数を10回測定し、測定値の平均値を下記の基準で評価した。
◎ :断糸回数が0.5回未満
○〜◎:断糸回数が0.5回以上〜1.0回未満
○ :断糸回数が1.0回以上〜1.5回未満
△ :断糸回数が1.5回以上〜2.0回未満
× :断糸回数が2.0回以上
【0048】
・・延伸毛羽
前記の処理済みポリエステル繊維10万m当りの毛羽数をフライカウンター(東レエンジニアリング社製)を用いて測定し、下記の基準で評価した。
◎:1ヶ未満
○:1ヶ以上〜3ヶ未満
△:3ヶ以上〜5ヶ未満
×:5ヶ以上























【0049】
【表2】

【0050】
表2において、
使用量:%
付着量:紡出糸に対する処理剤の付着量(%)
C−1〜C−13:試験区分1で合成した表1に記載の硬化ひまし油誘導体
【0051】
D−1:ジオレイルアジパート
D−2:ジイソステアリルアジパート
D−3:ビス(1−シクロヘキシルヘキシル)セバケート
D−4:トリメチロールプロパントリノナナート
D−5:ペンタエリスリトールテトラオレアート
【0052】
E−1:オレイン酸ナトリウム
E−2:イソステアリン酸カリウム
E−3:ドデセニルコハク酸ジカリウム
E−4:リシノール酸カリウム
E−5:ラウリルチオプロピオン酸ナトリウム
E−6:安息香酸カリウム
【0053】
F−1:トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
F−2:1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸
F−3:ビス[2−メチル−4−(3−n−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィド
F−4:フェニル−β−ナフチルアミン
F−5:ジ(ノニルフェニル)ジノニルフェニルホスファイト
【0054】
G−1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
G−2:ドデカンスルホン酸ナトリウム
G−3:デカンスルホン酸ナトリウム
G−4:テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
G−5:1,2−ビス(オクチルオキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸ナトリウム
【0055】
H−1:硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=25)
H−2:α−ドデシル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(m=10)
H−3:α−(p−ドデシルフェニル)−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(m=6)
【0056】
r−1〜r−4:化1で示される硬化ひまし油誘導体に相当しない下記の化合物
r−1:トリデカンジカルボン酸1モルとステアリン酸1.5モルと硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=25)1モルとの部分エステル化合物
r−2:マレイン酸1モルと硬化ひまし油ポリオキシエチレン(m=30)2モルとの完全エステル化合物
r−3:ポリオキシテトラメチレン(s=30)ポリオキシエチレン(m=70)ランダム共重合体2モルとアジピン酸1モルとオレイン酸1.8モルとの部分エステル化合物
r−4:ポリテトラメチレングリコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをランダム共重合した共重合体(数平均分子量1000)1モルとラウリン酸1モルとの部分エステル化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤及び乳化剤を含有する合成繊維用処理剤において、潤滑剤の少なくとも一部として下記の化1で示される硬化ひまし油誘導体を1〜50質量%含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
【化1】

(化1において、
X:炭素数3〜22のジカルボン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基
A:硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた数平均分子量990〜10000の反応物から一つの水酸基を除いた残基、又は該反応物と炭素数2〜30の有機モノカルボン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
B:分子中にオキシアルキレン単位としてオキシエチレン単位及び/又はオキシプロピレン単位を有する数平均分子量500〜10000のポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体から一つの水酸基を除いた残基、又は該ポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体と炭素数2〜30の有機モノカルボン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基
【請求項2】
硬化ひまし油誘導体が、化1中のXが炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸の二つの水酸基から全ての水素原子を除いた残基であり、またAが硬化ひまし油にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させた数平均分子量1000〜5000の反応物と炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸との部分エステル化合物から一つの水酸基を除いた残基であって、更にBが数平均分子量1000〜5000のポリオキシテトラメチレンポリオキシアルキレンランダム共重合体と炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸との部分エステル化合物から水酸基を除いた残基である場合のものである請求項1記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
潤滑剤の一部として更に炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族ポリカルボン酸と炭素数2〜30の脂肪族モノアルコールとの完全エステル化合物及び/又は炭素数2〜30の脂肪族モノカルボン酸と炭素数2〜30の2〜4価の脂肪族アルコールとの完全エステル化合物を10〜80質量%含有する請求項1又は2記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
完全エステル化合物が、炭素数6〜10の脂肪族ジカルボン酸と炭素数16〜20の脂肪族モノアルコールとの完全エステル化合物及び/又は炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸と炭素数4〜6の2〜4価の脂肪族アルコールとの完全エステル化合物である請求項3記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
更に炭素数2〜30の有機カルボン酸金属塩を0.2〜20質量%含有する請求項3又は4記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
有機カルボン酸金属塩が、炭素数8〜18の脂肪族モノカルボン酸アルカリ金属塩及び/又は炭素数8〜22の脂肪族ジカルボン酸アルカリ金属塩である請求項5記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
更に酸化防止剤を0.2〜10質量%含有する請求項5又は6記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤である請求項7記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
更に有機スルホン酸型界面活性剤を0.2〜10質量%含有する請求項7又は8記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
有機スルホン酸型界面活性剤が、アルキル基の炭素数8〜16のアルキルスルホン酸アルカリ金属塩及び/又はアルキル基の炭素数8〜16のアルキル置換芳香族スルホン酸アルカリ金属塩である請求項9記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
硬化ひまし油誘導体を5〜30質量%、完全エステル化合物を25〜60質量%、有機カルボン酸金属塩を0.5〜10質量%、酸化防止剤を0.5〜10質量%、有機スルホン酸型界面活性剤を0.5〜10質量%及び乳化剤を10〜65質量%(合計100質量%)含有する請求項9又は10記載の合成繊維用処理剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤を、合成繊維に対し0.2〜1.5質量%となるよう付着させることを特徴とする合成繊維の処理方法。
【請求項13】
合成繊維が産業資材用合成繊維である請求項12記載の合成繊維の処理方法。
【請求項14】
産業資材用合成繊維がポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維である請求項13記載の合成繊維の処理方法。

【公開番号】特開2006−307352(P2006−307352A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127633(P2005−127633)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】