説明

合成開口ソーナー

【課題】送受波器の動揺を補正し、合成開口処理への影響を軽減した合成開口ソーナーを提供する。
【解決手段】基準位置情報20により、1台の送波器と1台の受波器からなる単一配列の基準位置間の伝搬距離を計算する理想単一配列伝搬距離計算器230と、1台の送波器と複数台の受波器からなる配列と基準位置間の伝搬距離を計算するDPCA配列伝搬距離計算器240と、理想単一配列伝搬距離計算器230とDPCA配列伝搬距離計算器240の出力の伝搬距離差から補正量を計算する補正量計算器220と、補正量に基づき受信信号に補正を施す動揺補正器210と、合成開口処理部300と表示制御部400を組み合わせ、動揺検出処理部500からくる動揺情報に基づきDPCA配列伝搬距離計算器240の出力に反映させて動揺補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1台の送波器と移動方向に配列した複数台の受波器とを含む合成開口ソーナーに係り、特に航走体の動揺を補正する合成開口ソーナーに関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口ソーナーは、合成開口レーダで開発された技術を応用したソーナーである。レーダの分解能を向上させるためには受波器の開口長を大きくする必要がある。すなわち、合成開口レーダは、航空機や人工衛星等に搭載し、軌道上を移動しながら、送信したレーダ波を受波器で連続的に受信することにより、小さい開口長の受波器の受信信号を合成する。この結果、等価的に開口長を大きくして分解能を向上させている。合成開口ソーナーは、同様の原理により、水上または水中の航走体に搭載し、ソーナーの分解能を向上させる。
【0003】
合成開口処理は、非特許文献1および非特許文献2に示すように高速フーリエ変換と複素乗算を用いたCS(Chirp Scaling)アルゴリズム等が知られている。特に非特許文献2は、時間軸信号に動揺補正関数を乗算することにより動揺補正を行う方法を示している。
【0004】
合成開口ソーナーにおいては、レーダ波の空中伝播速度の300,000km/sと比較して音響波の水中伝搬速度の1,500m/sが非常に遅いため、送信開始からエコー波が返ってきて次の送信を開始するまでのパルス繰返し周期を長く取る必要がある。一方で、これでは航走体のサンプル間の移動距離が極端に短くなり、合成開口長が取れない。さらに、航走体速度が遅すぎるため一定速度に保てない不都合を生じる。
【0005】
すなわち、このパルス繰返し周期の逆数がパルス繰返し周波数PRFで、航走体速度νと受波開口幅Dとの間で次の(式1)を満たす必要がある。
【0006】
【数1】

この問題は、1回の送信に対して1台の受波器で受信する単一受波器の場合、非特許文献3に示すように1回の送信に対して移動方向に配列した複数台の受波器で同時に受信するDPCA(Displaced Phase-Center Antenna)方式により解決することができる。
【0007】
DPCAとは、送波器から目標までと目標から受波器までの伝搬距離の和が、送波器と受波器の中間に位置する仮想的な送受波器から目標までの往復伝搬距離にほぼ等しいとの原理に基づく。この仮想的な送受波器をDPCAと呼び、DPCAから信号が送受波されるとみなして、合成開口処理を行う方式である。
【0008】
単一受波器で受信する場合、移動方向のアジマスサンプリング周波数(以降アジマスサンプリング周波数fasと称す)はパルス繰り返し周波数PRFとなる。DPCA方式の場合は、複数受波器の間隔をアジマスサンプリング間隔に合わせて配列することにより、アジマスサンプリング周波数fasをパルス繰り返し周波数PRFよりも高くできる。このとき、受波器数Eとの間で(式2)の関係がある。
【0009】
【数2】

ここで、dは受波開口長ではなく受波器間隔である。パルス繰り返し周波数PRFは、(式2)に基づき航走体速度νの実測値により時々刻々補正される。以降DPCA方式の合成開口ソーナーをDPCA合成開口ソーナーと称することにする。
【0010】
図1を参照して、従来の動揺補正処理を説明する。ここで、図1は合成開口ソーナーのブロック図である。図1において、合成開口ソーナー600は、送受信処理部100、動揺補正処理部200、合成開口処理部300、表示処理部400、動揺検出処理部500で構成される。送受信部100は、受波器110、送波器120、受信器130、送信器140、PRF制御器150で構成される。
【0011】
送信器140は、外部設定に基づき送信信号を生成し、PRF制御器150からの送信トリガー信号を周期として送信信号を出力し、送波器120に送り出す。送波器120は、送信信号を電気音響変換し、水中に送波する。PRF制御器150は、速度信号10を元に実速度νに基づき制御する(式3)のPRF値、
【0012】
【数3】

を計算し、送信器140に送信トリガー信号として出力する。受波器110は、受波エコーを音響電気変換する。受信器130は、受波器110からの受信信号を、増幅、濾波、アナログ/ディジタル変換の後、ベースバンドに周波数変換する。
【0013】
動揺補正処理部200は、動揺補正器210、補正量計算器220で構成される。補正量計算器220は、動揺検出部500からくる動揺情報を元に補正量τに基づく位相補正量Δφを(式4)により計算し、動揺補正器210に補正信号として出力する。
【0014】
【数4】

動揺補正器210は、補正量計算器220からの補正量に基づき受信信号に(式5)を複素乗算して、位相回転により動揺量を補正する。
【0015】
【数5】

合成開口処理部300は、合成開口処理を行う部分である。合成開口処理部300は、レンジ方向とアジマス方向の2次元時間信号を入力し、レンジ方向とアジマス方向の2次元座標信号を表示制御部400に出力する。ここで、アジマス方向は航走体の航走方向、レンジ方向は水平面内でアジマス方向に垂直方向である。なお、合成開口処理部300は、CSアルゴリズム等が非特許文献1および非特許文献2に記載がある。
【0016】
表示制御部400は、処理結果の表示のためのフォーマッティング、レベル調整、マンマシンインターフェイスである。表示制御部400は、当業者が知るところである。動揺検出処理部500は、例えば高精度の慣性誘導装置で、仏国IXSEA社から市販されている。また、受信信号から音響的に動揺を検出する方式が例えば非特許文献5に示されており、ともに公知である。
【0017】
上述した背景技術は、以下の問題点がある。第1の問題は、動揺補正が1台の送波器と複数台の受波器からなるDPCA配列に適合していないことである。第2の問題は、受波器の移動距離は航走体の速度の外に伝搬時間により変化する。しかし、この伝搬時間による誤差を補正できないことである。第3の問題は、合成開口処理が1台の送波器と1台の受波器からなる単一配列を前提としているため、特許文献2にみられるようなDPCA配列での誤差を補正できないことである。
本発明の目的は、動揺補正と共に上述の誤差を同時に補正する合成開口ソーナーを提供するにある。
【0018】
【特許文献1】特開平10−142333号公報
【特許文献2】米国特許第4244036号明細書
【非特許文献1】R. K. Raney, H. Runge, I. G. Cumming, R. Bamler, and F. H. Wong, ”Precision of SAR processing using chirp scaling”, IEEE Trans. Geosci. Remote Sensing, vol. 32, pp. 786-799, July 1994.
【非特許文献2】A. Moreira, J. Mittermayer, and R. Scheiber “Extended chirp Scaling Algorithm for Air- and Spaceborne SAR Data Processing in Stripmap and ScanSAR Imaging Modes”, IEEE Trans. Geosci. Remote Sensing, vol. 34. pp. 1123-1136, Sept. 1996.
【非特許文献3】E. J. Kelly and G. N. Tsandouls, “A Displaced Phase Center Antenna Concept for Space Based Radar Applications”, IEEE Eascon, pp. 225-230, Sept. 1983.
【非特許文献4】A. Bellettini, and M. A. Pinto, “Theoretical Accuracy of Synthetic Aperture Sonar Micronavigation Using a Displaced Phase- Center Antenna”, IEEE J. Oceanic Eng., vol. 27, pp. 780-789, Oct. 2002.
【非特許文献5】R. Heremans, M. Acheroy, Y. Dupont, “Motion Compensation on Synthetic Aperture Sonar Images”, IEEE Ultrasonics Symposium, pp. 152-155, Oct. 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
合成開口ソーナーは、航走体に搭載され、航走中に3軸方向の回転および移動による動揺を受ける。動揺は、伝搬距離を微妙に変化させるため位相回転を生じ、合成開口処理に重大な影響を及ぼす。本発明が解決すべき課題は、外部センサが検出した動揺データにより、合成開口ソーナーの動揺補正を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
DPCA方式の送受波器配列であるDPCA配列の他に、動揺補正の基準として、動揺を受けない1組の送受波器からなる理想単一配列と、当該DPCA配列と同一の送受波器配列を持つDPCA配列を組み合わせ、DPCA配列に外部センサが検出した動揺データに基づく動揺を模擬的に加えて、理想単一配列とDPCA配列の基準点からの伝搬距離の差を動揺補正量として受信信号を補正する。
【0021】
すなわち、
動揺補正後のDPCA配列と任意目標点との伝搬距離
=動揺補正前のDPCA配列と任意目標点との伝搬距離
−(動揺を加えた仮想DPCA配列と基準点との伝搬距離 …(補正式)
−動揺を加えない理想単一配列と基準点との伝搬距離)
として( )内の動揺補正量により補正する。
【0022】
上述した課題は、1台の送波器と移動方向に配列した複数台の受波器からなる送受信処理部と、動揺検出処理部と、この動揺検出処理部の出力を用いて送受信処理部からの受信信号に動揺補正を加える動揺補正処理部と、合成開口処理部と、表示制御処理部とからなり、動揺補正処理部は、基準位置情報に基づいて、1台の送波器と1台の受波器からなる理想単一配列と基準位置との間の理想伝搬距離を計算する第1の伝搬距離計算器と、基準位置情報に基づいて、1台の仮想送波器と移動方向に配列した複数台の仮想受波器からなる配列と基準位置との間の仮想伝搬距離を計算する第2の伝搬距離計算器と、仮想伝搬距離と理想伝搬距離との伝搬距離差から補正量を計算する補正量計算器と、この補正量に基づき受信信号に補正を施す動揺補正器とからなる合成開口ソーナーにより、達成できる。
【発明の効果】
【0023】
合成開口ソーナーの動揺補正に、動揺を受けるDPCA配列と動揺を受けない理想単一配列の伝搬距離差に基づいて受信信号を補正しているため、サイドローブを増やすことなく精度の高い動揺補正ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下本発明の実施の形態について、実施例を用い図面および数式を参照しながら説明する。なお、実質同一部位には同じ参照番号を振り、説明は繰り返さない。
【実施例1】
【0025】
まず、図2を参照して、合成開口ソーナーの構成を説明する。ここで、図2は合成開口ソーナーのブロック図である。図2において、合成開口ソーナー700は、送受信処理部100、動揺補正処理部200A、合成開口処理部300、表示処理部400、動揺検出処理部500で構成される。また、送受信処理部100は、受波器110、送波器120、受信器130、送信器140、PRF制御器150で構成される。さらに、動揺補正処理部200Aは、動揺補正器210、補正量計算器220A、理想単一配列伝搬距離計算器230、仮想DPCA配列伝搬距離計算器240で構成される。
【0026】
送信器140は、外部設定に基づき送信信号を生成し、PRF制御器150からの送信トリガー信号を周期として送信信号を出力し、送波器120に送り出す。送波器120は、送信信号を電気音響変換し、水中に送波する。PRF制御器150は、速度信号10を元に実速度νに基づき制御する(式3)のPRF値を計算し、送信器140に送信トリガー信号として出力する。受波器110は、受波エコーを音響電気変換する。受信器130は、受波器110からの受信信号を、増幅、濾波、アナログ/ディジタル変換の後、ベースバンドに周波数変換する。
【0027】
基準位置情報20は、合成開口処理の基準位置情報で、通常は合成開口処理の中心に基準位置があると仮定して、基準位置情報を与える。
理想単一配列伝搬距離計算器230は、基準位置情報20から理想単一配列の伝搬距離を計算する。ここで理想単一配列とは、1台の送波器と1台の受波器からなる配列とする。仮想DPCA配列伝搬距離計算器240は、基準位置情報20からDPCA配列の伝搬距離を計算する。ここでDPCA配列とは、図3または図4に示す送波器と受波器の配列である。理想単一配列距離とDPCA配列伝搬距離とは、アジマスサンプリング時間のみの関数である。
【0028】
補正量計算部220Aは、理想単一配列伝搬距離計算器230と仮想DPCA配列伝搬距離計算器240との出力である伝播距離差をとり、これを補正量として位相差に変換し、動揺補正器210に送る。動揺補正器210は、受信器130からくる受信信号に補正量を複素乗算し、位相回転により動揺補正を行う。合成開口処理部300は、合成開口処理を行う部分である。合成開口処理部300は、レンジ方向とアジマス方向の2次元時間信号を入力し、レンジ方向とアジマス方向の2次元座標信号を表示制御部400に出力する。表示制御部400は、処理結果の表示のためのフォーマッティング、レベル調整、マンマシンインターフェイスである。動揺検出処理部500は、高精度の慣性誘導装置である。動揺検出処理部500の出力は、3軸の回転角であるローリング角、ピッチング角、ヨーイング角と3軸の変位量であるサージング量、スウェイング量、ヒービング量であり、実時間で時間関数として出力される。航走体の航走方向をx軸、垂直方向をz軸、y軸を右手系で定義としたとき、ローリング角はx軸回りの回転量、ピッチング角はy軸回りの回転量、ヨーイング角はz軸回りの回転量である。同様に、サージング量はx軸方向の移動量、スウェイング量はy軸方向の移動量、ヒービング量はz軸方向の移動量である。
【0029】
図3および図4を参照して、送波器、受波器とDPCAの配列を説明する。ここで、図3は受波器数が奇数の送波器、受波器とDPCAの配列を説明するブロック図である。図4は受波器数が偶数の送波器、受波器とDPCAの配列を説明するブロック図である。図3および図4において、送波器120の位置を○、受波器110の位置を●、DPCAの位置を◎で示す。また、送波器120と受波器110を囲む箱は、送受波器アレイ160である。図3および図4において、横軸(x軸)は航走体の航走方向、縦軸(t軸)下方向は時間である。
【0030】
図3において、送受波器アレイ160が送波器120が1台、受波器110が7台(E=7)の場合を考える。図3上部の送波器120のx軸の座標を0とする。受波器間隔をdとすると受波器120の位置は、−3d、−2d、−d、0、d、2d、3dとなる。また、DPCAの位置は、−1.5d、−d、−0.5d、0、0.5d、d、1.5dとなる。また、DPCAを連続させるために送波器120の送波タイミングは、E・d/2(3.5d)移動ごとである。
【0031】
図4において、送受波器アレイ160が送波器120が1台、受波器110が6台(E=6)の場合を考える。図4上部の送波器120のx軸の座標を0とする。受波器間隔をdとすると受波器120の位置は、−2.5d、−1.5d、−0.5d、0.5d、1.5d、2.5dとなる。また、DPCAの位置は、−1.25d、−0.75d、−0.25d、0.25d、0.75d、1.25dとなる。また、DPCAを連続させるために送波器120の送波タイミングは、E・d/2(3d)移動ごとである。
【0032】
動揺補正は、3軸の動揺パラメータの中で合成開口ソーナーの特性に大きな影響を与えるスウェイングとヨーイングを説明する。他の動揺パラメータも、同様の原理で修正できる。すなわち動揺パラメータは、次の4つとする。
(1)スウェイング最大振幅Esway
(2)スウェイング周期Tsway
(3)ヨーイング最大角fyau
(4)ヨーイング周期Tyau
航走体の移動方向であるアジマス方向をx軸、移動方向と直交する方向であるレンジ方向をy軸、高度方向をz軸とする。まず、動揺する航走体の時刻taにおける座標は、航走体の対地速度をv、海底からの高度をhとして、(式6)(式7)(式8)で与えられる。
【0033】
【数6】

【0034】
【数7】

【0035】
【数8】

また、動揺する送波器の座標は、航走体の座標と同じであるので、(式9)(式10)(式11)で与えられる。
【0036】
【数9】

【0037】
【数10】

【0038】
【数11】

一方、受波器はE台で構成されており、i番目受波器の航走体中心からの相対距離をLix, Liy, Liz(但しiは0以上(E−1)以下の整数)として、エコー受信時のDPCA配列のi番目受波器の座標は、伝搬時間Δtaの間に航走体が移動している分を考慮し、(式12)(式13)(式14)で与えられる。
【0039】
【数12】

【0040】
【数13】

【0041】
【数14】

基準点の座標は、例えば合成開口処理の中心に選ぶと、航走体と基準点間の直距離R0、海底からの高度hのとき、(式15)(式16)(式17)で与えられる。
【0042】
【数15】

【0043】
【数16】

【0044】
【数17】

これから、DPCA配列の送波器と基準点間の伝搬距離は、(式18)で与えられる。また基準点とDPCA配列のi番目受波器間の伝搬距離は、(式19)で与えられる。従って、基準点とDPCA配列のi番目受波器間のDPCA伝搬距離は、(式20)で与えられる。ここで、伝播時間は、(式21)で与えられる。または、伝播時間は、(式22)から、近似的に計算する。すなわち、PDCA配列伝搬距離計算器240は、(式20を計算して、補正量計算器220Aに出力する。
【0045】
【数18】

【0046】
【数19】

【0047】
【数20】

【0048】
【数21】

【0049】
【数22】

次に、基準点と理想単一配列の伝搬距離を求める。基準点と理想単一配列の伝搬距離は、理想単一配列の送受波器の座標をPsinglex(ta), Psingley(ta), Psinglez(ta)として、(式23)で与えられる。すなわち、理想単一配列伝搬距離計算器230は、(式23)を計算して、補正量計算器220Aに出力する。
【0050】
【数23】

ここで、伝播時間による誤差も同時に補正するため、理想単一配列には伝播時間Δtaを含めない。これより動揺補正時の伝搬距離補正量は、(式24)により、与えられる。
【0051】
【数24】

以上に基づき、動揺補正のための補正を、時刻taにおけるi番目受波器出力の各々について(式25)の位相回転を施すことにより行う。ここでは、距離の次元である(式24)に2π/λを乗算し、2往復なのでさらに2倍している。
【0052】
【数25】

ここで、航走体の時刻taは、航走体のアジマスサンプリングfasの逆数を周期とする離散値(式26)に置き換える。
【0053】
【数26】

すなわち、(式24)の伝搬距離補正量は、(式27)で表わされる。さらに、(式25)の位相回転は、(式28)で与えられる。補正量計算器220Aは、(式28)を計算して、動揺補正器210に出力する。動揺補正器210は、受信器130からくる受信信号に補正量を複素乗算し、位相回転により動揺補正を行う。
【0054】
【数27】

【0055】
【数28】

(式28)は、受波器の位置を示す番号iと航走体の位置を示す番号kに依存する。
【0056】
次に、DPCA合成開口ソーナーのDPCA配列を図3および図4を参照して説明する。ここで、図3は、送波器は複数受波器の中心に位置し、受波器の位置は受波器数が奇数と偶数で異なる。
【0057】
DPCA配列では、図3および図4に示すとおり受波器間隔が実受波器間隔の1/2になり、アジマスサンプリング周波数fasに基づくアジマスサンプリング間隔が、受波器間隔dの1/2に一致する必要がある。
【0058】
受波器数Eが奇数の場合と偶数の場合を考慮して、一般に、送波器位置は、(式29)のとおりである。また、受波器位置は、(式30)である。
【0059】
【数29】

【0060】
【数30】

航走体速度がv=d・fas/2に一致する場合は、送波器と受波器の位置は(式29)(式30)の通りになる。しかし、航走体速度がこれから外れる場合は、送波器の位置は受波器間隔d=2v/fasに置き換え、受波器の位置は送波器からの相対位置から計算する。すなわち、送波器位置は、(式31)、受波器位置は、(式32)で与えられる。
【0061】
【数31】

【0062】
【数32】

本実施例は、以上述べてきたとおり、理想単一配列およびDPCA配列とを組み合わせ、DPCA配列に外部動揺データに基づく動揺を加えて、理想単一配列と基準点およびDPCA配列と基準点との伝搬距離差により、受信信号に補正を施すことにより、合成開口ソーナーの動揺補正を行うものである。
【0063】
図5を参照して、本実施例による動揺補正前後のビームパターンを説明する。ここで、図5はアジマス距離に対する受信レベルを説明する図である。図5において、横軸はアジマス距離(m)、縦軸は受信レベル(dB)である。また、図5(a)は航走体に動揺が無い場合、図5(b)は1/8λに相当するヨーイングとスウェイングの動揺を受けた場合、図5(c)は1/8λに相当するヨーイングとスウェイングの動揺を受け、かつ動揺補正後である。図5(b)と図5(c)との対比から、動揺補正の効果は明らかである。
【0064】
上述した実施例に拠れば、合成開口ソーナーの動揺補正に、動揺を受けるDPCA配列と動揺を受けない理想単一配列の伝搬距離差に基づいて受信信号を補正しているため、合成開口処理の限界と言われている1/8λの動揺量よりも大きい動揺に対しても、サイドローブを増やすことなく精度の高い動揺補正できる。
【0065】
また、伝搬距離により、受波器位置が航走体速度できまる移動距離よりも僅かにずれる誤差は、DPCA配列位置にはこの伝搬距離を含め、理想単一配列位置にはこの伝搬距離含めないことにより補正され、動揺のない場合においても、さらに精度の高い合成開口処理ができる。
【0066】
さらに、DPCA配列が単一配列になるように補正するため、単一配列を前提とする合成開口処理においても、理想的な合成開口処理の状態になり、DPCA固有の誤差が補正され、動揺のない場合においても、さらに精度の高い合成開口処理ができる。
【実施例2】
【0067】
図6および図7を参照して、送波器、受波器とDPCAの配列を説明する。ここで、図6は受波器が奇数の送受波アレイとDPCAの配列を説明するブロック図である。図7は受波器が偶数の送受波アレイとDPCAの配列を説明するブロック図である。図6および図7において、送波器120の位置を○、受波器110の位置を●、DPCAの位置を◎で示す。また、送波器120と受波器110を囲む箱は、送受波器アレイ160である。図6および図7において、横軸(x軸)は航走体の航走方向、縦軸(t軸)下方向は時間である。
【0068】
図6において、送受波器アレイ160が送波器120が1台、受波器110が7台(E=7)、DPCAのオーバラップ数(L)が3の場合を考える。図6上部の送波器120のx軸の座標を0とする。受波器間隔をdとすると受波器120の位置は、図3と同様、−3d、−2d、−d、0、d、2d、3dとなる。また、DPCAの位置も、図3と同様、−1.5d、−d、−0.5d、0、0.5d、d、1.5dとなる。一方、DPCAをオーバラップさせるために送波器120の送波タイミングは、(E−L)・d/2(2d)移動ごとである。
【0069】
図7において、送受波器アレイ160が送波器120が1台、受波器110が6台(E=6))、DPCAのオーバラップ数(L)が3の場合を考える。図7上部の送波器120のx軸の座標を0とする。受波器間隔をdとすると受波器120の位置は、図4と同様、−2.5d、−1.5d、−0.5d、0.5d、1.5d、2.5dとなる。また、DPCAの位置も、図4と同様に、−1.25d、−0.75d、−0.25d、0.25d、0.75d、1.25dとなる。一方、DPCAをオーバラップさせるために送波器120の送波タイミングは、(E−L)・d/2(1.5d)移動ごとである。
【0070】
DPCAを用いた動揺補正は、DPCAをオーバラップさせ、同じ受波位置での情報を重畳統計処理して位置を補正する方法が特許文献2および非特許文献4に示されている。オーバラップは送波器間隔を0.5d×オーバラップ数Lだけ縮めることにより可能であり、送波器位置は(式29)(式31)の受波器数Eを、(式33)に置き換えることによりで計算できる。なお、受波器位置は変わらない。
【0071】
【数33】

すなわち、オーバラップ数Lの送波器位置は、(式34)、受波器位置は、(式35)で与えられる。
【0072】
【数34】

【0073】
【数35】

オーバラップ構成においても、動揺補正が適用できることは以上の議論から自明である。また、オーバラップ部は、雑音と動揺が無ければ同じ値を取るはずであるので、逆に動揺量を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】背景技術の合成開口ソーナーのブロック図である。
【図2】合成開口ソーナーのブロック図である。
【図3】受波器が奇数の送受波アレイとDPCAの配列を説明するブロック図である。
【図4】受波器が偶数の送受波アレイとDPCAの配列を説明するブロック図である。
【図5】アジマス距離に対する受信レベルを説明する図である。
【図6】受波器数が7個でDPCAオーバラップ数が3個となるDPCA配列例
【図7】受波器数が6個でDPCAオーバラップ数が3個となるDPCA配列例
【符号の説明】
【0075】
10…速度信号、20…基準位置情報、100…送受信処理部、110…受波器、120…送波器、130…受信器、140…送信器、150…PRF制御器、160…送受波器アレイ、200…動揺補正処理部、210…動揺補正器、220…補正量計算器、230…理想単一配列伝搬距離計算器、240…仮想DPCA配列伝搬距離計算器、300…合成開口処理部、400…表示制御部、500…動揺検出処理部、600…合成開口ソーナー、700…合成開口ソーナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1台の送波器と移動方向に配列した複数台の受波器からなる送受信処理部と、動揺検出処理部と、この動揺検出処理部の出力を用いて前記送受信処理部からの受信信号に動揺補正を加える動揺補正処理部と、合成開口処理部と、表示制御処理部とからなる合成開口ソーナーにおいて、
前記動揺補正処理部は、基準位置情報に基づいて、1台の送波器と1台の受波器からなる理想単一配列と基準位置との間の理想伝搬距離を計算する第1の伝搬距離計算器と、
前記基準位置情報に基づいて、1台の仮想送波器と移動方向に配列した複数台の仮想受波器からなる配列と前記基準位置との間の仮想伝搬距離を計算する第2の伝搬距離計算器と、
前記仮想伝搬距離と前記理想伝搬距離との伝搬距離差から補正量を計算する補正量計算器と、
この補正量に基づき受信信号に補正を施す動揺補正器とからなることを特徴とする合成開口ソーナー。
【請求項2】
請求項1に記載の合成開口ソーナーであって、
前記第1の伝搬距離計算器は、前記理想伝搬距離について、前記理想受波器の伝搬中の移動距離を含めず計算し、
前記第2の伝搬距離計算器は、前記仮想伝搬距離について、前記仮想受波器の伝搬中の移動距離を含めて計算することを特徴とする合成開口ソーナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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