説明

合成高分子材料の染色方法及び染色された合成高分子材料

【課題】染色が困難な合成高分子材料に対しても濃色で染色堅ろう度に優れた染色が可能であり、大掛かりな設備を必要とせず、エネルギーの消費が少なく、染色コストが低廉な合成高分子の染色方法及び着色高分子材料を提供する。
【解決手段】水と、水溶性有機溶剤と非水溶性有機溶剤と、該有機溶剤に可溶な染料(例えば、油溶染料、分散染料)とが含まれている染色液により合成高分子材料(例えば、ポリオレフイン、ポリエステル)を染色する。例えば、水90質量部、エタノール5.5質量部、キシレン4.5質量部と、アイゼンスピロンブルー2BNHからなる染色液を用意する。この染色液を超高分子量ポリエチレン製の組紐に対して、浴比1:20、染料の使用量2%o.w.f.、染色温度20°Cの条件で30分間の染色を行う。こうして染色された組紐を非イオン界面活性剤水溶液で洗浄した後、更に水洗して染色品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成高分子材料の染色方法及び染色された合成高分子材料に関するものであり、従来染色が困難とされていたポリエチレンやポリプロピレン等のポレオレフィンの染色に適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維や合成高分子の成形体等の合成高分子材料の着色方法として、(1)原着法、(2)顔料プリント法、(3)染色加工法の3つの方法が知られている。
【0003】
原着法とは、原料となる合成高分子のペレットに、染料あるいは顔料を添加し、加熱溶融して混合することにより着色する方法である。この着色方法によれば、染色が困難なポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンであっても容易に着色をすることができる。しかし、この着色方法では、色を変更したり、着色から無着色へ変更したりする場合において、混練機の中に残っている原料を新たな色の原料に置換する必要がある。このため、色替えに時間がかかり、原料ロスも大きくなるという欠点があり、小ロット短サイクルという消費者のニーズに対応することが困難となる。
【0004】
顔料プリント法は、染料又は顔料をバインダーによって合成高分子材料の表面に物理的に結合させる方法である。この着色方法は、結合させる染料等を変えるだけで色替えを行うことができるため、色替えにおける時間や原料のロスが少なくなるという利点がある。しかし、この方法では、染料等が合成高分子の表面にバインダーを介して物理的に結合しているだけであるため、摩擦等によって色落ちが生ずるという欠点がある。特に、ポリオレフィンのような極性基をもたない合成高分子では、この傾向が著しい。このため、ポリオレフィンの表面をプラズマ処理等の表面処理法によって改質して、色落ちを防ぐことも行われているが、工程数が増加するだけでなく、大掛かりな表面処理装置が必要となり、ひいては着色に要するコストの高騰化を招来することとなる。また、このような表面処理による表面改質は、合成高分子材料の機械的強度の低下を招き、特に比表面積の大きな合成繊維にとっては、大きなダメージを与えることとなる。
【0005】
染色加工法は、合成高分子材料を染色液に浸漬して染める方法である。この方法によれば、染色液を替えるだけで色替えをすることができるため、原着法に比べて色替え作業が容易で、原料ロスも少ない。また、顔料プリント法のように色が剥げてしまうというおそれもない。しかし、例えばポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維等のように、疎水性で染色液との親和性が低く、極性基や染着座席をもたない合成高分子は、染色加工法で染色することは困難とされている。特に、超高分子量ポリエチレン繊維(ゲル紡糸法によって得られた分子量60万以上を持つポリエチレン繊維)は結晶化度が非常に高く、染料の拡散が十分行われにくいため、従来法では染色できない繊維とされ、新規染色方法の開発が緊急の課題となっている。このような難染色性の合成高分子を染色するため、分散染料を用い、合成高分子を特殊な溶剤で前処理をしたり、染色時にキャリヤーを使用したり、染色温度を高くする等の手段も行われているが、それらの効果は未だ不十分である。また、特殊な溶剤で合成高分子を前処理した場合、合成高分子の物性が悪くなるという不具合がある。さらに、染色温度の高温化を行った場合、大量の熱エネルギーが必要となるという問題もある。
【0006】
こうした難染色性の合成高分子材料を染色の対象となる新たな染色加工方法として、いくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1、2では、超高分子量ポリエチレン繊維布をソルベントカラー(油溶染料)の有機溶剤溶液に浸漬してマングルで絞り、続いて温風乾燥機で乾燥するという有機溶剤染色法が提案されている。
【特許文献1】特開平4−327208号公報
【特許文献2】特開平5−9879号公報
【0007】
また、特許文献3では、特定の疎水性染料を使用した水分散系染色液で、張力のかからない状態で染色する方法が提案されている。
【特許文献3】特開平7−268784号公報
【0008】
さらに、特許文献4では、超高分子量ポリエチレン繊維布を低温プラズマで表面処理した後、顔料を含むエポキシ樹脂液に浸漬、乾燥する染色方法が提案されている。
【特許文献4】特開平3−97977号公報
【0009】
また、特許文献5では、二酸化炭素の超臨界液による染色方法が提案されている。
【特許文献5】特開平11−507704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献1〜3で提案されている方法では、濃色の染色物は得ることは難しいという問題がある。また、上記特許文献4及び5の方法では、真空装置や超耐圧染色装置といった大掛かりな装置が必要となるため、設備費及びランニングコストが高くなり、ひいては染色コストの高騰化を招来することとなる。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、染色が困難な合成高分子材料に対しても濃色で染色堅ろう度に優れた染色が可能であり、大掛かりな設備を必要とせず、エネルギーの消費が少なく、染色コストが低廉な合成高分子材料の染色方法及び染色された合成高分子材料を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究を行い、水と有機溶剤と該有機溶剤に可溶な染料とを含有する染色液を用いて染色すれば、上記課題を解決できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の合成高分子材料の染色方法は、合成高分子材料を染色液で染色する合成高分子材料の染色方法において、前記染色液は、水と、有機溶剤と、該有機溶剤に可溶な染料とが含まれていることを特徴とする。
【0014】
本発明の合成高分子材料の染色方法では、上記特許文献1、2に記載されているような、有機溶剤に染料を溶解させた染色液を用いるのではなく、水と有機溶剤との混合系を用い、さらに染料として有機溶剤に可溶な染料を用いている。ここで、染色液は、2相に相分離していても良く(このような場合には、色むらを防ぐために、染色時に染色液を十分攪拌することが好ましい)、完全に交じり合って単一相となっていても良い。発明者らの試験結果によれば、このような染色液を用いてポリエチレン等の難染色性の合成高分子を染色すれば、濃色で染色堅ろう度に優れた染色を低い温度条件で行うことができる。この理由については必ずしも明確ではないが、有機溶剤に可溶な染料は、水溶性染料と比べて合成高分子材料との親和性が大きいことや、高濃度に染料を溶解した非水溶性有機溶剤が合成高分子材料の表面に集まり、表面境界相の染料の濃度を著しく高めるため、染料が合成高分子材料に移行しやすくなること等が考えられる。
【0015】
本発明の合成高分子材料の染色方法は、従来の有機溶剤染色のための装置と同様の装置で実施することが可能であり、他に大掛かりな装置を設置する必要もない。また、染色液には有機溶剤の他に水も含まれているため、染色液の製造コストも低廉で、引火の危険性も低い。さらに、染色液が常温程度の低い温度であっても良好な染色が可能であるため、染色に要するエネルギー消費量も少ない。
【0016】
したがって、本発明の合成高分子材料の染色方法によれば、染色が困難な合成高分子材料に対しても濃色で染色堅ろう度に優れた染色が可能であり、大掛かりな設備を必要とせず、エネルギーの消費が少なく、染色コストも低廉となる。
【0017】
本発明において適用できる合成高分子材料としては、特に制限はないが、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリケトン、アラミド、ポリフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、従来の染色方法では染色困難とされていた、ポリエステル、ポリオレフィンに優れた効果を発揮する。特に、超高分子量ポリエチレン繊維に対しては、染色条件が温和であるため、優れた機械的特性をほとんど損なうことなく染色をすることができ、好適である。
【0018】
また、合成高分子材料の形態についても特に制限はなく、例えば、わた、原糸、撚糸、組み糸等による紐類、ロープ、網、編み物、織物、組み物、不織布、シート類、フィルム、成形品等、様々な形態の合成高分子材料を染色することが可能である。
【0019】
本発明の合成高分子材料の染色方法に用られる有機溶剤としては、特に制限はなく、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤を用いることができる。かかる水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等の水溶性脂肪族モノアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール等の水溶性脂肪族ジオール類、アセトン、メチルアセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン類、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等が挙げられるが、なかでも炭素数1〜3の水溶性脂肪族モノアルコールが好ましい。また、非水溶性有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、スチレン等の常温で液状の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の常温で液状の脂肪族炭化水素類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸エチル等の常温で液状のエステル類、メチルイソブチルケトン、メチルノルマルブチルケトン、ジフェニルケトン等の非水溶性ケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられるが、なかでもキシレン、ジエチルベンゼン、スチレン等の芳香族単環炭化水素類が好ましい。これらの有機溶剤は、単独で用いることも、混合して用いることもできるが、発明者らの試験結果によれば、水溶性有機溶剤と非水溶性有機溶剤とを混合して用いることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の合成高分子材料の染色方法に用られる染料としては、有機溶剤に可溶な染料であれば特に制限はないが、例えば、(1)モノアゾ系油溶染料、ジスアゾ系油溶染料、金属錯塩型モノアゾ系油溶染料、アントラキノン系油溶染料、フタロシアニン系油溶染料、トリアリルメタン系油溶染料等の油溶染料(カラーインデックスではソルベントダイと表記されている染料を示す)、(2)ベンゼンアゾ系分散染料、複素環アゾ系分散染料、アントラキノン系分散染料、縮合系分散染料等の分散染料等が挙げられる。より具体的な例としては、「アイゼンスピロン染料」(保土谷化学工業(株)製)、「オイルカラー染料」(オリエント化学工業(株)製)等の油溶染料、「ダイアニックス染料」(ダイスタージャパン(株)製)、「カヤロン染料」(日本化薬(株)製)等の分散染料等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の合成高分子材料の染色方法に用られる染色液中の水と水溶性有機溶剤と非水溶性有機溶剤の混合割合は、水が1〜98.9質量%、水溶性有機溶剤が1〜98.9質量%、非水溶性有機溶剤が0.1〜98質量%であることが好ましい。発明者らの試験結果によれば、混合割合がこの範囲であれば、濃く染色され、染色堅ろう度も高くなる。その中でも、特に好ましい範囲は、水が50〜98質量%、水溶性有機溶剤が1〜49質量%、非水溶性有機溶剤が1〜40質量%であり、(水溶性有機溶剤の質量%)/(非水溶性有機溶剤の質量%)>1とされている範囲である。水の混合割合を50質量%以上とすれば、染色液の製造コストを低廉とすることができ、また、引火による火災を防止したり、有害な有機溶剤を低減することにより、作業環境もよくなる。
【0022】
本発明の合成高分子材料の染色方法を実施する場合に用いられる染色機械や染色装置は、特に制限されるものではなく、合成高分子材料の形態に応じて適宜選択することができる。例えば、合成高分子材料が組紐の場合、噴射式かせ染機、回転バック染色機、パッケージ染色機等の染色装置を用いて染色することができる。また合成高分子材料が編地或いは布帛の場合、液流染色機、パドル染色機、ドラム染色機、パッケージ染色機、ウィンス染色機、ジッガー等の染色装置を用いて染色することができる。さらに、合成高分子材料がフィルムの場合、パドル染色機、ドラム染色機、ジッガー等の染色装置を用いて染色することができる。また合成高分子材料が成形体の場合、パドル染色機、ドラム染色機、パッケージ染色機等の染色装置を用いて染色することができる。合成高分子材料が編地の場合について、より具体的に説明すると、液流染色機に編地をセットした後、水と有機溶剤と該有機溶剤に可溶な染料とから成る染色液を投入して染色を行う。この場合、染色温度は特に制限されるものではないが、均一な染色、染色コスト等を考慮して、20°C〜40°Cの範囲で一定の染色温度とするのが好ましい。また染色時間についても特に制限するものではないが、通常20分〜2時間とし、好ましくは30分〜1時間である。また、染色しようとする合成高分子材料と染色液との割合としては、通常、染色しようとする合成高分子材料1質量部に対して、染色液が5〜300質量部の割合(この質量比を浴比と呼ぶ)が好ましく、さらに好ましくは10〜100質量部の範囲である。これらの範囲は、被染色物が編地の場合に特に好ましい。
【0023】
本発明の合成高分子材料の染色方法の実施により、本発明の染色された合成高分子材料が得られる。こうして得られた染色された合成高分子材料に対して、合目的的に普通に実施される、水洗、ソーピング、樹脂加工等の処理を施すことも、もちろん可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した実施例を比較例と比較しつつ説明する。
【0025】
(実施例1〜10)
実施例1〜10では、染色の対象となる合成高分子材料として、東洋紡績(株)製の超高分子量ポリエチレン繊維ダイニーマ(繊度:1760デシテックス、フィラメント数:1560本)の原糸13本を平打組紐機((株)国分鉄工製 EE13−103型)で組紐に編組したものを用いた。また、有機溶剤に可溶な染料として、保土ヶ谷化学工業(株)製のアイゼンスピロンブルー2BNHを組紐の質量に対して2%(2%o.w.f.と表記する)用いた。染色液に用いる水及び有機溶剤の割合は、表1に示すとおりである。
【表1】

【0026】
上記の染色液を染色ポットに投入し、12色回転ポット染色試験機((株)テクサム技研製 ミニカラー12)を用い、染色温度20°C(ただし実施例4については35°C)で30分間の染色を行った。なお、組紐と染色液との浴比は1:20とした。こうして染色された組紐を非イオン界面活性剤(センカ(株)製 マルチノールF−26)0.2質量%水溶液で洗浄した後、更に水洗して実施例1〜10の染色品を得た。
【0027】
(比較例1〜3)
染色液として、比較例1では水、比較例2ではエタノール、比較例3ではキシレンをそれぞれ単独で用いた(上記表1参照)。被染色物及び他の染色条件は実施例1〜10と同じである。
【0028】
<評価>
上記実施例1〜10及び比較例1〜3の染色品について、以下に示す方法により染色性、強度及び寸法安定性を評価した。
【0029】
(染色性の評価基準)
染色品の表面染着濃度(K/S)を、分光測色計(ミノルタ(株)製 CM−3600d)で測定し、下記の基準で評価した。
◎:表面染着濃度が1以上
○:表面染着濃度が0.5以上、1未満
×:表面染着濃度が0.5未満
【0030】
(強度の評価基準)
染色前の強度に対して、染色後の強度の低下の割合を下記の基準で評価した。
◎:低下率が5%未満
○:低下率が5%以上、10%未満
×:低下率が10%以上
【0031】
(寸法安定性の評価基準)
染色前の長さ(L0)に対して、染色後の長さ(Ld)の低下の割合を次式で求め、下記の基準で評価した。
収縮率(%):((L0−Ld)/L0)×100
◎:収縮率が5%未満
○:収縮率が5%以上、10%未満
×:収縮下率が10%以上
【0032】
評価結果を表2に示す。
【表2】

【0033】
表2から、水とエタノールとキシレンとアイゼンスピロンブルー2BNHとからなる染色液を用いて染色を行った、実施例1〜10では、染色性、強度及び寸法安定性のいずれも優れており、染色し難い超高分子量ポリエチレンを良好に染色することができることが分かった。特に、水が50〜98質量%の範囲にあり、エタノールが1〜49質量%の範囲にあり、キシレンが1〜40質量%の範囲にあり、(エタノールの質量%)/(キシレンの質量%)>1の範囲にある実施例1〜4では、染色性、強度及び寸法安定性の全てにおいて非常に優れていた。これに対し、水と染料のみからなる染色液を用いた比較例1では、十分な染着濃度が得られなかった。またエタノールと染料のみからなる染色液(比較例2)や、キシレンと染料のみからなる染色液(比較例3)を用いても、十分な染着濃度は得られなかった。
【0034】
(実施例11〜14)
実施例11〜14では、染色の対象となる合成高分子材料として、市販のポリエステル布(ポリエステルタフタ たて糸:83デシテックスのマルチフィラメント100本、よこ糸:83デシテックスのマルチフィラメント83本)を用いた。また、有機溶剤に可溶な染料として、分散染料のカヤロンポリエステルブルーAN-SE(日本化薬(株)製)2%o.w.f.を用いた。また、染色液に用いる水及び有機溶剤の割合は表3に示すとおりとし、染色温度は30°Cとした。他の条件は実施例1と同様である。
【表3】

【0035】
(比較例4〜6)
染色液として、比較例4では水、比較例5ではエタノール、比較例6ではキシレンをそれぞれ単独で用いた(上記表3参照)。被染色物及び他の染色条件は実施例11〜14と同じである。
【0036】
<評価>
上記実施例11〜14及び比較例4〜6の方法によって染色したポリエステル布について、実施例1〜10及び比較例1〜3の場合と同様の評価方法により染色性、強度について評価を行った。また、寸法安定性については、染色前の面積(S0)に対して、染色後の面積(Sd)の低下の割合を次式で求め、下記の基準で評価した。
収縮率(%)=((S0−Sd)/S0)×100
◎:収縮率が5%未満
○:収縮率が5%以上、10%未満
×:収縮下率が10%以上
【0037】
上記染色性、強度及び寸法安定性の評価結果を表4に示す。
【表4】

【0038】
表4に示すように、水とエタノールとキシレンとカヤロンポリエステルブルーAN-SEからなる染色液を用いて染色を行った、実施例11〜14では、ポリエステル布に対しても良好な染色性、強度及び寸法安定性を示すことが分かった。特に、水が50〜98質量%の範囲にあり、エタノールが1〜49質量%の範囲にあり、キシレンが1〜40質量%の範囲にあり、(エタノールの質量%)/(キシレンの質量%)>1の範囲にある実施例11〜13では、染色性、強度及び寸法安定性の全てにおいて非常に優れていた。これに対し、従来の分散染料による染色方法を用いた比較例4では、十分な染着濃度が得られなかった。またエタノールと染料のみからなる染色液(比較例5)や、キシレンと染料のみからなる染色液(比較例6)を用いて染色しても、十分な染着濃度は得られなかった。
【0039】
(実施例15〜18)
実施例15〜18では、染色の対象となる合成高分子材料として、ポリエチレン繊維(タイレ(株)製 ダンゼックス)繊度:444デシテックスの原糸36本を撚り合わせた網糸を無結節編網機(中央造機(株)製)にて編成したネットを用いた。また、染料として、実施例15〜17では分散染料のカヤロンポリエステルブルーAN-SEを2%o.w.f.となるように用い、実施例18では、アイゼンスピロンブルー2BNHを2%o.w.f.となるように用いた。また、染色液に用いる水及び有機溶剤の割合は表5に示すとおりとし、染色温度は30°Cとした。他の条件は実施例1と同様である。
【表5】

【0040】
(比較例7〜9)
染色液として、比較例7では水、比較例8ではエタノール、比較例9ではキシレンをそれぞれ単独で用いた(上記表5参照)。また、染料としてダイアニックスブルーU−SEを2%o.w.f.となるように用いた。被染色物及び他の染色条件は実施例15〜18と同じである(ただし、比較例7における染色時の温度は125°Cとし、染色時間は20分間とした)。
【0041】
<評価>
上記実施例15〜18及び比較例7〜9の方法によって染色したネットについて、実施例1〜10及び比較例1〜3の場合と同様の評価方法により染色性、強度について評価を行った。また、寸法安定性については、実施例11〜14及び比較例4〜6と同様の方法で評価を行った。
【0042】
上記染色性、強度及び寸法安定性の評価結果を表6に示す。
【表6】

【0043】
表6に示すように、水とエタノールとキシレンと有機溶剤に可溶な染料とからなる染色液を用いた実施例15〜18では、ポリエチレン繊維に対して良好な染色性、強度及び寸法安定性を示した。特に、水が50〜98質量%の範囲にあり、エタノールが1〜49質量%の範囲にあり、キシレンが1〜40質量%の範囲にあり、(エタノールの質量%)/(キシレンの質量%)>1の範囲にある実施例15〜17では、染色性、強度及び寸法安定性の全てにおいて非常に優れていた。これに対し、従来の分散染料による染色方法を用いた比較例7では、染色液の温度を125°Cと高く設定したにもかかわらず、染色性に劣り、強度及び寸法安定性も劣っていた。またエタノールと染料からなる染色液(比較例8)や、キシレンと染料からなる染色液(比較例9)で染色しても、十分な染着濃度は得られなかった。
【0044】
(実施例19〜23)
実施例19〜23では、染色の対象となる合成高分子材料として、ポリエステルフィルム(東レ(株)製 ルミナーTタイプ、品番#75、厚さ:75ミクロン)を用いて染色を行った。また、有機溶剤に可溶な染料として、実施例19〜22ではアイゼンスピロンブルー2BNHを2%o.w.f.となるように用い、実施例23では分散染料のカヤロンポリエステルブルーAN-SEを2%o.w.f.となるように用いた。また、染色液に用いる水及び有機溶剤の割合は表7に示すとおりとし、染色温度は20°C(ただし、実施例22は35°C)とした。他の条件は実施例1と同様である。
【表7】

【0045】
(比較例10〜12)
染色液として、比較例10では水、比較例11ではエタノール、比較例12ではキシレンをそれぞれ単独で用いた(上記表7参照)。また、染料としてアイゼンスピロンブルー2BNHを2%o.w.f.となるように用いた。被染色物及び他の染色条件は実施例19〜21と同じである。
【0046】
<評価>
上記実施例19〜23及び比較例10〜12の方法によって染色したポリエステルフィルムについて、以下に示す方法により染色性及び寸法安定性の評価を行った。
【0047】
(染色性の評価基準)
染色品の明度(L*)を、分光測色計(ミノルタ(株)製 CM−3600d)で測定し、下記の基準で評価した。
◎:明度(L*)が80未満
○:明度(L*)が80以上90未満
×:明度(L*)が90以上
【0048】
(寸法安定性の評価基準)
染色前の面積(S0)に対して、染色後の面積(Sd)の低下の割合を次式で求め、下記の基準で評価した。
収縮率(%)=((S0−Sd)/S0)×100
◎:収縮率が5%未満
○:収縮率が5%以上、10%未満
×:収縮下率が10%以上
【0049】
結果を表8に示す。
【表8】

【0050】
表8に示すように、水とエタノールとキシレンと有機溶剤に可溶な染料とからなる染料を用いた実施例19〜23では、染色が困難とされているポリエステルフィルムに対して、極めて良好な染色性及び寸法安定性を示した。これに対し、比較例10〜12では、染色性に劣っていることが示され、水と染料のみからなる染色液(比較例10)や、エタノールと染料のみからなる染色液(比較例11)や、キシレンと染料のみからなる染色液(比較例12)を用いても、十分な染着濃度は得られないことが分かった。
【0051】
(実施例24〜28)
実施例24〜28では、染色の対象となる合成高分子材料として、ポリプロピレン製板(三菱樹脂(株)製、厚さ:1mm)を用いた。また、有機溶剤に可溶な染料として実施例24〜27ではアイゼンスピロンブルー2BNHを2%o.w.f.となるように用い、実施例28では分散染料のカヤロンポリエステルブルーAN-SEを2%o.w.f.となるように用いた。また、染色液に用いる水及び有機溶剤の割合は表9に示すとおりとし、染色温度は20°C(ただし、実施例27は35°C)とした。他の条件は実施例1と同様である。
【表9】

【0052】
(比較例13〜15)
染色液として、比較例13では水、比較例14ではエタノール、比較例15ではキシレンをそれぞれ単独で用いた(上記表9参照)。また、染料として、アイゼンスピロンブルー2BNHを2%o.w.f.となるように用いた。被染色物及び他の染色条件は実施例24〜28と同じである。
【0053】
<評価>
上記実施例24〜28及び比較例13〜15の方法によって染色したポリプロピレン製板について、実施例19〜23及び比較例10〜12の場合と同様の評価方法により染色性及び寸法安定性について評価を行った。結果を表10に示す。
【表10】

【0054】
表10に示すように、水とエタノールとキシレンと有機溶剤に可溶な染料とからなる染色液を用いた実施例24〜28では、染色が困難とされているポリプロピレンに対して、極めて良好な染色性及び寸法安定性を示した。これに対し、比較例13〜15では、染色性に劣っていることが示され、水と染料のみからなる染色液(比較例13)や、エタノールと染料のみからなる染色液(比較例14)や、キシレンと染料のみからなる染色液(比較例15)を用いても、十分な染着濃度は得られないことが分かった。
【0055】
(実施例29)
実施例29では、染色の対象となる合成高分子材料として、実施例1〜10と同じ超高分子量ポリエチレン繊維製の組紐を用いた。また、有機溶剤に可溶な染料として、アイゼンスピロンブルー2BNHを用い、染色液は、表11に示すように、水50質量%、テトラヒドロフラン50質量%とした。染料濃度が5%o.w.f.となるように、染色液と組紐とを共栓付三角フラスコに入れ、恒温振とう機(バイオシェーカーBR−30L タイテック(株)製)を使用し、浴比1:30、20°Cで1時間の染色を行った。
【表11】

【0056】
(比較例16)
比較例16では、染色液に用いる有機溶剤としてテトラヒドロフランを単独で用いた。被染色物及び他の染色条件は実施例29の場合と同様である。
【0057】
<評価>
上記実施例29及び比較例16の染色品について、分光測色計(ミノルタ(株)製 CM−3600d)によってK/Sを測定して染色濃度の評価を行った。その結果、実施例29ではK/Sが4.6であるのに対し、比較例16では1.9となり、テトラヒドロフランンに水を加えた染色液のほうが、テトラヒドロフラン単独の場合よりも、濃い染色濃度が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、従来染色が困難とされていたポリエチレンやポリプロピレン等の難染色性の合成高分子材料を染色するのに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成高分子材料を染色液で染色する合成高分子材料の染色方法において、
前記染色液は、水と、有機溶剤と、該有機溶剤に可溶な染料とが含まれていることを特徴とする合成高分子材料の染色方法。
【請求項2】
有機溶剤には、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の両方が含まれていることを特徴とする請求項1記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項3】
染色液中の水と水溶性有機溶剤と非水溶性有機溶剤の混合割合は、水が1〜98.9質量%、水溶性有機溶剤が1〜98.9質量%、非水溶性有機溶剤が0.1〜98質量%であることを特徴とする請求項2記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項4】
染色液中の水と水溶性有機溶剤と非水溶性有機溶剤の混合割合は、水が50〜98質量%、水溶性有機溶剤が1〜49質量%、非水溶性有機溶剤が1〜40質量%であり、(水溶性有機溶剤の質量%)/(非水溶性有機溶剤の質量%)>1とされていることを特徴とする請求項3記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項5】
水溶性有機溶剤は炭素数1〜3の脂肪族モノアルコールであり、非水溶性有機溶剤は常温で液体の芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項6】
有機溶剤に可溶な染料には、モノアゾ系油溶染料、ジスアゾ系油溶染料、金属錯塩型モノアゾ系油溶染料、アントラキノン系油溶染料、フタロシアニン系油溶染料、トリアリルメタン系油溶染料、ベンゼンアゾ系分散染料、複素環アゾ系分散染料、アントラキノン系分散染料及び縮合系分散染料の少なくとも一つが含まれていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項7】
合成高分子材料1質量部に対し、染色液は10〜100質量部であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項8】
合成高分子材料はポリオレフィンであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項9】
ポリオレフィンは超高分子量ポリエチレン繊維であることを特徴とする請求項8記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項10】
合成高分子材料はポリエステルであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の合成高分子材料の染色方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項記載の合成高分子材料の染色方法によって染色されていることを特徴とする染色された合成高分子材料。

【公開番号】特開2006−132006(P2006−132006A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318744(P2004−318744)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月25日から9月21日 愛知県産業技術研究所企画連携部の安田篤司がインターネットアドレス(http://www.aichi−inst.jp/〜mikawa/kenkyu/h15seika.html)にて発表
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(504406896)株式会社大成商会 (1)
【Fターム(参考)】