説明

合金型温度ヒューズ

【課題】低融点合金片両側の空間を排除するにもかかわらず良好な作動性を有する小サイズ化された合金型温度ヒューズを提供する。
【解決手段】リード導体1、1の表面端部間に低融点合金片2の溶湯を配給し、表面開放の充分に速い冷却速度のもとで冷却して、当該溶湯の表面張力と当該リード導体1の表面の表面張力とが平衡する前の段階で冷却凝固させて、再溶融に対し表面張力変形性能を保有させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金型温度ヒューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の異常発熱によって電気・電子機器への給電を停止し、その機器の熱的破壊を未然に防止するヒューズ、すなわち、温度ヒューズとして合金型温度ヒューズが汎用されている。
この合金型温度ヒューズは、リード導体間に低融点合金片を設け、その低融点合金片上にフラックスを塗布し、このフラックス塗布低融点合金片を外被体で包囲した構成であり、その動作機構は、温度ヒューズが取り付けられた被保護機器の過熱で低融点合金片が溶融され、その溶融合金が各リード線端部に濡れ拡がって中央で分断され、フラックスの活性作用のバックアップのもとで表面張力により球状化が促進され、分断間の距離が増大されて通電が遮断されることにある。
【0003】
携帯電気・電子機器用の二次電池、例えばリチウムイオン電池の保安に使用される合金型温度ヒューズにおいては、小サイズ化が要求され、その小サイズ温度ヒューズとして、図1の(イ)に示すように、帯状リード導体1’,1’間に低融点合金片2’を接続し、低融点合金片2’にフラックス3’を塗布し、該フラックス塗布低融点合金片を上下の絶縁シートで4’,4’包囲封止したものが知られている(例えば、特許文献1)。11’は溶融低融点合金に対する濡れ性を向上させるための金属層である。
この温度ヒューズの動作機構は、温度ヒューズが取り付けられた被保護機器の過熱で低融点合金片が溶融され、図1の(ロ)に示すように、フラックスの活性作用のバックアップのもとでその溶融合金20’が各リード線端部に濡れ拡がり、中央が分断され、分断間の距離が増大されて通電が遮断されることにある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の温度ヒューズでは、低融点合金片2の両側に空間Aを設け、その空間のリード導体部分に溶融合金を濡れ拡げさせることが必要であり、それらの空間による温度ヒューズ本体部のサイズアップが避けられない。
従来、低融点合金粒体とフラックスとの混合物であって、その粒体相互の接触によって電気導通性を確保した成型ヒューズ素子を温度ヒューズのヒューズエレメントとして使用することが知られている(例えば、特許文献2)。
このヒューズエレメントでは、前記機器の異常発熱により低融点合金粒体が溶融されると、リード導体と成型ヒューズ素子との接合界面近傍部分の低融点合金粒体がリード導体に溶着し、各リード導体に溶着した各低融点合金粒体にヒューズエレメントの各半部の溶融低融点合金粒体が凝集して溶融低融点合金粒体が二分され、左右の低融点合金粒体凝集体に分断されて通電遮断作動が達成される。従って、前記図1における空間部分Aが不要である。
しかしながら、ヒューズエレメントの導電性が低融点合金粒体の相互接触抵抗に依存し、電気抵抗値が高く、ヒューズエレメントの自己発熱のために、動作温度精度が劣るという不具合がある。
【0005】
本発明の目的は、合金型温度ヒューズにおいて、低融点合金片両側の空間を排除するにもかかわらず良好な作動性を保証し、充分に小サイズ化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る合金型温度ヒューズは、扁平リード導体の端部間に溶接された低融点合金片上にフラックスを塗布し、このフラックス塗布低融点合金片を上下の樹脂シートで挾み、これらの外周間を封止した温度ヒューズであり、リード導体の表面端部間に低融点合金の溶湯を配給し、その溶湯の表面張力とリード導体表面の表面張力とが平衡するまえの段階で冷却凝固させて再溶融に対し表面張力変形性能を保有させた低融点合金片をヒューズエレメントとすることを特徴とする。
請求項2に係る合金型温度ヒューズは、扁平リード導体の端部間に溶接された低融点合金片上にフラックスを塗布し、このフラックス塗布低融点合金片を上下の樹脂シートで挾み、これらの外周間を封止した温度ヒューズであり、リード導体の表面端部間に低融点合金の溶湯を配給し、開放冷却のもとで濡れ拡げさせ凝固させた低融点合金片をヒューズエレメントとすることを特徴とする。
請求項3に係る合金型温度ヒューズは、請求項1または請求項2記載の合金型温度ヒューズにおいて、上下の樹脂シートの外周間の封止が接着剤により行なわれていることを特徴とする。
請求項4に係る合金型温度ヒューズは、請求項3記載の合金型温度ヒューズにおいて、低融点合金片の上面全体に塗布され、このフラックス塗布低融点合金片の両端部に接着剤が接触していることを特徴とする。
請求項5に係る合金型温度ヒューズは、請求項3記載の合金型温度ヒューズにおいて、低融点合金片の上面の両端部を除く70%以上に塗布され、このフラックス塗布低融点合金片の両端部に接着剤が接触していることを特徴とする。
請求項6に係る合金型温度ヒューズは、請求項1〜5何れかの合金型温度ヒューズにおいて、対向するリード導体先端々面間に低融点合金片の一部が入り込み、この入り込んだ低融点合金片部分に括れが設けられていることを特徴とする。
請求項7に係る合金型温度ヒューズは、請求項1〜6何れかの合金型温度ヒューズにおいて、リード導体表面部分にリード導体表面のねれ性に対し濡れ性の悪い濡れ拡がり防止層を設けて凝固低融点合金片の各端を前記濡れ拡がり防止層の先端に終端させたことを特徴とする。
請求項8に係る合金型温度ヒューズは、請求項7の合金型温度ヒューズにおいて、低融点合金の組成がSn、InまたはBiを主成分とし、濡れ拡がり防止層の材質がNi、Fe、Co、Cr、W、Nb、Tiの何れかであることを特徴とする。
請求項9に係る合金型温度ヒューズは、請求項7の合金型温度ヒューズにおいて、濡れ拡がり防止層が導体の酸化膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
図2−1の(イ)及び(ロ)は本発明において使用するヒューズエレメントを示している。
図2−1の(イ)に示すものでは、扁平リード導体1,1の端部間に所定量の低融点合金の溶湯を配給し、表面開放の充分に速い冷却速度のもとで冷却して溶湯の表面張力とリード導体表面の表面張力と溶湯とリード導体表面との間の界面張力とが力学的に平衡していない段階で冷却凝固させて低融点合金片2を形成してあり、低融点合金片2に不平衡力が蓄えられている。従って、再溶融すると、不平衡力が解放され、溶融合金が拡がろうとする。
図2−1の(ロ)に示すものでは、リード導体先端から所定の距離の位置を先端とする、濡れ角が90°以上の濡れ拡がり防止層sを設け、溶湯が濡れ拡がり防止層の先端を越えて濡れ拡がるのを防止しあり、他の他の点は、図1の(イ)に示すものと同じである。
前記「不平衡力が蓄えられた低融点合金片」に代え、リード導体の表面端部間に低融点合金の溶湯を配給し、開放冷却のもとで濡れ拡げさせ凝固させた低融点合金片を使用することもでき、クローズされた後述のフラックス充填空間a内で再溶融させると、開放冷却に較べて冷却が遅く進行し凝固にそれだけ長い時間を必要とするから、再溶融により拡がろうとする。
図2−1の(ハ)及び(ニ)は、温度ヒューズ本体部を示し、図2−1の(イ)及び(ロ)の凝固可溶合金片がフラックス充填空間aで封じられており、外部からの加熱で可溶合金が溶融されると、前記蓄えられた不平衡力が解放され、→方向に引っ張り力が作用し、中央箇所が分断され、その分断箇所の下地である樹脂シートに溶融合金が濡れ難く、溶融合金がリード導体に樹脂シートよりも極めて濡れ易いために、各分断塊がリード導体側に寄せられ、分断間距離が増大されて温度ヒューズの作動が完結され、良好な作動性を保証できる。
【0008】
本発明に係る合金型温度ヒューズでは、図2−1の(ロ)に示すように、低融点合金片両端のそれぞれに隣接するリード導体表面部分にリード導体表面の濡れ性に対し濡れ性の悪い濡れ拡がり防止層sを設けて前記低融点合金片2の各端を前記濡れ拡がり防止層sの先端に終端させることもでき、この場合、低融点合金片2の長さLを確実に所定長さにできる、という効果がある。この例のものでも、前記蓄えられた不平衡力が解放され、→方向に引っ張り力が作用し、中央箇所が分断され、その分断箇所の下地である樹脂シートに溶融合金が濡れ難く、溶融合金がリード導体に樹脂シートよりも極めて濡れ易いために、各分断塊がリード導体側に寄せられ、分断間距離が増大されて温度ヒューズの作動が完結される。
【0009】
図2−2の(イ)に示すように、冷却のタイミングの多少のずれのために、低融点合金の溶湯2が拡がり防止層sの手前で終端した場合でも、前記Lに対するΔLがΔL/L≦5%に納まっていれば、許容される。
【0010】
図2−2の(ロ)に示すように、低融点合金の溶湯2が拡がり防止層sにのり上がって終端する場合、拡がり防止層sの表面張力をγs、リード導体1と溶湯2との間の界面張力をγls、溶湯2の表面張力をγlとすると、
γs=γlcosθ+γls
を満たす接触角θで平衡する。従って、この接触角θよりも小さい角度θ'のときに、溶湯を強制的に冷却凝固されると、前記の不平衡力を保有させ得る。この場合、角度θ'は図2−2の(ロ)に示すように、90°を越えることもあり、このケースでは、図2−2の(ロ)に示すように、フラックス3は、固化合金の端部を抱き込むようにして塗布することが有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の合金型温度ヒューズを示すための図面である。
【図2−1】本発明に係る合金型温度ヒューズの機能を示すための図面である。
【図2−2】本発明に係る合金型温度ヒューズの別例の機能を示すための図面である。
【図3−1】本発明において使用するリード導体付き低融点合金片を示す図面である。
【図3−2】前記リード導体付き低融点合金片の中央部を示す図面である。
【図3−3】リード導体付き低融点合金片の前記とは別の例を示す図面である。
【図4】本発明において使用するリード導体付き低融点合金片の製作方法を示す図面である。
【図5−1】本発明に係る合金型温度ヒューズを示す斜視図である。
【図5−2】図5−1におけるイ−イ断面図である。
【図6】本発明に係る合金型温度ヒューズの作動状態を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例について説明する。
図3−1〜図3−3は本発明において使用するリード導体付き低融点合金エレメントを示す図面である。
図3−1において、1,1は帯状リード導体であり、例えば、銅導体を使用できる。
2は低融点合金エレメントであり、上面は両端部に至るほど接線角を大きくした曲面とされ、中間部の一部20を対向するリード導体先端々面11,11間に図3−2に示すように入り込ませ、両端部21,21のそれぞれが各帯状リード導体端部10,10の上面に溶接されている。
また、図3−3に示すように、分断を生じ易くするために低融点合金エレメント2の中央部両側に切り込み22,22を設けることもでき、かかる切り込み22,22にもかかわらず、リード導体先端々面間に入り込んだ低融点合金エレメント部分20のために低融点合金エレメントの中央部の断面積を充分に確保でき、電流容量を充分に確保できる。切り込みは片側にのみ設けてもよい。
低融点合金エレメントの対向するリード導体先端々面間への入り込み体積は低融点合金エレメント全体積の10〜20%とすることが好適である。図3−1に示するように、入り込み部分20の下面と帯状リード導体1,1の下面とをほぼ面一にすることもできる。
【0013】
前記の温度ヒューズ用リード導体付きエレメントを製造するには、図4に示すように、扁平リード導体基材100,100を所定の定のギャップ間隔を隔てて耐熱性の作業台A、例えばステンレス台上に配設し、この基材100,100間に低融点合金線材を供給しつつはんだごてで溶融するか、溶融低合金を走行ノズルで供給することにより、ギャップ及びリード導体基材端部にまたがって低融点合金の溶湯200を供給する。
溶湯200は供給と同時にリード導体基材100,100の高熱伝導経路を経ての放熱により冷却され、リード導体基材端部に近い部分ほど速い冷却速度で冷却されて凝固が進行していく。
【0014】
仮に、溶湯の表面張力とリード導体表面の表面張力と溶湯とリード導体表面との間の界面張力とが力学的に平衡するまで溶融状態を保持し、この状態で冷却凝固させると、再溶融しても濡れ拡がりは生じない。
而るに、この力学的平衡に達する以前に溶湯を冷却凝固させれば、再溶融すると濡れ拡がりが生じる。すなわち、凝固低融点合金エレメントに不平衡力を保有させ得る。力学的平衡に達する以前に溶湯を冷却凝固させるために、リード導体基材を風冷などにより強制冷却している。
扁平リード導体基材に、先端から所定の距離を隔てた位置を先端とする濡れ拡がり防止層sを設ければ、溶湯を濡れ拡がり防止層の先端を越えることなく濡れ拡がらせることを確保して凝固させることができる。
この供給低融点合金溶湯の凝固の完了をまって短冊状にカットし、「凝固低融点合金エレメントに不平衡力を保有させたリード導体付き低融点合金エレメント」を得ている。
【0015】
低融点合金溶湯の材質としては、In、Bi、Snを主成分とする組成、これらの合金に機械的強度の向上や温度特性の調整のためにCu、Ag、Sb、Zn等の元素を0.1〜4.0質量%添加したものを使用できる。
【0016】
上記リード導体基材の熱伝導経路を得ての放熱による冷却速度を調整するために、ギャップの裏側を保温したり、リード導体基材をエアブローしたり、リード導体基材を熱伝導性の部材で支持したりすることができる。
【0017】
前記製造方法により得られた温度ヒューズ用リード導体付きエレメントにおいては、図3−2に示すように、対向するリード導体先端々面11,11間に低融点合金エレメントの一部20が入り込んでいる。
【0018】
低融点合金には、例えば、次ぎの組成[A](1)43%<Sn≦70%,0.5%≦In≦10%,残Bi、(2)25%≦Sn≦40%,50%≦In≦55%,残Bi、(3)25%<Sn≦44%,55%In≦74%,1%≦Bi20%、(4)46%<Sn≦70%,18%≦In48%,1%≦Bi≦12%、(5)5%≦Sn≦28%,15%≦In≦37%,残Bi、(6)10%≦Sn≦18%,37%≦In≦43%,残Bi、(7)25%<Sn≦60%,20%≦In50%,12%<Bi≦33%、(8)(1)〜(7)の何れか100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(9)33%≦Sn≦43%,0.5%≦In≦10%,残Bi、(10)47%≦Sn≦49%,51%≦In≦53%の100重量部にBiを3〜5重量部を添加、(11)40%≦Sn≦46%,7%≦Bi≦12%,残In、(12)0.3%≦Sn≦1.5%,51%≦In≦54%,残Bi、(13)2.5%≦Sn≦10%,25%≦Bi≦35%,残In、、(14)10%≦Sn≦25%,48%≦In≦60%,残Bi等のIn−Sn−Bi系合金の組成(15)(9)〜(14)の何れか100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、[B](16)30%≦Sn≦70%,0.3%≦Sb≦20%,残Bi、(17)(16)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のBi−Sn−Sb系合金の組成[C](18)52%≦In≦85%,残Sn、(19)(18)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のIn−Sn系合金の組成[D](20)45%≦Bi≦55%,残In、(21)(20)の組成の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、或いはSnを0.01〜0.04重量部添加等のIn−Bi系合金の組成、[E](22)50%Bi≦57%,残Sn、(23)(22)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のBi−Sn系合金の組成[F](24)Inの100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(25)90%≦In≦99.9%,0.1%≦Ag≦10%の100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(26)95%≦In≦99.9%,0.1%≦Sb≦5%の100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加等のIn系合金の組成等から温度ヒューズの動作温度に適合した融点の組成を選定することができる。
【0019】
濡れ拡がり防止層はNi、Fe、Co、Cr、W、Nb、Tiの何れかのめっき、真空蒸着により形成できる。濡れ拡がり防止層をリード導体に酸化膜を形成して設けることもできる。
【0020】
リード導体にSn等のめっき膜を設ける場合、リード導体の先端から所定距離をおいた位置を先端として濡れ拡がり防止層を設け、次いで、拡がり防止層の後端部にラップさせてSn等めっき膜を設けることができる。
【0021】
図5−1は本発明に係る合金型温度ヒューズの斜視図を、図5−2は図5−1におけるイ−イ断面図をそれぞれ示している。
図5−2において、Eはリード導体付き低融点合金エレメントであり、扁平リード導体1,1の表面端部間に所定の接触角で凸曲面状に凝固形成させ、かつリード導体の端部に溶接させた低融点合金片2からなり、低融点合金片両端のそれぞれに隣接するリード導体表面部分にリード導体表面の濡れ性に対し濡れ性の悪い濡れ拡がり防止層sを設けて前記低融点合金片2の各端を前記濡れ拡がり防止層sの先端に終端させてある。
低融点合金エレメント2の上面側にフラックス31を塗布し、低融点合金エレメントの入り込み部20の下面及び該下面に燐在する帯状リード導体下面部分にも符合32で示すようにフラックスを塗布してある。低融点合金エレメント2の両側面には、フラックスを塗布していないが、塗布することもできる。
上側フラックス31は、帯状リード導体の端部上面に溶接された低融点合金エレメントの上面の100%を覆うように塗布されていることが好ましいが、低融点合金エレメントの上面にこの上面両端部を残して塗布される場合でも、70%以上であれば、許容される。上面側フラックス31の塗布厚みは、帯状リード導体の端部上面に溶接された低融点合金エレメント部分の平均厚みの70〜100%とすることが好ましい。
下側フラックス32の塗布厚みは、温度ヒューズ本体の下面側から低融点合金エレメントへの熱伝達性(感温性)を保証するために、下面側絶縁体厚み(下側シートと下側接着剤との総厚み)の50%以下とすることが好ましい。
フラックスには、ロジン系を主成分とし、活性剤例えばジカルボン酸(例えば、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸等)を添加したものを使用できる。
【0022】
図5−2において、4,4は上下の耐熱シート、5は上下シート4,4間の空間を埋めた接着剤であり、上側フラックス31、下側フラックス32が接着剤に接している。
耐熱シートには、PET、PC、PEN等のエンジニアリングプラスチックシート、ガラスクロス基材エポキシ樹脂シート等を使用できる。一枚物で上下から挾むようにして使用することもできる。
接着剤としては、エポキシ樹脂、紫外線硬化性樹脂、シリコン樹脂等を使用できる。
また、接着剤として嫌気性硬化樹脂と紫外線硬化樹脂との混合物を使用できる。嫌気性硬化樹脂とは、室温でラジカル重合可能な多価アクリル酸エステルまたはその混合物、例えばテトラエチレングリコールのジメタクリレートとこの混合物に対する酸素の作用を断った時点から遊離ラジカルが発生して多価アクリル酸エステルのラジカル重合を開始させ、重合を維持または促進させる物質とを組み合わせたものであり、一般には、有機過酸化物またはヒドロベルオキシド、例えばクミルヒドロペルオキシドとジメチルバラトルイデンとを組み合わせたものであり、アクリレートオリゴマー系樹脂を使用できる。紫外線硬化樹脂にはメタクリレートオリゴマー系樹脂を使用できる。嫌気性硬化樹脂:紫外線硬化樹脂の体積比は5:1〜5:3とすることが望ましい。
封止体としての接着剤に嫌気性硬化樹脂と紫外線硬化樹脂との混合物を使用すると、封止体の外気に接する表面において、紫外線照射により混合物中の嫌気性硬化樹脂成分が硬化してその表面が気密化される。この気密化により封止体内部への空気の侵入が確実に遮断され、封止体内部の混合物の嫌気性硬化樹脂成分を迅速に硬化させてその内部を早期に硬化させることができる。特に、上下の絶縁シート間に封止材を埋めており、絶縁シート周囲の封止体外面の表面積に対する封止体体積が相当に大きいから、嫌気性硬化樹脂分が本来的に早期に硬化することに加え、封止体外表面の早期気密化により内部の一層の早期硬化を達成できる。
【0023】
低融点合金片2の各端と接着剤5の各内端とを一致させて、合金片端部の接着剤界面への食い込みを排除したり、合金片端と接着剤内端との間に間隔が生じるのを排除しているが、不一致でも、その間の距離が±0.3mm以下であれば、実質上、支障にはならない。
【0024】
本発明に係る温度ヒューズを製造するには、(1)作業台上において、リード導体付きフラックス塗布低融点合金エレメントを下側耐熱シート上に配置し、下側塗布フラックスの粘着力でその配置位置への固定状態を担保し、次いで未硬化接着剤塗布耐熱シートを接着剤面を下側にして前記下側配置耐熱シート上に配置し、この上側の配置耐熱シートを治具で押えた状態で接着剤を硬化させる方法、または(2)作業台上に、未硬化接着剤塗布耐熱シートを接着剤面を上側にして配置し、フラックス塗布低融点合金エレメント接続リード導体を下側耐熱シート上に配置し、未硬化接着剤の粘着力でその配置位置への固定状態を担保し、次いで未硬化接着剤塗布耐熱シートを接着剤面を下側にして前記下側配置耐熱シート上に配置し、この上側の配置耐熱シートを治具で押えた状態で接着剤を硬化させる方法を使用できる。
【0025】
前記の合金型温度ヒューズにおいては、ヒートサイクル時に発生する低融点合金エレメントの熱膨張力が、対向するリード導体先端々面間に入り込んだ低融点合金エレメント部分とリード導体先端々面との接触面でも支持されるから、前記熱膨張力に対し、低融点合金エレメントとリード導体先端部との溶接箇所に作用する反力が低減される。従って、低融点合金エレメントとリード導体先端部との溶接箇所の対ヒートサイクル安定性を向上できる。
また、温度ヒューズ本体の下面側からの熱伝達に対し、低融点合金エレメントの入り込み厚みだけ低熱伝達物(フラックス)の厚みを薄くできるから、下面側からの感熱性をそれだけアップできる。
【0026】
図6は本発明に係る合金型温度ヒューズの低融点合金エレメントの分断動作状態を示し、硬化接着剤で確保されたキャビティ50内に低融点合金エレメントとフラックスとが空き空間なく納められ、この空きのない状態で低融点合金エレメントが分断され、その分断魂200,200間に溶融フラックス30が食い込んで分断間距離が拡大されていく。而るに、低融点合金エレメントの対向するリード導体先端々面間への入り込み部分の下面及びその下面に燐在するリード導体先端部下面にもフラックスを塗布し、前記キャビティ50の容積を大きくすれば、分断間距離を長くでき、分断間絶縁距離を充分に確保し得、確実な電流遮断を保証できる。
【実施例】
【0027】
図5−2に示した構成の合金型温度ヒューズである。帯状リード導体には、先端部にAuをメッキした厚み100μm×巾2.3mmのNi導体を使用し、対向する両リード導体端面間の間隔を0.6mmとした。低融点合金エレメントには、組成52In−48Biを使用し、中央点での厚みを170μmとした。フラックスにはロジンを使用した。上下の絶縁フィルムには、厚み120μm、縦横寸法3.5mm×3.0mmのガラス繊維エポキシ樹脂フィルムを使用し、混合硬化性樹脂には、嫌気性硬化樹脂(ヘンケル社製ウレタンメタクリレート樹脂系LOCTI
TE630)20容量部、紫外線硬化樹脂(ヘンケル社製ウレタンアクリレート樹脂系LOCNTE3311)7容量部の混合物を使用し、フィルムの内面及びリード導体の樹脂に接する面に硬化促進剤(金属微粉末)を塗布し、前記製造方法により上下フィルム間をその間隔を0.5mmとして前記混合物で埋め、紫外線を照射量3000mJ/mm2以上で分間照射した。
【0028】
〔比較例〕
実施例に対し、低融点合金エレメントとして、押出線材を扁平に圧延してなり、長さ、容積、組成が実施例のものと同じとした低融点合金片を使用し、帯状リード導体、ヒューズ本体部の厚み、平面寸法、上下のシート、接着剤を実施例と同じとした。
【0029】
実施例品、比較例品につき、温度80℃の加熱槽にて1時間放置した後、昇温速度1℃/1分のオイルバス中に浸漬し、0.1A通電のもとで温度ヒューズの低融点合金エレメントが分断作動したときのオイル温度を測定したところ、実施例品の90±2℃に対し、比較例品では105℃までオイルを昇温させても分断作動しなかった 。
【符号の説明】
【0030】
1 リード導体
2 低融点合金片
20 低融点合金片の入り込み部
3 フラックス
4 絶縁シート
5 接着剤
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特許第4290426号公報
【特許文献2】特開昭50−009053号公報、特開昭50−031349号公報、特開昭50−088548号公報、特開昭51−000644号公報等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平リード導体の端部間に溶接された低融点合金片上にフラックスを塗布し、このフラックス塗布低融点合金片を上下の樹脂シートで挾み、これらの外周間を封止した温度ヒューズであり、リード導体の表面端部間に低融点合金の溶湯を配給し、その溶湯の表面張力とリード導体表面の表面張力とが平衡するまえの段階で冷却凝固させて再溶融に対し表面張力変形性能を保有させた低融点合金片をヒューズエレメントとすることを特徴とする合金型温度ヒューズ。
【請求項2】
扁平リード導体の端部間に溶接された低融点合金片上にフラックスを塗布し、このフラックス塗布低融点合金片を上下の樹脂シートで挾み、これらの外周間を封止した温度ヒューズであり、リード導体の表面端部間に低融点合金の溶湯を配給し、開放冷却のもとで濡れ拡げさせ凝固させた低融点合金片をヒューズエレメントとすることを特徴とする合金型温度ヒューズ。
【請求項3】
上下の樹脂シートの外周間の封止が接着剤により行なわれていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の合金型温度ヒューズ。
【請求項4】
フラックスが低融点合金片の上面全体に塗布され、このフラックス塗布低融点合金片の両端部に接着剤が接触していることを特徴とする請求項3記載の合金型温度ヒューズ。
【請求項5】
フラックスが低融点合金片の上面の両端部を除く70%以上に塗布され、このフラックス塗布低融点合金片の両端部に接着剤が接触していることを特徴とする請求項3記載の合金型温度ヒューズ。
【請求項6】
対向するリード導体先端々面間に低融点合金片の一部が入り込み、この入り込んだ低融点合金片部分に切り込みが設けられていることを特徴とする請求項1〜5何れか記載の合金型温度ヒューズ。
【請求項7】
リード導体表面部分にリード導体表面のねれ性に対し濡れ性の悪い濡れ拡がり防止層を設けて凝固低融点合金片の各端を前記濡れ拡がり防止層の先端に終端させたことを特徴とする請求項1〜6何れか記載の合金型温度ヒューズ。
【請求項8】
低融点合金の組成がSn、InまたはBiを主成分とし、濡れ拡がり防止層の材質がNi、Fe、Co、Cr、W、Nb、Tiの何れかであることを特徴とする請求項6記載の合金型温度ヒューズ。
【請求項9】
濡れ拡がり防止層が導体の酸化膜であることを特徴とする請求項6記載の合金型温度ヒューズ。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−243388(P2011−243388A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113931(P2010−113931)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000225337)内橋エステック株式会社 (115)
【Fターム(参考)】