説明

合金製素材およびその製造方法

【課題】粒界、応力割れの発生を防止しつつ、高い寸法精度を有する合金製素材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の合金製素材の製造方法は、引抜加工を行って、アルミニウム合金製の引抜材を得る引抜工程と、ロール矯正加工を行って引抜材に残留応力を付与するロール矯正工程と、残留応力が付与された引抜材にエージング加工を行って合金製素材を得るエージング工程と、を含む。そしてロール矯正工程において、引抜材に付与される残留応力(リング試験による残留応力)をエージング工程前の状態で−75N/mm2 以上、−5N/mm2 未満に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば切削加工を施して光学機器部品、電機機器部品、自動車部品などに使用される合金製素材およびその製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、切削性に優れたアルミニウム合金製素材は一般的に、アルミニウム合金製材料に熱間押出加工を行って押出材を得、その押出材に対し、焼入加工、引抜加工、エージング加工、ロール矯正加工をこの順に行って製造されるものである。
【特許文献1】特開2004−276051号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の合金製素材は、低融点合金が含まれているが、この低融点合金が粒界に析出すると、エージング工程などの製造時や、製造後の切削加工、研削加工、ドリリング加工などの製品加工時に、上記析出部を起点として、粒界、応力割れが発生するおそれがある。
【0004】
一方、上記合金製素材において、残留応力を小さく、あるいは圧縮方向に大きく(マイナス方向に大きく)調整することによって、上記の粒界、応力割れを防止するという技術が従来より検討されている。
【0005】
ところが合金製素材の残留応力をマイナス方向に大きくなるようにむやみに調整すると、残留応力の影響が大きくなり、切削加工後の真円度などの寸法精度が低下し、品質を低下させるおそれがあった。
【0006】
この発明は、上記従来技術の問題を解消し、粒界、応力割れの発生を防止しつつ、高い寸法精度を有する合金製素材およびその製造方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
【0008】
[1] 引抜加工を行ってアルミニウム合金製の引抜材を得る引抜工程と、
ロール矯正加工を行って引抜材に残留応力を付与するロール矯正工程と、
残留応力が付与された引抜材にエージング加工を行って合金製素材を得るエージング工程と、を含み、
前記ロール矯正工程において、引抜材の残留応力(リング試験による残留応力)をエージング工程前の状態で−75N/mm2 以上、−5N/mm2 未満に調整するようにしたことを特徴とする合金製素材の製造方法。
【0009】
[2] アルミニウム合金が快削性アルミニウムである前項1に記載の合金製素材の製造方法。
【0010】
[3] アルミニウム合金が引抜材にPb成分を含まない快削性アルミニウムである前項1または2に記載の合金製素材の製造方法。
【0011】
[4] アルミニウム合金が引抜材にPb成分を含む快削性アルミニウムである前項1または2に記載の合金製素材の製造方法。
【0012】
[5] 前記ロール矯正加工におけるロールによる応力を35〜220N/mm2 に設定するようにした前項1〜4のいずれか1項に記載の合金製素材の製造方法。
【0013】
[6] 引抜材の残留応力をエージング工程後の状態で−50〜−1N/mm2 に調整するようにした前項1〜5のいずれか1項に記載の合金製素材の製造方法。
【0014】
[7] 前記引抜工程を行う前に、
アルミニウム合金材に熱間押出加工を行って押出材を得る押出工程と、
押出材に焼入加工を行う焼入工程と、を含む前項1〜6のいずれか1項に記載の合金製素材の製造方法。
【0015】
[8] 引抜加工を行ってアルミニウム合金製の引抜材を得る引抜工程と、
ロール矯正加工を行って引抜材に残留応力を付与するロール矯正工程と、
残留応力が付与された引抜材にエージング加工を行って合金製素材を得るエージング工程と、を含み、
前記ロール矯正工程において、ロールによる応力を35〜220N/mm2 に設定するようにしたことを特徴とする合金製素材の製造方法。
【0016】
[9] 引抜加工を行ってアルミニウム合金製の引抜材を得る引抜工程と、
ロール矯正加工を行って引抜材に残留応力を付与するロール矯正工程と、
残留応力が付与された引抜材にエージング加工を行って合金製素材を得るエージング工程と、を含み、
引抜材の残留応力をエージング工程後の状態で−50〜−1N/mm2 に調整するようにしたことを特徴とする合金製素材の製造方法。
【0017】
[10] 前項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする合金製素材。
【0018】
[11] 前項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された合金製素材を切削加工することによって得られることを特徴とする切削加工品。
【0019】
[12] 前項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって合金製素材を得る工程と、
合金製素材を切削加工することによって切削加工品を得る工程と、を含むことを特徴とする切削加工品の製造方法。
【0020】
[13] エージング加工が行われるアルミニウム合金製の引抜材であって、
エージング加工前に、ロール矯正加工を行って残留応力を付与するとともに、その残留応力をエージング加工前の状態で−75N/mm2 以上、−5N/mm2 未満に調整したことを特徴とするアルミニウム合金製の引抜材。
【0021】
[14] 前記ロール矯正加工におけるロールによる応力を35〜220N/mm2 に設定するようにした前項13に記載のアルミニウム合金製の引抜材。
【0022】
[15] 残留応力をエージング加工後の状態で−50〜−1N/mm2 に調整するようにした前項13または14に記載のアルミニウム合金製の引抜材。
【0023】
[16] エージング加工を行う前に、アルミニウム合金製の引抜材にロール矯正加工を行うようにした引抜材のロール矯正方法であって、
前記ロール矯正加工によって残留応力を付与するとともに、その残留応力をエージング加工前の状態で−75N/mm2 以上、−5N/mm2 未満に調整したことを特徴とする引抜材のロール矯正方法。
【0024】
[17] 前記ロール矯正加工におけるロールによる応力を35〜220N/mm2 に設定するようにした前項16に記載の引抜材のロール矯正方法。
【0025】
[18] 残留応力をエージング加工後の状態で−50〜−1N/mm2 に調整するようにした前項16または17に記載の引抜材のロール矯正方法。
【発明の効果】
【0026】
発明[1]の合金製素材の製造方法によれば、引抜材にマイナス方向の残留応力を付与するものであるため、圧縮応力が作用して、エージング加工時などの製造時や、切削加工時に、粒界、応力割れが発生するのを有効に防止することができる。
【0027】
さらにマイナス方向の残留応力を所定の範囲に調整しているため、過度の圧縮応力が作用するのを防止でき、高い寸法精度を維持できて、品質を向上させることができる。
【0028】
発明[2]の合金製素材の製造方法によれば、切削加工性に優れた合金製素材を製造することができる。
【0029】
発明[3]の合金製素材の製造方法によれば、Pb成分の含有されない、いわゆるPbフリー製品を製造することができる。
【0030】
発明[4]の合金製素材の製造方法によれば、Pb成分を含有する合金製素材を製造することができる。
【0031】
発明[5]の合金製素材の製造方法によれば、引抜材における残留応力の調整を正確に行うことができる。
【0032】
発明[6]の合金製素材の製造方法によれば、引抜材における残留応力の調整をより正確に行うことができる。
【0033】
発明[7]の合金製素材の製造方法によれば、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0034】
発明[8]の合金製素材の製造方法によれば、ロールによる応力(圧下量)を特定値に設定しているため、上記と同様に同様の作用効果を得ることができる。
【0035】
発明[9]の合金製素材の製造方法によれば、引抜材におけるエージング工程後の残留応力を特定値に調整しているため、上記と同様に同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
発明[10]によれば、上記と同様に同様の作用効果を有する合金製素材を提供することができる。
【0037】
発明[11]によれば、上記と同様に同様の作用効果を有する切削加工品を提供することができる。
【0038】
発明[12]によれば、上記と同様に同様の作用効果を有する切削加工品の製造方法を提供することができる。
【0039】
発明[13]によれば、上記と同様に同様の作用効果を有するアルミニウム合金製の引抜材を提供することができる
発明[14][15]によれば、上記の作用効果をより確実に得ることができる。
【0040】
発明[16]によれば、上記と同様に同様の作用効果を有する引抜材のロール矯正方法を提供することができる。
【0041】
発明[17][18]によれば、上記の作用効果をより確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1に示すように、本発明の実施形態である合金製素材の製造方法は、熱間押出工程、焼入工程、引抜工程、ロール矯正工程、エージング工程が順次施されて、合金製素材が製造されるものである。
【0043】
まず押出工程においては、合金材料を熱間押出加工して、押出材を得る。本実施形態において用いられる合金材料としては、鉛(Pb)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)などの低融点合金が添加されたアルミニウム合金が用いられる。
【0044】
次に上記の押出材に対し焼入加工を行った後、その焼入加工された押出材に対し、引抜加工を行って引抜材を得る。
【0045】
続いて、引抜加工によって得られた引抜材に対しロール矯正加工を行って、エージング加工(熱処理)を行うものである。
【0046】
本実施形態においては、ロール矯正加工によって引抜材に特有の残留応力を付与する。
【0047】
この残留応力は、後述するリング試験に準拠して、エージング工程前の状態で−5N/mm2 未満、−75N/mm2 以上に調整する必要があり、好ましくは−5N/mm2 未満、−65N/mm2 以上、より好ましくは−5N/mm2 未満、−55N/mm2 以上、より一層好ましくは−5N/mm2 未満、−45N/mm2 以上に調整するのが良い。
【0048】
すなわち上記所定の範囲内に残留応力を調整した場合には、切削加工後の寸法精度(真円度)の低下を防止しつつ、粒界割れや応力割れの発生を有効に防止することができる。換言すると、残留応力が高過ぎて、マイナス方向の残留応力が小さ過ぎる場合には、十分な圧縮応力が得られず、粒界、応力割れが発生するおそれがあり、好ましくない。逆に残留応力が小さ過ぎて、マイナス方向の残留応力が大き過ぎる場合には、過度の圧縮応力が作用することにより、切削加工後の寸法精度の低下を来すおそれがあり、好ましくない。
【0049】
なお残留応力の下限値を特に−45N/mm2 以上に調整した場合には、後述するようにリング状に切削加工した際の真円度の低下が0.02mm以下に抑制され、格段に優れた寸法安定性を得ることができ、品質をより一層向上させることができる。
【0050】
本実施形態において、残留応力の測定方法としては、リング試験方法が用いられる。このリング試験は、図2(a)に示すように丸棒状のサンプル基材(1)を筒状に加工して、同図(b)に示すように板厚1mmの円筒状のサンプル基材(2)を得る。このとき加工熱により製品温度が100℃を超えないように加工する。続けてこの筒状のサンプル基材(2)の外周面に、軸心方向に沿って線状の基準位置マーク(M)を付与する。その後この筒状サンプル基材(2)を輪切り状に切断して、軸方向長さ10mmの4つのサンプル(3)を得る。
【0051】
次に図3に示すように、各サンプル(3)に対し、基準位置マーク(M)を基準にして、周方向に90°毎の位置、つまり0°、90°、180°、270°の位置にそれぞれ切込位置マーク(M1)を付与する。
【0052】
次に図4に示すように、各サンプル(3)の外径(切込前外径D0 )を測定する。更に図5に示すように、各サンプル(3)の周方向に等間隔で8箇所の位置でそれぞれ肉厚Tを測定し、その肉厚Tの平均値Tave を求める。
【0053】
その後図6に示すように、切込位置マーク(M1)が付与された部分を、軸心方向に沿って1.0mm幅に切り込んでスリット状の切込溝(S)をそれぞれ形成する。
【0054】
次に図7に示すように、各サンプル(3)の外径(切込後外径D1 )を測定する。
【0055】
こうして得られた上記各測定値を次式(1)に当てはめて、残留応力値を求める。
【0056】
残留応力(N/mm2 )=(1/D0 −1/D1 )×Tave ×縦弾性係数…(1)
一方、上記の残留応力は、例えばロール矯正工程における矯正条件などによって制御するものである。たとえば矯正ロールの応力(圧下荷重、圧下量)、ロール配置位置、ロール配置角度、ロール形状、ロール径、送り速度(ロール回転速度)の他、ロール矯正加工時に用いられる潤滑剤の種類などによって調整する方法を好適に採用することができる。中でも特に、矯正ロールの応力を調整することによって、残留応力を所望の値に的確に調整することができるので、ロールによる応力を制御することによって、残留応力を調整するのが好ましい。
【0057】
本実施形態においては、ロール矯正加工におけるロールによる応力(圧下量)を35〜220N/mm2 、より好ましくは35〜135N/mm2 に設定するのが良い。すなわち圧下量が少な過ぎる場合には、引抜材に対しマイナス方向に十分な残留応力を付与することができず、粒界、応力割れが発生するおそれがあり、好ましくない。逆に圧下量が多過ぎる場合には、マイナス方向の残留応力が大きくなり過ぎて、過度の圧縮応力が作用することにより、寸法精度の低下(真円度の低下)を来すおそれがあり、好ましくない。
【0058】
本実施形態においては、ロール矯正加工を施した引抜材に対し、エージング加工(熱処理加工)を施して合金製素材を製造するものである。
【0059】
本実施形態において、エージング加工後の状態におけるリング試験による残留応力は、−50〜−1N/mm2 、−31〜−1N/mm2 、より好ましくは−20〜−1N/mm2 に調整するのが良い。
【0060】
すなわち残留応力が高過ぎて、マイナス方向の残留応力が小さ過ぎる場合には、十分な圧縮応力が得られず、粒界、応力割れが発生するおそれがあり、好ましくない。逆に残留応力が小さ過ぎて、マイナス方向の残留応力が大き過ぎる場合には、過度の圧縮応力が作用することにより、寸法精度が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0061】
本実施形態においてエージング加工を施した後、合金製素材を切断して所定の長さの合金製素材製品を得るものである。
【0062】
こうして得られた合金製素材製品は、切削加工、研削加工、ドリリング加工などの加工が行われて、光学機器部品、電機機器部品、自動車部品などに用いられるものである。
【0063】
本実施形態の合金製素材の製造方法においては、エージング前の引抜材をマイナス方向に残留応力を付与するものであるため、適度な圧縮応力が作用することにより、エージング加工時などの製造時や、製造後の切削加工時に、粒界、応力割れが発生するのを有効に防止でき、高品質の合金製素材製品を得ることができる。
【0064】
さらにマイナス方向の残留応力を適度に抑制することにより、過度の圧縮応力が作用するのを防止でき、寸法精度(円形の場合には真円度)の向上を図ることができ、より高い品質の合金製素材製品を得ることができる。
【0065】
また本実施形態においては、ロール矯正加工におけるロールによる応力(圧下量)を調整することによって、引抜材の残留応力をコントロールするようにしているため、残留応力の調整を簡単かつ的確に行うことができる。
【0066】
さらに本実施形態において、エージング後の状態で特有の残留応力に調整する場合には、上記した粒界、応力割れ防止効果や、寸法精度の向上効果を、より確実に得ることができる。
【0067】
なお上記実施形態においては、「熱間押出工程」→「焼入工程」→「引抜工程」→「ロール矯正工程」→「エージング工程」の製造手順を採用しているが、それだけに限られず、本発明においては、引抜工程を2パスで行うようにしたもの、たとえば「熱間押出工程」→「引抜工程(1パス)」→「焼入工程」→「引抜工程(2パス)」→「ロール矯正工程」→「エージング工程」の製造手順を採用することもできる。要は引抜工程後に、ロール矯正工程およびエージング工程を行う製造手順であればどのような手順のものでも採用することができる。
【実施例】
【0068】
【表1】

【0069】
<実施例1>
表1の試料No.1に示すように、Siが0.13質量%、Feが0.17質量%、Cuが5.20質量%、Znが0.28質量%、Tiが0.02質量%、Biが0.43質量%、Snが0.43質量%、残部がAlからなるPbフリーAl合金を準備した。
【0070】
この合金材料を用いて、熱間押出加工、焼入加工、引抜加工を行うことにより、引抜材を得た。続いてその引抜材に対しロール矯正加工を施して、上記リング試験方法に準拠した残留応力が、−80〜−5N/mm2 の範囲で5N/mm2 ずつ変化するように調整した直径φ17mmの引抜材サンプルを製作した。
【0071】
なお残留応力の調整は、矯正ローラによる応力(圧下荷重)を変更することにより正確に行うことができる。すなわち図8のグラフに示すように、矯正ローラによる応力とエージング前の残留応力と間には、所定の相関関係が認められるため、矯正ローラによる応力を制御することにより、引抜材の残留応力を適宜調整することができる。
【0072】
こうして得られた各引抜材サンプルに対し、エージング加工を施した後、各サンプルにおけるリング試験方法に準拠した残留応力(エージング後)を測定するとともに、切削加工を行った後の真円に対する変化率(真円度)を測定した。
【0073】
その結果を以下の表2に示す。さらにエージング後の残留応力と真円度との関係を図9のグラフに示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2および図9から理解できるように、エージング前の残留応力が−5N/mm2 以上のサンプルは、粒界割れの発生による不具合が有り、エージング前の残留応力が−5N/mm2 未満のもの(エージング後の残留応力が−1N/mm2 以下のもの)は、粒界割れの発生が認められなかった。
【0076】
また残留応力が小さくなるに従って(残留応力がマイナス方向に大きくなるに従って)、真円度が次第に低下しているのが判る。特にエージング前の残留応力が−45N/mm2 以上(エージング後の残留応力が−20N/mm2 以上)のものでは、真円度が「0.020mm」と高い精度を確保することができ、高品質の製品を確実に得ることができる。
【0077】
<実施例2>
上記表1の試料No.2に示すように、Siが0.15質量%、Feが0.26質量%、Cuが5.51質量%、Znが0.03質量%、Tiが0.04質量%、Pbが0.57質量%、Biが0.57質量%、残部がAlからなるAl合金(A2011相当合金)を準備した。
【0078】
この合金材料を用いて、熱間押出加工、焼入加工、引抜加工を行うことにより、引抜材を得た。続いてその引抜材に対しロール矯正加工を施して、上記同様にリング試験方法に準拠した残留応力を変化させて、直径φ10mmの引抜材サンプルを製作した。
【0079】
そして上記と同様に、エージング前後の残留応力と真円度との関係を求めたところ、上記と実質的に同様な結果が得られた。この結果のうちエージング後の残留応力と真円度との関係を上記図9に併せて示す。
【0080】
<実施例3>
上記表1の試料No.3に示すように、Siが0.76質量%、Feが0.35質量%、Cuが0.53質量%、Mnが0.09質量%、Mgが0.62質量%、Crが0.24質量%、Znが0.05質量%、Tiが0.03質量%、Pbが0.75質量%、Biが0.01質量%、Snが0.98質量%、残部がAlからなるAl合金(6000系合金相当)を準備した。
【0081】
この合金材料を用いて、熱間押出加工、焼入加工、引抜加工を行うことにより、引抜材を得た。続いてその引抜材に対しロール矯正加工を施して、上記同様にリング試験方法に準拠した残留応力を変化させて、直径φ20mmの引抜材サンプルを製作した。
【0082】
そして上記と同様に、エージング前後の残留応力と真円度との関係を求めたところ、上記と実質的に同様な結果が得られた。この結果のうちエージング後の残留応力と真円度との関係を上記図9に併せて示す。
【0083】
<実施例4>
上記表1の試料No.1に示すPbフリーAl合金をを用いて、熱間押出加工、焼入加工、引抜加工を行うことにより、引抜材を得た。続いてその引抜材に対しロール矯正加工を施して、上記同様にリング試験方法に準拠した残留応力を変化させて、直径φ30mmの引抜材サンプルを製作した。
【0084】
そして上記と同様に、エージング前後の残留応力と真円度との関係を求めたところ、上記と実質的に同様な結果が得られた。この結果のうちエージング後の残留応力と真円度との関係を上記図9に併せて示す。
【0085】
実施例2〜4においても、エージング前の残留応力が、−5N/mm2 以上のものは、粒界割れの発生による不具合が有り、エージング前の残留応力が−5N/mm2 未満のもの(エージング後の残留応力が−1N/mm2 以下のもの)は、粒界割れの発生が認められなかった。
【0086】
また図9から明らかなように、残留応力が小さくなるに従って(残留応力がマイナス方向に大きくなるに従って)、真円度が次第に低下しているのが判る。
【産業上の利用可能性】
【0087】
この発明の合金製素材およびその製造方法は、例えば光学機器部品、電機機器部品、自動車部品などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】この発明の実施形態でる合金製素材の製造手順を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施形態に用いられたリング試験方法を説明するための図であって、同図(a)はロール矯正された引抜材を示す斜視図、同図(b)は引抜材を切断した状態で示す斜視図である。
【図3】実施形態のリング試験方法において切込位置マークが付与されたサンプルを示す斜視図である。
【図4】実施形態のリング試験方法においてサンプルの切込前の外径を説明するための平面図である。
【図5】実施形態のリング試験方法においてサンプルの切込前の肉厚を説明するための平面図である。
【図6】実施形態のリング試験方法において切込後のサンプルを示す斜視図である。
【図7】実施形態のリング試験方法においてサンプルの切込後の外径を説明するための平面図である。
【図8】この発明に関連した実施例における矯正ローラの圧下応力とエージング前の残留応力との関係を示すグラフである。
【図9】この発明に関連した実施例におけるエージング後の残留応力と真円度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引抜加工を行ってアルミニウム合金製の引抜材を得る引抜工程と、
ロール矯正加工を行って引抜材に残留応力を付与するロール矯正工程と、
残留応力が付与された引抜材にエージング加工を行って合金製素材を得るエージング工程と、を含み、
前記ロール矯正工程において、引抜材の残留応力(リング試験による残留応力)をエージング工程前の状態で−75N/mm2 以上、−5N/mm2 未満に調整するようにしたことを特徴とする合金製素材の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム合金が快削性アルミニウムである請求項1に記載の合金製素材の製造方法。
【請求項3】
アルミニウム合金が引抜材にPb成分を含まない快削性アルミニウムである請求項1または2に記載の合金製素材の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム合金が引抜材にPb成分を含む快削性アルミニウムである請求項1または2に記載の合金製素材の製造方法。
【請求項5】
前記ロール矯正加工におけるロールによる応力を35〜220N/mm2 に設定するようにした請求項1〜4のいずれか1項に記載の合金製素材の製造方法。
【請求項6】
引抜材の残留応力をエージング工程後の状態で−50〜−1N/mm2 に調整するようにした請求項1〜5のいずれか1項に記載の合金製素材の製造方法。
【請求項7】
前記引抜工程を行う前に、
アルミニウム合金材に熱間押出加工を行って押出材を得る押出工程と、
押出材に焼入加工を行う焼入工程と、を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の合金製素材の製造方法。
【請求項8】
引抜加工を行ってアルミニウム合金製の引抜材を得る引抜工程と、
ロール矯正加工を行って引抜材に残留応力を付与するロール矯正工程と、
残留応力が付与された引抜材にエージング加工を行って合金製素材を得るエージング工程と、を含み、
前記ロール矯正工程において、ロール圧下量を35〜220N/mm2 に設定するようにしたことを特徴とする合金製素材の製造方法。
【請求項9】
引抜加工を行ってアルミニウム合金製の引抜材を得る引抜工程と、
ロール矯正加工を行って引抜材に残留応力を付与するロール矯正工程と、
残留応力が付与された引抜材にエージング加工を行って合金製素材を得るエージング工程と、を含み、
引抜材の残留応力をエージング工程後の状態で−50〜−1N/mm2 に調整するようにしたことを特徴とする合金製素材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする合金製素材。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された合金製素材を切削加工することによって得られることを特徴とする切削加工品。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって合金製素材を得る工程と、
合金製素材を切削加工することによって切削加工品を得る工程と、を含むことを特徴とする切削加工品の製造方法。
【請求項13】
エージング加工が行われるアルミニウム合金製の引抜材であって、
エージング加工前に、ロール矯正加工を行って残留応力を付与するとともに、その残留応力をエージング加工前の状態で−75N/mm2 以上、−5N/mm2 未満に調整したことを特徴とするアルミニウム合金製の引抜材。
【請求項14】
前記ロール矯正加工におけるロールによる応力を35〜220N/mm2 に設定するようにした請求項13に記載のアルミニウム合金製の引抜材。
【請求項15】
残留応力をエージング加工後の状態で−50〜−1N/mm2 に調整するようにした請求項13または14に記載のアルミニウム合金製の引抜材。
【請求項16】
エージング加工を行う前に、アルミニウム合金製の引抜材にロール矯正加工を行うようにした引抜材のロール矯正方法であって、
前記ロール矯正加工によって残留応力を付与するとともに、その残留応力をエージング加工前の状態で−75N/mm2 以上、−5N/mm2 未満に調整したことを特徴とする引抜材のロール矯正方法。
【請求項17】
前記ロール矯正加工におけるロールによる応力を35〜220N/mm2 に設定するようにした請求項16に記載の引抜材のロール矯正方法。
【請求項18】
残留応力をエージング加工後の状態で−50〜−1N/mm2 に調整するようにした請求項16または17に記載の引抜材のロール矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−14986(P2007−14986A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198997(P2005−198997)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】