説明

吊戸用振れ止め装置

【課題】吊戸扉において、開口部でのバリアフリー化を妨げることなく、下部戸先側での横振れの発生を防止して開閉操作性を良好にする振れ止め装置を提供する。
【解決手段】振れ止め装置Rは、吊戸扉P1・P2が連動して順に閉方向Xに走行して後、全閉位置に近づいて、マグネットキャッチ40が全閉位置の手前の振れ止め位置Zに至ると作動し、磁石Mの磁力で吸引して振れ止め本体30の係合片35を回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持し、その立ち上げ状態で係合片35をガイド溝14・15の戸先側溝端部14a・15aに係合し、各扉P1・P2が下部戸先側で横振れするのを防止する構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下端面にガイド溝を凹設した吊戸扉を、閉時、上部をガイドレールに係合して案内し、下部は走行ガイドをガイド溝に係合して案内しながら閉方向に走行し、全閉位置に近づいたときに下部戸先側が横振れするのを防止する吊戸用振れ止め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば連動吊戸は、図15に示すように、開口部の奥行方向に重ねて引戸扉a・bを並置し、各扉a・bの上部には、戸尻側と戸先側に吊車体1を搭載し、吊車体1の戸車1aを戸枠eの上枠部に固定したガイドレール2に係合して各扉a・bを開閉方向に走行自在に上吊りする一方、各扉a・bの下部には、下端面の長さ方向にチャンネル材3・4で補強したガイド溝3a・4aを凹設し、ガイド溝3a・4aに走行ガイドgのガイドローラ5・6を係合させて案内する構造になっている。走行ガイドgは、奥側の内扉aを案内するガイドローラ5を、仕切壁wに沿った戸袋部位dの戸先寄り床面F上に立設し、手前側の外扉bを案内するガイドローラ6を、内扉aの戸先側に固定したアングル板7の折曲片7a上に立設している。
【0003】
従って、従来の連動吊戸では、開閉時、外扉bを引いて走行させると、外扉bは、上部をガイドレール2で案内し、下部をガイドローラ6で案内して移動し、それに遅れて内扉aが連動して走行し、同様に上部をガイドレール2で案内し、下部をガイドローラ6で案内して移動するようになっている。
【特許文献1】特開平4−68183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の連動吊戸では、各扉a・bの上部側は、ガイドレール2に対し長さ方向戸先側と戸尻側の2点において戸車1aを係合させて案内するが、下部側は、ガイド溝3a・4aに対して長さ方向片側の1点においてガイドローラ5・6を係合させて案内する構造である。従って、特に閉時、各扉a・bが連動して順次に走行して後、全閉位置に近づいたときに、図16中鎖線で示すように、各扉a・bの下部側が、最も戸尻側で固定のガイドローラ5を基点として大きく横振れを起し、その結果、吊戸の開閉操作性が極めて悪いという問題があった。
【0005】
そこで、従来、他の吊戸の中に、図示省略するが、扉の下部にも戸車を枢支する一方、床面上には、扉用の走行路(敷居部)上にガイドレールを敷設し、このガイドレールの凹溝に戸車を係合させて、扉の下部戸先側が横振れしないように案内する構造にしたものがある。
【0006】
しかし、この従来の吊戸では、敷居部上にレール用の長溝を凹設し、そこにガイドレールを敷設する構造になるが、これでは、床面上にガイドレールが突出し、その段差が車椅子等の通行の障害になるなど、バリアフリー化の障害になるという課題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、吊戸扉において、開口部でのバリアフリー化を妨げることなく、下部戸先側での横振れの発生を防止して開閉操作性を良好にする振れ止め装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため、上述した課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、たとえば以下に示す実施の形態のとおり、下部の端面にガイド溝を長さ方向に凹設した吊戸扉を、その上部をガイドレールに係合して開閉方向に走行自在に上吊りする一方、下部は走行ガイドを前記ガイド溝に係合し、閉時、上部を前記ガイドレールで案内し、下部は前記走行ガイドで案内して閉方向に走行する吊戸構造体において、吊戸扉が全閉位置に近づいたとき、下部の戸先側が前記ガイド溝の戸尻側で係合した前記走行ガイドを支点として横振れするのを防止する吊戸用振れ止め装置であって、床側に設置する振れ止め本体と、扉側に付設するマグネットキャッチとからなり、前記振れ止め本体は、開口部下方の床面に穿設した取付凹部に嵌着する収納ケースと、該収納ケースの収納凹部内に基端部を枢支して回動自在に連結して起伏自在に収納する磁性体の係合片を備え、閉時に吊戸扉が走行する軌動下の床面上にあって、横振れを起す全閉位置の手前の振れ止め位置に、前記係合片の先端部を閉方向戸尻側に向けて1個設置する一方、前記マグネットキャッチは、前記ガイド溝に嵌め込み可能な薄箱状をなし、前記ガイド溝の閉方向戸先側溝端部に嵌着する木口キャップと、該木口キャップ内に組み込み、閉時、横振れを起す前記振れ止め位置に至ると、前記係合片を吸引して回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持する磁石とを備えてなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の吊戸用振れ止め装置において、たとえば以下に示す図示実施の形態のとおり、前記吊戸構造体が、下部の端面に前記ガイド溝14・15を凹設した複数枚の前記吊戸扉を、開口部の奥行方向に並置すると共に各扉の上部を前記ガイドレールL1・L2で走行自在に上吊りする一方、各扉P1・P2の下部は前記ガイド溝14・15にそれぞれ前記走行ガイドGを係合し、閉時、最も手前の外扉P2を移動させると、それに遅れて順次奥側の内扉P1を連動して走行する連動式吊戸構造体からなり、該連動式吊戸構造体において、前記振れ止め本体30は、閉時に各扉P1・P2が走行する軌動下の床面F上にあって、横振れを起す全閉位置の手前の各振れ止め位置Zに、前記係合片35の先端部を閉方向戸尻側に向けて1個ずつ設置する一方、前記マグネットキャッチ40は、各扉P1・P2に有する前記ガイド溝14・15の閉方向戸先側溝端部14a・15aに嵌着し、閉時、横振れを起す前記振れ止め位置Zに至ると、それぞれ前記磁石Mで前記係合片35を吸引して回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持してなることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の吊戸用振れ止め装置において、たとえば以下に示す図示実施の形態のとおり、前記マグネットキャッチ40は、前記ガイド溝14・15の溝形状に合わせて全体を薄箱状に形成し、一端に前記ガイド溝14・15の溝端部より若干幅広且つ縦長で外縁が鍔状に延びる蓋板部50aを設け、扉の戸先側から前記ガイド溝14・15の戸先側溝端部14a・15aに嵌め込んで固着し、戸先側溝端部14a・15aを前記蓋板部50aで覆って前記ガイド溝14・15の化粧用エンドキャップとして兼用してなることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1、2又は3に記載の吊戸用振れ止め装置において、たとえば以下に示す図示実施の形態のとおり、前記磁石Mを、強磁性で以って前記係合片35を磁着する戸先側の磁石、例えば磁石m1と、磁着した前記係合片35を間に挟んで立ち上げると共に両側から立ち上げ状態を磁着保持する戸尻側の一対の磁石、例えば磁石m3・m3とで構成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、閉時、吊戸が閉方向に走行して後、全閉位置に近づいて、マグネットキャッチが全閉位置の手前の振れ止め位置に至ると、振れ止め装置が作動し、磁石の磁力で吸引して振れ止め本体の係合片を回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持し、その立ち上げ状態で係合片をガイド溝の戸先側溝端部に係合し、これにより、吊戸が下部戸先側で横振れするのを防止して吊戸の開閉操作性を良好にすることができる。
【0013】
更に、請求項1に記載の発明によれば、係合片は、床面下に凹設する収納ケースに上下に昇降自在に収納する構造ではなく、収納ケースの収納凹部内に基端部を枢支して回動自在に連結し、振れ止め時は、磁石の磁力で回動して鉛直に立ち上げてガイド溝の戸先側溝端部に係合させることにより吊戸の横振れを防止する構成であるため、上下移動長さを確保すべく床面下に十分な深さが必要になるなど、振れ止め本体を凹設する床構造に制限を受けることがなく、従って、最近、特に普及している、床スラブ上に床材を直接貼り付ける直貼りフロアなどであっても、そのまま設置して適用することができる。なお、床側に設置の振れ止め本体は、収納ケースを床面に凹設した取付凹部に嵌着し、係合片は、床面下に凹設する収納ケースの収納凹部内に基端部を枢支して回動自在に連結して起伏自在に収納し、振れ止め時以外の常時は、収納ケース内に収納状態にあることから、振れ止め本体が床面上に突出することがなく、開口部でのバリアフリー化の要請にも併せて応えることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、連動吊戸にあっても、閉時、各扉が連動して順に閉方向に走行して後、全閉位置に近づいて、マグネットキャッチが全閉位置の手前の振れ止め位置に至ると、振れ止め装置が作動し、磁石の磁力で吸引して振れ止め本体の係合片を回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持し、その立ち上げ状態で係合片をガイド溝の戸先側溝端部に係合し、これにより、各扉が下部戸先側で横振れするのを防止して連動吊戸の開閉操作性を良好にすることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、マグネットキャッチは、扉の戸先側からガイド溝の戸先側溝端部に嵌め込んで固着し、戸先側溝端部を蓋板部で覆ってガイド溝の化粧用エンドキャップとして兼用し、これにより、別途に専用の化粧用エンドキャップを使用する必要がなく、吊戸の振れ止め効果とガイド溝の戸先側溝端部の化粧効果を併せて奏することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、吊戸の閉時、マグネットキャッチが振れ止め本体上の振れ止め位置に至ると、戸先側の磁石の強磁性によって係合片を吸引して回動させて起き上げることによりマグネットキャッチに確実に当てて磁着することができ、戸尻側の磁石で両側から磁力を及ぼすことにより係合片を確実に鉛直に立ち上げると共に立ち上げ状態をそのまま確実に磁着保持することができ、その結果、鉛直な立ち上げ状態の係合片をガイド溝の戸先側溝端部に係合することにより、各扉を、下部戸先側で横振れするのを確実に且つ効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1は本発明の吊戸用振れ止め装置を適用した連動式吊戸構造体を全閉状態で示す正面図、図2は吊戸構造体を全閉状態で示す斜視図、図3は吊戸構造体の縦断面図、図4は吊戸構造体を全開状態で示す斜視図、図5は吊戸構造体を全開状態で示す正面図である。図示例の吊戸構造体は、例えば建物・建具・家具・クローゼット・物置などの開口部の開閉に使用される連動式吊戸構造体で、横長矩形な戸枠Cと、戸枠C内で開口部の奥行方向最も奥側に立設した仕切壁Wと、仕切壁Wの奥行方向手前側に並置した内扉P1および外扉P2と、内扉P1と外扉P2の上部をそれぞれ図中左右の開閉方向に案内するガイドレールL1・L2と、内扉P1と外扉P2の下部をそれぞれ開閉方向に案内する走行ガイドGとで構成されている。
【0019】
戸枠Cは、例えば木製で、床面F上に立設した図中左右の縦枠10・11と、縦枠10・11間に横架した天井側の上枠12とからなる。上枠12にガイドローラL1・L2を互いに平行に固定し、各々の係合部に戸車を係合させて各扉P1・P2をガイドレールL1・L2に懸架して上吊りしている。また、各扉P1・P1は、いずれも矩形パネル状をなす木製の引戸扉で、下端面の長さ方向にガイド溝14・15を凹設し、ガイド溝14・15に断面コ形のチャネル材16を嵌着して溝壁を補強している。一方、各扉P1・P2の上端面には、戸先側と戸尻側に戸車を枢支した吊車体17・17を搭載している。他方、奥側の内扉P1の上端面には、更に、吊車体17・17を間に挟んだ両端に滑車19・19を横向きに軸支し、滑車19・19間に有端状のワイヤー20を巻き回し、ワイヤー20の両端を仕切壁Wに固着したワイヤーリングに係着する一方、反対側の直線部分を外扉P2の上端面に取り付けた連結腕18に係着して両扉P1・P2をワイヤー20で連動可能に連結している。
【0020】
走行ガイドGは、内扉P1のガイド溝14および仕切壁Wの横で床面F上に立設する係合体21とで構成する第1ガイドG1と、外扉P2のガイド溝15および内扉P1の外扉P2と対向する外側板面13に固定する係合体22とで構成する第2ガイドG2とからなる。係合体21は、図6(A)および図7に示すように、取付プレート23上に立設した支軸24の先端にガイドローラ25を回転自在に枢着してなり、取付プレート23を仕切壁Wの横で戸先寄りの床面Fにねじ止めする。係合体22は、図6(B)および図7に示すように、アングル板26の折曲横板部26a上に立設した支軸27の先端にガイドローラ29を回転自在に枢着してなり、縦板部26bを内扉P1の外側板面13の下部戸先側にねじ止めする。そこで、第1ガイドG1において、内扉P1は、図3に示すように、下部のガイド溝14にガイドローラ25を係合させる一方、上部で戸車をガイドレールL1に係合させて開閉方向に走行自在に上吊りし、第2ガイドG2において、外扉P2は、下部のガイド溝15にガイドローラ29を係合させる一方。上部で戸車をガイドレールL2に係合させて開閉方向に走行自在に上吊りしてなる。
【0021】
従って、図示例の連動式吊戸構造体では、例えば閉時、外扉P2を引いて移動させると、上部は戸車が係合したガイドレールL2の案内で、下部はガイド溝15に係合したガイドローラ29の案内で閉方向に走行し、それに従いワイヤー20が回動し、すると、そのワイヤー20に引っ張られて隣の内扉P1が連動し、同じ閉方向に少し遅れて移動し、図1および図2に示すように、上部は戸車が係合したガイドレールL1の案内で、下部はガイド溝14に係合したガイドローラ25の案内で閉方向Xへと走行する。かかる閉時、両扉P1・P2が順次走行して全閉位置に近づいたとき、下部側が、最も戸尻側で固定のガイドローラ25を基点として横振れを起しやすい。そこで、本発明は、連動吊戸の両扉P1・P2が閉方向に走行するとき、下部戸先側が横振れする地点が、そのように全閉位置の手前であることから、その地点を振れ止め位置とし、その振れ止め位置で両扉P1・P2の横振れを規制する振れ止め装置Rを備える。
【0022】
振れ止め装置Rは、図示例では、連動吊戸の内扉P1用と外扉P2用に備え、それぞれ床側に設置する振れ止め本体30と扉側に付設するマグネットキャッチ40とからなる。
【0023】
振れ止め本体30は、図8、図9および図10に示すように、収納ケース34と、収納ケース34に収納する係合片35と、係合片35と収納ケース34間に差し込むスペーサ36とからなる。収納ケース34は、金属製、例えばスチール製で上側開放の細長い浅底キャップ状をなし、開口周縁にはフランジ部34aを外向きに延設し、胴周部34bには、その片側を横断する軸穴31を設けてなる。係合片35は、本体の鞘体32と、鞘体32内に差し込んで組み付ける消音部材33とからなる。鞘体32は、磁性体、例えば鉄製で、消音部材33と対応する形状の差込穴37を備えた細長薄管状に形成し、基端部に差込穴37を横断する軸穴38を設ける一方、先端部の開口縁を一部切り欠いて係合凹部32aを設けてなる。消音部材33は、弾性材料、例えば樹脂材料からなり、細長な差込板部33aの基端部に軸穴39をあける一方、先端部に、突端が鍔状の消音カラー部33bを突設してなる。そこで、差込板部33aを差込穴37に差し込み、消音カラー部33bを係合凹部32aに係合させて、消音カラー33bを突出状態にして鞘体32に消音部材33を嵌着し、係合片35を組み立ててなる。
【0024】
スペーサ36は、樹脂製で、外周面側を収納ケース34の凹形状に合わせて成形する一方、内周面側を係合片35の外形状に合わせて成形して全体をU形に屈曲した板状に形成し、対向板部36a・36aには、向い合う内周面に止めねじ41の逃げ凹部36bを設けると共に屈曲部36c近くに対向板部36a・36aを横断する軸穴42を設けてなる。
【0025】
そこで、振れ止め本体30は、収納ケース34の収納凹部34c内にスペーサ36を嵌め込み、スペーサ36の対向板部36a・36a間に係合片35を差し込み、連通した軸穴31・38・42に枢軸43を貫挿し、これにより、図8に示すように、係合片35の基端部を枢軸43で枢支して係合片35を収納ケース34に回動自在に連結し、収納凹部34c内に起伏自在に収納して組み立ててなる。従って、かかる構造の振れ止め本体30は、図4および図5に示すように、係合片35を収納ケース34内に倒した収納状態とし、各扉P1・P2が走行する軌動下の床面F上にあって横振れを起す全閉位置の手前の各振れ止め位置Zに、1個ずつ設置する。
【0026】
設置時、振れ止め本体30は、床面F上の内扉P1と外扉P2の各振れ止め位置Zに予め凹設した取付凹部43・44に、係合片35の先端部を戸尻側に向けて収納ケース34を嵌め込んでから、図8および図9に示すように、いったん係合片35を起こした状態とし、止めねじ41をスペーサ36の逃げ凹部36bに通して捩じ込んで固定する。
【0027】
振れ止め装置Rでは、このように振れ止め本体30を設置するときは、係合片35を収納ケース34から起こしてスペーサ36の逃げ凹部36bを開放し、その逃げ凹部36bの空間を利用すれば、収納ケース34内に止めねじ41を簡単に通して捩じ込むことができ、その結果、振れ止め本体30を手間なく且つ精度よく床側に固着することができる。
【0028】
しかる後、係合片35を倒して収納ケース34内に収納し、振れ止め待機状態にして振れ止め本体30の設置を完了する。かかる振れ止め待機時の間は、振れ止め本体30は、係合片35を倒して収納ケース34内に収納すると、両者間はその間に介在するスペーサ36で隙間のない密接状態になるため、係合片35と収納ケース34と間から塵や埃等の異物が侵入することがなく、その結果、異物が原因で係合片35の回動起伏動作が阻害されるなどの弊害の発生を防止することができる。
【0029】
一方、マグネットキャッチ40は、図6および図7(B)・(C)に示すように、磁石Mと、磁石Mを内設する木口キャップ45とからなる。図示例の磁石Mは、図11および図12に示すように、略立方体をなす強磁性の第1の磁石m1と、細長矩形の厚板状をなす第2の磁石m2と、扁平な略正方形の板片状をなす一対の第3の磁石m3・m3とからなる。
【0030】
木口キャップ45は、樹脂製のキャップ本体50と、略台形板状をなす金属製の蓋55とからなる。キャップ本体50は、図11および図12に示すように、各扉P1・P2のガイド溝14・15の溝形状に合わせて全体を薄箱状に形成し、図中左右の長さ方向の一端に、ガイド溝14・15の溝端部より若干幅広且つ縦長で外縁を鍔状に延ばした蓋板部50aを設ける一方、他端側において図中上下の幅方向一側に取付凸部50bを突設し、幅方向他側の底部において一端寄りに、係合片35の受け凹部50cを凹設している。
【0031】
更に、キャップ本体50には、磁石M(m1・m2・m3)用の取付部60を凹設している。取付部60は、受け凹部50cの上側で厚さ方向片側の板面を一部、蓋55の外形状に合わせて切り欠き、更に厚さ方向に深く第1の磁石m1に合わせて略立方体の凹所を穿設して第1取付部60aを形成し、第1取付部60aの長さ方向他端側に、斜め図中上向きに第2の磁石m2に合わせて細長矩形な厚板状の凹所を穿設して第2取付部60bを形成し、取付凸部50bの幅方向他側に第3取付部60cを形成してなる。また、キャップ本体50には、受け凹部50cの長さ方向他端側から、第2取付部60bの底面に沿って斜め上向きに底部を一部切り欠いて、係合片35の厚さに合わせて幅狭な差込ガイド穴65を穿設し、差込ガイド穴65を間に挟んだ両側に一対の保持板部50d・50dを形成し、保持板部50d・50dに、第3の磁石m3・m3に合わせて扁平な略正方形の板穴を穿設し、そこに第3取付部60c・60cを形成してなる。こうして長さ方向一端から他端に順に、第1取付部60a、第2取付部60bおよび第3取付部60cを配設してなる。なお、取付部60には、第1および第2取付部60a・60bの幅方向上側に、一段それらより浅い嵌付凹部60dを形成し、嵌付凹部60dに円柱状の小突起61を突設してなる。
【0032】
マグネットキャッチ40は、取付部60において、第1取付部60aに第1の磁石m1を嵌め込み、第2取付部60bに第2の磁石m2を嵌め込み、嵌付凹部60dの小突起61をカシメ穴62に通して蓋55を取付部60に嵌着してから、突出した小突起61の頭部を潰して蓋55をキャッチ本体50に締着し、蓋55で押えて第1おとび第2の磁石m1・m2を第1および第2取付部60a・60bに組み込む。また、第3の磁石m3・m3を、それぞれ板穴に差し込んで接着等で第3取付部60c・60cに取り付けて、図13に示すようにマグネットキャッチ40を組み立ててなる。
【0033】
そこで、マグネットキャッチ40は、図7に示すように、1個ずつ、内扉P1と外扉P2の戸先側から、それぞれガイド溝14・15の戸先側溝端部14a・15a内に、溝縁を蓋板部50aの鍔状部分に突き当てた状態で嵌め込み、止めねじ70を取付凸部50bのねじ穴44に捩じ込んで戸先側溝端部14a・15aに固着する。これにより、蓋板部50aで戸先側溝端部14a・15aを覆ってガイド溝14・15の化粧用エンドキャップとして兼用する。なお、図示省略するが、ガイド溝14・15の戸尻側溝端部は、マグネットキャッチ40と同様な外形状の専用エンドキャップを嵌め込んで塞いでいる。かかるマグネットキャッチ40は、ガイド溝14・15の戸先側溝端部14a・15aにおいて、第1、第2および第3取付部60a・60b・60cに磁石M(m1・m2・m3)を取り付け、第1の磁石m1を最も戸先側に、それより戸尻側に第2の磁石m2と第3の磁石m3を順に配列して内設してなる。
【0034】
さて、上述した構成の吊戸構造体では、閉時、全開状態の外扉P2を引いて閉方向Xに移動させると、走行ガイドGにおいて、上部は戸車が係合したガイドレールL2の案内で、下部はガイド溝15に係合したガイドローラ29の案内で外扉P2が走行し、それに従いワイヤー20が回動すると、そのワイヤー20に引っ張られて隣の内扉P1が連動し、少し遅れて同じ閉方向Xに移動し、上部は戸車が係合したガイドレールL1の案内で、下部はガイド溝14に係合したガイドローラ25の案内で閉方向へと走行する。こうして各扉P1・P2が順に、図14(1)に示すように閉方向Xに走行して後、全閉位置に近づいて、図14(2)に示すように、マグネットキャッチ40が振れ止め本体30上の振れ止め位置Zに至ると、本発明の振れ止め装置Rが作動し、第1の磁石m1の強磁性に基づいて吸引して係合片35を回動して起こし、先端部を受け凹部50cに突き当てて斜めに磁着し、更に各扉P1・P2の移動に従い、図14(3)に示すように、第2の磁石m2による斜め上向きの磁力で吸引し、係合片35を差込ガイド穴65に通して斜めに引き上げながら、保持板部50d・50d間へと導き、それから、各扉P1・P2の更なる移動に従い、係合片35を、保持板部50d・50d間に係合し、図14(4)に示すように、第3の磁石m3・m3で吸引して更に回動させながら鉛直に立ち上げ、そのまま第3の磁石m3・m3間に挟んで係合片35の鉛直な立ち上げ状態を磁着保持する。従って、各扉P1・P2は、全閉位置の手前の振れ止め位置Zにおいて、マグネットキャッチ40の第3の磁石m3・m3で振れ止め本体30の係合片35を挟んで鉛直な立ち上げ状態に磁着保持し、該係合片35がガイド溝14・15の戸先側溝端部14a・15aに係合することにより、下部戸先側で横振れすることなく全閉する。
【0035】
振れ止め装置Rでは、係合片35には、図9(B)に示すように、先端部に弾性材からなる凸状の消音カラー部33aを備えるため、閉時、振れ止め位置Zで第1の磁石m1が係合片35を吸引して回動させると、起き上がる係合片35の先端部が消音カラー部33aを介してマグネットキャッチ40の受け凹部50cに突き当たり、その結果、係合片35が受け凹部50cに突き当たるたびに騒々しい衝突音が発生するのを防止することができ、ひいては、連動吊戸の使い心地を良好にすることができる。
【0036】
更に、振れ止め装置Rは、図11および図12に示すように、磁石Mを、強磁性で以って係合片35を磁着する第1の磁石m1と、磁着した係合片35を斜めに引き上げる第2の磁石m2と、間に係合片35を挟んで立ち上げると共に両側から立ち上げ状態を磁着保持する一対の第3の磁石m3・m3とで構成し、第1の磁石m1を最も戸先側に、それより戸尻側に第2の磁石m2と第3の磁石m3の順に配列してマグネットキャッチ40の第1、第2および第3取付部60a・60b・60cに内設しているため、閉時、図14に示すように、マグネットキャッチ40が振れ止め本体30上の振れ止め位置に至ると、第1の磁石m1の強磁性に基づき係合片35を吸引して回動させて起き上げることにより受け凹部50cに確実に当てて磁着することができ、次いで、第2の磁石m2の斜め上向きの磁力に基づき係合片35を斜めに引き上げて第3の磁石m3・m3間へ確実に導くことができ、それから、第3の磁石m3・m3で両側から磁力を及ぼすことにより係合片35を確実に鉛直に立ち上げると共に立ち上げ状態をそのまま確実に磁着保持することができ、その結果、マグネットキャッチ40で鉛直な立ち上げ状態に磁着保持した係合片35をガイド溝14・15の戸先側溝端部14a・15aに係合することにより、各扉P1・P2を、下部戸先側で横振れするのを確実に且つ効果的に防止することができる。
【0037】
ところで、以上の図示実施の形態では、本発明の振れ止め装置Rを、吊戸が2枚の二連式吊戸の吊戸構造体に適用した例を示したが、本発明の振れ止め装置は、吊戸を3枚以上並置した連動吊戸の構造体にも、そのまま適用することができる。一方、本発明の振れ止め装置は、そのような吊戸が複数枚の連動式吊戸構造体に限らず、吊戸が1枚の通常の吊戸構造体にも、そのまま適用することができる。従って、吊戸が1枚の吊戸構造体に、例えば本発明の振れ止め装置Rを適用する場合、振れ止め本体30は、閉時に吊戸が走行する軌動下の床面F上にあって、横振れを起す全閉位置の手前の振れ止め位置Zに、係合片35の先端部を閉方向戸尻側に向けて1個設置する。一方、マグネットキャッチ40は、当該吊戸に有する前記ガイド溝14・15の閉方向戸先側溝端部14a・15aに嵌着し、閉時、横振れを起す振れ止め位置Zに至ると、磁石Mで係合片35を吸引して回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持するように構成する。
【0038】
更に、以上の図示実施の形態では、磁石Mを、第1の磁石m1、第2の磁石m2および第3の磁石m3・m3で構成したが、本発明の振れ止め装置では、閉時、横振れを起す振れ止め位置に至ると、係合片を吸引して回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持する限り、そのための磁石Mは1個以上であればよい。例えば3個の磁石を用いて磁石Mを構成する場合は、強磁性で以って係合片35を磁着する磁石を戸先側に配置し、磁着した係合片35を間に挟んで立ち上げると共に両側から立ち上げ状態を磁着保持する一対の磁石を戸尻側に配置してマグネットキャッチ40に内設する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一例である吊戸用振れ止め装置を適用した連動式吊戸構造体を全閉状態で示す正面図である。
【図2】吊戸構造体を全閉状態で示す斜視図ある。
【図3】吊戸構造体の縦断面図である。
【図4】吊戸構造体を全開状態で示す斜視図である。
【図5】吊戸構造体を全開状態で示す正面図である。
【図6】図2中A・B・C方向から見て示す部分拡大斜視図である。
【図7】図4中D方向から見て示す部分拡大斜視図である。
【図8】振れ止め本体の斜視図である。
【図9】(A)は振れ止め本体の側面図、(B)は平面図である。
【図10】振れ止め本体の分解斜視図である。
【図11】マグネットキャッチを一方向から見て示す分解斜視図である。
【図12】マグネットキャッチを他方向から見て示す分解斜視図である。
【図13】マグネットキャッチの組立斜視図である。
【図14】振れ止め装置の振れ止め動作を段階的に分けて示す作動説明図である。
【図15】従来の連動吊戸を示す縦断面図である。
【図16】従来の連動吊戸における横振れ状態を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0040】
G 走行ガイド
L1・L2 ガイドレール
P1 内扉
P2 外扉
M 磁石
m1 第1の磁石
m2 第2の磁石
m3 第3の磁石
R 振れ止め装置
14・15 ガイド溝
25・29 ガイドローラ
30 振れ止め本体
33 消音部材
33a 消音カラー部
34 収納ケース
35 係合片
36 スペーサ
36b 逃げ凹部
40 マグネットキャッチ
45 木口キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部の端面にガイド溝を長さ方向に凹設した吊戸扉を、その上部をガイドレールに係合して開閉方向に走行自在に上吊りする一方、下部は走行ガイドを前記ガイド溝に係合し、閉時、上部を前記ガイドレールで案内し、下部は前記走行ガイドで案内して閉方向に走行する吊戸構造体において、吊戸扉が全閉位置に近づいたとき、下部の戸先側が前記ガイド溝の戸尻側で係合した前記走行ガイドを支点として横振れするのを防止する吊戸用振れ止め装置であって、
床側に設置する振れ止め本体と、扉側に付設するマグネットキャッチとからなり、
前記振れ止め本体は、
開口部下方の床面に穿設した取付凹部に嵌着する収納ケースと、
該収納ケースの収納凹部内に基端部を枢支して回動自在に連結して起伏自在に収納する磁性体の係合片を備え、
閉時に吊戸扉が走行する軌動下の床面上にあって、横振れを起す全閉位置の手前の振れ止め位置に、前記係合片の先端部を閉方向戸尻側に向けて1個設置する一方、
前記マグネットキャッチは、
前記ガイド溝に嵌め込み可能な薄箱状をなし、前記ガイド溝の閉方向戸先側溝端部に嵌着する木口キャップと、
該木口キャップ内に組み込み、閉時、横振れを起す前記振れ止め位置に至ると、前記係合片を吸引して回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持する磁石とを備えてなることを特徴とする、吊戸用振れ止め装置。
【請求項2】
前記吊戸構造体が、下部の端面に前記ガイド溝を凹設した複数枚の前記吊戸扉を、開口部の奥行方向に並置すると共に各扉の上部を前記ガイドレールで走行自在に上吊りする一方、各扉の下部は前記ガイド溝にそれぞれ前記走行ガイドを係合し、閉時、最も手前の外扉を移動させると、それに遅れて順次奥側の内扉を連動して走行する連動式吊戸構造体からなり、
該連動式吊戸構造体において、
前記振れ止め本体は、閉時に各扉が走行する軌動下の床面上にあって、横振れを起す全閉位置の手前の各振れ止め位置に、前記係合片の先端部を閉方向戸尻側に向けて1個ずつ設置する一方、
前記マグネットキャッチは、各扉に有する前記ガイド溝の閉方向戸先側溝端部に嵌着し、閉時、横振れを起す前記振れ止め位置に至ると、それぞれ前記磁石で前記係合片を吸引して回動して鉛直な立ち上げ状態に磁着保持してなることを特徴とする、請求項1に記載の吊戸用振れ止め装置。
【請求項3】
前記マグネットキャッチは、前記ガイド溝の溝形状に合わせて全体を薄箱状に形成し、一端に前記ガイド溝の溝端部より若干幅広且つ縦長で外縁が鍔状に延びる蓋板部を設け、扉の戸先側から前記ガイド溝の戸先側溝端部に嵌め込んで固着し、戸先側溝端部を前記蓋板部で覆って前記ガイド溝の化粧用エンドキャップとして兼用してなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吊戸用振れ止め装置。
【請求項4】
前記磁石を、強磁性で以って前記係合片を磁着する戸先側の磁石と、磁着した前記係合片を間に挟んで立ち上げると共に両側から立ち上げ状態を磁着保持する戸尻側の一対の磁石とで構成してなることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の吊戸用振れ止め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−106444(P2010−106444A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276554(P2008−276554)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(592114703)株式会社ベスト (69)
【Fターム(参考)】