説明

吐出素子基板の製造方法

【課題】本発明の目的は、基板内を貫通する供給口の底部にフィルタ構造を精度良く形成できる吐出素子基板の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、液体を吐出する吐出口及び該吐出口に連通する液体流路を有する流路形成部材と、前記液体流路に前記液体を供給する供給口を有する基板と、を備え、前記供給口の底部にフィルタ構造を有する吐出素子基板の製造方法であって、(1)前記基板の前記流路形成部材が配置される側の第一の面と反対側の第二の面から反応性イオンエッチングを行って貫通口を形成することにより前記供給口を形成する工程と、(2)前記供給口の側面及び底部に樹脂保護膜を配置する工程と、(3)前記供給口の底部の前記樹脂保護膜に前記第二の面側からのレーザー加工によって微細口を形成する工程と、を有することを特徴とする吐出素子基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する吐出素子基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録ヘッドの吐出素子基板は、インクを吐出する吐出口と、吐出素子基板にインクを供給するインク供給口と、インク供給口及び吐出口に連通するインク流路と、を基本構造として有する。
【0003】
吐出素子基板の製造にはポイントになる部分がいくつかある。そのポイントの1つは型材を用いてインク流路を形成する点である。また、そのポイントの1つは、基板をエッチングして貫通孔としてのインク供給口を形成する点である。
【0004】
インク供給口はインクと接するためインクに対する耐性を確保する必要がある。そのため、表面の結晶方位が(100)面のシリコン基板に結晶異方性エッチングを用いてインク供給口を形成する方法が用いられている。しかし、この方法ではシリコン基板の平面に対して54.7°という角度をなすインク供給口が形成されるため、インク供給口の開口幅が大きくなってしまう場合がある。
【0005】
このインク耐性とインク供給口幅の問題を解決する方法として、特許文献1に記載されるように、供給口をDeep−RIE法を用いて形成し、供給口内部に保護膜を形成する方法が提案されている。
【0006】
また、インクジェット記録ヘッドは、近年、高画質化の要求に対して小液滴化を実現する手段が提案されており、特許文献に記載されるように、フィルタ構造を形成した形態が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−202401号公報
【特許文献2】特開2006−035853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インク耐性をもつ有機保護膜を内壁に有するインク供給口において基板の小型化を目指すと、特許文献1に記載のようにインク供給口の側壁を垂直に形成することが望ましい。その構造においてインク供給口にフィルタ構造をフォトリソグラフィのパターニング技術によって形成することを考えた場合、型材によってインク流路を形成している観点から、インク供給口は裏面から形成することになり、インク供給口の位置精度は裏面基準になることが一般的である。
【0009】
しかしながら、特許文献2のようなフィルタ構造は、表面側からのパターニングによって形成されるため、裏面基準のインク供給口と合わせる形となり、高精度にお互いを位置合わせし難い場合がある。
【0010】
そのため、高精度にフィルタ構造を形成するためには、裏面から形成されるインク供給口の形状に合わせて同様に裏面からフィルタ構造をパターニングすることが望ましい。しかし、その場合、高アスペクト比の形状に対するパターニングとなるため、フォトリソグラフィによるパターニングでは、段差部に有利なスプレー塗布法を用いたとしても、側壁部にレジストが塗布できず、カバレージ不良が発生する場合がある。また、底部はレジストが溜まり易くなるため、レジストは規定膜厚より厚くなり、パターニング不良が発生する場合がある。また、露光においても、焦点深度の高い等倍露光を用いてもフォーカス合わせが困難であり、段差部の不要な反射が発生し、露光不良となる場合がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、基板内を貫通する供給口の底部にフィルタ構造を精度良く形成できる吐出素子基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
液体を吐出する吐出口及び該吐出口に連通する液体流路を有する流路形成部材と、前記液体流路に前記液体を供給する供給口を有する基板と、を備え、前記供給口の底部にフィルタ構造を有する吐出素子基板の製造方法であって、
(1)前記基板の前記流路形成部材が配置される側の第一の面と反対側の第二の面から反応性イオンエッチングを行って貫通口を形成することにより前記供給口を形成する工程と、
(2)前記供給口の側面及び底部に樹脂保護膜を配置する工程と、
(3)前記供給口の底部の前記樹脂保護膜に前記第二の面側からのレーザー加工によって微細口を形成する工程と、
を有することを特徴とする吐出素子基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高画質化を達成すためのフィルタ構造を精度良く形成することができ、吐出素子基板の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】供給口の底部にフィルタ構造を有する吐出素子基板の構成を示す概略斜視図である。
【図2】1実施形態の製造方法を示す概略工程図である。
【図3】第2実施形態の製造方法を示す概略工程図である。
【図4】第3実施形態の製造方法を示す概略工程図である。
【図5】第4実施形態の製造方法を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、液体を吐出する吐出口及び該吐出口に連通する液体流路を有する流路形成部材と、前記液体流路に前記液体を供給する供給口を有する基板と、を備え、前記供給口の底部にフィルタ構造を有する吐出素子基板の製造方法に関する。
【0016】
まず、基板の流路形成部材が配置される側の第一の面と反対側の第二の面から反応性イオンエッチングを行って貫通口を形成することにより前記供給口を形成する。
【0017】
次に、供給口の側面及び底部に樹脂保護膜を配置する。この際、CVD法を用いて樹脂保護膜を形成することが好ましい。
【0018】
次に、供給口の底部の樹脂保護膜に第二の面側からのレーザー加工によって微細口を形成する。
【0019】
以上の工程により、供給口の底部にフィルタ構造を有する吐出素子基板を精度良く形成することができる。
【0020】
また、基板としては、第一の面に表面層を有するものを用いることができる。該表面層は、基板の表面側に形成される層を指し、特に制限されるものではない。表面層としては、例えば、後述するように、液体流路の型材や層間絶縁膜、導電層等が挙げられる。
【0021】
表面層を有する基板を用いる場合、第二の面から反応性イオンエッチングを表面層に到達するまで行うことにより、基板に供給口を形成することができる。続いて、供給口の側面及び供給口の底部に露出する表面層に樹脂保護膜を形成し、供給口の底部の樹脂保護膜に微細口を形成することにより、フィルタ構造を形成すればよい。
【0022】
以下、本発明について実施形態や実施例を用いて説明する。なお、以下の説明では、本発明の適用例としてインクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、バイオッチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッド等にも適用できる。液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等も挙げられる。
【0023】
図1は本発明の製造方法によって得られる吐出素子基板の構成例を示す概略斜視図である。図1において、吐出素子基板はインクの吐出口を上向きに示している。なお、本明細書において、吐出口が形成される面側を上側とし、その反対側、つまりインク供給口が形成される面側を下側とする。
【0024】
図1において、吐出素子基板は、基板2と、該基板2の上に形成された流路形成部材3とからなる。流路形成部材3は、上面にインク吐出口4を有し、該インク吐出口4に連通するインク流路25を基板2とともに構成する。基板2は、インク流路25にインクを供給するための貫通孔としてインク供給口5を有する。インク供給口5の側壁は基板面にほぼ垂直に形成されている。インク供給口5の流路形成部材3が配置される側の開口には微細口を有する樹脂部材21が配置され、この微細口を有する樹脂部材21がフィルタとして機能し、インクに含まれる不純物を除去することができる。樹脂部材21は、インク供給口5の側壁及び基板2の裏面にも配置されている。なお、本明細書において、基板2の吐出素子基板が配置される側の面を表面(第一の面とも称す)とし、基板2の吐出素子基板が配置される側の面と反対側の面を裏面(第二の面とも称す)とする。
【0025】
吐出素子基板を備えるインクジェット記録ヘッドは、エネルギー発生素子1から発生したエネルギーによってインクをインク吐出口4から吐出し、記録媒体に着弾させることにより印字を行う。インクはインク供給口5から吐出素子基板内に流入し、インク流路25を通過し、インク吐出口4に到達する。
【0026】
図2は、本実施形態の吐出素子基板の製造方法を説明するための工程断面図である。以下、図2を参照して本実施形態の吐出素子基板の製造方法について説明する。
【0027】
まず、図2(a)に示すように、エネルギー発生素子1を有する基板2を用意する。
【0028】
具体的には、シリコン基板2上に一般的な半導体デバイス工程と同じように半導体素子を作り込み、フォトリソグラフィを用いた多層配線技術によってエネルギー発生素子1を形成することにより、基板2を得ることができる。
【0029】
次に、図2(b)に示すように、上述の表面層としてのインク流路の型材24を形成する。この型材24は最終的には除去されるため、除去を前提とした材料を選択する。
【0030】
次に、図2(c)に示すように、型材24の上に流路形成部材3を塗布する。
【0031】
次に、図2(d)に示すように、流路形成部材3にフォトリソグラフィによりインク吐出口4を形成する。
【0032】
次に、図2(e)に示すように、基板2の裏面からのRIE(反応性イオンエッチング)法によりインク供給口5を形成する。RIE法は、Boschプロセスを用いたDeep−RIE法であることが望ましい。インク供給口5は、基板を貫通して形成される。
【0033】
次に、図2(f)に示すように、インク供給口5の側面及び底面を含む基板2裏面全体に樹脂保護膜21を形成する。樹脂保護膜21の形成方法は、有機CVDを用いることができる。この樹脂保護膜21により、インク供給口5に良好な耐インク性を付与することができる。
【0034】
樹脂保護膜は、ポリパラキシリレン、ポリモノクロロパラキシリレン、ポリジクロロパラキシリレン、ポリテトラフルオロパラキシリレン、及びポリパラキシリレン誘導体等を含むポリパラキシリレン樹脂、ポリ尿素樹脂、並びにポリイミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いてCVD法により形成することが好ましい。これにより、アスペクト比が高い供給口の側面や底部に良好に樹脂膜を形成することができる。
【0035】
次に、図2(g)に示すように、インク供給口5の底部にフィルタ構造を形成するために、インク供給口5の底部に形成された樹脂保護膜21にレーザーにより穴(微細口)23を形成する。
【0036】
このときのレーザー加工としては、樹脂保護膜21のみを選択的に除去する直接描画によるパターニングを用いることができる。
【0037】
そして、図2(h)に示すように、型材24を溶解除去し、インク流路25を形成する。
【0038】
以上の方法により供給口の底部にフィルタ構造を有する吐出素子基板を作製することができる。
【0039】
以下、本発明について実施例を参照にして説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
図2は、第1の実施形態の吐出素子基板の製造方法の一例を示す図である。以下、図2に従って説明する。
【0041】
図2(a)に示すように、厚さ200μmのシリコン基板にヒータを形成し、エネルギー発生素子1を有する基板2を用意した。
【0042】
次に、図2(b)に示すように、金めっき法により型材24を形成した。
【0043】
次に、図2(c)に示すように、カチオン重合型エポキシ樹脂を基板2及び型材24の上にスピンコートし、流路形成部材3を形成した。
【0044】
次に、図2(d)に示すように、露光、現像工程により流路形成部材3にインク吐出口4を形成した。
【0045】
次に、図2(e)に示すように、エッチングガスとしてSF6ガスとC48ガスを用い、エッチングと成膜を交互に行うDeep−RIEにより、基板2の裏面からインク供給口5を形成した。
【0046】
次に、図2(f)に示すように、有機CVDを用い、厚さ2μmのポリパラキシリレンからなる樹脂保護膜21をインク供給口の側面及び底面を含む基板裏面に成膜した。
【0047】
有機CVD膜はつきまわりが良好であり、高アスペクト比のインク供給口(基板厚さ:200μm、開口寸法:50×50μm)においても良好なカバレージ性を実現する。
【0048】
次に、図2(g)に示すように、樹脂保護膜21をインク供給口5のフィルタ構造を形成するように、1つのインク供給口の底部に4つのレーザー加工により穴(微細口)23を形成した。
【0049】
このレーザー加工において、1μs以下のパルスレーザーを用いることが好ましい。このようなレーザーを用いることにより、検討の結果、樹脂保護膜を除去して形成した穴の形状をシャープで良好にでき、かつレーザーが型材24に対してダメージを与えずに選択的に穴を形成できることを確認した。さらに、このような観点から、可視光より短い波長のレーザーを用いることが好ましい。つまり、レーザー加工において、1μs以下のパルスレーザーであって、波長が可視光より短いレーザーを用いることが好ましい。より具体的には、1μs以下のパルスレーザーである。ポリパラキシリレンを加工する場合は、380nm以下の波長であり、特に波長200〜270nmの光を使用するのがよい。
【0050】
本実施例では、紫外線パルスレーザーであるエキシマレーザー(波長:248nm,パルス幅:30ns、エネルギー密度:0.6J/cm2)を用いてφ10μmの微細口を形成した。この時、樹脂保護膜21の膜厚は2μmであり、レーザー照射のショット数を重ねて所望の樹脂膜厚を除去した。
【0051】
次に、図2(h)に示すように、予め形成していた金めっきの型材24をよう素とよう化カリウムを含むエッチング液を用いて溶解除去し、インク流路25を形成した。
【0052】
以上の方法により、吐出素子基板を作製した。
【0053】
(実施例2)
図3は、第2実施形態の吐出素子基板の製造方法の一例を示す図である。以下、図3に従って説明する。
【0054】
図3(a)に示すように、厚さ200μmのシリコン基板にヒータを形成し、エネルギー発生素子1を形成した。また、同時に、基板2に多層配線層の層間絶縁膜13と、多層配線層の上部保護膜12をプラズマCVDにより成膜し形成した。層間絶縁膜13は厚さ1μmのシリコン酸化膜であり、上部保護膜12は厚さ0.5μmのシリコン窒化膜である。本実施例において、層間絶縁膜が上述の表面層となる。
【0055】
層間絶縁膜としては、例えば、シリコン酸化物、シリコン窒化物、及びシリコン炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んで構成される。
【0056】
次に、図3(b)に示すように、型材24を形成した。その方法としては、溶解可能な樹脂であるポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業(株)社製、商品名;ODUR−1010)をスピンコートし、露光、現像によりパターニングし型材24を形成した。
【0057】
次に、図3(c)に示すように、カチオン重合型エポキシ樹脂を基板2及び型材24の上にスピンコートし、流路形成部材3を形成した。
【0058】
次に、図3(d)に示すように、露光、現像工程により流路形成部材3にインク吐出口4を形成した。
【0059】
次に、図3(e)に示すように、エッチングガスとしてSF6ガスとC48ガスを用い、エッチングと成膜を交互に行うDeep−RIE法により、基板2の裏面からインク供給口5を形成した。
【0060】
エッチングは、層間絶縁膜13を残して止めた。ここでは、シリコン基板とシリコン酸化膜の部材差を利用してエッチングを止めた。
【0061】
次に、図3(f)に示すように、CVD法を用い、厚さ2μmのポリパラキシリレンからなる樹脂保護膜21をインク供給口5の側面及び底面を含む基板裏面全面に成膜した。
【0062】
有機CVD膜はつきまわりが良好であり、高アスペクト比のインク供給口(基板厚さ:200μm、開口寸法:50×50μm)においても良好なカバレージ性を実現する。
【0063】
次に、図3(g)に示すように、樹脂保護膜21にインク供給口5のフィルタ構造を形成するように、1つのインク供給口の底部にレーザー加工により4つの穴(微細口)23を形成した。
【0064】
この工程において、1μs以下のパルスレーザーであって可視光より短い波長のレーザーを用いることにより、微細口の形状がシャープであり、かつレーザーが層間絶縁膜13にダメージを与えずに樹脂保護膜を選択的に除去可能であることを確認した。
【0065】
本実施例では紫外線パルスレーザーであるエキシマレーザー(波長:248nm,パルス幅:30ns、エネルギー密度:0.6J/cm2)を用いてφ10μmの微細口を形成した。この時、樹脂保護膜21の膜厚は2μmであり、レーザー照射のショット数を重ねて所望の樹脂膜厚を除去した。
【0066】
次に、図3(h)に示すように、微細口23を有する樹脂保護膜21をコンタクトマスクとして、基板裏面からCF4ガスを主としたRIE法を用いたドライエッチングにより、層間絶縁膜13及び上部保護膜12をエッチングする。エッチングは型材24まで到達し、層間絶縁膜13及び上部保護膜12に貫通穴が形成された。
【0067】
次に、図3(i)に示すように、予め溶解可能な樹脂で形成していた型材24を、乳酸メチルを含むフォトレジスト剥離液を用いて溶解除去し、インク流路25を形成した。
【0068】
以上の方法により、吐出素子基板を作製した。
【0069】
(実施例3)
図4は、第3の実施形態の吐出素子基板の製造方法の一例を示す図である。以下、図4に従って説明するが、主に実施例2と異なる点を中心に説明する。
【0070】
図4(a)〜(g)の工程は、実施例2の図3(a)〜(g)の工程と同じであり、説明を省略する。
【0071】
本実施例では、図4(h)に示すように、層間絶縁膜13と上部保護膜12の除去を、ドライエッチング法ではなく、ウエットエッチ法により行った。
【0072】
具体的には、基板裏面からのNH4F(フッ化アンモニウム)を用いたウエットエッチングを行い、微細口23からエッチング液を侵入させることにより、層間絶縁膜13と上部保護膜12を除去した。
【0073】
次に、図4(i)に示すように、予め溶解可能な樹脂で形成していた型材24を、乳酸メチルを含むフォトレジスト剥離液を用いて溶解除去し、インク流路25を形成した。
【0074】
以上の方法により、吐出素子基板を作製した。
【0075】
(実施例4)
図5は第4の実施形態の吐出素子基板の製造方法の一例を示す図である。以下、図5に従って説明する。
【0076】
図5(a)に示すにように、厚さ200μmのシリコン基板にヒータを形成し、エネルギー発生素子1を形成した。また、基板2の上であって供給口を形成する位置に対応する領域に、導電層14となる厚さ0.5μmのアルミニウムからなる金属薄膜を形成した。また、同時に、基板2に多層配線層の層間絶縁膜13と、多層配線層の上部保護膜12をプラズマCVDにより形成した。層間絶縁膜13は厚さ1μmのシリコン酸化膜であり、上部保護膜12は厚さ0.5μmのシリコン窒化膜である。本実施例において、導電層が上述の表面層となる。
【0077】
次に、図5(b)に示すように、型材24を形成した。その方法としては、溶解可能な樹脂であるポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業(株)社製、商品名;ODUR−1010)をスピンコートし、露光、現像によりパターニングし型材24を形成した。
【0078】
次に、図5(c)に示すように、カチオン重合型エポキシ樹脂を基板2及び型材24の上にスピンコートし、流路形成部材3を形成した。
【0079】
次に、図5(d)に示すように、露光、現像工程により流路形成部材3にインク吐出口4を形成した。
【0080】
次に、図5(e)に示すように、エッチングガスとしてSF6ガスとC48ガスを用い、エッチングと成膜を交互に行うDeep−RIE法により、基板2の裏面からインク供給口5を形成した。
【0081】
エッチングは、基板上の導電層14を残してエッチングを止めた。ここでは、シリコン基板と金属薄膜の部材差を利用してエッチングを止めた。
【0082】
この時、導電層14はRIE法による帯電を逃がす働きをするため、Deep−RIE時に見られるノッチングの発生を抑える働きをする。導電層14としては、アルミニウム以外にも、例えば、アルミシリコン(Al/Si)、アルミ銅(Al/Cu)、アルミシリコン銅(Al/Si/Cu)などを用いることができる。
【0083】
次に、図5(f)に示すように、有機CVDを用い、厚さ2μmのポリパラキシリレンからなる樹脂保護膜21をインク供給口5の側面及び底面を含む基板裏面全面に成膜した。
【0084】
有機CVD膜はつきまわりが良好であり、高アスペクト比のインク供給口(基板厚さ:200μm、開口寸法:50×50μm)においても良好なカバレージ性を実現する。
【0085】
次に、図5(g)に示すように、樹脂保護膜21にインク供給口5のフィルタ構造を形成するように、1つのインク供給口の底部にレーザー加工により4つの穴23を形成した。
【0086】
この工程において、1μs以下のパルスレーザーであって可視光より短い波長のレーザーを用いることにより、微細口の形状がシャープであり、かつレーザーが導電層14にダメージを与えずに樹脂保護膜を選択的に除去可能であることを確認した。
【0087】
本実施例では紫外線パルスレーザーであるエキシマレーザー(波長:248nm,パルス幅:30ns、エネルギー密度:0.6J/cm2)を用いてφ10μmの微細口を形成した。この時、樹脂保護膜21の膜厚は2μmであり、レーザー照射のショット数を重ねて所望の樹脂膜厚を除去した。
【0088】
次に、図5(h)に示すように、金属薄膜である導電層14とシリコン窒化膜である上部保護膜12を、基板裏面からNH4F(フッ化アンモニウム)を用いたウエットエッチングを行い、微細口23からエッチング液を侵入させることにより、除去した。これにより、導電層14は除去され、樹脂保護膜21だけがフィルタ構造を構成する部材として残る。図5(h)において、15は導電層がが除去された導電層除去部を示す。
【0089】
次に、図5(i)に示すように、予め溶解可能な樹脂で形成していた型材24を、乳酸メチルを含むフォトレジスト剥離液を用いて溶解除去し、インク流路25を形成した。
【0090】
以上の方法により、吐出素子基板を作製した。
【符号の説明】
【0091】
1:エネルギー発生素子
2:基板(シリコン基板)
3:流路形成部材
4:インク吐出口
5:インク供給口
12:上部保護膜(シリコン窒化膜)
13:層間絶縁膜(シリコン酸化膜)
14:導電層
15:導電層除去部
21:樹脂保護膜
23:微細口(樹脂保護膜が除去された部分)
24:型材
25:インク流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口及び該吐出口に連通する液体流路を有する流路形成部材と、前記液体流路に前記液体を供給する供給口を有する基板と、を備え、前記供給口の底部にフィルタ構造を有する吐出素子基板の製造方法であって、
(1)前記基板の前記流路形成部材が配置される側の第一の面と反対側の第二の面から貫通口を形成することにより前記供給口を形成する工程と、
(2)前記供給口の側面及び底部に樹脂保護膜を配置する工程と、
(3)前記供給口の底部の前記樹脂保護膜に前記第二の面側からのレーザー加工によって微細口を形成する工程と、
を有することを特徴とする吐出素子基板の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、前記基板は前記第一の面に表面層を有し、前記反応性イオンエッチングは前記第二の面から前記表面層に到達するまで行い、
前記工程(2)は前記供給口の側面及び前記供給口の底部に露出する前記表面層に前記樹脂保護膜を配置する工程である請求項1に記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項3】
前記表面層は、前記液体流路の型材であり、該型材は溶解可能な材料で構成される請求項2に記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項4】
前記型材は、金属めっき又は樹脂を用いて形成される請求項3に記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項5】
前記表面層は、層間絶縁膜である請求項2に記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項6】
前記層間絶縁膜は、シリコン酸化物、シリコン窒化物、及びシリコン炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んで構成される請求項5に記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項7】
前記表面層は導電層であり、該導電層は前記第一の面の前記供給口を形成する位置に対応する領域に設けられている請求項2に記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項8】
前記反応性イオンエッチングは、エッチングと成膜を交互に行うプロセスを用いたDeep−RIE法である請求項1乃至7のいずれかに記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂保護膜を、ポリパラキシリレン、ポリモノクロロパラキシリレン、ポリジクロロパラキシリレン、ポリテトラフルオロパラキシリレン、及びポリパラキシリレン誘導体を含むポリパラキシリレン樹脂、ポリ尿素樹脂、並びにポリイミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いてCVD法により形成する請求項1乃至8のいずれかに記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項10】
前記レーザー加工は1μs以下のパルスレーザーを用いて行う請求項1乃至9のいずれかに記載の吐出素子基板の製造方法。
【請求項11】
前記レーザー加工は、可視光より短い波長のレーザーを用いて行う請求項10に記載の吐出素子基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−101364(P2012−101364A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248886(P2010−248886)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】