説明

含フッ素アルキルジエステル化合物、含フッ素アルキルエステルアミド化合物及びそれらを含有するゲル化剤

【課題】各種有機溶剤やシリコーン油等の油剤との相溶性にも優れ、更にこれらのゲル化能に優れるゲル化剤として有用であり、溶剤、化粧料、洗浄剤、乳化剤、塗料などの潤滑剤あるいは油剤として広範囲に使用可能な新規含フッ素化合物を提供する。
【解決手段】 下記式(1)又は(2)で表される含フッ素化合物及びそれからなるゲル化剤。


(式中Rfはフルオロアルキル基を示し、Rはアルキル基又はアリール基を示し、Rはアルキル基又はアリール基を示し、nは1〜8の数を示す。)


(式中Rf及びRは上記定義と同義であり、R、Rは水素あるいはアルキル基又はアリール基を示し、nは1〜8の数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含フッ素アルキルジエステル化合物、含フッ素アルキルエステルアミド化合物及びそれらを含有するゲル化剤に関する。さらに詳しくは、化粧品等に用いられる有機溶剤や、エステル油、炭化水素油、シリコーン油などの油剤をゲル化することのできる含フッ素化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素原子を含有する有機化合物が、フッ素に由来する、撥水撥油性、非粘着性、潤滑性、低吸水性、電気絶縁性、自己集合性等の機能を有するため、化粧料、洗浄剤、塗料、インキ、潤滑剤等の油剤として活用されている。例えば、化粧品等に用いられる有機溶剤や、エステル油、炭化水素油、シリコーン油等の油剤のゲル化剤として有用な含フッ素化合物が求められている。
【0003】
フッ素化合物からなるゲル化剤に、含フッ素エーテル化合物(特許文献1)、含フッ素エステル化合物(特許文献2)及び含フッ素酸アミド化合物(特許文献3)を用いる方法もあるが、ゲル化するのに多量の含フッ素化合物が必要である。また、ゲル化能を持つ化合物は一般的にある特定の溶媒またはオイルにしかゲル化能を示さないものが多く、ゲル化剤自体の構造を明確に設計するのは困難である。
【0004】
【特許文献1】特開平10−175901号
【特許文献2】特開平11−323308号
【特許文献3】特開2005−68198号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、フッ素の有する機能を持ち、しかも各種条件下において安定で、各種有機溶剤やシリコーン油等の油剤との相溶性にも優れ、更にこれらのゲル化能に優れるゲル化剤として有用であり、溶剤、化粧料、洗浄剤、乳化剤、塗料、インキ、表面処理剤、潤滑剤、半導体/エレクトロニクス分野などの潤滑剤あるいは油剤として広範囲に使用可能な新規含フッ素化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記課題を解決することができる新規含フッ素化合物を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の含フッ素アルキルジエステル化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化3】



(式中Rfは直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20のフルオロアルキル基を示し、Rは直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜15のアルキル基又はアリール基を示し、Rは直鎖、分岐又は環状の炭素数4〜35のアルキル基又はアリール基を示し、nは1〜8の数を示す。)
【0007】
また、本発明の含フッ素アルキルエステルアミド化合物は下記一般式(2)で表される化合物である。
【化4】



(式中Rfは直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20のフルオロアルキル基を示し、Rは直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜15のアルキル基又はアリール基を示し、R、Rは水素あるいは直鎖、分岐又は環状の炭素数4〜35のアルキル基又はアリール基を示し、nは1〜8の数を示す。)
【0008】
さらに、本発明のゲル化剤は請求項1に記載の含フッ素アルキルジエステル化合物及び/又は請求項2に記載の含フッ素アルキルエステルアミド化合物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の含フッ素アルキルジエステル化合物及び含フッ素アルキルエステルアミド化合物はゲル化剤として、アルコール、シリコーン油、炭化水素油、エステル油などの様々な油剤との相溶性がよく汎用性に優れ、少量でゲル化が可能であり、温度や経時による変化がなく安定性に優れたゲルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、前記一般式(1)及び一般式(2)で表される含フッ素化合物において、Rfは直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20のアルキル基の水素原子のうち少なくとも一つがフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基を示すが、炭素数4〜20のフルオロアルキル基が望ましい。Rfの炭素数が4未満であるとゲル化能が劣り、また20を超えると融点が高すぎる傾向がある。さらにフルオロアルキル基の原料の市場価格を考慮すると、直鎖又は分岐鎖の炭素数4〜10のフルオロアルキル基が好ましい。Rは直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜15のアルキル基又はアリール基を示し、直鎖の炭素数2〜4のアルキル基が好ましい。Rは直鎖、分岐又は環状の炭素数4〜35のアルキル基又はアリール基を示すが、直鎖又は環状の炭素数12〜35のアルキル基が好ましい。Rの炭素数が4未満であるとゲル化能が劣り、また35を超えると原料の入手が困難であるため好ましくない。
またnは1〜8の数を示すが、1〜6が好ましく、更に1〜4、特に2が好ましい。本発明の含フッ素化合物は、良好なゲル化能を示すためには、総炭素数が20以上の融点を持つ化合物(固体)であることが好ましく、総炭素数24以上であることが更に好ましい。
【0012】
前記一般式(1)及び(2)で表される含フッ素化合物は、一般式(3)
【化5】



(式中、Rf及びnは前記の意味を示す。)で表される含フッ素アルコールの誘導体と、一般式(4)
【化6】



(式中、Rは前記の意味を示す。)で表される環状酸無水物を、三級アミンの存在下還流して得られる化合物又はその酸ハロゲン化物、低級アルキルエステルと、一般式(5)及び(6)
【化7】



(式中、Rは前記の意味を示す。)
【化8】



(式中、Rは前記の意味を示す。)で表されるアルコール及びアミンを反応させることにより製造することができる。
【0013】
一般式(3)で表される含フッ素アルコールとしては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20のアルキル基の水素原子の少なくとも一つがフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基を有する炭素数1〜8の直鎖アルコールが挙げられ、これらの具体例としては、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、2−(パーフルオロオクチル)エタノール、2-(パーフルオロデシル)エタノール、6−(パーフルオロエチル)ヘキサノール、6−(パーフルオロオクチル)ヘキサノール、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、1H,1H,5H−オクタフルオロペンタノール、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプタノール、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノナノール等の直鎖含フッ素アルコール類、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エタノール、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エタノール、2−(パーフルオロ−9−メチルドデシル)エタノール、6−(パーフルオロ−1−メチルエチル)ヘキサノール、6−(パーフルオロ−3−メチルブチル)ヘキサノール、6−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)ヘキサノール、6−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)ヘキサノール等の分岐鎖含フッ素アルコール類などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。これらの含フッ素ヒドロキシル化合物の中では、2−(パーフルオロオクチル)エタノール、2−(パーフルオロデシル)エタノール等の総炭素数10以上のものが、融点が高く、かつ油剤との相溶性に優れるため好ましい。
【0014】
一般式(4)で表される環状酸無水物としては、メソ体であることが好ましく、無水コハク酸、テトラフルオロコハク酸無水物、無水マレイン酸、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、1−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸無水物、2,3−ジクロロマレイン酸無水物、2,3−ジフェニルマレイン酸無水物、無水グルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸無水物、ヘキサフルオログルタル酸無水物、(+)−ジアセチル−L−酒石酸無水物、(+)−ジベンゾイル−L−酒石酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、無水フタル酸、3,6−ジクロロフタル酸無水物、4,5−ジクロロフタル酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、テトラフェニルフタル酸無水物、テトラブロモフタル酸無水物等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0015】
一般式(5)で表されるアルコールとしては、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、4−ビフェニルメタノール、1,1−ジメチル−2−フェニルエタノール、トリフェニルメタノール、2−ナフチレンエタノール、コレステロール、ラノステロール等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。これらのアルコールの中では、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、コレステロール、ラノステロール等の総炭素数18以上のものが、融点が高く、かつ油剤との相溶性が優れるため好ましい。
【0016】
また、一般式(6)で表されるアミンとしては、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、アラキルアミン、ベヘニルアミン、N−メチルラウリルアミン、N−メチルミリスチルアミン、N−メチルセチルアミン、N−メチルステアリルアミン、N−メチルアラキルアミン、N−メチルベヘニルアミン、N,N−ジドデシルアミン等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の含フッ素化合物は、シリコーン油との相溶性が良好で、ゲル化能に優れる。また、本発明の含フッ素化合物は、化粧品に用いられるエタノール等の有機溶剤や、シリコーン油、炭化水素油、エステル油など様々な油剤に対し高いゲル化能、特にファンデーション等に配合するシリコーン油のゲル化能に優れている。従って、本発明の含フッ素化合物は、ゲル化剤として特に有用である。
【0018】
更に、本発明のゲル化剤に含有される含フッ素化合物は1種又は2種以上用いることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施例をあげて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実施例1
下記式で表される化合物(7)の製造
【化9】


【0021】
(化合物7aの合成)
2−(パーフルオロオクチル)エタノール(9.31g)、無水コハク酸(3.11g)、トリエチルアミン(2.4mL)をジクロロメタン(80mL)に加え、8時間還流攪拌した。ジクロロメタンをエバポレーターで留去し、アセトンで再結晶して化合物7a(8.75g,77%)を得た。
1H−NMRケミカルシフト CDCl3 TMS標準
δ 9.38(s,1H),4.37(t,2H),2.59(m,4H),2.45(m,2H)
【0022】
(化合物7bの合成)
化合物7a(8.63g)をジクロロメタン(30mL)に加え、窒素気流下、塩化チオニル(5.65mL)を少量づつ滴下し、室温で5時間攪拌した。反応溶液を手早く蒸留水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別し、ろ液を濃縮して化合物7b(8.13g,91%)を得た。
1H−NMRケミカルシフト CDCl3 TMS標準
δ 4.43(t,2H),3.23(t,2H),2,71(t,2H),2.45(m,2H)
【0023】
(化合物7の合成)
化合物7b(0.46g)、ステアリルアルコール(0.24g)をジクロロメタン(5mL)に加え攪拌した。反応溶液に脱水ピリジン(0.07mL)を滴下し、室温で2時間攪拌した。反応溶液を1N塩酸、蒸留水の順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別し、ろ液を濃縮して目的の化合物7(0.48g,74%)を得た。
1H−NMRケミカルシフト CDCl3 TMS標準
δ 4.41(t,J=6.4Hz,2H),4.09(t,6.8Hz,2H),2.65(s,4H),2.48(m,2H),1.62(quin,6.4Hz,2H),1.26(s,30H),0.88(t,6.0Hz,3H)
【0024】
実施例2
下記式で表される化合物(8)の製造
【化10】


【0025】
化合物7b(0.49g)、コレステロール(0.32g)をジクロロメタン(5mL)に加え攪拌した。反応溶液に脱水ピリジン(0.07mL)を滴下し、室温で18時間攪拌した。反応溶液を1N塩酸、蒸留水の順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別し、ろ液を濃縮して目的の化合物8(0.78g,98%)を得た。
1H−NMRケミカルシフト CDCl3 TMS標準
δ 5.39(d,1H),4.62(m,1H),4.41(t,2H),2.65(m,4H),2.48(m,2H),2.33(d,2H),1.98(tt,2H),1.84(m,3H),0.88〜1.60(m,33H),0.68(s,3H)
【0026】
実施例3〜7
含フッ素アルコール、環状酸無水物及びアルコール又はアミンとして表1に示す化合物を用いる以外は実施例1と同様に反応させて表1に示す含フッ素化合物を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1〜7で得られた含フッ素化合物を下記方法で評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0029】
<ゲル化能の評価法1>
各種含フッ素化合物を、10重量%濃度で油剤に加熱溶解後、20℃で24時間放置して目視にて溶液状態を観察した。
【0030】
【表2】

【0031】
*1:デカメチルシクロヘキサン
*2:ジメチルポリシロキサン
*3:スクワラン
*4:トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン
【0032】
<ゲル化能の評価法2>
各種含フッ素化合物を、1重量%濃度で油剤に加熱溶解後、20℃で24時間放置して目視にて溶液状態を観察した。
【0033】
【表3】

【0034】
*1:デカメチルシクロヘキサン
*2:ジメチルポリシロキサン
*3:スクワラン
*4:トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン
【0035】
表2及び表3より本発明の含フッ素化合物であるゲル化剤は、アルコール、シリコーン油、炭化水素油、エステル油などの油剤に対し優れたゲル化能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含フッ素アルキルジエステル化合物。
【化1】



(式中Rfは直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20のフルオロアルキル基を示し、Rは直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜15のアルキル基又はアリール基を示し、Rは直鎖、分岐又は環状の炭素数4〜35のアルキル基又はアリール基を示し、nは1〜8の数を示す。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表される含フッ素アルキルエステルアミド化合物。
【化2】



(式中Rfは直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20のフルオロアルキル基を示し、Rは直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜15のアルキル基又はアリール基を示し、R、Rは水素あるいは直鎖、分岐又は環状の炭素数4〜35のアルキル基又はアリール基を示し、nは1〜8の数を示す。)
【請求項3】
請求項1に記載の含フッ素アルキルジエステル化合物及び/又は請求項2に記載の含フッ素アルキルエステルアミド化合物を含有することを特徴とするゲル化剤。


【公開番号】特開2007−70289(P2007−70289A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259126(P2005−259126)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】