説明

含フッ素ケテンシリルアセタールを用いたアルドール誘導体の製造方法

【課題】パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有するアルドール誘導体の簡便で効率の良い製造方法を提供する。
【解決手段】Rf(R121314SiO)C=C(OSiR151617)(OR11)で表されるケテンシリルアセタール(式中、Rfはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表し、R11は水素又は1価の有機基を表す)と、R21CHO(式中、R21は置換又は未置換の環式又は非環式炭化水素基を表す)又はR31CH(OR32) (OR33)(式中、R31、R32、及びR33は、独立して置換又は未置換の環式又は非環式炭化水素基を表す)で表される化合物とをルイス酸の存在下で反応させ、アルドール誘導体:R21(R121314SiO)CH−C(Rf)(OSiR151617)−CO211又はR31(R32O)CH−C(Rf)(OSiR151617)−CO211を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有するケテンシリルアセタールを用いたアルドール誘導体の製造方法に関する。該アルドール誘導体は、医農薬や精密化学品を含む各種の有機化合物及びそれらの中間体として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有する化合物は、これらの官能基に由来する特徴的な生物学的活性を有することから、その製造方法が検討されている。中でも、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基とカルボキシル又はカルボアルコキシ基とを有するアルドール誘導体は、医農薬や精密化学品を含む各種の有機化合物の中間体として用いることができるため、注目されている。
【0003】
アルドール誘導体の製造方法としては、シリルエノラートを用いた向山−アルドール反応が広く知られている(非特許文献1を参照)。一般的なアルドール反応を2種類のカルボニル化合物を反応させる交差アルドール反応に用いると、目的の化合物以外の副生成物が生じるのに対し、向山−アルドール反応では、穏和な条件下で効率よく高選択的に交差アルドール反応を進行させることができる。
【0004】
シリルエノラートとしては、シリルエノールエーテル及びケテンシリルアセタールが広く知られており、ケテンシリルアセタールの方が求核性に優れる。しかし、含フッ素アルキル基を有するケテンシリルアセタールは入手困難であるため、これまでに報告されたアルドール誘導体の製造例は、スキームIのみである(非特許文献2を参照)。
【0005】
【化1】

【0006】
含フッ素アルキル基を有するケテンシリルアセタールは入手困難というだけでなく、アルデヒド又はアルデヒド類縁体(スキームIではアセタール)と反応させる上で、一般に制約が大きい。まず、含フッ素アルキル基(スキームIではトリフルオロメチル基)の強い静電反発によって立体障害の影響が大きく、使用できるアルデヒド及びアルデヒド類縁体が大幅に限定される。つまり、スキームIの反応は基質特異性が高く、嵩高いアルデヒド及びアルデヒド類縁体(例えばフェニル基を有するアルデヒド)との反応は報告されていない。さらに、立体障害の影響のため、含フッ素アルキル基のα炭素を4級炭素とすることは困難である。スキームIでもα炭素は3級炭素であり、α炭素が4級炭素であるケテンシリルアセタールと求電子剤との反応は、一般に困難であるとされてきた。
【0007】
そこで、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有するアルドール誘導体の新たな製造方法、特にα炭素が4級炭素であるアルドール誘導体の製造方法が求められている。
【0008】
【非特許文献1】T. Mukaiyama et al., J. Am. Chem. Soc., Vol.96, P.7503 (1974)
【非特許文献2】T. Yokozawa et al., Tetrahedron Lett., Vol.25, P.3991 (1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みなされたものであり、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を有するアルドール誘導体の製造方法を提供する。特に、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基の結合するα炭素が4級炭素となるアルドール誘導体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこれらの課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、2位に置換シリルオキシ基とパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基とを有するケテンシリルアセタールを原料として使用することによって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明の製造方法によれば、嵩高いアルデヒド及びアルデヒド類縁体であっても使用でき、パーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基等のα炭素が4級炭素となるアルドール誘導体を簡便に高収率で得ることができる。
【0011】
即ち、本発明は、以下のものを提供する。
[1] 式(1):
【0012】
【化2】

【0013】
若しくは式(1’):
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Rはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表し、
11は水素又は1価の有機基を表し、
12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、独立して、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びヘテロアリールアルケニル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよい。)
で表されるケテンシリルアセタール、又はそれらの混合物を
式(2):
21CHO (2)
(式中、R21はアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基を表す)
で表される化合物と、ルイス酸、ニトリル、又はそれらの混合物の存在下で反応させる工程を含む、
式(4):
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Rf、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、及びR21は前記の通りである)
で表される化合物の製造方法。
[2] R21が、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基の群より選択される、[1]に記載の製造方法。
[3] 式(1)若しくは式(1’)で表されるケテンシリルアセタール、又はそれらの混合物を
式(3):
31CH(OR32)(OR33) (3)
(式中、R31、R32、及びR33は、独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよく、但しR32及びR33の少なくとも一方は水素ではない。)
で表される化合物と、ルイス酸、ニトリル、又はそれらの組み合わせの存在下で反応させる工程を含む、
式(5):
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、Rf、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R31、R32、及びR33は前記の通りである)
で表される化合物の製造方法。
[4] R31、R32、及びR33が、独立して、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択される、[3]に記載の製造方法。
[5] R11が、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基の群より選択される、[1]−[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択される、[1]−[5]の何れかに記載の製造方法。
[7] R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が、独立して、置換又は未置換のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ベンジル基、フェネチル基、及びフェニル基からなる群より選択される、[6]に記載の製造方法。
[8] ルイス酸がトリメチルシリルトリフルオロメタンスルフォネート、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、塩化スズ、塩化亜鉛、及び臭化亜鉛からなる群より選択される1種以上である、[1]−[7]の何れかに記載の製造方法。
[9] ニトリルがアセトニトリルである[1]−[8]の何れかに記載の製造方法。
[10] 式(1)若しくは(1’)の化合物又はそれらの混合物と式(2)又は(3)の化合物との反応が溶媒中で行われ、該溶媒が置換若しくは未置換の脂肪族炭化水素、置換若しくは未置換の芳香族炭化水素、エーテル、非プロトン性極性溶媒、又はそれらの混合物である、[1]−[9]の何れかに記載の製造方法。
[11] 式(1)若しくは(1’)の化合物又はそれらの混合物と式(2)又は(3)の化合物との反応が−90℃から100℃の範囲で行われる、[1]−[10]の何れかに記載の製造方法。
[12] 式(1)若しくは(1’)の化合物又はそれらの混合物と式(2)又は(3)の化合物との反応が常圧から200kPaまでの範囲で行われる、[1]−[11]の何れかに記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に使用されるケテンシリルアセタールは、式(1):
【0021】
【化6】

【0022】
若しくは式(1’):
【0023】
【化7】

【0024】
の化合物、又はそれらの混合物である。
ここで、Rfはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表す。ここでパーフルオロアルキル基とは、H原子が全てF原子で置換されたアルキル基を指し、ポリフルオロアルキル基とは、2つ以上のH原子がF原子で置換されたアルキル基を指し、また、フルオロアルキル基とは、1つのH原子がF原子で置換されたアルキル基を指す。
【0025】
fの炭素数に特に制限はないが、好ましくはC1-8、さらに好ましくはC1-6、より好ましくはC1-4である。Rfとして、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘキサフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、ヘプタフルオロn−プロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、ノナフルオロn−ブチル基、ノナフルオロt−ブチル基などが例示されるが、これらに限定されない。
【0026】
11は、水素原子基又は一価の有機基を表し、反応条件下で不活性であることが好ましい。R11として、一価の有機基とは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルケニル基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アミノアルキル基、アシルアルキル基、アルコキシアルキル基、チオアルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アシルオキシアルキル基、有機シリル基が挙げられる。
【0027】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「アルキル基」は未置換であっても1以上の置換基で置換されていても良く、直鎖であっても分岐状であっても良い。アルキル基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC1-20、さらに好ましくはC1-12、より好ましくはC1-8、さらにより好ましくはC1-6、なお好ましくはC1-4である。アルキル基として、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソアミル、ヘキシル、オクチルが挙げられる。該アルキル基が置換されている場合、置換基としてハロゲン(F,Cl,Br,I)、SH、アミノ、アルコキシ、アルキルチオ、ハロアルコキシ、ハロアルキルチオが挙げられる。
【0028】
ここでアルコキシ基とは、前記のアルキル基に酸素が結合した一価の基を指し、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、及びtert−ブトキシ基が含まれる。アルコキシ基の炭素数は、典型的にはC1-6である。アルキルチオ基は該アルコキシ基の−O−を−S−で置換した基を指し、ハロアルコキシ基及びハロアルキルチオ基は該アルコキシ基及び該アルキルチオ基の少なくとも1つのHをハロゲンで置換した基を指す。
【0029】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「アルケニル基」は未置換であっても1以上の置換基で置換されていても良く、直鎖であっても分岐状であっても良い。アルケニル基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC2-20、さらに好ましくはC2-12、より好ましくはC2-8、さらにより好ましくはC2-6、なお好ましくはC2-4である。アルケニル基として、アリル、プロペニル、ブテニル及び3−メチルブテニルが挙げられる。アルケニル基の置換基としては、アルキル基の置換基として上に述べた基が挙げられる。
【0030】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「アルキニル基」は未置換であっても1以上の置換基で置換されていても良く、直鎖であっても分岐状であっても良い。アルキル基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC2-20、さらに好ましくはC2-12、より好ましくはC2-8、さらにより好ましくはC2-6、なお好ましくはC2-4である。アルキニル基として、エチニル、プロピニル、プロパルギル、ブチニル、イソブチニル、ペンチニル、ヘキシニルが挙げられる。アルキニル基の置換基としては、アルキル基の置換基として上に述べた基が挙げられる。
【0031】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「アリール基」は芳香族炭化水素基を指し、縮合していても良い。アリール基には、フェニル、インデニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル及びビフェニルが含まれる。アリール基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC6-18、より好ましくはC6-12である。アリール基は未置換であっても良く、1以上の置換基で置換されていても良い。置換基として、ハロゲン、アミノ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、アシル、アシルアルキル、アルコキシカルボニルアルキル、アルキル、パーフルオロアルキル、ポリフルオロアルキル、フルオロアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、ハロアルコキシ、ハロアルキルチオが挙げられる。
【0032】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「ヘテロアリール基」は、1つ以上のヘテロ原子を環中に有する芳香環を含有する基を意味し、縮合していても良い。ヘテロ原子には、窒素、酸素、硫黄が含まれる。ヘテロアリール基に2つ以上のヘテロ原子が含まれる場合、ヘテロ原子は同一であっても良く、異なっても良い。ヘテロアリール基は未置換であってもよく、1以上の基で置換されていても良い。置換基には、アリール基の置換基として上に記載した基やオキソ基が含まれる。ヘテロアリール基の炭素数に特に制限はなく、好ましくはC3-18、より好ましくはC4-12である。ヘテロアリール基には、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、トリアジニル、テトラゾリル、オキサゾリル、インドリジニル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、プリニル、キノリジニル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、ベンズイミダゾリル、フリル、チエニルが挙げられる。
【0033】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「シクロアルキル基」は、非芳香族の飽和環式炭化水素を指す。シクロアルキル基は未置換であってもよく、1以上の置換基で置換されていても良い。置換基には、アルキル基の置換基として前述した基が含まれる。シクロアルキル基の炭素数に特に制限はなく、典型的にはC3-10、好ましくはC3-8である。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチルが挙げられる。
【0034】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「シクロアルケニル基」は、非芳香族の不飽和環式炭化水素を指す。環内の不飽和結合は1つであってもよく、2以上でもよい。シクロアルケニル基は未置換であってもよく、1以上の置換基で置換されていても良い。置換基には、シクロアルキル基の置換基として前述した基が含まれる。シクロアルケニル基の炭素数に特に制限はなく、典型的にはC3-10、好ましくはC4-8である。シクロアルケニル基の例としては、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル及びシクロブタジエニルが挙げられる。
【0035】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「ヘテロシクロアルキル基」は、1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されているシクロアルキル基を指す。ヘテロ原子には、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が含まれる。ヘテロシクロアルキル基は未置換であってもよく、1以上の置換基で置換されていてもよい。置換基には、シクロアルキル基の置換基として前述した基及びオキソ基が含まれる。ヘテロシクロアルキル基の炭素数に特に制限はなく、典型的にはC2-9である。ヘテロシクロアルキル基の例として、テトラヒドロフリル、モルホリニル、ピペラジニル、ピペリジル、ピロリジニルが挙げられる。
【0036】
本明細書において、単独で又は他の基の一部として用いられる「ヘテロシクロアルケニル基」は、1つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されているシクロアルケニル基を指す。ヘテロ原子には、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が含まれる。ヘテロシクロアルケニル基は未置換であってもよく、1以上の置換基で置換されていてもよい。置換基には、ヘテロシクロアルキル基の置換基として上に記載した基が含まれる。ヘテロシクロアルケニル基の炭素数に特に制限はなく、典型的にはC2-9である。ヘテロシクロアルケニル基の例として、ジヒドロフリル、イミダゾリル、ピロリニル、ピラゾリニルが挙げられる。
【0037】
アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基は、2以上の環を含んでもよい。その様な場合、2以上の環は縮合していてもよく、スピロ原子によって結合していてもよく、1つの環が他の環の側鎖として結合していてもよい。
【0038】
アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アミノアルキル基、アシルアルキル基、アルコキシアルキル基、チオアルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキル基、及びアシルオキシアルキル基は、アルキル基がそれぞれ1以上のアリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、アミノ基、アシル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、及びアシルオキシアルキル基で置換された基を指す。ここで、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びヘテロシクロアルケニル基は前述の通りであるが、アルキル基は直鎖であることが好ましい。
【0039】
アミノ基は未置換であってもよく、置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基及びアリール基が挙げられる。置換アミノ基の例としては、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−フェニルアミノ基が挙げられる。
【0040】
アシル基には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、及びトリフルオロアセチル基が含まれる。アシル基の炭素数は典型的にはC1-6である。
【0041】
有機シリル基は、シリル基の1以上のHが1価の有機基で置換された官能基であり、1価の有機基としてはR11について前述の基が挙げられる。有機シリル基には、後述するSiR121314で表される基が含まれる。
【0042】
好ましいR11として、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、及び有機シリル基が例示される。
12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、独立して、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びヘテロアリールアルケニル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよい。これらの基は、上に定義の通りである。
【0043】
好ましくは、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよい。
【0044】
さらに好ましくは、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、独立して、置換又は未置換のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニル基から独立して選択され、同一であっても異なってもよい。
【0045】
12、R13、及びR14は、全てアルキル基であってもよく、2つがアルキル基であり残りの1つがアリール基であってもよく、2つがアリール基であり残りの1つがアルキル基であってもよく、全てアリール基であってもよい。つまり、R121314Si−は、トリアルキルシリル、ジアルキルアリールシリル、アルキルジアリールシリル、またはトリアリールシリルでありうる。
【0046】
15、R16、及びR17は、全てアルキル基であってもよく、2つがアルキル基であり残りの1つがアリール基であってもよく、2つがアリール基であり残りの1つがアルキル基であってもよく、全てアリール基であってもよい。つまり、R151617Si−は、トリアルキルシリル、ジアルキルアリールシリル、アルキルジアリールシリル、またはトリアリールシリルでありうる。
【0047】
121314Si−及びR151617Si−は、同一であっても異なってもよい。
式(1)で表されるケテンシリルアセタールの例としては、1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−ペンタフルオロエチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−ヘプタフルオロプロピル−2−トリメチルシロキシエテン、1−iso−プロポキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−n−ブトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−sec−ブトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−tert−ブトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−トリス(n−ヘキシル)シロキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−トリス(シクロヘキシル)シロキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−フェノキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン、1−トリス(フェネチル)シロキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテンを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0048】
式(2)
21CHO (2)
で表されるアルデヒドにおいて、R21は、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択される。これらの基は、上に定義の通りである。
【0049】
好ましくは、R21は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択される。
【0050】
さらに好ましくは、R21は、置換又は未置換のメチル基、エチル基、プロピル基、アリル基、フェニル基、フェネチル基、アルコキシカルボニルアルキル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基からなる群より選択される。
【0051】
式(2)の化合物の例としては、ベンズアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、ブロモベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、イソブチルアルデヒド、エチルグリオキシレートなどを挙げることができる。これらの内、芳香族アルデヒドは反応性が高いという点で好ましい。
【0052】
式(3):
31CH(OR32)(OR33) (3)
(式中、R31、R32、及びR33は、独立して、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよく、但しR32及びR33の少なくとも一方は水素ではない。)
で表されるヘミアセタール及びアセタールは、アルデヒド類縁体であり、アルデヒドと同様に式(1)のケテンシリルアセタールと反応させることができる。
【0053】
好ましくは、R31、R32、及びR33は、独立して、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択される。
【0054】
さらに好ましくは、R31、R32、及びR33は、独立して、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びシクロアルキルアルキル基からなる群より選択される。
【0055】
なおさらに好ましくは、R31、R32、及びR33は、置換又は未置換のメチル基、エチル基、プロピル基、アリル基、フェニル基、フェネチル基、アルコキシカルボニルアルキル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基からなる群より選択される。
【0056】
31、R32、及びR33は、全てアルキル基であってもよく、1つがアルキル基であり残りの1つがアリール基であってもよく、2つがアルキル基であり残りがアリール基であってもよく、全てアリール基であってもよい。つまり、R31CH(OR32)(OR33)は、アルキルジアルキルアセタール、アリールジアルキルアセタール、アルキルジアリールアセタール、アリールジアリールアセタールでありうる。
【0057】
式(3)の化合物の例としては、ベンズアルデヒドジメチルアセタール、ベンズアルデヒドジエチルアセタール、ベンズアルデヒドジイソプロピルアセタール、フルフラールジメチルアセタール、クロトンアルデヒドジメチルアセタール、イソブチルアルデヒドジメチルアセタールなどを挙げることができる。これらの内、芳香族ジメチルアセタールは反応性が高いことに加え、単離が容易という点で好ましい。
【0058】
式(1)の化合物、式(1’)の化合物、又はそれらの組み合わせと式(2)又は(3)の化合物とを反応させることにより、式(2)からは式(4)、式(3)からは式(5)のアルドール誘導体が得られる。式(4)及び(5)ではα炭素が光学中心となるが、これらはR体であってもS体であってもそれらの混合物であってもよい。
【0059】
この反応は、ルイス酸の存在下で行うことができる。使用するルイス酸に特に制限はなく、一般的なルイス酸を挙げることができる。中でも、含水率の低いルイス酸が好ましく、非水系のルイス酸がさらに好ましい。ここで非水系とは、不純物としての水分を除き、水和水や配位子としての水を化学式中に含まないことをいう。非水系のルイス酸には、有機ルイス酸、無機ルイス酸、ランタノイド系ルイス酸、有機リガンドが金属に配位したルイス酸又は有機カウンターアニオンが金属とイオン結合したルイス酸が挙げられる。
【0060】
有機ルイス酸としては、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルフォネート、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランが挙げられる。無機ルイス酸としては、臭化亜鉛、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズ、ヨウ化銀が挙げられる。ランタノイド系ルイス酸としては、三塩化セリウム及びイットリビウムトリフラートが挙げられる。有機リガンドとしては、BINAP、BINOL、ペンタメチルシクロペンタジエニル及びテトラメチルピナコールが挙げられ、これらのリガンドがアルミニウム、チタン、ニッケル、鉄、亜鉛、ロジウム、パラジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ユーロピウムなどの金属または非金属であるホウ素及びケイ素に配位したルイス酸を用いることができる。有機カウンターアニオンとしては、トリフラート、アセテート、シアニド、ヘキサフルオロホスホネート及びテトラフルオロボレートが挙げられ、これらのカウンターアニオンがチタン、銅、スズ、スカンジウム及び銀などの金属とイオン結合したルイス酸を用いることができる。これらの成分は単独で用いてもよく、組み合わせで用いてもよい。また、上記以外の成分と組み合わせて用いてもよい。そのような例としては、スカンジウムトリフラート−ジブチルチンアセテート、有機ルイス酸−金属ルイス酸系、有機ルイス酸−有機ルイス酸系、金属ルイス酸−金属ルイス酸系などが挙げられる。これらのうちで、有機ルイス酸又は有機リガンドを含む系、例えばトリメチルシリルトリフルオロメタンスルフォネート、BINOL−金属チタン系などが好ましい。
【0061】
ルイス酸の形状に特に制限はなく、代表的な形状としては固体、液体などが挙げられ、ルイス酸の形状としては、溶媒に可溶で式(1)の化合物と効率的に接触できる形状が好ましい。
【0062】
使用されるルイス酸の量は、式(1)及び(1’)のケテンシリルアセタールにも依存するが、一般には式(1)及び(1’)のケテンシリルアセタールの総和に対して、0.001当量以上、好ましくは0.01当量以上であり、また、10当量以下、好ましくは5当量以下である。ルイス酸の量が上記範囲未満では反応の進行が遅くなることがあり、上記範囲を超えると副反応の影響が生じやすい。
【0063】
式(1)若しくは(1’)のケテンシリルアセタール又はそれらの混合物と式(2)又は式(3)の化合物との反応は、溶媒中で行なわれることが好ましい。溶媒としては、反応条件下で不活性なものであれば特に制限はなく、置換又は未置換の脂肪族炭化水素、置換又は未置換の芳香族炭化水素、ニトリル、酸アミド、エーテルが挙げられる。置換脂肪族炭化水素には、ハロゲン化脂肪族炭化水素、例えば塩化脂肪族炭化水素(例えば、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン)が挙げられる。未置換脂肪族炭化水素には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンが含まれる。置換芳香族炭化水素には、ハロゲン化芳香族炭化水素(例えば、クロロベンゼンを含む塩化芳香族炭化水素)、及びアルキル置換芳香族炭化水素(例えば、トルエン及びキシレン)が挙げられる。ニトリルには、アセトニトリル、プロピオニトリル、フェニルアセトニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリルが含まれる。酸アミドには、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノンが含まれる。エーテルには、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−エポキシエタン、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、置換テトラヒドロフランが含まれる。エーテルは、炭素数8以下、好ましくは6以下であることが好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。これらの溶媒の中でも、塩化メチレン、トルエンが好ましい。これらの溶媒は単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。
【0064】
溶媒を適宜選択すると、ルイス酸を使用しなくても反応が充分な速度で進行する。このような溶媒としては、ニトリル、例えばアセトニトリルが挙げられる。これらの溶媒は、ルイス酸とともに使用してもよい。
【0065】
溶媒の量は、出発原料の総和の1重量部に対して1重量部以上、好ましくは2重量部以上、100重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
式(1)若しくは(1’)の化合物又はそれらの混合物と式(2)及び式(3)の化合物の反応は、−90℃以上、好ましくは−78℃以上、さらに好ましくは−50℃以上、150℃以下、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは30℃以下で行われる。反応温度が上記範囲を超えると、副反応により収率低下を招くことがあり、上記範囲未満では、フッ化物イオン源の溶解度が下がるため反応速度が低下することがある。
【0066】
反応時間は、反応体、ルイス酸、及びニトリルの種類、並びに反応条件に依存するが、通常10分以上、24時間以下、好ましくは10時間以下である。反応時間が上記範囲未満では反応が十分に進行しないことがあり、上記範囲を超えると副反応が生じやすい。
【0067】
反応雰囲気に特に制限はないが、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の一般的なガスを用いることができ、工業的には、安価な窒素ガスが好ましい。
【0068】
反応圧力は、目的生成物が得られる限り特に制限はなく、常圧付近でもよく、常圧から200kPaの範囲、好ましくは常圧から150kPaの範囲の圧力下で行ってもよい。反応圧力が上記範囲未満では、水分の混入により収率の低下を招くことがあり、上記範囲を超えると反応操作が煩雑となって好ましくない。
【0069】
その他の反応条件は、当業者に公知のルイス酸を用いる反応の条件が適用できる。
原料である式(1)、式(1’)、式(2)、及び式(3)、並びに生成物である式(4)及び式(5)の化合物は、水との反応性が高いことが多いため、使用する溶媒は水含有量が低いことが好ましい。もっとも、工業的に入手可能な溶媒に通常混入している程度の水分は、本製造方法の実施において特に問題にならず、従って水分を除去することなくそのまま使用できる。
【0070】
式(1)若しくは式(1’)の化合物又はそれらの混合物と式(2)又は式(3)の化合物との反応を促進するため、反応は撹拌下で行なわれることが好ましい。反応剤が全て液体である場合は、各種公知の撹拌手段を用いることができる。反応剤又は助剤の一部が固体である場合、例えばルイス酸が固体又は坦持型である場合には、一般的に行なわれている各種公知のスラリー撹拌手段をとることができる。例えば、メカニカルスターラーによる撹拌、ルイス酸を充填した筒における液状の反応剤の循環、または超音波の照射などを挙げることができる。これらの方法により、反応剤同士の接触効率が増加し、反応速度が増大するとも考えられる。
【0071】
生成する式(4)及び式(5)の化合物が水と反応しやすい場合には、脱水剤として作用する化合物を添加することが好ましい。
本発明の製造方法によると、簡便に合成可能なケテンシリルアセタール類を原料として、含フッ素アルキル基を有するアルドール類縁体を、収率よくかつ簡便に製造できる。本法によって得られるアルドール類縁体は医薬、農薬、及び精密化学品の合成中間体として有用であり、例えば抗菌剤や酵素阻害剤など、種々の生理活性物質及びその類縁体の合成にも有用である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
〔実施例1〕 2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−(3−クロロフェニル)−3−トリメチルシロキシプロパン酸メチル:
【0074】
【化8】

【0075】
の合成
10mlのガラス製二口付き反応器に、1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシエテン(302 mg、1 mmol)と市販の3−クロロベンズアルデヒド(140 mg、1 mmol)とを秤量して入れた。さらに3mlの蒸留した塩化メチレンを加えて原料を溶解させ、アルゴン雰囲気で−30℃まで冷却した。そして、これにトリメチルシリルトリフルオロメタンスルフォネート(11 mg、5 mol%)を撹拌下で添加し、さらに3時間、−30℃で撹拌を続け、反応させた。
【0076】
氷浴下、その反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液を3ml添加して、反応液を洗浄した後、有機層を分取した。さらに1%塩化アンモニウム水溶液2mlで洗浄した後、同様の操作を行い、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層中の溶媒を減圧下、エバポレーターで留去した後、残渣を減圧下で蒸留すると(0.005 mmHg、120 ℃)、生成物として無色のオイル状液体(518 mg、85 %)が得られた。Varian社製Mercury 300MHz 19F NMRによる分析を行なった結果、得られた生成物は、ジアステレオ比(64:36)の混合物であることがわかった。
【0077】
2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−(3−クロロフェニル)−3−トリメチルシロキシプロパン酸メチル(ジアステレオ比:64%);1HNMR(300MHz,CDCl3)δ0.02(s,9H)、0.06(s,9H)、3.73(s,3H)、5.22(s,1H)、7.08−7.39(m,4H);19FNMR(282MHz、CDCl3,C66内部標準)δ89.9(s,3F)。
【0078】
2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−(3−クロロフェニル)−3−トリメチルシロキシプロパン酸メチル(ジアステレオ比:36%);1HNMR(300MHz,CDCl3)δ−0.04(s,9H)、0.20(s,9H)、3.86(s,3H)、5.18(s,1H)、7.08−7.39(m,4H);19FNMR(282MHz、CDCl3,C66内部標準)δ87.7(s,3F)。
【0079】
〔実施例2〕 2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−(4−メトキシフェニル)−3−トリメチルシロキシプロパン酸メチル:
【0080】
【化9】

【0081】
の合成
実施例1の3−クロロベンズアルデヒドに代えて4−アニスアルデヒド(136 mg、1 mmol)を用い、単離精製にシリカゲルクロマトグラフィーを用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、無色のオイル状液体(425 mg)が得られた。このときの生成物の収率は97%であった。得られた生成物は、ジアステレオ比(66:34)の混合物であることがわかった。
【0082】
2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−(4−メトキシフェニル)−3−トリメチルシロキシプロパン酸メチル(ジアステレオ比:66%);1HNMR(300MHz,CDCl3)δ−0.07(d,9H)、0.21(d,9H)、3.81(s,3H)、3.85(s,3H)、5.18(s,1H)、6.83(d,2H)、7.27(d,2H);19FNMR(282MHz、CDCl3,C66内部標準)δ87.6(s,3F)。
【0083】
2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−(4−メトキシフェニル)−3−トリメチルシロキシプロパン酸メチル(ジアステレオ比:34%);1HNMR(300MHz,CDCl3)δ−0.02(d,9H)、0.05(d,9H)、3.70(s,3H)、3.79(s,3H)、5.20(s,1H)、6.80(d,2H)、7.19(d,2H);19FNMR(282MHz、CDCl3,C66内部標準)δ89.9(s,3F)。
【0084】
〔実施例3〕 2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−メトキシ−3−フェニルプロパン酸メチル:
【0085】
【化10】

【0086】
の合成
実施例1の3−クロロベンズアルデヒドに代えてベンズアルデヒドジメチルアセタール(152 mg、1 mmol)を用い、単離精製にシリカゲルクロマトグラフィーを用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、無色のオイル状液体(315 mg)が得られた。このときの生成物の収率は90%であった。得られた生成物は、ジアステレオ比(66:34)の混合物であることがわかった。
【0087】
2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−メトキシ−3−フェニルプロパン酸メチル(ジアステレオ比:66%);1HNMR(300MHz,CDCl3)δ0.02(s,9H)、3.26(s,3H)、3.76(s,3H)、4.78(s,1H)、7.27−7.37(m,5H);19FNMR(282MHz、CDCl3,C66内部標準)δ89.5(s,3F)。
【0088】
2−トリフルオロメチル−2−トリメチルシロキシ−3−メトキシ−3−フェニルプロパン酸メチル(ジアステレオ比:36%);1HNMR(300MHz,CDCl3)δ0.17(s,9H)、3.16(s,3H)、3.76(s,3H)、4.71(s,1H)、7.27−7.37(m,5H);19FNMR(282MHz、CDCl3,C66内部標準)δ89.5(s,3F)。
【0089】
〔比較例1〕 実施例1の反応条件に、10 mmolの水分を添加して反応を行なったところ、ルイス酸の活性を失って、48時間撹拌しても反応が進行しなかった。
【0090】
〔比較例2〕 実施例1の反応条件に、100 mmolの水分を添加して反応を行なったところ、ルイス酸の活性を失うとともに、ケテンシリルアセタールが加水分解した化合物である、3,3,3−トリフルオロ−2−トリメチルシロキシプロパン酸メチルが定量的に生成した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の製造方法によると、2位に置換シリルオキシ基とパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基とを有する簡便に合成可能なケテンシリルアセタールを原料として使用することによって、有機合成反応において有用なアルドール誘導体を高収率で簡便に製造できるという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

若しくは式(1’):
【化2】

(式中、Rはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表し、
11は水素又は1価の有機基を表し、
12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、独立して、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びヘテロアリールアルケニル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよい。)
で表されるケテンシリルアセタール、又はそれらの混合物を
式(2):
21CHO (2)
(式中、R21はアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基を表す)
で表される化合物と、ルイス酸、ニトリル、又はそれらの組み合わせの存在下で反応させる工程を含む、
式(4):
【化3】

(式中、Rf、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、及びR21は前記の通りである)
で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
21が、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基の群より選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
式(1):
【化4】

若しくは式(1’):
【化5】

(式中、Rはパーフルオロアルキル基、ポリフルオロアルキル基、又はフルオロアルキル基を表し、
11は水素又は1価の有機基を表し、
12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、独立して、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロシクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルケニルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルケニルアルキル基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びヘテロアリールアルケニル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよい。)
で表されるケテンシリルアセタール、又はそれらの混合物を
式(3):
31CH(OR32)(OR33) (3)
(式中、R31、R32、及びR33は、独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択され、同一であっても異なってもよく、但しR32及びR33の少なくとも一方は水素ではない。)
で表される化合物と、ルイス酸、ニトリル、又はそれらの組み合わせの存在下で反応させる工程を含む、
式(5):
【化6】

(式中、Rf、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R31、R32、及びR33は前記の通りである)
で表される化合物の製造方法。
【請求項4】
31、R32、及びR33が、独立して、アルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
11が、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基の群より選択される、請求項1−4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
12、R13、R14、R15、R16、及びR17が、独立して、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキルアルキル基、ヘテロシクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基、及びヘテロアリールアルキル基からなる群より選択される、請求項1−5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
12、R13、R14、R15、R16、及びR17が、独立して、置換又は未置換のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ベンジル基、フェネチル基、及びフェニル基からなる群より選択される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ルイス酸がトリメチルシリルトリフルオロメタンスルフォネート、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、塩化スズ、塩化亜鉛、及び臭化亜鉛からなる群より選択される1種以上である、請求項1−7の何れかに記載の製造方法。
【請求項9】
ニトリルがアセトニトリルである請求項1−8の何れかに記載の製造方法。
【請求項10】
式(1)若しくは(1’)の化合物又はそれらの混合物と式(2)又は(3)の化合物との反応が溶媒中で行われ、該溶媒が置換若しくは未置換の脂肪族炭化水素、置換若しくは未置換の芳香族炭化水素、エーテル、非プロトン性極性溶媒、又はそれらの混合物である、請求項1−9の何れかに記載の製造方法。
【請求項11】
式(1)若しくは(1’)の化合物又はそれらの混合物と式(2)又は(3)の化合物との反応が−90℃から100℃の範囲で行われる、請求項1−10の何れかに記載の製造方法。
【請求項12】
式(1)若しくは(1’)の化合物又はそれらの混合物と式(2)又は(3)の化合物との反応が常圧から200kPaまでの範囲で行われる、請求項1−11の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2006−188455(P2006−188455A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1379(P2005−1379)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り フッ素化学研究会発行、第28回フッ素化学討論会要旨集、平成16年11月4日発行
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【Fターム(参考)】