説明

含フッ素シクロヘキシル誘導体の製造方法

【課題】フェニル基を有する原料から高い収率でフッ素化されたシクロヘキシル基を有する化合物を得る方法を提供する。
【解決手段】下式(1)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることを特徴とする下式(2)で表される化合物の製造方法。ただし、R〜R:水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ヘテロ原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびヘテロ原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。Q:−C(O)O−または−OC(O)−。k:0以上の整数。m:1以上の整数。R:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。R6F:Rがフッ素化されたm価の基。R1F〜R5F:R〜Rに対応する基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含フッ素モノマー等の原料として用いられる含フッ素シクロヘキシル誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素化されたシクロヘキシル基を有する化合物は、耐光性、耐熱性、機械強度等に優れた機能性材料の原料として用いられている。
【0003】
非特許文献1には、シクロヘキシル基またはフェニル基とエステル結合を有する部分フッ素化物を液相でフッ素(F)と反応させた後、生成物を分解する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・フルオリン・ケミストリー(Journal of Fluorine Chemistry)」、2001年、112号、109−116ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1には、シクロヘキシル基を有する部分フッ素化物のフッ素化の収率は70%以上であるのに対し、フェニル基を有する部分フッ素化物のフッ素化の収率は30%程度と記載される。
【0006】
本発明者らは、フリーデル・クラフツ反応等のベンゼン環の反応性を利用した種々の反応の後にフッ素化ができれば、フッ素化されたシクロヘキシル基を有する数々の誘導体が合成できると考えた。フェニル基を有する化合物は、シクロヘキシル環を有する化合物よりも、安価な場合があり、前者の化合物を用いたフッ素化を収率よく進行させることは、経済的なメリットがある。
【0007】
本発明の目的は、フェニル基を有する原料から高い収率でフッ素化されたシクロヘキシル基を有する化合物(本発明においては、該化合物を含フッ素シクロヘキシル誘導体という。)を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を包含する。
<1>
下式(1)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることを特徴とする下式(2)で表される化合物の製造方法。
【0009】
【化1】

【0010】
ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
、R、R、RおよびR:それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ヘテロ原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびヘテロ原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。
Q:−C(O)O−または−OC(O)−。
k:0以上の整数。
m:1以上の整数。
:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。
6F:Rがフッ素化されたm価の基。ただしRがフッ素化されない基である場合はRと同一の基。
1F、R2F、R3F、R4FおよびR5F:R1FはRに、R2FはRに、R3FはRに、R4FはRに、R5FはRにそれぞれ対応する基であり、それぞれ独立に、R〜Rと同一の基、R〜R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR〜R中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。
<2>
1F、R2F、R3F、R4FおよびR5Fが、それぞれ独立に、R〜R中の水素原子の全部がフッ素原子に置換された基、およびR〜R中の炭素−炭素不飽和結合の全部がフッ素化された基、から選ばれる基である、上記<1>に記載の製造方法。
<3>
下式(1a)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることにより下式(2a)で表される化合物を得て、つぎに式(2a)で表される化合物においてエステル結合の分解反応を行うことを特徴とする下式(3a)で表される化合物の製造方法。
【0011】
【化2】

【0012】
ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
1a、R2a、R3a、R4aおよびR5a:それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−(CHC(=O)OR(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。pは0または1。)、から選ばれる基。
n:0または1。
m:1以上の整数。
:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。
6F:Rがフッ素化されたm価の基であり、Rがフッ素化されない基である場合はR6と同一の基。
1Fa、R2Fa、R3Fa、R4FaおよびR5Fa:R1FaはR1aに、R2FaはR2aに、R3FaはR3aに、R4FaはR4aに、R5FaはR5aにそれぞれ対応する基であり、R1a〜R5aと同一の基、R1a〜R5a中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR1a〜R5a中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。
1Ea、R2Ea、R3Ea、R4EaおよびR5Ea:R1EaはR1Faに、R2EaはR2Faに、R3EaはR3Faに、R4EaはR4Faに、R5EaはR5Faにそれぞれ対応する基であり、R1Fa〜R5Faと同一の基。ただし、R1Fa〜R5Faが−(CFC(=O)OR7Fである場合の対応するR1Ea〜R5Eaは−(CFCOF(R7Fは、Rと同一の基、R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。pは前記と同じ意味。)である。
<4>
1a、R2a、R3a、R4aおよびR5aが、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、および−(CHC(=O)OR(ただし、Rは、前記と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であり、
1Fa、R2Fa、R3Fa、R4FaおよびR5Faが、それぞれ独立に、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−(CFC(=O)OR7FF(ただし、pは、前記と同じ意味を示し、R7FFはRがフッ素化されない基である場合にはR7Fと同一の基であり、Rがフッ素化される基である場合にはR7Fがペルフルオロ化された基。)、から選ばれる基であり、
1Ea、R2Ea、R3Ea、R4EaおよびR5Eaが、R1Fa〜R5Faと同一の基(ただし、R1Fa〜R5Faが−(CFC(=O)OR7Fである場合の対応するR1Ea〜R5Eaは−(CFCOF(ただし、R7Fおよびpは、前記と同じ意味を示す。)である、上記<3>に記載の製造方法。
<5>
下式(1b)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることにより下式(2b)で表される化合物を得て、つぎに式(2b)で表される化合物においてエステル結合の分解反応を行うことを特徴とする下式(3b)で表される化合物の製造方法。
【0013】
【化3】

【0014】
ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
1b、R2b、R3b、R4bおよびR5b:それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−OC(=O)R(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。)、から選ばれる基。
m:1以上の整数。
:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。
6F:Rがフッ素化されたm価の基であり、Rがフッ素化されない基である場合はRと同一の基。
1Fb、R2Fb、R3Fb、R4FbおよびR5Fb:R1FbはR1bに、R2FbはR2bに、R3FbはR3bに、R4FbはR4bに、R5FbはR5bにそれぞれ対応する基であり、R1b〜R5bと同一の基、R1b〜R5b中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR1b〜R5b中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。
1Eb、R2Eb、R3Eb、R4EbおよびR5Eb:R1EbはR1Fbに、R2EbはR2Fbに、R3EbはR3Fbに、R4EbはR4Fbに、R5EbはR5Fbにそれぞれ対応する基であり、R1Fb〜R5Fbと同一の基。ただし、R1Fb〜R5Fbが−OC(=O)R7F(R7Fは、Rと同一の基、R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。)である場合、該R1Fb〜R5Fbが結合する炭素原子はC=Oを形成する。
<6>
1b、R2b、R3b、R4bおよびR5bが、水素原子、アルキル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、および−OC(=O)R(ただし、Rは、前記と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であり、
1Fb、R2Fb、R3Fb、R4FbおよびR5Fbが、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−OC(=O)R7FF(ただし、R7FFはRがフッ素化されない基である場合にはRと同一の基であり、Rがフッ素化される基である場合にはRがペルフルオロ化された基。)、から選ばれる基であり、
1Eb、R2Eb、R3Eb、R4EbおよびR5Ebが、R1Fb〜R5Fbと同一の基(ただし、R1Fb〜R5Fbが−OC(=O)R7F(R7Fは、前記と同じ意味を示す。)である場合、該R1Fb〜R5Fbが結合する炭素原子はC=Oを形成する。)である上記<5>に記載の製造方法。
<7>
下式(1c)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることにより下式(2c)で表される化合物を得て、つぎに式(2c)で表される化合物においてエステル結合の分解反応を行うことを特徴とする下式(3c)で表される化合物の製造方法。
【0015】
【化4】

【0016】
ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
1c、R2c、R3c、R4cおよびR5c:それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−CHOC(=O)R(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。)、から選ばれる基。
m:1以上の整数。
:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。
6F:Rがフッ素化されたm価の基であり、Rがフッ素化されない基である場合はRと同一の基。
1Fc、R2Fc、R3Fc、R4FcおよびR5Fc:R1FcはR1cに、R2FcはR2cに、R3FcはR3cに、R4FcはR4cに、R5FcはR5cにそれぞれ対応する基であり、R1c〜R5cと同一の基、R1c〜R5c中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR1c〜R5c中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。
1Ec、R2Ec、R3Ec、R4EcおよびR5Ec:R1EcはR1Fcに、R2EcはR2Fcに、R3EcはR3Fcに、R4EcはR4Fcに、R5EcはR5Fcにそれぞれ対応する基であり、R1Fc〜R5Fcと同一の基。ただし、R1Fc〜R5Fcが−CFOC(=O)R7F(R7Fは、Rと同一の基、R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。)である場合の対応するR1Ec〜R5Ecは−COFである。
<8>
1c、R2c、R3c、R4cおよびR5cが、水素原子、アルキル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、および−CHOC(=O)R(ただし、Rは、前記と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であり、
1Fc、R2Fc、R3Fc、R4FcおよびR5Fcが、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−CFOC(=O)R7FF(ただし、R7FFはRがフッ素化されない基である場合にはRと同一の基であり、Rがフッ素化される基である場合にはRがペルフルオロ化された基。)、から選ばれる基であり、
1Ec、R2Ec、R3Ec、R4EcおよびR5Ecが、R1Fc〜R5Fcと同一の基(ただし、R1Fc〜R5Fcが−CFOC(=O)R7FF(R7FFは、前記と同じ意味を示す。)である場合の対応するR1Ec〜R5Ecは−CFCOF。)である、上記<7>に記載の製造方法。
<9>
mが1である上記<1>〜<8>のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、フェニル基を有する原料化合物から高い収率で含フッ素シクロヘキシル誘導体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」とも記載する。他の式で表される化合物も同様に記載する。
【0019】
本明細書におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられ、入手しやすさからフッ素原子または塩素原子が好ましい。
【0020】
本明細書における一価炭化水素基とは、炭素原子と水素原子のみからなる1価の基をいう。一価炭化水素基としては、飽和の基(一価飽和炭化水素基ともいう。)であっても不飽和結合を有する基(一価不飽和炭化水素基ともいう。)であってもよい。一価炭化水素基としては、直鎖構造、分岐構造、環構造、または部分的に環構造を有する(直鎖構造または分岐構造の)基が挙げられる。
直鎖構造または分岐構造の一価炭化水素基の炭素数は1〜20が好ましく、1〜10が特に好ましく、該基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアルキル基中のC−C結合の2か所以上がC=C結合および/またはC≡C結合になった基が挙げられる。
環構造を有する一価炭化水素基の炭素数は5または6が好ましく、該基としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、およびシクロアルキル基中のC−C結合の2か所以上がC=C結合および/またはC≡C結合になった基、が挙げられる。環構造を有する一価炭化水素基としては、シクロアルキル基、フェニル基が好ましい。また、環構造を有する一価炭化水素基は置換基を有していてもよい。該置換基としては、直鎖または環構造を有する1価炭化水素基が好ましく、直鎖の場合はアルキル基が好ましく、環構造である場合はフェニル基またはアルキル基で置換されたフェニル基が好ましい。
前記以外の環構造を有する一価炭化水素基としては、複合環構造を有する一価炭化水素基が挙げられ、アダマンチル基、ノルボルニル基等が挙げられる。
【0021】
本明細書におけるヘテロ原子を有する一価炭化水素基とは、前記一価炭化水素基の炭素−炭素原子間および/または結合末端に、ヘテロ原子(たとえば、エーテル性の酸素原子、チオエーテル性のイオウ原子等)および/またはヘテロ原子団(たとえば、ケト基、エステル結合等)が挿入された基をいい、エーテル性の酸素原子またはエステル結合が挿入された基が好ましい。ヘテロ原子を有する一価炭化水素基中のヘテロ原子およびヘテロ原子団の数は1個以上であることが好ましい。
エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基としては、エーテル性酸素原子を有するアルキル基が好ましく、アルコキシ基、アルコキシ基の炭素−炭素結合間に2個以上の酸素原子が挿入された基、アルコキシアルキル基、およびアルコキシアルキル基の炭素−炭素結合間に2個以上の酸素原子が挿入された基が挙げられる。エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基は環構造または部分的に環構造を有する基であってもよく、該基としては、炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたシクロアルキル基が挙げられる。
エステル結合が挿入された一価炭化水素基としては、アルキル基の炭素−炭素原子間および/または結合末端に、エステル結合が挿入された基が好ましい。エステル結合の向きは限定されず、−C(=O)O−または−OC(=O)−のいずれであってもよい。また、エステル結合の数は限定されず、1個が好ましい。エステル結合が挿入された一価炭化水素基としては、エステル結合が挿入されたアルキル基が特に好ましい。
【0022】
本明細書におけるハロゲン化一価炭化水素基とは、前記一価炭化水素基の水素原子の1個以上がハロゲン原子に置換された基をいい、塩素化されたアルキル基、フッ素化されたアルキル基が好ましい。
【0023】
本明細書におけるヘテロ原子を有するハロゲン化一価炭化水素基とは、ハロゲン化一価炭化水素基の炭素−炭素原子間および/または結合末端に、ヘテロ原子(たとえば、エーテル性の酸素原子(−O−)、チオエーテル性のイオウ原子(−S−)等)および/またはヘテロ原子団(たとえば、ケト基(>C=O)、エステル結合(−C(=O)O−等)が挿入された基をいい、エーテル性の酸素原子またはエステル結合が挿入された基が好ましい。ヘテロ原子を有するハロゲン化一価炭化水素基中のヘテロ原子およびヘテロ原子団の数は1個以上であることが好ましい。
【0024】
本明細書におけるフッ素化とは、基質とフッ素が反応して基質の構造中にフッ素原子が導入されることをいう。
【0025】
本発明の製造方法においては、基質を液相中でフッ素と反応させることによりフッ素化して、基質の一部または全部をフッ素化した反応生成物を得る。
基質を液相でフッ素と円滑に反応させるためには、基質中のフッ素原子含量は30〜76質量%であるのが好ましい。フッ素原子含量がこの範囲にある場合、フッ素と反応させる際に液相中への基質の溶解性が格段に向上し、反応の操作性、反応収率が向上する。また、フッ素原子含量が特定の範囲にあることは、経済性に優れる。フッ素原子含量とは、分子量に対するフッ素原子の総量の割合をいう。
【0026】
液相中でフッ素と反応させる反応(以下、「液相フッ素化法」とも呼ぶ。)は、フッ素(F)と基質とが液相中で反応することにより、基質中のC−H構造をC−F構造に変換する反応と、炭素−炭素不飽和結合にフッ素原子を付加させる反応とが起こりうる。一部をフッ素化とは、フッ素化されうる構造の一部がフッ素化することをいい、全部をフッ素化とは、フッ素化されうる構造の全てをフッ素化することをいう。通常の場合、フッ素化反応の生成物中には、一部がフッ素化された生成物と、全部がフッ素化された生成物とが存在する。
液相フッ素化法における液相としては、基質または生成物が液相を形成してもよく、反応に関与しない(すなわち、水素原子や不飽和結合を持たない)溶媒が液相を形成してもよい。液相を形成する溶媒としては、ペルフルオロアルカン、ペルフルオロエーテル、クロロフルオロアルカン、クロロフルオロエーテル、ペルフルオロアルキル酸フルオリド、およびエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、を有する酸フルオリド等が挙げられる。
【0027】
フッ素化反応に用いる溶媒としては、フッ素化反応の基質の溶解性が高い溶媒が好ましく、特に基質を1質量%以上溶解する溶媒が好ましく、特には5質量%以上溶解しうる溶媒を用いるのが特に好ましい。溶媒の例としては、含フッ素カルボニル化合物、ペルフルオロアルカン類(商品名:FC−72等)、ペルフルオロエーテル類(商品名:FC−75、FC−77等)、ペルフルオロポリエーテル類(商品名:クライトックス、フォンプリン、ガルデン、デムナム等)、クロロフルオロカーボン類(商品名:フロンルーブ)、クロロフルオロボリエーテル類、ペルフルオロアルキルアミン(たとえば、ペルフルオロトリアルキルアミン等)、不活性流体(商品名:フロリナート)等が挙げられる。
【0028】
通常の場合、液相は、基質、フッ素化反応の生成物、および溶媒から形成されるが、溶媒としてフッ素化反応の生成物や、次工程で行うエステル分解反応の生成物を用いた場合には、後処理が容易になる利点があるため、好ましい。フッ素化反応溶媒の量は、フッ素化の基質の質量に対して、5倍質量以上が好ましく、特に1×10〜1×10倍質量が好ましい。
【0029】
フッ素は、フッ素ガス、または、不活性ガスで希釈されたフッ素ガスを用いるのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガスが好ましく、経済的な理由から窒素ガスが特に好ましい。不活性ガスで希釈されたフッ素ガスを用いる場合、フッ素ガス濃度は、フッ素ガスと不活性ガスの総体積量に対して10vol%以上が効率の点で好ましく、20vol%以上が特に好ましい。フッ素ガス濃度の上限は、50vol%以下とするのが好ましい。
【0030】
フッ素化反応の反応形式は、バッチ方式であっても連続方式であってもよい。たとえば、反応器に、フッ素化反応溶媒と基質とを仕込み、撹拌し、つぎにフッ素ガスを、フッ素化反応溶媒中に連続的に供給しながら反応させる方法が挙げられる。また、反応器にフッ素化反応溶媒を仕込んで撹拌し、つぎにフッ素ガスと基質とを、所定のモル比で連続的にフッ素化反応溶媒中に供給する方法が挙げられる。このうち、フッ素化反応は、反応収率と選択率の点から、後者の方法で実施するのが好ましい。また該方法におけるフッ素ガスは、窒素ガス等の不活性ガスで希釈して使用するのが好ましい。
【0031】
液相フッ素化におけるフッ素量は、基質中に存在する水素原子量に対するフッ素の量が、反応の最初から最後まで常に過剰当量となるように保つのが好ましく、特に反応系中に含まれる全ての水素原子に対するフッ素量を1.05倍当量以上(すなわち、1.05倍モル以上)となるように保つのが選択率の点から好ましく、2倍当量以上(すなわち、2倍モル以上)となるように保つのが選択率の点からさらに好ましい。また、フッ素の量を反応の開始時点でも過剰量にするために、反応当初に用いるフッ素化反応溶媒には、あらかじめフッ素を充分量溶解させておくのが好ましい。
【0032】
本発明におけるフッ素化反応は、基質中のエステル結合を切断せずに実施できる反応温度で行うのが好ましいことから、反応温度は−50℃〜+100℃が好ましく、−20℃〜+50℃が特に好ましい。フッ素化反応の反応圧力は特に限定されず、常圧〜2MPaにするのが、反応収率、選択率、工業的な実施のしやすさの観点から特に好ましい。
【0033】
さらに、フッ素化反応において反応率を向上させるには、反応系中に(基質または基質以外の)C−H結合を含有する化合物を添加する、基質を長時間反応系内に滞留させる、または、紫外線照射を行う等の操作を行うのが好ましい。これらの操作はフッ素化反応の後期に行うのが選択率の点から好ましい。該操作としては、2以上の操作を行ってもよい。
【0034】
C−H結合を含有する化合物を添加する場合は、フッ素(F)との比率が前記比率になるように添加するのが好ましい。基質以外のC−H結合含有化合物としては、芳香族炭化水素が好ましく、とりわけベンゼン、トルエン等が好ましい。該C−H結合含有化合物の添加量は、エステル化反応生成物中の水素原子の総量に対して0.1〜10モル%であるのが好ましく、特に0.1〜5モル%であるのが好ましい。C−H結合含有化合物は、フッ素が存在する反応系中に添加するのが好ましい。またC−H結合含有化合物を加えた場合には、反応系を加圧するのが好ましい。加圧する場合には、0.01〜5MPaであるのが好ましい。また、紫外線照射を行う場合には、0.1〜3時間照射するのが好ましい。
【0035】
本発明におけるフッ素化反応では、基質がフッ素化される。すなわち、炭素原子に結合した水素原子(C−H)が存在する場合には、その一部または全てがフッ素原子に置換されたC−Fとなり、炭素−炭素不飽和結合の一部またはフッ素原子が付加して飽和結合になる。
フッ素化反応が、完全フッ素化またはペルフルオロ化である場合には、基質中に存在するフッ素化されうる部分の実質的に全てがフッ素化される。たとえば、C−H部分を有する有機基をペルフルオロ化した基においては、C−H部分の実質的に全てがC−Fになり、炭素−炭素不飽和結合が存在する有機基をペルフルオロ化した基においては、実質的に全ての不飽和結合にフッ素原子が付加する。
【0036】
完全フッ素化またはペルフルオロ化により生成する1価の基としては、つぎの基が挙げられる。−CFCF、−CFCFCF、−CFCFCFCF、−CFCClF、−CFCBrF、−CFCFClCFCl、−CF(CF、−CFCF(CF、−CF(CF)CFCF、および−C(CF
−CFOCF、−CFCFOCF、−CFCFOCFCF、−CFCF(CF)OCFCFCF、−CF(CF)CFOCF(CF)CFOCFCFCF
【0037】
完全フッ素化またはペルフルオロ化により生成する2価の基としては、つぎの基が挙げられる。ペルフルオロアルキレン基(たとえば−CFCFCFCF−、−CF(CF)CFCFCF−、−CFCF(CF)CFCF一等)、−CFCFOCFCF−、−CF(CF)OCFCFCF、ペルフルオロシクロアルキレン基、または該基の炭素−炭素結合間に、エーテル性酸素原子が挿入された基。
該エーテル性酸素原子の数は1個のみであっても2個以上であってもよい。該2価の基が環構造を有する場合の例としては、ペルフルオロシクロアルキル基、ペルフルオロビシクロアルキル基、またはペルフルオロシクロアルキレン基を部分構造とするペルフルオロアルキレン基等が挙げられる。
mが3以上である場合、完全フッ素化またはペルフルオロ化により生成するm価の基としては、前記1価の基中のフッ素原子の(m−1)個が結合手になった基、前記2価の基中のフッ素原子の(m−2)個が結合手になった基、が挙げられる。
【0038】
液相フッ素化において、水素原子がフッ素原子に置換する反応が起きるとHFが副生する。HFを除去するために、反応系中にHF捕捉剤を共存させる、反応器ガス出口でHF捕捉剤と出口ガスを接触させる、または出口ガスを冷却してHFを凝縮させて回収する、のいずれかの操作を行うのが好ましい。該HF捕捉剤としては、アルカリ金属フッ化物が好ましく、NaFまたはKFが好ましい。また、HFを反応系外に導いてアルカリ処理する場合には、窒素ガス等の不活性ガスにHFを同伴させることが好ましい。
【0039】
HF捕捉剤の量は、フッ素原子で置換される水素原子の理論量に対して1〜20倍モルが好ましく、1〜5倍モルが特に好ましい。反応器ガス出口にHF捕捉剤をおく場合には、(a)冷却器(10℃〜室温、特には約20℃、に保持するのが好ましい。)、(b)NaFペレット充填層、および(c)冷却器(−78℃〜+10℃に、特には−30℃〜0℃に、保持するのが好ましい)を(a)−(b)−(c)の順に直列に設置するのが好ましい。また(c)の冷却器からは凝集した液を反応器に戻すための液体返送ラインを設置してもよい。
【0040】
フッ素化反応の生成物は、そのまま次の工程に用いてもよく、精製して高純度のものにしてもよい。精製方法としては、粗生成物をそのまま常圧または減圧下に蒸留する方法等が挙げられる。
【0041】
また、フッ素化反応の生成物中には、基質の部分フッ素化物として、水素原子を有する化合物や不飽和結合を有する化合物が含まれうる。部分フッ素化物を含む生成物を得た場合には、フッ素化反応の反応系中に戻して再度のフッ素化反応を行う、または、回収して次のフッ素化反応時に基質と混ぜてフッ素化を行う等を行うことが好ましい。
【0042】
本発明においては、さらにフッ素化反応の後にエステル結合の分解反応を行う。エステル結合の分解反応は、化合物中に存在するエステル結合を切断する反応である。エステル結合の分解反応は、熱分解反応、または求核剤もしくは求電子剤の存在下に行う分解反応、によるのが好ましい。熱分解反応は、フッ素化反応生成物を加熱することにより実施できる。熱分解反応の反応形式としては、フッ素化反応生成物の沸点とその安定性により選択するのが好ましい。
【0043】
たとえば、沸点が低いフッ素化反応生成物において熱分解反応を行う場合には、気相熱分解法を採用するのが好ましい。気相熱分解法は、気相で連続的に分解反応を行い、生成物を、出口ガスから凝縮させ、これらを回収する方法で行うのが好ましい。
【0044】
気相熱分解法の反応温度は、50〜350℃が好ましく、50〜300℃が特に好ましく、とりわけ150〜250℃が好ましい。気相熱分解法においては、金属塩触媒を使用してもよく、反応には直接は関与しない不活性ガスを反応系中に共存させてもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、二酸化炭素ガス等が挙げられる。不活性ガスの添加量は、フッ素化反応生成物の総量に対して0.01〜50vol%程度であるのが好ましい。不活性ガスの添加量が多すぎると、生成物の回収量が低減することがある。
【0045】
一方、フッ素化反応生成物の沸点が高い場合には、反応器内で液のまま加熱する液相熱分解法を採用するのが好ましい。液相熱分解法における反応圧力は限定されない。該分解反応の生成物は、反応器中から一度に抜き出してもよい。また、フッ素化反応生成物よりもエステル結合の分解反応の生成物が通常は低沸点になることを利用して、蒸留塔を付けた反応装置を用いてフッ素化反応を行い、生成物を蒸留で抜き出しながら反応を行ってもよい。液相熱分解法の反応温度は50〜300℃が好ましく、特に100〜250℃が好ましい。
【0046】
液相熱分解法は、無溶媒で行っても、分解反応溶媒の存在下に行ってもよく、無溶媒で行うのが好ましい。分解反応溶媒を使用する場合には、反応に不活性な溶媒であり、かつ、フッ素化反応生成物と相溶性のあるものを用いるのが好ましい。また、分解反応溶媒は、生成物から分離しやすいものを用いるのが好ましい。分解反応溶媒の具体例としては、ペルフルオロトリアルキルアミン、ペルフルオロナフタレンなどの不活性溶媒、高沸点のクロロフルオロカーボンであるクロロトリフルオロエチレンオリゴマー(たとえば、商品名:フロンルーブ)、が好ましい。また、分解反応溶媒の量はフッ素化反応生成物に対して0.10倍〜10倍質量であるのが好ましい。
【0047】
液相中でエステル結合の分解反応を行う場合には、溶媒の不存在下に実施しても、溶媒の存在下に実施してもよく、前者が好ましい。溶媒の不存在下に実施で分解反応を行うことは、フッ素化反応生成物自身が溶媒としても作用し、反応生成物中から溶媒を分離する手間を省略できるため特に好ましい。求核剤または求電子剤を用いる方法も、蒸留塔をつけた反応装置で蒸留をしながら行うのが好ましい。
【0048】
求核剤としてはFが好ましく、特にアルカリ金属のフッ化物由来のFが好ましい。アルカリ金属のフッ化物としては、NaF、NaHF、KF、CsFが好ましく、経済性の点ではNaFが、反応活性の点ではKFが特に好ましい。また、反応の最初の求核剤量は触媒量であってもよく、過剰量であってもよい。F等の求核剤の量はフッ素化反応生成物に対して1〜500モル%が好ましく、1〜100モル%が特に好ましく、とりわけ5〜50モル%が好ましい。反応温度の下限は−30℃が好ましく、反応温度は−20℃〜250℃であるのが特に好ましい。
【0049】
エステル結合の分解反応の生成物は、エステル結合の向きおよびエステル結合に隣接する構造により生成物の構造が変わる。
【0050】
エステル結合の分解反応の生成物は、そのまままたは精製して目的とする用途に用いうる。精製方法としては、蒸留法が好ましい。
【0051】
本発明の製造方法においては、化合物(1)を液相中でフッ素と反応させて化合物(2)を得る。化合物(1)中のR〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ヘテロ原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびヘテロ原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基である。一価炭化水素基は、一価飽和炭化水素基であっても一価不飽和炭化水素基であってもよく、一価不飽和炭化水素基中にはベンゼン環を含んでいてもよい。ヘテロ原子を有する一価炭化水素基中には、エステル結合が含まれていてもよい。R〜Rは、入手原料の構造により種々の構造をとりうるが、液相フッ素化反応の基質であることから、OH基、およびOH基を部分構造とする基は含まれず、後述する具体的な化合物における態様において記載する基が好ましい。
【0052】
【化5】

【0053】
化合物(1)中の−(CH−Q−部分の構造は、−(CH−OC(O)−または−(CH−C(O)O−を示し、kは0以上の整数を示す。kが0である場合、エステル結合はフェニル基と直接結合していることを示し、−OC(O)−または−C(O)O−であることを示す。kは0以上の整数であり、0〜10の整数が好ましく、入手しやすさや生成物の有用性の観点からは0または1が特に好ましい。
【0054】
mはRの価数と同じ数を示す。式(1)は、m価のRに()内に示される基がm個結合した化合物を示す。mは、1以上の整数であり、1〜10が好ましく、1または2が特に好ましい。mが2である場合の化合物(1)は、Rに()内に示される基が2個結合する化合物であることを示す。
【0055】
は、C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基である。Rとしては、ペルフルオロ化された基が好ましく、mが1である場合のRとしては、ペルフルオロアルキル基、またはペルフルオロアルキル基の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基が特に好ましい。mが2以上である場合には、m価のペルフルオロ飽和炭化水素基またはm価のエーテル性酸素原子を有するペルフルオロ飽和炭化水素基が好ましい。Rの炭素数は1〜20が好ましく、特に2〜10が好ましく、4〜10がとりわけ好ましい。他の式中のRにおける炭素数についても好ましい態様は同じである。
【0056】
化合物(1)の具体例としては、下記の化合物および、後述する化合物の例示中に示される。
【0057】
本発明においては化合物(1)を液相中でフッ素化して化合物(2)を得る。化合物(2)におけるk、m、Qは、化合物(1)と同じ意味を示す。R1F〜R5Fは、化合物(1)のR〜Rに対応する基であり、それぞれ独立に、R〜Rと同一の基、R〜R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR〜R中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基である。また、R6FはRがフッ素化されたm価の基である。ここでR〜Rが、それぞれ、液相フッ素化反応によりフッ素化されない基である場合には、対応するR1F〜R6FはR〜Rと同一の基である。たとえば、Rがペルフルオロ化された基である場合、RとR6Fは同一の基である。
【0058】
〜Rが、液相フッ素化反応によりフッ素化される基である場合のR1F〜R6Fは、R〜Rと同一の基、またはR〜Rの一部または全部がフッ素化された基である。本発明における液相フッ素化は、フッ素原子の導入位置を制御するのが困難である。よって単一の化合物を得たい場合には、フッ素化は、化合物(1)の完全フッ素化(すなわち、ペルフルオロ化)であることが好ましい。一方、目的物が一定以上のフッ素含有量である場合のフッ素化は、部分フッ素化であっても、完全フッ素化であってもよい。
【0059】
液相フッ素化が化合物(1)の完全フッ素化である場合のR1F〜R6Fとしては、R〜R中の該水素原子または炭素−炭素不飽和結合の全てがフッ素原子に置換された基になる。
【0060】
化合物(2)が化合物(1)の部分フッ素化物である場合のR1F〜R6Fとしては、R〜Rの一部がフッ素化された基を必須とし、R〜Rと同一の基およびR〜Rの全部がフッ素化された基を含んでいてもよい。
【0061】
1F〜R6Fが、R〜Rがフッ素化された基である場合、該基としては、水素原子や不飽和結合が残る割合でフッ素化された基、水素原子の全てがフッ素化された基、不飽和結合の全てがフッ素化された基の全てが挙げられる。
【0062】
化合物(2)の具体例としては下記の化合物および、後述する化合物中の具体例中に示される。
【0063】
本発明の製造方法としては、下記製造方法1〜3が好ましい。
<製造方法1>
製造方法1は、化合物(1a)を液相フッ素化して化合物(2a)を得て、つぎに化合物(2a)においてエステル結合の分解反応を行う、化合物(3a)の製造方法である。
【0064】
【化6】

【0065】
製造方法1は、化合物(1)における−(CHQ−部分におけるkが0または1であり、Qが−C(O)O−である場合の製造方法である。すなわち、化合物(1)における−(CHQ−部分が、−C(O)O−または−CHC(O)O−であり、R〜Rが水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−(CHC(=O)OR(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。pは0または1。)、から選ばれる基である化合物(1a)において液相フッ素化反応を行って化合物(2a)を得て、つぎに該化合物(2a)においてエステル結合の分解反応を行って化合物(3a)を得る方法である。
【0066】
化合物(1a)の液相フッ素化により−(CHQ−結合は、−C(O)O−結合または−CFC(O)O−結合になり、つぎにエステル結合を分解することにより、−C(O)O−結合からは−C(O)F基が、−CFC(O)O−結合からは−CFC(O)F基が生成する。
【0067】
化合物(1a)のR1a〜R5aについては、液相フッ素化によりフッ素化されない基(たとえば、R1a〜R5aがハロゲン原子である場合、または、ペルハロゲン化された基である場合等。)、またはフッ素化される基であってもフッ素化されなかった場合には、液相フッ素化によって生成する化合物(2a)のR1Fa〜R5FaはR1a〜R5aと同一の基になる。また、化合物(1a)のR1a〜R5aが液相フッ素化によってフッ素化された場合には、生成する化合物(2a)のR1Fa〜R5FaはR1a〜R5aの一部または全部がフッ素化された基である。R1a〜R5aの一部がフッ素化された基である場合とは、R1a〜R5a中に、C−H構造または炭素−炭素不飽和結合を有する基が存在する基が存在することをいう(後述する化合物においても同様である。)。
【0068】
1a〜R5aがフッ素化された基としては、部分フッ素化された基または完全フッ素化された基をいう。ここで、R1a〜R5aが、それぞれ−(CHC(=O)ORである場合の該フッ素化された基としては、−C(=O)OR7F(pは0)または−CHC(=O)OR7F(pは1)である。Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、から選ばれる基であり、アルキル基、炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するアルキル基、フルオロアルキル基、および炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキル基が好ましい。R7Fは、Rと同一の基、Rが部分フッ素化された基、またはRが完全フッ素化された基である。RおよびR7Fの炭素数は1以上であり、1〜10が好ましく、1〜5が特に好ましい。
【0069】
製造方法1における液相フッ素化は、ペルフルオロ化が好ましいことから、R1Fa〜R5Faは、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−(CFC(=O)OR7FF(ただし、R7FFは、Rと同一の基またはRが完全フッ素化された基である。pは、前記と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であるのが好ましい。
【0070】
化合物(2a)のエステル結合の分解で生成する化合物(3a)において、R1Ea〜R5Eaは、R1Fa〜R5Faと同一の基である。ただし、R1Fa〜R5Faが−(CFC(=O)OR7Fである場合の対応するR1Ea〜R5Eaは−(CFCOF(ただし、R7Fおよびpは、前記と同じ意味を示す。)である。
1Fa〜R5Faが、それぞれ−(CHC(=O)OR7F以外の基である場合、エステル分解反応により生成する化合物(3a)における対応する基(R1Ea〜R5Ea)はR1Fa〜R5Faと同一の基である。R1Fa〜R5Faが−C(=O)OR7F(p=0)である場合のR1Ea〜R5Eaは−C(O)F基であり、R1Fa〜R5Faが−CFC(=O)OR7F(p=1)である場合のR1Ea〜R5Eaは−CFC(O)F基である。
【0071】
化合物(1a)〜化合物(2a)のmは1以上の整数であり、1または2が好ましい。すなわち、Rは1価以上の基であり、1価または2価の基が好ましい。Rの炭素数は、フッ素化反応時の液相への溶解性の観点から1〜20が好ましい。
【0072】
1価の基であるRとしては、フルオロアルキル基または炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキル基が好ましく、ペルフルオロアルキル基を末端に有するアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基を末端に有するアルキル基、ペルフルオロアルキル基、またはエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基が好ましい。ペルフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基を末端に有する場合のRにおける、非フッ素化部分の構造としては、−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−などが挙げられる。
【0073】
2価の基であるRとしては、フルオロアルキレン基または炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキレン基が好ましく、ペルフルオロアルキレンル基、またはエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基が好ましい。
【0074】
に対応するR6Fとしては、Rがフッ素化されない基である場合のR6FはRと同一の基であり、Rがフッ素化される基である場合のR6FはRと同一の基またはRがフッ素化された基である。R6FはRがペルフルオロ化された基であるのが好ましい。
【0075】
製造方法1における化合物(1a)〜化合物(3a)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。ただし、以下の具体例において、ベンゼン環またはシクロヘキサン環に結合する置換基の位置は限定されない。
【0076】
[化合物(1a)の例]
n=0である化合物(1a)の例
【0077】
−C(=O)O−CH(CFCH−OC(=O)−C
−C(=O)O−(CH(CFCF
CHCHO−C−C(=O)O−CHCF(CF)O(CF
CH(CHO−C−C(=O)O−CHCF(CF)O(CF
4−メチルフタル酸ジ−2,2,2−トリフルオロエチル
【0078】
n=1である化合物(1a)の例
―CHC(=O)OCH(CFCHOC(=O)CH−C
CH−C―CHC(=O)OCH(CFCHOC(=O)CH−C−CH
−C(=O)O−CHCF(CF)OCFCF
【0079】
[化合物(2a)の例]
11―CFC(=O)O(CFOC(=O)CF−C11
CF−C10―CFC(=O)O(CFOC(=O)CF−C10−CF
11−CF−C(=O)O−CFCF(CF)O(CFCF
11―C(=O)O−(CF−OC(=O)−C11
11−C(=O)O−(CFCF
CFCFO−C10−C(=O)O−CFCF(CF)O(CFCF
CF(CFO−C10−C(=O)O−CFCF(CF)O(CFCF
ペルフルオロ(4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジエチル)
【0080】
[化合物(3a)の例]
11−C(=O)F
CF−C10−CF−C(=O)F
11−CF−C(=O)F
CFCFO−C10−C(=O)F
CF(CFO−C10−C(=O)F
【0081】
<製造方法2>
製造方法2は、化合物(1b)を液相フッ素化して化合物(2b)を得て、つぎに化合物(2b)においてエステル結合の分解反応を行う、化合物(3b)の製造方法である。
【0082】
【化7】

【0083】
製造方法2は、化合物(1)における−(CHQ−部分のkが0であり、Qが−OC(O)−である場合の製造方法である。すなわち、化合物(1)における−(CHQ−部分は、−OC(O)−であり、R〜Rが水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−OC(O)R(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。)である場合の化合物(1b)において、液相フッ素化反応を行って化合物(2b)を得て、つぎに該化合物(2b)においてエステル結合の分解反応を行って化合物(3b)を得る方法である。
【0084】
化合物(1b)の液相フッ素化により−OC(O)−結合は変化せず、つぎのエステル結合の分解反応により、シクロヘキシル環に結合するケト基が生成する。
【0085】
化合物(1b)のR1b〜R5bとR1Fb〜R5Fbとの関係は、化合物(1a)におけるR1a〜R5aとR1Fa〜R5Faとの関係と同様であり、R1b〜R5bが液相フッ素化によりフッ素化されない基またはフッ素化される基であってもフッ素化されなかった場合には、R1Fb〜R5FbはR1b〜R5bと同一の基になる。また、化合物(1b)のR1b〜R5bが液相フッ素化によってフッ素化された場合のR1Fb〜R5Fbは、R1b〜R5bとの一部または全部がフッ素化された基である。ここで、R1b〜R5bが、それぞれ−OC(O)Rである場合、Rは前記と同様の意味を示す。
【0086】
製造方法2における液相フッ素化も、ペルフルオロ化が好ましいことから、R1Fb〜R5Fb、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−OC(O)R7FF(ただし、R7FFは、前記製造方法1と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であるのが好ましい。
【0087】
化合物(2b)のエステル結合の分解で生成する化合物(3b)において、R1Eb〜R5Ebは、R1Fb〜R5Fbと同一の基である。ただし、R1Fb〜R5Fbが−OC(=O)OR7Fである場合、該R1Fb〜R5Fbが結合する炭素原子はC=Oを形成する(すなわち対応するR1Eb〜R5Ebはシクロヘキシル環に結合する=Oである)。
【0088】
化合物(2b)のR1Fb〜R5Fbが、それぞれ−OC(=O)OR7F以外の基である場合、エステル分解反応により生成する化合物(3b)における対応する基(R1Eb〜R5Eb)はR1Fb〜R5Fbと同一の基である。
【0089】
化合物(1b)〜化合物(2b)のmは1以上の整数であり、1または2が好ましい。すなわち、Rは1価以上の基であり、1価または2価の基が好ましい。Rの炭素数は、フッ素化反応時の液相への溶解性の観点から1〜20が好ましい。1価の基であるRおよび2価の基であるRの具体例は、化合物(1a)における例と同じである。また、Rに対応するR6Fについても化合物(1a)における例と同じである。
【0090】
製造方法2における化合物(1b)〜化合物(3b)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。ただし、以下の具体例において、ベンゼン環またはシクロヘキサン環に結合する置換基の位置は限定されない。
[化合物(1b)の例]
CH−C−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
―OC(=O)(CFC(=O)O−C
【0091】
[化合物(2b)の例]
11―OC(=O)(CFC(=O)O−C11
CF−C10−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
11−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
【0092】
[化合物(3b)の例]
ペルフルオロシクロヘキサノン
ペルフルオロ(4−メチルシクロヘキサノン)
【0093】
<製造方法3>
製造方法3は、化合物(1c)を液相フッ素化して化合物(2c)を得て、つぎに化合物(2c)においてエステル結合の分解反応を行う、化合物(3c)の製造方法である。
【0094】
【化8】

【0095】
製造方法3は、化合物(1)における−(CHQ−部分のkが1であり、Qが−OC(O)―である場合の製造方法である。すなわち、化合物(1)における−(CHQ−部分は−CHOC(O)−であり、R1c〜R5cが水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−CHOC(O)R(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。)である場合の化合物(1c)において液相フッ素化反応を行って化合物(2c)を得て、つぎに該化合物(2c)においてエステル結合の分解反応を行って化合物(3c)を得る方法である。
【0096】
化合物(1c)の液相フッ素化により−CHOC(O)−結合は−CFOC(O)−に変化し、つぎのエステル結合の分解反応により、−COF基が生成する。
【0097】
化合物(1c)のR1c〜R5cとR1Fc〜R5Fcとの関係は、化合物(1a)におけるR1a〜R5aとR1Fa〜R5Faとの関係と同様であり、R1c〜R5cが液相フッ素化によりフッ素化されない基またはフッ素化される基であってもフッ素化されなかった場合には、R1Fc〜R5FcはR1c〜R5cと同一の基になる。また、化合物(1c)のR1c〜R5cが液相フッ素化によってフッ素化された場合のR1Fc〜R5Fcは、R1c〜R5cの一部または全部がフッ素化された基である。ここで、R1c〜R5cが、それぞれ−CHOC(=O)Rである場合のRは、前記と同様の意味を示す。
【0098】
製造方法3における液相フッ素化も、ペルフルオロ化が好ましいことから、R1Fb〜R5Fb、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−CFOC(=O)R7FF(ただし、R7FFは、前記と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であるのが好ましい。
【0099】
化合物(2c)のエステル結合の分解で生成する化合物(3c)において、R1Ec〜R5Ecは、R1Fc〜R5Fcと同一の基である。ただし、R1Fc〜R5Fcが−CFOC(=O)R7Fである場合の対応するR1Ec〜R5Ecは−C(O)F基である。
【0100】
化合物(2c)のR1Fc〜R5Fcが、それぞれ−CFOC(=O)R7F以外の基である場合、エステル分解反応により生成する化合物(3c)における対応する基(R1Ec〜R5Ec)はR1Fc〜R5Fcと同一の基である。
【0101】
化合物(1c)〜化合物(2c)のmは1以上の整数であり、1または2が好ましい。すなわち、Rは1価以上の基であり、1価または2価の基が好ましい。Rの炭素数は、フッ素化反応時の液相への溶解性の観点から1〜20が好ましい。1価の基であるRおよび2価の基であるRの具体例は、化合物(1a)における例と同じである。また、Rに対応するR6Fについても化合物(1a)における例と同じである。
【0102】
製造方法3における化合物(1c)〜化合物(3c)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。ただし、以下の具体例において、ベンゼン環またはシクロヘキサン環に結合する置換基の位置は限定されない。
【0103】
[化合物(1c)の例]
−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
CH(CHO−C−CH−OC(=O)−CF(CF)O(CFCF
CH(CHO−C−C−CH−OC(=O)−CF(CF)O(CFCF
CH(CH−C−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
―CHOC(=O)(CFC(=O)OCH−C
−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
CH(CHO−C−CH−OC(=O)−CF(CF)O(CFCF
CH(CHO−C−C−CH−OC(=O)−CF(CF)O(CFCF
CH(CH−C−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
【0104】
[化合物(2c)の例]
11―CFOC(=O)(CFC(=O)OCF−C11
11−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
CF(CFO−C10−CF−OC(=O)−CF(CF)O(CFCF
CF(CFO−C10−C10−CF−OC(=O)−CF(CF)O(CFCF
CF(CF−C10−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)O(CFCF
【0105】
[化合物(3c)の例]
11−C(=O)F
CFCFO−C10−C(=O)F
CF(CFO−C10−C(=O)F
CF(CFO−C10−C10−C(=O)F
CF(CF−C10−C(=O)F
ペルフルオロ(4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボニル)ジフルオライド
【0106】
本発明の方法で得られる該含フッ素シクロヘキシル誘導体であるカルボニル化合物の用途は特に限定されない。該化合物は、−COF基や、ケト基、または該基以外の化学変換しうる基の反応性を利用して他の化合物に変換することにより種々の有用な用途に用いうる。
【0107】
本発明により得られるカルボニル化合物を他の化合物に変換する例としては、−CF(CF)COFの熱分解反応により−CF=CF基を形成させる例、−COF基を還元反応して−CHOH基に変換する例等が挙げられる。また、−COF基を複数有する含フッ素シクロヘキシル誘導体からは、分子内環化反応による酸無水物合成などが可能である。得られた化合物は、架橋剤やモノマーの一部として利用できる。また、含フッ素シクロヘキシル誘導体から合成される過酸化物は、含フッ素環構造の導入剤やラジカル重合開始剤として用いられる。
【0108】
本発明により得られる化合物の用途としては、含フッ素環構造を有するポリマーの原料、含フッ素環構造を有する架橋剤の原料、または含フッ素環構造を有する開始剤の原料等が挙げられる。
【0109】
本発明の製造方法において、高い収率で生成物が得られる理由は必ずしも明らかではないが、液相フッ素化において、エステル結合にはベンゼン環に生じるラジカルを安定化させる効果があるため、高い収率でフッ素化が実施できると考えられる。該効果は、ベンゼン環以外の芳香環にも生じると考えられ、多環芳香環やヘテロ環から含フッ素飽和環へ変換させる際にも本発明を適用することができると考えられる。
【実施例】
【0110】
以下に本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されない。なお、ガスクロマトグラフィをGCと、ガスクロマトグラフィ質量分析をGC−MSと記す。また、GCのピーク面積比より求まる純度をGC純度、Cのピーク面積比より求まる収率をGC収率と記し、NMRスペクトルのピーク面積比より求まる収率をNMR収率と記す。収率はフッ素化前のエステル化合物からの収率を示す。テトラメチルシランをTMS、CClFCClFをR−113、FC(=O)CF(CF)OCFCFCFを(HFPO)、FC(=O)CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFを(HFPO)、CFCFCHCl/CClFCFCHClF混合液をAK−225と記す。また、NMRスペクトルデータは、みかけの化学シフト範囲として示した。19F−NMRによる定量ではCを内部標準に用いた。Cyはシクロヘキシル基、Cyはペルフルオロシクロヘキシル基を示す。Cはフェニル基を示す。Phは1,4−フェニレン基を示す。CyF2は1,4−ペルフルオロシクロヘキシレン基を示す。
【0111】
[例1]Cy−COFの製造例
[例1−1]Cy−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの製造例
3Lのニッケル製オートクレーブに(HFPO)(4992g)を加えて撹拌し、20℃に保った。オートクレーブガス出口には0℃に保持した冷却器を設置した。窒素ガスを2.0時間吹き込んだ後、窒素ガスで20%に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスと記す。)を、流速133.7L/hで6.0時間吹き込んだ。つぎにオートクレーブ内温を25℃にして、該流速で20%フッ素ガスの吹き込みを続けながら、C−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFを流速38g/hで24時間かけて注入した後、20%フッ素ガスから窒素ガスで50%に希釈したフッ素ガス(以下、50%フッ素ガスと記す。)に切り替えた(流速53.5L/h)。該流量でC−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFを流速38g/hで24時間かけて注入した後、50%フッ素ガスの吹き込みを続けたまま原料を流速85g/hで44時間かけて注入した。得られた粗液中の目的物をGC−MSおよび19F−NMRで分析した結果、標記化合物の生成が確認され、NMR収率は69.2%であった。
【0112】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,内部標準:ヘキサフルオロベンゼン(−162.5ppm))δ(ppm):−75.5:−75.5(2F),−78〜−85(13F),−112〜−144(13F),−145(1F),−187.8(1F)。
【0113】
[例1−2]Cy−COFの製造例
例1−1で得たCy−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFを43重量%含む(HFPO)溶液(3000g)に対して0.2倍モルのKF粉末を共にフラスコに仕込み、激しく撹拌しながらオイルバス中で110℃で10時間加熱した。フラスコ上部には20℃に温度調節した還流器を設置した。冷却後液状サンプルを回収した。GC−MSおよび19F−NMRで分析した結果、標記化合物の生成が確認され、Cy−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFからのNMR収率は92.7%であった。
【0114】
[例2]CFCFCFCFO−CyF2−COFの製造例
[例2−1]CHCHCHCHO−Ph−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCFCFの製造例
4−ブトキシベンジルアルコール(25.01g,139mmol)をAK−225溶媒180mLに溶解させ、そこにピリジン(34mL,416mmol)を加え、氷浴下で撹拌した。そこへ、(HFPO)(61.95g,183mmol)を30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で1h撹拌した。反応液をAK−225、飽和重曹水、水で洗浄・抽出し、得られた粗液をカラム精製したところ(精製分取装置:テレダイン・イスコ社製コンビフラッシュ,シリカゲルカートリッジ:Biotage SNAP KP−Sil 340g,溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=20/1〜2/1)、目的物が51.6g得られた(収率71.5%)。
【0115】
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDCl,基準:TMS)δ(ppm):0.98(t,J=7.2,3H),1.49(m,2H),1.77(m,2H),3.97(t,J=6.6,2H),5.31(s,2H),6.89(m,2H),7.28(m,2H).
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−80.0〜−80.6(m,1F),−81.8(t,J=7.6,3F),82.5(m,3F),−86.7〜−87.3(m,1F),−130.2(m,3F),−132.1(m,1F).
【0116】
[例2−2]CFCFCFCFO−CyF2−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCFCFの製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
【0117】
オートクレーブにR−113(390g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに、窒素ガスを25℃で1時間吹き込んでから、20%フッ素ガスを25℃、流速15.3L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例2−1で合成したCHCHCHCHO−Ph−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCFCF(17g)をR−113(153g)に溶解した溶液を7.5時間かけて注入した。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだあと、オートクレーブの注入口と排出口を閉め一晩静置した。
つぎに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んでから、20%フッ素ガスを25℃、流速15.3L/hで2.5時間吹き込んだ。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01 g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら33mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をNMRで分析した結果、目的物(反応収率65%)の生成を確認した。
【0118】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl/R−113,基準:CFCl)δ(ppm):−75.9(2F),−80.0〜−85.0(12F),−87.0(1F),−110.0〜−157.0(16F),−175.0〜−195.0(1F).
【0119】
[例2−3]CFCFCFCFO−CyF2−COFの製造例
10℃に調整した冷却管、温度計を備えたフラスコに、例2−2で合成したCFCFCFCFO−CyF2−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCFCF(23.1g,26.4mmol)およびKF(0.33g,5.3mmol)を投入して、90℃で2時間撹拌し、その後2時間かけて内温100℃まで加熱した。加熱を保持したまま60mmHgの減圧下で蒸留し、78〜85℃の留分(4.65g)を得て目的物の生成を確認した(GC純度67.2%)。
【0120】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):40.0(m,1F),−80.0〜−81.0(m,2F),−81.5(m,3F),−117.3〜−137.8(m,13F),−180.1(m,1F)
【0121】
[例3]CFCFCFCFO−CyF2−CyF2−COFの製造例
[例3−1]CHCHCHCHO−Ph−Ph−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCFCFの製造例
HOCH−Ph−Ph−OCHCHCHCH(18.97g,74mmol)をアセトン溶媒700mLに溶解させ、そこにピリジン(18mL,222mmol)を加え、氷浴下で撹拌した。そこへ(HFPO)(32.5g,97.9mmol)を20分かけて滴下した。滴下終了後、室温で1h撹拌した。さらに(HFPO)(8.2g)を追加し1h撹拌した。反応液を半分量以下になるまで溶媒留去した後、酢酸エチル、飽和重曹水、水で洗浄・抽出し、得られた粗液をカラム精製したところ(精製分取装置:テレダイン・イスコ社製コンビフラッシュ,シリカゲルカートリッジ:Biotage SNAP KP−Sil 340g,溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=20/1〜2/1)、目的物が31.7g得られた(収率71.2%)。
【0122】
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDOD,基準:TMS)δ(ppm):1.00(t,J=7.5,3H),1.52(m,2H),1.78(m,2H),4.00(t,J=6.6,2H),5.49(s,2H),6.97(m,2H),7.50(m,6H)
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDOD,基準:CFCl)δ(ppm):−78.9〜−79.5(m,1F),−81.2(t,J=6,2,3F),−82.0(d,-J=2.8,3F),−85.5〜−86.1(m,1F),−129.3(m,3F),−131.0(m,1F).
【0123】
[例3−2]CFCFCFCFO−CyF2−CyF2−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCFCFの製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(420g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを25℃、流速18.4L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例3−1で合成したCHCHCHCHO−Ph−Ph−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCFCF(15.5g)をR−113(139.5g)に溶解した溶液を8.3時間かけて注入した。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら33mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をNMRで分析した結果、目的物の生成を確認した(反応収率75.9%)。
【0124】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl/R−113,基準:CFCl)δ(ppm):−75.9(2F),−80.0〜−85.0(12F),−87.0(1F),−110.0〜−160.0(24F),−175.0〜−195.0(3F).
【0125】
[例3−3]CFCFCFCFO−CyF2−CyF2−COFの製造例
10℃に調整した冷却管、温度計を備えたフラスコに、例3−2で合成したCFCFCFCFO−CyF2−CyF2−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCFCF(19.45g,17.09mmol)およびKF(0.18g,3.4mmol)を投入して、90℃で2時間撹拌した。その後2時間かけて100℃まで加熱、250mmHgまで減圧し、(HFPO)を初留として得た。加熱を保持したまま、3mmHgの減圧下で蒸留し、68〜76℃の留分(3.26g)を得て目的物の生成を確認した(GC純度66.7%)。
【0126】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):40.1〜37.0(m,1F),−80.1〜−81.0(m,2F),−81.5(m,3F),−114.8〜−138.4(m,22F),−180.0(m,2F).
【0127】
[例4]Cy−COFの製造例
[例4−1]Cy−C(=O)O−(CFCFの製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500 mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(312g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを25℃、流速7.2L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、C−C(=O)O−CHCH(CFCF(3.0g)をR−113(60g)に溶解した溶液を2.4時間かけて注入した。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら33mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をNMRで分析した結果、目的物の生成を確認した(反応収率85.6%)。
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−81.7(3F),−86.3(2F),−112〜−145(22F),−179.5(1F).
【0128】
[例4−2]Cy−COFの製造例
例4−1で得たCy−C(=O)O−(CFCFを例1−2と同様の方法により反応させCy−COFを得る。
【0129】
[例5]CFCFO−CyF2−COFの製造例
[例5−1]CHCHO−Ph−C(=O)O−CHCF(CF)OCFCFCFの製造例
4−エトキシ塩化ベンゾイル(34g、0.18mol)を300mL四つ口フラスコに入れ、トリエチルアミン(54.77g、0.54mol)とAK−225(80mL)を加えて撹拌した。氷冷下でCFCFCFOCF(CF)CHOH(70.7g、0.2mol、純度88.8%、THF11.2%)を滴下した。滴下後、室温で3時間撹拌しGCで原料の消失を確認した。生成した塩をろ過により除去し、ろ液をイオン交換水200mLで4回、1N−塩酸水溶液100mLで3回洗浄した。さらに水200mLで洗浄した後、乾燥、ろ過、濃縮し、赤色の粗液を82.29g得た。GC純度99.3%であった。得られた粗液に対して減圧蒸留と水洗を行い、目的物を67.61g得た。収率80.7%、GC純度は100%であった。
【0130】
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDCl,基準:TMS)δ(ppm):1.5(3H),4.1(2H),4.86(2H),6.93(2H),8.05(2H).
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−81.8(3F),−82.3〜−82.7(2F),−83.3(3F),−131(2F),−134.3(1F).
【0131】
[例5−2]CFCFO−CyF2−C(=O)O−CFCF(CF)OCFCFCFの製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(312g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを25℃、流速16.7L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例5−1で得たCHCHO−Ph−C(=O)O−CHCF(CF)OCFCFCF(5.0g)をR−113(90g)に溶解した溶液を3.0時間かけて注入した。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら21mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をGC−MSとNMRで分析した結果、標記化合物(CFCFO−CyF2−C(=O)O−CFCF(CF)OCFCFCF)と下記式で表わす化合物の生成を確認した。標記化合物と下記化合物を合わせた収率は82.3%であり、生成比率は、標記化合物:下記化合物=3:1(モル比)であった。
【0132】
【化9】

【0133】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−80〜−83(10F),−85〜−88(5F),−117〜−140(11F),−145〜−150(1F),−160〜−200(1F).
【0134】
[例5−3]CFCFO−CyF2−COFの製造例
例5−2で得たCFCFO−CyF2−C(=O)O−CFCF(CF)OCFCFCFを含む溶液(6.73g)とKF(0.1g、0.2当量)を反応蒸留装置がつながった50mLナスフラスコに加えて加熱した。バス温100℃の時に無色透明液の主留分を2g得た。そのときのトップ温度は約83℃であった。回収率は92%であった。得られた主留分に対して再度蒸留を行い目的化合物の留分(0.8g)を得た。
【0135】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):40.0(1F),−85.5−−86.2(2F),−87(3F),−110〜−140(9F),−145〜−156.4(1F),−180(1F).
【0136】
[例6]CFCFCFCFO−CyF2−COFの製造例
[例6−1]CHCHCHCHO−Ph−C(=O)O−CHCF(CF)OCFCFCFの製造例
4−ブトキシ塩化ベンゾイルを500mLの4つ口フラスコに入れ、トリエチルアミン(65.13g、0.64mol)とAK−225(100mL)を加えて撹拌した。氷冷下でCFCFCFOCF(CF)CHOH(161.64g、0.28mol、純度86.2%、THF13.4%)を滴下した。
滴下後、室温で2時間撹拌しGCで原料の消失を確認した。生成した塩をろ過により除去し、ろ液を2N−塩酸水溶液(50mL)で1回、イオン交換水(100mL)で5回洗浄した。乾燥、ろ過、濃縮の後、赤色の粗液(130g)を得た。GC純度95%であった。粗液に対して減圧蒸留を行ったところ、1mmHgの減圧下145℃で留出し、薄黄色液体(109g)を得た。回収率は96%であった。収率86%、GC純度は100%であった。
【0137】
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDCl,基準:TMS)δ(ppm):1.0(3H),1.45−1.8(4H),4.0(2H),4.9(2H),6.95(2H),8.05(2H).
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−81.7(3F),−82.3〜−82.7(2F),−83.03(3F),−130.5(2F),−134.4(1F).
【0138】
[例6−2]CFCFCFCFO−CyF2−C(=O)O−CFCF(CF)OCFCFCFの製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(400g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを25℃、流速20.4L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例6−1で得たCHCHCHCHO−Ph−C(=O)O−CHCF(CF)OCFCFCF(45.0g)をR−113(405g)に溶解した溶液を18時間かけて注入した。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら33mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をGC−MSとNMRで分析した結果、標記化合物の生成を確認した(反応収率84.6%)。
【0139】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−80〜−83(13F),−86〜−88(2F),−117〜−140(15F),−141〜−160(1F),−165〜−200(1F).
【0140】
[例6−3]CFCFCFCFO−CyF2−COFの製造例
100mLナスフラスコに充填物(ヘリパックNo.1)を30cm詰めた蒸留塔を備えた反応蒸留装置に、R−113を留去した例6−2の生成物54.26g(0.062mol)とKF0.72g(0.012mol、0.2eq)を加えて加熱した。バス温を100℃に加熱し、CFCFCFOCF(CF)COFをまず留出させた。その後、減圧に切り替えて標記化合物を留出した。標記化合物の19F−NMR純度は80%、熱分解での回収率は94%であった。例6−2から例6−3までの収率は64%であった。
【0141】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):39.5(1F),−80.2〜−81.0(2F),−81.7(3F),−115.0〜−155.8(13F),−180(1F).
【0142】
[例7]ペルフルオロ(4−メチルシクロヘキサノン)の製造例
[例7−1]CF−CyF2−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(313g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを25℃、流速11.9L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、CH−Ph−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(56g)をR−113(504g)に溶解した溶液を18時間かけて注入した。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら33mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をGC−MSとNMRで分析した結果、目的物の生成を確認した(反応収率80.1%)。
【0143】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−69〜−71(3F),−78.7〜−85(13F),−110〜−155.3(13F),−188〜−190(1F).
【0144】
[例7−2]ペルフルオロ(4−メチルシクロヘキサノン)の製造例
例7−1で得たCF−CyF2−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFに対し、例6−3と同様の方法により反応蒸留を行った。反応温度は約90℃であった。単蒸留ではHFPOと目的物を分けられなかったため、充填物(ヘリパックNo,1)を約5cm詰めた蒸留塔を用いて再度蒸留を行ったところ、目的物を単離することができた(沸点83℃)。例7−1から例7−2までの収率は62%であった。
【0145】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−69.7(3F),−111.0〜−112.5(4F),−133.0〜−136.0(4F),−189.5(1F).
【0146】
[例8]ペルフルオロシクロヘキサノンの製造例
[例8−1]Cy−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(313g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに、窒素ガスを25℃で1時間吹き込んでから、窒素ガスで20%体積に希釈したフッ素ガスを25℃、流速7.84L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、C−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(5.0g)をR−113(100g)に溶解した溶液を3.1時間かけて注入した。
つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.006g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら21mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。ベンゼンの注入総量は0.13gであった。
さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をNMRで分析した結果、目的物(反応収率94%)の生成を確認した。
【0147】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−72.0〜−80.6(m,4F),−82.1〜−82.4(m,8F),−83.0〜−85.5(m,1F),−110.0〜−145.0(m,15F).
【0148】
[例8−2]ペルフルオロシクロヘキサノンの製造例
20℃に調整した冷却管、温度計を備えたフラスコに、例8−1で得た内容物(Cy−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFを5.2g含む。)、およびKF(0.13g)を投入して、3時間かけて120℃まで加熱した。その間に、85℃で5時間、撹拌した。フラスコを冷却してから100mmHgの減圧下で蒸留して、32〜33℃の留分(1.9g)を得た。NMRおよびGCを用いて分析した結果、目的物(GC純度32%)の生成を確認した。
【0149】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl/R−113基準:CFCl)δ(ppm):−125.2(bs,4F),−133.1(bs,2F),−133.7(bs,4F)
【0150】
[例9]ペルフルオロ(4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボニル)ジフルオライドの製造例
【0151】
【化10】

【0152】
[例9−1]4−メチルフタル酸(ビス−2,2,2−トリフルオロエチル)の製造例
トリエチルアミン(21.9g、217mmol)、塩化メチレン(40mL)を200mLの丸底フラスコに入れ、撹拌しながら氷水で冷却した。トリフルオロエタノール(21.6g,216mmol)の塩化メチレン(15mL)溶液を、内温が10℃以下に保たれるように滴下した。滴下終了後、4−メチルフタル酸クロリド(15.6g,71.9mmol)の塩化メチレン(40mL)溶液を内温が10℃以下に保たれるように滴下した。1.5時間撹拌を続けた後、室温に戻してさらに1.5時間、撹拌を続けた。塩化メチレン(50mL)を加えて、水、1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて静置した。硫酸マグネシウムをろ過し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた粗液を減圧蒸留して標記目的物(16.4g,46.7mmol,GC純度99%,沸点132℃(5mmHg))を得た。
【0153】
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDCl,基準:TMS)δ(ppm):2.46(s,1H),4.61〜4.71(m,6H),7.40〜7.43(m,1H),7.53〜7.54(m,1H),7.74〜7.77(m,1H).
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−74.0(q,6F).
【0154】
[例9−2]ペルフルオロ(4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジエチル)の製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(313g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに、窒素ガスを25℃で1時間吹き込んでから、20%フッ素ガスを25℃、流速10.56L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例9−1で得た4−メチルフタル酸(ビス−2,2,2−トリフルオロエチル)(5.1g)をR−113(96g)に溶解した溶液を4時間かけて注入した。
つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.02g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら63mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。ベンゼンの注入総量は1.3gであった。
さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をNMRで分析した結果、目的物(反応収率67%)の生成を確認した。
【0155】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−69.6〜−71.2(m,3F),−87.0(m,6F),−92.0(m,4F),−111.0〜−145.0(m,6F),−169.0〜−180.0(m,2F),−186.0〜−187.0(m,1F).
【0156】
[例9−3]ペルフルオロ(4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボニル)ジフルオライドの製造例
還流冷却管、温度計を備えたフラスコに、例9−2で得た内容物(例9−2目的物を6.5g含む。)、およびKF(0.17g)を投入して、85℃で5時間、撹拌した。フラスコを冷却してから100mmHgの減圧下で蒸留して、64〜65℃の留分(10.23g)を得た。NMRおよびGCを用いて分析した結果、目的物(GC純度89%)の生成を確認した。
【0157】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):37.2〜34.0(m,2F),−69.5〜−70.2(m,3F),−108.5〜−133.0(m,6F),−170.0〜−180.0(m,2F),−183.0〜−198.5(m,1F)
【0158】
[例10]CF(CF−CyF2−COFの製造例
[例10−1]CH(CH−Ph−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの製造例
CH(CH−Ph−CH−OH(28.0g,145.6mmol)、AK−225(700mL)、ピリジン(35.3mL,436.8mmol)を、滴下漏斗を備えたフラスコに入れ、氷浴下で撹拌した。(HFPO)(87.0g,174.7mmol)を30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で2h撹拌した。反応液をAK−225、飽和重曹水、水で洗浄・抽出し、得られた粗液をカラム精製したところ(精製分取装置:テレダイン・イスコ社製コンビフラッシュ,シリカゲルカートリッジ:Biotage SNAP KP−Sil 340g、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=20/1〜2/1)、目的物が97.7g得られた(収率100%)。
【0159】
H−NMR(300.4MHz,溶媒:CDCl,基準:TMS)δ(ppm):0.88(t,J=7.2,3H),1.30(m,6H),1.60(m,2H),2.61(t,J=8.1,2H),5.34(m,2H),7.23(m,4H).
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl,基準:CFCl)δ(ppm):−79.1〜−80.4(m,1F),−80.6(m,3F),81.9(m,3F),−82.1(bs,-2F),−82.6(m,3F),−130.1(s,2F),−132.0(m,1F),−144.6〜−145.8(m,1F).
【0160】
[例10−2]CF(CF−CyF2−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(500g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに窒素ガスを25℃で2時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを25℃、流速22.7L/hで2時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例10−1で得たCH(CH−Ph−CH−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(27g)をR−113(385g)に溶解した溶液を13.2時間かけて注入した。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら33mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1.5時間撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ後、反応液を回収した。
つぎに得られた反応液(129.6g)とR−113(260g)をオートクレーブに加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んでから、20%フッ素ガスを25℃、流速22.3L/hで1時間吹き込んだ。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら123mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をGC−MSとNMRで分析した結果、目的物の生成を確認した(反応収率74.8%)。
【0161】
[例10−3]CF(CF−CyF2−COFの製造例
10℃に調整した冷却管、温度計を備えたフラスコに例10−2で得たCF(CF−CyF2−CF−OC(=O)−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(129g,114mmol)およびKF(1.33g,23mmol)を入れて90℃で撹拌し、(HFPO)を留去した。さらに100℃で20〜5mmHgまで減圧し、89〜92℃の留分(52.93g)を得た。留分を分析した結果、目的物の生成を確認した(GC純度70%)。
【0162】
19F−NMR(282.7MHz,溶媒:CDCl3,基準:CFCl3)δ(ppm):40.038〜36.828(m,1F),−81.29(t,J=10.7,3F),−112.64〜−131.23(m,18F),−180.05〜−187.55(m,2F).
【0163】
[例11]Cy−CF−COFの製造例
[例11−1]C−CH−C(=O)O−CHCF(CF)OCFCFCFの製造例
フェニルアセチルクロリド(0.2mol)を300mL四つ口フラスコに入れ、トリエチルアミン(0.5mol)とAK−225(80mL)を加えて撹拌する。氷冷下でCFCFCFOCF(CF)CHOH(0.2mol)を滴下する。滴下後、室温で3時間撹拌しGCで原料の消失を確認する。生成した塩をろ過により除去し、ろ液をイオン交換水200mLで4回、1N−塩酸水溶液100mLで3回洗浄する。さらに水200mLで洗浄した後、乾燥、ろ過、濃縮する。得られる粗液に対して減圧蒸留と水洗を行い、GC−MSとNMRで分析して標記化合物の生成を確認する。
【0164】
[例11−2]Cy−CF−C(=O)O−CFCF(CF)OCFCFCFの合成
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置する。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置する。
オートクレーブにR−113(312g)を加え、25℃に保持しながら撹拌する。そのままオートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを25℃、流速17L/hで1時間吹き込む。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例11−1で得られるC−CH−C(=O)O−CHCF(CF)OCFCFCF(5.0g)をR−113(90g)に溶解した溶液を3.0時間かけて注入する。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続ける。20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで加熱しながら21mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉める。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続ける。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込む。オートクレーブの内容物をGC−MSとNMRで分析して標記化合物の生成を確認する。
【0165】
[例11−3]Cy−CF−COFの製造例
例11−2で得られるCy−CF−C(=O)O−CFCF(CF)OCFCFCFを含む溶液(6g)とKF(0.2当量)を反応蒸留装置がつながった50mLナスフラスコに加えて加熱する。留分をGC−MSとNMRで分析して標記化合物の生成を確認する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることを特徴とする下式(2)で表される化合物の製造方法。
【化1】

ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
、R、R、RおよびR:それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ヘテロ原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびヘテロ原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。
Q:−C(O)O−または−OC(O)−。
k:0以上の整数。
m:1以上の整数。
:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。
6F:Rがフッ素化されたm価の基。ただしRがフッ素化されない基である場合はRと同一の基。
1F、R2F、R3F、R4FおよびR5F:R1FはRに、R2FはRに、R3FはRに、R4FはRに、R5FはRにそれぞれ対応する基であり、それぞれ独立に、R〜Rと同一の基、R〜R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR〜R中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。
【請求項2】
1F、R2F、R3F、R4FおよびR5Fが、それぞれ独立に、R〜R中の水素原子の全部がフッ素原子に置換された基、およびR〜R中の炭素−炭素不飽和結合の全部がフッ素化された基、から選ばれる基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
下式(1a)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることにより下式(2a)で表される化合物を得て、つぎに式(2a)で表される化合物においてエステル結合の分解反応を行うことを特徴とする下式(3a)で表される化合物の製造方法。
【化2】

ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
1a、R2a、R3a、R4aおよびR5a:それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−(CHC(=O)OR(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。pは0または1。)、から選ばれる基。
n:0または1。
m:1以上の整数。
:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。
6F:Rがフッ素化されたm価の基であり、Rがフッ素化されない基である場合はR6と同一の基。
1Fa、R2Fa、R3Fa、R4FaおよびR5Fa:R1FaはR1aに、R2FaはR2aに、R3FaはR3aに、R4FaはR4aに、R5FaはR5aにそれぞれ対応する基であり、R1a〜R5aと同一の基、R1a〜R5a中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR1a〜R5a中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。
1Ea、R2Ea、R3Ea、R4EaおよびR5Ea:R1EaはR1Faに、R2EaはR2Faに、R3EaはR3Faに、R4EaはR4Faに、R5EaはR5Faにそれぞれ対応する基であり、R1Fa〜R5Faと同一の基。ただし、R1Fa〜R5Faが−(CFC(=O)OR7Fである場合の対応するR1Ea〜R5Eaは−(CFCOF(R7Fは、Rと同一の基、R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。pは前記と同じ意味。)である。
【請求項4】
1a、R2a、R3a、R4aおよびR5aが、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、および−(CHC(=O)OR(ただし、Rは、前記と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であり、
1Fa、R2Fa、R3Fa、R4FaおよびR5Faが、それぞれ独立に、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−(CFC(=O)OR7FF(ただし、pは、前記と同じ意味を示し、R7FFはRがフッ素化されない基である場合にはR7Fと同一の基であり、Rがフッ素化される基である場合にはR7Fがペルフルオロ化された基。)、から選ばれる基であり、
1Ea、R2Ea、R3Ea、R4EaおよびR5Eaが、R1Fa〜R5Faと同一の基(ただし、R1Fa〜R5Faが−(CFC(=O)OR7Fである場合の対応するR1Ea〜R5Eaは−(CFCOF(ただし、R7Fおよびpは、前記と同じ意味を示す。)である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
下式(1b)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることにより下式(2b)で表される化合物を得て、つぎに式(2b)で表される化合物においてエステル結合の分解反応を行うことを特徴とする下式(3b)で表される化合物の製造方法。
【化3】

ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
1b、R2b、R3b、R4bおよびR5b:それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−OC(=O)R(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。)、から選ばれる基。
m:1以上の整数。
:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。
6F:Rがフッ素化されたm価の基であり、Rがフッ素化されない基である場合はRと同一の基。
1Fb、R2Fb、R3Fb、R4FbおよびR5Fb:R1FbはR1bに、R2FbはR2bに、R3FbはR3bに、R4FbはR4bに、R5FbはR5bにそれぞれ対応する基であり、R1b〜R5bと同一の基、R1b〜R5b中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR1b〜R5b中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。
1Eb、R2Eb、R3Eb、R4EbおよびR5Eb:R1EbはR1Fbに、R2EbはR2Fbに、R3EbはR3Fbに、R4EbはR4Fbに、R5EbはR5Fbにそれぞれ対応する基であり、R1Fb〜R5Fbと同一の基。ただし、R1Fb〜R5Fbが−OC(=O)R7F(R7Fは、Rと同一の基、R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。)である場合、該R1Fb〜R5Fbが結合する炭素原子はC=Oを形成する。
【請求項6】
1b、R2b、R3b、R4bおよびR5bが、水素原子、アルキル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、および−OC(=O)R(ただし、Rは、前記と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であり、
1Fb、R2Fb、R3Fb、R4FbおよびR5Fbが、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−OC(=O)R7FF(ただし、R7FFはRがフッ素化されない基である場合にはRと同一の基であり、Rがフッ素化される基である場合にはRがペルフルオロ化された基。)、から選ばれる基であり、
1Eb、R2Eb、R3Eb、R4EbおよびR5Ebが、R1Fb〜R5Fbと同一の基(ただし、R1Fb〜R5Fbが−OC(=O)R7F(R7Fは、前記と同じ意味を示す。)である場合、該R1Fb〜R5Fbが結合する炭素原子はC=Oを形成する。)である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
下式(1c)で表される化合物を液相中でフッ素と反応させることにより下式(2c)で表される化合物を得て、つぎに式(2c)で表される化合物においてエステル結合の分解反応を行うことを特徴とする下式(3c)で表される化合物の製造方法。
【化4】

ただし、式中の記号は以下の意味を表す。
1c、R2c、R3c、R4cおよびR5c:それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、および−CHOC(=O)R(ただし、Rは、一価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有する一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基、およびエーテル性酸素原子を有するハロゲン化一価炭化水素基、から選ばれる基。)、から選ばれる基。
m:1以上の整数。
:C−F結合を必須とするフッ素化されたm価の基であり、かつ、炭素原子でQと連結する基。
6F:Rがフッ素化されたm価の基であり、Rがフッ素化されない基である場合はRと同一の基。
1Fc、R2Fc、R3Fc、R4FcおよびR5Fc:R1FcはR1cに、R2FcはR2cに、R3FcはR3cに、R4FcはR4cに、R5FcはR5cにそれぞれ対応する基であり、R1c〜R5cと同一の基、R1c〜R5c中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR1c〜R5c中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。
1Ec、R2Ec、R3Ec、R4EcおよびR5Ec:R1EcはR1Fcに、R2EcはR2Fcに、R3EcはR3Fcに、R4EcはR4Fcに、R5EcはR5Fcにそれぞれ対応する基であり、R1Fc〜R5Fcと同一の基。ただし、R1Fc〜R5Fcが−CFOC(=O)R7F(R7Fは、Rと同一の基、R中の水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子に置換された基、またはR中の炭素−炭素不飽和結合の一部若しくは全部がフッ素化された基。)である場合の対応するR1Ec〜R5Ecは−COFである。
【請求項8】
1c、R2c、R3c、R4cおよびR5cが、水素原子、アルキル基、エーテル性酸素原子を有するアルキル基、および−CHOC(=O)R(ただし、Rは、前記と同じ意味を示す。)、から選ばれる基であり、
1Fc、R2Fc、R3Fc、R4FcおよびR5Fcが、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、および−CFOC(=O)R7FF(ただし、R7FFはRがフッ素化されない基である場合にはRと同一の基であり、Rがフッ素化される基である場合にはRがペルフルオロ化された基。)、から選ばれる基であり、
1Ec、R2Ec、R3Ec、R4EcおよびR5Ecが、R1Fc〜R5Fcと同一の基(ただし、R1Fc〜R5Fcが−CFOC(=O)R7FF(R7FFは、前記と同じ意味を示す。)である場合の対応するR1Ec〜R5Ecは−CFCOF。)である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
mが1である請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−232939(P2012−232939A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103029(P2011−103029)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】