説明

含フッ素スルホン、含フッ素チオエーテル、含フッ素チオエーテルの製造方法、及び、含フッ素スルホンの製造方法

【課題】エネルギー貯蔵デバイスの電解液に好適に使用可能な、新規な含フッ素スルホンを提供する。
【解決手段】下記式(1):
[化1]


(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXYH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表されることを特徴とする含フッ素スルホンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素スルホン、含フッ素チオエーテル、含フッ素チオエーテルの製造方法、及び、含フッ素スルホンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン化合物は、高温特性に優れ、高い誘電率特性を持つことから種々の用途に用いられている。例えば、エネルギー貯蔵デバイスの分野では、電気的性能などを向上させるために、各種のスルホン化合物が電解液用の溶媒として使用されている。
【0003】
エネルギー貯蔵デバイスの中でも、近年の電気自動車、ハイブリッド自動車の普及や、携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン等のデジタル携帯電子機器の急激な普及により、リチウムイオン二次電池の需要が急増している。従来、各種のスルホン化合物が電解液用の溶媒として用いられていたが、このような需要の急増に伴い、エネルギー貯蔵デバイスには、より高い性能が求められるようになってきており、電解液に用いられる溶媒にもより高い水準の特性が求められるようになってきている。
【0004】
非特許文献1では、γ線のもとでクロロフルオロエチレンにチオールを付加し、クロロフルオロエチルアルキルサルファイドを得たことが記載されている。また、上記クロロフルオロエチルアルキルサルファイドから、クロロフルオロエチルアルキルスルホン、クロロフルオロビニルスルホキシド及びクロロフルオロビニルスルホンを得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bulletin of the Chemical Society of Japan, 39(10), 2191−4; 1966
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エネルギー貯蔵デバイスの電解液に好適に使用可能な、新規な含フッ素スルホンを提供するものである。本発明はまた、上記含フッ素スルホンを製造するための中間体として好適に使用可能な、新規な含フッ素チオエーテルを提供するものである。本発明は更に、含フッ素チオエーテル、含フッ素スルホンを簡便な方法で製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記式(1):
【化1】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXYH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表されることを特徴とする含フッ素スルホンに関する。
【0008】
は、−CFCHFCF、−CFCHF、−CFCHF、−CFCHFOCF、又は、−CFCHであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、下記式(2):
【化2】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXYH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表されることを特徴とする含フッ素チオエーテルに関する。
【0010】
は、−CFCHFCF、−CFCHF、−CFCHF、−CFCHFOCF、又は、−CFCHであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、下記式(3):
−SH (3)
(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。)で表されるチオールと、下記式(4):
CF=CX (4)
(式中、XおよびYは、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表されるフルオロオレフィンと、を塩基の存在下に反応させて、下記式(5):
【化3】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表される含フッ素チオエーテルを得る工程(a)、
を含むことを特徴とする含フッ素チオエーテルの製造方法に関する。
【0012】
塩基は、水酸化アルカリ金属、及び、水酸化アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、下記式(3):
−SH (3)
(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。)で表されるチオールと、下記式(4):
CF=CX (4)
(式中、XおよびYは、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表されるフルオロオレフィンと、を塩基の存在下に反応させて、下記式(5):
【化4】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表される含フッ素チオエーテルを得る工程(a)、及び、
式(5)で表される含フッ素チオエーテルを酸化剤と反応させて、下記式(6):
【化5】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表される含フッ素スルホンを得る工程(b)、
を含むことを特徴とする含フッ素スルホンの製造方法に関する。
【0014】
塩基は、水酸化アルカリ金属、及び、水酸化アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
酸化剤は、有機過酸化物、過ハロゲン酸化物、過マンガン酸塩、クロム酸塩、トリフルオロ酢酸、及び、酢酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明は、上記含フッ素スルホンを含むことを特徴とする電解液に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の含フッ素スルホンは、新規な化合物であり、エネルギー貯蔵デバイスの電解液に用いられる溶媒として非常に有用である。本発明の含フッ素スルホンの製造方法は、含フッ素スルホンを簡便な方法で製造することができる。本発明の含フッ素チオエーテルは、上記含フッ素スルホンを製造するための中間体として有用な化合物である。本発明の新規な含フッ素スルホンは、電気化学的な安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1及び比較例のLSV測定のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、下記式(1):
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXYH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表されることを特徴とする含フッ素スルホンである。本発明の含フッ素スルホンは、新規化合物である。
【0022】
としては、分子内の分極率が高くなることによって優れた誘電特性および溶解性が得られることから、炭素数1〜7のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜5のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜4の直鎖のアルキル基であることが更に好ましい。
【0023】
Xとしては、化学電気的に高い安定性を示すことから、−CF、−OCF、又は、フッ素原子であることが好ましく、Yは、水素原子、フッ素原子、臭素原子、又は、ヨウ素原子であることが好ましく、水素原子、又は、フッ素原子であることがより好ましい。
【0024】
としては、−CFCHFCF、−CFCHF、−CFCHF、−CFCHFOCF、又は、−CFCHであることが好ましい。
【0025】
本発明は、下記式(2):
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXYH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表されることを特徴とする含フッ素チオエーテルでもある。
【0028】
としては、炭素数1〜7のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜5のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜4の直鎖のアルキル基であることが更に好ましい。
【0029】
Xとしては、化学電気的に高い安定性を示すことから、−CF、−OCF、又は、フッ素原子であることが好ましく、Yは、水素原子、フッ素原子、臭素原子、又は、ヨウ素原子であることが好ましく、水素原子、又は、フッ素原子であることがより好ましい。
【0030】
としては、−CFCHFCF、−CFCHF、−CFCHF、−CFCHFOCF、又は、−CFCHであることが好ましい。
【0031】
本発明の含フッ素チオエーテルは、式(1)で表される含フッ素スルホンを製造するための中間体として有用である。
【0032】
式(1)で表される含フッ素スルホンは、後述する本発明の含フッ素スルホンの製造方法により製造することができる。
【0033】
式(2)で表される含フッ素チオエーテルは、下記の工程(a)を含む含フッ素チオエーテルの製造方法により好適に製造できる。
【0034】
すなわち、本発明は、下記式(3):
−SH (3)
(式中、Rは上記と同じ。)で表されるチオールと、下記式(4):
CF=CX (4)
(式中、X及びYは、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表されるフルオロオレフィンと、を塩基の存在下に反応させて、下記式(5):
【0035】
【化8】

【0036】
(式中、Rは上記と同じ。Rは、−CFCXH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表される含フッ素チオエーテルを得る工程(a)、
を含むことを特徴とする含フッ素チオエーテルの製造方法でもある。
【0037】
本発明の含フッ素チオエーテルの製造方法は、塩基を存在させる点に特徴があり、極めて簡便に含フッ素チオエーテルを製造することができる。
【0038】
本発明は、また、下記式(3):
−SH (3)
(式中、Rは上記と同じ。)で表されるチオールと、下記式(4):
CF=CX (4)
(式中、X及びYは上記と同じ。)で表されるフルオロオレフィンと、を塩基の存在下に反応させて、下記式(5):
【0039】
【化9】

【0040】
(式中、R及びRは上記と同じ。)で表される含フッ素チオエーテルを得る工程(a)、及び、
式(5)で表される含フッ素チオエーテルを酸化剤と反応させて、下記式(6):
【0041】
【化10】

【0042】
(式中、R及びRは上記と同じ。)で表される含フッ素スルホンを得る工程(b)、
を含むことを特徴とする含フッ素スルホンの製造方法でもある。
【0043】
としては、化学電気的に高い安定性を示すことから、−CF、−OCF、又は、フッ素原子であることが好ましく、Yは、水素原子、ハロゲン原子であることが好ましく、水素原子、又は、フッ素原子であることがより好ましい。
【0044】
の具体例としては、−CFCHFCF、−CFCHF、−CFCHF、−CFCHFOCF、又は、−CFCHであることが好ましい。
【0045】
工程(a)において、式(3)で表されるチオールと式(4)で表されるフルオロオレフィンとは、1:1〜2:3の割合(モル比)になるように反応容器に投入することが好ましい。
【0046】
工程(a)において使用する塩基は、水酸化アルカリ金属、及び、水酸化アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記塩基は、上記式(3)で表わされるチオールに対して、60〜120モル%となるように存在させることが好ましく、80〜120モル%となるように存在させることがより好ましい。
【0047】
水酸化アルカリ金属としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムを挙げることができ、水酸化アルカリ土類金属としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムを挙げることができる。これらの中でも、水酸化カリウムが好ましい。
【0048】
工程(a)における塩基存在下での反応は、30〜80℃で行うことが好ましく、より好ましくは50〜70℃である。圧力は、0.3〜0.6MPaであることが好ましい。反応させる時間は、温度、圧力等の条件によっても異なるが、通常は1〜8時間である。
【0049】
工程(b)で用いる酸化剤は、有機過酸化物、過ハロゲン酸化物、過マンガン酸塩、クロム酸塩、トリフルオロ酢酸、及び、酢酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、これらの中でも、トリフルオロ酢酸がより好ましい。
【0050】
前記有機過酸化物としては、例えば、m−クロロ過安息香酸等を挙げることができ、前記過ハロゲン酸化物としては、過塩素酸、過ヨウ素酸等を挙げることでき、前記過マンガン酸塩としては、過マンガン酸カリウム等を挙げることができ、前記クロム酸塩としては、クロム酸カリウム、二クロム酸カリウム等を挙げることできる。
【0051】
工程(b)における酸化剤との反応は、30〜80℃で行うことが好ましく、より好ましくは40〜60℃である。圧力は、0〜0.1MPaであることが好ましい。反応させる時間は、温度、圧力等の条件によっても異なるが、通常は1〜12時間である。
【0052】
ところで、工程(a)では副反応が進行して副生成物が生成するため、式(5)で表される含フッ素チオエーテルは次の2種類の含フッ素チオエーテルを含む混合物として得られることが本発明者らによって見出された。
【0053】
すなわち、下記式(7):
【0054】
【化11】

【0055】
(式中、R、X及びYは上記と同じ。)で表される含フッ素チオエーテル、及び、式(4)におけるXが炭素数1〜5のフルオロアルキル基である場合には、下記式(8):
【0056】
【化12】

【0057】
(式中、R、Yは上記と同じ。Xは、水素原子、又は、フッ素原子であり、Xは、Xが炭素数1のフルオロアルキル基の場合は、水素原子、又は、フッ素原子であり、Xが炭素数2〜5のフルオロアルキル基の場合は、Xより炭素数が1少ないフルオロアルキル基である。)で表される含フッ素チオエーテルが副生成物として得られる。
【0058】
式(7)及び(8)で表される含フッ素チオエーテルは式(5)で表される含フッ素チオエーテルと沸点が近似するため、これらの含フッ素チオエーテルの混合物から蒸留によって式(5)で表される含フッ素チオエーテルのみを取り出すことは困難である。
【0059】
そして、式(5)、(7)及び(8)で表される含フッ素チオエーテルの混合物を工程(b)において酸化すると、式(6)で表される含フッ素スルホンとともに、次の2種類の含フッ素スルホンも生成する。
【0060】
すなわち、下記式(9):
【0061】
【化13】

【0062】
(式中、R、X、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素スルホン、及び、下記式(10):
【0063】
【化14】

【0064】
(式中、R、X、X、Yは上記と同じ。)で表される含フッ素スルホンが副生成物として得られる。
【0065】
式(9)及び(10)で表される含フッ素スルホンは式(6)で表される含フッ素スルホンと沸点が近似するため、これらの含フッ素スルホンの混合物から蒸留によって式(6)で表される含フッ素スルホンのみを取り出すこともまた困難である。
【0066】
しかしながら、以下のいずれかの方法によれば、式(6)で表される含フッ素スルホンを高い純度で得られることが本発明者らによって見出された。
【0067】
第一の方法は、工程(a)で副生成物として生成する式(7)及び(8)で表される含フッ素チオエーテルに、ハロゲン、ジアルキルアミン、モノアルキルアミン、及び、アンモニアからなる群から選択される1種を付加して、下記式(11):
【0068】
【化15】

【0069】
(式中、R、X及びYは上記と同じ。Zは付加させた化合物に由来する原子である。)で表されるチオエーテル化合物、及び、下記式(12):
【0070】
【化16】

【0071】
(式中、R、X、X、Yは上記と同じ。Zは付加させた化合物に由来する原子である。)で表されるチオエーテル化合物とした後、蒸留によって混合物から式(5)で表される含フッ素チオエーテルのみを回収して、工程(b)の酸化に供する方法である。
【0072】
第二の方法は、工程(b)において式(6)で表される含フッ素スルホンの副生成物として得られる式(9)及び(10)で表される含フッ素スルホンに、ハロゲン、ジアルキルアミン、モノアルキルアミン、及び、アンモニアからなる群から選択される1種を付加して、下記式(13):
【0073】
【化17】

【0074】
(式中、R、X及びYは上記と同じ。Zは付加させた化合物に由来する原子である。)で表されるスルホン化合物、及び、下記式(14):
【0075】
【化18】

【0076】
(式中、R、X、X、Yは上記と同じ。Zは付加させた化合物に由来する原子である。)で表されるスルホン化合物とした後、蒸留によって混合物から式(6)で表される含フッ素スルホンのみを回収する方法である。
【0077】
上記ハロゲンとしては、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記ジアルキルアミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミンなどが挙げられる。モノアルキルアミンとしては、CHNH、CHCHNHなどが挙げられる。
【0078】
ハロゲン、ジアルキルアミン、モノアルキルアミン、又は、アンモニアを付加する温度は、0〜50℃であることが好ましく、15〜50℃であることがより好ましい。反応圧力は、0〜0.1MPaであることが好ましい。反応時間は、反応温度等によって異なるが、通常は1〜3時間である。
【0079】
ハロゲン、ジアルキルアミン、モノアルキルアミン、又は、アンモニアの添加量としては、式(5)、(7)及び(8)で表される含フッ素チオエーテルの混合物、又は、式(6)、(9)及び(10)で表される含フッ素スルホンの混合物に対して、5〜100モル%であることが好ましく、5〜30モル%であることがより好ましい。
【0080】
本発明の含フッ素スルホンは、各種溶媒として使用することができ、例えば、有機合成の反応溶媒、各種無機・有機物の抽出溶媒、塗料・インク等の希釈溶媒、半導体レジスト溶媒、農薬類の希釈溶媒、エネルギー貯蔵デバイス等に用いられる電解液の溶媒として用いることができる。特に、エネルギー貯蔵デバイス用の電解液の溶媒として有用である。
【0081】
本発明は上記含フッ素スルホンを含むことを特徴とする電解液でもある。上記電解液は、電解質塩を含むことが好ましい。電解質塩としては、たとえばLiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SOなどがあげられる。
【0082】
本発明の含フッ素スルホンを用いた電解液の用途としては、例えば、電解コンデンサー、電気二重層キャパシタ、イオンの電荷移動により充電/放電される電池、エレクトロルミネッセンスなどの固体表示素子、電流センサーやガスセンサーなどのセンサーなどが挙げられる。
【0083】
中でも、正極、負極、セパレータおよび非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池用として好適に使用することができる。このようなリチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車用や分散電源用の大型リチウムイオン二次電池として特に有用であるが、そのほか小型のリチウムイオン二次電池としても有用である。
【実施例】
【0084】
つぎに本発明を実施例及び比較例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
NMR:BRUKER社製のAC−300を使用。
19F−NMR:
測定条件:282MHz(トリクロロフルオロメタン=0ppm)
1H−NMR:
測定条件:300MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
【0086】
実施例1
(付加反応)
ステンレススチール製の0.5Lオートクレーブに、30wt%の水酸化カリウム水溶液(100ml:0.5mol)、チオールとしてCSH(45.0g:0.5mol)、を入れ、室温で真空−窒素置換を3回行った。系内を真空にした後、内温を50℃まで昇温し、フルオロオレフィンとしてヘキサフルオロプロピレン(FC=CFCF)を、圧を0.4〜0.5MPaに保ちながら少しずつ加えていった。ヘキサフルオロプロピレンの添加量が1.0equivになった時点で供給を止め、50℃にて1時間反応させた。反応終了後オートクレーブを室温に戻し、ブロー後二層分離した下層の水洗を三回おこない、粗フルオロチオエーテルを得た。
【0087】
(酸化反応)
常圧下、付加反応後の粗生成物(79.6g)にトリフルオロ酢酸(18.8g:0.17mol)を加えた後、50℃で30wt%の過酸化水素水(74.8g:0.66mol)を滴下した。一晩(15時間)攪拌した後に二層分離した下層を3度水洗し、粗フルオロスルホンを得た。
【0088】
(オレフィン不純物へのアミン付加反応)
15〜25℃の温度下、常圧にて、酸化反応後の上記粗フルオロスルホン(55.3g)にジエチルアミン(4g:0.05mol、粗フルオロスルホンに対して約30モル%)を滴下し、1時間攪拌した後、反応溶液を水と1N塩酸で洗浄し、減圧下精留精製し、目的生成物(化合物1)を採取した。
【0089】
実施例2〜9
表1〜2に示す化合物、添加量にする以外は実施例1と同様の方法で、目的生成物を得ることができた。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
実施例10
(付加反応)
ステンレススチール製の0.5Lオートクレーブに、30wt%の水酸化カリウム水溶液(100ml:0.5mol)、チオールとしてCSH(45.0g:0.5mol)、を入れ、室温で真空−窒素置換を3回行った。系内を真空にした後、内温を50℃まで昇温し、フルオロオレフィンとしてヘキサフルオロプロピレン(FC=CFCF)を、圧を0.4〜0.5MPaに保ちながら少しずつ加えていった。ヘキサフルオロプロピレンの添加量が1.0equivになった時点で供給を止め、50℃にて1時間反応させた。反応終了後オートクレーブを室温に戻し、ブロー後二層分離した下層の水洗を三回おこない、粗フルオロチオエーテルを得た。
【0093】
(オレフィン不純物への臭素付加反応)
20〜50℃、常圧下、付加反応後の粗生成物(50.3g)に臭素(5.0g:0.03mol、粗フルオロチオエーテルに対して約5モル%)を加えた後、1時間攪拌した。反応終了をガスクロマトグラフィーにて確認後に3度チオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した後に減圧下蒸留精製して臭素付加されたオレフィン不純物を除き、フルオロチオエーテルを得た。
【0094】
(酸化反応)
常圧下、上記のフルオロチオエーテル(10g:0.04mol)にトリフルオロ酢酸(3.0g:0.02mol)を加えた後、50℃で30wt%の過酸化水素水(9.3g:0.8mol)を滴下し、一晩(15時間)攪拌した。反応終了後、二層分離した下層を3度水洗した後に減圧下精留精製を行い、目的のフルオロスルホン(化合物1)を得た。
【0095】
得られた化合物1のNMRデータを示す。
【0096】
19F−NMR:(CDCl):−74.0〜−74.2ppm(3F)、−113.92〜−115.0ppm(1F)、−119.3〜−120.5ppm(1F)、−212.0〜−212.3ppm(1F)
H−NMR:(CDCl):5.5〜5.3ppm(1H)、3.3〜3.1ppm(2H)、2.0〜1.9ppm(2H)、1.6〜1.5ppm(2H)、1.0〜0.9ppm(3H)
【0097】
【表3】

【0098】
耐酸化性試験
(電解液の調製)
実施例1〜9で得られた含フッ素スルホランとエチレンカーボネート(EC)と1,2−ジメトキシエタン(DME)を、含フッ素スルホラン:EC:DME=20:20:60vol%とし、この混合液に1.0モル%のLiPFを溶解した溶液を調製した。また、比較例としては、EC:DME=30:70vol%とし、この混合液に1.0モル%のLiPFを溶解した溶液を調製した。
【0099】
(電位窓の測定)
3電極式電圧測定セル(作用極:白金、対極:Li、参照極:Li、宝泉(株)製のHSセル)に上記電解液を入れ、25℃にて、ポテンシオスタットで5mV/secで電位走引し、分解電流を測定した(リニアスイープボルタンメトリ測定:LSV測定)。電流値が0.3mAを示した電圧を分解点とした。測定結果を表4に示す。
【0100】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の含フッ素スルホンは、電気化学的な安定性に優れるため、種々の用途に好適に利用できる。本発明の含フッ素スルホンは、例えば、エネルギー貯蔵デバイス用の電解液の溶媒として特に有用である。本発明の含フッ素スルホンの製造方法は、電気化学的な安定性に優れる含フッ素スルホンを簡便に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXYH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表されることを特徴とする含フッ素スルホン。
【請求項2】
は、−CFCHFCF、−CFCHF、−CFCHF、−CFCHFOCF、又は、−CFCHである請求項1記載の含フッ素スルホン。
【請求項3】
下記式(2):
【化2】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXYH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表されることを特徴とする含フッ素チオエーテル。
【請求項4】
は、−CFCHFCF、−CFCHF、−CFCHF、−CFCHFOCF、又は、−CFCHである請求項3記載の含フッ素チオエーテル。
【請求項5】
下記式(3):
−SH (3)
(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。)で表されるチオールと、下記式(4):
CF=CX (4)
(式中、XおよびYは、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表されるフルオロオレフィンと、を塩基の存在下に反応させて、下記式(5):
【化3】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表される含フッ素チオエーテルを得る工程(a)、
を含むことを特徴とする含フッ素チオエーテルの製造方法。
【請求項6】
塩基は、水酸化アルカリ金属、及び、水酸化アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種である請求項5記載の含フッ素チオエーテルの製造方法。
【請求項7】
下記式(3):
−SH (3)
(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。)で表されるチオールと、下記式(4):
CF=CX (4)
(式中、XおよびYは、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表されるフルオロオレフィンと、を塩基の存在下に反応させて、下記式(5):
【化4】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表される含フッ素チオエーテルを得る工程(a)、及び、
式(5)で表される含フッ素チオエーテルを酸化剤と反応させて、下記式(6):
【化5】

(式中、Rは酸素原子が挿入されていてもよい炭素数1〜7のアルキル基又は炭素数1〜7のフルオロアルキル基である。Rは、−CFCXH(式中、XおよびYは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のフルオロアルキル基、又は、炭素数1〜5のフルオロアルコキシ基である。)で表わされる基である。)で表される含フッ素スルホンを得る工程(b)、
を含むことを特徴とする含フッ素スルホンの製造方法。
【請求項8】
塩基は、水酸化アルカリ金属、及び、水酸化アルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種である請求項7記載の含フッ素スルホンの製造方法。
【請求項9】
酸化剤は、有機過酸化物、過ハロゲン酸化物、過マンガン酸塩、クロム酸塩、トリフルオロ酢酸、及び、酢酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項7記載の含フッ素スルホンの製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2記載の含フッ素スルホンを含むことを特徴とする電解液。

【図1】
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【公開番号】特開2012−87092(P2012−87092A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234973(P2010−234973)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】