説明

含フッ素共重合体

【課題】 高屈折率かつ低波長分散特性である含フッ素高分子化合物。
【解決手段】 5〜10員環の脂環式環状構造を有する有機基をもつα-トリフルオロメチルアクリル酸エステル(A)に基づく単位と、ビニルモノマー(B)に基づく単位とを有する含フッ素共重合体。光散乱、光吸収が少なくて高い透明性を有し、かつ、高屈折率、かつ、低波長分散特性を有するバランスに優れた光学材料となる。しかも、溶媒への溶解性や、熱加工性を有するため、溶液からの塗布、流延、紡糸などの方法や溶融による被覆、注型、紡糸などの方法で成形できる。更に吸水率が低いため、吸水による反りなどがおきにくいため寸法安定性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を分子中に有する透明な共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素高分子化合物は、良好な耐薬品性、低誘電率特性を有することから、種々の用途に使用されている。特に光学材料用途では、プラスチック光ファイバのクラッド材料、被覆材料として使用されている。
元来、含フッ素高分子化合物はフッ素原子の性質に由来して、低屈折率で、低波長分散特性である特徴を有し、潜在的に光学用途に対して有用な材料になりうる可能性を持っている。
しかしながら、光学材料、特にレンズ材料として用いるためには、高屈折率かつ低波長分散である必要がある。例えば、非特許文献1で報告されているペルフルオロ樹脂のような含フッ素高分子化合物は、低波長分散特性を有するが低屈折率であるため、レンズ材料として用いた場合、レンズの焦点距離が長くなる等の問題点がある。
【非特許文献1】中村秀 等著"J. Chem. Soc. Jpn. 2001, 12, 659"
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、高屈折率かつ低波長分散特性である含フッ素高分子化合物の実現を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意、検討を重ねてきた結果、α-トリフルオロメチルアクリル酸エステル(A)とビニルモノマー(B)とを重合して得られる含フッ素共重合体が屈折率、波長分散特性が良好であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記化学式で表されるα-トリフルオロメチルアクリル酸エステル(A)に基づく単位と、ビニルモノマー(B)に基づく単位とを有する含フッ素共重合体である。
【0005】
【化1】

(R1は、5〜10員環の脂環式環状構造を有する有機基を表す)
ここで、ビニルモノマー(B)はアクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステルであることが望ましい。
また、数平均分子量が1000〜1000000の範囲にあることが望ましい。
屈折率が1.492〜1.7、アッベ数が55〜130の範囲にあることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の含フッ素共重合体は、光散乱、光吸収が少なくて高い透明性を有し、かつ、高屈折率、かつ、低波長分散特性を有するバランスに優れた光学材料となる。しかも、溶媒への溶解性や、熱加工性を有するため、溶液からの塗布、流延、紡糸などの方法や溶融による被覆、注型、紡糸などの方法で成形できる。更に吸水率が低いため、吸水による反りなどがおきにくいため寸法安定性に優れる。
そのため、プラスチック光ファイバ、プラスチックロッドレンズや光導波路などの材料として透明性の高い高分子化合物を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において用いるα-トリフルオロメチルアクリル酸エステル(A)は上記化学式で表される。
その化学式において、エステル部位のR1は5〜10員環の脂環式環状構造を有する有機基である。例えばアダマンチル骨格を有する有機基が挙げられる。具体的には、1-アダマンチル、2-アダマンチル、2-メチル-1-アダマンチル、2-メチル-2-アダマンチル、1-ヒドロキシ-2-アダマンチル3-ヒドロキシ-1-アダマンチルなどが挙げられる。
モノマー(A)としては、そのα-トリフルオロメチルアクリル酸エステルを含む混合物であってもよい。
本発明で使用されるα-トリフルオロメチルアクリル酸エステル(A)は、どのような方法で製造されたものであってもよい。例えば、特開2003-137841号公報には、α-トリフルオロメチルアクリル酸クロリドと1,3-アダマンタンジオールを-10℃で反応させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで1-アダマンチル-3-ヒドロキシ-α-トリフルオロメチルアクリレートが得られることが記載されている。
【0008】
本発明に使用されるビニルモノマー(B)としては、アクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル類が好適に用いられる。
これらのエステル類の具体例としては、下記一般式で表される化合物を用いることができる。
【0009】
【化2】

【0010】
上記一般式において、R2は水素原子またはメチル基を表す。R3は水素原子、C1〜C20のアルキル基、C3〜C20のシクロアルキル基、または5〜10員環であって、少なくとも1個の酸素原子をヘテロ原子として含む複素環を示す。シクロアルキル基、複素環としては、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、テトラシクロ[4,4,0,12,5,17,10]ドデカンなどに由来する骨格のような多環でもよい。
【0011】
アクリル酸エステル類としては、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸テトラヒドロフルフリルなどが挙げられる。
メタクリル酸エステル類としては、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリルなどが挙げられる。
【0012】
共重合体におけるモノマー(A)とモノマー(B)の共重合比(A/B)は0.1〜10であることが好ましい。より好ましくはA/B=0.1〜1である。共重合比(A/B)がこの範囲より大きいと成形体としたときの機械的特性が劣る傾向にある。
重合度は、10〜10000であることが好ましい。より好ましくは100〜5000である。重合度がこの範囲よりも小さいと機械的特性が劣る傾向になり、この範囲よりも高くなると溶剤溶解性が低下する傾向になる。
本発明の含フッ素共重合体の数平均分子量としては、通常1000〜1000000の範囲が適切であり、より好ましくは10000〜500000である。分子量が1000より小さい場合には成形体としたときの機械的特性が十分でなくなり、分子量が1000000を越える場合には溶剤溶解性が不十分になる。
【0013】
本発明の含フッ素共重合体の重合方法としては、特に限定されるものではないが、アニオン重合、ラジカル重合、イオン重合、配位重合などの公知の方法によって得ることができる。そのなかで好ましくはラジカル重合もしくはアニオン重合が採用される。また、重合形態としては、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの公知の形態により、回分式、反連続式または連続式のいずれかの操作で行えばよい。
重合反応の温度は、重合方法や重合の形態、特には開始剤の種類によって適宜変更され、通常は20〜200℃が好ましく、特に50〜140℃が好ましい。
重合反応に用いる反応容器は特に限定されない。
また、重合反応においては、重合溶媒を使用してもよい。重合溶媒としては、重合を阻害しないものが好ましく、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族系溶媒、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状炭化水素系溶媒、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル系溶媒などが挙げられる。またメルカプタンなどの連鎖移動剤を併用してもよい。
ラジカル重合開始剤の例としては、特に限定されるものではないが、例としてアゾ系化合物、可酸化物系化合物、レドックス系化合物が挙げられ、特にアゾビスイソブチロニトリル、t-ブチルパーオキシビバレート、過酸化ベンゾイルなどが好ましい。
乳化重合を行う際の乳化剤としては、アニオン乳化剤またはノニオン乳化剤を用いることができる。アニオン乳化剤の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールサルフェート塩、スチレンスルホン酸塩、ビニルサルフェート塩またはこれらの誘導体などが挙げられる。これらの塩としては、アルカリ金属水酸化物による塩、アンモニア、またはトリエチルアミンなどの揮発性塩基による塩などが挙げることができる。また、ノニオン乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイドブロック共重合体、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキル硫酸塩などが挙げられる。また、ラジカル重合開始剤は、一般的な乳化重合で使用されているものであれば特に限定されないが、これらのうち水溶性開始剤が特に好ましく適用できる。
水溶性開始剤の例としては、例えば、過酸化水素などの過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキサイド、ジコハク酸パーオキサイド、ジグルタル酸パーオキサイドなどの有機系過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩、アゾビスイソブチルアミジンなどの塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノ吉草酸などのアゾ系開始剤、あるいは以上のような開始剤と亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムビサルファスト、ナトリウムメタビサルファイト、ナトリウムビチオサルフェート、スルホキシル酸ホルムアルデヒドナトリウム、還元糖などの還元剤との組合せからなるレドックス開始剤、さらにこれらの組合せに金属として少量の鉄、第一鉄塩、硫酸銀、硫酸銅などを共存させた開始剤系などを使用することができる。これらのラジカル系開始剤の添加法方は重合開始時の一括添加でも反応途中の分割添加でもよい。溶液中でラジカル重合を行う場合の溶媒としては、使用するモノマーの溶解性と生成するポリマーの溶解性を考慮して選択することが可能であり、特に限定されるものではなく、一般的な公知の重合溶媒が任意に使用できるが、例えば、トルエン、キシレン、酢酸ブチルなどを挙げることができる。
また、アニオン重合も採用でき、その重合形態としては、バルク重合、および溶液重合が可能である。アニオン重合の開始剤しては、一般的に使用されているものが使用でき、特に限定されるものではないが、n-ブチルリチウム、t-ブチルリチウムなどの市販されている有機リチウム化合物、またはジフェニルシクロヘキシルリチウムなどの安定性の高いリチウム化合物を使用することが可能である。また、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシドなどの金属アルコキシド類が好適に用いられる。また、ピリジン、ピコリン、ルチジン、ピペリジンなどの含窒素複素環状化合物、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類も好適に用いられる。
このようにして得られる本発明の含フッ素共重合体の溶液または分散液から、媒質である有機溶媒または水を除去する方法としては、公知の方法のいずれも利用できるが、例を挙げれば再沈殿した後にろ過、または減圧下での加熱留出などの方法を採用できる。
【実施例】
【0014】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
以下の実施例において、含フッ素共重合体の物性の測定等は下記方法によった。
屈折率、アッベ数測定:
試料が10 wt%となるクロロホルム溶液を調製後、シャーレ上にキャストし、室温で一晩乾燥後、更に24時間、真空乾燥したキャストフィルムを必要に応じ測定に適した形状に切断し、試験片とした。(株)ATAGO製アッベ屈折計により測定した。
飽和吸水率:
試験片を水に浸漬(1ヶ月)する前後の試験片の重量を測定することで、吸水率を算出した。
全光線透過率:
ヘイズメーターHGM-2DPにより測定した。
含フッ素共重合体中のAdTFMA含量:
H−NMR(270MHz)測定により求めた。
【0015】
攪拌機を備えたガラス製反応器に、1-アダマンチル α−トリフルオロメチルアクリレート(AdTFMA:化式(A))2g(0.0073mol)、メチルメタクリレート(MMA)を4.67g(0.047mol)、アゾビスイソブチロニトリル0.0015g、トルエン5mlを仕込み、反応容器内を窒素で置換した。
【0016】
【化3】

【0017】
反応器内を徐々に昇温し、80℃で6時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応溶液をn−ヘキサン200ml中に投入して、生成した沈殿をろ過して回収した。80℃で真空乾燥させることによって白色固体の重合物を得た。収量4.20g(84%)。
得られた樹脂の一部をクロロホルムに溶解させ、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(G.P.C.)によって、ポリスチレンを標準物質とした分子量を測定した。この結果、分子量および分子量分布は、数平均分子量Mn=63000、重量平均分子量Mw=100000、分子量分布Mw/Mn=2.04であった。また、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定から求めた共重合体の組成は約 AdTFMA/MMA 18/82 mol%/mol%であった。
屈折率、アッベ数はそれぞれ1.502、84であった。また、飽和吸水率は1.3%であった。溶媒に対する溶解性は、クロロホルム、トルエン、アセトンに可溶であって、n−ヘキサンに不溶であった。得られた含フッ素共重合体の諸物性を表1に示す。
比較例として、メチルメタクリレートについても同様に評価した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1から明らかなように、本実施例の共重合体は、メチルメタクリレートに比して、全光線透過率は同等レベルでありながら、屈折率、アッベ数が高く、また、吸水率の低いものであった。
従って、本実施例の共重合体であれば、光散乱、光吸収が少なく、屈折率、波長分散特性のバランスが良好で、かつ、吸水による反りなどが起きにくく寸法安定性にも優れる。さらに、溶媒への溶解性に優れ、熱加工性を有するため、溶液からの塗布、流延、紡糸などの方法や溶融による被覆、注型、紡糸などの成形方法をでき、種々の光学材料に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の共重合体からなる高分子化合物は、高屈折率かつ低波長分散特性であることから、プラスチック光ファイバ、プラスチックロッドレンズ、光導波路のコア材料、同クラッド材、または同被覆材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式で表されるα-トリフルオロメチルアクリル酸エステル(A)に基づく単位と、ビニルモノマー(B)に基づく単位とを有する含フッ素共重合体。
【化1】

(R1は、5〜10員環の脂環式環状構造を有する有機基を表す)

【公開番号】特開2006−56940(P2006−56940A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238066(P2004−238066)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】