説明

含フッ素環状オレフィン化合物とその製造方法、含フッ素環状オレフィン開環重合体、および含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物

【課題】従来の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物が備える優れた光透過性などの特長を損なうことなく、特に耐熱性および溶媒に対する溶解性が改良された含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物を提供する。
【解決手段】特定の構造を有する新規な含フッ素環状オレフィン化合物(例えば、ジシクロペンタジエンとオクタフルオロシクロペンテンのディールス・アルダー付加物)を単量体として用いて、含フッ素環状オレフィン開環重合体を得て、それを水素化することにより、耐熱性および溶媒に対する溶解性が改良された含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物が得られることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に耐熱性や溶媒に対する溶解性に優れる含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物と、それを得るために好適に用いられる含フッ素環状オレフィン化合物および含フッ素環状オレフィン開環重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されるようなフッ素原子を含有する環状オレフィンの開環重合体の水素化物は、環状オレフィン開環重合体が元来有する透明性や低吸水性に加えて、耐薬品性や電気特性にも優れることから種々の用途に有用な材料として知られている。
【0003】
また、特許文献2には、フッ素原子を含有する環状オレフィンの開環重合体の耐光性を改良するために、特定の構造を有する含フッ素環状オレフィン化合物を単量体として用いて開環重合体を得て、それを水素化またはフッ素化することにより、含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物を得ることが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、例えば、光導波路やはんだが適用される回路基板などの材料として用いる場合のように、高度な耐熱性が求められる場合には、その耐熱性が十分なものではないという問題があった。また、特許文献2に開示された含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、溶媒に対する溶解性に劣り、溶液として取り扱うことができないという問題も有している。
【0005】
【特許文献1】特開平6−206985号公報
【特許文献2】特開2005−248081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物が備える優れた光透過性などの特長を損なうことなく、特に耐熱性および溶媒に対する溶解性が改良された含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定の構造を有する新規な含フッ素環状オレフィン化合物を単量体として用いて、含フッ素環状オレフィン開環重合体を得て、それを水素化することにより、耐熱性および溶媒に対する溶解性が改良された含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
かくして、本発明によれば、下記の一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物が提供される。
【0009】
【化5】

【0010】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【0011】
また、本発明によれば、上記の含フッ素環状オレフィン化合物の製造方法であって、下記の一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンと、シクロペンタジエンとを反応させることを特徴とする含フッ素環状オレフィン化合物の製造方法が提供される。
【0012】
【化6】

【0013】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【0014】
さらに、本発明によれば、下記の一般式(3)で表わされる繰返し単位を含有してなる含フッ素環状オレフィン開環重合体が提供される。
【0015】
【化7】

【0016】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【0017】
さらに、また、本発明によれば、下記の一般式(4)で表わされる繰返し単位を含有してなる含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物が提供される。
【0018】
【化8】

【0019】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物が備える優れた光透過性などの特長を損なうことなく、特に耐熱性および溶媒に対する溶解性が改良された含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物が提供される。また、本発明によれば、その含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物を得るために好適に用いられる、含フッ素環状オレフィン化合物とその製造方法、および含フッ素環状オレフィン開環重合体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の含フッ素環状オレフィン化合物は、下記の一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物である。
【0022】
【化9】

【0023】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【0024】
本発明の含フッ素環状オレフィン化合物は、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物の原料となる、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体を得るための単量体として好適に用いられるものである。
【0025】
最終的に得られる含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物の耐熱性や溶媒に対する溶解性を特に良好とする観点からは、本発明の含フッ素環状オレフィン化合物は、一般式(1)におけるXが全てフッ素原子であることが特に好ましく、また、一般式(1)におけるnが3または4であることが特に好ましく、一般式(1)におけるnが3である繰返し単位を含有してなることが最も好ましい。
【0026】
本発明において、特に好適に用いられる含フッ素環状オレフィン化合物は、下記の式(5)で表わされる化合物(オクタフルオロペンタシクロペンタデセン)、または式(6)で表わされる化合物(デカフルオロペンタシクロヘキサデセン)であり、なかでも、下記の式(5)で表わされる化合物が特に好適に用いられる。
【0027】
【化10】

【0028】
【化11】

【0029】
本発明の含フッ素環状オレフィン化合物を製造する方法としては、下記の一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンと、シクロペンタジエンとを反応させる方法が好適に用いられる。
【0030】
【化12】

【0031】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【0032】
一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンの具体例としては、テトラフルオロシクロプロペン、ヘキサフルオロシクロブテン、1,2,3,4,5−ペンタフルオロシクロペンテン、1,2,3,3,4,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1,2,3,3,4,4,5−ヘプタフルオロシクロペンテン、1,2,3,3,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン、オクタフルオロシクロペンテン、デカフルオロシクロヘキセンが挙げられ、これらの中でも、オクタフルオロシクロペンテンまたはデカフルオロシクロヘキセンを用いることが好ましく、オクタフルオロシクロペンテンを用いることが特に好ましい。
【0033】
一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンとシクロペンタジエンとを混合し、加熱下で撹拌することにより、含フッ素環状オレフィンとシクロペンタジエンとのディールスアルダー付加体であるオレフィンが生成し、さらにそのオレフィンとシクロペンタジエンとがディールスアルダー反応することにより、一般式(1)で表わされる本発明の含フッ素環状オレフィン化合物が得られる。一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンとシクロペンタジエンとの混合比は、特に限定されないが、(シクロペンタジエン:含フッ素環状オレフィン)のモル比で、1:0.1〜1:10の範囲であることが好ましく、1:0.5〜1:8の範囲であることがより好ましく、1:0.8〜1:5の範囲であることが特に好ましい。なお、一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンやシクロペンタジエンは、沸点が低い化合物であるので、この反応は、オートクレーブなどの密閉可能な反応器を使用して行なうことが好ましい。反応温度は、通常50〜350℃であり、好ましくは100〜300℃であり、より好ましくは150〜260℃である。また、反応時間は、反応の規模に応じて決定され、特に限定されないが、通常数分から数十時間の範囲である。
【0034】
一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンとシクロペンタジエンとの反応では、一般式(1)で表わされる本発明の含フッ素環状オレフィン化合物のみを生成させることは困難であり、通常は一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンにシクロペンタジエン1分子が付加してなるディールスアルダー付加体も生成する。そのオレフィンは、単離して、さらにシクロペンタジエンと反応させることにより、一般式(1)で表わされる本発明の含フッ素環状オレフィン化合物とすることができる。この反応における、反応混合比、反応温度および反応時間は、一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンとシクロペンタジエンとの反応に準じれば良い。
【0035】
なお、本発明では、一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィン(または、一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンとシクロペンタジエンとのディールアルダー付加体)とジシクロペンタジエンとを加熱下で混合することにより、ジシクロペンタジエンを熱分解させてシクロペンタジエンを生じさせながら、その生じたシクロペンタジエンを、一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィン(または、一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンとシクロペンタジエンとのディールアルダー付加体)に反応させても良い。
【0036】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体は、下記の一般式(3)で表わされる繰返し単位を含有してなる重合体である。
【0037】
【化13】

【0038】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【0039】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体は、一般式(3)で表わされる繰返し単位のなかでも、一般式(3)におけるXが全てフッ素原子である繰返し単位を含有してなることが特に好ましく、また、一般式(3)におけるnが3または4である繰返し単位を含有してなることが特に好ましく、一般式(3)におけるnが3である繰返し単位を含有してなることが最も好ましい。
【0040】
また、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体は、一般式(3)で表わされる繰返し単位のみからなる重合体であっても良いし、一般式(3)で表わされる繰返し単位と他の繰返し単位からなる共重合体であっても良い。本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体における一般式(3)で表わされる繰返し単位の含有量は、全繰返し単位に対して、1〜100モル%であることが好ましく、5〜100モル%であることがより好ましい。
【0041】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体の分子量は、特に限定されないが、テトロヒドロフランを溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量が、500〜1,000,000の範囲であることが好ましく、1,000〜500,000の範囲であることがより好ましい。
【0042】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体は、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物を単独で単量体として用いて、または一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物とその他の化合物との混合物を単量体として用いて、メタセシス重合触媒の存在下で開環重合を行なうことにより得ることができる。
【0043】
本発明の含フッ素環状オレフィン化合物と組み合わせて単量体として用いられ得る他の化合物としては、ノルボルネン類、ノルボルネン環以外に環構造を有するノルボルネン誘導体、テトラシクロドデセン類、ヘキサシクロヘプタデセン類、単環の環状オレフィン化合物などを例示することができる。
【0044】
ノルボルネン類の具体例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネンなどの無置換またはアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネンなどの芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイト、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−ヒドロキシ−i−プロピルノルボルネン、5,6−ジカルボキシノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン、などの酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネン、ノルボルネン−5,6−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類などが挙げられる。
【0045】
ノルボルネン環以外に環構造を有するノルボルネン誘導体としては、環構造が5員環であるジシクロペンタジエン類、芳香環を有するノルボルネン誘導体などを挙げることができる。ジシクロペンタジエン類の具体例としては、ジシクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエンの5員環部分の二重結合を飽和させたトリシクロ[4.3.12,5.0]デカ−3−エン、トリシクロ[4.4.12,5.0]ウンダ−3−エンなどを挙げることができる。芳香環を有するノルボルネン誘導体としては、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]トリデカ−3,8,10,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[6.6.12,5.01,6.08,13]テトラデカ−3,8,10,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、などを挙げることができる。これらのなかでも、ジシクロペンタジエンが特に好適に用いられる。
【0046】
テトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセンなどの無置換またはアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセンなどの環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセンなどの芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物などの酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセンなどのハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセンなどのけい素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0047】
ヘキサシクロヘプタデセン類の具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセンなどの無置換またはアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセンなどの環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセンなどの芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物などの酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミドなどの窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセンなどのハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセンなどのけい素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類などが挙げられる。
【0048】
単環の環状オレフィン化合物としては、炭素数が通常4〜20、好ましくは4〜10の環状モノオレフィンまたは環状ジオレフィンが挙げられる。環状モノオレフィンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどが挙げられる。環状ジオレフィン化合物の具体例としては、シクロヘキサジエン、メチルシクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチルシクロオクタジエン、フェニルシクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0049】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体を得るために用いられるメタセシス重合触媒は特に限定されず、従来公知のメタセシス重合触媒を用いることができる。メタセシス重合触媒としては、Mo,W,Nb,Ta,Ruなどの原子を含有してなる遷移金属化合物が例示され、なかでも、Mo,WまたはRuを含有する化合物は重合活性が高くて好ましい。特に好ましいメタセシス重合触媒の具体的な例としては、(1)ハロゲン基、イミド基、アルコキシ基、アリロキシ基またはカルボニル基を配位子として有する、モリブデンあるいはタングステン化合物を主触媒とし、有機金属化合物を第二成分とする触媒や、(2)Ruを中心金属とする金属カルベン錯体触媒を挙げることができる。前記(1)の触媒で主触媒として用いられる化合物の例としては、MoCl、MoBrなどのハロゲン化モリブデン化合物やWCl、WOCl、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルなどのハロゲン化タングステン化合物が挙げられる。最終的に得られる含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物を特に溶媒に対する溶解性に優れるものとする観点からは、これらのなかでも、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルを主触媒として用いることが好ましい。また、前記(1)の触媒で、第二成分として用いられる有機金属化合物としては、周期表第1族、2族、12族、13族または14族の有機金属化合物を挙げることができる。なかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が好ましく、有機リチウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が特に好ましい。有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウムなどを挙げることができる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリドなどを挙げることができる。有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛などを挙げることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシドなどを挙げることができ、さらに、これらの有機アルミニウム化合物と水との反応によって得られるアルミノキサン化合物も用いることができる。有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズなどを挙げることができる。これらの有機金属化合物を添加する量は、用いる有機金属化合物によって異なるが、主触媒の中心金属に対して、0.1〜10,000倍が好ましく、0.2〜5,000倍がより好ましく、0.5〜2,000倍が特に好ましい。また、前記(2)のRuを中心金属とする金属カルベン錯体触媒としては、(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドなどを挙げることができる。
【0050】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体を得る際の単量体に対するメタセシス重合触媒の割合は、(メタセシス重合触媒中の遷移金属:単量体)のモル比が、通常1:100〜1:2,000,000の範囲であり、好ましくは1:200〜1,000,000の範囲であり、より好ましくは1:500〜1:500,000の範囲である。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0051】
重合反応は、通常、有機溶媒中で行なう。用いられる有機溶媒は、重合体が所定の条件で溶解または分散し、重合に影響しないものであれば、特に限定されないが、工業的に汎用されるものが好ましい。有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒;アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒などを挙げることができる。これらの中でも、工業的に汎用な芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶剤、芳香族エーテル系溶媒が好ましい。
【0052】
溶媒の使用量は、溶液中の単量体の濃度が、1〜50重量%となる量であることが好ましく、2〜45重量%となる量であることがより好ましく、3〜40重量%となる量であることが特に好ましい。単量体の濃度が1重量%以下の場合は生産性が悪く、50重量%以上の場合は重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素化反応が困難となる。
【0053】
重合反応は、単量体とメタセシス重合触媒とを混合することにより開始される。混合する方法は、単量体溶液にメタセシス重合触媒溶液を加えても良いし、その逆でも良い。メタセシス重合触媒が主触媒である遷移金属化合物と第二成分である有機金属化合物とからなる混合触媒である場合には、単量体溶液に混合触媒の反応液を加えても良いし、その逆でも良い。また、単量体と有機金属化合物の混合溶液に遷移金属化合物溶液を加えても良いし、その逆でも良い。さらに、単量体と遷移金属化合物の混合溶液に有機金属化合物を加えても良いし、その逆でも良い。
【0054】
重合温度は特に制限はないが、一般には、−30℃〜200℃、好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、通常1分間〜100時間であるが、特に制限はない。
【0055】
さらに、得られる開環重合体の分子量を調整する方法としては、ビニル化合物またはジエン化合物を適当量添加することによって行うことができる。分子量調整に用いるビニル化合物は、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物、アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物などを挙げることができる。ジエン化合物は、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン、または1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエンを挙げることができる。添加するビニル化合物またはジエン化合物の量は求める分子量により、単量体に対して、0.1〜10モル%の間で任意に選択することができる。
【0056】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、下記の一般式(4)で表わされる繰返し単位を含有してなる重合体である。
【0057】
【化14】

【0058】
(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【0059】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素物は、一般式(4)で表わされる繰返し単位のなかでも、一般式(4)におけるXが全てフッ素原子である繰返し単位を含有してなることが特に好ましく、また、一般式(4)におけるnが3または4である繰返し単位を含有してなることが特に好ましく、一般式(4)におけるnが3である繰返し単位を含有してなることが最も好ましい。
【0060】
また、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、一般式(4)で表わされる繰返し単位のみからなるものであっても良いし、一般式(4)で表わされる繰返し単位と他の繰返し単位からなるものであっても良い。本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体における一般式(4)で表わされる繰返し単位の含有量は、全繰返し単位に対して、1〜100モル%であることが好ましく、5〜100モル%であることがより好ましい。
【0061】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物の分子量は、特に限定されないが、テトロヒドロフランを溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量が、500〜1,000,000の範囲であることが好ましく、1,000〜500,000の範囲であることがより好ましい。
【0062】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体の炭素−炭素二重結合を水素化することにより、得ることができる。水素化反応は、水素化触媒の存在下に水素を導入し、含フッ素環状オレフィン開環重合体の主鎖中の炭素−炭素二重結合を飽和単結合に変換する反応である。水素化触媒は特に限定されず、オレフィン化合物の水素化に際して一般的に使用されているものを適宜採用すればよい。
【0063】
そのような水素化触媒としては、例えば、酢酸コバルトとトリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナートとトリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリドとn−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリドとsec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネートとジメチルマグネシウムのような遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなるチーグラー系触媒;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、特開平7−2929、特開平7−149823、特開平11−209460、特開平11−158256、特開平11−193323、特開平11−209460などに記載される、例えばビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリドなどのルテニウム化合物からなる貴金属錯体触媒;などの均一系触媒が挙げられる。また、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの金属を、カーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させた不均一触媒、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどを用いることもできる。
【0064】
水素化反応は、通常、有機溶媒中で実施する。有機溶媒は生成する水素化物の溶解性により適宜選択することができ、前記重合溶媒と同様の有機溶媒を使用することができる。したがって、重合反応後、溶媒を入れ替えることなく、そのまま水素化触媒を添加して反応させることもできる。
【0065】
水素化反応条件は、使用する水素化触媒の種類に応じて適宜選択すればよい。反応温度は、通常−20〜250℃、好ましくは−10〜220℃、より好ましくは0〜200℃である。−20℃未満では反応速度が遅くなり、逆に250℃を超えると副反応が起こりやすくなる。水素の圧力は、通常0.01〜10.0MPa、好ましくは0.05〜8.0MPa、より好ましくは0.1〜5.0MPaである。水素圧力が0.01MPa未満では水素化速度が遅くなり、10.0MPaを超えると高耐圧反応装置が必要となる。
【0066】
水素化反応の時間は、水素化率をコントロールするために適宜選択される。反応時間は、通常0.1〜50時間の範囲であり、重合体中の主鎖の炭素−炭素二重結合のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上を水素化することができる。
【0067】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、従来の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物と同様、透明性が高く、光透過性に優れる。したがって、光学樹脂として好適に用いられるものである。また、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、従来の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物に比して、特に耐熱性および溶媒に対する溶解性に優れるものである。したがって、光導波路やはんだが適用される回路基板などの材料としても好適に用いられる。本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物を成形し、成形体を得る方法としては、特に限定されないが、含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物を含有する溶液を基材上に塗布し、次いで、溶剤を蒸発除去する方法や、含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物を溶融成形する方法などが挙げられる。なお、溶融成形としては、射出成形、ブロー成形、モールド成形、真空成形、回転成形、溶融押出し成形、溶融紡糸などの任意の溶融成形が可能である。
【0068】
本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、他の透明樹脂を任意の割合で含有するものであっても良い。このような他の透明樹脂としては、たとえば、環状オレフィン付加重合体、水素化された環状オレフィン開環重合体、α−オレフィンと環状オレフィンとの付加共重合体、結晶性のα−オレフィン重合体、ゴム状のエチレンと炭素数が3以上のα−オレフィンとの共重合体、水素化されたブタジエン重合体、水素化されたブタジエン・スチレンブロック共重合体、水素化されたイソプレン重合体などが挙げられる。
【0069】
さらに、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物には、必要に応じて各種添加剤が配合されていても良い。このような添加剤としては、充填材、酸化防止剤、蛍光体、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、屈折率向上剤、染料や顔料などの着色剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤などが挙げられる。充填材としては、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウムなどの金属の酸化物などが挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0071】
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0072】
〔重合体の分子量〕
開環重合体および開環重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、THFを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0073】
〔開環重合体水素化物のガラス転移温度および融点〕
開環重合体水素化物のガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)は、示差走査熱量計を用いて、10℃/分で昇温して測定した。
【0074】
〔開環重合体水素化物の熱劣化温度〕
開環重合体水素化物の熱劣化温度は、示差熱熱重量同時測定装置を用いて、10℃/分で昇温して測定を行ない、酸化による重量の増加が認められた温度を熱劣化温度とした。
【0075】
〔実施例1〕
ジシクロペンタジエン(以下、DCPDと称する)206gおよびオクタフルオロシクロペンテン(以下、OFCPと称する)2000g(モル比で1:6)を反応器(ステンレス製耐圧耐熱オートクレーブ)に量り入れた。次に、反応器中の混合物に窒素ガスを通すことによって、混合物および反応器内から酸素を除去した。次いで、反応器中の混合物を200℃に加熱し、6時間反応させた後、室温まで冷却して反応を停止した。得られた反応混合物からOFCPをエバポレーターで留去し、残った高沸点成分の単蒸留を行うことにより、オクタフルオロトリシクロデセン(以下、OFTCDと称する)650gおよびオクタフルオロペンタシクロペンタデセン(以下、OFPCPと称する)100gを、それぞれ粗生成物として回収した。OFTCDの粗生成物は、さらにスルーザー蒸留器により精留を行うことにより、ガスクロマトグラフィにより算出される純度が100%である、精製OFTCD380gとした。OFPCPの粗生成物は、ノルマルヘキサンを溶媒として用いた再結晶によりガスクロマトグラフィにより算出される純度が100%である、精製OFPCP70gとした。精製OFPCPのCDCl3中で測定したH−NMRスペクトルは以下の通りであった。δppm:6.10(s,2H),3.02(s,2H),2.74(m,5H),1.42(d,1H),1.33(d,1H),0.90(d,1H)。
【0076】
〔実施例2〕
実施例1より得られた精製OFTCD100gと、DCPD21gとを、反応器(ステンレス製耐圧耐熱オートクレーブ)に量り入れた。次に、反応器中の混合物に窒素ガスを通すことによって、混合物および反応器内から酸素を除去した。次いで、反応器中の混合物を200℃に加熱し、6時間反応させた後、室温まで冷却して反応を停止した。得られた反応混合物について、ノルマルヘキサンを溶媒とする再結晶を2回繰り返すことにより、ガスクロマトグラフィにより算出される純度が100%である、精製OFPCP90gを得た。
【0077】
〔実施例3〕
攪拌機付きガラス製反応器に、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテル0.060部およびシクロヘキサン1.0部を添加した。次いで、反応器にジエチルアルミニウムエトキシド0.047部をヘキサン0.50部に溶解した溶液を添加することにより、反応器中の混合物を室温(23℃)において30分間反応させた。得られた混合物に、実施例1および実施例2で得られたOFPCP7.5部、トルエン27.0部および1−オクテン0.2部を添加し、70℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。24時間反応後、重合反応液に大量のイソプロピルアルコールを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体の収量は7.4部であり、Mnは110,000、Mwは260,000であった。次に、攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体3.0部およびトルエン47部を加えた。次いでビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.0187部およびエチルビニルエーテル0.45部をシクロヘキサン10mlに溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧0.8MPa、160℃で24時間水素化反応を行った。得られた水素化反応液は2つの容器に分け、一方の水素化反応液には、酸化防止剤として、ラクトン系酸化防止剤(製品名IRGASTAB STYL 66 FF、チバスペシャリティケミカルズ社製)および2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノールを、それぞれ、開環重合体水素化物に対して0.5%の量となるように添加した。その後、それぞれの水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いで、開環重合体水素化物を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。開環重合体水素化物の収量(合計量)は3.0部であった。また、開環重合体水素化物のH−NMR測定においては、炭素−炭素二重結合由来のピークは観測されず、水素化率は99%以上であった。また、得られた開環重合体水素化物は、融点(Tm)を持たず、ガラス転移温度(Tg)は205℃であった。また、酸化防止剤を添加しなかった開環重合体水素化物については、200℃まで熱劣化が認められず、酸化防止剤を添加した開環重合体水素化物については、350℃まで熱劣化が認められなかった。また、得られた開環重合体水素化物は、室温にて、トルエン、キシレン、クロロホルム、THF、アセトンに完全に可溶であった。
【0078】
〔実施例4〕
攪拌機付きガラス製反応器に、実施例1および実施例2で得られたOFPCP7.5部、トルエン27.0部および1−オクテン0.008部を添加し、さらに(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.010部をトルエン1.0部に溶解した触媒溶液を添加し、70℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。24時間反応後、重合反応液に大量のイソプロピルアルコールを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体の収量は7.4部であり、Mnは97,000、Mwは230,000であった。次に、攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体3.0部およびトルエン47部を加えた。次いでビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.0187部およびエチルビニルエーテル0.45部をシクロヘキサン10mlに溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧0.8MPa、160℃で24時間水素化反応を行った。得られた水素化反応液は2つの容器に分け、一方の水素化反応液には、酸化防止剤として、ラクトン系酸化防止剤(製品名IRGASTAB STYL 66 FF、チバスペシャリティケミカルズ社製)および2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノールを、それぞれ、開環重合体水素化物に対して0.5%の量となるように添加した。その後、それぞれの水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いで開環重合体水素化物を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。開環重合体水素化物の収量(合計量)は3.0部であった。また、開環重合体水素化物のH−NMR測定においては、炭素−炭素二重結合由来のピークは観測されず、水素化率は99%以上であった。また、得られた開環重合体水素化物は、融点(Tm)を持たず、ガラス転移温度(Tg)は206℃であった。また、酸化防止剤を添加しなかった開環重合体水素化物については、200℃まで熱劣化が認められず、酸化防止剤を添加した開環重合体水素化物については、350℃まで熱劣化が認められなかった。また、得られた開環重合体水素化物は室温にてTHFに溶解し、70度においてはトルエン、キシレン、THFに可溶であった。
【0079】
〔実施例5〕
攪拌機付きガラス製反応器に、実施例1および実施例2で得られたOFPCP3.5部、DCPD3.0部、トルエン27.0部および1−オクテン0.008部を添加し、さらに(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド0.010部をトルエン1.0部に溶解した触媒溶液を添加し、70℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。24時間反応後、重合反応液に大量のイソプロピルアルコールを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体の収量は7.4部であり、Mnは110,000、Mwは250,000であった。次に、攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体3.0部およびトルエン47部を加えた。次いでビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.0187部およびエチルビニルエーテル0.45部をシクロヘキサン10mlに溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧0.8MPa、160℃で24時間水素化反応を行った。水素化反応液を多量のイソプロパノールに注いで開環重合体水素化物を完全に析出させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。開環重合体水素化物の収量は3.0部であった。また、開環重合体水素化物のH−NMR測定においては、炭素−炭素二重結合由来のピークは観測されず、水素化率は99%以上であった。得られた開環重合体水素化物のDSC測定では、融点(Tm)は観測されず、ガラス転移温度(Tg)は166℃であった。また、得られた開環重合体水素化物は室温にてトルエン、キシレン、クロロホルム、THFに可溶であった。
【0080】
〔実施例6〕
DCPD3.0部に代えて、テトラシクロドデセンカルボン酸3.0部を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、開環重合体を製造した。得られた開環重合体の収量は7.4部であり、Mnは105,000、Mwは215,000であった。得られた開環重合体を用いて、実施例7と同様の方法により、開環重合体水素化物を製造した。開環重合体水素化物の収量は3.0部であった。また、開環重合体水素化物のH−NMR測定においては、炭素−炭素二重結合由来のピークは観測されず、水素化率は99%以上であった。得られた開環重合体水素化物は、融点(Tm)を持たず、ガラス転移温度(Tg)は244℃であった。また、得られた開環重合体水素化物は、室温にてトルエン、キシレン、クロロホルム、THF、アセトンに可溶であった。
【0081】
〔比較例1〕
OFPCP7.5部に代えて、8−トリフルオロメチル−8,9,9−トリフルオロ−テトラシクロドデセン7.5部を用いたこと以外は、実施例4と同様にして開環重合体および開環重合体水素化物を得た。得られた開環重合体は、THFに溶解しなかったため、分子量の測定を行なうことができなかった。また、開環重合体水素化物の収量は3.0部であった。開環重合体水素化物のH−NMR測定においては、炭素−炭素二重結合由来のピークは観測されず、水素化率は99%以上であった。また、得られた開環重合体水素化物は、融点(Tm)を持たず、ガラス転移温度(Tg)は190℃であった。また、この開環重合体水素化物は、70℃においてトルエン、キシレン、クロロホルム、THF、アセトンに難溶であった。
【0082】
〔比較例2〕
8−トリフルオロメチル−8,9,9−トリフルオロ−テトラシクロドデセン7.5部に代えて、8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロドデセン7.5部を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、開環重合体および開環重合体水素化物を得た。開環重合体水素化物の収量は3.0部であった。得られた開環重合体は、THFに溶解しなかったため、分子量の測定を行なうことができなかった。また、開環重合体水素化物のH−NMR測定においては、炭素−炭素二重結合由来のピークは観測されず、水素化率は99%以上であった。また、得られた開環重合体水素化物は、融点(Tm)を持たず、ガラス転移温度(Tg)は165℃であった。この開環重合体水素化物は、70℃においてトルエン、キシレン、クロロホルム、アセトンに難溶であり、70℃においてテトラヒドロフランに微溶であった。
【0083】
実施例3〜6と比較例1および2との比較で分かるように、本発明の含フッ素環状オレフィン化合物を単量体として用いてなる、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体を水素化して得られる、本発明の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、高いガラス転移温度を有する耐熱性に優れたものであり、しかも、各種の溶媒への溶解性に優れるものであった。一方、本発明の含フッ素環状オレフィン化合物に代えて、8−トリフルオロメチル−8,9,9−トリフルオロ−テトラシクロドデセンや8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロドデセンを単量体として用いてなる、含フッ素環状オレフィン開環重合体を水素化して得られる、比較例の含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物は、ガラス転移温度が低く、また、各種の溶媒への溶解性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物。
【化1】

(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の含フッ素環状オレフィン化合物の製造方法であって、下記の一般式(2)で表わされる含フッ素環状オレフィンと、シクロペンタジエンとを反応させることを特徴とする含フッ素環状オレフィン化合物の製造方法。
【化2】

(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【請求項3】
下記の一般式(3)で表わされる繰返し単位を含有してなる含フッ素環状オレフィン開環重合体。
【化3】

(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)
【請求項4】
下記の一般式(4)で表わされる繰返し単位を含有してなる含フッ素環状オレフィン開環重合体水素化物。
【化4】

(式中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Xの少なくとも1つは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。nは1〜6の整数である。)

【公開番号】特開2010−132600(P2010−132600A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309795(P2008−309795)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】