説明

含フッ素重合体の凝集分離方法

【課題】オゾン層を破壊する恐れがなく地球温暖化への影響が小さい凝集溶媒を使用して、溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素共重合体を含有する溶液から、該含フッ素重合体を円滑に効率よく凝集分離する。また、該凝集溶媒は重合溶媒と分離が容易にする。さらに、不燃または燃えにくい凝集溶媒を使用することにより、製造時の取り扱いを容易とする。
【解決手段】溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体を含有する含フッ素重合体溶液に、凝集溶媒としてハイドロフルオロカーボンまたはハイドロフルオロエーテルを添加することにより、含フッ素重合体溶液から含フッ素重合体を円滑に効率よく凝集分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体を含有する含フッ素重合体溶液に、凝集溶媒としてハイドロフルオロカーボンまたはハイドロフルオロエーテルを添加し、該含フッ素重合体を凝集分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体は、耐アルカリ性、電荷選択性など種々の優れた特性を有することから、イオン交換膜をはじめとして、アルカリ電解、電気透析、各種有機電解合成等の隔膜、燃料電池、オゾン発生電解、水電解用の固体電解質、有機合成や重合用の高分子触媒、除湿、加湿装置用膜材料などの広範囲の用途に用いられている。
【0003】
従来、カルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体は、乳化重合法またはトリクロロトリフルオロエタンなどのクロロフルオロカーボンを重合溶媒とする溶液重合法により製造されていた。しかし、溶液重合法においては、入手が容易で安価なトリクロロトリフルオロエタンのような特定のフッ素系溶剤は大気中のオゾン層を破壊するおそれがあるとされ、その代替溶媒としてハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、フルオロカーボンへの転換が進められている。
例えば、スルホン酸型官能基を有するパーフルオロカーボン重合体の溶液重合においては、ハイドロフルオロカーボンを重合溶媒とすることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
従来、溶液重合法においては、重合後に得られた含フッ素重合体を分離する方法として、重合上がりの重合体溶液にメタノールを添加して重合体を析出させ、凝集分離する方法がよく用いられている(特許文献2)。
また、環境対応のためにオゾン破壊係数の小さいハイドロクロロフルオロカーボンを凝集用溶媒に用いた凝集分離方法も提案されている(特許文献3)。
【0005】
しかし、特許文献2の凝集分離方法では、回収された重合溶媒を再利用する場合に、メタノールと重合溶媒であるフロン113が共沸するために蒸留による分離が困難である。含フッ素重合体の重合においては、メタノールのような炭化水素化合物は連鎖移動しやすい。したがって重合溶媒中に炭化水素化合物が混入すると、得られた重合体の分子量が充分に高くならないので、回収された重合溶媒が再利用しにくいという問題があった。さらに、メタノールは可燃物であるので、製造時の取り扱いが面倒であった。
一方、特許文献3の凝集分離方法では、特許文献2のような問題は解決されるものの、凝集溶媒には塩素原子が含まれており、オゾン層破壊の環境影響の懸念は依然として残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−199958号公報
【特許文献2】特開昭57−092026号公報
【特許文献3】特開平07−145207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素共重合体を含有する溶液に、凝集溶媒としてオゾン層を破壊する恐れがなく地球温暖化への影響が小さいハイドロフルオロカーボンおよびハイドロフルオロエーテルからなる群から選択される少なくとも1種の凝集溶媒を添加して、該含フッ素共重合体を凝集分離する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体を含有する含フッ素重合体溶液に、凝集溶媒としてハイドロフルオロカーボンまたはハイドロフルオロエーテルを添加することにより、含フッ素重合体溶液から含フッ素重合体を円滑に効率よく凝集分離することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[5]である。
[1]溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体を含有する含フッ素重合体溶液に、ハイドロフルオロカーボンおよびハイドロフルオロエーテルからなる群から選択される少なくとも1種の凝集溶媒を添加し、該含フッ素重合体を分離することを特徴とする含フッ素重合体の凝集分離方法。
[2]凝集溶媒への含フッ素重合体の膨潤度が、0.750以下であることを特徴とする[1]に記載の含フッ素重合体の凝集分離方法。
[3]凝集溶媒の炭素数が3〜10である[1]または[2]に記載の含フッ素重合体の凝集分離方法。
[4]溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体を含有する含フッ素重合体溶液に、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび2,2,2−トリフルオロエトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンからなる群から選択される少なくとも1種の凝集溶媒を添加し、該含フッ素重合体を分離することを特徴とする含フッ素重合体の凝集分離方法。
[5]含フッ素重合体が、テトラフルオロエチレンと、式CF=CF−(O)−(CF−(CF−CFX)−(O)−(CF−(CF−CFX’)−A(式中、pは0または1、qは0〜12、rは0〜3、sは0または1、tは0〜12、uは0〜3であり、XおよびX’は−Fまたは−CFであり、Aはカルボン酸型官能基である。)で表されるモノマーとの共重合体である[1]〜[4]のいずれかに記載の凝集分離方法。
[6]含フッ素重合体の溶液重合に用いられる溶媒が、炭素数4〜10であり、かつ水素原子数/フッ素原子数の割合(モル基準)が0.05〜20であるハイドロフルオロカーボンである[1]〜[5]のいずれかに記載の含フッ素重合体の凝集分離方法。
[7]含フッ素重合体の溶液重合に用いられる溶媒が、Cn+m2n+12m+1(ただし、nは2〜8の整数であり、mは0〜3の整数である。)で表わされるハイドロフルオロカーボンである[1]〜[6]のいずれかに記載の含フッ素重合体の凝集分離方法。
【発明の効果】
【0010】
オゾン層を破壊する恐れがなく地球温暖化への影響が小さい凝集溶媒を使用して、溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素共重合体を含有する溶液から、含フッ素重合体を円滑に効率よく凝集分離することができる。また、該凝集溶媒は重合溶媒と分離が容易であるために、重合溶媒の再利用が容易である。さらに該凝集溶媒は、不燃または燃えにくいので、製造時の取り扱いも容易である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[カルボン酸型官能基]
本発明において、カルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体におけるカルボン酸型官能基としては、カルボン酸基(−COOH)そのもの、または加水分解または中和によりカルボン酸基に変換し得る官能基をいう。具体的には、−COOH、−CN、−COF、−COOR、−COOM、−COONRで表される官能基が挙げられる。Rは炭素原子数1〜10のアルキル基を示し、RおよびRは、水素原子であるか、あるいは炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。RとRは、同一であっても異なっていてもよい。Mはアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基を示す。
カルボン酸型官能基は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素モノマーを重合することにより、含フッ素重合体に導入することが好ましい。
【0012】
[含フッ素重合体]
本発明における含フッ素重合体は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素モノマーと含フッ素オレフィンとの共重合体であることが好ましい。また、必要に応じて適宜その他のモノマーを共重合させて得た共重合体であってもよい。
【0013】
カルボン酸型官能基を有する含フッ素モノマー(以下、「カルボン酸型モノマー」という。)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有するとともにエチレン性の二重結合を有し、かつカルボン酸型官能基を有する化合物であれば特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
カルボン酸型モノマーとしては、下記式(1)で表わされるビニルエーテルモノマーが好ましい。
CF=CF−(O)−(CF−(CFCFX)−(O)−(CF−(CFCFX’)−A ・・・・ (1)。
【0014】
式(1)中、XおよびX’はそれぞれ独立にフッ素原子(F)またはトリフルオロメチル基(CF)である。すなわち、XおよびX’はFまたはCFであり、1分子中にXとX’の両方が存在する場合、それぞれは同一であっても異なっていてもよい。Aはカルボン酸型官能基であり、前記カルボン酸型官能基と同じである。また、式(1)中、pは0または1、qは0〜12の整数、rは0〜3の整数、sは0または1、tは0〜12の整数、uは0〜3の整数である。ただし、pとs、rとuが同時に0になることはない。すなわち1≦p+sかつ1≦r+uが成り立つ。これらの中でも、p=1、q=1、r=1、s:0〜1、t:0〜1、u:0〜1である化合物が、製造が容易であることから好ましい。
【0015】
具体的に、式(1)で表されるビニルエーテルモノマーとしては、以下の化合物が好ましい。
CF=CFOCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFOCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFOCFCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFOCFCFCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFCFOCFCFCOOCH
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCOOCH
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCFCOOCH
CF=CFOCFCFOCFCFOCFCOOCH
【0016】
含フッ素重合体におけるカルボン酸型モノマー単位の含有量は、全モノマー単位に対して1〜50モル%であることが好ましく、5〜40モル%であることがより好ましい。カルボン酸型モノマー単位の含有量が5モル%以上であると電気抵抗が低くなり、50モル%以下であると透過するイオン選択性が良好となる。
含フッ素重合体の重合においては、カルボン酸型モノマーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
含フッ素オレフィンとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素原子数が2〜3のフルオロオレフィンが好ましい。フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」という。)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンが好ましく、TFEがより好ましい。
含フッ素重合体の重合においては、これらの含フッ素オレフィンは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明における含フッ素重合体は、カルボン酸型モノマーや含フッ素オレフィンの他に、さらに適宜その他のモノマーを共重合させて得たものでもよい。その他のモノマーとしては、1個以上のフッ素原子を有していれば特に限定されないが、式:CF=CF−Rや式:CF=CF−OR(これらの式中、Rは炭素原子数1〜10のパーフルオロアルキル基を示す。)で表されるビニルモノマー、あるいは式:CF=CFO(CF)CF=CF(式中、vは1〜3の整数である。)で表されるジビニルモノマーが好ましい。
【0019】
これらのビニルモノマーやジビニルモノマーを共重合させることにより、膜の可撓性や機械的強度を向上させることができる。
含フッ素重合体におけるその他のモノマー単位の含有量は、イオン交換性能の維持の観点から30モル%以下とすることが好ましい。含フッ素重合体の重合においては、これらの他のモノマーは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[重合溶媒の種類]
本発明における重合溶媒としては、沸点が10〜250℃の化合物が好ましく、溶媒のリサイクル性や凝集分離後のポリマーの乾燥の容易さ、常温での取り扱いやすさなどの観点から、10〜200℃である化合物がより好ましい。重合溶媒としては、公知のクロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン(以下、「HCFC」という。)、ハイドロフルオロカーボン(以下、「HFC」という。)、パーフルオロカーボン(以下、「PFC」という。)、ハイドロフルオロエーテル(以下、「HFE」という。)などのフッ素系溶媒を用いることができる。
【0020】
重合溶媒は、重合時にモノマーや得られたポリマーが溶媒に溶解もしくは充分に膨潤することや、重合後の溶媒の回収、精製、再利用が容易であることなどが要求され、使用できる溶媒はこれらの条件を満たす化合物が好ましい。一方、オゾン層破壊防止の観点から、塩素原子を含有するクロロフルオロカーボンやハイドロクロロフルオロカーボンは使用が制限されたり、控えられたりすることも多い。
【0021】
これらの観点から、本発明における重合溶媒としては、HFE、HFC、PFCからなる群から選ばれる1種以上のフッ素系溶媒を用いることが好ましい。これらの中でも、HCFCはオゾン破壊係数があり、またPFCは一般に地球温暖化係数が大きいとされることから、HFCおよび/またはHFEを用いることがより好ましい。
HFC、HFE、PFCおよびの構造は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。炭素数は、HFC、PFCでは4〜12個の範囲であることが好ましく、HFEでは4〜8の範囲であることが好ましい。
【0022】
HFCとしては、炭素数4〜10であり、かつ水素原子数/フッ素原子数の割合(モル基準)が0.05〜20である化合物であることが好ましい。また、一般式:Cn+m2n+12m+1(ただし、nは2〜8の整数であり、mは0〜3の整数である。)で表わされる化合物であることが好ましい。
具体的には下式で表される化合物が好ましい。
13
CHCH
13CHCH
CFHCCF
CFHCCF
CFCFHCFHCFCF
(CFCFCFHCFHCF
これらの中でも、C13HおよびCCHCHで表わされる化合物が好ましい。
【0023】
HFEとしては、下式で表される化合物が好ましい。
OCH
OC
13OCH
HFCH(CH)OCHF
PFCとしては、パーフルオロジメチルシクロブタン、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、および下式で表される化合物が好ましく、ヘテロ原子を含有するものも好ましく用いることができる。
14
18
(C
重合溶媒と後述の凝集溶媒とは、化合物の分類としては、ともにハイドロフルオロカーボンまたはハイドロフルオロエーテルが好ましい。しかし、前者は重合によって得られる含フッ素重合体を溶解もしくは充分に膨潤することが必要であるのに対して、凝集溶媒は、該凝集溶媒への該含フッ素重合体の膨潤度が低いことが好ましく、両者に要求される性質は大きく異なる。同じ分類の化合物であっても、この点で、重合溶媒と凝集溶媒とは明確に区別される。重合溶媒としては、含フッ素重合体への膨潤度が1.000以上であることが好ましく、1.200以上であることがより好ましい。凝集溶媒に要求される膨潤度については、後述する凝集溶媒で説明する。
【0024】
[重合反応]
本発明における含フッ素重合体の重合においては、重合溶媒の使用量がカルボン酸型モノマーの質量に対して0.01〜20倍、好ましくは0.05〜10倍の質量となるように制御することが好ましい。重合溶媒の使用量がこの範囲であれば、円滑かつ効率的に重合反応を行うことができ、重合体の分離、回収などの作業操作面でも有利である。
【0025】
カルボン酸型モノマーと含フッ素オレフィンとを共重合する場合の使用割合は、得られる含フッ素重合体が所望の共重合割合となるように選定する。カルボン酸型モノマーの共重合割合が、15〜95質量%となるように、両モノマーの使用割合を選定することが好ましい。また後述する、カルボン酸型モノマーと含フッ素オレフィン以外の、その他のモノマーを共重合する場合においても、カルボン酸型モノマーの共重合割合が、15〜95質量%となるように、各モノマーの使用割合を選定することが好ましい。
【0026】
本発明における重合反応では、各モノマーを一括で仕込んでもよいが、逐次的にあるいは連続的に添加して反応させることもできる。生成する共重合体の組成を均一化させるという観点からは、重合系中の各モノマーの濃度を一定にして重合を行うことが好ましい。この場合、重合系中に各モノマーを逐次的または連続的に添加して、各モノマーの濃度が一定の条件下で連続的に重合させるようにすることが好ましい。
【0027】
また、本発明における重合反応では、重合反応の圧力を0.05MPaG(ゲージ圧)以上とし、重合中一定の圧力に保つことが好ましい。この範囲の重合反応の圧力であれば、重合速度が実用上満足し得る速さになり、分子量が充分に高い重合体を得ることができる。
重合圧力は、重合が進行してモノマーが消費されていくにつれて低下するので、重合系中へのモノマー、特に重合条件下でガス状のモノマーの添加速度を制御することにより、容易に調整することができる。
【0028】
本発明における重合反応では、他の条件や操作は特に限定されることなく、広い範囲の反応条件を採用することができる。例えば、重合反応の温度は、モノマーの種類や共重合反応の場合にはモノマーの反応モル比等により最適値が選定され得るが、余りに高温度や低温度での反応は工業的実施には不利となるので、20〜90℃より好ましくは30〜80℃の反応温度を選定することが好ましい。
【0029】
本発明における重合反応では、例えば電離性放射線の照射によって重合を開始することも可能であるが、前記の好適な反応温度(20〜90℃)において高い活性を示すアゾ化合物やパーオキシ化合物等の重合開始剤を使用する方が、工業的実施には有利である。
【0030】
重合開始剤としては、ジコハク酸パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ビス(ペンタフルオロプロピオニル)パーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸類、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類が好ましい。
【0031】
重合開始剤の添加量は、全モノマー合計の100質量部に対して0.0001〜3質量部とすることが好ましく、0.0001〜2質量部とすることがより好ましい。重合開始剤の添加量を下げることによって、生成する重合体の分子量を高めることができる。重合開始剤の他に、通常の溶液重合において用いられる分子量調節剤等を添加することもできる。
【0032】
本発明で得られる含フッ素重合体の分子量は、イオン交換膜としての機械的性能および製膜性と関連するので極めて重要である。含フッ素重合体の分子量は、「TQ」値で150℃以上とすることが好ましい。「TQ」値は170〜340℃がより好ましく、170〜300℃とすることが最も好ましい。なお、「TQ」値とは、重合体の分子量に関係する値であって、容量流速100mm/秒を示す温度で示したものである。上記容量流速は、例えば、重合体を3MPaの加圧下に一定温度のオリフィス(径1mm、長さ1mm)から溶融流出させ、流出する重合体量をmm/秒の単位で示したものである。「TQ」値は重合体の分子量の指標となり、「TQ」値が高いほど高分子量であることを示す。
【0033】
上記重合反応によって、カルボン酸型官能基を有する含フッ素共重合体を含有する含フッ素重合体溶液を得ることができる。本発明における該含フッ素重合体溶液とは、含フッ素重合体が完全に溶媒に溶解した溶液のみならず、含フッ素重合体が溶媒に膨潤した状態にあるものや、沈降せず、溶媒と分離していない状態であるものも含む。例えばスラリー状のものも、含フッ素重合体溶液に含む。
【0034】
[後処理]
重合反応の終了後、得られた含フッ素重合体は、含フッ素重合体溶液を凝集溶媒とともに混合することにより凝集させて分離することができる。凝集溶媒については後述する。重合反応後の含フッ素重合体溶液と凝集溶液との混合は、含フッ素重合体溶液に撹拌下に凝集溶媒を加えてもよいし、凝集溶媒に撹拌下に含フッ素重合体溶液を添加してもよい。凝集溶媒あるいは含フッ素重合体溶液の添加・混合とともに、含フッ素重合体が粒子状となって凝集し析出する。この凝集粒子はろ過などの操作によって単離され、乾燥後回収される。
【0035】
また、重合反応により得られたカルボン酸基を有する含フッ素重合体は、水によって容易に加水分解され、場合によっては溶融加工を施すうえで不具合が生じるおそれがあるため、アルコール処理により再エステル化を施してもよい。このとき、硫酸等の酸性触媒を用いることもできる。またアルコール処理に代えて、オルト蟻酸トリメチルやオルト酢酸トリメチルで処理することで再エステル化することもできる。
【0036】
[凝集溶媒]
本発明における凝集溶媒は、HFCおよび/またはHFEである。凝集溶媒は、該凝集溶媒への含フッ素重合体の膨潤度が低い化合物が好ましい。膨潤度が高い凝集溶媒を用いた場合にはより多くの凝集溶媒が必要となるが、膨潤度が低い凝集溶媒を用いた場合にはより少ない凝集溶媒で凝集が可能となる。
【0037】
含フッ素重合体の凝集溶媒への膨潤度は、0.750以下であることが好ましく、0.500以下であることがより好ましい。の溶媒が凝集に適している。膨潤度がこの範囲であれば、含フッ素重合体溶液に凝集溶媒を加えた際に
ポリマーが充分に析出し、濾別等により含フッ素重合体の分離が容易となる。
【0038】
本発明における凝集溶媒の沸点は、溶媒のリサイクル性や凝集分離後のポリマーの乾燥の容易さ、常温での取り扱いやすさなどの観点から、10〜250℃であること好ましく、10〜200℃であることがより好ましい。ただし、重合溶媒と沸点が近すぎると、重合溶媒および凝集溶媒を回収、分離して再利用する際に、蒸留による分離が困難となる。したがって凝集溶媒の沸点は、重合溶媒の沸点と少なくとも5℃離れていることが好ましい。
【0039】
本発明における凝集溶媒は、炭素数が3〜10であることが好ましく、3〜7であることがより好ましく、3〜5が最も好ましい。炭素数がこの範囲であれば、重合溶媒との沸点差が充分に確保でき、重合溶媒と凝集溶媒の分離が容易となる。
【0040】
本発明における凝集溶媒としては、具体的には、沸点、溶媒への含フッ素重合体の膨潤度、入手が容易な点などから、HFCとしては、式:CFCHCFCH、式:CFCHCFHで表される化合物が、HFEとしては、式:CFCHOCFCFH、式:COCH、式:COCで表される化合物が好ましい。これらの中でも、式:CFCHCFCHで表される化合物および式:CFCHOCFCFHで表される化合物がより好ましい。
【0041】
凝集に用いる含フッ素重合体溶液中の含フッ素重合体の濃度は、通常0.01〜30質量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましい。含フッ素重合体溶液中の含フッ素重合体の濃度が、適切な濃度にない場合には、必要に応じて重合に用いた溶媒などで希釈してもよい。
【0042】
凝集の際の含フッ素重合体溶液と凝集溶媒の混合比率は、凝集溶媒への含フッ素共重合体の膨潤度によって変わってくる。一般的には、該混合比率は含フッ素重合体溶液/凝集溶媒=0/95〜70/30質量比が好ましく、10/90〜60/40質量比がより好ましい。両者の質量比がこの範囲であれば、凝集が効率よく進み、また用いる槽の容積を効率よく活用できる。
【0043】
[イオン交換膜]
本発明により得られるカルボン酸型官能基を含有する含フッ素重合体をイオン交換膜として使用する場合は、そのイオン交換容量は、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂という広い範囲から選択されるが、以下に述べるような条件を採用することにより、イオン交換容量を大きくしても、生成する共重合体の分子量を高くでき、したがって、共重合体の機械的性質や耐久性は低下することがない。
【0044】
イオン交換容量は、共重合体の種類に応じて異なるが、イオン交換膜としての機械的性質および電気化学的性能上、好ましくは0.6ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上、特には0.7ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上の場合が、好ましい。
【0045】
なお、イオン交換容量は、以下の方法により測定できる。含フッ素重合体0.7gをポリカーボネート製の容器に入れ、これに0.1NのNaOH水溶液5mLを加える。これを60℃にて18時間静置することにより、含フッ素重合体のカルボン酸型官能基を完全にNa型に転換する。次いで、この溶液を0.1Nの塩酸で逆滴定し、溶液中のNaOHの量をもとめ、含フッ素重合体のイオン交換容量を算出する。
【0046】
本発明において得られた含フッ素共重合体を製膜することにより、イオン交換膜が得られる。イオン交換膜の製造方法は、含フッ素重合体を製膜する工程、および含フッ素重合体のカルボン酸型官能基を加水分解によりカルボン酸に転換する工程を有する。製膜の工程と、カルボン酸基への転換の工程は、どちらを先に行ってもよいが、通常は製膜後に加水分解を行う方が好ましい。
【0047】
本発明において得られた含フッ素重合体から製造されたイオン交換膜は、異なるイオン交換容量を有する膜あるいはスルホン酸基等の異なる官能基を有する膜と2層以上に積層することも可能である。また、クロス、繊維、不織布等による補強を加えることもできる。
【0048】
本発明において得られた含フッ素重合体から製造されたイオン交換膜は、拡散透析、オゾン発生電解、電解還元、燃料電池の隔膜、高分子触媒などとして使用できるが、特に塩化ナトリウム等の水酸化アルカリの電解に好適に使用できる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[膨潤度の測定方法]
含フッ素重合体を、温度250度にて平板プレスし、フィルム状とした。このフィルムの約0.3gの重量を小数点以下第3位まで正確に測定(この重量をW[g]とする。)した。これを18時間、60℃の状態で50mlの凝集溶媒へ浸漬した。このフィルム状含フッ素重合体を凝集溶媒から取り出した後、すばやく表面の凝集溶媒を拭き取り重量を小数点以下第3位まで正確に測定(この重量をW[g]とする)した。これらの測定値をもとに(W−W)/Wの式で重量の増加率(△W)を小数点以下第3位まで算出し、この値を膨潤度とした。
【0051】
以下に本発明の実施例(例1、2)および比較例(例3)を示す。
[例1](365mfcで後処理可能)
CF(CFCFH 488g、CF=CF−O−CFCFCOOCH 244gを真空脱気した容積1リットルのステンレス製オートクレーブに吸引投入後、内温70℃とし、CF=CF を0.80MPaまで仕込み、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)1.71gをCF(CFCFH 167gに溶解した溶液を18.9mL投入し、重合を開始させた。反応中は系内にCF=CFを導入し、圧力を一定に保持した。またCF=CFが9g反応する毎に3.9gのCF=CF−O−CFCFCOOCHを間欠的にオートクレーブに添加した。反応開始から336分後、未反応のCF=CFをパージして重合を終了させた。得られたCF=CFとCF=CF−O−CFCFCOOCH3の共重合体の15.4重量%スラリー471gを、CFCHCFCH 800gの攪拌下に加えた。析出した粒子状固形物を濾過したところ、濾別が可能であった。得られた濾物をCFCHCFCHで洗浄した後、乾燥して、白色の共重合体を得た。この共重合体のイオン交換容量は、1.072ミリ当量/グラム乾燥樹脂で、TQは289.7℃であった。また、重合溶媒に対する膨潤度は1.221であり、凝集溶媒に対する膨潤度は0.348であった。
【0052】
[例2]
例1と同様の方法で得たスラリーの103gを、CFCHOCFCHF 933gの攪拌下に加えた。析出した粒子状固形物を濾過したところ、濾別が可能であった。得られた濾物をCFCHOCFCHFで洗浄した後、乾燥して、白色の共重合体を得た。この共重合体のイオン交換容量は、1.093ミリ当量/グラム乾燥樹脂で、TQは307.6℃であった。また、重合溶媒に対する膨潤度は1.221であり、凝集溶媒に対する膨潤度は0.453であった。
【0053】
[例3]
例1と同様の方法で得たスラリーの6gを、9gのCClFCFCHClFに加えて攪拌、液状のスラリーを得た。これの濾過を試みたが、共重合体とそれ以外の液体を濾別することができなかった。この溶媒の膨潤度を例3の方法で測定すると、1.367となった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
オゾン層を破壊する恐れがなく地球温暖化への影響が小さい凝集溶媒を使用して、溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素共重合体を含有する溶液から、含フッ素重合体を円滑に効率よく凝集分離することができる。また、該凝集溶媒は重合溶媒と分離が容易であるために、重合溶媒の再利用が容易である。さらに該凝集溶媒は、不燃または燃えにくいので、製造時の取り扱いも容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体を含有する含フッ素重合体溶液に、ハイドロフルオロカーボンおよびハイドロフルオロエーテルからなる群から選択される少なくとも1種の凝集溶媒を添加し、該含フッ素重合体を分離することを特徴とする含フッ素重合体の凝集分離方法。
【請求項2】
凝集溶媒への含フッ素重合体の膨潤度が、0.750以下であることを特徴とする請求項1に記載の含フッ素重合体の凝集分離方法。
【請求項3】
凝集溶媒の炭素数が3〜10である請求項1または2に記載の含フッ素重合体の凝集分離方法。
【請求項4】
溶液重合によって得られたカルボン酸型官能基を有する含フッ素重合体を含有する含フッ素重合体溶液に、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび2,2,2−トリフルオロエトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンからなる群から選択される少なくとも1種の凝集溶媒を添加し、該含フッ素重合体を分離することを特徴とする含フッ素重合体の凝集分離方法。
【請求項5】
含フッ素重合体が、テトラフルオロエチレンと、式CF=CF−(O)−(CF−(CF−CFX)−(O)−(CF−(CF−CFX’)−A(式中、pは0または1、qは0〜12、rは0〜3、sは0または1、tは0〜12、uは0〜3であり、XおよびX’は−Fまたは−CFであり、Aはカルボン酸型官能基である。)で表されるモノマーとの共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の凝集分離方法。
【請求項6】
含フッ素重合体の溶液重合に用いられる溶媒が、炭素数4〜10であり、かつ水素原子数/フッ素原子数の割合(モル基準)が0.05〜20であるハイドロフルオロカーボンである請求項1〜5のいずれかに記載の含フッ素重合体の凝集分離方法。
【請求項7】
含フッ素重合体の溶液重合に用いられる溶媒が、Cn+m2n+12m+1(ただし、nは2〜8の整数であり、mは0〜3の整数である。)で表わされるハイドロフルオロカーボンである請求項1〜6のいずれかに記載の含フッ素重合体の凝集分離方法。

【公開番号】特開2011−52186(P2011−52186A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204906(P2009−204906)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】