説明

含フッ素重合体水性組成物及び被膜物品

【課題】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、耐食性が良好で、ハジキや塗装ムラが起きにくく、塗装性に優れた含フッ素重合体組成物を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、水溶性ポリアミドイミド樹脂(P)、前記水溶性ポリアミドイミド樹脂とは異なる耐熱樹脂(Q)及び含フッ素重合体(R)を含有する水性分散体からなることを特徴とする含フッ素重合体水性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体水性組成物及び被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕等の含フッ素重合体は、耐熱性、電気絶縁性等の特性に優れ、その成形体が低摩擦係数を有し、非粘着性にも優れている。この表面特性は、耐薬品性、撥水撥油性、離型性、摺動性等を発揮する。
【0003】
含フッ素重合体は、このような性質を有するので、例えば、被覆用の組成物に調製し、被塗装物上に塗装して含フッ素重合体からなる塗膜を設けることにより、成形金型離型材、オフィスオートメーション〔OA〕機器用ロール、アイロン等の家庭用品、フライパンやホットプレート等の厨房器具、食品工業、電気工業、機械工業等の分野で幅広い用途がある。
【0004】
含フッ素重合体は、一方、その非粘着性により、被塗装物との密着性に乏しいという問題を生じていた。この密着性の向上を目的として、耐熱樹脂等のバインダー樹脂と含フッ素重合体とを配合したプライマーを下塗りとして予め被塗装物上に塗装することが行われている。
【0005】
プライマーとしては、例えば、それぞれ所定のコロイド状シリカとポリアミド酸の塩とからなる結合剤、該酸塩を溶解するN−メチルピロリドン他の有機液体、水、及び、フルオロ重合体からなるプライマー組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、このプライマー組成物は、ポリアミド酸塩が比較的多数のカルボキシル基を有するので耐食性に劣るという欠点があった。
【0006】
プライマーとしては、また、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド、フッ素樹脂、並びに、金属粉末を有機溶媒中に溶解又は分散させたプライマー組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。このプライマー組成物は、分散媒がN−メチルピロリドン等の有機溶媒であるため、環境上好ましくない場合があり、塗装時の簡便性や作業性に劣る問題があった。
【0007】
水性プライマー組成物としては、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド、並びに、PTFE等のフッ素樹脂からなるものがある(例えば、特許文献3及び4参照。)。しかしながら、これらの水性プライマー組成物は、塗料としてスプレー塗装した場合、ハジキや塗装ムラが起き易く塗装性に劣る問題点があった。
【特許文献1】特開昭52−14630号公報
【特許文献2】特開平6−264000号公報
【特許文献3】国際公開第99/64523号パンフレット
【特許文献4】特開2004−204073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、耐食性が良好で、ハジキや塗装ムラが起きにくく、塗装性に優れた含フッ素重合体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水溶性ポリアミドイミド樹脂(P)、上記水溶性ポリアミドイミド樹脂とは異なる耐熱樹脂(Q)及び含フッ素重合体(R)を含有する水性分散体からなることを特徴とする含フッ素重合体水性組成物である。
【0010】
本発明は、上記含フッ素重合体水性組成物を塗装することにより得られることを特徴とする被覆物品である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、水溶性ポリアミドイミド樹脂(P)、上記水溶性ポリアミドイミド樹脂とは異なる耐熱樹脂(Q)及び含フッ素重合体(R)を含有する水性分散体からなるものである。
【0012】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、被塗装物に塗装することにより、上記被塗装物上に塗膜を形成することができるものである。本明細書において、上記含フッ素重合体水性組成物についての「塗装」とは、上記含フッ素重合体水性組成物を塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することよりなる工程を意味する。
【0013】
上記塗膜は、上記耐熱樹脂(Q)と含フッ素重合体(R)とが表面張力に差を有することから、焼成時に上記含フッ素重合体(R)が浮上し、塗膜の表面側に主として上記含フッ素重合体(R)が配置し、被塗装物側に主として上記耐熱樹脂(Q)が配置しているものである。上記塗膜は、上記耐熱樹脂(Q)が被塗装物との接着性を有するので、被塗装物に対して優れた密着性を有し得るものである。
【0014】
上記塗膜は、必要に応じ、該塗膜の上に上塗り塗膜を積層させてもよい。上記上塗り塗膜は、通常、上塗り用含フッ素重合体からなる上塗り塗料を塗装することにより形成されるものである。上記塗膜は、該塗膜の上に上塗り塗膜を積層させる場合、上記含フッ素重合体(R)が上記上塗り用含フッ素重合体と親和性を有するので、上塗り塗膜との密着性にも優れている。
【0015】
本明細書において、上記被塗装物及び上記塗膜を有するものを被覆物品という。上記被覆物品は、更に、上記上塗り塗膜を有するものであってもよい。
【0016】
本明細書において、上記被覆物品を作製する方法は、上記塗膜の上に上記上塗り塗膜を積層させない場合、ワンコート法という。上記ワンコート法は、上記被塗装物上に上記含フッ素重合体水性組成物を塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することよりなるものである。
【0017】
本明細書において、上記被覆物品を作製する方法は、上記塗膜の上に上記上塗り塗膜を積層させる場合、ツーコート法という。上記ツーコート法は、通常、上記被塗装物上に上記含フッ素重合体水性組成物を塗布し、必要に応じて乾燥し、次に焼成することなく、上記上塗り塗料を塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することよりなるものである。上記ツーコート法の場合、上記含フッ素重合体水性組成物は、上記上塗り塗膜の下塗り塗料として用いられ、プライマーとして機能する。
【0018】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上記水性分散体は、含フッ素重合体(R)からなるものである。
上記含フッ素重合体(R)は、主鎖又は側鎖を構成する炭素原子に直接結合しているフッ素原子を有する重合体である。上記含フッ素重合体は、非溶融加工性であってもよいし、溶融加工性であってもよい。
【0019】
上記含フッ素重合体(R)は、含フッ素モノエチレン系不飽和炭化水素(a)を重合することにより得られるものである。
上記含フッ素モノエチレン系不飽和炭化水素(a)(以下、「不飽和炭化水素(a)」という。)は、フッ素原子により水素原子の一部又は全部が置換されているビニル基を、分子中に1個有する不飽和炭化水素である。
【0020】
上記不飽和炭化水素(a)は、塩素原子等のフッ素原子以外のハロゲン原子、及び/又は、トリフルオロメチル基等のフッ素化メチル基により置換されているものであってもよい。但し、上記不飽和炭化水素(a)は、後述のトリフルオロエチレンを除く。
【0021】
上記不飽和炭化水素(a)としては特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、ビニリデンフルオライド〔VdF〕、フッ化ビニル〔VF〕等が挙げられ、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
上記含フッ素重合体(R)は、また、少なくとも1種の上記不飽和炭化水素(a)と、上記不飽和炭化水素(a)と共重合し得る不飽和化合物(b)との共重合体であってもよい。
【0023】
上記不飽和化合物(b)は、1種又は2種以上の不飽和化合物(b)のみを重合することにより得られる重合体を上記含フッ素重合体(R)として用いないものであるが、上記不飽和炭化水素(a)が1種又は2種以上の上記不飽和炭化水素(a)のみを重合することにより得られる重合体を上記含フッ素重合体として用い得るものである点で、上記不飽和炭化水素(a)と異なるものである。
【0024】
上記不飽和化合物(b)としては特に限定されず、例えば、トリフルオロエチレン〔3FH〕;エチレン〔Et〕、プロピレン〔Pr〕等のハロゲン原子を有しないモノエチレン系不飽和炭化水素等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
上記含フッ素重合体(R)は、単独重合体であってもよいし、共重合体であってよいし、単独重合体及び少なくとも1種以上の共重合体からなる混合物であってもよいし、少なくとも2種以上の共重合体からなる混合物であってもよい。
【0026】
上記単独重合体としては特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、ポリフッ化ビニル〔PVF〕等が挙げられる。
【0027】
上記共重合体としては特に限定されず、例えば、2元共重合体、3元共重合体等が挙げられる。上記2元共重合体としては、例えば、TFE/HFP共重合体〔FEP〕、TFE/CTFE共重合体、TFE/VdF共重合体、TFE/3FH共重合体、Et/TFE共重合体〔ETFE〕、TFE/Pr共重合体等のTFE系共重合体;VdF/HFP共重合体;Et/CTFE共重合体〔ECTFE〕;Et/HFP共重合体等が挙げられる。本明細書において、上記「TFE系共重合体」とは、TFEと、TFE以外のその他の単量体の1種又は2種以上とを共重合して得られるものを意味する。上記TFE系共重合体は、通常、上記TFE系共重合体中に付加されているTFE以外のその他の単量体の割合が、上記TFEと上記その他の単量体との合計質量の1質量%を超えていることが好ましい。
上記3元共重合体としては、VdF/TFE/HFP共重合体等が挙げられる。
【0028】
上記TFE系共重合体における上記TFE以外のその他の単量体としては、下記のTFEと共重合し得るその他の単量体(c)であってもよい。上記その他の単量体(c)は、下記一般式:
X−(CF−(O)−CF=CF
(式中、Xは、水素原子、塩素原子又はフッ素原子を表し、mは、1〜6の整数を表し、nは、0又は1の整数を表す。)で表される化合物(但し、HFPを除く。)、下記一般式:
O[CF(CF)CFO]−CF=CF
(式中、pは、1又は2の整数を表す。)で表される化合物、又は、下記一般式:
X(CFCY=CH
(式中、Xは、上記と同じであり、Yは、水素原子又はフッ素原子を表し、qは、1〜6の整数を表す。)で表される化合物である。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
上記その他の単量体(c)としては、上記一般式で表されるものであれば特に限定されず、例えば、パーフルオロブチレン等の炭素数4以上のパーフルオロオレフィン;パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕等が挙げられる。
TFEとその他の単量体(c)とを共重合することにより得られるTFE系共重合体としては、例えば、TFE/PAVE共重合体〔PFA〕等が挙げられる。
【0030】
上記「単独重合体及び少なくとも1種以上の共重合体からなる混合物」としては特に限定されず、例えば、PTFEとPFAとの混合物、PTFEとFEPとの混合物、PTFEとPFAとFEPとの混合物等が挙げられる。上記「少なくとも2種以上の共重合体からなる混合物」としては特に限定されず、例えば、PFAとFEPとの混合物等が挙げられる。
【0031】
上記含フッ素重合体(R)は、また、パーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(d)(以下、「PAE(d)」という。)を重合することにより得られるものであってもよい。上記PAE(d)は、下記一般式:
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、Rfは、炭素数4〜20のパーフルオロアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数1〜17のアルキル基を表し、rは、1〜10の整数を表し、sは、0〜10の整数を表す。)で表されるものである。
【0034】
上記含フッ素重合体(R)は、上記PAE(d)の単独重合体であってもよいし、また、上記PAE(d)と上記PAE(d)と共重合し得る単量体(e)との共重合体であってもよい。上記単量体(e)としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、N−メチロールプロパンアクリルアミド、(メタ)アクリル酸アミド、アルキル基の炭素数が1〜20である(メタ)アクリル酸のアルキルエステル等の(メタ)アクリル酸誘導体;エチレン、塩化ビニル、フッ化ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の置換又は非置換エチレン;アルキル基の炭素数が1〜20であるアルキルビニルエーテル、アルキル基の炭素数が1〜20であるハロゲン化アルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アルキル基の炭素数が1〜20であるビニルアルキルケトン等のビニルケトン類;無水マレイン酸等の脂肪族不飽和ポリカルボン酸及びその誘導体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のポリエン等が挙げられる。
【0035】
上記含フッ素重合体(R)は、非粘着性、滑り性、耐熱性等に優れる点から、PTFE、FEP及び/又はPFAが好ましく、例えば、PTFE、FEP、PFA及び/又はPTFEとFEPとの混合物、PTFEとPFAとの混合物等が挙げられる。
【0036】
上記PTFEはTFE、FEPはTFEとHFP、PFAはTFEとPAVEがそれぞれ必須単量体であるが、これらの必須単量体以外のその他の微量単量体が付加されているものであってもよい。
【0037】
上記微量単量体としては特に限定されず、例えば、CTFE等の上記不飽和炭化水素(a);3FH等の上記不飽和化合物(b);パーフルオロ(アルコキシビニルエーテル)、(パーフルオロアルキル)エチレン等の上記その他の単量体(c)等が挙げられる。上記微量単量体としては、含フッ素重合体(R)が上記PTFEである場合、更に、HFP、PAVEが挙げられ、上記FEPである場合、更に、PAVEが挙げられ、上記PFAである場合、更に、HFPが挙げられる。上記微量単量体は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
上記微量単量体は、その種類によって異なるが、通常、含フッ素重合体の質量の1質量%以下であることが好ましい。より好ましい上限は0.5質量%であり、更に好ましい上限は0.3質量%であり、好ましい下限は、0.01質量%である。
【0039】
上記含フッ素重合体(R)は、PTFE及び/又はFEPがより好ましい。上記「PTFE及び/又はFEP」とは、PTFE、FEP、又は、PTFEとFEPとの混合物を意味する。
【0040】
上記含フッ素重合体(R)は、例えば、乳化重合、懸濁重合等の従来公知の重合方法を用いて重合することにより得ることができる。上記重合方法により得られる含フッ素重合体(R)は、所望により、上述の範囲内の平均粒子径を有するように粉砕する。上記粉砕の方法としては特に限定されず、例えば、上記含フッ素重合体(R)をロールでシート状に圧縮し、粉砕機により粉砕し分級する方法等が挙げられる。
【0041】
上記含フッ素重合体(R)は、乳化重合や懸濁重合を用いて得る場合、得られる重合体成分のみを単離することなくディスパージョンのまま含フッ素重合体水性組成物の調製に用いてもよいし、上記ディスパージョンは、得られる重合体成分からなる分散液に界面活性剤(S1)を添加することにより上記分散液を濃縮し、必要に応じ更に界面活性剤(S2)を添加して、含フッ素重合体水性組成物として調製したものであってもよい。
【0042】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上記含フッ素重合体(R)は水性媒体に粒子として分散したものである。上記含フッ素重合体(R)は、平均粒子径が0.01〜50μmである粒子からなるものが好ましい。0.01μm未満であると、含フッ素重合体(R)からなる粒子の分散性が悪く、得られる含フッ素重合体水性組成物が機械的安定性及び貯蔵安定性に劣るおそれがある。50μmを超えると、含フッ素重合体(R)からなる粒子の均一分散性に欠け、得られる含フッ素重合体水性組成物を用いて塗装する際、表面が平滑な塗膜が得られず、塗膜物性が劣る場合がある。より好ましい上限は、5μmであり、更に好ましい上限は、0.5μmであり、より好ましい下限は、0.05μmである。上記機械的安定性は、送液・再分散の際、ホモジナイザー等による強い攪拌や剪断力を与えても、再分散不可能な凝集体を生成しにくい性質のことである。
【0043】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上記水溶性ポリアミドイミド樹脂〔PAI〕(P)は、好ましくは下記一般式(i):
【0044】
【化2】

【0045】
(式中、Rは3価の有機基を表し、Rは2価の有機基を表す。)で表される繰り返し単位(i)を有するものである。
【0046】
上記水溶性PAI(P)は、例えば、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物と多塩基酸無水物又は多塩基酸無水物クロライドとを反応させて得られる。
【0047】
上記水溶性PAI(P)は下記一般式(ii):
【0048】
【化3】

【0049】
(式中、→は異性化を意味し、Gは水素原子又はカルボキシル基であり、Rは4価の有機基を表し、Rは2価の有機基を表す。)で表される繰り返し単位(ii)をも有するものであってよく、また、ポリマー鎖末端にカルボキシル基を有するものであってよい。これらのポリアミド酸は、化学量論的量の塩基性化合物で中和したものが、PAIの水溶性を高める点で好ましい。上記R〜Rとしては、芳香環を有する炭素数6〜20の有機基が好ましい。
【0050】
上記ジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’−ジフェニルメタンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0051】
上記ジアミン化合物としては、例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ビス−(4−アミノフェニル)エーテル、ベンチジン、2,2’−(4’−アミノフェニル)プロパン、ビス−(4−アミノフェニル)メタン、ビス−(4−アミノフェニル)スルホン、ビス−(4−アミノフェニル)スルフィド、又は、2,2’−ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0052】
上記多塩基酸無水物としては、例えば、ピロメリト酸ジ無水物、トリメリト酸無水物、2,2’−ビス(3’,4’−ジカルボキシフェニル)プロパンジ無水物、又は、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテルジ無水物等が挙げられる。
【0053】
上記多塩基酸無水物クロライドとしては、例えば、トリメリト酸無水物クロライド等が挙げられる。
【0054】
上記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の苛性アルカリやアンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、ピリジン、N−メチルピロール、N−メチルモルフォリン等のアルキルアミン;メチルアニリン、ジメチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン等のアルキルアニリン;ジエチル2−ヒドロキシエチルアミン、トリス(2−ヒドロキシエチル)アミン、エチルビス(2−ヒドロキシエチル)アミン、N,N−ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられ、これらを2種以上混合して用いてもよい。
【0055】
上記塩基性化合物は、反応媒体中において反応により得られるポリアミドイミド中に含まれるカルボキシル基と、イミド結合を開環させたカルボキシル基とを合わせた酸価に対して、1〜20当量用いることが好ましい。1当量未満では樹脂の水溶化が困難となりやすく、20当量を超えると樹脂の加水分解が促進される場合がある。
【0056】
上記水溶性PAI(P)は、数平均分子量が5000〜50000であることが好ましい。数平均分子量が5000未満であると、得られる途膜の耐熱性や機械的特性等が低下することがあり、数平均分子量が50000を超えると、含フッ素重合体水性組成物の粘度が高くなり、塗装性に劣ることがある。上記数平均分子量は、10000〜30000であることが好ましく、15000〜25000であることがより好ましい。
【0057】
上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC]により測定し、ポリスチレン換算した値である。本明細書において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC]は、0.1〜0.2重量%に調製した含フッ素ポリマーのテトラヒドロフラン[THF]溶液をディスポーザルメンブランフィルターユニットDISMIC−25HP(親水性ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]、アドバンテック製)に通したものをサンプルとして行う。使用するGPC装置はHLC−8020(東ソー社製)であり、使用カラムはTSKgel G2000HHR、G3000HHR、G4000HHR、G5000HHRである。測定中、カラム内には上記サンプルを1.0ml/分にて導入し、圧力を55kg/cmに、温度を40℃に保持する。検出器には示差屈折計(RI)を用いる。
【0058】
上記水溶性PAI(P)は、カルボキシル基及びイミド結合〔−CO−N−CO−〕(imido)を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が10〜100であることが好ましい。酸価が10未満であると、多塩基酸無水物又は多塩基酸無水物クロライドと反応するカルボキシル基が不足するため水溶化が困難になり、100を超えると、得られる含フッ素重合体水性組成物がゲル化しやすくなる。上記酸価は、20〜80であることが好ましく、30〜60とすることがより好ましい。
【0059】
上記酸価は、以下の方法により得られる値である。すなわち、水溶性PAI(P)を約0.5gとり、これに1,4−ジアザビシクロ〔2,2,2〕オクタンを約0.15g加え、更にN−メチル−2−ピロリドンを約60g及びイオン交換水を約1ml加え、水溶性PAI(P)が完全に溶解するまで攪拌する。これを0.05モル/Lエタノール性水酸化カリウム溶液を使用して電位差滴定装置で滴定し、水溶性PAI(P)の酸価を得る。
【0060】
上記水溶性PAI(P)は、通常、溶液として、含フッ素重合体水性組成物の調製に用いる。該水溶性PAI(P)溶液は、有機溶剤を含む水に上記水溶性(P)を溶解することにより容易に得ることができる。
【0061】
上記有機溶剤としては、極性が高く高沸点を有するものであれば特に限定されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、クレゾール酸、スルホラン、ホルムアルデヒド等が挙げられる。上記有機溶剤としては、入手の容易性からN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
上記有機溶剤は、本発明の含フッ素重合体水性組成物における後述の水性分散体に含有され得る有機液体と同じものであってもよい。
【0062】
水溶性PAI(P)は、粘度の点で、水溶性PAI(P)溶液の1〜50質量%の濃度であることが好ましく、より好ましくは5〜40質量%である。
水溶性PAI(P)は、水溶性PAI(P)溶液において、溶媒中に分子の状態で分散していると考えられ、該水溶性PAI(P)溶液を用いて調製した本発明の含フッ素重合体水性組成物においても同様に分子の状態で分散し、水性媒体中に溶解した状態で存在することができると考えられる。
【0063】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上記水性分散体は、上述の水溶性PAI(P)、含フッ素重合体(R)、及び、上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)からなるものである。
【0064】
上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)は、耐熱性を有すると通常認識されている樹脂であればよく、連続使用可能温度が150℃以上の樹脂が好ましい。
上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)としては特に限定されず、例えば、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアリレンサルファイド樹脂、及び、非水溶性ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)としては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0065】
上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)は、被塗装物との密着性に優れ、上記塗膜を形成する際に焼成時の温度下でも充分な耐熱性を有し、得られる塗膜が耐食性及び耐水蒸気性に優れる点から、ポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕が好ましい。
【0066】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)は、水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)と水溶性PAI(P)との合計質量の10〜99質量%であることが好ましく、20〜95質量%であることがより好ましい。
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)がPESである場合、PESは、PESと水溶性PAI(P)との合計質量の65〜85質量%であることが好ましい。65質量%未満であると、含フッ素重合体水性組成物から得られる塗膜の耐水蒸気性が低下するおそれがあり、85質量%を超えると、塗膜の耐食性が低下するおそれがある。
【0067】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)は、後述の水性媒体に粒子として分散したもの、又は、水性媒体に溶解したものである。上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)が水性媒体に粒子として分散している場合、上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)からなる粒子は、上記水性媒体に粒子として分散した平均粒子径が0.1〜10μmである粒子であることが好ましい。上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)の平均粒子径が上記範囲内であると、含フッ素重合体水性組成物から得られる塗膜の耐食性が良好である。
上記平均粒子径は、遠心沈降法により測定して得られる値である。
【0068】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上述の水性分散体は、上記水溶性PAI(P)、水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)及び含フッ素重合体(R)とともに、必要に応じ、その他の樹脂からなるものであってもよい。上記その他の樹脂を配合することにより、含フッ素重合体水性組成物から得られる塗膜の造膜性、耐食性等を向上させることができる。
【0069】
上記その他の樹脂としては特に限定されず、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0070】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上記水性分散体は、含フッ素重合体(R)からなる粒子を主に分散質とし、水性媒体を分散媒とするものである。上記水性媒体は水を含むものであれば特に限定されず、例えば、水及び有機液体との混合物、水等が挙げられる。
【0071】
上記有機液体としては特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;炭素数が6〜12の飽和炭化水素系溶剤;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶剤;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;酢酸ブチル等の非環状エステル類;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;1−ブタノール、ジアセトンアルコール等のモノアルコール類等が挙げられる。
【0072】
本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上述の水溶性PAI(P)溶液中に含有し得る有機溶剤、及び、上記水性分散体中に含有し得る有機液体の含有量は合計で、上記水溶性PAI(P)100質量部に対し40〜500質量部の割合で存在することが好ましく、80〜300質量部であることがより好ましい。
【0073】
上記芳香族炭化水素系溶剤としては、市販品であるソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200(何れも商品名、エクソン化学社製)等を用いてもよい。上記飽和炭化水素系溶剤としては、市販品であるミネラルスピリット(日本工業規格、工業ガソリン4号)等を用いてもよい。上記有機液体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記有機液体としては、含窒素系溶剤を用いることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミドを用いることがより好ましい。
【0074】
上記水性媒体は、例えば、後述の各種添加剤が溶解又は分散しているものであってもよい。上記水性媒体は、含フッ素重合体(R)の重合に用いた水性媒体であってもよいし、重合に用いた水性媒体とは別に用意したものであってもよいが、上記含フッ素重合体(R)を乳化重合や懸濁重合により得る場合、含フッ素重合体(R)の重合に用いた水性媒体をそのまま用いることができる。
【0075】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、塗装性、含フッ素重合体水性組成物から得られる塗膜の性質向上等を目的として、更に、一般的なコーティング用組成物に通常用いられる各種添加剤を配合してなるものであってもよい。上記各種添加剤としては特に限定されず、本発明の含フッ素重合体水性組成物を用いることにより得られる後述の被覆物品の用途に応じて選択され、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、顔料、充填材、顔料分散剤、沈降防止剤、水分吸収剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0076】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、25℃における粘度が0.1〜50000mPa・sであることが好ましい。粘度が0.1mPa・s未満であると、被塗装物上への塗布時にタレ等を生じやすく、目的とする膜厚を得ることが困難となる場合があり、50000mPa・sを超えると、塗装作業性が悪くなる場合があり、得られる塗膜の膜厚が均一とならず、表面平滑性等に劣る場合がある。より好ましい下限は、1mPa・sであり、より好ましい上限は、30000mPa・sである。上記粘度は、BM型単一円筒型回転粘度計(東京計器社製)を用いて測定することにより得られる値である。
【0077】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、上述のワンコート法に用いる塗料組成物であってもよいし、上述のツーコート法に用いるプライマー組成物であってもよいが、プライマー組成物に好適である。
【0078】
本発明の含フッ素重合体水性組成物をプライマー組成物として用いる場合、上記水溶性PAI(P)と水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)の合計固形分質量(W)は、Wと含フッ素重合体(R)の合計固形分質量の15〜50質量%であることが好ましい。
【0079】
本明細書において、上記「Wと含フッ素重合体(R)の合計固形分質量」とは、本発明の含フッ素重合体水性組成物を被塗装物上に塗布したのち80〜100℃以下の温度で乾燥し、380〜400℃で45分間焼成した後の残渣における上記水溶性PAI(P)と水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)、及び、含フッ素重合体(R)との合計質量を意味する。
【0080】
上記Wは、Wと含フッ素重合体(R)の固形分合計量の15質量%未満であると、水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)が少ないので、含フッ素重合体水性組成物から得られる塗膜と被塗装物との密着性が不充分である場合がある。50質量%を超えると、含フッ素重合体(R)が少ないので、上記塗膜と上塗り塗膜との密着性が不充分であるおそれがある。より好ましい下限は、20質量%であり、より好ましい上限は、40質量%である。
【0081】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、従来公知の方法等により調製することができ、例えば、有機溶剤を含んだ水に分子分散の状態で溶解している上記水溶性PAI(P)と、水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)、含フッ素重合体(R)、及び、必要に応じて配合するその他の樹脂を適宜混合して上記水性媒体に分散又は溶解することにより水性ディスパージョンを得、必要に応じて粘度調節剤等を用いて塗装しやすい粘度に調整し、所望に応じて上記粘度調節剤以外の各種添加剤を配合する方法等が挙げられる。本発明の含フッ素重合体水性組成物において、上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)、含フッ素重合体(R)、顔料等は、また、それぞれの分散体を予め調製し、得られる分散体を混合することより調製を行うものであってもよい。
【0082】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、塗装性に優れ、例えばスプレー塗装に用いた場合であっても、被塗装物に霧状の塗料が到達した際にハジキや塗装ムラを生じにくい。この効果を奏する機構は、明確ではないが、水溶性PAI(P)を含有することから、該水溶性PAI(P)が水性分散体中に分子分散の状態で溶解しており、噴霧中の塗料粒子が従来品よりも小さいことによるものと考えられる。
【0083】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、更に、水溶性PAI(P)を含有するにもかかわらず、耐食性が良好であり、水溶性PAI(P)が有するカルボキシル基数が比較的多くても耐食性を維持することができる。本発明における耐食性は、水溶性PAI(P)の代わりに非水溶性PAIを用いた場合に比べ少なくとも同等程度に維持することも可能である。
【0084】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、また、含フッ素重合体(R)からなるものであり、含フッ素重合体水性組成物が上述のワンコート法に用いる塗料組成物である場合、被塗装物に非粘着性、潤滑性等を付与することができ、上述のツーコート法に用いるプライマー組成物である場合、塗装することにより得られる塗膜と上述の上塗り塗膜との密着性を向上させることができるものである。
【0085】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、また、水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)からなるものであり、上記水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)が上述のように被塗装物との接着性を有するので、塗装することにより得られる塗膜が被塗装物への密着性に優れたものである。
【0086】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、上述の構成からなるものであるので、塗料組成物として被覆物品の作製に好適に用いることができる。
【0087】
本発明の被覆物品は、本発明の含フッ素重合体水性組成物を被塗装物上に塗布し、必要に応じて乾燥することにより得られるものである。
【0088】
上記被塗装物は、その種類に応じて予め脱脂処理、粗面化処理等の表面処理を行ったものであってもよい。上記粗面化処理の方法としては特に限定されず、例えば、酸又はアルカリによるケミカルエッチング、陽極酸化(アルマイト処理)、サンドブラスト等が挙げられる。上記表面処理は、上記含フッ素重合体水性組成物をハジキを生じず均一に塗布することができる点、及び、被塗装物と塗布膜との密着性が向上する点から、行うことが好ましい。
【0089】
上記塗布の方法としては特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装等が挙げられる。
上記乾燥としては特に限定されず、例えば、従来公知の方法等が用いられ、60〜300℃の温度で5〜60分間行うことが好ましい。
【0090】
本発明の被覆物品の作製は、上記塗膜の上に上塗り塗膜を積層させない上述のワンコート法の場合、上記塗布膜を得た後、この塗布膜を焼成することにより塗膜を得るものである。上記焼成としては特に限定されず、例えば、従来公知の方法等が用いられ、上記水溶性PAI(P)、水溶性PAIとは異なる耐熱樹脂(Q)、含フッ素重合体(R)等の種類によるが、通常、260〜410℃で10〜30分間行う。
【0091】
本発明の被覆物品の作製は、上記塗膜の上に上塗り塗膜を積層させる上述のツーコート法の場合、上記塗布膜を得た後、この塗布膜上に上塗り塗料を塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することにより含フッ素重合体水性組成物からなる塗膜と、上塗り塗料からなる上塗り塗膜とを得るものである。
【0092】
本明細書において、上記「上塗り塗料」は、上記塗布膜上に塗布する塗料であって、上塗り用含フッ素重合体からなるものである。上記上塗り用含フッ素重合体は、主鎖又は側鎖を構成する炭素原子に直接結合しているフッ素原子を有する重合体である。上記上塗り用含フッ素重合体は、主鎖又は側鎖を構成する炭素原子に直接結合しているフッ素原子を有する重合体である点で上記含フッ素重合体(R)と共通するが、上記上塗り塗料に配合されている点で、本発明の含フッ素重合体水性組成物に配合されている上記含フッ素重合体(R)とは概念上異なるものである。上記上塗り用含フッ素重合体は、上記上塗り塗膜中に存在することにより、被塗装物に非粘着性、潤滑性等を付与することができ、上記含フッ素重合体(R)と親和性を有するので上記塗膜との密着性も向上することができる。
【0093】
上記上塗り用含フッ素重合体としては特に限定されず、例えば、PTFE、PFA、FEP等が挙げられるが、上記塗膜と上塗り塗膜との層間密着性を向上させる点から、本発明の含フッ素重合体水性組成物における上記含フッ素重合体(R)と同じもの、又は、溶融加工性の有無等の性質が類似するものが好ましい。上記上塗り塗料としては、主成分がPTFEであるPTFE系塗料、主成分がPFAであるPFA系塗料、主成分がFEPであるFEP系塗料等が挙げられる。
【0094】
上記上塗り塗料は、上記上塗り用含フッ素重合体とともに、塗装性、得られる塗膜の性質向上等を目的として、更に、上述の含フッ素重合体水性組成物に用い得る各種添加剤と同様の添加剤を配合してなるものであってもよい。
上記上塗り塗料は、例えば、主成分がPTFE、PFA又はFEPである場合、水性ディスパージョン系塗料、溶剤系塗料等の液状塗料が挙げられ、主成分がPFA又はFEPである場合、粉体塗料が挙げられる。
【0095】
上記塗布膜は、通常、上記上塗り塗料を塗布する前に焼成を行わないが、必要に応じて焼成を行ってもよい。上記上塗り塗料を塗布する前の焼成は、工程の簡略化や、エネルギー、労力、時間等の低減を図ることができる点で、行わないことが好ましい。
【0096】
上記上塗り塗料の塗布の方法としては特に限定されず、例えば、上記上塗り塗料が液状塗料である場合、本発明の含フッ素重合体水性組成物を塗布する方法と同様の方法等が挙げられ、上記上塗り塗料が粉体塗料である場合、静電スプレー塗装、流動浸漬塗装、ロトライニング法等が挙げられる。
上記上塗り塗料を塗布した後の乾燥及び焼成は、それぞれ上述の含フッ素重合体水性組成物を塗布した後に行う乾燥及び焼成と同様の条件で行うことができる。
【0097】
本発明の被覆物品の作製は、上述のツーコート法の場合、上記上塗り塗料の代わりにフィルムを用いることにより上記上塗り塗膜を得るものであってもよい。
本明細書において、上記フィルムは、主として上記上塗り用含フッ素重合体からなるものであり、フィルム状に成形されたものである。上記上塗り塗膜の形成に上記フィルムを用いる場合、上記塗布膜上に上記フィルムを載置し、加熱圧着することにより上記塗布膜と上記フィルムとを密着させる等の従来公知の方法等を用いることができる。
【0098】
焼成後における上記塗膜の膜厚及び上記上塗り塗膜の膜厚としては特に限定されず、被覆物品の用途によるが、上記塗膜の膜厚が1〜100μmであり、上記上塗り塗膜の膜厚が10〜200μmであることが好ましい。
【0099】
上記塗膜は、上述のワンコート法により上記被塗装物上に形成されたものである場合、上記含フッ素重合体(R)が有する非粘着性、潤滑性等を被塗装物に付与することができ、上述のツーコート法により上記塗膜の上に上塗り塗膜が積層されたものである場合、被塗装物との密着性と上記上塗り塗膜との密着性の両方に優れたものである。
【0100】
本発明の被覆物品は、被塗装物と、上記塗膜とからなるものであって、上記塗膜は、上記被塗装物上に塗装することにより得られたものである。本発明の被覆物品は、少なくとも上記被塗装物と上記塗膜とからなるものであれば、更に、上記上塗り塗膜を有するものであってもよい。
【0101】
上記被塗装物としては特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属単体及びこれらの合金類等の金属;ホーロー、ガラス、セラミックス等の非金属無機材料等が挙げられる。上記合金類としては、ステンレス等が挙げられる。
【0102】
本発明の被覆物品は、上述のワンコート法に用いた含フッ素重合体(R)、又は、上述のツーコート法に用いた上塗り用含フッ素重合体が有する特性を利用した用途に使用することができる。
【0103】
本発明の被覆物品としては特に限定されず、例えば、上記特性として非粘着性を利用する場合、フライパン、グリル鍋、圧力鍋、その他の各種鍋、炊飯器、餅つき器、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル等の調理器具;電気ポット、製氷トレー等の飲食用容器;練りロール、圧延ロール、コンベアホッパー等の食品工業用部品;オフィスオートメーション機器〔OA〕用ロール、OA用ベルト、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール等の工業用品;発泡スチロール成形用等の金型、合板・化粧板製造用離型板等の成形金型離型;レンジフード等の厨房用品;コンベアーベルト等の冷凍食品製造装置等が挙げられる。
【0104】
本発明の被覆物品としては、また、上記特性として滑り性を利用する場合、のこぎり、やすり等の工具;アイロン等の家庭用品;金属箔;食品加工機、包装機、紡繊機械等のすべり軸受;カメラ・時計の摺動部品;自動車部品等が挙げられる。
【発明の効果】
【0105】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、上述の構成を有するので、耐食性が良好で、ハジキや塗装ムラが起きにくく、塗装性に優れた含フッ素重合体組成物を得ることができるものである。
本発明の被塗装物は、上述の構成を有するので、塗装ムラがなく、各種飲食用容器等として好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0106】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。以下、「%」「部」は、それぞれ質量%、質量部を表す。
【0107】
製造例1
ポリエーテルスルホン樹脂水性分散体の調製
数平均分子量約24000のポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕60部及び脱イオン水60部を、セラミックボールミル中でPESからなる粒子が完全に粉砕されるまで約10分間攪拌した。次いで、N−メチル−2−ピロリドン〔NMP〕180部を添加し、更に、48時間粉砕し、分散体を得た。得られた分散体を更にサンドミルで1時間粉砕し、PES濃度が約20%のPES水性分散体を得た。PES水性分散体中のPESからなる粒子の粒子径は、2〜3μmであった。
【0108】
製造例2
水溶性ポリアミドイミド樹脂溶液の調製
数平均分子量が20000で1g当りの酸価が80mg(KOH)のポリアミドイミド樹脂〔PAI〕111.1部、NMP156.36部、フルフリルアルコール17.37部、ジエタノールアミン44.92部、アンモニア水(28%)3.57部、イオン交換水333.33部を攪拌し、PAIを溶解させ、水溶性PAI溶液を得た。水溶性PAI溶液中のPAIの濃度は、15%であった。
【0109】
製造例3
ポリアミドイミド樹脂水性分散体の調製
固形分29%のポリアミドイミド樹脂〔PAI〕ワニス(NMPを71%含む)を水中に投入してPAIを析出させた。これをボールミル中で48時間粉砕してPAI水性分散体を得た。得られたPAI水性分散体中の固形分は、20%であり、PAIからなる粒子の平均粒子径は、2μmであった。
【0110】
実施例1
製造例1で得られたPES水性分散体、及び、製造例2で得られた水溶性PAI溶液を、PESが、PESと水溶性PAIとの合計固形分質量の85%となるように混合し、これにポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕水性分散体(平均粒子径0.28μm、固形分60%、分散剤としてポリエーテル系ノニオン界面活性剤(HLB値=14)をPTFEの固形分100部に対して6部含有している)を、PES及び水溶性PAIが、PES、水溶性PAI及びPTFEの合計固形分質量の20%となるように加え、分散安定剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテル(HLB値=10)をPTFEの固形分100部に対して6部添加して、固形分33%の塗料組成物を得た。
【0111】
(評価用塗装板の作製)
厚さ2.0mm、大きさ5×10cmのアルミニウム板(A−1050)の表面をアセトンで脱脂した後、JIS B 1982に準拠して測定した表面粗度Ra値が2.5〜3.5μmとなるようにサンドブラストを行い、粗面化した。エアーブローにより表面のダストを除去した後、下塗り塗料として、得られた塗料組成物を、重力式スプレーガンRG−2型(商品名、アネスト岩田社製、ノズル径1.0mm)を用い、乾燥膜厚が10〜15μmとなるように、吹き付け圧力0.2MPaでスプレー塗装により塗布した。得られた塗布膜を80〜100℃で15分間乾燥し、室温まで冷却した。得られた塗布膜の上に、上塗り塗料としてPTFEを含有する水性塗料ポリフロンPTFE EK−3700C−201(商品名、ダイキン工業社製)を同様の条件でスプレー塗装により塗布し、80〜100℃で15分間乾燥した。その後380℃で20分間焼成し、膜厚約20μmの上塗り塗膜を作製し、評価用塗装板を得た。
【0112】
得られた塗料組成物、及び、評価用塗装板について、下記の評価を行った。
【0113】
(塗装性)
得られた塗料組成物を、ガラス板に塗料の粒子径がわかるように塗布し(吹き付け圧力0.2MPa、ガラス板と重力式スプレーガンとの距離30cm、塗布時間1秒間。)、乾燥後、顕微鏡で観察して平均粒子径を求めた。
得られた塗料組成物の霧化性は良く、塗装性は良好で、ガラス板上の塗料の平均粒子径は28μmであった。
【0114】
(塗膜外観)
得られた評価用塗装板の外観を目視で観察し、評価を行った。
得られた評価用塗装板は、上塗り塗料を塗装、焼成後の塗膜外観も均一で良好であった。
【0115】
(耐食性)
得られた評価用塗装板にカッターナイフでクロスカット(切り傷)を入れ、水1Lに対しておでんの素(エスビー社製)20gを溶かした溶液に浸漬し、70℃に保温した。1000時間経過した後、塗膜に膨れが発生していないかを目視で観察した。
得られた評価用塗装板は、1000時間経過後も塗膜に膨れの発生はなく、良好であった。
【0116】
比較例1
水溶性PAI溶液に代えて製造例3で得られたポリアミドイミド樹脂水性分散体を使用した以外は、実施例と同様に塗料組成物を得た。
得られた塗料組成物を用いて、実施例と同様に評価用塗装板を作製し、評価を行った。
【0117】
(塗装性)
得られた塗料組成物の霧化性は劣り、一部でハジキが発生し、塗装性に劣っていた。ガラス板上の塗料の平均粒子径は60μmであった。
(塗膜外観)
得られた評価用塗装板の塗膜外観は、下塗り塗料として塗料組成物を塗装した際に発生したハジキの箇所に斑点が認められ、劣っていた。
(耐食性)
得られた評価用塗装板は、1000時間経過後も塗膜に膨れの発生はなく、良好であった。
【0118】
比較例2
製造例2で得られた水溶性PAI溶液にPTFE水性分散体(平均粒子径0.28μm、固形分60%、分散剤としてポリエーテル系ノニオン界面活性剤(HLB値=14)をPTFEの固形分100部に対して6部含有している)を、水溶性PAIが、水溶性PAI及びPTFEの合計固形分質量の20%となるように加え、分散安定剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテル(HLB値=10)をPTFEの固形分100部に対して6部添加して、固形分21%の塗料組成物を得た。
得られた塗料組成物を用いて、実施例と同様に評価用塗装板を作製し、評価を行った。
【0119】
(塗装性)
得られた塗料組成物の霧化性は良く、塗装性は良好で、ガラス板上の塗料の平均粒子径は26μmであった。
(塗膜外観)
得られた評価用塗装板は、上塗りを塗装、焼成後の塗膜外観も均一で良好であった。
(耐食性)
得られた評価用塗装板は、300時間経過後、塗膜に膨れの発生が認められ、不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の含フッ素重合体水性組成物は、耐食性が良好で、ハジキや塗装ムラが起きにくく、塗装性に優れているので、各種被塗装物品の製造に幅広く用いることができる。
本発明の被塗装物は、上記含フッ素重合体水性組成物を塗装してなるものであるので、塗装ムラがなく、各種飲食用容器等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】実施例の塗料組成物を塗布したガラス板の顕微鏡写真である。
【図2】比較例1の塗料組成物を塗布したガラス板の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリアミドイミド樹脂(P)、前記水溶性ポリアミドイミド樹脂とは異なる耐熱樹脂(Q)及び含フッ素重合体(R)を含有する水性分散体からなる
ことを特徴とする含フッ素重合体水性組成物。
【請求項2】
水性分散体は、水溶性ポリアミドイミド樹脂とは異なる耐熱樹脂(Q)からなる粒子と、含フッ素重合体(R)からなる粒子を含有するものであり、前記水溶性ポリアミドイミド樹脂とは異なる耐熱樹脂(Q)からなる粒子は、前記水性分散体に粒子として分散した平均粒子径が0.1〜10μmである粒子である請求項1記載の含フッ素重合体水性組成物。
【請求項3】
水溶性ポリアミドイミド樹脂とは異なる耐熱樹脂(Q)は、ポリエーテルスルホン樹脂である請求項1又は2記載の含フッ素重合体水性組成物。
【請求項4】
ポリエーテルスルホン樹脂は、前記ポリエーテルスルホン樹脂と、水溶性ポリアミドイミド樹脂(P)との合計質量の65〜85質量%である請求項3記載の含フッ素重合体水性組成物。
【請求項5】
含フッ素重合体(R)は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び/又は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体である請求項1、2、3又は4記載の含フッ素重合体水性組成物。
【請求項6】
水溶性ポリアミドイミド樹脂(P)は、数平均分子量が5000〜50000で、かつカルボキシル基及びイミド結合を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が10〜100である請求項1、2、3、4又は5記載の含フッ素重合体水性組成物。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の含フッ素重合体水性組成物を塗装することにより得られることを特徴とする被覆物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−63482(P2007−63482A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254049(P2005−254049)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】