説明

含リン化合物含浸による水素化処理触媒の調製方法

本発明は、水素化処理触媒を調製する方法であって、a)第VIII族の少なくとも1種の元素および/または第VIB族の少なくとも1種の元素および無定形担体を含有する焼成および/または乾燥触媒前駆体に、20超の誘電率を有する少なくとも1種の極性溶媒中の少なくとも1種のリン化合物溶液から構成される含浸溶液を含浸させる少なくとも1回の工程、b)工程a)から得られる前記含浸触媒前駆体を熟成させる工程およびc)次の焼成工程なしで、工程b)から得られる前記触媒前駆体を乾燥させる工程を包含する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素化処理の分野に関する。
【0002】
本発明は、主として、石油留分(oil cut)の水素化処理方法、特に、水素化脱硫、水素化脱窒、水素化脱金属、水素化および水素化転化の方法において用いる触媒を調製する方法に関する
【背景技術】
【0003】
通常、炭化水素留分の水素化処理用の触媒は、例えば、石油製品を所与の適用(自動車燃料、ガソリンまたは軽油、家庭用燃料、ジェット燃料)のための規格(硫黄含有量、芳香族化合物含有量など)とするために、そこに含有される含硫化合物または含窒素化合物を除去することを目的とする。また、前記触媒は、それが種々の変化手順を経てその物理化学的性質、例えば、方法を改質する性質、真空留出物を水素化分解する性質、または常圧もしくは真空の残渣を水素化転化する性質が改変されてしまう前に、そこから不純物を除去するために供給する前処理にも関し得る。水素化処理触媒の組成および使用は、非特許文献1の論文に特に十分に記載されている。硫化反応の後、所望の反応に関して巧く機能しない数種の表面種が担体上に存在する。それらの種は、Topsoeらの出版物(非特許文献2)において特に十分に記載されている。
【0004】
欧州共同体の自動車汚染基準の強化(非特許文献3)は、ディーゼル燃料およびガソリンの硫黄含有量を相当に厳しく低下させるよう、精製業者に規制を加えるであろう(2005年1月1日において50ppmとは対照的に、2009年1月1日から硫黄の重量で最大10parts per million(ppm)に)。これらの規制は、新しい精製装置(unit)、または水素化処理触媒の定容でのその活性の増大を必要とすることになろう。
【0005】
触媒の活性を改善するために、従って、良好な水素化処理活性をもつ最大限に多くの表面種をもつように、それらの調製の各工程を最適化することが必要である。特に、硫化に関して耐熱種(refractory species)(例えば、Al(MoO、CoAlまたはNiAl)を産生することとなる担体と活性相の前駆体との間の相互作用を制御しなければならない;これらの耐熱種は、触媒において不要のものであり、触媒活性に所望でない影響を与える。溶液中のアルミナ担体と前駆体塩との間のこれらの相互作用は、当業者に既知である;アルミナマトリクスから抽出されるAl3+イオンは、非特許文献4に示されるように、式[Al(OH)Mo183−を有するアンダーソン型ヘテロポリアニオンを形成し得る。アンダーソン型ヘテロポリアニオンの形成は、アルミナ担体の表面でのラマン分光測定法により検出される。さらに、モリブデン含有量が高い場合、硫化反応に耐熱性である相は、焼結により、触媒の表面にCoMoOまたはCoなどの相を形成し得る(非特許文献1)。
【0006】
水素化処理触媒の活性を増大させるために、従って、水素化処理触媒の調製における種々の工程、特に、担体と活性相の前駆体間の相互作用を良好に制御することが重要であることが広く知られている。従って、ヘプタモリブデン酸アンモニウムおよび硝酸コバルトもしくはニッケルを用いて従来通り組み上げた触媒と比較して、[Al(OH)Mo183−の形成を防止する一つの解決法は、リンモリブデン酸へテロポリアニオンを使用することであり得る。それらは、従来、活性相の前駆体を同時に含浸させるためにリン酸を導入することにより得られる。前記モリブデンは、ヘテロポリアニオン[Al(OH)Mo183−よりもより安定であるリンモリブデン酸へテロポリアニオンの形成により保護される。
【0007】
さらに、リンをドープされた触媒は、より良好な触媒活性を有することが、当業者に既知である。ケッギン型へテロポリアニオンPMo12403−、PCoMo11407−、並びにヘテロポリアニオン、PMo236−、は現在、常套的に触媒の調製に使用されている。このように、非特許文献5では、PMo236−の使用が特に有利であることが示されている。このヘテロポリアニオンは、含浸溶液中のP/Moモル比0.4以上の場合に得られる。
【0008】
しかしながら、リン酸の含浸溶液への導入並びにヘテロポリアニオン溶液の弱pHは、担体の部分的溶解というより重要な現象を引き起こす。このことは、組織(textural)パラメータの低下、特に、最終触媒のBET比表面積の減少に至らしめる(参照:非特許文献6)。しかし、このような減少は、担体表面の活性相前駆体の分散に悪影響を与え、焼成に際し、焼結により、耐熱性相CoMoO(それぞれNiMoO)およびCo(それぞれ、NiO)の形成に至り得る。
【0009】
同様の現象はリンタングステン酸へテロポリアニオンで観察され得る。
【0010】
従って、明らかなことは、既存の手段とは異なる一般的には水素化処理触媒の調製手段、特に、CoMoPまたはNiMoP触媒の調製手段を見出すことが有益であることである。
【0011】
Intevepの特許文献1は、担体中にリンの全部を最初に導入することからなる解決法を提案している。本特許には、アルミノリン酸塩またはアルミノホウ酸塩担体を含有し、使用されるべきコバルト含有量を低下させ得る水素化脱硫および水素化脱窒の触媒の調製法が記載されている。アルミノリン酸塩(またはアルミノホウ酸塩)をベースとする担体を使用することにより、すなわち、担体上の活性相を構成する金属を担持させる前に、アルミナにP形態の少量のリン(またはB形態のホウ素)を加えることにより、前記金属とアルミナとの間の相互作用を低下させ、これにより、採用される活性相を構成する金属の量、特に、コバルトの量を、触媒活性を失うことなく、低減させることが可能になる。しかし、かかる担体の形成は、無水リン酸(P)の脱水性のため困難であり、最終触媒のBET表面を改善することができず、これにより、担体表面での活性相の前駆体の分散の減少が引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4743574号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ビー・エス・クラウセン(B.S. Clausen)、エイチ・ティー・トプソエ(H.T. Topsoe)および エフ・イー・メソス(F.E. Massoth)著、「キャタリスト・サイエンス・アンド・テクノロジー(Catalyst Science and Technology)」、1996年、第11巻、Springer-Verlag
【非特許文献2】トプソエ(Topsoe)ら著、「ザ・キャタリシス・レビュー(the Catalysis Review),サイエンス・アンド・エンジニアリング(Scince and Engineering)」、1984年、第26号、p.395-420
【非特許文献3】「ヨーロピアン・ユニオン・オフィシャル・ジャーナル(European Union Official Journal)」、L76、2003年3月22日、Directive 2003/70/CE、p.L76/10-L76/19
【非特許文献4】キャリア(Carrier)ら著、「ジャーナル・オフ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティ(Journal of the American Chemical Society)」、 1997年、第119巻、第42号、p.10137-10146
【非特許文献5】「ジャーナル・オフ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティ(Journal of American Chemical Society)、2004年、第126巻、第44号、p.14548-14556
【非特許文献6】「アプライド・キャタリスト(Applied Catalyst)」、1989年、第56巻、p.197-206、 特に、p.202
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有利な点の一つは、第VIII族からの少なくとも1種の元素および/または第VIB族からの少なくとも1種の元素および無定形担体を含有する乾燥および/または焼成の触媒前駆体の含浸工程を用いた、含リン化合物の形態でのリンの導入を可能とする水素化処理触媒の調製法であって、得られた前記水素化処理触媒は、従来技術の触媒と比較してより良好な触媒活性を有する、方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の有利な点は、第VIII族からの少なくとも1種の元素および/または第VIB族からの少なくとも1種の元素および無定形担体を含有する乾燥および/または焼成の触媒前駆体の含浸工程により、原料の乾燥および/または焼成触媒前駆体と本発明方法により得られる最終触媒との間で比表面積(アルミナのグラム当たりの面積(m)で計算される)を維持しながら、無視し得ない量のリンを、含リン化合物の形態で導入することを可能とする水素化処理触媒を調製する方法を提供することである。
【0016】
本発明の状況下、上記の問題を克服する方法がここで発見された;従来技術とは対照的に、該方法はBET比表面積の減少を和らげることが可能である。本発明は、以下の工程からなる水素化処理触媒の調製法について記載する:
a)誘電率が20を超える少なくとも1種の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物溶液により構成される含浸溶液を用いる、第VIII族からの少なくとも1種の元素および/または第VIB族からの少なくとも1種の元素および1種の無定形担体を含有する乾燥および/または焼成触媒前駆体の少なくとも1回の含浸工程;
b)工程a)からの前記含浸触媒前駆体の熟成工程;
c)引続く焼成工程なしの、工程b)からの前記触媒前駆体の乾燥工程。
【0017】
特定の理論に拘束されることを望まないが、本発明方法は、その工程a)の故に、誘電率が20を超える少なくとも1種の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物溶液により構成される含浸溶液を用いて、第VIII族および/または第VIB族からの少なくとも1種の元素および無定形担体(好ましくは、アルミナ)を既に含有する触媒前駆体の少なくとも1回の含浸を可能とし得るものであり、それが無定形担体(好ましくは、アルミナ)と前記含リン化合物との直接の接触を回避し得るものと思われる。本発明方法は、従って、含リン化合物の存在下に、無定形担体(好ましくは、アルミナ)の溶解現象を回避可能とし、その結果、BET比表面積の減少を回避し得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明方法の工程a)において使用される第VIII族からの少なくとも1種の元素および/または第VIB族からの少なくとも1種の元素および無定形担体を含有する乾燥および/または焼成触媒前駆体、およびその調製態様が以下に記載される。
【0019】
本発明の方法の工程a)において使用される前記触媒前駆体は、その殆どの部分について当業者に周知の方法を用いて調製され得る。
【0020】
前記触媒前駆体は、第VIII族からの少なくとも1種の元素および/または第VIB族からの少なくとも1種の元素により構成される水素化脱水素化機能を有し、場合によっては、ドーパントとしてのリンおよび/またはケイ素、および無定形担体を含有する。
【0021】
一般に使用される前記触媒前駆体用の無定形担体は、アルミナおよびシリカ−アルミナにより形成される群から選択される。
【0022】
無定形担体がシリカ−アルミナである場合、前記無定形担体は、好ましくは、少なくとも40重量%のアルミナを含有する。
【0023】
前記無定形担体は、好ましくはアルミナ、非常に好ましくはガンマ−アルミナにより構成される。
【0024】
無定形担体がアルミナである場合、前記無定形担体は、有利には、以下のように形状化される:水和オキシ水酸化アルミニウムなどの湿潤アルミナゲルにより構成されるマトリクスを硝酸溶液などの酸性水溶液と混合し、次いでミリングする。これは解こう(peptization)である。解こうの後、得られたペースト状物をダイに通して、好ましくは0.4〜4mmの範囲の径を有する押出物を形成させる。この押出物は次いで、80〜150℃の範囲の乾燥温度での乾燥工程に付す。前記無定形担体の形状化の後に、次いで、有利には300〜600℃の範囲の焼成温度で実施される焼成工程が続く。
【0025】
前記触媒前駆体の水素化脱水素化機能は、モリブデンおよびタングステンから選択される元素周期律表の第VIB族からの少なくとも1種の金属(単独または混合物として使用)により、および/またはコバルトおよびニッケルから選択される元素周期律表の第VIII族からの少なくとも1種の金属(単独または混合物として使用)により提供される。
【0026】
第VIB族および/または第VIII族からの水素化脱水素化元素の総量は、有利には、全触媒重量に対する酸化物の重量で2.5%を超える。
【0027】
高い水素化脱硫活性を所望する場合、水素化脱水素化機能を有する金属は、有利には、コバルトおよびモリブデンの組み合わせからなる;高い水素化脱窒活性を所望する場合、ニッケルとモリブデンまたはタングステンの組み合わせが好適である。
【0028】
使用され得る第VIB族元素の前駆体は、当業者に周知である。一例として、使用され得るモリブデンとタングステンの源は、酸化物および水酸化物、モリブデン酸およびタングステン酸およびそれらの塩、特に、モリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウムなどのアンモニウム塩、リンモリブデン酸、リンタングステン酸およびその塩を含む。好ましくは、三酸化モリブデンまたはリンタングステン酸を使用する。
【0029】
第VIB族からの元素の前駆体の量は、触媒前駆体の総質量に対する酸化物の重量で有利には5〜35%の範囲、好ましくは15〜30重量%の範囲、より好ましくは16〜29重量%の範囲である。
【0030】
使用され得る第VIII族元素の前駆体は、有利には、第VIII族からの元素の酸化物、水酸化物、仕込原料ロキシ炭酸塩、炭酸塩および硝酸塩から選択される。採用される第VIII族からの元素がコバルトである場合、水酸化コバルトおよび炭酸コバルトが好ましく使用される。採用される第VIII族からの元素がニッケルである場合、仕込原料ロキシ炭酸ニッケルが好ましく使用される。
【0031】
第VIII族からの元素の前駆体の量は、触媒前駆体の総質量に対する酸化物の重量で有利には1〜10%の範囲、好ましくは1.5〜9%重量の範囲、より好ましくは2〜8重量%の範囲である。
【0032】
前記触媒前駆体の水素化脱水素化機能は、有利には、調製の種々の段階で、種々の方法により触媒に導入され得る。
【0033】
前記水素化脱水素化機能は、有利には、少なくとも一部、前記無定形担体の形状化に際して、または好ましくは前記形状化の後に導入され得る。
【0034】
水素化脱水素化機能が、少なくとも一部、前記無定形担体の形状化に際して導入される場合、それは、有利には、一部のみ、マトリクスとして選択される酸化物ゲルとのミリングの時点で導入され得、水素化元素(単数または複数)の残余はその後に、ミリング後に、好ましくは形状化前の担体の焼成後に導入される。前記水素化脱水素化機能はまた、有利には、マトリクスとして選択される酸化物のゲルとのミリングの時点で、全体として導入され得る。
【0035】
好ましくは、第VIB族からの金属は、導入の態様と関係なく、VIII族からの金属と同時に、またはその導入の直後に導入される。
【0036】
水素化脱水素化機能が、少なくともその一部分、好ましくは全体として、前記無定形担体の形状化の後に導入される場合、無定形担体への前記水素化脱水素化機能の導入は、有利には、形状化されかつ焼成された担体上に過剰の溶液を1回以上含浸させることによるか、または好ましい場合には1回以上の乾式含浸により実施されることが可能であり、非常に好ましくは、前駆体金属塩を含有する溶液を用いて、形状化されかつ焼成されてある前記担体の乾式含浸により実施される。好ましくは、水素化脱水素化機能は前記無定形担体の形状化後に、前駆体金属塩含有含浸溶液を用いる前記担体の乾式含浸により、全体として導入される。また、前記水素化脱水素化機能は、有利には、第VIB族からの金属の酸化物の前駆体(単数または複数)が担体のミリングの際にすでに導入されている場合、第VIII族からの金属の酸化物の前駆体(単数または複数)の溶液を用いた、形状化されかつ焼成されてある担体の1回以上の含浸によっても導入され得る。対応する前駆体塩の多回数の含浸で元素が導入される場合、触媒に対する中間の焼成工程は、一般に250〜500℃の範囲の温度で行われる。
【0037】
リン、ホウ素、フッ素およびケイ素から選択され、単独でまたは混合物として使用される触媒用のドーパント(好ましくは、前記ドーパントはリンである)が、有利には導入され得る。また、前記ドーパントは、有利には、単独でまたは第VIB族および/または第VIII族からの1種以上の金属との混合物として導入され得る。それはまた有利には、例えばおよび好ましくは、アルミナの前駆体であるオキシ水酸化アルミニウム(ベーマイト)などの選択されたマトリクスの解こうの直前または直後に導入され得る。前記ドーパントは、有利には、第VIB族からの金属または第VIII族からの金属との混合物として、該前駆体金属塩およびドーパント前駆体を含有する溶液を用いた前記無定形担体の乾式含浸により、形状化した無定形担体(好ましくは、押出物形態のアルミナ)上に、完全にまたは部分的に導入され得る。
【0038】
多くのケイ素源が使用され得る。従って、オルトケイ酸エチルSi(OEt)、シラン類、ポリシラン類、シロキサン類、ポリシロキサン類、ハロゲンケイ酸塩類(例えば、フルオロケイ酸アンモニウム(NHSiFまたはフルオロケイ酸ナトリウムNaSiF)を使用することが可能である。シリコモリブデン酸およびその塩、またはシリコタングステン酸およびその塩も有利には使用され得る。ケイ素は、例えば、水/アルコール混合物中のケイ酸エチル溶液を含浸させることにより加えられてもよい。ケイ素は、例えば、ポリアルキルシロキサン型ケイ素化合物の水中懸濁液の含浸により加えられてもよい。
【0039】
ホウ素源は、ホウ酸、好ましくは、オルトホウ酸、HBO、ニホウ酸アンモニウムもしくは五ホウ酸アンモニウム、酸化ホウ素、またはホウ酸エステル類でよい。ホウ素は、例えば、水/アルコール混合物中または水/エタノールアミン混合物中のホウ酸溶液の形態で導入され得る。
【0040】
好適なリン源は、オルトリン酸HPOであるが、その塩およびエステル、例えば、リン酸アンモニウムも適切である。
【0041】
使用され得るフッ素源は当業者に周知である。一例として、フッ化物アニオンがフッ化水素酸またはその塩の形態で導入され得る。前記塩はアルカリ金属、アンモニウムまたは有機化合物により形成される。この有機化合物の場合、該塩は、有利には、反応混合物において有機化合物とフッ化水素酸との間の反応により形成される。水中にフッ化物アニオンを放出し得る加水分解可能な化合物、例えば、フルオロケイ酸アンモニウム(NHSiF、フルオロケイ酸ナトリウムNaSiFまたは四フッ化ケイ素SiFを使用することも可能である。フッ素は、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウムまたは二フッ化アンモニウムの水溶液の含浸により導入され得る。
【0042】
ドーパントがホウ素およびケイ素から選択される場合、ドーパントは、触媒前駆体に、有利には0.1〜40%の範囲、好ましくは0.1〜30%、より好ましくは0.1〜20%の範囲のドーパントの酸化物の量で導入される(%は酸化物の重量%として表わされる)。
【0043】
ドーパントがリンである場合、該ドーパントは、触媒前駆体に、有利には0〜20%の範囲、好ましくは0.1〜15%、より好ましくは0.1〜10%の範囲のドーパントの酸化物の量で導入され得る(%は酸化物の重量%として表わされる)。
【0044】
ドーパントがフッ素である場合、該ドーパントは、触媒前駆体に、有利には0〜20%の範囲、好ましくは0.1〜15%、より好ましくは0.1〜10%の範囲のドーパントの酸化物の量で、導入され得る(%は酸化物の%として表わされる)。
【0045】
形状化されかつ焼成された担体中または上への前記水素化脱水素化機能と触媒用の任意のドーパントの導入に続いて、有利には、金属塩(金属酸化物(単数または複数)の前駆体)のための溶媒(一般には水)が除去される、50〜150℃の範囲の温度での乾燥工程が実施される。
【0046】
それによって得られた触媒前駆体の乾燥工程に続いて、場合によっては、空気中200〜500℃の範囲の温度での焼成工程が実施される;前記焼成工程は、得られた触媒前駆体の酸化物相を組み立て、単位中の前記触媒前駆体の安定性と、従ってその装置中の寿命を増大させることを目的とする。
【0047】
最後に、留意すべきは、多くの変化が採用され得る以上、このリストに限定されるものではないことである。
【0048】
本発明方法の工程a)において使用される触媒前駆体の調製法の好適な実施態様に従うと、前記触媒前駆体は、第VIII族からの金属の酸化物の前駆体(単数または複数)および/または第VIB族からの金属の酸化物の前駆体(単数または複数)の溶液を、形状化されかつ焼成された担体上に含浸させ、次いで、50〜150℃の範囲の乾燥温度で乾燥させることにより得られる。得られる触媒前駆体は、従って、乾燥した触媒前駆体である。
【0049】
本発明の方法の工程a)において使用される触媒前駆体の調製法の非常に好適な実施態様に従うと、上記の含浸溶液は、リンおよびケイ素から選択され、単独または混合物として使用される少なくとも1種のドーパントをも含有する。
【0050】
本発明の方法の工程a)において使用される触媒前駆体の調製法の別の好適な実施態様に従うと、前記触媒前駆体は、第VIII族からの金属の酸化物の前駆体(単数または複数)および/または第VIB族からの金属の酸化物の前駆体(単数または複数)の溶液を、形状化されかつ焼成された担体上に含浸させ、次いで、50〜150℃の範囲の乾燥温度で乾燥させ、空気中200〜500℃の範囲の温度で焼成することにより得られる。得られた触媒前駆体は、従って、焼成された触媒前駆体である。
【0051】
本発明の方法の工程a)において使用される触媒前駆体の調製法の別の非常に好適な実施態様に従うと、上記の含浸溶液は、リンおよびケイ素から選択され、単独または混合物として使用される少なくとも1種のドーパントをも含有する。
【0052】
このようにして得られた乾燥および/または焼成触媒前駆体は、次いで、本発明方法の工程a)において使用される。
【0053】
本発明の方法の工程a)に従うと、乾燥および/または焼成の触媒前駆体は、第VIII族からの少なくとも1種の元素および/または第VIB族からの少なくとも1種の元素および無定形担体を含有する。
【0054】
本発明の調製方法の工程a)の好適な実施態様に従うと、前記乾燥および/または焼成の触媒前駆体は、コバルトおよびニッケルから選択され、単独または混合物として使用される第VIII族からの少なくとも1種の元素および/またはモリブデンおよびタングステンから選択され、単独または混合物として使用される第VIB族からの少なくとも1種の元素、リンおよびケイ素により形成される群から選択され、単独または混合物として使用される少なくとも1種のドーパント、およびアルミナおよびシリカ−アルミナから選択される無定形担体を含有する。
【0055】
本発明の調製方法の工程a)の非常に好適な実施態様に従うと、前記乾燥および/または焼成の触媒前駆体は、第VIII族からの少なくとも1種の元素(第VIII族からの元素はコバルトである)、および第VIB族からの少なくとも1種の元素(第VIB族からの元素はモリブデンである)を、ドーパントとしてのリンおよび無定形アルミナ担体と共に含有する。
【0056】
本発明の調製方法の工程a)の別の非常に好適な実施態様に従うと、前記乾燥および/または焼成の触媒前駆体は、第VIII族からの少なくとも1種の元素(第VIII族からの元素はニッケルである)、および第VIB族からの少なくとも1種の元素(第VIB族からの元素はモリブデンである)を、ドーパントとしてのリンおよび無定形アルミナ担体と共に含有する。
【0057】
本発明の調製方法の工程a)の別の非常に好適な別の実施態様に従うと、前記乾燥および/または焼成の触媒前駆体は、第VIII族からの少なくとも1種の元素(第VIII族からの元素はニッケルである)および第VIB族からの少なくとも1種の元素(第VIB族からの元素はタングステンである)を、ドーパントとしてのリンおよび無定形アルミナ担体と共に含有する。
【0058】
本発明の方法の工程a)に従うと、前記乾燥および/または焼成触媒前駆体は、誘電率が20を超える少なくとも1種の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物溶液により構成される含浸溶液を含浸させられる。
【0059】
本発明の方法の工程a)の含浸溶液の含リン化合物は、有利には、オルトリン酸HPO、メタリン酸および五酸化リンまたは無水リン酸PもしくはP10により形成される群から選択され、単独または混合物として使用される;好ましくは、含リン化合物はオルトリン酸HPOである。
【0060】
本発明の方法の工程a)の含浸溶液の含リン化合物は、有利には、リン酸ジブチル、リン酸トリイソブチル、リン酸エステル類およびリン酸エーテル類により形成される群から選択され、単独または混合物として使用され得る。
【0061】
本発明の方法の工程a)の含浸溶液の含リン化合物は、有利には、リン酸アンモニウムNHPO、リン酸ジアンモニウム(NHPO、およびポリリン酸アンモニウム(NHにより形成される群から選択され、単独または混合物として使用され得る。
【0062】
前記含リン化合物は、有利には、本発明の方法の工程a)の含浸溶液に、リンP対前記触媒前駆体の第VIB族の金属(単数または複数)のモル比0.001〜3モル/モルの範囲、好ましくは0.005〜2モル/モルの範囲、好ましくは0.005〜1モル/モルの範囲、より好ましくは0.01〜1の範囲に相当する量で導入される。
【0063】
本発明の方法の工程a)に従うと、該含リン化合物は、少なくとも1回の含浸工程により、好ましくは、上記の乾燥および/または焼成された化合物前駆体上への含浸溶液の含浸のための単一の工程により、前記乾燥および/または焼成触媒前駆体上に導入される。
【0064】
前記含リン化合物は、有利には、スラリー含浸により、または過剰含浸(excess impregnation)により、または乾式含浸によるか、または当業者に既知の任意の他の手段により担持させられ得る。
【0065】
本発明の調製方法の工程a)の好適な実施態様に従うと、工程a)は単回の乾式含浸工程である。
【0066】
本発明の方法の工程a)に従うと、工程a)の含浸溶液は、誘電率が20を超える少なくとも1種の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物の溶液により構成される。
【0067】
本発明の方法の工程a)の前記含浸溶液が2種以上の極性溶媒、すなわち極性溶媒の混合物中の少なくとも1種の含リン化合物溶液により構成されている場合、各溶媒は、有利には誘電率が20を超える、好ましくは24を超える極性溶媒の混合物を構成する。
【0068】
本発明の方法の工程a)の第一の好適な実施態様に従うと、前記含浸溶液は、誘電率が20を超える単一の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物の溶液により構成される。
【0069】
非常に好ましくは、前記含浸溶液は、誘電率が24を超える単一の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物の溶液により構成される。
【0070】
本発明の方法の工程a)の第二の好適な実施態様に従うと、前記含浸溶液は、2種の極性溶媒であって、それぞれの誘電率が20を超える極性溶媒の混合物中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物の溶液により構成される。
【0071】
非常に好ましくは、前記含浸溶液は、2種の極性溶媒であって、2種の極性溶媒のそれぞれは誘電率が24を超える溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物の溶液により構成される。
【0072】
本発明の方法の工程a)の第三の好適な実施態様に従うと、前記含浸溶液は、金属を含まずかつ誘電率が20を超える少なくとも1種の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物の溶液によりもっぱら構成される。
【0073】
好ましくは、前記含浸溶液は、金属を含まずかつ誘電率が20を超える単一の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物のみの溶液によりもっぱら構成される。
【0074】
非常に好ましくは、前記含浸溶液は、金属を含まない2種の極性溶媒であって、2種の極性溶媒のそれぞれは20を超える誘電率を有する極性溶媒の混合物中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物のみの溶液によりもっぱら構成される。
【0075】
本発明の方法の工程a)のより好適な第三の実施態様に従うと、前記含浸溶液は、金属を含まずかつ誘電率が24を超える少なくとも1種の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物の溶液によりもっぱら構成される。
【0076】
好ましくは、前記含浸溶液は、金属を含まずかつ誘電率が24を超える単一の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物のみの溶液によりもっぱら構成される。
【0077】
非常に好ましくは、前記含浸溶液は、金属を含まない2種の極性溶媒であって、該2種の極性溶媒のそれぞれは24を超える誘電率を有する溶媒の混合物中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは、単一の含リン化合物のみの溶液によりもっぱら構成される。
【0078】
本発明の方法の工程a)において使用される前記極性溶媒は、有利には、メタノール、エタノール、水、フェノール、シクロヘキサノールおよび1,2−エタンジオールから選択される極性プロトン性溶媒の群から選択され、単独または混合物として使用される。
【0079】
本発明の方法の工程a)において使用される前記極性溶媒は、有利には、炭酸プロピレン、DMSO(ジメチルスルホキシド)およびスルホランにより形成される群からも選択され、単独または混合物として使用され得る。
【0080】
好ましくは、極性プロトン性溶媒が使用される。
【0081】
通常の極性溶媒およびそれらの誘電率のリストは、文献(Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry, C Reinhardt, Wiley-VCH, 3rd edition, 2003, pages 472-474)に見出され得る。
【0082】
本発明の調製方法の工程a)の好適な実施態様に従うと、上記定義の適切な極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物、好ましくは単一の含リン化合物の溶液により構成される含浸溶液を用いて、数回の連続的含浸工程を実施することが可能である。
【0083】
本発明の調製方法の工程b)に従うと、含浸工程a)から得られる含浸触媒前駆体は、本発明にとって特に重要である熟成工程を経る。工程a)からの前記含浸触媒前駆体の熟成工程b)は、有利には、大気圧下、周囲温度ないし60℃の範囲の温度で、12〜340時間の範囲、好ましくは24〜170時間の範囲の熟成期間にわたって実施される。熟成期間は、有利には、本工程を実施する温度の関数である。熟成期間が十分であることを確証する一つの手段は、種々の元素についての分布プロファイルを提供するキャスタン・マイクロプローブ(Castaing microprobe)、触媒成分のX線分析と結び付けられた透過型電子顕微鏡法(transmission electron microscopy:TEM)等の技術を用いて、または、電子マイクロプローブを用いて触媒中に存在する元素の分布をマッピングすることによって、本発明の方法の工程a)から得られた含浸触媒前駆タイ中のリンの分布を特徴付けることである。特に、熟成が短すぎると、リンはそれがリンを含む場合に前記触媒前駆体の殻に分布させられることになる。
【0084】
本発明の調製方法の工程c)に従うと、工程b)からの触媒前駆体は乾燥工程を経るが、続く工程b)からの触媒前駆体を焼成する工程は行わない。
【0085】
本工程の目的は、前記含リン化合物を導入可能とする溶媒の全部または一部分を有利に除去することである。本発明の方法の乾燥工程c)は、有利には、当業者に既知のあらゆる技術を用いて実施される。本発明の方法の乾燥工程c)は、有利には、大気圧もしくは減圧の炉中、50〜200℃の範囲、好ましくは60〜190℃の範囲、より好ましくは60〜150℃の範囲の温度で、30分ないし4時間の範囲、好ましくは1〜3時間の範囲の乾燥期間にわたって実施される。乾燥は、有利には、移動床(traversed bed)中、空気または任意の他の熱ガスを用いて実施され得る。好ましくは、乾燥が固定床中で実施される場合、使用されるガスは空気またはアルゴンもしくは窒素などの不活性ガスである。
【0086】
本発明の方法の工程c)の終了時に、引続く焼成工程を経ない乾燥触媒が得られる。
【0087】
その使用の前に、金属が酸化物形態である触媒を硫化物触媒に変換して、その活性種を形成させることが有利である。この活性化または硫化段階は、有利には、当業者に周知の方法を用いて、水素および硫化水素の存在下に、スルホ還元雰囲気(sulpho-reductive atmosphere)中で実施される。
【0088】
本発明の方法の工程c)の終了時に、得られた前記乾燥触媒は、有利には、硫化工程d)を経るが、中間の焼成工程は行われない。
【0089】
本発明の方法の工程c)の終了時に得られた前記乾燥触媒は、有利には、現場外(ex situ)または現場(in situ)で硫化される。硫化剤は、有利には、触媒を硫化するとの観点で、HSガスまたは炭化水素仕込原料の活性化に使用される任意の他の含硫化合物である。前記含硫化合物は、有利には、アルキルジスル仕込原料(例えばジメチルジスル仕込原料)、アルキルスル仕込原料(例えばジメチルスル仕込原料)、n−ブチルチオール(n-butyl mercaptan)、tertio-ノニルポリスル仕込原料タイプのポリスル仕込原料化合物(例えばARKEMAによって販売されるTPS-37またはTPS-54)または触媒の良好な硫化を達成することができる当業者に知られている任意の他の化合物から選択される。
【0090】
本発明の方法により得られ、硫化工程d)を経た乾燥触媒は、有利には、石油留分、石炭からの留分、または天然ガスから生産される炭化水素などの炭化水素仕込原料の水素化精製および水素化変換に使用され、より特定的には、芳香族および/またはオレフィン性および/またはナフテン性および/またはパラフィン性の化合物を含有する炭化水素仕込原料(前記仕込原料は、場合によっては、金属および/または窒素および/または酸素および/または硫黄を含有する)の水素化、水素化脱窒、水素化脱酸素、水素化脱芳香族、水素化脱硫、水素化脱金属および水素化転化に使用される。これらの用途において、先に硫化工程d)を受けている可能性のある本発明の方法により得られた触媒は、従来技術の触媒を超える改善された活性を有する。
【0091】
すでに硫化工程d)を受けている本発明の方法により得られる無定形乾燥触媒は、有利には、水素化分解反応にも使用され得る。
【0092】
より特定的には、上記の炭化水素仕込原料の水素化精製および水素化転化の反応を使用する方法に採用される仕込原料は、有利には、ガソリン、軽油、真空軽油、常圧残渣、真空残渣、常圧留出物、真空留出物、重油燃料、油類、ワックスおよびパラフィン、廃油、脱アスファルト残渣または原油、または熱もしくは触媒の転化工程からの仕込原料であり、単独または混合物として使用される。それらは有利には、硫黄、酸素もしくは窒素などのヘテロ原子および/または少なくとも1種の金属を含有する。
【0093】
上記の炭化水素仕込原料の水素化精製および水素化変換反応を採用する方法において使用される操作条件は、一般に以下のとおりである:温度は、有利には180〜450℃の範囲、好ましくは250〜440℃の範囲であり、圧力は、有利には0.5〜30MPaの範囲、好ましくは1〜18MPaの範囲であり、毎時空間速度は、有利には0.1〜20h−1の範囲、好ましくは0.2〜5h−1の範囲であり、また水素/仕込原料比(液体仕込原料の体積当たりの標準温度および圧力下に測定される水素の体積として表される)は、有利には、50〜2000L/Lの範囲である。
【0094】
本発明の方法により得られ、場合によっては先の硫化反応工程d)を経てもよい乾燥触媒は、有利には、接触分解済み仕込原料の前処理に際し、また水素化分解または緩和な水素化転化(mild hydroconversion)の最初の工程において、使用され得る。従って、それらは一般に、処理の第二工程において使用される酸性のゼオライト性または非ゼオライト性の触媒の上流で使用される。
【0095】
以下の実施例は、本発明方法により製造した触媒が、本発明の方法を用いて調製された触媒についての従来技術の触媒を超える活性における実質的利益を実証し、本発明を例証する働きを有するが、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0096】
(実施例)
本発明の触媒を調整する実施例のすべてについて、担体としてアルミナが使用された。
【0097】
(実施例1:CoMoP型の乾燥触媒C1’および焼成触媒C1(本発明に合致しない)の調製)
Condea Chemie GmbHによってSB3の商品名で販売される超微細平板状のベーマイトまたはアルミナから構成されるマトリクスを使用した。このゲルを66%硝酸含有水溶液(乾燥ゲル1グラム当たり7重量%の酸)と混合し、次いで、15分間にわたってミリングした。ミリングの終了時に、得られたペースト状物を、径1.6mmの円筒状オリフィスをもつダイに通した。次いで、押出物を120℃で終夜乾燥させ、次いで、乾燥空気1kg当たり40gの水分を含む湿潤空気中、540℃で2時間にわたって焼成した。径1.2mmの円筒状の押出物がこのようにして得られ、このものは、300m/gの比表面積、0.70cm/gの細孔容積、および93Åに中心をもつモノモーダルな細孔サイズ分布を有していた。X線回折によるマトリクスの分析により、それは低結晶性立方体ガンマアルミナからもっぱら構成されていることが示された。
【0098】
「押出物」の形態とした上記のアルミナ担体(67.9g)に、コバルト、モリブデンおよびリンを加えた。含浸溶液は、水溶液(V=57.0cm)中のリン酸溶液(7.47g)に、酸化モリブデン(24.34g)および水酸化コバルト(5.34g)を熱時溶解させることにより調製された。乾式含浸の後、押出物を飽和湿度雰囲気下に12時間にわたって熟成させ、次いで、120℃で終夜乾燥させた。得られた乾燥触媒は、触媒C1’であった。最後に、触媒C1’を乾燥空気中、450℃で2時間にわたって焼成することにより、焼成触媒C1を生じさせた。触媒C1’およびC1の最終の金属酸化物含有量および比表面積(当業者に周知のBET法により測定)は以下の通りであった:
・ MoO: 23.4(重量%)
・ CoO: 4.1(重量%)
・ P: 4.6(重量%)
・ 比表面積(SBET):180(m/g触媒)、すなわち、273m/g
(触媒C1におけるアルミナ);
・ Ptotal/Mo: 0.563モル/モル。
【0099】
(実施例2:CoMoP型の乾燥触媒C2’および焼成触媒C2(本発明に合致しない)の調製)
触媒C2は、焼成触媒C1と同様の方法で、形状化アルミナ(70.7g)、三酸化モリブデン(24.23g)、水酸化コバルト(5.21g)および少量のリン酸(3.25g)から調製された。
【0100】
実施例1と同様に、触媒C2’は乾燥工程後に得られた乾燥触媒に相当した。触媒C2’およびC2の最終の金属量および比表面積は以下の通りであった:
・ MoO : 23.3(重量%)
・ CoO: 4.0(重量%)
・ P: 2.0(重量%)
・ 比表面積(SBET):203(m/g触媒)、すなわち、287m/g
(触媒C2におけるアルミナ);
・ Ptotal/Mo: 0.174モル/モル
留意すべきことは、含浸溶液中の少量のリンが、焼成触媒C1よりもより高いBET比表面積をもつ焼成触媒C2を生じさせ得たということである。この傾向は、BET比表面積を触媒中に存在するアルミナのgで表わすと、より顕著である。
【0101】
(実施例3:CoMo型の乾燥触媒C3’および焼成触媒C3(本発明に合致しない)の調製)
触媒C3は、焼成触媒C1およびC2と同様の方法で調整されたが、ただし、異なる含浸溶液を用い、CoMo10386−タイプのヘテロポリアニオンに基づいた。かかる含浸溶液の調製は、特許出願EP 1 393 802 A1に記載されている。実施例1および2と同様に、触媒C3’は乾燥工程後に得られた乾燥触媒に相当した。触媒C3’およびC3の最終の金属量および比表面積は以下の通りであった:
・ MoO : 23.0(重量%)
・ CoO: 5.3(重量%)
・ 比表面積(SBET):214(m/g触媒)、すなわち、298m/g
(触媒C3におけるアルミナ);
・ Ptotal/Mo: 0モル/モル
留意すべきことは、この触媒がその含浸溶液にリンを含まないこと、そしてC2よりもさらに高く、またC1よりも明らかに高い比表面積をもつことである。
【0102】
(実施例4:焼成触媒C1および乾燥触媒C1’それぞれの含浸による触媒C4および触媒C4’(本発明に合致する)の調製)
触媒C4(それぞれ触媒C4’)は、本発明の方法の工程a)による、焼成CoMoP触媒C1(それぞれ乾燥触媒C1’)の含浸により得られ、この含浸工程に際して導入されるリンの量を0.05(Pのモル)/(焼成C1および乾燥C1’触媒前駆体上に存在するMoのモル)とした。使用されたリン前駆体は、容量比50/50の水/エタノール混合物により構成される極性溶媒に溶解したリン酸であり、前記混合物の構成分のそれぞれは、誘電率が20を超えていた(水の誘電率は78.4であり、エタノールの誘電率は24.5である)。48時間の熟成工程の後、押出物を100ミリバールの圧力下に120℃で2時間にわたって乾燥させた。触媒C4およびC4’の最終の金属酸化物含有量、比表面積および焼成C4および乾燥C4’触媒中に担持させられた総リン対金属のモル比Ptotal/Moは以下の通りであった:
・ MoO: 23.3(重量%)
・ CoO: 4.1(重量%)
・ P: 5.1(重量%)
・ 比表面積(SBET):179(m/g触媒)、すなわち、273m/g
(触媒C4におけるアルミナ);
・ Ptotal/Mo: 0.613モル/モル
留意すべきことは、この触媒がより多くのリンを含有していたが、そのBET比表面積は、本発明の方法の工程a)により触媒C1およびC1’上への溶液の含浸によりリンを加えたことで、ほんの僅かに改変されただけであったことである。
【0103】
(実施例5:焼成触媒C2および乾燥触媒C2’それぞれの含浸による触媒C5および触媒C5’(本発明に合致する)の調製)
触媒C5(それぞれ触媒C5’)は、本発明の方法の工程a)による焼成CoMoP触媒C2(それぞれ乾燥触媒C2’)の含浸により得られ、この含浸工程に際して導入されるリンの量を0.44(Pのモル)(焼成C2および乾燥C2’触媒前駆体上に存在するMoのモル)とした。焼成C4およびC5および乾燥C4’およびC5’触媒に担持させられた総リン対金属のモル比Ptotal/Moはそれ故に同一、すなわち、0.613(Pのモル)/(Moのモル)に等しかった。使用されたリン前駆体は、容量比50/50の水/エタノール混合物により構成される極性溶媒に溶解したリン酸であり、前記混合物の構成分のそれぞれは、誘電率が20を超えていた(水の誘電率は78.4であり、エタノールの誘電率は24.5である)。48時間の熟成工程の後、押出物を100ミリバールの圧力下に120℃で2時間にわたって乾燥させた。触媒C5およびC5’の最終の金属酸化物含有量、比表面積および焼成C4および乾燥C4’触媒に担持させられた総リン対金属のモル比Ptotal/Moは、以下の通りであった:
・ MoO : 22.6(重量%)
・ CoO: 3.9(重量%)
・ P: 5.0(重量%)
・ 比表面積(SBET):193(m/g触媒)、すなわち、287m/g
(触媒C5におけるアルミナ);
・ Ptotal/Mo: 0.614モル/モル
留意すべきことは、これらの触媒が触媒C4およびC4’と同じ最終組織立て(formulation)を有するが、ただし、本発明の方法の工程a)において大量のリンが導入されていたことである。その比表面積は、特にこの比表面積を触媒中に存在するアルミナのグラムで表わした場合、触媒C4の比表面積よりもより高かった。
【0104】
(実施例6:触媒C3および触媒C3’それぞれの含浸による触媒C6および触媒C6’(本発明に合致する)の調製)
触媒C6(それぞれ触媒C6’)は、本発明の方法の工程a)による、CoMo触媒C3(それぞれ触媒C3’)の含浸により得られ、この含浸工程に際して導入されるリンの量を0.613(Pのモル)/(焼成C3および乾燥C3’触媒前駆体上に存在するMoのモル)とした。焼成C6および乾燥C6’触媒中の総リン対金属のモル比Ptotal/Moは、焼成C4およびC5および乾燥C4’およびC5’触媒についてのものと同一であり、すなわち、0.613(Pのモル)/(触媒前駆体上に当初存在するMoのモル)に等しかった。使用されたリン前駆体は、容量比50/50の水/エタノール混合物により構成される極性溶媒に溶解したリン酸であり、前記混合物の構成分のそれぞれは、誘電率が20を超えていた(水の誘電率は78.4であり、エタノールの誘電率は24.5である)。48時間の熟成工程の後、押出物を100ミリバールの圧力下に120℃で2時間にわたって乾燥させた。触媒C6およびC6’の最終の再規格化した金属酸化物含有量および比表面積は以下の通りであった:
・ MoO: 21.9(重量%)
・ CoO: 5.0(重量%)
・ P: 4.8(重量%)
・ 比表面積(SBET):200(m/g触媒)、すなわち、298m/g
(触媒C6におけるアルミナ);
・ Ptotal/Mo: 0.613モル/モル
留意すべきことは、これらの触媒C6およびC6’が触媒C4、C4’、C5およびC5’と同一のモル比Ptotal/Moを有していたが、ただし、それらが、本発明の方法の工程a)を用いて導入された大量のリンを有していたことである。その比表面積は、触媒C5およびC5’の比表面積よりも高く、また触媒C4およびC4’よりも明らかに高かった。
【0105】
(実施例:本発明に合致しない)
触媒C6およびC6’は、乾燥空気中、450℃で2時間にわたって焼成された。焼成後に得られた触媒はそれぞれC9およびC9’であった。触媒C9’およびC9の最終金属酸化物含有量および比表面積(当業者に周知のBET法により測定された)は以下の通りであった:
・ MoO : 21.4(重量%)
・ CoO: 4.9(重量%)
・ P: 4.8(重量%)
・ 比表面積(SBET):185(m/g触媒)、すなわち、276m/g
(触媒C9におけるアルミナ);
・ Ptotal/Mo: 0.613モル/モル
C6をC6’に、またC9をC9’に変換するために追加された補足的焼成工程は、触媒C9およびC9’の比表面積がC1およびC1’のものに近いので、本発明に従う触媒C6およびC6’の高い比表面積を保存し得なかったことが理解されるだろう。
【0106】
(実施例7:加圧下および硫化水素の存在下での、トルエンからシクロヘキサンへの水素化における触媒C1、C2、C3、C1’、C2’、C3’、C4、C4’、C5、C5’、C6およびC6’、C9およびC9’の比較試験)
上記の触媒は、Catatestタイプのパイロットユニットの固定移動床管反応器(Geomecaniqueにより組み立てられた)中、現場(in situ)で動力学的に硫化され、液体は上部から底部へと移動した。水素化活性の測定は、硫化直後に、加圧下、空気を入れることなく、触媒を硫化するために作用した炭化水素仕込原料により実施された。
【0107】
硫化および試験仕込原料は、5.8重量%のジメチルジスルフィド(DMDS)、20重量%のトルエン、および74.2重量%のシクロヘキサンから構成されていた。等容積の触媒の安定化された触媒活性を、次いで、トルエンの水素化反応において測定した。
【0108】
活性測定の条件は以下の通りであった:
・ 全圧: 6.0MPa
・ トルエン圧: 0.38MPa
・ シクロヘキサン圧: 1.55MPa
・ 水素圧: 3.64MPa
・ HS圧: 0.22MPa
・ 触媒容積: 40cm
・ 仕込原料流量: 80cm/h;
・ 毎時空間速度: 2h−1
・ 水素流量: 36L/h;
・ 硫化と試験の温度: 350℃
液体流出物のサンプルをガスクロマトグラフィーにより分析した。未転化トルエン(T)のモル濃度およびその水素化生成物(メチルシクロヘキサン(MCC6)、エチルシクロペンタン(EtCC5)およびジメチルシクロペンタン(DMCC5))の濃度の測定は、トルエンの水素化度XHYDの計算を可能とし、以下のように定義した:
【0109】
【数1】

【0110】
トルエンの水素化反応は、採用された試験条件下で一次であり、反応器は理想的プラグ反応器として振る舞うので、触媒の水素化活性AHYDは以下の式により計算された:
HYD=1n(100/(100−XHYD))
表1は、考慮下の触媒の活性対基準(活性100%)として見なされる触媒C(本発明に合致しない)の活性の比に等しい前記触媒の相対的水素化活性を比較する。
【0111】
【表1】

【0112】
表1は、本発明に合致せず、すべてのリンを含浸溶液中で触媒上に担持させた基準の焼成触媒に対して、本発明の方法を用いて調製された触媒により得られる活性が大きく増加したことを示した。ここでの増加は、本発明により導入されたリンの割合が、全リンと比較して上昇している場合に、さらにより大きくなる。
【0113】
また、表1は、アルミナ1グラム当たりの面積(m)で計算された比表面積が、原料の触媒前駆体と本発明の方法により得られた最終触媒との間で減少しないことを示す。これは一定のままである。
【0114】
引き続いて触媒C6を焼成して本発明に合致しない触媒C9を得ることにより、本発明の利益の喪失、表面積の喪失、不十分な分散および活性の喪失がもたらされることが留意されることになる。
【0115】
同様に、表2は、乾燥触媒の相対的水素化活性を比較し、これも、基準として見なされた触媒C3’(本発明に合致しない)の活性(活性100%)に対する考慮下の触媒の活性に対するものである。
【0116】
驚くべきことに、該触媒は当初リンを含有し、それらは決して焼成を受けてはいないが、表2は、本発明によるものではなく、すべてのリンを含浸溶液中で触媒上に担持させた基準の乾燥触媒に対して、本発明の方法を用いて調製された乾燥触媒について得られる活性が大きく増加したことを示した。留意すべきことは、活性としての増加が、焼成触媒に対してよりもむしろ乾燥触媒に対して本発明が適用される場合に、より高くなることである。
【0117】
触媒C6’(本発明に合致しない)の引続く焼成により、本発明の利益の喪失(表面積の喪失、不十分な分散およびC9’の活性の喪失)がもたらされたことが留意されることになる。
【0118】
【表2】

【0119】
(実施例8:NiMoP型の焼成触媒C7および乾燥触媒C7’ (本発明に合致しない)の調製)
乾燥触媒C7’およびその焼成体C7は、水酸化コバルトが仕込原料ロキシ炭酸ニッケルに置き換えられた以外はそれらの同族体C1’およびC1と同じ方法で調製された。前駆体の量は以下の通りであった:68.2gの形状化アルミナ、24.02gの三酸化モリブデン、11.19gの仕込原料ロキシ炭酸ニッケル、および7.47gのリン酸。
【0120】
触媒C7およびC7’の最終金属酸化物含有量および比表面積は以下の通りであった:
・ MoO : 23.1(重量%)
・ NiO: 4.1(重量%)
・ P: 4.6(重量%)
・ 比表面積(SBET): 191(m/g触媒)、すなわち、282m/g
(触媒C7におけるアルミナ)。
【0121】
(実施例9:焼成触媒C7および乾燥触媒C7’それぞれの含浸によるNiMoP型の触媒C8および触媒C8’ (本発明に合致する)の調製)
触媒C8(それぞれ触媒C8’)は、焼成NiMoP触媒C7(それぞれ乾燥触媒C7’)の含浸により得られ、本発明の方法の工程a)によるこの含浸工程に際して導入されるリンの量を0.05(Pのmol)/(触媒上に存在するMoのモル)とした。使用されたリン前駆体はリン酸であり、文献(Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry, C Reichardt, Wiley-VCH, 3rd edition, 2003, pages 472-474)に従って選択された溶媒は、誘電率46を有するDMSOであった。48時間の熟成工程の後、押出物を100ミリバールの圧力下、120℃で2時間にわたって乾燥させた。触媒C8およびC8’の最終金属酸化物含有量および比表面積は以下の通りであった:
・ MoO : 23.0(重量%)
・ CoO: 4.1(重量%)
・ P: 5.1(重量%)
・ 比表面積(SBET):190(m/g触媒)、すなわち、282m/g
(触媒C8におけるアルミナ)。
【0122】
(実施例10:触媒C7、C8およびC7’、C8’の軽油の水素化脱硫についての比較試験)
上記の触媒C7、C7’、C8およびC8’も、軽油についての水素化脱硫試験において比較された。この軽油の主要な特徴は以下に与えられる:
・15℃での密度: 0.8522
・硫黄: 1.44重量%
・擬似蒸留:
○ IP : 155℃
○ 10% : 247℃
○ 50% : 315℃
○ 90% : 392℃
○ EP : 444℃
本試験は、液体が底部から上部に移動する移動固定床等温パイロット反応器中で実施された。2重量%のジメチルジスル仕込原料を補充された試験軽油を用いた、加圧下に装置中の350℃での現場脱硫の後、以下の操作条件下で水素化脱硫試験を実施した:
・全圧: 7MPa
・触媒容積: 30cm
・温度: 340℃
・水素流量: 24L/h
・仕込原料流量: 60cm/h
試験触媒の触媒性能を表3に示す。それらは相対活性で表わされるが、その場合、焼成触媒C7の相対活性を100に等しいと仮定し、また1.5次であると見なした。活性と水素化脱硫における転化率(%HDS)に関する関係は以下の通りである:
HDS=100/([(100−%HDS)]0.5)−1
【0123】
【表3】

【0124】
表3は、CoMo触媒で得られる活性の大きな増加が、軽油HDSについてNiMo触媒にも推定され得ることを示す。試験された触媒C7’およびC8’の触媒性能を表4に示す;乾燥触媒C7’は基準触媒である。
【0125】
さらに、表3は、アルミナ1g当たりの面積(m)で計算される比表面積が、原料の焼成触媒前駆体C7と本発明の方法により得られる最終触媒C8との間で低下しないことをも示す。それどころか、このものは一定のままであった。
【0126】
【表4】

【0127】
表4は、CoMo触媒について得られる活性の大きな増加が、軽油HDSにおいてNiMo触媒にも推定され得ることを示す。
【0128】
(実施例11:真空留出物の水素化処理試験)
上記の触媒C7およびC8は、真空留出物の水素化脱硫試験において比較された。真空留出物の主要な特徴は以下に与えられる:
・20℃での密度: 0.9365
・硫黄: 2.92重量%
・全窒素: 1400重量ppm
・模擬蒸留:
○ IP : 361℃
○ 10% : 430℃
○ 50% : 492℃
○ 90% : 567℃
○ EP : 598℃
本試験は、流体が底部から上部に移動する移動固定床等温パイロット反応器中で実施された。2重量%のジメチルジスル仕込原料を補充された直留軽油を用いた、加圧下装置中の350℃での現場硫化の後、以下の操作条件下で水素化処理試験を実施した:
・全圧: 12MPa
・触媒容積: 40cm
・温度: 380℃
・水素流量: 40L/h
・仕込原料流量: 40cm/h
試験触媒の触媒性能を下記表5に示す。それらは相対活性で表わされるが、その場合、焼成触媒C7の相対活性を100に等しいと仮定し、また1.5次であると見なした。活性と水素化脱硫における転化率(%HDS)に関する関係は以下の通りである:
HDS=100/([(100−%HDS)]0.5)−1
同じ関係は水素化脱窒についても適用し得る(%HDNおよびAHDN)。
【0129】
さらに、各触媒で得られる沸点380℃未満のフラクションの転化率全体を評価した。それは、以下の関係式を用いる模擬蒸留の結果(ASTM D86法)を用いて表わされた:
転化率=(%380仕込原料%−%380流出物)/%380仕込原料
【0130】
【表5】

【0131】
表6は、本発明に従って調製された触媒について得られた活性の大きな増加を、対照の触媒と比較して示す。
【0132】
(実施例12:CoMo型焼成触媒C9(本発明に合致しない)の調製)
触媒C9は、1.35倍に希釈された以外、同じ含浸溶液を用いて、焼成触媒C3と同じ方法で調製された。焼成触媒C9の金属酸化物の最終量および比表面積はそれ故に以下の通りであった:
・ MoO: 17.0(重量%);
・ CoO: 3.9(重量%);
・ 比表面積(SBET): 231m/g。
【0133】
(実施例13:焼成触媒C9の含浸によるCoMo型の触媒C10(本発明に合致する)の調製)
触媒C10は焼成触媒C9の含浸により得られ、この含浸工程に際して導入されたリンの量を、0.015(Pのモル)/(触媒上に存在するMoのモル)とした。使用されたリン前駆体はリン酸であり、文献(Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry, C Reichardt, Wiley-VCH, 3rd edition, 2003, pages 472-474)に従って選択された溶媒は、誘電率33を有するメタノールであった。96時間の熟成工程の後、押出物を100ミリバールの圧力下、120℃で2時間にわたって乾燥させた。触媒C10の最終金属酸化物含有量および比表面積はそれ故に以下の通りであった:
・ MoO: 16.8(重量%);
・ CoO: 3.9(重量%);
・ P: 1.0(重量%)
・ 比表面積(SBET): 228m/g。
【0134】
(実施例14:モデルFCCガソリンタイプの仕込原料の選択的水素化脱硫における比較試験)
上記の触媒C9(本発明に合致しない)およびC10(本発明に合致する)が、モデルFCCガソリンタイプの仕込原料の選択的脱硫反応により試験された。本試験は、Grignard型(バッチ)反応器中、200℃、水素中3.5MPaの一定に維持された圧力中で実施された。モデル仕込原料は、n−ヘプタン中、1000ppmの3−メチルチオフェンおよび10重量%の2,3−ジメチル−ブト−2−エンにより構成されていた。冷溶液の容積は210cmであった;試験触媒の質量は4グラム(硫化前)であった。試験の前に、触媒は、硫化装置において、HS/H(4L/h、15容積%のHS)混合物中、400℃で2時間にわたって(5℃/分で昇温)予備硫化され、次いで、高純度H中、200℃で2時間にわたって還元された。次いで、触媒は空気を排除したグリニア(Grignard)反応器に移された。
【0135】
速度定数(触媒の重量(g)当たりに規格化)は、脱硫反応(kHDS)について一次であり、水素化反応(kHDO)については0次であると仮定して計算された。触媒の選択性はその速度定数の比kHDS/kHDOとして定義される。触媒C9およびC10についての相対的速度定数およびそれらの選択性を下記表6に報告する。
【0136】
【表6】

【0137】
本発明による触媒C10は、焼成触媒C9(本発明に合致しない)よりも脱硫においてより活性でありかつより選択的であることは明らかである。
【0138】
(実施例15:焼成触媒C11および乾燥触媒C11’(本発明に合致しない)の調製)
乾燥触媒C11’(本発明に合致しない)は、含リン化合物を含まないコントロール溶液を用いた、乾燥触媒C2’の含浸により調製された。文献(Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry, C Reichardt, Wiley-VCH, 3rd edition, 2003, pages 472-474)に従って選択された溶媒は、誘電率38を有する1,2−エタンジオールであった。
【0139】
触媒C11は、同様の方法で焼成触媒C2から調製された対照触媒であった。
【0140】
(実施例15:焼成触媒C2および乾燥触媒C2’それぞれの含浸による触媒C12および触媒C12’(本発明に合致する)の調製)
触媒C12’は、本発明に従う方法で、焼成触媒C2上に存在するモリブデン1モル当たりリン0.275モルを含有する溶液を含浸させることにより調製された。選択されたリン化合物はリン酸であった。文献(Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry, C Reichardt, Wiley-VCH, 3rd edition, 2003, pages 472-474)に従って選択された溶媒も、誘電率38を有する1,2−エタンジオールであった。触媒C12の最終金属酸化物の含有量および比表面積はそれ故に以下の通りであった:
・ MoO: 22.6(重量%);
・ CoO: 3.9(重量%);
・ P: 5.0(重量%)
・ 比表面積(SBET): 197m/g、すなわち、288m/g
(C12に含まれるアルミナ)
(実施例16:触媒C13’(本発明に合致しない)の調製)
触媒C13’は、触媒C2’上に存在するモリブデン1モル当たりリン0.275モルを含有する溶液を含浸させることにより調製された。選択された含リン化合物はリン酸であった。溶媒は、文献(Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry, C Reichardt, Wiley-VCH, 3rd edition, 2003, pages 472-474)に従って選択され、誘電率5.7を有するジエチレングリコールジエチルエーテルであった。この溶媒は極性が非常に低く、本発明に合致していなかった。乾燥触媒の強熱減量のために再計算された最終金属酸化物の含有量はそれ故に以下の通りであった:
・ MoO: 22.5(重量%);
・ CoO: 3.8(重量%);
・ P: 5.1(重量%)
(実施例17:触媒C2(それぞれC2’)(本発明に合致しない)、C11(それぞれC11’)(本発明に合致しない)、C12(それぞれC12’)(本発明に合致する)およびC13’(本発明に合致しない)の軽油の水素化脱硫における比較試験)
また、上記の触媒C2、C2’(本発明に合致しない)、C11、C11’(本発明に合致しない)、C12、C12’(本発明に合致する)、C13’(本発明に合致しない)も、軽油の水素化脱硫試験において比較された。軽油の主要な特徴は、本明細書の実施例10において記載された。
【0141】
【表7】

【0142】
表7は、CoMoP触媒について得られた活性の大きな増加が、本発明の方法の含浸工程a)に従って導入された含リン化合物の存在に明らかに関連していることを示す。
【0143】
触媒C11’、C12’およびC13’の触媒性能を表8に示す;触媒C7は基準触媒である。
【0144】
【表8】

【0145】
驚くべきことに、表5は、原料の触媒が焼成を決して受けていないリンを含有するが、本発明の方法の工程a)による含浸工程において、1,2−エタンジオールなどの誘電率が20を超える極性溶媒中のリンを加えることにより、活性の大きな増加が明らかに得られることを示す。
【0146】
含リン化合物を含まない溶液を含浸させられた触媒C11’(本発明に合致しない)で観察される増加は僅かである。さらに、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどの非常に極性の低い溶媒に溶解したリン酸を加えても、活性の増加は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化処理触媒の調製方法であって、
a)誘電率が20を超える少なくとも1種の極性溶媒中の少なくとも1種の含リン化合物溶液により構成される含浸溶液を用いる、第VIII族からの少なくとも1種の元素および/または第VIB族からの少なくとも1種の元素および無定形担体を含有する乾燥および/または焼成触媒前駆体の少なくとも1回の含浸工程;
b)工程a)からの前記含浸触媒前駆体の熟成工程であって、大気圧下、周囲温度ないし60℃の範囲の温度で、12〜340時間の範囲の熟成期間にわたって実施される、工程;
c)引続く焼成工程なしの、工程b)からの前記触媒前駆体の乾燥工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記乾燥および/または焼成触媒前駆体は、ドーパントとしてのリンと共に、第VIII族からの少なくとも1種の元素(前記第VIII族からの元素はコバルトである)および第VIB族からの少なくとも1種の元素(前記第VIB族からの元素はモリブデンである)を、ドーパントとしてのリンおよび無定形アルミナ担体と共に含有する請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記乾燥および/または焼成触媒前駆体は、ドーパントとしてのリンと共に、第VIII族からの少なくとも1種の元素(前記第VIII族からの元素はニッケルである)および第VIB族からの少なくとも1種の元素(前記第VIB族からの元素はモリブデンである)をドーパントとしてのリンおよび無定形アルミナ担体と共に含有する請求項1に記載の調製方法。
【請求項4】
工程a)の含浸溶液の含リン化合物が、オルトリン酸HPO、メタリン酸および五酸化リンもしくは無水リン酸PもしくはP10によって形成される群より選択され、単独または混合物として使用される、請求項1〜3のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項5】
工程a)の含浸溶液の含リン化合物が、オルトリン酸HPOである請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記含リン化合物は、リンP対前記触媒前駆体の第VIB族の金属(単数または複数)のモル比0.001〜3モル/モルの範囲に対応する量で含浸溶液に導入される、請求項1〜5のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項7】
前記含リン化合物は、リンP対前記触媒前駆体の第VIB族の金属(単数または複数)のモル比0.01〜1モル/モルの範囲に対応する量で含浸溶液に導入される、請求項6に記載の調製方法。
【請求項8】
工程a)は、単回の乾式含浸工程である請求項1〜7のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項9】
工程a)の含浸溶液は、誘電率が24を超える単一の極性溶媒中の単一の含リン化合物溶液により構成される、請求項1〜8のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項10】
工程a)の含浸溶液は、2種の極性溶媒中の単一の含リン化合物溶液により構成され、その2種類の極性溶媒それぞれの誘電率は24を超える、請求項1〜9のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項11】
前記極性溶媒は、メタノール、エタノール、水、フェノール、シクロヘキサノールおよび1,2−エタンジオールから選択される極性プロトン性溶媒の群から選択され、単独または混合物として使用される、請求項1〜10のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項12】
前記極性溶媒は、炭酸プロピレン、DMSO(ジメチルスルホキシド)およびスルホランにより形成される群から選択され、単独または混合物として使用される、請求項1〜11のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項13】
乾燥工程c)は、炉中、大気圧下または減圧下に、50〜200℃の範囲の温度で実施される、請求項1〜12のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項14】
炭化水素仕込原料の水素化精製および水素化転化の反応のための請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法により得られる触媒の使用。
【請求項15】
芳香族および/またはオレフィン性および/またはナフテン性および/またはパラフィン性の化合物を含有する炭化水素仕込原料の水素化、水素化脱窒、水素化脱酸素、水素化脱芳香化、水素化脱硫、水素化脱金属および水素化転化の反応のための請求項14に記載の前記触媒の使用。

【公表番号】特表2010−531224(P2010−531224A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514029(P2010−514029)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000756
【国際公開番号】WO2009/007522
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)
【Fターム(参考)】