説明

含油軸受用潤滑剤

【課題】蒸気圧が低く、引火の危険性が少ない上、耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る含油軸受用潤滑剤、あるいは潤滑剤の流動帯電によって発生する静電気をアースできる、帯電防止性を有する含油軸受用潤滑剤を提供する。
【解決手段】イオン液体1〜100質量%を含む含油軸受用潤滑剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油軸受用潤滑剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、基油にイオン液体を含み、蒸気圧が低く、引火の危険性が少ない上、耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る含油軸受用潤滑剤、あるいは帯電防止剤としてイオン液体を含み、潤滑剤の流動帯電によって発生する静電気をアースできる、帯電防止性を有する含油軸受用潤滑剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクや光ディスクに代表されるスピンドルモータの軸受として、近年、静粛性や耐久性付与のために、流体軸受や焼結含油軸受などのすべり軸受を採用するケースが増えてきている。これらの軸受は、軸と軸受内面を潤滑油によって隔て、軸にかかる加重を支え、軸と軸受間におこる摩擦を低減させているのが特徴である。従ってこれらの軸受の性能は、潤滑油の性能に大きく依存すると言える。
これらのすべり軸受の潤滑油に求められる性能としては、粘度、耐久性、帯電防止性などがある。このうち、粘度については、スピンドルモータの電力損失、軸受剛性を決定するために欠かせないものであるが、最近の情報関連分野機器[特にCD、DVD、HDD、レーザープリンタ(ポリゴンミラー)]に使用されるスピンドルモータは年々、高速化(1万〜5万回転)しているため、最近の傾向として高速時の電力損失が少ない低粘度が選定されている。一方、潤滑油の粘度が低下すると、一般的に油の蒸発量が多くなる。そのため安易な低粘度油の採用は、油の損失を招き、軸受内の潤滑不良、最悪の場合は軸受の損傷を引き起こしてしまう。この点に配慮し、低粘度と低蒸発性を満足する軸受用潤滑油の基油として、例えば特許文献1にはエステル系化合物、特許文献2にはモノエステル、特許文献3には炭酸エステル、特許文献4及び特許文献5にはポリ−α−オレフィンとエステルとの併用、特許文献6にはジエステルとポリオールエステルとの併用、特許文献7にはネオペンチルグリコールエステル、特許文献8には芳香族エステル又はジエステル、特許文献9にはモノエステル、特許文献10にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸などからなる特殊ジエステルなど多くの提案がされている。
【0003】
一方、すべり軸受において、油膜で隔てられた軸と軸受は完全に非接触となる。従って、流動帯電により静電気が発生しやすく、これらの放電により、重要な電子部品(ハードディスクのMRヘッド)が支障をきたすおそれがある。従って、磁気ディスクなどの精密器械に使用されるすべり軸受には、特に静電気をアースして、電子部品、磁気部品を保護する必要がある。このような観点から、上記で示された従来の軸受用潤滑油は、低粘度、低蒸発性は満足するものの、このままでは体積抵抗率が大きく、静電気を発生させやすいという問題を抱えている。
これに対して、金属または金属酸化物からなる導電性微粒子を配合した例が報告されているが(例えば特許文献11、12参照)、このような微粒子を含む油剤は、モータの始動、停止時に摩擦面に微粒子が介在してしまうため、軸受の異常摩擦を引き起こすおそれがある。
また、このような金属粒子を含まない潤滑油として、スルホン酸やフェネート、サリチレートなどの有機金属塩を添加した例も提案されている(特許文献13参照)。しかし、これら有機金属塩系の帯電防止剤は、多量に添加しないと帯電防止性を発揮しない。また、長時間の使用に際し劣化変質し、油に不溶の無機塩(スラッジ)を生成してしまうという問題がある。
【0004】
ところで、近年、カチオンとアニオンとから構成された有機イオン液体は、アニオンの異なる一連のエチルメチルイミダゾリウム塩が、優れた熱安定性と高いイオン伝導性を有し、空気中でも安定な液体となることが報告されて以来(例えば、非特許文献1参照)、注目され、その熱安定性(難揮発性、難燃性)、高イオン密度(高イオン伝導性)、低粘性などの特徴を活かして様々な用途、例えば太陽電池などの電解液(例えば、特許文献14参照)、抽出分離溶媒、反応溶媒などとして応用研究が積極的に行なわれている。
このイオン液体は、分子間が分子性液体のように分子間引力で結びついているのではなく、強力なイオン結合で結びついているため、揮発し難く、難燃性であり、熱や酸化に対して安定な液体である。そのため、低粘度であっても低蒸発性で、さらに耐熱性に優れることから、将来要求される高度な要求を満足し得る潤滑油の基油として注目されている。
さらに、イオン液体は、プラス及びマイナスの電荷を帯びたカチオンとアニオンからなるため、電場に対して配向したり、電極表面に電気二重層を形成したりするなど、電気的な特性も有する。イオン液体のこのような特性が発現し、摩擦特性に何らかの影響を与える可能性があることを示唆している。
【0005】
このようなイオン液体を潤滑剤に用いた例として、スリーブの軸受穴と前記軸受穴に挿入された軸との間に形成される軸受隙間に潤滑剤が充填され、前記軸受穴内面又は軸表面の少なくともいずれか一方に動圧発生溝を有するとともに前記スリーブと前記軸とが相対的に回転する液体軸受装置において、前記潤滑剤に導電性付与剤としてイオン液体を添加してなる流体軸受装置が開示されている(例えば、特許文献15参照)。しかしながら、この技術は、流体軸受用潤滑剤に導電性付与剤としてイオン液体を添加したものであって、含油軸受用潤滑剤に適用した技術ではない。
【0006】
【特許文献1】特開11−315292号公報
【特許文献2】特開2000−63860号公報
【特許文献3】特開2001−107046号公報
【特許文献4】特開2001−172656号公報
【特許文献5】特開2001−240885号公報
【特許文献6】特開2001−279284号公報
【特許文献7】特開2001−316687号公報
【特許文献8】特開2002−97482号公報
【特許文献9】特開2002−146381号公報(段落[0007])
【特許文献10】特開2002−155944号公報
【特許文献11】特開平10−30096号公報
【特許文献12】特開平11−315292号公報(段落[0023])
【特許文献13】特開平2001−234187号公報
【特許文献14】特開2003−31270号公報
【特許文献15】特開2004−183868号公報
【非特許文献1】「J.Chem.Soc.Chem.Commun.」,965頁(1992年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下で、蒸気圧が低く、引火の危険性が少ない上、耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る含油軸受用潤滑剤、あるいは潤滑剤の流動帯電によって発生する静電気をアースできる、帯電防止性を有する含油軸受用潤滑剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する含油軸受用潤滑剤を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、イオン液体を所定の割合で含む潤滑剤によって、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)イオン液体1〜100質量%を含むことを特徴とする含油軸受用潤滑剤、
(2)基油が、イオン液体50〜100質量%を含むものである上記(1)に記載の含油軸受用潤滑剤、
(3)基油に用いられるイオン液体が、流動点0℃以下のものである上記(2)に記載の含油軸受用潤滑剤、
(4)イオン液体を帯電防止剤として含む上記(1)に記載の含油軸受用潤滑剤、
(5)25℃の体積抵抗率が1×1010Ω・cm以下である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤、
【0009】
(6)イオン液体が、一般式(I)
(Zp+k・(Aq-m (1)
(式中、Zp+はカチオン、Aq-はアニオンを示し、p、q、k、m、p×k及びq×mはそれぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たし、k又はmが2以上の場合、Z又はAはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤、
(7)一般式(1)において、p、k、q及びmが、いずれも1である上記(6)に記載の含油軸受用潤滑剤、
(8)イオン液体が、カチオンとアニオンが共有結合で固定された双生イオン型である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤、
(9)イオン液体が、窒素原子をイオン中心とするカチオンを有する上記(6)〜(8)のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤、
(10)温度40℃における動粘度が、1〜1000mm2/sである上記(1)〜(9)のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤、及び
(11)金属系多孔質体、プラスチック系多孔質体又はセラミック系多孔質体からなる軸受に含浸させる上記(1)〜(10)のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基油にイオン液体を含み、蒸気圧が低く、引火の危険性が少ない上、耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制し得る含油軸受用潤滑剤、あるいは帯電防止剤としてイオン液体を含み、潤滑剤の流動帯電によって発生する静電気をアースできる、帯電防止性を有する含油軸受用潤滑剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の含油軸受用潤滑剤は、イオン液体1〜100質量%を含むことを特徴とする。
本発明においては、前記イオン液体として、カチオンとアニオンとがイオン結合で結合したタイプのもの(以下、イオン液体Iと称することがある。)及びカチオンとアニオンとが共有結合で固定されたタイプのもの、すなわち双生イオン型(以下、イオン液体IIと称することがある。)を用いることができる。
イオン液体Iとしては、例えば一般式(1)
(Zp+k・(Aq-m (1)
(式中、Zp+はカチオン、Aq-はアニオンを示し、p、q、k、m、p×k及びq×mはそれぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たし、k又はmが2以上の場合、Z又はAはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物を用いることができる。
このイオン液体Iとしては、前記一般式(1)において、p、k、q及びmがいずれも1であるもの、すなわち、一般式(I−a)
Z+・A- (I−a)
(式中、Z+はカチオン、A-はアニオンを示す。)
で表される化合物が好適である。
【0012】
前記Z+で表されるカチオンとしては特に制限はなく、従来イオン液体のカチオンとして公知のカチオンの中から、任意のものを適宣選択することができる。例えば一般式
【0013】
【化1】

(式中、R1〜R12は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1〜R12は同一でも異なっていてもよい。)
【0014】
で表されるものが好ましい。R1〜R12のエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、2−メトキシエチル基、などが挙げられる。炭素数1〜18のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プポキシ基、イソプロポキシ基、n―ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、各種ペントキシ基、各種ヘプトキシ基、各種オクトキシ基などが挙げられる。
本発明においては、前記カチオンの中で、窒素原子をイオン中心とするカチオンが好適である。
【0015】
一方、A-で表されるアニオンとしては特に制限はなく、従来イオン液体のアニオンとして公知のアニオンの中から、任意のものを適宣選択することができる。例えばBF4-,PF6-,Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-,C65SO3-,CH3(C64)SO3-,I-,I3-,F(HF)n-,([Cn(2n-1-x)x]Y1z3-,([Cn(2n+1-x)x]Y1z2-(式中、Y1は炭素原子又は硫黄原子を示し、Y1が複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。また、複数個の(Cn(2n+1-x)x)Y12は、同一でも異なっていてもよい。nは0〜6の整数、xは0〜13の整数、zはY1が炭素原子の場合は1〜3の整数、Y1が硫黄原子の場合0〜4の整数である。)、B(Cm2(2m+1)4-,P(Cm2(2m+1)6-(式中、Y2は水素原子又はフッ素原子を示し、Y2が複数個のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。mは0〜6の整数である。)及び下記一般式
【0016】
【化2】

(式中、R13〜R17は、水素原子及び(Cn(2n+1-x)x)から選ばれる基であり、R13〜R17は同一でも異なっていてもよい。n及びxは上記と同様である。)
【化3】

(式中、Rf1はペルフルオロアルキル基、Rf2〜Rf6は、それぞれ独立にフッ素原子、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロベンジル基を示し、pは0又は1である。R18及びR19は、それぞれ独立にハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基を示す。R20〜R22は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、テトラゾリル基、スルホン酸基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10アリール基又は炭素数7〜10のアラルキル基を示し、水素原子以外の基は、それぞれ置換基を有していてもよい。)
【0017】
で表されるアニオンを挙げることができる。
上記アニオンA-のうち、PF6-,Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-,([Cn(2n+1-x)x]Y1z2-(式中、Y1は炭素原子又は硫黄原子を示し、Y1が複数のとき、それらは同一でも異なっていてもよい。nは0〜6の整数、xは0〜13の整数、zはY1が炭素原子の場合は1〜3の整数、Y1が硫黄原子の場合は0〜4の整数である。)及び上記一般式で表されるアニオンがより好ましく、Cn(2n+1)OSO3-,(Cn(2n+1-x)x)SO3-,(Cn(2n+1-x)x)COO-,NO3-,CH3SO3-,(CN)2-,HSO3-(式中、nは1〜6の整数、xは0〜13の整数である。)及び上記一般式で表されるアニオンが特に好ましい。
【0018】
イオン液体II(双生型:Zwitterionic型)としては、例えば一般式
【0019】
【化4】

(式中、R1'〜R12'は、水素原子、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基及び炭素数1〜18のアルコキシル基から選ばれる基であり、R1'〜R12'は同一でも異なっていてもよい。但し、R1'〜R12'の少なくとも一つは−(CH2n−SO3-又は−(CH2n−COO-(nはアルキレン基の炭素数が1〜18になるような1以上の整数である。)を有する。)
【0020】
で表されるものを挙げることができる。このイオン液体IIにおいては、カチオンとして窒素原子がイオン中心であるものが好ましい。
本発明においては、前記イオン液体I及びIIは、基油として、あるいは添加剤として潤滑剤中に含有させることができる。基油として用いる場合には、基油中のイオン液体の含有量が好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%になるように加えることが望ましい。
また、イオン液体を基油に用いる場合、該イオン液体の流動点は0℃以下が好ましく、−2.5℃以下がより好ましい。このような融点を有するイオン液体は、例えばイオン液体Iにおいては、前記一般式(I−a)におけるカチオンのZ+とアニオンのA-とを適宣組み合わせることにより、あるいは二種以上のイオン液体の混合物を用いることにより、得ることができる。
【0021】
基油としてとして用いる一般式Z+・A-で表されるイオン液体Iとして具体的には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−3−エチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルピリジニウムテトラフルオロボレート、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムテトラフルオロボレート、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモンイウムヘキサフルオロホスフェート及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどを挙げることができる。これらのイオン液体は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中で、アルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、アルキルアンモニウムヘキサフルオロホスフェ−ト、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモンイウムヘキサフルオロホスフェート及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが好ましい。
上記のイオン液体Iの具体的な構造の例として、ビス(フルオロスルホニル)イミド類を下記に示す。
【化5】

【0022】
二種以上のイオン液体の混合物を用いる場合、各イオン液体の配合量を混合物基準で10質量%以上とすることが好ましい。この混合物としては、イオン液体Iにおいては、Z+を一種とA-を二種以上含む混合物、Z+を二種以上とA-を一種含む混合物及びZ+を二種以上とA-を二種以上含む混合物が挙げられる。
具体的には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、アルキルピリジニウムヘキサフルホロホスフェートとアルキルピリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、アルキルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルホロホスフェートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス
(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムテトラフルオロボレートの混合物及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェ−トの混合物などが挙げられる。
これらのうち、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートとN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの混合物、N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムテトラフルオロボレートの混合物及びN,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとアルキルピリジニウムヘキサフルオロホスフェートの混合物が好ましい。
【0023】
また、イオン液体II(双生型)を基油に用いる場合、前記イオン液体IIにおけるカチオン部分と、−(CH2n−SO3-又は−(CH2n−COO-(nはアルキレン基の炭素数が1〜18になるような1以上の整数である。)で表されるアニオン部分を適宣組み合わせることにより、あるいは二種以上のイオン液体IIの混合物や、イオン液体IIとイオン液体Iとの混合物を用いることにより、所望の融点を有するイオン液体を得ることができる。
イオン液体IIを基油に用いる場合、イオン液体IIの具体例としては、1−メチル−1,3−イミダゾリウム−N−ブタンスルホネート及びN,N−ジエチル−N−メチルアンモニウム−N−ブタンスルホネートなどが挙げられる。
【0024】
イオン液体I又はIIを添加剤として潤滑剤に用いる場合、該添加剤としては、例えば帯電防止剤として機能するものを挙げることができる。この場合、潤滑剤中のイオン液体I及び/又はIIの含有量は、1質量%以上であればよく、その上限については特に制限はないが、潤滑剤の25℃における体積抵抗率が1×1010Ω・cm以下であれば、良好な帯電防止性能が発揮され、潤滑剤の流動帯電による静電気の発生を抑制し、放電による電子部品、磁気部品(ハードディスクのMRヘッド)の支障を防止することができる。より好ましい体積抵抗率は1×109Ω・cm以下である。
なお、イオン液体I又はIIは、このような添加剤として用いる場合、基油に溶解し得るものであればよく、その融点については特に制限はない。
本発明で用いるイオン液体は、イオン濃度(カチオン又はアニオン濃度)が1モル/dm3以上のものが好ましく、より好ましくは2モル/dm3以上であり、さらに好ましくは3モル/dm3以上である。イオン濃度が1モル/dm3以上であれば、前記用途の目的を十分に達成することができる。
【0025】
本発明の含油軸受用潤滑剤においては、イオン液体以外の基油として、前述のイオン液体と混和し得るものや、該イオン液体を溶解し得るものを用いることができる。このような基油としては、例えばポリアルキレングリコール系、モノ、ジ、ポリエーテル系、リン酸エステル系などの極性基油を挙げることができる。
本発明の含油軸受用潤滑剤には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種添加剤、例えば酸化防止剤、油性剤、摩擦低減剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤及び粘度指数向上剤などを含有させることができる。
【0026】
(1)酸化防止剤の例としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジぺンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系を挙げることができ、中でもジアルキルジフェニルアミン系のものが好ましい。
【0027】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系を挙げることができる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えばフェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル))プロピオネート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−メチルアミノ)フェノールなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、潤滑剤全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.03〜5質量%の範囲で選定される。
【0028】
(2)油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム、オレイン酸アルミニウム、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムなどの前記各種脂肪酸の金属塩等が挙げられる。脂肪酸の金属塩の金属には、リチウム、ナトリウム、カリウム、銅、銀、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄などが含まれる。
これらの油性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、潤滑剤全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で選定される。
【0029】
(3)摩擦調整剤としては、一般に油性剤又は極圧剤として用いられているものを使用することができ、特にリン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩及び硫黄系極圧剤が好ましく挙げられる。
リン酸エステルとしては、下記の一般式(II)〜(VI)で表されるリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルを包含する。
【0030】
【化6】

【0031】
上記一般式(II)〜(VI)において、R23〜R25は炭素数4〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基を示し、R23〜R25は同一でも異なっていてもよい。
リン酸エステルとしては、例えばトリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェートなどがあり、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(エチルフェニル)フェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(プロピルフェニル)フェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジ(ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどを挙げることができる。
【0032】
酸性リン酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェートなどを挙げることができる。
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイトなどを挙げることができる。
【0033】
酸性亜リン酸エステルとしては、例えば、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイトなどを挙げることができる。以上のリン酸エステル類の中で、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェートが好適である。
さらに、これらとアミン塩を形成するアミン類としては、例えば、一般式(VII)
26pNH3-p・・・(VII)
(式中、R26は、炭素数3〜30のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6〜30のアリール基もしくは炭素数7〜30のアリールアルキル基又は炭素数2〜30のヒドロキシアルキル基を示し、pは1、2又は3を示す。また、R26が複数ある場合、複数のR26は同一でも異なっていてもよい。)
で表されるモノ置換アミン、ジ置換アミン又はトリ置換アミンが挙げられる。上記一般式(VII)におけるR26のうちの炭素数3〜30のアルキル基もしくはアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0034】
モノ置換アミンの例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミンなどを挙げることができ、ジ置換アミンの例としては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノールアミンなどを挙げることができ、トリ置換アミンの例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンなどを挙げることができる。
【0035】
硫黄系極圧剤としては、分子内に硫黄原子を有し、潤滑剤基油に溶解又は均一に分散して、極圧剤や優れた摩擦特性を発揮しうるものであればよい。このようなものとしては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、チオリン酸エステル(チオフォスファイト、チオフォスフェート)、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。ここで、硫化油脂は硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5〜30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などを挙げることができる。硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルなどを挙げることができる。
【0036】
硫化オレフィンとしては、例えば、下記の一般式(VIII)
27−Sq−R28・・・(VIII)
(式中、R27は炭素数2〜15のアルケニル基、R28は炭素数2〜15のアルキル基又はアルケニル基を示し、qは1〜8の整数を示す。)
で表される化合物などを挙げることができる。この化合物は、炭素数2〜15のオレフィン又はその二〜四量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られ、該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましい。
ジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、下記の一般式(IX)
29−Sr−R30・・・(IX)
(式中、R29及びR30は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基又は環状アルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基又は炭素数7〜20のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、rは1〜8の整数を示す。)
で表される化合物である。ここで、R29及びR30がアルキル基の場合、硫化アルキルと称される。
【0037】
上記一般式(IX)におけるR29及びR30は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
このジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、ジベンジルポリサルファイド、各種ジノニルポリサルファイド、各種ジドデシルポリサルファイド、各種ジブチルポリサルファイド、各種ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを好ましく挙げることができる。
チアジアゾール化合物としては、例えば、下記一般式(X)
【0038】
【化7】

(式中、R31及びR32は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、f及びgは、それぞれ0〜8の整数を示す。)
【0039】
で表される1,3,4−チアジアゾール化合物、1,2,4−チアジアゾール化合物、1,4,5−チアジアゾール化合物などが好ましく用いられる。
このチアジアゾール化合物としては、例えば、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,6−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾールなどを好ましく挙げることができる。
チオリン酸エステルとしては、アルキルトリチオフォスファイト、アリール又はアルキルアリールチオフォスフェート、ジラウリルジチオリン酸亜鉛などが挙げられ、特にラウリルトリチオフォスファイト、トリフェニルチオフォスフェートが好ましい。
アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、下記一般式(XI)
【0040】
【化8】

(式中、R33〜R36は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基を示し、hは1〜8の整数を示す。)
【0041】
このアルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、ビス(ジメチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジアミルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジオクチルチオカルバモイル)ジスルフィドなどを好ましく挙げることができる。
【0042】
さらに、チオカーバメート化合物としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛を、チオテルペン化合物としては、例えば、五硫化リンとピネンの反応物を、ジアルキルチオジプロピオネート化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどを挙げることができる。これらの中で、極圧性、摩擦特性、熱的酸化安定性などの点から、チアジアゾール化合物、ベンジルサルファイドが好適である。
これらの摩擦調整剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、効果及び経済性のバランスなどの点から、潤滑剤全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%の範囲で選定される。
【0043】
(4)防錆剤としては、例えば、ドデセニルコハク酸ハーフエステル、オクタデセニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸アミドなどのアルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、ソルビタンモノオレエート、グリセリンモノオレエート、ペンタエリスリトールモノオレエートなどの多価アルコール部分エステル、ロジンアミン、N−オレイルザルコシン、アルキルアミンなどのアミン類、ジアルキルホスファイトアミン塩等が使用可能である。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これら防錆剤の好ましい配合量は、潤滑剤全量基準で0.01〜5質量%の範囲であり、0.05〜2質量%の範囲が特に好ましい。
【0044】
(5)金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、没食子酸エステル系の化合物等が使用可能である。
これら金属不活性化剤の好ましい配合量は、潤滑剤全量基準で0.01〜0.4質量%であり、0.01〜0.2質量%の範囲が特に好ましい。
(6)消泡剤の例としては、液状シリコーンが適しており、メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレートが使用可能である。
これら消泡剤の好ましい配合量は、潤滑剤全量基準で0.0005〜0.01質量%である。
(7)粘度指数向上剤の例としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体などのオレフィン共重合体が使用可能である。
これら粘度指数向上剤の好ましい配合量は、潤滑剤全量基準で0.1〜15質量%であり、0.5〜7質量%の範囲が特に好ましい。
【0045】
本発明の含油軸受用潤滑剤においては、温度40℃における動粘度は、1〜1000mm2/sの範囲にあることが好ましい。この動粘度が上記範囲にあれば、蒸発損失、粘性抵抗による動力損失などを抑えることができる。温度40℃におけるより好ましい動粘度は、5〜300mm2/sである。
流動点は、低温時における粘性抵抗を抑える点から、−10℃以下が好ましく、より好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−30℃以下である。
粘度指数は、温度に対する粘度変化が大きくなりすぎないようにする点から、80以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。
また、5%質量減温度は、350℃以上が好ましく、380℃以上がより好ましい。引火点は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、300℃以上が特に好ましい。
さらに、酸価は、本発明の潤滑剤が適用される金属系部材の腐食防止の観点から、1mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは0.5mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.3mgKOH/g以下である。
【0046】
本発明の含油軸受用潤滑剤は、金属系多孔質体、プラスチック系多孔質体、セラミック系多孔質体などからなる軸受に含浸させて使用される。特に金属粉を圧粉焼結してなる焼結含油軸受用として好適である。
情報機器(特にCDやDVD)に使用されるスピンドルモータは年々、高精度化している。これらの情報機器用のスピンドルモータに使用される軸受には、従来から転がり軸受、動圧流体軸受、焼結含油軸受などがあり、性能及びコストなどの面から、各用途に適する軸受がその都度選定され使用されている。
ところで、焼結含油軸受は著しく加工性に優れ、大量生産が可能なため、転がり軸受や動圧流体軸受と比較して低コストで市場に提供できる利点がある。
しかし、さらに高精度、高品位な記録装置として用いられるHDDのスピンドルモータとしては、高回転精度、高信頼性が求められているため、回転軸に対して一定のクリアランスを有し、回転ムラを生じる焼結含油軸受は使用しにくいという問題があった。
これを解決するため、例えば、焼結含油軸受の特性を生かしつつ、焼結含油軸受に特定方向の側圧を付与し、モータの回転軸の振れを極力低減させるような特殊な機構が開発されている(特開2001−295844号公報)。このような機構に対して、本発明の潤滑剤は好適に用いることができる。
【0047】
次に、前記機構について添付図面に従い説明する。図1はスピンドルモータの一例を説明する拡大断面図であって、1はハウジングホルダ、3は軸受、5はモータ軸を表す。ハウジングホルダ1は基盤B等に取り付けられるとともに円筒部2を有し、しかも該円筒部2の外周面にはコイル10を巻回させた積層コア9が施されている。
軸受3は、銅等の金属粉を、ハウジングホルダ1内に挿入可能な大きさに圧粉成型した後、これを焼結し、さらに本発明の含油軸受用潤滑剤を含浸させて構成され、しかも軸穴中間に中逃げ部4が形成されて所謂中逃げ・センターフリー型に構成されており、長さ方向両端にてモータ軸5を支承する構成となっている。
モータ軸5は、上記軸受3内に支承可能な外径の金属棒からなり、モータの出力側に位置する先端寄りの部分には保持材6を介して前記積層コア9及びコイル10の外側を覆い、しかもその内周側であって上記した積層コア9に対応させた位置にマグネット8を施したロータ7が一体に取り付けられ、さらにその先端部にはHDDの回転メディアMを取り付けるハブが同じく一体に取り付けられて構成されている。
【0048】
さらに、金属粉を圧粉焼結した含油軸受3に支承されるモータ軸5に対し、特定方向の側圧を付与する手段として、モータ軸5を挟んで対称位置に固定された積層コア9のうち、片側のコア9を、モータ軸5方向(ターンテーブル11寄り)に、a線位置からb線位置にまで距離t−tだけ変位させている。このように積層コア6を傾けることにより高速回転するロータ7を常時矢印P方向に付勢させることができ、その結果モータ軸5に対し、常時特定方向(矢印Y方向)に側圧を付与することができる。
このように、モータ軸に対し、特定方向の側圧を付与することによって、金属粉を圧粉焼結した含油軸受に対する軸振れを抑制することができる。
【0049】
本発明の含油軸受用潤滑剤は、基油としてイオン液体を50質量%以上含むものを用いることができ、この場合、蒸気圧が低く、引火の危険性が少ない上、耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制することができる。
また、帯電防止剤などの添加剤としてイオン液体を含むものであってもよく、この場合、潤滑剤の流動帯電によって発生する静電気をアースすることができる。もちろん、基油にイオン液体を用いた場合も、このような機能は当然発揮される。
本発明の含油軸受用潤滑剤は、各種家電用モータや車載用モータに適用できる。
本発明の含油軸受用潤滑剤を適用できる家電用モータには、フロッピーディスクドラブ、CDドライブ、MOドライブ、DVDドライブ、ハードディスクドライブ、冷却又は送風用ファンモータ、ポリゴンミラードライブ、携帯電話等の振動モータ、光レンズ用ステッピングモータ等がある。
本発明の含油軸受用潤滑剤を適用できる車載用モータには、ライトリトラクタブルモータ、ウォーターポンプ、ワイパーモータ、ヘッドランプクリーナー用モータ、ドアロックアクチュエータ、モーターアンテナ、パワーウインドモータ、パワーシートモータ、ミラーモータ、テレスコビック、チルトステアリングモータ、サンルーフモータ、電動カーテン用モータ、ラジエーター冷却ファン用モータ、ブロワモータ、エアコン用冷却ファンモータ、サーボモータ、オートエアコン用内気センサー用モータ、燃料漏れ検知センサー用モータ、空気清浄器用モータ、車高調節モータ、アンチロックブレーキモータ、アイドル回転数制御モータ、4WDデフロックモータ、オドメーターステッピングモータ、オートドライブモータ、フューエルストップモータ等がある。
本発明の含油軸受用潤滑剤は、ガソリン、軽油、灯油等の非極性溶剤に不溶のため、燃料タンク系内に設置されるモータ軸受として好適である。特に、燃料漏れ検知センサー用モータに適している。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、潤滑剤の諸特性は下記の方法に従って測定した。
(1)動粘度
JIS K2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(2)粘度指数
JIS K2283に規定される「石油製品動粘度試験方法」に準拠して測定した。
(3)流動点
JIS K2269に準拠して測定した。
(4)全酸価
JIS K2501に規定される「潤滑油中和試験方法」に準拠し、電位差法により測定した。
(5)引火点
JIS K2265に準拠し、C.O.C法により測定した。
(6)5%質量減温度
示差熱分析装置を用い、温度を10℃/minの割合で昇温し、初期質量から5%減少した温度を測定した。5%質量減少温度が高いほど、耐蒸発性、耐熱性に優れると言える。
(7)体積抵抗率
JIS C2102に準拠して測定した。
(8)耐荷重性試験
ASTM D 2783に準拠して、回転数1,800rpm,室温の条件で行った。最大非焼付荷重(LNL)と融着荷重(WL)から荷重摩耗指数(LWI)を求めた。この値が大きいほど耐荷重性が良好である。
(9)耐摩耗性試験
ASTM D 2783に準拠して、荷重196N、回転数1,200rpm、油温75℃、試験時間60分の条件で行った。1/2インチ球3個の摩耗痕径を平均して平均摩耗痕径を算出した。
【0051】
実施例1〜6及び比較例1
第1表に示す組成の潤滑剤を調製し、諸特性を評価した。結果を第1表に示す。
【0052】
【表1】

(注)
イオン液体1:ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
イオン液体2:N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
ポリオールエステル:トリメチロールプロパンと炭素数8、10の脂肪酸とのエステル
イオン液体3:1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
イオン液体4:1−ヘキシル−3−メチル−イミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
TCP:トリクレジルホスフェート
DBDS:ジベンジルジサルファイド
【0053】
第1表から、実施例1〜5の潤滑剤は、低粘度にも関わらず、300℃を超える引火点を有し、また5%質量減温度が360℃を超えており、低蒸発性、耐熱性に優れることが分かる。また、耐荷重性及び耐摩耗性にも優れている。
一方、比較例1は、引火点が236℃で実施例1〜5のものに比べて低く、かつ5%質量減温度も269.3℃であり、実施例1〜5に比べて著しく低い。
【0054】
実施例7〜14
第2表に示す組成の潤滑剤を調製し、諸特性を評価した。結果を第2表に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

(注)
イオン液体5:N,N−ジエチル−N−メチル(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート
イオン液体1:第1表の脚注と同じである。
第2表から、二種のイオン液体の混合物は、単独のものに比べて、粘度指数や流動点の改善効果がみられる。
【0057】
実施例15〜17及び比較例2
第3表に示す組成の潤滑剤を調製し、諸特性を評価した。結果を第3表に示す。
【0058】
【表4】

(注)
エーテル系基油:2−オクチルドデシル デシルエーテル
イオン液体2:第1表の脚注と同じである。
第3表から、添加剤としてイオン液体を加えることにより、体積抵抗率が低下し、帯電防止性が付与されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の含油軸受用潤滑剤は、基油としてイオン液体を含むものを用いる場合、蒸気圧が低く、引火の危険性が少ない上、耐熱性に優れ、かつ使用中における低揮発成分や分解ガスの発生を抑制することができる。
また、イオン液体を、帯電防止剤として添加した場合、潤滑剤の流動帯電によって発生する静電気をアースすることができる。
本発明の潤滑剤は、金属系多孔質体、プラスチック系多孔質体、セラミック系多孔質体からなる軸受に含浸させて用いられ、特に情報機器に使用されるスピンドルモータの焼結含油軸受に好適に用いられる。
また、本発明の潤滑剤は、各種家電用モータや車載用モータに適用でき、ガソリン、軽油、灯油等の非極性溶剤に不溶のため、燃料タンク系内に設置されるモータ軸受として好適である。特に、燃料漏れ検知センサー用モータに適している。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の含油軸受用潤滑剤が適用されるスピンドルモータの一例を説明する拡大断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1:ハウジングホルダ
2:円筒部
3:軸受
4:中逃げ部
5:モータ軸
6:保持材
7:ロータ
8:マグネット
9:積層コア
10:コイル
11:ターンテーブル
B:基盤
M:回転メディア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体1〜100質量%を含むことを特徴とする含油軸受用潤滑剤。
【請求項2】
基油が、イオン液体50〜100質量%を含むものである請求項1に記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項3】
基油に用いられるイオン液体が、流動点0℃以下のものである請求項2に記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項4】
イオン液体を帯電防止剤として含む請求項1に記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項5】
25℃の体積抵抗率が1×1010Ω・cm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項6】
イオン液体が、一般式(I)
(Zp+k・(Aq-m (I)
(式中、Zp+はカチオン、Aq-はアニオンを示し、p、q、k、m、p×k及びq×mは、それぞれ1〜3の整数であり、p×k=q×mを満たし、k又はmが2以上の場合、Z又はAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項7】
一般式(1)において、p、k、q及びmが、いずれも1である請求項6に記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項8】
イオン液体が、カチオンとアニオンが共有結合で固定された双生イオン型である請求項1〜5のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項9】
イオン液体が、窒素原子をイオン中心とするカチオンを有する請求項6〜8のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項10】
温度40℃における動粘度が、1〜1000mm2/sである請求項1〜9のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項11】
金属系多孔質体、プラスチック系多孔質体又はセラミック系多孔質体からなる軸受に含浸させる請求項1〜10のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の含油軸受用潤滑剤を用いることを特徴とする含油軸受。
【請求項13】
請求項12に記載の含油軸受を用いることを特徴とするモータユニット。

【図1】
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【公開番号】特開2007−46030(P2007−46030A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334169(P2005−334169)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】