説明

含窒素有機性排水の処理方法

【課題】特に有機性成分とともに高濃度で窒素成分を含有する排水から窒素成分を効率よく除去する排水処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、含窒素有機性排水を嫌気性好気性処理によって処理する方法であって、含窒素有機性排水を、順次、酸生成槽で有機物の分解による酸の生成、脱窒槽で窒素成分の脱窒処理、メタン生成槽でメタン発酵、および硝化槽で硝化処理を行い、かつ硝化槽の処理水の一部を脱窒槽に戻すことを特徴とする、含窒素有機性排水の処理方法である。
酸生成槽及び/又はメタン生成槽は、内部にグラニュール汚泥を保持する上向流嫌気性汚泥処理床方式(UASB)であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素を高い割合で含む有機性排水から窒素成分を効率よく除去する含窒素有機性排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜のし尿や糞、浄化槽汚泥、家畜舎の洗浄排水などの混じりあった畜産排水は有機物濃度が高く、また窒素濃度と固形分濃度が非常に高い。このような窒素成分の含量が高く、かつ有機性成分を多く含む排水を浄化する方法として、従来からメタン発酵処理も行われているが、多くは活性汚泥で処理され、窒素成分の除去のためにばっ気処理法やメタン発酵を併用する方法などが行われている。
【0003】
しかし、メタン発酵処理のみでは、排水中の窒素とリンが除去できず、BOD濃度も高いため、水質規制値を満足するような浄化された処理水とすることができない。このため、排水をより高度処理するためにメタン発酵処理後の処理水をさらに好気性処理と組み合わせた循環脱窒素法(以下「循環AOプロセス」という。)で脱窒処理して、浄化水として放流すること行われている(例えば、特許文献1、非特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、ばっ気処理法は被処理液をアルカリ性(pH8以上)にし、さらに50〜80℃に加熱して、大量の空気を吹き込んでばっ気を行うためエネルギー消費量が大きいという問題があり、また、循環AOプロセスでは十分な電子供与体が存在しないと高い脱窒率を達成することが困難であるという問題があった。
【0005】
例えば、図1に従来から行われている典型的な循環AOプロセスの工程を示す。この循環AOプロセスで排水の高度処理を行う場合には、硝化槽において窒素化合物を酸化して硝酸性窒素や亜硝酸性窒素を含んだ処理水が得られ、この一部をメタン発酵槽に返送・循環させ、水中の有機物を分解すると共に、脱窒処理(硝酸性窒素除去)をも行っている。しかし、このような操作方法は、メタン発酵菌と硝酸性窒素を電子受容体として増殖する脱窒細菌とが同時に増殖することになり、上向流嫌気性汚泥処理床方式(UASB)などの微生物膜法では、電子供与体である有機物や水素の利用に対して競合が起きることとなる。メタン発酵菌と比較して脱窒細菌の増殖速度が大きいので、UASBで形成される微生物膜の中では脱窒細菌が優先菌となり、メタン発酵が進行しなくなることがあるという問題がある。
【0006】
また、メタン発酵菌と脱窒細菌の最適な増殖環境は異なり、メタン発酵菌は絶対嫌気性の環境で−300〜−400mVの低い酸化還元電位(ORP)を必要とすることが多いに対して、脱窒細菌は、無酸素環境でよく、フロック状態であれば微量の酸素が存在していてもよい。硝化槽からの返送・循環水は酸素が飽和濃度に近いので、メタン発酵槽の中は微量の溶存酸素が存在する状態(高いORP値)から、溶存酸素の全くない絶対嫌気性状態(マイナスの低いORP値)までの分布ができる。このようなメタン発酵槽の中のORP分布は、高濃度の硝酸性窒素流入によっても形成される。
【0007】
従って、メタン発酵槽の一部(硝化槽からの返送・循環水の流入部付近)に脱窒菌床が形成されやすく、メタン発酵部は分離されてこの脱窒菌床の下流に位置することになるため、脱窒処理に必要な電子供与体である有機物がメタン発酵部からは十分供給されず、また、硝化槽からの循環水で原水が希釈されるため、有機物などの生成が減少することもあり、主として利用できるのは原水中の有機物に限られるので電子供与体の絶対量が不足することなどのため、高い脱窒率が得られないという問題があった。脱窒率を上げるため、硝化槽からの循環水量を大きくすると、原水中の有機物濃度が十分にあれば脱窒率が凡そ50〜60%程度までは、一定の増加は見られるが、それ以上に向上させることは困難である。さらに循環水量が大きくなると嫌気槽であるメタン発酵槽全体の嫌気環境が低下し、メタン発酵細菌の活性が低下し、メタン発酵槽の有機物分解性能が低下し、BODなどの除去率も低下するという問題も生ずる。その結果、硝化槽に対する有機物やアンモニア性窒素の負荷が増大し消費エネルギーも増加する(例えば、特許文献1、2、非特許文献1、2、3参照)。
【0008】
特に、畜産排水のように、硝化槽からの返送・循環水中の硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素の濃度の高い場合には、メタン発酵槽の酸化還元電位(ORP)が高くなり、メタン発酵細菌の活性が低下し、メタン発酵槽の有機物分解性能が低下し、BODなどの除去率も低下する。その結果、硝化槽に対する有機物やアンモニア性窒素の負荷が増大し消費エネルギーが増加することとなる。
【0009】
この従来の循環AOプロセスでは、メタン発酵槽において絶対嫌気性菌であるメタン発酵菌によるメタン発酵と通性嫌気性菌である脱窒細菌による脱窒という異なった微生物反応を行わせるものであるため、メタン発酵と脱窒という互いに異なる反応をそれぞれ最適環境でない条件で行わざるを得ないため、メタン発酵菌と脱窒細菌が十分に効率よく働くことができないという問題があった。この問題を解決するために、例えば図2に示すような改良AOプロセスが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
これは、従来の循環AOプロセスのメタン発酵槽に相当する部分を酸生成槽とメタン生成槽に分け、下流の硝化槽からの硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素を含む処理水を酸生成槽に戻す方法である(以下、「改良AOプロセス」という。)。この方法によれば、硝化槽からの硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素を含む処理水は酸生成槽に戻されここで脱窒処理が行われ、メタン生成槽は好気性処理である硝化槽からの処理水が直接流入しないため、嫌気環境の低下による微生物活性の低下がなく、メタン生成反応が効率よく行われることが期待できる。
【0011】
しかしながら、この方法においても、BODの除去は十分に達成できるが、硝化槽からの返送・循環水は酸素が飽和濃度近く含まれており、また、高濃度の硝酸性窒素を含む排水では、酸生成槽内にORP分布が形成されることとなる。ところが、絶対嫌気性で低ORP環境を好む酸生成菌は、微量の溶存酸素を許容する脱窒細菌とは、最適生息環境を異にし、それぞれの条件に適した別の場所で増殖することとなるため、酸生成菌床と脱窒菌床が分離し、脱窒菌床は返送・循環水の流入部付近に形成されやすく、脱窒処理に必要な電子供与体である有機物が酸生成部から十分に供給されない。
【0012】
また、硝化槽からの汚泥の循環量が多い場合には、微量の溶存酸素を許容する通性嫌気性の酸生成菌が流入し、脱窒細菌と酸生成菌とが同棲することがあるが、酸生成槽の嫌気環境の低下により、本来生息している大多数の絶対嫌気性の酸生成菌の有機物分解、酸生成能が低下することもある。
このようにまだ種々の問題点があるため、改良AOプロセスにおいてもまだ窒素成分の除去は必ずしも満足できるものではなかった。
【0013】
従って、このような改良方式を含む従来のAOプロセスの問題点を解決し、それぞれの細菌固有の機能を効率よく発揮させて、BODなどの有機物の除去を十分に行うと同時に、排水中に含まれる窒素成分を効率よく除去することができる排水の処理方法が求められていた。
【0014】
【特許文献1】特開平2001−212593号公報
【特許文献2】特開平2002−219487号公報
【特許文献3】特開平2006−272252号公報
【非特許文献1】田中康男,鈴木一好、福永栄、永田龍三郎:水環境学会誌、第29巻、第2号、107〜113頁(2006)
【非特許文献2】I.S.Hwang,K.S.Min,E.ChoiandZ.Yun ”Resource recovery and nitrogenremoval from piggery waste using the combined anaerobic processes” Water Science Technlogy Vol.54, pp229-236 (2006)
【非特許文献3】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構、畜産草地研究所畜産環境部、新汚水処理施設設計指針作成委員会「高効率嫌気性リアクターと不織布懸架式散水ろ床による豚舎汚水処理施設設計・維持管理暫定指針」、畜産草地研究所研究資料第5号別刷、平成16年10月、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、以上のような従来の排水処理方法の問題点を解決して、特に有機性成分とともに高濃度で窒素成分を含有する排水から窒素成分を効率よく除去する排水処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とする発明である。
(1)含窒素有機性排水を嫌気性好気性処理によって処理する方法であって、含窒素有機性排水を、順次、酸生成槽で有機物の分解による酸の生成、脱窒槽で窒素成分の脱窒処理、メタン生成槽でメタン発酵、および硝化槽で硝化処理を行い、かつ硝化槽の処理水の一部を脱窒槽に戻すことを特徴とする、含窒素有機性排水の処理方法。
(2)硝化槽から脱窒槽に戻す処理水の量が、原水の供給量に対して質量比で2〜8であることを特徴とする、前記(1)記載の含窒素有機性排水の処理方法。
(3)酸生成槽のpHが4.5〜6.5であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の含窒素有機性排水の処理方法。
(4)酸生成槽及び/又はメタン生成槽が、内部にグラニュール汚泥を保持する上向流嫌気性汚泥処理床方式であることを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の含窒素有機性排水の処理方法。
(5)酸生成処理工程の前に、含窒素有機性排水の凝集沈殿処理を行うことを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の含窒素有機性排水の処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の排水処理方法では、まず、酸生成槽に硝酸性窒素や亜硝酸性窒素を含む処理水を還流しないため、酸生成槽においては酸生成細菌に最適の条件で反応を行わせ、排水中の有機物を効率よく有機酸に分解することができ、更にこの有機酸を多く含む処理水が次の脱窒槽に導入されるので、脱窒槽で電子供与体である有機物が豊富となるので脱窒を非常に効率よく行うことができる。そして、ここでかなりの窒素成分を除去することができ、次のメタン生成槽には比較的窒素成分の少ない処理水が導入されるので、メタン発酵を効率よく行うことができ、排水中の有機物を効率よく除去することができる。その結果として、本発明の方法は、従来の方法に比べて、排水中に含まれる有機性物質の除去と同時に、アンモニア性窒素も効率よく除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明をさらに詳しく説明する。
図3は、本発明の排水処理方法の一連の工程を示す工程図である。
本発明は、図3に示すように、含窒素有機性排水を、順次、酸生成槽、脱窒槽、メタン生成槽及び硝化槽を通して処理し、かつ硝化槽の処理水の一部を脱窒槽に戻すことによって、高い濃度で窒素成分を含む有機性排水の処理を行い、有機物とともに窒素分を効率よく除去することのできる、含窒素有機性排水の処理方法である。
【0019】
即ち、含窒素有機性排水は、まず酸生成槽で酸生成細菌によって含まれる有機物が分解され有機酸と水素となり、次に脱窒槽で脱窒細菌によって硝化槽から還流してくる硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素が還元されて窒素ガスとして除去され、有機酸や水素は次のメタン生成槽でメタン生成細菌によってメタンガスに分解・変換されて除去される。流入排水中のアンモニア及び酸生成槽で生成したアンモニアは下流の硝化槽で硝化細菌によって硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素に酸化される。ここで生じた硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素を含んだ処理水の一部が脱窒槽に戻され、脱窒槽で還元されて窒素ガスとして除去される。
【0020】
以下、各処理工程について、更に詳しく説明する。
図3において、有機物と窒素を含む原水(含窒素有機性排水)は、まず、酸生成槽に導入される。酸生成槽において、酸生成細菌によって、排水中に含まれる炭水化物や脂質は低分子量のアルコールや脂肪酸に、タンパク質はアミノ酸、アンモニアなどに分解され、さらには酢酸、プロピオン酸、酪酸などの揮発性有機酸と水素に分解される。
【0021】
酸生成細菌は、多くの種類があり、酸素の有無が活性に大きく影響する細菌(絶対嫌気性細菌)と影響しない細菌(通性嫌気性細菌)があるが、絶対嫌気性細菌が多いといわれており、嫌気性の環境で反応を行うことが好ましい。また、生成する揮発性有機酸は、pH環境により変わり、pHの低下につれ高分子の有機酸が生成されやすい傾向にある。次の脱窒槽での脱窒細菌による硝酸性窒素の脱窒反応においては、電子供与体の揮発性有機酸として、酢酸よりもプロピオン酸や酪酸等の高分子の有機酸がより好ましく、また、酸生成菌は酸性領域で活性が高いため、酸生成槽のpH環境は、pHが4.5〜6.5の範囲が好ましく、pHが5.5〜6.5の範囲がより好ましくい。
【0022】
次に、酸生成槽の処理水は脱窒槽に導入される。この脱窒槽には、併せて、下流の工程の硝化槽から硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素を含んだ処理水が戻されて導入される。この脱窒槽では、脱窒細菌の脱窒反応によって、酸生成槽からの処理水に含まれる揮発性有機酸や水素を電子供与体として利用して、硝化槽からの処理水に含まれる硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素を還元して窒素ガスとして排水から分離・除去する。
【0023】
脱窒槽は、例えばスポンジのような樹脂発泡体の多孔質担体や不織布などに脱窒細菌を固定化し、脱窒細菌固定化担体を充填した固定床などの形式の反応槽を使用することができる。脱窒細菌は通性嫌気性細菌であるが、脱窒機能が働くのは酸素のない嫌気性環境であり、このような嫌気性環境での操作が好ましい。脱窒細菌は中性から弱アルカリ性で活性が高く、pHは7〜8.5程度が好ましい。
【0024】
次に、脱窒槽で窒素が除去された処理水はメタン生成槽に導入される。このメタン生成槽では、脱窒反応で過剰であった残留する揮発性有機酸や水素がメタン生成細菌などの作用によってメタンに変換され、ガス化して除去される。なお、未分解の有機物やアンモニア性窒素は、水中に残留する。
【0025】
メタン生成細菌は、数種類あるがすべて絶対嫌気性細菌であり、酸素が存在すると非常に活性が低下するか死滅してしまうので、特に嫌気性環境で反応を行うことが重要である。活性の高い環境は中性領域であり、pHは6.8〜7.4程度が好ましい。pHが6以下では活性が大きく低下してしまう。また、活性の高い温度は菌の種類によって異なり、30〜37℃の中温域と約55℃の2種類がある。
【0026】
次に、メタン生成槽で有機物が除去された処理水は硝化槽に導入される。この処理水には、原水からのアンモニアと酸生成槽で発生したアンモニアが含まれているので、硝化槽では、硝化細菌によってこれらのアンモニアを硝酸性窒素又は亜硝酸性窒素に酸化するとともに、メタン生成槽で分解されなかった有機物が二酸化炭素と水に分解される。硝化細菌は、独立栄養細菌で炭素源は無機炭素で、増殖速度が小さく、好気性環境が必要である。活性の高い化学的環境は、中性から弱アルカリ性の領域である。
【0027】
本発明の方法では、この硝化槽で得られた硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素を含む処理水の一部を脱窒槽に返送する。このようにして脱窒槽に戻された処理水中に含まれる硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素が脱窒槽で還元されて窒素ガスとなり、最終的に排水から分離・除去される。
【0028】
硝化槽の処理水のうち脱窒槽に返送される処理水の割合は原水の水質や処理水の水質等に応じて適宜決定すればよいが、通常原水の量の2〜8倍(質量基準)程度であり、3〜6倍(質量基準)程度とすることがより好ましい。この返送水の量が多すぎると窒素成分の除去率の低下、返送のための循環動力の過大な増加となり好ましくなく、また少なすぎると原水からの十分な窒素成分の除去を行うことができない。
【0029】
以上の本発明の方法において、酸生成槽とメタン生成槽の装置形式としては特に限定はされず、従来から使用されている種々の担体に細菌を固定化した固定床や菌体を浮遊させた活性汚泥処理のようなコンタクトプロセスなどの形式の反応槽を用いることもできるが、上向流嫌気性汚泥床式の反応槽(以下、「UASB」という。)であることが好ましい。
【0030】
UASBとは、反応に関与する細菌を自己造粒させてグラニュール(粒状)にし、これを充填した反応槽の底部から上向きに処理すべき水をゆっくり通して反応させる形式の反応槽である。ここでは、自己造粒させたグラニュールに代わって、特に細菌を微粒の担体表面に生物膜状に固着させた粒状物でもよい。
【0031】
反応槽としてこのUASB形式のものを用いることによって、反応槽内に微生物を高密度に保持することができるので、反応槽単位容積当たりの処理速度を非常に大きくすることができ、反応槽容積を小さくでき、また、温度低下などにより微生物の活性が低下する場合も、処理速度の低下を低減できるという利点がある。
【0032】
本発明の排水処理方法では、酸生成、脱窒、メタン生成、硝化の工程はいずれも微生物を利用した微生物反応である。これらの工程で使用する微生物は、酸生成細菌としては、絶対嫌気性のバクテロイド属(Bacteroides)、クロストリディア属(Clostridia)、ビフィドバクテリア属(Bifidobacteria)などが挙げられ、通性嫌気性細菌として、バチルス属(Bucillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)などの種々の細菌が挙げられる。脱窒細菌としては、アクロモバクター属(Achromobacter)、アエロバクター属(Aerobacter)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、シュードモナス属(Pseudomonas)などの種々の細菌があり、また、メタン生成細菌は、メタノスリックス属(Methanothrix)、メタノバクテリア属(Methanobacteriales)などの種々の細菌があり、硝化細菌としては、ニトロバクター属(Nitrobacter)、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)などの種々の細菌が挙げられる。これらの細菌は、汚水などを嫌気性処理している嫌気性処理施設や活性汚泥処理している施設から排出される汚泥に含まれ、容易に導入することができる。
【0033】
以上のような、酸生成、脱窒、メタン生成という排水処理の鍵となる作用をそれぞれ分離・独立させて微生物反応を行わせ、かつ硝化槽から硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素を含んだ処理水を脱窒槽に還流させるという本発明の方法によって、以下に記載するように各反応槽において最適な条件で、かつ種々の成分をバランスよく利用して微生物反応を行うことが可能となり、従来の循環AOプロセスや改良AOプロセスでは十分に達成し得なかった優れた有機物の除去と窒素成分の除去を達成することができた。
【0034】
従来の改良AOプロセスのように、硝酸性窒素及び/又は亜硝酸性窒素を含んだ処理水を酸生成槽に還流させ、酸生成槽でそれぞれ活性環境の異なる酸生成細菌と脱窒細菌を同棲させると、この2種類の細菌を効率よく作用させることが困難となる。
酸生成細菌は脱窒細菌よりも低いORPの嫌気環境で活性であることの他に、化学的環境も異なる。即ち、酸生成細菌に適したpHは、pH=4.5〜6.5であるのに対して、脱窒細菌に適したpHは、pH=7〜8.5であるので、両者の活性の最も高いpH環境を制御なしで作ることは困難であり、pHを制御するか原水の供給速度(有機物負荷速度)を調節して、有機酸の生成を抑制し、pHを両者に共通なより適切な状態に制御することとなる。また、酸生成槽の中で、酸生成菌床と脱窒菌床が分離して形成されやすいが、流入する高濃度の硝酸性窒素や硝化槽から返送される循環水中の酸素により、嫌気環境が阻害され、嫌気性細菌の活性が低下する。
しかし、本発明の方法のように酸生成槽と脱窒槽とを分離すれば、これらの反応槽をそれぞれの細菌に最適なpHや酸化還元電位(ORP)に容易に制御することができ、原水の負荷速度を特に制御しなくてもそれぞれの最適の活性状態を容易に達成することができる。
【0035】
硝化槽からの還流水は溶存酸素濃度が高く、これを酸生成槽に返送すると、その量が多いと酸生成槽の酸化還元電位が上昇し、時には微好気性になり、酸生成細菌の中で絶対嫌気性の細菌の活性低下による水素や揮発性有機酸の生成効率が低下し、脱窒に必要な電子供与体が不足してしまう。これに対して、本発明の方法のように酸生成槽と脱窒槽とを分離し、硝化槽からの還流水を脱窒槽に供給すれば、酸生成槽が硝化槽からの還流水によって影響を受けることがなく、酸生成細菌に最適の環境を維持することができる。
【0036】
比較的高濃度の硝酸性窒素や亜硝酸性窒素の除去の場合には、脱窒に伴い生成する水酸イオン(OH)のために脱窒槽での液のpHが大きく上昇し、脱窒効率が低下する。本発明の方法によれば酸生成槽から弱酸性の処理水が脱窒槽に供給されることとなるので、脱窒反応に伴うこのようなpHの上昇を抑制することができ、脱窒効率を高く維持することができる。
【0037】
また、本発明の方法のように酸生成槽のpHを5.5〜6.5にすることにより、プロピオン酸、酪酸のような揮発性脂肪酸が生成される。これらの有機酸の分解速度は異なり、脱窒槽の中における消失寿命の変化によるpH調整効果もある。なお、液のpHが上昇しても、酪酸の分解速度はアルカリ側でpHの影響を受けにくく、高い脱窒速度が得られる。
【0038】
本発明の排水処理方法は畜産排水などのように窒素成分を比較的多く含む排水を処理するのにより好適である。しかし、畜産排水などのように、高有機物濃度、高アンモニア濃度で、かつ高浮遊固形物(SS)濃度の排水のメタン発酵処理では、メタン発酵細菌の活性がアンモニアにより阻害されないように、流入する排水中の遊離アンモニア濃度が30mg/L(全アンモニア濃度で約4000mg/L)以下とすることが必要である。特に、高い効率で処理ができる上向流嫌気汚泥床法(UASB)反応槽による処理では、安定した高効率処理ができるように、また、汚泥床の生物集積を維持し、また、リン化合物の析出による管路の閉塞を防止するために、流入SS濃度は、約1000mg/L以下とすること、及び流入リン濃度をできるだけ下げることが好ましい。
【0039】
本発明の方法においても、高有機物濃度、高アンモニア濃度で、かつ高浮遊固形物濃度の排水の処理の場合には、その前処理として原水の凝集沈殿処理を行い、原水中のSSを低減させることが好ましい。原水の凝集沈殿処理をすることにより、SSを低減させると同時に、全窒素(TN)及びリン含量を低減することができる。リン分は、凝集沈殿により効率よく除去することができ本発明の工程中の各段階の装置や配管へのリン化合物の析出を防止することができる。さらに、凝集沈殿処理によって、遊離アンモニア濃度30mg/L、SS濃度約1000mg/L以下とすることができるので、BOD負荷、COD負荷を従来の処理法の数倍に大きくし、かつBODとCODの除去率も大きくすることができる。
【0040】
凝集沈殿処理では、1〜2種類の無機凝集助剤と微量の有機凝集助剤を添加して浮遊固形物質(SS)を沈殿除去し、上澄水を急速ろ過する。急速ろ過のろ材に吸着能のある炭化物を混合し、色度成分などを除去することにより、凝集沈殿における高分子凝集剤の添加量を削減し、排水のCODの増加を低下させることが好ましい。
【0041】
このような本発明の方法によって、表1に示すように、従来の循環AOプロセスに比べて、BOD負荷、COD負荷を数倍に大きくすることができ、除去率も大きくすることができると同時に、窒素分(TN)の除去率も大幅に向上させることができる。
【0042】
【表1】

【0043】
次に、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1:
図3に示すような凝集沈殿、酸生成、脱窒、メタン生成、及び硝化の各工程からなる実験装置を組み立てて、豚舎排水を用いて水処理の実験を行った。酸生成槽とメタン生成槽は、別途有機物のメタン発酵処理に使用したメタン発酵菌のグラニュールを用い、これに人工排水と豚舎排水を順次供給し、それぞれ略90日間馴養したものを、それぞれ酸生成槽とメタン生成槽内に充填した。脱窒槽は、下水処理施設より採取した脱窒細菌の培養槽に担体を浸漬し、脱窒細菌を固定化して脱窒細菌固定化担体を得て、これを脱窒槽に充填した。硝化槽は、下水処理施設より採取した硝化細菌の培養槽に担体を浸漬し、硝化細菌を固定化して硝化細菌固定化担体を得て、これを硝化槽に充填した。
使用した含窒素有機性排水である豚舎排水(原水)は、表2に示したような組成のもの
であった。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示す豚舎排水の原水をまず凝集沈殿槽に導入して凝集沈殿処理を行い、これをろ過して表2のろ過水の欄に示す特性の排水を得た。このろ過水を実験装置に導入し、実験装置全体での滞留時間が3.2日で、硝化槽から脱窒槽への還流量のろ過水の流入量に対する比率(質量比)が6.0となるように硝化槽から出た処理水の一部を脱窒槽に返送しつつ、処理水を流通させた。各反応槽の処理温度は、外気温と同じで25〜32℃であった。また、各反応槽のpHは、酸生成槽で6.0〜6.5、脱窒槽で7.8〜8.1、メタン生成槽で7.8〜8.1、及び硝化槽で7.0〜7.5であった。
この状態で運転を100日間続けて行い、運転が定常状態で継続している状態のときに、酸生成槽入口、及び各反応槽出口の処理水のサンプルを採取し、それぞれのCOD、全窒素(TN)、BOD、およびアンモニア性窒素(NH−N)の分析を行った。
【0047】
比較例1:
また、比較のために、硝化槽の還流水を酸生成槽に返送し、その他の条件はすべて上記実施例と同一にして、同様の排水処理の実験を行った。これは、いわゆる前述した従来技術である改良AOプロセスに相当する排水処理方法である。
【0048】
これらの実験の結果を図4〜図7に示す。図4は、原水のCODに対する各反応槽出口の処理水のCODから求めたCOD除去率を示す。図5は、流入水と各反応槽出口の処理水のBODを、図6は、流入水と各反応槽出口の処理水の全窒素(TN)を、図7は、流入水と各反応槽出口の処理水のアンモニア性窒素(NH−N)の値を示す。
【0049】
まず、図4からわかるように、改良AOプロセスでは、CODは酸生成槽で殆ど除去されるが、本発明方法では酸生成槽ではあまり除去されず、脱窒槽で除去されている。また、改良AOプロセスでは、図5からわかるように、BODもCODと同様に酸生成槽で殆ど除去されるが、本発明方法では、BODは酸生成槽では減少せず、脱窒槽で急激に減少している。図6及び図7からわかるように、改良AOプロセスでは、酸生成槽である程度の脱窒が行われるためTNもNH−Nもある程度減少しているが、その後は殆ど減少しない。これに対して、本発明方法では、酸生成槽ではTNもNH−Nもあまり減少しないが、脱窒槽で効率よく脱窒が行われて、TN値もNH−Nの値も改良AOプロセスに比べて大きく減少している。そして、硝化槽出口の放流水では、NH−Nの値は殆どゼロとなっている。
【0050】
この結果からわかるように、本発明の方法では、従来の方法に比べて硝化槽へのアンモニア性窒素の流入濃度が低いので、硝化槽でのばっ気量を大幅に低減させることができ、エネルギー消費を節約することができるとともに、アンモニア除去率も高くすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の排水処理方法によれば、畜産排水などのような有機物質とともに窒素成分を多く含む排水から有機物質と窒素成分を効率よく除去することができる。したがって、このような有機物質とともに窒素成分を含む種々の産業排水処理に幅広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】循環AOプロセスの工程図である。
【図2】改良AOプロセスの工程図である。
【図3】本発明の排水処理方法を示す工程図である。
【図4】実施例と比較例の水処理でのCOD除去率を示すグラフである。
【図5】実施例と比較例の水処理でのBODの変化を示すグラフである。
【図6】実施例と比較例の水処理での全窒素の変化を示すグラフである。
【図7】実施例と比較例の水処理でのアンモニア性窒素の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素有機性排水を嫌気性好気性処理によって処理する方法であって、含窒素有機性排水を、順次、酸生成槽で有機物の分解による酸の生成、脱窒槽で窒素成分の脱窒処理、メタン生成槽でメタン発酵、および硝化槽で硝化処理を行い、かつ硝化槽の処理水の一部を脱窒槽に戻すことを特徴とする、含窒素有機性排水の処理方法。
【請求項2】
硝化槽から脱窒槽に戻す処理水の量が、原水の供給量に対して質量比で2〜8であることを特徴とする、請求項1記載の含窒素有機性排水の処理方法。
【請求項3】
酸生成槽のpHが4.5〜6.5であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の含窒素有機性排水の処理方法。
【請求項4】
酸生成槽及び/又はメタン生成槽が、内部にグラニュール汚泥を保持する上向流嫌気性汚泥処理床方式であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の含窒素有機性排水の処理方法。
【請求項5】
酸生成処理工程の前に、含窒素有機性排水の凝集沈殿処理を行うことを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の含窒素有機性排水の処理方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−207990(P2009−207990A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53019(P2008−53019)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(392035972)株式会社ヤマト (21)
【Fターム(参考)】