説明

吸収コーティングを含む透明な光学部品、その製造方法、および光学素子におけるその使用

透明な光学部品(10)は、部品の表面に平行に並列されたセル(15)の少なくとも1つの透明なセットおよび、気密封止され光学特性を備えた少なくとも1つの物質を含む部品の表面に平行に壁(18)によって分割される各セルおよび、前記部品表面と平行に延びる1つの側面に配置される少なくとも1つの吸収コーティング(30)を備える。光学部品は輪郭に沿って切り抜かれ、任意に穴を穿設される。本発明はまた、このような光学部品を生産する方法と、光学素子を生産する方法の利用も含む。光学素子はとりわけ眼鏡レンズになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的機能を組み込む透明素子の製造に関する。本発明は、特に、様々な光学特性を有する眼科用レンズの製造に適用される。
【背景技術】
【0002】
屈折異常補正レンズは、従来は、空気より高い屈折率を有する透明材料を形成することによって製造されている。レンズの形状は、材料と空気との境界面の屈折によって着用者の網膜上に光が適切に集束するように選択される。レンズは通常、矯正される眼の瞳孔に対して適切に位置決めをして、フレームに合うように切り抜かれる。
【0003】
様々な種類のレンズ、または必ずしも眼科用の光学素子に限らない他のレンズの中から、組み付けたり他に選択したりするフレームに組み込むように得る光学素子を切り抜く可能性を残しつつ、柔軟なモジュール式の方法で、あるいは光学素子を固定する任意の他の手段で、1つ以上の光学的機能を実現する構造を提案することが望ましい。
【非特許文献1】J−P.Perez−Optique,Fondements et applications 7th edition−Dunod−October 2004,p.262
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、こうしたニーズを満たすことである。さらなる目的は、光学素子が良好な条件下での工業生産に適していることを確実にすることである。
【0005】
従って、本発明は、透明な光学素子を製造する方法を提案し、該方法は、少なくとも以下を有する透明な光学部品の製造を含む。―部品の表面と平行に並列されるセルの一群であって、各セルは気密封止され、光学特性を有する物質を含み、セルは壁によって分離される。―部品表面と平行に延びる1つの側の壁に配置される少なくとも1つの吸収コーティングを含む。
【0006】
本発明はまた、上記のような透明な光学素子を製造する方法を提案し、該方法は、光学素子の所定の形状に対応して表面上に画定される輪郭に沿って光学部品を切り抜くステップをさらに含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
セルは、例えば屈折率、光吸収または偏光の能力、電気または光の刺激に対する反応などと関連する光学特性について選択される様々な物質で満たすことができる。
【0008】
従って、その構造は、数多くの応用、特に進歩した光学的機能を利用する応用に役立つ。そのことは、光学素子の表面のピクセルによる離散化を意味し、設計、さらには素子の処理における大きな柔軟性を提供する。各ピクセルは、壁に囲まれたセルを備える。従って、構造は、壁に囲まれたセルネットワークと、少なくとも1つの吸収コーティングとを含み、コーティングはセルネットワークと同一にピクセル化される。この吸収コーティングは、光学部品の表面と平行に堆積し、セルネットワークの幾何構造と整合し、光がネットワークの部品壁の各々を伝播することを防ぐ本質的役割を有する。別の実施形態において、この吸収コーティングはさらに、セルネットワークを構成する壁の厳密な幅とは異なる幅を有してもよい。吸収コーティングが非連続的コーティングを意味すること、および吸収材料が壁の幅と同一または異なる幅を有するセルネットワークの部品壁によって占められる表面の高さにのみ存在することは、容易に理解できる。
【0009】
壁によって分離される平面における隣接セルの連続からなり、離散化によってピクセル化される構造を製造することは可能である。これらの壁は、光学部品の透明度不足の原因になるので、そのような部品を含む光学素子の透明度不足を引き起こすことがある。
【0010】
本発明の状況において、光学部品を通した画像の観察がコントラストを著しく損なうことなく知覚されるとき、すなわち光学部品を通した画像の形成が画像品質をおとさずに得られるときに、光学部品が透明であると理解される。本発明の状況において、透明という用語のこうした定義は、説明においてそのようにみなされるあらゆる物体にあてはまる。
【0011】
光学部品のセルを分離する壁は、光を回折することによって光と相互作用する。光波が物質的に制限される場合に、回折は気づかれる光の散乱として定義される(非特許文献1)。従って、そのような壁を含む光学部品は、壁が引き起こす回折のために、劣化した画像を透過させる。微視的な回折は、散乱として肉眼に現れる。この肉眼の、または非干渉性の散乱は、光学部品のピクセル化された構造の拡散ハロー(halo)をもたらすので、構造を通して観察される画像のコントラストを減少させる。上記の通り、コントラストのこうした減少は、透明度の減少と考えられる。本発明の状況において理解されるように、この肉眼の散乱効果は、ピクセル化された光学部品を含む光学素子の製造にあたっては、受け入れ難い。光学素子が眼科用レンズである場合これは特に当てはまるが、眼科用レンズは、一方では透明でなければならず、もう一方ではそのような光学素子の着用者の視界を妨げる表面的な欠点を含んではならない。
【0012】
この肉眼の散乱を減らす1つの手段は、セルを分離する壁を光が伝搬することを防ぐことにより、壁により引き起こされる回折の減少させることにある。なぜなら、吸収または反射される光の一部は回折されないからである。従って、光との相互作用が制限されている壁は、光の伝播を許容する壁よりも回折が小さい。ここで壁の一群を考えると、壁の各々によって生じる回折が減少すれば、肉眼のレベルでの全体的な散乱状況が減少する。
【0013】
従って、本発明の1つの目的は、基板の表面と平行に並列されたセルの一群を含む透明な光学部品を製造することであり、セルは、壁および少なくとも1つの吸収コーティングによって互いに分離されており、コーティングは、壁によって結ばれるネットワークの幾何構造に従って、壁の表面と平行に堆積している。そのような光学部品において、吸収コーティングは、壁に達するすべてまたは一部の光を吸収することによって、壁ネットワークを通した肉眼の散乱を回避するので、上述のような光学部品を含む透明な光学素子を製造することが可能になる。
【0014】
本発明の状況において、吸収コーティングは、すべてまたは一部の可視スペクトルを吸収する1つ以上の材料、すなわち400nm(ナノメートル)から700nmの少なくとも1つの波長吸収帯を有する材料を含むコーティングを、ここでは意味する。有利には、本発明によれば、コーティングは、好ましくはすべての可視スペクトルにわたる吸収帯を有するように選択される。コーティングを製造するために使用する材料は、近赤外(すなわち700nm超)および/または近紫外(すなわち400nm未満)のスペクトル吸収帯を任意に含んでもよい。
【0015】
吸収コーティングは、単層膜コーティングまたは多層膜コーティングから選択される。単層膜コーティングの場合、単一の吸収材料からなってもよく、または少なくとも2つの材料の組合せからなってもよく、各々が可視スペクトルにおける同一または異なる吸収帯を有する。例えば、上記のようにすべての可視スペクトルにわたって吸収するコーティングを得るために、相補的な吸収帯を有する2つの材料を使用することが可能である。多層膜コーティングの場合、各層は、化学的性質および特定の吸収帯が同一または異なる材料からなってもよい。各層はまた、複数の吸収材料の混合物からなってもよい。
【0016】
本発明の第1の実施形態において、光学部品は、壁面の基部と平行に堆積する少なくとも1つの吸収コーティングを含む。第2の実施形態において、光学部品は、壁面の最上部と平行に堆積する少なくとも1つの吸収コーティングを含む。
【0017】
本発明の第3の実施形態において、光学部品は、壁面の基部および最上部と平行に堆積する少なくとも1つの吸収コーティングを含む。
【0018】
これらの3つの実施形態において、前述のように、吸収コーティングは、吸収コーティングが堆積する上および/また下の壁の厚さ以上の厚さを有する。
【0019】
有利には、本発明によれば、吸収コーティングは、金属化プロセスによって堆積する。このプロセスは、壁を形成する前、または壁を形成した後に実施することができる。壁を形成する前に金属化を実施する場合には、金属化プロセスは、強固で透明な支持体上に直接に、または強固で透明な支持体上に後で移される軟質透明フィルムにおいて実施することができる。この金属化プロセスにおいて、吸収コーティングは、金属からなる。本発明の状況において使用できる金属は、特に、アルミニウム、銀、クロム、チタン、白金、ニッケル、銅、鉄、亜鉛、スズ、パラジウムおよび金である。好ましくは、吸収材料は、銀、アルミニウム、チタン、クロムおよび金から選択される。
【0020】
吸収コーティングを製造するために他の材料を使用できる。例として、ゾルゲル樹脂(sol−gel resins)などのハイブリッド材料、あるいはセラミック/金属またはシリカ/金属の混合物などの複合材料について言及することができる。本発明の状況において、ドーピング、拡散、または吸収粒子の吸収によって、固有に吸収するかまたは吸収するように作られた重合体を使用してもよい。カーボンブラックの粒子を含む重合体は、この役割を実行する例であり得る。1つ以上の炭素層を含むコーティングを堆積してもよい。従って、本発明に有用な吸収重合体を作るために適切な吸収粒子の中で、染料、インク、色素、コロイド、金属粒子、合金、カーボンブラック、炭素ナノチューブについて特に言及することができる。これらの粒子は、当業者にとって周知の方法によって、ゾルゲル、ポリウレタン、アクリレートまたはエポキシ系の重合体に容易に組み込むことができる。こうして得られる重合体は、400nmから700nmの少なくとも1つの吸収帯を有し、好ましくは400nmから700nmにわたるすべての可視スペクトルを吸収する。重合体は、近紫外または近赤外の吸収帯を任意に有してもよい。
【0021】
従って、本発明は、部品の表面と平行に並列されるセルの少なくとも1つの透明な群を有する光学部品を製造する方法を含み、セルは壁によって分離され、該方法は以下の工程を含む。
−強固で透明な支持体または軟質透明フィルムの表面の全体に均一な吸収コーティングを堆積させること。
−表面と平行に並列したセルの一群を得るために、壁を構成する透明材料の層を堆積させ、透明材料の層のセルネットワークを製造すること。
−各セルにおける吸収コーティングの化学的または物理化学的なエッチングを実行すること。
【0022】
この方法の代替案において、以下が可能である。
−マスクを通して吸収コーティングを堆積させることであって、マスクは求めるネットワークのセル分布のパターンを有すること。
−透明材料の層を吸収コーティングのパターンに合わせながら、壁を構成する透明材料の層をポジのフォトリソグラフィープロセスによって堆積させること。
【0023】
そのような方法の実施は、強固で透明な支持体または軟質透明フィルムの上に吸収コーティングを直接堆積させることを可能にする。換言すれば、該方法の実施は、部品の表面と平行に並列したセルの少なくとも1つの透明な群を有する光学部品を得るのに適切であり、セルは、強固で透明な支持体または軟質フィルムと接触する吸収コーティングと、壁の部品透明材料の層とからなる壁によって分離される。そのような方法において、壁は、基部に吸収コーティングが存在することによって吸収するように作られる。
【0024】
セルネットワークは、当業者にとって周知のマイクロエレクトロニクスに由来する製造方法を使用することによって得られる。説明を目的として非限定的な態様で、熱転写、熱エンボス加工、マイクロ成形、フォトリソグラフィー(ハード、ソフト、ポジ、ネガ)、マイクロ堆積(例えばマイクロコンタクト印刷)、スクリーン印刷、またはインクジェット式印刷などの方法について言及することができる。
【0025】
この実施形態において、吸収コーティングが1つ以上の金属層からなる場合には、金属層は、例えばRIE(反応性イオンエッチング)タイプのプロセスによってエッチングされる。RIEは、垂直イオンビームによる金属層の照射からなる物理化学プロセスである。このプロセスにおいて、いくつかのガスを使用することができる。例えば、CF、SF、0、CHFおよびアルゴンについて言及することができる。このドライエッチングは、異方性である。金属は、酸性または塩基の溶液によるウェットエッチングによって腐食されうる。
【0026】
別の実施形態において、本発明は、部品の表面と平行に並列されたセルの少なくとも1つの透明な群を有する光学部品を製造する方法を含み、セルは壁によって分離され、該方法は次の工程を含む。
−強固で透明な支持体または軟質透明フィルムの表面全体の上に、壁を構成する透明材料の均一な層を堆積させること。
−部品材料の均一な層の上に吸収コーティングを堆積させること。
−表面と平行に並列したセルの一群を得るために、マスクを通して、吸収コーティングおよび次に透明材料の層のエッチングプロセスによってセルを製造すること。
【0027】
そのような方法において、壁はその最上部に吸収コーティングが存在することによって吸収するように作られる。換言すれば、この方法は部品の表面と平行に並列されたセルの少なくとも1つの透明な群を有する光学部品を得るのに役立ち、セルは、強固で透明な支持体または軟質フィルムと接触する透明材料の層と吸収コーティングとを含む壁によって分離される。
【0028】
吸収コーティングは、数ナノメートルから5μm(マイクロメートル)の高さを有する。有利には、コーティングの厚さは、2nmから2μmである。
【0029】
本発明の1つの代替案において、壁の部品材料は、それ自体が吸収することができる。この場合、材料は、ドーピング、拡散、または吸収粒子の吸収によって、固有に吸収するかまたは吸収するように作られた重合体から選択される。
【0030】
すべての壁(従って光学部品のすべてのセル)は、強固で透明な支持体上に直接に形成することが可能であり、あるいは軟質透明フィルムに形成してから、強固で透明な支持体上に移すことができる。強固で透明な支持体は、セルの一群を導入する側において、凸面、凹面、または平面でもよい。
【0031】
セルネットワークの幾何構造は、寸法パラメータによって特徴づけられる。寸法パラメータは、通常、光学部品の表面と平行なセルの寸法(D)、セルを分離する壁の高さ(h)に対応する高さ、および(部品表面と平行に測定される)これらの壁の厚さ(e)に縮約することができる。セルは、好ましくは、部品表面と平行に0.10μmから5μmの厚さ(e)、および100μm未満、好ましくは1μmから50μm(両方の値を含む)の高さ(h)を有する壁によって分離される。
【0032】
上記のような壁の寸法設計によって、90%を超える充填率τを有する光学部品の表面に並列されるセルの一群を製造することが可能である。本発明の状況において、充填率は、光学部品の単位面積あたりの、物質によって満たされるセルによって占められる領域として定義される。換言すれば、少なくとも、すべてのセルを備える部品の領域において、すべてのセルは部品表面の少なくとも90%を占有する。有利には、充填率は、90%から99.5%(両方の値を含む)である。
【0033】
本方法の一実施態様において、少なくともセルの一部に含まれる光学特性を有する物質は、液体またはゲルの状態である。物質は、特に、着色、フォトクロミズム、偏光および屈折率から選択される光学特性の少なくとも1つを有することができる。
【0034】
光学部品のセルの一群は、異なる物質を含むいくつかのセルグループを含んでもよい。同様に、各セルは、上記のような1つ以上の光学特性を有する物質で満たされてもよい。部品の厚さにわたってセルのいくつかの群を積み重ねることも可能である。この実施態様において、セルの群は、各層において同一または異なる特性を有してもよく、あるいはセルの各群におけるセルは、異なる光学特性を有してもよい。従って、すべてのセルが屈折率変化を得る物質を含む1つの層と、すべてのセルがフォトクロミック特性を有する物質を含む別の層とを有することを考慮できる。
【0035】
本発明のさらなる目的は、上記のような透明な光学部品を製造する方法であり、該方法は、部品表面と平行にセルを結合するために基板上に壁ネットワークを形成することと、壁の表面と平行に少なくとも1つの吸収コーティングを形成することと、液体またはゲルの態様で光学特性を有する物質をまとめてまたは個々にセルに充填することと、基板の反対側でセルを密封することを含む。
【0036】
本発明の別の態様は、上記の方法で使用される光学部品に関する。この光学部品は、部品の表面と平行に並列されるセルの少なくとも1つの透明な群と、少なくとも1つの吸収コーティングとを含み、吸収コーティングは、壁の表面と平行に配置される少なくとも1つの吸収材料を含み、各セルは壁によって分離される。各セルは、気密封止され、光学特性を有する少なくとも1つの物質を含む。
【0037】
本発明のさらなる態様は、そのような光学部品を切り抜くことによって製造される透明な光学素子、特に眼鏡レンズに関する。眼鏡レンズは、眼科用レンズを含む。眼科用レンズとは、眼の保護および/または視力の矯正のために眼鏡フレームに適合したレンズを意味する。これらのレンズは、無限焦点、単焦点、二重焦点、三重焦点および多重焦点のレンズから選択される。眼科光学は本発明の応用の好ましい分野であるが、本発明を他の種類の透明な光学素子(例えば光学機器用レンズ、特に写真撮影または天文学用のフィルタ、光学的観察レンズ、アイシェード、照明装置用光学素子など)に応用できることが理解できる。本発明の範囲は、眼科光学における眼科用レンズのみならず、コンタクトレンズおよび眼内レンズも含む。
【0038】
本願明細書に付加する図面に関して、本発明の他の特徴および効果は、限定しない典型的な実施態様で下記の説明で表される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
図1に示す光学部品10は、眼鏡レンズのための半加工品である。上記のように、眼鏡レンズは、眼科用レンズを含む。もちろん、眼科光学は本発明の応用の好ましい分野であるが、本発明を他の種類の透明な光学素子に応用できることが理解できる。
【0040】
図2は、図1の破線によって示す輪郭に沿って半加工品10を切り抜くことによって得られる眼鏡レンズ11を示す。この輪郭は、半加工品10の領域に刻みつけられる限り、基本的に任意である。従って、大量生産の半加工品を用いることによって、多種多様な眼鏡フレームに適合できるレンズを得ることができる。従来、切り抜かれるレンズの端は、フレームに適合する形状になるように、なおかつこのフレームにレンズを固定する方法に合わせて、および/または美的理由のために、何の問題もなく形を整えることができる。例えばレンズをフレームに固定するネジを導入するために、穴14をその中に穿設することができる。
【0041】
半加工品10の一般的な形状は、例えば直径70mm(ミリメートル)の円形の輪郭、前方の凸面12、および後方の凹面13によって、業界標準に準拠してもよい(図3a)。従って、従来の切断、トリミングおよび穿孔のツールを用いることによって、半加工品10からレンズ11を得ることができる。
【0042】
図1および2において、表面層の一部を取り除いてみると、半加工品10およびレンズ11のピクセル化された構造が明らかになる。この構造は、透明な部品の層17に形成されるセルまたはマイクロセル15のネットワークと、吸収コーティング30とからなる(図3a)。図面を読みやすくするために、これらの図では、コーティング30の層17およびセル15の寸法は、半加工品10およびその基板16の寸法に関して誇張される。
【0043】
セル15の横方向寸法(D)(半加工品10の表面と平行)は、1ミクロンより大きく、数ミリメートル程度の場合がある。このことにより、このセルネットワークは、マイクロエレクトロニクスまたはマイクロメカニカル装置の分野において完全に精通される技術によって製造することができる。壁18を構成する層17の高さ(h)は、好ましくは1μmから50μmである。壁18は、高い充填率を得るために、特に、0.1μmから5.0μmの厚さ(d)を有する。吸収材料30の層は、数ナノメートルから5μmの高さ(h)を有する。その層は、特に、1μmの高さを有するアルミニウム層を構成してもよい。
【0044】
図3aは、本発明の第1の実施態様であり、吸収コーティングは、基板表面および壁の基部(18a)と平行に堆積する。本発明の状況において、壁の基部は、ここでは、基板からの最短距離に配置される、基板表面と平行な壁の側面を意味する。この特定の実施態様において、セルネットワークを構成する壁の各々の基部に存在する吸収材料30の層の厚さは、壁18の厚さ以上である。このことは、吸収コーティングをエッチングするプロセスの間にマスクを使用することによって容易に得られる。
【0045】
図3bは、本発明の第2の実施態様であり、吸収コーティングは、基板表面および壁の最上部(18b)と平行に堆積する。本発明の状況において、壁の最上部は、ここでは、基板からの最長距離、すなわち基板の反対側に配置される、基板表面と平行な壁の側面を意味する。
【0046】
図3cは、本発明の第3の実施態様であり、吸収コーティング(18)は、基部(18a)および壁の最上部(18b)において、基板表面と平行に堆積する。
【0047】
眼科光学において一般的であるように、セルネットワーク15を組み込む層17は、多くのさらなる層19、20によって覆われることがある(図3)。これらの層は、例えば衝撃強度、耐引っかき性、着色性、反射防止、耐汚損性などの機能を有する。ここに示す例では、セルネットワークを組み込む層17は透明基板16の直上に配置されるが、それらの間に1以上の中間層(例えば衝撃強度、耐引っかき性、または着色性の機能を有する層)が見いだされてもよいことが理解できる。
【0048】
透明基板16は、眼科光学において一般に使用するガラスまたは様々な重合体から製造してもよい。使用する重合体の中で、非限定的な態様で、参考までに言及できるものは、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド;ポリスルホン、ポリエチレンテレフタラートおよびポリカーボネートの共重合体、ポリオレフィン(特にポリノルボルネン)、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)重合体および共重合体、メタクリル重合体および共重合体(特にビスフェノールAに由来するメタクリル重合体および共重合体)、チオメタクリル重合体および共重合体、ウレタンおよびチオウレタン重合体および共重合体、エポキシ重合体および共重合体、およびエピスルフィド重合体および共重合体である。
【0049】
セルネットワークを組み込む層17は、好ましくは前方の凸側12に位置し、後方の凹側13は、必要に応じて機械加工および研摩によって任意に形づくることが自在である。光学部品は、レンズの凹側に配置してもよい。明らかに、光学部品は、平面光学素子の上に組み込むこともできる。
【0050】
マイクロセル15は、液体またはゲルの状態で光学特性を有する物質で満たされる。壁の材料およびマイクロセルの底部の表面湿潤を容易にするために、部品の前面の前処理を任意に適用してもよい。光学特性を有する物質を形成する溶液または懸濁液は、ネットワークのすべてのマイクロセルについて同じでもよく、その場合には、部品を適切な溶液に浸漬すること、スクリーン印刷タイプのプロセス、スピンプロセス、ローラーまたはスクレーパを使用して物質を広げるプロセス、またはスプレープロセスによって、簡単に導入することができる。材料ジェット装置を使用して、個々のマイクロセルに局所的に注入することもできる。
【0051】
充填されたマイクロセルの一群を気密封止するために、粘着性のプラスチックフィルムを、例えば熱融着または熱間圧延によって、壁18の最上部、または吸収コーティングの上(後者が壁の最上部に存在する場合)に適用する。溶液重合可能な材料は、封止されるゾーンに堆積することも可能であり、材料はマイクロセル中に存在する光学特性を有する物質と混合せず、次に材料を例えば熱または照射によって硬化することができる。
【0052】
マイクロセルネットワーク15が完成すると、部品にさらなる層またはコーティング19、20の導入によって、その製造を完了できる。この種類の部品は、大量生産してから保管し、その後、顧客の要求に応じて取り出して個々に切抜く。
【0053】
光学特性を有する物質が液体またはゲル状態のままであることを意図しない場合、固形化処理を適用することができる(例えば物質が堆積したときからの適切な段階における加熱および/または照射シーケンス)。
【0054】
代替案において、マイクロセルネットワークからなる光学部品は、軟質透明フィルムの形で造られる。そのようなフィルムは、上記と類似の技術によって得ることができる。この場合、フィルムは、平面的な非凸面または非凹面の支持体の上に製造することができる。
【0055】
フィルムは、例えば、比較的大規模で工業的に製造され、次に適切な寸法に切り抜かれて半加工品の基板16上に変形される。この変形は、軟質フィルムの結合、フィルムの熱成形、または真空接着の物理的プロセスによって行うことができる。次に、フィルムは、以前の場合のように、様々なコーティングを導入することが可能であり、または上記のように1つ以上のさらなる層でコーティングされた基板16自体に変形することができる。
【0056】
本発明の1つの応用分野において、マイクロセル15に導入される物質の光学特性は、その屈折率に関連がある。物質の屈折率を部品の表面に沿って調整することによって、補正レンズが得られる。本発明の第1の代替案において、マイクロセルネットワーク15の製造中に異なる屈折率を有する物質を導入することによって、調整を行うことができる。
【0057】
本発明の別の代替案において、屈折率を有する物質をマイクロセル15に導入することによって調整を行うことが可能であり、その屈折率はその後で照射によって調整することができる。半加工品10またはレンズ11を、表面に沿って変化する光エネルギーに露光することによって、補正的な光学的機能が刻みつけられ、患者の視力を補正するための所望の屈折率分布が得られる。この光は、一般にレーザーによって発生する光であり、書込装置は、CD―ROMまたは他の光メモリ支持体に書き込むために用いるものに類似している。レーザー出力および/または露出時間の選択を調整する結果として、光線感作物質の露光が変化することがある。
【0058】
本出願に使用できる物質の中で、例えばメソ多孔性材料または液晶について言及することができる。これらの液晶は、例えば照射によって生じる重合反応によって固定することができる。従って、液晶は、通過する光波の所定の光学的遅れを導入するように選択された状態に固定することができる。メソ多孔性材料の場合、材料の屈折率は、その多孔性を変化させることによって制御する。別の可能性はフォトポリマーを使用することであり、フォトポリマーの1つの周知の特性は、照射によって引き起こされる重合反応の間に屈折率が変化することである。屈折率のこうした変化は、材料の密度の変更、および材料の化学構造の変化に起因する。使用されるフォトポリマーは、好ましくは重合反応の間に体積がごくわずかしか変化しないものである。
【0059】
溶液または懸濁液の選択重合は、所望の指数調整を得るために、部品表面に関して空間的に区別された照射の存在下で実施される。この調整は、矯正される患者の眼の推定された屈折異常に従って前もって決定される。
【0060】
本発明のさらなる応用において、液体またはゲルの状態でマイクロセルに導入される物質は、偏光特性を有する。本出願で使用される物質の中で、特に液晶について言及することができる。
【0061】
本発明の別の応用において、液体またはゲルの状態でマイクロセルに導入される物質は、フォトクロミック特性を有する。本出願において使用される物質の中で、例えば中心コアを含むフォトクロミック化合物、例えばスピロオキサジン、スピロインドリン[2,3´]ベンゾキサジン、クロメン、スピロキサジンホモアザアダマンタン、スピロフルオレン―(2H)―ベンゾピラン、またはナフトール[2,1―b]ピラン環について言及することができる。
【0062】
本発明の状況において、光学特性を有する物質は、染料、または透過度を変更するのに適切な色素でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の光学部品の正面図である。
【図2】光学部品から得られる光学素子の斜視図である。
【図3a】本発明の第一の実施態様による光学部品の概略断面図である。
【図3b】本発明の第二の実施態様による光学部品の概略断面図である。
【図3c】本発明の第三の実施態様による光学部品の概略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な光学部品の製造を含む、透明な光学素子を製造する方法であって、前記光学部品は少なくとも、
前記部品の表面と平行に並列されるセルの一群であって、前記セルの各々は気密封止され光学特性を有する物質を含み、前記セルは壁によって分離される、一群と、
前記部品の前記表面と平行に延びる側の前記壁に配置される少なくとも1つの吸収コーティングとを有する、方法。
【請求項2】
前記透明な光学素子を製造する方法において、前記光学素子の所定の形状に対応して前記表面上に画定される輪郭に沿って前記光学部品を切り抜く工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記光学特性は、着色、フォトクロミズム、偏光および屈折率から選択される、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、少なくとも前記セルの一部に含まれる光学特性を有する前記物質は、液体またはゲルの状態である、方法。
【請求項5】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記光学部品の前記セルの一群は、強固で透明な支持体上に直接に形成されるか、または軟質透明フィルム内に形成されてから、前記強固で透明な支持体上に移される、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記強固で透明な支持体は、前記セルの一群を導入する側において、凸面、凹面、または平面でもよい、方法。
【請求項7】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記吸収コーティングは、400nmから700nmの少なくとも1つの波長吸収帯を有する、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記吸収コーティングは、すべての可視スペクトルにわたる前記吸収帯を有する、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記吸収コーティングは、近赤外(すなわち700nm超)および/または近紫外(すなわち400nm未満)の前記スペクトル吸収帯も有する、方法。
【請求項10】
先行する請求項のいずれか1項記載の方法において、前記吸収コーティングは、金属化プロセスによって製造される、方法。
【請求項11】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記吸収コーティングは、前記壁を形成する前、または前記壁を形成した後に堆積される、方法。
【請求項12】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記強固で透明な支持体または前記軟質透明フィルムの表面の全体に均一な前記吸収コーティングを堆積させる工程と、
前記表面と平行に並列した前記セルの一群を得るために、前記壁を構成する透明材料の層を堆積させ、前記透明材料の層の中にセルネットワークを製造する工程と、
各セルにおける吸収コーティングの化学的または物理化学的なエッチングを実行する工程とを含む、方法。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の方法において、マスクを通して吸収コーティングを堆積させる工程において、前記マスクは求めるネットワークのセル分布のパターンを有する工程と、
前記透明材料の層を前記吸収コーティングの前記パターンに合わせながら、前記壁を構成する前記透明材料の層をポジのフォトリソグラフィープロセスによって堆積させる工程とを含む、方法。
【請求項14】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記強固で透明な支持体または前記軟質透明フィルムの表面全体の上に、前記壁を構成する前記透明材料の均一な層を堆積させる工程と、
前記壁を構成する前記材料の均一な層の上に金属層を堆積させる工程と、
前記表面と平行に並列した前記セルの一群を得るために、前記金属層のマスクおよび前記透明材料の層を通じてエッチングプロセスを実施することによって、前記セルを製造する工程とを含む、方法。
【請求項15】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記セルネットワークは、熱転写、熱エンボス加工、マイクロ成形、フォトリソグラフィー、マイクロ堆積、スクリーン印刷およびインクジェット式印刷から選択される方法を実施することによって得られる、方法。
【請求項16】
請求項12または請求項13のいずれか1項に記載の方法において、前記金属層は、RIE(反応性イオンエッチング)プロセスを使用してエッチングされる、方法。
【請求項17】
請求項12から請求項15のいずれか1項に記載の方法において、前記壁を構成する前記材料は、すべてまたは一部の前記可視スペクトルにわたって吸収する、方法。
【請求項18】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記部品表面と平行にセルを結合するために基板上に壁ネットワークを形成すること、および前記壁ネットワークの形成の前および/または後に発生する前記壁の表面と平行に少なくとも1つの前記吸収コーティングを形成すること、および液体またはゲルの状態で光学特性を有する前記物質をまとめてまたは個々に前記セルに充填することと、前記基板の反対側で前記セルを密封することとを含む、方法。
【請求項19】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記吸収コーティングは、アルミニウム、銀、クロム、チタン、白金、ニッケル、銅、鉄、亜鉛、スズ、パラジウムおよび金から選択される金属を含む、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、前記吸収コーティングは、銀、アルミニウム、チタン、クロムおよび金から選択される金属を含む、方法。
【請求項21】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記吸収コーティングは、ゾルゲル樹脂などのハイブリッド材料、セラミック/金属またはシリカ/金属の混合物などの複合材料、および炭素から選択される吸収材料を含む、方法。
【請求項22】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法において、前記吸収コーティングは、ドーピング、拡散、または吸収粒子の吸収によって固有に吸収するかまたは吸収するように作られた重合体から選択される前記吸収材料を含む、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記吸収粒子は、染料、インク、色素、コロイド、金属粒子、合金、カーボンブラックおよび炭素ナノチューブから選択される、方法。
【請求項24】
光学部品において、前記部品の表面と平行に並列された透明なセルの少なくとも1つの群と、前記部品の前記表面と平行に延びる1つの側面に配置される少なくとも1つの吸収コーティングとを含み、前記セルの各々が気密封止され、光学特性を有する物質を含み、すべての前記セルが壁によって分離される、光学部品。
【請求項25】
請求項24に記載の光学部品において、前記吸収コーティングは、前記壁面の前記基部と平行に堆積する、光学部品。
【請求項26】
請求項25に記載の光学部品において、前記吸収コーティングは、壁厚と同じ厚さまたは壁厚より大きい厚さを有する、光学部品。
【請求項27】
請求項24に記載の光学部品において、前記吸収コーティングは、壁面の最上部と平行に堆積する、光学部品。
【請求項28】
請求項24に記載の光学部品において、前記吸収コーティングは、前記壁面の前記基部および最上部と平行に堆積する、光学部品。
【請求項29】
請求項24から請求項28のいずれか1項に記載の光学部品において、前記吸収コーティングは、アルミニウム、銀、クロム、チタン、白金、ニッケル、銅、鉄、亜鉛、スズ、パラジウムおよび金から選択される材料を含む、光学部品。
【請求項30】
請求項29に記載の光学部品において、前記材料は、銀、アルミニウム、チタン、クロムおよび金から選択される、光学部品。
【請求項31】
請求項24から請求項28のいずれか1項に記載の光学部品において、前記吸収コーティングは、ゾルゲル樹脂などのハイブリッド材料、セラミック/金属またはシリカ/金属の混合物などの複合材料、および炭素から選択される材料を含む、光学部品。
【請求項32】
請求項24から請求項28のいずれか1項に記載の光学部品において、前記吸収コーティングは、ド−ピング、拡散、または吸収粒子の吸収によって固有に吸収するかまたは吸収するように作られた重合体から選択される吸収材料を含む、光学部品。
【請求項33】
請求項32に記載の光学部品において、前記吸収粒子は、染料、インク、色素、コロイド、金属粒子、合金、カーボンブラックおよび炭素ナノチューブから選択される、光学部品。
【請求項34】
請求項24から請求項33のいずれか1項に記載の光学部品において、前記吸収コーティングは、数ナノメートルから5μm、好ましくは2nmから2μmの高さを有する、光学部品。
【請求項35】
請求項24から請求項34のいずれか1項に記載の光学部品において、前記セルは、0.10μmから5μmの厚さ(e)および1μmから50μmの高さ(h)(両方の値を含む)を有する壁によって分離される、光学部品。
【請求項36】
請求項24から請求項35のいずれか1項に記載の光学部品において、充填率が90%から99.5%(両方の値を含む)である、光学部品。
【請求項37】
請求項24から請求項36のいずれか1項に記載の光学部品の使用において、眼科用レンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、光学機器用レンズ、フィルタ、光学的観察レンズ、アイシェード、および照明装置用光学素子から選択される透明な光学素子を製造するための、光学部品の使用。
【請求項38】
眼鏡レンズにおいて、請求項24から請求項36のいずれか1項に記載の前記光学部品を切り抜くことによって製造される、眼鏡レンズ。
【請求項39】
請求項38に記載の眼鏡レンズにおいて、少なくとも1つの穴を前記部品(10)に穿設することによって前記レンズ(11)をフレームに固定する、眼鏡レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公表番号】特表2009−501951(P2009−501951A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522012(P2008−522012)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001728
【国際公開番号】WO2007/010125
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(505425373)エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラレ ドプテイク) (74)
【Fターム(参考)】