吸収可能なマトリックス材料および抗増殖薬を含む、血液透析血管アクセス及び他の血管移植片の機能不全を防止又は治療するための移植可能な装置および方法
【課題】血液透析用血管アクセスおよび他の血管移植片の機能不全を予防、抑制(阻止)または治療するための治療用インプラント、装置および方法を提供する。
【解決手段】本発明は一般に脈管または移植片の外側に配置される人工器官であり、薬剤-溶出マトリックス材料から抗増殖性薬剤または作用物質を溶出させる装置である。血管周囲抗増殖薬剤投与方法も開示される。
【解決手段】本発明は一般に脈管または移植片の外側に配置される人工器官であり、薬剤-溶出マトリックス材料から抗増殖性薬剤または作用物質を溶出させる装置である。血管周囲抗増殖薬剤投与方法も開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
血液透析血管アクセス(到達手段)及び他の血管移植片の機能不全は、元々の脈管(静脈または動脈)の内腔の損傷または血管吻合部位またはそこから離れた部位における補綴導管管腔の損傷として明らかになってくる。管腔の損傷は狭窄または閉塞として現れ、それは管腔内血栓および/または血管増殖応答の結果である。移植片機能不全の原因は種々の物理的(例えば、血行力学的障害を生じさせる剪断力ストレス)、化学的および/または生物学的刺激および感染、および異物拒絶と関連づけることができ、このことは、PTFE移植片の介入を含む血管アクセス移植片に比較して異物(例えば、この場合、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)を含まないフィステルが長期間開存性である理由を説明できるかもしれない。
本発明は一般に、血液透析用血管アクセスおよび他の血管移植片の機能不全を予防、抑制(阻止)または治療するための治療用インプラント、装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管アクセス移植片、特に血液透析アクセス移植片はこの分野でよく知られたものである。合衆国においておよそ100,000の血管アクセス処置が毎年行われている。血液透析血管アクセスはいくつかのやり方の一つとして構築することができる:動脈と静脈をつなぐフィステル(例えば、Brecisa-Cimino)、または動脈と静脈の間に挿入した補綴(例えばPTFE)または生体組織(例えば静脈)移植片。このような移植片は、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような適切な生体共存性のある本質的に不活性な管状または円筒状素片から構成される。実際、PTFEは補綴透析アクセスに使用される最も一般的な材料である。一つのアプローチでは、PTFEの素片は腕、前腕または腿の動脈と静脈の間に外科的に挿入される。そうすると、血液透析を行うために繰返し血管に進入するために移植片を利用できるようになる。
【0003】
アクセス移植片の設置に続いて動脈および静脈の縫合部は治癒される。通常、毎年これらの移植片の60%は静脈側の末端で狭くなる(狭窄)ために機能しなくなる。同様な病変は動脈循環流に置かれたPTFE移植片にも発生し、影響を受ける移植片の遠位末端について同様な傾向が見られる。冠動脈バイパス移植手術または末梢血管手術(例えば、大動脈-腸骨、大腿部-大腿部、大腿部-膝窩、腿部-脛骨)に使用される静脈移植片および/または他の移植導管の機能不全または障害はよく知られている。動脈アクセス移植片狭窄の発達は静脈側末端におけるアクセス移植片狭窄の発達ほど速くはない。平滑筋細胞の増殖及び遊走は静脈および隣接する移植片開口部における脈管内膜過形成を生じさせ、透析アクセス狭窄として記述される。移植片における狭窄は次第に重篤となるので、移植片は機能不全となり血液透析は最適でなくなる。移植片中の狭窄が治療されなければ、最後には閉塞を起こし移植片機能不全となる。
【0004】
アクセス移植片の静脈末端がそのような顕著な狭小化傾向を示す理由は多くの要因からなる。この位置に特有の特徴には、動脈圧および動脈流への曝露、血管壁および周辺組織における音響(振動)エネルギーの消失、移植片の反復穿刺、および処理された血液のインフュージョンが含まれる。加えて、移植片の静脈側末端は血液が透析チューブを通る際、または針を刺した部位における血小板活性化の際に放出される有糸分裂促進因子を浴びるかもしれない。
狭窄PTFE移植片の移植片-静脈吻合から再検討手術の際に収集された組織サンプルは顕著な管腔狭小化を示し、(i)平滑筋細胞の存在、(ii)細胞外マトリックスの蓄積、(iii)新生内膜および外膜内部の血管形成、および(iv)PTFE移植片材料を裏打ちする活性マクロファージ層の存在という特徴を示した。血小板由来成長因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)のような多種のサイトカインおよび細胞増殖刺激因子が静脈新生内膜内の平滑筋細胞/筋線維芽細胞、PTFE移植片の両側に張り付いたマクロファージ、および新生内膜および外膜内の血管によって発現されていた。マクロファージ、特定のサイトカイン(bFGF、PDGF、およびVEGF)、並びに新生内膜および外膜における血管新生は、PTFE透析移植片における血管増殖性応答の症状発現である静脈新生内膜過形成(VNH)の病因に寄与していると思われる。
【0005】
慢性腎不全の患者の生存は、規則正しい最適な透析の実施に依存する。それが可能でない場合(例えば、血管アクセスの機能異常または機能不全の結果)、臨床症状が急速に悪化し、その状態が回復できないと患者達は死亡するであろう。血管アクセスの機能異常は合衆国において透析集団におけるもっと重要な罹患率および入院の原因であり、毎年およそ10億米ドルと見積られる費用がかかっている。狭窄及び続く血栓によって特徴づけられる静脈新生内膜過形成は、PTFE透析移植片機能不全を生じさせる病因の圧倒的大部分である。この問題の大きさおよび費用の膨大さにもかかわらず、現在のところPTFE透析移植片における静脈新生内膜過形成の予防及び処置に対する効果的な療法がない。従って、特異的メディエーターおよび過程に照準を定めた介入は、血管アクセス機能異常に関する極めて重要な人的および経済的コストを低減することに成功し得るであろう。
【0006】
狭窄が生じてしまった場合、現在の治療法の一つには、バルーン血管形成のような非外科的、経皮カテーテルに基づいた治療方法により狭小化を低減または除去し、移植片を通過する血流を回復させること(充分な血液透析の実施を可能とする)が含まれる。バルーン血管形成は、一つの形態において、閉塞部位におけるバルーンカテーテルの展開、および、バルーンを膨らませて拘束(restriction)を生じさせている物質を脈管壁の内側に押しつけ脈管の最小管腔直径(MLD)を増加させ、それにより脈管を膨張させることを含む。拘束の長さと重篤度に依存して、この手順は(バルーンを膨らませ、しぼませることにより)数回繰り返して良い。完了したならば、バルーンカテーテルは系から引き抜かれる。
【0007】
バルーン血管形成は「スタンドアローン」手順として使用することができるが、しばしばいわゆるステントと呼ばれるものの使用を伴う。ステントとは、機械的反動を防止し、もとの拘束部における再狭小化(再狭窄)の機会を低下させるために血管内に配置される展開可能な足場または支持装置である。ステントは、「バルーン−展開性」でも「自己展開性」でもよく、血管内に配置された場合、血管内壁に接触する。ステントが配置されてもされなくても、この治療形態は失敗する危険性、すなわち、処置部位における際狭小化(再狭窄)の危険性が非常に高い。アクセス移植片内部の狭窄を効果的かつ永久的に処置することができない限り、移植片機能不全が起こり易い。移植片機能不全の場合、患者は血管内処置、すなわち、非外科的、カテーテルベースの経皮処置、反復血管手術、例えば血栓摘出を受けて、移植片から血餅を取り除くか、別の血管アクセス移植片または(しばしばこう呼ばれるが)シャントを別の部位に配置しなければならず、そうでなければ患者は腎移植を受けなければならない。反復手術の明白な諸問題および移植の限られた利用性を考慮すれば、透析移植片狭窄の防止および治療において効果的で長期間続く(永続性のある)処置法に対する需要が存在する。
【0008】
血管増殖性応答(再狭窄の病理学的原因と考えられている)を低減または防止するための現行のアプローチの大多数は、血管または移植片管腔内部に起源を有する治療オプションに基づいている。現行の新しいアプローチは、薬剤被覆または薬剤含浸ステントを使用するもので、このステントは血管管腔内に配置される。ステントを被覆するための薬剤の例にはワイス・アイェルスト社(Wyeth Ayerst)から商業的に入手可能なラパマイシン(Rapamycin)(シロリムス(Sirolimus)(登録商標))、および、ブリストル-マイヤースクイッブ社から商業的に入手可能なパクリタキセル(Paclitaxel)(タキソール(Taxol)(登録商標))が含まれる。このステントに基づくアプローチにおいて、ラパマイシンまたはパクリタキセルはステントから次第に溶出され、血管壁を内膜(血管壁の最内層)から外膜(血管壁の最外層)へと拡散する。研究により、ラパマイシン及びパクリタキセルは平滑筋細胞増殖を阻害する傾向があることが示された。
抗増殖特性をも有する抗凝血剤、例えばヘパリン、と共に合成マトリックス材料(エチレン-ビニル酢酸コポリマー、EVA)を用いた血管周囲または血管外空間から動脈または血管壁を通したデリバリーも示唆されている。このアプローチには2つの欠点がある:ヘパリンは可溶性物質であり、血管壁から迅速に消失し、エチレン-ビニル酢酸コポリマーは生分解性でなくin vivoで長期間の効果について不安が生じるであろう。
【0009】
マトリックス材料を基礎にした系を用いて治療薬剤が局所的にデリバリーされる場合、このマトリックス材料は好ましくは以下の特徴を有していなければならない:
1.マトリクス材料は充分な量の治療作用因子の装荷を可能としなければならない。
2.マトリックス材料は適切な所定の速度で治療作用因子を溶出させなければならない。
3.マトリックス材料は好ましくは移植可能で生分解性でなければならない。従って、受容者の組織からのマトリックス材料の物理的除去は必要でなく残存マトリックスの長期効果に関する心配は回避される。
4.マトリックス材料もその生分解生成物も有意な炎症性または増殖性組織応答を引き起こしてはならず、受容者の本来の防御系または治癒を変化させまたは妨害してはならない。
5.本装置(マトリックス材料および薬剤を含む)は血管構造物の輪郭に成型するに充分に可撓性でなければならない。
6.本装置は配置された場所に固定されやすく、意図しない場所に移動することが防止されなければならない。
【0010】
移植可能な装置との関係において薬剤デリバリーに使用されるポリマーマトリックス材料は天然のものでも合成物であっても良い。その例には、ポリグリコール酸またはポリヒドロキシブチレート、EVAのような化学物質からなるポリマー、またはコラーゲン、フィブリンまたはキトサンのような多糖類が含まれるが、これらに限られない。しかしながら、これらのマトリックスの全てが理想的というわけではない;適切でない性質には、貧弱な機械的特性、潜在的免疫原性および費用が含まれる。加えて、あるものは毒性分解物を生じさせ炎症性反応または増殖性応答を生じさせるかも知れない。
薬剤デリバリーのためのよく知られた生体共存性、生分解性、再吸収性マトリックス材料はコラーゲンである。生分解性医療装置作製の材料としてのコラーゲンの使用は重要な研究であり、これまでもそうであった。米国、6,323,184、6,206,931;4,164,559;4,409,332;6,162,247。現行の焦点の一つには、抗生物質および成長因子のような生理学的に活性なタンパク質及びペプチドを含む医薬のデリバリーが含まれる。
【0011】
走査型電子顕微鏡下で、コラーゲンマトリックスは模様のある表面と幅のある孔サイズを有する薄板状の密なフィルムの形態を有している。コラーゲンマトリックスは0.001ミクロンから100ミクロンまで広範囲の効果的な孔サイズを有するように作製することが出来る。この内部孔ネットワーク(多孔性材料)は大きな表面積を形成し、治療薬剤の貯蔵およびデリバリーのための微小貯蔵所として働く。いくつかの特徴によりコラーゲンは薬剤デリバリーのための優れた理想的なマトリックス材料である。コラーゲンは高度な柔軟性および機械的耐久性を示し、本来的に水湿潤性、半透性および一定の流動特性を示す。より重要なことに、コラーゲンは天然に存在する物質であり生分解性で、かつ非毒性である。加えて、コラーゲンは好ましい生分解特性を有し、完全な分解又は吸収の時間、すなわち薬剤デリバリーのためのコラーゲンマトリックスの持続性を改変することができる。
【0012】
薬剤デリバリーのために適切な第2のタンパク質マトリックス材料はフィブリンである。フィブリンマトリックスは、トロンビン-改変フィブリノーゲン分子の網状ネットワークである架橋フィブリン単位からなっている。このマトリックスは天然の血餅に類似している。天然の血餅と対照的にフィブリンマトリックスの孔サイズは制御可能であり、0.001ミリミクロンから0.004ミリミクロンまで可変である(いわゆるミクロ細孔)。コラーゲンマトリックスとフィブリンマトリックスの孔サイズの相違により、別個の薬剤放出速度を有するように治療薬剤と組み合わせることが可能になる。滲出を制御できるということ、配置された場所にしっかり固定されて維持されること、本来的に生分解性であること全てによりフィブリンは薬剤デリバリーのための優れてマトリックス材料となり、フィブリンは合成マトリックスにくらべて利点を有する。マトリックスとしてのフィブリンの初期における応用の大部分は抗生物質及び他の生物学的製剤デリバリーのためであった。
【0013】
フィブリンマトリックスは乾燥顆粒形態で調製される(PCT/EP99/08128参照)。この製剤はHyQ Solvelopment, Buhylmhle社(ドイツ)、によって製造されており、D-マンニトール、D-ソルビット、フィブリノーゲン水性溶液およびトロンビン-有機懸濁液を含む。この製剤は流動床顆粒化によって製造される。乾燥フィブリンの応用は多様である:創傷密閉、治癒促進および恒常性。しかしながら、そのような製剤は血管壁周辺にて固体粒子の標的指向性成形が許されず正確な投与量のデリバリーが困難であるので、薬剤デリバリーへの応用は限定されている。乾燥フィブリンの多孔性および吸収能は低く、物理的安定性が乏しい。
有用な吸収性、天然ポリマーマトリックス材料の別のグループはキトサンである。キトサンは、有用な生体共存性アミノ多糖であり、局所デリバリーのための作用因子の制御放出用の有用なマトリックスであることが分かっている。キトサンインプラントは全身性および局所性副作用または免疫応答を生じさせず適切に生分解性である。キトサンは高温の水酸化ナトリウム加水分解を用いたキチン(分子量1x106)の分子量5x105への分解によって調製することができる。多孔性を制御できないことがこのマトリックス材料の欠点である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明により、血液透析用血管アクセスおよび他の血管移植片の機能不全を予防、抑制(阻止)または治療するための治療用インプラント、装置および方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、少なくとも以下の2つの点で特徴的である:1)血管増殖性応答(平滑筋細胞過増殖、再狭窄、血管閉塞)を防止、抑制または治療する現行の方法の大部分はそれを血管(すなわち、静脈および/または動脈)管腔または移植片管腔の内側から行うのに対し、本発明は血管外または血管周辺から行う、すなわち血管管腔または移植片管腔の外から、かつ血管壁を通して行う方法である。2)現行の治療アプローチは全て狭小化または狭窄が実際に生じた後にのみ関係している。本発明は、一つの態様において、血管増殖疾病を治癒させるのとは対照的に、防止または抑制する方法である。
【0016】
更なる態様において、本発明は血管または移植片外表面に配置され、ラパマイシン、パクリタキセル、タクロリムスのような抗-血管増殖薬剤または作用因子および他の細胞周期阻害因子または同様に機能する作用因子を溶出させる、移植可能な人工装具(prosthetic device)である。吸収性マトリックス材料、例えばタンパク質、および抗増殖作用因子に加えて、この移植可能な装置は場合により血管壁の中膜および外膜におけるコラーゲン蓄積を阻害する作用因子および血管壁の石灰化低減を補助する医薬を含む。本発明は、新生内膜過形成(血管増殖性応答の発現)および石灰化を、水溶解度の低い抗増殖作用因子を単独またはアジュバントおよび他の抗増殖作用因子と共に血管外デリバリーすることによって防止または治療する方法を提供する。ラパマイシンは抗増殖特性を有する、本発明に使用するために特に好ましい薬剤である。適切な薬剤の混合物を使用することもできる。ラパマイシンは血管壁および/または移植片壁の外からこれらを通って静脈および/または動脈および/または移植片の内部へ拡散する。ラパマイシン(および、抗増殖効果を有する他の薬剤)の外部からの血管壁内へのおよび血管壁を通した溶出は装置が移植された後直ぐに開始し、この薬剤は血液透析移植片および他の血管移植片内および/またはそれらの吻合部位における平滑筋細胞増殖を阻害するであろう。したがって、一つの側面において、本発明は、血管アクセス部位脈管壁の外側から脈管内部へ、すなわち、血管外または血管周辺デリバリーにより薬剤を漸次的または一定時間後に溶出することにより、血管アクセス移植片またはシャントにおける平滑筋細胞増殖を阻害する方法である。
【0017】
本発明の別の側面は円筒状、抗増殖性薬剤吸収タンパク質内部層を含み、場合により外部支持体または骨格構造または層を含む人工装具である。一つの実施態様において、吸収タンパク質層はコラーゲンであり、外部骨格支持構造はPTFEのシートである。この実施態様において、抗増殖薬は好ましくはラパマイシンである。パクリタキセル(またはタキソール)は本発明の実施態様に非常に適した別の抗増殖薬または作用因子である。
本発明の第3の実施態様は、人工装具(上述)を移植片または血管構造物および/または吻合部の上に配置し、その人工装具を所望の部位に(例えば、縫合することにより)固着させることを含む、血液透析アクセス移植片の狭窄を阻止する方法である。
本発明の装置はコラーゲン、フィブリンまたはキトサンのような生体共存性マトリックス材料を採用することができる。特定のマトリックス材料の選択において重要な要素は材料の多孔性および生分解速度の制御性である。マトリックス材料の使用は、デリバリー貯蔵器を形成し薬剤デリバリーキネティクスを制御するので重要である。
本発明の好ましい装置はラパマイシンを吸収させたコラーゲンマトリックス材料を含み、この薬剤を血管外デリバリーする位置に配置されるであろう。
好ましい実施態様において、約120μg/cm2のラパマイシン(範囲:50μgから10mg/cm2)が乾燥状態での厚さが0.3〜2.0mmのコラーゲンマトリックス材料シートと組み合わされ、次にこれが血管壁若しくは移植片壁の上に移植されまたは血管壁若しくは移植片壁が包み込まれる。
【0018】
本発明のさらなる側面は、血管壁または移植片壁の外表面へ薬剤または作用因子をデリバリーする装置の「自己固定」である。最終段階でコラーゲンがFITS(フルオレセインイソチオシアネート)またはベンガルローズ(どちらもシグマケミカルス社(Sigma Chemicals)、セントルイス、MO)のような光反応性基と組み合わされるのであれば、コラーゲン-装置は、より接着性にすることができる。この装置を紫外線で刺激すると、これらの光反応性基が活性化され、接着性が増加するであろう。フィブリン接合剤およびアセチル化コラーゲンもコラーゲンマトリックス材料の外側血管壁に対する接着性を増加させることが分かっている。
初期の研究において、局所的脈管傷害と石灰化加速との関係が示されている。最近、ヒトにおける研究によりマトリックスGla-タンパク質(タンパク質−γ-カルボキシル化ビタミンK-依存性γ-カルボキシラーゼ)は正常な血管平滑筋細胞及び骨細胞により構成的に発現されていることが示された。高レベルのGla-タンパク質mRNAおよび非γ-カルボキシル化タンパク質がアテローム硬化性脈管組織に見られた。このγ-カルボキシル化タンパク質は血管石灰化の防止またはその開始を遅延させるために必要である(Price, P.ら、「ワルファリンはラット動脈および心弁において弾性ラメラの急速な石灰化を引き起こす」“Warfarin causes rapid calcification of the elastic lamellae in rat arteries and heart valves”, Atheroscler Thromb Vasc Biol, (1988) 18: 1400-1407)。これらのデータは損傷による石灰化は強く阻害されなければならないことを示す。カルシウムの蓄積を妨げる医薬の導入は石灰化の遅延を補助するし、血管増殖過程の防止、抑制または治療を補助する。本発明の一つの態様において、ビタミンKの局所デリバリーはγ-カルボキシラーゼ(この場合Gla-タンパク質)の適切な時期の活性化によって脈管損傷と関連した石灰化効果を打ち消し、他のカルシウム結合タンパク質が適切に機能し、過剰のカルシウムを結合しないことを保証する(Hermann, S.M.ら、「ヒトマトリックスGla-タンパク質(MGP)遺伝子の多型性、血管石灰化および心筋梗塞症」“Polymorphisms of the human matrix Gla-Protein gene (MGP) vascular calcification and myocardial infarction”, Arterioscler Thromb Vasc Biol. (2000) 20: 2836-2893)。ビタミンKと他の抗増殖薬の混合物を使用しても良い。
【0019】
炎症反応を特徴とする急性応答は恒常性のかく乱を制限しようとする試みである。この炎症反応の顕著な特徴には、白血球蓄積、フィブリン沈着増大およびサイトカイン放出が含まれる。デキサメタゾンのような合成グルココルチコイドの添加はこの炎症性応答を減少させ、その結果、血管増殖過程を低下させることができる。抗増殖作用因子と合成グルココルチコイドの薬理学的作用機序は異なるので、異なる作用機序を有する作用因子が協同的に作用することを期待することができる。従って、2以上のこれらの作用因子を組み合わせることが有用であろう。
本発明は、水溶解度の低い抗血管増殖物質(例えばラパマイシン)の効果的な量を単独または他の抗増殖作用因子およびアジュバント共に血管外(例えば血管周辺)局所デリバリーすることによって新生内膜過形成を防止、抑制または治療する方法を提供する。
【0020】
一つの側面において、本発明は血管または移植片の外表面上に配置された、薬剤と組み合わせた再吸収性タンパク質マトリックスからなる人工装具である。本装置は次に平滑筋細胞増殖を阻害する薬剤(抗増殖剤)を溶出させる。そのような薬剤にはラパマイシン、パクリタキセル、タクロリムス、他の細胞周期阻害剤または同様に機能する作用因子が含まれる。適切な薬剤および/または添加物の混合物を使用することもできる。吸収性タンパク質マトリックスおよび抗増殖作用因子に加えて、本移植可能な人工装具は場合により、血管壁におけるコラーゲン蓄積を阻害する作用因子および血管壁の石灰化低減を補助する医薬を含む。
ラパマイシンは本発明に使用するために特に好ましい薬剤である。ラパマイシン(または他の薬剤)は外側から溶出し、脈管壁および/または移植片壁を通して静脈および/または動脈および/または移植片の内部へ拡散する。ラパマイシン(又は同様に作用する薬剤または類似の特性を有する薬剤)の、外側からの血管壁への、および血管壁を通した溶出は吻合部の治癒フェーズの際に起こり、薬剤はそのような治癒に伴う平滑筋細胞増殖を防止、抑制/阻害または治療する。従って、一つの側面において、本発明は外側から脈管内部への薬剤の漸次的溶出または一定時間後の放出、すなわち、血管外供給源を用いた経血管デリバリーによって、血管アクセス移植片またはシャントの吻合末端における血管増殖性応答を阻害する方法である。
【0021】
別の側面において、本発明は抗増殖作用因子吸収タンパク質内部層および、場合により外部支持体または骨格構造または外部層を含む人工装具である。一つの実施態様において、吸収タンパク質層はコラーゲンであり、外部骨格支持材料構造はPTFEのシートである。この実施態様において、抗増殖性薬剤は好ましくはラパマイシン、または他の同様に機能する薬剤である。
本発明の別の実施態様は、人工装具(上述)を移植片または血管構造物および/または吻合部の上に配置し、その人工装具を(縫合などによって)所望の部位に固着させることを含む、血液透析アクセス移植片の狭窄を阻止する方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
一つの側面において、本発明は、血管増殖を防止、抑制または治療し得る薬剤と併存する薬剤溶出マトリックスまたは作用因子溶出マトリックスを含む、薬剤または作用因子血管外デリバリーに適合した人工装具である。
マトリックス材料
マトリックスのための材料は天然起源であっても合成的に製造されたものでも、またはそれら2つの組み合わせであってもよい。本発明の装置は、コラーゲン、フィブリンまたはキトサンのような生体共存性、生分解性吸収性マトリックス材料を使用してもよい。適切な生体共存性、非生分解性マトリックスも使用できる。生分解性および非生分解性物質の組み合わせ、または2以上の生分解性物質の組み合わせ(例えば、コラーゲン+フィブリン)または2以上の非生分解性物質の組み合わせをマトリックする材料として選ぶこともできる。特定のマトリックス材料の選択において重要な要素は材料の多孔性および、適用可能な場合は、生分解速度が制御できることである。マトリックス材料の特性は重要である。なぜなら、この材料はデリバリー貯留所または貯蔵所を形成し、薬剤デリバリーのキネティックスを制御するからである。厚さ、多孔性、生分解速度等に関する特徴はマトリックス全体にわたって同一である必要はない。薬剤(例えば、抗増殖薬)からポリマーを形成することによって、マトリックスおよび薬剤を同一化し、ポリマーが分解するにつれ薬剤を放出することも考えられる。
コラーゲン(I型)は本発明の薬剤溶出スリーブ(sleeve)(袖状管)のマトリックス用の好ましい生体共存性、生分解性再吸収可能材料である。コラーゲンの供給源は動物またはヒトであってよく、または組換えDNA技術を用いて作製することができる。他の型のコラーゲン、例えば、II型、III型、V型、XI型は単独またはI型と組み合わせて使用することができる。シートまたは膜形態のコラーゲンマトリックスが本発明の好ましい実施態様であるが、他の形態のコラーゲン、例えば、ゲル、小繊維、スポンジ、管状のものも使用できる。よく知られたように、コラーゲンの吸収が起こる速度はこのタンパク質の架橋によって改変することができる。
【0023】
治療用作用因子
新生内膜過形成に支配的に寄与する平滑筋増殖性応答を防止、抑制または治療するために、顕著な抗血管増殖特性を有する治療用作用因子が本発明に使用されるだろう。現在知られているように、移植片機能不全につながる狭窄および管腔損傷の主たる要因となるのは平滑筋増殖であると考えられていることを理解しなければならない。本発明を動作させるためにこの機能不全機構を必要とすると解釈してはならない。言い換えれば、出願人は、本発明の範囲を狭める可能性のある、移植片機能不全のいかなる理論に縛られることも欲しない。顕著な抗増殖効果を有する薬剤の例には、ラパマイシン、パクリタキセル、他のタキサン、タクロリムス(tacrolimus)、アクチノマイシンD、アンジオペプチン、バセノイド(vassenoids)、フラボペリドール、エストロゲンのようなホルモン、ハロフギノン(halofuginone)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害因子、リボザイム、インターフェロンおよびアンチセンス化合物が含まれるがこれらに限定されない。親化合物の類似物、例えば、ラパマイシン、パクリタキセルおよびタクロリムスの類似体も使用することができる。他の治療作用因子の例には、抗炎症化合物、デキサメタゾンおよび他のステロイド、アスピリンを含む抗血小板作用因子、クロピドグレル、IIBIIIAアンタゴニスト、抗トロンビン、未分画および分画ヘパリンを含む抗凝血剤、スタチン(statins)、カルシウムチャンネル遮断薬、プロテアーゼ阻害剤、アルコール、ボツリンおよび遺伝物質が含まれる。血管細胞、骨髄細胞および幹細胞を使用することもできる。
【0024】
これらの作用因子は単独でまたは組み合わせてマトリックスと組み合わせることができる。治療作用因子に依存して、この作用因子は物理的、化学的および/または生物学的方法を用いてマトリックスと併存させることができる。複数の技術を組み合わせて使用することができる。薬剤濃度はマトリックス全体を通して同じである必要はない(しばしば同じではないであろう)。
薬剤のマトリックス材料(スリーブ)からの脈管壁へのおよび脈管壁を通しての溶出過程は薬剤デリバリーの一つの可能な過程を例示したものに過ぎない。例えば、薬剤は刺激を与えるまたは誘因することにより、例えば、光、温度変化、圧力、超音波-イオン化エネルギー、電磁場または磁場をかけることにより放出されても良い。また、薬剤はマトリックス中にプロドラッグまたは不活性形態として止まっても良い。上記で言及した刺激を与えると薬剤の活性型への転換を引き起こし、次に薬剤が放出される。この応用を例示すると、可視光または紫外光を与えることにより、ポルフィリンおよびソラレンが活性化され、それらが吸収または結合していたマトリックスから放出される。光を当てると薬剤の構造が変化し、薬剤とタンパク質貯蔵所または供給源との会合が破壊される。このように、本発明により、薬剤はマトリックスまたは貯蔵所から放出され、脈管壁へおよび脈管壁を通して脈管管腔へ溶出される。
【0025】
アジュバント
本発明の装置は場合により他の目的を達成する作用因子、たとえばコラーゲン蓄積を阻害し血管壁の石灰化低減を補助する作用因子を含む。Selyeらによる初期の研究により、局所的脈間損傷と石灰化加速との関係が示された。最近、ヒトにおける研究により、マトリックスGla-タンパク質(タンパク質-γ-カルボキシル化ビタミンK-依存性-γ-カルボキシラーゼ)が正常な血管平滑筋細胞および骨細胞によって構成的に発現されていることが示された。高レベルのGla-タンパク質mRNAおよび非γ-カルボキシル化タンパク質がアテローム性硬化症脈管組織で見いだされた。このγ-カルボキシル化タンパク質は血管石灰化を阻止または遅延させるために必要である(Price P.ら、“Warfarin causes rapid calcification of the elastic lamellae in rat arteries and heart valves”, Atheroscler Thromb. Vasc. Biol. (1998); 18:1400-1407)。これらのデータは、損傷によって引き起こされる石灰化は積極的に阻止されなければならないことを示す。カルシウム蓄積を阻止する医薬の導入は石灰化および再狭窄過程の遅延を補助する。本発明において、ビタミンKの局所デリバリーは、カルボキシラーゼ(この場合Gla-タンパク質)の時宜を得た放出により血管損傷にともなう石灰化効果を打ち消し、他のカルシウム結合タンパク質が適切に機能し過剰なカルシウムに結合しないことを保証する(Hermann S.M.ら、“Polymorphisms of the human matrix Gla-protein gene (MGP) vascular calcification and myocardial infarction”, Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. (2000);20:2836-93)。ビタミンKと他の抗増殖薬の混合物も使用することができる。
【0026】
炎症反応を特徴とする、損傷(この場合、外科的創傷)に対する急性応答は恒常性の撹乱を制限しようとするものである。この炎症反応の顕著な特徴には白血球蓄積、フィブリン沈着とサイトカイン放出の増加が含まれる。デキサメタゾンのような合成グルココルチコイドの添加はこの炎症性応答を低下させ、最後には再狭窄過程を低下させるであろう。抗増殖作用因子と合成グルココルチコイドの作用機序は異なるので、異なる抗狭窄作用機序を有する作用因子が協同的に作用することを期待することができる。従って、2以上のこれらの作用因子を組み合わせることは有用であろう。
他の多くの抗増殖薬または抗狭窄薬および他の適切な治療薬剤およびアジュバントは本開示を考慮すれば当業者には思い浮かぶであろう。
【0027】
スリーブの作製方法
上記開示を見れば、本人工装具を作製する可能ないくつかの方法およびその適用方法は当業者であれば思いつくであろう。
単独または単一層装置
本発明の好ましい実施態様において、タンパク質マトリックスはI型ウシコラーゲンのシートまたは膜であり薬剤はラパマイシンである。コラーゲンは生分解性および再吸収性という特性を有するので、本マトリックスのための特に好ましい例である。マトリックスの耐久性はコラーゲンの再吸収を完結するための時間を反映し、多孔性はコラーゲンマトリックスの薬剤結合容量に影響を与え、これらのいずれの特徴も制御可能であり変化させることができる。一例として、コラーゲンの比較的平坦なシートにラパマイシンを含浸させ、ラパマイシンを吸収させ、飽和させ、分散させまたはラパマイシンが固定化される。約120μg/cm2のラパマイシン(範囲:50μg−2mg/cm2)が0.3〜2.0mm厚のシート形態である乾燥形態のコラーゲンマトリックス材料と組み合わされる。薬剤と組み合わされたコラーゲンシート(スリーブ)は管(円筒)または他の幾何学形態に改変され、本来の脈間の外側、移植片吻合部および/または静脈、動脈の上または移植片自体の上に直接固定される。本装置は縫合またはステープルで固定することができる。縫合材料自体が抗血管増殖剤と併存していてもよい。この態様において、選ばれた抗増殖作用因子は脈管壁を通して透過し、膜からの薬剤溶離速度は変化させることができ、コラーゲンマトリックスが完全に再吸収されるまで持続させることができる。タクロリムス、パクリタキセル、他のタキサン、フラボペリドール、アンチセンス、パクリタキセル、ラパマイシンおよびタクロリムスの類似体および当業者によく知られた他のアジュバントを使用することができる。
【0028】
二層または二重層または多層装置
他の側面において、本発明は抗増殖剤-吸収内部マトリックス層および外部支持骨格構造または層を有する二重層人工装具である。この実施態様において、内部マトリックス材料はI型コラーゲンのシート又は膜であり外部骨格支持材料はPTFEのシートである。抗増殖剤はこの実施態様ではラパマイシンである。コラーゲンのシートは種々の技術、例えば、縫合糸、接着剤、ステープルを用いて物理的にPTFEシートに接着され、または両者は化学的に結合される。2つのシース複合物は次に丸められ管状構造またはその幾何学的変形物を形成する。次にこの複合装置またはスリーブは所望の部位(動脈、静脈、移植片吻合部位等)の上に適用できるように適切にトリミングされ、PTFEスリーブの自由な端は接着剤、縫合糸、ステープル等によって互いに接着される。これにより血管構造物または移植片の外側上で装置全体が安定化される。次に、薬剤が血管壁または補綴材料壁を透過して壁中で薬剤は平滑筋細胞増殖(移植片の外科的構築に伴う治癒応答の不可欠な部分)を阻止する。
【0029】
脈管表面外側または補綴表面外側への配置に続いて、一定時間後、生体はコラーゲンを吸収し、その外部支持骨格または構造を無傷で残す。当業者は、薬剤を吸収させるために選んだタンパク質層の体内吸収可能性は本発明の任意的な好ましい実践であることを理解するであろう。PTFEは生体吸収性でないので、薬剤が血管壁または移植片若しくは補綴材料壁を透過するに十分な時間、吸収可能タンパク質層を定位置に保持する傾向がある。薬剤溶出内部膜又はマトリックス材料の支持という価値以外にも、外層には他の潜在的利点が存在する。薬剤の所望の効果が平滑筋細胞増殖を阻害し得ることであるにせよ、良好な(強固な)外科的傷跡の形成に寄与するのはこの増殖性応答である。外科的吻合部位の脆弱な傷跡は移植片の破壊または動脈瘤形成につながり得る。外部PTFEを有することにより骨格が追加的補強層として予防的に機能し、脆弱な傷跡、移植片破壊および/または動脈瘤形成と関連した問題の処置に対処する。外部PTFE層は薬剤を脈管壁または移植片壁の外面と密接に並置させるために機能し、外周組織および皮膚への薬剤の拡散を制限する。また、人工装具の外部骨格または支持面は、それ自体が生分解性であり得ることは本発明の考慮範囲内である。従って、再吸収性内部薬剤溶出コラーゲン層と組み合わさった再吸収性外部骨格構造(2つの層は同一または異なる生分解速度および吸収速度を有している)は治癒血管構造物または移植片構造を生じさせ、手順後に外来性材料を残す必要が無い。当業者は、本開示を考慮すれば、種々の他の材料が本発明で使用できることを理解するであろう。例えば、ダクロン(Dacron)(登録商標)ポリエステルも外部支持構造のための適切な材料であり得る。
【0030】
本発明の更なる目的は、血管壁の外表面への装置自己固定である。最終段階においてコラーゲンがFITS(フルオレセインイソチオシアネート)またはベンガルローズ(どちらもシグマケミカル社、セントルイス、MO.、米国より)のような光反応性基と組み合わされる場合は、本装置は血管壁に対してより接着性にすることができる。紫外線によるこの装置の刺激は光反応性基を活性化させ接着性を増加させるであろう。フィブリン接着剤およびアセチル化コラーゲンは血管壁外側へのコラーゲンマトリックス材料の接着性を増加させることが分かっている。
本発明の別の実施態様は、人工装具(上述)を移植片または血管構造物の上、および/または吻合部に配置し、その人工装具を所望の部位に(例えば縫合により)固着させる方法を含む、血液透析アクセス移植片の狭窄を阻止する方法である。
【0031】
図1A、1B、2A、2Bは、本発明1の好ましい実施態様を図示したものである。図1A中で本発明の作用因子3(点描で示してある)をその中に分配又は分布させたマトリックス材料2の四角のシートを示してある。図1Bは、図1Aで示した発明の更なる実施態様を図示したものであり、孔4が薬剤含有マトリックス材料3、2中に形成されている。当業者であれば孔4の直径はこれを通過するどんな血管または移植片構造の外径に適応するようにも調節できるであろうことを理解するであろう。一実施態様において孔4の直径は6ミリメートルである。
図2Aおよび2Bは本発明の更なる実施態様を図示したものであり、外部支持体または骨格構造または手段5が採用されている。支持体5はマトリックス材料シート2が円筒状に丸められまたは巻かれる時にはシート2の外側にある。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびダクロンシートのような外部骨格手段は現在考えられる支持体材料のうちである。他の多くのそのような外部骨格支持手段が当業者には思いつけるであろう。示したように、図2Bは孔4(直径は変動し得る)が採用される本発明の実施態様を図示したものである。
【0032】
図3A、3Bおよび3Cはかみ合わせ連結設計を使用した本発明の実施態様を図示しており、四角の作用因子溶出シートまたはマトリックス材料の一端が反対側の端近くにかみ合わされる。より具体的には、図3Aは、作用因子3(点描で示してある)を配置または分布させた四角のマトリックス材料2を示す。図3Aに図示したシート上には作用因子-含有マトリックス材料の一端7にほぼ隣接して配置された一連のv-型ノッチ6も図示されている。反対側の端8上のノッチ6と協同するのは一連の突起9である。突起9は矢尻型をしている。しかしながら、明らかに、突起9と溝6の他の組み合わせも本発明では考慮される。従って、本発明のスリーブ態様の組立は端8を端7へ巻き込み(図3Bに示してある)、突起9を溝6へ挿入することを含む。図3Cに示したように、突起9は溝6へ管状構造の内側から差し込まれており、このことは突起9の先端10がこの構造体の内側から外側へ突き出すことを意味する。示したように突起9の縁11はv-型溝6と協同してこの平坦な構造体を円筒状の血管サイズのスリーブ12へと固定する。血管スリーブ12は更に管腔14の範囲を規定する。管腔14はスリーブ12の内部表面がスリーブ12が付着する血管構造物の外部表面に接触するように血管のサイズを有する。このような様式で、薬剤または作用因子-溶出、血管サイズのスリーブは本発明を使用すべき血管構造物の上およびその周囲に配置される。
【0033】
図4Aおよび4Bは本発明の第2のかみ合わせ型態様を図示したものである。この実施態様では、本発明のストリップ(条片)形態が使用される。薬剤または作用因子溶出スリーブ16は伸長した作用因子-溶出マトリックス材料17(単独または外部指示手段と一緒、示さず)を含む。マトリックス材料17には互いに反対側の端に位置する2つのロック18が設けられている。ロック18と協同して窓19が働き、スリーブ16が作用すべき血管構造物に対しておよびその外側に配置されるようにロック18が窓19に挿入される。図4Bに示したように、ロック18は窓19に内側から外側へ挿入される。別の実施態様において、ロック18は窓19へスリーブ構造の外側から内側へ挿入してもよい。図4Aには2つのシャント接触翼または弁21を備えた代表的なシャント開口部20も示してある。
図5は、本発明の別の実施態様を図示したものであり、外部ワイヤー支持手段または骨組み手段が採用されている。外部ワイヤー骨組み20は本発明の好ましい実施態様、すなわち、脈管24の周囲に配置されたPTFEおよび薬剤-被覆コラーゲン材料22の周囲を囲む。
【0034】
図6-13は種々の動脈-静脈フィステルを図示したものである。本発明の薬剤溶出スリーブまたはマトリックス材料26が種々のフィステル32の周囲に移植され、これを包み、または配置されることがいくつかの図に示されている。これらの図のそれぞれにおいて、静脈構造物は28として示され、動脈構造物は30と示されている。矢印34は血流の方向を図示したものである。
図10-13は、本発明の更なる実施態様を図示したものであり、移植片36、例えばPTFE移植片が本発明と共に使用されている。図13に示されるように、移植片36はそれ自体薬剤または作用因子36(点描で示してある)を含むマトリックス材料を含んでいても良い。
本スリーブのさらなる応用には、薬剤供給源または薬剤貯蔵所としての内部薬剤-吸収タンパク質層の使用が含まれる。この応用例では、選択した薬剤は補充、例えば、スリーブを針で刺し、そこに追加の薬剤をデリバリーする、または、薬剤のための貯蔵場所をスリーブ内部に形成しそこから薬剤を漸次的に溶出させることにより定期的に補充することができる。
【0035】
本発明の種々の態様を以下に示す。
(1)抗増殖効果量の抗増殖作用因子を血管外局所投与する工程を含む、血管構造物における血管増殖性疾病の予防または治療方法。
(2)作用因子がラパマイシンを含む、(1)記載の方法。
(3)抗増殖作用因子が血管周囲に投与される、(1)に記載の方法。
(4)血管外局所投与が、移植可能な、抗増殖作用因子溶出性、血管周囲血管スリーブによって達成され、前記スリーブが前記作用因子を吸収したマトリックス材料を含むことを特徴とする、(1)記載の方法。
(5)スリーブが実質的に血管周囲に配置される、(4)記載の方法。
(6)マトリックス材料がフィブリンを含む、(4)記載の方法。
(7)作用因子がラパマイシン及びヘパリンを含む、(4)記載の方法。
(8)マトリックス材料がコラーゲンを含む、(4)記載の方法。
(9)マトリックス材料がキトサンを含む、(4)記載の方法。
(10)血管構造物の外側に接触させて配置するために適合させた移植可能な、抗増殖作用因子投与用血管周囲スリーブであって、
a)柔軟な、円筒状の、生体吸収性の作用因子−溶出マトリックス材料を含み、実質的に前記材料の中を通る血管サイズの管腔を有し、
b)前記マトリックス材料中に抗増殖作用因子が分散されている、
前記スリーブ。
(11)更に、マトリックス材料の外側付近に前記マトリックス材料を取り囲むように配置された支持手段を含む、(10)記載のスリーブ。
(12)抗増殖作用因子の抗増殖効果量を血管透析アクセス部位に血管外局所的投与することを含む、血管透析アクセス部位における血管増殖性疾病を治療する方法。
(13)抗増殖作用因子の抗増殖効果量を血管構造物に血管外局所的投与することを含む、血管構造物における血管増殖性応答を抑制する方法。
(14)抗平滑筋細胞(SMC)作用因子の抗SMC効果量を血管構造物に血管外局所的投与することを含む、血管構造物におけるSMC過増殖を治療する方法。
(15)血管構造物が血管透析アクセス部位である、(13)記載の方法。
(16)血管構造物が血管移植片である、(13)記載の方法。
(17)血管構造物が移植片吻合部位である、(13)記載の方法。
(18)血管構造物が静脈である、(13)記載の方法。
(19)血管構造物が静脈導管または吻合部位である、(13)記載の方法。
(20)血管増殖性応答またはSMC過増殖を防止、抑制または治療する作用因子を血管外局所投与することによって血管透析アクセス部位の機能不全を防止または遅延させる方法。
(21)血管透析アクセス部位の機能不全の態様が、血栓形成、感染、異物拒絶反応、管腔狭小化または吻合部の閉塞、静脈、動脈または補綴導管の狭小化若しくは閉塞からなる群より選ばれる、(20)記載の方法。
(22)作用因子の血管外局所投与が、アクセス部位に接触して配置された薬剤溶出スリーブからの薬剤デリバリーによって達成される、(20)に記載の方法。
(23)縫合、ステープル止め、接着または自己噛み合わせ機構からなる群より選ばれる固定技術によってスリーブがアクセス部位に接触して配置される、(22)記載の方法。
(24)過増殖性血管疾病の防止、抑制または治療に使用される作用因子が、ラパマイシン、ラパマイシン類似体、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、他のタキサン、タクロリムス、タクロリムス類似体、アクチノマイシンD、デキサメタゾン、ステロイド、分画ヘパリン、未分画ヘパリン、メタロプロテイナーゼ阻害因子、フラボペリドール、ヒト自家性、他家性の血管、骨髄細胞、他の細胞、幹細胞、遺伝的に改変されたヒト細胞、IIBIIIAアンタゴニスト、および抗生物質からなる群より選ばれる、(20)記載の方法。
(25)スリーブが生分解性の天然ポリマーまたは生分解性の合成ポリマーから作製される(22)記載の方法。
(26)スリーブがI型コラーゲンから作製される(22)記載の方法。
(27)スリーブがフィブリンを含む(22)記載の方法。
(28)スリーブがキトサンを含む(22)記載の方法。
(29)スリーブが生分解性物質を含む(22)記載の方法。
(30)スリーブが非生分解性物質を含む(22)記載の方法。
(31)飽和、分散および固定化からなる群より選ばれる技術を用いて薬剤をスリーブ材料と組み合わせる(22)記載の方法。
(32)薬剤溶出スリーブをアクセス部位に固定するために使用する縫合糸が抗増殖薬で被覆されている、(23)に記載の方法。
(33)血管透析血管アクセス部位の機能不全を防止または遅延させるための薬剤局所投与用の装置。
(34)薬剤と併存して形成され、らせん形態に形成されたコラーゲンマトリックス材料を含む(33)記載の装置。
(35)噛み合わせ構造を有する請求項34記載の装置。
(36)1以上の抗増殖薬と併存する血管移植片を含む装置。
【0036】
以下の実施例は本装置および抗増殖薬および他の治療薬剤デリバリーのためのマトリックスを調製する方法を例示するために記載するものである。これらの実施例は例示目的で記載されるものであり、限定を意図したものでない
【実施例1】
【0037】
実施例1.種々の抗増殖作用因子の阻害効果
予め作製されたコラーゲンマトリックスを種々の抗増殖薬溶液中に完全に飽和されるまで置いた。抗増殖薬は、コラゲナーゼおよびエラスターゼ酵素を阻害することなく平滑筋細胞および線維芽細胞を阻害することのできるより活性な化合物を代表するように選んだ。(コラゲナーゼおよびエラスターゼは酵素的にコラーゲン蓄積−狭窄の一つの原因−を阻害する)。コラーゲンマトリックスは、これらの化合物で濃度25 μg/mlにて飽和させ、凍結乾燥し、0.066Mリン酸緩衝液(pH 7.4)で37℃にて24時間洗滌し、約5 μg/cm2の化合物密度を有するディスク形態に切断した。洗滌後、直径15mmの滅菌ディスクを24ウェル培養皿に入れ、細胞を5000/cm2の密度で播種した。5日後、細胞数を測定し、小分けした培地で酵素活性を発色基質加水分解及び分光測光法により評価した。これらのデータを表1に示した。
【0038】
このin vitro比較テストにおいて、テストした作用因子の中でパクリタキセルおよびラパマイシンが同様な効果を示した。
【実施例2】
【0039】
実施例2.種々の型のマトリックスのラパマイシン結合容量
次のin vitro研究において、種々の型のマトリックスのラパマイシン結合能を調べた。予め作製された(BioMend, Sulzer Calcitek, IncまたはBiopatch,Ethicon Inc, コラーゲン-アルギン酸塩を含む)ラパマイシンを含むコラーゲンマトリックスをラパマイシン初期濃度250 μg/mlで実施例1に記載したように調製した。予め作製されたキトサン(Almin, C. Chunlin, H., Julinag, Bら、“Antibiotic loaded chitosann bar. In vitro , invivo study of a possible treatment for osteomyelitis”, Clin Orthp pp. 239-247 (1999年9月)に記載された方法を用いた)およびフィブリンマトリックス(実施例5に記載した技術を用いた)を250 μg/mlラパマイシンのDMSO溶液に入れて完全に飽和させた。溶媒を蒸発させた後、薬剤を含むマトリックスを0.066Mリン酸緩衝液(pH 7.4)で37℃にて24時間洗滌した。
マトリックスの容量を比較するため、同じ厚さの1.88cm2マトリックス表面に装荷させた蛍光ラパマイシン誘導体を使用した。0.14M NaCl溶液でインキュベーションした後、残存ラパマイシンをジメチルスルホキシド(DMSO)で抽出し、蛍光分光法を用いて収量を測定した。これらのデータを表2に示す。
【0040】
【0041】
予想したように、タンパク質マトリックスの容量はキトサンマトリックスよりも高いことが分かり、フィブリンまたはコラーゲンの抗増殖薬デリバリーのための治療用マトリックスとしての有用性は特定の組み合わせまたは追加の構成成分に依存するか、またはマトリックスが長寿命であることの必要性に依存し得る。
【実施例3】
【0042】
実施例3.リポソームを用いたデリバリー系
リポソームは薬剤デリバリー系の1形態を代表するものであり、生物学的に活性な物質の制御放出を提供する。リポソームは特に水溶性薬剤のための医薬製剤に使用される。ラパマイシンは典型的な例である。リポソーム封じ込めは投与した薬剤の薬理動態および組織分布に対してかなりの効果を有することが示されている。テストした処方には、グリセリルジラウレート(Sigma Chemicals, St Louis, MO)、コレステロール(Sigma Chemicals, St Louis, MO)およびポリオキシレン-10-ステアリル(Sigma Chemicals, St Louis, MO)質量比56:12:32から構成される非イオン性リポソーム製剤(処方1)またはイソプロピルミリステート(Sigma Chemicals, St Louis, MO)およびミネラル油(Sigma Chemicals, St Louis, MO)を含む非イオン性40%水性アルコール水中油リポソーム乳濁液(処方2)が含まれる。ラパマイシンは各処方物中に、ジメチルスルホキシドまたはイソプロパノール中濃度250 μg/mlにて取り込まれており、形成されたリポソームを予め作製されたコラーゲンシートの表面に塗布してラパマイシンを最大表面濃度にした。サンプルを0.066Mのリン酸緩衝液(pH 7.4)で37℃にて24時間洗滌した。マトリックスの容量を比較するため、1.88cm2マトリックス表面に装荷させた蛍光ラパマイシン誘導体を使用した。0.14M NaCl溶液でインキュベーションした後、残存ラパマイシンを有するマトリックスをジメチルスルホキシド(DMSO)で抽出し、蛍光収量を測定した。
【0043】
【0044】
リポソームデリバリー系はラパマイシン結合能において飽和コラーゲンマトリックスを有意に上回る利点を有していない。しかしながら、リポソームアプローチは他の抗増殖薬については有用かも知れない。
【実施例4】
【0045】
実施例4.ラミネートコラーゲンフィルム
ざらつきのある、表面中性化、ラミネートコラーゲンフィルムを調製するために不溶性繊維状コラーゲン等張懸濁液を取得した。濃度5〜18%(好ましくは12%)の冷却した3リットルのコラーゲン懸濁液を一晩0.3-0.6M酢酸(好ましくは0.52M)中4℃にて膨潤させた。膨潤した懸濁液を3リットルの破砕した氷で10-20分間(好ましくは12分間)ブレンダー中で分散させ、その後Ultra-Turrax(Alfa、Sweden)中で30分間ホモゲナイズした。得られたスラリーをフィルターホルダー(Millipore)に設置した孔サイズが250 μmから20 μmへ減少する一連のフィルター(Cellector, Bellco, UK)でろ過した。0.04-0.09mbar(好ましくは0.06mbar)にて脱気後、スラリーを2リットルの冷却0.1-0.05M NaOHと混合し、最終pHを7.4±0.3に調製した。中和懸濁液はマトリックス形成前4−6℃にて数時間だけ保存することができる。この中和懸濁液はラパマイシン含有マトリックスの飽和形態または分散形態調製の基礎として役立つ。中和スラリーは室温にて平らな疎水性表面上で直接3mm厚の湿潤フィルムとして成型することができる。およそ60-70 μm厚の乾燥フィルムが形成される。3〜5mlのスラリーで10cm2の領域を覆う。そのような表面の上にいくつかの層が形成され得る。これらの層はコラーゲンフィルムをラパマイシン、タキソールの溶液またはこれらの組合せ中に浸漬することによる抗増殖作用因子の飽和形態を調製するための基礎として機能する。中和スラリーおよびラパマイシンまたは他の作用因子を懸濁液中で同時に組み合わせることは、活性成分分散形態フィルムの調製のために利用することができる。
【0046】
マトリックス材料の調製において重要な要素はこの装置が形成される元となるタンパク質担体の多孔性である。多孔性は乾燥速度、温度および開始コラーゲンの特性によって制御することができる。多孔性は、薬剤放出のキネティクスを制御するので重要である。マトリックスはラパマイシン(分子量914.2)のような小さな分子に結合するに充分に多孔性であることが望ましく、装置の形態を維持するに充分に耐久性があることが望ましい。有効孔サイズ0.002から0.1ミクロンを有するコラーゲンマトリックスのサンプルをテストした。より高い結合能(飽和実験においてラパマイシンに結合する能力)は、孔サイズ0.004ミクロンを有するマトリックスで観察された。加えて、より大きな孔サイズを有するコラーゲンマトリックスは脆弱である。抗増殖作用因子へのマトリックスの結合能はこの応用性にとって重要であるので、3つの異なる濃度のラパマイシンを使用して、最適孔密度で調製された商業的に入手可能なコラーゲンからラパマイシン-コラーゲンマトリックス結合物を調製した。3種の異なる濃度には、高、中、低と標識し、それぞれ、120±5 μg/cm2、60±4 μg/cm2、および30±3 μg/cm2とした。これらのどのマトリックスも脆弱でなく、非均一ラパマイシン分布を有してはいなかった。異なる密度により薬剤放出のキネティクスを制御できる。
【実施例5】
【0047】
実施例5.抗増殖作用因子と組み合わせた移植可能フィブリンマトリックス装置
一般に、抗増殖作用因子を装荷されたフィブリンマトリックスに基づく装置を作製するために、水性フィブリノーゲンおよびトロンビン溶液を以下に記載したように調製する。市販のフィブリノーゲンはシグマ、米国赤十字のような業者から入手することができ、また、よく知られた技術により血漿から調製することができる。あるいは、組換え法によって調製されたフィブリノーゲンは使用に適している。市販の活性トロンビンはシグマまたはジョンソン&ジョンソンからトロンビン、局所USP、トロンボーゲンとして入手できる。マトリックスを調製するために使用するフィブリノーゲン及びトロンビン溶液を作製するために、必要な構成成分を測り、質量を計り、約900mlの脱イオン水に溶解する。表4および5は、マトリックスを予備作製するためのフィブリノーゲンおよびトロンビン溶液を調製するために使用する好ましい組成をそれぞれ開示する。
表4中のグリセロールは可塑剤として使用している。他の可塑剤であっても本発明に適しているであろう。TrisバッファーはpH調製のために使用する。Trisの代わりに適切なものとしては、HEPES、トリシンおよびpKaが6.8〜8.3の他のバッファーが含まれる。Triton-Xは非イオン性界面活性剤であり安定化剤であり、他の界面活性剤および安定化剤で置き換えることができる。カプリル酸は、変性からの保護を与える他の作用因子、例えばアルギン酸、で置換することができる。
【0048】
【0049】
【0050】
フィブリンに変換されるフィブリノーゲンは、柔軟性、孔サイズ、および線維質量密度のようなマトリックスの材料特性を制御するものであるので、マトリックス中で最も重要な試薬である。これらの特徴は他の分子がマトリックス内部でどのくらい容易に拡散するか、および、マトリックスが吸収されるまでにどのくらい長く維持されるかを決定する。
表5において、アルブミンはトロンビンの安定化剤である。トロンビンはフィブリンマトリックス形成の速度を制御する。第XIII因子の存在は好ましいが、必要ではない。第XIII因子は、フィブリンを共有結合的に架橋し、マトリックスをより安定にする。カルシウムイオンはトロンビンの活性化に必要である。トログリトゾン(Troglitozone)(三共、日本)はチアゾリジオン誘導体であり、血管壁におけるコラーゲン蓄積を減少させる。(Yao L、Mizushige K, Murakami Kら、Troglitozone decreases collagen accumulation in prediabetic stage of a type II diabetic rat mode (トロリトゾンはII型糖尿病ラットモデルの前糖尿病段階におけるコラーゲン蓄積を減少させる)、Heart 2000:84:209-210)。
【0051】
次の構成成分を添加する前に各構成成分を完全に溶解することが好ましい。必要であれば、最後の構成成分を溶解した後に、pHを7.0-7.4に調製し、溶液の体積を水で1リットルに調整する。この溶液を次に脱気する。両溶液を混合チャンバーを通してポンプで非固着性、好ましくは疎水性表面に配分し、およそ2mm厚のフィルムを形成する。次にこのフィルムを約20℃〜60℃の範囲の温度、約30Torr(約4kPa)の圧力にて3〜6時間乾燥させる。フィルムの残存湿分は総湿潤質量の約10%、好ましくは3%未満である。
この乾燥表面に乾燥固体ラパマイシンを添加してフィルム1cm2あたり100から500 gの密度とする。薬剤が2つのフィブリン層の間にサンドウィッチにされるようにこの表面にフィブリンマトリックスの第2の層を形成する。
本発明の一つの態様において、抗狭窄効果を増強するために、ラパマイシンまたはタキソールのような抗増殖作用因子および/または抗狭窄作用因子、ラパマイシンまたはタクロリムスのような抗拒絶薬、抗炎症薬および/またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを添加しても良い。これらの固体物質は上述のフィブリン-ラパマイシンサンドウィッチ複合体を補うために添加されるであろう。
【実施例6】
【0052】
実施例6.キトサンマトリックスを架橋する方法
抗増殖薬に対するキトサンマトリックスの結合能を増大させるため、繊維の架橋を利用する。濃度10%から25%(好ましくは12%)の冷却した50mlのキトサン懸濁液を5〜25mlのアクリル酸クロルアンヒドリドと30分間緩やかにゆっくりと混合してこのポリマーをアセチル化した。この時間後、250 μg/mlのラパマイシンのDMSO溶液を添加し、激しく混合し、自己架橋および結合ラパマイシン形成のためにキトサンマトリックス表面へ注いだ。キトサンの微小多孔性構造のために、このアプローチによりマトリックスの結合容量を15%から45%へ増加させることができる。
【実施例7】
【0053】
実施例7.分散、固定化および固定化−分散によるラパマイシンのコラーゲンマトリックスへの取り込み
飽和させる技術とは別に、3つの異なる方法(分散、固定化、および固定化-分散)によりラパマイシンをコラーゲンマトリックスに取り込んだ。
分散技術:
水不溶性コラーゲンの水性スラリーを、エラスチン・プロダクト社(Elastin Product)(Owensville、MO)から入手した非架橋、乾燥、高純度、凍結乾燥仔ウシ皮膚コラーゲンを用いて調製した。このコラーゲンおよび可溶化バッファーを2〜8℃の温度、好ましくは4℃の温度に冷却し、激しく撹拌して10〜21%(好ましくは12%)のコラーゲンタンパク質を含むコラーゲンスラリーを調製する。このようなスラリーは9%の可塑剤、グリセロール、15%の250 μg/mlのラパマイシンDMSO溶液および水を含む。この溶液は50,000cps(50Pa・s)の粘度を有していた。ラパマイシンと混合後、直ちに8%グルタルアルデヒドをスラリーに添加する(スラリー1リットルあたり100-350ml)。水性スラリーは均一にし、脱気しなければならず、pHは6.0-7.1に調製する。溶液を定常的に激しく混合し、ポンプで非固着性表面に分散させおよそ2mm厚のフィルムを形成させる。全ての手順は4℃の温度にて行う。次にフィルムを45℃付近の温度にて15Torr(2kPa)の圧力で残存湿分が総質量の約10%未満になるまで約3〜7時間乾燥させる。薬剤溶液塗布および乾燥工程をさらに3回繰り返す。
【0054】
II)固定化技術
Elastin Product社の同じコラーゲン調製物を使用する。一体積の12%コラーゲンを冷却し、抗増殖薬のエステル化によりラパマイシンと共役させる。エステル化は0.9M N-ヒドロキシスクシンイミド(Pierce Biochemical, Rockfold, IL)により、0.9M N-ジシクロヘキシロカルボジイミド(Pierce Biochemical, Rockfold, IL)の存在下で2〜4℃にて2日間行う。結合物は、撹拌コラーゲン懸濁液の表面下、反応のpHを7.0〜8.5(好ましくは7.8)に維持して、DMSO中、ラパマイシンの活性N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを滴定することによって調製する。乾燥後、結合ラパマイシンを有するフィルムを0.02M炭酸水素ナトリウムを含む0.15M NaClで洗滌する。HPLCによりマトリックス中に遊離のラパマイシンがないことが明らかにされる。ラパマイシンエステルはアミノ酸残基のアミノ基またはヒドロキシル基と反応してコラーゲンと共有結合架橋を形成する。そのような固定化の後、ラパマイシンはマトリックスのin vivoまたはin vitro分解−腐蝕の結果として放出される。Nakanoらはアカゲザルにおいて、6ヶ月間の自然代謝過程によるコラーゲン(SM-10500)分解および再吸収について述べている(参考文献:Nakano M, Nakayama Y, Kohda Aら:Acute subcutaneous toxicity of SM-10500 in rats(ラットにおけるSM-10500の急性皮下毒性)、Kiso to Rinsho (Clinical Report) 1995; 29:1675-1699)。
【0055】
マトリックスからのラパマイシン放出速度を調べるため、サンプルを0.066Mのリン酸バッファー(pH7.4)により、37℃にて24時間洗滌し、1.88cm2の面積を有するディスク形態に切断し、0.14M NaCl、0.05M Trisバッファー、0.5%アルブミン、0.1mg/mlコラゲナーゼ、pH7.0、を含む24ウェルの培養皿に入れる。コラゲナーゼはコラーゲンマトリックスの腐蝕を増加させ、ラパマイシンの放出を容易にするために添加する。種々の時間間隔でウェルから一部を集める。
分散形態と結合形態の組合せも調製する。これらのすべての形態においてラパマイシンの含量は5.0 μg/cm2である。サンプルをウェルに入れ血清を含む1mlの溶出培地を入れる。1時間毎に少量を採取する。
ラパマイシンの含量はFerronらの方法(Ferron GM, Conway WDとJusko WJ., Lipohilic benzamide and anilide derivatives as high-performance liquid chromatography internal standard: application to sirolimus (rapamycin) determination [高性能液体クロマトグラフィーの内部標準としての疎水性ベンザミド及びアニリド:シロリムス(ラパマイシン)測定への応用]、J Chromatogr. B. Biomed Sci. Appl. 1997;Dec703:243-251)に従って測定する。これらの測定はバッチアッセイを用いて行い、従って0ml/分の流速における放出を表す。結果は表6に示し、図14に図示される(抗増殖薬の濃度は μg/mlで表してある)。
【0056】
これらのデータは薬剤の異なる吸収形態および異なる溶解度を有する薬剤は別個のキネティクスを有することを示す。比較的可溶性のテトラサイクリンの場合、遊離の塩基によるコラーゲンマトリックスの飽和後、放出のピークは短時間に起こり、一方溶解度がより低いラパマイシンについてはこのピークは数時間遅延する。in vitro実験において、ゲンタマイシン、セフォタキシン、テトラサイクリンまたはクリンダマイシンのような可溶性抗生物質で飽和されたコラーゲンはこれらの抗生物質を効果的な濃度で4日間デリバリーすることが示されている[Wachol-Drewek Z, Pfeifer M, Scholl E. “Comparative investigation of drug delivery of collagen implants saturated in antibiotic solution and sponge containing gentamicin”(抗生物質溶液で飽和させたコラーゲンインプラントとゲンタマイシン含有スポンジの薬剤デリバリーの比較研究)Biomaterials 1996; 17:1733-1738]。
【0057】
他の研究室においても、in vivoにおいて3 μg/gの濃度でゲンタマイシンで飽和させ、筋肉組織に移植したコラーゲンは28日間にわたって抗生物質を血液中にデリバリーし得ることが示された。しかしながら濃度は最適よりも低かった(Mehta S, Humphrey JS, Schenkman DIら、“Gentamycin distribution from a collagen carrier”(コラーゲン担体からのゲンタマイシン分配)、J. Orthop. Res. 1996; 14:749-754)。血管周囲腔におけるコラゲナーゼの濃度の低さおよび血管周辺流の低さ(僅かに一日数ml)を知れば、ラパマイシンで飽和させたマトリックス材料が、数週間の間、抗増殖薬をSMC増殖進行を防止しこれと対抗するために効果的な局所的濃度に維持するであろうin vivoデリバリーキネティクスを生じさせるかも知れないことが理論付けられる。SMCに対する阻害濃度は0.001〜0.005 μg/ml培地の範囲であろう。このようなレベルはin vitroにおいて3週間の間満たされ、またはこれを上回る。さらに、コラーゲンマトリックスに分散されたラパマイシンは1ヶ月またはそれ以上の間抗増殖効果を示し得る。最後に、結合および組合せ形態はマトリックスの完全な腐蝕まで治療を支持することができる。
【0058】
【実施例8】
【0059】
実施例8.ラパマイシン−コラーゲンマトリックスにおけるラパマイシンの生物学的活性
ラパマイシンとコラーゲンの組合せを評価する際の最も重要なパラメータは平滑筋細胞(SMC)増殖阻害である。このパラメータを評価するため、SMCを細胞密度5000細胞/cm2で対照培養組織表面および試験マトリックス表面上へ播種する(表7)。細胞増殖曲線を図15に示す。
アクチノマイシンDは薬剤マトリックスから迅速に溶出し、短時間の間だけ細胞増殖を抑制する。培地の交換により可溶性アクチノマイシンは除去され、数回の洗滌後、培地またはマトリックス中には抗生物質は存在しない。その結果、細胞は通常通り増殖を開始する。ラパマイシンはゆっくり漸次的に放出されるので、細胞増殖抑制は観察期間を通して持続した。
【0060】
【実施例9】
【0061】
実施例9
抗増殖作用因子(単独または組合せ)と組合せた2種の異なる型のマトリックス、コラーゲンおよびフィブリン、をビタミンKと共に種々の割合で細胞培養培地に添加する。細胞を同じ密度で播種し、第5日に生存細胞数をアラバマブルーアッセイによって測定する。データを表8に示す。
【0062】
【実施例10】
【0063】
実施例10.コラーゲンマトリックスと組み合わせたラパマイシンおよびヘパリンの組合せの抗増殖効果
マトリックス内で組み合わせた種々の構成成分の抗増殖効果は相乗効果を示し得る。分散ラパマイシン、可溶性および固定化ヘパリンの組合せを使用する。ヘパリンの固定化のため、5mlの冷却したヘパリン溶液(濃度1mg/ml〜10mg/ml、好ましくは5mg/ml)を5〜20ml(好ましくは11.4ml)のアクリル酸クロルアンヒドリドとおよそ1分あたり1μl(好ましくは分あたり2.5 μl)の速度で混合する。添加後、混合物を温度4〜8℃にて30分間撹拌する。ヘパリン化コラーゲンをリン酸緩衝生理食塩水pH7.4で充分に洗滌する。エオジンAを用いた比色アッセイを用いてマトリックス上に固定されたヘパリンの濃度を決定する。この方法を用いて、0.01mg/cm2〜0.1mg/cm2がマトリックスに共有結合される。
【0064】
ラパマイシンと組合せたこのような配合物は、1:100の割合で懸濁液形態で培地に添加した場合SMC増殖に阻害的効果があるが、個々の形態は効果が低い;ヘパリン単独については1:25、分散ラパマイシンについては1:65。これらのそれぞれの薬剤は異なる機序によって再狭窄を阻止することができる。従って、組み合わせて使用した場合相乗効果を期待することは理にかなっている。ヘパリンは抗増殖剤と組み合わせて飽和形態マトリックスにも使用することができる。
【実施例11】
【0065】
実施例11
ラパマイシン(または他の抗増殖作用因子)と組み合わせたデキサメタゾンの局所的徐放性デリバリーを用いて狭窄及び炎症反応を同時に阻止することができる。20%(質量/質量)コラーゲンスラリーを調製し、これに2%(質量/質量)デキサメタゾン懸濁液を添加する。この混合物をプラスチックフィルム上にスプレーしてフィルムを形成させる。このフィルムの最終厚は1.92から2.14mmまで変動した(平均2mm)。このシートは柔軟で機械的に安定である。マトリックス(コラーゲン+ラパマイシン)からのデキサメタゾン溶出のキネティクスをin vitro系で解析した。直径15mmのシートをウェル内に入れ、2.5mlのリン酸バッファー溶液に浸漬した。1から7日間にわたるいくつかの時点で、溶出バッファーの一部中のデキサメタゾン濃度を分光測光法によって測定した。シート形成工程、乾燥保存工程および溶出工程におけるデキサメタゾンの化学的安定性をHPLCによって確認した。デキサメタゾンの累積的in vitro溶出を表9に示す。
50%を越えるデキサメタゾン溶出が最初の3日間に起こり、6日後には溶出曲線は横ばい状態になる。デキサメタゾンは重篤な炎症応答を防止することができ、この効果はこの期間内に最大となりラパマイシンと相乗的に働き再狭窄を低下させることができる。デキサメタゾン溶出ステントと対照的に、血管周辺デリバリーは内皮細胞再生を阻害せず、線維芽細胞および平滑筋細胞に直接作用する。
【0066】
【実施例12】
【0067】
実施例12.
マクロ多孔性およびミクロ多孔性の組合せは本装置の容量を増加させ得る。コラーゲンおよびフィブリンマトリックスを混合してそのような組合せを得た。加えて、コラーゲンの優れた機械的特性はフィブリンの安定性を改善した。フィブリン-ラパマイシン装荷マトリックスを調製するために(150μg/cm2のラパマイシン密度)、表4及び5に示した組成物を使用した。フィブリンの第1の乾燥層形成後、コラーゲン、ラパマイシンおよびヘパリンの第2の層を実施例4に記載したように形成させた(ラパマイシン密度128μg/cm2、ヘパリン密度5000U/cm2)。医薬を装荷したコラーゲンフィブリンシース(厚さ2mm)を管状構造物として形成し、高濃度の(25%)グルタルアルデヒドを1分間用いて外部架橋した。乾燥後、図4に示したらせん形態スリーブを調製した。このスリーブを10回平面状にしたが、らせん形態は各場合に回復した。最終スリーブのラパマイシン容量は143μg/cm2であった。in vitroヘパリン溶出は7日間継続した。
【0068】
ヘパリン濃度は実施例10のように測定した。希釈用のバッファーはそれぞれの日に補充した。データを表10に示す。
SMC増殖を阻害するための効果的なヘパリン濃度は100u/mlの範囲であることが知られている。本実施例において、ヘパリンは少なくとも4日間SMC増殖を有意に阻害することができる。加えて、スリーブからのヘパリンの拡散はシャントの内表面における血栓発生および血管壁損傷を長期にわたって防止することができる。なお、可溶性ヘパリンは、マトリックスの機械的特性を変化させることなく20,000単位/cm2まで増加させることができる。従って、抗平滑筋細胞増殖効果および抗血栓効果を長期間作用させることができる。
【0069】
【実施例13】
【0070】
実施例13および14:ラパマイシン、タクロリムスおよびパクリタキセルのヒト平滑筋細胞および内皮細胞に対するin vitro効果の比較
ヒト平滑筋細胞および内皮細胞(Clonetics、USA)(100,000細胞)を24ウェルプレートに一晩播種した。どちらの型の細胞もOPTI-MEM(Gibco, Long Island NY)および5%ウシ胎児血清中で37℃にて5%CO2および95%大気中で増殖及び維持した。細胞をある濃度範囲(10〜100nM)のラパマイシン、パクリタキセル(0.1〜10mM)およびタクロリムス(10〜100nM)に曝露した。それぞれの型の細胞を24時間増殖させ、最後の4時間は[3H]-チミジン存在下で増殖させた。細胞の増殖は新たなDNA合成として3H-チミジン取り込みアッセイを用いて定量した。72時間の培養後、細胞を冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗滌し、1mlのメタノールをそれぞれのウェルに添加し、プレートを4℃にて60分間維持し、次に細胞を冷PBSで一度洗滌し、500μlの0.2m NaOHを各ウェルに添加し、プレートを4℃にて30分間維持した。各ウェルの内容物をシンチレーションバイアルに移し、液体シンチレーションを添加して、液体シンチレーション計測器を用いて放射活性を定量し、結果を1分あたりの計測数として表した。
結果を表11および表12に示した。それぞれ、図16および17に対応する。ラパマイシンおよびパクリタキセルはヒト平滑筋細胞および内皮細胞の増殖(新たなDNA合成)のいずれも阻害する。タクロリムスはヒト平滑筋細胞の新たなDNA合成を優先的に阻害し、内皮細胞にはあまり作用しないようである。この異なる効果は、タクロリムスを平滑筋細胞増殖阻害に使用する場合には、極めて重要となるであろうし、有益に利用できるであろう。
【0071】
【0072】
【0073】
動物における研究
原理的研究の証明をブタモデルを用いて行った。全部で6匹を研究した。2匹は対照として用い、4匹を処置した。6mm PTFE血管移植片を一方の側の頸動脈と反対側の頸静脈の間に吻合させた。これにより、ヒトの血液透析アクセスループと構築上類似した動脈-静脈(AV)ループが形成された。ラパマイシンの分かっている用量(およそ500μg/cm2)を併存させたコラーゲンスリーブを治療群の静脈吻合部の直ぐ近くのPTFE血管移植片の遠位末端付近に配置した。
30日後、脈管および移植片の開存性を明らかにするために血管造影を行った。動物を麻酔し、関連する素片を切開した。ラパマイシンの細胞周期進行に対する阻害効果はサイクリン阻害因子の誘導によるものと考えられている。従って、p21の発現はラパマイシン処置動物から得られた組織において増加するであろうが、対照動物からの組織ではそうでないであろう。言い換えれば、p21の存在は、観察された効果がラパマイシンに帰属するものであることの確認となる。処置動物および未処置動物から組織を採取し、RNAを調製し、cDNAに逆転写し、これをハウスキーピング遺伝子、βアクチンおよびp21に関してPCRにより増幅した。
【0074】
結果
どちらの対照動物も静脈吻合部において重篤な新生内膜過形成によって生じた管腔狭小化を起こしていた(図18(A)および19(A))。処置した全ての4匹の動物は静脈および移植片の顕著に高い管腔開存性を示し、新生内膜過形成はごく僅かまたは存在しなかった(図18(B)および19(B))。p21 mRNA発現はラパマイシン処置動物(図20)から得られた吻合周辺部の静脈組織に観察されたが対照動物からの組織には見られなかった。このことは、スリーブマトリックスに含まれるラパマイシンは新生内膜過形成(血管増殖性応答の発現)の低減/事実上の消滅の原因であり、ラパマイシンによって誘導された細胞増殖阻害を通して媒介される効果であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1A、1Bは本発明の好ましい実施態様を図示したものである。
【図2】図2Aおよび2Bは、本発明の別の実施態様を図示したものであり、外部支持体または骨格構造が採用されている。
【図3】図3A-Cは本発明の自己かみ合わせ連結態様を図示したものである。
【図4】本発明の別の自己かみ合わせ連結設計の例である。
【図5】スリーブの形状の維持を補助する外部ワイヤー支持体または枠組みを含む、図1A-1B/2A-2Bに示した基本装置を示す。
【図6】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図7】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図8】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図9】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図10】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図11】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図12】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図13】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図14】テトラサイクリンおよびラパマイシンで飽和させたコラーゲンの放出速度を示す。ラパマイシンは4種の異なる形式(方法)を用いてコラーゲンマトリックスと併存させた。Y軸上の数値はμg/mlで表した薬剤濃度を示す。A=テトラサイクリンで飽和させたコラーゲン;B=ラパマイシンで飽和させたコラーゲン;C=コラーゲンに分散させたラパマイシン;D=ラパマイシンを結合させたコラーゲン;E=分散ラパマイシン及び結合ラパマイシン形態の組合せ。
【図15】種々の抗増殖作用因子を結合させたコラーゲンマトリックスを用いた平滑筋細胞の増殖阻害の比較。Y軸上の数値は細胞数を表す。A=対照;B=コラーゲン+アクチノマイシンD;C=コラーゲン+ラパマイシン。
【図16】3用量のラパマイシン、タクロリムスおよびパクリタキセルのヒト平滑筋細胞に対する効果の比較。
【図17】3用量のラパマイシン、タクロリムスおよびパクリタキセルのヒト内皮細胞に対する効果の比較。
【図18】図18(A)、18(B)は本発明によって得られた結果のいくつかを示す。
【図19】図19(A)、19(B)は本発明によって得られた結果のいくつかを示す。
【図20】本発明によって得られた結果のいくつかを示す。
【技術分野】
【0001】
血液透析血管アクセス(到達手段)及び他の血管移植片の機能不全は、元々の脈管(静脈または動脈)の内腔の損傷または血管吻合部位またはそこから離れた部位における補綴導管管腔の損傷として明らかになってくる。管腔の損傷は狭窄または閉塞として現れ、それは管腔内血栓および/または血管増殖応答の結果である。移植片機能不全の原因は種々の物理的(例えば、血行力学的障害を生じさせる剪断力ストレス)、化学的および/または生物学的刺激および感染、および異物拒絶と関連づけることができ、このことは、PTFE移植片の介入を含む血管アクセス移植片に比較して異物(例えば、この場合、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)を含まないフィステルが長期間開存性である理由を説明できるかもしれない。
本発明は一般に、血液透析用血管アクセスおよび他の血管移植片の機能不全を予防、抑制(阻止)または治療するための治療用インプラント、装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管アクセス移植片、特に血液透析アクセス移植片はこの分野でよく知られたものである。合衆国においておよそ100,000の血管アクセス処置が毎年行われている。血液透析血管アクセスはいくつかのやり方の一つとして構築することができる:動脈と静脈をつなぐフィステル(例えば、Brecisa-Cimino)、または動脈と静脈の間に挿入した補綴(例えばPTFE)または生体組織(例えば静脈)移植片。このような移植片は、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような適切な生体共存性のある本質的に不活性な管状または円筒状素片から構成される。実際、PTFEは補綴透析アクセスに使用される最も一般的な材料である。一つのアプローチでは、PTFEの素片は腕、前腕または腿の動脈と静脈の間に外科的に挿入される。そうすると、血液透析を行うために繰返し血管に進入するために移植片を利用できるようになる。
【0003】
アクセス移植片の設置に続いて動脈および静脈の縫合部は治癒される。通常、毎年これらの移植片の60%は静脈側の末端で狭くなる(狭窄)ために機能しなくなる。同様な病変は動脈循環流に置かれたPTFE移植片にも発生し、影響を受ける移植片の遠位末端について同様な傾向が見られる。冠動脈バイパス移植手術または末梢血管手術(例えば、大動脈-腸骨、大腿部-大腿部、大腿部-膝窩、腿部-脛骨)に使用される静脈移植片および/または他の移植導管の機能不全または障害はよく知られている。動脈アクセス移植片狭窄の発達は静脈側末端におけるアクセス移植片狭窄の発達ほど速くはない。平滑筋細胞の増殖及び遊走は静脈および隣接する移植片開口部における脈管内膜過形成を生じさせ、透析アクセス狭窄として記述される。移植片における狭窄は次第に重篤となるので、移植片は機能不全となり血液透析は最適でなくなる。移植片中の狭窄が治療されなければ、最後には閉塞を起こし移植片機能不全となる。
【0004】
アクセス移植片の静脈末端がそのような顕著な狭小化傾向を示す理由は多くの要因からなる。この位置に特有の特徴には、動脈圧および動脈流への曝露、血管壁および周辺組織における音響(振動)エネルギーの消失、移植片の反復穿刺、および処理された血液のインフュージョンが含まれる。加えて、移植片の静脈側末端は血液が透析チューブを通る際、または針を刺した部位における血小板活性化の際に放出される有糸分裂促進因子を浴びるかもしれない。
狭窄PTFE移植片の移植片-静脈吻合から再検討手術の際に収集された組織サンプルは顕著な管腔狭小化を示し、(i)平滑筋細胞の存在、(ii)細胞外マトリックスの蓄積、(iii)新生内膜および外膜内部の血管形成、および(iv)PTFE移植片材料を裏打ちする活性マクロファージ層の存在という特徴を示した。血小板由来成長因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)のような多種のサイトカインおよび細胞増殖刺激因子が静脈新生内膜内の平滑筋細胞/筋線維芽細胞、PTFE移植片の両側に張り付いたマクロファージ、および新生内膜および外膜内の血管によって発現されていた。マクロファージ、特定のサイトカイン(bFGF、PDGF、およびVEGF)、並びに新生内膜および外膜における血管新生は、PTFE透析移植片における血管増殖性応答の症状発現である静脈新生内膜過形成(VNH)の病因に寄与していると思われる。
【0005】
慢性腎不全の患者の生存は、規則正しい最適な透析の実施に依存する。それが可能でない場合(例えば、血管アクセスの機能異常または機能不全の結果)、臨床症状が急速に悪化し、その状態が回復できないと患者達は死亡するであろう。血管アクセスの機能異常は合衆国において透析集団におけるもっと重要な罹患率および入院の原因であり、毎年およそ10億米ドルと見積られる費用がかかっている。狭窄及び続く血栓によって特徴づけられる静脈新生内膜過形成は、PTFE透析移植片機能不全を生じさせる病因の圧倒的大部分である。この問題の大きさおよび費用の膨大さにもかかわらず、現在のところPTFE透析移植片における静脈新生内膜過形成の予防及び処置に対する効果的な療法がない。従って、特異的メディエーターおよび過程に照準を定めた介入は、血管アクセス機能異常に関する極めて重要な人的および経済的コストを低減することに成功し得るであろう。
【0006】
狭窄が生じてしまった場合、現在の治療法の一つには、バルーン血管形成のような非外科的、経皮カテーテルに基づいた治療方法により狭小化を低減または除去し、移植片を通過する血流を回復させること(充分な血液透析の実施を可能とする)が含まれる。バルーン血管形成は、一つの形態において、閉塞部位におけるバルーンカテーテルの展開、および、バルーンを膨らませて拘束(restriction)を生じさせている物質を脈管壁の内側に押しつけ脈管の最小管腔直径(MLD)を増加させ、それにより脈管を膨張させることを含む。拘束の長さと重篤度に依存して、この手順は(バルーンを膨らませ、しぼませることにより)数回繰り返して良い。完了したならば、バルーンカテーテルは系から引き抜かれる。
【0007】
バルーン血管形成は「スタンドアローン」手順として使用することができるが、しばしばいわゆるステントと呼ばれるものの使用を伴う。ステントとは、機械的反動を防止し、もとの拘束部における再狭小化(再狭窄)の機会を低下させるために血管内に配置される展開可能な足場または支持装置である。ステントは、「バルーン−展開性」でも「自己展開性」でもよく、血管内に配置された場合、血管内壁に接触する。ステントが配置されてもされなくても、この治療形態は失敗する危険性、すなわち、処置部位における際狭小化(再狭窄)の危険性が非常に高い。アクセス移植片内部の狭窄を効果的かつ永久的に処置することができない限り、移植片機能不全が起こり易い。移植片機能不全の場合、患者は血管内処置、すなわち、非外科的、カテーテルベースの経皮処置、反復血管手術、例えば血栓摘出を受けて、移植片から血餅を取り除くか、別の血管アクセス移植片または(しばしばこう呼ばれるが)シャントを別の部位に配置しなければならず、そうでなければ患者は腎移植を受けなければならない。反復手術の明白な諸問題および移植の限られた利用性を考慮すれば、透析移植片狭窄の防止および治療において効果的で長期間続く(永続性のある)処置法に対する需要が存在する。
【0008】
血管増殖性応答(再狭窄の病理学的原因と考えられている)を低減または防止するための現行のアプローチの大多数は、血管または移植片管腔内部に起源を有する治療オプションに基づいている。現行の新しいアプローチは、薬剤被覆または薬剤含浸ステントを使用するもので、このステントは血管管腔内に配置される。ステントを被覆するための薬剤の例にはワイス・アイェルスト社(Wyeth Ayerst)から商業的に入手可能なラパマイシン(Rapamycin)(シロリムス(Sirolimus)(登録商標))、および、ブリストル-マイヤースクイッブ社から商業的に入手可能なパクリタキセル(Paclitaxel)(タキソール(Taxol)(登録商標))が含まれる。このステントに基づくアプローチにおいて、ラパマイシンまたはパクリタキセルはステントから次第に溶出され、血管壁を内膜(血管壁の最内層)から外膜(血管壁の最外層)へと拡散する。研究により、ラパマイシン及びパクリタキセルは平滑筋細胞増殖を阻害する傾向があることが示された。
抗増殖特性をも有する抗凝血剤、例えばヘパリン、と共に合成マトリックス材料(エチレン-ビニル酢酸コポリマー、EVA)を用いた血管周囲または血管外空間から動脈または血管壁を通したデリバリーも示唆されている。このアプローチには2つの欠点がある:ヘパリンは可溶性物質であり、血管壁から迅速に消失し、エチレン-ビニル酢酸コポリマーは生分解性でなくin vivoで長期間の効果について不安が生じるであろう。
【0009】
マトリックス材料を基礎にした系を用いて治療薬剤が局所的にデリバリーされる場合、このマトリックス材料は好ましくは以下の特徴を有していなければならない:
1.マトリクス材料は充分な量の治療作用因子の装荷を可能としなければならない。
2.マトリックス材料は適切な所定の速度で治療作用因子を溶出させなければならない。
3.マトリックス材料は好ましくは移植可能で生分解性でなければならない。従って、受容者の組織からのマトリックス材料の物理的除去は必要でなく残存マトリックスの長期効果に関する心配は回避される。
4.マトリックス材料もその生分解生成物も有意な炎症性または増殖性組織応答を引き起こしてはならず、受容者の本来の防御系または治癒を変化させまたは妨害してはならない。
5.本装置(マトリックス材料および薬剤を含む)は血管構造物の輪郭に成型するに充分に可撓性でなければならない。
6.本装置は配置された場所に固定されやすく、意図しない場所に移動することが防止されなければならない。
【0010】
移植可能な装置との関係において薬剤デリバリーに使用されるポリマーマトリックス材料は天然のものでも合成物であっても良い。その例には、ポリグリコール酸またはポリヒドロキシブチレート、EVAのような化学物質からなるポリマー、またはコラーゲン、フィブリンまたはキトサンのような多糖類が含まれるが、これらに限られない。しかしながら、これらのマトリックスの全てが理想的というわけではない;適切でない性質には、貧弱な機械的特性、潜在的免疫原性および費用が含まれる。加えて、あるものは毒性分解物を生じさせ炎症性反応または増殖性応答を生じさせるかも知れない。
薬剤デリバリーのためのよく知られた生体共存性、生分解性、再吸収性マトリックス材料はコラーゲンである。生分解性医療装置作製の材料としてのコラーゲンの使用は重要な研究であり、これまでもそうであった。米国、6,323,184、6,206,931;4,164,559;4,409,332;6,162,247。現行の焦点の一つには、抗生物質および成長因子のような生理学的に活性なタンパク質及びペプチドを含む医薬のデリバリーが含まれる。
【0011】
走査型電子顕微鏡下で、コラーゲンマトリックスは模様のある表面と幅のある孔サイズを有する薄板状の密なフィルムの形態を有している。コラーゲンマトリックスは0.001ミクロンから100ミクロンまで広範囲の効果的な孔サイズを有するように作製することが出来る。この内部孔ネットワーク(多孔性材料)は大きな表面積を形成し、治療薬剤の貯蔵およびデリバリーのための微小貯蔵所として働く。いくつかの特徴によりコラーゲンは薬剤デリバリーのための優れた理想的なマトリックス材料である。コラーゲンは高度な柔軟性および機械的耐久性を示し、本来的に水湿潤性、半透性および一定の流動特性を示す。より重要なことに、コラーゲンは天然に存在する物質であり生分解性で、かつ非毒性である。加えて、コラーゲンは好ましい生分解特性を有し、完全な分解又は吸収の時間、すなわち薬剤デリバリーのためのコラーゲンマトリックスの持続性を改変することができる。
【0012】
薬剤デリバリーのために適切な第2のタンパク質マトリックス材料はフィブリンである。フィブリンマトリックスは、トロンビン-改変フィブリノーゲン分子の網状ネットワークである架橋フィブリン単位からなっている。このマトリックスは天然の血餅に類似している。天然の血餅と対照的にフィブリンマトリックスの孔サイズは制御可能であり、0.001ミリミクロンから0.004ミリミクロンまで可変である(いわゆるミクロ細孔)。コラーゲンマトリックスとフィブリンマトリックスの孔サイズの相違により、別個の薬剤放出速度を有するように治療薬剤と組み合わせることが可能になる。滲出を制御できるということ、配置された場所にしっかり固定されて維持されること、本来的に生分解性であること全てによりフィブリンは薬剤デリバリーのための優れてマトリックス材料となり、フィブリンは合成マトリックスにくらべて利点を有する。マトリックスとしてのフィブリンの初期における応用の大部分は抗生物質及び他の生物学的製剤デリバリーのためであった。
【0013】
フィブリンマトリックスは乾燥顆粒形態で調製される(PCT/EP99/08128参照)。この製剤はHyQ Solvelopment, Buhylmhle社(ドイツ)、によって製造されており、D-マンニトール、D-ソルビット、フィブリノーゲン水性溶液およびトロンビン-有機懸濁液を含む。この製剤は流動床顆粒化によって製造される。乾燥フィブリンの応用は多様である:創傷密閉、治癒促進および恒常性。しかしながら、そのような製剤は血管壁周辺にて固体粒子の標的指向性成形が許されず正確な投与量のデリバリーが困難であるので、薬剤デリバリーへの応用は限定されている。乾燥フィブリンの多孔性および吸収能は低く、物理的安定性が乏しい。
有用な吸収性、天然ポリマーマトリックス材料の別のグループはキトサンである。キトサンは、有用な生体共存性アミノ多糖であり、局所デリバリーのための作用因子の制御放出用の有用なマトリックスであることが分かっている。キトサンインプラントは全身性および局所性副作用または免疫応答を生じさせず適切に生分解性である。キトサンは高温の水酸化ナトリウム加水分解を用いたキチン(分子量1x106)の分子量5x105への分解によって調製することができる。多孔性を制御できないことがこのマトリックス材料の欠点である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明により、血液透析用血管アクセスおよび他の血管移植片の機能不全を予防、抑制(阻止)または治療するための治療用インプラント、装置および方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、少なくとも以下の2つの点で特徴的である:1)血管増殖性応答(平滑筋細胞過増殖、再狭窄、血管閉塞)を防止、抑制または治療する現行の方法の大部分はそれを血管(すなわち、静脈および/または動脈)管腔または移植片管腔の内側から行うのに対し、本発明は血管外または血管周辺から行う、すなわち血管管腔または移植片管腔の外から、かつ血管壁を通して行う方法である。2)現行の治療アプローチは全て狭小化または狭窄が実際に生じた後にのみ関係している。本発明は、一つの態様において、血管増殖疾病を治癒させるのとは対照的に、防止または抑制する方法である。
【0016】
更なる態様において、本発明は血管または移植片外表面に配置され、ラパマイシン、パクリタキセル、タクロリムスのような抗-血管増殖薬剤または作用因子および他の細胞周期阻害因子または同様に機能する作用因子を溶出させる、移植可能な人工装具(prosthetic device)である。吸収性マトリックス材料、例えばタンパク質、および抗増殖作用因子に加えて、この移植可能な装置は場合により血管壁の中膜および外膜におけるコラーゲン蓄積を阻害する作用因子および血管壁の石灰化低減を補助する医薬を含む。本発明は、新生内膜過形成(血管増殖性応答の発現)および石灰化を、水溶解度の低い抗増殖作用因子を単独またはアジュバントおよび他の抗増殖作用因子と共に血管外デリバリーすることによって防止または治療する方法を提供する。ラパマイシンは抗増殖特性を有する、本発明に使用するために特に好ましい薬剤である。適切な薬剤の混合物を使用することもできる。ラパマイシンは血管壁および/または移植片壁の外からこれらを通って静脈および/または動脈および/または移植片の内部へ拡散する。ラパマイシン(および、抗増殖効果を有する他の薬剤)の外部からの血管壁内へのおよび血管壁を通した溶出は装置が移植された後直ぐに開始し、この薬剤は血液透析移植片および他の血管移植片内および/またはそれらの吻合部位における平滑筋細胞増殖を阻害するであろう。したがって、一つの側面において、本発明は、血管アクセス部位脈管壁の外側から脈管内部へ、すなわち、血管外または血管周辺デリバリーにより薬剤を漸次的または一定時間後に溶出することにより、血管アクセス移植片またはシャントにおける平滑筋細胞増殖を阻害する方法である。
【0017】
本発明の別の側面は円筒状、抗増殖性薬剤吸収タンパク質内部層を含み、場合により外部支持体または骨格構造または層を含む人工装具である。一つの実施態様において、吸収タンパク質層はコラーゲンであり、外部骨格支持構造はPTFEのシートである。この実施態様において、抗増殖薬は好ましくはラパマイシンである。パクリタキセル(またはタキソール)は本発明の実施態様に非常に適した別の抗増殖薬または作用因子である。
本発明の第3の実施態様は、人工装具(上述)を移植片または血管構造物および/または吻合部の上に配置し、その人工装具を所望の部位に(例えば、縫合することにより)固着させることを含む、血液透析アクセス移植片の狭窄を阻止する方法である。
本発明の装置はコラーゲン、フィブリンまたはキトサンのような生体共存性マトリックス材料を採用することができる。特定のマトリックス材料の選択において重要な要素は材料の多孔性および生分解速度の制御性である。マトリックス材料の使用は、デリバリー貯蔵器を形成し薬剤デリバリーキネティクスを制御するので重要である。
本発明の好ましい装置はラパマイシンを吸収させたコラーゲンマトリックス材料を含み、この薬剤を血管外デリバリーする位置に配置されるであろう。
好ましい実施態様において、約120μg/cm2のラパマイシン(範囲:50μgから10mg/cm2)が乾燥状態での厚さが0.3〜2.0mmのコラーゲンマトリックス材料シートと組み合わされ、次にこれが血管壁若しくは移植片壁の上に移植されまたは血管壁若しくは移植片壁が包み込まれる。
【0018】
本発明のさらなる側面は、血管壁または移植片壁の外表面へ薬剤または作用因子をデリバリーする装置の「自己固定」である。最終段階でコラーゲンがFITS(フルオレセインイソチオシアネート)またはベンガルローズ(どちらもシグマケミカルス社(Sigma Chemicals)、セントルイス、MO)のような光反応性基と組み合わされるのであれば、コラーゲン-装置は、より接着性にすることができる。この装置を紫外線で刺激すると、これらの光反応性基が活性化され、接着性が増加するであろう。フィブリン接合剤およびアセチル化コラーゲンもコラーゲンマトリックス材料の外側血管壁に対する接着性を増加させることが分かっている。
初期の研究において、局所的脈管傷害と石灰化加速との関係が示されている。最近、ヒトにおける研究によりマトリックスGla-タンパク質(タンパク質−γ-カルボキシル化ビタミンK-依存性γ-カルボキシラーゼ)は正常な血管平滑筋細胞及び骨細胞により構成的に発現されていることが示された。高レベルのGla-タンパク質mRNAおよび非γ-カルボキシル化タンパク質がアテローム硬化性脈管組織に見られた。このγ-カルボキシル化タンパク質は血管石灰化の防止またはその開始を遅延させるために必要である(Price, P.ら、「ワルファリンはラット動脈および心弁において弾性ラメラの急速な石灰化を引き起こす」“Warfarin causes rapid calcification of the elastic lamellae in rat arteries and heart valves”, Atheroscler Thromb Vasc Biol, (1988) 18: 1400-1407)。これらのデータは損傷による石灰化は強く阻害されなければならないことを示す。カルシウムの蓄積を妨げる医薬の導入は石灰化の遅延を補助するし、血管増殖過程の防止、抑制または治療を補助する。本発明の一つの態様において、ビタミンKの局所デリバリーはγ-カルボキシラーゼ(この場合Gla-タンパク質)の適切な時期の活性化によって脈管損傷と関連した石灰化効果を打ち消し、他のカルシウム結合タンパク質が適切に機能し、過剰のカルシウムを結合しないことを保証する(Hermann, S.M.ら、「ヒトマトリックスGla-タンパク質(MGP)遺伝子の多型性、血管石灰化および心筋梗塞症」“Polymorphisms of the human matrix Gla-Protein gene (MGP) vascular calcification and myocardial infarction”, Arterioscler Thromb Vasc Biol. (2000) 20: 2836-2893)。ビタミンKと他の抗増殖薬の混合物を使用しても良い。
【0019】
炎症反応を特徴とする急性応答は恒常性のかく乱を制限しようとする試みである。この炎症反応の顕著な特徴には、白血球蓄積、フィブリン沈着増大およびサイトカイン放出が含まれる。デキサメタゾンのような合成グルココルチコイドの添加はこの炎症性応答を減少させ、その結果、血管増殖過程を低下させることができる。抗増殖作用因子と合成グルココルチコイドの薬理学的作用機序は異なるので、異なる作用機序を有する作用因子が協同的に作用することを期待することができる。従って、2以上のこれらの作用因子を組み合わせることが有用であろう。
本発明は、水溶解度の低い抗血管増殖物質(例えばラパマイシン)の効果的な量を単独または他の抗増殖作用因子およびアジュバント共に血管外(例えば血管周辺)局所デリバリーすることによって新生内膜過形成を防止、抑制または治療する方法を提供する。
【0020】
一つの側面において、本発明は血管または移植片の外表面上に配置された、薬剤と組み合わせた再吸収性タンパク質マトリックスからなる人工装具である。本装置は次に平滑筋細胞増殖を阻害する薬剤(抗増殖剤)を溶出させる。そのような薬剤にはラパマイシン、パクリタキセル、タクロリムス、他の細胞周期阻害剤または同様に機能する作用因子が含まれる。適切な薬剤および/または添加物の混合物を使用することもできる。吸収性タンパク質マトリックスおよび抗増殖作用因子に加えて、本移植可能な人工装具は場合により、血管壁におけるコラーゲン蓄積を阻害する作用因子および血管壁の石灰化低減を補助する医薬を含む。
ラパマイシンは本発明に使用するために特に好ましい薬剤である。ラパマイシン(または他の薬剤)は外側から溶出し、脈管壁および/または移植片壁を通して静脈および/または動脈および/または移植片の内部へ拡散する。ラパマイシン(又は同様に作用する薬剤または類似の特性を有する薬剤)の、外側からの血管壁への、および血管壁を通した溶出は吻合部の治癒フェーズの際に起こり、薬剤はそのような治癒に伴う平滑筋細胞増殖を防止、抑制/阻害または治療する。従って、一つの側面において、本発明は外側から脈管内部への薬剤の漸次的溶出または一定時間後の放出、すなわち、血管外供給源を用いた経血管デリバリーによって、血管アクセス移植片またはシャントの吻合末端における血管増殖性応答を阻害する方法である。
【0021】
別の側面において、本発明は抗増殖作用因子吸収タンパク質内部層および、場合により外部支持体または骨格構造または外部層を含む人工装具である。一つの実施態様において、吸収タンパク質層はコラーゲンであり、外部骨格支持材料構造はPTFEのシートである。この実施態様において、抗増殖性薬剤は好ましくはラパマイシン、または他の同様に機能する薬剤である。
本発明の別の実施態様は、人工装具(上述)を移植片または血管構造物および/または吻合部の上に配置し、その人工装具を(縫合などによって)所望の部位に固着させることを含む、血液透析アクセス移植片の狭窄を阻止する方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
一つの側面において、本発明は、血管増殖を防止、抑制または治療し得る薬剤と併存する薬剤溶出マトリックスまたは作用因子溶出マトリックスを含む、薬剤または作用因子血管外デリバリーに適合した人工装具である。
マトリックス材料
マトリックスのための材料は天然起源であっても合成的に製造されたものでも、またはそれら2つの組み合わせであってもよい。本発明の装置は、コラーゲン、フィブリンまたはキトサンのような生体共存性、生分解性吸収性マトリックス材料を使用してもよい。適切な生体共存性、非生分解性マトリックスも使用できる。生分解性および非生分解性物質の組み合わせ、または2以上の生分解性物質の組み合わせ(例えば、コラーゲン+フィブリン)または2以上の非生分解性物質の組み合わせをマトリックする材料として選ぶこともできる。特定のマトリックス材料の選択において重要な要素は材料の多孔性および、適用可能な場合は、生分解速度が制御できることである。マトリックス材料の特性は重要である。なぜなら、この材料はデリバリー貯留所または貯蔵所を形成し、薬剤デリバリーのキネティックスを制御するからである。厚さ、多孔性、生分解速度等に関する特徴はマトリックス全体にわたって同一である必要はない。薬剤(例えば、抗増殖薬)からポリマーを形成することによって、マトリックスおよび薬剤を同一化し、ポリマーが分解するにつれ薬剤を放出することも考えられる。
コラーゲン(I型)は本発明の薬剤溶出スリーブ(sleeve)(袖状管)のマトリックス用の好ましい生体共存性、生分解性再吸収可能材料である。コラーゲンの供給源は動物またはヒトであってよく、または組換えDNA技術を用いて作製することができる。他の型のコラーゲン、例えば、II型、III型、V型、XI型は単独またはI型と組み合わせて使用することができる。シートまたは膜形態のコラーゲンマトリックスが本発明の好ましい実施態様であるが、他の形態のコラーゲン、例えば、ゲル、小繊維、スポンジ、管状のものも使用できる。よく知られたように、コラーゲンの吸収が起こる速度はこのタンパク質の架橋によって改変することができる。
【0023】
治療用作用因子
新生内膜過形成に支配的に寄与する平滑筋増殖性応答を防止、抑制または治療するために、顕著な抗血管増殖特性を有する治療用作用因子が本発明に使用されるだろう。現在知られているように、移植片機能不全につながる狭窄および管腔損傷の主たる要因となるのは平滑筋増殖であると考えられていることを理解しなければならない。本発明を動作させるためにこの機能不全機構を必要とすると解釈してはならない。言い換えれば、出願人は、本発明の範囲を狭める可能性のある、移植片機能不全のいかなる理論に縛られることも欲しない。顕著な抗増殖効果を有する薬剤の例には、ラパマイシン、パクリタキセル、他のタキサン、タクロリムス(tacrolimus)、アクチノマイシンD、アンジオペプチン、バセノイド(vassenoids)、フラボペリドール、エストロゲンのようなホルモン、ハロフギノン(halofuginone)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害因子、リボザイム、インターフェロンおよびアンチセンス化合物が含まれるがこれらに限定されない。親化合物の類似物、例えば、ラパマイシン、パクリタキセルおよびタクロリムスの類似体も使用することができる。他の治療作用因子の例には、抗炎症化合物、デキサメタゾンおよび他のステロイド、アスピリンを含む抗血小板作用因子、クロピドグレル、IIBIIIAアンタゴニスト、抗トロンビン、未分画および分画ヘパリンを含む抗凝血剤、スタチン(statins)、カルシウムチャンネル遮断薬、プロテアーゼ阻害剤、アルコール、ボツリンおよび遺伝物質が含まれる。血管細胞、骨髄細胞および幹細胞を使用することもできる。
【0024】
これらの作用因子は単独でまたは組み合わせてマトリックスと組み合わせることができる。治療作用因子に依存して、この作用因子は物理的、化学的および/または生物学的方法を用いてマトリックスと併存させることができる。複数の技術を組み合わせて使用することができる。薬剤濃度はマトリックス全体を通して同じである必要はない(しばしば同じではないであろう)。
薬剤のマトリックス材料(スリーブ)からの脈管壁へのおよび脈管壁を通しての溶出過程は薬剤デリバリーの一つの可能な過程を例示したものに過ぎない。例えば、薬剤は刺激を与えるまたは誘因することにより、例えば、光、温度変化、圧力、超音波-イオン化エネルギー、電磁場または磁場をかけることにより放出されても良い。また、薬剤はマトリックス中にプロドラッグまたは不活性形態として止まっても良い。上記で言及した刺激を与えると薬剤の活性型への転換を引き起こし、次に薬剤が放出される。この応用を例示すると、可視光または紫外光を与えることにより、ポルフィリンおよびソラレンが活性化され、それらが吸収または結合していたマトリックスから放出される。光を当てると薬剤の構造が変化し、薬剤とタンパク質貯蔵所または供給源との会合が破壊される。このように、本発明により、薬剤はマトリックスまたは貯蔵所から放出され、脈管壁へおよび脈管壁を通して脈管管腔へ溶出される。
【0025】
アジュバント
本発明の装置は場合により他の目的を達成する作用因子、たとえばコラーゲン蓄積を阻害し血管壁の石灰化低減を補助する作用因子を含む。Selyeらによる初期の研究により、局所的脈間損傷と石灰化加速との関係が示された。最近、ヒトにおける研究により、マトリックスGla-タンパク質(タンパク質-γ-カルボキシル化ビタミンK-依存性-γ-カルボキシラーゼ)が正常な血管平滑筋細胞および骨細胞によって構成的に発現されていることが示された。高レベルのGla-タンパク質mRNAおよび非γ-カルボキシル化タンパク質がアテローム性硬化症脈管組織で見いだされた。このγ-カルボキシル化タンパク質は血管石灰化を阻止または遅延させるために必要である(Price P.ら、“Warfarin causes rapid calcification of the elastic lamellae in rat arteries and heart valves”, Atheroscler Thromb. Vasc. Biol. (1998); 18:1400-1407)。これらのデータは、損傷によって引き起こされる石灰化は積極的に阻止されなければならないことを示す。カルシウム蓄積を阻止する医薬の導入は石灰化および再狭窄過程の遅延を補助する。本発明において、ビタミンKの局所デリバリーは、カルボキシラーゼ(この場合Gla-タンパク質)の時宜を得た放出により血管損傷にともなう石灰化効果を打ち消し、他のカルシウム結合タンパク質が適切に機能し過剰なカルシウムに結合しないことを保証する(Hermann S.M.ら、“Polymorphisms of the human matrix Gla-protein gene (MGP) vascular calcification and myocardial infarction”, Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. (2000);20:2836-93)。ビタミンKと他の抗増殖薬の混合物も使用することができる。
【0026】
炎症反応を特徴とする、損傷(この場合、外科的創傷)に対する急性応答は恒常性の撹乱を制限しようとするものである。この炎症反応の顕著な特徴には白血球蓄積、フィブリン沈着とサイトカイン放出の増加が含まれる。デキサメタゾンのような合成グルココルチコイドの添加はこの炎症性応答を低下させ、最後には再狭窄過程を低下させるであろう。抗増殖作用因子と合成グルココルチコイドの作用機序は異なるので、異なる抗狭窄作用機序を有する作用因子が協同的に作用することを期待することができる。従って、2以上のこれらの作用因子を組み合わせることは有用であろう。
他の多くの抗増殖薬または抗狭窄薬および他の適切な治療薬剤およびアジュバントは本開示を考慮すれば当業者には思い浮かぶであろう。
【0027】
スリーブの作製方法
上記開示を見れば、本人工装具を作製する可能ないくつかの方法およびその適用方法は当業者であれば思いつくであろう。
単独または単一層装置
本発明の好ましい実施態様において、タンパク質マトリックスはI型ウシコラーゲンのシートまたは膜であり薬剤はラパマイシンである。コラーゲンは生分解性および再吸収性という特性を有するので、本マトリックスのための特に好ましい例である。マトリックスの耐久性はコラーゲンの再吸収を完結するための時間を反映し、多孔性はコラーゲンマトリックスの薬剤結合容量に影響を与え、これらのいずれの特徴も制御可能であり変化させることができる。一例として、コラーゲンの比較的平坦なシートにラパマイシンを含浸させ、ラパマイシンを吸収させ、飽和させ、分散させまたはラパマイシンが固定化される。約120μg/cm2のラパマイシン(範囲:50μg−2mg/cm2)が0.3〜2.0mm厚のシート形態である乾燥形態のコラーゲンマトリックス材料と組み合わされる。薬剤と組み合わされたコラーゲンシート(スリーブ)は管(円筒)または他の幾何学形態に改変され、本来の脈間の外側、移植片吻合部および/または静脈、動脈の上または移植片自体の上に直接固定される。本装置は縫合またはステープルで固定することができる。縫合材料自体が抗血管増殖剤と併存していてもよい。この態様において、選ばれた抗増殖作用因子は脈管壁を通して透過し、膜からの薬剤溶離速度は変化させることができ、コラーゲンマトリックスが完全に再吸収されるまで持続させることができる。タクロリムス、パクリタキセル、他のタキサン、フラボペリドール、アンチセンス、パクリタキセル、ラパマイシンおよびタクロリムスの類似体および当業者によく知られた他のアジュバントを使用することができる。
【0028】
二層または二重層または多層装置
他の側面において、本発明は抗増殖剤-吸収内部マトリックス層および外部支持骨格構造または層を有する二重層人工装具である。この実施態様において、内部マトリックス材料はI型コラーゲンのシート又は膜であり外部骨格支持材料はPTFEのシートである。抗増殖剤はこの実施態様ではラパマイシンである。コラーゲンのシートは種々の技術、例えば、縫合糸、接着剤、ステープルを用いて物理的にPTFEシートに接着され、または両者は化学的に結合される。2つのシース複合物は次に丸められ管状構造またはその幾何学的変形物を形成する。次にこの複合装置またはスリーブは所望の部位(動脈、静脈、移植片吻合部位等)の上に適用できるように適切にトリミングされ、PTFEスリーブの自由な端は接着剤、縫合糸、ステープル等によって互いに接着される。これにより血管構造物または移植片の外側上で装置全体が安定化される。次に、薬剤が血管壁または補綴材料壁を透過して壁中で薬剤は平滑筋細胞増殖(移植片の外科的構築に伴う治癒応答の不可欠な部分)を阻止する。
【0029】
脈管表面外側または補綴表面外側への配置に続いて、一定時間後、生体はコラーゲンを吸収し、その外部支持骨格または構造を無傷で残す。当業者は、薬剤を吸収させるために選んだタンパク質層の体内吸収可能性は本発明の任意的な好ましい実践であることを理解するであろう。PTFEは生体吸収性でないので、薬剤が血管壁または移植片若しくは補綴材料壁を透過するに十分な時間、吸収可能タンパク質層を定位置に保持する傾向がある。薬剤溶出内部膜又はマトリックス材料の支持という価値以外にも、外層には他の潜在的利点が存在する。薬剤の所望の効果が平滑筋細胞増殖を阻害し得ることであるにせよ、良好な(強固な)外科的傷跡の形成に寄与するのはこの増殖性応答である。外科的吻合部位の脆弱な傷跡は移植片の破壊または動脈瘤形成につながり得る。外部PTFEを有することにより骨格が追加的補強層として予防的に機能し、脆弱な傷跡、移植片破壊および/または動脈瘤形成と関連した問題の処置に対処する。外部PTFE層は薬剤を脈管壁または移植片壁の外面と密接に並置させるために機能し、外周組織および皮膚への薬剤の拡散を制限する。また、人工装具の外部骨格または支持面は、それ自体が生分解性であり得ることは本発明の考慮範囲内である。従って、再吸収性内部薬剤溶出コラーゲン層と組み合わさった再吸収性外部骨格構造(2つの層は同一または異なる生分解速度および吸収速度を有している)は治癒血管構造物または移植片構造を生じさせ、手順後に外来性材料を残す必要が無い。当業者は、本開示を考慮すれば、種々の他の材料が本発明で使用できることを理解するであろう。例えば、ダクロン(Dacron)(登録商標)ポリエステルも外部支持構造のための適切な材料であり得る。
【0030】
本発明の更なる目的は、血管壁の外表面への装置自己固定である。最終段階においてコラーゲンがFITS(フルオレセインイソチオシアネート)またはベンガルローズ(どちらもシグマケミカル社、セントルイス、MO.、米国より)のような光反応性基と組み合わされる場合は、本装置は血管壁に対してより接着性にすることができる。紫外線によるこの装置の刺激は光反応性基を活性化させ接着性を増加させるであろう。フィブリン接着剤およびアセチル化コラーゲンは血管壁外側へのコラーゲンマトリックス材料の接着性を増加させることが分かっている。
本発明の別の実施態様は、人工装具(上述)を移植片または血管構造物の上、および/または吻合部に配置し、その人工装具を所望の部位に(例えば縫合により)固着させる方法を含む、血液透析アクセス移植片の狭窄を阻止する方法である。
【0031】
図1A、1B、2A、2Bは、本発明1の好ましい実施態様を図示したものである。図1A中で本発明の作用因子3(点描で示してある)をその中に分配又は分布させたマトリックス材料2の四角のシートを示してある。図1Bは、図1Aで示した発明の更なる実施態様を図示したものであり、孔4が薬剤含有マトリックス材料3、2中に形成されている。当業者であれば孔4の直径はこれを通過するどんな血管または移植片構造の外径に適応するようにも調節できるであろうことを理解するであろう。一実施態様において孔4の直径は6ミリメートルである。
図2Aおよび2Bは本発明の更なる実施態様を図示したものであり、外部支持体または骨格構造または手段5が採用されている。支持体5はマトリックス材料シート2が円筒状に丸められまたは巻かれる時にはシート2の外側にある。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびダクロンシートのような外部骨格手段は現在考えられる支持体材料のうちである。他の多くのそのような外部骨格支持手段が当業者には思いつけるであろう。示したように、図2Bは孔4(直径は変動し得る)が採用される本発明の実施態様を図示したものである。
【0032】
図3A、3Bおよび3Cはかみ合わせ連結設計を使用した本発明の実施態様を図示しており、四角の作用因子溶出シートまたはマトリックス材料の一端が反対側の端近くにかみ合わされる。より具体的には、図3Aは、作用因子3(点描で示してある)を配置または分布させた四角のマトリックス材料2を示す。図3Aに図示したシート上には作用因子-含有マトリックス材料の一端7にほぼ隣接して配置された一連のv-型ノッチ6も図示されている。反対側の端8上のノッチ6と協同するのは一連の突起9である。突起9は矢尻型をしている。しかしながら、明らかに、突起9と溝6の他の組み合わせも本発明では考慮される。従って、本発明のスリーブ態様の組立は端8を端7へ巻き込み(図3Bに示してある)、突起9を溝6へ挿入することを含む。図3Cに示したように、突起9は溝6へ管状構造の内側から差し込まれており、このことは突起9の先端10がこの構造体の内側から外側へ突き出すことを意味する。示したように突起9の縁11はv-型溝6と協同してこの平坦な構造体を円筒状の血管サイズのスリーブ12へと固定する。血管スリーブ12は更に管腔14の範囲を規定する。管腔14はスリーブ12の内部表面がスリーブ12が付着する血管構造物の外部表面に接触するように血管のサイズを有する。このような様式で、薬剤または作用因子-溶出、血管サイズのスリーブは本発明を使用すべき血管構造物の上およびその周囲に配置される。
【0033】
図4Aおよび4Bは本発明の第2のかみ合わせ型態様を図示したものである。この実施態様では、本発明のストリップ(条片)形態が使用される。薬剤または作用因子溶出スリーブ16は伸長した作用因子-溶出マトリックス材料17(単独または外部指示手段と一緒、示さず)を含む。マトリックス材料17には互いに反対側の端に位置する2つのロック18が設けられている。ロック18と協同して窓19が働き、スリーブ16が作用すべき血管構造物に対しておよびその外側に配置されるようにロック18が窓19に挿入される。図4Bに示したように、ロック18は窓19に内側から外側へ挿入される。別の実施態様において、ロック18は窓19へスリーブ構造の外側から内側へ挿入してもよい。図4Aには2つのシャント接触翼または弁21を備えた代表的なシャント開口部20も示してある。
図5は、本発明の別の実施態様を図示したものであり、外部ワイヤー支持手段または骨組み手段が採用されている。外部ワイヤー骨組み20は本発明の好ましい実施態様、すなわち、脈管24の周囲に配置されたPTFEおよび薬剤-被覆コラーゲン材料22の周囲を囲む。
【0034】
図6-13は種々の動脈-静脈フィステルを図示したものである。本発明の薬剤溶出スリーブまたはマトリックス材料26が種々のフィステル32の周囲に移植され、これを包み、または配置されることがいくつかの図に示されている。これらの図のそれぞれにおいて、静脈構造物は28として示され、動脈構造物は30と示されている。矢印34は血流の方向を図示したものである。
図10-13は、本発明の更なる実施態様を図示したものであり、移植片36、例えばPTFE移植片が本発明と共に使用されている。図13に示されるように、移植片36はそれ自体薬剤または作用因子36(点描で示してある)を含むマトリックス材料を含んでいても良い。
本スリーブのさらなる応用には、薬剤供給源または薬剤貯蔵所としての内部薬剤-吸収タンパク質層の使用が含まれる。この応用例では、選択した薬剤は補充、例えば、スリーブを針で刺し、そこに追加の薬剤をデリバリーする、または、薬剤のための貯蔵場所をスリーブ内部に形成しそこから薬剤を漸次的に溶出させることにより定期的に補充することができる。
【0035】
本発明の種々の態様を以下に示す。
(1)抗増殖効果量の抗増殖作用因子を血管外局所投与する工程を含む、血管構造物における血管増殖性疾病の予防または治療方法。
(2)作用因子がラパマイシンを含む、(1)記載の方法。
(3)抗増殖作用因子が血管周囲に投与される、(1)に記載の方法。
(4)血管外局所投与が、移植可能な、抗増殖作用因子溶出性、血管周囲血管スリーブによって達成され、前記スリーブが前記作用因子を吸収したマトリックス材料を含むことを特徴とする、(1)記載の方法。
(5)スリーブが実質的に血管周囲に配置される、(4)記載の方法。
(6)マトリックス材料がフィブリンを含む、(4)記載の方法。
(7)作用因子がラパマイシン及びヘパリンを含む、(4)記載の方法。
(8)マトリックス材料がコラーゲンを含む、(4)記載の方法。
(9)マトリックス材料がキトサンを含む、(4)記載の方法。
(10)血管構造物の外側に接触させて配置するために適合させた移植可能な、抗増殖作用因子投与用血管周囲スリーブであって、
a)柔軟な、円筒状の、生体吸収性の作用因子−溶出マトリックス材料を含み、実質的に前記材料の中を通る血管サイズの管腔を有し、
b)前記マトリックス材料中に抗増殖作用因子が分散されている、
前記スリーブ。
(11)更に、マトリックス材料の外側付近に前記マトリックス材料を取り囲むように配置された支持手段を含む、(10)記載のスリーブ。
(12)抗増殖作用因子の抗増殖効果量を血管透析アクセス部位に血管外局所的投与することを含む、血管透析アクセス部位における血管増殖性疾病を治療する方法。
(13)抗増殖作用因子の抗増殖効果量を血管構造物に血管外局所的投与することを含む、血管構造物における血管増殖性応答を抑制する方法。
(14)抗平滑筋細胞(SMC)作用因子の抗SMC効果量を血管構造物に血管外局所的投与することを含む、血管構造物におけるSMC過増殖を治療する方法。
(15)血管構造物が血管透析アクセス部位である、(13)記載の方法。
(16)血管構造物が血管移植片である、(13)記載の方法。
(17)血管構造物が移植片吻合部位である、(13)記載の方法。
(18)血管構造物が静脈である、(13)記載の方法。
(19)血管構造物が静脈導管または吻合部位である、(13)記載の方法。
(20)血管増殖性応答またはSMC過増殖を防止、抑制または治療する作用因子を血管外局所投与することによって血管透析アクセス部位の機能不全を防止または遅延させる方法。
(21)血管透析アクセス部位の機能不全の態様が、血栓形成、感染、異物拒絶反応、管腔狭小化または吻合部の閉塞、静脈、動脈または補綴導管の狭小化若しくは閉塞からなる群より選ばれる、(20)記載の方法。
(22)作用因子の血管外局所投与が、アクセス部位に接触して配置された薬剤溶出スリーブからの薬剤デリバリーによって達成される、(20)に記載の方法。
(23)縫合、ステープル止め、接着または自己噛み合わせ機構からなる群より選ばれる固定技術によってスリーブがアクセス部位に接触して配置される、(22)記載の方法。
(24)過増殖性血管疾病の防止、抑制または治療に使用される作用因子が、ラパマイシン、ラパマイシン類似体、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、他のタキサン、タクロリムス、タクロリムス類似体、アクチノマイシンD、デキサメタゾン、ステロイド、分画ヘパリン、未分画ヘパリン、メタロプロテイナーゼ阻害因子、フラボペリドール、ヒト自家性、他家性の血管、骨髄細胞、他の細胞、幹細胞、遺伝的に改変されたヒト細胞、IIBIIIAアンタゴニスト、および抗生物質からなる群より選ばれる、(20)記載の方法。
(25)スリーブが生分解性の天然ポリマーまたは生分解性の合成ポリマーから作製される(22)記載の方法。
(26)スリーブがI型コラーゲンから作製される(22)記載の方法。
(27)スリーブがフィブリンを含む(22)記載の方法。
(28)スリーブがキトサンを含む(22)記載の方法。
(29)スリーブが生分解性物質を含む(22)記載の方法。
(30)スリーブが非生分解性物質を含む(22)記載の方法。
(31)飽和、分散および固定化からなる群より選ばれる技術を用いて薬剤をスリーブ材料と組み合わせる(22)記載の方法。
(32)薬剤溶出スリーブをアクセス部位に固定するために使用する縫合糸が抗増殖薬で被覆されている、(23)に記載の方法。
(33)血管透析血管アクセス部位の機能不全を防止または遅延させるための薬剤局所投与用の装置。
(34)薬剤と併存して形成され、らせん形態に形成されたコラーゲンマトリックス材料を含む(33)記載の装置。
(35)噛み合わせ構造を有する請求項34記載の装置。
(36)1以上の抗増殖薬と併存する血管移植片を含む装置。
【0036】
以下の実施例は本装置および抗増殖薬および他の治療薬剤デリバリーのためのマトリックスを調製する方法を例示するために記載するものである。これらの実施例は例示目的で記載されるものであり、限定を意図したものでない
【実施例1】
【0037】
実施例1.種々の抗増殖作用因子の阻害効果
予め作製されたコラーゲンマトリックスを種々の抗増殖薬溶液中に完全に飽和されるまで置いた。抗増殖薬は、コラゲナーゼおよびエラスターゼ酵素を阻害することなく平滑筋細胞および線維芽細胞を阻害することのできるより活性な化合物を代表するように選んだ。(コラゲナーゼおよびエラスターゼは酵素的にコラーゲン蓄積−狭窄の一つの原因−を阻害する)。コラーゲンマトリックスは、これらの化合物で濃度25 μg/mlにて飽和させ、凍結乾燥し、0.066Mリン酸緩衝液(pH 7.4)で37℃にて24時間洗滌し、約5 μg/cm2の化合物密度を有するディスク形態に切断した。洗滌後、直径15mmの滅菌ディスクを24ウェル培養皿に入れ、細胞を5000/cm2の密度で播種した。5日後、細胞数を測定し、小分けした培地で酵素活性を発色基質加水分解及び分光測光法により評価した。これらのデータを表1に示した。
【0038】
このin vitro比較テストにおいて、テストした作用因子の中でパクリタキセルおよびラパマイシンが同様な効果を示した。
【実施例2】
【0039】
実施例2.種々の型のマトリックスのラパマイシン結合容量
次のin vitro研究において、種々の型のマトリックスのラパマイシン結合能を調べた。予め作製された(BioMend, Sulzer Calcitek, IncまたはBiopatch,Ethicon Inc, コラーゲン-アルギン酸塩を含む)ラパマイシンを含むコラーゲンマトリックスをラパマイシン初期濃度250 μg/mlで実施例1に記載したように調製した。予め作製されたキトサン(Almin, C. Chunlin, H., Julinag, Bら、“Antibiotic loaded chitosann bar. In vitro , invivo study of a possible treatment for osteomyelitis”, Clin Orthp pp. 239-247 (1999年9月)に記載された方法を用いた)およびフィブリンマトリックス(実施例5に記載した技術を用いた)を250 μg/mlラパマイシンのDMSO溶液に入れて完全に飽和させた。溶媒を蒸発させた後、薬剤を含むマトリックスを0.066Mリン酸緩衝液(pH 7.4)で37℃にて24時間洗滌した。
マトリックスの容量を比較するため、同じ厚さの1.88cm2マトリックス表面に装荷させた蛍光ラパマイシン誘導体を使用した。0.14M NaCl溶液でインキュベーションした後、残存ラパマイシンをジメチルスルホキシド(DMSO)で抽出し、蛍光分光法を用いて収量を測定した。これらのデータを表2に示す。
【0040】
【0041】
予想したように、タンパク質マトリックスの容量はキトサンマトリックスよりも高いことが分かり、フィブリンまたはコラーゲンの抗増殖薬デリバリーのための治療用マトリックスとしての有用性は特定の組み合わせまたは追加の構成成分に依存するか、またはマトリックスが長寿命であることの必要性に依存し得る。
【実施例3】
【0042】
実施例3.リポソームを用いたデリバリー系
リポソームは薬剤デリバリー系の1形態を代表するものであり、生物学的に活性な物質の制御放出を提供する。リポソームは特に水溶性薬剤のための医薬製剤に使用される。ラパマイシンは典型的な例である。リポソーム封じ込めは投与した薬剤の薬理動態および組織分布に対してかなりの効果を有することが示されている。テストした処方には、グリセリルジラウレート(Sigma Chemicals, St Louis, MO)、コレステロール(Sigma Chemicals, St Louis, MO)およびポリオキシレン-10-ステアリル(Sigma Chemicals, St Louis, MO)質量比56:12:32から構成される非イオン性リポソーム製剤(処方1)またはイソプロピルミリステート(Sigma Chemicals, St Louis, MO)およびミネラル油(Sigma Chemicals, St Louis, MO)を含む非イオン性40%水性アルコール水中油リポソーム乳濁液(処方2)が含まれる。ラパマイシンは各処方物中に、ジメチルスルホキシドまたはイソプロパノール中濃度250 μg/mlにて取り込まれており、形成されたリポソームを予め作製されたコラーゲンシートの表面に塗布してラパマイシンを最大表面濃度にした。サンプルを0.066Mのリン酸緩衝液(pH 7.4)で37℃にて24時間洗滌した。マトリックスの容量を比較するため、1.88cm2マトリックス表面に装荷させた蛍光ラパマイシン誘導体を使用した。0.14M NaCl溶液でインキュベーションした後、残存ラパマイシンを有するマトリックスをジメチルスルホキシド(DMSO)で抽出し、蛍光収量を測定した。
【0043】
【0044】
リポソームデリバリー系はラパマイシン結合能において飽和コラーゲンマトリックスを有意に上回る利点を有していない。しかしながら、リポソームアプローチは他の抗増殖薬については有用かも知れない。
【実施例4】
【0045】
実施例4.ラミネートコラーゲンフィルム
ざらつきのある、表面中性化、ラミネートコラーゲンフィルムを調製するために不溶性繊維状コラーゲン等張懸濁液を取得した。濃度5〜18%(好ましくは12%)の冷却した3リットルのコラーゲン懸濁液を一晩0.3-0.6M酢酸(好ましくは0.52M)中4℃にて膨潤させた。膨潤した懸濁液を3リットルの破砕した氷で10-20分間(好ましくは12分間)ブレンダー中で分散させ、その後Ultra-Turrax(Alfa、Sweden)中で30分間ホモゲナイズした。得られたスラリーをフィルターホルダー(Millipore)に設置した孔サイズが250 μmから20 μmへ減少する一連のフィルター(Cellector, Bellco, UK)でろ過した。0.04-0.09mbar(好ましくは0.06mbar)にて脱気後、スラリーを2リットルの冷却0.1-0.05M NaOHと混合し、最終pHを7.4±0.3に調製した。中和懸濁液はマトリックス形成前4−6℃にて数時間だけ保存することができる。この中和懸濁液はラパマイシン含有マトリックスの飽和形態または分散形態調製の基礎として役立つ。中和スラリーは室温にて平らな疎水性表面上で直接3mm厚の湿潤フィルムとして成型することができる。およそ60-70 μm厚の乾燥フィルムが形成される。3〜5mlのスラリーで10cm2の領域を覆う。そのような表面の上にいくつかの層が形成され得る。これらの層はコラーゲンフィルムをラパマイシン、タキソールの溶液またはこれらの組合せ中に浸漬することによる抗増殖作用因子の飽和形態を調製するための基礎として機能する。中和スラリーおよびラパマイシンまたは他の作用因子を懸濁液中で同時に組み合わせることは、活性成分分散形態フィルムの調製のために利用することができる。
【0046】
マトリックス材料の調製において重要な要素はこの装置が形成される元となるタンパク質担体の多孔性である。多孔性は乾燥速度、温度および開始コラーゲンの特性によって制御することができる。多孔性は、薬剤放出のキネティクスを制御するので重要である。マトリックスはラパマイシン(分子量914.2)のような小さな分子に結合するに充分に多孔性であることが望ましく、装置の形態を維持するに充分に耐久性があることが望ましい。有効孔サイズ0.002から0.1ミクロンを有するコラーゲンマトリックスのサンプルをテストした。より高い結合能(飽和実験においてラパマイシンに結合する能力)は、孔サイズ0.004ミクロンを有するマトリックスで観察された。加えて、より大きな孔サイズを有するコラーゲンマトリックスは脆弱である。抗増殖作用因子へのマトリックスの結合能はこの応用性にとって重要であるので、3つの異なる濃度のラパマイシンを使用して、最適孔密度で調製された商業的に入手可能なコラーゲンからラパマイシン-コラーゲンマトリックス結合物を調製した。3種の異なる濃度には、高、中、低と標識し、それぞれ、120±5 μg/cm2、60±4 μg/cm2、および30±3 μg/cm2とした。これらのどのマトリックスも脆弱でなく、非均一ラパマイシン分布を有してはいなかった。異なる密度により薬剤放出のキネティクスを制御できる。
【実施例5】
【0047】
実施例5.抗増殖作用因子と組み合わせた移植可能フィブリンマトリックス装置
一般に、抗増殖作用因子を装荷されたフィブリンマトリックスに基づく装置を作製するために、水性フィブリノーゲンおよびトロンビン溶液を以下に記載したように調製する。市販のフィブリノーゲンはシグマ、米国赤十字のような業者から入手することができ、また、よく知られた技術により血漿から調製することができる。あるいは、組換え法によって調製されたフィブリノーゲンは使用に適している。市販の活性トロンビンはシグマまたはジョンソン&ジョンソンからトロンビン、局所USP、トロンボーゲンとして入手できる。マトリックスを調製するために使用するフィブリノーゲン及びトロンビン溶液を作製するために、必要な構成成分を測り、質量を計り、約900mlの脱イオン水に溶解する。表4および5は、マトリックスを予備作製するためのフィブリノーゲンおよびトロンビン溶液を調製するために使用する好ましい組成をそれぞれ開示する。
表4中のグリセロールは可塑剤として使用している。他の可塑剤であっても本発明に適しているであろう。TrisバッファーはpH調製のために使用する。Trisの代わりに適切なものとしては、HEPES、トリシンおよびpKaが6.8〜8.3の他のバッファーが含まれる。Triton-Xは非イオン性界面活性剤であり安定化剤であり、他の界面活性剤および安定化剤で置き換えることができる。カプリル酸は、変性からの保護を与える他の作用因子、例えばアルギン酸、で置換することができる。
【0048】
【0049】
【0050】
フィブリンに変換されるフィブリノーゲンは、柔軟性、孔サイズ、および線維質量密度のようなマトリックスの材料特性を制御するものであるので、マトリックス中で最も重要な試薬である。これらの特徴は他の分子がマトリックス内部でどのくらい容易に拡散するか、および、マトリックスが吸収されるまでにどのくらい長く維持されるかを決定する。
表5において、アルブミンはトロンビンの安定化剤である。トロンビンはフィブリンマトリックス形成の速度を制御する。第XIII因子の存在は好ましいが、必要ではない。第XIII因子は、フィブリンを共有結合的に架橋し、マトリックスをより安定にする。カルシウムイオンはトロンビンの活性化に必要である。トログリトゾン(Troglitozone)(三共、日本)はチアゾリジオン誘導体であり、血管壁におけるコラーゲン蓄積を減少させる。(Yao L、Mizushige K, Murakami Kら、Troglitozone decreases collagen accumulation in prediabetic stage of a type II diabetic rat mode (トロリトゾンはII型糖尿病ラットモデルの前糖尿病段階におけるコラーゲン蓄積を減少させる)、Heart 2000:84:209-210)。
【0051】
次の構成成分を添加する前に各構成成分を完全に溶解することが好ましい。必要であれば、最後の構成成分を溶解した後に、pHを7.0-7.4に調製し、溶液の体積を水で1リットルに調整する。この溶液を次に脱気する。両溶液を混合チャンバーを通してポンプで非固着性、好ましくは疎水性表面に配分し、およそ2mm厚のフィルムを形成する。次にこのフィルムを約20℃〜60℃の範囲の温度、約30Torr(約4kPa)の圧力にて3〜6時間乾燥させる。フィルムの残存湿分は総湿潤質量の約10%、好ましくは3%未満である。
この乾燥表面に乾燥固体ラパマイシンを添加してフィルム1cm2あたり100から500 gの密度とする。薬剤が2つのフィブリン層の間にサンドウィッチにされるようにこの表面にフィブリンマトリックスの第2の層を形成する。
本発明の一つの態様において、抗狭窄効果を増強するために、ラパマイシンまたはタキソールのような抗増殖作用因子および/または抗狭窄作用因子、ラパマイシンまたはタクロリムスのような抗拒絶薬、抗炎症薬および/またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを添加しても良い。これらの固体物質は上述のフィブリン-ラパマイシンサンドウィッチ複合体を補うために添加されるであろう。
【実施例6】
【0052】
実施例6.キトサンマトリックスを架橋する方法
抗増殖薬に対するキトサンマトリックスの結合能を増大させるため、繊維の架橋を利用する。濃度10%から25%(好ましくは12%)の冷却した50mlのキトサン懸濁液を5〜25mlのアクリル酸クロルアンヒドリドと30分間緩やかにゆっくりと混合してこのポリマーをアセチル化した。この時間後、250 μg/mlのラパマイシンのDMSO溶液を添加し、激しく混合し、自己架橋および結合ラパマイシン形成のためにキトサンマトリックス表面へ注いだ。キトサンの微小多孔性構造のために、このアプローチによりマトリックスの結合容量を15%から45%へ増加させることができる。
【実施例7】
【0053】
実施例7.分散、固定化および固定化−分散によるラパマイシンのコラーゲンマトリックスへの取り込み
飽和させる技術とは別に、3つの異なる方法(分散、固定化、および固定化-分散)によりラパマイシンをコラーゲンマトリックスに取り込んだ。
分散技術:
水不溶性コラーゲンの水性スラリーを、エラスチン・プロダクト社(Elastin Product)(Owensville、MO)から入手した非架橋、乾燥、高純度、凍結乾燥仔ウシ皮膚コラーゲンを用いて調製した。このコラーゲンおよび可溶化バッファーを2〜8℃の温度、好ましくは4℃の温度に冷却し、激しく撹拌して10〜21%(好ましくは12%)のコラーゲンタンパク質を含むコラーゲンスラリーを調製する。このようなスラリーは9%の可塑剤、グリセロール、15%の250 μg/mlのラパマイシンDMSO溶液および水を含む。この溶液は50,000cps(50Pa・s)の粘度を有していた。ラパマイシンと混合後、直ちに8%グルタルアルデヒドをスラリーに添加する(スラリー1リットルあたり100-350ml)。水性スラリーは均一にし、脱気しなければならず、pHは6.0-7.1に調製する。溶液を定常的に激しく混合し、ポンプで非固着性表面に分散させおよそ2mm厚のフィルムを形成させる。全ての手順は4℃の温度にて行う。次にフィルムを45℃付近の温度にて15Torr(2kPa)の圧力で残存湿分が総質量の約10%未満になるまで約3〜7時間乾燥させる。薬剤溶液塗布および乾燥工程をさらに3回繰り返す。
【0054】
II)固定化技術
Elastin Product社の同じコラーゲン調製物を使用する。一体積の12%コラーゲンを冷却し、抗増殖薬のエステル化によりラパマイシンと共役させる。エステル化は0.9M N-ヒドロキシスクシンイミド(Pierce Biochemical, Rockfold, IL)により、0.9M N-ジシクロヘキシロカルボジイミド(Pierce Biochemical, Rockfold, IL)の存在下で2〜4℃にて2日間行う。結合物は、撹拌コラーゲン懸濁液の表面下、反応のpHを7.0〜8.5(好ましくは7.8)に維持して、DMSO中、ラパマイシンの活性N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを滴定することによって調製する。乾燥後、結合ラパマイシンを有するフィルムを0.02M炭酸水素ナトリウムを含む0.15M NaClで洗滌する。HPLCによりマトリックス中に遊離のラパマイシンがないことが明らかにされる。ラパマイシンエステルはアミノ酸残基のアミノ基またはヒドロキシル基と反応してコラーゲンと共有結合架橋を形成する。そのような固定化の後、ラパマイシンはマトリックスのin vivoまたはin vitro分解−腐蝕の結果として放出される。Nakanoらはアカゲザルにおいて、6ヶ月間の自然代謝過程によるコラーゲン(SM-10500)分解および再吸収について述べている(参考文献:Nakano M, Nakayama Y, Kohda Aら:Acute subcutaneous toxicity of SM-10500 in rats(ラットにおけるSM-10500の急性皮下毒性)、Kiso to Rinsho (Clinical Report) 1995; 29:1675-1699)。
【0055】
マトリックスからのラパマイシン放出速度を調べるため、サンプルを0.066Mのリン酸バッファー(pH7.4)により、37℃にて24時間洗滌し、1.88cm2の面積を有するディスク形態に切断し、0.14M NaCl、0.05M Trisバッファー、0.5%アルブミン、0.1mg/mlコラゲナーゼ、pH7.0、を含む24ウェルの培養皿に入れる。コラゲナーゼはコラーゲンマトリックスの腐蝕を増加させ、ラパマイシンの放出を容易にするために添加する。種々の時間間隔でウェルから一部を集める。
分散形態と結合形態の組合せも調製する。これらのすべての形態においてラパマイシンの含量は5.0 μg/cm2である。サンプルをウェルに入れ血清を含む1mlの溶出培地を入れる。1時間毎に少量を採取する。
ラパマイシンの含量はFerronらの方法(Ferron GM, Conway WDとJusko WJ., Lipohilic benzamide and anilide derivatives as high-performance liquid chromatography internal standard: application to sirolimus (rapamycin) determination [高性能液体クロマトグラフィーの内部標準としての疎水性ベンザミド及びアニリド:シロリムス(ラパマイシン)測定への応用]、J Chromatogr. B. Biomed Sci. Appl. 1997;Dec703:243-251)に従って測定する。これらの測定はバッチアッセイを用いて行い、従って0ml/分の流速における放出を表す。結果は表6に示し、図14に図示される(抗増殖薬の濃度は μg/mlで表してある)。
【0056】
これらのデータは薬剤の異なる吸収形態および異なる溶解度を有する薬剤は別個のキネティクスを有することを示す。比較的可溶性のテトラサイクリンの場合、遊離の塩基によるコラーゲンマトリックスの飽和後、放出のピークは短時間に起こり、一方溶解度がより低いラパマイシンについてはこのピークは数時間遅延する。in vitro実験において、ゲンタマイシン、セフォタキシン、テトラサイクリンまたはクリンダマイシンのような可溶性抗生物質で飽和されたコラーゲンはこれらの抗生物質を効果的な濃度で4日間デリバリーすることが示されている[Wachol-Drewek Z, Pfeifer M, Scholl E. “Comparative investigation of drug delivery of collagen implants saturated in antibiotic solution and sponge containing gentamicin”(抗生物質溶液で飽和させたコラーゲンインプラントとゲンタマイシン含有スポンジの薬剤デリバリーの比較研究)Biomaterials 1996; 17:1733-1738]。
【0057】
他の研究室においても、in vivoにおいて3 μg/gの濃度でゲンタマイシンで飽和させ、筋肉組織に移植したコラーゲンは28日間にわたって抗生物質を血液中にデリバリーし得ることが示された。しかしながら濃度は最適よりも低かった(Mehta S, Humphrey JS, Schenkman DIら、“Gentamycin distribution from a collagen carrier”(コラーゲン担体からのゲンタマイシン分配)、J. Orthop. Res. 1996; 14:749-754)。血管周囲腔におけるコラゲナーゼの濃度の低さおよび血管周辺流の低さ(僅かに一日数ml)を知れば、ラパマイシンで飽和させたマトリックス材料が、数週間の間、抗増殖薬をSMC増殖進行を防止しこれと対抗するために効果的な局所的濃度に維持するであろうin vivoデリバリーキネティクスを生じさせるかも知れないことが理論付けられる。SMCに対する阻害濃度は0.001〜0.005 μg/ml培地の範囲であろう。このようなレベルはin vitroにおいて3週間の間満たされ、またはこれを上回る。さらに、コラーゲンマトリックスに分散されたラパマイシンは1ヶ月またはそれ以上の間抗増殖効果を示し得る。最後に、結合および組合せ形態はマトリックスの完全な腐蝕まで治療を支持することができる。
【0058】
【実施例8】
【0059】
実施例8.ラパマイシン−コラーゲンマトリックスにおけるラパマイシンの生物学的活性
ラパマイシンとコラーゲンの組合せを評価する際の最も重要なパラメータは平滑筋細胞(SMC)増殖阻害である。このパラメータを評価するため、SMCを細胞密度5000細胞/cm2で対照培養組織表面および試験マトリックス表面上へ播種する(表7)。細胞増殖曲線を図15に示す。
アクチノマイシンDは薬剤マトリックスから迅速に溶出し、短時間の間だけ細胞増殖を抑制する。培地の交換により可溶性アクチノマイシンは除去され、数回の洗滌後、培地またはマトリックス中には抗生物質は存在しない。その結果、細胞は通常通り増殖を開始する。ラパマイシンはゆっくり漸次的に放出されるので、細胞増殖抑制は観察期間を通して持続した。
【0060】
【実施例9】
【0061】
実施例9
抗増殖作用因子(単独または組合せ)と組合せた2種の異なる型のマトリックス、コラーゲンおよびフィブリン、をビタミンKと共に種々の割合で細胞培養培地に添加する。細胞を同じ密度で播種し、第5日に生存細胞数をアラバマブルーアッセイによって測定する。データを表8に示す。
【0062】
【実施例10】
【0063】
実施例10.コラーゲンマトリックスと組み合わせたラパマイシンおよびヘパリンの組合せの抗増殖効果
マトリックス内で組み合わせた種々の構成成分の抗増殖効果は相乗効果を示し得る。分散ラパマイシン、可溶性および固定化ヘパリンの組合せを使用する。ヘパリンの固定化のため、5mlの冷却したヘパリン溶液(濃度1mg/ml〜10mg/ml、好ましくは5mg/ml)を5〜20ml(好ましくは11.4ml)のアクリル酸クロルアンヒドリドとおよそ1分あたり1μl(好ましくは分あたり2.5 μl)の速度で混合する。添加後、混合物を温度4〜8℃にて30分間撹拌する。ヘパリン化コラーゲンをリン酸緩衝生理食塩水pH7.4で充分に洗滌する。エオジンAを用いた比色アッセイを用いてマトリックス上に固定されたヘパリンの濃度を決定する。この方法を用いて、0.01mg/cm2〜0.1mg/cm2がマトリックスに共有結合される。
【0064】
ラパマイシンと組合せたこのような配合物は、1:100の割合で懸濁液形態で培地に添加した場合SMC増殖に阻害的効果があるが、個々の形態は効果が低い;ヘパリン単独については1:25、分散ラパマイシンについては1:65。これらのそれぞれの薬剤は異なる機序によって再狭窄を阻止することができる。従って、組み合わせて使用した場合相乗効果を期待することは理にかなっている。ヘパリンは抗増殖剤と組み合わせて飽和形態マトリックスにも使用することができる。
【実施例11】
【0065】
実施例11
ラパマイシン(または他の抗増殖作用因子)と組み合わせたデキサメタゾンの局所的徐放性デリバリーを用いて狭窄及び炎症反応を同時に阻止することができる。20%(質量/質量)コラーゲンスラリーを調製し、これに2%(質量/質量)デキサメタゾン懸濁液を添加する。この混合物をプラスチックフィルム上にスプレーしてフィルムを形成させる。このフィルムの最終厚は1.92から2.14mmまで変動した(平均2mm)。このシートは柔軟で機械的に安定である。マトリックス(コラーゲン+ラパマイシン)からのデキサメタゾン溶出のキネティクスをin vitro系で解析した。直径15mmのシートをウェル内に入れ、2.5mlのリン酸バッファー溶液に浸漬した。1から7日間にわたるいくつかの時点で、溶出バッファーの一部中のデキサメタゾン濃度を分光測光法によって測定した。シート形成工程、乾燥保存工程および溶出工程におけるデキサメタゾンの化学的安定性をHPLCによって確認した。デキサメタゾンの累積的in vitro溶出を表9に示す。
50%を越えるデキサメタゾン溶出が最初の3日間に起こり、6日後には溶出曲線は横ばい状態になる。デキサメタゾンは重篤な炎症応答を防止することができ、この効果はこの期間内に最大となりラパマイシンと相乗的に働き再狭窄を低下させることができる。デキサメタゾン溶出ステントと対照的に、血管周辺デリバリーは内皮細胞再生を阻害せず、線維芽細胞および平滑筋細胞に直接作用する。
【0066】
【実施例12】
【0067】
実施例12.
マクロ多孔性およびミクロ多孔性の組合せは本装置の容量を増加させ得る。コラーゲンおよびフィブリンマトリックスを混合してそのような組合せを得た。加えて、コラーゲンの優れた機械的特性はフィブリンの安定性を改善した。フィブリン-ラパマイシン装荷マトリックスを調製するために(150μg/cm2のラパマイシン密度)、表4及び5に示した組成物を使用した。フィブリンの第1の乾燥層形成後、コラーゲン、ラパマイシンおよびヘパリンの第2の層を実施例4に記載したように形成させた(ラパマイシン密度128μg/cm2、ヘパリン密度5000U/cm2)。医薬を装荷したコラーゲンフィブリンシース(厚さ2mm)を管状構造物として形成し、高濃度の(25%)グルタルアルデヒドを1分間用いて外部架橋した。乾燥後、図4に示したらせん形態スリーブを調製した。このスリーブを10回平面状にしたが、らせん形態は各場合に回復した。最終スリーブのラパマイシン容量は143μg/cm2であった。in vitroヘパリン溶出は7日間継続した。
【0068】
ヘパリン濃度は実施例10のように測定した。希釈用のバッファーはそれぞれの日に補充した。データを表10に示す。
SMC増殖を阻害するための効果的なヘパリン濃度は100u/mlの範囲であることが知られている。本実施例において、ヘパリンは少なくとも4日間SMC増殖を有意に阻害することができる。加えて、スリーブからのヘパリンの拡散はシャントの内表面における血栓発生および血管壁損傷を長期にわたって防止することができる。なお、可溶性ヘパリンは、マトリックスの機械的特性を変化させることなく20,000単位/cm2まで増加させることができる。従って、抗平滑筋細胞増殖効果および抗血栓効果を長期間作用させることができる。
【0069】
【実施例13】
【0070】
実施例13および14:ラパマイシン、タクロリムスおよびパクリタキセルのヒト平滑筋細胞および内皮細胞に対するin vitro効果の比較
ヒト平滑筋細胞および内皮細胞(Clonetics、USA)(100,000細胞)を24ウェルプレートに一晩播種した。どちらの型の細胞もOPTI-MEM(Gibco, Long Island NY)および5%ウシ胎児血清中で37℃にて5%CO2および95%大気中で増殖及び維持した。細胞をある濃度範囲(10〜100nM)のラパマイシン、パクリタキセル(0.1〜10mM)およびタクロリムス(10〜100nM)に曝露した。それぞれの型の細胞を24時間増殖させ、最後の4時間は[3H]-チミジン存在下で増殖させた。細胞の増殖は新たなDNA合成として3H-チミジン取り込みアッセイを用いて定量した。72時間の培養後、細胞を冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗滌し、1mlのメタノールをそれぞれのウェルに添加し、プレートを4℃にて60分間維持し、次に細胞を冷PBSで一度洗滌し、500μlの0.2m NaOHを各ウェルに添加し、プレートを4℃にて30分間維持した。各ウェルの内容物をシンチレーションバイアルに移し、液体シンチレーションを添加して、液体シンチレーション計測器を用いて放射活性を定量し、結果を1分あたりの計測数として表した。
結果を表11および表12に示した。それぞれ、図16および17に対応する。ラパマイシンおよびパクリタキセルはヒト平滑筋細胞および内皮細胞の増殖(新たなDNA合成)のいずれも阻害する。タクロリムスはヒト平滑筋細胞の新たなDNA合成を優先的に阻害し、内皮細胞にはあまり作用しないようである。この異なる効果は、タクロリムスを平滑筋細胞増殖阻害に使用する場合には、極めて重要となるであろうし、有益に利用できるであろう。
【0071】
【0072】
【0073】
動物における研究
原理的研究の証明をブタモデルを用いて行った。全部で6匹を研究した。2匹は対照として用い、4匹を処置した。6mm PTFE血管移植片を一方の側の頸動脈と反対側の頸静脈の間に吻合させた。これにより、ヒトの血液透析アクセスループと構築上類似した動脈-静脈(AV)ループが形成された。ラパマイシンの分かっている用量(およそ500μg/cm2)を併存させたコラーゲンスリーブを治療群の静脈吻合部の直ぐ近くのPTFE血管移植片の遠位末端付近に配置した。
30日後、脈管および移植片の開存性を明らかにするために血管造影を行った。動物を麻酔し、関連する素片を切開した。ラパマイシンの細胞周期進行に対する阻害効果はサイクリン阻害因子の誘導によるものと考えられている。従って、p21の発現はラパマイシン処置動物から得られた組織において増加するであろうが、対照動物からの組織ではそうでないであろう。言い換えれば、p21の存在は、観察された効果がラパマイシンに帰属するものであることの確認となる。処置動物および未処置動物から組織を採取し、RNAを調製し、cDNAに逆転写し、これをハウスキーピング遺伝子、βアクチンおよびp21に関してPCRにより増幅した。
【0074】
結果
どちらの対照動物も静脈吻合部において重篤な新生内膜過形成によって生じた管腔狭小化を起こしていた(図18(A)および19(A))。処置した全ての4匹の動物は静脈および移植片の顕著に高い管腔開存性を示し、新生内膜過形成はごく僅かまたは存在しなかった(図18(B)および19(B))。p21 mRNA発現はラパマイシン処置動物(図20)から得られた吻合周辺部の静脈組織に観察されたが対照動物からの組織には見られなかった。このことは、スリーブマトリックスに含まれるラパマイシンは新生内膜過形成(血管増殖性応答の発現)の低減/事実上の消滅の原因であり、ラパマイシンによって誘導された細胞増殖阻害を通して媒介される効果であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1A、1Bは本発明の好ましい実施態様を図示したものである。
【図2】図2Aおよび2Bは、本発明の別の実施態様を図示したものであり、外部支持体または骨格構造が採用されている。
【図3】図3A-Cは本発明の自己かみ合わせ連結態様を図示したものである。
【図4】本発明の別の自己かみ合わせ連結設計の例である。
【図5】スリーブの形状の維持を補助する外部ワイヤー支持体または枠組みを含む、図1A-1B/2A-2Bに示した基本装置を示す。
【図6】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図7】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図8】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図9】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図10】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図11】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図12】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図13】種々の脈管修復必要性の観点から、本発明の薬剤溶出スリーブの可能な種々の配置を図示したものである。
【図14】テトラサイクリンおよびラパマイシンで飽和させたコラーゲンの放出速度を示す。ラパマイシンは4種の異なる形式(方法)を用いてコラーゲンマトリックスと併存させた。Y軸上の数値はμg/mlで表した薬剤濃度を示す。A=テトラサイクリンで飽和させたコラーゲン;B=ラパマイシンで飽和させたコラーゲン;C=コラーゲンに分散させたラパマイシン;D=ラパマイシンを結合させたコラーゲン;E=分散ラパマイシン及び結合ラパマイシン形態の組合せ。
【図15】種々の抗増殖作用因子を結合させたコラーゲンマトリックスを用いた平滑筋細胞の増殖阻害の比較。Y軸上の数値は細胞数を表す。A=対照;B=コラーゲン+アクチノマイシンD;C=コラーゲン+ラパマイシン。
【図16】3用量のラパマイシン、タクロリムスおよびパクリタキセルのヒト平滑筋細胞に対する効果の比較。
【図17】3用量のラパマイシン、タクロリムスおよびパクリタキセルのヒト内皮細胞に対する効果の比較。
【図18】図18(A)、18(B)は本発明によって得られた結果のいくつかを示す。
【図19】図19(A)、19(B)は本発明によって得られた結果のいくつかを示す。
【図20】本発明によって得られた結果のいくつかを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗増殖効果量の抗増殖作用因子を含む、血管構造物における血管増殖性疾病の予防または治療のための血管外局所投与用医薬組成物。
【請求項2】
作用因子がラパマイシンを含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
抗増殖作用因子が血管周囲に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
血管外局所投与が、移植可能な、抗増殖作用因子溶出性、血管周囲血管スリーブによって達成され、前記スリーブが前記作用因子を吸収したマトリックス材料を含むことを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
スリーブが実質的に血管周囲に配置される、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
マトリックス材料がコラーゲンを含む、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項7】
血管構造物の外側に接触させて配置するために適合させた移植可能な、抗増殖作用因子投与用血管周囲スリーブであって、
a)柔軟な、円筒状の、生体吸収性の作用因子−溶出マトリックス材料を含み、実質的に前記材料の中を通る血管サイズの管腔を有し、
b)前記マトリックス材料中に抗増殖作用因子が分散されている、
前記スリーブ。
【請求項8】
更に、マトリクス材料の外側付近に前記マトリックス材料を取り囲むように配置された支持手段を含む、請求項7記載のスリーブ。
【請求項9】
抗増殖作用因子の抗増殖効果量を含む、血管透析アクセス部位における血管増殖性疾病を治療するための、血管透析アクセス部位への血管外局所的投与用医薬組成物。
【請求項10】
抗増殖作用因子の抗増殖効果量を含む、血管構造物における血管増殖性応答を抑制するための、血管構造物への血管外局所的投与用医薬組成物。
【請求項11】
抗平滑筋細胞(SMC)作用因子の抗SMC効果量を含む、血管構造物におけるSMC過増殖を治療するための、血管構造物への血管外局所的投与用医薬組成物。
【請求項12】
血管構造物が血管透析アクセス部位である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項13】
血管構造物が血管移植片である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項14】
血管構造物が移植片吻合部位である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項15】
血管構造物が静脈である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項16】
血管構造物が静脈導管または吻合部位である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項17】
血管増殖性応答またはSMC過増殖を防止、抑制または治療する作用因子を含む、血管透析アクセス部位の機能不全を防止または遅延させるための、血管外局所投与用医薬組成物。
【請求項18】
作用因子の血管外局所投与が、アクセス部位に接触して配置された薬剤溶出スリーブからの薬剤デリバリーによって達成される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
過増殖性血管疾病の防止、抑制または治療に使用される作用因子が、ラパマイシン、ラパマイシン類似体、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、他のタキサン、タクロリムス、タクロリムス類似体、アクチノマイシンD、デキサメタゾン、ステロイド、分画ヘパリン、未分画ヘパリン、メタロプロテイナーゼ阻害因子、フラボペリドール、ヒト自家性、他家性の血管、骨髄細胞、他の細胞、幹細胞、遺伝的に改変されたヒト細胞、IIBIIIAアンタゴニスト、および抗生物質からなる群より選ばれる、請求項17記載の医薬組成物。
【請求項20】
スリーブがI型コラーゲンから作製される請求項18記載の医薬組成物。
【請求項21】
スリーブが生分解性物質を含む請求項18記載の医薬組成物。
【請求項1】
抗増殖効果量の抗増殖作用因子を含む、血管構造物における血管増殖性疾病の予防または治療のための血管外局所投与用医薬組成物。
【請求項2】
作用因子がラパマイシンを含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
抗増殖作用因子が血管周囲に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
血管外局所投与が、移植可能な、抗増殖作用因子溶出性、血管周囲血管スリーブによって達成され、前記スリーブが前記作用因子を吸収したマトリックス材料を含むことを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
スリーブが実質的に血管周囲に配置される、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
マトリックス材料がコラーゲンを含む、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項7】
血管構造物の外側に接触させて配置するために適合させた移植可能な、抗増殖作用因子投与用血管周囲スリーブであって、
a)柔軟な、円筒状の、生体吸収性の作用因子−溶出マトリックス材料を含み、実質的に前記材料の中を通る血管サイズの管腔を有し、
b)前記マトリックス材料中に抗増殖作用因子が分散されている、
前記スリーブ。
【請求項8】
更に、マトリクス材料の外側付近に前記マトリックス材料を取り囲むように配置された支持手段を含む、請求項7記載のスリーブ。
【請求項9】
抗増殖作用因子の抗増殖効果量を含む、血管透析アクセス部位における血管増殖性疾病を治療するための、血管透析アクセス部位への血管外局所的投与用医薬組成物。
【請求項10】
抗増殖作用因子の抗増殖効果量を含む、血管構造物における血管増殖性応答を抑制するための、血管構造物への血管外局所的投与用医薬組成物。
【請求項11】
抗平滑筋細胞(SMC)作用因子の抗SMC効果量を含む、血管構造物におけるSMC過増殖を治療するための、血管構造物への血管外局所的投与用医薬組成物。
【請求項12】
血管構造物が血管透析アクセス部位である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項13】
血管構造物が血管移植片である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項14】
血管構造物が移植片吻合部位である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項15】
血管構造物が静脈である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項16】
血管構造物が静脈導管または吻合部位である、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項17】
血管増殖性応答またはSMC過増殖を防止、抑制または治療する作用因子を含む、血管透析アクセス部位の機能不全を防止または遅延させるための、血管外局所投与用医薬組成物。
【請求項18】
作用因子の血管外局所投与が、アクセス部位に接触して配置された薬剤溶出スリーブからの薬剤デリバリーによって達成される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
過増殖性血管疾病の防止、抑制または治療に使用される作用因子が、ラパマイシン、ラパマイシン類似体、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、他のタキサン、タクロリムス、タクロリムス類似体、アクチノマイシンD、デキサメタゾン、ステロイド、分画ヘパリン、未分画ヘパリン、メタロプロテイナーゼ阻害因子、フラボペリドール、ヒト自家性、他家性の血管、骨髄細胞、他の細胞、幹細胞、遺伝的に改変されたヒト細胞、IIBIIIAアンタゴニスト、および抗生物質からなる群より選ばれる、請求項17記載の医薬組成物。
【請求項20】
スリーブがI型コラーゲンから作製される請求項18記載の医薬組成物。
【請求項21】
スリーブが生分解性物質を含む請求項18記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−119257(P2009−119257A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277246(P2008−277246)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【分割の表示】特願2002−562342(P2002−562342)の分割
【原出願日】平成14年1月16日(2002.1.16)
【出願人】(503256151)ヴァスキュラー セラピーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【分割の表示】特願2002−562342(P2002−562342)の分割
【原出願日】平成14年1月16日(2002.1.16)
【出願人】(503256151)ヴァスキュラー セラピーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】
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