説明

吸引制御方法、及び、液体噴射装置

【課題】クリーニング制御時の気泡の排出性を向上を図ることが可能な吸引制御方法、及び、液体噴射装置を提供する。
【解決手段】制御部は、記録ヘッド(液体噴射ヘッド)のノズル形成面に対するキャップ部材の封止状態で、尚且つ大気開放バルブを閉じた状態で、ポンプを作動させることにより、吸引動作を開始する。1サイクルの吸引工程は、減圧工程(S3)、維持工程(S4)、及び、復帰工程(S5)からなり、この吸引工程を断続的に複数サイクル繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド内の液体や気泡を強制的に吸引する吸引制御方法、及び、液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体を噴射(吐出)可能な噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を吐出する液体噴射装置の代表的なものとしては、例えば、噴射対象物(記録媒体)としての記録紙等に対してインクを噴射・着弾させて記録を行うインクジェット式記録装置(以下、プリンタ)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレー、プラズマディスプレー、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレー、或いはFED(面発光ディスプレー)等のディスプレー製造装置においては、色材や電極等の液体状の各種材料を、画素形成領域や電極形成領域等に対して噴射するためのものとして、液体噴射装置が用いられている。
【0003】
上記プリンタに搭載される液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)では、液体供給源であるインクカートリッジに貯留されているインクを圧力発生室に導入し、ノズル開口から噴射するように構成されている。この構成では、インクカートリッジから記録ヘッドのノズル開口までに至るインク流路(液体流路)がインクのみで満たされている状態が理想的であるが、構造上、気泡の浸入を完全に防止することは困難である。例えば、インクカートリッジを交換した際、当該インクカートリッジ内のインクを記録ヘッドのインク流路に充填する初期充填処理を行うときにインクカートリッジと記録ヘッドの接続部からインク流路内に気泡が入り込むことがある。また、記録ヘッドの構造体の壁面を透過(ガス交換)して外部の空気がインク流路内のインクに溶け込むことで気泡が発生することもある。インク流路内の気泡は、次第に成長して大きくなり、過度に成長した気泡がインクの流れによって圧力発生室側に移動すると、インク噴射時の圧力変動を気泡が吸収することによる圧力損失や、気泡が流路を塞ぐことによるインクの供給不足等の不具合を招く虞がある。
【0004】
このような気泡の混入による不具合を防止するために、この種のプリンタでは、通常の記録動作時の数倍の流速のインク流を発生させるクリーニング制御を定期的に実行し、インク流路内の気泡を排出している(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−105629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のクリーニング制御を行っても、流路内に滞留する気泡、特に、圧力発生室の隅角部等に滞留する気泡が除去し難く、この気泡を除去するためにクリーニング制御の時間や吸引力を増加させると、インクを無駄に消費してしまう問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、クリーニング制御時の気泡の排出性を向上を図ることが可能な吸引制御方法、及び、液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の吸引制御方法は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドに対しノズル開口を通じて吸引を行う吸引制御方法であって、
前記液体噴射ヘッド内の流路を減圧して吸引を行う吸引工程を、断続的に複数回行うことを特徴とする。
【0008】
そして、上記構成において、前記吸引工程は、前記液体噴射ヘッド内の流路を減圧する減圧工程と、減圧された流路を正圧側に復帰させる復帰工程と、を含むことが望ましい。
【0009】
上記構成によれば、液体噴射ヘッド内の流路を減圧して吸引を行う吸引工程を、断続的に複数回行うことにより、流路内に滞留する気泡を移動させ易くすることができ、これにより、気泡の排出効率を向上させることができる。即ち、吸引工程を断続的に複数回行うことにより、流路内に滞留している気泡が膨張・収縮を繰り返し、これにより、流路の内壁面から離隔させて排出させ易くすることが可能となる。その結果、従来よりも少ない吸引量で気泡を効率良く排出することができ、液体の消費を抑えることが可能となる。
【0010】
また、上記構成において、前記減圧工程と前記復帰工程との間に、減圧工程による減圧状態を維持する維持工程を実行することが望ましい。
さらに、この構成において、前記維持工程を、吸引を行うための負圧を発生する負圧発生源から気泡滞留箇所までの距離を音速で除して得られた時間だけ実行することが望ましい。
【0011】
上記構成によれば、減圧工程と復帰工程との間の維持工程において負圧発生源から気泡滞留箇所までの距離を音速で除して得られた時間だけ実行することにより、気泡に対してより効率良く圧力変動を付与することが可能となる。
【0012】
また、上記構成において、前記吸引工程を、気泡の固有周期に相当する間隔で繰り返すことが望ましい。これにより、吸引制御による圧力変動と気泡の膨張伸縮を共振させることができ、これにより、気泡をより移動させ易くすることができる。その結果、気泡の排出効率を一層向上させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の液体噴射装置は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドと、負圧発生源からの負圧によってノズル開口を通じて吸引を行う吸引制御手段と、を備える液体噴射装置であって、
前記吸引制御手段は、前記液体噴射ヘッド内の流路を減圧して吸引を行う吸引工程を、断続的に複数回行うことを特徴とする。
【0014】
そして、上記構成において、前記吸引工程は、前記液体噴射ヘッド内の流路を減圧する減圧工程と、減圧された流路を正圧側に復帰させる復帰工程と、を含むことが望ましい。
【0015】
上記構成によれば、液体噴射ヘッド内の流路を減圧して吸引を行う吸引工程を、断続的に複数回行うことにより、流路内に滞留する気泡を移動させ易くすることができ、これにより、気泡の排出効率を向上させることができる。即ち、吸引工程を断続的に複数回行うことにより、流路内に滞留している気泡が膨張・収縮を繰り返し、これにより、流路の内壁面から離隔させて排出させ易くすることが可能となる。その結果、従来よりも少ない吸引量で気泡を効率良く排出することができ、液体の消費を抑えることが可能となる。
【0016】
また、上記構成において、前記吸引制御手段は、前記減圧工程と前記復帰工程との間に、減圧工程による減圧状態を維持する維持工程を実行することが望ましい。
さらに、この構成において、前記吸引制御手段は、前記維持工程を、吸引を行うための負圧を発生する負圧発生源から気泡滞留箇所までの距離を音速で除して得られた時間だけ実行することが望ましい。
【0017】
上記構成によれば、減圧工程と復帰工程との間の維持工程において負圧発生源から気泡滞留箇所までの距離を音速で除して得られた時間だけ実行することにより、気泡に対してより効率良く圧力変動を付与することが可能となる。
【0018】
また、上記構成において、前記吸引制御手段は、前記吸引工程を、気泡の固有周期に相当する間隔で繰り返すことが望ましい。これにより、吸引制御による圧力変動と気泡の膨張伸縮を共振させることができ、これにより、気泡をより移動させ易くすることができる。その結果、気泡の排出効率を一層向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明では、本発明の液体噴射装置としてインクジェット式記録装置(プリンタ)を例に挙げる。
【0020】
図1は、このプリンタ1の基本構成を説明する斜視図である。この図1に示すように、プリンタ1は、ガイド軸2に取り付けられたキャリッジ3を有し、その下面には記録ヘッド4(本発明の液体噴射ヘッドの一種)が取り付けられている。また、このキャリッジ3の内部にはインクカートリッジを着脱可能に保持するカートリッジホルダ部が設けられている(何れも図示せず)。そして、キャリッジ3は、キャリッジモータ(パルスモータ)5の回転軸に接合された駆動プーリ6と遊転プーリ7との間に掛け渡されたタイミングベルト8に接続されているので、キャリッジモータ5の駆動によって記録紙9の幅方向(主走査方向)に移動する。
【0021】
上記のインクカートリッジは、インク(本発明の液体の一種)を貯留する貯留部材(液体貯留源の一種)である。このインクは、インク溶媒中に色材を溶解或いは分散させたものであり、例えば、色材として顔料や染料が用いられ、インク溶媒として水が用いられる。そして、このインクカートリッジがカートリッジホルダ部に装着されると、カートリッジホルダ部に設けられたインク供給針(図示せず)がインクカートリッジ内に挿入される。このインク供給針は記録ヘッド4のインク供給路10(図3参照)に連通されているため、インク供給針が挿入されると、インクカートリッジ内のインクが記録ヘッド4内に供給可能な状態になる。そして、インクカートリッジ内のインクを記録ヘッド4内の流路に充填するために、後述する初期充填が行われる。なお、インクカートリッジとしては、プリンタ本体(筐体)側に配置され、インク供給チューブを通じて記録ヘッド4に供給するタイプを採用することもできる。
【0022】
また、ガイド軸2の下方には、プラテン11が設けられている。このプラテン11は、記録紙9を下方から支持する板状部材である。このプラテン11にはスポンジ等の吸液部材12が配設されている。また、この吸液部材12よりも紙送り上流側には、ガイド軸2と平行に紙送りローラ13が配置されている。この紙送りローラ13は、記録紙9の搬送時において、紙送りモータ14(ステッピングモータ又はDCモータ)からの駆動力によって回転される。
【0023】
キャリッジ3の移動範囲内であってプラテン11よりも外側の位置には、ホームポジションが設定されている。記録ヘッド4は、待機状態においてホームポジションに位置付けられる。このホームポジションには、記録ヘッド4のノズル形成面を払拭するためのワイパー機構15と、非記録状態においてノズル形成面を封止可能なキャッピング機構16とがガイド軸2に沿って横並びに配設されている。
【0024】
次に、記録ヘッド4について説明する。図3に示すように、記録ヘッド4は、ケース23と、流路ユニット24と、振動子ユニット25とから概略構成されている。ケース23は、先端と後端が共に開放した収容空部27を内部に設けた合成樹脂製のブロック状部材であり、その先端面には流路ユニット24が接合されている。また、収容空部27内には、各圧電振動子28の先端を先端側開口に臨ませた状態で振動子ユニット25が収容されている。さらに、収容空部27の側方には、インク供給針と流路ユニット24の間を連通するインク供給路10を設けている。
【0025】
流路ユニット24は、流路形成板29とノズルプレート30と弾性板31とから構成されている。ノズルプレート30は、ドット形成密度に対応したピッチで多数(例えば、360個)のノズル開口32を列状に開設した薄い板状部材であり、例えば、ステンレス板によって構成している。この列設されたノズル開口32によってノズル列(ノズル群)が構成され、このノズル列が横並びに複数列形成されている。そして、このノズルプレート30の外側表面がノズル形成面となる。上記の流路形成板29には、インク供給路10を通して供給されたインクが流入するリザーバ33(共通液体室)と、ノズル開口32からインクを噴射させるために必要なインク圧力を発生させる圧力発生室34と、これらのリザーバ33と圧力発生室34を連通するインク供給口35等が形成されている。上記の圧力発生室34は、ノズル列方向とは略直交する方向に細長い空部であり、ノズル列方向にノズル開口32に対応する数だけ形成されている。上記の弾性板31は、弾性体膜を支持板上にラミネートした二重構造である。
【0026】
この流路ユニット24では、インク供給路10からリザーバ33、インク供給口35、圧力発生室34、及びノズル連通口38を通ってノズル開口32に至る一連のインク流路が形成されている。このインク流路において、インク供給口35からノズル連通口38の部分は、ノズル開口32毎に設けられる個別インク流路を構成している。
【0027】
上記の振動子ユニット25は、櫛歯状に形成された複数の圧電振動子28からなる振動子群36と、この振動子群36の基端部分が接合される固定板37等により構成されている。この振動子群36を構成する各圧電振動子28は、例えば、50μm〜100μm程度の極めて細い幅に切り分けられている。また、各圧電振動子28は、自由端部が固定板37の縁よりも外側に位置しており、片持ち梁の状態で固定板37に接合されている。そして、圧電振動子28の自由端部を素子長手方向に伸縮させると、振動板が圧力発生室34側に押されたり、圧力発生室34から離隔する側に引っ張られたりする。これにより、圧力発生室34の容積が変動し、圧力発生室34内のインク圧力が変化する。このインク圧力を利用してノズル開口32からインク(インク滴)を噴射させることができる。
【0028】
キャッピング機構16は、図2、図4、及び図5に示すように、トレイ状のキャップ部材46と、記録ヘッド4のノズル形成面に対しキャップ部材46を近接又は離隔する方向に移動させるキャップ移動機構(図示せず)と、封止空部45と排液タンク48との間を連通する可撓性の排液チューブ49と、この排液チューブ49の途中に配設されたポンプ50とから構成される。
【0029】
上記のキャップ部材46は、底部51と、この底部51の周縁から起立する側壁部52とを有する上面開放のトレイ状部材であり、底部51と側壁部52とで囲まれた空間が封止空部45となる。このキャップ部材46は、ゴム等の弾性部材により作製され、合成樹脂又は金属からなる支持部材53に取り付けられている。また、封止空部45内には吸液部材54が敷設されている。この吸液部材54は、インクを吸収可能なフェルトやスポンジ等の吸液材によって構成されている。キャップ部材46の底部には、貫通口が開設されており、この貫通口に排液チューブ49が液密状態で連結されている。また、これとは別の貫通口がキャップ部材46の底部に開設されており、この貫通口には、大気開放路を構成する大気開放用チューブ57が接続されている。そして大気開放用チューブ57の途中には、大気開放バルブ58が設けられている。即ち、この大気開放バルブ58を開閉することにより、ノズル形成面を封止した状態における封止空部45の密閉状態と大気開放状態とを切り替えることができるようになっている。
【0030】
上記の排液チューブ49は、インクの排出路を構成する部材であり、本実施形態では、この排液チューブ49を耐薬品性が高く弾性を有するシリコンチューブによって構成している。この排液チューブ49の途中に設けられているポンプ50(本発明における負圧発生源)は、駆動モータと共にポンプ機構を構成する。本実施形態におけるポンプ機構は、ポンプ50を駆動するための駆動モータとして紙送りモータ14を利用している。即ち、図示しないクラッチによって紙送り時と吸引制御時で切り替えている。なお、駆動モータとしては、ポンプ50のみを駆動するための専用のものを別途設けても良い。
【0031】
そして、上記ポンプ機構は、制御部66(図7参照)によって制御される。即ち、例えば、紙送りモータ14がステッピングモータで構成されている場合、制御部66は、紙送りモータ14に対する駆動パルスの印加数を調整することで紙送りモータ14の回転制御を行い、これにより、ポンプ50による吸引を制御する。したがって、制御部66は、本発明における吸引制御手段としても機能する。
【0032】
本実施形態におけるポンプ50は、例えば、図6(a)に示すように、排液チューブ49をローラー55で挟んで押し潰し、この状態でローラー55を排液チューブ49に沿って移動させることにより、排液チューブ49内の空気や液体をしごいて送り出す所謂しごきタイプのチューブポンプで構成している。このポンプ50では、ローラー55を封止空部45側から排液タンク48側に移動させることで封止空部45内に負圧を与えることができる。そして、このポンプ50を作動させると、吸引動作によって封止空部45内に貯留されたインクを排液タンク48側に排出することができる。ポンプ50の吸引量は、紙送りモータ14の回転量、すなわち、ポンプ50の回転量を制御することによって調整される。以下の説明では、ノズル形成面を封止状態の封止空部45内に負圧を与える動作を正転動作といい、これと逆方向にローラー55を移動させる動作を逆転動作という。
【0033】
本実施形態では、紙送りモータ14を制御することで回転方向を変えることができる。すなわち、ローラー55の移動方向を変えることができる。また、図6(b)に示すように非吸引時には、逆転動作を行うことで、ローラー55が排液チューブ49に沿ってガイド溝56を通り、ポンプ50の回転軸側に移動して、ローラー55から排液チューブ49への圧迫を解除するように制御されている。なお、本発明におけるプリンタ1において、この逆転動作は、例えば、吸引制御が終了した後に毎回行われる。なお、ポンプ50としては、例示したチューブポンプには限らず、駆動ギヤ及び従動ギヤを回転させることにより排液を下流側に送り出すギヤポンプ等、他のポンプで構成することもできる。
【0034】
上記キャップ部材46によって記録ヘッド4のノズル形成面を封止した封止状態では、ノズル形成面のノズル開口32が封止空部45内に臨み、且つ、キャップ部材46の先端とノズル形成面とが液密状態で密着する(図5参照)。そして、この封止状態で且つ大気開放バルブ58を閉じた状態でポンプ50を作動させると、封止空部45内が減圧されるので、ノズル開口32を通じて記録ヘッド4内のインクを吸引して、ヘッド外部に排出することができる。これを利用して、インクカートリッジを装着した際にこのインクカートリッジ内のインクを記録ヘッド4のインク流路に充填する初期充填や、インク流路内の増粘インクや気泡を除去するためのクリーニング処理において、この吸引制御が行われる。
【0035】
次に、プリンタ1の電気的構成について説明する。図7に示すように、例示したプリンタ1は、プリンタコントローラ60と、プリントエンジン61とを備えている。プリンタコントローラ60は、図示しないホストコンピュータ等からの印刷データ等を受信するインタフェース62(外部I/F62)と、各種データの記憶等を行うRAM63と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM64と、CPU等からなる制御部66と、記録ヘッド4に供給する駆動信号を発生可能な駆動信号発生回路67と、クロック信号を生成する発振回路68と、記録動作の駆動信号及びメンテナンス動作の制御信号等をプリントエンジン61側に送信するためのインタフェース69(内部I/F69)等を備えている。そして、これらの各部は、内部バスを介して電気的に相互に接続されている。また、プリントエンジン61は、キャリッジ3を移動させるキャリッジモータ(パルスモータ)5と、紙送りローラ13を回転させる紙送りモータ14と、記録ヘッド4(電気駆動系)等を備えている。
【0036】
制御部66は、このプリンタ1における各種制御を行う部分であり、プリントエンジン61の各部を制御する。例えば、記録動作の制御では、図示しないホストコンピュータからの印刷データに基づいてドットパターンデータを生成し、生成したドットパターンデータを記録ヘッド4に転送する。また、キャリッジモータ5を動作させてキャリッジ3(即ち、記録ヘッド4)を移動させ、紙送りモータ14を動作させて記録紙9を搬送させる。さらに、初期充填時やクリーニング時においても紙送りモータ14を作動させてポンプ(チューブポンプ)50による吸引を制御する。
【0037】
次に、上記の構成において、初期充填時やクリーニング時における吸引制御について説明する。
ここで、初期充填時やクリーニング時においては、できるだけインク流路に気泡が残らないようにすることが望ましい。しかしながら、単に吸引制御を行っただけでは、インク流路内の気泡を完全に排除することは難しい。特に、圧力発生室34等の空部の隅角部に気泡が滞留している場合、通常の吸引では吸引時のインク流を気泡に作用させ難く、隅角部から気泡を離隔させることが難しかった。そこで、本発明に係る吸引制御方法では、吸引制御時の圧力変化を工夫することで、従来では排除し難くかった気泡をも排出し易くし、気泡の排出効率の向上を図っている。
【0038】
図8は、吸引制御の流れを示したフローチャートである。
まず、制御部66は、キャリッジモータ5を制御してキャリッジ3をホームポジションに移動させると共に、記録ヘッド4のノズル形成面をキャッピング機構16によってキャッピングする(S1)。この際、大気開放バルブ58を閉じることにより、キャッピングした状態における封止空部45内を密閉状態(液密・気密状態)に切り替える。
【0039】
続いて、制御部66は、紙送りモータ14に対し駆動パルスを印加してポンプ50の駆動を開始し、吸引動作を開始する(S2)。本発明に係る吸引制御では、記録ヘッド4内のインク流路を減圧して吸引を行う吸引工程を、断続的に複数回繰り返すことを特徴としている。1サイクルの吸引工程は、減圧工程(S3)、維持工程(S4)、復帰工程(S5)からなり、本実施形態においては、この吸引工程を3サイクル行うように設定している。なお、図9は、吸引工程における封止空部45内の圧力変化を示す圧力波形である。この圧力波形では、下へ向かうほど負圧が大きくなることを示している。
【0040】
減圧工程(S3)では、ノズル形成面に対するキャップ部材46の封止状態で且つ大気開放バルブ58を閉じた状態でポンプ50を作動(正転)させることにより、封止空部45内を徐々に負圧にしていき、例えば−数十kPaまで減圧する。これにより、記録ヘッド4のインク流内が減圧され、インク流路内のインクや気泡がノズル開口32から封止空部45内に排出される。図9に示すように、このときの封止空部45の内圧は、負圧側に二次曲線的に推移する。そして、このときの圧力変化が、インク流路内に滞留している気泡に対して作用する。これにより、例えば圧力発生室34の隅角部に対流している気泡B(図10(a))が、インク流路の減圧に伴って膨張する(図10(b))。この図10(a)及び(b)に示すように、この膨張に伴って気泡Bの重心が、膨張前の重心の位置に対してインク流路(圧力発生室34)の壁面から離隔する方向に移動する。
【0041】
上記の減圧工程において最大限まで減圧したならば、続いて、維持工程(S4)において、減圧工程による減圧状態を所定時間だけ維持する。具体的には、この維持工程の実行時間を、負圧発生源であるポンプ50から気泡滞留箇所(本実施形態においては圧力発生室34)までの距離Dをインク中における音速cで除して得られた時間に設定している。これにより、気泡に対してより効率良く圧力変動を伝播させることが可能となる。即ち、負圧発生源であるポンプ50で発生した圧力変動が圧力発生室34に到達する時間だけ減圧状態を維持することにより、この圧力変動を気泡Bに対してより確実に付与することができる。
【0042】
維持工程(S4)の後、続いて、復帰工程(S5)が実行される。この復帰工程では、制御部66はポンプ50の作動を停止すると共に大気開放バルブ58を開くことにより、最大限まで減圧された状態から正圧(大気圧)側に復帰させる。これにより、ノズル開口32からの吸引が停止される。そして、図10(c)に示すように、圧力発生室34の隅角部に対流している気泡Bが圧力変化に伴って収縮する。このときの圧力変化は、気泡Bの表面に対して均等に作用するため、気泡Bは、その重心の位置が膨張時の重心の位置から大きくずれることなく収縮する。これにより、気泡Bをインク流路(圧力発生室34)の壁面から離隔させることができる。
【0043】
このようにして1サイクルの吸引工程が実行される。そして、1サイクルの吸引工程を実行したならば、制御部66は、吸引工程を3サイクル実行したか否かを判定し(S6)、3サイクルに満たない場合は、当該条件を満たすまで吸引工程(S3〜S5)が繰り返す。このようにして、吸引工程を断続的に複数回繰り返すことで、インク流路内の気泡が膨張・収縮を繰り返すようにし、この膨張・収縮によってインク流路の内壁面から気泡を離隔させて排出させ易くすることが可能となる。これにより、従来よりも少ない吸引量で気泡を効率良く排出することができ、その結果、インクの消費を抑えることが可能となる。
【0044】
ここで、本実施形態においては、上記の吸引工程を、気泡Bの固有周期に相当する間隔Tbで繰り返すようにしている。これにより、吸引制御による圧力変動と気泡の体積変化(膨張・収縮)を共振させることができ、気泡Bをより移動させ易くすることができる。その結果、気泡の排出効率を一層向上させることが可能となる。
【0045】
そして、吸引工程を3サイクル実行したならば、制御部66は、吸引制御を停止する(S7)。即ち、ポンプ50の作動を停止して大気開放バルブ58を開いた状態で、キャップ部材46をノズル形成面から離隔させる。その後、ワイパー機構15によってノズル形成面をワイピングし(S8)、ノズル形成面に付着したインクを払拭する。ワイピングが終了したならば、一連の吸引制御を終了する。なお、ワイピング処理は、吸引工程のサイクル毎に行うようにしても良い。
【0046】
なお、上記実施形態においては、吸引工程の繰り返し回数を3回に設定した例を示したが、これには限られない。この繰り返し数としては、少なくとも1回以上であれば、任意の回数に設定することが可能である。
また、負圧発生源から気泡滞留箇所までの距離として、ポンプ50から圧力発生室34までの距離Dを設定した例を示したが、これには限られず、負圧発生源から気泡が特に滞留し易い箇所までの距離を任意に設定することができる。
【0047】
また、以上では、液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンタ1を例に挙げて説明したが、本発明は、気泡の残留が問題となる他の液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタを製造するディスプレー製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置,極く少量の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペットにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】プリンタの構成を説明する斜視図である。
【図2】キャリッジ、キャッピング機構、及びポンプ機構の構成を説明するの模式図である。
【図3】記録ヘッドの部分断面図である。
【図4】キャップ部材を説明する斜視図である。
【図5】キャッピング機構の封止状態を説明する模式図である。
【図6】ポンプの説明図であり、(a)は正転動作の説明図、(b)は逆転動作の説明図である。
【図7】プリンタの電気的構成を説明するブロック図である。
【図8】吸引制御の流れを説明するフローチャートである。
【図9】封止空部内の圧力変化を示す圧力波形である。
【図10】(a)〜(c)は吸引制御時におけるインク流路内の気泡の動きを説明する模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1…プリンタ,3…キャリッジ,4…記録ヘッド,14…紙送りモータ,16…キャッピング機構,24…流路ユニット,25…振動子ユニット,30…ノズルプレート,32…ノズル開口,33…リザーバ,34…圧力発生室,45…封止空部,46…キャップ部材,48…排液タンク,49…排液チューブ,50…ポンプ,51…底部,52…側壁部,53…支持部材,54…吸液部材,57…大気開放チューブ,58…大気開放バルブ,60…プリンタコントローラ,61…プリントエンジン,66…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドに対しノズル開口を通じて吸引を行う吸引制御方法であって、
前記液体噴射ヘッド内の流路を減圧して吸引を行う吸引工程を、断続的に複数回行うことを特徴とする液体噴射ヘッド吸引制御方法。
【請求項2】
前記吸引工程は、前記液体噴射ヘッド内の流路を減圧する減圧工程と、減圧された流路を正圧側に復帰させる復帰工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の吸引制御方法。
【請求項3】
前記減圧工程と前記復帰工程との間に、減圧工程による減圧状態を維持する維持工程を実行することを特徴とする請求項2に記載の吸引制御方法。
【請求項4】
前記維持工程を、吸引を行うための負圧を発生する負圧発生源から気泡滞留箇所までの距離を音速で除して得られた時間だけ実行することを特徴とする請求項3に記載の吸引制御方法。
【請求項5】
前記吸引工程を、気泡の固有周期に相当する間隔で繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の吸引制御方法。
【請求項6】
ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドと、負圧発生源からの負圧によってノズル開口を通じて吸引を行う吸引制御手段と、を備える液体噴射装置であって、
前記吸引制御手段は、前記液体噴射ヘッド内の流路を減圧して吸引を行う吸引工程を、断続的に複数回行うことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
前記吸引工程は、前記液体噴射ヘッド内の流路を減圧する減圧工程と、減圧された流路を正圧側に復帰させる復帰工程と、を含むことを特徴とする請求項6に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記吸引制御手段は、前記減圧工程と前記復帰工程との間に、減圧工程による減圧状態を維持する維持工程を実行することを特徴とする請求項7に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
前記吸引制御手段は、前記維持工程を、前記負圧発生源から気泡滞留箇所までの距離を音速で除して得られた時間だけ実行することを特徴とする請求項8に記載の液体噴射装置。
【請求項10】
前記吸引制御手段は、前記吸引工程を、気泡の固有周期に相当する間隔で繰り返すことを特徴とする請求項6から請求項9の何れか一項に記載の液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−39873(P2009−39873A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204184(P2007−204184)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】