説明

吸水性樹脂を用いた防音材及び防音方法

【課題】トリム、プレス等の成形設備を必要とせず、吸音層の任意の場所に必要なだけ遮音層を重点的に形成することが可能であり、従来の吸音層にゴムシート等の遮音層を積層した防音材に比較して、全体として軽量な防音材を開発する。
【解決手段】吸音層と遮音層との2層によりなる防音材において、吸水性樹脂、または吸水性樹脂と、砂や細かい砕石、あるいはセメントとの混合物を内包する袋状物を、吸音層の任意の箇所に貼付積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性樹脂を用いた防音材及びこの防音材を用いた防音方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用防音材には、吸音材と遮音材とを積層させることにより、双方の特性を活かして防音性を高めているものがある。吸音材は、音の機械的エネルギーを熱エネルギーに変換してしまうことにより、防音効果を発揮するものであり、通気性を有する多孔質物質が代表例である。繊維原料による嵩高性のフェルトや、プラスチックフォーム材を例示できる。但し、こうした吸音材のみでは、吸音材を透過してしまう音を防音することはできないため、多くは遮音材を積層させ、吸音材を透過する音を遮音し、全体として防音効果を高めている。
【0003】
遮音材としては、ある程度以上の重量と比重を有する材料からなるシート状に成形されたものが多く使用されている。アスファルトやゴムを主原料として、充填材を混合し、シート状に成形し、必要に応じてトリムする。
しかし、こうした遮音材は、カレンダーロールにより均一な厚さのシート状に成形されるため、成形の過程において全面の厚さを変えることは可能であるが、1枚のシートのある部分だけの厚さを変えるということは不可能である。
こうした遮音シートにより部分的に厚さを変更するためには、必要な部分にシートを貼着積層する他はなく、加工の手間がかかる。
また、遮音シートを必要な形状にトリムするためには、トリム用の刃型とプレス機等が必要であるため、設備投資が嵩む。
【0004】
一方、特許文献1(特開平5−301326号)には、2枚の板紙の内面に、高吸水性樹脂を塗工した後、この塗工面の間にホットメルト接着剤層を介在させて2枚の板紙を互いに接着させた難燃性制振防音材が開示されている。この防音材は、高吸水性樹脂を難燃化の核として使用しており、高含有率の水分が、火災等による温度の上昇を防止し、難燃化を実現したものである。
【0005】
また、特許文献2(特開2003−58169号)には、遮音性と吸音性とを両立する紙製の防音成形体が開示されている。該発明において、吸水性樹脂は、水を吸収した状態で、紙とともに水に分散され、この水溶液から水を除去することにより、紙繊維と水含有の吸水性樹脂の混合物が残留する。この混合物を成形することにより、含水成形体を作製している。更に、この成形体を加熱することにより、水を吸収した吸水性樹脂から水を蒸発させ、吸水性樹脂の体積を収縮させることで、収縮跡が大孔となる。該大孔により、通気量を増加させ、吸音性を高めている発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−301326号公報
【特許文献2】特開2003−58169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の遮音シートは、製造のためにカレンダーロール、裁断用トリム型及び裁断機などの多大な設備投資を必要とし、この遮音シートは均一な厚さを有するものであるから局所的重点的な遮音対策を実施するのには向いていない。
【0008】
また、吸水性樹脂を用いた防音材としては、その吸水性に着目した難燃化した防音材、吸水によって一時的に体積が膨張することを利用して孔を形成する防音成形体が開示されている。
【0009】
そこで、吸音性能を有する吸音材の必要な箇所に、吸水性樹脂を使用して重量を付与し、局所的、重点的な遮音対策を実施することが可能な防音材や防音方法を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に使用することができる吸水性樹脂とは、樹脂本体質量に対して20倍以上の水分を吸収し、膨潤する高分子であり、(メタ)アクリル酸塩系、(メタ)アクリルアミド系、ビニルアルコール系、無水マレイン酸(塩)系等の単独、あるいは共重合体、(メタ)アクリルアミド−(メタ)アクリル酸塩共重合体、スルホン酸基含有(メタ)アクリル酸塩系単独あるいは共重合体、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等、澱粉系あるいはセルロース系高分子、それらの部分架橋重合体やグラフト変性重合体等を例示することができる。
【0011】
吸水性樹脂の水分吸収能力は、最低でも質量比20倍、現在では樹脂の改良開発により、その水分吸収能力は質量比1000倍にも達する樹脂が存在する。
上記の吸水性樹脂は、単独で用いることも可能であるが、砂、セメント、細かい砕石を混入、混在させることも可能である。吸水性樹脂とその他成分との混合割合は、吸水性樹脂の水分吸収能力が高い程、その他成分の割合を多く混入させることができるが、任意に定めることが可能である。
【0012】
上記吸水性樹脂、若しくは吸水性樹脂と砂、セメント等との混合物を、適当な袋状物に充填されて用いられる。吸水性樹脂は後述するように吸水によって質量、容積を増大させるため、袋状物の内包量は、吸水による質量、容積の増大分を考慮したものとする必要があるが、袋状物の材質が伸びることにより吸水性樹脂の質量増大に伴い表面積が増加するのであれば、その限りではない。袋状物の材質は特に制限はなく、透水性の有無に関係なく使用できる。各種の合成樹脂フィルム、布、不織布等が例示できる。
【0013】
吸水性樹脂、若しくは吸水性樹脂と砂等との混合物を内包した袋状物を、吸音材表面に貼付する。貼付する吸音材は、従来公知の吸音材であれば特に制限は無く、不織布、嵩高性フェルト材、各種の軟質樹脂フォーム材、硬質樹脂フォーム材、パンチングメタル、グラスウール等が例示できる。これらは予め必要形状に成形加工されていることが必要である。貼付する場所は、吸音材全体に均等に貼付しても差し支えないが、必要な箇所に重点的に貼付することが好ましい。貼付する方法は、貼付する吸音材の表面と袋状物とが密着できる方法であれば特に制限はなく、感圧式接着剤、ホットメルト式接着剤など、接着剤を用いる方法や、クリップ等で物理的に固定する方法も可能である。
【0014】
袋状物に内包された吸水性樹脂、若しくは吸水性樹脂と砂、セメント等との混合物に、水を注入し、吸水させる。吸水量は、吸水性樹脂の吸水可能量や、防音材に必要な重量から決定される。袋状物の材質に透水性が無い場合には、注射針を穿刺し、注射器などによって水を注入する。
【0015】
袋状物の材質に透水性が有る場合には、吸音材に袋状物が貼付された防音材を、水槽に浸漬させて、水を袋状物内部へしみ込ませる方法を取ることができる。但し貼付されている吸音材に水を浸漬させたくない場合には、袋状物の材質に透水性が無い場合と同様に、注射器等の器具により水を注入する。
【0016】
吸水した吸水性樹脂、若しくは吸水性樹脂と砂等との混合物は、吸音材の必要な箇所に重量が付与され、遮音層を形成する。セメントが混合されている場合には、水分の吸収により体積が膨張した高吸水性樹脂が、セメントにより硬化して、任意の形状に固化させることが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明による吸水性樹脂、若しくは吸水性樹脂と砂等との混合物を内包した袋状物は、必要に応じて重量を付与して遮音層を形成することができるため、従来の均等な厚さの遮音シートの如く、全面の遮音対策になることなく、無駄が発生しない。かつ、遮音シートのゴム、アスファルト、充填材等の原材料を混合分散するためのミキサー等の攪拌、混練機、混合分散された原材料をシート化するためのカレンダーロール、シート状となった遮音シートを必要な形状にトリムするための金型やプレス機といった諸々の設備を必要としない。
高い吸水性を有する樹脂であれば、僅かの樹脂によって多くの水分を吸収し、重量付与を行なうことができる。仮に体積比において1000倍の吸水性を有する樹脂であれば、最大限の吸水をさせることによって、1gの樹脂が最大1kgの重量付与を行なうことが可能となる。これは、非常に低コストで重量付与による遮音層形成をすることができることを意味する。
また、吸水性樹脂にセメントを混合させた場合、まず吸水性樹脂が大量の水分を吸収し、しかして後、混合したセメントが硬化して、任意の形状に固化させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例と比較例を以下に示す。
実施例及び比較例
吸水性樹脂として、ビニルアルコールを主成分とする吸水性樹脂を、ポリエステルによる袋状物に充填し、この袋状物を吸音層として20mm厚さの嵩高性フェルトに貼付した。袋状物の数箇所に注射器を用いて水を注入し、4kg/mの重量を付与する遮音層を形成し、これを防音材1とした。
同じ吸音層に、5kg/mのゴムシートを積層し、これを防音材2として、比較例とした。
防音材1及び防音材2を、それぞれに0.8mm鋼板に積層し、鋼板面に回転するローラーによって鉄球を打ちつけ、この時の振動音をマイクロフォンで測定し、周波数アナライザーによって各周波数における防音効果を測定したものが表1である。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示す結果から、従来のゴムシートに比較して、単位面積あたり軽量な吸水性樹脂により形成された遮音層は、従来のゴムシートと比較しても、ほぼ全ての周波数領域において優れた防音効果を示すことが明らかとなった。
これは、従来のシート状の遮音層に比較して、高吸水性樹脂が水分を吸水したゲル状物は、これらを内包させる袋状物において、音エネルギーの入力に対して自由に動くことによる摩擦が発生し、機械エネルギーから熱エネルギーへの転換が増大されたものと推定される。
また、この結果より、吸水性樹脂を用いて形成する遮音層を必要に応じて吸音層の任意の場所に部分的に積層することにより、従来吸音層の全面にわたってゴムシート等の遮音層を積層していた防音材に比較して、更なる軽量化となり、かつ重点的な遮音対策を実施することが可能となる。
また、従来の遮音層形成材料に比べて、高い比率で水分を吸収することができる高吸水性樹脂を使用した場合、樹脂としては僅かの量の使用により、水分の吸収によって重量付与による遮音層が形成できるため、コスト的にも非常に安価で有利である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音層と遮音層の2層からなる防音材において、吸水性樹脂を内包した袋状物を吸音層の任意の箇所に貼付積層することによって遮音層を形成してなることを特徴とする防音材。
【請求項2】
袋状物に、吸水性樹脂と砂または細かい砕石を含むことを特徴とする請求項1に記載された防音材。
【請求項3】
袋状物に、セメント類を含むことを特徴とする請求項1に記載された防音材。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載された防音材の袋状物に水を注入することにより、重量を付与し、遮音層を形成することを特徴とする防音方法。

【公開番号】特開2011−112860(P2011−112860A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269032(P2009−269032)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000232542)日本特殊塗料株式会社 (35)
【Fターム(参考)】